風間薫『真犯人 「三億円事件」31年目の真実』(徳間書店)


発行:1999.2.28



 3億円事件に直接かかわった女性が、事件から31年後に語った事件の真相? 時代を象徴する事件の裏にはまさしく今世紀最後の謎に相応しい驚くべき構造が隠されていた!(広告より引用)
 1999年2月、徳間社より単行本刊行。

【目次】
 第I部
 第II部
 第III部

 三億円事件ほど、想像を掻き立てられるものはない。死者どころか、怪我人すら出ない鮮やかな犯行(もっとも、マスコミ被害で亡くなった方はいたが)。そして全く尻尾を掴ませずに逃げおおせた結末。プロから素人まで山ほどの人物が色々な推理を組み立ててきたが、未だ犯人は捕まらない。
 本書は、当時美術学生で、ほんのちょっとだけ事件に関わったという著者が、自費出版である坊城ミス『記憶のカルテ 権力への挑戦? そして完全犯罪は終わった』を読んで、それは違う、仲間が行った犯行を自らがやったように書いたものだ、と訴えて「真実」を書いた作品……らしい。「らしい」と書いたのは、とても本書が「真実」とは思えなかったからだし、もちろん坊城ミス、後の中原みすず『初恋』(リトルモア)が「真実」だったとは到底思えない。
 第I部は当時の事件を報道や多数の出版物から振り返り、捜査は間違っていた、などと批判するもの。色々なところで書かれていたものをつぎはぎしただけとしか思えないような内容であり、読む価値は無い。それでもまだ我慢して読んでいたが、第II部で「真実」が書かれると、これがもう読みにくい。自分の感情先走りで日本語になっていない文章が多いし、一体何を言いたいのかわからない感情だけを吐露したものが目立つ。『記憶のカルテ』の批判を繰り返し、嘘を指摘しながら、実際はこうだったなどと書いているのだが、もうだめ。何度ギブアップしようかと思ったことか。いや、実際はギブアップしているのに等しい。一応ページは捲ったが、何も頭に入ってこないのだから。引用なのか、内心の感情なのか、過去の追憶なのか、何を言いたいのかわからない文章がしょっちゅう挟まれており、とてもじゃないが読む気など全く起きない。
 第IIIはその後について。これも同様。結局何を言いたいのかさっぱりわからないまま終わった。

 「苦痛」、その一言でこの本のすべてが言い表せる。評判になった記憶など全くないし、これがその後の「三億円事件の真相」に関わってきたという記憶もない。単なる世迷言としか言いようがない。徳間だから自費出版ではないと思うが、よくこれを世に出す気になったものだと呆れてしまった。
 作者の風間薫は1950年生まれ、沖縄生まれのジャンクアーティストのこと。もちろん実名ではないだろうし、この名前で活動していることもないだろう。東京と沖縄を往復しつつ、美術・映像・演劇の分野で活動を続けているとのことだが、聞いたこともない。有名人の変名だとしたらすごいが、多分無名の人だろう。
 何度でも言おう。「苦痛」だった。

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