風呂場の死体
【問 題】
雑誌の編集者Bが原稿をもらいに、小説家Aのマンションを訪れた。しかし入口のインターホンを何度鳴らしても、返事がない。
「A先生は締め切りを守る方だし、約束の時間に部屋にいないなんてことはない。おかしいな……」
どうしようかと悩んでいたところに、Aの妻Cが帰ってきた。どうやら外出していたようだ。
「あら、どうしたのですか、Bさん」
「あっ、奥様」
BはCに事の次第を話した。
「おかしいですわね。私が出るときはお仕事をしていましたが……。それに今日の外出だって、夫の仕事があるからということで、代わりに出ていましたのに」
二人はAの部屋の玄関を開けた。電気は点いたままだった。
「靴もありますし、部屋にいると思うのですが」
二人でAの書斎を覗いたが、B宛の角封筒が置かれていた。どうやら今日締め切りの原稿のようだ。すでに完成しているらしい。
首をひねったBとCは他の部屋を探し始めた。すると風呂場で、Aが湯船の中にいた。顔半分は湯につかったままである。どうやらすでに死んでいるようだ。
「あ、あなた」
慌ててAの元へ駆け寄ろうとしたCであったが、それをBが引き留めた。
「奥様、残念ですが、あの状態ではすでに亡くなっています。このままの状態にして、警察を呼びましょう」
Bの通報により、警察が駆け付けた。BとCは発見に至る顛末を話した。Cは夫の代理で、3時間前から外出していたことを話した。
Aは1時間ほど前に心臓麻痺で亡くなっていたようだった。詳しい結果は解剖でわかるだろう。風呂場にはビール缶が落ちていた。
「夫は、仕事が終わるといつも風呂に入ってビールを飲んでいました。体に悪いからやめてほしいといつも言っていたのですが」
Aは有名作家らしい貫禄の持ち主だった。ただ、かかりつけの医者は、特に悪いところはないと言っていたので、それ以上はCも強く言えなかった。
写真でも見たことのある高級な浴衣は、風呂駕籠の帯の下に乱雑に置かれていた。
「こんな高い浴衣を乱雑に置いて、勿体ない」
鑑識は上に置かれていた帯をよけ、浴衣に何かないか調べていた。
「はい、夫はいつもそういうことには無頓着で……」
話を聞いていた刑事はそれを見て、BとCに話しかけた。
「もしかしたら、殺人かも知れません。A先生はだれかに恨まれていませんでしたか?」
刑事はなぜ、そう思ったのだろう。
【解 答】
脱衣かごには浴衣の上に帯が置かれていた。しかし、男性が浴衣を脱ぐときは、まずは帯をとくものだ。となると当然帯がかごの下にあり、その上に浴衣が置かれていなければならない。その方が風呂から上がってから浴衣を着やすい。ましてや無頓着な性格なら、帯をわざわざ上に持ってこないだろう。となると、Aが亡くなった後、誰かが浴衣を脱がして風呂に入れ、ビールを飲んでいるときに心臓麻痺を起こしたように偽装したのだ。そのとき誤って、帯を浴衣の上に置いたのだ。刑事はそう考えたのである。
【覚 書】
これも藤原宰太郎の推理クイズ本にはよく出てくるもの。日本の作家のトリックの借用だとは思いますが。
※解答部分は、反転させて見てください。
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