浅野八郎『おもしろ推理ゲーム』


浅野八郎 『おもしろ推理ゲーム』
(日本実業出版社 ESCARGOT BOOKS)




『おもしろ推理ゲーム』


 『おもしろ推理ゲーム』
  あなたの脳細胞に挑戦する69のミステリー

 著者:浅野八郎
(1931年生まれ。早稲田大学卒業後、ソルボンヌ大学に留学、人間心理とパーソナリティの研究を続ける。1962年に『手相術』を発表し、話題になる。その後、テレビ、ラジオ等マスコミを中心に心理研究家として活躍。心理学に関する出版物も多い。)

 発行:日本実業出版社 ESCARGOT BOOKS

 発売:1992年7月20日

 定価:780円(初版当時)




 えっ、私? 私の名は早乙女麗子。職業は白薔薇女子大の文学部助教授。専門は犯罪心理学。年齢は……フフフ。
 こう見えても私、大学の花形的存在。私の「犯罪心理学講座」はおもしろいって、学生の評判も上々なんだから。
 それはともかく、私の行くところ、なぜか事件が待ち受けているの。犯罪現場に出くわしたり、他人のトラブルに巻きこまれたり……私って“事件を呼ぶ女”なのかしら。つまり、一緒に出かけると必ず雨が降る“雨男”のように、好むと好まざるとにかかわらず、行く先々で事件が勝手に飛びこんできちゃう、そういうちょっとアブナい“特異体質”の持ち主なのかもね。
 でも、たとえどんな難事件・珍事件が立ちはだかっても平ちゃらよ。
 自分でいうのもなんだけど、私って、
・何にでも首をつっこみたがる人一倍の好奇心
・見かけによらず冷静な分析能力
・学生時代に体操で鍛えた運動神経と体力
・古今東西の推理小説を斜め読みして得た犯罪捜査のイロハ
・犯人の性格をズバリ見抜いちゃう犯罪心理学の専門知識
……などなど、探偵としての素質も十分(と本人は思っている)。たちどころに事件解決よ。現に、私が今まで遭遇してきた事件の数々は、「麗子の推理メモ」という形でまとめてあるの。それがこの本。
 さてさて、そんな私のもっかの悩みは、
“いつもそばにいて、一緒に考え、悩み、事件の謎の挑戦してくれるよきパートナー”
 がいないということ。そりゃまあたしかに、私と一緒に行動しているとしょっちゅう物騒な出来事に巻きこまれるかもしれないけれど、裏を返せば、毎日がスリルとサスペンスの連続。そんな生活を「おもしろい」「楽しい」と思う人はたくさんいるはず。
 そう、たとえば今この本を手にとっているあなた。たぶん推理モノの小説やドラマが大好きなあなたなら、私のパートナーにうってつけじゃないかしら。
 年齢、性別、経験不問。ただし、給料はナシ。こんな条件でよければ、ぜひ私と一緒に数々の難事件・怪事件・珍事件にアタックしてみない?
 OK? よかった。それじゃさっそく白薔薇女子大の私の研究室をノックしてみて。

(【イントロダクション】私と一緒に事件を解決してみない?)


【目 次】
 麗子の推理メモPARTI 犯人は誰だ!?
 麗子の推理メモPARTII 殺人トリックをあばけ
 麗子の推理メモPARTIII 怪盗からの挑戦状
 麗子の推理メモPARTIV 心理知能犯をやっつけろ
 麗子の推理メモPARTV 推理能力を発揮せよ


 推理する能力は、日常生活の問題を解決したり、仕事や対人関係をスムーズに処理していく能力とも結びつきが深いといわれている。
 日常のいろいろな情報を手がかりとして1つの推理をして行くまでには、様々な道程がある。そしてその推理の方法にも個人差がある。いろいろなことを試行錯誤しながら一つの推理をしていくこともあれば理論的に1つの判断や前提を元に一歩一歩推理することもある。
 アメリカの教育学者、ジョン・デューイは、推理には5つの仮定があるとのべている。
<第1段階>どこに問題があるかを「認知」する。
<第2段階>解決につながる「情報」を集める。
<第3段階>自分の体験から1つの「仮設」をたてる。
<第4段階>仮設をもとに一番ピッタリしているものをあれこれ探し出して「評定」していく。
<第5段階>これで間違いないという「検証」と確認をしていく。
 ところで一般的な前提から1つの判断をしていく推理法を「演繹法」(deduction)といい、個別的な推理を前提として判断していく方法を「帰納法」(induction)、個別のものからさらに個別のものを考えていくものを「類推法」(analogy)とよんでいる。我々の推理は、この3つのスタイルのうちのどれかであるといわれる。
 ところが、推理の仕方は実はもう1つある。それは、まったく理論的とはいえない直感的な“ひらめき”で予測したり判断する方法である。これが想像以上に的中するケースも多いのだ。
 ここに紹介した推理ゲームは、あなたの予想や推理のスタイルを自己チェックする役目を果たし、日常生活のもめ事や悩みを解決するテクニックを考えるヒントになるかもしれない。
 また、このような推理をする努力は、人間の大脳の働きを若返らせる役目もしている。
 物から心の時代といわれる現在、何よりも求められていくのは、人と人との出会いの中で、相手の心を推理したり、相手の反応を推理する努力であるといっても過言ではない。
 人間の心や脳は、どんなにすぐれたコンピュータでも読みとれない複雑な心の動きを理解し、推理していくのである。そのためには、いつも新鮮な目と心で物事を見つめ、そして推理をしていく習慣を身につけておくことが求められていくのではあるまいか。(後略)
(あとがきより)


 いわゆる普通の“推理クイズ”が多いが、心理学的な分析から犯人を捜し出す問題、いわゆる引っかけ問題、迷路、注意力問題、記憶力問題など、ヴァラエティに富んだクイズ集になっている。
 問題に出てくる密室やダイイング・メッセージなどのトリックは、既存の推理小説や推理クイズから採られたものが多い。ただ本作品集の面白いところは、【解決篇】と書かれた解答にある。事件解決までのアプローチが心理学者の作者らしい分析によってなされている。とどめの「●麗子のひと言」によって、そのアプローチは完結される。読者はクイズを解く楽しみだけではなく、解決編によってさらに推理方法をレクチャーされるのだ。これは今までの推理クイズになかった視点だろう。トリックなどを紹介するだけではなく、解き方を紹介してくれる推理クイズ。それが本書の特徴であり、読み応えのある部分である。他の推理クイズ本と比べても上位に位置する本だろう。お薦めである。

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