藤原宰太郎『拝啓 名探偵殿』


藤原宰太郎 『拝啓 名探偵殿』
(光文社 カッパ・ノベルス)




『拝啓 名探偵殿』  『拝啓 名探偵殿』
 掌編推理小説<10分間ミステリー40選>

 著者:藤原宰太郎
 (藤原宰太郎:推理クイズ作家として数々の著書を執筆)

 カバーイラスト:日暮修一

 光文社 カッパ・ノベルス

 発売:1979年3月30日初版

 定価:600円(初版時)





 藤原宰太郎は、大学卒業後もサラリーマン生活を経験せず、ひたすら内外の推理小説を読み漁って暮らした。その膨大な読書量をもとに、子ども向きに書いた“ミステリー・ゲーム”が、推理小説ファンの底辺を広げていることはあまり知られていない。ミステリーのトリック百科事典を完成することが彼の念願である。

(裏表紙より引用)

 本格ミステリーの面白さは、トリック自体にあるのではなく、完全犯罪の謎を、名探偵がなにを証拠にして解き、その手がかりをいかにして発見するかに、読者として知的なスリルと驚きを感じるのです。この観点から、私は推理小説の原点に戻って、読者に挑戦するミステリーの掌編を書いてみました。40編のどれもみな不必要なゼイ肉をけずりとった純粋な謎解きミステリーです。いわば推理小説の<詰将棋>です。あなたも名探偵になったつもりで、40の謎に挑戦してください。
(「著者のことば」)

 推理小説の複雑、難解なトリックも、古今東西の名作を整理すると、いくつかのパターンに分類することができます。つまり、密室、アリバイ、倒叙、殺害手段や凶器の謎など……。もちろん、一つの謎解きだけでなく、メイントリックに、サブトリックをいくつも加えた複合トリックもしばしばあります。本書は、ミステリーの代表的なトリックを紹介し、同時に犯人当てのスリルを楽しんでいただくものです。いわば、“小説・頭の体操”です。あなたもさっそく第一ページからどうぞ。
(折り返し紹介文より引用)


 原稿用紙10枚で書かれたショート・ミステリ40問。カッパ・ノベルスということもあり、“小説・頭の体操”という紹介のされ方をしている。探偵役は推理作家の江川乱山と、他の推理クイズ本にも登場する私立探偵団五郎。だが、必ずしも彼らが全ての探偵役というわけではない。中にはファーブル、宮本武蔵、シュリーマン、エジソン、ホームズが探偵役の問題もある。
 児童向け推理クイズや、KKベストセラーズなどの読者層と異なる出版社から出されたためか、今までよりやや長め、原稿用紙10枚の問題編となっている。そのため、いつもと異なり、“掌編推理小説”と作者自ら銘打っている。推理クイズよりは肉付けがしやすい分、犯人当てとしての難解度はやや高くなっている。“使い回し”のクイズ(もしくはトリック引用)も少なく、オリジナルのトリックを使用した問題も多い。藤原宰太郎の推理クイズ本の中では異色のものといえる。

 面白いのは、ミステリの掌編を「推理小説の<詰将棋>」と書いていることだ。確かにトリックのみを取り出すのなら、そういえるのかも知れない。ただ、<詰将棋>は終盤の練習からオリジナルの芸術に昇華していったが、掌編、推理クイズはまだそこまで行っていない。ミステリの面白さを紹介するエッセンスに留まっている。藤原宰太郎は推理クイズ、ミステリ掌編を通して推理小説ファンの底辺を広げていったが、推理クイズを詰将棋のようにオリジナルの芸術に昇華させることはできなかった。藤原宰太郎に続く推理クイズ作家は誕生しなかったし(ほとんどが作家との兼業)、藤原宰太郎自身もエッセンス以上のものを書くことは出来なかった。推理クイズと芸術性がどう融合できるかというのはわからないが、「推理クイズ」がミステリのカテゴリーに含まれることが少ない現状を打破するためにも、推理クイズ作家の新人が登場することを希望する。

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