山村正夫『ぼくらの探偵・トリック教室』


山村正夫 『ぼくらの探偵・トリック教室』
(日本文芸社 少年百科シリーズ9)




『ぼくらの探偵・トリック教室』


 『ぼくらの探偵・トリック教室』

 著者:山村正夫

山村正夫:1931年生。愛知県出身。1949年「二重密室の謎」でデビュー。以後、多くのミステリを手がける。『湯殿山麓呪い村』で角川小説賞を受賞、映画化もされた。元日本推理作家協会理事長。1999年没。

 発行:日本文芸社 少年百科シリーズ9

 発売:1973年7月2日初版(と思われる)

 定価:500円(初版当時)




 戸外ではスポーツ、家にあってはミステリィの読書……。
 これが、カッコいいナウなヤングの、さいきんの流行だといわれています。
 ミステリィにもさまざまな種類がありますが、そのなかでも特にゲーム性や意外性に重点をおいた、本格的な謎解きの傾向のものが、好んで読まれているようです。たとえば、シャーロック・ホームズの冒険談などがそうです。
 ホームズの名前を知らない人は、おそらくきみたちのうちにも誰ひとりいないと思いますが、この世界的な名探偵を生んだ、イギリスのアーサー・コナン・ドイルの作品が、その本格推理小説のもっとも代表的な例といえるでしょう。「バスカービルの犬」とか「ボスコム谷の怪事件」などという名作は、きみたちのなかにもあるいは、ジュニア版で読んだ人が、おおぜいいるかもしれませんね。けれどもこの種の面白い小説は、まだまだほかの推理作家の作品にもたくさんあるのです。
 では、こうしたゲーム推理小説が、かくもバツグンに人気がある理由は何でしょうか?
 それは、ほかでもありません。万物の霊長たる人類が、ほかの動物よりまさっている点は、いうまでもなく知恵をそなえていることですが、人知が進むにつれて、人間は次第に推理や合理性を、ますます愛するようになってきているからなのです。現代人になればなるほど、謎にぶつかると、その真相を解明せずにはいられない欲望を燃やすようになってきているのです。
(中略)
 ただそのためには、日頃からきみたちの推理力を、バッチリきたえておく必要があります。それと同時に、推理小説の原型、あるいはゲーム推理小説は他の推理小説とどのように違うか? などの初歩的な知識も、いちおうは勉強しておくべきです。また、ポピュラーな名探偵の探偵法や、かずかずの犯罪トリックにも通じておかなければなりません。
 なぜならば、ゲーム推理小説に登場する犯人は、悪知恵にたけた者ばかりで、罪を逃れるためにあの手この手の奇抜なトリックを考え出すからです。それを見抜くためにもそうしたことを知っておいたほうが便利というものでしょう。
 さらに、現代の警察がどのような犯罪捜査を行っているかということも、あわせて常識程度は知っておいた方がいいと思います。
 その意味でこの「ぼくらのゲーム推理教室」は、すでにその種のミステリィを愛読している人たちの参考になるだけでなく、これからそうした小説を読みたいと望んでいる人たちのガイド・ブックにもなるよう、苦心して執筆してみました。ゲーム推理に強くなるための、あらゆる知識が盛り込んでありますから、入門編やトリック編などの解説をすべてマスターすれば、きみたちはもはやシャーロック・ホームズや明智小五郎にも負けない、りっぱなヤングの名探偵であることを保証します。
 さあ、自信がついたところで、こんどはそれまでの応用ともいうべき最後の挑戦編の難事件に、かんぜんとしてアタックしてみてください。どんなトリックにぶつかっても、きっと自分でも面白いほど、ずばりずばりと解けるはずです。そして、もしもそれ以上の腕試しがしたいようでしたら、そのときは、書店で内外の名作といわれるゲーム推理小説を買ってきて、かたはしから読むことをおすすめします。
 そうすれば、きみたちもきっと、そのミリョクのとりこになって、熱烈なファンの一人になることは、受け合いです。
(「まえがき」より引用)


【もくじ】
 第一章 入門編
   1 推理小説とは何か?
   2 推理小説の原型
   3 推理小説の先駆者たち
   4 推理小説の種類
   5 ゲーム推理小説(パズラー)の定義
 第二章 犯人のトリック
   1 さまざまなタイプ
   2 外国の名探偵
   3 日本の名探偵
 第三章 トリック編
   1 トリックの奇術性
   2 意外な犯人トリック
   3 錯覚トリック
   4 殺人手段のトリック
   5 アリバイ・トリック
   6 死体移動トリック
   7 密室トリック
   8 消失トリック
 第四章 犯罪捜査編
   1 機動捜査隊(現場専門のベテラン)
   2 現場検証の知識
   3 法医学の知識(死亡推定時間)
   4 捜査本部の知識
   5 科学捜査の知識
 第五章 挑戦編<探偵クイズ>

 まえがきにもあるとおり、どちらかといえば少年少女向けのガイド本に近い作り方である。推理小説の定義や種類、名探偵の紹介、トリックの紹介、犯罪捜査の紹介、そしてクイズと内容は盛りだくさんであるが、限られた枚数の中でたくさんの内容を紹介しなければならないことから、項目ごとに割かれているページは短い。すでにファンの身からすれば、言葉足らずな部分が多いかもしれないが、初心者向けのガイドブックとなればこれでいいのかもしれない。もちろん、これ一冊でミステリのすべてがわかったと思われても困るのだが。
 クイズのほうは全部で22問。21番目のクイズはダイヤを追って4つの事件が起き、それぞれ謎を解いていくクイズであり、山村正夫にしては珍しいつくりのクイズである。しかし残りのクイズは『トリック・ゲーム』などに収録されているクイズをそのまま引用している。


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