桜井一『おいしい殺人教えます』


桜井一 『おいしい殺人教えます』
(時事通信社)




『おいしい殺人教えます』
 『おいしい殺人教えます』

 著者:桜井一
 (桜井一:1943年旧満州生まれ。グラフィックデザイナー、イラストレーター。クイズ作家としても活躍。著書に『ビッグ・パズル』『ミステリマップ』『名探偵退場』など。後に風間一輝名義『男たちは北へ』で作家デビュー。)

 発行:時事通信社

 発売:1986年12月5日初版

 定価:920円(初版時)



 あなた、殺人はお好き? やっぱりお好きでしたか。そうだと思っていました。うん、それはよかった、ほんとによかった。
 いやいや、なにもあなた、あなたがわざわざ人を殺すことはないのですよ。そんなことをすると、ほら、後がめんどうですからねえ、なにかと。
 私は、殺人事件を見たり聞いたりするのがお好きですか? と、こう聞いているんですよ。いいえ、あなたがほんとに人を殺すのが大好きでも構いやしませんよ。どんどん殺してください。でもね、私を殺すのはやめてくださいよ。
 さて、殺人のお好きなあなた、本書にはぎっしり殺人が詰まってますよ。全部が全部、殺人ではありませんがね。でも、ほとんどが殺人ですよ。ワクワクしますか? ワクワクするでしょ?
 特に、人を殺したくても殺す勇気のない人にはうってつけです、この本は。あなたに代わって、本書の登場人物が次々に人を殺してくれます。あのテ、このテで。それをあなたは、なぜ殺したのか、誰が殺したのか、どうやって殺したのか……そんなことを考えるだけでいいのですから、楽なものです。
 あはは、よく考えてみたら、よく考えてみなくても、あなたは殺人者ではなく探偵の役回りなんですね。うまく謎が解ければあなたは名探偵。解けなくてまごまごすれば迷探偵。
 つまり要するに、一言で言っても二言で言っても、早い話も遅い話も、本書はパズル集だということです。
 他のパズル集と違っているところは、ミステリー仕立てになっていて、だから死体がごろごろ転がり出てくるくらいなもんです。恐がることはありません。生きてる人間は何かと怖いものですが、死んでしまったらただの物体です。たとえ血まみれの死体が出てきたところで、なあに、たかが死体です。
 ま、そ〜ゆ〜わけで、本書はやっぱりパズル集なのです。だから、理論的には成り立つが実際にはどうかねえ? 理屈ではそうだろうけれど、ほんとにそんなにうまくいくのかねえ? などなど、ご不審の数々はごもっとも。
 机上の空論、絵空事、はたまたばかげた茶番劇。あるはずのないことを、いかにもあるように書かねばパズルになりませぬ。ミステリーもパズルもマジックも、そ〜ゆ〜意味ではよく似ています。
 人をだまして金を稼ぐのが私の仕事。金を出してだまされるのがあなたの役目。あなたと私、粋な関係じゃありませんか、ねえ? やや一方的ではありますが……。
 ま、そんなわけで、本書はあるときは痴的に楽しんでいただければ、それでいいのです。
 なお本書の基幹をなすトリックのほとんどは、古今東西のミステリー小説からの盗作であり許しがたき暴挙ですから、文句のある人は、なるべく黙っててね。

(まえがき)


 ユニークなイラストでミステリファンにはおなじみの、桜井一による推理クイズ本。54題が収録されている。「まえがき」の文章を読んでいただければわかるとおり、人を食ったようなナンセンスな文体でクイズが出題されており、謎を解き明かすのはどこかで聞いたことがあるような、ないような人たち。クイズという点を離れて問題、答えを読むだけでも充分楽しむことができる。
 推理クイズという観点で見れば、「まえがき」にもあるとおり、トリックは古今東西のミステリから引用したものばかりであり、ミステリファンから見たら「許しがたき暴挙」かも知れない。

 後に『これでもか!殺人推理』と改題され、大陸書房から文庫化されている。

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