悪魔のリズムが聞こえる


【問 題】
 今日は十二月二日。俺が銀行強盗をやってから20日目だ。
 銀行強盗だけならまだしも、ものの弾みで警備員まで殺してしまった。しかも、一円の金も取らずに逃げ出したんだから、全く話にならない。
 捕まれば死刑だ。俺は昼は野山に隠れ、夜だけ行動して必死にここまで逃げ延びてきた。
 今夜も月のない夜だ。俺は森を抜け出し、食べ物を手に入れるため、町の方まで歩き出した。
 突然、ミカン畑のところで、何かにつまずいた。目を近づけてみると、人間だ。しかも、死んでいる。驚いて死体を調べてみた。
 行き倒れのフーテンのようだった。病死らしく、死後三日は経っている。
 それ以上に俺の関心を引いたのは、そのフーテンが俺によく似ていることだった。年格好だけでなく、体つきや顔、無精ひげの生え具合までそっくりだ。
 このとき、俺の頭に素晴らしいアイディアがひらめいた。このフーテンを俺の身代わりにするのだ。そうすれば、殺人犯の俺はここで死んだことになり、警察の追求から逃れることになる。
 俺は早速実行に移した。フーテンの服も脱がして裸にし、今度は俺が服を脱いで、下着から靴、サングラス、腕時計まで、全部死体の身につけさせた。最後に、俺が垢だらけの服を着込んだ。
 さあ、これでよし。今夜から俺はフーテンだ。俺はさっそうと夜道を歩き出した。

 翌日の朝、ミカン畑の主人が死体を発見して、警察に届け出た。
 巡査が来てみると、人相風体や服装が手配中の銀行強盗殺人犯に一致している。巡査は本署の捜査本部に急報した。
 本署から捜査班が来たのは、10時頃だった。朝からひどく底冷えのする日で、雪が舞い始めていた。
 警察医は死体を検査した。
「死因は心臓麻痺、死後四日は経っている。間違いない」
 証人として同行してきた銀行員は、
「多分この男です。そっくりです」
と証言した。
 主任警部は、死体を調べ始めた。
 死人の腕時計はオートマチックで、正確に動いている。サングラス、万年筆、ハイライト、手足の爪などをじっくりと調べた警部は、立ち上がってこういった。
「この死体は贋物だね。犯人が誰かの死体に自分の服や持ち物を着せたものだ」
「えっ、どうしてわかるんです?」
 ほかの刑事たちは、目をパチクリさせた。
 さて、警部が替え玉を見破った証拠とは、一体なんだろう?


【解 答】
 死後四日経っているのに、時計が動いている。オートマチックの時計は、動かさないとせいぜい二日ぐらいで止まってしまう。死亡推定時刻は間違いないのだから、誰かが前日に時計をはめかえたのだ。そんなことをするのは、犯人しかいない。

【覚 書】

 文章ではなく、イラストにした方が難しいかも知れません。時計の音ではなく、日付が違っているという問題もありました。しかし、オートマチックの時計なんて、若い人は知らないかも知れないです。

 ※解答部分は、反転させて見てください。
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