藤原宰『5分間ミステリー』


藤原宰 『5分間ミステリー―読みながら推理力とカンが強くなる本』
(日本文芸社 5分間文庫 (新書サイズ))




『5分間ミステリー』


 『5分間ミステリー―読みながら推理力とカンが強くなる本』

 著者:藤原宰
 (藤原宰:後の藤原宰太郎。推理クイズ作家として数々の著書を執筆)

 発行:日本文芸社 5分間文庫

 発売:1965年初版

 定価:280円(ただし、1967年7月20日 三版発行時)




 推理小説の楽しさは、五分の四まで読者をトリックの迷路にさそいこんでおいて、あとの五分の一で、タネを明かし、それまでの推理を全部ひっくり返して、読者の頭を徒労させることにあります。それは快い徒労です。
 けれども、そんな頭脳の浪費をのんびり楽しむには、現代は万事が、あまりにもスピーディな世の中です。
 ですから、ともすれば、途中のページを読み飛ばして、せっかちに、最後の絵解きだけを早く知りたがります。無理もありません。生活のテンポが速い、インスタント時代ですから。
 そんな気ぜわしい現代人のために、なくもがなの無駄な枝葉を切りとって、トリックと推理のエッセンスだけを抜きだして、ショート・ショートに濃縮した、ミステリー掌篇を集めたのが、この本です。
 六十九篇、どれも小粒ながら、長篇に劣らぬミステリーの醍醐味を、たっぷり味わっていただけると思います。
 奇想天外な殺人トリックもあれば、推理の盲点をついた解決の意外性もあり、犯人探しの謎解きなど、バラエティーに富んでいます。
 たとえてみれば、推理小説の、チョコレート・ボンボンの詰め合わせセット、それが本書です。
 夢中になって一気に読み終えるのも結構ですし、また、朝のトイレの中や、通勤電車の中で、退屈なテレビのコマーシャルのあいまに、あるいは就寝前の寝酒のかわりに、一つか二つずつ、読み惜しみしてくだされば、なお結構です。
 あなたの推理力は、日ましに、すばらしくなります。そればかりでなく、この本一冊で、推理小説の通にもなれます。
 恋人とデートしたとき、ためしに一席ぶってごらんなさい。たちどころに、あなたの株はあがります。なぜなら、推理小説は現代人に欠かせない教養ですからね。
 もし幸いにも、この本が歓迎されたら、さらに続篇、続々篇を書いてゆきたいと思っています。

(まえがきより)


 藤原宰太郎、推理クイズ本デビュー作。本名名義による出版。全69題。折り返しの作者紹介には、既に短編推理ストーリー、ミステリーコント三百余編を執筆とある。
 作者によると、推理クイズの原稿を集めて持ちこんだとのこと。
 藤原宰太郎の原型がここにある。後に何度も収録されているトリックもあれば、本作限りで消えた推理クイズもある。問題文と同じページに答えが載っているので、例えば問題文を読み終わって考えるといったようなことは不可能である。どうしても答えの文章が目に入ってしまうので、残念ながら「推理力が日ましにすばらしくなる」ことはないだろう。
 大人向けの雑誌で連載されていたクイズを集めたものと思われる。ややアダルトな問題や、社会性の強い設定の問題が多いからで、ターゲットは間違いなく20歳以上のサラリーマンだろう。
 この一冊から藤原宰太郎の推理クイズの歴史は始まったわけであり、そういう意味で重要な一冊ではある。
 探偵役は久我警部。後に久我京介という作者を彷彿させた人物を名探偵に据えたことを思うと、名字が一緒であることに何か不思議な因縁を感じる。


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