姿なき目撃者


【問題】

 元空軍パイロットのスミスは、今は小型飛行機のパイロットで、各地の畑に農薬をまく仕事をしている。
 ある日曜日、スミスは妻と些細なことでケンカし、殴ったらそのまま妻は倒れて起き上がらなかった。打ち所が悪く、死んでしまったのだ。
 驚いたスミスだったが、すぐに冷静になり、死体をチェーンでぐるぐる巻いて自分の小型飛行機に乗せた。濃い霧がかかっていて、周りからはあまり見られない。小型飛行機は太平洋に飛んだ。しばらく旋回し、周りに船舶がいないことを確認すると自動操縦に切り替え、死体を海に投げ捨てた。重石代わりのチェーンのおかげで、死体は海に沈んでいった。
 スミスはしばらく海上を飛び、周りに船舶や飛行機がいないことを確認して家に戻った。目撃者はいないので、完全犯罪だ。周囲には、妻は家を出ていったとごまかした。二人の不仲は有名だったので、誰もがその嘘を信じた。
 ところが数日後、二人組の刑事がスミスのところにやってきた。
「君は日曜日、飛行機を飛ばしたね」
「はい、そうです」
「その時、奥さんの死体を海に捨てただろう」
「馬鹿なことを言わないでください。妻はあの日喧嘩して、そのまま出ていったんです。その後のことは知りません」
「君が飛行機から金属製の物を投げ捨てたことは既に調べがついている。目撃者がいたんだ」
「へえ、どんな目撃者ですか」
「ああ、姿なき目撃者がな」
 その“姿なき目撃者”の正体を聞き、スミスはあっと驚き、そしてぶるぶる震え出した。自白したも同然だった。
 では、“姿なき目撃者”とは?

【解答】

※解答部分は、反転させて見てください。

 “姿なき目撃者”とは、潜水艦のレーダーであった。霧がかかっていてスミスには見えなかったのだが、はるか遠くに潜水艦が海面すれすれに潜行していたのだ。
 その潜水艦のレーダーに、小型飛行機の機影が映り、しかもなにか金属製の物体を投下したのが映ったのである。重石に使った金属製のチェーンが反応したのだ。
 不審に思った潜水艦が落下地点に行き、調べると死体を発見したのだ。

【覚書】

 藤原宰太郎の推理クイズにはよく出てくるもの。わかりやすいトリックです。
 元ネタはF・W・クロフツの短編「かくれた目撃者」です。


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