『別冊宝島410 殺人百貨店』(宝島社)


発行:1998.11.2



 挙げられている650の事件を、愛情、性、欲望、争い、怨嗟、不満、暴発、狂気、誤解、情、家族、学校・職場、世間、趣味、暴力、サイコと16の動機に分け、さらに細かく117の動機別に分けて紹介した一冊。日本人はどういう理由で人を殺すのか? 確かに隣人が、家族が、友人が、そして私自身がある日、人を殺さないという保証など、どこにもないのではないかと思わせるぐらい、殺人はすぐ隣に存在する。事件は元死刑囚や有名犯罪者など一部犯人を除いて仮名で紹介されているのは良心的である。
 事件数が多いという点については資料としての価値は充分にある。しかし、『特集アスペクト38 実録戦後殺人事件帳』(アスペクト)のように年代別ではなく、ジャンル別にしたため、いざ調べようとしてもなかなか目指す事件にたどり着けないというのはやや難点。動機の区分にしても便宜的なものであり、本当にこのカテゴリーで正しいのかどうかという点についても疑問は残る。殺人の動機というものは、必ずしも“怨み”や“金銭”など簡単に区別できるものではなく、それらが複合して生じる行為であることが多いからだ。とはいえ、これだけの事件数を多岐に渡ってジャンル分けしようとする試み自体は評価できる。むしろ、この点については評価が高いと言い直した方がよいだろう。またあまり知られていない事件についても調査してあるのはさすがと言えよう。パッと調べるには不向きかも知れないが、事件百科としての機能は充分に持っている。動機別に区分したため、あまり知られていない事件を取り上げられたという利点がある分、有名事件が洩れるといった欠点もあるが、殺人事件を調べるときに手元に置く一冊としてはかなり便利なものである。

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