死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90編
『死刑囚90人 とどきますか、獄中からの声』(インパクト出版会)


発行:2012.5.23



【目 次】
死刑について考えるために 福島みずほ
刊行にあたって
死刑囚からあなたへ 第1部(アンケート回答)
死刑囚からあなたへ 第2部(アンケート回答)
このアンケートの公開まで
死刑確定者の現状――アンケートから
死刑囚の権利保障 再審と恩赦
「死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90」賛同人になってください
死刑廃止のための大道寺幸子基金について



 1989年に国連が採択した死刑廃止条約の批准を求めて活動している「死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90」が、2011年6月から8月にかけて全国の死刑囚120名(当時)にアンケートを送って、匿名を含めて90人から回答を得られたものを中心にまとめたものである。90名のうち、執行された人が2名いる。また1名は審議継続申立による未確定のためにアンケートの回答を辞退、もう1名は家族・被害者遺族のことを思ってアンケートを辞退している。
 アンケートからは死刑囚が抱えている様々な思い、叫びが見えてきて、非常に興味深い。罪を悔いるもの、冤罪を叫ぶもの、拘置所における処遇の不満を訴えるもの、淡々とした現状報告、死刑制度への怒り、死刑廃止の願い等々。そこにあるのは、滅多に聞くことのできない、死刑囚の生の声である。その声を聞いてどう思うかは読者の判断である。無罪主張を訴える人たちに嫌悪感を抱く人がいるかもしれないし、処遇の悪さを訴える声について図々しいと思う人がいるかもしれない。死刑廃止を叫ぶ人に、自分のやったことを省みずに何を言っているのかと怒る人もいるだろう。生きて償いたいという声に、何を償うんだと嘲笑する人がいるかもしれない。逆に死刑囚のそんな声に同情する人もいるだろう。罪を悔いる姿に感銘を受ける人がいるかもしれない。
 というのは前著『命の灯を消さないで 死刑囚からあなたへ』を読んで書いたものだが、本書も同様の内容となっている。ただ今回は、東日本大震災以後のアンケートということもあり、そのことにふれている死刑囚も多かった。
 前回も書いたが、実際に起こした事件を隠す(表に出さない)やり方は、少々問題ではないだろうか。死刑囚を知るのであれば、やはり死刑判決を受けた事件そのものについても触れるべきであろう。都合の悪いところを隠して、死刑反対を訴えるのはフェアではない。
 これを読んで、死刑存続派が死刑廃止に心を動かされることがあるだろうか。はっきり言って、ないだろう。死刑囚の声だけだったら、冤罪かどうかなどわからないだろう。本当に冤罪だと思うのなら、もっと本腰を入れて訴えるべきだと思うが、ごく一部の死刑囚を除き、そういう動きは見られない。また、普通の人から見たら、人を殺しておいて何を訴えているのだろうと思ってしまう。悪い意味で、死刑囚が誤解されると思うのだが、そういった点についてあの配慮は全く見られない。何はともあれ、死刑把握、死刑囚の言っていることは全部正しい、そういった観点からただ纏めてしまっただけの本であるため、彼らが訴える死刑廃止についての動きとは何も結びつかないというのは、まことに以て情けない話だ。
 死刑囚の処遇については、多分何を贅沢言っているのだ、と思ってしまうだろう。世間には何も食べられずにいる人もいる。それに比べて三食食べさせてもらっていて、何をわがまま言うのか、と思われる点も多い。
 こうしてみると、本当に反省していると思われる死刑囚が少ないことは残念だ。もちろん不満があるから声を上げるのであって、反省しかしない人は何の声を挙げないのかもしれない。いったいどうやって償うべきなのか、そういう点についてかられの声を聞いてみたいとは思う。

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