万力とピストル


【問 題】
 上級外交官のロバートが多くの有名人を館に呼んで、パーティーを開いていた。私もそのパーティーに参加していたが、それはロバートが保有するダイヤを盗むのが目的であった。普段は警備の厳しい館なので、こんなチャンスはめったにない。さてどうやって盗もうかと考えていると、外からロバートの声が聞こえてきた。
「キャサリンさん、写真を撮りますから木のところに手を当ててください」
 ロバートが趣味であるカメラを持ち、女優として最近人気急上昇中のキャサリンの写真を撮ろうとしているところであった。ドレスアップしたキャサリンは、遠目で見ても魅力的であった。
「こうかしら、ロバート様」
「そうそう、いいポーズです」
 ロバートがカメラのシャッターを押そうとした時、ロバートの妻であるミレーヌが手に持っていたグラスを落とし、割れてしまった。するといきなり館の中から銃声が響き、キャサリンが撃たれた。周りにいた人が慌てて駆け寄るが、キャサリンは死亡した。
 私は館に駆け込み、銃声の鳴った部屋に行った。するとそこには、ロバートの息子であるケニーが椅子に座っていた。そしてピストルが机の上に転がっていた。ケニーは1か月前に事故があり、両眼を手術して包帯を巻いたままだった。
「何があったんだ、ケニー君」
「よくわからないけれど、いきなり誰かが入ってきて窓の外に向けて撃ったんだ。そしてすぐに逃げて行った」
「誰が入ってきたんだ」
「申し訳ないけれど、目がこの状態で見えないんだ。むしろ何があったのか、教えてくれ」
 確かにそうだ。ケニーは眼が見えないということで、パーティーもあいさつ早々、部屋に戻っていたのだ。
 私はケニーに説明をした後、ピストルを見た。火薬のにおいがするので、確かにこの拳銃が凶器だろう。すると机の上に万力が置いてあるのに気付いた。
「ところでケニー君、この万力はなんだ?」
「万力? なんのことですか。さっぱりわかりませんが」
 外交官の館とはいえ、殺人事件だ。警察を呼ぶことになった。警察はケニーの証言通り、部屋で撃った男を探しているらしい。私は警察の捜査中、ロバートに近づいた。
「ロバート、犯人は君だね」
「どういうことだ?」
「正確に言うと、君がケニーに撃たせたんだ」
「馬鹿を言うな、ケニーは残念ながら事故で今は眼が見えない。ピストルなんて撃つことができないだろう」
「いや、なかなかいい連係プレイでしたよ」
 私の言葉にロバートは思わず呻いてしまった。
「キャサリンは共産側のスパイだったのだ。何がお望みか」
 私はロバートの言葉に甘え、目的であったダイヤをいただくことにした。
 ではロバートは、目の見えないケニーにどうやってピストルを撃たせたのか。


【解 答】
 拳銃は万力に固定してあり、木の方に向けられていたのだ。目は見えなくても、拳銃の引鉄は引くことができる。しかしいつ引けばよいかわからない。そこでロバートは写真を撮るといって、キャサリンを木の横に立たせた。そしてミレーヌがわざとグラスを落とした。グラスの割れる音が、ケニーが引鉄を引く合図だった。撃った後、万力からピストルを外し、指紋をぬぐった後机の上に置いておき、自分は椅子に座って何があったかわからない顔をしていたのだ。

【覚 書】

 時々見ますね、この推理クイズ。元ネタは高木彬光の「盲目の奇蹟」です。

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