地裁判決(うち求刑死刑) |
高裁判決(うち求刑死刑) |
最高裁判決(うち求刑死刑) |
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18(2) |
12(2) |
6(2)+1※ |
氏 名 | 平野達彦(46) |
逮 捕 | 2015年3月9日(現行犯逮捕) |
殺害人数 | 5名 |
罪 状 | 殺人、銃刀法違反 |
事件概要 |
兵庫県洲本市の無職、平野達彦被告は2015年3月9日午前4時ごろ、自宅近くに住む無職の男性(当時82)宅で、男性と妻(当時79)の胸などをサバイバルナイフで複数回刺して殺害。7時ごろ、近くに住む嘱託職員の男性(当時62)方で、男性と団体職員の妻(当時59)、母親(当時84)をサバイバルナイフで刺して殺害した。 同居していた長女(当時32)が110番通報。洲本署員が倒れている男女3人を発見、まもなく死亡が確認された。7時45分ごろ、同署員が近くにいた平野被告の服に血がついていたため職務質問したところ、関与を認めたため、この3人に対する殺人未遂容疑で現行犯逮捕した(後に容疑は殺人に切り替えられた)。その後、先に殺害された2名の遺体が発見された。 平野被告は父親と祖母との3人暮らし。母親は淡路島内で別居していた。神戸市の私立高校を2年で中退し、実家に戻るなどしていた。 2005年9月、平野被告は淡路島内で物品を壊したとして警察官に保護され、島内の病院に措置入院した。退院後の2009年7月、最初に殺害された男性の孫の男性と平野被告のオートバイの騒音を巡って口論となった。2010年7月、平野被告の母親が「インターネットへの書き込みを巡って近隣トラブルを起こした」と、洲本健康福祉事務所と洲本署に相談。12月、最初に殺害された男性の親族をネット上で中傷したとして名誉毀損容疑で逮捕されるも、精神障害のため、明石市内の病院に措置入院した。妄想性障害と診断され、2013年秋の退院後は明石市内に住んでいたが、医療機関での受診は2014年7月で最後となった。しかし両親は10月、「ネットでの中傷をしている」と相談。母親は洲本健康福祉事務所にも「息子が金の無心に来るかもしれない。以前にテーブルを蹴るなどしたことがあり、怖い」と話した。相談は両事務所に少なくとも7回あり、洲本健康福祉事務所は明石健康福祉事務所への相談内容と合わせ、同署に「母親が不安がっている」と伝えたという。 洲本事務所は、平野被告の家族らから2005年以降に計5回、近隣トラブルなどの相談を受け、家族を介して支援していた。2014年10月の相談後も明石、洲本両事務所は内容を共有し、県警洲本署に協力を依頼。受け入れ先の病院を調整していた。しかし20日、明石事務所が問い合わせると、母親は「姿を見せなかった」と答えた。明石事務所は平野被告に面談し、健康状態に問題はないと判断。母親からの相談は途絶え、洲本事務所も追跡の電話や訪問はしなかったという。 平野被告は2015年1月、洲本市の実家に戻った。平野被告は自宅に閉じこもり、会員制交流サイトのフェイスブックやツイッターなどに本名で登録し、被害者や近隣住民を批判する書き込みを繰り返していた。また、米軍や政府への批判も書き連ねた。 2月14日、最初に殺害された男性の孫の男性が自宅近くで平野被告と口論になり、写真を撮られた。男性の娘が15日、自宅を訪れた県警洲本署員に不安を訴え、その後も連日、二つの別の駐在所を訪問。「写真を勝手にインターネットに掲載されたら犯罪になるのか」と相談し、地元でのパトロールの状況を確認した。20日、駐在所ではなく、洲本署を直接訪れた。「何とかできないか。犯罪にあたるなら捕まえてほしい」と訴えるも、対応した刑事課員は「写真を撮られただけでは事件化は難しい」と回答した。刑事課員がこの際、「何かあったら110番してください」と告げたところ、21日、男性が「(平野被告が)自宅付近を徘徊している」と110番通報。署員が駆けつけたが、平野被告の姿はなく、接触できなかった。一家は、平野被告が「ツイッター」に写真を掲載したのを確認し、家族が28日に駐在所を訪問。写真撮影やネット上の中傷行為について「人権侵害にならないのか」「事件化してほしい」と求めたり、「自宅周辺を徘徊している」と通報したりしていた。署は「写真を撮られただけでは難しい」と応じ、付近のパトロールを強化するなどしていた。署は平野被告本人への警告も提案したが、被害者側は望まなかった。3月2日には、親族が洲本市役所の人権推進課の窓口を訪れ、相談。市は弁護士の無料法律相談を紹介。3日には洲本署を訪れ、同署が捜査を始めた。親族は4日、弁護士の無料法律相談に訪れて相談していた。 結果として、2月14日から3月3日まで9回、男性や親族は洲本署に相談していた。すべてデータベースに入力されていたが、県警によると、同署単独の取り扱い事案だったため、広域相談指導係のチェックから漏れたという。同署はパトロールのほか、駐在所員が2月15、16両日に平野被告宅を訪問したものの、父親に「(妄想性障害のため)ふさぎ込んでおり、入院させようかと思っている」と言われて本人に会えていなかった。また、繰り返し相談はあったが、被告の行為に暴力や殺害をほのめかす言動がなかったため、同署が凶悪性は低いと判断したとみられ、人身安全関連事案対策係にも報告されていなかった。また保健所は、平野被告は洲本市に戻っていることを知らなかった。 2015年3月30日、先の2名の殺人容疑で平野被告は再逮捕された。 神戸地検は、刑事責任能力の有無を調べるための鑑定留置を神戸地裁に請求し、認められた。4月9日から8月31日まで実施され、神戸地検は9月8日、「刑事責任能力があると認めた」として、平野被告を殺人容疑で起訴した。 |
裁判所 | 最高裁第三小法廷 林景一裁判長 |
求 刑 | 死刑 |
判 決 | 2021年1月20日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 |
弁護側は心神喪失で無罪として上告していた。 5裁判官全員一致の結論。 |
備 考 |
2017年3月22日、神戸地裁(長井秀典裁判長)の裁判員裁判で求刑通り一審死刑判決。 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) 2020年1月27日、大阪高裁で一審破棄、無期懲役判決。 |
氏 名 | 陳春根(49) |
逮 捕 | 2011年12月27日 |
殺害人数 | 2名(1名は殺人、1名は逮捕監禁致死) |
罪 状 | 生命身体加害略取、逮捕監禁致傷、生命身体加害略取、逮捕監禁、殺人、逮捕監禁致死 |
事件概要 |
兵庫県姫路市のパチンコ店運営会社の実質経営者であった、韓国籍の陳春根(しゅんこん)(日本名:中村春根(はるね))被告は部下の上村(うえむら)隆被告らと共謀し、以下の事件を引き起こした。(以下は起訴内容)
2013年10月23日、県警暴力団対策課などはSさんへの殺人容疑で陳春根被告と、上村隆被告を逮捕した。 2014年3月6日、県警暴力団対策課などはTさんへの逮捕監禁致死容疑で陳春根被告と上村隆被告、その他3人を逮捕した。 11月14日、県警暴力団対策課などはMさんへの逮捕監禁容疑で陳春根被告と上村隆被告、その他3人を逮捕した。 2015年2月18日、県警暴力団対策課などは知人男性への逮捕監禁容疑で陳春根被告と上村隆被告、その他1人(後に起訴猶予)を逮捕した。 6月10日、県警暴力団対策課などはMさんへの殺人容疑で上村隆被告を逮捕した。10月23日、殺人容疑で陳春根被告を逮捕した。社長の遺体や拳銃は見つかっていないが、社長の生存が長期間確認できないことなどから同課は社長が殺されたと判断した。 県警と地検は計12回、陳被告を逮捕、起訴している。 |
裁判所 | 大阪高裁 和田真裁判長 |
求 刑 | 死刑 |
判 決 |
2021年1月28日 無期懲役(検察・被告側控訴棄却) 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
2020年10月20日の控訴審初公判で弁護側は、1件の逮捕監禁罪以外は無罪と主張。この事件について「本当に拳銃を使ったか不明で、そもそも起訴状での殺害手段の事実認定に誤りがある」と主張した。さらに「約4年にわたる長期間の捜査で、参考人への聴き取りについて、多い人で100回にも及んだことに触れ、その間に捜査機関の見立てに沿った供述に変わってきており、そのプロセスが十分に検討されていない。何となく有罪に、という方向性で安易に事実認定された」と述べた。検察側は改めて全ての罪が成立すると主張し、無期懲役の陳被告と死刑の上村被告で刑の不均衡を訴えた。弁護側は新証拠の採用を、検察側は被害者らの意見陳述を求めたが、和田裁判長はいずれも認めなかった。そして検察側・弁護側双方の控訴趣意書のみを採用し、 即日結審した。 和田裁判長は判決理由で社長の男性に対する殺人罪については、死亡した経緯を推測できる証拠が乏しく、「上村被告が殺害した以外の可能性を排斥するのは困難」とし、一審判決と同様に陳被告を無罪とし、作業員の男性に対する殺人罪なども一審通りに認定した。また検察側の主張に対し、和田裁判長は、社長の男性の殺人罪でも有罪となった上村被告と陳被告は量刑事情が異なるとして退けた。 |
備 考 |
一審の審理期間は、裁判員裁判で過去最長の207日。判決までの公判回数は76回に上る。約120人の証人が出廷した。裁判員6人のうち3人が、途中で辞退を申し出て交代した。暴力団が関係する事件のため、裁判所側は4月の初公判以降、廷内に入る前に必ず荷物検査や身体検査を実施するなど徹底した安全対策を取った。 共犯の上村隆被告は2019年3月15日、神戸地裁姫路支部の裁判員裁判で、求刑通り一審死刑判決。2021年5月9日、大阪高裁で被告側控訴棄却。 一連の事件で兵庫県警は陳、上村被告のほかに15人を逮捕し、14人は有罪が確定している。 陳春根被告、逮捕監禁事件で有罪判決が確定した男性元被告2人と弁護人だった弁護士が、違法な捜査で精神的苦痛を受けたとして県と国に計1300万円の損害賠償を求めた訴訟で、2015年10月29日、神戸地裁(伊良原恵吾裁判長)は県警の一部捜査の違法性を認定し、県に87万円の支払いを命じた。国への請求は棄却した。判決によると、県警の捜査員が2011年2月~2012年1月、逮捕監禁事件などの任意捜査段階で元被告2人を警察署の取調室やホテルに最大4泊5日宿泊させたほか、陳被告の取り調べで「弁護士の言うことを聞いていたら最悪の結果になる」などと発言した。伊良原裁判長は「実質逮捕といえる違法な身柄拘束」と指摘し、発言も「被告を不必要に混乱させ、弁護士との信頼関係の形成を妨害した」と結論づけた。 2018年11月8日、神戸地裁姫路支部の裁判員裁判で、求刑死刑に対し一審無期懲役判決。被告側は上告した。検察側は上告せず。2022年10月12日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 元少年(35) |
逮 捕 | 2019年1月24日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、強姦致死 |
事件概要 |
フィリピン国籍の元少年(事件当時18)は、フィリピン国籍のランパノ・ジェリコ・モリ被告、フィリピン国籍の少年(事件当時19)と共謀。2004年1月31日午前0時から6時半ごろまでの間、茨城県阿見町の路上で、散歩で通りがかった茨城大農学部2年の女子学生(当時21)の腕をつかんで車に連れ込み、美浦村舟子の清明川に向かう車内で暴行を加え、手などで首を絞めた。さらに、清明川の河口付近で首を刃物で複数回切るなどして殺害した。 ランパノ被告は母親らと2000年に入国。事件当時、ランパノ被告は土浦市内に住み、美浦村内の電器部品加工会社に勤務していた。女子学生と面識はなかった。 遺体は31日の午前9時半ごろ、発見された。 ランパノ被告や共犯の2人は2007年にフィリピンに出国するも、ランパノ被告は再び日本に入国。遺体に付着した微物のDNA型がランパノ被告のものと一致した。茨城県警は2017年9月2日、岐阜県瑞穂市で工員として働いていたランパノ・ジェリコ・モリ被告を強姦致死と殺人の疑いで逮捕した。9月5日、茨城県警はフィリピン国内にいると思われる共犯2人の逮捕状を取り、国際刑事警察機構(ICPO)を通じて国際手配した(なお1人についてはフィリピンで日本の取材に応じている)。ただし日本とフィリピンとの間には事件捜査の協力を要請できる「刑事共助協定」がなく、容疑者の身柄引き渡しに関する条約もないため、フィリピン政府に引き渡しを求めることができない。 2018年、県警が国内外の関係者に働きかけ、出頭するよう促すと、元少年側から出頭の意思があると伝えてきた。県警は捜査員をフィリピンに派遣し、捜査員がマニラ空港から飛行機に同乗。2019年1月24日、成田空港に到着した元少年が再入国したところで殺人と強姦致死容疑で逮捕した。 |
裁判所 | 水戸地裁 結城剛行裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2021年2月3日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2021年1月18日の初公判で、元少年は罪状認否で「間違いありません」と述べ、起訴事実を認めた。 冒頭陳述で検察側は、元少年がモリ受刑者と、もう1人の共犯とみられる男の3人で酒を飲んでいる際、女性を襲うことを提案したと説明。「自らの性的欲求を満たし、被害者の首を絞めるという死因に直結する行為も担った」とした上で、口封じのために殺害を決めたとし、「被害者の尊厳を踏みにじり、命を奪った犯行態様は非常に悪質」と指摘した。 弁護側は「元少年が殺害に積極的でなく、共犯者に凶器を渡され、促されたことが殺害の決め手だった」と主張。犯行に携わったとされる3人のうち元少年は最も若く、従属的な立場にあったとした上で「罪を償うためにフィリピンから入国し、出頭するなど反省している」と情状酌量を求めた。 証人尋問には、モリ受刑者が出廷。「3人に上下関係はなく、兄弟のような関係」と証言した。事件前に元少年が2~3回にわたり「日本人女性を味見したい」と話していたと証言した。事件当日も「女でも探そうか」と女性への暴行を提案したと述べた。 21日の第4回公判における被告人質問で、女子学生を乱暴後、モリ受刑者が「今から女を殺します」と発言したことをきっかけに、元少年が女子学生の首を絞めたと述べた。元少年は、女子学生を刺した凶器のドライバーについて「川に捨てた」と供述。検察側は刺し傷が心臓に届くものもあったと指摘し、元少年は刺した回数を問われると「5回以上」と振り返った。事件を起こしたことへの思いを検察側に問われた元少年は「何も(ない)」と淡々と述べた。検察側は、元少年が事件後、フィリピンに逃亡する前に心情を記したメモを母親宅に残し、「首謀者は共犯の2人だ」という内容だったと明らかにした。 28日の論告で検察側は、「被害者の遺体の状況から強固な殺意に基づいた残虐な犯行で、まさに鬼畜の所業と言っても過言ではない。性的、人格的尊厳を大きく踏みにじった」などと指摘。また、弁護側が「男は殺害に反対していた」などと主張していることについては、「結局は自己保身のために納得して殺害を行っている」と述べた。 同日の最終弁論で弁護側は、「男は他の共犯者に比べて従属的な立場だった。再び日本に来たことは真摯に反省していることの表れだ」と主張した。 判決で結城剛行裁判長は、元少年と共犯2人が事前に、口封じのために暴行した女性の殺害を決めていたと認定。「無差別な通り魔的犯行で被害者の生命や性的自由を軽視しており、厳しい非難は免れない」と非難したうえで、元少年が他の2人に暴行を持ちかけたことを認め、殺害の過程でも共犯者による殺害の提案に当初は反対したが、最終的には賛成して首を絞めるなどしており「従属的な立場にはなかった」と指摘した。元少年が逮捕を覚悟で来日したことについては「わいせつ目的の殺人という事案の量刑傾向に照らし、無期懲役刑が相当」と酌量しなかった。 |
備 考 |
2018年7月に改正刑法が施行され、強姦罪は「強制性交罪」に変わり、法定刑が引き上げられた。ただ今回の事件は2004年に発生しており、改正前の刑法が適用された。 共犯のランパノ・ジェリコ・モリ受刑囚は2018年7月25日、水戸地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2019年1月16日、東京高裁で被告側控訴棄却。上告せず確定。 共犯の元少年(当時19)はフィリピンに帰国し、国際手配中。 控訴せず確定。 |
氏 名 | 山本豊和(37) |
逮 捕 | 2017年11月26日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、死体遺棄、窃盗 |
事件概要 |
静岡市駿河区の新聞配達員、山本豊和被告は2017年10月5日、静岡市駿河区に住む義理の母親宅で、義母(当時62)の首を圧迫するなどして殺害、現金約300万円を奪った。6日、駿河区の道路わきの草むらに遺体を遺棄した。山本被告は、被害者の次女の夫だった。週3~5日通うほどのパチンコ好きで、仕事で集めた金をパチンコ店につぎ込むこともあり、義母より借金をしていた。また消費者金融から280万円の借金があった。殺人後、退職していた。 他に山本被告は2016年12月4日午後11時20分ごろから40分ごろにかけて、元勤務先の会社が運営する焼津市のコインランドリーの両替機などから現金約14万円を盗んだ。 10月5日、同居する男性が深夜に帰宅したところ女性の姿がなく、女性の親族は11日に静岡南署に行方不明届を出し、17日に遺体が見つかった。11月26日、捜査本部は死体遺棄容疑で山本被告を逮捕した。2018年1月28日、強盗殺人容疑で再逮捕した。2月19日、窃盗容疑で再逮捕した。 |
裁判所 | 静岡地裁 伊東顕裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2021年2月19日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2021年1月19日の初公判で、山本豊和被告は死体遺棄については認めたものの、強盗殺人については「殺害していない」と起訴内容を一部否認した。 冒頭陳述で検察は、「借金などで生活に困窮して犯行に及んだ」と動機を指摘。「被告は殺害後にアパートごと燃やすことも考え、ブルーシートやサラダ油を購入していた」と述べた。弁護側は「殺害の直接的な証拠はない。訪問したときすでに亡くなっていた」などと主張した。 2月1日の公判における被告人質問で、山本被告は女性の遺体発見時の状況について「口に粘着テープが巻かれ、身体を揺さぶっても反応がなかった」と説明した。そして「私は殺していない。金を借りようと思い、家を訪れたら女性が倒れていた。誰かに殺されたんだろうと思った」と、強盗殺人について改めて否認した。遺体を見つけた後、警察に通報せずに遺体を山中に遺棄した理由について検察から問われると、被告は「誰かに殺されたんだろうと思った」「通報すると、第一発見者の自分が疑われると思った」「別の窃盗事件の犯行がばれて、殺人を疑われるのを恐れた」と述べた。また、アパートから現金を盗んだ理由については、「職場のゴルフコンペの費用や、妻が出産を控えていて、金が必要だった」と説明した。そして女性宅から持ち去った現金の一部をパチンコの遊興費や生活費に充てたことを明らかにした。一方で、遺体を遺棄したことについては争わない姿勢を示した。 5日の論告で検察側は、被告が現金を奪って遺体を遺棄したことや、遺棄現場などの地図をスマートフォンで検索して事前に確認していたことを踏まえ「現金を奪う目的で殺害した犯人なのは明らか」と強調。パチンコで散財するなどし、まとまった現金を必要としていた被告には「動機が十分あった」と指摘した。その上で、反省の態度が乏しく「信じ難い弁解を繰り返し、更生も期待できない」と述べた。 同日の最終弁論で弁護側は「客観的状況から第三者の犯行の可能性も十分あり得る」と反論。金策が差し迫って必要だったわけではなく「殺害する動機がなかった」とし、家計の頼みだった女性を殺害することはむしろ被告にとって「デメリットでしかない」と強調した。死体遺棄に関しては「高額な現金を持ち出した事実を隠すための合理的行動」とした。そして「殺害は第三者の犯行で直接証拠がなく、被告には動機もない」と強盗殺人は無罪で、死体遺棄で懲役2年6カ月が妥当だと主張した。 被告は最終意見陳述で「女性を殺害していない」と改めて述べ強盗殺人の罪以外は認めたうえで「遺体を遺棄したことは後悔し、深く反省している。関係者の皆さんに償いをしていきたい」と陳謝した。 判決で伊東裁判長は、「室内にいるかもしれない犯人に注意を払わず、指紋が残らないように現金を持ち出すなど不自然に冷静な行動をしている。救急車を呼ぶなどしていないのははなはだ不自然」と指摘。さらに、自宅を訪ねたところ既に女性は死亡していて、窃盗事件の発覚を恐れて通報できなかったなどとする主張の不自然さを指摘した。「死体を遺棄した事実から被害者を殺害した犯人と推認できる」と判断した。その上で「当時、光熱費を滞納するなど生活に困窮し、殺害する動機もある」と指摘し、犯行前に携帯電話で遺棄現場などの地図を閲覧していたことは「死体を遺棄した事実からの推認を裏付け補強する事情」と説明した。量刑の理由については「少なくとも5分程度、首を圧迫したとみられ、殺意は強い。犯情は甚だ悪質。何の落ち度もない義理の母を金銭目的で殺害したことははなはだ身勝手な犯行で、反省の態度は全くない」とした。 |
備 考 | 被告側は即日控訴した。2021年9月22日、東京高裁で被告側控訴棄却。2022年1月7日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 朝比奈久徳(53) |
逮 捕 | 2019年11月27日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、殺人予備、銃刀法違反、公務執行妨害他 |
事件概要 |
愛知県江南市の無職、朝比奈久徳被告は2019年11月27日午後5時すぎ、兵庫県尼崎市の路上で、指定暴力団神戸山口組の男性幹部(当時59)にが居た飲食店の外から声をかけ、出てきたところ自動小銃で弾丸15発を撃ち、死亡させた。さらにその後、神戸山口組の別の幹部を殺害するため、自動小銃1丁と拳銃1丁、銃弾39発を所持し、京都市南区までレンタカーで向かった。 事件から約1時間後に京都府警南署員が京都市南区内で酷似した車を発見。職務質問をしようとすると朝比奈被告が署員に拳銃を向けたため、公務執行妨害と銃刀法違反の両容疑で現行犯逮捕した。 朝比奈被告は山口組傘下組織幹部だったが、山口組で取り扱いが禁じられている覚醒剤に手を染めたとして、2018年12月に「破門処分」を受けたとされる。2019年8月、覚せい剤取締法違反(使用)の罪で岐阜地検に起訴されたが保釈され、11月29日に岐阜地裁で判決が予定されていた。 殺害された男性は、2018年3月と2019年7月にも棒や傘で襲撃され、指定暴力団山口組系組員らが逮捕されていた。飲食店は男性の息子が経営していた。 山口組と神戸山口組の対立を巡っては、2019年4月に神戸市の路上で神戸山口組系幹部が山口組系組員に刺されて重傷を負う事件が発生。8月には神戸市の山口組系の組事務所前で組員が銃撃され、10月10日には神戸山口組系組員2人が射殺された(殺人罪で起訴されたM・T被告は、公判前の2020年12月31日に病死、70歳没)。 11月29日、殺人容疑で朝比奈被告を再逮捕。2020年2月3日、殺人予備で再逮捕。 |
裁判所 | 神戸地裁 小倉哲浩裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2021年2月19日 無期懲役 |
裁判焦点 |
検察側が裁判員の安全確保のため除外を請求し、神戸地裁は認め、裁判員裁判の対象から除外した。開廷前には、傍聴人や記者たちに対して厳重な身体検査が実施され、証言台と傍聴席の間に透明の防弾パネルも設けられた。 2020年2月8日の初公判で、朝比奈久徳被告は「間違いありません」と、起訴事実を認めた。 検察側は事件の背景に、2015年の山口組分裂に始まる同組と神戸山口組の対立抗争があると指摘。「被告が被害者に個人的な殺意を抱く理由はなく、単に神戸山口組の幹部だからというだけで狙った」「個人的な犯行とは到底認められない」などと訴えた。山口組の組織的な関与にも言及し、「本人以外から指示は明らかになっていないものの、山口組関係者による何かしらの指示や支援が強く疑われる」とした。 弁護側は「被告が単独で準備、計画した」「動機は(山口組と対立する)神戸山口組が許せないという個人的な思い」と山口組の関与を否定した。 朝比奈被告は被告人質問で動機について「有名になりたかった」「おとこになって死にたかった」などと証言。「インパクトのあるものを使おう」と凶器に自動小銃を選んだといい、拳銃と合わせ「350万円で買った」と語った。入手の方法や時期は「言えない」を繰り返した。今回の事件前に、神戸山口組の組長らも殺害しようと試みたが、断念したと明かした。 同日の論告で検察側は「何ら躊躇なく至近距離から自動小銃を連射した冷酷かつ残忍な犯行で人命軽視甚だしい。一般市民も巻き込む危険性があった。さらに、下見をするなど綿密かつ計画的で、関係者からの指示が強く疑われ、対立抗争激化の可能性を高めた」と指摘。そして「強固な殺意に基づく、冷酷かつ残忍な犯行」と主張。社会に恐怖を与え、更生の可能性が低いなどとして無期懲役を求刑した。 同日の最終弁論で弁護側は、「背景に組織はなく、任侠道を踏み外したのが許せない、有名になりたいといった個人の理由で犯行に及んだ」として有期刑を求めた。 最後に裁判長から「何か言いたいことは」と問われた男は「ありません」と短く回答。結審後、傍聴席にいたかつての所属先の暴力団関係者らに向かって小さく一礼するようなしぐさを見せ、退廷した。初公判の日に即日結審した。 判決理由で小倉裁判長は、検察側が主張した組織性は認定しなかったが、「所属していた暴力団への忠誠心が動機」と指摘。凶器に自動小銃を用いたことや男性幹部が倒れた後も執拗に銃弾を放った行為について「強固な殺意に基づく残虐極まりない犯行」と非難。一般市民に危害が及ぶ可能性のある場所での犯行だったことも踏まえ、求刑通りの判決が妥当とした。 |
備 考 |
事件後の2019年12月、山口組と神戸山口組は特定抗争指定暴力団に指定された。 朝比奈被告の懲役前科は7犯である。 被告側は控訴した。2021年11月29日、大阪高裁で被告側控訴棄却。2022年4月6日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 古賀哲也(37) |
逮 捕 | 2019年7月14日(死体遺棄罪) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、強制性交等致死、死体遺棄、窃盗他 |
事件概要 |
福岡県粕屋町の土木作業員古賀哲也被告は2019年7月6日午後10時26~46分ごろ、同町の須恵川の川岸付近で、自転車で帰宅中の会社員の女性(当時38)の首を絞めて暴行後、殺害。女性の遺体を川に遺棄し、財布やスマートフォンなど29点(時価総額約24,000円)を持ち去った。 女性は同日夜、自宅から約3km離れたショッピングモールで夫と一緒に自転車を購入。夫と別れ、ファストフード店に立ち寄った後、県道沿いの歩道を通って自転車で帰宅中、自宅まで約0.9kmの現場で襲われた。古賀被告は勤務先の軽ワゴン車を運転中、1人で自転車で帰宅していた女性に気づいて先回りして川岸近くの暗がりで待ち伏せした。古賀被告は事件当時、現場から約2.5km離れた会社の寮で生活していた。女性との面識はなかった。 遺体は7月8日午前、川の中央付近でうつぶせで浮かんでいるのが見つかった。事件当日に現場周辺を行き来する不審な車が防犯カメラに映っていたことなどから捜査線上に浮上し、福岡県警は7月14日、死体遺棄罪で古賀被告を逮捕した。8月20日、強盗殺人他の容疑で再逮捕した。 |
裁判所 | 福岡高裁 根本渉裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2021年2月24日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
2021年1月29日の控訴審初公判で、弁護側は、一審と同様、強い殺意はなかったとして量刑が重すぎると主張。証人尋問と被告人質問を請求したが、根本裁判長はいずれも却下した。検察側は控訴棄却を求め、即日結審した。 判決で根本裁判長は、被告が2度にわたり首を絞めている点などを指摘し「冷酷で残忍な攻撃態様と、その結果必然的にもたらされた凄惨な結果に他ならない」とし、被告側の主張を退けた。そして「極端なまでに自己中心的で、まれにみる凶悪犯罪。再犯が強く懸念される。終生、罪を償わせるのが相当」と指摘した。 |
備 考 | 2020年9月17日、福岡地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2021年6月28日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 竹株脩(21) |
逮 捕 | 2019年12月15日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、現住建造物等放火、銃砲刀剣類所持等取締法違反、窃盗 |
事件概要 |
奈良県橿原市の無職、竹株脩(たけかぶ・しゅう)被告は通行人を無差別に殺害しようと考え、2019年11月24日午後10時半ごろ、桜井市内の路上を歩いていた元派遣社員の男性(当時28)の首付近をなた(刃渡り約18.7cm)で複数回切りつけた。その後、車に乗せてアパート自室にい運び込み、男性が死亡したと考え、部屋に火をつけて、窒息死させた。火災で2階の5室計約200平方メートルが焼けた。さらに男性の携帯電話を運転免許証を持ち去った。竹株被告と男性に面識はなかった。 竹株被告は事件後福岡市に移動し、男性の運転免許証を提示するなどしてインターネットカフェに滞在。12月15日、「金がなくなった」と橿原署に出頭。出頭時、リュックサックになたが入っていた。県警は傷害容疑で逮捕した。2020年1月5日、殺人、現住建造物等放火他容疑で再逮捕した。 奈良地検は1月21日、竹株被告を鑑定留置。5月15日、起訴した。 |
裁判所 | 奈良地裁 岩崎邦生裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2021年2月26日 無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2021年2月10日の初公判で、竹株脩被告は岩崎裁判長から名前や住所を問われた時ははっきりとした口調で話したが、起訴事実の認否を尋ねられると「黙秘します」とだけ答えた。 検察側は冒頭陳述で、一連の事件の犯人が竹株被告かどうかの「犯人性」と、放火などにより男性が亡くなったという殺人罪が成立するかの2点について説明。事前に凶器のなたを購入していた計画性や事前に逃走を準備して実際に逃走している、出頭した際に被害男性の免許証、凶器とされるなたを持っていた、捜査当時に自白している点について竹株被告が犯人であると断定。さらになたを用いた通り魔的犯行である点を挙げ、「強固な殺意に基づく冷酷かつ残虐な犯行」と主張した。 弁護側は、「被告は公私ともに充実した生活を送っていた」「周囲から信頼されていた」などと事件を起こす動機がないことを強調。「黙秘しているのは、本当は話すことのできない別の真実があるのではないか」と、慎重に審理を進めるべきだと訴え、有罪の証拠に疑問があれば無罪にすべきと強調した。そして仮に放火したとしても、殺意はなかったと述べた。 続いて検察側の証拠調べが行われ、竹株被告の事件前後の行動や桜井市の現場付近で、被告とみられる人物が映っている防犯カメラの映像、被告の車の走行履歴などが示された。また、男性の父親による「友達も多く恨まれるような人間じゃない。犯人が憎いという言葉では足りない。返してほしい」などの事件当時の供述調書も読み上げられた。 12日の第2回公判で男性の遺体を解剖した医師が出廷。男性のうなじは鋭利な刃物で切りつけられたと証言。かなりの力とスピードで切りつけられたとみており、出頭時に竹株被告がもっていたなたでできた傷なら「矛盾はない」とした。解剖医は、この傷害で男性は動けない状態になったと推測した。首の左にあった致命傷ではない刺し傷は「なたでは難しい」とし、刺し身包丁など細長い刃物が凶器として考えられると述べた。 同日、竹株被告が務めていた製薬会社の元上司2人も出廷。それぞれ被告について「真面目」「誠実」と評価。「上司や同僚との関係は良好だったと思う」と証言した。一方、2019年10月にあった定期面談で「困ったことや心配なことはないか」と聞かれた被告が急に涙を流す場面があったと証言した。 15日の第3回公判で、被告を精神鑑定した医師が出廷。証人尋問で「被告は何らかのストレス下にある時、共感性の乏しさやこだわりの強さといった特質が顕著になる」と証言し、「仕事や一人暮らしの寂しさがストレスになっていた」と事件の動機を推測した。一方、被告が「勤務先に多大な恩義を感じていた」とも指摘、「職場に迷惑をかけたくないとの思いから黙秘を続け、動機を明かさないのではないか」と述べた。 続いての被告人質問で、竹株被告が検察や裁判官の質問に黙秘を貫いた。 同日、被害者参加制度を利用して意見陳述した男性の兄は手を震わせ、「襲われ、火をつけられて弟は2度殺されたようなもの。被告の黙秘で私たちはさらにつらい思いを強いられている。被告が社会に出ればまた誰かが襲われるかもしれず、死刑を望みます」と涙ながらに訴えた。男性の父親も「いつか家業を継がせて一緒に働きたかった。心優しかった息子が帰ってくることはない」と述べた上で、「死刑を求めます」と訴えた。 18日の論告で検察側は、「放火の現場は被告の自宅で、出頭時に所持していたなたや被告の車内から男性のDNA型と一致する血液が確認されていて犯人であることに疑いの余地はない」と主張。「無差別な通り魔殺人であり、十分な準備をして実行された計画的犯行。殺害方法は強固な殺意に基づく冷酷かつ残虐なもの」と指摘。さらに「謝罪や反省を口にしていない。被告人の更生の可能性は乏しいと言わざるを得ない」と非難した。 同日の最終弁論で弁護側は、「何の動機もなく無差別に殺人行為に及んだと考えるのは不自然」などと反論。「なたを所持していたとはいえ誰かの指示の可能性もある。目撃証言のような犯行を直接裏付ける証拠はなく、検察の直接証拠は捜査段階での自白しかない。被告人の自白にも信用性がない」と無罪を主張した。 最終意見陳述で竹株被告は、「黙秘します」とだけ話した。 判決理由で、岩崎邦生裁判長は「無差別殺人で生命軽視の程度が甚だしい。被害者には何の落ち度もなく、悪質性が際立っている」と指弾。竹株被告が事件前に凶器のなたを購入し、事件後も被害者の血液が付いた凶器を所持していたことや、逃走の準備をしていたことなどを挙げ、「捜査段階での供述も実体験なしに語るのは困難で、信用性も高く揺るぎなく、明確な動機は認定できないものの、被告は犯人と強く推認できる」と認定した。そして「何度も首になたをたたき付けており、強固な殺意に基づく冷酷で残虐な犯行で、反省の態度も見られない。誰もが被害者になり得る無差別殺人で社会への影響も大きく、有期刑の余地はない」と述べた。岩崎裁判長は、公判中黙秘を続けた被告に「あなたの人生の中で、自身や事件のことを正面から受け止められる日がいつか来ると思う」と説諭した。 |
備 考 | 被告側は控訴した。2021年10月4日、大阪高裁で被告側控訴棄却。上告せず、確定。 |
氏 名 | 宍倉靖雄(50) |
逮 捕 | 2019年8月28日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人 |
事件概要 |
千葉県八街市の内装会社社長、宍倉靖雄被告は、四街道市の彫師、S被告、住所不定の内装工、K被告と共謀。2019年1月27日午前5時25分~6時5分ごろ、富津市の浜金谷港の岸壁から、千葉市に住む内装工の男性(当時23)を海に落とし、溺れさせて殺害した。主犯が宍倉被告、殺害の実行犯がS被告、車の運転や釣りに誘うなどがK被告である。2018年8月に男性は後継者と騙され宍倉被告の養子となり、宍倉被告を受取人とした約5,000万円の保険金が掛けられていた。一つは2018年11月、受取人が母親から変更。残り二つは養子縁組後、新たに契約していた。S被告とK被告は宍倉被告の会社の元従業員で、K被告は宍倉被告から借金があった。宍倉被告には会社名義も含めて約1千万円の借金があり、S被告、K被告も数百万円の借金を抱えていた。S被告とK被告は養子縁組届の証人となっていた。 S被告が「一緒に釣りをしていた人がいなくなった」と110番通報し、木更津海上保安署などが捜索した結果、海底から男性が引き揚げられ、現場で死亡が確認された。しかし、現場は足場が良く、足を滑らせて海に転落したとは考えにくいことなどから県警が捜査。男性に保険金が掛けられていたことなども判明。県警は8月28日、殺人容疑で3人を逮捕した。 |
裁判所 | 千葉地裁 小池健治裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2021年3月2日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2021年2月4日の初公判で、宍倉靖雄被告は「S被告との共謀の事実を認めない」と述べ、共謀して殺害したとする起訴内容を否認した。 冒頭陳述で検察側は「被告と自分の会社の従業員だった男性が養子縁組を結んでから、半年もたたないうちの事件であり、保険金の受取人は被告となっていた。犯行を計画したのは被告で、事故で海に落ちたと通報させるなど、事故で死亡したと見せかけるための偽装工作をした」と指摘した。一方、弁護側は「養子縁組は保険金目的ではなく、共謀の男に殺すと話したことはあるが、本心ではない。事件後、被告は保険金の請求をしていない。共謀は認められない」と述べ、無罪を主張した。 19日の論告求刑で検察側は、否認する靖雄被告について男性との養子縁組後、半年以内に起きた事件で「保険金を受け取ることができたのは被告のみ。(仲間と)共謀して殺害したことが強くうかがわれる。自分の手を汚さず、仲間の男に殺害を実行させた」と指摘。保険金を得る手段として殺害に及んでおり「計画的で卑劣、冷酷な犯行。宍倉被告はまさに首謀者だ。人命軽視の態度が顕著」と非難した。 同日の最終弁論で弁護側は、仲間2人と事件を巡る説明が食い違っているとして「明確な意思疎通がなかった」と強調。話の流れで「保険金」「やる」といった発言はあったが、殺害を直接的な言葉で指示した事実はなく、実行役が勝手に忖度して暴走したもので、実行役との共謀がないことから殺人の罪は成立しないと反論し、無罪を主張した。 判決で小池裁判長は、宍倉被告が事件の翌日に生命保険金の請求書類を受け取っていたことなどから、同被告が殺害計画を発案し推し進めたと認定。「被告側の説明は不可解で信用することはできない」と主張を退けた。そして「保険金を得るために被害者の生命を犠牲にした悪質極まりない犯行で、首謀者として重い責任を負うのは当然だ」と述べた。 |
備 考 |
殺人罪で起訴されたK被告(51)は2020年12月16日、千葉地裁(小池健治裁判長)の裁判員裁判で殺人ほう助の罪にとどまるとして、懲役10年判決(求刑懲役15年)。控訴せず確定。 殺人罪などで起訴されたS被告(33)は2021年1月14日、千葉地裁の裁判員裁判における初公判で罪を認めた。2月3日に判決が言い渡される予定だったが、1月19日の裁判で予定されていた証人のK被告が出廷を拒否し、審理継続に影響が出たため、予定の期日を取り消された。現在、新たな日程を協議中。 被告側は控訴した。2021年10月12日、東京高裁で被告側控訴棄却。2022年2月16日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 大沢康貴(37) |
逮 捕 | 2020年1月16日(別件の詐欺容疑で逮捕・起訴済み) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人 |
事件概要 |
長野県飯田市の無職、大沢康貴被告は2018年6月26日、同市のアパートで就寝中の無職男性(当時43)の首を電気コードで絞めて殺害し、現金約4,000円が入った財布や通帳などを奪った。大沢被告は男性と知り合いで、約665万円の借金があった。 大沢被告は12月13日、無免許で乗用車を運転し飯田市内の市道を走ったとして道交法違反容疑で逮捕された。同月末には、自動車の購入名目で金融機関から135万円をだまし取ったとして詐欺容疑で再逮捕され。2020年1月16日に詐欺罪で起訴された。長野県警は1月16日、強盗殺人容疑で大沢被告を逮捕した。 |
裁判所 | 東京高裁 若園敦雄裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2021年3月3日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
2021年1月29日の控訴審初公判で被告側は、「被害者には自殺願望があり、殺害を依頼された」として嘱託殺人罪の成立を主張した。 判決で若園裁判長は「被害者の自殺願望を否定する友人の証言は客観的な事実に裏付けられている。被告の供述は信用できず、被害者は殺害に同意していないと判断した一審の認定に誤りはない」と指摘した。 |
備 考 | 2020年7月20日、長野地裁松本支部の裁判員裁判で、求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2021年7月28日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 島津慧大(24) |
逮 捕 | 2018年6月26日 |
殺害人数 | 2名 |
罪 状 | 殺人、窃盗、殺人未遂、銃刀法違反、傷害、公務執行妨害 |
事件概要 |
富山県立山町の元陸上自衛官でアルバイト店員の島津慧大(けいた)被告は、2018年6月26日午後0時半頃、アルバイト先のファストフード店で、他の店員が指示した掃除をしなかったことで注意してきた店長を睨み続け、午後0時50分頃、店長を複数回殴り、けがを負わせた。私服に着替えて店を無断で早退した島津被告は午後2時頃、富山市の富山中央署奥田交番で裏口ドアを叩き、勤務中でドアを開けた交番所長の警部補(当時46、事件後警視に2階級特進)をナイフでいきなり襲い、数十か所刺して殺害した後、拳銃を強奪。このとき、警部補と島津被告の双方が一発ずつ被弾している。島津被告は交番内や住宅街をうろつき、午後2時25分頃、約100m離れた市立奥田小の正門付近で、奥田小の耐震工事に派遣されていた60代の男性警備員に銃弾2発を発射したが命中しなかった。さらに、近くにいた別の警備員の男性(当時68)の頭を撃ち殺害した。逮捕当時、島津被告は警備員を警察官と間違えて発砲したと供述している。 交番で一緒にいた60代の県警OBの男性相談員は、午後2時7分、まだ警部補が島津被告がもみ合っている間に交番から通報。その後、2発の銃声を聞いたため、近くの美容室に避難し、11分に再度110番通報した。13分にパトカーが交番に到着。警備員殺害後、全ての弾を撃ち尽くしていた島津被告は駆けつけた署員2人に発見され、学校敷地内に侵入。追いかけた署員の「止まれ」という警告を聞かず、刃物を両手に持って向かってきたため、署員2人が1発ずつ発砲。被弾した島津被告を、死亡した警備員への殺人未遂容疑で現行犯逮捕した。事件時に警察官に腹部を撃たれて重体となったため、釈放され入院した。島津被告は逮捕当時、全長約35mのおの、約22cmのナイフ、約50cmの山刀を所持していた。山刀はリュックの中から見つかり、他にはさみもあった。また、交番の近くでは約23cmのナイフが見つかった。 小学校には富山中央署から午後2時10分頃に富山中央署から連絡があり、校長は学年主任に1階の戸締まりを徹底するよう指示し、下校を見合わせた。15分頃、正門付近で不審者を確認。男性教職員が校舎出入口でさすまたなどを持って警戒するとともに、教室にいた児童全員を体育館に避難させ、教職員で出入り口を警戒した。容疑者が確保されたことを受け、午後4時頃から保護者への引き渡しを始めた。 島津被告は2015年4月から2017年3月まで陸上自衛隊金沢駐屯地に勤務。その後は実家に戻っていた。2018年4月から富山市内のファストフード店でアルバイトの従業員として働いていた。退官後に有事や災害時に招集される即応予備自衛官に採用されていたが、事件翌日の27日付で免職になった。 退院後の10月10日、警部補への強盗殺人容疑で再逮捕。29日、警備員への殺人容疑、別の警備員への殺人未遂容疑で再逮捕。 富山地検は11月12日から4か月間、事件当時の精神状態や刑事責任能力の有無を調べる鑑定留置を行い、責任能力があると判断して、2019年3月15日に起訴した。 |
裁判所 | 富山地裁 大村泰平裁判長 |
求 刑 | 死刑 |
判 決 | 2021年3月5日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。公判前整理手続きで弁護側も情状鑑定を請求し、富山地裁が再鑑定を行っている。 2021年1月14日の初公判で、島津慧大被告はすべて黙秘した。島津被告は逮捕時の被弾で脊椎などを損傷して下半身が不自由となり、車椅子で出廷した。 冒頭陳述で検察側は、公判の争点が「強盗殺人罪の成立」と「情状面による量刑」の2点だと説明した。中学の頃からひきこもり、家族への暴力を振るうようになった被告が、自宅に駆けつける警察官に嫌悪感が芽生えたと指摘。事件当日、アルバイト先の飲食店店長に立腹して暴行後、「被告は警察官と闘って勝利し、自分の力を誇示しようと考えた」などと述べ、拳銃を奪う目的で交番を襲撃して警部補を殺害したため、強盗殺人罪が成立すると主張。情状面では、自閉症スペクトラム障害の影響は限定的だったとした。量刑については、計画性の高さと極めて強固な殺意に注目してほしいと裁判員に訴え「生命軽視の度合いなどを基に、適正な刑罰を決めてほしい」と求めた。 弁護側は「拳銃を奪おうとする意思は殺害行為の後に生じた」として警察官への強盗殺人罪は成立せず、殺人と窃盗の罪に当たると主張。「自分よりも強い武器を持つ相手と戦うための犯行で、拳銃を奪うためではなかった」と訴えた。警備員への殺人罪などについては起訴内容を認めた。また、島津被告は対人関係を築くのが困難な自閉症スペクトラム障害を持っているのにもかかわらず、「適切な支援や療育を受けてこなかった」と指摘。「島津さんだけに全ての責任を負わせ、終わりにしてよい事件でしょうか。今後の療育や支援によって変わっていく可能性がある」と量刑上考慮するよう訴えた。 18日の第2回公判で、島津被告が警察官や警備員を殺害した経緯が交番の防犯カメラなどをもとに説明されるとともに、犯行に使用された刃物や拳銃の実物が証拠として提出された。被告人質問で、検察側が凶器となった刃物や所持していたナイフについて尋ねたが、島津被告は黙秘を貫き、1問いかけに応じなかった。 19日の第3回公判で、狙撃を受けた警備員が出廷し、当時の様子を語った。また県警で拳銃技術の優れた人を指導する特別訓練員をしていた警察官が出廷し、島津被告が銃の扱い方について基本がわかっていると述べるとともに、ほぼ正確に目標物をとらえていると証言した。 21日の第4回公判で、被告を制圧した富山県警の男性警察官が出廷し「血だらけの被告が、おのを振り上げながら速度を緩めず5m先まで駆け寄ってきたので発砲した」と証言した。また押収物の一つに銃に関する雑誌があり、そこには市街地での銃撃戦について「銃規制がある日本などでは警察官か自衛隊から拳銃を奪って手に入れるしかない」などといったことが書かれていたと述べた。また当時の小学校校長も出廷し、当時の事件の状況を語り、事件後の児童の様子についても語った。 22日の第5回公判で、殺害された警備員の長女が出廷し、「被告人に死刑を望んでいる。でも死刑になってもこの苦しみと一生付き合っていかないといけない」と証言した。 28日の第6回公判で、島津被告の両親が出廷し、謝罪した。 29日の第7回公判で被告人質問が行われたが、検察側や弁護側、裁判官からの質問を全て黙秘した。 2月1日の第8回公判で、被告の精神鑑定を行った医師が出廷。鑑定医は、被告が抱える自閉症スペクトラム障害が、犯行動機の形成や、実行への心理的ハードルを下げたことを認めた一方、被告に幻覚や妄想という状態はなく、犯行は、本人の意思に基づいて行われていると指摘するとともに、根本的に罪の意識はないと証言した。また鑑定医は、島津被告が鑑定の中で、警察官を殺害したのは「八つ当たり」だったと述べたと証言した。 2日の第9回公判で、弁護側が請求し被告の情状鑑定を行った、犯罪心理学を専門とする大学教授が出廷。島津被告に謝罪や後悔が一切なく被告自身の視点からの発言に終始していたとして、それが自閉症スペクトラム障害の特性であると話した。さらに自身が自閉スペクトラム症であることを知った島津被告は「治るのか」とたずね、障害の特性などの説明を受けると「もっと早く受診しておけばよかった」と、少し感情がこもったように話したと述べた。教授は島津被告の特徴として自らの内面を話すことが困難だとし、被告が法廷で何も話さないことについて、被告は「裁判を受ける」ことに関心が向き「被害者や遺族の心情を考えること」が切り離されていると指摘した。さらに、公開の場で十分話せるかという不安があるかもしれないし、嫌な記憶から逃れようとして口を閉ざしているのかもしれないと話した。そして判決の後に、自らの行為の重大性について考えさせることが必要で、被告が抱く社会から被害を受けているという感情を取り除くことが更生につながると述べた。また教授は、被告が「警察官に刃物を持って戦いを挑んで勝つ」という部分的な状況は見通せていたが、その先の展開まで予想できていたかは疑問が残るとした。そのうえで裁判の争点である強盗殺人罪の成立に関連した弁護側の質問に対し「自分より強い相手と戦うことに集中している」状態で警察官を倒してから拳銃を盗もうとしたこともあり得ると述べた。一方、遺族に謝罪の言葉がないのも自閉症スペクトラムの影響かという検察側の質問に対しては「一概に障害の影響とはいえない」と否定した。 検察側が被告が警察官を襲った理由についてどのように話したか問うと、教授は「警察官から拳銃を奪う」とも話したが、「とにかく警察官に勝つこと戦いを続けること」と繰り返し「戦い続けることは最後に死ぬということですよね」と第三者のように語ったと話した。そのうえで被告は自閉症スペクトラム障害の特性があることから、動機の判断については、慎重になるべきだとした。 島津被告が黙秘を続けていることから、これまでの取り調べでの音声記録や供述調書などの証拠調べを行うこととなり、論告・求刑公判が延期された。 4日の第10回公判で、被告の捜査機関による取り調べ時の供述と、入院中だった島津被告が弁護人と面会した時の音声などの証拠調べが行われた。逮捕後の警察官による取り調べでは、被告は犯行の動機について「(警察官の)拳銃を奪い取ろうとした」と供述。一方で、「一番の目的は警察官で、戦って生き残ったら(拳銃のつりひもを)切ろうと思っていた」と説明したり、何度も訂正を求めたりする一幕もあった。対人関係が築けないことによる生きづらさを吐露する場面もあった。警部補と交番裏口でもみ合いになり発砲があったことに関しては、「発砲したのは自分じゃない。警察官本人が発砲して自分の手のひらに当たった感じだった」と供述した。弁護人との面会では、警察官が倒れた直後「当然次の警察官がくると思ったので武器を確保しなければと思って拳銃を奪った」と話した。 8日の第11回公判で、遺族が意見陳述。警部補の妻は「処置室に入ると医師や看護師が1人の男性を救命していました。『生きている』と思ったのも束の間、その隣の部屋に案内されました。主人がストレッチャーの上で寝ていて心電図は全く動いていませんでした。そのあと分かったのは、隣の部屋で救命されていたのは犯人だったということでした。あの時の光景は忘れることはできません」「命をもって謝罪してもらいたい。絶対に許すことはできない」と述べ、息子は「小学校の時、同級生に父は警察官だと言うと『かっこいい、強そう』と言われ、学年のみんなに愛される自慢の父でした。謝ることに時間がかかるならすぐにでも死んでほしい」と死刑を求めた。警備員の弟も「2年以上待ち続けてようやく裁判が始まり、被告人から名前さえ語られないのが残念です」「障害があっても悪いことをしたら平等に裁かれるべきだ」「私は被告人、島津に死刑を望みます。死後の世界で、兄と警部補に謝罪してほしいです」と極刑を求めた。警備員の妻は「課すべき刑は死刑だと思うが、できるだけ長く生きてもらいたい。その間、私たち家族の同じ苦しみや悲しみ、後悔をし続けて生涯を終えてほしい。大変な判断を私たち遺族は委ねることになります。遺族の思いをくみ取って頂き、判断して頂くことを願います」と話した。 同日の論告で検察側は、永山基準の9項目に照らし合わせながら訴えた。被告が交番襲撃から拳銃強奪までにかけた時間は2分余りで「事前に計画していたからこその手際の良さ」と指摘。取り調べで被告は「記憶をたどりながら真摯に質問に答えていた」とし、「武器を奪うことが目的の一つだった」という被告の供述は「信用できる」と主張。自閉症スペクトラム障害の影響は「限定的だった」とした。そして「警察官へのテロ行為で、法治国家に対する挑戦」と指摘し、「2人もの尊い命が奪われ、重大な結果を生じさせた。他に類を見ないほど悪質、かつ凶悪な犯行だ。極めて理不尽で酌量の余地は全くない」と述べた。 同日の最終弁論で弁護側は、「自分より強い武器を持った相手と闘うのが目的で、自分が生き残ったから拳銃を奪った」とする被告の供述は信用性があると主張。強盗殺人罪ではなく殺人と窃盗の両罪に当たるとして無期懲役が妥当だと求めた。自閉症スペクトラム障害は「事件全体に影響した」とした。 8日に結審する予定だったが、審理時間が大幅に伸びたたため、一部が9日に変更された。 9日の第12回公判で、弁護側の最終弁論の続きが行われ、他人に共感したり自分の気持ちを理解したりすることが苦手な自閉症スペクトラム障害の影響で、被告は人間関係をうまく築けなかったと説明した。子どもの頃にいじめや体罰を受け、問題解決手段として暴力に頼るようになったとし「障害は生まれつきのもの。どうしようもない事情もあった」と述べた。この障害の影響で被告の殺人への抵抗感が低くなっていたとし「(事件当時)責任能力が低下していた」と主張。情状酌量を求め「極刑がやむを得ないとは言えない」と強調した。更生の可能性についても言及した。自閉症スペクトラム障害の適切な療育と支援が必要とした上で「被害者や遺族の痛みを知るために、長い時間を与えてやってください」と訴えた。争点となっている強盗殺人罪についても改めて成立を否定し、殺人と窃盗罪が妥当とした。そして無期懲役を主張した。 最終意見陳述で、島津被告は刑務官に車いすを押され、証言台の前へ移動した。大村裁判長が「何か言っておきたいことはありますか」と尋ねたが、前をじっと見詰めたまま全く動かなかった。1分近く沈黙が続いた後、裁判長が「答えがないということで終わります」と述べ、結審した。 判決で大村裁判長は冒頭で 「主文、被告人を無期懲役に処する」と言い渡した。 動機について、アルバイト先での傷害事件のあと、これまでも人間関係での失敗を繰り返してたにもかかわらず、同じような失敗をして何の展望もない人生を続けることを諦めて、自暴自棄になり、自衛隊で身に着けた能力が通用するか確かめたいと考え、警察官を標的にしたとした。そして警官殺害について被告逮捕後の取り調べは「内心を表現したものかは疑問を持たざるを得ない」とし、「交番を襲撃する前に具体的に計画していたことを示す客観的な証拠は見当たらない」としたうえで「警視を殺害した後に拳銃を取る意思が生まれた可能性を取り除けず、拳銃を奪う目的で殺害に及んだと認定するには合理的な疑いが残る」として、強盗殺人罪の適用を認めず、殺人と窃盗の罪に当たるとした。 大村裁判長は極めて強固な殺意に基づく犯行として完全責任能力を認定し、「何ら落ち度のない2人の尊い命が奪われたことは重大で、動機は八つ当たり以外の何物でもなく身勝手で酌量すべき点は全くない」とした。一方で「被告が犯行に至る経緯や動機形成の過程には、本人の努力では如何ともしがたい難しい自閉症スペクトラム障害の影響が様々な面で表れている」「被告には力や強いものへのこだわりがあり、思考の柔軟性が低く、問題解決の選択の幅が狭いという点も動機に影響を与えている」「気づかれにくいがために適切な療育が受けられず深刻になものになってしまった」として、「酌むべき事情である」と認めた。また計画性についても「犯行に用いた武器は事前に準備したものではない」としたうえで、逮捕までの被告の行動も行き当たりばったりの面があり、交番襲撃から20分も経たないうちに現行犯逮捕されていることなどから「計画性は高いと言えない」とした。そのうえで、2人を殺害した事件のうち死刑及び無期懲役が宣告されたものを中心に比べて検討した結果、極めて重大なものであるとまで評価することができず「死刑を選択することがやむを得ないとまでは言えない」と判断した。 大村裁判長は島津被告に対し「この先、長い人生のすべてをかけて、被害者及び、遺族らの痛みを理解したうえ、自らがいかに重大な過ちを犯したのかを考え続けること、生涯にわたる贖罪を行うことが当然の務めである」と話した。 |
備 考 |
警察庁は、警察官が装着している拳銃入れ(ホルスター)を改良する計画を前倒しする方向で検討を始めた。過去の同種事件を受けて2020年度をめどに採用する計画で試作品も作られていたが、可能な限り早く配備する方向で検討する。交番などで勤務する制服警察官は腰などの位置につけたホルスターに拳銃を収めている。このホルスターの形状や材質などを改良し、緊急時にはすぐに拳銃を取り出せるが、本人以外の角度からは容易に取られないようにする。 2019年、警察庁のモデル事業として、富山中央署管内の3交番に、映像を同署などにリアルタイム送信できる防犯カメラが設置される。そのうちの1つは、新しく建てられる奥田交番に設置される。 現場となった富山中央署奥田交番は2020年3月28日、安全性を強化したモデル交番として建て替えられた。 検察・被告側は控訴した。2022年3月24日、名古屋高裁金沢支部で一審破棄、差戻し。2024年3月11日、被告側上告棄却、差戻し確定。 |
氏 名 | 林淳一(42) |
逮 捕 | 2020年2月4日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、住居侵入 |
事件概要 |
愛知県岡崎市の土木建築会社経営、S被告と同社従業員、林淳一被告とは共謀。2019年11月14日、岡崎市のマンション3階に住む貸金業の男性(当時49)方に林被告がベランダの窓から侵入。刃物のようなもので男性の首などを刺して殺害し、乗用車1台や財布など計6点(時価計約90万円)を奪った。S被告が見張り役で、林被告が実行犯である。両被告は奪った車で約6km離れた岡崎市内の公園に乗り捨てた。 S被告と林被告は20年来の知り合いであった。S被告は経営する土木建築会社の資金繰りに苦しんでおり、林被告も生活に困っていた。 19日午前10時ごろ、うつぶせで布団をかぶり血まみれで死んでいる被害者を、部屋を訪ねた母親が見つけて発覚。 玄関やベランダに設置されていた防犯カメラの記録媒体はなくなっていたが、岡崎署捜査本部は現場周辺の防犯カメラの解析などから犯人を特定。2020年2月4日、強盗殺人容疑でS被告と林被告を逮捕した。名古屋地検岡崎支部は24日、起訴した。S被告には殺意がなかったと判断した。 3月24日、岡崎署捜査本部は窃盗ほう助と住居侵入ほう助の疑いで、同市の建築業の男性(当時33)と同県安城市の土木建築会社役員の男性(当時37)を書類送検した。S被告は自身の会社の運転資金や生活費に困っており、約3年前に知り合った役員の男性に金の借入先を相談。紹介された建築業の男性が2019年10月中旬、S被告に「被害者宅には現金があり、過去に複数回空き巣に入られているので、盗みに入ったらどうか」と持ち掛けた。建築業の男性は被害者に多額の借金があった。役員の男性やS被告は被害者と面識はなかった。2人は共謀して2019年10月27日、S被告から依頼を受け、岡崎市内の店舗駐車場から被害者宅まで案内するなどし、S被告と林被告の襲撃を手助けした。名古屋地検は4月13日付けで2人を不起訴処分とした。 |
裁判所 | 名古屋地裁岡崎支部 石井寛裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2021年3月9日 無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2021年2月15日の初公判で、S被告は「空き巣の計画はしたが強盗の計画はしていない。被害者との遭遇は想定外だった」、林淳一被告は「殺意はなかった」と、それぞれ起訴内容を一部否認した。 冒頭陳述で検察側は「ナイフを持って行くことを事前に話し、事前にマンションの下見をし、金品を盗む目的で侵入した」と計画性を指摘。「仮に被害者に見つかった場合でも暴行を加え、強盗しようと考えた」と述べた。S被告の弁護士は「強盗の実行行為はしておらず侵入もしていない」、林被告の弁護士は「経済的に困窮しておらず、動機はない。林被告は被害者と遭遇してパニックになって犯行に及んだ」と主張した。 16日の公判における被告人質問で、屋外で見張りをしていたとされるS被告は「マンション周辺の様子や被害者がいつ在宅しているかなどを事前に数回調べた」とし「被害者と遭遇した場合は(どう行動するか)想定していなかった」と説明。実行犯の林被告から携帯電話で「首を刺した」と知らされ「何で刺したのか」と問い詰めたが、林被告に「分からない」と言われて「それ以上は怖くて聞けなかった」と犯行当時の心境を述べた。 22日の公判における被告人質問で、殺害の実行犯とされる林被告は、弁護側から確定的な殺意の有無を問われ「なかった」と改めて主張。金品を奪う計画については、犯行時の見張り役とされるS被告に持ちかけられ「幼少期から兄に虐待を受けており、人から頼み事をされると断れない(性格になった)から」と、犯行に及んだ理由を述べた。 26日の論告で検察側は「2人は空き巣狙いを前提にしながらも、被害者が帰宅して発見された場合、刃物などを使って強盗に及ぶことについて事前の合意があった。複数回突き刺したのは強い殺意に基づく犯行。犯行は計画性が高く、きわめて悪質」と指摘した。 同日の最終弁論で弁護側は、「凶器の刃物は見つかっていない。事前に凶器は用意していない。短時間で現金を盗み、逃げる計画で、鉢合わせは考えておらず、強盗をする合意はなかった」とし、それぞれ役割に応じてS被告は懲役3年、林被告には懲役13年が相当と主張した。 判決で石井裁判長は、林被告に求刑通り無期懲役、S被告に懲役29年を言い渡した。 石井裁判長は、2人は事前に話し合い、護身用の刃物を持って空き巣目的で被害者方に侵入して金品を無理やり奪うことで合意していたと認定。また、事件の発案者であるS被告と、それに引き込まれた林被告の役割については「ほぼ同等」とした。そして林被告には「9回以上刺すなど殺意は強い。危険な犯行で、人命を軽視する態度は明らかだ」と述べた。S被告には「自身の資金繰りのために林被告を巻き込み危険な役を任せた」としたものの殺意がなかったとして、酌量減軽した。 |
備 考 | 控訴せず確定。 |
氏 名 | 黄奕達(44) |
逮 捕 | 2019年12月11日 |
殺害人数 | 0名 |
罪 状 | 覚醒剤取締法違反(営利目的輸入未遂)、関税法違反 |
事件概要 |
台湾人の会社社長黄奕達(ホアン・イダ)被告は台湾人や日本人ら計7被告や氏名不詳者らと共謀。2019年12月7日頃、東シナ海の公海上で、船籍不詳の船が積んだ覚醒剤約586.523kg(末端価格約352億円)と覚醒剤であるフエニルメチルアミノプロパンを含有する液体約764mLを共犯者が乗る船に積み替え、同11日に天草市から陸揚げしようとしたが、海上保安官らに発見された。 日本と台湾双方の窓口機関は2018年12月、密輸・密航対策で海上保安当局間の協力に関する覚書を締結しており、今回の摘発は初の大型案件。台湾の海巡署(海上保安庁に相当)は2019年6月、密輸計画の情報を日本側に提供し、海上保安庁、福岡県警などが合同捜査本部を設置して捜査していた。 福岡県警などは11日、船内で覚醒剤を所持していたとして覚せい剤取締法違反容疑で3人を現行犯逮捕。ほか5人も密輸に関わったとして同法違反容疑で逮捕した。この8人は外国人と日本人で、大半は台湾人。このほかの数人についても12日に同法違反容疑で逮捕。 |
裁判所 | 福岡地裁 岡崎忠之裁判長 |
求 刑 | 無期懲役+罰金1,000万円 |
判 決 |
2021年3月17日 無期懲役+罰金1,000万円 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2021年3月8日の初公判で、黄奕達被告は「覚醒剤とは知らなかった」と述べ、無罪を主張した。 検察側は冒頭陳述で、今回の密輸では、海上で船から荷物を受け取る「瀬取り」という手法が採られたと主張。黄被告は台湾人グループの統括役の一人で、日本人グループは暴力団関係者が指揮していたとした。一方、弁護側は「金の密輸だと思っていた」として覚醒剤との認識はなかったと反論した。 11日の論告求刑で検察側は「反社会勢力に莫大な資金が流れたり、国内に拡散される恐れがあった」と指摘した。 判決で岡崎裁判長は「沈むリスクなどが高い船舶で金を運ぶとは考えにくい」などと指摘して被告側の主張を否定。黄被告の立場について、日本人グループの上位者と頻繁にやりとりするなどしていたとし「被告は覚醒剤であることを知っていて、密輸全体を統括する首謀者的立場で関与した。共犯者の中でも最も重い責任を取るべきだ」と指摘。その上で「陸揚げ後の運搬方法まで準備し計画性も高い、未遂事案の中でもかなり危険性は高く既遂に近い犯行」などと述べた。 |
備 考 |
台湾人、日本人など男女24人が逮捕され、そのうち黄被告を含む16人が起訴されており、判決は初めて。 被告側は控訴した。2021年10月19日、福岡高裁で被告側控訴棄却。上告せず確定。 |
氏 名 | 渋谷恭正(49) |
逮 捕 | 2015年4月23日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、強制わいせつ致死、わいせつ目的略取・誘拐、死体遺棄 |
事件概要 |
千葉県松戸市の不動産賃貸業で小学校の保護会長だった渋谷恭正(やすまさ)被告は、小学校の修了式だった2017年3月24日朝、自宅から登校中だった小学3年でベトナム国籍の少女(当時9)を軽乗用車で連れ去り、車内でわいせつな行為をしたうえ、何らかの手段で首を圧迫して窒息させて殺害。遺体を我孫子市の排水路の橋の下の草むらに遺棄した。 26日朝、遺体が発見され、翌日には茨城県坂東市の利根川河川敷でランドセル発見された。 千葉県警捜査本部の聞き込み捜査などから、渋谷被告が容疑者として浮上。その後の捜査で、我孫子市の死体遺棄現場の遺留物から採取したDNA型と、渋谷被告のDNA型が酷似していることがわかった。4月14日、死体遺棄容疑で渋谷被告を逮捕。5月5日、殺人他の容疑で再逮捕。 |
裁判所 | 東京高裁 平木正洋裁判長 |
求 刑 | 死刑 |
判 決 | 2021年3月23日 無期懲役(検察・被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
2019年9月26日の控訴審初公判で、検察側は「信頼を逆手に取った極めて悪質な犯行」と被告を指弾し、極刑適用を求めた。弁護側は、一審の有罪判断の根拠となったDNA型鑑定の信用性に疑問を呈し、「被告は犯人ではない」と反論。弁護側はDNA型鑑定の対象となった被告のたばこの吸い殻の採取方法について言及。捜索令状を得ずに被告のマンション私有地に無断で侵入してゴミ集積場から持って行った捜査には重大な違法があり、鑑定結果は証拠から排除されるべきだと主張した。 2020年1月31日の第2回公判で、DNA型鑑定の分析を行った京都大の玉木敬二教授が、一審と同様に検察側証人として出廷。渋谷被告のキャンピングカーから押収された手錠の付着物の分析結果について、「被害者のDNA型が含まれているのは明らかだ」などと証言した。 2月12日の第3回公判で、DNA型鑑定の試料となったたばこの吸い殻を収集した県警捜査員ら3人が出廷した。捜査員らは証人尋問で、「路上のごみ集積場と同等の、誰でも出入りが可能な場所から回収した」と説明。その上で、「捜査の必要性があり、違法性はなかった」と述べた。 10月5日の公判で、被害者の少女の両親が高裁で初めて意見陳述をした。母親は「眠りにつく度に、助けを求めて叫ぶ娘の声で目が覚める。この痛みを言い表せる言葉はない」と声を詰まらせながらベトナム語で話した。父親は「娘を殺害した犯人に死刑判決を言い渡してほしい」と語った。 11月17日の公判で、弁護側が無罪を主張して結審した。 判決で平木裁判長は、捜査員がマンション管理者の承諾や令状を得ずに私有地に立ち入って吸い殻を収集したとし、「違法な捜索差し押さえで、厳しい非難に値する」と指摘した。ただし、捜査員が捜査を適法と確信していたことや、捜査では被告の鑑定試料を得る必要性が高かった点も踏まえれば、地裁が関連する証拠を排除しなかったことは違法ではないとし、被告を犯人とした一審の認定は正当だとして弁護側の主張を退けた。一方、「殺害態様は冷酷非情だが、被告は場当たり的な行動が多く、わいせつ行為後の殺害を必然の流れだと認識していたとはいえない」として計画性を否定した。そして「極刑がやむを得ないとまではいえない」として検察側の主張も退けた。渋谷被告は出廷しなかった。 |
備 考 |
少女の両親は渋谷恭正被告に対して、慰謝料など計約7千万円の損害賠償を求める訴訟を2020年1月23日付で東京地裁に起こした。2021年9月24日、東京地裁(桃崎剛裁判長)は渋谷被告の犯行を認定した上で「卑劣極まりない犯行で、わずか9歳という若さで生命を絶たれた無念さは察するに余りある」とし、請求通り計約7千万円の支払いを命じた。 2018年7月6日、千葉地裁の裁判員裁判で、求刑死刑に対し一審無期懲役判決。被告側は即日上告した。検察側は上告せず。2021年3月23日、東京高裁で検察・被告側控訴棄却。2022年5月11日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 大城賢誉(38) |
逮 捕 | 2019年5月27日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、窃盗 |
事件概要 |
沖縄県宜野湾市の大城賢誉被告は2019年3月2日午前0時45分ごろから同2時45分ごろにかけて、宜野湾市に住む接客業の女性(当時32)をドライブに誘って沖縄県読谷村の残波岬に連れ出し、岸壁から突き落として殺害し、キャッシュカードと現金約2,000円入りの財布を盗んだ。そして2日~4日、川崎市の会社員である知人女性と共謀して宜野湾市と北谷町のATMで、キャッシュカードから6回にわたり現金約267万円を引き出した。 大城被告は職業を転々とし、2019年1月に埼玉県川口市に引っ越して解体工として勤めており、事件当時は実家に戻っていた。事件後、再び川口市に行った。知人女性は嘉手納町にかつて住んでいた。大城被告と被害女性は以前同じ業種に勤めていた知り合いだった。大城被告は消費者金融に借金があった。 同日午後0時半ごろ。沖合でうつぶせの状態で浮いているところを発見。119番通報で駆け付けた消防隊員がその場で死亡を確認した。 自殺を図る動機がないなど、死亡に不審な点があったことや銀行から金が引き出されていたことから、沖縄県警と第11管区海上保安本部が捜査。県警は付近の聞き込みや防犯カメラなどで、大城被告と被害女性が事件前に2人でいるところを確認。また大城被告が財布を質店に入れており、その財布から被害女性のDNAが検出された。5月23日、窃盗容疑で大城被告と知人女性を逮捕。6月17日、窃盗容疑で大城被告を再逮捕。7月2日、強盗殺人容疑で大城被告を再逮捕した。 |
裁判所 | 那覇地裁 大橋弘治裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2021年3月26日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2021年3月1日の初公判で、大城賢誉被告は「死なせたことは申し訳ない」などと述べた一方、「被害女性本人から依頼を受けて殺したもので、金欲しさに殺したのではない」として起訴内容を一部否認した。 冒頭陳述で検察側は、被告が金銭ほしさに拝所巡りなどと称して被害女性を読谷村の断崖に誘い出し、背中を突き落とすなどして海中に転落させ殺害したと指摘。キャッシュカードが入った財布を奪い、共謀の女性にATMで現金約267万円を不正に引き出させたとした。そして「大城被告は犯行後被害女性のスマートフォンで被害女性自らが殺人を依頼し、現金を引き出すよう話したかのようなメッセージを残すなど偽装工作を行った」と指摘し、現金を奪うための計画的な犯行と主張した。 弁護側は、「大城被告は被害女性にとって悩みを打ち明けられる存在で、以前から死ぬのを手伝ってほしいなどと自殺をほのめかす相談を受けていた」とし、「死にたい。お金を渡すからお願い」と頼まれ、自殺を手伝ったと反論。キャッシュカードと暗証番号が書かれたメモを手渡されたと主張した。被害女性の依頼で現金を引き出したため、窃盗罪も成立しないとした。 3月22日の論告で検察側は、犯行前に殺害現場を下見したうえに、殺害後には被害者のスマートフォンを使い現金の引き出しを依頼したかのようなメッセージを残すなど計画的に犯行に及んでいて、強盗殺人罪が成立するとした。そして犯行動機が金目的で、犯行対応も危険で残虐、極めて悪質で情状酌量の余地は皆無と指摘した。 同日の最終弁論で弁護側は、「金銭目的で殺した確かな証拠はなく強盗殺人罪は成立しない」と反論。着衣に争った形跡もなく、被害者は大城被告に以前から自殺を相談していたことから、自殺の手伝いを求められ、お礼としてキャッシュカードを渡されたとして嘱託殺人罪が成立するとして懲役4年を主張した。窃盗罪についても、成立しないと主張した。 大橋弘治裁判長は「大城被告は殺害直後に奪ったキャッシュカードの残高を照会するなど被害女性の預金に並々ならぬ興味を持っていたことがわかる」と指摘した。また、「事件直前に新しい服などを購入したり、エステサロンを予約したりしていたことから、殺害前の被害女性の行動をみても積極的に生きていくことが見て取れ大城被告に自殺を依頼したことは考えられず、金品の強奪を目的に殺害したことは明らかである」とした。そして被告がフィリピンパブなどで遊ぶ金欲しさに、27mの断崖から女性を転落させて溺死させたと指摘。「被害者の恐怖や苦しみは筆舌に尽くし難く、残虐な犯行」と非難した。「卑しい欲望のために被害者の未来を身勝手に奪った。犯行後の豪遊状況からは良心の呵責がみじんも感じられず、公判での弁解も後悔や反省が皆無だ」と述べた。 |
備 考 |
大城被告と共謀し、キャッシュカードを使って現金を盗んだとして窃盗の罪に問われた女性は2020年1月28日、那覇地裁(君島直之裁判官)で懲役2年執行猶予4年判決(求刑懲役2年)。控訴せず確定。 被告側は控訴した。2022年3月3日、福岡高裁那覇支部で被告側控訴棄却。2022年6月22日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 武井北斗(27) |
逮 捕 | 2018年2月10日 |
殺害人数 | 2名 |
罪 状 | 強盗殺人、強盗致死、強盗致傷、建造物侵入、窃盗、窃盗未遂、詐欺 |
事件概要 |
神奈川県厚木市の無職武井北斗被告は以下の事件を起こした。
W被告は武井被告の逮捕を知り、2月17日に県警へ出頭。犯行を自供した。3月15日、8の事件で武井被告を再逮捕、W被告とH被告を逮捕。 1の事件で残された武井北斗被告の足跡と、4の事件で遺体の遺棄現場に残された足跡が似ていることが判明。さらにW被告が、山梨、長野両県警の任意の事情聴取に対し、武井被告とともに男性の遺体を遺棄したことを認めた。山梨、長野県警の合同捜査班は2018年5月31日、Y被告とN被告を逮捕した。6月1日、武井被告を逮捕した。6日、W被告を逮捕した。さらに数日前に貴金属買取店などを下見していたとして強盗予備容疑で28日までにK被告を再逮捕した。 7月5日、2と3の事件で武井被告、Y被告、N被告、K被告を再逮捕。8月20日、5の事件で武井被告、K被告、N被告を再逮捕するとともに、S被告を逮捕。 |
裁判所 | 最高裁第一小法廷 木沢克之裁判長 |
求 刑 | 死刑 |
判 決 | 2021年5月19日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | |
備 考 |
強盗殺人などに問われたW被告は2018年11月30日、甲府地裁(丸山哲巳裁判長)の裁判員裁判で懲役30年(求刑同)判決。量刑については、共犯者の指示を受けて犯行に及び、警察に出頭して捜査に協力したとして酌量の余地があるとした。2019年5月9日、東京高裁(平木正洋裁判長)で被告側控訴棄却。上告せず確定。 強盗致死などに問われたN被告は2018年12月14日、甲府地裁(丸山哲巳裁判長)の裁判員裁判で懲役20年(求刑懲役25年)判決。2019年6月14日、東京高裁(中里智美裁判長)で被告側控訴棄却。上告せず確定。 強盗殺人などに問われたY被告は2019年1月28日、甲府地裁(丸山哲巳裁判長)の裁判員裁判で無期懲役(求刑同)判決。2019年6月20日、東京高裁(平木正洋裁判長)で被告側控訴棄却。2019年9月24日、被告側上告棄却、確定。 強盗致傷や別の窃盗事件に問われたS被告は2019年2月1日、甲府地裁(丸山哲巳裁判長)の裁判員裁判で懲役4年6月(求刑懲役6年)判決。控訴せず確定。 強盗致死などに問われたK被告は2019年2月28日、甲府地裁(丸山哲巳裁判長)の裁判員裁判で懲役28年(求刑懲役30年)判決。控訴せず、確定。 H被告は不明。 2019年11月8日、甲府地裁の裁判員裁判で求刑死刑に対し、一審無期懲役判決。2020年12月1日、東京高裁で検察・被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 古賀哲也(37) |
逮 捕 | 2019年7月14日(死体遺棄罪) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、強制性交等致死、死体遺棄、窃盗他 |
事件概要 |
福岡県粕屋町の土木作業員古賀哲也被告は2019年7月6日午後10時26~46分ごろ、同町の須恵川の川岸付近で、自転車で帰宅中の会社員の女性(当時38)の首を絞めて暴行後、殺害。女性の遺体を川に遺棄し、財布やスマートフォンなど29点(時価総額約24,000円)を持ち去った。 女性は同日夜、自宅から約3km離れたショッピングモールで夫と一緒に自転車を購入。夫と別れ、ファストフード店に立ち寄った後、県道沿いの歩道を通って自転車で帰宅中、自宅まで約0.9kmの現場で襲われた。古賀被告は勤務先の軽ワゴン車を運転中、1人で自転車で帰宅していた女性に気づいて先回りして川岸近くの暗がりで待ち伏せした。古賀被告は事件当時、現場から約2.5km離れた会社の寮で生活していた。女性との面識はなかった。 遺体は7月8日午前、川の中央付近でうつぶせで浮かんでいるのが見つかった。事件当日に現場周辺を行き来する不審な車が防犯カメラに映っていたことなどから捜査線上に浮上し、福岡県警は7月14日、死体遺棄罪で古賀被告を逮捕した。8月20日、強盗殺人他の容疑で再逮捕した。 |
裁判所 | 最高裁第二小法廷 草野耕一裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2021年6月28日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | |
備 考 | 2020年9月17日、福岡地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2021年2月24日、福岡高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 海老澤浩(61) |
逮 捕 | 2019年1月11日 |
殺害人数 | 0名 |
罪 状 | 覚醒剤取締法違反(営利目的輸入)他 |
事件概要 |
栃木県宇都宮市の指定暴力団住吉会系組長、海老澤浩被告は仲間と共謀し2017年8月21日、茨城県ひたちなか市の東方沖で、船で受け渡しする「瀬取り」という手法で覚醒剤約474.72kg(末端価格約307億円)を香港から密輸し、22日、同市の那珂湊漁港に陸揚げして輸入した。 情報を入手した県警などが陸揚げ後の動きを追い、北茨城市内で袋に入れられた大量の覚醒剤を積んだトラックを発見した。 捜査本部は22日、北茨城市内の商業施設駐車場で、他の買い物客の車両に混じってトラックを止め、覚醒剤を確認していた宇都宮市の暴力団組員男性と上三川町の無職男性を、覚醒剤約1kgを所持していたとして同法違反(営利目的所持)の疑いで逮捕。22日から24日にかけ、中国国籍の男性2人とオランダ国籍の男性を、覚醒剤を輸入するため国内に滞在したとして同法違反(輸入予備)の疑いで逮捕した。捜査本部は、共謀したとみられる数人を同法違反容疑で全国に指名手配した。 県警薬物銃器対策課は11月30日、漁船や倉庫など県内外の関係先を一斉捜索。指定暴力団極東会系会長ら9人を覚醒剤取締法違反(営利目的密輸)容疑などで新たに逮捕したと発表した。また一部の容疑者をかくまったなどとして、別の6人を犯人蔵匿や犯人隠避の容疑で逮捕したことも明らかにした。 合同捜査本部は12月14日、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)容疑で逮捕状を取っていた海老澤浩被告を、国際刑事警察機構(ICPO)を通じ国際手配した。12月18日、外務省は海老澤被告に旅券返納命令を出した。 水戸地検は12月19日付で、覚醒剤取締法違反(営利目的輸入)容疑で逮捕されたうち、指定暴力団極東会系会長ら4人を不起訴(嫌疑不十分)にした。1人は同日付で同法違反で水戸地裁に起訴した。 2018年1月10日、合同捜査本部は犯人隠匿の容疑でひたちなか市に住む女性を逮捕した。 11月8日、海老澤浩被告は逃亡先の香港の入国管理局に不法滞在で身柄を拘束された。退去強制処分に伴い、2019年1月11日、日本に移送された。同日夕方、県警の捜査員が機内で逮捕状を執行した。 |
裁判所 | 東京高裁 近藤宏子裁判長 |
求 刑 | 無期懲役、罰金1千万円 |
判 決 | 2021年7月5日 無期懲役、罰金1千万円(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
2021年5月26日の控訴審初公判で、弁護側は「運び屋にすぎず、刑が重すぎる」と主張した。 判決で近藤宏子裁判長は「共犯者に指示を出すなど主導的な役割を果たし、保管場所を手配するなど、運び屋にすぎないと言えないのは明らかだ。日本側の最高責任者だと認定した一審の判断に不合理な点はない」と指摘した。 |
備 考 |
押収した覚醒剤の量は当時、国内4番目の量だった。当時の最大は、1999年10月に鹿児島県南さつま市(旧笠沙町)の黒瀬海岸で密輸入された約565kg。2番目は1996年の神奈川で密輸入された528kg。その後、2019年6月に静岡県南伊豆町で過去最大となるに約1tが、2019年12月に熊本県天草市で約590kgが押収されている。 オランダ国籍の男性は2019年4月4日、水戸地裁(寺沢真由美裁判長)で懲役24年・罰金1,000万円判決(求刑懲役30年・罰金1,000万円)。同年中に被告側控訴を取下げ、確定。 栃木県上三川町の無職男性は2019年5月7日、水戸地裁(寺沢真由美裁判長)で懲役12年・罰金300万円判決(求刑懲役15年・罰金300万円)。共同正犯でなく、ほう助罪の成立にとどまるとした。2019年12月3日、東京高裁で控訴棄却。被告側上告中(既に確定か?)。 ひたちなか市の漁業男性は2019年7月3日、水戸地裁(結城剛行裁判長)で懲役23年・罰金500万円判決(求刑懲役25年・罰金500万円)。同年中に被告側控訴を取下げ、確定。 ひたちなか市の土木業男性は2019年8月9日、水戸地裁(寺沢真由美裁判長)で懲役21年・罰金500万円判決(求刑懲役25年・罰金600万円)。2020年1月21日、東京高裁で判決。被告側控訴が棄却されたものと思われる。被告側上告中(すでに確定か?)。 ひたちなか市の運送業男性は2019年9月19日、水戸地裁(結城剛行裁判長)で懲役20年・罰金600万円判決(求刑懲役28年・罰金800万円)。2020年8月21日、東京高裁で被告側控訴棄却。被告側上告中。 ひたちなか市の男性は2019年11月6日、水戸地裁(結城剛行裁判長)で懲役19年・罰金400万円判決(求刑懲役25年・罰金600万円)。2020年3月30日、東京高裁で被告側控訴棄却。被告側上告中(すでに確定か?)。 中国籍の無職男性は2019年11月28日、水戸地裁(寺沢真由美裁判長)で懲役7年・罰金150万円判決(求刑懲役15年・罰金300万円)。共同正犯でなく、ほう助罪の成立にとどまるとした。控訴せず確定。 中国籍の内装工男性は2020年2月25日、水戸地裁(寺沢真由美裁判長)で無罪判決(求刑懲役15年・罰金300万円)。「未必的にも輸入の故意があったとは認められない」とした。控訴せず確定。 宇都宮市の暴力団組員男性は2021年11月11日、水戸地裁(小川賢司裁判長)で懲役7年、罰金150万円判決(求刑懲役8年、罰金150万円)判決。2022年10月25日、東京高裁で判決。 2020年10月22日、水戸地裁の裁判員裁判で、無期懲役、罰金1千万円(求刑同)判決。被告側は上告した。2021年中に被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 大沢康貴(38) |
逮 捕 | 2020年1月16日(別件の詐欺容疑で逮捕・起訴済み) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人 |
事件概要 |
長野県飯田市の無職、大沢康貴被告は2018年6月26日、同市のアパートで就寝中の無職男性(当時43)の首を電気コードで絞めて殺害し、現金約4,000円が入った財布や通帳などを奪った。大沢被告は男性と知り合いで、約665万円の借金があった。 大沢被告は12月13日、無免許で乗用車を運転し飯田市内の市道を走ったとして道交法違反容疑で逮捕された。同月末には、自動車の購入名目で金融機関から135万円をだまし取ったとして詐欺容疑で再逮捕され。2020年1月16日に詐欺罪で起訴された。長野県警は1月16日、強盗殺人容疑で大沢被告を逮捕した。 |
裁判所 | 最高裁第一小法廷 池上政幸裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2021年7月28日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | |
備 考 | 2020年7月20日、長野地裁松本支部の裁判員裁判で、求刑通り一審無期懲役判決。2021年3月3日、東京高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 田上不美夫(65) |
逮 捕 | 2014年9月13日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、銃刀法違反、組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂) |
事件概要 |
特定危険指定暴力団工藤会トップで総裁の野村悟被告と、ナンバー2で会長の田上不美夫(たのうえ・ふみお)被告は他の被告と共謀して以下の事件を起こした。
(1)では2002年6月26日、工藤会系組長中村数年受刑者、同組幹部NT元被告が殺人容疑で逮捕された。28日、同系組長F受刑者、同系組長で田中組のナンバー2であった田上不美夫被告が殺人容疑で逮捕された(F受刑者と田上被告は恐喝罪などで服役中)。7月、福岡地検小倉支部は3人を起訴するも、田上被告は「共謀関係を立証する証拠が足りない」として処分保留で釈放し、後に不起訴となった。 2006年5月12日、福岡地裁小倉支部は、実行役の中村数年受刑者に無期懲役(求刑同)、見届け役のF受刑者に懲役20年(求刑無期懲役)を言い渡した。しかし実行役とされたN元被告には無罪(求刑無期懲役)を言い渡した。判決では氏名不詳者と共謀とされた。 N被告については双方控訴せず確定。2007年10月5日、福岡高裁は中村受刑者の判決に対する被告側控訴、F受刑者の判決に対する検察・被告側控訴を棄却した。2008年8月20日、2人の被告側上告棄却、確定。 2014年9月11日、福岡県警は(1)における殺人容疑で野村悟被告を逮捕、田上不美夫被告を公開手配した。樋口真人県警本部長が記者会見し、県警職員の3割超に当たる約3,800人を特別捜査本部に投入すると発表し、工藤会の壊滅に向けた「頂上作戦」に乗り出した。福岡地検は9月以降、公判部に工藤会専従班を編成。公判担当の経験が豊富な中堅の検事を集めた。13日、同じく殺人容疑で田上被告を逮捕。10月2日に起訴。 10月1日、(3)における組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)容疑で野村、田上両被告を再逮捕、他にナンバー3で工藤会理事長、田中組組長の菊地敬吾被告など組幹部ら13人を同容疑で逮捕。逃亡中の1名を指名手配し、2日に逮捕した。10月22日、地検は14人を起訴し、2人を不起訴とした。 2015年2月15日、(4)における組織犯罪処罰法違反(組織的殺人未遂)容疑でら3人を逮捕。16日、同組幹部の中西正雄被告ら6人を再逮捕。3月9日、同組幹部の中西正雄被告、同組幹部のMK被告、同組幹部のNY被告、同組組員のWK被告の4人を起訴。5人は処分保留。 5月22日、(4)における組織犯罪処罰法違反(組織的殺人未遂)容疑で野村被告、田上被告、菊地敬吾被告、理事長補佐の瓜田太被告の4人を逮捕。6月12日、野村被告、田上被告、菊地被告を起訴。瓜田被告は処分保留で釈放し、後に不起訴とした。 2015年7月6日、(2)に絡んで野村被告、田上被告、菊地被告らを組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)容疑などで逮捕。計18名が逮捕された。7月27日、福岡地検は地検は11人を起訴した。7人は処分保留で釈放し、後に不起訴とした。 |
裁判所 | 福岡地裁 足立勉裁判長 |
求 刑 | 無期懲役((1)の事件)+無期懲役・罰金2,000万円((2)~(4)の事件) |
判 決 |
2021年8月24日 無期懲役+無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
福岡地裁は2019年6月、裁判員への危害の恐れを理由に、裁判員裁判の対象から除外する決定を出した。 2019年10月23日の初公判で、野村被告は起訴内容について「私は四つの事件すべてにつき無罪です」と述べた。田上被告も「全く関与していません」と無罪を主張した。 検察側は冒頭陳述で、(1)について、元組合長やその親族が北九州市の港湾事業を巡り同会側の利権介入を拒んだことが背景にあると主張。(4)の被害者は元組合長の孫で漁協幹部の息子に当たり、「利権介入を拒む漁協幹部を屈服させるため、被害者の襲撃を考えた」などと述べた。(2)に関しては、工藤会捜査に長年携わった元警部が会を離脱した組員に接触した際、野村被告を批判する内容を話したことへの報復だったと説明。(3)では、野村被告が受けた下腹部手術に関し、看護師の術後対応への怒りが背景だとした。そして四つの事件すべてについて、両被告が直接的または間接的に配下組員に指示したことを指摘した。 一方、弁護側は冒頭陳述で、両被告は実行役らの行為をそもそも知らず、関与していないと否定。特に、(1)については、田上被告が2002年に殺人容疑などで逮捕されたが、不起訴処分になった点などを踏まえて「公訴権の乱用」と主張した。 29日の第3回公判で、別の事件で無期懲役判決が確定し服役中の工藤会ナンバー5で理事長代行だったKH受刑者が検察側の証人として出廷。総裁を「隠居」、会長を「象徴」と表現し、野村、田上両被告は会の運営を配下の幹部でつくる「執行部」に任せ、「相談も口を出すこともなかった」と述べた。 12月11日の第11回公判で、(1)の事件で殺害された男性の甥が検察側証人として出廷。同じ漁協に所属していた父親や自分の身にも脅迫めいた事件があったと証言した。父親は2013年12月20日に射殺されたが、容疑者は逮捕されていない。弁護側は「解明されていない事件で両被告には無関係。立証趣旨と違う」と異議を述べ、検察側は「背景を立証するために必要」と反論した。足立勉裁判長は異議について、一部を「意見は承る」としたが、おおむね棄却した。 2020年1月30日の第21回公判で、検察側証人として2007年末から4年間、上納金の集計担当をしていた元組員が出廷。上納金は毎月2千万円ほどで(1)野村被告宅の維持費(2)「貯金」(3)同会運営費-に分けていた。「貯金」は「総務委員長から渡された名簿に載っている組員のために毎月10~20万円を積み立てていた」と説明。名簿には組名、名前、積立額が書かれ、対象組員は「組織のために事件を起こして服役している人」とした。元漁協組合長射殺事件の実行犯と見届け役の2人は、20万円ずつ積み立てられていたという。弁護側が「貯金の対象者から組織のために事件を起こしたと聞いたり、会合などで正式な説明があったりしたか」と質問したのに対し、元組員は「ない」と答えた。 7月30日の公判における被告人質問で、田上被告は(1)の事件について「一切関与しておりません」と改めて無罪を主張した。元組合長の長男が両被告が元組合長らと会食したと証言したことについても、否定した。田上被告は「組全体でシノギ(資金獲得活動)をすることはない」とし、漁協利権が絡む同市の大型港湾工事も関心はなかったと説明。殺害された元組合長について「北九州市の漁協で絶大な力を持っていると組員から聞いた」としたが、長男が証言した元組合長らとの会食などを否定し「元組合長と面識はない」と話した。検察側は、田上被告が多額の確定申告をしていたことなどを引き出し、被告自身の稼ぎ方について問い詰めたが「言いたくありません」と明言を避けた。野村被告をどう思うか聞かれた田上被告は「好きですね。人間として。尊敬もしています」と話した。 31日の公判における被告人質問で、野村被告は(1)の事件について指示や承諾などをしたか問われ「ありません」と答え、改めて関与を強く否定した。元組合長の長男が両被告が元組合長らと会食したと証言したことについても、否定した。また、序列が上の人間が、下に襲撃などを指示できるのかという質問に「事件は指示できない」と返答。組員が何らかの事件を起こす前に報告を受けることはないとし「共謀性が生まれるため」と説明した。 8月4日の公判で(2)に関する野村被告への被告人質問があり、指示や承諾について全面的に関与を否定した。動機となるような元警部とのトラブルや恨みも「ありません」と話した。事件当時はすでに総裁の立場にあり「権限はなく、会の運営に口出しもしない隠居の身」と重ねて関与を否定した。総裁就任後、組員との接触は「ほとんどない」と述べたが、検察側は携帯電話の通話記録を基に有力組長らに多数、連絡していたことを指摘。通話内容をただされた野村被告は「特に用事はない」などと繰り返した。 8月20日の公判で(2)に関する田上被告への被告人質問があり、「元警部とはずっと良い関係だった」と述べ、事件への関与を否定した。「(公判での証言は)うそばかりで、今まで良い関係だったのによく言えるなと思った」と述べた。銃撃事件を巡っては、実行犯など工藤会系組幹部らの実刑判決が確定。田上被告は「元警部を襲撃すれば、警察は工藤会をたたいてくる。それを許すほど私は愚かではない」として、自身や野村被告による指示を否定した。一方、弁護側から事件を指示した人物をどう思うか問われると「思慮が浅いとしか言いようがない」と話した。 8月21日の公判で(3)に関する野村被告への被告人質問があり、レーザー照射による脱毛施術を担当した看護師に一時不満があったことを初めて明かしたが、事件への関与は否定した。一方、痛かった部分はやけどをして痛みが続いたといい、脱衣所などで処置をしている際に組員の前で怒った口調で看護師への愚痴を言ったことも明かした。事件のきっかけを聞かれると、野村被告は「私の愚痴が組員に伝わり、変なふうになったのかな」と話した。 27日の公判で(3)に関する田上被告への被告人質問があり、事件について野村被告から指示されたり、自らが指示したりしたことを否定。逮捕されるまで組員の関与や野村被告が受けた施術などを知らず「何で俺が逮捕されないかんのかと思った」と述べた。検察側は、野村被告がクリニックを訪れた日や事件当日などに、野村被告や配下の幹部と田上被告が通話した記録があると指摘。内容について問うと「わかりません」と述べた。 28日の公判で(4)に関する田上被告への被告人質問があり、4事件に組員が関与したことを問われた田上被告は、会長の立場として「被害者にすいませんという気持ちはあります」と謝罪。一方、工藤会の解散については「代々譲られたもの。私一人でそんな大事なことは決められない」と述べるにとどめた。これまでの公判で歯科医師の親族男性が、14年2月に田上被告から「(歯科医師の父は)まだ分からんのか。これは会の方針やけの」などと言われたと証言したが、田上被告はこの発言を「真っ赤なうそ」と反論。男性について「歯科医師の事件などで警察から重大な関心を持たれていた人物。それを自分からそらすためにでたらめを言ったんだと思う」と話した。 9月3日の第59回公判で(4)に関する野村被告への被告人質問があり、野村被告は襲撃について指示や命令を出したり、承諾したりしたことなどの関与は「ありません」と答え、歯科医師との面識も否定。2013年12月に市漁協組合長だった男性(当時70)が殺害された事件で知っていることがないかどうかも問われたが「一切ありません」と述べた。検察側から工藤会を解散する意向がないか問われると「私にはそういう権限はありません」と語り、田上被告に意見を述べるつもりもないとした。配下の組員が一般市民を襲撃したことについては「(被害者が)気の毒に思いますね」と述べた。 2021年1月14日の論告で検察側は、工藤会には上意下達の厳格な組織性があると強調した。4事件は計画的、組織的に行われており「最上位者である野村被告の意思決定が工藤会の意思決定だった」と言及。田上被告については「野村被告とともに工藤会の首領を担い、相互に意思疎通して重要事項を決定していた」と位置付けた。 元組合長事件は、北九州市の大型公共事業を巡って、元組合長らが工藤会の利権介入を拒んだことが背景にあり、「犯行は被害者一族を屈服させ、意のままにすることにあった」と説明。歯科医師は元組合長の孫で、漁協幹部の息子だったことから「見せしめとして襲撃した」と述べた。元警部事件では、長年の工藤会捜査に対する強い不満があったと主張。看護師事件では、野村被告が受けた下腹部手術に関する看護師の術後対応への怒りが原因だと示した。 いずれの事件も両被告の出身母体である工藤会の2次団体「田中組」が組織的に関与し、トップに立つ野村被告が4事件の首謀者で「各犯行の際立った悪質性の元凶」と非難した。そのうえで、検察側は4事件の死者は1人ではあるが、被害者が一般市民であり「長きにわたり工藤会を率いて、危険性のある犯行を計画的、組織的に繰り返しており、人命軽視の姿勢は顕著」と指摘。「継続的かつ莫大な利益獲得をもくろんだ犯行である元組合長事件だけでも、首謀者として極刑の選択が相当」と説明。「反社会的な性格が強固で、反省、悔悟の情は一切見て取ることができない」と更生の可能性がない点も挙げ、他の3事件も踏まえ「極刑をもって臨まなければ社会正義を実現できない」と述べた。 田上被告に対しても検察側は「野村被告と共に工藤会を統率する立場で、刑事責任は野村被告に次いで重い」と主張。元漁協組合長射殺事件と3事件との間に確定判決があるため、元漁協組合長射殺事件で無期懲役、他の3事件で無期懲役と罰金2千万円を別々に求刑した。 3月11日の弁論で弁護側は、「(審理対象の市民襲撃)4事件とも直接証拠はなく、間接証拠から両被告の関与を推認できるかどうかが問題となる」と述べた。そして検察側の手法を「間接事実を強引に結びつけ、独善的な『推認』に終始している」と批判。(1)で検察側が立証の柱としたのは、元組合長の長男の「新証言」。事件前後、工藤会側から利権を求める圧力があったなどとする内容について弁護側は、事件から約半年後の取り調べで長男が同様の内容を話していないことに触れ、「新証言は後日に作られた虚構であるか、歪曲されている可能性も大きい」と主張。福岡県警による「壊滅作戦」の第1弾となった事件を「壊滅に追い込もうとする刑事政策的な判断で、強引に起訴した」と批判した。(4)でも、親族の男性が公判で田上被告が事件を示唆する発言をしていたなどと話したことが「検察側が、野村被告らの関与と共謀を証明できるとする唯一の証拠だ」と位置付けた上で「客観的な裏付けもなく、信用できない」と全否定した。そして両事件で検察側は背景に漁協利権があると主張するが、弁護側は合理的根拠を示していないなどと指摘し「利権に興味を抱いたことはない」と反論した。 また弁護側は、総裁は名誉職で野村被告に権限はないと強調。(2)は両被告に動機につながるような「恨み」はなく、両被告は被害者と良好な関係にあり、信頼を壊す出来事もなかったとして「襲撃する動機がない」と述べた。(3)では、野村被告が抱いた不満は一時的なもので、野村被告が事件後に「あの人は刺されても仕方ない」と語った同僚の証言には矛盾点があり、信用できないと訴え「野村被告の愚痴を聞いた組員が、勝手に事件を考えた可能性がある」とした。 同日の最終意見陳述で野村被告は「どの事件にも一切関わりはないし、指示も承諾もしてません」、田上被告も関与を否定した上で「裁判所にはまっすぐな目で、証拠に照らして的確な判断をお願いしたい」と述べた。 11日で結審したが、検察側の弁論再開の申し立てを受け、3月31日に公判が開かれた。地裁は、所得税法違反罪での野村被告の実刑判決の確定記録を証拠採用し、改めて結審した。 判決で足立裁判長はまず(1)について検討。両被告は、被害者らが持っていた利権に重大な関心を抱いていたと指摘。組織の上位者だった点も踏まえ、「(事件を)配下の組員が独断で行うことができるとは考えがたい。両被告の関与がなかったとは到底考えられない」として共謀を認めた。 両被告の工藤会の立場において、対外的にも組織内においても、総裁の野村被告が最上位の扱いを受け、会長の田上被告がこれに続く序列が厳格に定められていたとした。そして重要な意思決定は、両被告が相互に意思疎通しながら、最終的には野村被告により行われていたとした。 (2)については、工藤会にとって重大なリスクがあることは容易に想定できるので、組員が両被告に無断で起こすとは到底考えがたいとした。 (3)については、野村被告以外に工藤会内で犯行動機がある者はいないことから、他の人物が野村被告に無断で犯行を実行した可能性はないとした。 (4)については、田上被告は被害者の父親に対して工藤会との利権交際に応じるよう執拗に要求したが断られていたことから、田上被告が組員に犯行を実行させたと推認できるとした。そしてかねてから野村被告が関心を持っていた被害者一族の利権に関し、田上被告が野村被告の関与なしに実行の指示をするとは考えがたいとした。 野村被告の量刑について、元漁協組合長を殺害した事件は極めて悪質と断じ、目的のために手段を選ばない卑劣で反社会的な発想に基づき、地域住民や社会一般に与えた衝撃は計り知れないと述べた。またその他の3事件も組織的・計画的な犯行で、人命軽視の姿勢は著しく、被告はいずれも首謀者として関与しており、極刑はやむを得ないとした。 田上被告の量刑について、利欲的な動機で元漁協組合長射殺事件に関与し、刑事責任は野村被告にこそ及ばないものの、無期懲役となった実行役を下回らず、無期懲役刑が相当とした。その他の3事件においても野村被告と相通じて意思決定に関わり、不可欠で重要な役割を果たしたており、有期の懲役刑では軽過ぎるとした。しかし、検察官は元警部銃撃事件で経済的利益獲得に資するという目的も併せ持っていたという罰金刑もの主張については、飛躍があり、科すことはしないとした。 閉廷が告げられるや、野村被告は足立裁判長に向かって「公正な判断をお願いしたんだけどねえ。東京の裁判官になったんだって?」と言い、田上被告が「ひどいなあんた、足立さん」と続ける場面があった。そして最後に野村被告が「生涯後悔するぞ」と言った。 野村被告の弁護人は8月26日、報道陣の取材に応じ、野村被告が「脅しや報復の意図ではない。言葉が切り取られている」と説明していることを明らかにした。接見した弁護人によると、野村被告は発言の報道内容に驚き、「公正な裁判を要望していたのに、こんな判決を書くようじゃ、裁判長として職務上、『生涯、後悔するよ』という意味で言った」と話した。「私は無実です」と改めて訴えたという。 |
備 考 |
田上不美夫被告は他の2人と共謀し1993年5月、北九州市内でパチンコ店を開店しようとしていた男性に"あいさつ料"を要求、6月に現金2,000万円、9月に約束手形6通(額面計6,000万円)を脅し取った。1998年10月10日、恐喝罪で逮捕。30日、福岡地検小倉支部に起訴された。この時、野村悟被告も逮捕されているが、不起訴となっている。この恐喝罪で実刑判決を受け、2003年2月まで服役していた。 野村悟被告は2021年8月24日、求刑通り死刑判決。被告側控訴中。 被告側は控訴した。2024年3月12日、福岡高裁で野村悟被告の一審判決を破棄、無期懲役判決、田上被告の控訴棄却。 |
氏 名 | 天野十夢(34) |
逮 捕 | 2018年10月22日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、死体遺棄・損壊 |
事件概要 |
住所不定、会社役員の天野十夢被告は2018年3月15日、投資名目で預かっていた金の返済を免れようと、東京都豊島区に住む職業不詳の男性(当時49)を宇都宮市の会社員O被告とともにレンタカーで連れ出し、天野被告が福島県会津美里町の空き地で鉄パイプで不数回殴り殺害。二人で遺体を山林近くの雪の中に隠した。さらに17日、O被告に加え天野被告の会社に勤める千葉県鎌ケ谷市の会社役員K被告と共謀し、遺体の両手首をのこぎりで切断し、山林に穴を掘って埋めた。 男性は都内で無登録の貸金業をしていた。男性は一人暮らしだった。天野被告は男性から仮想通貨の取引名目で被害者から多額の出資を受けていたが、返済を迫られていた。天野被告は会津美里町出身で、現場に土地勘があった。 4月26日午前9時ごろ、会津美里町旭舘端の山林で、山菜採りに訪れた男性が発見。27日、司法解剖で外傷から事件性があると判断し、福島県警に捜査本部が設置された。5月中旬、男性の兄弟から行方不明届が警視庁目白署に出された。7月27日、DNA鑑定の結果、遺体が男性と判明した。 9月26日、別件の詐欺容疑で、会津若松市の建設会社役員I被告が逮捕された。 10月22日、死体損壊・遺棄容疑で天野被告、O被告、K被告、I被告が逮捕された。11月13日、殺人容疑で天野被告、O被告が、殺人ほう助容疑でI被告が再逮捕された。同日、福島地検郡山支部は死体損壊・遺棄の罪で天野被告、O被告、K被告を起訴した。12月5日、地検は天野被告を強盗殺人の罪で追起訴した。O被告とI被告は処分保留とした。21日、地検はO被告の殺人容疑と、I被告の殺人ほう助、死体遺棄・損壊容疑について不起訴とした。 |
裁判所 | 仙台高裁 秋山敬裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2021年8月26日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
2021年4月20日の控訴審初公判で、死体遺棄と損壊の罪を認めた一方「殺害には一切関与していない」と強盗殺人罪について無罪を主張し、一審同様、O元被告が単独で殺害したと訴えた。 5月27日の公判内容は不明。 判決で秋山裁判長は、単独または共謀して殺害したとした一審判決について「被害者の死体の損傷や周囲の供述などから天野被告が被害者に攻撃を加え死亡させたと認定できる」と一審判決とは異なる認定をした。そのうえで「判決に影響を及ぼすものではなく重すぎて不当であるとは言えない」と無期懲役とした一審判決を支持し被告の控訴を棄却した。 |
備 考 |
死体損壊と遺棄の罪に問われたK被告は2019年1月28日、福島地裁会津若松支部(清野英之裁判官)で懲役1年6月、執行猶予3年判決(求刑懲役1年6月)。控訴せず確定。 死体損壊と遺棄の罪に問われたO被告は2019年2月25日、福島地裁会津若松支部(清野英之裁判官)で懲役1年8月判決(求刑懲役2年)。おそらく控訴せず確定。 I被告は別件の、2016年9月から2018年7月までの間に会社で自衛官を雇用しているかのように装い、即応予備自衛官の雇用企業への国の給付金8回計102万円をだまし取ったとして、詐欺罪に問われた。2019年2月18日、福島地裁会津若松支部(清野英之裁判官)で懲役1年6月、執行猶予3年判決(求刑懲役1年6月)。おそらく控訴せず確定。 2020年10月14日、福島地裁郡山支部の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2022年中に被告側上告棄却、確定と思われる。 |
氏 名 | 岩嵜竜也(43) |
逮 捕 | 2017年7月10日 |
殺害人数 | 2名 |
罪 状 | 殺人、死体遺棄、住居侵入 |
事件概要 |
横浜市の派遣社員、岩嵜竜也被告は2017年7月6日、中国籍で飲食店従業員の姉(当時25)と専門学校生の妹(当時22)が住む横浜市のマンションの一室に合鍵を使って侵入。姉妹の首を絞めて殺害後、布団圧縮袋に入れてキャリーバッグに詰め込み、7日に秦野市の山林に遺棄した。 防犯カメラの映像などから姉の交際相手だった岩嵜被告が浮上。神奈川県警は7月10日に監禁容疑で、11日に住居侵入容疑で岩嵜被告を逮捕。21日、死体遺棄容疑で再逮捕。8月11日、殺人容疑で再逮捕。 横浜地検は9月1日、岩嵜被告を殺人、死体遺棄容疑などの罪で起訴した。監禁罪については不起訴とした。 |
裁判所 | 横浜地裁 景山太郎裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2021年9月3日 無期懲役 |
裁判焦点 |
差し戻し裁判員裁判。 2021年7月19日の初公判で、景山裁判長は初公判の冒頭、裁判をやり直す理由を説明し、被告の有罪は前提として、改めて審理を行うとした。 罪状認否で岩嵜竜也被告は「黙秘します」と述べた。 検察側は冒頭陳述で「遺体を遺棄するために布団圧縮袋を用意するなど計画性があり、結果が重大」と指摘。弁護側は一審の無罪主張から一転、「(被告が犯人とすれば)交際していた姉に偽装結婚を持ち掛けられたことに憤りを感じており、動機に酌むべき点がある」などと主張した。 29日の論告求刑で検察側は「少なくとも5分程度首を圧迫するなど、強固な殺意に基づいた悪質な犯行であることは明らか」などと指摘した。 同日の最終弁論で弁護側は「偽装結婚を打診され、追い詰められていた。 計画性はきわめてずさんで、凶器を使っておらず危険性が低い。22年の有期刑が相当」と主張した。 判決で影山裁判長は、「(姉が岩崎被告に)偽装結婚を迫った様子は見受けられない」と述べ、弁護側の主張を退けた。被告が2人の首を5分程度圧迫したことについて「危険性が高く、凶器を使用した際と大きく異ならない」と指摘し「強固な殺意に基づく執拗な犯行」と非難。山林に遺体を遺棄したことについては、「死者に対する畏敬が全く感じられない。悪質だ」と批判した。そして「被疑者と被害者の間で親族関係と同視できるような関係にはない。凶器を用いていない点が量刑を大きく減じる要素とはならない」と述べ、単独犯で、親族以外の複数人を殺害した事件の裁判員裁判での量刑は全て無期懲役以上であることを踏まえ、無期懲役を選択した。 |
備 考 |
2018年7月20日、横浜地裁(青沼潔裁判長)の裁判員裁判で、求刑死刑に対し懲役23年判決。被告側は無罪を主張。判決では凶器が使われていないことから、過去の殺人罪の裁判員裁判の例を考慮すれば死刑や無期懲役の選択は困難と述べ、有期懲役刑の上限の23年を選択した。 2019年4月19日、東京高裁(中里智美裁判長)で一審破棄、差し戻し判決。量刑検索システムで類似事件での判決傾向を調べる際、一審では「殺人」「単独犯」「凶器なし」の条件でをつけて検索していたが、提示した判例は数例とみられ、すべて親族間での殺害事件だったことから、「経緯や動機にくむべき事情があることが多い親族間の事例と本件とは全く異なる類型」と判断。さらに、姉妹が相当な力で5分程度、首を圧迫されて殺害された点から「凶器を使う場合と比べて危険性に質的な違いはない」と指摘。高裁が凶器の有無を特定せず類似事件での量刑傾向を調べ直したところ、親族間の事例を除くと極刑か無期懲役刑が言い渡されていたとし、「量刑の認定や評価が甚だ不十分」と一審判決を破棄し、差し戻した。 2020年1月29日、最高裁第三小法廷(宇賀克也裁判長)で被告側上告棄却、差し戻し確定。5裁判官全員一致の結論。 被告側は控訴した。2022年4月19日、東京高裁で被告側控訴棄却。2023年10月11日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 宮口義弘(62) |
逮 捕 | 2016年4月15日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、死体遺棄 |
事件概要 |
埼玉県春日部市の不動産コンサルタント・宮口義弘被告は約200万円の借金返済を免れるため、2016年2月3日頃、春日部市に住む知人の無職男性(当時73)を窒息させて殺害し、遺体を自分の車の荷台に隠した。5日頃、遺体を群馬県藤岡市の空き地に埋めた。 男性は一人暮らしで、2月5日に福祉関係者が訪ねたが、室内に姿がなく、連絡を受けた男性の長男が2月12日、春日部署に行方不明者届を提出。埼玉県警は事件に巻き込まれた可能性があるとみて捜査を開始。交友関係から宮口被告に話を聞いたが、説明に不審な点があったため、関係先を捜査したところ、藤岡市の空き地に掘り返した場所があり、地表に手が出ているのを4月8日に捜査員が発見。県警は15日、宮口被告を死体遺棄容疑で逮捕した。6月9日、強盗殺人容疑で再逮捕。 |
裁判所 | 最高裁第二小法廷 草野耕一裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2021年9月13日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | |
備 考 |
2018年2月6日、さいたま地裁の裁判員裁判で一審懲役10年判決。強盗殺人の成立を認めず、傷害致死を適用した。2019年2月8日、東京高裁で一審破棄、地裁差し戻し。一審の裁判官が証拠調べ終了後、検察官に単独または氏名不詳者との共謀による犯行とするよう訴因変更を促したうえで変更を許可した一方、弁護人の弁論再開請求を却下したと指摘。「弁護人の反証の機会を奪うもので極めて不当」と非難。審理をやり直す必要があると結論付けた。上告せず、差し戻し確定。 2020年1月8日、さいたま地裁の差し戻し裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2020年9月1日、東京高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 山本豊和(38) |
逮 捕 | 2017年11月26日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、死体遺棄、窃盗 |
事件概要 |
静岡市駿河区の新聞配達員、山本豊和被告は2017年10月5日、静岡市駿河区に住む義理の母親宅で、義母(当時62)の首を圧迫するなどして殺害、現金約300万円を奪った。6日、駿河区の道路わきの草むらに遺体を遺棄した。山本被告は、被害者の次女の夫だった。週3~5日通うほどのパチンコ好きで、仕事で集めた金をパチンコ店につぎ込むこともあり、義母より借金をしていた。また消費者金融から280万円の借金があった。殺人後、退職していた。 他に山本被告は2016年12月4日午後11時20分ごろから40分ごろにかけて、元勤務先の会社が運営する焼津市のコインランドリーの両替機などから現金約14万円を盗んだ。 10月5日、同居する男性が深夜に帰宅したところ女性の姿がなく、女性の親族は11日に静岡南署に行方不明届を出し、17日に遺体が見つかった。11月26日、捜査本部は死体遺棄容疑で山本被告を逮捕した。2018年1月28日、強盗殺人容疑で再逮捕した。2月19日、窃盗容疑で再逮捕した。 |
裁判所 | 東京高裁 若園敦雄裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2021年9月22日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
2021年7月30日の控訴審初公判で、山本豊和被告は一審に続き、強盗殺人について無罪を主張。 判決で若園敦雄裁判長は「被告は義母が多額の現金を隠し持っていると認識しており、死体を遺棄している事情から現金を奪うために殺害したと推認できる」と指摘。被告の供述は不自然で信用できず、被告を犯人とした一審判決に誤りはないと判断した。 |
備 考 | 2021年2月19日、静岡地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2022年1月7日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 菅野裕太郎(38) |
逮 捕 | 2021年2月25日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、住居侵入、窃盗 |
事件概要 |
仙台市の菅野裕太郎被告は2013年10月6日午前1時ごろから2時ごろにかけて、仙台市の県芸術協会職員の女性(当時43)の自宅に、無施錠の浴室窓から侵入し、金品を物色中、2階寝室に女性がいることに気づき、殺害しようと決意。女性の首を両手で絞めるなどして殺害し、現金約8,000円と腕時計など貴金属87点、計52万8,700円万円相当を奪った。奪った貴金属は県内や関西方面の複数の買い取り店に全て売却した。 菅野裕太郎被告はその後、別の窃盗事件で服役。2017年10月に仮釈放された後、空調設備会社で働いていたが、2018年3月と11月、仙台市に住む同僚宅に侵入し、現金約20万円や金庫などを盗んだ。 事件から7年4カ月経った2021年2月25日、別の窃盗罪などで宮城刑務所に服役していた菅野裕太郎受刑者が強盗殺人などの疑いで逮捕された。 |
裁判所 | 仙台地裁 大川隆男裁判長 |
求 刑 | 無期懲役+懲役1年6月 |
判 決 | 2021年9月30日 無期懲役+懲役1年2月 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。起訴された2つの事件の間に、別の窃盗事件で確定判決を受けているため、強盗殺人事件と窃盗事件に分けて判決が言い渡される。 2021年9月22日の初公判で、菅野裕太郎被告は「女性と寝室で会って殺害を決意できるほどの思考状況下にはなかったが、自分のやった行為で命を奪ったことは間違いないので争う事実はない」と起訴内容を認めた。 冒頭陳述で検察側は、菅野被告が2011年に当時勤めていた貴金属買い取り業者の飛び込み営業で女性の家を訪れ、女性が1人暮らしで貴金属を沢山所有していることを知った上で、2013年10月に金品を盗む目的で女性の自宅に侵入し、室内を物色中に寝室で寝ていた女性の存在に気付いて殺害に及んだと犯行の計画性を指摘した。 弁護側は「起訴内容に争いはないが“殺害”に計画性があったのかどうかによって量刑を考えてほしい」と主張した。 証拠説明のあとに、殺害された女性の父親の供述調書が読まれ、死刑にしてほしい、命で償ってほしいと訴えた。 24日の第2回公判で、被告の母親が証人に立ち、「とんでもないことをした。悲しいし、やるせない。許されることではない。一生かけて罪を償ってほしい」と涙ながらに話した。 27日の公判で被害者の父親は「なぜ娘が殺害されなければならなかったのか。娘の悔しい顔が頭を離れない。被告は自ら極刑を申し出て命は命で返してください」などと述べ、死刑を求めた。 同日の論告求刑で検察側は「何度も下見をしたうえ、手袋やフェイスマスクをつけるなど犯行は計画的で周到。女性に見つかった後、数分間に渡って女性の首を絞め、その後室内の物色を再開した。強固な殺意に基づく冷酷な犯行だ。動機も身勝手極まりなく、被害者になんの落ち度もない。酌量すべき事情もない」などと述べた。 被害者参加弁護人は「被告は経済的に困窮していたというが、単に働いていなかっただけであり、動機に同情の余地はない。寝室に被害者がいるのに気づき、ためらいなく襲いかかり、首を絞めた犯行態様は冷酷で残忍。被害者は、最も安全で落ち着けるはずの寝室で、覆面をした犯人に突然襲われ、命を奪われた。こんなむごい人生の終わり方はない。自首する機会が何度もあったにもかかわらず自首することもなく、裁判での言葉も後悔や自責の念は感じられず、矯正教育によって更生できないことは明らかだ」とした上で、被害者が1人であることが極刑を選択しない理由にはならないとして、死刑を求めた。 最終弁論で弁護側は殺意の有無を争うものではないとした上で、「下見を繰り返し女性が不在かどうか確認しており、人に危害を与える道具を持たずに侵入し、寝室に人がいるという想定外のことが起き、パニックになりとっさに体が動いてしまったのであり、殺害には計画性はない」などとし死刑を科すべきではないと主張した。その上で「有期懲役は求めない」とも述べた。 最終意見陳述で菅野被告は、「私自身の心の弱さ、未熟さから人の命を奪うという取り返しのつかない結果を招いてしまった。命は返ってこないし、どうやっても償うことはできないが、生きている限り、贖罪のあり方を必死に追求していきたいと思う。自分の責任は生涯消えることはなく、贖罪が終わることはない。一生後悔し、一生償っていかなければならないと思う」と述べ、被害者の父親の方を向き「本当にすみませんでした」と深く頭を下げた。 判決で大川隆男裁判長は「被告は殺害は計画していないが、手加減することなく首を絞め続けていて、突発的ながら相応に強い殺意があった。住居侵入、窃盗は計画的で周到。何の落ち度もない被害者のかけがえのない生命が奪われ、被害者の両親が極刑を求めているのも当然だ」と非難。「働こうと思えば働けたのに、安易に盗みに入ることを企てた動機や経緯に同情の余地はなく、他人の生命より自己の欲望を優先し殺害した意思決定は極めて強い非難に値する」と判断した。そして「法廷での態度を踏まえても、被告の反省は全く十分ではなく、同種の事案と比べても、酌量減軽をすべき事情はない」と指摘した。 また仙台市の窃盗事件について、裁判長は「面倒を見てもらっていた同僚宅に2回にわたり侵入して窃盗をしたとはあきれた犯行」と指摘し、それもさらに別の窃盗事件の仮釈放中の犯行であるとして、懲役1年2カ月の判決を言い渡した。 判決言い渡し後、大川裁判長は、「この法廷でのあなたの言動をみると、言葉だけがむなしく響いていました。事件と向き合えていないと思いました。これから長い長い時間をかけて、逃げることなく事件と向き合ってください。あなたがしたことは取り返しのつかないことです。ご遺族の気持ちを片時も忘れないでください。文字通り一生をかけて罪と向き合って下さい。それがあなたにできることです」と話した。 |
備 考 |
菅野裕太郎被告は2013年12月29日~2014年1月4日、仙台市の男性(当時66)宅から指輪など貴金属類47点(計約446万4,000円相当)と現金30万円を盗んだ。さらに2014年7月28日午前9時35分~午後5時頃、仙台市の無職女性(当時70)宅に窓ガラスを割って侵入し、ネックレスなど73点(計約735万円相当)を盗んだ。窃盗と住居侵入容疑で起訴され、2015年11月に懲役3年6カ月の実刑判決を受け、2017年10月に仮釈放された。 2020年1月4日午後4時半頃から同6日午前9時20分頃までの間、塩釜市内の宝石店に侵入し、店内にあった現金約40万円と、ネックレスや腕時計など約280点(販売価格計3,000万円相当)を盗んだ。その他2件の窃盗罪も含め、2020年6月に懲役5年の実刑判決を受け、逮捕時は宮城刑務所に服役していた。 控訴せず確定。 |
氏 名 | 竹株脩(22) |
逮 捕 | 2019年12月15日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、現住建造物等放火、銃砲刀剣類所持等取締法違反、窃盗 |
事件概要 |
奈良県橿原市の無職、竹株脩(たけかぶ・しゅう)被告は通行人を無差別に殺害しようと考え、2019年11月24日午後10時半ごろ、桜井市内の路上を歩いていた元派遣社員の男性(当時28)の首付近をなた(刃渡り約18.7cm)で複数回切りつけた。その後、車に乗せてアパート自室にい運び込み、男性が死亡したと考え、部屋に火をつけて、窒息死させた。火災で2階の5室計約200平方メートルが焼けた。さらに男性の携帯電話を運転免許証を持ち去った。竹株被告と男性に面識はなかった。 竹株被告は事件後福岡市に移動し、男性の運転免許証を提示するなどしてインターネットカフェに滞在。12月15日、「金がなくなった」と橿原署に出頭。出頭時、リュックサックになたが入っていた。県警は傷害容疑で逮捕した。2020年1月5日、殺人、現住建造物等放火他容疑で再逮捕した。 奈良地検は1月21日、竹株被告を鑑定留置。5月15日、起訴した。 |
裁判所 | 大阪高裁 村山浩昭裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2021年10月4日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
2021年8月30日の控訴審初公判で、弁護側は「被告とは別の複数人の真犯人が存在すると推認できる」などとして一審判決を「事実誤認だ」として無罪を主張した。検察側は「(被告側の主張に)理由がない」と争う姿勢を示し、即日結審した。 判決で村山裁判長は、竹株被告が事前に「なた」を購入し警察署に出頭した際も所持していたこと、被害者の免許を持っていたこと、さらに竹株被告が犯行直前に第三者と会ったと疑うべき直接的な証拠はないとして、「犯人性の推認を揺るがすものではない」と述べ、一審と同様、竹株被告が犯人であると認定。殺人に及んだ動機は、具体的には認定できなかったとした。そして「無差別的で残虐な殺人事件」であると述べた。 |
備 考 |
2021年2月26日、奈良地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。上告せず確定。 無期懲役が確定した竹株脩受刑者に被害男性の遺族が約4,000万円の損害賠償を求めた訴訟で、2022年2月8日、奈良地裁(寺本佳子裁判長)は竹株受刑者に約4,000万円の支払いを命じた。遺族は地裁での有罪判決を受け、竹株受刑者に刑事裁判官が賠償額を決める制度に基づき、損害賠償命令の申し立てを行い、地裁は2021年4月、請求を認めた。これに対し、竹株受刑者は異議を申し立てていた。判決では、凶器を真犯人から譲り受け、自動車を貸していた可能性があるとの主張に対し、「主張する可能性はいずれも観念的、抽象的なものにすぎない」と指摘。竹株受刑者が犯人であり、遺族には損害賠償請求権があるとした。 |
氏 名 | 山野輝之(47) |
逮 捕 | 2013年8月9日 |
殺害人数 | 2名 |
罪 状 | 殺人、殺人未遂、現住建造物等放火 |
事件概要 |
埼玉県志木市の会社員、山野輝之(当時の姓荒木)被告は2008年12月3日午前5時過ぎ、妻(当時33)と次女(当時4)、長男(当時12)の3人を殺害する目的で、当時住んでいた志木市の自宅木造三階建てに放火して全焼させ、長男は逃げて無事だったが、3階で寝ていた妻と次女が一酸化炭素中毒で死亡した。長女は別居していた。 埼玉県警は火災の再現実験を重ねるなど捜査した結果、失火の可能性が否定され、火の気のない室内に放火されたとみられることが判明。さらに、外部から人が侵入した形跡がないことも分かった。出火当時、山野被告は「外出していた」と説明していた。山野被告は火災前、別の女性と交際し、妻に離婚を求めて8月に家裁に離婚調停を申し立てていた。火災後、山野被告は再婚して志木市のマンションに暮らしていた。 埼玉県警は燃焼実験の結果、漏電などによる失火の可能性は低いと判明したことから、放火とみて捜査。2013年8月9日、殺人他の容疑で山野被告を逮捕した。 |
裁判所 | 最高裁第一小法廷 山口厚裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2021年10月12日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | |
備 考 |
2015年3月23日、さいたま地裁の裁判員裁判で、求刑無期懲役に対し、一審無罪判決。2016年7月14日、東京高裁で一審破棄、地裁差し戻し。殺人罪に対する裁判員裁判の無罪判決が破棄されるのは初めてとみられる。2017年2月8日、被告側上告棄却、差戻確定。 2019年10月31日、さいたま地裁の差戻裁判員裁判で、求刑通り一審無期懲役判決。2020年12月11日、東京高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 宍倉靖雄(50) |
逮 捕 | 2019年8月28日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人 |
事件概要 |
千葉県八街市の内装会社社長、宍倉靖雄被告は、四街道市の彫師、S被告、住所不定の内装工、K被告と共謀。2019年1月27日午前5時25分~6時5分ごろ、富津市の浜金谷港の岸壁から、千葉市に住む内装工の男性(当時23)を海に落とし、溺れさせて殺害した。主犯が宍倉被告、殺害の実行犯がS被告、車の運転や釣りに誘うなどがK被告である。2018年8月に男性は後継者と騙され宍倉被告の養子となり、宍倉被告を受取人とした約5,000万円の保険金が掛けられていた。一つは2018年11月、受取人が母親から変更。残り二つは養子縁組後、新たに契約していた。S被告とK被告は宍倉被告の会社の元従業員で、K被告は宍倉被告から借金があった。宍倉被告には会社名義も含めて約1千万円の借金があり、S被告、K被告も数百万円の借金を抱えていた。S被告とK被告は養子縁組届の証人となっていた。 S被告が「一緒に釣りをしていた人がいなくなった」と110番通報し、木更津海上保安署などが捜索した結果、海底から男性が引き揚げられ、現場で死亡が確認された。しかし、現場は足場が良く、足を滑らせて海に転落したとは考えにくいことなどから県警が捜査。男性に保険金が掛けられていたことなども判明。県警は8月28日、殺人容疑で3人を逮捕した。 |
裁判所 | 東京高裁 大野勝則裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2021年10月12日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 | 保険金目的も共謀もなかったと無罪を訴えた宍倉被告側に対し、高裁判決は、被告から殺害を持ちかけられたとする共犯者らや、被告から保険の内容を聞かれたとする保険外交員の証言などの信用性が高いと指摘。宍倉被告を首謀者とした一審判決に不合理な点はないと結論づけた。 |
備 考 |
殺人罪で起訴されたK被告は2020年12月16日、千葉地裁(小池健治裁判長)の裁判員裁判で殺人ほう助の罪にとどまるとして、懲役10年判決(求刑懲役15年)。控訴せず確定。 殺人罪などで起訴されたS被告は2021年7月12日、千葉地裁(友重雅裕裁判長)の裁判員裁判で懲役18年判決(求刑懲役20年)。控訴せず確定。 2021年3月2日、千葉地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2022年2月16日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 黄奕達(44) |
逮 捕 | 2019年12月11日 |
殺害人数 | 0名 |
罪 状 | 覚醒剤取締法違反(営利目的輸入未遂)、関税法違反 |
事件概要 |
台湾人の会社社長黄奕達(ホアン・イダ)被告は台湾人や日本人ら計7被告や氏名不詳者らと共謀。2019年12月7日頃、東シナ海の公海上で、船籍不詳の船が積んだ覚醒剤約586.523kg(末端価格約352億円)と覚醒剤であるフエニルメチルアミノプロパンを含有する液体約764mLを共犯者が乗る船に積み替え、同11日に天草市から陸揚げしようとしたが、海上保安官らに発見された。 日本と台湾双方の窓口機関は2018年12月、密輸・密航対策で海上保安当局間の協力に関する覚書を締結しており、今回の摘発は初の大型案件。台湾の海巡署(海上保安庁に相当)は2019年6月、密輸計画の情報を日本側に提供し、海上保安庁、福岡県警などが合同捜査本部を設置して捜査していた。 福岡県警などは11日、船内で覚醒剤を所持していたとして覚せい剤取締法違反容疑で3人を現行犯逮捕。ほか5人も密輸に関わったとして同法違反容疑で逮捕した。この8人は外国人と日本人で、大半は台湾人。このほかの数人についても12日に同法違反容疑で逮捕。 |
裁判所 | 福岡高裁 裁判長不明 |
求 刑 | 無期懲役+罰金1,000万円 |
判 決 | 2021年10月19日 無期懲役+罰金1,000万円(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 | 不明。 |
備 考 |
台湾人、日本人など男女24人が逮捕され、そのうち黄被告を含む16人が起訴された。判明分のみ記す。 指示役で台湾籍のC被告は2021年6月10日、福岡地裁(岡崎忠之裁判長)で懲役30年、罰金1,000万円判決(求刑無期懲役、罰金1,000万円)。2021年12月8日、福岡高裁(辻川靖夫裁判長)で被告側控訴棄却。被告側上告中。 船長で台湾籍のA被告は2021年6月10日、福岡地裁(岡崎忠之裁判長)で懲役19年、罰金500万円判決(求刑懲役20年、罰金600万円)。2021年12月8日、福岡高裁(辻川靖夫裁判長)で被告側控訴棄却。被告側上告中。 乗組員で台湾籍のB被告は2021年6月10日、福岡地裁(岡崎忠之裁判長)で無罪判決(求刑懲役13年、罰金300万円)。控訴せず確定。 漁船購入の世話をしたK被告は2021年7月13日、福岡地裁(岡崎忠之裁判長)で懲役12年、罰金300万円判決(求刑不明)。2021年12月22日、福岡高裁で控訴棄却。 乗組員を世話したD被告は2021年10月7日、福岡地裁(岡崎忠之裁判長)で懲役13年、罰金300万円判決(求刑同)。2022年3月17日、福岡高裁で被告側控訴棄却。 乗組員を世話したE被告(D被告の妻)は2021年10月7日、福岡地裁(岡崎忠之裁判長)で懲役8年、罰金250万円(求刑懲役10年、罰金250万円)判決。2022年3月17日、福岡高裁で被告側控訴棄却。 日本人乗組員の手配などをしたとされたT被告は2021年12月1日、福岡地裁(柴田寿宏裁判長)で懲役6年判決(求刑懲役10年、罰金250万円)。幇助罪が認定された。2022年6月8日、福岡高裁で控訴棄却。上告せず確定。 日本人乗組員の手配などを行った住吉会系組員の男性N被告は2022年1月7日、福岡地裁(鈴嶋晋一裁判長)で懲役14年、罰金300万円判決(求刑懲役15年、罰金300万円)。2022年6月28日、福岡高裁(市川太志裁判長)で被告側控訴棄却。 覚醒剤を積み込む予定だった冷凍車の見張り役だったH被告は2022年2月22日、福岡地裁(岡崎忠之裁判長)で懲役15年、罰金300万円判決(求刑同)。2022年8月4日、福岡高裁で被告側控訴棄却。 船舶の準備を行ったS被告は2022年3月18日、福岡地裁(岡崎忠之裁判長)で懲役30年、罰金1,000万円判決(求刑無期懲役、罰金1,000万円)。被告側控訴中。 覚醒剤の積み替えを行った元少年被告(事件当時19)は2022年5月24日、福岡地裁(冨田敦史裁判長)で懲役10年、罰金200万円(求刑懲役15年、罰金300万円)判決。控訴中。 洋上で覚醒剤を受け取る「瀬取り」の実行役を集める役割だった工藤会系組員の男性M被告は2022年6月13日、福岡地裁(武林仁美裁判長)で懲役14年、罰金300万円判決(求刑懲役15年、罰金300万円)。被告側控訴中。 M被告の共犯だったI被告は2022年6月13日、福岡地裁(武林仁美裁判長)で懲役12年、罰金300万円判決(求刑不明)。被告側控訴中。 主犯格とされる山口組系の元組員の高田広喜容疑者は2021年1月、覚醒剤取締法違反容疑で逮捕状が出ている。捜査関係者によると、高田容疑者は中国に潜伏しているとみられる。外務省は2022年6月20日付でパスポートを失効させ、30日の官報で通知した。今後は不法滞在状態となるため、現地で身柄が確保されれば強制退去となる見通し。 2021年3月17日、福岡地裁の裁判員裁判で求刑通り無期懲役+罰金1,000万円判決。上告せず確定。 |
氏 名 | 佐藤義春(55) |
逮 捕 | 2020年3月13日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、非現住建造物等放火、住居侵入、死体損壊、脅迫、銃刀法違反 |
事件概要 |
新潟市の建設会社従業員兼運転代行業アルバイト従業員、佐藤義春被告は2020年2月4日午前2時半~5時頃、新潟市に住む運転代行業を営む勤務先の社長の男性(当時49)宅に売上金を奪おうと侵入し、一人暮らしの男性が帰宅したところ、頭をレンチで数回殴り、延長コードで首を絞めるなどして窒息死させた後、現金約11万円を奪った。さらに木造2階住宅に火のついた蝋燭を放置し、住宅を半焼させるとともに遺体の一部を焼いて損壊した。 2月11日~12日、佐藤被告は新潟市内で女性との間でトラブルを起こし、13日、新潟署に銃刀法違反容疑で逮捕された。3月4日、銃刀法違反と脅迫罪で起訴された。 3月13日、新潟県警は佐藤被告を強盗殺人容疑で逮捕。新潟地検は4月3日、強盗殺人の罪で起訴した。6月24日、佐藤義春被告を、非現住建造物等放火と死体損壊の容疑で再逮捕した。 |
裁判所 | 新潟地裁 佐藤英彦裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2021年11月2日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2021年10月25日の初公判で、佐藤義春被告は罪状認否で、「金銭目的で命を奪ったのではなく、包丁を見せられて無我夢中で殺してしまった」と強盗殺人罪を否認。弁護側も「殺人罪と窃盗罪で、誤想過剰防衛が成立する」と主張した。 冒頭陳述で検察側は、佐藤被告は好意を持っていた19歳の女性に金をつぎこんで借金を抱えていたため、被害者から売上金を奪おうと自宅に入り、被害者が帰宅したところを殺害したとして「強盗殺人罪」が成立すると指摘。証拠隠滅のため自宅にろうそくで火をつけたと主張した。 弁護側は、事件当時、被害者に借金をしていた佐藤被告が返済を迫られ、口論になるうちに被害者が台所から包丁を持ってきたと主張。「刺されるかもしれない」と考えた佐藤被告が自分を守るために被害者を殺害し、その後、売上金を盗んだとして「強盗殺人の罪は成立せず、殺人と窃盗の罪に当たる」と主張した。 28日の論告で検察側は「好意を持っていた女性に金を使うために盗みに入ったという動機は、同情すべき点がない」と非難。被害者の帰宅を待ち受けていたのは「売上金を奪うため」だったと指摘し、被害者を躊躇なく殺害した残忍な犯行だと非難した。 同日の最終弁論で弁護側は、佐藤被告が被害者を殺害したのは「被害者が持ち出した包丁を見て、刺されると誤信したからだ」と刑の減免を求めた。その上で、殺害したのは金を奪う目的ではないため強盗殺人罪は成立せず、殺人と窃盗の罪に当たり「懲役20年が相当だ」と主張した。 最終意見陳述で佐藤被告は「私は弁解するつもりはありません。どうやって償えばいいか、生きていていいのかわかりません。本当に申し訳ありませんでした」と謝罪した。 判決で佐藤裁判長は、佐藤被告は当時、好意を抱いていた女性との遊興に多額の現金を使い、経済的に困窮していたと指摘。「身勝手な動機で酌量の余地はない」と非難した。その上で、被害者の帰宅に気付いた佐藤被告が逃げようとしなかったことや、佐藤被告は被害者が売上金を持って帰宅すると知っていたことを挙げ、「延長コードで首の骨折を生じさせるほどの力で絞め、被害者を殺害したことは強い殺意が認められる。また、怨恨等の事情がないことを考えると、現金を確実に奪いたいと考えたからとしか説明がつかない」と指摘。「被告人の公判供述は重要な部分において不自然、不合理な点が多数ある。佐藤被告が金を奪い取る意思で被害者を殺害したことは間違いない」と強盗殺人罪の成立を認めた。そして「被害者は佐藤被告に金を貸すなど便宜を図っていたにも関わらず、恩を仇で返され、精神的苦痛の甚だしさは察するに余りある」と述べた。一方で、「強盗と殺人のいずれについても計画性が高くないことなどを考えると、死刑を選択することがやむを得ないとは言えない」として検察の求刑通り無期懲役を選択した。 |
備 考 | 控訴せず確定。 |
氏 名 | 石田美実(64) |
逮 捕 | 2014年2月26日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人 |
事件概要 |
鳥取県米子市の元ラブホテル従業員、石田美実被告は2009年9月29日午後10時ごろ、9月中旬まで働いていた米子市内のラブホテルの従業員事務所で金品を物色中、支配人の男性(当時54)に見つかり、頭を壁にぶつけたり、首をひも状のもので絞めたりして意識不明の重体に負わせ、現金約26万8千円を強奪した。 鳥取県警は内部に詳しい人物の犯行とみたが、被害者の男性が意識を取り戻さないことから、慎重に捜査を続けた。 その後トラック運転手をしていた石田被告は2014年2月5日、別のクレジットカード詐欺で逮捕された。鳥取県警は2014年2月26日、石田被告を強盗殺人未遂、建造物侵入の両容疑で再逮捕した。 被害者の男性は暴行に基づく多臓器不全が基で2015年9月、60歳で死亡。鳥取地検は12月15日、石田被告について強盗殺人罪への訴因変更を地裁に請求。2016年2月15日付で認められた。 |
裁判所 | 広島高裁松江支部 久保田浩史裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2021年11月5日 無期懲役(被告側控訴棄却) 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
2021年8月27日の控訴審初公判で、弁護側が新たに二通の書類を提出し、無罪の間接証拠とするよう採用を求めましたが、検察側の拒否にあって撤回。無罪を主張した。検察側は控訴棄却を求め、即日結審した。 判決で久保田浩史裁判長は、事件直後に230枚の千円札を自分の口座に入金したことなどから被告を犯人だと認めた鳥取地裁判決を「論理則、経験則に照らして不合理ではない」と支持。さらに「別の者が犯人である可能性が抽象的なものにすぎず、合理的な疑いを入れる余地はない」と指摘した。 |
備 考 |
2016年7月20日、鳥取地裁の裁判員裁判で、求刑無期懲役に対し、一審懲役18年判決。起訴罪状である強盗殺人を否定し、殺人と窃盗を適用した。2017年3月27日、広島高裁松江支部で一審破棄、無罪判決。2018年7月13日、最高裁第二小法廷で高裁差し戻し判決。2019年1月24日、広島高裁で地裁差し戻し判決。上告せず、差し戻し確定。 2020年11月30日、鳥取地裁の差し戻し裁判員裁判で、求刑通り無期懲役判決。被告側は上告した。2023年3月28日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 久保木愛弓(34) |
逮 捕 | 2018年7月7日 |
殺害人数 | 3名 |
罪 状 | 殺人、殺人予備 |
事件概要 |
横浜市の大口病院看護師の久保木愛弓(あゆみ)被告は、以下の犯行を行った。
捜査は難航し、久保木被告も重要参考人として取り調べを受けた。2017年3月、久保木被告の看護服からベンザルコニウムが検出されるなど捜査が進み、2018年6月30日、被疑者として取り調べたところ点滴にヂアミトールを混入したことを自供。母親にも電話で犯行を告白した。7月7日、2人目の殺人容疑で逮捕した。7月28日、3人目の殺人容疑で再逮捕した。8月18日、1人目の殺人容疑で再逮捕した。 神奈川県警は11月30日、久保木被告が9月13日から18日の間に、入院中の男性(当時89)の点滴に消毒液を混入し、18日午後1時50分ごろに殺害したとして殺人容疑で追送検した。男性は一時病死と診断されたが、遺体から消毒液の成分が検出されたため、県警は専門家に遺体の一部の鑑定などを依頼。鑑定の結果、男性の死因も中毒死である可能性が高いと判断されたため、同課は立件に踏み切った。また未使用の点滴袋に消毒液を混入した殺人予備でも追送検した。 横浜地検は9月3日~12月3日まで鑑定留置を実施。12月7日、入院患者3人への殺人罪と、殺人予備罪の計4事件で起訴した。11月に追送検した別の男性患者についてと、1人分の殺人予備については不起訴とした。 |
裁判所 | 横浜地裁 家令和典裁判長 |
求 刑 | 死刑 |
判 決 | 2021年11月9日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。久保木被告の精神鑑定は2回実施されている。起訴前の鑑定は、発達障害の一つの自閉スペクトラム症(ASD)の特性があったが、動機形成の遠因に過ぎないと結論付けた。起訴後の鑑定では、事件当時はうつ病を患っており、統合失調症が発症し始めていたと判断された。 2021年10月1日の初公判で、久保木愛弓被告は「すべて間違いありません」と起訴内容を認めた。 検察側は冒頭陳述で、久保木被告は旧大口病院で主に終末期の患者が入院する病棟を担当していた2016年4月ごろ、容体が急変して死亡した患者の家族が医師と看護師を非難する場に居合わせ、「勤務時間中に患者が死亡すると責められるのでは」と不安を募らせたと指摘。同年7月ごろから、自分の勤務時間外に患者を死亡させようと、患者に投与予定の点滴袋に注射器で消毒液の混入を繰り返すようになったとした。検察側は起訴前鑑定を根拠に「正常な心理で行動した」と完全責任能力があるとした。 弁護側は、起訴後鑑定が信用できるとして「正常な思考能力が著しく低下していた」と主張。久保木被告は2015年5月に旧大口病院で働き始める前から抑うつ状態だったと説明。2016年3月ごろには死亡した患者の家族から激しく罵倒されてショックを受け、欠勤しがちになり、睡眠薬を多量に服用するようになったと主張した。そして被告が当時は統合失調症で、心神耗弱状態にあったと主張した。被告が最初に勤めた別の総合病院で、患者の死に直面して「自分の看護が行き届かなかった」と思い悩み、睡眠薬を服用するようになり退職したと説明。終末期の患者が多く入院する大口病院に転職した後も、事件発覚の約半年前、死亡した患者の家族から「この看護婦が殺した」と罵倒されてショックを受け、過食などの症状が出ていたと明かした。 4日の第2回公判で、埼玉医科大の専門医が出廷。3人とも消毒液「ヂアミトール」の成分「塩化ベンザルコニウム」が死因に影響していると証言した。裁判官の質問に対し、投与量が多いことから、終末期医療とは関係なく、命にかかわったと答えた。 5日の第3回公判で、東京医科歯科大学の法医学者が出廷。1人目の被害者は、報告されている死亡例の10倍以上のベンザルコニウムの濃度が血液から検出され、100%ベンザルコニウムによる死亡であると語った。2人目については、死因について薬物と基礎疾患が共同しているが、ベンザルコニウムの濃度が高くて単独でも死に至ってもおかしくなく、薬物が無くても数日内に死に至る可能性が高いが、ベンザルコニウムによって死期を早めたのは間違いないと語った。3人目については、死因について薬物と基礎疾患が共同しているが、ベンザルコニウムの濃度はかなり低いも、基礎疾患は数週間から1か月で死に至る状況であったことから、ベンザルコニウムによって死期を早めたと語った。 6日の第4回公判で、久保木被告の父親が出廷。母親の調書が読み上げられた。法廷で証言した後、父親は、事件の遺族らに「大変申し訳ありませんでした」と頭を下げた。 11日の第5回公判で、弁護側による被告人質問が行われた。被告は以前勤めていた病院で処置に手間取った際に患者の家族に責められ怖い思いをしたことがあったと供述。3人の殺害について「(消毒液の)ヂアミトールを入れて私がいない時に亡くなれば(家族に責められる)リスクを避けられると思った」と述べた。その上で、最初に女性が亡くなった時は「ほっとした気持ちが大きかった」と説明。その後、男性の点滴に消毒液を混入させたことについて「今考えると本当に恐ろしいのですが、当時はためらいはありませんでした」と述べた。殺害について問われた被告は「人としてやってはいけないことをしてしまった」と後悔の念を語り、捜査の開始で「正気に戻った」と振り返った。 12日の第6回公判で、検察側による被告人質問が行われた。久保木被告は、点滴に消毒液を混入する行為について「悪いことをしている認識はあった」としたが、3人目の被害者が死亡して警察の捜査が入るまで殺人にあたるという認識がなかったとした。その後、「大変なことをしてしまった」と事態の重大さに気づき「自分のしてしまったことが恐ろしかった」と思うようになったと語った。最初の被害者の事件の前に消毒液を混入したことがあるかと尋ねられると、久保木被告は「話したくありません」と回答を拒んだ。当時病棟にあった3種類の消毒液のうち、なぜ「ヂアミトール」を選んだのかと聞かれた被告は「無色で無臭だから」と説明。また、裁判官から、事件が露見しなければ、消毒液の混入を続けていたのではないかと問われると、「発覚して良かったと思っています」と静かに答えた。旧大口病院に就職した当初は夜勤が月5回程度だったが、徐々に増え、事件当時は月8回の頻度だったことについて家令裁判長から「体調が芳しくなかったことは夜勤が多かったことが要因なのか」と問われ「そうだと思う」と話した。 13日の第7回公判で、久保木被告の起訴前に精神鑑定を行った医師の証人尋問が行われた。医師は、起訴前に久保木被告への面会や家族への聞き取りで、被告が職場で人の名前を覚えづらかったことや高校時代に音に敏感だったことなどから、軽い「ASD(自閉スペクトラム症)」だったとする鑑定結果を述べた。ただ、この病気について犯行動機の遠因となったものの、「外部への攻撃性は特性ではない」としたうえで、計画や実行には全く影響がなかったと述べた。そのうえで「犯行計画を立て目的通りに実行し、犯行後は自己防衛もするなど一貫した行動をしている」と指摘した。 19日の第8回公判で、弁護側の請求で精神鑑定を行った医師の証人尋問が行われた。医師は、「犯行は当初の動機から逸脱していて、衝動的、短絡的であり統合失調症の典型的な行動パターンだ」と指摘。被告は犯行時にうつ状態で、統合失調症かその前兆となる症状が発症していたと考えられるとする鑑定結果を証言した。また、犯行が「幻聴、被害妄想と密接な関係を持つ根拠は認められない」としつつも、非合理的で短絡的な行動、問題行動は「潜行性の統合失調症あるいは前駆症状に基づく」との認識を示した。「軽い自閉スペクトラム症」とする別の医師の鑑定結果については、「幼少期に特徴が認められない」などとして否定した。検察官から入院時の主治医が被告について「世の中のゆがみをこの人に背負わせて、「はい、死刑」というのは正義なのか」と発言したかと問われ、あったと答えた。 20日の第9回公判で、被告を鑑定した犯罪心理学者への証人尋問が行われた。知能検査の結果、複数の項目で平均に及ばなかったといい、患者への対応を臨機応変に行うことが困難で「看護師という仕事の適性に関しては、厳しいものがあると考える」などと証言した。同日の被告人質問で、久保木被告は過去に戻れるならという弁護人の質問に対し、大口病院に入る前に戻り、看護師を辞めるべきだったと答えた。同日、遺族側の被告人質問が行われ、遺族の代理人から心境を問われた久保木被告は、「本当に申し訳ないことをしてしまったと思う」と改めて謝罪した。 22日の第10回公判で遺族6人が意見陳述し、「悔しくてならない。看護師の手によって命が奪われるなど絶対にあり得ない」「極刑を望む」などと話した。 同日、検察側は論告で、動機は終末期医療患者らが勤務時間中に死亡し、家族対応を迫られるのを避けるためだったと指摘。事件当時、久保木被告の発達障害は軽度で動機形成の遠因に過ぎず、事件には自己中心的で攻撃的な性格が大きく影響したとし、完全責任能力があったと指摘。「看護師という患者の生命や健康維持に尽くすべき職責がありながら、何ら落ち度のない3人を次々と殺害した。終末期患者の家族との残された時間や安らかに天寿をまっとうする権利を他人に奪われる理由はない。自己中心的かつ身勝手な犯行で、計画性も認められる。生命軽視の姿勢が表れている」と批判し、過去の判例に照らし「死刑を回避すべき事情はない」とした。 同日、弁護側は最終弁論で、久保木被告が容体の急変した患者の家族への対応を避けるために殺人を選んだとされる点を「思考の飛躍がある」と主張。事件当時に統合失調症を発症し始め、責任能力が大きく損なわれた心神耗弱状態にあったと反論。罪悪感と後悔の念を持ち、遺族にも賠償金200万円を支払い、謝罪したと述べた。そして極刑に処されるべき案件だが、被告は統合失調症の影響で事件当時、心神耗弱状態。仮にそうでなくても、本件は死刑がやむを得ないとはいいきれないとして、無期懲役が相当と訴えた。 最終意見陳述で久保木被告は、「かけがえのない大切な命を奪ってしまい申し訳ありません。罪の重さを痛感し胸が苦しくなる。死んで償いたいと思っています」と述べ、一礼した。 家令裁判長は11月9日の判決について「静粛に聞いてもらうため、判決内容にかかわらず主文は後回しにします」と宣告した。 判決で家令裁判長は、主文を後回しに判決理由の朗読から始めた。この中で被告の精神状態について「(発達障害の一種である)自閉スペクトラム症(ASD)の特性があり、うつ病の状態ではあったが、ほかのものは認められない。被告人には責任能力があると認められる。弁護側の主張は採用できない」と指摘した。また裁判長は、被害者3人のうち1人が終末期患者ではなかったことに触れ、3人が亡くなった結果を「苦痛の中で生命が奪われ、被害結果は極めて重大」とし、犯行の内容も「計画性があり、生命軽視の度合いが強い悪質な物と評価する以外にない」と言及、「動機も身勝手極まりないものでくむべき点はみあたりません」とも語った。その上で、動機の形成過程を検討。自閉スペクトラム症(ASD)の特性があり、臨機応変な対応が必要な看護師の資質に恵まれていないことや、久保木被告が「自分でも務まる」と考えていた大口病院の勤務内容が事前に聞いていたことと違っていた点、うつ状態だったことなどを「被告人の努力ではいかんともし難い事情が色濃く影響」と刑を軽くする理由として評価。久保木被告が法廷で自分に不利益な事情も素直に語ったことや、償い方が分からないと言っていたのに「死んで償いたい」と述べるに至った点から「更生可能性も認められます」と判断した。そして裁判長は「死刑を選択することにはちゅうちょを感じざるをえず、死刑を科するのことがやむをえないとまでは言えない。生涯をかけて罪の重さと向き合わせ、償いをさせるとともに更生の道を歩ませるのが相当であると判断した」と述べた。 |
備 考 |
同病院では事件後の2016年10月に市が立ち入り検査を行い、薬品保管庫の施錠の実施や防犯カメラの増設など13項目の指導項目の改善を指示。市によると、事件当時、台数の少なさが特に問題視された防犯カメラを12台以上増設するなどの対応が実施された。 同病院は2017年12月に「横浜はじめ病院」に改称した。2019年8月から休診している。2021年12月1日より、コロナ専門病院として開院する。 検察、被告側は控訴した。2024年6月19日、東京高裁で検察・被告側控訴棄却。上告せず確定。 |
氏 名 | レ・チュオン・ズオン(31) |
逮 捕 | 2020年9月15日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、建造物侵入、詐欺 |
事件概要 |
ベトナム国籍で無職のレ・チュオン・ズオン被告は2020年9月10日午前9時40~50分ごろ、前橋市のホテル敷地内で、経営者の女性(当時71)の背中を刃物で刺して殺害。ホテルの事務所に侵入し、現金約55,000円を奪った。 他に9月3日夜、大泉町から前橋市富士見町石井まで約40kmタクシーに乗り、乗車料金約1万2,000円を支払わなかった。 ズオン被告は群馬、長野、埼玉を移動。9月15日、東京都内の交番に出頭。県警は同日、タクシーに無賃乗車したとして詐欺容疑で逮捕。10月5日、強盗殺人と建造物侵入容疑で再逮捕。 ズオン被告は2018年10月、ベトナムに妻と3人の子どもを残し、技能実習生として来日。出国の際、現地の送り出し機関への手数料など総額200万円の借金をしていた。奈良県の金属加工会社で働いていたが、給料が低かったために失踪。2020年6月ごろ、ベトナム人コミュニティーを頼って群馬県を訪れ、大泉町や前橋市を拠点に生活していた。 |
裁判所 | 前橋地裁 山崎威裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2021年11月10日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2021年10月15日の初公判で、レ・チュオン・ズオン被告は「殺すつもりはなかった」と起訴内容の一部を否認した。また、詐欺についても「だますつもりはなかった」と否認した。 冒頭陳述で検察側は、「刺せば死亡する危険性が高いと分かっており殺意があった。出頭する前に警察はズオン被告を特定したため、自首は成立しない」と指摘した。一方弁護側は、「刺し傷が急所をはずれていることなどから、殺意はなかった。また、当時ホテルにいた人全員に話を聞き終える前にズオン被告は出頭しているので自首が成立する」と主張した。 26日の第2回公判で、遺体を司法解剖した医師が出廷。背中の肩甲骨の間を刺され、致命傷になったと説明。傷は約11.6センチと深く、硬くて切断は難しいとされる肋骨の一部が切断されていたとし、相当の強い力で刺されたと証言した。 27日の第3回公判で、争点である自首の成立を巡り、捜査を指揮した県警捜査1課の警視が当時の捜査状況を説明し、事件5日後に男が出頭するより前から「強盗殺人容疑で逮捕状を請求し、公開捜査を考えていた」と証言した。指紋の採取場所や現場の状況などから、男の出頭前だった9月12日の時点で「男を事件の犯人だと考えていた」と説明。その上で、翌13日には強盗殺人容疑での逮捕状請求を幹部会議で決定し、14日には県警本部長の決裁を得ていたと述べた。 一方の弁護側は、男の出頭時点で、県警は強盗殺人容疑での逮捕状を請求しておらず、事件当時にホテルにいた利用客らの調書が未作成だったと指摘した。 28日の第4回公判における被告人質問で、ズオン被告は「脅すために刺した。包丁は鍵をこじ開けるために持っていた」と述べた。また、被害者を包丁で刺した状況について「たばこを買いに行かせている間に金を盗もうと思ったが、なかなか行かないので、包丁で脅そうと思った」と語り、車へ向かう被害者の背後から刺したと説明した。殺意を否認するズオン被告に対し、検察側が「脅すためなら包丁を見せるだけでも良かったはずだ」とただすと、ズオン被告は「深く考えていなかった」「肩であれば、けがで済むと思った」などと繰り返した。元交際相手の女性が、ズオン被告が事件のことを電話で明かしたと証言していることについて、ズオン被告は「話していない。経営者の女性が亡くなったのは、出頭後の取り調べで初めて知った」と主張した。 11月2日の論告で検察側は「被害者の背後から危険な刃物を使って、肋骨を切断するほどの強い力で一撃に刺してほぼ即死させたことは、残虐で危険な犯行である。死亡する可能性が高いと分かっていた」と述べた上で、「犯行の動機や経緯は短絡的で身勝手で、罪を認めないことなどから反省が不十分である」とした。また、被告が交番を訪れる前から捜査の対象となっていて自首は成立しないと述べた。 同日の最終弁論で弁護側は、ホテルを利用したのは疲れた体を休めるためで犯行は計画的ではないと述べた。そして「ズオン被告は日本社会で孤立し金銭に困っている背景があり、犯行は急所ではない左の肩甲骨周辺を1回だけ刺していて、殺意はなかった」と述べ、有期懲役にするよう求めた。 最終意見陳述でズオン被告は、「被害者を死なせてしまい、大変反省しています。本当に申し訳ございません」と話した。 判決理由で山崎威裁判長は、刺し傷が11センチ以上の深さにまで達していたとして「人が死ぬ危険性が高いをことを認識しながら背後から強い力で刺しており、殺意があった」と述べた。事件後、被告は交番を訪れたが、防犯カメラの映像や事務所内から採取された指紋などから被告を捜査対象としており、「合理的根拠により、捜査機関は強盗殺人の嫌疑が極めて濃厚な人物とみていた」として自首は成立しないとした。その上で「なんの落ち度もない被害者が亡くなった事実は重大」「被告の供述はところどころ信用できず反省が十分とは言えない」などと述べた。詐欺罪についても山崎裁判長は「支払う意思がなかった」として、詐欺罪の成立を認めた。 山崎裁判長は判決言い渡しの後、「自分のしたことと向き合い、被害者の無念さや遺族の悲しみを一日も欠かさず考えて下さい」と説諭した。 |
備 考 | 控訴せず確定。 |
氏 名 | 眞境名宏(51) |
逮 捕 | 2020年5月26日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、強盗殺人未遂 |
事件概要 |
沖縄県糸満市の土木作業員、眞境名宏被告は2020年5月25日午前6時8分ごろ、那覇市のゲーム喫茶で客として入り、女性従業員(当時47)の首にカッターナイフを突きつけ、男性従業員(当時33)に「財布を出せ」と命じ、カウンターにそれぞれの財布を置かせた。さらに男性従業員に「お前、中に入れ」などとカウンター内の床に四つんばいになるよう要求。「あっち向け」などと左側に向かせた後、首の右側を切り付けて全治2週間の切り傷を負わせた。その後、男性従業員が店外に逃げた後、女性従業員の右腕と首の左側も切り付け、女性従業員を失血死させた。眞境名被告は現金30万6千円を奪って逃走した。 男性従業員が近くのコンビニに逃げ込み、通報した。店舗周辺の防犯カメラの映像解析や現場に残された指紋などから眞境名被告が浮上。眞境名被告は26日午前に県警豊見城署に出頭。任意の聴取に事件への関与を認めたため、強盗殺人容疑で逮捕した。 |
裁判所 | 那覇地裁 大橋弘治裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2021年11月12日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2021年10月25日の初公判で、眞境名宏被告は「殺害目的で強盗に入ったわけじゃない。それだけは言いたい」と、起訴内容の一部を否認した。 検察側は「生活に困窮していた被告は借金返済を迫られる中で、従業員を殺そうと考えた」「従業員を四つん這いにさせ抵抗できない状態だったにも関わらず切りつけた」と眞境名被告の殺意を主張。また争点となっている出頭について、検察側は、事件直後から犯人の可能性が高いと警察が把握していたとして「自首は成立しない」とした。 弁護側は有罪であることは争わないとしながらも、「従業員に抵抗されたためパニック状態に陥りとっさにカッターナイフを振ったもので致命傷になるところは狙っていない」として殺意を否定した。そして「強盗致傷罪、強盗致死罪が成立するにとどまる」と主張した。また争点の出頭について弁護側は犯人が誰かは判明していなかったとして「自首が成立する」とした。 26日の第2回公判で、女性の遺体を解剖した医師が出廷。女性が受けた主な傷は、右腕と首の2カ所だったとし「カッターナイフのような軽い刃物であれだけ深い傷を作るには、強い力が必要だ」と指摘した。検察側から、押し合いになった際に偶然当たってできるかと問われ、「偶然当たってできる傷ではないと思う」と述べた。 11月4日の公判における意見陳述で被害者それぞれの弁護士2人は被害者参加制度に基づき意見を述べ、いずれも死刑を求めた。 同日の論告で検察側は、被告が行きつけのゲーム喫茶店の現金を奪い、従業員を殺害しようと考えたと指摘。財布をもって逃げるのが可能な状態で、被害者2人をあえて死に至る危険性の高い箇所を複数回切りつけており、危険かつ執拗な犯行だと非難した。借金返済のための金欲しさに犯行に及んだとし「極めて身勝手で短絡的な犯行。酌量の余地は一切ない」と述べた。 同日の最終弁論で弁護側は、弁論でカッターナイフで脅すだけのつもりで、殺害の意図はなかったとし、強盗致死と強盗傷人の罪にとどまると主張として懲役20年が相当だとし、仮に強盗殺人罪などが成立したとしても、自首などにより減刑されるべきで、懲役30年が相当だとした。 判決で大橋弘治裁判長は「被害者が無抵抗だったにもかかわらず生死に直結する頸部を切りつけた。人を死亡をさせる危険な行為と認識した上で及んだ犯行だ」と殺意を認定した。そして「あまりに短絡的で人の命を軽視するもの」と断じた。 |
備 考 | 控訴せず確定。 |
氏 名 | 森岡俊文(60) |
逮 捕 | 2020年7月3日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、死体遺棄・損壊、詐欺 |
事件概要 |
広島市の鍼灸師、森岡俊文被告は、2020年3月25日、経営していた広島市西区の鍼灸院で、知人の広島市東区の女性(当時64)の首をネクタイのような物で絞めて窒息死させ、約2,300万円の返済を免れるとともに、保管していた現金約7,118万円を奪った。翌26日、女性の遺体を廿日市市の邸宅の敷地に運んで埋めた後、掘り起こしてチェーンソーなどで切断し、29日未明に同市玖島の山林に運んで埋めた。 他に森岡被告は2019年、療養費約46,000円を架空請求した。 広島県警は2020年6月14日、詐欺容疑で森岡被告を逮捕。逮捕直前の任意聴取で「穴を掘って遺体を埋めた」と供述したことから山林を捜索し、女性の遺体を発見した。7月3日、死体遺棄と損壊容疑で再逮捕。24日、強盗殺人容疑で再逮捕。 |
裁判所 | 広島地裁 三村三緒裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2021年11月24日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2021年11月15日の初公判で、森岡俊文被告はは罪状認否で「間違いありません」と起訴事実を認めた。 検察側は冒頭陳述で、森岡被告が2020年3月25日、しんきゅう院内で施術中の女性の首をネクタイで絞めて殺害。翌26日に遺体を車で廿日市市内の知人の別荘に運搬し敷地内に埋めた後、2日後の28日から29日にかけ、遺体を掘り起こしてチェーンソーなどで切断し、約10キロ東の市内の山林に車で運んで埋めたとする詳細な経緯を明らかにした。そして「一定の計画性のもと強固な殺意に基づいた犯行」で「強盗殺人後の行動が悪質」と主張した。 弁護側は、森岡被告が不眠症に悩み、事件当日も睡眠薬や飲酒を重ねていた、犯行の1年以上前から服用していた睡眠薬の影響などで、善悪を理解する能力が一定程度、減退していたなどと指摘。女性から借金返済を催促される不安から「たまたまあったネクタイで首を絞めた突発的な事件だった」と主張、死体を切断したことについては「強い意志があったわけではない」と主張し、計画性などを争う姿勢を示した。 17日の被告人質問で、森岡被告は犯行当時をふり返り、「あの時殺さなかったらお金の返済の追求から逃げることができないと思い込んでいた」と、話した。また、奪った現金の使い道は「全く考えてなかった」と話し、裁判官に借金返済を免れる以外に殺害する理由がなかったか問われると、「はい」と答えた。弁護側が森岡被告に埋めた遺体を掘り起こして移動させた理由を尋ると、「殺害現場から最初に遺体を埋めた現場まで運んだ際に使った車のカーナビの軌跡が残ることに気づき、遺体を掘り起こして別の車で運んだ」「埋めた穴から遺体を持ち上げられないと思い、切断した」と述べ、このときの心境を「気がおかしくなりそうだった」と振り返った。一方、検察側に遺体を移動させていつかは明るみになると思わなかったのかという質問に対し、「いつかはばれると思ったが、どうしようもないので、移動させた」と答えた。 18日日の公判で検察側は、「自らの命をもって償ってほしい」などと死刑を求める被害者の夫の意見陳述書を読み上げた。 同日の論告で検察側は、「嘘をついて大金を借り、クレジットカードの返済やハワイの滞在費などに使い果たした。返済を迫られることを危惧し、殺害するなら現金も奪おうと考えた動機は非常に身勝手かつ物欲的である」と指摘。「被害者の信頼を裏切って殺害しており、非道で悪質な犯行」と強調。さらに「遺体を運ぶためのボックスを事前に準備するなど一定の計画性があった」「犯行の発覚を免れるため、遺体を掘り起こして切断し、別の場所に運ぶなど強盗殺人後の行動も悪質」であるとした。 同日の最終弁論で弁護側は借金の返済をめぐって「心理的に追い込まれるようになっていった」と主張。「返済の追及から逃れられないとの強迫観念にとらわれ衝動的に犯行に及んだ」などとし、「睡眠薬と飲酒の影響があった。真摯に反省している」として有期刑の懲役25年が相当と主張した。 最終意見陳述で森岡被告は、被害者と遺族に対し、「謝っても謝り切れない」と述べた。 判決で三村裁判長は、「犯行前後を通じて合理的な行動をとっており、犯行前の睡眠薬の服用や飲酒の影響も限定的」と弁護側の主張を退けた。そして「多額の借金をするためについた嘘への追及を逃れる手段として殺害を選択することは、身勝手というほかなく、動機に酌量の余地は全くない」と指摘。「躊躇なく被害者を殺害し、別荘の敷地に死体を埋めるなど、強い非難に値する。犯行が発覚することを阻止する目的で、遺体を切断・運搬していて、強固な意志に基づく残酷な犯行。無期懲役では重過ぎると言える事情は存在しない」と断じた。 |
備 考 |
2020年8月1日、森岡俊文被告が事件で得た金と知りながら、広島市の森岡被告の自宅など3か所で現金6,700万円を受け取ったとして、森岡被告の姉(当時67)を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等収受)の疑いで逮捕した。広島地検は8月18日付けで不起訴処分とした。不起訴とした理由について広島地検は「情状全般を考慮した」としている。 控訴せず確定。 |
氏 名 | 小田浩幸(48) |
逮 捕 | 2020年5月6日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、窃盗 |
事件概要 |
広島市の会社員、小田浩幸被告は2020年5月2日、知人のアルバイト女性(当時49)が所有する広島市安佐北区内のリフォーム中の2階建て住宅で、睡眠薬を飲ませて抵抗できない状態にした女性の首を両手で絞めて殺害し、カード5枚を奪った。さらに奪ったキャッシュカードで現金87万5千円を引き出した。 5日夜、住宅を訪れた女性の息子が床にあおむけで倒れているのを発見し、119番した。 広島県警安佐北署署が交友関係を調べる中で小田被告が浮上。6日深夜、殺人容疑で小田被告を逮捕した。 広島地検は5月下旬から8月まで鑑定留置を実施。9月4日、刑事責任能力を問えると判断し、強盗殺人で起訴した。 |
裁判所 | 広島地裁 杉本正則裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2021年11月26日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2021年11月15日の初公判で、小田浩幸被告は「キャッシュカードを奪おうと思って殺したわけではない」と起訴内容の一部を否認した。 検察側は冒頭陳述で、「小田被告は殺害前にあらかじめ、暗証番号が書かれたメモを撮影し保存していた」などとして、「計画的な犯行で酌むべき事情はない」と指摘した。 弁護側は、「被害者から邪険に扱われ激しい怒りを覚えた。殺す時点でカードを奪う意思がなかった。当時は双極性障害の影響があり、善悪を判断できなかった」などと強盗殺人罪は成立しないと主張し、情状酌量を求めた。 17日の公判における弁護側の被告人質問で小田被告は「女性には可愛い娘と息子がいるのに殺してしまったことを深く反省している」と話し、事件の原因を問われ「双極性障害の病気のため」と述べた。一方、検察側の質問に対しては「事件後、脚立や手袋をそばに置き、女性が誤って転落したように見せかけようとした」と述べた。 19日の論告で検察側は、「小田被告は4時間足らずで、女性を殺害しカードを奪って事故死に見せかける偽装工作まで行っている。双極性障害の影響はほとんどない」と指摘。「計画的な強盗殺人であり強い非難に値する。被告人に真摯な反省は見られず遺族も厳しい処罰を求めている」などと述べた。 同日の最終弁論で弁護側は、「被告人は躁状態とうつ状態をくりかえす双極性障害で感情の起伏激しく、善悪の判断が一定程度低下していた。突発的に首を絞めたもので、殺害時に強盗の意思はなかった。その後にカードを奪うことを決意した」など、強盗殺人罪は成立しないとして懲役16年が相当と主張した。 判決で杉本裁判長は、「小田被告は犯行当日、女性を殺害する前に、預金口座の暗証番号が書かれたメモ紙の写真を携帯電話で撮影しており、預金を引き出す意図があったと認められる」などと指摘し、強盗殺人罪の成立を認定。「小田被告が女性に睡眠薬を飲ませて眠らせるなど、綿密な計画ではないにせよ、一定程度、計画的犯行といえる」と指摘。また、「被告の双極性障害は量刑を左右せず酌量減刑する事情はない。命が奪われた結果の重大性はいうまでもない」とした。 |
備 考 | 控訴せず確定。 |
氏 名 | 安東久徳(54) |
逮 捕 | 2019年11月27日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、殺人予備、銃刀法違反、公務執行妨害他 |
事件概要 |
愛知県江南市の無職、朝比奈久徳(旧姓)被告は2019年11月27日午後5時すぎ、兵庫県尼崎市の路上で、指定暴力団神戸山口組の男性幹部(当時59)にが居た飲食店の外から声をかけ、出てきたところ自動小銃で弾丸15発を撃ち、死亡させた。さらにその後、神戸山口組の別の幹部を殺害するため、自動小銃1丁と拳銃1丁、銃弾39発を所持し、京都市南区までレンタカーで向かった。 事件から約1時間後に京都府警南署員が京都市南区内で酷似した車を発見。職務質問をしようとすると朝比奈被告が署員に拳銃を向けたため、公務執行妨害と銃刀法違反の両容疑で現行犯逮捕した。 朝比奈被告は山口組傘下組織幹部だったが、山口組で取り扱いが禁じられている覚醒剤に手を染めたとして、2018年12月に「破門処分」を受けたとされる。2019年8月、覚せい剤取締法違反(使用)の罪で岐阜地検に起訴されたが保釈され、11月29日に岐阜地裁で判決が予定されていた。 殺害された男性は、2018年3月と2019年7月にも棒や傘で襲撃され、指定暴力団山口組系組員らが逮捕されていた。飲食店は男性の息子が経営していた。 山口組と神戸山口組の対立を巡っては、2019年4月に神戸市の路上で神戸山口組系幹部が山口組系組員に刺されて重傷を負う事件が発生。8月には神戸市の山口組系の組事務所前で組員が銃撃され、10月10日には神戸山口組系組員2人が射殺された(殺人罪で起訴されたM・T被告は、公判前の2020年12月31日に病死、70歳没)。 11月29日、殺人容疑で朝比奈被告を再逮捕。2020年2月3日、殺人予備で再逮捕。 |
裁判所 | 大阪高裁 和田真裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2021年11月29日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
2021年9月27日の控訴審初公判で、弁護側は「犯行は個人的なものにもかかわらず、一審の判決は暴力団関係者であることを前提としていて、量刑が不当」と主張し、有期刑を求めた。一方、検察側は控訴の棄却を求め、裁判は即日結審した。 判決で和田裁判長は、被告が市街地で自動小銃を至近距離から連射したのは「極めて危険な態様」と非難。組織的な背景を否定し、有期の懲役刑が相当とした被告側の主張を「周囲を巻き込む危険性があり、無期刑しか考えられない」と退けた。 |
備 考 |
事件後の2019年12月、山口組と神戸山口組は特定抗争指定暴力団に指定された。 朝比奈被告の懲役前科は7犯である。 2021年2月19日、神戸地裁で求刑通り一審無期懲役判決。裁判員裁判の対象からは除外された。被告は、控訴審が始まる前に養子縁組をしたため、姓が変わった。被告側は上告した。2022年4月6日、被告側上告棄却、確定。 |