ローレンス・トリート『クライムパズル』


ローレンス・トリート『クライムパズル 24のピクチュア・ミステリーゲーム』
(TBS出版会)




『クライムパズル』 『クライムパズル 24のピクチュア・ミステリーゲーム』

 作者:ローレンス・トリート
(1903年ニューヨーク生まれ。弁護士となるが、パリに移り、執筆活動をはじめる。絵解きパズルも、この頃から手がけた。「警察小説の父」と称され、45年にはアメリカ探偵作家クラブ(MWA)の創設に貢献。17本の長編と300本以上の短編を残したほか、TV脚本の執筆、『ミステリーの書き方』の編集など、多彩な活動を行い、エドガー賞を3度受賞。1998年死去。)
 イラスト:レスリー・カバーガ
 訳者:堀内一郎

 TBS出版会

 発売:1985年1月10日初版

 定価:980円(初版時)





(前略)
 ウィルバーは知る人ぞ知る、犯罪学の分野における稀有な知性のひとりなのだが、それは彼の趣味のほんのひとつにすぎない。本業は蝶類学で、蝶を見つけたと思うと、ところかまわず蝶を追いかけていく。不幸なことに、彼はメガネをかけていないときは近眼で、そのメガネをよくおき忘れる。その結果、いつも補虫網をもち、ウテセイサ・ベラの貴重な標本を探しているという口実があるとはいえ、女学生の寮、警察本部、銀行にさえ侵入して勇名をはせた。宣伝くさいことが嫌いで、それが彼の名を世間一般に十分知らしめない原因になっている。
 ウィルバーは、私と甥の小ぜり合いの結果として私がやろうとしていたことは、じつはパズルの本を作ることに他ならないと見抜くと、彼のノートを提供し、その中のどんな事件でも、もちろんさまざまな解決とともに使って構わないと申し出てくれた。私はチャンスにとびついた。
 使わせてもらったいくつかの例では、私はウィルバーの助けを少々かりて単純化を行った。そのどれもが非常にこみ入っていて、甥にはとうてい解けそうもなかったからだ。ついでながら、ウィルバーはいろいろなことを教えてくれた。犯罪学は厳密科学ではないとの指摘もその一例である。したがって、この本の諸事件は、確実性よりむしろ蓋然性に関している。それはまた現実の警察の方法でもある。
(中略)  事件はそれぞれ長い時間的順序で起こる。その経過にしたがって質問をひとつずつこなしていくやり方が、正しい解決に至るオーソドックスな方法である。しかし、自分がウィルバー・クラスの名探偵であると感じている読者は、質問をとびこし、一気に主要な質問に向かってもさしつかえない。どちらのやり方を選ぶにせよ、行きて喜こびを得られんことを。

(「はじめに」より)


  1. まず最初に物語を読むこと。最重要の手掛かりがここで与えられる。
  2. 答えようとしないで、すべての質問をまず一読すること。絵の中の何に注目すべきかというセンスを与えてくれるだろう。
  3. 絵を注意深く見ること。
  4. 鉛筆をとる。
  5. ひとつずつ順を追って質問に答える。もしあなたが初心者だったら、質問に答えながら前の答えをチェックしていくことが、正しい道を進んでいるかどうかを確かめることになり、有益だろう。推理力に自信のある人は、初歩的な質問ははぶいて、すぐさましまいの方の重要な質問に向ってもかまわない。
  6. 解決を見て、われながらよくできたと自賛するか、こんどはもっとうまくやろうと決意を新たにしてください。それからつぎのパズルに移る。
(「パズルの解き方」より)


 原題は『Crime and Puzzlement』、1981年に出版されている。
 「パズルの解き方」にもあるとおり、まずは説明文があり、事件のイラストが描かれている。次に「問題」として10問前後の問いが用意されている。この問いは二択or三択となっている。そして「問題」の最後で、犯人の名前ないし事件の真相を推理するという形になっている。それは今までの問いを答えていけば、推理することができるようになっている。設問は全部で24問。
 「まえがき」にもあるとおり、イラストを注意深くみればほとんどの「問題」を解くことができる。現場の状況を見ながらひとつひとつ推理して、事件の真相に迫るという形は実際の捜査に近く、常識的な推理の仕方が少しずつ身に付くようになっている。自信がある人なら、イラストだけからいきなり真相を暴くのも面白いだろう。
 解答の最後には、事件の皮肉な結末が書かれており、そのブラックユーモアぶりには笑えてしまう。
 推理を楽しむには格好の一冊。トリートは同様の趣向として『アビントン・フリス村事件簿 イラスト・ミステリー』などを著している。

 本書はのちに、『絵解き5分間ミステリー』として文庫化されている。ただし訳者は異なる。本書の訳し方は時代がかっていて、やや硬い。

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