地裁判決(うち求刑死刑) |
高裁判決(うち求刑死刑) |
最高裁判決(うち求刑死刑) |
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18(0) |
9(0)+2※ |
12(3)+8※ |
氏 名 | 竪山辰美(53) |
逮 捕 | 2009年11月17日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 住居侵入、強盗強姦未遂、強盗致傷、強盗強姦、監禁、窃盗、窃盗未遂、強盗殺人、建造物侵入、現住建造物等放火、死体損壊 |
事件概要 |
住所不定、無職竪山辰美被告は2009年10月20日夜から21日の間、千葉県松戸市に住む大学4年の女性(当時21)宅に窓を割って侵入。21日午前10時15分過ぎ、帰宅した女性(当時21)に包丁(刃渡り約17.6cm)を押しつけ、両手首をストッキングで縛り、現金約5,000円、キャッシュカード2枚、クレジットカード2枚等を奪って暗証番号を聞き出すとともに、午後1時頃、女性の胸を包丁で突き刺して殺害した。10月21日午後1時30分頃、松戸駅のATMにて現金20,000円を搾取。その後も駅やコンビニのATMで現金を引き出そうとしたが、暗証番号が一致しなかったり、残高不足だったりしたため、断念した。さらに22日、女性方にベランダの無施錠窓から侵入。犯行を隠すため、死体付近の衣類にライターで火を放ち、同室内の床、壁など約24m2を焼損、同時に死体を焼損した。同日午後8時20分ごろ、女性の知人がマンションを訪れて火災に気づいて110番通報し、事件が発覚した。 竪山辰美被告は他に以下の事件で起訴されている。
竪山被告は2009年9月に約46万円を持って北海道の刑務所を出所し、あてもなく上京。キャバクラなどで15万円を使ってしまい、金が無くならないうちにと佐倉市で留守宅を見つけ空き巣を働いた。以後、窃盗事件等を繰り返していた。 |
裁判所 | 最高裁第二小法廷 千葉勝美裁判長 |
求 刑 | 死刑 |
判 決 |
2015年2月3日 無期懲役(検察・被告側上告棄却、確定) 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
伊能和夫被告の最高裁決定と一緒に決定が出た。 千葉勝美裁判長は、死刑を適用する前提として、慎重さと公平性の観点から「過去の裁判例の集積を検討して得られた共通認識を議論の出発点とすべきだ」と指摘。「これは裁判官のみで構成する裁判でも裁判員が参加する裁判でも変わらない」と強調した。さらに、死刑を選択する際に考慮すべき要素として、犯行の動機や計画性、殺害方法、被害者数や前科など具体的な項目を挙げ、「死刑は究極の刑罰で、過去の裁判例の検討が不可欠。死刑の選択がやむを得ないという具体的で説得的な根拠を示す必要がある」とした。そして「一審判決は、死刑選択はやむを得ないとする根拠を示しておらず、死刑を破棄した二審判決が不当とはいえない」と述べた。 さらに本件について、被害者が1人で計画性も低いと指摘。さらに、死刑判断の根拠の一つとなった、事件前後の複数の強盗強姦事件などについては「これらの事件は人の命を奪おうとした犯行ではない」とし、死刑選択の理由にならないとした。 裁判官3人全員一致の意見。検察官出身の小貫芳信裁判官は審理を回避し、寺田逸郎長官は慣例で加わらなかった。裁判官出身の千葉勝美裁判長は「過去の例を共通認識として死刑か否かを判断すれば、健全な市民感覚が生かされる」と補足意見を述べた。 裁判員裁判の死刑判断が二審で覆ったケースに対する最高裁の初判断となる。 |
備 考 |
竪山辰美被告は1984年に起こした強盗強姦事件で懲役7年の判決を受け服役し、1992年に出所。結婚して働いていたが、2002年4月に神奈川県内のアパートに侵入して、20歳代女性を殴って現金60,000円とキャッシュカードなどを奪う強盗致傷事件を起こして懲役7年の判決を受けた。 2011年6月30日、千葉地裁(波床昌則裁判長)の裁判員裁判で、求刑通り一審死刑判決。2013年10月8日、東京高裁で一審破棄、無期懲役判決。 |
氏 名 | 伊能和夫(64) |
逮 捕 | 2010年1月20日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、住居侵入 |
事件概要 |
住所不定無職、伊能和夫被告は2009年11月15日午後3時ごろ、東京都港区のマンションで金品を強奪するために飲食店経営の男性(当時74)方に侵入。部屋にいた男性の首を刃物で突き刺すなどして殺害した。 伊能被告は事件後に地下鉄で台東区内に移動し、同16日夜に上野公園前で酒に酔って暴れているのを上野署員に保護された。翌17日に上野署を出たが、同署前の掲示板に投石し、器物損壊容疑で現行犯逮捕された。その後、伊能被告の靴底に男性のものとみられる微量の血痕が付着しており、マンションの手すりには伊能被告の指紋があり、付近の防犯カメラに伊能被告と酷似した男が写っていたことから、伊能被告を強盗殺人容疑で2010年1月20日に再逮捕した。 伊能被告は2009年5月15日に満期出所し、埼玉県内の生活保護受給者用施設で寝泊まりしたり、建設現場で働いたりしていたが、事件当時は仕事をしていなかった。 |
裁判所 | 最高裁第二小法廷 千葉勝美裁判長 |
求 刑 | 死刑 |
判 決 |
2015年2月3日 無期懲役(検察・被告側上告棄却、確定) 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
竪山辰美被告の最高裁決定と一緒に決定が出た。 千葉勝美裁判長は、死刑を適用する前提として、慎重さと公平性の観点から「過去の裁判例の集積を検討して得られた共通認識を議論の出発点とすべきだ」と指摘。「これは裁判官のみで構成する裁判でも裁判員が参加する裁判でも変わらない」と強調した。さらに、死刑を選択する際に考慮すべき要素として、犯行の動機や計画性、殺害方法、被害者数や前科など具体的な項目を挙げ、「死刑は究極の刑罰で、過去の裁判例の検討が不可欠。死刑の選択がやむを得ないという具体的で説得的な根拠を示す必要がある」とした。そして「一審判決は、死刑選択はやむを得ないとする根拠を示しておらず、死刑を破棄した二審判決が不当とはいえない」と述べた。 さらに本件について、被告が過去に妻子を殺害し懲役20年の刑を受けた前科を一審が重視した点に言及。殺人罪で服役後、被害者1人の強盗殺人をした場合は、前科と再犯との関連や再犯に至った経緯などを考慮すべきだとの判断を示し、被告の前科については「口論の末に妻を殺害し、子の将来を悲観し無理心中しようとした事件で、強盗殺人とは関連が薄い」と判断。「服役後も更生の意欲を持って就職したが前科が影響して続かず、自暴自棄になったとみるのも可能」として、過度に重視すべきではないとの見方を示した。 裁判官3人全員一致の意見。検察官出身の小貫芳信裁判官は審理を回避し、寺田逸郎長官は慣例で加わらなかった。裁判官出身の千葉勝美裁判長は「過去の例を共通認識として死刑か否かを判断すれば、健全な市民感覚が生かされる」と補足意見を述べた。 裁判員裁判の死刑判断が二審で覆ったケースに対する最高裁の初判断となる。 |
備 考 |
伊能和夫被告は1988年11月5日正午ごろ、妻(当時36)が浮気をしていると疑って詰問、口論となり、カッとなって台所にあった包丁(刃渡り23.5cm)で刺殺した。その後、妻を殺したことで将来を悲観、子供と心中しようと同日午後8時ごろ、長男(当時8)と二女(当時3)の口に都市ガスのゴムホースを押しつけるなどした上、室内に灯油をまいて放火。二女を焼死させ、自分は自宅ベランダから約15m下の芝生に飛び降り1か月の重傷を負った。長男はベランダから近くの人に助けられ無事だった。 殺人、殺人未遂、現住建造物等放火などの罪で起訴。1989年11月30日、千葉地裁で懲役20年(求刑同)の判決が言い渡された。控訴後、1990年1月25日に取下げ、確定。 2011年3月15日、東京地裁(吉村典晃裁判長)の裁判員裁判で、求刑通り死刑判決。2013年6月20日、東京高裁で一審判決破棄、無期懲役判決。裁判員裁判の死刑判決が破棄されたのは初めて。 |
氏 名 | 池田薫(38) |
逮 捕 | 2010年4月15日(死体遺棄容疑。5月6日、強盗殺人容疑で再逮捕) |
殺害人数 | 3名 |
罪 状 | 強盗殺人、死体遺棄 |
事件概要 |
建設会社従業員である池田薫被告は、同社従業員松原智浩被告、リフォーム会社従業員伊藤和史被告、愛知県西尾市の廃プラスチック販売業S被告と共謀。2010年3月24日未明、松原被告が勤める建設会社の実質経営者であり、長野市に住む韓国籍の男性(当時62)方2階で、男性の長男(当時30)に睡眠導入罪を混ぜた雑炊を食べさせて眠らせた。同日午前8時50分頃、長男の様子を見に来た長男の内妻(当時26)が昏睡していることに気付いたため、内妻の首をロープで絞めて殺害。その後、寝室で昏睡していた長男を殺害した。9時25分頃、自室のソファで寝ていた男性を絞殺し、現金約416万円を奪った。さらに3人の遺体を運び出し、長野市内でトラックに積み替えた後、25日午前に愛知県西尾市内の資材置場の土中に埋めて遺棄した。その後、男性の車を関西方面に走らせて3人が失踪したように見せかけ、奪った現金は4被告で山分けし、飲食代や他の借金返済に充てた。 内妻殺害は松原被告と池田被告、長男殺害は伊藤被告と松原被告、男性殺害は伊藤被告と松原被告が実行している。睡眠導入剤や死体遺棄場所、トラックなどは報酬目当てで参加したS被告が提供した。 男性は松原被告、池田被告が勤める建設会社ならびに伊藤被告が勤めるリフォーム会社、金融業などを経営。松原被告、伊藤被告は男性方へ住み込みをしていた。S被告は男性の知人だった。 松原被告は2004年頃、男性宅の内装工事を頼まれたときに金銭トラブルが起きて借金を背負い、男性宅に住み込んで働いていた。池田被告は2009年頃まで長野市内で居酒屋を経営していたが、開店資金を男性から借りていた。S被告は男性の会社と取引があり、伊藤被告に誘われた。 3月末に男性の親族より3人の捜索願が出たことから、長野県警は男性の自宅周辺などを捜査。4月8日、男性が実質経営するリフォーム会社が借りている長野市の貸倉庫周辺で異臭がするとの情報を入手。10日、貸倉庫内から長男の知人男性の他殺死体が見つかった。一方、県警は松原被告らを事情聴取。供述に基づき4月14日夜、資材置場から3人の遺体を発見。15日未明、4被告を死体遺棄容疑で逮捕した。5月6日、強盗殺人容疑で再逮捕した。 知人男性の遺体については、伊藤被告、H被告が死体遺棄容疑で起訴された。凶器が見つからず、遺体の損傷も激しくて傷の特定も困難なことから、殺人については起訴が見送られた。また長男も殺人容疑で書類送検されている。 |
裁判所 | 最高裁第三小法廷 大橋正春裁判長 |
求 刑 | 死刑 |
判 決 | 2015年2月9日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | 被告側は量刑不当を理由に上告した。 |
備 考 |
松原智浩被告は2011年3月25日、長野地裁(高木順子裁判長)で求刑通り死刑判決。2012年3月22日、東京高裁(井上弘通裁判長)で被告側控訴棄却。2014年9月2日、最高裁第三小法廷(大橋正春裁判長)で被告側上告棄却、確定。 伊藤和史被告は2011年12月27日、長野地裁(高木順子裁判長)で求刑通り死刑判決。2014年2月20日、東京高裁(村瀬均裁判長)で被告側控訴棄却。被告側上告中。 S被告は2012年3月27日、長野地裁(高木順子裁判長)で懲役28年判決(求刑無期懲役)。2013年5月28日、東京高裁(村瀬均裁判長)で強盗殺人罪の共謀を認めた一審長野地裁の裁判員裁判判決を破棄、ほう助罪にとどまると判断して懲役18年判決。2013年9月30日、最高裁第一小法廷(山浦善樹裁判長)で被告側上告棄却、確定。 2011年12月6日、長野地裁(高木順子裁判長)の裁判員裁判で求刑通り死刑判決。2014年2月27日、東京高裁(村瀬均裁判長)で一審破棄、無期懲役判決。東京高検は2014年3月12日、「裁判員裁判重視の立場に変わりはないが、先の2例と比べ、二審判決が著しく不合理とする理由がなかった」として、上告を断念すると発表した。 |
氏 名 | 冨永良男(76) |
逮 捕 | 2014年7月20日 |
殺害人数 | 2名 |
罪 状 | 殺人 |
事件概要 |
三重県四日市市の冨永良男被告は2014年7月16日午前8時半ごろ、離婚調停中の妻(当時72)が身を寄せていた義弟(同69)が住む大分市の県営住宅で、2人の胸や腹などをダガーナイフで多数回刺し、殺害した。妻は2014年3月ごろ、弟の家に転居していた。 冨永被告は事件発覚時現場にいたが、自殺を図ったとみられる切り傷が首などにあり入院した。20日に退院し、逮捕された。 |
裁判所 | 大分地裁 真鍋秀永裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年2月23日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2015年2月17日の初公判で、冨永良男被告は起訴事実を認めた。 検察側は冒頭陳述で「離婚調停中の妻に対して財産分与をめぐって腹を立て、妻と、かくまっていた義弟を殺害した計画的な犯行」と主張。弁護側は「不在だと思っていた義弟の殺害は場当たり的な犯行で、計画性が高いとは言えない」と訴えた。 19日の論告で検察側は「離婚調停で財産分与を巡って腹を立てた身勝手、理不尽極まりない。義弟の胸や腹に8カ所、妻の背中などに15カ所の刺し傷があった。無抵抗の2人を一方的に何度も刺している。下見や凶器を準備するなど計画的なうえ無抵抗の2人を何度も刺して殺害するなど執拗かつ残忍な犯行」と述べた。一方、弁護側は「調停で妻に身に覚えのない暴力行為を主張されて裏切られたと思った。妻への強固な憎しみに支配されていたとはいえ、非人間的な犯行とまでは言えない。綿密な計画性もなかった。自首が成立し反省している」と無期懲役または有期刑を求めた。 判決で真鍋裁判長は「離婚調停での妻の発言から、自分をおとしめてまで財産を奪おうとしていると決めつけ、怒りや憎しみを募らせた。複数の凶器を用意し、2人の旨や背部をめった刺しにした残忍な犯行。妻を殺害するため、その弟を躊躇することなく殺害している。確実に殺害することを意図した執拗で残忍な態様、身勝手で理不尽極まりない」と述べる一方、「離婚を求められ、冷静に受け止められないまま感情に任せて及んだ。弟については事前に殺害を意図していたわけではない。綿密な計画に基づくものとは言えない。自殺を図ったが死にきれず自首をしている」と指摘。「2人の尊い命が奪い去られた結果は重大だが、死刑に値するとまでは言えない」と述べた。 |
備 考 | 控訴せず確定。 |
氏 名 | 桜井正男(67) |
逮 捕 | 2014年5月14日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、銃刀法違反 |
事件概要 |
群馬県みなかみ町の陶芸家、桜井正男被告は2014年5月3日午後4時ごろ、東京都国立市の古美術品店で、男性店主(当時73)の胸や腰を小刀で刺して殺害し、現金84000円やつぼなど20点(合計約110万円相当)を奪った。そして店の前に止めたワゴンに壷などを載せ、桜井被告の妻(当時49)に運転させて逃走した。桜井被告は過去に20回程度、自分が作製したつぼなどを男性に売りつけていた。 同日午後6時以降に男性が電話に出なかったことから、不審に思った妻が午後8時50分ごろ、店を訪れて発見した。 5月14日、警視庁立川署捜査本部は強盗殺人容疑で桜井被告と妻を強盗殺人容疑で逮捕した。6月3日、東京地検立川支部は桜井被告を起訴した。同日、桜井被告の妻に対し、強盗殺人容疑については嫌疑不十分、証拠隠滅容疑は起訴猶予でいずれも不起訴とし、同日釈放した。同支部は「起訴するに足りる証拠を得られなかった」としている。 |
裁判所 | 東京地裁立川支部 菊池則明裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年2月23日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2015年2月13日の初公判で、桜井正男被告は刺したことは認めたが、「殺すつもりはなく、品物も自分からよこせと言っていないので強盗をしたとは思わない」と述べ、起訴内容の大部分を否認した。 検察側は冒頭陳述で桜井被告が約600万円の借金などで生活に困っていたと説明。「カネを手に入れるためだった」と述べた。奪った品の一部を売却していたことも指摘した。弁護側は「店で焼き物用の塗り蓋を買った後、男性と話している間に行き違いが生じ、かっとなって刺した。金品を奪うためではなく、殺意もなかった。品物は贈与された」として傷害致死罪にとどまると主張した。 19日の論告で検察側は、「事前に繰り小刀を準備しており、財物を奪う意図があったことは明らか。体の枢要部を深く刺し、刺し傷は深さ約9cmで強い殺意が認められる。刺した後に古美術品を何度も車に移している」と強調。「財物はもらったもので、殺意はなかった」とする弁護側の主張は「不自然で全く信用できない」とした。 同日の最終弁論で弁護側は、「かっとなり刺した事件で、小刀は護身用に持っていた。持ち出した古美術品はもらったもの。桜井被告は(今回の被害品以外に)多数の美術品や現金があったのに手をつけていない」などとして、傷害致死罪が相当と訴えた。 判決で菊池則明裁判長は「心臓がある左胸を刺したのは強固な殺意があったから。桜井被告は借金を目的の一つとして、刃物を持って店に行っており、店主に桜井被告へ商品を贈与する理由は見当たらない」と弁護側主張を退けた。そして「生命尊重の念が全く感じられない残虐な犯行で、真摯な反省は認められない」などと指摘した。 |
備 考 | 被告側は控訴した。2015年7月17日、東京高裁で被告側控訴棄却。2015年10月16日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 中田富士夫(50) |
逮 捕 | 2012年11月21日(窃盗容疑。2013年3月19日、強盗致死容疑で再逮捕) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗致死、住居侵入、窃盗 |
事件概要 |
住所不定のタトゥーアーティスト中田富士夫被告は1996年7月24日午後4時40分ごろ、金の無心のため浜松市の父(当時58)宅に鍵業者に解錠させて侵入。父の顔や腹に殴る蹴るなどの暴行を加えて出血性ショック死させたうえ、キャッシュカードが入った財布を奪って翌25日、同市内にある銀行の現金自動預け払い機(ATM)から計184万円を引き出して盗んだ。 静岡県警は、父親に金を無心していた中田被告に任意同行を求めたが応じず、中田被告は8月4日に中国・上海に出国へ出国し行方が分からなくなった。中田被告は東南アジアを転々。2012年8月、マレーシア当局から連絡があり、中田被告がトラブルを起こして現地警察の調べを受けた際、旅券不所持が明らかになり不法滞在容疑で逮捕されていた。同国で約3カ月間、刑務所に入っていたという。11月21日、マレーシアから航空機で中田被告を移送中、機内で県警捜査員が窃盗容疑で逮捕状を執行した。窃盗罪の公訴時効は7年だが、中田被告は外国にいたため停止している。 窃盗罪に問われた中田被告は2013年1月24日、静岡地裁浜松支部(青沼潔裁判官)で初公判が開かれた。検察側は「関連事件で追起訴する可能性がある」と述べたため、弁護側は「後発の事件への検察官の主張を見ないと対応を決められない」として、罪状認否を保留した。 県警は3月19日、中田富士夫被告を強盗致死容疑で再逮捕した。 |
裁判所 | 東京高裁 八木正一裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年2月25日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 | 被告側は一審同様、無罪を主張。 |
備 考 |
静岡県警は2013年4月10日、被害男性が着ていたシャツやズボンなど11点と、中田被告とみられる人物がATMから現金を引き出す様子を記録したビデオテープ2本の計13点を紛失していたと発表した。という。県警捜査1課は「被疑者は起訴され、証拠品紛失による立証上の支障もない」としている。 2014年7月18日、静岡地裁浜松支部の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2017年5月8日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 菅田伸也(36) |
逮 捕 | 2009年10月26日 |
殺害人数 | 2名 |
罪 状 | 殺人、強盗殺人幇助、営利誘拐幇助、逮捕監禁幇助 |
事件概要 |
【東京都暴力団組員殺人事件】 笹本智之被告と菅田伸也被告、事件当時少年被告(当時19)は1999年1月31日午前9時頃、暴力団組員の男性(当時31)が住む東京都中野区内のアパートで、就寝中の男性の顔や頭を菅田被告が鉄パイプで殴り、当時少年被告がロープで首を絞め、殺害。遺体を仙台市太白区内の山林へ遺棄した。男性は、当時笹本被告が所属していた暴力団幹部の組織だった。男性の遺体は2009年7月、仙台市太白区の山林で白骨化して見つかった。 ※ただし、事件当時少年被告と菅田伸也被告は無罪判決が確定。 【亘理町自衛官保険金殺人事件】 菅田伸也被告、Y被告、SH被告、千葉県習志野市の会社員SM被告は、2000年8月6日、宮城県亘理町に住む自衛官の男性(当時45)方で、男性の首を絞めるなどして殺害した。妻のまゆみ被告は「外出先から戻ると、夫が台所で首をつっていた」と警察官に説明していた。県警は、遺体の首付近に血痕が付着しているなど不審な点はあったが、目立った外傷はなかったため、検視で自殺と断定。司法解剖はしなかった。菅田被告はまゆみ被告が仙台市内の飲食店でホステスをしていた時の客であり、殺人はまゆみ被告が菅田被告ら4人に持ちかけたものであった。まゆみ被告は菅田被告らへの報酬として、保険金からそれぞれ数百万円を支払った。ただしまゆみ被告は、その後も事あるごとにカネをせびられた。 刑事部長は逮捕当日、検視に誤りがあったことを認め、「誤認検視の絶無に取り組む」とのコメントを出した。 【仙台市男性強盗殺人事件】 笹本智之被告は菅田伸也被告、KH被告と共謀。2004年9月3日夕方、東京都の井の頭公園付近で、拳銃の取引をするなどと偽って誘い出した仙台市青葉区の風俗店経営の男性(当時30)を車に乗せ、顔に粘着テープを巻き付け両手に手錠をかけて監禁。茨城県内の貸別荘を経由し、同月4日午前10時半ごろに仙台市太白区秋保町の山林に着くまで連れ回し、11時半頃に男性の首をロープで絞め、頭をバールで殴るなどして殺害。死体を遺棄した後、同日夜から6日ごろまでの間、男性の自宅金庫から現金約5000万円と預金通帳数冊を奪った。KA被告とSN被告は東京都内から茨城県の貸別荘に向かう乗用車内や別荘での暴行に加わり、更に現金60万円を奪った。SH被告も都内から茨城県、更に仙台市の山林までの監禁に共謀した。 笹本被告は男性と高校時代からの友人で、男性の経営する貸金業を手伝っていた。笹本被告は「子分のように使われた」と供述しており、給料が少ないことに不満をもち、知人らとともに金を奪うことを計画した。 [逮捕に至る経緯] 笹本智之被告は2006年10月16日に「仙台での男性暴行事件」(過去の事件参照)で逮捕監禁容疑で逮捕された後、取り調べの中で仙台市の不明男性の名前を挙げ、「男性を殺害し、(仙台市太白区の)秋保の山林に埋めた。金庫の鍵を奪って金を盗んだ」と暴露。さらに2007年6月25日に開かれたNK被告の公判で、証人として出廷した弟被告(当時)が弁護人の尋問で「兄から人を殺したことがある。○○(男性)の件で」との質問を肯定。さらに家へ3000万円を持って戻ってきたと答えた。宮城県警は、笹本被告らの供述は信憑性が高いと判断。2006年11月に犯行グループの1人が指し示した場所を掘り返した、男性のものとみられる毛髪などを採取したが、他には何も見つからなかった。同じ場所は2009年6月にも再度掘り返しているが、同様の結果であった。しかし4月下旬から5月上旬、笹本被告らが男性を連れ回したという東京都内の繁華街や茨城県内の貸別荘などに捜査員を派遣し、「供述だけではない証拠が得られた」(捜査幹部)として、遺体が未発見のまま営利誘拐と逮捕監禁容疑での逮捕に踏み切る。 宮城県警は2009年8月13日、営利誘拐と逮捕監禁容疑で受刑中の笹本智之被告とKH被告、菅田伸也被告、KA被告、SN被告の計5人を逮捕。仙台地検は31日、5人を同容疑で起訴した。 10月26日、宮城県警は笹本被告、KH被告、菅田被告、KA被告の4人を強盗殺人容疑で再逮捕した(死体遺棄はすでに時効)。仙台市青葉区の会社役員SH被告を新たに営利誘拐と逮捕監禁容疑で逮捕した。 仙台地検は11月16日、笹本被告、KH被告、菅田被告を強盗殺人容疑で追起訴。KA被告と砂田被告を強盗容疑で追起訴。鈴木被告を逮捕監禁容疑で起訴した。 さらに笹本被告は「1999年にも東京都内の暴力団組員の男を殺した」と供述。2009年7月、宮城県警は仙台市太白区内の山林を捜索。白骨化した暴力団組員男性の遺体を発見した。2010年2月10日、宮城県警は笹本智之被告と菅田伸也被告を殺人容疑で再逮捕。当時少年被告とYA被告を殺人容疑で逮捕した。 仙台地検は3月3日、笹本被告と菅田被告、当時少年被告を殺人容疑で起訴した。YA被告は「死体遺棄のみの関与だった」として処分保留で釈放した。死体遺棄罪は公訴時効(3年)を迎えている。 さらに笹本智之被告は「菅田被告が自殺を装って自衛官を殺害し、保険金を手に入れている」と話したことから、宮城県警が捜査。3月3日、保険金殺人事件で菅田伸也被告、YA被告、SH被告、SM被告、高橋まゆみ被告の5人が逮捕された。仙台地検は3月25日、5人を殺害の容疑で起訴した。 上記らの事件は、笹本智之被告が1994年頃に結成した犯罪組織「BTK」のメンバーが関与している。高校時代の同級生でマフィアにあこがれた男性(2004年9月殺害)と笹本被告の2人で結成。組織名は「殺すために生まれた(Born To Kill)」から名付け、2人がリーダー格だった。ナンバースリーだった菅田伸也被告も高校生のころに加入。組織は拡大しながら犯罪を繰り返した。 |
裁判所 | 最高裁第三小法廷 大谷剛彦裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2015年3月10日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
菅田伸也被告は3つの殺人事件で起訴されたものの、【東京都暴力団組員殺人事件】では無罪、【仙台市男性強盗殺人事件】では殺人ほう助、【亘理町自衛官保険金殺人事件】で有罪とされた。一審では3つの殺人事件が区分審理された。 菅田伸也被告側は、【東京都暴力団組員殺人事件】の事件で否定された笹本智之元被告の自白の信用性が【仙台市男性強盗殺人事件】の事件では認められ、有罪になったと主張。「公平な裁判所による裁判を受ける権利を保障した憲法に違反する」と訴えたが、第三小法廷は「区分審理に重大な誤りがあった場合は最後の判決で審理し直す規定もあり、公平で適正な裁判が行われることは制度として十分に保障されている」と判断し、弁護側の訴えを退けた。5人の裁判官全員一致の意見。大谷裁判長は補足意見で、「重要証拠や背景事情が共通するなど統一的な判断が求められるケースでは、区分審理を選択すべきではない」と求めた。 区分審理が最高裁で合憲と判断された初のケース。 |
共犯者の裁判結果 |
[事件別] 東京都暴力団組員殺人事件で殺人罪に、仙台市男性強盗殺人事件で強盗殺人罪他に問われた笹本智之被告は2010年8月27日、仙台地裁(鈴木信行裁判長)の裁判員裁判で懲役15年+無期懲役判決(求刑同)。途中で確定判決を挟んでいたため、別々に判決を言い渡された。控訴せず確定。 東京都暴力団組員殺人事件で殺人罪に問われた当時少年被告は2011年9月1日、仙台地裁(鈴木信行裁判長)の裁判員裁判で無罪判決(求刑懲役13年)。2012年9月27日、仙台高裁(飯渕進裁判長)は検察側控訴を棄却した。上告せず、無罪確定。 仙台市男性強盗殺人事件で強盗致死、営利誘拐等に問われたKH被告は2010年10月27日、仙台地裁(川本清巌裁判長)の裁判員裁判で懲役15年判決(求刑無期懲役)。2011年7月19日、仙台高裁(飯渕進裁判長)で一審破棄、差し戻し判決。2012年3月5日、最高裁第二小法廷(須藤正彦裁判長)で被告側上告棄却、二審差し戻し判決が確定。裁判員制度が施行されて以降、裁判員裁判のやり直しは初めて。2013年2月8日、仙台地裁(鈴木信行裁判長)は求刑通り無期懲役判決を言い渡した。2014年2月27日、仙台高裁で一審破棄、懲役15年判決。上告するも取下げ、確定。 仙台市男性強盗殺人事件で営利誘拐と逮捕監禁、強盗罪に問われたKA被告は2010年2月24日、仙台地裁(卯木誠裁判長)で懲役5年判決(求刑懲役10年)。7月20日、仙台高裁(飯渕進裁判長)で被告側控訴棄却。 仙台市男性強盗殺人事件で営利誘拐と逮捕監禁、強盗罪に問われたSN被告は2010年6月3日、仙台地裁(鈴木信行裁判長)で懲役7年判決(求刑懲役10年)。 亘理町自衛官保険金殺人事件における殺人罪と、仙台市男性強盗殺人事件における逮捕監禁罪に問われたSH被告は2010年7月15日、仙台地裁(鈴木信行裁判長)の裁判員裁判で懲役17年判決(求刑同)。12月27日、仙台高裁(飯渕進裁判長)で被告側控訴棄却。 亘理町自衛官保険金殺人事件における殺人罪に問われたSM被告は2010年9月10日、仙台地裁(川本清巌裁判長)の裁判員裁判で懲役15年判決(求刑同)。控訴せず確定。 亘理町自衛官保険金殺人事件における殺人罪に問われたYA被告は2010年10月1日、仙台地裁(川本清巌裁判長)の裁判員裁判で懲役13年6月判決(求刑懲役15年)。控訴せず確定。YA被告は東京都暴力団組員殺人事件で遺体を埋めたとされているが、死体遺棄については時効が成立している。 亘理町自衛官保険金殺人事件における殺人罪に問われた高橋まゆみ被告は2010年11月19日、仙台地裁(川本清巌裁判長)の裁判員裁判で無期懲役判決(求刑同)。2011年5月24日、仙台高裁(飯渕進裁判長)で被告側控訴棄却。上告せず?確定。 |
備 考 | 2011年12月20日、仙台地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2013年4月25日、仙台高裁で検察・被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 口脇由英(53)/奥村嘉章(46) |
逮 捕 | 2014年5月12日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人 |
事件概要 |
ホームレスだった口脇由英被告と奥村嘉章被告は、同じホームレスだった別の男性と共謀。2004年8月ごろ、当時ホームレス生活をしていた枚方市内の淀川河川敷で、ホームレスの男性(53or54)の手足を粘着テープで縛り、河川敷に掘った深さ約2mの穴に生き埋めにして殺害した上、現金約100万円を奪った。 殺害された男性は1999年5月、大阪府高槻市の機械製造会社の社員寮から失踪し、河川敷で暮らし始めたとみられる。直前に自分の郵便局の口座から約500万円を引き出し、普段から大金を身につけていたという。奥村被告は河川敷の小屋で一時期、男性と同居していた 口脇被告は2014年5月、工事現場で自動車を盗んだ容疑で枚方署に逮捕された。そのとき、「10年前、奥村被告に持ち掛けられ金欲しさに生き埋めにした。いつか言わなくてはいけないと思っていた」と告白したことで発覚。大阪府警は7月8日から河川敷を捜査し、10日に供述通り地中から白骨化した遺体を見つけ、歯形の照合で身元を確認した。12日、大阪府警は奥村被告、口脇被告を逮捕した。 8月5日、共犯者で2010年に67歳で病死した尼崎市の男性を容疑者死亡のまま書類送検した。 |
裁判所 | 大阪地裁 長井秀典裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年3月11日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 長井裁判長は判決理由で「穴に生き埋めして殺害するという方法は極めて残虐」と指摘。「口脇被告の自首で犯行が発覚したが、それを考慮しても有期刑は軽すぎる」と述べた。 |
備 考 | 口脇由英被告は控訴せず確定。奥村嘉章被告は控訴した。2015年7月21日、大阪高裁(中谷雄二郎裁判長)で控訴審判決。被告側控訴棄却と思われる。2015年中に被告側上告棄却、確定と思われる。 |
氏 名 | 陳双喜(32) |
逮 捕 | 2013年3月14日(現行犯逮捕) |
殺害人数 | 2名 |
罪 状 | 殺人、殺人未遂、傷害他 |
事件概要 |
中国籍で技能実習生の陳双喜(ちんそうき)被告は2013年3月14日、実習先である広島県江田島市のカキ養殖水産会社で早朝の仕事を終えた後体調不良を訴え、2階の部屋で寝込んでいた。午後4時半ごろ下に降りて作業所に現れ、「大丈夫か」と駆け寄った男性従業員を包丁で刺した。驚いた会社社長の男性(当時55)が「陳!」と怒鳴りつけたが、陳被告は社長の顔面を殴り、倒れ込んだところを包丁で2回突き刺した。さらに、屋外へ逃げたベテラン従業員の女性(当時68)を追いかけ、加工場外の路上にてスコップで何回も殴り殺害。その後も見境なくスコップを振り回し、5人の従業員女性もスコップで殴ったり、カキの殻を開けるために使う鋭利な刃物「カキ打ち」で襲ったりして重軽傷を負わせた。うち1人は一時意識不明の重体となっている。また路上に倒れた女性らを助けようとした通行人の女性もスコップで襲い、さらに加工場前をトラックで通りかかった近くの男性が、負傷して逃げてきた女性従業員を車に乗せようとした際、陳被告が走り寄ってきてフロントガラスをスコップで割ろうとするなど3台の車を襲って暴れ続けた。その後作業所に引き返し、激しく出血する社長を介抱していた妻にも襲いかかろうとしたが、「やれるものならやってみい」という妻の一喝でわれに返り、涙ぐみながら「お母さん…」と話すと、スコップで自分の頭を殴打し、胸を刺して自殺を図ろうとした。 110番通報で広島県警の捜査員が駆けつけ、現場にいた陳被告を殺人容疑などで現行犯逮捕。胸に複数の刺し傷があったことから、いったん釈放し、広島市の病院へ搬送した。 陳双喜被告は水産加工技能実習生として2011年5月に中国・大連から来日。日本語などの研修を1か月間受けた後、江田島市内の別のカキ養殖会社に勤め、江田島市の日中友好経済協同組合からの斡旋で2012年9月から会社2階の部屋に住み込みで働いていた。ほぼ毎日午前5時半過ぎから、沖合のカキいかだに船で向かい、社長の男性とカキの付いた重いワイヤを引き揚げ、加工場まで運んでいた。その後は夕方まで、カキの身を殻からむく作業が続いていた。物覚えの悪い陳被告に対し、社長が怒鳴ることもあったという。社長夫婦は、日本語が堪能ではなく、職場になかなか溶け込めなかった陳被告を気遣い、おやつの菓子パンやコーヒーを毎日用意したり、1月には同県の観光名所、宮島に連れて行ったりしていた。会社に中国人は陳被告1人だった。技能実習生として日本にいられるのは最長3年で、陳被告は2013年5月に帰国する予定だった。中国に母と妻と息子がおり、食事はいつも一人で取っていた。事件直前に陳被告の妻が駆け落ちしたという報道もあったが、真実かどうか不明。 3月19日、広島県警は陳被告を社長に対する殺人容疑で再逮捕。4月9日、陳被告を従業員女性への殺人容疑と他の7人への殺人未遂容疑で再逮捕した。 鑑定留置の結果、刑事責任能力が問えると判断した広島地検は7月26日、陳被告を殺人、殺人未遂などの容疑で起訴した。 |
裁判所 | 広島地裁 上岡哲生裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年3月13日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 弁護人によると、2014年4月に拘置所で陳被告を診察した医師が「統合失調症の疑いがある」と診断した。さらに6月以降は計4回、最大で20分程度しか接見できておらず、6月の第1回公判前整理手続きでは、陳被告が「弁護人が私の過去を暴こうとしている」と精神鑑定を拒否するなどしたため、弁護側は10月、裁判所に公判手続き停止を求めていた。 2015年1月19日の初公判当日午前9時30分頃、広島拘置所職員に出廷を促されてもトイレでかがみ込んで動かず、職員にかみつくなどし、「他人に危害を加える恐れがある」と保護室に移された。そのため開廷予定の午前10時に出廷せず、11時10分に上岡哲生裁判長が被告不在のまま開廷した。刑事訴訟法は原則、一審は「被告が出廷しないと開廷できない」とする一方、被告が正当な理由なく出廷を拒否し、刑事施設職員が出廷させようとするのを著しく困難にした場合は審理が可能と規定している。それに対し、弁護側は「被告は精神病を発症しており、訴訟能力を欠いている」として公判手続きの停止を求めた。 冒頭陳述で検察側は「日本語が不自由で、社長から理不尽に叱責されたと思い込み、周囲からもばかにされていると感じていた」と主張した。弁護側は「被告は生来的に知的能力が低く、成育環境の影響でコミュニケーションやストレス対応の能力が低いままだった」と述べ、「衝動的な犯行。外国人技能実習制度で来日し、中国語で身近に相談できる相手がおらず、慣れない日本での仕事が精神的負担だった」と述べた。そして社長以外への殺意を否認し、「被告は事件当時、心神耗弱状態だった」と刑事責任能力も争う姿勢を示した。 20日の公判で陳被告は出廷。やりとりは全て通訳が入り、起訴状が朗読されると頭上で両手を交差させて丸印を作ったり、顔の前で両手でバツ印を作った。上岡裁判長が起訴内容について意見を求めると、陳被告は「その起訴状は私が書いたものではありません」「私は全て事実を認めます。拘置所では日本語で指示を受ける。なぜそういう環境を強いられたのか理解できない」と主張。その後、裁判と関係が無いことを一方的に述べ続けた。陳被告は上岡裁判長から発言を止めるよう何度も指示されたが、従わなかったため約1時間後に退廷を命じられ、係員に両脇を抱えられて法廷を出た。陳被告の退廷後は、被告不在のまま証人尋問があった。 21日の公判で、陳被告は「すいません」と日本語で叫び、「今日は黙秘権を行使します」などと、上岡哲生裁判長の制止に従わず中国語で裁判と無関係の発言を一方的に繰り返したため、入廷後5分で退廷を命じられた。弁護側は「陳被告の精神状態について医師に意見を聞いてほしい」と公判停止の手続きを申し入れたが、上岡裁判長は「意見として伺う」と述べ、被告不在で審理を続けた。 22日の公判で現場にいた女性が証人として出廷し、陳被告が一方的に被害者を襲った様子を証言した。陳被告は証人の女性がいる法廷で「お姉さん。陳双喜です。本当にごめんなさい」と日本語で発言。自らの手をかもうとしたため、退廷が命じられた。 2月2日の公判で殺害された社長の妻は証人尋問で陳被告に対し、「死刑以外は考えられない」と述べ、厳罰を望んだ。 6日の被告人質問で陳被告は「犯した罪に申し訳ない気持ちでいっぱいです」と謝罪した。弁護側は陳被告が訴訟能力を欠くとして公判停止を申し入れたが、1月20日の第2回公判以降は向精神薬を服用して接見にも応じるようになったことから申し入れを撤回、被告人質問を行った。 12日の被告人質問で陳被告は社長に対し、「息子のようにかわいがってくれた。大変申し訳ありませんでした」と改めて謝罪した。女性従業員たちも「服や食べ物を頂き、皆親切にしてくれた。すごく良くしてくれた」と振り返り、「からかわれていると感じたことはありません」と述べた。その一方で、事件に至る心境の変化を「ホームシックだった」と話し、「うまく給料を稼げず職場で泣いたこともあった」と明かした。 13日の被告人質問で陳被告は、社長らをスコップで殴ったり、包丁で刺したりしたことを認めたが、社長への殺意については「よく分からない。頭が混乱し、理性を失っていた。殺意があると思われても仕方ない」と話した。他の被害者については「殺意は持っていません」と述べたり、「よくわからない」と話すなどあいまいな答えを繰り返した。 16日の被告人質問で陳被告は社長や会社に不満はなかったと語る一方で、「ホームシックだった。誰でもいいから中国語で話をしたかった」と話した。犯行については具体的な行動を覚えていないと繰り返し、動機についてもわからないと述べた。 17日の公判で陳被告の母親が証人尋問で学歴を偽って来日した経緯を説明するとともに、被害者に謝罪した。 20日の公判で精神鑑定をした医師が出廷し、陳被告について、「事件当時、精神障害は認められなかった。善悪を判断し、行動をコントロールできていた」と指摘した。また、被告が法廷で繰り返した不規則な言動は「拘置所で自由を奪われ、将来を不安に感じたことから発症した拘禁精神病の症状の疑いがある」とし、「特別な治療は不要だが、精神安定剤の服用を続けるのが望ましい」との見解を示した。 23日の公判で、社長の娘、妻や従業員の娘ら遺族3人は極刑を求めた。 27日の論告で検察側は、「コミュニケーション能力の不十分さから、注意を悪意と曲解し、鬱憤を募らせた」と指摘。殺傷能力の高い凶器で頭などを狙った態様から従業員全員への殺意があったのは明らかと述べ、陳被告が事件後に自傷行為をしたことから責任能力に問題はないとした。そして「凄惨な犯行で、遺族の処罰感情は強く、死刑も考えられる」としたが、「動機は短絡的で結果は重大だが、外国での仕事で孤独感にさいなまれていた環境も考慮すれば、死で償わせるべきだとは言えない」と述べた。 検察側の論告後、社長の妻と娘、従業員女性の夫らの意見をそれぞれの代理人弁護士が陳述。「理不尽な犯行でかけがえのない肉親を奪われた。非道な犯人が死刑にならないのであれば正義はない。死刑をお願いします」などと訴えた。 弁護側は同日の最終弁論で、陳被告が犯行時に判断能力が著しく低下した心神耗弱だったと主張し、情状酌量を求めた。 判決で上岡哲生裁判長は「頭や胸を意図的に攻撃した」と殺意を認め、責任能力も完全にあったとした。そして「言葉の壁や職場の人間関係の問題で追い詰められた」と動機を指摘し、量刑理由では「2人殺害の事件だが、計画的とは断定できず極刑がやむを得ないとは言えない」「執拗、残虐で、結果は極めて重大。有期懲役刑の選択は考えられない。無期懲役の中では重い事案」と説明した。 外国人実習制度については「制度の問題点を事件と結びつけるべきではない」としながらも、「目的通りに運用されていない部分がある」とした。 |
備 考 | 控訴せず確定。 |
氏 名 | 本田祐樹(27) |
逮 捕 | 2012年3月3日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、強盗強姦、住居侵入、窃盗、強制わいせつ |
事件概要 |
市川市の無職本田祐樹被告は以下の事件を引き起こした。 〈第1区分〉 本田被告は2011年6月4日未明、県内の女性の自宅マンションに侵入、女性を刃物で脅して体を触るなどのわいせつな行為をした。 〈第2区分〉 本田被告は2011年6月9日午前1時35分ごろ、松戸市内の30代の女性会社員宅に、鍵のかかっていない高窓から侵入。室内にいた女性を包丁のようなもので脅し、現金約6000円や預金通帳などを奪った上、強姦した。 〈第3区分〉 本田祐樹被告は2011年6月10日午後11時半ごろ、市川市に住む大学2年の女性(当時19)宅に侵入し、キャッシュカードや通帳など7点(時価約14,630円相当)を強奪。女性を車で連れ去り、車内で強姦したうえ、頭にポリ袋をかぶせて窒息死させた。その後、キャッシュカードを使って現金自動預け払い機で現金50万円を引き出した。女性の遺体は11日午後2時半ごろ、全裸で両手を縛られた状態で近くに住む男性に発見された。本田被告と女性とは面識がなかった。 6月上旬に市川市などで女性宅を狙った強盗などが3件あり、犯人の男は、胸にキャラクターのイラストが入った黒っぽいジャージー姿だった。このため、県警は同一犯とみて被害者の証言に基づき、似顔絵を作成して捜査を進めていた。 6月12日午後6時15分頃、市川駅前交番の警察官が、同じキャラクターのイラスト入り黒色ジャージーを着て歩いている本田被告に職務質問。身元を確認したところ、強殺事件の被害者の頭にかぶせられていたレジ袋の指紋から、捜査線上に浮上していた本田被告であることが判明した。 7月3日、第3区分の窃盗容疑で再逮捕。死体遺棄容疑は処分保留。7月24日、窃盗容疑で起訴。8月10日、第2区分の事件で強盗強姦容疑などで再逮捕。9月12日、第3区分の強盗殺人などで再逮捕。10月3日、強盗殺人などで追起訴。10月12日、強盗強姦罪などで追起訴した。12月20日、死体遺棄容疑について不起訴(嫌疑不十分)とした。地検は「死体を遺棄したと認定するには証拠が不十分」と説明している。 |
裁判所 | 最高裁第一小法廷 池上政幸裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年3月17日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | 一・二審で被告側は無罪を主張している。 |
備 考 | 2013年3月15日、千葉地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2014年1月24日、東京高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 元少年(20) |
逮 捕 | 2013年10月15日(窃盗容疑。11月4日、強盗殺人容疑で再逮捕) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、窃盗 |
事件概要 |
住所不定、無職の少年(事件当時19)は2013年9月26日午前3時半ごろ~6時15分ごろ、北区に住むラーメン店アルバイトの男性(当時25)が住む京都市北区のマンションで、借りていた携帯電話の返還を免れる目的で就寝中の男性の胸を、台所にあった包丁(刃渡り17cm以上)で刺して殺害。携帯電話2台と約17,000円入りの財布を奪った。29日に再び男性方を訪れ、包丁やマンガ、ゲームを持ち出した。 少年は他に9月24日、京都市上京区の駐輪場でオートバイ(約15万円相当)を盗んだ。 少年は男性が2004年2月まで暮らした京都市内の児童養護施設の出身で、2005年10月から2008年9月まで入所。男性と入所時期は重なっていないが、手紙をやりとりし、2013年9月以降は男性方に度々寝泊まりしていた。男性は昼間は乾物会社、夜はラーメン店で働いており、部屋には少年も含め、施設の後輩が頻繁に出入りしていた。少年は施設を出た後は定職には就かず、犯行直前は、知人宅やネットカフェを転々とする生活を送っていた。 10月14日午後4時10分頃、連絡が取れなくなったことを心配して訪ねてきた施設の後輩である中高生2人が、持っていた合鍵で部屋に入り遺体を発見した。 京都府警北署捜査本部は10月15日、男性の携帯電話を盗んだ窃盗容疑でネットカフェにいた少年を逮捕した。11月4日、強盗殺人容疑で再逮捕。京都地検は11月26日、強盗殺人などの非行内容で京都家裁に送致した。 京都家裁(谷口真紀裁判長)は12月19日の第2回少年審判で、少年が金品を奪おうとして男性を殺害したと認定した上で、「無軌道な生活を送っていた少年の身勝手な動機に酌むべき点はない」と指摘。「強固な殺意に基づく凶悪な犯行。刑事処分以外の措置は相当ではない」と判断し、検察官送致(逆送)とする決定をした。京都地検は12月27日、強盗殺人罪などで起訴した。 |
裁判所 | 大阪高裁 中谷雄二郎裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年3月17日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 | 元少年側は「憎悪や恨みを抱いて殺害した」と強盗目的を否定したが、中谷雄二郎裁判長は判決理由で「生活の面倒を見てもらっていた被害者に絶縁宣言をされた逆恨みから殺害を決意した」とした上で「金品を強奪する意欲的な意思があった」として退けた。 |
備 考 |
少年は2013年11月22日夜、取調中に過呼吸の発作を起こして倒れ、京都市内の病院に救急搬送された。病院からは戻ったものの、23、24日に弁護士が接見した際には、話しかけてもうつむいて脱力し反応さえできない状態だった。それでも両脇を抱えられるようにして取調室に連れてかれ、24日夕には筆談で「病院に行きたい」と訴え、再び医師の診察を受けたという。弁護士は「このような状態の少年を留置場から引きずり出し、取調室に連れて行くなどの行為は人道上許されるものではなく、拷問以外の何物でもない」として、取り調べの中止と適切な医療措置をとるよう求める異例の申し入れ書を京都府警や地検に提出した。 2014年7月14日、京都地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2015年8月25日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 井馬享平(28) |
逮 捕 | 2012年8月31日 |
殺害人数 | 2名 |
罪 状 | 殺人、傷害、住居侵入 |
事件概要 |
愛知県小牧市のパチンコ店店員、井馬享平被告は2012年7月30日午後2時半ごろ、小牧市のアパート2階に住む飲食店員の女性(当時43)方に侵入。女性を準備していた果物ナイフで刺殺。その後室内で待ち伏せし、午後4時半頃、仕事から帰宅したパチンコ店店員の長女(当時19)の首をひもで締めたうえ、胸を果物ナイフで刺殺した。さらに長女の娘(当時2)の顔をフライパンで殴って9日間のけがを負わせた。犯行後、井馬被告は自分の胸などをナイフで刺して2階から飛び降り、意識不明の重体となった。 井馬被告は顔や腰などに重傷を負って、小牧市内の病院に入院。県警は、凶器とみられるナイフを持っていたことなどから、井馬被告による犯行とみて回復を待ち、8月31日に殺人などの容疑で逮捕した。 井馬被告と長女は同じパチンコ店の同僚であり、2012年1月末から5月ごろまで一時期交際していた。しかし別れた後、長女が他の男性と親しくなったため、ストーカー行為を繰り返した。7月中旬、長女はストーカー被害に遭っていることを店長に相談し、店長が井馬被告に注意したばかりだった。 |
裁判所 | 名古屋地裁 堀内満裁裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年3月18日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2015年3月2日の初公判で井馬被告は「長女の首を絞めたことは間違いないが、ナイフが刺さったときのことは覚えていない」と起訴内容を一部否認した。 検察側は井馬被告が長女にしつこく復縁を迫っていたが、応じてもらえなかったため、殺害を計画したと主張。「用意したナイフで2人の左胸を突き刺しており、強い殺意があった」と指摘した。 弁護側は井馬被告の知能が低く、精神年齢が小学生程度だとし、「想定外の事態にうまく対処できないため、衝動的に起こした事件だ」と強調。「ストーカー事件との一面だけではとらえられない」とした。そして「被告は誰もいないと思って侵入したが、母親がいたためパニックになった。もみあいになり刺した可能性もある」と主張。その後、母親の死亡を認識したとし、「長女を殺して自殺するしかないと考えた」などと説明し、長女の娘への暴行も、「被告に人を殴った認識はない」とした。 10日の論告で検察側は「事前に準備したナイフの根元まで深く突き刺しており、意識的な攻撃だった」と殺意があったと指摘した。また、長女殺害については「恋愛感情が満たされないから殺害し自分も死のうというのは、他人の命を物のように扱う姿勢だ」と厳しく非難。弁護側が傷害罪の成立を争っている長女の娘のけがについては「被告に接近できるのは長女しかいないと認識でき、暴行の故意があった」と主張した。その上で、求刑について「死刑選択も考慮すべき事案」としつつ、母親の殺害は当初からの計画性はなかった点など、酌むべき事情もあると指摘した。 同日の最終弁論で弁護側は「知的能力が低い被告が、心理的な混乱を深めた末に、誰もいないと思った長女宅で母親に遭遇するという予想外の出来事でパニックになり、衝動的に起こしてしまった事件だ」として、有期刑が相当だと主張。 井馬被告は最終陳述で「本当に申し訳ないと思っています」と謝罪した。 判決は、母親殺害について「用意したナイフで相当な力で突き刺しており、死を招く危険がある行為だと認識できていた」と殺意を認定。殺害後に欠勤の連絡をしたり自分のサンダルを隠したりしたことから「弁護側が主張するような精神状態にあったとは考えられない」とした。長女の娘に関しては「存在に気付き、追い払おうとして殴りつけた」と傷害罪の成立を認め、長女殺害は「強固な殺意に基づく計画的な犯行で殺害方法は執拗だった」と批判した。そして「動機も身勝手。極めて厳しい非難に値する」と述べた。 |
備 考 | 被告側は控訴した。2015年10月28日、名古屋高裁で被告側控訴棄却。上告せず確定。 |
氏 名 | 新井正吾(44) |
逮 捕 | 2014年1月15日(別件の詐欺罪で逮捕済み) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、詐欺未遂 |
事件概要 |
京都市伏見区にある学習教材販売会社の社長で、宇治市に住む新井正吾被告は、兄で同社役員の新井茂夫被告と共謀。同社社員の男性(当時35)に2010年11月10日、1億円の海外旅行保険をかけた。11月24日午後9時ごろ(日本時間午後10時)、フィリピンマニラ市中心部の路上で茂夫被告が男性の頭などに複数の銃弾を発射させ、死亡させた。会社は1億数千万円の負債があった。 11月24日夜、男性の遺体が路上で発見された。男にかばんを奪われそうになり、銃撃されたとの目撃情報があり、現地警察が強盗殺人事件として捜査。府警は刑法の国外犯規定に基づき、事件の約2週間後にフィリピン政府から男性の遺体の引き渡しを受けて司法解剖し2011年と2013年、捜査員を現地に派遣した。 男性死亡後、両被告は保険金を請求したが、保険会社は「正吾被告らが共謀して殺害した可能性がある」として拒否。両被告は2011年、支払いを求めて東京地裁に提訴し、地裁は2013年5月、〈1〉当時、会社の負債は膨れ上がり、両被告の経済状態も悪化していた〈2〉過去の社員旅行では従業員に保険をかけなかった――と認定し、「保険会社が疑問を抱くのもうなずけなくもない」としたが、「(正吾被告らが)殺害したとの十分な証拠はない」として保険会社に全額支払いを命じた。保険会社側は控訴した。 新井正吾被告は知人女性のために健康保険証をだまし取ったなどとして、新井茂夫被告は生活保護費約120万円を不正受給したとして、2013年10~12月に逮捕、詐欺罪などで起訴された。2014年1月15日、京都府警は両被告を殺人容疑で再逮捕した。2月6日、保険金をだまし取ろうとしたとした詐欺未遂容疑で両被告を逮捕した。 |
裁判所 | 京都地裁 市川太志裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年3月18日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2015年3月3日の初公判で、新井正吾被告は「間違いありません」と起訴内容を認めた。 検察側は冒頭陳述で、「会社の負債を穴埋めするため」と動機を説明。新井被告の経済状況が悪化し、被害者との間で金銭トラブルを抱えていたため保険金殺人を計画したと指摘。「新井被告がフィリピン人の愛人にメールで拳銃の入手を依頼して10万円を送金し、茂夫被告が現地で受け取った」と明らかにした。 弁護側は、計画立案から実行まで主導的役割を担っていたのは兄の茂夫被告だと主張。「被告は従属的立場で責任は相対的に軽い」と述べた。 4日の被告人質問で新井被告は、愛人関係のフィリピン人女性から拳銃を入手してから事件までの数日間に、茂夫被告に中止を要求したと主張。しかし茂夫被告は「何びびってるねん」と激怒するなどした。被害者と3人で訪比したが新井被告だけ24日昼に帰国し、事件は同夜に発生。計画では25日に殺害予定だったと重ねて主張した。また新井被告が当初犯行を否認して黙秘を続けた理由として、茂夫被告から被害者は別の人物に殺されたと聞かされ、事前に決めた犯行日と違う日だったため信じたと説明。だが、起訴後の公判前整理手続きで現地の目撃証言を基に作られた実行犯の似顔絵を検察側が開示し、兄に似ていたことなどから、兄の説明を疑うようになり考えを改めたと述べた。 5日の被告人質問で、新井被告は「被害者に約70万円の貯金を盗まれたことで本格的な殺害計画が持ち上がった」と主張した。被害者は「飲食費に使った」と説明したという。それまでにも経費などを度々着服していたとし、茂夫被告の「保険掛けて殺したらいい」との提案に新井被告も応じ、茂夫被告の指示で計画が進んだという。先物取引失敗などで、当時会社の経営も悪化していた。検察側は、窃盗発覚後間もない時期に被害者が旅行の誘いに応じた経緯が不自然とし、窃盗自体を疑う質問を重ねた。 6日の公判で、兄の茂夫被告が検察側証人として出廷。しかし茂夫被告は、「殺害計画を正吾被告に持ちかけたか」との検察側の問いかけに「証言しかねる」と答えるなど、裁判官の質問も含め約90分のやり取りの大半で証言を拒んだ。弁護側は「尋ねる必要はない」として質問しなかった。 9日の論告で検察側は、会社の経営悪化や被害者との金銭トラブルから犯行に及び、「銃の調達など必要不可欠な役割を担った。主体的、積極的、必要不可欠な役割を果たし、ピストルの引き金を引いたのと同等」と指摘。保険金殺人は殺人罪の中でも強盗殺人罪に匹敵する最も重い類型だと強調した。同日の採取弁論で弁護側は、「茂夫被告が計画、実行し、新井被告は従属的」と述べ、既に懲役3年(執行猶予4年)が確定している同社関連の詐欺事件も考慮して、「懲役13年が相当」と主張した。 最終陳述で新井被告は「遺族らに迷惑をかけ、本当に申し訳なかった」と涙声で謝罪した。 判決で市川太志裁判長は「航空券の手配や保険金契約、拳銃の調達など、ほぼ全ての準備行為を行った」と指摘。会社の運転資金やフィリピンの知人女性への送金に窮しており「保険金を欲する事情があった」と述べた。実行犯について、判決は「特定は困難」としながらも「茂夫被告か氏名不詳者が実行した」と認定した。そして「顕著な上下関係はなく、確実な中止手段も取っていない。(新井茂夫被告と)ほぼ同等の地位にあった。(新井被告は)殺人の実行はしていないが、行為の重大さは劣らない」と述べた。そして「近年まれにみる悪質な事案」と断じた。 |
備 考 |
兄の新井茂夫被告もこの事件で殺人罪などで起訴され、公判前整理手続き中。 新井正吾被告は2010年8月下旬、男性従業員に「今月で基本給をなくし歩合給だけにするが、引き続き働いてほしい。代わりに失業保険を受けられるようにする」などと告げ、伏見公共職業安定所に失業給付を申請させて、2010年10月~2011年2月に6回にわたり計約57万円を詐取させるなどした詐欺罪に問われた。2014年6月19日、京都地裁は懲役3年執行猶予4年(求刑懲役3年)の有罪判決を言い渡した。御山真理子裁判官は「会社の費用削減のため従業員に詐欺をさせたもので、くむべき事情はない」と指摘した。控訴せず確定。 被告側は控訴した。2015年11月19日、大阪高裁で一審破棄の上、改めて無期懲役判決。2017年2月8日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 井倉孝司(62) |
逮 捕 | 2012年10月24日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人 |
事件概要 |
津市の無職、井倉孝司被告は2012年9月25日午後2時から午後3時10分頃にかけ、和歌山県御坊市の旅館内で経営者の女性(当時71)の首を浴衣の帯ひもで絞め、胸や腹をアジさき包丁や刺身包丁で数回刺して殺害し、4日分の宿泊代計約14,000円の支払いを免れたほか、1階受け付け帳場から約12,000円を奪って逃走した。 井倉被告は過去に数回、旅館に宿泊したことがあり、女性のことを慕っていた。今回は9月9日から宿泊したが、21日には所持金が底をついてから無銭宿泊状態となり、犯行当日の25日は朝から銀行に残高照会にいったが938円しかなかった。 午後5時半ごろに宿泊予定だった男性客が到着したが、玄関が施錠されており、不審に思って他の客らと近くの交番に通報。午後7時頃、和歌山県警御坊署員が遺体を発見した。 事件前日に同旅館に泊まっていた井倉被告の所在がつかめず、現場に残された遺留物から採取したDNAを鑑定したところ、警察庁のDNAデータベースに登録された男のものと一致した。捜査本部は10月3日に井倉被告を殺人容疑で指名手配。10月24日、兵庫県明石市内にいるところを逮捕した。和歌山地検は11月14日、井倉被告を強盗殺人罪で起訴した。 |
裁判所 | 最高裁第三小法廷 山崎敏充裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年4月2日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | 二審では有期刑を求めている。 |
備 考 | 2014年3月20日、和歌山地裁の裁判員裁判で、求刑通り一審無期懲役判決。2014年11月28日、大阪高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 伊藤早苗(44)/菊地広光(50) |
逮 捕 | 2013年2月7日(詐欺容疑。2月21日、強盗殺人容疑で再逮捕) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、強盗殺人未遂、窃盗、詐欺 |
事件概要 |
宮城県丸森町の無職・伊藤早苗被告と仙台市の会社員・菊地広光被告は共謀して2012年10月21日深夜、宮城県蔵王町のホテルで、埼玉県行田市の電気設備業の男性(当時67)に睡眠薬入りの飲料を飲ませて眠らせて大量のインスリンを注射し、鋼材で頭を殴って殺害しようとしたが失敗した。男性は脳挫傷で重傷を負い、病院に搬送されたが、男性は記憶が曖昧な様子で「転倒した」などと宮城県警には説明した。 11月3日に退院した際、伊藤被告が婚約者を装って手続きをし、2人は男性を転院させず、男性の自宅に移動させた直後、睡眠薬を飲ませ牛刀(刃渡り約18cm)で首を切って殺害し、現金約32,000円や指輪1個(時価約10万円相当)などを奪った。 その後両被告は11月3日~11日、不正に入手した男性のキャッシュカード2枚を使って、宮城、福島両県のコンビニ店の現金自動預け払い機で計188万円を引き出して盗んだ。 男性の知人が11月中旬、連絡が取れないことから通報し、埼玉県警の署員が1階で遺体を見つけた。県警は事件と自殺の両面で捜査していたが、2人が男性の死後、男性の健康保険証を使って宮城県内の携帯電話販売店で男性名義の携帯電話2台を買ったとして、2013年2月7日に詐欺容疑などで逮捕した。2月21日、強盗殺人容疑で再逮捕。4月10日、ホテルでの強盗殺人未遂で再逮捕。5月15日、窃盗容疑で再逮捕。 |
裁判所 | 東京高裁 村瀬均裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年4月23日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
伊藤被告は「金を奪う目的はなかった」、菊地被告は「従属的だった」として、ともに量刑は重過ぎると主張した。 判決で村瀬裁判長は「伊藤被告は被害者の男性に対するおよそ1000万円の借金の返済を免れようと、菊地被告に殺害を指示した。当初の計画が未遂に終わると、その2週間後には、確実に殺害するため男性に睡眠薬を飲ませたうえ刃物で深く切りつけていて、執ようで残虐な犯行だ。主導した伊藤被告には財産を奪う意思があり、菊地被告は計画に安易に同調した。刑事責任は重い」と指摘した。 |
備 考 | 2014年8月8日、さいたま地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2015年9月16日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 上田友良(28) |
逮 捕 | 2014年6月19日(死体遺棄容疑。7月2日、強盗殺人容疑で再逮捕) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、死体遺棄、窃盗未遂 |
事件概要 |
兵庫県尼崎市の会社員上田友良被告は2014年1月31日午後、当時の自宅マンションに近い大阪府池田市の駐車場に止めた車内で、富山県射水市に住む無職の女性(当時28)から責められ「見下された」と逆上。女性の首を両手で絞めて殺害。キャッシュカードや現金約8千円を奪った。2月1日午後、枚方市の銀行ATM(現金自動受払機)で現金を引き出そうとしたが未遂に終わり、2月3日未明、遺体をレンタカーで西宮市の竹林に遺棄し、上半身をドラム缶でかぶせて隠した。 上田被告と女性は携帯電話の友達募集アプリで知り合った。女性は約5年前に富山県内の看護学校を卒業後、看護師として静岡や愛知の病院で働き、2013年秋に富山に戻り、介護施設などで働いていた。看護師の資格を持つ女性に上田被告は「看護師で金持ち」と詐称。人間関係などの悩みを打ち明ける女性を「相談に乗る」と誘い出し、2014年1月30日に初めて会ったばかりだった。女性は行き先をだれにも告げていなかった。上田被告は携帯アプリで事件後も含め約200人とやりとりをしていたという。 家族は4月8日、富山県警に行方不明者届を提出。女性の遺体は4月19日午前7時25分頃、近くの住民が発見。兵庫県警は死体遺棄容疑で捜査するとともに、発見時の服装などを公開したところ、女性の母親から同県警に問い合わせがあったため、DNA鑑定の結果、5月2日に特定した。携帯電話の履歴から上田被告が浮上し、兵庫県警は6月19日、死体遺棄容疑で上田被告を逮捕した。7月2日、強盗殺人容疑で再逮捕した。 |
裁判所 | 神戸地裁 佐茂剛裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年4月27日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2015年4月21日の初公判で上田友良被告は、強盗殺人、死体遺棄両罪を認めた一方、窃盗未遂罪については起訴内容を否認した。 検察側は冒頭陳述で、上田被告は当時、金に困っていたと説明。「被害者から責められ逆上した。キャッシュカードを奪って預金を引き出そうと考え、暗証番号の一部を聞き出し絞殺した」と指摘した。また、上田被告が犯行後に兵庫県尼崎市に転居するなどして逃亡を図ったと説明した。弁護側は「突発的犯行で強い殺意はなかった」と主張した。窃盗未遂罪については「預金残高を見ようとしただけだ」と主張した。 23日の求刑論告で検察側は、上田被告は犯行後、発覚を遅らせるために女性になりすましてメールを送ったほか、遺留品を捨てて証拠隠滅を図ったと指摘。首を絞めながら、預金口座の暗証番号を聞き出し、そのまま殺害しており、「金欲しさの利己的な動機だった」と主張した。そして「強固な殺意を持った残虐な犯行で、酌量の余地はない」と断じた。 同日の最終弁論で弁護側は、「突発的な犯行で強い殺意まではなかった。無期懲役は重すぎる。7年以上30年以下の有期懲役刑を科すべき」と反論した。上田被告は最終陳述で「死刑という刑を下していただき、全うしたい」と述べた。 佐茂裁判長は上田被告が出会い系アプリを通じて会った女性を、金目的で殺害したと認定。「首の骨が折れるほど強く絞めており、殺意は強固で被害者の遺体を無残な姿にしている。犯行後も職業を看護師と偽り出会い系アプリを利用していたことなどから、法廷での反省の言葉をそのまま信用することはできない」と指摘した。 |
備 考 | 控訴せず確定。 |
氏 名 | 高橋克也(57) |
逮 捕 | 2012年6月15日 |
殺害人数 | 15名(逮捕監禁致死1名含む) |
罪 状 | 殺人、殺人未遂、逮捕監禁致死、死体損壊、爆発物取締罰則違反 |
事件概要 |
●VX殺人事件及び同未遂2事件 麻原彰晃(本名松本智津夫)被告は、教団信者の知人だった大阪市の会社員(当時28)を「警察のスパイ」と決めつけ、新実智光、中川智正らに「ポアしろ。サリンより強力なアレを使え」などと、VXガスによる殺害を指示。新実らは1994年12月12日、出勤途中の会社員にVXガスを吹き掛け、殺害した。他にオウム真理教家族の会会長の男性にも吹きかけ、殺害しようとしたが失敗した。 高橋克也被告はVXガスをかけた実行役に運転手役などで付き添った。また現場で被害者の視界を傘で遮った。 ●目黒公証役場事務長拉致監禁事件 1995年2月28日、逃亡した女性信者の所在を聞き出すために信者の実兄である目黒公証役場事務長の男性(当時68)を逮捕監禁、死亡させ、遺体を焼却した。 高橋被告は拉致の指示を受け男性を車に押し込むとともに、遺体焼却の見張り役も務めた実行メンバーだった。 ●地下鉄サリン事件 目黒公証役場事務長(当時68)拉致事件などでオウム真理教への強制捜査が迫っていることに危機感を抱いた教祖麻原彰晃(本名松本智津夫 当時40)は、首都中心部を大混乱に陥れて警察の目先を変えさせるとともに、警察組織に打撃を与える目的で、事件の二日前にサリン散布を村井秀夫(当時36)に発案。遠藤誠一(当時34)、土谷正実(当時30)、中川智正(当時32)らが生成したサリンを使用し、村井が選んだ林泰男(当時37)、広瀬健一(当時30)、横山真人(当時31)、豊田亨(当時27)と麻原被告が指名した林郁夫(当時48)の5人の実行メンバーに、連絡調整役の井上嘉浩(当時25)、運転手の新実智光(当時31)、杉本繁郎(当時35)、北村浩一(当時27)、外崎清隆(当時31)、高橋克也(当時37)を加えた総勢11人でチームを編成。1995年3月20日午前8時頃、東京の営団地下鉄日比谷線築地駅に到着した電車など計5台の電車でサリンを散布し、死者12人、重軽傷者5500人の被害者を出した。 高橋克也被告はサリン散布役を車で送迎した。 ●都知事爆破物郵送事件 1995年5月、東京都知事に爆発物を郵送し、都職員に重傷を負わせた。 高橋被告は爆発物の製造に携わった。 高橋克也被告は1987年に出家した古参信者の一人。柔道経験を買われ麻原彰晃死刑囚の身辺警護を担当した。後に教団の諜報活動を担当する「諜報省」次官として、井上嘉浩死刑囚のもとで非合法活動に携わった。 1995年5月に特別手配され逃亡し、1997年以降は菊地直子被告と川崎市内に住み建設会社などに勤務。2007年に菊地被告がアパートを出た後は1人で暮らしていた。オウム関連で起訴された189人の裁判は2011年12月にすべて確定。2011年12月31日夜、特別手配されていた平田信被告が警視庁丸の内署に出頭し、翌日逮捕された。菊地直子被告は2012年6月3日、相模原市の潜伏先で逮捕された。高橋克也被告は菊地被告の供述から川崎市内に潜伏していることが判明。高橋被告は菊地被告の逮捕を知り、4日午後2時40分に勤務先の社員寮から逃亡。その4時間後に警察は社員寮に踏み込んだが間に合わなかった。警視庁は6日以降、公開捜査に踏み切る。高橋被告は6月15日、東京都大田区西蒲田の漫画喫茶を出たところを逮捕された。所持品からは教団元代表の松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚の写真や著書が見つかった。 |
裁判所 | 東京地裁 中里智美裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年4月30日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。弁護側は松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚の証人尋問を申請していたが、東京地裁は「必要性がない」として却下している。 2015年1月16日の初公判で、高橋被告は地下鉄サリン事件について、「まかれたものが、サリンだとは知らなかった。殺害も共謀もありません」と無罪を主張した。他に起訴されたVXガス事件についても「共謀はなかった」無罪を主張。東京・目黒の公証役場事務長拉致事件と都庁郵便物爆発事件も逮捕監禁致死罪、殺人未遂罪を否認した。一方、事務長の遺体焼却に立ち会ったことなどは認め、弁護側は死体損壊罪などのほう助にとどまると主張した。 検察側は冒頭陳述で、被告は教団元代表の松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚ら幹部から「帰依心が強く、違法行為も辞さない信者」と認められていたと指摘。諜報省で非合法活動を重ねたと主張した。 一方の弁護側は、一連の事件は教団の絶対権力者だった松本死刑囚の発案を側近幹部が具体化したと指摘。立場の低い被告は「サリンがまかれることを説明されず、具体的なことを知らないまま運転手役を務めた」と共謀を否定した。致死事件では「老人を車に押し込むのを手伝っただけで、死亡との因果関係はない」と、事務長との認識すらなかったと主張。都庁郵便物爆発事件では「捜査を撹乱するために起爆装置を作ったが、人の命を狙うことは考えなかった」と述べた。 1月19日の第2回公判では、中村昇受刑者(無期懲役が確定)と、教団から分派した「ひかりの輪」の上祐史浩代表が証人出廷し、松本智津夫死刑囚が教義を使って高橋被告ら信者に犯罪を実行させた仕組みを証言した。 1月20日から27日までVXガス事件の審理が行われた。検察側は「被告は犯行計画を作る場に参加し、運転手役や実行犯の支援役として重要な役割を担った」と主張。弁護側は「幹部に指示されて行ったが、目的や計画、結果について全く知らされていない」と殺意や共謀を否定した。 「諜報省」トップの井上嘉浩死刑囚、実行メンバーに中毒症状が出た際の治療役の中川智正死刑囚、現場指揮役の新実智光死刑囚、「諜報省」で次官で見張り役を務めた元信者の男性(懲役15年が確定、出所済み)、実行役だった元信者の男性受刑者(懲役20年確定)が証人として出廷し、概ね検察側の内容に沿う証言を行った。 1月29日から2月10日まで目黒公証役場事務長拉致監禁事件の審理が行われた。検察側は冒頭陳述で、被告は勤務先から出てきた男性を他のメンバーと一緒に車に押し込み、被告の運転で山梨県の教団施設に運んだと指摘。男性が麻酔薬の過剰投与で死亡すると、被告と他の信者が交代で遺体焼却の見張り役を務めたとし、「信者だった妹の居場所を聞き出すために仮谷さんを拉致する計画を、被告は事前に知らされていた」と主張した。一方、弁護側は、教団元幹部で医師だった中川智正死刑囚らが麻酔を投与した点を重視し、「中川死刑囚に死の責任がある」と主張。被告の行為と男性死亡との間に因果関係はないとし、逮捕監禁致死罪の成立を否定した。 実行メンバーの中村昇受刑者、井上嘉浩死刑囚、中川智正死刑囚、林郁夫受刑者(無期懲役が確定)、平田信被告が証人出廷した。 2月13日から3月3日まで地下鉄サリン事件の審理が行われた。検察側は「車の調達や運転手役で特に重要な役割を担い、サリン散布の計画も説明されていた」と指摘。弁護側は「サリンをまくとは知らされていなかった」と無罪を主張した。 広瀬健一死刑囚、小池(旧姓・林)泰男死刑囚、新実智光死刑囚、中川智正死刑囚、井上嘉浩死刑囚、豊田亨死刑囚、林郁夫受刑者、外崎清隆受刑者(無期懲役が確定)、北村浩一受刑者(無期懲役が確定)、男性受刑者、平田信被告が証人出廷した。ただし豊田亨死刑囚の尋問は健康面を考慮し、裁判官や裁判員が東京拘置所に出向いて非公開で行われた。アジトでのやり取りなど一部で証言に食い違いがあり、外崎受刑者は弁護側の主張に沿う証言を行っている。 弁護側は、公判前整理手続きで却下された元代表松本智津夫死刑囚の証人尋問を改めて請求したが、地裁は却下している。 3月6日から16日まで都知事爆破物郵送事件の審理が行われた。検察側は冒頭陳述で、地下鉄サリン事件後に教団へ強制捜査が入ったため、捜査をかく乱して教団元代表の松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚の逮捕を阻止しようと、教団元幹部の井上嘉浩死刑囚らがテロを計画したと指摘。被告には林(小池に改姓)泰男死刑囚を通じて起爆装置を作る指示が伝えられたとした。爆弾に使われた書籍は被告が用意しており「事件に欠かせない準備を担当した」と指摘した。一方、弁護側は、被告が林死刑囚から指示された際に強く反発したと主張。爆発物で騒ぎを起こすためと理解して従ったが、井上死刑囚が爆発物に鉛を入れて威力を高めようとしたため「それはやめよう」と進言したとした。弁護側は「人が死ぬ危険性をあえて避けた」と主張した。 小池泰男死刑囚、中川智正死刑囚、井上嘉浩死刑囚が証人出廷している。 3月17日から19日までは4事件についての総括的な尋問が行われた。 3月23日から26日まで高橋被告への被告人質問が行われた。また、被害者参加している遺族らも意見陳述を行った。 3月31日の論告で検察側は、起訴された全ての事件での被告の役割について「犯行の成否に関わる重要なものばかり」と指摘した。高橋被告の動機を「教団元代表の松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚の意思を実現し、自身の地位を高めようとした」と指摘。多数の死傷者が出た結果の重大性や、今も松本死刑囚を「グル」(指導者)と呼び、被害者に謝罪がないことも踏まえ「責任は極めて重大で死刑も考えられる」とした。また、地下鉄事件の犯行前に高橋被告が教団への強制捜査を妨害する目的でサリン散布の計画を認識していたと主張。被告を「現場で臨機応変に行動した、寡黙で腕の立つ仕事人」と表現した。約17年間の逃亡については「自己の都合のみを考え最後の最後まで逃亡を続けた」と批判した。 そして死刑求刑も検討したが、地下鉄事件で被告と同じ送迎役への過去の判決や、被告が上司の指示に従う立場だったことを考慮。「無差別テロで運転手という重要な役割を担ったが、事件の計画立案には関わっていない。従属的な面は否めず、死刑はためらいを覚える。サリン散布の実行役と一線を画し、一生涯刑務所の中で自分の犯した罪と向き合わせることは、意味のないことでない」と無期懲役の求刑に至った理由を説明した。 4月1日の最終弁論で、弁護人は冒頭で、各事件とも証人の証言が食い違っていることを念頭に、裁判員らに「人の記憶はもろくてあてにならず、慎重に吟味しなければならない」と呼びかけた。 2人が死傷したVX事件から開始。「高橋被告には、VXが死をもたらす猛毒という認識は全くなかった」と、被告と同様の証言をした証人の言葉を紹介しながら無罪を主張した。教団内で殺人を意味する隠語「ポア」についても、「被告は、人の精神を高い世界に移すことだと純粋に信じていた」とした。 目黒公証役場事務長拉致監禁事件については、男性を車に押し込み、遺体の焼却を手伝っただけと主張。「被告は麻酔薬の投与も知らなかった。男性を最後に監視していた中川智正死刑囚の不作為による殺人だ」と述べ、死亡への関与は否定した。 都庁郵便物爆発事件では、爆発物製造などの手伝いにとどまるとした。 地下鉄サリン事件について前日のやり取りを巡って元信者の証言が食い違った点を指摘。「被告にサリンをまくと伝えた」とする井上嘉浩死刑囚や「アジトでサリンという言葉が使われた」と述べた林郁夫受刑者の証言を「他の証人と異なり信用できない」とし、「被告はサリンや猛毒をまく認識がなかった。殺意の立証には疑問が残る」と述べた。その上で「被告は液体が何なのか全然知らずに運転のワーク(修行)をしただけだ」とし、無罪を主張した。 そして、目黒公証役場事務長拉致監禁事件と都庁郵便物爆発事件のみの関与で、しかも幇助犯にとどまるとして「懲役10年を超えることはありえない」と訴えた。 高橋被告は最終意見陳述で「一連の事件で自分ができることは何なのかと回答を出すために、事実と向き合い日々考えることが今必要だと思う」「この裁判で被害者をはじめさまざまな人の話を聞けたことは大変良かった」と述べたが、最後まで事件の遺族や被害者への謝罪はなかった。 判決は起訴された罪について、「いずれの事件も従属的な立場だったが、実行の補助役などを着実にこなした」とすべて認定。事件前日に犯行メンバーが集まった場で「サリン」との発言が出たことを複数の死刑囚らが否定したと指摘。「まくのがサリンだという認識が被告にあったかは合理的な疑いが残る」とした。一方で、犯行後に被告が犯行後に解毒剤の注射を自ら申し出たことなど毒物の影響を気にする言動をしていた点に着目し、「人を死亡させる危険性の高い毒物をまくことは認識していた」と認定。殺意や共謀があったと判断。サリンを散布する実行犯の送迎役を務めたとし、「犯行を成功させるために非常に重要だった」と指摘した。また判決は、地下鉄サリン事件を「常軌を逸した無差別大量殺人で、その社会的影響は計り知れない」としたうえで、「逃亡している間、被告が被害者に思いを致した様子はない。世間を震撼させる事件を起こしながら約17年も逃亡し、公判での態度を見ても更生の兆しを見いだせない」と断じた。そして、教祖の松本智津夫死刑囚の指示の下、従属的な立場で犯行に関わった点などを考慮しても「刑事責任は有期刑の範囲に収まらない」と結論づけた。 |
備 考 |
1月16日の初公判から判決までの公判回数は39回となり、裁判員裁判ではさいたま地裁の首都圏連続不審死事件の36回を超えて過去最多となる。1月8日に選任された裁判員の在任期間は113日となる。 被告側は控訴した。2016年9月7日、東京高裁で被告側控訴棄却。2018年1月18日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 久保知暁(44) |
逮 捕 | 2014年3月18日(殺人未遂容疑) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、強盗殺人未遂、非現住建造物等放火、住居侵入他 |
事件概要 |
住所不定、無職、久保知暁被告は2014年3月4日正午過ぎ、宅配便の配達員を装って愛知県豊川市に住む会社員の男性(当時61)宅に侵入。妻(当時59)の手足を結束バンドで縛り、42万円を強奪。帰宅した男性にスタンガンを押し当てるなどして4万円とキャッシュカードを奪い、翌5日午前3時ごろ、男性を金属バットで頭を数回殴った上に包丁で首を刺して殺害。女性の胸も刺し、室内から10万円を奪って家に火を放った。妻は肋骨を折るなどの重傷を負ったが、火災の際に2階から飛び降りて救助された。 男性は2013年まで鉄道車両メーカー大手に勤務し、車両の内装などを担当。定年後は関連会社に勤めていた。久保被告は2009年から関連会社で正社員として働いていたが、職場で同僚とけんかを繰り返すなどトラブルが絶えず、2013年6月、トラブルが原因で解雇され、それを通告したのが男性だった。 3月18日夕方、愛知県警は高松市のスーパー銭湯で久保被告を発見し、殺人未遂容疑で逮捕した。4月9日、強盗殺人他容疑で再逮捕した。 |
裁判所 | 名古屋地裁 丹羽敏彦裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年6月8日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。弁護側は従来、解雇を通告した男性を恨んで殺害したが、現金の強奪との関連性はないと主張。法定刑が死刑または無期懲役の強盗殺人罪ではなく、殺人罪と強盗罪にあたると訴えていた。ところが5月29日の公判前整理手続きで、夫婦への殺傷行為自体も否認に転じた。 2015年6月1日の初公判で、久保被告は「2人を縛って金品を奪ったが、殺人や放火はやっていない」と述べ、起訴事実を一部否認した。 検察側は冒頭陳述で、「男性は久保被告が職場でたびたびトラブルを起こしたことから2013年6月に解雇を通告した。被告は人生に絶望し、仕返しのため強盗と放火を考えるようになった」」と指摘。同年12月からスタンガンや結束バンドを用意し、犯行当日は夫妻をそれぞれ縛り上げた上で現金を奪ったと述べた。その上で、2人を殺害して自宅に放火することで証拠隠滅を図ろうとしたと主張。「強い殺意に基づく執拗かつ残忍な犯行」と非難した。弁護側は「現場に居合わせたミヤタと名乗る別人物が夫妻を殺傷し、放火した」と反論。一方で、「仮に殺傷行為が認められても、侵入から約15時間後だ」と述べ、死刑もしくは無期懲役となる強盗殺人罪の成立を否定した。 2日の第2回公判で、殺害された男性の妻の証人尋問が行われ、「家に侵入したのと自分を刺したのは同一人物。犯人が2人なんてありえない。自分を襲った犯人は久保被告で間違いない」と証言。「殺傷行為と放火は、別の人物による犯行」とする被告側の主張を否定した。 4日の論告で検察側は「捜査段階の自白内容は具体的で臨場感に富み、実際に体験しなければ語り得なく、信用できる」と指摘。刃物で刺されて重傷を負った妻が証人尋問で「犯人は被告で間違いない」と証言したことなどを挙げ、被告の主張を「荒唐無稽で全く信用できない」と強調した。そして「解雇を通告されたことで男性を逆恨みし、金属バットで5回以上殴り、包丁で3回刺して殺害した残忍な犯行。反省も全く認められない。強い殺意で2人を殺傷しており、強盗殺人では重い部類だが、過去の量刑傾向に照らすと死刑求刑はちゅうちょされる」として無期懲役を求刑した。 同日の最終弁論で弁護側は「元々死ぬつもりだったので、自らの処遇をどうでもいいと考え自白した。被告が殺傷、放火の犯人とするには合理的疑いが残る」と反論。「仮に犯人と認定したとしても、強盗の機会に殺傷したとは言えず、強盗罪と殺人、殺人未遂罪にとどまる」として、懲役20年が相当と主張した。 久保被告は最終陳述で「やりたくてやったわけではない」と涙ながらに話した。 判決で丹波裁判長は、被告側の無罪主張について「取り調べ段階での自白は具体的で、他の証拠と整合している」と退けた。また、弁護側は「現場には別の人物がいた」としていたが、丹羽裁判長は「公判では『数カ月前に知り合った別人物の犯行』と言いながら、顔も連絡先も分からず、内容自体が極めて不合理」だと指摘。「自白を翻し、架空の第三者を仕立て上げるなど、犯行の重大さ、遺族に与えた影響に真摯に向き合う姿勢に欠ける」と批判した。そして「強い殺意に基づく執拗かつ非情な犯行。侵入当初から殺害を計画していたとまでは言えないが、酌量減軽する事情はない」と述べた。そして判決では「強盗のための緊縛を解いておらず、強盗の機会に殺害した」として強盗殺人罪などの成立を認めた。 |
備 考 | 被告側は控訴した。2015年12月7日、名古屋高裁で被告側控訴棄却。2016年6月7日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 竹井聖寿(25) |
逮 捕 | 2014年3月5日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗致傷、強盗殺人、強盗、銃砲刀剣類所持等取締法違反、大麻取締法違反 |
事件概要 |
千葉県柏市の無職竹井聖寿(せいじゅ)被告は、2014年3月3日23時過ぎに自宅近くのコンビニでニット帽と手袋を購入。サングラスとマスクも着用し、各犯行に使用した刃体が21.9cmのナイフに加え、別のナイフや手錠2個、催涙スプレーも持って、襲う相手を探した。23時34分ごろ、自宅アパート前の路上で近くを通りかかった女性に声を掛けたが、女性は逃げ出した。数分後、通りかかった自転車の男性(当時25)に刃物を見せた。逃げた男性は払いのけた際に左手の親指を切り軽傷を負った。続けて11時37分ごろ、同じアパートに住む会社員の男性(当時31)の首や背中をナイフ(刃渡り約22m)で数回刺して殺害し、現金1万数千円などが入ったバッグを奪った。さらに通りすがりのワゴン車の男性(当時44)に「金を出せ。人を殺した」とナイフで脅し、現金約3500円入りの財布を奪った。竹井被告はワゴン車に乗り込んだが、発車できず、乗用車を止めた男性(当時47)から車を奪った。車は約1.3km先のコンビニエンスストアの駐車場で乗り捨てた。 竹井被告は4日、報道各社の取材に30分近く応じ、アパート内の通路から数分間、犯行現場を撮影したと説明した。 県警の捜査員は5日朝、竹井被告に任意同行を求めると、竹井被告は「チェックメイト」と答えて素直に応じた。同日夜、強盗殺人容疑で逮捕した。 千葉地検は竹井被告が不可解な説明をしていたことから鑑定留置を千葉地裁に請求し、4月11日から3か月が認められた。7月17日、千葉地検は竹井聖寿被告を起訴した。鑑定留置中の精神鑑定結果や取り調べ状況などから、刑事責任を問えると判断した。 |
裁判所 | 千葉地裁 小森田恵樹裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2015年6月12日 無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2015年5月27日の初公判で職竹井聖寿被告は「間違いありません」と起訴内容を認めた。 検察側は事件前に竹井被告の所持金が1万数千円しかなかったことに触れ、「生活費や遊興費など単なる金目当てだった」と指摘。そして「ハイジャックをしてスカイツリーに突っ込むなどの話は、ネット仲間と会話を楽しむための空想」と述べた。判断能力は「アルコールや大麻を服用していたためで被告人に有利に解するべきではない」とした。 弁護側は起訴事実ととともに、竹井被告に責任能力があったことを争わない方針を示した。しかし、動機については「生活費のほかハイジャックの準備資金がほしかった。依存しているインターネットの仲間に自分を誇示しようとした」と述べた。判断能力についても「精神疾患の影響による妄想が犯行に駆り立てた。善悪を判断する能力が減退していた」などと刑の減軽を求めた。 2日の公判で竹井被告はこれまでのスーツ姿とは打って変わり、腕のタトゥーを露わにしたタンクトップ姿で入廷。開廷前、「裁判長に申し上げる」といった不規則発言をしたり、突然笑い声を上げたりし、弁護士に促され一時退廷。約1時間遅れで開廷した。 3日の公判で竹井被告は動機について「ハイジャックをしてスカイツリーに突っ込むテロを実現させるため、けん銃を買おうと思った。その金が欲しかった」と逮捕直後と同じ内容の供述を繰り返した。「テロを通して、自分がこれまでに受けたいじめや親からの暴力、差別などの理不尽さを社会に訴えたかった」とも述べた。被害者を殺害した理由については、「抵抗してきたので怒りを感じた。殺すしかないと思って首を刺した。とどめを刺そうと、倒れた被害者の背中をナイフで何回も刺した」と供述。抵抗する被害者が「こんなところで死んでたまるか」、首を刺されてうつぶせに倒れた後には「まだ死にたくない」と漏らしていたことを初めて明かし、「罪が重くなると思ってこれまで言わなかった」と話した。2日の公判の開廷前に、歌を歌うなど挑発的な言動を繰り返した理由を問われると、「死刑になりたくてわざとやった」と述べた。 5日、被害者参加制度を利用して意見陳述した被害者の父親は「極刑でなければ納得できない」、母親も「絶対に許さない」と涙ながらに語った。両親の陳述を竹井被告は無表情で聞き、弁護側が「ご両親のつらい気持ちが理解できたか」と尋ねても、「全く理解できません」と答えた。 同日の論告で検察側は、動機を「被害者のバッグを奪っているが、そこから現金だけを抜き取った。ハイジャックとは関係ない、生活費や遊興費ほしさの単なる金目当ての犯行だった」と指摘し、「精神鑑定医の証言から、被告人は統合失調症とは言えない。人格が事件を引き起こした。強固な殺意を持って何度も刺しており残虐かつ悪質」と主張した。そして強盗殺人罪で被害者が1人だった過去の裁判とのバランスなどを理由に挙げ「極刑は慎重にすべきだ」と説明した。父親は最後の求刑意見で、「遺族を代表して死刑を求刑します」と述べた。 同日の最終弁論で弁護側は、ハイジャックの資金を得るなどの動機は「妄想と評価できる」、事件後に竹井被告が血が付着した衣服のままホテルにチェックインしたことなどは「合理性に欠ける行動」と反論し、「統合失調症により説明できる」として情状酌量による懲役25年が相当と主張した。 竹井被告は最終意見陳述で、「被害者はテロの犠牲者。社会に対する復讐心は消えず、遺族に謝罪の気持ちはない。刑務所から出たらまた殺人を犯すので死刑を望みます」などと述べ、反省や謝罪の態度を見せなかった。 判決で小森田裁判長は精神鑑定を行った医師の証言から「統合失調症には罹患していなかった。犯行は性格の偏りから引き起こされたに過ぎず、被告に特に有利な事情とすべきではない」として弁護側の主張を退けた。そして「強固な殺意に基づく残虐で執拗な犯行。生活費を得るための動機に酌量の余地はない。裁判での態度からすると、再び同様の凶行に及ぶ可能性が高いことは否定できない」と述べた。 この日竹井被告は、腕の入れ墨を露出させたタンクトップ姿で尾崎豊の「卒業」を歌いながら入廷。裁判長から「静かにしなさい」とたしなめられた。判決の主文言い渡し後にも拍手し、「これでまた殺人ができる」と発言するなど不可解な言動を続けた。閉廷後は「検察官、悔しかったら死刑にしてみろ」などと大声を上げて、地裁職員に取り押さえられた。 |
備 考 | 被告側は控訴した。2016年3月30日、東京高裁で被告側控訴棄却。2016年10月11日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 桜井正男(67) |
逮 捕 | 2014年5月14日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、銃刀法違反 |
事件概要 |
群馬県みなかみ町の陶芸家、桜井正男被告は2014年5月3日午後4時ごろ、東京都国立市の古美術品店で、男性店主(当時73)の胸や腰を小刀で刺して殺害し、現金84000円やつぼなど20点(合計約110万円相当)を奪った。そして店の前に止めたワゴンに壷などを載せ、桜井被告の妻(当時49)に運転させて逃走した。桜井被告は過去に20回程度、自分が作製したつぼなどを男性に売りつけていた。 同日午後6時以降に男性が電話に出なかったことから、不審に思った妻が午後8時50分ごろ、店を訪れて発見した。 5月14日、警視庁立川署捜査本部は強盗殺人容疑で桜井被告と妻を強盗殺人容疑で逮捕した。6月3日、東京地検立川支部は桜井被告を起訴した。同日、桜井被告の妻に対し、強盗殺人容疑については嫌疑不十分、証拠隠滅容疑は起訴猶予でいずれも不起訴とし、同日釈放した。同支部は「起訴するに足りる証拠を得られなかった」としている。 |
裁判所 | 東京高裁 大島隆明裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年7月17日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 | 弁護側は「殺意はなく、店主からもらった品を持ち出した」と主張したが、大島隆明裁判長は「被害者が突然、贈与を申し出たというのは不自然だ。左胸を突き刺しており、死ぬ危険性が高いと十分に認識していた」と退けた。 |
備 考 | 2015年2月23日、東京地裁立川支部の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2015年10月16日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | ナカウ・カズモリ(64) |
逮 捕 | 2013年8月9日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、銃刀法違反(所持) |
事件概要 |
埼玉県鴻巣市に住むブラジル国籍の日系3世、無職ナカウ・カズモリ被告は2013年12月30日午後6時ごろ、熊谷市の荒川左岸河川敷で、金属加工業の男性(当時59)の首付近をペティナイフで数回突き刺すなどして殺害し、男性からの借金返済を免れた。 男性は31日午前9時45分ごろ、血を流して倒れているのを発見された。 ナカウ被告は1995年12月に来日し、自動車部品の製造会社などで勤務していた。趣味を通じて約10年前に男性と知り合い、一緒に銭湯に行く仲だった。数年前に仕事をやめてからは金を借りるようになった。 現場にあった男性の携帯電話の解析結果などから、同日午後4時すぎに男性が電話してナカウ被告宅に向かったことが判明。2014年2月27日、熊谷署捜査本部は強盗殺人容疑でナカウ・カズモリ被告を逮捕した。 |
裁判所 | さいたま地裁 多和田隆史裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年8月6日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2015年6月8日の初公判で、ナカウ被告は起訴状の内容について、「私は誰も殺していません」と否認。犯行に使われたとするペティナイフについても「持っていませんでした」と主張した。 冒頭陳述で検察側は、ナカウ被告の動機について「約300万円の返済を免れるため」と強調した。現場に捨てられていたペティナイフは「被告人の内妻の実家にあり、被告人方でも使われていたもの」と主張。「被告人は被害者が死亡する時刻まで行動を共にしていた。被害者が第三者と会った形跡はなく、被告人が犯人であることは明白」と述べた。 弁護側は事件当日の被告人の行動について「被害者と自宅付近で会ったがすぐ別れた。(被告人は)その後、散歩に出掛け、放置自転車で熊谷までサイクリングをしていた」と説明。被害者が高利貸業をしていた点を指摘し、「事業をめぐるトラブルで、誰かに現場に呼び出された可能性が考えられる」とナカウ被告の無罪を主張した。 23日の論告で検察側は、事件当日に熊谷駅のコンビニに被告が立ち寄っていた点を指摘し、「熊谷へ行く合理的理由はなく、被害者が死亡したころまで行動を共にしていたと推認できる。300万円の債務を免れるため殺害する動機もあった」と強調。凶器のペティナイフについて「被告の内妻の実家にあったもので、研磨痕の特徴も酷似する」と述べた。そして「刑事責任に向き合う態度に欠ける」と断じた。 同日の最終弁論で弁護側は「借金は30万円で、これだけのために殺すはずがない。熊谷までサイクリングをしていた。返り血を浴びておらず、事件後、人目の多いコンビニ店で買い物するとは考えにくい。凶器はありふれた包丁で立証は不十分」と反論。被害者が高利貸し業をしていた点に触れ、「トラブルで第三者に呼び出された可能性がある」と述べた。 ナカウ被告は最終意見陳述で「僕は人を絶対に殺していない」と二度繰り返した。 多和田隆史裁判長は、検察側が証拠として挙げた防犯カメラ画像や凶器の鑑定結果などから「被告が被害者の車で現場近くまで同行し、凶器のペティナイフを使用した」と認定。犯行の動機に触れ「被害者から約300万円の債務を負い、返済を強く迫られていた。返済を免れるために犯行に及ぶ動機があった」とした。また「被害者が運転する車に同乗して犯行現場まで移動した」と結論付けた。別人が犯人の可能性があるとする弁護側の主張は「被告の家から第三者が凶器を持ち出し、被告と無関係に被害者を殺害することは考えられない」として退けた。そして「強固な殺意に基づく犯行」と断じた。 |
備 考 | 被告側は即日控訴した。2016年5月20日、東京高裁で被告側控訴棄却。2017年8月28日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 元少年(21) |
逮 捕 | 2013年10月15日(窃盗容疑。11月4日、強盗殺人容疑で再逮捕) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、窃盗 |
事件概要 |
住所不定、無職の少年(事件当時19)は2013年9月26日午前3時半ごろ~6時15分ごろ、北区に住むラーメン店アルバイトの男性(当時25)が住む京都市北区のマンションで、借りていた携帯電話の返還を免れる目的で就寝中の男性の胸を、台所にあった包丁(刃渡り17cm以上)で刺して殺害。携帯電話2台と約17,000円入りの財布を奪った。29日に再び男性方を訪れ、包丁やマンガ、ゲームを持ち出した。 少年は他に9月24日、京都市上京区の駐輪場でオートバイ(約15万円相当)を盗んだ。 少年は男性が2004年2月まで暮らした京都市内の児童養護施設の出身で、2005年10月から2008年9月まで入所。男性と入所時期は重なっていないが、手紙をやりとりし、2013年9月以降は男性方に度々寝泊まりしていた。男性は昼間は乾物会社、夜はラーメン店で働いており、部屋には少年も含め、施設の後輩が頻繁に出入りしていた。少年は施設を出た後は定職には就かず、犯行直前は、知人宅やネットカフェを転々とする生活を送っていた。 10月14日午後4時10分頃、連絡が取れなくなったことを心配して訪ねてきた施設の後輩である中高生2人が、持っていた合鍵で部屋に入り遺体を発見した。 京都府警北署捜査本部は10月15日、男性の携帯電話を盗んだ窃盗容疑でネットカフェにいた少年を逮捕した。11月4日、強盗殺人容疑で再逮捕。京都地検は11月26日、強盗殺人などの非行内容で京都家裁に送致した。 京都家裁(谷口真紀裁判長)は12月19日の第2回少年審判で、少年が金品を奪おうとして男性を殺害したと認定した上で、「無軌道な生活を送っていた少年の身勝手な動機に酌むべき点はない」と指摘。「強固な殺意に基づく凶悪な犯行。刑事処分以外の措置は相当ではない」と判断し、検察官送致(逆送)とする決定をした。京都地検は12月27日、強盗殺人罪などで起訴した。 |
裁判所 | 最高裁第一小法廷 大谷直人裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年8月25日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | 一・二審で元少年側は強盗目的を否定している。 |
備 考 | 2014年7月14日、京都地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2015年3月17日、大阪高裁で被告側控訴棄却 |
氏 名 | 加藤健太(26) |
逮 捕 | 2015年2月20日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、住居侵入 |
事件概要 |
大阪市住吉区に住む元ボーイで無職の加藤健太被告は2015年1月17日午後1時ごろ、北区のマンションに住む売り専(ゲイ風俗)オーナーである知人男性(当時39)を持っていたハンマーで十数回殴打して殺害。さらに室内を荒らし、現金約15万円やスーツ、腕時計などを奪った。 加藤被告は交際相手の女性から貯金箱やデパートの商品券、時計などをたびたび盗んでいたことから、女性は100万円の返済を求めた。2014年11月ごろには女性の妊娠が発覚し、結婚話も持ち上がったが、売り専もさぼりがちで定職にもつかず。2014年末から2015年明けにかけては3件の空き巣をはたらき、盗んだ指輪などはブランド買い取り店などで換金した。 知人男性とは2014年6月、ボーイと客として知り合い、個人的な関係になったが、その後の肉体関係はなかった。男性は無職だった加藤被告を目にかけ、新規出店予定のオーガニックカフェで「料理を担当してほしい」と頼み、加藤被告は働く予定だった。 事件後、堺市内のリサイクルショップに男性のスーツが持ち込まれていたことが分かり、その際に提示された免許証などから加藤被告が浮上した。大阪府警は2月20日、加藤被告を強盗殺人容疑などで逮捕した。 |
裁判所 | 大阪地裁 斎藤正人裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年9月2日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2015年8月25日の初公判で、加藤健太被告は「間違いありません」と罪を全面的に認めた。 女性は金の返済を求めたものの、厳しく請求したわけではない。加藤被告は動機について、「当時は不通の考えができなくなり、どううしていいのかわからなくなって」と答えており、本人もよくわかっていない。 28日の論告求刑で、被害者の母親は「息子を見るも無残な姿にした被告に、この世で生きていてほしくない」と涙ながらに訴え、検察は「動機も極めて身勝手で、真摯に反省しているとは言えない」と断じた。 判決で斎藤裁判長は、「危険かつ残虐、執拗なもので動機や経緯にも全く酌量の余地はない」と断じた。 |
備 考 |
同じマンションの別の階に住む被害者の知人であるゲイバーママ(当時34)が、被害者の死亡推定時刻の約1時間後に自殺したが、後に事件とは無関係であることが明らかになった。 被告側は控訴した。2016年2月16日、大阪高裁で被告側控訴棄却。2016年中に上告取下げ、確定。 |
氏 名 | 伊藤早苗(45)/菊地広光(51) |
逮 捕 | 2013年2月7日(詐欺容疑。2月21日、強盗殺人容疑で再逮捕) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、強盗殺人未遂、窃盗、詐欺 |
事件概要 |
宮城県丸森町の無職・伊藤早苗被告と仙台市の会社員・菊地広光被告は共謀して2012年10月21日深夜、宮城県蔵王町のホテルで、埼玉県行田市の電気設備業の男性(当時67)に睡眠薬入りの飲料を飲ませて眠らせて大量のインスリンを注射し、鋼材で頭を殴って殺害しようとしたが失敗した。男性は脳挫傷で重傷を負い、病院に搬送されたが、男性は記憶が曖昧な様子で「転倒した」などと宮城県警には説明した。 11月3日に退院した際、伊藤被告が婚約者を装って手続きをし、2人は男性を転院させず、男性の自宅に移動させた直後、睡眠薬を飲ませ牛刀(刃渡り約18cm)で首を切って殺害し、現金約32,000円や指輪1個(時価約10万円相当)などを奪った。 その後両被告は11月3日~11日、不正に入手した男性のキャッシュカード2枚を使って、宮城、福島両県のコンビニ店の現金自動預け払い機で計188万円を引き出して盗んだ。 男性の知人が11月中旬、連絡が取れないことから通報し、埼玉県警の署員が1階で遺体を見つけた。県警は事件と自殺の両面で捜査していたが、2人が男性の死後、男性の健康保険証を使って宮城県内の携帯電話販売店で男性名義の携帯電話2台を買ったとして、2013年2月7日に詐欺容疑などで逮捕した。2月21日、強盗殺人容疑で再逮捕。4月10日、ホテルでの強盗殺人未遂で再逮捕。5月15日、窃盗容疑で再逮捕。 |
裁判所 | 最高裁第二小法廷 小貫芳信裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年9月16日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | 一、二審で伊藤被告は「金を奪う目的はなかった」、菊地被告は「従属的だった」と主張している。 |
備 考 | 2014年8月8日、さいたま地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2015年4月23日、東京高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 伊東順一(63) |
逮 捕 | 2007年2月2日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、住居侵入、窃盗 |
事件概要 |
大分県豊後大野市の無職伊東順一被告は2005年3月14日、同市で一人暮らしをしていた顔見知りの女性(当時61)方に勝手口から鍵を壊して侵入し金品を物色。帰宅した女性に見付かったため、女性の頭をコンクリート塊(重さ約800g)片で殴ったり、首を絞めたりして殺害。乗用車と商品券2枚(時価計約59万円)を奪った。伊東被告は3月8日頃にも女性方に勝手口から侵入し、13万円を盗んでいた。 遺体は19日に発見され、車は翌日、自宅から約2.5km離れた空き地で見付かった。 伊東被告は2005年12月、同県竹田市の住宅で缶ビールなどを盗んだとして竹田署に逮捕され、2006年2月に大分地裁で懲役2年の判決を受けた。2006年7月、福岡高裁で懲役2年の判決が確定し、福岡刑務所で服役中だった。 伊東被告は福岡高裁に控訴中の2006年5月、取り調べで「(女性の)家と車の鍵を川に捨てた」と関与をほのめかした。有力な物証に乏しかったが、大分県警は現場資料の積み重ねなどから2007年2月2日に逮捕した。 |
裁判所 | 最高裁第一小法廷 桜井龍子裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年10月6日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | 被告は逮捕後に犯行を認めるものの後に否認し、公判前整理手続きより無罪を主張している。一審から被告と犯行を結びつける物的証拠がなく、伊東被告が自白したとされる供述調書の信用性が争点だった。 |
備 考 |
伊東被告は2011年5月12日午後3時20分ごろ、大分市内のスーパーで、おにぎりやまんじゅうなど7点(計540円相当)をバッグに入れて盗み、そのまま店を出ようとしたところを女性警備員に見つかった。大分中央署は窃盗容疑で現行犯逮捕した。所持金はほとんどなく、空腹に耐えかねての犯行だった。2011年7月11日、大分簡裁(中間博文裁判官)は「反省の態度を示しているが、再犯の可能性を否定できない」と述べ、懲役8月(求刑懲役1年)の実刑判決を言い渡した。 伊東順一被告は2010年10月から12月にかけて大分市の男性に「財産分与に絡み弁護士費用が必要」などと話を持ちかけて12回にわたり合計65万円をだまし取った疑いで、2013年11月25日に逮捕された。伊東被告は「金は預かったがだますつもりはなかった」と容疑を否認している。警察は2011年3月、男性から被害届が出され捜査を進めていた。2014年1月30日の初公判で、伊東被告は起訴事実を認めた。2月18日、大分地裁(世森ユキコ裁判官)は、懲役1年10か月(求刑懲役2年6か月)の判決を言い渡した。伊東被告は控訴したが、後に取下げて確定。 2010年2月23日、大分地裁で一審無罪判決。2013年9月20日、福岡高裁で一審破棄、無期懲役判決。 2018年12月25日、伊東順一受刑者の弁護団が、福岡高裁に再審を請求した。弁護団は新証拠として、凶器が高裁判決で認定されたコンクリート塊とひもだけでは不自然で、解剖所見と自白は矛盾するなどと指摘する法医学者の鑑定書を提出。「自白は変遷が著しい」などとして、改めて信用性を争う姿勢を示した。 |
氏 名 | 沼田雄介(21) |
逮 捕 | 2014年10月16日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、銃刀法違反 |
事件概要 |
埼玉県入間市の私立大学2年生沼田雄介被告は2014年10月15日午後10時10分ごろ、コンビニのアルバイト先から帰宅途中だった近くに住む私立大学3年生の女性(当時21)を、自宅までわずか20mの細い路地で襲い、逃げる女性を背中から刺し、約16m執拗に追いかけ、背中や胸などをコンバットナイフ(刃渡り約18cm)で絶命するまで32か所刺して殺害した。 沼田被告は翌日午前1時20分ごろ、「人を刺した」と県警狭山署に出頭。供述通り、現場近くで凶器とみられるナイフが見つかったことなどから殺人容疑で緊急逮捕した。沼田被告は女性がコンビニ店で働いているという記憶があったが、交友関係はなかった。 沼田被告は10月17日付で大学を退学処分となり、1月に入団していた市消防団員も懲戒免職となった。 さいたま地検は沼田被告の刑事責任能力を調べるため、10月31日から2015年2月2日まで鑑定留置していた。さいたま地検は刑事責任能力があると判断し、2月6日に起訴した。 |
裁判所 | さいたま地裁 片山隆夫裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年10月7日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2015年9月28日の初公判で沼田雄介被告は起訴内容を認めた。 冒頭陳述で検察側は「犯行態様が残虐で、コンバットナイフを事前に用意するなど計画性があった。『誰でも良いから殺したかった』『現実から逃げたかった』との動機も身勝手」と指摘した。弁護側は「悲鳴を聞いて頭が真っ白になり『やりとげるしかない』と何度も刺した。留年や失恋で追いつめられ、人生のリセットしか考えられなかった」と主張し、沼田被告が出頭していることなどを挙げ情状酌量を求めた。 証人尋問で、沼田被告の父が息子の量刑に関して「無期懲役に値する」と述べたところ、被害者の父に問い質され、「やはり死刑がふさわしい」と言い直した。 検察側は沼田被告の父に「これまで、何度(殺害現場の)献花台に行きましたか」と問うと、「昨年12月くらいに1回行っただけです」と小さな声で答えた。そして「生活上、多額の借金があるため、まだ賠償は何もできていない」と加えた。この日、沼田被告は、大学での失恋や留年が確定的になったことで「現実から逃げたい。これまでの自分の人生を台無しにして、リセットしたい。刑務所にいくしかない」などと極めて身勝手な犯行動機を述べた。「(身長169cmの)自分より体格の小さい人ならだれでもよかった」と事件2日前から殺害対象を物色していたことも明かした。 被害者の父に「あおむけになって何度も『助けて』と苦しい表情で懇願する娘に向かって、何度もナイフで刺したんですね」と問われると、「はい」と冷ややかに回答。自身の刑期は「20年近くなるだろう」と述べた。 沼田被告は、高校時代に不登校になり通信学校に転校。大学でも授業についていけず、昨年9月から学校に行かずネットカフェに入り浸るようになった。そんな息子と、それまで話し合ってこなかったという被告の父は「なぜ刑務所にいきたいと思ったのか、今も分からない」。それでも、「(刑期を終え)社会復帰したら、何でも話し合える環境を作りたい」と更生を願っていた。 29日の論告で検察側は、「人生をリセットしたかった」などとした沼田被告の犯行動機について「理解不能で極めて身勝手」「面識のない、前途ある女子大学生の命を奪い、遺族の処罰感情も強い」などと指摘し、被害者が1人の殺人事件の中で最も重く処罰されるべき事案だと主張。事件後の出頭も反省や後悔に基づくものではなく、減刑の理由にはならないとした。被害者参加制度を利用して公判に参加した被害者の父は「被告は自分が死刑にならないことを前提で娘を殺した。自分の命を保証された形で人を殺すことが許されていいのか。私が20年刑務所に行くから被告人を殺させてください」と涙ながらに心情を述べた。被害者の弟は「被告と同じような考えをもった別の犯人を出さないためにも、被告には死刑を求める」と訴えた。 同日の最終弁論で弁護側は「事件と向き合い、反省している」と懲役18年が妥当と主張した。 判決で片山裁判長は、沼田被告が大学で留年が確実になり、自分に嫌気が差して「人生をリセットしたかった」などと犯行理由を述べたことについて「身勝手で生命軽視が甚だしい」と指弾。殺害相手を数日間物色したことについても「殺意が強固で、強い非難に値する」とした。沼田被告が事件の数時間後に出頭したことについても「刑務所に入るという当初の計画通りの行動であることに照らせば、反省に基づくものとは言い難い」と述べた。そして、犯行は計画的で残虐、殺意も強固だったとし「凶器を使用して面識のない被害者1人を殺害した事案の中でも最も重い部類に属する」と判断した。 |
備 考 | 控訴せず確定。 |
氏 名 | 桜井正男(67) |
逮 捕 | 2014年5月14日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、銃刀法違反 |
事件概要 |
群馬県みなかみ町の陶芸家、桜井正男被告は2014年5月3日午後4時ごろ、東京都国立市の古美術品店で、男性店主(当時73)の胸や腰を小刀で刺して殺害し、現金84000円やつぼなど20点(合計約110万円相当)を奪った。そして店の前に止めたワゴンに壷などを載せ、桜井被告の妻(当時49)に運転させて逃走した。桜井被告は過去に20回程度、自分が作製したつぼなどを男性に売りつけていた。 同日午後6時以降に男性が電話に出なかったことから、不審に思った妻が午後8時50分ごろ、店を訪れて発見した。 5月14日、警視庁立川署捜査本部は強盗殺人容疑で桜井被告と妻を強盗殺人容疑で逮捕した。6月3日、東京地検立川支部は桜井被告を起訴した。同日、桜井被告の妻に対し、強盗殺人容疑については嫌疑不十分、証拠隠滅容疑は起訴猶予でいずれも不起訴とし、同日釈放した。同支部は「起訴するに足りる証拠を得られなかった」としている。 |
裁判所 | 最高裁第二小法廷 小貫芳信裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年10月16日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | 一・二審では殺意を否定している。 |
備 考 | 2015年2月23日、東京地裁立川支部の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2015年7月17日、東京高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 井馬享平(29) |
逮 捕 | 2012年8月31日 |
殺害人数 | 2名 |
罪 状 | 殺人、傷害、住居侵入 |
事件概要 |
愛知県小牧市のパチンコ店店員、井馬享平被告は2012年7月30日午後2時半ごろ、小牧市のアパート2階に住む飲食店員の女性(当時43)方に侵入。女性を準備していた果物ナイフで刺殺。その後室内で待ち伏せし、午後4時半頃、仕事から帰宅したパチンコ店店員の長女(当時19)の首をひもで締めたうえ、胸を果物ナイフで刺殺した。さらに長女の娘(当時2)の顔をフライパンで殴って9日間のけがを負わせた。犯行後、井馬被告は自分の胸などをナイフで刺して2階から飛び降り、意識不明の重体となった。 井馬被告は顔や腰などに重傷を負って、小牧市内の病院に入院。県警は、凶器とみられるナイフを持っていたことなどから、井馬被告による犯行とみて回復を待ち、8月31日に殺人などの容疑で逮捕した。 井馬被告と長女は同じパチンコ店の同僚であり、2012年1月末から5月ごろまで一時期交際していた。しかし別れた後、長女が他の男性と親しくなったため、ストーカー行為を繰り返した。7月中旬、長女はストーカー被害に遭っていることを店長に相談し、店長が井馬被告に注意したばかりだった。 |
裁判所 | 名古屋高裁 石山容示裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年10月28日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
2015年9月9日の控訴審初公判で、弁護側は量刑が不当だと主張。検察側は控訴棄却を求めて結審した。 判決理由で石山容示裁判長は「井馬被告が事件当時、自己の行動を統制できない状態だったとはいえない。2人に対して強固な殺意を持った犯行で厳しい非難に値する。一審判決の評価に誤りはない」と述べた。 |
備 考 | 2015年3月18日、名古屋地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告しない方針。 |
氏 名 | 阪田健一(48) |
逮 捕 | 2013年11月19日(自首。殺人、住居侵入容疑) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、住居侵入 |
事件概要 |
住所不定、無職の阪田健一被告は、オンラインゲームで2009年ごろから知り合いの女性から合鍵を受け取り、2013年11月15日午後4時ごろ、女性の元夫で神奈川県秦野市に住む会社員の男性(46)宅に侵入。午後10時ごろに帰宅した男性の首を刺して殺害し、現金2000円入りの財布を奪った。被害者の男性が元妻に子供の養育費を払っていないことを知った阪田被告が男性のぜいたくな暮らしぶりを見て、我慢できなくなったと供述している。 坂田被告は11月18日午後8時ごろ、神奈川県警小田原署に自首。秦野署員が19日午前1時ごろ、男性の遺体を発見した。同日、秦野署が殺人と住居侵入容疑で逮捕した。 2014年3月25日、県警捜査1課と秦野署は、被害者の男性の元妻である女性を住居侵入容疑で逮捕した。女性は2013年11月13日昼ごろ、阪田被告が侵入するのを知りながら合鍵を渡したので住居侵入容疑の共謀が問えると判断した。 2014年4月18日、横浜地検小田原支部は阪田健一被告について、強盗殺人と住居侵入の罪に訴因変更するよう横浜地裁小田原支部に請求した。元妻についても強盗致死ほう助罪を追加する訴因変更を請求した。 |
裁判所 | 東京高裁 藤井敏明裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年10月30日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 | 2015年10月2日、控訴審初公判。量刑不当を理由に控訴。判決理由は不明。 |
備 考 |
強盗致死ほう助の罪に問われた女性の裁判員裁判で、横浜地裁小田原支部は2014年12月24日、懲役8年(求刑懲役12年)の判決を言い渡した。佐藤晋一郎裁判長は「(被告のほう助行為は)犯行を確実なものにする重要な役割を果たした」と指摘した。2015年4月30日、東京高裁(井上弘通裁判長)で被告側控訴棄却。 2014年12月12日、横浜地裁小田原支部の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2016年4月14日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 李正則(41) |
逮 捕 | 2012年11月7日 |
殺害人数 | 3名(他に傷害致死1名) |
罪 状 | 殺人、傷害致死、詐欺、死体遺棄、逮捕監禁、監禁、生命身体加害略取 |
事件概要 |
尼崎の無職李正則被告は、同居していた戸籍上のいとこである無職角田美代子元被告らと共謀。以下の事件を起こした。
李正則被告は、2011年11月、女性(当時66)の遺体をドラム缶にコンクリート詰めにし、尼崎市の貸倉庫に遺棄した事件で2011年11月26日に死体遺棄罪で逮捕され(傷害致死には関わっていない)、他の強要罪も含め2012年9月3日、神戸地裁尼崎支部(森田亮裁判官)で懲役2年6月(求刑懲役3年6月)が言い渡され、控訴せず確定し、服役した。 その後、角田元被告の義妹の自供から2012年10月14日に女性の祖母の家の床下から3人の遺体が発見され、一連の事件が発覚した。2012年11月7日、3番目の事件における死体遺棄容疑で、角田美代子元被告らとともに李正則被告も逮捕され、以後再逮捕を繰り返した。 李被告は2002年頃から実母の再婚相手(義父)の知り合いだった角田元被告の自宅に出入りするようになる。義父の借金について話し合うとして、尼崎市の元被告宅に呼びつけられるようになり、拒否すると、自宅マンションにどなり込まれ朝まで居座られた。当時同居していた妻子を気遣って、仕方なく出向いたが、「出たり入ったりするな」と脅されて帰れなくなった。2004年には角田元被告の叔父と養子縁組していとことなるも、集団生活での立場は低く、『汚れ役』担当だった。 一連の事件では、角田元被告を除くと最も多い5件10罪に問われている。 |
裁判所 | 神戸地裁 平島正道裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2015年11月13日 無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2015年8月19日の初公判で、李正則被告は1番目の事件について「保険金で(集団生活を)助けるため、男性が自らの意思で飛び降りた」とし、犯罪にあたるとしても自殺関与罪にとどまると主張。2番目の事件について監禁したことを認めたが、殺意は否認した。3番目の事件について「元被告の指示で閉じ込めたが、殺害していない」として殺意を否認し、死体遺棄罪は認めた。 検察側は冒頭陳述で「被告は全ての事件で中心的役割を果たした」と述べた。 第2回(8月20日)~第5回(同27日)公判では1番目の事件に対する審理が行われ、李被告は「美代子元被告から、家族のために命を差し出すという『しきたり』をたたき込まれた」と話し、集団生活に取り込まれた経緯を語った。また、李被告は男性と3回にわたって国道へ行ったが、元被告から自殺の「見届け役」を命じられただけで、死ぬよう強要はしていないと反論した。 第6回~第8回の公判では4番目の事件に対する審理が行われ、無罪を訴えた李被告は、証言した角田元被告の息子の妻(公判中)らが危害を加えた疑いがあると述べ、無罪を主張した。 第9回(9月9日)~第13回(同17日)の公判では2番目の事件に対する審理が行われ、李被告は被告人質問で監禁当初に女性を暴行したほか、侮辱したことも認めた一方で、9月中旬以降は手を出していないと改めて殺意を否認した。また5番目の事件に対する審理では、起訴事実を否認した。 10月8日の論告求刑で、検察側は「犯行になくてはならない役割を担い、美代子元被告に次ぐ重い責任がある」と述べたが、「美代子元被告に匹敵するほどの刑事責任があるとは断罪できない」と指摘し、極刑の求刑を回避した。 同日の最終弁論で弁護側は、1番目の事件について再度「男性が死亡保険金で家計を助けるため自分の意思で飛び降りた」と主張。2番目の事件について死亡するほどの虐待を加えていないとして殺意を否定した。3番目の事件についても監禁が短期間で、死亡する可能性を認識していなかったと反論。男性の死体遺棄、逮捕監禁罪は認め、「自分の元妻と子供に元被告が危害を加える恐れがあり、服従せざるを得なかった」と訴えた。そして「関与は重いようにみえるが、『汚れ役』と位置づけられており、他の共犯者より多くを美代子元被告から命じられただけで従属的。手を下さず優遇された共犯者よりも強く非難されるべきではない」として、懲役15年程度が相当と訴えた。 李被告は最終意見陳述で、「取り返しのつかないことをした。遺族の気持ちを重く受け止め、反省と謝罪、供養を続ける」と話した。 この日は、代理人の弁護士が2番目の事件の被害者の父親の陳述書を読み上げ、「5か月間も暴行や飲食制限を受け、苦痛と恐怖を強いられた。被告に反省は見られず、極刑を望む」とした。 判決で平島裁判長は、死亡した5人に対する10の罪全てで角田元被告との共謀を認定した。1番目の事件について「死亡保険金を得るため、他の同居人とともに崖の上で取り囲み、飛び降りを強要した」と殺意を認定した。2番目の事件については、監視カメラを設置して衰弱の度合いを把握しており、死亡する危険性を認識していたと説明。「虐待を楽しんでいた様子があり、なぶり殺しにしたとも言える残酷な犯行」とした。3番目の事件については「ロープや手錠で何度も縛り直すなど実行行為に加担した」と述べた。4番目の事件については、目撃証言が医師の診断と一致する点などから信用できると判断し、無罪主張を退けた。 量刑理由で平島裁判長は「積極的に暴行するなど角田元被告に匹敵する重要な役割を果たした。格闘技の経験もある李被告が虐待の提案や実行行為を担っており、角田元被告の手足となった李被告がいなければ、一連の犯行は不可能だった」としたものの、は「3人を殺害して1人を死亡させており、死刑を検討すべきだが、元被告を頂点とする角田家という特殊な人間関係の中で起きた事件で、従属的だったことは否定できず、死刑の選択は躊躇せざるを得ない」とした。 |
備 考 |
一連の事件の首謀者である角田美代子元被告は2012年12月12日早朝、兵庫県警本部の留置場で、布団の中で首に衣類を巻いて自殺した。64歳没。 一連の事件に関わった親族らはほとんどが有期懲役が確定し、角田元被告の元夫が控訴中、長男の妻が公判中。 被告側は控訴した。2017年3月17日、大阪高裁で被告側控訴棄却。2018年3月6日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 新井正吾(45) |
逮 捕 | 2014年1月15日(別件の詐欺罪で逮捕済み) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、詐欺未遂 |
事件概要 |
京都市伏見区にある学習教材販売会社の社長で、宇治市に住む新井正吾被告は、兄で同社役員の新井茂夫被告と共謀。同社社員の男性(当時35)に2010年11月10日、1億円の海外旅行保険をかけた。11月24日午後9時ごろ(日本時間午後10時)、フィリピンマニラ市中心部の路上で茂夫被告が男性の頭などに複数の銃弾を発射させ、死亡させた。会社は1億数千万円の負債があった。 11月24日夜、男性の遺体が路上で発見された。男にかばんを奪われそうになり、銃撃されたとの目撃情報があり、現地警察が強盗殺人事件として捜査。府警は刑法の国外犯規定に基づき、事件の約2週間後にフィリピン政府から男性の遺体の引き渡しを受けて司法解剖し2011年と2013年、捜査員を現地に派遣した。 男性死亡後、両被告は保険金を請求したが、保険会社は「正吾被告らが共謀して殺害した可能性がある」として拒否。両被告は2011年、支払いを求めて東京地裁に提訴し、地裁は2013年5月、〈1〉当時、会社の負債は膨れ上がり、両被告の経済状態も悪化していた〈2〉過去の社員旅行では従業員に保険をかけなかった――と認定し、「保険会社が疑問を抱くのもうなずけなくもない」としたが、「(正吾被告らが)殺害したとの十分な証拠はない」として保険会社に全額支払いを命じた。保険会社側は控訴した。 新井正吾被告は知人女性のために健康保険証をだまし取ったなどとして、新井茂夫被告は生活保護費約120万円を不正受給したとして、2013年10~12月に逮捕、詐欺罪などで起訴された。2014年1月15日、京都府警は両被告を殺人容疑で再逮捕した。2月6日、保険金をだまし取ろうとしたとした詐欺未遂容疑で両被告を逮捕した。 |
裁判所 | 大阪高裁 中谷雄二郎裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年11月19日 無期懲役(一審破棄) |
裁判焦点 | 判決で中谷裁判長は実行犯について、実兄の新井茂夫被告か氏名不詳の第三者と認定した一審判決を破棄し、「実行犯は茂夫被告」として、第三者の関与を否定した。そのうえで正吾被告について「兄に従っただけだという一審供述は信用出来ない」と述べた上で、「拳銃の入手など重要な役割を担った。死亡保険金目的の計画殺人で、重く処罰されるべきだ」として改めて無期懲役が相当だと判断した。 |
備 考 |
兄の新井茂夫被告もこの事件で殺人罪などで起訴され、公判前整理手続き中。 新井正吾被告は2010年8月下旬、男性従業員に「今月で基本給をなくし歩合給だけにするが、引き続き働いてほしい。代わりに失業保険を受けられるようにする」などと告げ、伏見公共職業安定所に失業給付を申請させて、2010年10月~2011年2月に6回にわたり計約57万円を詐取させるなどした詐欺罪に問われた。2014年6月19日、京都地裁は懲役3年執行猶予4年(求刑懲役3年)の有罪判決を言い渡した。御山真理子裁判官は「会社の費用削減のため従業員に詐欺をさせたもので、くむべき事情はない」と指摘した。控訴せず確定。 2015年3月18日、京都地裁の裁判員裁判で、求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2017年2月8日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 久木野信寛(46) |
逮 捕 | 2013年2月1日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人 |
事件概要 |
久木野信寛被告は1997年4月13日午前2時過ぎ、三重県上野市(現・伊賀市)のビジネスホテルに押し入り、フロント付近で夜勤の従業員男性(当時48)の胸や背中を刃物で23か所以上刺して殺害し、金庫などから約159万円を奪ったとされる。久木野被告は1990年から約2年間、同ホテルに勤務していた。 2010年4月の刑事訴訟法改正に伴う時効撤廃後、県警は現場で見つかった軍手から採取したDNA型を改めて鑑定。任意で提出を受けた久木野被告のDNA型と一致したことなどから、2013年2月1日、兵庫県小野市で工員として働いていた久木野被告を逮捕した。 |
裁判所 | 最高裁第一小法廷 桜井龍子裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年12月3日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 |
1997年に事件が発生し、当時の強盗殺人罪の時効は15年だったため2012年に時効が成立するはずだったが、法改正により捜査が継続され、被告は2013年に逮捕、起訴された。時効廃止で容疑者を割り出し、起訴につながった初のケースだった。 久木野被告側は時効廃止について、「事件当時は時効が15年だったのに、改正で廃止された。(事後に定めた法律によってさかのぼって違法とする)遡及処罰を禁止した憲法39条に違反する。時効成立を認めるべきだ」と主張。「起訴時点で時効は完成していた」として裁判を打ち切る免訴を求めた。 判決で桜井裁判長は、「容疑者や被告になる可能性のある人物の、すでに生じていた法律上の地位を著しく不安定にする改正ではない。法改正で時効の期間を変更したに過ぎず、被告の行為が違法かどうかや、犯罪行為の違法性の評価や責任の重さが変更されるわけではない」という初判断を示し、憲法に違反しないと結論づけた。 |
備 考 |
警察庁によると、2010年4月に改正刑事訴訟法が施行され、殺人などの凶悪犯罪の公訴時効が撤廃されて以降、撤廃がなければ時効となっていた事件で指名手配されていなかった容疑者が逮捕された全国初の事件。旧法だったら2012年4月に時効が成立していた。 ホテルは2004年6月に閉館となっている。 2013年11月22日、津地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2014年4月24日、名古屋高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 久保知暁(44) |
逮 捕 | 2014年3月18日(殺人未遂容疑) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、強盗殺人未遂、非現住建造物等放火、住居侵入他 |
事件概要 |
住所不定、無職、久保知暁被告は2014年3月4日正午過ぎ、宅配便の配達員を装って愛知県豊川市に住む会社員の男性(当時61)宅に侵入。妻(当時59)の手足を結束バンドで縛り、42万円を強奪。帰宅した男性にスタンガンを押し当てるなどして4万円とキャッシュカードを奪い、翌5日午前3時ごろ、男性を金属バットで頭を数回殴った上に包丁で首を刺して殺害。女性の胸も刺し、室内から10万円を奪って家に火を放った。妻は肋骨を折るなどの重傷を負ったが、火災の際に2階から飛び降りて救助された。 男性は2013年まで鉄道車両メーカー大手に勤務し、車両の内装などを担当。定年後は関連会社に勤めていた。久保被告は2009年から関連会社で正社員として働いていたが、職場で同僚とけんかを繰り返すなどトラブルが絶えず、2013年6月、トラブルが原因で解雇され、それを通告したのが男性だった。 3月18日夕方、愛知県警は高松市のスーパー銭湯で久保被告を発見し、殺人未遂容疑で逮捕した。4月9日、強盗殺人他容疑で再逮捕した。 |
裁判所 | 名古屋高裁 石山容示裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年12月7日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 | 弁護側は一審同様「現場にいた別の人物が殺害した」と主張していたが、判決で石山裁判長は、「弁護側の主張は具体的な証拠がない。第三者の存在はうかがえず、被告が1人で行ったと考えるのが自然だ。不合理な弁解で信用できない」と退け、「犯行は執拗で非情。十分な反省もなく、一審判決に誤りはない」と述べた。 |
備 考 | 2015年6月8日、名古屋地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2016年6月7日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 喜納尚吾(32) |
逮 捕 | 2014年5月9日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強姦致死、強姦、監禁、わいせつ目的略取、わいせつ目的略取未遂、単純逃走 |
事件概要 |
新潟県新発田市の電気工事作業員、喜納尚吾被告は以下の事件を引き起こした。
喜納被告は沖縄県石垣市出身。2013年5月から新発田市内に住み、電気工事会社で作業員として勤務していた。 2014年8月20日、新潟地検は3番目の事件について、強姦致死とわいせつ略取の罪で新潟地裁に起訴した。殺人罪適用を見送った理由について、同地検は「確実に有罪を得るのは難しいと判断した」と説明した。 他に2013年9月21日、新発田市内の駐車場で車両4台が燃える火災があり、うち1台から同市の女性(当時24)が遺体で見つかった。また、強姦致死事件の遺体が見つかる4日前の2014年4月3日には、市内の小川で1月から行方が分からなくなっていた会社員女性(当時20)が遺体となって見つかっており、捜査本部は状況から喜納被告によるなんらかの関与があったとみて、捜査を続けている。 |
裁判所 | 新潟地裁 竹下雄裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年12月10日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2015年10月20日の初公判で、喜納尚吾被告は強姦致死事件について「私は関係していませんし、私が知っていることは何もありません」と述べて無罪を主張した。逃走未遂罪や、別件の強姦罪などについては「間違いありません」と起訴事実を認めた。 冒頭陳述で検察側は強姦致死事件について〈1〉女性の下着に付着した体液のDNA型が喜納被告のものと一致する〈2〉女性のタイツに喜納被告の車のシートと同様の繊維が付着していた〈3〉女性が連れ去られた現場付近の防犯カメラに喜納被告のものと似た車が映っている〈4〉被告にアリバイが無い――などとして喜納被告が犯人だと主張した。 弁護側は〈1〉下着から採取されたDNA型は全て一致しているわけではなく、喜納被告のものとは言い切れない〈2〉捜査の過程で喜納被告のDNA型が混入した可能性がある〈3〉事件当日は仕事先から午後5時ごろに帰宅し、妻(当時)と過ごしていた――などとして喜納被告が犯人ではないと主張。女性が連れ去られた現場付近の住民の話などを根拠に「女性は4人組の男に連れ去られた」と訴えた。 この日は、強姦致死事件以外の4事件に関する証拠書類の取り調べもあり、検察側は2013年8月~12月に起きた強姦事件などの被害状況を詳述。喜納被告は被害に遭った女性の車に乗り込んで刃物を突きつけ、「服脱げ。死にたい? 死にたくない?」などと脅して強姦に至った経緯や、「アイ・ホープ・セックス」などとカタコトの英語を使ったり、沖縄県出身の被告が「北朝鮮に帰れば死刑だ」と口走ったりしたことが明らかにされた。 21日の公判で検察側は、女性の下着から検出した体液の鑑定で、性別を表す部分を含めた16カ所中14カ所で喜納被告のものと一致したとし、非常に高い確率で喜納被告であると主張した。県警が採用するDNA型鑑定は、DNA内部の4種類の「塩基」と呼ばれる物質の並び方・繰り返し回数に個人差があることを利用した鑑定法で、DNA内の15カ所を検査・比較する。15カ所全て一致する別人がいる確率は4兆7000億人に1人以下で、全てが一致すればほぼ個人を特定できるとされている。検察によると、喜納被告が容疑を認めている2013年8月の2件の強姦事件と、沖縄県内で2004年に起きた未解決事件の計3件で採取したDNA型が一致。運転免許証の住所変更から喜納被告が浮上し、3件とのDNA型の一致を確認した。強姦致死事件でもほぼ一致したため、再逮捕に踏み切ったという。下着の保管状況については「適切に管理していた」とした。これに対し弁護側は、残りの2点のDNA型が不明だったことについて、「一つでも違う型と分かれば、それは別人」と指摘。「不明の型がある鑑定結果で、喜納被告のDNAが出たと言えるのか」などと訴えた。さらに鑑定には多くの人間が関わるとして「捜査の過程で取り違えや混入が起きた可能性がある」とも主張した。 22日の公判で、女性の着衣に付着していた体液のDNA型を巡り、県警科学捜査研究所の鑑定人が検察側証人として出廷。検出されたDNA型が、喜納被告以外の別人と一致する可能性は「約8716億人に1人の確率」と証言した。「不明」とされた残り2カ所については、鑑定の信頼性を高めるために2回行う検査のうち、「1回は喜納被告と同じ型が検出された」と説明した。これに対し弁護側は、「不明」の部分で1カ所でも喜納被告と違う型があれば別人だ▽DNA型が喜納被告の体液から検出されたのか信頼性に欠ける――などと反論した。 23日の公判で遺体の発見当時の捜査に当たった警察官らの証人尋問が行われた。弁護側の主張する喜納被告のDNA型が捜査の過程で混入した可能性について、検察側に問われると、「きれいな作業服や帽子をかぶっており、何かが混入することはあり得ない」などといずれの警察官も否定した。 27日の公判で、女性の着衣の実況見分から県警科学捜査研究所が下着のDNA型鑑定を行うまでの捜査に関わった警察官4人が出廷した。検察側は着衣の実況見分や運搬の際の服装などについて質問。弁護側は保管場所の状況に不備がなかったかなどを追及し、喜納被告のDNA型の混入や取り違えが生じた可能性の有無を審理した。女性のコートや下着の陰干しを担当した警察官は、新発田署内の車庫で管理していたと説明。「ブルーシートなどの上に置き、土やホコリからの汚染を防いでいた」と述べた。また、同署で女性の着衣の血液や体液検査などを行った警察官は、「着衣は1点ずつシートにくるんでいた。作業時は帽子やマスク、手袋をしており、唾液や毛髪が混入することはない」と証言した。捜査の過程で、喜納被告以外の別人のDNA型が混入した可能性を指摘する弁護側に対し、「(可能性は)全くない」と否定した。 28日の公判で検察側証人として警察官ら5人が出廷し、喜納被告が2013年8月に起こしたとされる他の2件の強姦事件について、証拠品の保管状況を説明。弁護側は、2件で検出された被告のDNA型が、今回の事件のものに混入した可能性について指摘した。警察官らは、2013年の事件の証拠品について、いずれもビニール袋に個別に包んで保存していたとして、「混入は考えられない」と証言した。これに対し弁護側は、「2013年の事件と今回の事件の証拠品が同じ場所で保管されていた時期があり、その際にDNA型が混入した可能性を否定できない」と主張。また2013年の事件の捜査資料が、保全用のシールで封をされないまま、約2年間にわたり新発田署で放置されていたとして、管理のずさんさを指摘した。 29日の公判で検察側は、女性のタイツとコートから喜納被告以外の男性のDNA型が検出されたことを明らかにし、着衣の鑑識作業に当たった警察官のものだと主張した。タイツの腰部分から検出されたDNA型は、鑑識作業に立ち会った警察官のものと一致。出廷した警察官は、ゴム手袋を付ける際に付着したDNA型が移った可能性があるとして、「大変申し訳なく思う」と謝罪した。また、コートの襟からは複数の男性の混合DNA型が検出。検察側証人の京都大教授は、鑑識作業などに携わった別の2人の警察官のDNA型と「推定できる」と証言し、第三者が介在した可能性は否定した。これに対し弁護側は、捜査課程でDNA型が混入する状況下では、「喜納被告のものが混入する可能性も否定できない」などと主張した。 30日の公判で、女性の着衣から検出されたDNA型について、検察側、弁護側双方がこれまでの主張をまとめた中間意見を述べた。 検察側は、「DNA型は喜納被告が犯人であることを示す決定的な証拠だ」と主張した。下着から女性のものと喜納被告のものが混合したと考えられるDNA型も検出されたとして「喜納被告が強姦事件の犯人であることは明らかだ」とも主張した。喜納被告のDNAが付着したティッシュの塊が、保全用テープで封がされていない状態で新発田署に保管されていたことについては「作為的な理由はない」と述べ、女性の下着が同署にあった期間は限られていたなどとして「DNAが下着に混入したとは考えられない」とした。弁護側は、DNA型には一部不明な部分があり、「喜納被告のものとは断定できないし、事件時に付着したものかも断定できない」と主張した。また、下着に付着した体液が精液だったとした鑑定人の証言を裏付ける写真がないとして、「精液とは断定できない」とも述べた。ティッシュの塊の保管状況については、「ずさんな取り扱いがあった」と指摘。保全用テープで封がされておらず、「ティッシュに付着したDNAがいつ下着に付着してもおかしくない」などと主張した。 11月4日の公判における追加の冒頭陳述で、喜納被告の車と同じ車種のシートの繊維が女性のタイツに付着していたことや、事件の前後に特徴がよく似た車が防犯カメラに映っていたとして、「DNA型鑑定と合わせ、被告が犯人であることを示す事実だ」と主張した。検察側証人として出廷した喜納被告の元同僚男性らは、当時被告が乗っていた車の右後部のライトの一部が「球切れだった」と証言。検察側は、事件発生前後、現場近くのコンビニエンスストアの防犯カメラに、同じ箇所が球切れとなった特徴が似た車が映っていたことなどを指摘した。これに対し弁護側は、現場付近で4人組の男が女性を連れ去ったという目撃情報があるとして、喜納被告の事件への関与を改めて否定。繊維についても「被告の車のものとは限らない」などと反論した。 5日の公判で喜納被告の元妻が弁護側証人として出廷し、事件当日の被告の行動について、「はっきりとは覚えていない」としながらも、「一緒に出かけていたと思う」と証言した。元妻は、被告の普段の生活について「午後6時半ごろに帰宅し、一緒にテレビを見たりドライブをしたりしていた」と説明。事件が起きた当日夜の喜納被告の行動については、「風呂に入って食事をし、一緒に外出していたと思う」と証言した。これに対し、検察側は反対尋問で、手帳やブログなどの客観的証拠がないことを指摘。「推測ではないのか」と問うと、元妻は「はい」と答えた。また検察側は事件発生前後、現場近くなどの防犯カメラ計7台に被告の車と特徴が似た車が映っていたことを指摘。出廷した警察官らは「当時県内にあった同車種は16台で、被告の車以外に(新発田市への出入りは)認められない」と証言した。また、女性の遺体が発見された2014年4月以降、喜納被告が携帯電話で事件に関連するニュースを何度も見ていたことも指摘された。弁護側は「犯人が捕まっていないと報道されており、奥さんのことが心配になってニュースを見た」と主張した。 6日の公判で初の被告人質問が行われた。被害者参加制度で出廷した女性の遺族から、事件への関与について問われた喜納被告は「やっていない」と改めて否認した。検察側から、事件当日夜の行動について聞かれると、「これといって変化がなく、はっきりとした記憶としては覚えていません」と話した。この日の公判で検察側は、弁護側が主張している4人組の男が女性を連れ去ったとの目撃証言について、目撃者が「髪形や服装から2人の女性は別人」などと供述していることから、今回の事件とは関連性がないと主張。これに対し弁護側は、女性の交友関係に言及し、被告以外の関与の可能性を指摘した。またこの日の検察側質問で、2004年5月に沖縄県で発生した当時16歳の少女に対する強姦致傷事件への関与を認めたが、この事件は時効を迎えている。 9日の公判における追加の冒頭陳述で、女性の左右の肋骨に刃物による損傷があったことを明らかにし、「被告が女性を死亡させた後、胸部を刃物で刺した」と主張。女性が暴行を受けてから亡くなるまで、喜納被告がそばにいた証左で、同罪が成立すると強調した。検察側は、女性が亡くなった状況について、下顎の骨が折れ、着衣が乱れていたことに加え、右利きだった女性の遺体右側にバッグや携帯電話が落ちていたことから、「被告が、車外で抵抗する女性の左顎を強打するなどして死亡させた」と説明。肋骨の損傷については、女性の着衣に血痕がなかったことから、「女性が刺されたのは死亡後で、そばにいたのは被告だけだ」と強調した。弁護側は、別の4人組の男が女性を連れ去った可能性を改めて示し反論。「別の場所に監禁され、亡くなった後に遺棄されたことも否定できない」とした。更に、肋骨の損傷は「雨風や動物が関与した可能性も十分ある」と訴えた。 17日の公判で被告が起訴内容を認めている強姦など4つの事件についての被告人質問などが行われるとともに、喜納被告の母親の供述調書が読み上げられた。母親の供述調書は、同市で2013年8月に起きた連続強姦事件で喜納被告が2014年5月に逮捕されたことを受け、新潟地検が2014年6月に作成した。裁判で証拠請求した弁護側が調書の内容を読み上げた。供述によると、喜納被告は子供の頃から両親や他人の現金を盗むことを繰り返し、母親の手に負えない状況だった。刑務所に服役していた事実にも触れ、連続強姦事件に関して「被害者には本当に申し訳ない気持ちでいっぱい」とした上で「尚吾が終身刑か処刑になれば、これ以上、被害者を増やすことにならない」と言及した。母親の供述内容への思いを裁判員に聞かれ、喜納被告は「自分の子にそういう風に思わざるを得ないのは、親として苦しいことだろうと感じた」と述べた。一方、喜納被告の元妻は証人尋問で、性犯罪者の更生施設の利用や加害者家族の集まりへの参加などで、喜納被告が強姦事件を再び起こさないようにしたいとの考えを話し、今後も被告を支える意志を示した。この日は被害者遺族も出廷し、両親と2人の兄が「私たち家族は絶対にあなた(喜納被告)を許さない」「死刑でも軽い」と重い刑を求めた。 20日の論告で検察側は、「疑わしきは被告人の利益に」と前置きしたうえで、「合理的な疑いを差し挟む余地はない。社会常識に照らして判断してほしい」と裁判員に語りかけた。 そして検察側は「下着から被告のDNA型が検出されたのは決定的な証拠だ」と強調したうえで、被告が沖縄県で起こした強姦致傷事件などで2004年から約8年間服役したにもかかわらず、再犯に及んだ事実を指摘。「反省や服役経験を生かさず、より危険になった。人格や尊厳を踏みにじる極めて悪質な犯行。根深い犯罪傾向は矯正不可能で、再度性犯罪に及ぶことは必至だ」として、強姦致死罪の中でも「ほかに類を見ない極めて悪質な部類」だとして「無期懲役は被告人のために存在しているといっても過言ではない」と断じた。 被害者参加人として出廷した女性の父親は「法律でもっとも厳しい処罰を科していただきたい」と訴えた。 最終弁論で弁護側は、DNA型は一致しておらず混入した可能性があるとの主張を繰り返し、「喜納被告が犯人とは言えない」と訴えた。起訴内容を認めている事件に関しては元妻の支え、被告の更生意欲もあるとして情状酌量を求めた。 弁論後、裁判長に促されて証言台に立った喜納被告は、紙を取り出し「私がやったことではありません。身に覚えがなく、分かることはありません」と声を震わせながら読み上げ、改めて否認。別の女性3人への強姦罪などについては「本当に申し訳ないことをした」と謝罪した。陳述の最後には「二度と罪を犯すようなことはしません。絶対に最後にします」と反省の弁を延べ、一礼した。 判決では、検察側の証拠から喜納被告の強姦致死罪が成立すると認定した。検察側が「決定的な証拠」としたDNA型鑑定の結果や手法について「鑑定内容や鑑定人の証言は十分信用できる」と指摘。別の強姦事件で検出された喜納被告のDNA型が捜査過程で混入したとの見方については「抽象的な可能性を述べているだけ」だとして、弁護側の主張を退けた。また、4人組の男が犯人であることを示す証拠はないとして、弁護側の主張を退けた。 量刑の理由では、強姦致死の犯行の状況が同様の強姦致死傷事件の中でも「特に危険で悪質」だとした上で、被害者が「死後に至るまで陵辱され続けた」ことや、遺族の処罰感情が峻烈なことを考慮。喜納被告の性犯罪に対する規範意識は「完全に欠如し、矯正教育が相当困難な状況にある」とし、同罪の中では「最も重い類型に位置する」と断じた。 また、被告が他の4つの事件で起訴内容を認めているものの、具体的な犯行内容の大半は「覚えていない」と供述したことに言及。強姦致死事件では「一貫して犯行への関与を否定し、虚偽の事実を述べて自己保身を図り、犯した罪に向き合う姿勢は全く見られない」として、反省の態度が認められないとした。 最後に竹下裁判長が「罪の重さをもう一度考え、二度と罪を犯さないよう約束してください」と説諭すると、喜納被告は小さくうなずく場面もあった。 |
備 考 |
喜納被告は沖縄県内で起こした強姦致傷事件などで2004年10月から約8年間服役した。 被告側は即日控訴した。2016年11月11日、東京高裁で被告側控訴棄却。2018年3月8日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 石崎康弘(42)/手面真弥(26) |
逮 捕 | 2015年5月18日(詐欺容疑) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 |
強盗殺人、詐欺、死体遺棄 手面被告のみ、覚醒剤取締法違反 |
事件概要 |
栃木県真岡市の会社員石崎康弘被告と友人の茨城県結城市の手面(てづら)真弥被告は2015年4月5日、石崎被告の知人で宇都宮市に住む接客業の女性(当時21)に睡眠薬を飲ませて眠らせた上で車に乗せ、真岡市の公園駐車場に止めた車内で女性の首を用意していた電気ケーブルなどで絞めて殺害して通帳や印鑑の入ったバッグを奪い、近くにある石﨑被告の実家敷地に重機で遺体を埋めた。翌6日、宇都宮市内の金融機関で奪った通帳から現金800万円を引き出し、両被告が折半した。 両被告はインターネットを通じて約7年前から交友関係が続いており、インターネットで知り合った女性の通帳を盗み見て多額の預金があることを知った石崎被告が手面被告に伝えて殺害を計画した。 石崎被告は会社勤めの一方で週末にアルバイトもしていたが、月収は計30万円前後。妻子を養い、住宅ローンとカードローンの返済で家計は自転車操業状態だった。消費者金融に約1850万円の借金があった。一方、別の女性とも交際していた。手面被告は2010年3月、夫婦喧嘩をきっかけに覚醒剤に手を出した。その後夫に告白し、「次に手を出したら離婚」と約束した。しかし、覚醒剤はやめられず、消費者金融に借金。長女の幼稚園入園と2人目の出産を機にやめると決心したが、売人と消費者金融に計140万円以上の借金があった。マイホーム購入の話が持ち上がり、手をつけたタンス預金を補填する必要に迫られていた。 手前被告は高校3年の時、出会い系サイトで石崎被告と知り合った。不倫関係はなかったが、後ろめたい話ができる関係だった。 女性の知人が連絡が取れなかったと捜索願を提出。金融機関の防犯カメラの映像から両被告が浮上。県警捜査本部は5月18日、詐欺容疑で両被告を逮捕。供述から、女性の遺体が見つかった。5月28日、死体遺棄容疑で再逮捕。6月17日、強盗殺人容疑で再逮捕。 手前被告は、5月17日頃、自宅で覚醒剤を使用した件でも起訴されている。 |
裁判所 | 宇都宮地裁 松原里美裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2015年12月18日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2015年12月10日の初公判で、両被告は起訴内容を認めた。 検察側は冒頭陳述で、「2人は金に困っており、金のある被害者を殺そうと計画。睡眠薬を飲ませて眠らせ、(映像機器接続用の)ラインケーブルで首を絞めた。遺体は埋めてしまえば発覚しないと考えていた」などと説明。「悪質性や両被告の責任の大きさに差があるかを考えてほしい」などと裁判員に訴えかけた。一方、石崎被告の弁護士は「両被告が同じ時期に金に困り、たまたま貯金がある人を知った。条件が一つでも欠けたら事件は起こらなかった。偶然とも言える。謝罪の手紙を書くなど深く反省している」と主張、また手面被告の弁護士は「覚醒剤を購入するための借金があり、夫にばれたら離婚されると思っていた。家庭を崩壊させないための犯行だった。まだ若く、更生の可能性も高い」などと主張した。そして、いずれも無期懲役がふさわしいと主張した。 11日の公判で殺害を決意した状況について、石崎被告は「はじめはちゅうちょしていたが、手面(被告)が『私は面識ないからやる』と言ってくれたので、殺す作業を自分がやらなくていいのなら(話に)乗ってしまえと思った」と述べ、「手面(被告)は女性なので必然的に絞殺になった」と殺害方法を説明。一方、手面被告は「(殺害を)誘うようなことは言っていない」「(石崎被告が)先に冗談で『殺しちゃおうかな』などと言い出した。その後『自分が口、鼻、体を押さえるから首を絞めて』と言われた」と話すなど、細部で両被告の食い違いが目立った。 14日の公判で女性の両親が、被害者参加制度を利用して意見陳述。石崎被告に対し、父は声を震わせて「殺してまでお金が必要だったのか」と問い、母は「娘の信頼を裏切ったことについてどう思っているのか」と質問した。石崎被告は「殺人を犯してまで(強盗を)する必要はなかった。死刑になるようなことをしたと思っています」などと述べた。また、手面被告に対し女性の父は「私はあなたが何のために生きているか分かりません」などと述べ、母は涙声で「自分の子どもが物を欲しがった時どう教えていたのですか」などと問いかけた。手面被告は時折声を詰まらせながら「命を絶つことを考えたこともある」「子どもには我慢させることもあったがもう(だめだと)言えません」と答えた。 15日の論告で検察側は、「計画的で悪質な犯行で、動機も身勝手なものだが、被害者が1人ということを考慮した」として両被告に無期懲役を求刑した。 被害者論告で、被害者参加制度を利用して意見陳述した女性の母は「料理が好きで、最後に一緒に台所に立った時は『ママ、筑前煮を教えて』と言われた。自分の店を持ちたいという夢があったのに、理不尽に全てを奪われた」「命の償いは命でしかできない。今は2人の死刑だけを毎日望んでいる」と涙ながらに訴えた。被害者参加弁護士らは裁判員らに「過去の裁判例に従う必要はない。自らの良識に従った判断をお願いしたい」と述べた。また、両親は求刑意見として両被告に死刑を求めた。 同日の最終弁論で弁護側は、「死刑の選択が真にやむを得ないとは認められない」として無期懲役が相当と訴えた。 最終陳述で、石崎被告は「『ばれなければ悪いことをしてもよい』というずるい考えを持っていた。申し訳ありませんでした」などと謝罪。手面被告は「どうして私が生きているのか分からなくなってしまった」などと涙を流しながら遺族に頭を下げた。 判決で松原裁判長は2人の動機について「石崎被告は遊興費欲しさ、手面被告は覚醒剤の購入で借金返済に迫られていた」と指摘。「浅はかで短絡的な犯行で、生命を尊重する気持ちはみじんもみられない。預金を奪いたいという残酷な意思で安易に殺害という手段を選んだ。被害者から『やめて』と言われても意に介さず、完全に息絶えるまで首を絞め続けており、強固な意志に基づく悪質な犯行」と指摘した。その上で遺族が公判で死刑を求めたことに対し「反省しており、上限の刑を科すことがやむを得ないとは言えない。遺族への賠償にも努めている。被害者の冥福を祈り続け、贖罪の日々を送るべきだ」と述べた。 |
備 考 |
女性の遺族は両被告が800万円を引き出す際に本人確認を怠ったとして、栃木銀行に対して預金の払い戻しを請求した。遺族側弁護士によると、手面被告は女性を殺害後、宇都宮市内の栃木銀行の出張所で、女性になりすまして預金を引き出す際、払戻請求書の氏名欄に間違ったふりがなをふった。名目は住宅購入の頭金としていた。遺族は「印鑑を照合すればふりがなの間違いはすぐに分かるはず。運転免許証などで本人確認をする必要があった」と主張している。 石崎康弘被告の車中から県警が押収した228万円と、石崎被告の知人女性から県警に戻された20万円の計248万円が遺族に返還された。栃木銀行は12月28日、遺族へ552万円を支払うと連絡した。 控訴せず確定。 |