愚かな脅迫状


【問 題】
 深夜二時ごろ、ある高級マンションの325号室の部屋から、若宮春江がパジャマ姿のまま飛び出してきた。
「助けてください」
 若宮は悲鳴を上げた。驚いた隣室の者たちなどが外へ飛び出してくると、部屋の中から濛々と黒い煙が噴き出してくる。
「先生が、先生が!」
 325号室は人気デザイナー、白石良子の部屋だった。若宮はその住み込みの弟子であった。
 消防車が駆け付け、火は何とか消し止められた。
 火元は325号室にある3部屋のうちの白石の部屋からであった。そして部屋の中から白石の死体が発見された。ところが死体を詳しく調べてみると、白石は焼け死んだのではなく、刃物で刺されて死んでいたのだ。
「私は先生の用事を済ませてから、夜の11時ごろにこの部屋に帰ってきました。先生はすでにお部屋の中にいたようでしたので、起こさないようにと思い声はかけず、シャワーだけ浴びてすぐに寝ました。寝ていたら急に苦しくなって目を覚ますと、部屋の中が煙だらけだったので、慌てて外に飛び出しました」
 若宮は白石に可愛がられており、白石を殺す動機はない。解剖の結果、白石が刺されたのは夜の10時ごろと判明したが、若宮がタクシーに乗っていたことを運転手が証明した。
 警察の調べで、白石の部屋から時限発火装置が出てきた。これが火事の原因らしい。そして、白石を憎んでいるデザイナー仲間の宮田玉夫が容疑者に浮かび上がった。
 警察がその日の午前10時ごろに宮田の部屋に行くと、起きていた宮田はすでにニュースを聞いていたらしく、白石が殺されたことを知っていた。さらに宮田は、一通の手紙を取り出した。
「私には確かに動機があるけれど、私も誰かから恨まれているのです。脅迫状が郵便で先ほど届いたのです」
 ありふれた封筒に便せん、そして手紙はわざと下手くそな文字で書かれていた。
「俺はお前が良子を刺殺して火をつけたことを知っている。外部に知られたくなければ、今日の午後六時、渋谷駅前に五百万円を持ってこい」
「警察に届けようかどうか、迷っていました」
 そう話した宮田は一人暮らしであり、夜の10時にはすでに家で寝ていたというのでアリバイはない。
 警察は脅迫状の嘘をすぐに見抜き調べたところ、宮田が出したことが判明したので逮捕した。
 では、脅迫状の嘘とは何か。


【解 答】
 午前2時に放火され、次の日の午前10時に警察が行くと、宮田に脅迫状が届いていた。よく考えてほしい。午前2時に脅迫状を出して、午前10時に郵便で届くだろうか。宮田は自分も恨まれていると偽装することで、容疑者から逃れようとしたのだが、脅迫状を出すのが早すぎたのだ。

【覚 書】

 単純に考えれば、誰でもわかる問題です。
 元ネタはオースティン・リプレイの推理クイズ「脅迫状」(『推理試験』収録)です。

 ※解答部分は、反転させて見てください。
 ※お手数ですが、ブラウザの「戻る」ボタンで戻ってください。