『推理トリックに挑戦』
クイズ形式のショート・ミステリー39選
著者:藤原宰太郎
(藤原宰太郎:推理クイズ作家として数々の著書を執筆)
発行:永岡書店
発売:1985年9月5日初版
定価:680円(ただし、1987年、3版発行時)
本格ミステリーのおもしろさは、読者を推理の迷路に誘い込んでおいて、最後の章で、名探偵が真相をあばいて真犯人を指摘し、それまでの推理を全部ひっくり返して、読者の頭を疲労させるところにあります。それは、まことに快い疲労です。
けれども、そんな頭脳の浪費をのんびり楽しむには、現代は万事があまりにもスピーディーな世の中です。ですから、ともすれば、途中のページを読みとばして、せっかちに最後の謎解きだけを早く知りたがります。無理もありません。生活のテンポが速いインスタント時代ですからね。
そんな気ぜわしい現代人のために、なくてもよい無駄な枝葉を切りとって、トリックと推理のエッセンスだけを抜き出して、クイズ形式のショート・ミステリーに濃縮したのが、この本です。
どれも小粒ながら、長編ミステリーに劣らぬ推理の妙味をたっぷり味わっていただけると思います。名作トリックの紹介や、奇想天外な殺人トリックもあれば、推理の盲点をついた解決の意外性もあり、また犯人さがしの謎解きなど、バラエティーに富んでいます。
たとえてみれば、推理トリックの詰合わせセット、それが本書です。
(以下略)
名作トリック紹介クイズが11問、劇画クイズ(劇画担当は大矢光男)が5問、その他普通の推理クイズが23問。他に「宰太郎のミステリー・メモ」がある。
劇画クイズがあり、イラストも劇画風。藤原宰太郎にしては、久しぶりの“大人向け”推理クイズものではある。しかし、収録されているクイズそのものは、過去に出版された推理クイズをほとんどそのまま引用している。相変わらずといえば相変わらずである。
「はじめに」の最初があまりにもすごいので全部引用した。“せっかちに最後の謎解きだけを早く知りたがる”? そんなことはないと思うが。いくらインスタント時代だからといって、謎解きだけ知ったってつまらないぞ。
今回許し難い点は、堂々と「名作トリック紹介」と謳っているところか。今までだったら、トリックだけを拝借して、舞台や人物を変えることで一応の配慮をしてきた藤原宰太郎だが、本作では堂々と名作をダイジェストしている。“なくてもよい無駄な枝葉”とは思えないけれどね。トリックだけを抜き出したって、やはり小説の面白味には勝てない。自明の理である。
子供向けの推理クイズを、ただ大人向けに直しただけの、新味のない推理クイズ本である。
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