消えた借用書


【問 題】
「堅田警部、どうしたんだい、しょんぼりとして」
「いやあ、谷君。実は、寸借詐欺にあったんだよ」
「切れ者の君らしくない。相手は誰だい」
「昔、僕が捕まえた前科者だ。先日、刑務所から出所したばかりで、五日前、偶然会ったんだ。仕事を探しているが、お金が無くてと困っている様子だったんで、二万円を貸したんだ」
「さすが、人情者の堅田警部」
「仕事が見つかり次第返すって、僕の名刺の裏に『金弐万円借りました。』と借用書まで書いたんだ。もちろん、その名刺は僕の財布に入っていたんだが、今日見てみると、名詞の裏が真っ白なんだ」
「それは、間違った名刺だったんじゃないか」
「そんなことはない。誓ってこの名刺だった」
「だったら、すり替えたとか」
「いくらなんでも、僕の目の前では無理だ」
「ふーん、その男は、ボールペンで借用書を書いたのかい?」
「いや、万年筆だ」
「黒インクかい?」
「いや、青インクだった」
「なるほどね、それでわかったよ、どうやって借用書を消したのか」


【解 答】
 青インクだと思ったものは、実はデンプンにヨード液を二、三滴垂らしたものだった。そうすると、青インクみたいなものができるが、数日経つと、化学反応を起こして、すっかり消えてしまう。

【覚 書】

 中学1年生程度の理科の知識があれば解けるトリックだが、このように、××程度の知識を必要とするトリックというのは結構綱渡り。知識があればというのは、実はお前には知識がないんだよと言っているようなものだからね。読者によっては、人をバカにするなというかも知れない。それに、理化学、数学的な知識(別に他の学問でもよいが)をトリックにすると、衝撃度という点ではかなり薄れてしまいます。やはり、誰もが納得するトリックというのは、単純でかつ効果的なものが最善と思う。
 このトリックは、アガサ・クリスティの短編『動機対機会』にありました。

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