大佐の裏切り
【問題】
秘密情報部員009号は、約束の時間より30分早く、避暑地のある一軒家の別荘に向かった。ここでA基地に勤めるハック大佐と会う約束をしていた。ハックはあるホステスに夢中になり、貢ぐ金欲しさに基地にある新型ミサイルの図面を二万ドルで009号に売る約束をしていたのだ。ちなみに、夢中になったホステスは009号の仲間だが、それはまた別の話である。
009号が車から降り、石段をあがって玄関のブザーを押したが、返事がない。窓から明かりが見えているので、ハックはいるはずだ。ノブを回すと鍵がかかっていなかった。
何かあったと察知した009号はピストルを構え、そっと部屋に入ると、ソファの下にハックが倒れていた。どうやら麻酔薬を嗅がされて意識を失ったらしい。
009号は覚醒剤を注射すると、ハックは目を覚ました。ハックは慌てて自分の上着の内ポケットを探ったが、
「しまった。マイクロフィルムを奪われた」
「だれにだ」
「二人組の男だ」
「いつだ」
ハックは壁にかかっている時計を確認した。
「今から1時間ほど前だ。テレビを見ながらリンゴを食べていたら玄関のブザーが鳴ったので、あなたが早く来たのだと思って出ると、いきなり二人組の男がピストルを突き付けて、マイクロフィルムをよこせと脅してきた。何も知らないというと、一人がハンカチで口と鼻をふさいできたが、そこから記憶がない」
どうやらそのハンカチに麻酔薬がしみこませてあったのだろう。それらしいハンカチがハックのそばに落ちていた。テーブルには四つに切った食べかけのきれいなリンゴが果物ナイフと一緒に置いてあった。テレビは西部劇の映画が流れていた。
「その二人組はどんな男だ」
「スラブ訛りがあったから、共産圏のスパイだろう」
「そうか。それで、なぜおまえはそいつらにフィルムを渡したんだ?」
「なにを言うんだ」
「そいつらの方がおれより高い金を出したから、売り飛ばしたんだろう。それでおれに言い訳しようと考えていたら、おれが予定の時間より早く来たから、慌てて麻酔薬を嗅いで襲われたふりをしたんだろう。だが、下手な芝居だったな」
「な、なにを……」
「リンゴを喰いながらテレビを見て待つなんて、俺を舐めるにもほどがある。ミサイルの図面はどうでもいいが、スパイからもらった金をキャンセル料としていただく」
009号がピストルを突きつけると、あきらめたハックは冷蔵庫の中に隠していた札束をしぶしぶ取り出した。二万五千ドルあった。なるほど、五千ドルも多ければ、別の奴に売りたくなるのも無理はない。
さて009号は、どうしてハックの裏切りを即座に見破ったのだろうか。
【解答】
※解答部分は、反転させて見てください。
【覚書】
藤原宰太郎の推理クイズにはよく出てくるもの。海外の推理クイズにありそうなネタです。