K・O『さらばわが友 正』
(現代史出版会/徳間書店)


発行:1986.6.25



 元カービン銃ギャング事件主犯で、一審死刑判決を受け、その後徹底的に勉強、知恵を絞り尽くしついに二審で軌跡の無期懲役を勝ち取った作者。25年の懲役後、仮出所したK・Oが東京拘置所内で出会い、言葉を交わした死刑囚たちの実体に迫る衝撃の一冊。紹介されている元死刑囚は以下。

 ・平沢貞道(帝銀事件)
 ・竹内景助(三鷹事件)
 ・正田昭(バー・メッカ殺人事件)
 ・李珍宇(小松川女子高校生殺人事件)
 ・本山茂久(雅樹ちゃん誘拐殺人事件)
 ・坂巻脩吉(鏡子ちゃん殺人事件)
 ・菊池正(雑貨商一家四人殺人事件)
 ・K・O(カービン銃ギャング事件)

 一度は死の淵にたったK・O氏の言葉なので、内容に重みがある。それは、主に美談で語られることの多い有名死刑囚の“真実”を、同じ立場にいる作者だからこそ語ることの出来るものだからである。死刑囚の実態は法務省によって徹底的に隠されている。有力支援者が着いている死刑囚のみ、ごく一部の実状が語られて本になっているが、死刑囚からの情報は拘置所により制限されており、全てを知ることはとても難しい。ましてや本人がどういう人物であるかを知ることは不可能といってもよいだろう。知ることの出来るのは、あくまでも新聞等によって伝えられる残虐なイメージのみである。
 ここで語られている実態が「死刑囚の真の姿」である保証はない。しかし、同じ死刑囚という立場にあったK・O氏の言葉であるから、かなり真実に近いものである。今まで語られている姿と違う部分が多いのに驚かされる。
 ただ、あくまでK・O氏の視点から書かれたものであるということは明記する必要があるだろう。一審求刑死刑であり、似たような立場にあった合田士郎氏から伝えられる彼らの姿とも、印象が異なる部分がある。それは心の距離の違いによるものであり、同時に人それぞれが持つ感覚の違いからも来るであろう。ただ、そのどちらもが真実であり、そして全てを伝えきっていないことも事実なのである。本当に語ることの出来る当の本人は、死刑台に昇るか、獄中のままの違いはあれど、既に全員があの世に渡っている。我々は残された手記や記録から、彼らの真の姿を想像するしかないのである。
 死刑囚だからこそ必ずしも全員が残虐非道な人間ばかりとは限らない。実際には気の弱い人間も多いのである。たとえ殺人を犯したことは事実であっても、心や姿までねじ曲げられて報道されるいわれはない。彼らにはもっと真実を語るチャンスを与えるべきである。例え残された時間がわずかであろうとも。

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