中島河太郎編『死角 読者への挑戦 傑作集』(双葉社)
『死角 読者への挑戦 傑作集』
中島河太郎編
双葉社 推理小説シリーズ11
発売:1972年1月20日初版
定価:480円(初版時)
【収録作品】
高木彬光 |
「影なき女」 |
森村誠一 |
「闇の欠陥」 |
山村正夫 |
「獅子」 |
佐野洋 |
「E・Pマシン」 |
鷲尾三郎 |
「白い蛇」 |
笹沢佐保 |
「雛の女」 |
海渡栄祐 |
「天国の活人」 |
大谷羊太郎 |
「風の夜のギター」 |
鮎川哲也 |
「達也が嗤う」 |
昭和24年の探偵作家クラブの正月の例会より、犯人当て小説の朗読が行われるようになった。発案者は当時の書記長、渡辺剣次である。作品朗読後、一定時間で解答を求め、解決編を読んで正解者を決定するというゲームである。朗読は映画評論家の黒部竜二が担当していた。当時の商品の一等は鳥の肉であり、最初に白羽の矢が立った高木彬光は、今夜のお菜は用意しなくてもよいと妻に言ったが、早大教授の鈴木幸夫(千代有三)に当てられて大いに悔しがったというエピソードは有名である。
昭和30年からは年2回行われたが、出題者が減ったことからすぐに元に戻った。日本推理作家教会に改組されたことによって毎月の例会が無くなり、犯人当てもなくなった。昭和44年に復活し、以後は江戸川乱歩賞受賞者が出題者となっている。
本書が出版された昭和47年までの犯人当ては以下である。
24.1 高木彬光「妖婦の宿」
25.1 高木彬光「影なき女」
26.1 千代有三「痴人の宴」
27.1 永瀬三吾「殺人乱数表」
28.1 鷲尾三郎「白い蛇」
29.1 岡田鯱彦「夢魔」
30.1 楠田匡介「誰も知らない」
30.7 香住春吾「間貫子の死」
31.1 渡辺剣次「悪魔の映像」
31.7 鮎川哲也「達也が嗤う」
32.1 田中潤司「クリスマス・イヴの殺人」
32.6 山村正夫「獅子」
33.1 北条総一「夜の手紙」
34.1 野口秋渚「松籟荘の殺人」
35.1 佐野洋「E・Pマシン」
36.1 樹下太郎「五人の美女」
37.1 笹沢佐保「雛の女」
44.1 海渡栄祐「天国の活人」
45.1 森村誠一「闇の欠陥」
46.1 大谷羊太郎「風の夜のギター」
47.1 斎藤栄「花園を荒らす者は誰か」
この中には高木彬光「妖婦の宿」といた日本ミステリを代表する短編や、千代有三「痴人の宴」、山村正夫「獅子」、鮎川哲也「達也が嗤う」といった有名作も含まれている。
本書はその中から9編を選んだアンソロジーである。
高木彬光「影なき女」は謎の女が訪問と同時に相手を殺害する三連続殺人事件の謎を神津恭介が解く話。「妖婦の宿」が犯人を当てられたため、リベンジとして出題したはいいが、またも犯人を当てられたというエピソードがあったと記憶している。神津の短編でも上位に位置する傑作。
森村誠一「闇の欠陥」は社長御曹司からプロポーズされた女性が、邪魔になった男を殺害するも残した二つの手抜かりを当てる話。どちらかを答えた人はいたが、二つとも答えた人はいなかったとのこと。後に山村正夫編『推理ゲーム』(双葉社 FUTABA-BOOkS) にも収録されている。回答編で長々と言い訳を書いているが、二つを答えるのは至難の業で、かなりの想像力を要する。
山村正夫「獅子」は古代ローマで近衛軍団隊長が殺害した人物を当てる話。小説としては面白いけれど、犯人当てとしてはどうだろうか。
佐野洋「E・Pマシン」は、どんな事件でも解決するマシンが、脅迫状が来たアパートの女性を警護する中で殺害された事件の犯人を当てる話。犯人ははっきり言ってすぐにわかる。むしろE・Pの意味がわからなかった。
鷲尾三郎「白い蛇」は、友人同士が泊まったアパートで起きたガス中毒と縊死事件の謎を解く話。内容自体はそれほど難しくないが、大して面白い話でも無い。
笹沢佐保「雛の女」は、親友が自動車事故で死ぬ寸前、養子が実子であったことを告白し、その母親の名前を言おうとして死亡する。知っているのは家政婦でもある姪だが、名前は知らなかった。遺言を果たすべく、知り合いに頼んだから母親候補が二人も現れ、しかも姪は謎の俳句を残して死亡した。母親は誰か、姪は自殺か他殺か、他殺だとしたら犯人は誰か、自殺だとしたらその理由は。意外な結末が待ち構えているが、実はこれ、作者が当初予定していた解決ではなく、星新一の解答であり、しかもそちらの方が面白いからと採用してしまったという裏話がある。ちなみに笹沢の解答がどのようなものであったかは、本書には収められていない。
海渡栄祐「天国の活人」は、小説の主人公だけが行ける天国に行った「わたし」が、デュパンややホームズたち名探偵が出すテストに答える話。設定は凝っているが、中身はあまり面白くない。
大谷羊太郎「風の夜のギター」は、こそ泥を現行犯逮捕した警官たちが入られた家に行くと、そこで見つけたのは殺害された主人だった。こそ泥にはアリバイが成立したため、犯人は屋敷に住む4人に絞られた。トリックとしては平凡。
鮎川哲也「達也が嗤う」は有名作品。滞在先の緑風荘で起きた連続殺人事件の謎を解く話。犯人当てでもこのようにトリックをふんだんに入れる鮎川の姿勢と、意外なユーモアには恐れ入る。
テレビの犯人当てを小説化したものとは異なり、ミステリの鬼たちを相手にした作品であり、しかもフェアプレイを求められたことからも、かなりの重圧を受けて書かれたものと思われる。その割には平凡な作品もあるのはちょっと残念。それでもこれぞ、と力を入れた作品もあり、読んでいて楽しい。朗読と小説という違いはあるが、犯人当てに挑戦してみてほしい一冊である。
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