本書は「死刑の日本史」であって、「日本の死刑史」ではない。いつの時代にどのような死刑阿おこなわれていたのかという、百科事典的事実を無視するつもりはないが、死刑という刑罰はなぜ存在するのか、歴史の中でとらえ返したい。歴史は時代を映す鏡であり、よき教師になってくれるはずである。したがって、本書のテーマは、死刑を通して、歴史の中からいったい何がみえてくるか?――のひと言につきる。わたしは、歴史はもとより法律や刑罰についてもまったくの門外漢である。このような設問を立てることじたい無謀きわまりないかもしれないが、一市民の感覚をよりどころに、問題点を身近に引き寄せてとらえ返していくつもりである。
【目 次】
はじめに
第一章 日本的刑罰の誕生
1 『魏志倭人伝』と刑罰
2 スサノオはなぜ処刑されなかったのか
第二章 天皇の、天皇による、天皇のための死刑
1 『日本書紀』『古事記』にみる死刑
2 「モノマネ時代」の幕開け(奈良時代)
3 死刑なき時代の到来(平安時代)
第三章 武士の台頭とみせしめ刑
1 新しい権力機構の出現と死刑(鎌倉時代)
2 刑罰権の拡散(室町・戦国時代)
3 「みせしめ」としての死刑(江戸時代)
第四章 隠された死刑
1 「密行主義」の幕開け(明治時代)
2 「国体護持」の名のもとに(昭和前期)
第五章 現代の死刑と「外圧」
1 新憲法と死刑制度
2 死刑――孤立する日本
注
あとがき
フリージャーナリストとして活動している佐藤友之の作品。裏表紙に、「権力維持装置として機能している死刑制度を通して支配者と被支配者の関係を社会史にとらえる」とあるとおり、森川哲郎『日本死刑史』(日本文芸社)のような“死刑史”ではなく、死刑制度を通した日本史について語っている。そのため、史実として残されていない日本神話時代から語られている。
ある意味タブーとされそうな部分まで突っ込んで語ろうとするその努力は買うのだが、逆を言えば文献として残されていない部分まで語ってしまった分、自らの考えに引きずり込んでしまおうという意図がみえてしまうのが残念である。はっきり言ってしまえば、この人は死刑廃止論者であり、その観点に立った視点でしかものがみえていないという欠点である。批判精神は必要なものだが、そればかりにとらわれてしまうのは偏ったものの考え方になってしまう。死刑を権力維持装置と断定して批判するのであれば、なぜ鎌倉時代や室町時代はうまく働かなかったのか、等といった観点からも迫るべきであろう。特に平安時代になぜ死刑という刑が廃止されていたのかという点については、権力が長期間維持されていたという歴史を考える上でもっとページを割くべきであったと思われる。
新書で、しかも250ページしかないのに、神話から昭和の現代までの流れを一気に追いかけようとするならば、どうしても内容が薄くなってしまうのは仕方がない。結局さわりを紹介する程度のもので終わっているのは、少々残念なことであるが、本の性格上仕方がないかもしれない。
入門書以前の参考書という形でなら、見てもよいだろう。本当に勉強をするのであれば、もっと他の本に当たるべきである。
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