H・A・リプリー『1分間ミステリー』(日本文華社 文華新書)



『1分間ミステリー』

『1分間ミステリー』
 著者:H・A・リプリー (小堀さとみ訳)
(Harold Austin Ripley。1896年7月25日、アメリカワシントン生まれ。シカゴ・トリビューン紙の専属コラムニスト。新聞紙上にフォードニー教授を主人公としたミステリクイズ"Minute Mysteries"を連載。多数の新聞紙上に掲載されるとともに、教科書等にも用いられた。他にLook Magazineに探偵ハンニバル・コブを主人公としたフォトミステリクイズ"Photo Crime"を連載した。一時期アルコール中毒になるが、回復後、アルコール中毒患者のための治療センターを設立し、全米に展開した。1974年4月11日死亡。77歳没。著書に“Minute Mysteries”等があり、死後も出版されている)

 扶桑社ミステリー文庫

 発売:2023年11月10日初版

 定価:935円(消費税10%含む)




 1話ほぼ2ページ、1分間あれば読める、ショートショート・ミステリークイズの古典的名作登場! 狩猟に出かけた山中で、仲間の猟銃で撃たれた男。不幸な事故か、はたまた故意か? 地下室に押し入った泥棒との手に汗握る追跡劇。しかしじつは、内部の者の犯行だった!? 書斎のなかで毒殺された男。犯人は誰か……等々、趣向を凝らし、トリックとウィットに富んだ難問が満載。わずかな手がかりを見のがさず、名探偵フォードニー教授とともに、あなたも数々の事件の謎解きに挑んでください。(粗筋紹介より引用)

 アメリカをはじめとして、各国で人気を博したHarold Austin Ripley。日本でも編著や翻訳として『推理試験』『続推理試験』『ミステリィ・クイズ』が出版されてきたが、残念ながらどの本から訳されたのかは記されていなかった。問題パターンが一冊の中で異なっているので、おそらく訳者による編著という形と思われる。
 本書は、1932年に出版された"Minute Mysteries"の完訳。他にシンソン刑務所元刑務所長ルイス・E・ロウズによる「序文」、作者自身による「著者によるまえがき」がある。このまえがきに、フォードニー教授のプロフィールが簡単に書かれている。
 フォードニー教授は犯罪学者で、50歳。愛想がよくて赤ら顔の、親切な男。お腹周りはまだ40歳と若々しく、顔つきや物腰も狡猾さとは程遠い。目は青く、ブロンドの口ひげがある。髪の毛は近年急速に薄くなっている。少々うぬぼれが強く偏屈。唯一の趣味は子供向けのおもちゃ作り、修復。独身だが、女性嫌いというわけではなく、人付き合いが好き。並外れた犯罪心理学の知識で人間の矛盾を説明し、犯罪者の心理と行動に対する洞察力は、心理学者たちの間でも確かなものだと評価されている。普段は大学で犯罪学を教えているが、時間を見つけては様々な街の警察の仕事を精力的に手伝ってくれる。普通には解決できない事件が起きると、警察はすぐに相談してくる。
 フォードニー教授の相棒役であるケリー警視は刑事部(おそらくロンドン警視庁)のベテラン。白髪交じり。

 クイズは全部で67問。『推理試験』  クイズのほとんどは、現場の状況から関係者・容疑者の証言の矛盾を当てるもの。時には複数の関係者からの証言から犯人を当てるものもある。1問あたりの問題文は2~3ページで、すぐに読むことができる。解答が次の問題の後にあるのは、個人的には少々読みにくい。解答の後には事件の犯人に当ててかのような、小説家、詩人などの先人たちの言葉が書かれている。『ミステリィ・クイズ』の一部の問題にあったような、解答の後の犯人のその後については、本作には見られない。
 クイズのいずれもが特殊な知識(地理など)を要することなく解くことができるので、頭の体操としては最適である。後にリプリーのクイズのいくつかは藤原宰太郎や加納一朗の推理クイズ本に移植されるが、本書で該当しそうなのはボートの問題くらいである。
 私のような推理クイズファンには待望の一冊と言える。ようやく完訳してくれたか、と感謝したい。そして、他の著書もぜひ訳してほしい。

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