『推理狂謎の事件簿 Part.(1)』
奇想天外のトリックを楽しむ
著者:藤原宰太郎
(藤原宰太郎:推理クイズ作家として数々の著書を執筆)
発行:青春出版社 青春BEST文庫
発売:1990年7月5日
定価:460円(初版時)
カバーイラスト:北見隆
本文イラスト:楢喜八
わたしは、冴子。ニックネームは<推理狂>。法律事務所につとめる美人秘書よ。自分の口から美人秘書というのも、おこがましいけれど、みなさん、そうおっちゃってくださるんだもの。ケンソンは悪徳だわ。
法律事務所といえば、六法全書の暗いイメージしかないけれど、私はそんな四角四面なこむずかしい法律など、あまり関心がないの。もっぱら、事件と名のつくものなら、どんな小さなナゾでも見つけて、推理するのが、三度のハンバーガーより好き。だから、ふつうの会社づとめは、興味ないわ。
だって、法律事務所なら、やってくるお客さんは、みんな、なにかしらトラブルに巻きこまれた人ばかりでしょう。そんな難事件、怪事件のナゾを、得意の第六感で、ひょいひょい、それこそ快刀乱麻のごとく解いちゃうものだから、うちの所長、それはもうビックリ仰天。
いまでは、すっかり、わたしのおツムを頼りにしているわ。うちの署長、見かけは野暮ったい感じだけど、あれで東大法学部でのエリート弁護士。そのエリートさんが一目おいてくれるんだもの、わたしはもう最高の気分。
それに、もう一人、頼もしい助っ人がいるの。捜査一課の立松刑事。じつは、わたしの叔父で、警視総監賞を二十回ももらったベテラン刑事。だけど、ここだけの話、その受賞の半分は、わたしのお手柄なのよ。
オジキったら、ちょいと事件の糸がこんがらがって、迷宮入りしそうになると、こっそり私用電話で、解決のヒントを教えると、早速翌日は犯人逮捕で、ちゃっかり総監賞をもらっちゃうという寸法。
だから、このオジキ、警察を定年退職したら、わたしとコンビを組んで、私立探偵を開業しないかといっているの。私立探偵社! どう、ステキでしょう。
でも、わたしのほんとうの夢は、ここだけのひみつだけれど、ミステリー作家になること。アガサ・クリスティーみたいな女流作家になりたくて、カルチャー教室のミステリー講座に通っているの。
ここには創作実習コースがあるので、わたしがこれまでに解決した事件をネタにして、推理クイズ風のショート・ミステリーを書いて、二、三本、提出したら、特別講師の赤川京太郎先生、ほら、文壇長者番付のトップを独走している超売れっ子ミステリー作家、あの大先生の目にとまって、
「冴子クン、キミの推理の才能はすばらしい。こんなショート・ミステリーを六十編も書いたら、きっとベストセラーになるよ」
と、わたしの自慢の85-56-88のボディをじろじろ、にやにや見つめながら、おっしゃるの。
わたしって、お世辞にヨワイでしょ。すっかり、その気になって、いっきに六十編、書きあげて持参したら、あの先生、一瞬、迷惑そうな顔をなさったけど、いいだしっぺは先生のほうだもの、しぶしぶ出版社に推薦状を書いてくださったの。
もちろん、わたしだって、ほんの習作ですからと、いちおうは、しおらしく辞退したんだけれど、とうとう本になっちゃった。それが、じつは、この本『推理狂 謎の事件簿』なの。
六十編、どれもみな小粒ながら、トリックと推理のエッセンスをぬきだして、味つけしたの。
奇抜な殺人トリックもあれば、推理の盲点をついた解決の意外性もあり、また犯人さがしのナゾ解きなど、いろいろバラエティをつけたので、チョコレート・ボンボンをつまむみたいに、毎日、一つか二つ、食べおしみしながら読んでくだされば、わたしはもう感謝感激、大満足。じゃ、よろしくネ。
法律事務所の冴子が探偵役となった60編の推理クイズ集。文章がいつもと若干異なっているが、その点を除けば過去に収録された推理クイズばかりである。他に付け加えることはない。
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