ローレンス・トリート『アビントン・フリス村事件簿 イラスト・ミステリー』


ローレンス・トリート『アビントン・フリス村事件簿 イラスト・ミステリー』
(中央公論社)




『アビントン・フリス村事件簿 イラスト・ミステリー』 『アビントン・フリス村事件簿 イラスト・ミステリー』(新装版)

 作者:ローレンス・トリート
(1903年ニューヨーク生まれ。弁護士となるが、パリに移り、執筆活動をはじめる。絵解きパズルも、この頃から手がけた。「警察小説の父」と称され、45年にはアメリカ探偵作家クラブ(MWA)の創設に貢献。17本の長編と300本以上の短編を残したほか、TV脚本の執筆、『ミステリーの書き方』の編集など、多彩な活動を行い、エドガー賞を3度受賞。1998年死去。)
 イラスト:ジョージ・ハーディー
 訳者:土屋政雄

 中央公論社

 発売:1991年11月30日初版

 定価:1600円(初版時 税込み)





親愛なる読者の皆様
 ハンフリー・ブラック氏が惨殺されました。殺害現場はチューダー・クロース館。その不可思議な死の真相を解明するため、ぜひ皆様の力をお貸しください。

 このブラック氏という人物は、イギリスのある海辺の小村、アビントン・フリスの旧家の出身です。ある朝早く死体で発見されたのですが、警察はまだ犯人を割り出すにいたっていません。

 アビントン・フリス警察のディムウィディ巡査は次頁の6人の人物を疑っています。いずれもアビントン・フリス村の生まれか、同村に長年暮らしてきた、いわば地元の人たちばかりなのですが、その生い立ちや経歴に怪しい部分も多く、容疑者となる資格は十分といえましょう。

 ディムウィディ巡査は、彼が今まで警察官奉職中に取りあつかったすべての事件の中から、この6人の容疑者についての1冊の「事件簿」をつくりました。この「事件簿」には、6人の容疑者または彼らの近親者が何らかの形で関係したと考えられる、すべての事件が収められています。これらの事件の多くについては、ディムウィディ巡査なりに有罪または無罪の判断をしましたが、中には同巡査には判断しかねたものもあります。

 虚心たん懐に、この1冊の「事件簿」を子細に検討すれば、必ずやブラック氏殺害犯人も突き止められる……ディムウィディ巡査はそう信じて疑いません。お力添えを願うため、これから皆様にもその「事件簿」をご覧いただきますが、すべての事件は発生順に並んでいることをご承知おきください。ディムウィディ巡査が、老婆心ながら、事件の着眼点などを質問の形で書き添えてくれました。ベテラン警察官のことですから、目のつけどころなど、ずいぶんと参考になるのではないでしょうか。同巡査によれば、犯罪学は精密科学ではないのだそうです。
「事件に100%確実なことなどなにもない。あるのは可能性か確からしさだけなのだ」これが同巡査の口癖です。

読者の皆様は:

  1. メモ用紙と鉛筆をご用意ください。
  2. 事件記録を読み、現場の光景をじっくり観察してください。
  3. つぎに質問に答えてください。まず質問全部に目を通し、問題の要点をつかんでおかれるとよいでしょう。質問に答えるときは、できれば、どんな手がかりによってその答を得たかも明示してください。
  4. 質問の終わりに示されているページに、「答」があります。謎解きに地震がない方は、1つ答えるごとに「答」と付き合わせていかれるとよいでしょうし、ベテラン探偵を自認される方は、全部答え終わってから「答」に当たられるとよいでしょう。
  5. 質問に答えればそれで終わり、というわけではありません。まだ事件の真相解明という大仕事が残っています。巻末の「真相は?」ですべてが明らかにされますが、見事解明できた方は、おめでとうございます。できなかった方は、また次の事件でがんばってください。
幸運を祈ります。
(まえがきより)


 原題は『Cluedo,Armchair Detective』、1983年に出版されている。clueは手がかりとか糸口という意味である。1986年6月に中央公論社から出版された後、1991年に新装版が出版された。本書に載せている表紙画像は、新装版の方である。
 問題は全部で25問+エピローグの1問。まえがきに書かれているとおり、読者は事件記録を読み、用意されているイラストをじっくり観察する。次に問題として10問前後の問いが用意されている。この問いはYesNoもしくは三択となっている。そして「問題」の最後で、犯人の名前ないし事件の真相を推理するという形になっている。それは今までの問いを答えていけば、推理することができるようになっている。
 「まえがき」にもあるとおり、イラストを注意深くみればほとんどの「問題」を解くことができる。現場の状況を見ながらひとつひとつ推理して、事件の真相に迫るという形は実際の捜査に近く、常識的な推理の仕方が少しずつ身に付くようになっている。自信がある人なら、イラストだけからいきなり真相を暴くのも面白いだろう。
 解答の最後には、事件の皮肉な結末が書かれており、そのブラックユーモアぶりには笑えてしまう。
 イラストはすべてカラーで大きく描かれているから、手がかりを探す方もわかりやすい。
 推理する楽しさを味わうことのできる一冊である。
 イラストミステリーとしては、『絵解き5分間ミステリー』『絵解き5分間ミステリー 証拠はどこだ』に続く第三冊目にあたると思われる。日本での紹介順は全く異なるが。前2冊は、ただのイラストミステリーであったのだが、本作品は舞台・登場人物を統一させており、人物の流れを楽しむこともできる。
 他にも著作があるで、読んでみたいところである。

【その他の推理クイズ本作品リスト】に戻る