『犯人当てクイズ』
インスピレーションを養う本
著者:富岡寿一
富岡寿一:1926年、東京都生まれ。ユーモア作家、クイズ研究家、生活研究家など多くのペンネームをもち、活躍。日本テレビ「底抜け脱線ゲーム」アイデアグループ最古参。長岡鉄男のペンネームではオーディオ評論家として有名。独特の理論に基づいたスピーカーを多く残している。2000年5月没。
発行:日本文芸社
発売:1969年初版
定価:450円(1974年 第7版時)
推理小説は、広い意味で一種のクイズである、といえるだろう。最終的には「犯人さがし」になるわけだが、一篇の推理小説の中には「いつ」「どこで」「だれが」「なにを」「なぜ」「どのように」行ったか、といった無数のサブ・クイズがばらまかれている。このサブ。・クイズを全てときあかしてゆくと、「犯人さがし」のメイン・クイズもひとりでにとけるという趣向になっている。
もちろん、倒叙物とか、ハードボイルド物、サスペンス物の中には最初から犯人が割れているものあるにはあるが、それでもサブ・クイズにはこと欠かない。
推理小説ではこれらのクイズをトリックと呼んでいる。本書は、これらのトリックを、逆にクイズとして扱って集大成したものである。
推理小説マニアにとっては「トリック集」ともんまるであろうし、推理小説とは無縁の読者にとっては一風変わった「クイズ集」となるであろう。筆者としては「クイズ集」のほうに重点を置いて構成したつもりである。したがって、氾濫するクイズ集は食傷気味の読者、特にクイズ・マニアにとっては、格好の読物となるにちがいない。
「トリック集」というよりは「クイズ集」であるということから、内容は、決して推理小説一辺倒ではなく、日常生活から材をとったもの、純粋にクイズ的な発想によるもの、意地悪クイズ的なものも含まれている。
推理小説のトリックからとったものにしても、決してナマのままでは扱わず、かなり現代的に脚色し、また単純化してある。推理小説のトリックをあまり忠実にクイズ化しようとすると、一篇の小説を書くにも等しいことになり、ページ数を費やすばかりで、内容的には面白味の少ないものになってしまうおそれがあるからだ。
なお、推理小説にしても、クイズにしても「可能性の世界での遊び」であるから、「こんなことは現実にはありえない」と目くじら立ててもらっては困る。そういう見方からすれば、推理小説のほとんどは現実には有り得ない事件を扱っているのであり、クイズの扱う題材にしても、たとえば「1.8リットル入りのマスと、0.2リットルのマスを一回ずつ使って、0.1リットルの水をはかり出す」というようなバカげたことは、現実の世界では誰もやらないのだから。
問題数は全部で74問。他に推理こぼれ話が19編載っている。
「はじめに」にもあるとおり、推理小説のトリックを引用したものから、数学的・化学的クイズ、意地悪クイズなど広範囲に渡って収録されている。トリックを引用したクイズは確かに簡素化されているが、やはりページ数の制限から説明不足のところが多く、クイズを解くというよりもトリックの紹介に終わっているところは仕方がないところか。
その他のクイズに関しては、平均点といったところだろう。普通に考えれば、それなりに解ける問題ばかりである。インスピレーションを養うには、いいところかもしれない。しかし、どこかで見かけた問題といわれると否定も出来ないが。
初版は1969年とかなり古いが、つい最近まで現役本だった(今でも新刊書店で手にはいるかも知れない)。文章や書かれている内容は古ぼけているところもあるが、クイズとして楽しむにはいいだろう。
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