『ミステリー入門』
危ない穴に陥ちないために
編者:佐賀潜
(佐賀潜:1909年生。中央大学卒業後、検事を経て弁護士に。1962年『華やかな死体』で第8回江戸川乱歩賞受賞。ベストセラー作家となる。TVでも活躍したが、1970年没)
発行:青春出版社 プレイブックス
発売:1968年8月15日初版
定価:340円(初版時)
この本の狙いは、事実とフィクションとを対比させることによって、読者の思考力をためすところにある。読者には、十人の作家が挑戦状をつきつけている。いずれも、わさびのきいた味のある作品ばかりだ。僕は、その導入をヒントとして、ほとんど僕の経験した実際の事件を取り上げ、読者への足がかりとした。
フィクションは、作者が創作したものだが、何かの素材はあったはずだ。そこから、作家は想をめぐらせ、一つの世界を作り上げていく。僕は、その素材に、異常なまでの興味を抱き、事実を掘り下げることによって、小説化していく。だから、事実は、フィクションと無関係ではないのである。
読者は、自分の目の前の現実と対比してこの謎解きの挑戦を受けて立つことにより、思考の壁を破ることができよう。各章の終わりの“ミステリー・イン・驚室”は、こんなこともあるだろう――との考えで書かれたコントから、法律判断をみちびき出そうとこころみたものだ。法律の意外性に驚くことを期待して。
【目 次】
ボサ・ノバを殺せ!
邦光史郎
月形半平の死
鮎川哲也
お流れ茶会事件
日影丈吉
三つのアリバイ
陳舜臣
愚かなる殺人者
笹沢左保
鍵紛失事件の鍵
柳川明彦
女たち
菊村到
旅へのいざない
高原弘吉
突然のプレゼント
樹下太郎
執念の島
島田一男
全部で10章。各章とも構成は、「佐賀潜 推理の眼」→「犯人当て小説」→「絵とき推理」→「ミステリー・イン・驚室」となっている。裏表紙には多湖輝、天知茂の推薦文が載せられている。
「佐賀潜 推理の眼」では、佐賀潜が実際に体験した事件と結末を語り、そこから次に出てくる犯人当て小説のヒントを語っている。
「絵とき推理」はその名の通り、1枚のイラストからクイズに答えるもの。
「ミステリー・イン・驚室」は書かれた事件で捕まった人物がどのような罪に問われるかをクイズにしたものである。
出版社の性格なのか、それとも時代が要請したものなのかはわからないが、いずれもお色気の要素が含まれている。
収録されている犯人当て小説は、文藝春秋「漫画讀本」で1960年代に連載されたもののなかから抜粋したと思われる。そのため、『ホシは誰だ?』と収録が重なっている作品がいくつかある。
佐賀潜がTVに出演していた法律相談をベースに書かれたものと思われる。とはいえ、収録されている犯人当て小説は当時の流行作家がそろっているし、決して作家やTV活動のついでに書かれた、程度で終わらせるようなものではないだろう。
犯人当て小説が好きな人にはお勧めしたい。
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