無期懲役判決リスト 2016年




 2016年に地裁、高裁、最高裁で無期懲役の判決(決定)が出た事件のリストです。目的は死刑判決との差を見るためです。
 新聞記事から拾っていますので、判決を見落とす可能性があります。お気づきの点がありましたら、日記コメントなどでご連絡いただけると幸いです(判決から7日経っても更新されなかった場合は、見落としている可能性が高いです)。
 控訴、上告したかどうかについては、新聞に出ることはほとんどないためわかりません。わかったケースのみ、リストに付け加えていきます。
 判決の確定が判明した被告については、背景色を変えています(控訴、上告後の確定も含む)。



地裁判決(うち求刑死刑)
高裁判決(うち求刑死刑)
最高裁判決(うち求刑死刑)
25(4)
9(0)+1
4(0)

 司法統計年報によると、一審25件、控訴審10件(棄却10件、他に公訴棄却1件。上告9件、他に取下げ1件)、上告審4件。
 検察統計年報によると、一審確定9件、控訴取下げ確定0件、控訴棄却確定1件、破棄自判確定0件、上告取下げ1件、上告棄却確定4件。



【2016年の無期懲役判決】

氏 名
少年(19)
逮 捕
 2015年4月11日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、銃刀法違反、住居侵入、窃盗
事件概要
 沖縄市出身で住所不定・無職の少年(事件当時18)は2015年4月9日午前、沖縄市のNPO法人の事務所兼住宅に侵入。代表の女性(当時63)に見つかったため、背中を包丁で刺すなどして殺害し、現金約2万円の入ったバッグを奪った。過去にも窃盗目的で侵入したことがあった。
 女性のNPO法人は、不登校やひきこもりの小中学生への学習指導や、障害児らの支援をしていた。約30年間、引きこもりや不登校の子ども・若者の育成支援に尽力した県内の草分け的存在だった。厚生労働省や内閣府からも表彰されている。
 また他に少年は、6~8日、沖縄市内の住宅で、現金数万円を盗んだ。
 9日午後0時50分ごろ、帰宅した長女が発見し、110番通報した。
 殺害現場と窃盗があった住宅のいずれでも少年の指紋があったことから、捜査本部は少年の行方を追っていたが、携帯電話の電波の発信源などから県外に逃亡した可能性が強まったとして、11日、窃盗と住居侵入の疑いで少年を指名手配。沖縄市内の少年が以前住んでいた場所を家宅捜索していた。同日夜、愛知県警が名鉄河和線高横須賀駅(東海市)のトイレで発見し、逮捕した。少年の身柄は12日夕、沖縄署に移された。23日、強盗殺人容疑で再逮捕された。
 那覇地検沖縄支部は5月14日、少年を那覇家裁沖縄支部に送致した。家裁沖縄支部は同日、2週間の観護措置を決めた。那覇家裁は6月10日、少年を検察官送致(逆送)した。那覇地検は19日、少年を強盗殺人罪などで起訴した。
裁判所
 那覇地裁 鈴嶋晋一裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年1月22日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2016年1月18日の初公判で、少年は「強盗目的ではなかった」などと起訴内容を一部否認した。
 検察側は冒頭陳述で「包丁を携帯しており、強盗行為を想定していた」と指摘。弁護側は「窃盗目的で侵入し、女性に見つかったためパニック状態で刺した」として、殺人罪の適用を主張した。
 20日の論告で検察側は、少年が逃走経路とは反対方向にいた無防備な女性を刺殺したと指摘。事前に包丁を準備するなど、家人との遭遇を予想して侵入しているなどとして計画的な犯行だとした。また、子どもや若者の支援を生きがいにしていた女性が、少年によって殺害された無念や苦痛は計り知れないと主張。遺族の処罰感情は厳しいとした。そして「悪質で計画的な犯行で、動機・経緯に酌むべき事情はない」と述べた。
 意見陳述で証言台に立った女性の長女は声を震わせ、「どうか厳正な処分を」と訴えた。
 同日の最終弁論で弁護側は、ADHD(注意欠陥多動性障がい)の影響で、犯行は計画性がなく稚拙だと指摘。2度の少年院入院中、投薬治療が施されず、人格形成に影響したとした。少年を鑑定した精神科医は、少年は幼少期から中学生まで重度のADHDだと指摘。犯行時も中等度のADHDだったが犯行への影響は強くないとした。そして「更生可能性は十分ある」として、少年法の趣旨に基づき酌量減軽を求めた。
 最終陳述で被告の少年は「遺族が悲しんでいるということを理解し、何が最善かを考えたい。申し訳ありません」と長女に謝罪した。
 判決で鈴島裁判長は「包丁を持って侵入しており、家人に見つかったら強奪する意図があった」と強盗目的を認定。弁護側が主張したADHDについても「犯行への影響は小さい」と判断した。そして「包丁をかなりの強さで突き刺し、首を強い力で締め続けており、危険かつ執拗。強い非難に値する」と述べた。
備 考
 控訴せず確定。

氏 名
石田仁(41)
逮 捕
 2010年8月30日
殺害人数
 0名
罪 状
 強盗強姦、強姦、逮捕監禁他
事件概要
 東京都八王子に住む米軍横田基地の職員、石田仁被告は、2008年9月25日未明、八王子市内の女性(当時19)宅に侵入し、ナイフを突きつけて強姦。2009年5月22日にも同じ女性方に侵入し、「ビデオや写真があるからばらまくぞ」と脅して強姦した。
 2009年10月初旬未明、八王子市内のマンションに帰宅した20代の女性宅に侵入し、女性に刃物を突きつけて「カネを出せ」などと脅迫。女性の手足を縛って現金千円や携帯電話などを奪い、強姦した。
 石田被告は2008~2010年に女性6人に暴行などをしたとして、合計10の罪に問われた。
 2009年10月の事件で、顔の特徴や車の目撃情報などから石田被告が浮上。現場の遺留物と石田容疑者のDNA型が一致したため、捜査本部は2010年8月30日、石田被告を逮捕した。石田被告は2010年9月に起訴された。
裁判所
 東京地裁立川支部 矢数昌雄裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年1月22日 無期懲役
裁判焦点
 公判前整理手続きで弁護側は▽証拠が違法に収集された▽被告は日米地位協定の定める米軍の軍属にあたり日本の裁判の対象ではない――などと主張、検察側の全証拠を不同意とした。検察側は延べ約110人の証人を申請し、尋問の調整に時間がかかった。途中で検察官や弁護人が交代し、手続きは4年8カ月に及んだ。
 裁判員裁判。公判には、事件ごとに違う裁判員が審理する「区分審理」が導入された。
 2015年6月8日の初公判で、石田仁被告は「絶対に違います」と起訴内容を否認した。石田被告は逮捕当初から否認している。
 検察側は冒頭陳述で、犯行状況が記録された記憶媒体が石田被告方から見つかったと主張した。一方、弁護側は石田被告が米国籍を持ち、横田基地で会計の専門職として働いていたとし、「日米地位協定の定める軍属に当たり、日本の裁判の対象ではない」と主張した。
 7月23日、矢数昌雄裁判長は審理した五つの事件について「有罪」の部分判決を言い渡した。
 残りの五つの事件についての初公判が11月10日に開かれ、石田仁被告は「違います」と起訴内容を否認した。
 判決は弁護側の無罪主張を退けて全事件を有罪とし「犯行態様は執拗かつ卑劣で、極めて悪質。酌量の余地は全くない」と述べた。
備 考
 起訴から判決まで5年4か月を要したのは今までで最長。最高裁によると、2015年11月時点で、判決まで最も長かった裁判員裁判は、さいたま地裁の事件の4年2カ月だった。
 被告側は控訴した。2017年8月3日、東京高裁で被告側控訴棄却。2018年11月15日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
落合益幸(68)
逮 捕
 2010年1月22日(殺人容疑)
殺害人数
 1名
罪 状
 組織犯罪処罰法違反(組織的殺人)、銃刀法違反(組織的加重所持)、組織犯罪処罰法違反(暴力)他
事件概要
 静岡市の指定暴力団山口組直系総長、落合益幸被告は2008年4月1日午前5時35分ごろ、組員らに指示し組織として、ふじみ野市内の暴力団事務所駐車場で住吉会系幹部(当時35)を射殺した。また同日、さいたま市内の住吉会系暴力団事務所のドアをバールなどで破壊した。
 3月31日、八潮市のファミリーレストラン駐車場で、山口組系暴力団関係者の男性(当時35)が刺殺された事件の報復が動機とされる。
 2009年3月9日、埼玉県警は山口組系暴力団組長ら5人を殺人容疑などで逮捕した。10日、別の容疑で逮捕していた暴力団組員8人を殺人容疑で再逮捕した。その後も逮捕が続き、2010年1月22日、殺人容疑で落合益幸被告ら3人が殺人容疑で逮捕された。合計40人以上が逮捕されている。
裁判所
 東京高裁 栃木力裁判長
求 刑
 無期懲役+罰金3000万円
判 決
 2016年2月1日 無期懲役+罰金3000万円(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 被告側は一審同様無罪を主張。一審は、射殺事件に関わった側近の元組員(懲役14年確定)の「被告から報復の指示を受けた」とする証言を有罪の根拠とした。控訴審で元組員は「検察から重い刑になると脅され、一審では指示があったとうそをついた」と証言を翻した。さいたま地方検察庁の検察官から、落合総長を首謀者にするように指示されたことを明かした他、検察官の指示に従うことで、ファストフードの差し入れや長時間の入浴、さらには株の売買の取次まで、さまざまな便宜供与を受けたことも証言した。
 しかし判決で栃木力裁判長は、「元組員は一審の証言時点で刑が確定しており、被告らに責任を転嫁する必要はなかった」と述べ、信用性を否定した。
備 考
 落合被告は殺人で前科2犯。いずれも暴力団がらみで2件で計2名を殺害、1名に重傷を負わせている。2件の合計で懲役27年。
 2013年7月18日、さいたま地裁の裁判員裁判で求刑通り無期懲役+罰金3000万円判決。被告側は上告した。2017年12月19日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
佐藤浩(39)
逮 捕
 2012年8月3日
殺害人数
 2名
罪 状
 強盗殺人、住居侵入、強盗致傷
事件概要
 名古屋市守山区の無職佐藤浩被告は仕事仲間だった守山区の無職の堀慶末被告、鹿児島県枕崎市出身で守山区の建築作業員の葉山輝雄被告と共謀。1998年6月28日午後4時半ごろ、愛知県碧南市に住むパチンコ店運営会社営業部長で、店の責任者である男性(当時45)宅に押し入った。家にいた妻(当時36)を脅して家に居座り、ビールやつまみを出させた。家にいた長男(当時8)と次男(当時6)が就寝し、翌日午前1時ごろに夫が帰宅後に夫と妻を殺害、現金60,000円などを奪った。長男と次男にけがはなかった。
 3人は夫婦の遺体を男性の車に乗せ、愛知県高浜市で遺棄した後、葉山輝雄被告の車で同県尾張旭市のパチンコ店に行き、通用口から侵入しようとした。通用口には鍵のほかに防犯装置が設置されており、堀被告らは解除方法が分からず、最終的に侵入を断念した。
 7月4日、愛知県高浜市で路上に放置されていた車のトランクから、二人の遺体が見つかった。
 堀被告は当時塗装業など建築関係の仕事で生計を立てていた。営業は順調にいかず、仕事の依頼がほとんど無かったため、約300万~400万円の借金があった。堀被告は当時の仕事仲間であった二人を誘い、事件を計画。堀被告は行きつけのパチンコ店の責任者だった男性から店の鍵を奪うため、自ら尾行するなどして、男性は店の寮に住み込み、定休日の月曜に合わせて週に1度、寮から自宅に帰っていたことや、自宅の住所を割り出していた。
 他に堀被告は2006年7月20日午後0時20分ごろ、佐藤被告と共謀し、名古屋市守山区に住む無職女性(当時69)宅に侵入。堀被告はいきなり女性の首を絞め、粘着テープで縛った後、2人で室内を物色。貴金属(時価約39万円相当)や現金約25,000円などを奪った。さらに去り際に堀被告が女性の首を紐で絞めて殺害しようとし、約2か月の重傷を負わせた。紐などは堀被告が準備したものだった。奪った貴金属類は2人の知人を通じて質屋で現金化した。堀被告らは、女性宅のリフォームを請け負ったことがある実在の業者を装って訪問。高齢者の独居世帯という情報も事前に把握した上で狙いを定めていた。
 碧南事件の捜査は、指紋などの物証に乏しく、難航した。
 殺人罪の時効撤廃を受け2011年4月に発足した愛知県警捜査1課の未解決事件専従捜査班は夏、冷凍保存されていたつまみの食べ残しに付いた唾液から、当時の科学技術では困難だったDNA採取に不完全ながらも成功。警察庁のデータベースに照会し、堀被告のDNAと同一である可能性を突き止めた。特命係は堀被告の当時の交友関係を再度洗い直し、同じ建築関係の仕事仲間だった佐藤浩被告と葉山輝雄被告を特定。さらに、佐藤被告についても現場に残された唾液から酷似したDNAを検出した。県警は2012年8月3日、堀被告ら3人を逮捕した。佐藤浩被告は別の事件で懲役刑が確定し、服役中だった。24日、名古屋地検は3人を起訴した。
 2013年1月16日、守山事件で県警は堀、佐藤被告を再逮捕した。2月6日、名古屋地検は堀被告を強盗殺人未遂などの罪で起訴、佐藤被告は殺意が無かったとして強盗傷害罪で起訴した。
 碧南事件後、小学生の2人の息子は母方のおばに引き取られ、愛知県から関東地方に引っ越した。しかし2011年、未成年後見人だったおばが、兄弟に残された遺産数千万円を使い込んでいたことが発覚した。
裁判所
 名古屋地裁 景山太郎裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2016年2月5日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2016年1月7日の初公判で佐藤浩被告は、妻を殺害したことは認めたが「家にあった現金などを奪うことは殺害後に知らされた」として強盗目的を否認。男性の殺害については「手を出しておらず、関与していない」と否認した。
 検察側は冒頭陳述で「堀被告に誘われ、金欲しさで犯行に加わった。男性の勤めるパチンコ店の売り上げと夫婦宅の金品が目的だった」と指摘。「顔を覚えられたため妻を殺害し、犯行発覚を免れるため帰宅しただ男性を堀被告が絞殺した際には、体を押さえるなど加勢した」と主張し、共謀関係が成り立つと指摘した。弁護側は妻殺害の実行行為は認めたが「堀被告の指示で首を絞めた。夫婦宅の金品を奪う意思はなかった」と殺人罪にとどまると主張。男性殺害について共謀はなく「堀被告が首を絞めるのを見ていただけ」と強盗致死罪にあたると訴えた。
 8日の第2回公判で堀慶末被告が証人尋問に立ち、「(佐藤被告に)妻の殺害を指示していない」などと述べた。
 25日の論告求刑で検察側は、妻殺害後に室内を物色して財布の現金を分け合ったなどとして、強盗目的だったと指摘。男性殺害については、首を絞める堀被告の加勢をして、佐藤被告が男性の体を押さえたとした。そして「主導的立場ではなかったが、2人の殺害に関わり関与の度合いは大きい」などと指摘。「強い殺意に基づく冷酷、残忍な行為で、悪質きわまりない。冷徹で死刑回避相当の酌むべき事情はない」として死刑を求刑した。
 同日の最終弁論で弁護側は、事前に男性方にある金品を奪う計画はなかったと主張。男性殺害についても、堀被告が首を絞めているのを見ていただけとし、2人に対する強盗殺人罪は成立しないと主張した。そして堀被告を手伝っただけと強調し、「堀被告に世話になった恩義やばかにされたくないという気持ちがあった。利欲的動機は希薄だった」と述べた。そして無期懲役が相当と訴えた。
 佐藤被告は最終意見陳述で「大切な命を奪って申し訳ありませんでした。どんな言葉でも償いきれないけれど、2人の命が奪われたことは確かなことです」と頭を下げた。
 判決で景山裁判長は、男性殺害について男性の長男の目撃証言より「(堀被告が首を絞める際に)体を押さえており、共謀関係が成立する」と指摘。さらに「パチンコ店強盗のほかに男性宅の金品を強取することも事前に想定していた」とし、妻殺害については「妻殺害が、強盗目的を遂げるためであったと認められる」と認定し、「2人への強盗殺人罪が成立する」とした。そして「事態の推移に応じて次々に殺害し、強盗計画を冷徹に遂行した。生命軽視の態度は明らか。遺族の処罰感情は当然のもの」と指摘した。その上で、景山裁判長は「妻の殺害は堀被告の指示によるもの」などとして、事件を主導したのは堀被告とし、佐藤被告は一貫して堀被告に従属的な立場で、深く考えることなく短絡的に犯行に及んだと指摘。また、事前に2人を殺害する計画まではなかったことなども考慮し、「死刑を選択することがやむを得ないとまでは認められない」と述べた。2006年の事件については佐藤被告には殺意がなかったとして、強盗致傷罪の成立にとどまるとした。
備 考
 共犯の堀慶末被告は2015年12月15日、名古屋地裁(景山太郎裁判長)の裁判員裁判で求刑通り死刑判決。被告側控訴中。
 共犯の葉山輝雄被告は2016年3月25日、名古屋地裁(景山太郎裁判長)の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。

 控訴せず、確定。

氏 名
加藤健太(27)
逮 捕
 2015年2月20日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、住居侵入
事件概要
 大阪市住吉区に住む元ボーイで無職の加藤健太被告は2015年1月17日午後1時ごろ、北区のマンションに住む売り専(ゲイ風俗)オーナーである知人男性(当時39)を持っていたハンマーで十数回殴打して殺害。さらに室内を荒らし、現金約15万円やスーツ、腕時計などを奪った。
 加藤被告は交際相手の女性から貯金箱やデパートの商品券、時計などをたびたび盗んでいたことから、女性は100万円の返済を求めた。2014年11月ごろには女性の妊娠が発覚し、結婚話も持ち上がったが、売り専もさぼりがちで定職にもつかず。2014年末から2015年明けにかけては3件の空き巣をはたらき、盗んだ指輪などはブランド買い取り店などで換金した。
 知人男性とは2014年6月、ボーイと客として知り合い、個人的な関係になったが、その後の肉体関係はなかった。男性は無職だった加藤被告を目にかけ、新規出店予定のオーガニックカフェで「料理を担当してほしい」と頼み、加藤被告は働く予定だった。
 事件後、堺市内のリサイクルショップに男性のスーツが持ち込まれていたことが分かり、その際に提示された免許証などから加藤被告が浮上した。大阪府警は2月20日、加藤被告を強盗殺人容疑などで逮捕した。
裁判所
 大阪高裁 中川博之裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年2月16日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2016年1月28日の控訴審初公判で、加藤被告は蚊の鳴くような声で「自分の無責任な行動で命を奪ってしまって、ずっと反省しています」「毎日お祈りしています」などと謝罪の言葉を並べた。被害者の母親は「何も聞こえない」と口を挟み、頭すら下げない加藤被告に検察官が「今日もそういうの(謝罪の態度が)できてないし、あなたが心の中で思ってるだけでは伝わらないですよね」と突っ込んだ。被害者の母親は、「死刑にならず(被害者の)親として残念で不満なのに、被告人は本当に謝罪といえるようなものもなく、控訴するとはもってのほか!」「今も被告人がこの世で生きているだけでも、恐ろしくて許せません。人でなし! 自分の命で償うことできない最低な人間。人としてさっさと償ってほしい」と5分間にわたり、直筆の意見陳述書を読み上げ号泣した。
 判決で中川博之裁判長は「被告人の反省状況や被害弁償の申し出をしているなどの諸状況を考慮しても、有期懲役が適切とは認められない」と一審判決を支持した。
備 考
 同じマンションの別の階に住む被害者の知人であるゲイバーママ(当時34)が、被害者の死亡推定時刻の約1時間後に自殺したが、後に事件とは無関係であることが明らかになった。
 2015年9月2日、大阪地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2016年中に上告取下げ、確定。

氏 名
田中雄也(35)
逮 捕
 2014年10月4日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、住居侵入
事件概要
 大阪市北区の無職田中雄也被告は2014年10月1日昼、宅配便の配達を装い、大阪市住吉区に住む一人暮らしの女性(当時86)宅に侵入。女性の口をふさいで「お金、どこ」と言ったが、大声を出されそうになり、千枚通しのようなもので腹部を数回刺すなどして殺害した。
 田中被告は事件直後に現場の北約2キロにある駅の公衆電話から自ら「女性が倒れている」と110番した。公衆電話の周辺や女性の自宅そばのコンビニの防犯カメラには、黒いジャージーを着たスキンヘッドの男が映っていた。こうした防犯カメラ映像などから田中被告の関与が浮上したところ、3日朝に田中被告自ら「僕がやりました」と住吉署に連絡し、府警捜査一課が事情を聴いたところ、同課が事情を聴いていた。4日、強盗殺人容疑で田中被告を逮捕した。
 田中被告は2件の窃盗で懲役2年6カ月執行猶予4年の判決を受けた。その1年後、再び窃盗で逮捕され、懲役1年8か月の実刑判決を受けた。執行猶予も取り消され、服役。田中被告は2014年8月の出所後、刑務所を出所後に行き場のない人らを一定期間受け入れている同市北区の更生保護施設に入所。9月には土木作業の仕事を始めたが、人間関係を理由に数日で辞めていた。事件当時は、対処日が数日後に迫っていたが、就職先が決まっておらず、金に困っていた。
 大阪地検は10月20日、刑事責任能力を調べるための3か月の鑑定留置を大阪簡裁に請求し、認められた。鑑定結果で刑事責任が問えると判断し、2015年1月23日、起訴した。
裁判所
 大阪地裁 芦高源裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年2月24日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2016年2月17日の初公判で、田中雄也被告は「間違いありません」と起訴内容を認めた上、「本当に申し訳ありませんでした」と法廷で頭を下げた。
 検察側は犯行に至った経緯について「出所後、母親に同居や金の援助を断られ、激しく抵抗することのない高齢者の一軒家に押し入って金を奪おうと考えるようになった」と指摘した。
 2月22日の論告で検察側は、「田中被告は、別の高齢の女性を狙ったひったくりの罪で服役し、仮釈放されたあと1か月あまりで生活費欲しさに犯行に及んでおり、強い非難に値する。罪の重さと正面から向き合うことを切望する」と述べた。
 同日の最終弁論で弁護側は、「知的障害などが犯行に影響を与えた」と主張。事件のあと、自ら警察に電話していて自首が成立するなどとして、刑を軽くするよう求めた。
 判決で芦高裁判長は、犯行後に証拠隠滅を図っていたことなどから、「直接的な影響はなかった」と判断。別の罪で服役した刑務所を仮釈放された直後の犯行で、「あらかじめ凶器やゴム手袋を準備するなど、強盗には高度の計画性が認められ、強固な殺意に基づく執拗で悪質な犯行で、刑事責任は極めて重い」だと厳しく指摘。「手っ取り早く金を手に入れるための安易な犯行で、酌むべき事情は乏しい」と断罪した。
備 考
 控訴せず、確定と思われる。

氏 名
A・R(30)
逮 捕
 2013年10月2日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、死体損壊・遺棄、暴力行為等処罰法違反(常習的傷害)
事件概要
 A・R被告は宮崎市のアパートに同居するK・M受刑者(事件当時23)、A・M受刑者(事件当時22)と共謀し、2013年7月下旬から8月13日頃までの間、アパートで交際相手の女性(当時27)に暴行して重傷を負わせた。そして8月15日ごろ、A被告とK・M受刑者がタオルで口や鼻を塞いで窒息死させて殺害。その後、3人で遺体を切断して遺棄した。
 またA被告は同居する女性3人に常習的に暴力をふるっていた。
 A被告は宮崎市内にあるボーイズバーのホストで、客としてやってきた被害者と交際するようになった。またK・M受刑者、A・M受刑者は被害者とともに宮崎市内のクラブで働いており、二人ともボーイズバーに来てはA被告に入れ込んでいた。
 A被告はK・M受刑者、A・M受刑者とK・M受刑者のアパートに同居。その後、被害者を2012年10月26日に連れてきて、A被告は3人と交際しながら共同生活を送った。3人の女性は給与のほぼ全額を被告に渡し、金額によって"格付け"されていた。
 女性と連絡の取れなくなった母親が9月30日に警察に相談。警察は女性と同居していたK・M受刑者を捜査し、A被告と一緒にいたところを発見。事情を聞いたところ、遺体の遺棄を認めたため、10月2日に死体遺棄容疑で逮捕。遺体をA・M受刑者の自宅においてあると供述したため捜査したところ、衣装ケースに入った被害者の遺体が発見され、3日にA・M受刑者が逮捕された。2014年1月7日、殺人容疑で3人を再逮捕。
裁判所
 宮崎地裁 滝岡俊文裁判長
求 刑
 懲役25年
判 決
 2016年2月29日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2016年1月21日の初公判で、A被告は殺人罪について「殺していません」と起訴事実を否認し、死体損壊・遺棄罪については「した部分はあります」と関与を認めた。
 公判では時系列に沿って、主に、〈1〉3人に対する暴力行為等処罰法違反(常習的傷害)〈2〉殺人〈3〉死体損壊・遺棄――に分けて審理され、冒頭陳述も3回行われる。
 この日は〈1〉について冒頭陳述があり、検察側は、「A被告は暴力やうそを交えた脅しで3人を精神的、金銭的に支配していた。責任能力もあった」と主張。弁護側は「A被告は解離性障害だったため責任能力はなかった」と無罪を主張した。
 続いて行われた証人尋問では、A被告の元交際相手が別室から映像と音声で、「常に見張られ、抵抗するとさらに暴力がひどくなった」として、事件以前にA被告から暴行を受けていたと証言した。
 25日の第3回公判でA・M受刑者が証人として出廷し、自身が受けた暴行について、「(A被告は)K・M受刑者にも私と同じような暴行を加えていた」と証言。検察側などから暴行時のA被告の様子について問われると「喜んでいるようには見えたが悩んでいる様子はなかった」とし、「『殴っている方が心も手も痛い。お前のためにやっているんだ』と言われながら暴行を受けていたので、暴行の自覚はあったと思います」と話した。
 26日の第4回公判でK・M受刑者が証人として出廷し、「(A被告から)組織に常に監視されており、毎月47万円の支払いが必要と言われていた。グラスを額に投げられるなど、日常的に暴行を受けていた」などと証言した。
 27日の第5回公判でA被告は弁護側の質問に対し、女性らにうそをつき、金銭を要求したことについてあり得ない話をしたり、作ることが出来ないような金額を請求したら別れてくれると思った」と説明した。
 29日の第6回公判における被告人質問でA被告は40回以上、「覚えていません」「分かりません」などと繰り返した。
 3月1日の第7回公判から殺人罪に対する審理が始まった。冒頭陳述で検察側は「女性の収入がなくなると暴行を加えたり食事や睡眠を制限したりするようになった」と指摘。「2013年8月13日頃には女性が転倒して意識不明になっても病院にも連れて行かなかった」とし、「15日に女性がうなり声を上げ始めたため、A被告に殺害を持ちかけられたK・M受刑者が女性の口をタオルで押さえた。再びうなり声を上げたため、A被告が口をタオルでふさぎ、窒息死させた」と主張した。一方、弁護側は「『殺害する』という態度を示したK・M受刑者が最終的に口を押さえた」とし、「A被告は女性を助けようとしていた」と主張した。
 2日の第8回公判でK・M受刑者は「自分が女性の口と鼻を押さえた後、A被告が両手で女性の口と鼻を押さえ、死亡した」と証言した。
 4日の第10回公判における被告人質問でA被告は、意識不明の女性がうめき声を上げはじめた時の状況について、弁護側の質問に対し「心臓マッサージや人工呼吸をした」とした上で、「女性から離れると、聞こえ間違いかもしれないがK・M受刑者が『脈止めました』と言ったので近づくと呼吸が止まっていた」と主張した。
 9日の第11回公判から死体遺棄・損壊に対する審理が始まった。冒頭陳述で検察側は、A被告やK・M受刑者、A・M受刑者は被害者を殺害後、遺体を15の部分に切断したと説明。「損壊行為をしたのは主にK・M受刑者だが、A被告が主導した」と主張した。これに対し弁護側は「K・M受刑者が遺体を隠そうと切断し、A被告も一部関与した」と認めた。
 10日の第12回公判で、K・M受刑者は、「自分がほとんどやった。A被告も一部切断した」と証言した。
 12日の第13回公判における証人尋問でA・M受刑者は、殺害後にA被告が「捕まるか切断するかどうする」と問い、K・M受刑者が「隠す。バラす(切断する)」と言ったと証言。さらに「東被告に『関節を切れ』と言われた」「(証拠隠しで)切断遺体を煮込むのは東被告が決めた」と述べ、A被告の主導性を証言した。一方、被告人質問でA被告は「(遺体処理は)両受刑者が話していた」「自分が(切断を)決めたのなら(実行場所に自分の)部屋は選ばない」と述べ、両受刑者による主導を主張した。
 16日の第15回公判で、弁護側の臨床心理士は心理テストや聞き取りの結果として「幼少期の虐待などに起因する解離性同一性障害(多重人格)が疑われ、犯行に関わった可能性がある」と証言。これに対し、検察側の精神科医は聞き取りの前に心理テストを行った臨床心理士の検査方法に疑問を投げかけ、「聞き取りをした上でどのようなテストを行うのか、組み立てていくのが一般的。障害ありきで調べているようで不自然」などと主張した。
 17日の第16回公判で被害者の遺族が意見陳述し、「被告を極刑にしてほしい」と訴えた。
 18日の論告で検察側は、殺人罪や死体損壊・遺棄罪について「A被告が主導したことは明らか」とし、「完全責任能力が認められる」と指摘。「女性を助けようとしていた」などとするA被告の説明に対しては「刑事責任を免れようとするもので信用するに値しない」と主張した。そして「被告はうそと暴力を交えた脅しで共犯の女らを支配し、金づるとした女性の利用価値がなくなると殺害した」と指摘。「一連の犯行を主導し、被害者の人格を破壊し尽くした」と述べた。
 遺族は代理人弁護士を通じて「極刑が科せられるべき」と意見陳述した。
 同日の最終弁論で弁護側は、殺人罪について「証拠は共犯者の証言だけで『間違いなく被告が殺した』と言えない」と無罪を主張。関与を認めていた暴力行為等処罰法違反(常習的傷害)と、死体損壊・遺棄罪についても「当時は心神喪失状態で責任能力がなかった」と主張した。
 A被告は終始表情を変えず、最終意見陳述では「(言うことは)ありません」と述べるにとどめた。
 判決で滝岡裁判長は言い渡しの際、主文を後回しにして理由から述べ始め、「両受刑者の証言はおおむね合致しており、信用できる」と判断。「理不尽な金策を要求し、約1カ月間、食事、睡眠などを制約して追い詰めた」と指摘。さらに、一方的に暴行を繰り返し、その結果外傷性ショック状態に陥らせ、うなり声を上げると発覚を防ぐために、口と鼻をバスタオルで押さえ、共犯女性2人に「手と足を押さえろ」と指示し窒息死させたと認定。死体損壊・遺棄罪については「言葉巧みにK・M受刑者を誘導し、死体の遺棄・損壊を主導した」と認定。「考えを巡らせて冷静に犯行を行っており、責任能力はある」と責任能力も認め、「弁護人の主張は証拠に照らして説得力がない」として弁護側の無罪主張をすべて退けた。またA被告の、「女性に対しては殴るふりをしていただけで暴行を加えたことはない」といった弁解については「荒唐無稽で現実味がなく、全く信用できない」と退け、「記憶がない」と繰り返したことについても「(共謀したとされる2人の)受刑者が女性に対し行った暴力は詳細に供述しているのに、自分の都合が悪い部分に限って記憶がないというのはあまりに不自然」と指摘した。そして「被害者と同様、暴力や脅しで共犯の女2人の行動も制約するなど、圧倒的に優位な立場で犯行を主導した」と指摘。さらに求刑についても言及し、「殺人罪に重きを置きすぎている」と検察側を批判。そして「暴力が長期にわたり異常。残虐で被害者の苦痛は想像を絶し、遺体の損壊・遺棄は猟奇的で非人間的だ。不合理な弁解に終始し、自己保身ばかり考え、反省の態度が皆無である。更生可能性は極めて低い。求刑は市民感覚に照らし不当に軽い」と述べた。
備 考
 殺人罪などに問われたK・M被告とA・M被告に対し2015年3月30日、宮崎地裁(滝岡俊文裁判長)はK・M被告に懲役12年(求刑懲役14年)、A・M被告には「殺人の意思はなかった」として殺人ほう助罪を適用し、懲役5年(求刑懲役12年)を言い渡した。滝岡裁判長は「A被告の束縛や虐待行為により、K・M被告は心的外傷後ストレス障害(PTSD)、A・M被告は精神障害となり、従属的に犯行に加担した」と認定。特にA・M被告については、「殺害しようとする積極的な意思はなかった」と判断した。どちらも控訴せず確定。
 被告側は控訴した。2017年4月27日、福岡高裁宮崎支部で一審破棄、懲役25年判決。2017年10月3日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
渡辺豊(40)
逮 捕
 2015年5月26日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、死体遺棄、強制わいせつ、覚醒剤取締法違反(使用)
事件概要
 岩手県奥州市の農業渡辺豊被告は2015年5月22日午後2時過ぎから同4時20分までの間に、水道検針で自宅を訪れた奥州市の会社員の女性(当時31)にわいせつな行為をし、覚せい剤を使用した後、手で首を絞めて殺害。翌日午前0時半頃までに遺体を車で自宅から約2km離れた市内の山林に埋めた。
 女性は以前から渡辺被告宅の検針をしていたが、渡辺被告と個人的な接点はなかった。女性は6月に結婚披露を予定していた。
 22日夜、女性が行方不明になったと知人から岩手県警に連絡があり、捜査した結果、女性が同日午後、水道検針の業務で渡辺被告宅を訪れていたことが訪問予定表より判明。しかも渡辺被告は近所を通りがかる女子高生に水をかけ大声で脅すなどの嫌がらせを繰り返し、行動を監視されていたという。渡辺被告に事情を聞いたところ、「前沢区の山林に埋めた」と供述。県警が25日夜に山林を捜索すると、供述通りに女性の遺体が見つかった。県警は26日、渡辺被告を死体遺棄容疑で逮捕した。6月15日、殺人容疑で再逮捕した。
裁判所
 盛岡地裁 岡田健彦裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年3月8日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2016年2月29日の初公判で、渡辺被告は「事実は認めるが、わいせつ目的でなく嫌がらせだった」と述べ、強制わいせつ罪の成立を否定した。
 冒頭陳述で検察側は、渡辺被告がわいせつな行為をしたと述べた。渡辺被告は過去に強姦致傷事件などで3度服役しており、女性の両手首に手錠をかけ、衣服をはぎ取るなどの衣服をはぎ取るなど「性的な意図があった」と指摘。「犯行の発覚を免れるために殺害した」と主張した。殺害は「その犯行の発覚を免れるため」だったと指摘した。
 弁護側は、強制わいせつ以外の罪は認めた。そして「猫アレルギーの女性に、渡辺被告の飼っている猫が蹴られたため、激高して女性に嫌がらせをしようとした。性的意図はなく、暴行罪にとどまる」と性的意図を否定し、飼い猫を巡るトラブルで逆上した渡辺被告が暴行に及んだと主張した。殺害の動機も「女性の言動に激高し、気付くと馬乗りで首に両手がかかっていた」と反論した。
 証人として出廷した女性の婚約者だった男性は「思いやりのある優しい人で、アレルギーも強いものではない。猫が近づいても、振り払ったりせず『かわいいですね』と飼い主に話しかけていた」などと証言した。
 3月1日の被告人質問で、渡辺被告は殺害の動機について、小銭を顔に投げつけられたことから激高したと説明し、「気付いたら首に手をかけていた」と主張した。検察側は「手錠の痕などで強姦が発覚するのを免れるためでなかったのか」と指摘した。殺害後、女性の車を移動させたり、遺体を埋めたりしたことについて、渡辺被告は「(同居していた)母に見られたくなかったからだ」と説明した。
 3月2日の論告求刑で検察側は、被告が女性の衣服を脱がせ、体を触ったのは「性的欲求を満たす行為に他ならない。女性のけがや破損した着衣から犯行発覚が免れないと考え殺害した」と主張した。また、「5分間程度強い力で首を絞めた。残忍、冷酷だ」と厳しく指摘。女性の所持品をため池などに分散して投棄し、遺体を山林に埋めている点について「入念な証拠隠滅活動だ」と述べた。そして、「殺害の前後の場面は詳細に供述しているにも関わらず自分に都合が悪い殺害の場面だけわからないと述べるなど不自然不合理で信用できない」と追求。「被害者の人格や尊厳を踏みにじり、欲望の限りを尽くした。きわめて強い社会的非難に相当する重大事件。これまでに何度も矯正教育を受けており、反省もなく、更正の可能性はない」と断じた。
 被害者参加制度に基づき、被害者の母親が「利己的で身勝手な理由での犯罪。強い憤りを感じている。娘が殺されてから悲しみが尽きることはありません」と涙ながらに意見陳述。遺族の代理人弁護士も「再び重大な犯罪を起こすと社会が考えるのは、火を見るより明らかだ。社会に戻すことは到底許されない」と述べ、無期懲役を支持した。
 弁護側は最終弁論で、「事件の発端は、女性に被告の飼い猫が蹴られたと(被告が)考えたこと。性的な動機はなかった」として強制わいせつ罪は成立しないと主張。殺害については「明確な目的を伴ったものではなく、突発的行動の果ての行為」と主張した。そして「渡邉被告は反省していて更生の余地がある」と述べた。
 渡辺被告は最終意見陳述で「申し訳ない。遺族の悔しさや無念さが分かってきた」と話した。
 判決で岡田裁判長は、争点となっていた犯行時の性的意図の有無について、「手錠で拘束した上で陵辱行為を執拗に行ったことから、強い性的意図があったことは明らかといえる」とした。殺害動機について岡田裁判長は「渡辺被告の殺意は強固だが、具体的に殺害意図は特定できない」と認定しなかった。その上で「猟奇的ともいえる異常な行為まで行い、卑劣で凶悪。被害者の受けた苦痛、屈辱は想像を絶するものである、生涯をもって罪を償うのが相当」と述べた。また、裁判員から、として「あまりにも残虐で被害者の人格を無視し許されるものではありません。時間がかかっても遺族に本当のことを話し、心からの謝罪をしてください」とのメッセージが代読された。
備 考
 渡辺豊被告は2007年4月、奥州市内にすむ会社員の女性(当時27)宅に押し入り、強盗傷害などで逮捕された。9月5日、懲役6年(求刑懲役8年)の判決を受け、刑に服していた。他にも少年の頃から女性がらみの事件を多数起こしており、少年院も経験している。
 女性が勤務していた水道検針会社は、今回の事件を受け、検針員に防犯ブザーを配ることとした。会社は全国に3000人を超える検針員がいるが、大きな事件に巻き込まれたケースはこれまでなかった。
 控訴せず確定。

氏 名
葉山輝雄(46)
逮 捕
 2012年8月3日
殺害人数
 2名
罪 状
 強盗殺人、住居侵入
事件概要
 鹿児島県枕崎市出身で守山区の建築作業員の葉山輝雄被告は、仕事仲間だった守山区の無職の堀慶末被告、名古屋市守山区の無職佐藤浩受刑者と共謀。1998年6月28日午後4時半ごろ、愛知県碧南市に住むパチンコ店運営会社営業部長で、店の責任者である男性(当時45)宅に押し入った。家にいた妻(当時36)を脅して家に居座り、ビールやつまみを出させた。家にいた長男(当時8)と次男(当時6)が就寝し、翌日午前1時ごろに夫が帰宅後に夫と妻を殺害、現金60,000円などを奪った。長男と次男にけがはなかった。
 3人は夫婦の遺体を男性の車に乗せ、愛知県高浜市で遺棄した後、葉山輝雄被告の車で同県尾張旭市のパチンコ店に行き、通用口から侵入しようとした。通用口には鍵のほかに防犯装置が設置されており、堀被告らは解除方法が分からず、最終的に侵入を断念した。
 7月4日、愛知県高浜市で路上に放置されていた車のトランクから、二人の遺体が見つかった。
 堀被告は当時塗装業など建築関係の仕事で生計を立てていた。営業は順調にいかず、仕事の依頼がほとんど無かったため、約300万~400万円の借金があった。堀被告は当時の仕事仲間であった二人を誘い、事件を計画。堀被告は行きつけのパチンコ店の責任者だった男性から店の鍵を奪うため、自ら尾行するなどして、男性は店の寮に住み込み、定休日の月曜に合わせて週に1度、寮から自宅に帰っていたことや、自宅の住所を割り出していた。
 碧南事件の捜査は、指紋などの物証に乏しく、難航した。
 殺人罪の時効撤廃を受け2011年4月に発足した愛知県警捜査1課の未解決事件専従捜査班は夏、冷凍保存されていたつまみの食べ残しに付いた唾液から、当時の科学技術では困難だったDNA採取に不完全ながらも成功。警察庁のデータベースに照会し、堀被告のDNAと同一である可能性を突き止めた。特命係は堀被告の当時の交友関係を再度洗い直し、同じ建築関係の仕事仲間だった佐藤浩被告と葉山輝雄被告を特定。さらに、佐藤被告についても現場に残された唾液から酷似したDNAを検出した。県警は2012年8月3日、堀被告ら3人を逮捕した。佐藤浩被告は別の事件で懲役刑が確定し、服役中だった。24日、名古屋地検は3人を起訴した。
 碧南事件後、小学生の2人の息子は母方のおばに引き取られ、愛知県から関東地方に引っ越した。しかし2011年、未成年後見人だったおばが、兄弟に残された遺産数千万円を使い込んでいたことが発覚した。
裁判所
 名古屋地裁 景山太郎裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年3月25日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2016年2月16日の初公判で、葉山被告は「今は話すことがなく、弁護人に任せます」と述べ、黙秘した。弁護側は「黙秘権を行使し、今後の公判で被告が事件について話すことはない」と述べた。葉山被告の供述の信用性に疑問があり、公判で被告が証言するのは適当でないと判断したという。
 冒頭陳述で検察側は「堀被告の誘いに金欲しさから乗った。佐藤被告と、妻の首にひもを巻き付けて引っ張った」と指摘。一方弁護側は、「堀、佐藤両被告の供述が本当か慎重にみる必要がある」と主張し、「夫婦の殺害について関与も共謀もない」として無罪を主張した。
 3月16日の論告で検察側は「他人を殺してでも金銭を奪いたいという犯行で、酌量の余地はない」としながらも、「2人の命を奪った結果は重大だが、共犯に比べ関与の度合いが相対的に低く、死刑が真にやむを得ないと言い切ることはできない。軽度の知的障害が意思決定に影響した可能性もある」と死刑求刑した共犯の男2人との違いを述べた。
 3月17日の最終弁論で、弁護側は「共犯による殺害行為を見ていただけだ」と無罪を主張、結審した。
 判決で景山裁判長は、葉山被告が捜査段階で夫婦殺害への関与を認めた供述について、佐藤浩被告の供述や現場にいた当時8歳の長男の証言から「信用性が高い」と判断し、弁護側の無罪主張を退けた。そして共犯者と比べて従属的だったが、借金の返済に困って強盗計画に加わったと指摘。「自宅内を物色するなど被告が果たした役割は重要。2人の尊い命を軽視し、金銭的な利欲を優先させた。利欲目的を優先させた身勝手極まりない動機による犯行で、酌量の余地はない」と判断した。
備 考
 共犯の堀慶末被告は2015年12月15日、名古屋地裁(景山太郎裁判長)で求刑通り死刑判決。被告側控訴中。
 共犯の佐藤浩被告は2016年2月5日、名古屋地裁(景山太郎裁判長)で求刑死刑に対し一審無期懲役判決。控訴せず確定。
 被告側は控訴した。2016年12月19日、名古屋高裁で被告側控訴棄却。2018年6月20日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
竹井聖寿(26)
逮 捕
 2014年3月5日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗致傷、強盗殺人、強盗、銃砲刀剣類所持等取締法違反、大麻取締法違反
事件概要
 千葉県柏市の無職竹井聖寿(せいじゅ)被告は、2014年3月3日23時過ぎに自宅近くのコンビニでニット帽と手袋を購入。サングラスとマスクも着用し、各犯行に使用した刃体が21.9cmのナイフに加え、別のナイフや手錠2個、催涙スプレーも持って、襲う相手を探した。23時34分ごろ、自宅アパート前の路上で近くを通りかかった女性に声を掛けたが、女性は逃げ出した。数分後、通りかかった自転車の男性(当時25)に刃物を見せた。逃げた男性は払いのけた際に左手の親指を切り軽傷を負った。続けて11時37分ごろ、同じアパートに住む会社員の男性(当時31)の首や背中をナイフ(刃渡り約22m)で数回刺して殺害し、現金1万数千円などが入ったバッグを奪った。さらに通りすがりのワゴン車の男性(当時44)に「金を出せ。人を殺した」とナイフで脅し、現金約3500円入りの財布を奪った。竹井被告はワゴン車に乗り込んだが、発車できず、乗用車を止めた男性(当時47)から車を奪った。車は約1.3km先のコンビニエンスストアの駐車場で乗り捨てた。
 竹井被告は4日、報道各社の取材に30分近く応じ、アパート内の通路から数分間、犯行現場を撮影したと説明した。
 県警の捜査員は5日朝、竹井被告に任意同行を求めると、竹井被告は「チェックメイト」と答えて素直に応じた。同日夜、強盗殺人容疑で逮捕した。
 千葉地検は竹井被告が不可解な説明をしていたことから鑑定留置を千葉地裁に請求し、4月11日から3か月が認められた。7月17日、千葉地検は竹井聖寿被告を起訴した。鑑定留置中の精神鑑定結果や取り調べ状況などから、刑事責任を問えると判断した。
裁判所
 東京高裁 大島隆明裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年3月30日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2016年2月26日の控訴審初公判で、弁護側は「一審当時も薬を服用していた。服用をやめてから攻撃性はなくなり、罪を恐れ、おののいている」と指摘。竹井被告の精神疾患について医師の証人尋問を求めたが、退けられた。弁護側は「服用していた抗うつ薬の副作用で事件を起こした」と一審判決の破棄を、検察側は控訴棄却を求め結審した。
 判決で大島裁判長は、争点となった被告の責任能力の程度について「強盗などの目的を達成するために合理的な行動をとっており、完全責任能力があった」と判断した。
備 考
 2015年6月12日、千葉地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2016年10月11日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
勝又拓哉(33)
逮 捕
 2014年6月3日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、商標法違反、銃刀法違反
事件概要
 栃木県鹿沼市の無職、勝又拓哉被告は2005年12月1日午後2時50分ごろ、栃木県今市市(現日光市)で下校途中の小学1年の少女(当時7)を車で連れ去り、翌2日午前4時ごろ、約65km離れた茨城県常陸大宮市の林道で胸を数回刺して殺害した。
 帰宅した母親が家にいないことに気付き、1日午後5時ごろ、警察に届け出た。遺体は2日午後2時ごろ、狩猟の下見で訪れた男性らが遺体を見つけた。栃木・茨城の両県警が合同捜査本部設置。遺体の付着物から採取されたDNA型は当初、有力な手掛かりとみられていたが、当時の栃木県警の捜査幹部のものが誤って付着したことが2009年に判明。物証が乏しく捜査は難航した。警察庁は2007年7月、は本件を最重要未解決事件の一つとして、公費による懸賞金「捜査特別報奨金」(1年間)の対象に指定。2013年8月に6度目の更新をしている。
 勝又拓哉被告は2014年1月29日、高級ブランドの「ルイ・ヴィトン」に似た商標付きショルダーバッグを販売目的で所持していたとして、商標法違反の疑いで母親とともに現行犯逮捕された。起訴拘留中に少女の連れ去りへの関与を認める供述をした。6月3日、合同捜査本部は勝沼被告を殺人容疑で再逮捕した。死体遺棄罪は3年の時効が成立している。
 また勝又被告は2014年1月29日午後、鹿沼市の自宅に駐車中の乗用車に、刃渡り約7.2cmのナイフを所持し、同日、母親と一緒に販売目的で、計206点の偽ブランド品を所持したほか、2013年9月、偽ブランド品を中国から輸入した。
 勝又拓哉被告は台湾出身の両親の間に生まれ、7歳で台湾から来日。1990年頃~2000年ごろ、骨董商を営む母親や再婚相手の日本人男性、家族らと当時の今市市に住んでおり、少女の自宅からは約5分の位置にあった。勝又被告は不登校になり、中学校卒業後の2000年頃から鹿沼市で一人暮らしを始め、2009年に日本に帰化した。
 県警は2014年9月10日、勝又拓哉被告の逮捕に結びつく情報を寄せた2人に、公的懸賞金(捜査特別報奨金)300万円と遺族らの寄付による情報提供謝礼金200万円の計500万円が支払われたと発表した。県警は「情報提供者を保護する必要がある」として、名前や懸賞金の分配比率などは明らかにしていない。
裁判所
 宇都宮地裁 松原里美裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年4月8日 無期懲役
裁判焦点
 商標法違反と銃刀法違反の区分審理が2016年1月29日に開かれた。罪状認否で勝又被告は「(違うところは)ないです」と起訴事実を認めた。
 2月9日、松原里美裁判長は、商標法違反と銃刀法違反について有罪を言い渡した。

 裁判員裁判。
 2016年2月29日の初公判で、勝又拓哉被告は「殺していません」と無罪を主張した。
 検察側は冒頭陳述で、「自白の内容は信用性がとても高く、重要な証拠」と強調した。その上で、〈1〉遺体に付着していた猫の毛が、被告が飼っていた猫のものと矛盾しない〈2〉被告の母親宛ての謝罪の手紙がある――などを「客観的事実」として挙げた。一方、弁護側は冒頭陳述で、〈1〉遺体の胃の内容物などから推定される死亡時刻が供述と異なる〈2〉大量の出血があったはずの現場に血液がほとんどなかった――などと供述との矛盾点を指摘し、「自白は強要されたものに過ぎない」と主張。遺体に付着していた猫の毛について、「矛盾しないだけで同一ではない」と反論するなど、検察側が挙げる「客観的事実」を次々と否定していった。
 3月1日の公判で、検察側の証人として捜査を現場で指揮した県警の警察官が出廷。自動車ナンバー自動読み取り装置(Nシステム)の記録などについて証言した。事件のあった2005年12月2日未明から早朝にかけて、宇都宮市内の国道などで被告の車がNシステムに5回記録されていたことなどを証言した。これに対し、弁護側はNシステムの記録からは被告の車が遺体が見つかった茨城県常陸大宮市と自宅を往復したかは分からないと指摘。「分かりませんよね」と尋ねると警察官は「はい」と答えた。また、警察官は2014年1月29日、商標法違反容疑で被告の鹿沼市の自宅を捜索した際、室内や車からサバイバルナイフや手裏剣型のナイフなど5本の刃物を発見したことも説明。同年2月24日に殺人容疑で捜索した際は、スタンガンの空き箱も押し入れで見つけた。
 2日の公判で、勝又拓哉被告の母親への証人尋問が行われ、勝又被告が母親に宛てた謝罪の手紙が示された。検察官と弁護士双方から、「『自分が引き起こした事件』とは何を指すと思うか」と尋ねられた母親は、「偽ブランドの事件」と答えた。母親は殺人罪について、「息子はやっていないと信じている。残酷な殺し方はあり得ない」と話した。
 3日の公判で、殺害を初めて自白したとされる直後に被告の母親へ宛てた謝罪の手紙について審理した。手紙は、勝又被告が偽ブランド品を販売目的で所持していたとして、商標法違反で起訴された2014年2月18日に殺害を認める供述をしたとされる直後、母親宛てに書いたもの。〈今回、自分で引き起こした事件でお母さんに迷惑をかけてごめんなさい〉などの内容が書かれ、検察側が「殺害行為を自ら認めている」として証拠提出した。これに対し、無罪を主張している勝又被告は弁護側から「何について謝っているのか」と質問され、「殺人をしていないのに認める調書にサインしてしまったこと」と検察側の主張を否定した。また、「看守(警察官)から『事件について細かく書いてはいけない』と言われ、言われるままに書き直した」と述べ、手紙の内容が真意でないと主張した。
 同日の公判で、検察側証人として九州大学教授の法医学者が出廷。検察官から遺体の首にあった四つの傷の写真について尋ねられ、傷が二つずつ等距離にあることや、赤い円形状で中央部分が白く抜けていることから、「典型的なスタンガンの傷だ」と答えた。弁護側が「スタンガンの傷はやけどのはずだが、写真は違う。別の原因の傷の可能性がある」と反論したのに対し、「スタンガンの傷はやけどではなく、血管が収縮して毛細血管から血液がしみ出てくる、皮膚内部の出血だ」と否定した。
 この日の公判で、自白供述以外の客観的な証拠に関する審理が終了し、弁護側はほぼ全ての証拠について「被告と事件を直接結びつけるものではなく、被告が犯人であっても矛盾はないという程度にとどまる」と主張した。一方、勝又被告の妹が、幼い頃に被告からわいせつ行為を受けたことや、被告の自宅で複数のスタンガンや児童ポルノ画像などを目撃したと証言した供述調書については反論しなかった。
 4日の公判で検察側の証人として捜査を現場指揮した県警警察官が出廷。遺体が発見された2005年12月2日の早朝、茨城県那珂市の常磐自動車道那珂インターチェンジ(IC)の防犯カメラに、勝又被告が所有していた白いセダン車と同型の車が映っていたと証言した。
 同日、検察側と弁護側がそれぞれ、自白の任意性について冒頭陳述。検察側は録音録画を基に被告が自らの意思で自白したと立証する方針で「録音録画で被告がどのような様子を見せていたか見てほしい」などと述べた。一方、弁護側は強制された自白で任意性はないと主張。取り調べ中に「(女児に)50回謝らないと晩飯は抜きだ」と言われたり、平手で顔を殴られ、壁に額を打ち付けたこともあったなどと述べた。
 8日の公判で、弁護側の請求証人として、司法解剖に当たった本田克也・筑波大教授への証人尋問が行われた。本田教授は遺体が発見された現場の写真から推測される出血量について弁護側から尋ねられ、「量が少なく、指を切ったか鼻血が出た程度しかない。殺害現場と遺棄現場は絶対に違う」と指摘した。検察側が「土の中に浸透したとは考えられないか」と質問したのに対し、「鑑識結果から考えにくい」と答えた。また、遺体の状況から、「床に寝かせて刺し、車のシートやソファにもたれかかった状態で放置したと考えられる」と述べた。死亡推定時刻についても「直腸温度や胃の内容物などから1日午後5時から2日午前0時頃」とし、「2日午前4時頃」との起訴事実を否定した。他にも、死後硬直が始まったのは遺体発見場所の山林斜面ではない、凶器はバタフライナイフより薄い刃物とみられると証言した。他に、「遺体に付着した粘着テープに、誰のものか説明できないDNA型がある」と証言した。
 9日の公判における被告人質問で勝又被告は、検察官に厳しく取り調べられたことで「このまま続くなら死んだ方がましと思った」などと主張。2014年2月25日の取り調べ中に窓に向かって突進し飛び降りようとしたことも明らかにした。
 また同日、検察側の証人として、初めて被告が殺害を認めたとされる2014年2月18日に取り調べを担当した男性検察官が出廷。「早くしろと調書にサインを迫ったことはないか」と問われ「ないです」と否定。また、同25日の取り調べで「かなり厳しく(供述を)促した」としたが、自白したら罪を軽くするなどといった利益誘導や、家族に迷惑がかかるような脅しはなかったと述べた。
 10日、11日、14日、15日の計4回の公判で、勝又被告の取り調べのうち検察側が録音録画した約80時間のうち、計7時間13分が再生された。
 10日の公判で、検察側請求証人として法医学者の岩瀬博太郎・東大教授への証人尋問が行われた。遺体発見現場の血液の量が少ないとの指摘について、岩瀬教授は「被害者は心臓を損傷しており、血は噴き出さない」として、自白と矛盾しないと答えた。「写真だけで血が流れた量を判断するのは難しい。土にしみこんだ分も考える必要がある」とも述べた。遺体の胃の内容物から考えられる死亡時刻は、「恐怖を感じると、消化が止まってしまうため、断定できない」としたが、直腸温度などから推定される時刻は検察側が主張する殺害時刻の2日午前4時頃でも、「矛盾はない」とした。
 11日の公判で、勝又被告は刑事からの脅しや誘導で「自分が犯人と錯覚した」などと述べた。
 14日の公判で、勝又拓哉被告を取り調べた県警の警察官3人に対する証人尋問が行われた。いずれも勝又被告の取り調べで暴力や利益誘導を行ったことはないと証言した。
 16日の公判で科学警察研究所の室長に対する証人尋問が行われ、勝又拓哉被告のDNA型が遺体から検出されなかったことについて質問が集中した。室長は、被疑者の細胞が採取されても、少量だったり、被害者の細胞と混ざったりしている場合、DNA型が検出できないこともあると説明した。
 17日の公判で、自白の任意性について中間の論告と弁論が行われた。
 18日の公判で、宇都宮地裁は検察側が証拠請求していた被告の自白調書について証拠として採用する決定を出した。証拠採用された5通の自白調書のうち4通は少女を殺害した疑いで勝又被告が逮捕、送検された後の2014年6月の取り調べで検事が作成した。
 22日の論告求刑で検察側は、〈1〉2005年12月2日未明から早朝にかけて被告の車が自宅方面と遺体発見現場方面を往復していた〈2〉遺体に付いていた猫の毛が被告が当時飼っていた猫のものと考えて矛盾がない〈3〉犯人像〈4〉母親に宛てた謝罪の手紙――などと指摘。「一つ一つの客観的事実からは被告が犯人であると直ちに導けるわけではないが、総合して考えた時、被告が犯人であることは十分に推認できる」とした。また、捜査段階での自白について、「現場や遺体の状況と整合しており、犯人しか知り得ない事実も含まれている。身ぶり手ぶりを交えて説明するなど供述は具体的で迫真性がある」などとして「高い信用性がある」と指摘。「客観的事実」と併せて「被告が犯人であることは、健全な常識に照らして間違いない」と強調した。殺害の目的は、連れ去りやわいせつ行為の口封じだったと指摘したが、「時効のために起訴されていない拉致行為やわいせつ行為などを量刑に反映させることはできない」とした。そして「純粋無垢な子どもを自らの欲望で拉致し、その発覚を免れるために殺害した。犯行は、自己中心的かつ身勝手で理不尽極まりない。冷酷非道というしかない。最大限の非難に値する」と述べた。
 遺族側弁護士は、勝又被告について、起訴後に供述を変遷させ、謝罪や弁償もないことを挙げ、「自己保身のみで、反省の色もなく、被告の母親も無罪を主張しており、適切な監督者もいない。真摯な反省をするには多大な時間がかかる」と指摘した。その上で、「被害者の苦痛や絶望を被告に同じように感じてもらいたい。死刑によって被告が罪の重さから逃れることすら許せない」として、「無期懲役を望む」と求めた。
 同日の最終弁論で弁護側は、「自白の内容は多くの客観的な事実と矛盾している」と主張。〈1〉現場の目撃情報と似た車や拉致された時間帯に現場へ行ける人は複数存在する〈2〉自動車ナンバー読み取り装置(Nシステム)の記録からは、遺体発見現場まで行ったとは言えない〈3〉遺体から採取された猫の毛は被告の飼い猫との同一性までは証明されていない〈4〉被告は少女の膝が崩れた後も刺し続けたと供述したが、刺し傷はほぼ同じ角度だった〈5〉被告は少女に触ったと供述したが、遺体から被告のDNAは検出されておらず、不自然〈6〉遺体にわいせつ行為をされた痕跡はない〈7〉手紙は間違った調書を作って、母親に迷惑がかかることを謝罪した――などと反論した。そして「現場や遺体の状況と矛盾しているほか、『返り血を浴びなかった』という供述を『浴びた』と変更させられるなど、取り調べに誘導があった」などと指摘。「自白は真実を語っておらず、自白を除くと証拠はないに等しい。勝又さんは無実です」として無罪を求めた。さらに、遺体に付着した粘着テープから少女や被告では説明のつかない第三者のDNA型が検出されており「真犯人の可能性がある」と訴えた。
 勝又被告は最終陳述で「私は殺していません」と2回繰り返した。顔を紅潮させて押し黙った後、涙声で「いわれのない罪で2年もぶちこまれるようなことをした覚えはない」と訴えた。その後、横の弁護人3人に向き直り、一人一人の名前を呼んで「ここまで弁護してくれてありがとうございました。最初から(弁護人を)信じなくてごめんなさい」と頭を下げた。
 判決で松原裁判長は、焦点だった自白調書の信用性について「想像に基づくものとしては特異ともいえる内容が含まれている。自白は具体的で迫真性に富み、根幹は客観的事実と矛盾せず信用できる」と述べた。取り調べの録音・録画について「殺人のことを当初聞かれた時の激しく動揺した様子、気持ちの整理のため時間が欲しいと述べる態度は、事件に無関係の者としては不自然」と信用性を認めた。被告の車が自宅と遺棄現場を行き来したとする自動車ナンバー自動読み取り装置(Nシステム)の記録、遺体に付いたネコの毛は被告の飼い猫と矛盾しないとのDNA鑑定結果など、検察側が主張した状況証拠についても検討。「被告が犯人の蓋然性は相当高いが、犯人と直接結びつけるものではない」としながら、自白調書を重視し有罪を認定した。その上で、「身勝手極まりない、残虐な犯行だ。発覚を逃れるためナイフで何度も刺して惨殺した。身勝手で、あまりに過剰で残虐。地域社会への影響も見過ごせない。わずか7歳で命を奪われた被害者が受けた恐怖や苦しみは計りしれない」などと量刑の理由を述べた。
備 考
 母親は商標法違反で2014年6月に懲役1年6月、罰金30万円、執行猶予3年の有罪判決を受けた。
 被告側は控訴した。2018年8月3日、東京高裁で一審破棄のうえ、改めて無期懲役判決。2020年3月4日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
阪田健一(49)
逮 捕
 2013年11月19日(自首。殺人、住居侵入容疑)
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、住居侵入
事件概要
 住所不定、無職の阪田健一被告は、オンラインゲームで2009年ごろから知り合いの女性から合鍵を受け取り、2013年11月15日午後4時ごろ、女性の元夫で神奈川県秦野市に住む会社員の男性(46)宅に侵入。午後10時ごろに帰宅した男性の首を刺して殺害し、現金2,000円入りの財布を奪った。被害者の男性が元妻に子供の養育費を払っていないことを知った阪田被告が男性のぜいたくな暮らしぶりを見て、我慢できなくなったと供述している。
 坂田被告は11月18日午後8時ごろ、神奈川県警小田原署に自首。秦野署員が19日午前1時ごろ、男性の遺体を発見した。同日、秦野署が殺人と住居侵入容疑で逮捕した。
 2014年3月25日、県警捜査1課と秦野署は、被害者の男性の元妻である女性を住居侵入容疑で逮捕した。女性は2013年11月13日昼ごろ、阪田被告が侵入するのを知りながら合鍵を渡したので住居侵入容疑の共謀が問えると判断した。
 2014年4月18日、横浜地検小田原支部は阪田健一被告について、強盗殺人と住居侵入の罪に訴因変更するよう横浜地裁小田原支部に請求した。元妻についても強盗致死ほう助罪を追加する訴因変更を請求した。
裁判所
 最高裁第三小法廷 木内道祥裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年4月14日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 一・二審では強盗目的ではなかったと主張。
備 考
 強盗致死ほう助の罪に問われた女性の裁判員裁判で、横浜地裁小田原支部は2014年12月24日、懲役8年(求刑懲役12年)の判決を言い渡した。佐藤晋一郎裁判長は「(被告のほう助行為は)犯行を確実なものにする重要な役割を果たした」と指摘した。2015年4月30日、東京高裁(井上弘通裁判長)で被告側控訴棄却。

 2014年12月12日、横浜地裁小田原支部の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2015年10月20日、東京高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
菅原勝男(72)
逮 捕
 2010年11月4日(現行犯逮捕)
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、住居侵入、銃刀法違反
事件概要
 秋田市の無職菅原勝男被告は2010年11月4日午前4時ごろ、秋田市に住む弁護士(当時55)の自宅に拳銃などの凶器を持って侵入。110番通報で駆け付けた警察官2人は、弁護士の男性宅でつかみ合っていた2人を発見。拳銃を持っていた1人を捕まえようとしたが、実はそちらが男性で、拳銃は菅原被告から取り上げたものだった。その隙に菅原被告は、凶器を置いていた応接室から、剪定ばさみを分解した刃物を手に、廊下にいた男性に突進。警察官は思わずかわし、菅原被告と男性は組み合うように寝室になだれ込んだ。慌てて警察官2人が寝室に入り、菅原被告を押さえ込むなどしたが、男性は「刺された」と言い、搬送先の病院で死亡した。警察官は耐刃防護服など定められた装備を着用していなかった。
 男性は菅原被告の元妻から依頼を受け、2002年からの離婚調停で代理人を務めた。財産分与調停で2004年、元妻側に多額の財産が分与されたという。菅原被告は財産分与に不満を抱き、元妻に度々、脅迫めいた電話をしていた。元妻は離婚後も菅原被告の件で男性と連絡を取り合い、「先生も気をつけて下さい」と忠告していた。
 秋田県警は、佐藤憬刑事部長が男性宅で遺族に面会、「事件を避けられなかったことは力不足だった。申し訳ありませんでした」と述べていたが、県警は「謝罪ではない」と説明していた。しかし12月3日、秋田県警の西川直哉本部長が男性の遺族宅を訪問。遺族に弔意を示した上で謝罪した。
裁判所
 最高裁第一小法廷 大谷直人裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年4月19日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 殺人罪については無罪を主張していた。
備 考
 日弁連の宇都宮健児会長は2010年12月7日、警察庁を訪れ、安藤隆春長官と岡崎トミ子国家公安委員長に徹底的な検証と再発防止策を求める要請書を手渡した。要請書は「被害者から緊急通報を受けた際の初期対応として適切であったといえるのか疑問」と指摘し、「警察庁及び国家公安委員会の監督のもとに検証が行われるべきだ」と求めた。

 菅原被告は2011年2月上旬の深夜、秋田中央署の留置所のトイレで、自分の下着を約10cm四方に手で裂いて飲み込んだ。近くにいた署員がうめき声で気付き、菅原被告も吐き出して無事だった当時の当直責任者だった同署の男性警部は署員から報告を受けたが、菅原被告が「発作的にやった。2度としない。担当者に迷惑がかかるから言わないでくれ」と懇願、本人も無事だったため報告しなかった。別の署員が数日後、同署幹部に報告して判明。3月11日付で県警が警部を本部長訓戒処分にしたが、県警は6月14日まで処分を公表しなかった。14日、自殺を図った被告を匿名で発表したが、関係者への取材で菅原被告とわかった。

 事件では、被害者の妻が菅原被告の侵入に気付いて110番し、警察官が駆けつけたが、その後に被害者が死亡したため、遺族が、事件発生当初から県警の初動対応を批判している。また、妻は被害者の死亡直前の状況について、「(駆けつけた警察官2人に)夫は両手を押さえられていた」と主張。一時、県警も「(被害者を)被疑者と勘違いした」としていたが、その後、被害者が菅原被告から奪い取った拳銃を取り上げるための行為と、説明を一転させた。遺族は不信感を募らせ、被害者の死亡と警察官の行為との因果関係などについて真相究明を求めてきた。
 県外の弁護士2人が2010年12月、現場に駆けつけた秋田県警機動捜査隊の警察官2人を業務上過失致死容疑で秋田地検に告発したが、秋田地検は2011年12月27日、嫌疑不十分で不起訴処分とした。

 また妻は2011年4月26日、自身も菅原勝男被告に生命を脅かされたとして、殺人未遂容疑で秋田地検に刑事告訴した。菅原被告が侵入した際、妻に「旦那とあんたを殺しに来た」などと言い、拳銃を数回突きつけたとしている。秋田地検は9月27日、嫌疑不十分で不起訴処分にした。妻は10月5日、処分を不服として、秋田検察審査会に審査の申し立てを行った。
 秋田検察審査会は2012年1月19日付で、妻への殺人未遂容疑について不起訴処分となっていた菅原勝男被告に対し、独自に殺人予備罪の成立を認定し、不起訴不当とした。検察審は議決で、菅原被告は男性に加え、妻に対しても殺意があったとし、殺傷力のある拳銃などを準備して妻宅に侵入していることから、殺人予備罪に当たると認めた。その上で、「男性の殺人事件とは別に、刑事責任を追及できるようにすべきだ」とした。
 4月24日、秋田地検は菅原勝男被告の殺人予備容疑を嫌疑不十分で不起訴とした。地検によると、再捜査の結果、菅原被告に妻への殺意はなく、殺害を目的とした凶器の準備は認められなかったという。

 2013年10月29日、被害者の遺族は、殺害されたのは秋田県警の警察官が現場で被害者を犯人と間違えて取り押さえたためだとして、県と菅原被告に、総額2億2305万円の損害賠償を求めて秋田地裁に提訴した。訴状では、110番で被害者方に駆けつけた警察官2人が、菅原被告から拳銃を取り上げた被害者を犯人と間違え、両腕を持ち上げて体の自由を奪ったうえ、すぐに菅原被告を取り押さえなかったために刺殺されたと主張。警察官2人の行為は「殺害行為に加担するもの」で、業務上過失致死罪に当たり、2人が所属する県警は「公正かつ厳格な捜査を行う当事者の資格がない」としている。また、2人が当時、耐刃防護服や警棒を装備していなかったことは、妻から110番を受けた県警通信司令室(現・通信指令課)の緊張感の欠如に起因すると指摘。凶器の有無など状況の把握を怠り、現場の警察官に一切連絡しなかったことは過失に当たると訴えている。
 2013年11月11日、秋田県警が110番の通報内容を録音した音声データと画像データ各3年分、計約24万9000件がコンピュータの故障で消失した問題が発覚。県警の志村務本部長は11月25日の県議会決算特別委員会で、受理簿のデータにはバックアップがないと明らかにした。しかし画像データ約12万5000件について、バックアップデータが存在していたことが2014年3月17日、わかった。県警は1月までにバックアップの存在を把握していたが、その後、公表していなかった。消失したとされる画像データの中には、本事件で被害者の妻が通報した時のデータも含まれていたため、遺族が県などに損害賠償を求めた訴訟の証拠にしたいと、遺族側の代理人弁護士団が県警に提出を求めていた。
 6月20日に行われた訴訟の弁論準備手続きで、県警が妻の110番を「けんか口論」として受理し、警察官に出動指示を出していたことが明らかになった。県はこの日、被害者の妻から110番を受けた通信指令室(現通信指令課)の受理画面の写真9枚を新たな証拠として提出。証拠調べで、これらと、遺族代理人が証拠保全していた通報の録音音声データとを突き合わせて判明した。
 2017年10月16日、秋田地裁(斉藤顕裁判長)は警官の責任について「当時の状況では不合理でない」と否定し、菅原受刑者にのみ約1億6480万円の支払いを命じた。斉藤裁判長は警官の一連の対応について「状況認識に問題があったことは否定できない」としつつ、「まず事態収束のため両方を制止するのは相当な対応」と認定。「拳銃を手にした者が侵入者だと考えても非難できない」と理解を示した。また「警官が被害者の両手を押さえたために殺された」との原告側の主張について、「(原告は)被害者が刺された場面を目撃しておらず、他に証拠もない」と因果関係を否定。その上で「秋田県では凶悪事件の発生が少ないため、日ごろから突発的事案への訓練や意識が十分でなく、現場で適切に対応できなかった。個々の警官に起因するものではない」と秋田県警の限界に触れた。遺族側は控訴した。
 2019年2月13日、仙台高裁秋田支部(山本剛史裁判長)は一審判決を変更し、県警側の過失を認定。県と菅原受刑者に約1億6430万円の支払いを命じた。山本剛史裁判長は警察官2人が臨場した際に菅原受刑者を侵入者と認識し、被害者を避難させれば命を奪われることを回避できたと強調。「安全な場所に誘導していれば殺害に至らなかったことは確実だ」と県警側の過失と刺殺との因果関係を認めた。拳銃の暴発防止などを理由に誰が侵入者であるかを確認せず、菅原受刑者から奪った拳銃を持っていた被害者を取り押さえようとした警察官の対応を「事態を把握しないまま制圧行為に出ることは被害者らの生命に危険をもたらす可能性がある」と指摘。「当事者を識別せずに拳銃を取り上げようとするのは誤りで、まず識別の問い掛けを発するべきであった」と判断した。
 県側は上告した。菅原受刑者は上告せず、賠償責任が確定。
 最高裁第一小法廷(小池裕裁判長)は2019年12月19日付で、県の上告を退ける決定をした。二審判決が確定した。
 秋田県警の鈴木達也本部長は2020年1月9日、県警の過失を認めた民事訴訟判決の確定を受け「何ら異議はない」と述べた。県警が過失を認めたのは初めて。

 2011年12月9日、秋田地裁の裁判員裁判で懲役30年(求刑無期懲役)判決。2012年9月25日、仙台高裁秋田支部で一審破棄、差し戻し。2014年4月22日、最高裁第三小法廷は高裁判決を破棄、仙台高裁へ差し戻し判決。2014年9月24日、仙台高裁で一審破棄、求刑通り無期懲役判決。

氏 名
ナカウ・カズモリ(65)
逮 捕
 2013年8月9日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、銃刀法違反(所持)
事件概要
 埼玉県鴻巣市に住むブラジル国籍の日系3世、無職ナカウ・カズモリ被告は2013年12月30日午後6時ごろ、熊谷市の荒川左岸河川敷で、金属加工業の男性(当時59)の首付近をペティナイフで数回突き刺すなどして殺害し、男性からの借金返済を免れた。
 男性は31日午前9時45分ごろ、血を流して倒れているのを発見された。
 ナカウ被告は1995年12月に来日し、自動車部品の製造会社などで勤務していた。趣味を通じて約10年前に男性と知り合い、一緒に銭湯に行く仲だった。数年前に仕事をやめてからは金を借りるようになった。
 現場にあった男性の携帯電話の解析結果などから、同日午後4時すぎに男性が電話してナカウ被告宅に向かったことが判明。2014年2月27日、熊谷署捜査本部は強盗殺人容疑でナカウ・カズモリ被告を逮捕した。
裁判所
 東京高裁 小坂敏幸裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年5月20日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 被告側は一審同様、事件当時、被害者と接触していないと無罪を主張したが、判決で小坂裁判長は2人が一緒にいたことを認定したうえで「ナカウ被告が犯人であることに疑いはない」と指摘した。
備 考
 2015年8月6日、さいたま地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2017年8月28日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
倉本行夫(73)
逮 捕
 2013年8月9日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人
事件概要
 広島市西区の無職倉本行夫被告は2015年9月7日午前9時ごろ、同区のマンションに住む知人男性(当時66)からの借金を免れようと、男性方で男性の口と鼻を両手でふさぎ、頭と胸を灰皿で何度も殴って殺害。現金約135万円を奪い、数百万円の借金の返済を免れた。
 広島県警は借金のある倉本被告を事件発生直後から参考人として事情を聴取。話の内容が二転三転するなどしたため、7日夜に自宅を捜索した。その結果、男性の携帯電話や男性の血の付いたズボンが見つかった。倉本被告が7日午前に男性宅方向に向かう姿が付近の防犯カメラに映っていることも確認した。県警は11日、倉本被告を逮捕した。
裁判所
 広島地裁 丹羽芳徳裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年5月27日 無期懲役
 判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2016年5月16日の初公判で、倉本行夫被告は起訴事実を大筋で認めたが、一部を否認した。
 冒頭陳述で検察側は「被害者から借金の返済を繰り返し迫られ、殺害するしかないと考えた」と指摘。弁護側は胸を殴ったことなどを否定し、「違法な利息を課され、厳しい取り立てを受けていた。妹のところにも取り立てに行くと言われ、迷惑をかけると思った」と情状酌量を求めた。
 倉本被告が現金を奪おうと考えた時期について、犯行中に男性から投げられた財布の中の札束が見えた際か、殺害後かが争点になった。23日の公判で検察側は、供述の確認のため、倉本被告の取り調べを録画したDVDを再生。検察官が「(財布の中の)金が見えた時か」と尋ねると、倉本被告は「金を見たら心が変わりますよ」と答えた。
 23日の論告で検察側は、「命乞いする男性から現金を奪おうと、口と鼻をふさぎ殺害行為を継続するなど強固な犯意に基づいている。犯行は残忍で悪質」と指摘した。
 同日の最終弁論で弁護側は「殺害中に金を取ろうと考える余裕はなかった」と反論した上で、「違法な高利息で厳しく取り立てられ、被害者から脅しを受けていた」として情状酌量を求め、有期懲役が相当とした。
 判決で丹羽裁判長は、被害者から借金の厳しい取り立てに遭っていたと有期懲役を求める弁護側の主張について、「金銭に窮する事態は被告自身が招いた」と指摘。「安易かつ身勝手に犯行に及ぶ決意をしており、同情の余地は少ない。犯行は突発的だったとしても危険性が高い。情状面を考慮しても、法定刑を下回る量刑を出す事情はない」と断じた。
備 考
 被告側は控訴した。2016年10月11日、広島高裁で被告側控訴棄却。上告せず確定。

氏 名
久保知暁(45)
逮 捕
 2014年3月18日(殺人未遂容疑)
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、強盗殺人未遂、非現住建造物等放火、住居侵入他
事件概要
 住所不定、無職、久保知暁被告は2014年3月4日正午過ぎ、宅配便の配達員を装って愛知県豊川市に住む会社員の男性(当時61)宅に侵入。妻(当時59)の手足を結束バンドで縛り、42万円を強奪。帰宅した男性にスタンガンを押し当てるなどして4万円とキャッシュカードを奪い、翌5日午前3時ごろ、男性を金属バットで頭を数回殴った上に包丁で首を刺して殺害。女性の胸も刺し、室内から10万円を奪って家に火を放った。妻は肋骨を折るなどの重傷を負ったが、火災の際に2階から飛び降りて救助された。
 男性は2013年まで鉄道車両メーカー大手に勤務し、車両の内装などを担当。定年後は関連会社に勤めていた。久保被告は2009年から関連会社で正社員として働いていたが、職場で同僚とけんかを繰り返すなどトラブルが絶えず、2013年6月、トラブルが原因で解雇され、それを通告したのが男性だった。
 3月18日夕方、愛知県警は高松市のスーパー銭湯で久保被告を発見し、殺人未遂容疑で逮捕した。4月9日、強盗殺人他容疑で再逮捕した。
裁判所
 最高裁第三小法廷 大谷剛彦裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年6月7日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 一・二審では「現場にいた別の人物が殺害した」と無罪を主張している。
備 考
 2015年6月8日、名古屋地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2015年12月7日、名古屋高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
中山裕二(42)
逮 捕
 2015年6月19日(死体遺棄容疑)
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、殺人未遂、現住建造物等放火
事件概要
 三重県四日市市のトラック運転手、中山裕二被告は2015年6月16日午後9時ごろ、勤めていた同県木曽岬町内の運送会社営業所で、かつて交際したことがある同市の会社員の女性(当時46)と68万円の借金返済を巡って口論となり、女性の首をロープで絞めて窒息死させ、桑名市内のレジャー施設駐車場に女性の車ごと遺体を遺棄した。
 17日夜、女性の遺体が発見された。三重県警は19日、中山被告を死体遺棄容疑で逮捕した。7月8日、強盗殺人容疑で再逮捕した。
裁判所
 津地裁 増田啓祐裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年6月21日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2016年6月3日の初公判で、中山裕二被告は「間違いありません」と起訴内容を認めた。
 冒頭陳述で検察側は「被告は『借金を全額返す』とうそをついて被害者を呼び出し、計画的に殺害した。借金の原因も無計画な競艇への出費など自ら招いた」と指摘。弁護側は「被告は被害者から高い利息で貸し付けられた上、厳しく返済を求められ精神的に追いつめられて、我を失って殺害してしまった。計画性は極めて希薄だった」と情状酌量を求めた。
 6月14日の論告で検察側は被告が競艇で多額の出費を重ね、被害者から借りた金も競艇に使っていた点を挙げ、「自ら招いた結果であるにもかかわらず殺害に及び、酌量の余地はない」と主張。「計画的犯行で、殺害により借金返済を免れようとした」として無期懲役を求刑した。弁護側は同日の最終弁論で「被害者から厳しく返済を迫られ、精神的に混乱していた。無期懲役は重すぎる」と有期刑を求めた。
 最終陳述で中山被告は「遺族に想像を絶する痛みを与えてしまい申し訳ない」と謝罪した。
 判決で増田裁判長は「被告の借金は競艇に多額の金銭をつぎ込み、自ら被害者に高利の借り入れを申し込んだ結果。凶器のロープを用意するなど一定の計画性があった。酌むべき事情はない」と弁護側の主張を退けた。そして、「被害者を殺害することで借金返済から逃れようと明確に認識していた。被害者に多大な苦痛や恐怖を与え、厳しい非難を免れない」と述べた。
備 考
 控訴せず確定。

氏 名
桜田充(33)
逮 捕
 2015年6月25日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、死体遺棄、死体損壊
事件概要
 東京都豊島区の金融会社役員、桜田充被告は、知人である岡山県津山市の設備会社社長、O被告と共謀。2014年8月29日午前0時ごろ、静岡県御前崎市の埠頭に停めた車の中で、札幌市で金融業を営む男性(当時45)の首をビニールひもで絞めて殺害。男性への借金約3,000万円の返済を免れた上、遺体を岡山県津山市の井戸に投げ入れて隠し、O被告が9月に遺体を自分の工場で切断、焼却して津山市内の川に捨てた。9月、O被告は桜田被告より数百万円を振り込みで受け取った。
 被害者の男性は無登録で金融業を営んでおり、2014年8月28日、資金を融資していた桜田被告と会うために上京していた。桜田被告も無登録で金融業を営んでおり、O被告に複数回、数百万円の融資をしていた。O被告は会社の経営に行き詰まっていた。O被告と被害者に面識はなかった。
 男性と連絡を取れなくなった妻が31日、札幌南署に行方不明届を提出。札幌南署などが捜査した結果、O被告の供述から2015年5月中旬に岡山県内の川などから骨の一部を発見した。北海道警は6月25日、両被告を死体損壊と死体遺棄容疑で逮捕した。7月30日、強盗殺人容疑で再逮捕した。
裁判所
 札幌地裁 中桐圭一裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年6月24日 無期懲役
 判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2016年6月13日の初公判で、桜田充被告は「やっていません」と起訴事実を否認して無罪を主張。一方、O被告は死体損壊と死体遺棄の罪は認めたが、「被害者を殺したのは自分ではない。債務を免れる目的も知らなかった」と強盗殺人罪を否認した。
 冒頭陳述で検察側は、桜田被告は男性から約3,000万円を借りており、返済を免れるため殺害を計画し、知人のO被告に協力を求めたと指摘。一方、桜田被告の弁護側は「被害者からの取り立ては厳しくなく、殺す動機はない」と反論し、O被告の弁護側は「被害者の首を桜田被告と一緒に絞めたが、怖くなって途中で抜けた。殺人未遂にとどまる」などと主張した。
 20日の論告で検察側は、桜田被告は被害者の融資で闇金業を行い、O被告にも金を貸していたと説明。その上で「桜田被告は約3,000万円の借金返済に困っており、返済に苦しんでいると周囲にこぼしていたこともあり、殺害動機があった。(桜田被告が殺害したと説明する)O被告の証言は矛盾がなく、犯人なのは明らか」と指摘した。O被告については、親友の証言などから「殺害目的を知っていた」とし、強盗殺人罪の法定刑である死刑と無期懲役を求刑しなかった理由については、「被告の証言がなければ事件の全容は解明されなかった」と説明した。
 同日の最終弁論で桜田被告の弁護側は、「借金は殺す動機にならない。直接証拠はO被告の供述だけで信用できない」と無罪を主張。O被告の弁護側は死体遺棄、損壊は認めた上で、「借金を免れる目的も知らず、一緒に首を絞めたのも5秒程度と殺人未遂罪にとどまる。懲役5年が相当だ」と訴えた。
 判決で中桐裁判長は、桜田被告の無罪主張に対し、「(桜田被告の関与を認めた)大国被告の供述内容は生々しく、防犯カメラの映像などとも合致しており、信用できる」と退けた。そして「あいまいな供述に終始し、到底信用することはできない」と指摘。借金返済を免れるため男性殺害を計画、実行したと認定した。強盗殺人への関与を否認していたO被告についても、「桜田被告から借金返済に窮していると聞かされており、殺害目的も分かっていた」と指摘し、桜田被告との共謀を認めた。その上で「供述により真相が解明された」として強盗殺人罪の法定刑を下回る懲役30年を言い渡した。
備 考
 O被告は同日、札幌地裁で求刑通り懲役30年判決。O被告側は控訴した。2016年9月27日、札幌高裁で被告側控訴棄却。2017年8月21日、被告側上告棄却、確定。
 控訴せず、確定。

氏 名
古谷有平(23)
逮 捕
 2015年8月11日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人
事件概要
 三重県津市の無職古谷有平被告は2015年8月9日午後3時45分ごろ、出会い系アプリで知り合った住所職業不詳の中国籍の女性(当時38)と鈴鹿市白子町のホテルに入った。女性がシャワーを浴びている間に約11万6千円入りの財布が入ったショルダーバッグを物色。女性に見つかり、バッグの奪い合いになった際、室内のパイプ椅子で頭などを複数回殴って殺害した。
 古谷被告は車で宮城県へ逃走。奪ったショルダーバッグと財布を、宮城県内のリサイクルショップで10日に売却した。
 事件直後、古谷被告の軽乗用車がホテルを出て行く様子が近くの防犯カメラに映っていた。古谷被告のインターネットなどの通信履歴を調べた結果、女性とは出会い系サイトで知り合ったことが判明。宮城県警が11日早朝、同県内の東北自動車道を車で逃走中の古谷被告を道交法違反(無免許運転)容疑で現行犯逮捕したため、捜査員が出向き、殺人容疑で逮捕した。捜査本部は13日、容疑を強盗殺人に切り替え、古谷被告を津地検に送検した。
 8月27日から10月30日までの鑑定留置で津地検は刑事責任能力はあると判断し、11月4日に起訴した。
裁判所
 津地裁 増田啓祐裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年7月20日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2016年7月1日の初公判で、古谷被告は「殺意はありません」と起訴内容を一部否認した。
 検察側は冒頭陳述で、古谷被告はイスが壊れるほど強い力で後頭部を殴っていることなどから「人が死ぬ危険な行為とわかっていた」と述べ、殺意があったと主張。また、「事件当時はうつ状態ではなく、十分に行動を制御できた」と指摘した。一方、弁護側は「被害者に見つかり、パニックになってとっさに殴ってしまった。殺害する動機もない」と反論、殺意を否定して強盗致死罪の適用を主張した。また、「被告は事件前からうつ状態で、行動をコントロールしきれなかった」とした。
 12日の論告で検察側は、「女性の後頭部目がけてパイプ椅子を振り下ろし、頭蓋骨を陥没させるほどの強さで殴ったことからも、人を死なせる危険性は十分認識していた」とし、被告には殺意があったと主張。「突発的だったとはいえ、金ほしさと逮捕を免れるための犯行に酌量の余地はない。被害者に全く落ち度はなく、遺族感情も大変厳しい。賠償も不十分で、くむべき事情はない」と説明した。
 同日の最終弁論で弁護側は、で「気絶させようと頭を殴ったが、力の加減ができなかったのは精神的に不安定だったからだ」として殺意を否認。犯行の計画性についても「バッグを盗もうとしたのが見つかりパニック状態に陥ったためで、凶器も事前に準備したわけではない。女性と会うまで窃盗自体も考えていなかった」と否定。古谷被告の父親が賠償として被害者側に100万円を支払っていることなどを挙げ、「更生が期待できる」として懲役15年が相当と訴えた。
 判決で増田裁判長は、「パイプ椅子の硬い座面で後頭部をかなり強い力で殴っている。人が死ぬ危険性の高い行為との認識があった」と指摘し、殺意を認定した。また事件当時の古谷被告の精神状態について、判決は「変装して宮城県まで逃亡するなど、合理的で一貫した行動をとっていた」と指摘し、弁護側の主張を退けた。
備 考
 被告側は控訴した。2016年11月15日、名古屋高裁で被告側控訴棄却。2017年3月13日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
高橋克也(58)
逮 捕
 2012年6月15日
殺害人数
 15名(逮捕監禁致死1名含む)
罪 状
 殺人、殺人未遂、逮捕監禁致死、死体損壊、爆発物取締罰則違反
事件概要
●VX殺人事件及び同未遂2事件
 麻原彰晃(本名松本智津夫)被告は、教団信者の知人だった大阪市の会社員(当時28)を「警察のスパイ」と決めつけ、新実智光、中川智正らに「ポアしろ。サリンより強力なアレを使え」などと、VXガスによる殺害を指示。新実らは1994年12月12日、出勤途中の会社員にVXガスを吹き掛け、殺害した。他にオウム真理教家族の会会長の男性にも吹きかけ、殺害しようとしたが失敗した。
 高橋克也被告はVXガスをかけた実行役に運転手役などで付き添った。また現場で被害者の視界を傘で遮った。

●目黒公証役場事務長拉致監禁事件  1995年2月28日、逃亡した女性信者の所在を聞き出すために信者の実兄である目黒公証役場事務長の男性(当時68)を逮捕監禁、死亡させ、遺体を焼却した。
 高橋被告は拉致の指示を受け男性を車に押し込むとともに、遺体焼却の見張り役も務めた実行メンバーだった。

●地下鉄サリン事件
 目黒公証役場事務長(当時68)拉致事件などでオウム真理教への強制捜査が迫っていることに危機感を抱いた教祖麻原彰晃(本名松本智津夫 当時40)は、首都中心部を大混乱に陥れて警察の目先を変えさせるとともに、警察組織に打撃を与える目的で、事件の二日前にサリン散布を村井秀夫(当時36)に発案。遠藤誠一(当時34)、土谷正実(当時30)、中川智正(当時32)らが生成したサリンを使用し、村井が選んだ林泰男(当時37)、広瀬健一(当時30)、横山真人(当時31)、豊田亨(当時27)と麻原被告が指名した林郁夫(当時48)の5人の実行メンバーに、連絡調整役の井上嘉浩(当時25)、運転手の新実智光(当時31)、杉本繁郎(当時35)、北村浩一(当時27)、外崎清隆(当時31)、高橋克也(当時37)を加えた総勢11人でチームを編成。1995年3月20日午前8時頃、東京の営団地下鉄日比谷線築地駅に到着した電車など計5台の電車でサリンを散布し、死者12人、重軽傷者5500人の被害者を出した。
 高橋克也被告はサリン散布役を車で送迎した。

●都知事爆破物郵送事件
 1995年5月、東京都知事に爆発物を郵送し、都職員に重傷を負わせた。
 高橋被告は爆発物の製造に携わった。

 高橋克也被告は1987年に出家した古参信者の一人。柔道経験を買われ麻原彰晃死刑囚の身辺警護を担当した。後に教団の諜報活動を担当する「諜報省」次官として、井上嘉浩死刑囚のもとで非合法活動に携わった。
 1995年5月に特別手配され逃亡し、1997年以降は菊地直子被告と川崎市内に住み建設会社などに勤務。2007年に菊地被告がアパートを出た後は1人で暮らしていた。オウム関連で起訴された189人の裁判は2011年12月にすべて確定。2011年12月31日夜、特別手配されていた平田信被告が警視庁丸の内署に出頭し、翌日逮捕された。菊地直子被告は2012年6月3日、相模原市の潜伏先で逮捕された。高橋克也被告は菊地被告の供述から川崎市内に潜伏していることが判明。高橋被告は菊地被告の逮捕を知り、4日午後2時40分に勤務先の社員寮から逃亡。その4時間後に警察は社員寮に踏み込んだが間に合わなかった。警視庁は6日以降、公開捜査に踏み切る。高橋被告は6月15日、東京都大田区西蒲田の漫画喫茶を出たところを逮捕された。所持品からは教団元代表の松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚の写真や著書が見つかった。
裁判所
 東京高裁 栃木力裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年9月7日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2016年7月11日の控訴審初公判で、弁護側は「サリンをまくとは知らされておらず、人を殺害する意図はなかった。一審は重要証拠を黙殺して事実を歪曲した」と地下鉄サリン事件などで無罪を主張。弁護側は一審で却下された教祖、麻原彰晃(本名・松本智津夫)死刑囚に対する証人尋問を再び請求したが認められなかった。検察側は控訴棄却を求め、即日結審した。
 判決で栃木裁判長は、事件後に高橋被告が解毒剤注射を受けたことなどから「少なくとも人体に有害な物質をまくことは認識していた。目的も不特定多数の乗客などを標的に危害を加えることと理解していた」として殺意を認定した。また、残り4事件についても「自己の宗教的利益のために重要な役割を忠実に実行した」(仮谷さん事件)、「事件を起こして捜査の矛先をそらし教団元代表の松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚の逮捕を阻止しなければならない目的を共有していた」(都庁爆発物事件)などと指摘。元幹部との共謀などを否定して一部無罪を訴えた弁護側の主張をことごとく退けた。そして「殺意があったと認定した判断に誤りはない」と述べ、一審東京地裁の裁判員裁判判決を支持した。
備 考
 2015年4月30日、東京地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2018年1月18日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
S・K(30)
逮 捕
 2015年2月1日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗致死、死体遺棄、営利略取、逮捕監禁
事件概要
 住所不定、無職のS・K被告は、NY被告、TS被告、元少年U被告と共謀。2010年12月6日午後8時ごろ、振り込め詐欺グループの仲間だった新宿区の職業不詳の男性(当時24)が交際していた女性の住む豊島区のマンションに入ったところ、暴行。拉致して八王子市内のマンションに連れ込み、7日頃まで監禁して暴行して男性宅の鍵を奪い、男性宅から現金300万円などを奪った。さらに暴行を加え、男性を脳挫傷で死亡させた。
 斎藤被告は他の3人や別の被告たちと共謀し、10日頃、男性の遺体を車で運び、埼玉県本庄市内の墓地に埋め、遺体の上にコンクリートを流し込んで隠した。
 また16日、男性と交際していた女性に「2千万円持ってくれば(男性を)返す」などと電話で要求。女性に新宿区の首都高速道路の路側帯まで2千万円を運ばせ置かせ、直後に持ち去った。
 S被告やTS被告らは、八王子市打越町の出身者らでつくる半グレ集団「打越スペクター」に所属。S被告はリーダーだった。被害者の男性もその一員だった。
 女性が2011年1月に巣鴨署に相談し、警視庁捜査一課が捜査していた。
 警視庁捜査1課は情報提供を受け、2013年10月17日、埼玉県本庄市内の墓地から男性の骨を発見、18日に八王子市の職業不詳の元少年U被告(事件当時19)を死体遺棄容疑で逮捕した。さらに同日、別事件で服役中の男性TN被告、別事件で勾留中の男性TT被告を死体遺棄容疑で逮捕した。23日、別事件で服役中のTS被告を死体遺棄容疑で逮捕。11月23日、死体遺棄容疑でNY被告と恋人のYA元被告を逮捕。
 警視庁捜査1課は11月26日、容疑者グループのリーダー格とみられるS被告を死体遺棄容疑で公開手配した。
 12月5日、NY被告、TS被告、元少年U被告、YA元被告を逮捕監禁容疑で再逮捕。2014年1月16日、相模原市の少年(逮捕当時19)を逮捕監禁容疑で逮捕。2月18日、NY被告、TS被告、元少年U被告、YA元被告を強盗致傷容疑で再逮捕。
 2015年2月1日、死体遺棄容疑でS被告を逮捕。NY被告、TS被告、元少年U被告は2015年2月に公判が決定していたが、この逮捕を受けて取り消された。2月13日、強盗致死容疑でS被告を再逮捕。4月23日、拐取者身代金取得容疑でS被告、NY被告、TS被告、元少年U被告、YA元被告を再逮捕。
裁判所
 東京地裁 島田一裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年9月23日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2016年9月6日の初公判で、S被告は「強盗致死罪の成立については争います」と述べた。弁護側は、強盗致死罪ではなく強盗致傷罪にあたると主張した。
 その後の公判でも弁護側は、「被害者を死なせた暴行には関与していない」と強盗致死罪の成立を否定した。
 15日の論告で検察側は、「被害者の頭部に強い暴行を加えるなど中心的役割を果たした」と述べた。
 判決で島田一裁判長は「被告の暴行が、頭部の陥没骨折という致命傷となった可能性が高い」と指摘し、強盗致死罪の成立を認めた。そして、「強い金銭欲に基づく狡猾で卑劣な犯行。主導的な役割を果たし、刑事責任は誠に重大。共犯者に責任転嫁するような供述を続けており、情状酌量の事情はない」と述べた。
備 考
 YA元被告は強盗致死罪から逮捕監禁罪に訴因変更され、2015年10月9日、懲役1年6月執行猶予3年の有罪判決を受け、すでに確定している。
 TS被告は2016年3月18日、東京地裁の裁判員裁判で懲役28年判決。控訴取下げ、確定。
 元少年U被告は同日、東京地裁の裁判員裁判で懲役18年判決。
 NY被告は2016年2月23日、東京地裁の裁判員裁判で懲役30年(求刑無期懲役)判決。2016年7月19日、東京高裁で被告側控訴棄却。

 被告側は控訴した。2018年4月18日、東京高裁で一審破棄、懲役28年判決。上告せず確定と思われる。

氏 名
内間利幸(47)
逮 捕
 2015年2月12日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、死体遺棄、強姦致死、わいせつ目的誘拐
事件概要
 福岡県豊前市の土木作業員内間利幸被告は、2015年1月31日午前10時ごろ、母親の車に乗って遊ぶ約束をした同級生の祖母宅近くで降りた、知り合いの小学5年生の女児(当時10)に声をかけ車に乗せて誘拐。知人男性が不在であることを確認した後、8km離れた豊前市の知人男性宅に女児を連れ出し、強姦。さらに11時半ごろ、手で首を強く圧迫して殺害した後、遺体をバッグに入れて車で自宅に運び、2階寝室の押し入れに隠して遺棄した。
 内間被告は同級生の母親と事実上の夫婦関係にあって同居しており、女児とも顔見知りだった。内間被告宅と祖母宅は80mしか離れていない。
 同日午後4時半すぎ、女児の両親が「遊びに行った娘が、習い事があるのに帰らない」と豊前署に届け、県警が捜索。女児は友達に「(内間被告と)一緒に(知人宅のある地区に)行っている」という内容のメールを携帯電話で送っていたため、内間被告を任意同行して事情を聴いたところ、遺体を隠したと認め、供述に基づき2月1日未明に遺体が見つかったため、死体遺棄容疑で逮捕した。12日、殺人容疑で再逮捕した。
裁判所
 福岡地裁小倉支部 柴田寿宏裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2016年10月3日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2016年9月12日の初公判で、内間利幸被告は死体遺棄罪は認めたが、殺人罪について「殺意はありませんでした」と否認した。
 検察側は冒頭陳述で、内間被告が、女児に「(遊ぶための)ボールを取りに行ってほしい」などとわいせつ目的で言葉巧みに誘い出し「口封じのために首を絞めて殺害した」と指摘。女児を殺害後、居場所を探知されないように、女児の携帯電話から「SIMカード」を抜き取り、遺体を押し入れに隠した後、自分が着ていた服を洗濯するなど証拠隠滅を図ったと主張した。さらに「幼い女児に対する犯行で、自己保身のための殺人。無残な遺棄行為もあり、反省しておらず、再犯の可能性もある」とした。また、検察側は元妻らの供述調書を朗読。内間被告が事件発覚前、「女児と一緒じゃなかった」などと無関係を装ったり、「警察が家に来ても入れるな」と指示したりしていたことを明らかにした。
 一方、弁護側も冒頭陳述を行った。内間被告が知人宅で女児に大声を出されたとし、「静かにさせようとして口を塞いだが、声が漏れるので2回、首を押さえた。女児の体の力が抜けたのがわかったので、人工呼吸を試みたが、回復しなかった」と述べ、殺意を否認した。そして「計画性はなく、強く反省している」と訴えた。
 公判では、バッグに入れられた遺体の写真などは証拠採用されなかった。裁判員の心理的負担に配慮したとみられ、検察側は、女児とほぼ同じ大きさの人形とバッグを比較した写真などを裁判員らに示した。
 13日の第2回公判で検察側証人として出廷した法医学者は、女児の死因について「手や腕などで首を絞められた窒息死と考えられる」との見解を示した。
 14日の第3回公判における被告人質問で、内間被告は弁護側の質問で、知人宅で女児に騒がれ、静かにさせようと2回、首を押さえたと説明。「殺してしまおうという思いはよぎらなかったか」と問われたのに対し、「それはなかった」と答えた。
 15日の第4回公判で女児の父親が意見陳述し、「私たちの本当に大切な娘の魂を殺し、命を奪った。死刑しかない」と涙ながらに語った。女児の母親も検察側証人として出廷し、「娘を返してほしい。娘が何も言えないことをいいことに、好き勝手なことを言っている。娘を侮辱しないでほしい」と訴えた。同日の弁護側の被告人質問で、被告は「服役中に再犯防止プログラムを受けていた」と供述。「(プログラムは)生かされなかったと思う。被害者の両親に深い悲しみを与えたので、繰り返さないよう誓っている」と述べた。
 20日の論告求刑で検察側は、「幼い子を対象にした、尋常ならざる性欲を満たそうとした。わいせつ目的で誘拐し、口封じのために殺害した」と動機を説明。争点となった殺意の有無については「被告は女児が騒いだため静かにさせようと首を押さえたと主張しているが、公判で被告が「首を強く2回圧迫した」と説明したことなどから、死亡する可能性が高いことは認識していた。女児が親に相談する可能性は高く、確実に口封じする必要性が生じていた」と指摘した。また、内間被告が自首するつもりだったと主張した点にも反論し、事件の痕跡を消そうと自らの着衣を洗濯したなどとして、「刑責を軽くしようとするための虚偽弁解」だと批判した。さらに過去の少女に対する性犯罪歴にも言及した上で「刑務所での更生プログラムや牧師との交流、出所後の警察からの連絡など更生の条件は整っていたのに、改めようとせずに悪質性が深まった」などと主張した。そして、「被害者が1人とはいえ、人格、生命を無視した身勝手な犯行。犯行は極めて残忍で動機は身勝手。生命軽視の度合いや悪質性は過去の死刑判決例と何ら変わらない。遺族感情も峻烈だ。更生は著しく困難で、極刑を回避すべき事情はない」として死刑を求刑した。
 被害者参加制度に基づいて、女児の両親の代理人弁護士が意見陳述し、「被告は被害者をもてあそび、殺し、物のように扱った。被告の残虐性は底知れない。自分のことしか考えておらず、全く反省していない」と死刑を求めた。全ての公判を傍聴した父親の心境は「娘を再び殺され、自らも身を切られる思いだった」と明かした。
 同日の最終弁論で弁護側は、「被告に殺意はなく、被害者に静かにしてもらいたいと首を押さえたにすぎず、悪質な動機とは言えない。下調べや凶器の準備もなく、計画性もなかった」と、殺人罪ではなく、強制わいせつ致死罪と死体遺棄罪にあたると主張。「この2罪では死刑にはできない」と訴えた。被告が自殺を図るほど反省していると述べ、量刑を決めるうえで考慮するよう求めた。また、仮に殺意があったとしても「死刑は国家が国民を殺すことで、単純な判断は許されない。根拠の乏しい人格的評価によって誤った事実認定をしてはいけない。他の判例とのバランスは不可欠だ」と訴え、有期刑が妥当だと主張した。
 最終意見陳述で内間被告は、「取り返しがつかない、申し訳ないことをした。ご両親やご遺族にも深い悲しみや苦しみを与えてしまった。どんな罰でも受けます」と消え入るような声で述べた。
 判決で柴田寿宏裁判長は、「わいせつ目的で誘拐し、抵抗を排除して同意のないままわいせつ行為に及んだ。さらに発覚を免れるためには殺すしかないと決意して殺害した」と指摘。殺意を認定し、起訴されたわいせつ目的誘拐や殺人、死体遺棄など4罪の成立を認めた。量刑については「女児への性犯罪の前科があり、長期間服役した上、出所後には警察の監督を受けていたにもかかわらず、顔見知りの女児に対する性欲を抑えられず死亡させた。被害者の夢や希望、未来のすべてを奪い去った結果は極めて重大」と指摘。同種事案の判例22件と比較検討したことを明らかにした上で、遺族が死刑を求めたことに理解を示しながらも、「殺害をあらかじめ計画していないなど死刑を科すほど生命軽視の度合いが甚だしく大きいとは言えない。前科は殺人罪に関するものではなく、死刑を選択するに当たっては慎重にならざるを得ない」と結論づけた。
備 考
 内間利幸被告は出身地の沖縄県で1996年、女性(当時23)を強姦し、11,000円を奪った。1999年には当時9歳、11歳、16歳の少女を雑木林に連れ込み、強姦や強姦未遂などの容疑で逮捕された。2000年、懲役12年の実刑判決を受けた。
 内間利幸被告は2015年8月30日朝、勾留中の福岡拘置所小倉拘置支所(北九州市小倉北区)で処方された睡眠剤を多量に飲んで自殺を図って意識不明の状態になり、病院へ搬送された。9月2日には食事ができる程度まで回復した。
 検察、被告側は控訴した。2017年6月8日、福岡高裁で検察・被告側控訴棄却。2017年10月24日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
倉本行夫(73)
逮 捕
 2013年8月9日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人
事件概要
 広島市西区の無職倉本行夫被告は2015年9月7日午前9時ごろ、同区のマンションに住む知人男性(当時66)からの借金を免れようと、男性方で男性の口と鼻を両手でふさぎ、頭と胸を灰皿で何度も殴って殺害。現金約135万円を奪い、数百万円の借金の返済を免れた。
 広島県警は借金のある倉本被告を事件発生直後から参考人として事情を聴取。話の内容が二転三転するなどしたため、7日夜に自宅を捜索した。その結果、男性の携帯電話や男性の血の付いたズボンが見つかった。倉本被告が7日午前に男性宅方向に向かう姿が付近の防犯カメラに映っていることも確認した。県警は11日、倉本被告を逮捕した。
裁判所
 広島高裁 多和田隆史裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年10月11日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2016年9月20日の控訴審初公判における控訴趣意書で、被害者の厳しい借金の取り立てなどで「窮地に追い込まれるまでの状況になかった」とする一審の認定に対し、「多い時は1日22回の取り立ての電話があった。無期懲役は重すぎて不当だ」などと有期刑を訴えた。検察側は控訴棄却を求め、即日結審した。倉本被告は体調不良のため出廷しなかった。
 判決で多和田裁判長は、倉本被告がうそをついて返済を引き延ばしていたなどと指摘し、「窮地に追い込まれるほどの状況が生じていたとは認められない」と退けた。
備 考
 2016年5月27日、広島地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。上告せず確定。

氏 名
竹井聖寿(26)
逮 捕
 2014年3月5日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗致傷、強盗殺人、強盗、銃砲刀剣類所持等取締法違反、大麻取締法違反
事件概要
 千葉県柏市の無職竹井聖寿(せいじゅ)被告は、2014年3月3日23時過ぎに自宅近くのコンビニでニット帽と手袋を購入。サングラスとマスクも着用し、各犯行に使用した刃体が21.9cmのナイフに加え、別のナイフや手錠2個、催涙スプレーも持って、襲う相手を探した。23時34分ごろ、自宅アパート前の路上で近くを通りかかった女性に声を掛けたが、女性は逃げ出した。数分後、通りかかった自転車の男性(当時25)に刃物を見せた。逃げた男性は払いのけた際に左手の親指を切り軽傷を負った。続けて11時37分ごろ、同じアパートに住む会社員の男性(当時31)の首や背中をナイフ(刃渡り約22m)で数回刺して殺害し、現金1万数千円などが入ったバッグを奪った。さらに通りすがりのワゴン車の男性(当時44)に「金を出せ。人を殺した」とナイフで脅し、現金約3500円入りの財布を奪った。竹井被告はワゴン車に乗り込んだが、発車できず、乗用車を止めた男性(当時47)から車を奪った。車は約1.3km先のコンビニエンスストアの駐車場で乗り捨てた。
 竹井被告は4日、報道各社の取材に30分近く応じ、アパート内の通路から数分間、犯行現場を撮影したと説明した。
 県警の捜査員は5日朝、竹井被告に任意同行を求めると、竹井被告は「チェックメイト」と答えて素直に応じた。同日夜、強盗殺人容疑で逮捕した。
 千葉地検は竹井被告が不可解な説明をしていたことから鑑定留置を千葉地裁に請求し、4月11日から3か月が認められた。7月17日、千葉地検は竹井聖寿被告を起訴した。鑑定留置中の精神鑑定結果や取り調べ状況などから、刑事責任を問えると判断した。
裁判所
 最高裁第三小法廷 大橋正春裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年10月11日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 一審で弁護側は「統合失調症による妄想の影響があった」と主張。二審では「服用していた薬の副作用で心神喪失状態だった可能性がある」とも主張した。
備 考
 2015年6月12日、千葉地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2016年3月30日、東京高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
山口安夫(66)/坂巻勝美(54)
逮 捕
 2015年10月6日(電磁的公正証書原本不実記録・同供用容疑)
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、死体遺棄、詐欺、電磁的公正証書原本不実記録・同供用他
事件概要
 住所不定の無職、山口安夫被告と群馬県前橋市の電気工事業、坂巻勝美被告は2013年12月7日、群馬県桐生市内に停めた自動車内で、青森県弘前市の不動産会社社長の男性(当時62)の首を針金で絞めて殺害し、現金約8万円を奪ったうえ、遺体を坂巻被告が所有していた前橋市の土地に埋めた。2人は不動産物件があると誘い、事件当日の午前中にJR前橋駅で男性と合流し、複数の不動産物件を見て桐生へ向かっていたところ、助手席にいた男性を後部座席から坂巻被告が殺害したものだった。現金や山口被告が奪った。両被告は2014年2月、男性が東京で入院したと大家に偽り、住んでいたアパートの部屋を解約し、荷物を持ち出した。男性は独身だった。
 男性は、青森県や千葉県などで不動産売買など約20社を経営し、5億以上を持つ資産家だった。山口被告は以前不動産関係の仕事をしており、男性とは30年近い付き合いがあった。男性が失踪する直前の2013年11月ごろ、業務報酬の数十万円が支払われなかったとしてトラブルになり、男性を暴行。男性が警察に相談していた。
 さらに両被告は2014年8月以降、男性が経営していたうちの約9社で取締役を千葉県鎌ヶ谷市の無職、Y被告に変更。うち6社で倒産防止保険を解約し、現金計約320万円を騙し取った。さらに両被告は9~11月、男性が経営していた会社の取締役が変更されたとする虚偽の書類を秋田県内の銀行と信用金庫に提出し、同社名義で利用契約を結んでいた計6個の貸金庫を解約。計約1億7千万円をだまし取った
 東京都内に住む男性の母親が2015年1月に警視庁に相談。同庁は事件に巻き込まれた疑いがあるとみて捜査に乗り出した。その過程で、男性の経営していた千葉県松戸市の不動産関連会社が2014年8月に登記上、男性が代表から退いたことになっているなど不審点が浮上。警視庁は2015年10月6日、登記内容を勝手に変更したとして、山口被告、坂巻被告、Y被告を電磁的公正証書原本不実記録・同供用容疑で逮捕。坂巻被告らが「男性の遺体を前橋市内に埋めた」と供述。捜査1課は18日、同市内の坂巻被告の私有地を捜索し、遺体を発見。27日、山口被告と坂巻被告を死体遺棄容疑で逮捕した。さらに詐欺容疑で、両被告とY被告を再逮捕した。11月17日、強盗殺人容疑で両被告を再逮捕した。2016年1月13日、詐欺容疑で両被告を再逮捕した。
裁判所
 東京地裁 石井俊和裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年10月25日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2016年10月17日の初公判で、山口被告は、強盗殺人罪について「殺害を坂巻被告と事前に相談したことはなく、自分は一切手を出していない」と無罪を主張。坂巻被告は、「2人で『やろう』と話した」と起訴内容を認めた。
 検察側は冒頭陳述で、社長の会社と取引があり資産家だと知っていた山口被告が、坂巻被告と共謀して殺害を計画したと指摘した。
 21日の論告で検察側は、「強盗殺人を発案したのは山口被告だ」と指摘した。そして、「命を奪って手にした多額の現金を遊興費などに使い、身勝手極まりない」としてそれぞれに無期懲役を求刑した。
 判決で石井俊和裁判長は、両被告が殺害直後に奪った現金を分配したことや、知人が絞め殺されそうになっているのに制止しないことは考えられないことなどから共謀を認定するとともに、「坂巻被告と被害者は事件当日が初対面で、衝動的に殺害するとは考えにくい。山口被告が発案し、坂巻被告を引き入れた」と認定した。そして、「殺害から間を置かずに次々と被害者の財産を奪っていて、金のためには他人の生命さえ顧みない非常に悪質な犯行だ。人命を奪った後悔が全くない」と非難した。
 最後に石井裁判長は、息子を奪われた母親の心情に言及。調書で「絶対に許せない」と繰り返し、両被告の「極刑」を求めていたことに、判決は「母親が死刑を望むのは当然だ」と指摘した。
備 考
 被告側双方とも控訴した。2017年6月22日、東京高裁で被告側控訴棄却。2017年12月6日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
木村博(63)
逮 捕
 2015年9月23日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、銃刀法違反
事件概要
 特定危険指定暴力団工藤会系組長の木村博被告は組の幹部らと共謀。部下に命じ、2008年9月10日午前2時50分頃、福岡県中間市に住む同会系組幹部(当時66)宅に侵入。拳銃で頭や胸などを撃って殺害した。木村被告が組長を務める2次団体に所属する幹部とは、深刻な対立があった。
 2009年9月、木村被告ら5人が逮捕されたが、木村被告を含む3人が不起訴。2人が起訴され、そのうち実行犯の1人については求刑通り無期懲役判決が確定。連絡役の1人は無罪判決が確定した。
 福岡県警は「再捜査の結果、関与を裏付ける新たな証拠が得られた」として、2015年9月23日、木村博被告ら不起訴になっていた3人を含む計4人を逮捕した。
 逮捕当時、木村博被告は特定危険指定暴力団工藤会のナンバー5で、広報を担当。2014年9月以降の福岡県警による工藤会壊滅に向けた一斉捜査以降で、トップで総裁の野村悟被告らが逮捕されたのちは、理事長代行として実質的なトップを務めていた。
裁判所
 福岡地裁 松藤和博裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年10月31日 無期懲役
裁判焦点
 福岡地裁は2016年6月30日、裁判員に危害が加えられる恐れがあるとして、審理を裁判員裁判の対象から除外した。決定理由で、平塚浩司裁判長は「組織に大きく影響する可能性があり、判決内容によっては構成員が裁判員の生命に危害を加える恐れがある」と指摘した。
 2016年8月22日の初公判で、木村博被告、W被告とも「身に覚えはない」などと起訴事実を否認した。
 検察側は冒頭陳述で、木村被告が被害者と金銭トラブルで対立していたことが背景にあったと指摘。木村被告については「配下の組員らに殺害を指示し、拳銃の調達を行わせるなど事件を首謀した」とし、W被告に関しては「被害者の行動確認をしていた」と主張した。
 10月7日の論告で検察側は、配下の組員の供述などから「木村被告の指示があったのは明確」と主張。動機について「被害者との間で金銭トラブルがあった」と指摘した上で「配下の組員らに殺害を指示し、事件を主導した。首謀者として多数の配下を巻き込んだ。組織的かつ残忍で、暴力団特有の犯行だ」と非難した。
 同日の最終弁論で弁護側は、「木村被告に殺害の動機はない」と無罪を主張した。
 判決で松藤裁判長は「木村被告が複数の配下の組員に殺害の指示をし、殺害後には報告を受けていた」と認定。動機については「被害者との間に金銭トラブルが認められ、それを契機に殺害を決意したことは十分ありうる」と述べるにとどめた。その上で「意に沿わない人物を排除する目的があったことは間違いなく、身勝手で厳しい非難に値する。犯行を主導し、共犯者の中でも最も重い責任を負うべきだ」と断じた。
備 考
 実行犯の工藤会系組幹部、坂本敏之元被告は、2011年2月7日、福岡地裁小倉支部(重富朗裁判長)で求刑無期懲役に対し、一審無罪判決。「携帯電話の電波状況から、犯行時間帯に現場付近にいたことは推認される」としたが、犯行を認めた捜査段階の調書について、供述内容が住民の証言などと矛盾しているとして「秘密の暴露がなく、(暴力団関係者の)だれかをかばって虚偽の自白をした可能性が高く、実行犯と認定できない」と指摘した。この裁判は、裁判員制度が始まって以降、裁判員や親族に危害が加えられる恐れがあるとして、全国で初めて裁判員裁判の対象から除外された。2012年9月21日、福岡高裁(川口宰護裁判長)で一審破棄、無期懲役判決。一審判決は証拠の評価を誤った」とし、坂本被告の捜査段階での自白については、「共犯者をかばうために不自然な供述をしたが、射殺を認めた部分は信用できる」とした。そして「間接事実を総合評価すると、坂本被告は殺害に深く関与したと認められる」として無罪判決を破棄した。2013年4月8日、被告側上告棄却、確定。
 連絡役だった組員I被告は、2011年2月7日、福岡地裁小倉支部(重富朗裁判長)で求刑懲役20年に対し、一審無罪判決。「関与は疑われるが、自白は信用できず、犯人と認定することはできない」などとした。2012年9月21日、福岡高裁(川口宰護裁判長)で検察側控訴棄却。上告せず、確定。
 木村被告からの指示を実行役などに伝えたとして殺人罪で起訴された工藤会系組幹部M被告は、2016年3月30日、福岡地裁(松藤和博裁判長)で求刑通り一審懲役20年判決。検察側は、「本来は無期懲役などの求刑が相当だが、首謀者の関与を含め詳細に供述し、真相解明に大きく寄与した」として有期刑を求刑していた。2016年10月20日、福岡高裁(鈴木浩美裁判長)で被告側控訴棄却。
 被害者の居場所を探し、実行役に連絡するなどしたとして起訴された工藤会系組幹部W被告は2016年10月31日、福岡地裁で懲役15年(求刑懲役18年)判決。被害者の所在を探すなど重要な役割を果たしたものの、「従属的な立場だった」と判断した。被告側控訴中。

 木村博被告は、自らが組長を務める工藤会2次団体の組事務所が入居している北九州市八幡西区のビル所有者の親族に対し、2009年6月、「事務所を売れ」などと脅迫。2014年7、8月には「ただでくれ」などと言って、ビルを取得しようとしたとして、恐喝未遂などの罪で2015年1月26日、逮捕された。この2次団体は、2015年6月22日までに、ビルから事務所を撤去している。
 2015年5月26日、福岡地裁(岡部豪裁判長)は木村被告に一審懲役3年(求刑懲役4年)を言い渡した。10月21日、福岡高裁(鈴木浩美裁判長)は被告側控訴を棄却した。上告せず、確定か。
 被告側は控訴した。2017年7月10日、福岡高裁で被告側控訴棄却。2018年1月22日、被告側上告棄却、確定。


 工藤会の組員が関係した事件のうち、福岡県警が2014年9月11日に開始した「頂上作戦」以後、主に死刑や無期懲役判決を受けた受刑者、被告人(一部例外除く)が関与した事件の一覧ならびに判決結果については、【工藤會関与事件】を参照のこと。

氏 名
林圭二(44)
逮 捕
 2012年10月26日(死体遺棄容疑)
殺害人数
 2名(殺人1名、傷害致死1名)
罪 状
 殺人、傷害致死、死体遺棄、窃盗、詐欺、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)
事件概要
 岐阜県美濃加茂市の中古車販売業、林圭二被告は、2003年ごろから春日井市のキャバクラで愛知県小牧市出身の飲食店員の女性Aさんと知り合い、2004年7月頃から同居。2005年頃から林被告は、浮気をしたなどと言ってはAさんを長時間罵倒し、殴りつけて骨折などの大けがをさせていた。2006年頃より、林被告は、Aさんに出会い系サイトや映像をインターネットで配信して代金を得る「ライブチャット」をさせて金を稼がせていた。Aさんはトイレにも行かせてもらえず、眠ることも許されないまま監禁されていた。Aさんは2006年に一度、助けを求めて実家に帰ったが、翌日には自ら林被告宅に戻り、その後は林被告が留守にしても逃げ出さなかった。
 2009年7月10日、ライブチャット中にAさん(当時26)が居眠りしたことに腹を立てた林被告は、Aさんを叱責。Aさんは自ら眠らないよう首に鎖を巻いて上から吊すと言った。林被告は女性に「自分でやれ」と言い、Aさんをそのまま放置した。座ると首が絞まる状態で、Aさんは立ち続けられず窒息死した。Aさんからの搾取などで、林被告が手にした金は4000万円余りに及んだ。林被告は元同僚で知人である岐阜県富加町のトラック運転手、W受刑者と共謀し、大型冷凍庫でAの遺体を凍らせ、電動のこぎりで切断して犬山市の山中などに遺棄した。
 その後、林被告は2009年7月~11年9月、Aさんの口座から約525万円を引き出した。このうちに約470万円については、W受刑者と共謀している。
 林被告とW受刑者は共謀し2011年10月、Aさんの知人男性に、W受刑者がAさんを装って「目の手術費用に困っている」とメールを送り、85万円をだまし取った。
 林被告は2008年頃、一宮市のキャバクラで女性店員Mさんと知り合った。Mさんが2009年に別の店に移籍しても通い続けたが、Mさんの接客態度などに不満を持っていた。その後、Mさんと親しい別の店員に交際を迫ったが断られたため、Mさんが妨害したと邪推。一緒に店に通っていたW受刑者と共謀し、2011年11月24日、愛知県犬山市の駐車場に止めた車の中で、Mさん(当時27)の首を手で絞めて殺害。遺体を美濃加茂市の林被告の自宅に移して業務用冷凍庫に入れ、福井県大野市まで車で運び、九頭竜湖に投げ捨てた。Mさんは2ヶ月後に結婚式が予定されていた。
 Mさんの車は行方不明となった翌日、自宅から約30km離れた同県豊田市の山中で見つかった。ナンバープレートが外され、車体番号も削り取られていた。失踪後、12月初めまではMさんの携帯電話から複数の知人にメールが届いたが、言葉遣いなどが日ごろと違っていた。12月、Mさんの交際相手の男性が愛知県警へ捜索願を出した。
 2012年5月、Mさんの遺体が、福井県の九頭竜湖岸に放置されていた冷凍庫から見つかった。愛知、福井両県警は10月26日、死体遺棄容疑で、林圭二被告とW受刑者を逮捕。11月16日、殺人容疑で再逮捕した。W受刑者は、林被告とともにAさんを山中に捨てたことを自供。2013年2月、犬山市などの山林から人骨とみられる骨の一部が発見された。2013年3月1日、詐欺容疑で両被告を再逮捕。3月22日、窃盗容疑で両被告を再逮捕。さらに同日、不正に得たとみられる総額約3600万円を、自分が管理する口座に移すなどして隠したとして組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)の疑いで林被告を再逮捕した。林被告の腕時計の中にあった骨片のDNA型がAさんと一致するなどしたため、2013年10月5日、傷害致死容疑で林被告を再逮捕した。
裁判所
 名古屋地裁 景山太郎裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2016年11月2日 無期懲役
裁判焦点
 窃盗・詐欺と殺人・傷害致死・死体遺棄の区分審理となり、前者は裁判官のみの裁判で、後者は裁判員裁判となった。
 2016年4月26日、窃盗・詐欺の初公判で、林被告は認否について「弁護士に任せる」と述べ、弁護側は詐欺罪の起訴内容を認めた上で、窃盗罪について「成立しない」と否認した。
 検察側は冒頭陳述で「自分で現金を引き出せば捜査機関に疑われると思い、知人に依頼した」と指摘。弁護側は「Aさんと林被告は内縁関係にあり、林被告は預金の実質的共有者であったため、窃盗には当たらない」と主張した。
 4月28日の論告でも双方は同様の主張を行った。
 5月16日、景山太郎裁判長は、窃盗と詐欺罪について有罪の部分判決を言い渡した。景山裁判長は、「Aさんの死亡によって、口座の取引は原則的に停止されるべき場合にあたる」と述べた。さらに、林被告は例外的に引き出しが認められる相続人でもなく、口座の金について何の権利も持っていないため、引き出しは窃盗にあたるとした。

 5月27日、裁判員裁判で殺人・死体遺棄の審理が始まり、まずAさんへの傷害致死の審理で、林被告は「弁護人に任せている」と述べ、弁護側は「被告が死なせたという証拠はなく、傷害致死罪は成立しない」と起訴事実を否認した。
 冒頭陳述で検察側は「出会い系サイトを寝ずにやるよう命じたAさんが居眠りをしたことに腹を立て、林被告が鎖を首につながせた。Aさんは林被告の長期間にわたる暴行で精神的に支配され、林被告の意向に従うしかない心理状態だった」とし、林被告が「窒息死に追い込んだ」と主張した。弁護側は、Aさんがネットなどで外部と連絡を取れる状態だったことなどから「自ら首に鎖を巻く以外の行為も選択できた」と主張した。
 6月3日の公判における被告人質問で、林被告は「Aさんがサイトの利用中に居眠りしたため叱責したところ、女性が自分の首に鎖を巻くことを提案した。事件当日、自分は鎖を巻いていない」と関与を否定した。
 9日、Mさんへの殺人・死体遺棄の審理が始まり、林被告は「間違いありません」と起訴内容を認めた。
 検察側は冒頭陳述で「通っていた飲食店で金づるになる女性が見つからないのはMさんが邪魔しているからだと恨んでいた」と動機を説明。被告が殺害の計画を主導し、共犯の男を誘って実行したと指摘した。一方、弁護側は「共犯の男と相談して計画を立て、代わる代わる首を絞め殺害した。2人に量刑の差をつけるべきではない」と訴えた。
 同日、証人尋問でW受刑者は、「殺害は林被告が言い出した。断ると自分が狙われると思って拒否できなかった」と述べ、自身は従属的な役割だったと主張した。
 14日の公判における被告人質問で、林被告は「(共犯者と)対等だった」と、主犯格とする検察側主張に反論した。林被告はW受刑者について「親しくしていた店の女性との仲をMさんに邪魔されたと思い、殺そうと考えた。殺害を思いとどまらせようと別の店に通うことを持ちかけたが、聞き入れられなかった」とも語った。検察官から「それでも、あなたがやめようと言えば済んだのでは」と尋ねられると、林被告は「説明は難しい」とだけ答えた。
 20日の公判でAさん、Mさんの遺族4人が意見陳述し、「死をもって償ってもらいたい」などと極刑を求めた。
 22日、検察側は論告で、「林被告は、Aさんに寝ずに出会い系サイトをやるよう指示していたが、Aさんが居眠りしたため、眠らないよう部屋のかもいに結びつけられた鎖に首をつなぐよう仕向け、死亡させた」と主張。「奴隷のように扱われ、虐待され尽くして死に追い込まれた絶望は大きい」と主張した。Mさん殺害の動機について「金づるにできる女性の獲得を妨害されたと思い込んだ」と指摘し、「極めて自己中心的で酌むべき事情はない」と指弾した。その上で、「Aさんが死亡して2年余りでMさんを殺害しており、犯罪傾向が深化している。自己の欲望を満たすために被害者女性の人格を無視した、極めて悪質で、冷酷、残忍な犯行。矯正はきわめて困難。命をもって償わせるほかない」と強調した。
 検察側が論告で示したAさんの事件に関する林被告の言動の一部について、景山裁判長が「起訴状に記載されていない」と指摘して審理は一時中断し、22日午後に予定されていた弁護側の最終弁論は延期された。検察側は地裁に対し、起訴状に書かれた内容の変更(訴因変更)を請求した。地裁は、検察、弁護側双方の意見を求めた上で訴因変更を許可するか検討し、改めて最終弁論の期日を指定する。
 7月15日の公判で検察側は、被告が死亡当日以前から繰り返し女性の首に自ら鎖を巻かせていたなどとする起訴内容の追加を申し立て、裁判長が許可した。被告は認否を留保した。
 10月3日の公判で検察側は追加論告で、林被告から傷害致死事件の経緯を聞いた男性の証言などから、林被告がAさんの死亡直前、壁の前に立たせて「『やるのはいいけど自分でやれ』『お前、そこじゃねえだろ』と言い、被告が仕向けて自分で鎖を首に巻くよう促したと主張。殺人罪などと合わせ「死刑に処するのが妥当だ」と述べた。弁護側はこの日、「合理的疑いを超えて証明できず、同罪は成立しない」と反論した。
 同日、意見陳述で、Aさんの遺族側弁護士は「激しい暴力、暴言で被告の支配下に置かれた。被告に殺されたに等しい」。また、Mさんの遺族側弁護士は「2カ月後に結婚を控え、愛する男性と家族を築く希望に満ちあふれていた。被告には死刑しかない」とそれぞれ述べた。
 10月17日の最終弁論で弁護側は、Aさんに対する傷害致死について、「林被告がAさんに対し、首を鎖でつないで立つよう仕向けた具体的言動があったとは証拠上、認められない」と反論し、無罪を主張。Mさんに対する殺人、死体遺棄罪は認めた。W受刑者が懲役14年が確定していることを挙げ「2人の刑に大きな差をつける合理的な理由はない」と述べ、死刑回避を求めた。
 林被告は最終意見陳述で、「自身の愚かな行動に後悔と反省をしています」と述べ、弁護側に向けて長く一礼した。
 判決で影山裁判長は、W受刑囚がAさん死亡時の状況を林被告から電話で聞いたとする証言は信用できると指摘。そして、以前から林被告が暴力で恐怖心を植え付け、執拗に罵倒を繰り返すなどして心理的に支配していたため、「Aさんは林被告の指示に反する行動を選択できなかった」と指摘した。その上で、Aさんに自ら鎖を首に巻くよう暗に命じたと認定し「Aさんの行為を利用した傷害致死罪が成立する」と述べた。これを踏まえて刑を検討した。Mさんに対する殺人、死体遺棄罪について「Aさんが死亡し、代わりとなる金づるを探す中でMさんに邪魔されたと決めつけ殺害に及んだ。極めて自己中心的で、非情、残忍な犯行」と批判した。Aさんへの傷害致死罪も「居眠りさせずに出会い系サイトを利用した詐欺行為を行わせるため、立っていなければ鎖で首が絞まるようにさせた。人道にもとる犯行」と指摘した。一方で、2年5カ月の間に2人の命を失わせたことに関し「故意性など罪の質が異なり、他人の生命を軽視する同種の犯行を繰り返した場合のように、生命軽視の態度が甚だしいとまでは評価できない」と結論付けた。そして、「死刑の選択を考慮させるが、裁判例の傾向等も踏まえると死刑選択が真にやむを得ないとまでは言えない」とした。
 また判決では、林被告がAさんから搾取するなど、犯罪で得た利益約3200万円を没収するとした。
備 考
 共犯のW受刑者は、Mさん殺害と死体遺棄で2015年3月2日、名古屋地裁で懲役14年(求刑懲役16年)判決。景山太郎裁判長は、W被告が殺人罪などで起訴されている林圭二被告に対して従属する立場だったことを認めたうえで、「関係を断ち切る機会がなかったわけではない」と指摘した。事件の約3カ月前から、殺害方法などについて綿密に打ち合わせるなど「極めて高い計画性」があったとして、「残忍性などを考えると、長期の刑に処するのが相当」と述べた。控訴せず確定。さらにW受刑者は、詐欺と窃盗で4月27日、懲役1年(求刑懲役2年)判決。控訴せず確定。

 初公判から判決までの実審理期間160日間は、2016年末時点で最長。
 被告側は控訴した。検察側は控訴せず。2017年12月4日、名古屋高裁で一審破棄、改めて無期懲役判決。2018年10月24日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
喜納尚吾(33)
逮 捕
 2014年5月9日
殺害人数
 1名
罪 状
 強姦致死、強姦、監禁、わいせつ目的略取、わいせつ目的略取未遂、単純逃走
事件概要
 新潟県新発田市の電気工事作業員、喜納尚吾被告は以下の事件を引き起こした。
  • 2013年8月2日午後9時半ごろ、喜納被告は新発田市内の大型商業施設の駐車場で、30歳代女性の車に突然乗り込み、刃物を突き付けて脅迫。約1km離れた道路脇まで移動させ、午後10時半ごろまで女性を監禁し、強姦した。
  • 8月3日午後10時ごろ、喜納被告は新発田市内の大型商業施設の駐車場で、10歳代女性の車に突然乗り込み、刃物を突き付けて脅迫。約1km離れた道路脇まで移動させ、午後11時ごろまで女性を監禁し、強姦した。
  • 11月22日夜、路上を歩いていた新発田市内のパート女性(当時22)刃物で脅して車で連れ去り乱暴。さらに、車外へ出た女性の顎を手や足で強打するなどして死亡させた。翌年4月7日、同市内のやぶで山菜採りの男性がパート女性の白骨化した遺体を発見した。
  • 12月6日、喜納被告は新発田市内の駐車場において強姦目的で女性の車に乗り込み、女性の首を両手で絞めるなどして脅迫。喜納被告が運転して車を発進させようとしたが女性に抵抗され、未遂に終わった。
  • 2014年6月27日午後3時15分ごろ、4番目の事件についての勾留質問中に新潟地裁1階の勾留質問室のそばの窓の鍵を開け、逃走防止柵を乗り越えて逃走。約5分後、約350m離れた新聞販売店に逃げ込んだところを駆け付けた警察官が取り押さえ、単純逃走容疑で現行犯逮捕される
 防犯カメラの映像から喜納被告が浮上し、2014年5月9日、1番目の事件で喜納被告を逮捕。5月29日、2番目の事件で喜納被告を再逮捕。6月25日、4番目の事件で再逮捕。6月27日、5番目の事件で現行犯逮捕。7月31日、3番目の事件で殺人などの容疑で再逮捕。
 喜納被告は沖縄県石垣市出身。2013年5月から新発田市内に住み、電気工事会社で作業員として勤務していた。
 2014年8月20日、新潟地検は3番目の事件について、強姦致死とわいせつ略取の罪で新潟地裁に起訴した。殺人罪適用を見送った理由について、同地検は「確実に有罪を得るのは難しいと判断した」と説明した。

 他に2013年9月21日、新発田市内の駐車場で車両4台が燃える火災があり、うち1台から同市の女性(当時24)が遺体で見つかった。また、強姦致死事件の遺体が見つかる4日前の2014年4月3日には、市内の小川で1月から行方が分からなくなっていた会社員女性(当時20)が遺体となって見つかっており、捜査本部は状況から喜納被告によるなんらかの関与があったとみて、捜査を続けている。
裁判所
 東京高裁 秋葉康弘裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年11月11日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2016年9月12日の控訴審初公判で、弁護側は、女性の死亡について、「女性の下着から検出されたDNAの型が一致しただけでは、被告が被害者に乱暴したり死なせたりした犯人だという証明にはならない。女性が死亡したいきさつは不明で、被告以外の人物の犯行を否定できない」として、改めて無罪を主張した。そして、女性の肋骨の傷の状態は強い怨念を感じさせ、女性と面識のなかった喜納被告の犯行とみられないことや、遺体発見現場は事件当時、暗闇で暴行できるような場所でないことなどを挙げ、「未解明な部分が多く存在しており、再度審理を行う必要がある」と主張した。検察側は弁護側の主張について「推認に過ぎず、科学的裏付けはない」とする答弁書を提出し、控訴棄却を求めた。
 弁護側はこうした主張を裏付けるため、女性が別の4人組の男に連れ去られたとする目撃証言や、再現実験の結果などについて、新たな証拠や証人を調べるよう求めたが、裁判所は採用せず、結審した。
 判決で秋葉裁判長は、被告のDNA型が女性の下着から検出されたことなどから「遺体の状況から、被害者は乱暴された際に殴られて動けなくなり、そのまま死亡したと推認できる」として、被告が被害者を乱暴したうえ死亡させたと認めた。
備 考
 喜納被告は沖縄県内で起こした強姦致傷事件などで2004年10月から約8年間服役した。
 2015年12月10日、新潟地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2018年3月8日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
新井茂夫(58)
逮 捕
 2014年1月15日(別件の詐欺罪で逮捕済み)
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、詐欺、詐欺未遂
事件概要
 京都市伏見区にある学習教材販売会社役員で、宇治市に住む新井茂夫被告は、同社社長で弟の新井正吾被告と共謀。同社社員の男性(当時35)に2010年11月10日、1億円の海外旅行保険をかけた。11月24日午後9時ごろ(日本時間午後10時)、フィリピンマニラ市中心部の路上で茂夫被告が男性の頭などに複数の銃弾を発射させ、死亡させた。会社は1億数千万円の負債があった。
 11月24日夜、男性の遺体が路上で発見された。男にかばんを奪われそうになり、銃撃されたとの目撃情報があり、現地警察が強盗殺人事件として捜査。府警は刑法の国外犯規定に基づき、事件の約2週間後にフィリピン政府から男性の遺体の引き渡しを受けて司法解剖し2011年と2013年、捜査員を現地に派遣した。
 男性死亡後、両被告は保険金を請求したが、保険会社は「正吾被告らが共謀して殺害した可能性がある」として拒否。両被告は2011年、支払いを求めて東京地裁に提訴し、地裁は2013年5月、〈1〉当時、会社の負債は膨れ上がり、両被告の経済状態も悪化していた〈2〉過去の社員旅行では従業員に保険をかけなかった――と認定し、「保険会社が疑問を抱くのもうなずけなくもない」としたが、「(正吾被告らが)殺害したとの十分な証拠はない」として保険会社に全額支払いを命じた。保険会社側は控訴した。
 新井正吾被告は知人女性のために健康保険証をだまし取ったなどとして、新井茂夫被告は生活保護費約120万円を不正受給したとして、2013年10~12月に逮捕、詐欺罪などで起訴された。2014年1月15日、京都府警は両被告を殺人容疑で再逮捕した。2月6日、保険金をだまし取ろうとした詐欺未遂容疑で両被告を逮捕した。
裁判所
 京都地裁 中川綾子裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年11月14日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2016年10月24日の初公判で、新井茂夫被告は「殺してなんかいません」と起訴内容を否認した。
 検察側は冒頭陳述で「新井被告は事件前に自己破産や先物取引の損失で金銭に窮していたため、保険金殺人の計画を立てた」とし、「『先物取引で利益を得たので旅費を出してやる』と言ってフィリピンに誘い、新井被告が(殺害を)実行した」と説明した。弁護側は「新井被告は生活保護の手続きを取っており、(保険金殺人の)動機がない。目撃者の供述も変遷している」と無罪を主張した。
 25日の公判で、弟の正吾被告が証人として出廷。保険金殺人などについて「身に覚えがない」と主張した。また正吾被告の一審で、新井被告から保険金殺人の話を持ちかけられたと説明したことに関し、「兄主導にしたら罪が軽くなると思った」と証言した。
 11月4日の論告求刑で検察側は、殺害前後のメール履歴や事件当日の「犯人は被害者と親しく会話する日本人風の男」という目撃証言、正吾被告の公判証言などから新井被告を「殺害の実行犯」と断定。「捜査が困難となる海外を犯行の舞台に選び、拳銃を手配した。被害者を1億円の保険に加入させた上、旅行とだまして連れ出した」と述べ、計画性の高さと犯行の巧妙さを強調。「事件で必要不可欠で重大な役割を果たした。自らの欲得のために、殺人事件の中でも最も悪質な保険金殺人を主導した」と指摘した。
 同日の最終弁論で弁護側は、正吾被告が計画や準備を単独で行った可能性に言及し、「(茂夫被告に)事件を押しつけようとしている」と共謀を否定。「被告はすでに自己破産をしており、金銭的な動機は存在しない」と反論。「仮に計画があったとしても、殺害はしていない。初めてのフィリピン旅行で、何らかの計画を立てて被害者を殺害するのは現実的ではない。目撃者の供述は変遷している」とし、新井被告が実行犯との見方を否定し、無罪を主張した。
 被告人質問では黙秘した新井被告は、この日の最終意見陳述で「私は無実。事件には一切関わっておりません」と述べ、無罪を主張した。
 判決で中川裁判長は、正吾被告が一審で「(新井被告と男性を)射殺する計画・準備をした」と証言していたことについて「重要部分で客観的証拠と整合しており、信用できる」とした。さらに、「男性は現地で親しく会話していた日本人と見られる男に殺害されたが、そのような人物は相当に限られる。被告は帰国後、執ように保険金を請求しており、保険金目的で殺害したと認められる」として実行犯と認定。「新井被告は殺害の実行という最も重要で不可欠な役割を果たし、保険金請求に主導的に関与した。犯行が発覚しにくい海外に誘い出すなど計画性が相当高く、極めて悪質」などと断じた。
備 考
 弟の新井正吾被告は2015年3月18日、京都地裁の裁判員裁判で、求刑通り一審無期懲役判決。2015年11月19日、大阪高裁で一審破棄の上、改めて無期懲役判決。一審では実行犯について、実兄の新井茂夫被告か氏名不詳の第三者と認定したが、控訴審では「実行犯は茂夫被告」として、第三者の関与を否定した。2017年2月8日、被告側上告棄却、確定。

 被告側は控訴した。2017年9月12日、大阪高裁で被告側控訴棄却。2018年4月23日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
古谷有平(24)
逮 捕
 2015年8月11日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人
事件概要
 三重県津市の無職古谷有平被告は2015年8月9日午後3時45分ごろ、出会い系アプリで知り合った住所職業不詳の中国籍の女性(当時38)と鈴鹿市白子町のホテルに入った。女性がシャワーを浴びている間に約11万6千円入りの財布が入ったショルダーバッグを物色。女性に見つかり、バッグの奪い合いになった際、室内のパイプ椅子で頭などを複数回殴って殺害した。
 古谷被告は車で宮城県へ逃走。奪ったショルダーバッグと財布を、宮城県内のリサイクルショップで10日に売却した。
 事件直後、古谷被告の軽乗用車がホテルを出て行く様子が近くの防犯カメラに映っていた。古谷被告のインターネットなどの通信履歴を調べた結果、女性とは出会い系サイトで知り合ったことが判明。宮城県警が11日早朝、同県内の東北自動車道を車で逃走中の古谷被告を道交法違反(無免許運転)容疑で現行犯逮捕したため、捜査員が出向き、殺人容疑で逮捕した。捜査本部は13日、容疑を強盗殺人に切り替え、古谷被告を津地検に送検した。
 8月27日から10月30日までの鑑定留置で津地検は刑事責任能力はあると判断し、11月4日に起訴した。
裁判所
 名古屋高裁 山口裕之裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年11月15日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 弁護側は一審同様、被告に殺意がなかったと主張したが、山口裁判長は判決理由で「危険性の非常に高い行為で、生命に対する顧慮は一切ない」と殺意を認定。「計画性はないが、動機や経緯は身勝手で、酌むべき事情はない」と述べた。
備 考
 2016年7月20日、津地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2017年3月13日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
中野翔太(21)
逮 捕
 2015年4月23日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、強盗強姦、逮捕監禁
事件概要
 住所不定、無職の中野翔太被告は、同、井出裕輝被告、千葉県船橋市のアルバイトの少女(当時18)、東京都葛飾区の鉄筋工の少年(当時16)と共謀。2015年4月19日夜、千葉市中央区の路上を歩いている船橋市の被害少女(当時18)に少女が声をかけ、井出被告が運転する車に乗せた。その後、井出被告、中野被告、少女は被害少女に車内で手足を縛るなどの暴行を加え、現金数万円が入った財布やバッグを奪った。さらに20日午前0時ごろ、芝山町の畑に連れて行き、中野被告が井出被告の指示で事前に掘っていた穴に被害少女を入れ、中野被告が土砂で生き埋めにして、窒息死させた。少女の顔には顔全体に粘着テープが巻かれ、手足は結束バンドで縛られていた。
 被害少女と少女は高校時代の同級生。被害少女は高校中退後に家を出て、アルバイトをしながら暮らしており、飲食費などを複数回、逮捕された少女に借りたことがあった。少女は友人から借りた洋服などを返さなかった被害少女に腹を立て、井出被告に相談し、事件を計画。少女は少年にも声をかけ、参加させた。井出被告は中野被告に協力をもちかけ、犯行に及んだ。井出、中野被告は被害少女と面識はなかった。また少年も、井出、中野被告と面識はなかった。
 21日になって船橋東署に「女性が埋められたという話がある」との情報が寄せられたため、事件に巻き込まれた可能性が高いとみて捜査を開始。24日未明までに、車に乗っていた東京都葛飾区の少年と船橋市の少女、中野翔太被告を監禁容疑で逮捕し、井出裕輝被告の逮捕状を取った。そして供述に基づき芝山町内の畑を捜索し、女性の遺体を発見した。同日、井出被告が出頭し逮捕された。5月13日、強盗殺人容疑で4人を再逮捕。
 6月4日、千葉地検は井出被告、中野被告を強盗殺人罪などで起訴。少女を強盗殺人などの非行内容で千葉家裁に送致した。地検は少女に「刑事処分相当」の意見を付けた。少年は共謀関係がなかったとして強盗殺人では嫌疑不十分として不起訴にし、逮捕監禁の非行内容で家裁送致した。千葉家裁は7月17日、少女について、「刑事処分を選択して成人と同様の手続きを取り、責任を自覚させることが適切」として検察官送致(逆送)した。千葉地検は24日、少女を強盗殺人などの罪で千葉地裁に起訴した。
裁判所
 千葉地裁 吉井隆平裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年11月30日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2016年11月11日の初公判で、中野翔太被告は「間違いありません」と起訴内容を認めた。
 検察側は冒頭陳述で、中野被告が穴を掘ったり女性に土砂をかけて埋めたりするなど「事件の重要な部分で自ら手を下している」と指摘し、犯行が残虐かつ計画的、動機も身勝手で理不尽と主張。芝山町の畑で「殺さないで。死にたくない」と助けを求めた女性の声が周囲に聞こえてしまうと焦り、最後に土をかぶせて埋めたのは中野被告だと指摘した。弁護側は、中野被告は井出裕輝被告の従属的立場にあり、「井出被告の指示に従った」と強調。中野被告は幼少期に両親が離婚し、祖母に育てられた成育歴なども踏まえた上で、裁判員に「被告が事件に関わった背景に目を向けてほしい」と訴えた。
 14日の第2回公判では、共犯の少年が証人出廷し、「本当に申し訳ない。被害者のことを考えながら生きていきたい」と謝罪の言葉を述べた。検察側の尋問に、少年は車内や畑で他の3人が行った暴行の様子などを証言。また、中野、井出両被告とは少女を通じて事件当日に初めて出会ったことや、そのまま監禁行為に関与することになった経緯を説明し、「何をするかも分からず不安だった」と振り返った。
 15日の第3回公判で、中野被告は、事件前から井出被告との間に主従関係があり「井出が上だった」と説明。事件前日、井出被告に「人を埋める場所はないか」と尋ねられた際は「人を殺すのだと思った。手伝えと言っているのだと思ったが、関わりたくなかった」と述べた。その後、女性を埋める畑を井出被告と下見したが「まだ完全に関わると思っておらず、はっきり断らなかった」と供述。弁護側に理由を問われると「(関与は)嫌だったが(井出被告に)言いくるめられると思い、断れなかった」と答えた。自分1人で女性を穴に引きずり入れ、生き埋めにした点については「井出に『ちょっとだけ埋めておいて』と言われ、砂をかけ始めたら女性が声を上げた。(周囲に)ばれると思い、焦って全部(砂を)かけた」とした。さらに、当時は人を埋めることが「あまり重い罪だとは思っていなかった」と述べた。
 また、検察側に井出被告との殺害方法の相談の有無を問われ、中野被告は「殺してからだと重い」として生き埋めの方が良いと意見したことを明かした。検察側は中野被告が犯行後、友人に「今の俺さ、最強だよ。人を容赦なく殺せるもん。ちゃんと痛めつけてからね」などとメールを送っていたことも指摘。メールの意味の説明を求められた中野被告は押し黙り、回答に窮する様子がみられた。
 18日の第5回公判における意見陳述で、女性の母親らが「娘がどれほど怖い思いをしたか。犯人には極刑以外望まない」と訴えた。母親は女性の幼少時の思い出などを振り返りながら「娘の成人式も、花嫁姿ももう見ることができない。全てを奪われた」と涙ながらに語った。女性の妹は「大好きなお姉ちゃんがいないことが辛い。犯人たちには一生後悔してほしい」と痛切な思いを打ち明けた。検察側の証人尋問で出廷した女性の父親は「(中野被告は)自分勝手な言い訳ばかりしているが、最終的には自ら手を下している」と糾弾した。中野被告はうつむいたまま、身じろぎもせずに訴えを聞いていた。
 また、弁護側の証人として出廷した精神鑑定医は、起訴後の精神鑑定で中野被告に軽度の精神遅滞が認められるとした一方、犯行は中野被告の性格やグループでの集団心理によるところが大きく、犯行への影響は限定的な程度にとどまるとした。
 21日の論告で検察側は、「泣きながら『殺さないで』と哀願する被害者に冷酷に土をかぶせ続けた。人間の尊厳を一顧だにせず、単なるモノとして扱ったに等しい」と犯行態様を批判。さらに「事件前に結束バンドなどを購入したり、掘った穴が埋め戻されていないか確認する念の入れようで、周到に準備していた。まれに見る凶悪事件」と主張した。また、職場の人間関係によるストレスの憂さ晴らしなどといった動機は「身勝手で理不尽。興奮や高揚感を覚え、積極的に犯行に加担した」と指摘。「犯行は計画的で残虐。被害者に落ち度はなく動機は身勝手だ」と批判した。一方、出頭して関与を認めているなどとして「死刑求刑はためらわれる」と述べた。
 遺族の代理人弁護士は意見陳述で、「殺されなければいけない理由などなかった」として死刑を求めた。
 最終弁論で弁護側は、中野被告が同罪などで起訴された無職、井出裕輝被告から女性を埋めるよう指示されたなどとして「事件の計画立案には関与しておらず従属的な立場だった」と強調。強盗殺人罪の法定刑が死刑もしくは無期懲役である根拠を「私利私欲目的を遂げるための殺人」と説明。今回の事件の原因はささいなけんかで報酬もなかったことから、「利欲目的が薄く、計画立案にも関与していない。自ら出頭し事件の真相解明につながった」と述べ、「有期刑こそ選択されるべき」と訴えた。
 中野被告は最終意見陳述で、「自分は本当に大きな過ちを犯してしまった。被害者や遺族に本当に申し訳ないと思っています」と締めくくった。
 判決で吉井裁判長は、「生きながら土中に埋められた被害者の恐怖や苦しみ、絶望や屈辱は言葉で言い尽くせるものではない」と指摘。中野被告を犯行に誘った井出裕輝被告の指示を断ると「面倒なことになる」などといった動機は「安易で身勝手」と指弾した。弁護側が主張していた中野被告の軽度精神遅滞や井出被告との力関係などについては、犯行を助長した可能性はあるとしたものの、犯行を友人にメールで誇示するなど「相当程度は犯行に能動的に関与している」と、影響は限定的なものだったとした。さらに、中野被告が自ら女性を縛ったり、女性を埋めた後に友人へ犯行を誇示するようなメールを送ったことなどから「相当程度、能動的に犯行に関与した。土砂をかぶせて殺害するなど犯行の主要部分を自ら実行し、不可欠な役割を果たしている」と、関与の深さを強調した。一方、犯行の計画に中野被告が関与していないことや、井出被告に誘われて犯行に関わった経緯などを踏まえ、「死刑をもって臨むことがやむを得ないとまではいえない」とした。
備 考
 2015年8月11日、千葉家裁(神坂尚裁判官)は少年に第1種(初等・中等)少年院への送致を決めた。相当長期処遇(2年以上)が相当としている。神坂裁判官は決定理由で「非行内容は悪質であり、被害者の苦痛も大きく遺族が峻烈な感情を持つのは無理がない」としつつ「追随的な関与だったことを考慮すると、刑事処分を科すのは相当ではない」と指摘。「規範意識が欠如しているが、年齢や保護者らによる監護状況を考慮すると、長期にわたって施設に収容し、規律ある集団生活を通じて更生を図る余地はある」と述べた。控訴せず確定。
 被告側は控訴した。2017年6月8日、東京高裁で被告側控訴棄却。2017年10月10日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
喜田勝義(39)
逮 捕
 2015年6月8日
殺害人数
 2名
罪 状
 殺人
事件概要
 香川県土庄町(小豆島)の無職、喜田勝義被告は2015年4月30日未明、同町内の水道工事会社事務所兼自宅に住む社長の父親(当時65)と母親(当時63)の頭を金づちなどで数回殴り、殺害した。当初は父親の財布や携帯電話など3点(計11,200円相当)を奪ったとされた。
 勝義被告は地元高校卒業後、自衛隊に入隊。除隊後県内に戻り、職を転々とした。数年前に父親が勝義被告を呼び戻し、会社を手伝わせたが辞め、町内のサッシ会社に転職。事件の2か月前に退職していた。勝義被告は両親の住居から約3km離れたアパートで1人暮らしをしていたが、実家にも出入りをしていた。家賃が払えないなど、金に困っていた。
 周辺の聞き込み捜査などで、両親と言い争いが絶えなかったという勝義被告が浮上し、香川県警と小豆署が6月8日朝、任意同行。容疑を認めたため、強盗殺人容疑で逮捕した。
 6月23日、高松地検は高松簡裁に、刑事責任能力の有無を判断するため鑑定留置を請求し、即日認められた。刑事責任能力を問えると判断し、高松地検は9月18日、証拠関係などから強盗目的までは認められなかったとして、殺人罪で勝義被告を起訴した。
裁判所
 高松地裁 野村賢裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年12月2日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2016年11月22日の初公判で、喜田勝義被告は「間違いありません」と起訴内容を認めた。
 検察側は動機について、喜田被告が2012年夏、妹との間でトラブルになった。両親に繰り返し相談したが、「妹と縁を切れ」と言われて恨み、幼少期から厳しくされた恨みも重なって犯行に及んだ、と述べた。そして、「発達障害の影響は限定的で、物取りに見せかけるなど犯行は悪質」と指摘した。弁護側は「発達障害が犯行に大きな影響を与えた」と主張した。起訴内容に争いはなく、量刑が争点となった。
 同日、検察側の証人尋問に臨んだ妹は「(喜田被告は)自分のしたことの重大性を理解しておらず、今後も同じことを繰り返すと思う」として厳しい刑を求めた。
 11月29日の論告に先立ち、喜田被告の妹が弁護士を通じて意見陳述し、「今でも、両親の姿を探してしまう自分がいる。被告人には死をもって償ってほしい」と話した。
 検察側は、「発達障害は資質特性であり、刑事責任を左右するものではない。下見をして両親の寝込みを襲う、計画性がある残虐な犯行で、動機も自己中心的であり、結果は重大」と指摘した。
 同日の最終弁論で弁護側は、発達障害の特徴として極端な思考などを挙げ、それらが犯行に影響を与えたとして「殺意を抱き、計画実現へ強いこだわりを持って殺害したのは障害の影響が大きい。本人は反省の態度を見せている」として、懲役22年が相当と訴えた。
 喜田被告は最終陳述で「殺害を実行したのは大きな過ち。親族や関係者に多大なご迷惑をおかけしたことをおわび申し上げる。刑務所で障害の治療を受けたい」と述べた。
 判決で野村賢裁判長は「殺害後、強盗による犯行のように偽装している。発達障害は犯行に影響したとはいえない」と発達障害の影響を否定。ただし、「極度の執着などがあり、殺害の決意に発達障害が影響していたことは否定できない」と指摘した。そして、「長年にわたり、父親に対しては、自分を理不尽に扱っていると憎悪の念を持ち、母親には自分を父親から守ってくれないという気持ちを抱いていた」などと動機を指摘。「就寝中で無防備な両親の急所を確実に攻撃しており、極めて残虐で卑劣といえる」と述べた。
備 考
 被告側は控訴した。2017年4月11日、高松高裁で被告側控訴棄却。2017年7月19日、最高裁第二小法廷で被告側上告棄却、確定。

氏 名
笠原真也(23)
逮 捕
 2014年11月11日
殺害人数
 2名
罪 状
 殺人、強姦未遂、住居侵入、銃刀法違反
事件概要
 岐阜県関市の無職、笠原真也被告は2014年11月11日午前、女性を襲おうと思って自宅近くのホームセンターで包丁を買い、粘着テープも用意してうろついていたら、自宅から約1km離れた民家の洗濯物に地元女子中学校の女子用ジャージーを見つけたため、午前11時55分ごろ、強姦しようと侵入。家にいた男性(当時81)と妻(当時73)に見つかったため、二人の首を刺して殺害した。さらに、体調不良で早退していた女子中学生の孫娘に包丁を突き付け、2階に上がれなどと脅したが、孫娘は振り切って外へ逃げた。隣家に入り、110番通報。笠原被告は逃走し、自宅に帰って血の付いた服を着替えた後、自宅から北に700mの100円ショップに自転車で向かった。12時10分ごろ、通行人から「刃物を持った男が自転車に乗っている」と110番があり、県警が捜索した。12時35分ごろ、捜査員が100円ショップ近くの河川敷で笠原被告を発見し、殺人未遂容疑で逮捕した。その後、殺人容疑で再逮捕した。
 笠原被告は父親と2人暮らしで、中学卒業後は働いていなかった。
 岐阜地検は11月27日から2015年3月2日まで笠原被告を鑑定留置し、精神鑑定を実施。刑事責任能力があると判断し、3月6日、起訴した。
裁判所
 岐阜地裁 鈴木芳胤裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2016年12月14日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2016年11月29日の初公判で、笠原真也被告は起訴事実を認めた。
 検察側は冒頭陳述で、笠原被告が男性の首などを少なくとも7回、妻の首を少なくとも3回刺したと指摘した。そして、「性的暴行を遂行するために邪魔な人を排除する目的で殺害に及び、計画的で強い殺意があった。面識のない相手に対する手当たり次第の犯行は悪質。精神鑑定で障害は認められたが、犯行への影響は小さく、遺族の処罰感情も強い」などと主張。笠原被告が、男性方に侵入する前に別の家を物色していたとも述べた。弁護側は、「精神障害が事件に影響しており、刑事責任能力は限定的。犯行は計画的なものではない」などと刑の減軽を求める姿勢を示した。
 この日、孫娘は調書で「包丁で脅されて怖い思いをした。祖父母ともう話せないと思うと悲しい。(被告には)二度と私の前に現れないでほしいし、できるだけ長く刑務所にいてもらいたい」と訴えた。
 30日の公判における被告人質問で笠原被告は、逮捕直後の調べに「もっと人を殺せば死刑になれるので100円ショップで人を殺そうと思った」との趣旨の話をしたと認めつつ「あれはうそです」と述べた。そして、「100円ショップに向かったのは、店にいる女性に触れ、自分の特殊な性欲を満たすため」と述べた。虚偽の説明をした理由は「特殊な性欲のことを話したくなかった」と答えた。一方、夫妻方に侵入した動機は「女性に乱暴するため」と答えた。検察側が法廷での発言の矛盾を指摘すると「自分でもうそを言った理由は分からない」と話した。
 精神鑑定で笠原被告は、女性の脚に執着を示す「フェティシズム障害」と医師に診断された。
 12月6日、夫妻の長男が意見陳述し「裁判が始まるまで(被告)本人から謝罪はなく、本当に反省しているのか疑問。最後の親孝行ができる判決を」と極刑を求めた。
 同日、論告で検察側は、精神鑑定結果について「欲を満たしたいという動機の形成には影響したが、殺人という手段を選んだのは被告人の個性や資質によるもので、被告自身の判断で行った。被告の精神障害の影響は小さく、被告人に対する非難を軽減させるものではない」と指摘した。そして、「被告は人を殺してでもわいせつの目的を遂げたいという自己中心的な思考を持ち、生命軽視の態度も顕著。2人を殺害したという結果も重大である。更生の可能性は皆無とは言わないが、抽象的な可能性に過ぎない」と指摘。被害者や遺族はいわれもない苦痛や恐怖、不幸を味わわされたとして「許されることはなく、最も重い刑に値する」と述べた。
 同日の最終弁論で弁護側は、「性欲の解消ではなく精神障害による苦痛からの解放が動機。精神障害は本人に非がない」と主張し「反省しており矯正の可能性は十分にある」と死刑回避を訴えた
 判決で鈴木裁判長は、「2人の尊い命が奪われており、結果は重大。牛刀で首を刺すなど、強固な殺意による犯行。孫の成長を楽しみにしていた被害者の無念は想像するに余りある。遺族が厳しい処罰感情を述べるのは当然」と指摘。一方で精神障害について「殺人を選択したことへの影響はないが、性的欲求を満たしたいという動機に影響し、単なる身勝手な欲求と切り捨てることはできない」と指摘した。殺人に至った背景にも「事件の背景に精神障害に基づく不安の増大があった可能性を否定できない。反省は十分でないが、事実を認め謝罪している。刑事責任は重大だが、死刑を選択するのがやむを得ないとまでは認められない」と述べ、死刑を回避した。
備 考
 控訴せず確定。

氏 名
大槻一亮(27)
逮 捕
 2015年6月25日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、死体遺棄、詐欺
事件概要
 山形県上山市の無職大槻一亮(かずま)被告は、友人である山形市の派遣社員O被告、同誌の無職H被告と共謀。2014年10月29日、山形市の職業不詳の男性Sさん(当時29)を山形市の山林に連れ出し、首の辺りをナイフのようなもので刺すなどして殺害し、遺体を埋めた。そして、大槻被告とO被告は10月31日~11月7日、奪った財布に入っていたパチンコ店の会員カード約10枚を使い、53万円相当の景品をだまし取った。
 Sさんと3被告はパチンコを通じた仲間で、Sさんは打つ台などを指示するリーダー格であり、3人と金銭トラブルがあった。
 遺体は2015年6月25日に発見され、捜査本部は同日、死体遺棄容疑で3被告を逮捕した。7月16日、強盗殺人容疑で再逮捕した。
裁判所
 山形地裁 寺沢真由美裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年12月14日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2016年11月30日の初公判で、大槻被告は「殺害した目的は金品を奪うためではなかった」などと述べ、起訴内容を一部否認した。
 検察側は冒頭陳述で「殺害を実行するなど、最も重要な役割を果たした。犯行は悪質で結果も悲惨で重大」と指摘した。動機については、大槻被告が金に困っており、Sさんと金銭トラブルを抱えていたなどとした。
 弁護側は「殺害後に財布を回収したのは金を奪い取る目的ではなく、犯行の発覚を防ぐためだった」と主張。また、死体遺棄についても、「死体だという認識はなかった」とした。
 12月1日の公判で、H被告が証人として出廷し、犯行発覚を恐れて「カードは換金しない方が良い」と大槻被告に進言したが、聞き入れられなかったと証言。換金した金の使い道について「(大槻被告が)『引っ越し費用に充てる』と話していた」と述べた。
 2日の公判でO被告が証人として出廷し、「事件前、大槻被告から『(男性を)殺害して埋めるための穴を掘りに行く』と声をかけられた」と証言した。「埋めても見つかってしまう」と大槻被告に指摘したのに、「ちゃんと埋めれば見つからない」と言われたと証言。男性の左胸に血がべっとりとついていたため、「(大槻被告は男性の)死亡を認識できたはず」と主張した。
 5日の公判における被告人質問で、大槻被告は「(男性を)バットで殴った後、身動きしなくなったので、感覚的に『殺してしまったかな』と思ったが、毛布をかぶせてから埋めたので、(最終的に)死亡していたかどうかははっきり覚えていない」と語った。被害者参加制度を利用して出廷した遺族から「(事件発覚前に)遺族と接触しようとしたのはなぜか」と問われると、大槻被告は「(男性から)ひどい目に遭わされたことを伝え、さらにパチンコで未払いになっていた金を請求したかったから」と述べた。
 8日の論告で検察側は、「被告は事前に、『男性を殺してパチンコ会員カードを奪い、換金して現金を手に入れる』という具体的な犯行計画を立てていた」と指摘。一連の犯行で得た現金のほとんどを被告が自分のものにしたと主張し、「金品目的で殺害する動機があった。殺害行為を1人で行うなど、事件で最も重要な役割を果たした」と訴えた。
 同日の最終弁論で弁護側は、「殺害した理由は、男性から奴隷のような扱いを受けていた(共犯とされる)友人への同情や怒りから。財布を取ったのは犯行発覚を防ぐためだ。被害者の預貯金などに手を付けようともしていない」と強盗殺人は成立しないと説明。「遺族に謝罪の手紙を書くなど反省している」として、「有期刑が妥当」と述べた。
 判決で寺沢裁判長は主犯と認定し、「被告は被害者の殺害を担当し、犯行で得た現金のほとんどを得た。計画性が高く、殺意も強固で残忍。最も重要な役割を果たし、共犯者と比べ刑事責任は格段に重い。財産的な被害も考慮すると結果は重大だ」と述べた。弁護側は「Sさんにパチンコを巡り支払う義務のない金を請求され、恨みや怒りがあった」としていたが、寺沢裁判長は「殺害が正当化されるほどの事情とはいえない」と指摘した。
備 考
 O被告は死体遺棄と詐欺容疑は認めるも強盗殺人については無罪を主張したが、2016年8月5日、山形地裁(寺沢真由美裁判長)の裁判員裁判で共同正犯を認定され、懲役25年(求刑懲役30年)判決。O被告は即時控訴した。
 H被告は強盗殺人、死体遺棄に関与していないと無罪を主張したが、2016年10月31日、山形地裁(寺沢真由美裁判長)の裁判員裁判で、懲役26年(求刑懲役30年)判決。H被告は控訴した。
 被告側は控訴した。2017年5月11日、仙台高裁で被告側控訴棄却。2017年9月19日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
葉山輝雄(47)
逮 捕
 2012年8月3日
殺害人数
 2名
罪 状
 強盗殺人、住居侵入
事件概要
 鹿児島県枕崎市出身で守山区の建築作業員の葉山輝雄被告は、仕事仲間だった守山区の無職の堀慶末被告、名古屋市守山区の無職佐藤浩受刑者と共謀。1998年6月28日午後4時半ごろ、愛知県碧南市に住むパチンコ店運営会社営業部長で、店の責任者である男性(当時45)宅に押し入った。家にいた妻(当時36)を脅して家に居座り、ビールやつまみを出させた。家にいた長男(当時8)と次男(当時6)が就寝し、翌日午前1時ごろに夫が帰宅後に夫と妻を殺害、現金60,000円などを奪った。長男と次男にけがはなかった。
 3人は夫婦の遺体を男性の車に乗せ、愛知県高浜市で遺棄した後、葉山輝雄被告の車で同県尾張旭市のパチンコ店に行き、通用口から侵入しようとした。通用口には鍵のほかに防犯装置が設置されており、堀被告らは解除方法が分からず、最終的に侵入を断念した。
 7月4日、愛知県高浜市で路上に放置されていた車のトランクから、二人の遺体が見つかった。
 堀被告は当時塗装業など建築関係の仕事で生計を立てていた。営業は順調にいかず、仕事の依頼がほとんど無かったため、約300万~400万円の借金があった。堀被告は当時の仕事仲間であった二人を誘い、事件を計画。堀被告は行きつけのパチンコ店の責任者だった男性から店の鍵を奪うため、自ら尾行するなどして、男性は店の寮に住み込み、定休日の月曜に合わせて週に1度、寮から自宅に帰っていたことや、自宅の住所を割り出していた。
 碧南事件の捜査は、指紋などの物証に乏しく、難航した。
 殺人罪の時効撤廃を受け2011年4月に発足した愛知県警捜査1課の未解決事件専従捜査班は夏、冷凍保存されていたつまみの食べ残しに付いた唾液から、当時の科学技術では困難だったDNA採取に不完全ながらも成功。警察庁のデータベースに照会し、堀被告のDNAと同一である可能性を突き止めた。特命係は堀被告の当時の交友関係を再度洗い直し、同じ建築関係の仕事仲間だった佐藤浩被告と葉山輝雄被告を特定。さらに、佐藤被告についても現場に残された唾液から酷似したDNAを検出した。県警は2012年8月3日、堀被告ら3人を逮捕した。佐藤浩被告は別の事件で懲役刑が確定し、服役中だった。24日、名古屋地検は3人を起訴した。
 碧南事件後、小学生の2人の息子は母方のおばに引き取られ、愛知県から関東地方に引っ越した。しかし2011年、未成年後見人だったおばが、兄弟に残された遺産数千万円を使い込んでいたことが発覚した。
裁判所
 名古屋高裁 村山浩昭裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年12月19日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2016年10月19日の控訴審初公判で、弁護側は、「検察は夫婦殺害への被告の関与を立証できていない。仮に有罪だとしても無期懲役は重すぎる」と主張。夫婦の殺害に関与していないなどとして、一審判決には事実誤認があると主張した。
 判決で村山裁判長は「共犯とされる男らの証言は具体的で信用できる」と共謀を認定。その上で「従属的だったことや軽度の知的障害があることを考慮しても無期懲役を選択せざるを得ない」と述べた。
備 考
 共犯の堀慶末被告は2015年12月15日、名古屋地裁(景山太郎裁判長)で求刑通り死刑判決。2016年11月8日、名古屋高裁(山口裕之裁判長)で被告側控訴棄却。被告側上告中。
 共犯の佐藤浩被告は2016年2月5日、名古屋地裁(景山太郎裁判長)で求刑死刑に対し一審無期懲役判決。控訴せず確定。

 2016年3月25日、名古屋地裁の裁判員裁判で、求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2018年6月20日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
中野翔太(33)
逮 捕
 2015年9月12日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、住居侵入、占有離脱物横領
事件概要
 埼玉県警浦和署地域課の巡査部長、中野翔太被告は2015年9月3日午後2時5分ごろ、無施錠の掃き出し窓から、窃盗目的で朝霞市に住む男性(当時58)方に侵入。男性が在宅していたため、殺害して現金を奪おうと、男性の首を縄のようなもので絞めて窒息死させ、現金約121万6千円と記念硬貨123枚(64万7500円相当)を奪った。
 中野被告は朝霞署に勤務していた2014年10月、自宅で死亡した男性の父の遺体を調べるため、他の署員と共に男性宅を訪れ、居間に置かれた金庫の場所を把握していた。
 他に中野被告は7月28日午後、孤独死したとみられるさいたま市南区の男性(84)方を検視で訪れた際、男性名義のキャッシュカード2枚や鍵など13点を持ち去った。
 中野被告は2002年に警察官になった。刑事部門が長く、2011年3月には、県警本部捜査1課の刑事に抜擢されている。捜査で知り合った女性と2014年6月から不倫関係になった。アパートを借りて生活費を負担したが、2015年4月から家賃を滞納するなど困窮するようになった。県警は2015年3月、女性との不適切交際を理由に中野被告を処分し、朝霞署から浦和署に異動させている。中野被告は武蔵浦和駅前交番で勤務していた。
 中野被告は3日は泊まり明けの非番で、4日から10日まで休暇を取っていた。事件後、不倫関係だった女性の賃貸住宅の滞納家賃を払い、7日~10日は沖縄へ旅行に行っていた。
 男性方のインターホンのカメラに中野被告と似た人物が映っていたことや、同じ日に中野被告が使っている乗用車が男性方の近くに止まっているのが目撃されていたことから、中野被告が浮上した。男性方に残された遺留物のDNA型が同容疑者のものと一致したため、容疑が強まった。県警は9月11日午後、中野被告に任意同行を求めて事情聴取。12日、殺人と住居侵入の疑いで中野被告を逮捕。さいたま地検は10月2日、中野被告を強盗殺人と住居侵入の罪でさいたま地裁に起訴した。県警は同日、中野被告を懲戒免職処分とした。
裁判所
 さいたま地裁 佐々木直人裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年12月20日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2016年11月28日の初公判で、中野被告は「ロープで首を絞めたのは間違いないが、大声を止めようとしただけ。殺害して現金を取ろうとしたのではありません」などと起訴内容を一部否認した。
 冒頭陳述で検察側は、中野被告は捜査で知り合った女性と2014年6月から不倫関係になったと述べた。そしてアパートを借りて生活費を負担したが、2015年4月から家賃を滞納するなど困窮。クレジットカードでカネを借り、8月下旬には管理会社から退去警告を受け「9月4日に支払う」と約束していた。そして犯行動機について、「不倫相手だった女性のアパートの家賃や生活費、旅行費用など、金を工面する必要に強く迫られていた」と指摘。警察官として以前に職務上知り得た情報を悪用して男性方に侵入したとし、「警察官という素性がばれており、犯行の発覚を防ぐためには殺すしかなかった。首をロープで絞める強固な犯意に基づく犯行」と強調した。殺害後には滞納家賃を支払い、女性と沖縄旅行。公判では女性の子供がDNA鑑定で父親が別と判明、関係解消を図ったが「職場に行って全部話す」と言われ続いたことも明かされた。
 弁護側は「強盗の故意も殺意もなかった」として、傷害致死罪と窃盗罪の成立を主張。「男性が大声を出し続けたので、近隣から通報されることを恐れ、とっさに声を止めようとした」と主張。中野被告が男性の首を絞めた際、「絞め続けたら危ない」と手を緩めたとし、「絞めたのは20秒と感じる程度」と述べた。脈などを確認して、男性が気を失っていると思い、金庫から現金入りの封筒を取り、近くにあった硬貨の入った缶をカバンに入れたと主張。男性の死亡は「重いアルコール依存症が影響した可能性がある」と訴えた。中野被告が不倫相手の生活費の支払いに窮していたとする検察側の指摘に対して、弁護側は「共済積立金や貯蓄型の生命保険から借りることができる金額があった」と反論。盗んだ現金は約121万円ではなく、約102万円だったとした。占有離脱物横領罪についても、弁護側は「「気付かずにバッグに入れてしまい、自分のものにしようとしたのではない。誤って持ち出してしまった」と無罪を主張した。
 12月1日の公判では、不倫相手の女性が出廷し、「離婚したと思っていた」と証言。女性と不倫をしている事実が妻に発覚した14年10月以降、中野被告は度々、「(妻と)やり直したい」「(女性から)『別れるなら職場に言う』と脅されてどうしたらいいか分からない」と妻にこぼしていたという。一方、女性と中野被告の無料通信アプリ「LINE」のやりとりから、中野被告が「絶対離婚する」「(女性を)幸せにしてあげたい」と送っていたことも明らかになるとともに、約41万円の指輪も購入していた。検察側から中野被告の家庭状況について問われると、「奥さんと話し合って離婚届を提出したと言われたので、昨年7月ごろには離婚したと思っていた」と証言した。尋問に先だち、中野被告から金を無心されるたびに、5000~1万円程度を渡していたという妻の供述調書が読み上げられた。
 5日の公判における被告人質問で、中野被告は不倫相手の女性と関係を続けた理由について「(女性に)脅されて別れられなかった」と供述した。LINEのやり取りについては、「妻と離婚したとは言っていない。女性の機嫌を取るためだった」などと反論した。同日の証人尋問では中野被告の姉が出廷し、「今後、翔太に対して何ができるか考えている所ではあるが、家族として、姉としてできる限りのサポートをしていきたい」と話した。
 6日に行われた証人尋問で解剖担当医は、中野被告が20秒程度絞めたと述べたことについて、「20秒では一般論で死ぬことはない」と証言した。中野被告も被告人質問で20秒より長かった可能性を認めた。
 7日の被告人質問で中野被告は「男性が死んだとは全く思わなかった」と改めて殺意を否認。弁護側に男性宅を狙った理由を問われると、「金庫から封筒が見えたことを思い出し、隙を見て金を取れると思った」と供述。発覚を恐れなかったのかという問いに対しては、「私は警察官なので、(自分が取ったとは)気付かれないのではと考えた」と述べた。首を絞めた理由について、中野被告は「怒鳴り出したので近所に通報されると思い、声を止めようとした。頭に血が上り、パニック状態だった」と述べた。首を絞める行為の危険性について、「当時、分からなかった。首の脈はあったし、意識を失っただけだと思った」と反論。犯行前には、金庫が置かれた部屋にある仏壇に手を合わせたという。中野被告は「触った痕跡を残さないようにした」と、男性方を出る直前には仏壇前の着火ライターなどを持ち去り捨てていたことを明らかにした。中野被告は、男性が死亡したことはインターネットのニュースで知ったとし、「なぜ死んでしまったのだろうと思った。自分が原因だとしたら、信じられないという気持ちだった」と繰り返した。しかし、弁護側が短時間と主張している首を絞めた時間について「長い可能性は否定できない」などと曖昧な供述に終始した。
 8日の論告で検察側は、男性の首の軟骨が折れ、巻き付いたものを外そうとしたとみられる傷が首にあったと指摘。「相当の力と長さで首を絞めており、被告が危険性を認識していたのは明らか。強固な殺意があった」と指摘。弁護側の主張に対して、「声を聞いた人は近所にいない」と反論した。事件前に中野被告が不倫相手と旅行の約束をし、この女性が住むアパートの家賃や光熱費を滞納していたことから「金を工面する必要に強く迫られていた」と動機を主張した。事件直後には男性方から現金などを奪って費消していることから、「予定通りの行動で、強盗殺人罪が成立する」とした。また、検察側は「職務上知り得た情報を悪用しての犯行で、強い非難に値する」と断じた。
 同日の最終弁論で弁護側は、中野被告が首を絞めた時間を20秒程度と話していることなどを踏まえ、「人を死亡させる危険性が高いといえる時間絞め続けたという立証はない。男性の持病が死に影響している可能性がある」と反論。首を絞めたのは男性の声を止めようとしたとっさの行動だったとして、強盗殺人罪ではなく、傷害致死と窃盗罪が相当とした。占有離脱物横領罪については、「自分の物にしようとして持ち出したのではない」と改めて無罪を主張した。
 中野被告は最終意見陳述で「私ができる限り、一つ一つ確実に罪を償っていきたい。男性のことは今後片時も忘れることなく、心からご冥福をお祈りしたい。本当に申し訳ありませんでした」と裁判長に向かって一礼した。
 判決で佐々木裁判長は、男性の首の軟骨が骨折していることや顔のうっ血などから、「力が弱いものであったことを示すものはない」とし、「強度や継続時間から殺意を有していた」と認定した。弁護側主張については、「医学的知見に基づかない抽象的なもので、解剖所見とも矛盾する」とした。首を絞めた理由についても、「(男性の)声を止める目的で、縄状のもので首を絞めるのは考えにくく、供述は不自然」と主張を退けた。一方、犯行動機については、不倫相手の家賃40万円の滞納や光熱費、旅行代の支払いなどに触れ、「金を用意する必要があり、強盗殺人の動機になる事情」と指摘。中野被告が以前、男性方に検視業務で訪れていることなどから、「警察官であることを知られていた」として、「犯行が発覚するのを防ぐため、殺害する必要があったとみるのが自然」と述べた。「死亡するとは全く考えていなかった」と公判で述べたことも含め中野被告の供述について、佐々木裁判長は「不合理な弁解に終始している」と断じた。そして、「警察官としての業務で知り得た情報を犯行で利用しており、強盗殺人の中でも責任非難の程度は強い。不合理な弁解に終始し反省がうかがえない」と述べた。追起訴された占有離脱物横領罪についても有罪と認定した。
備 考
 さいたま市交通防犯課は、秋の全国交通安全運動(9月21~30日)の開始を前に、同市浦和区のさいたま市民会館うらわなどで17日に行われる「さいたま市交通安全出発式」における女優の一日署長や県警音楽隊などによるパレード、駅前キャンペーンを中止した。
 埼玉県警は2015年11月10日、本部各課や県内39署などに、モラルや能力の高い若手県警職員の育成を目的とする「絆プロジェクト」に県警全体で取り組むよう通達した。プロジェクトは、若手職員が抱える仕事の問題や、私生活の悩みを上司や同僚が把握して解決を手助けし、仕事に専念できる環境を作り上げることで、不祥事を減らし、県民の信頼を取り戻すことを目的としている。具体的には、職場や県警全体で本人が相談しやすい体制を作る一方、家族用の相談窓口を設け、家族とも連携を図ることにした。職員の仕事や私生活について家族の悩みを迅速に解決できるよう、県警厚生課や委託弁護士への家族専用相談電話を設置。家族に仕事内容を理解してもらい、職員の私生活の悩みを減らそうと、長期勤続や優秀者の表彰に家族を、県警本部長名で招待することにした。
 一審判決後、埼玉県警の佐伯保忠首席監察官は「改めて被害者、ご遺族に深くお詫び申し上げます。判決を厳粛に受け止め、県民の信頼回復に向けて取り組んでまいります」とのコメントを出した。
 被告側は控訴した。2017年7月12日、東京高裁で被告側控訴棄却。2018年10月2日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
東屋仁(56)
逮 捕
 2015年9月6日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、銃刀法違反
事件概要
 秋田県鹿角市の清掃会社パート従業員、東屋仁被告は2015年9月5日、金品を奪う目的で乗客を装ってタクシーに乗車し、午後9時10分ごろ、鹿角市花輪の道の駅駐車場に止めた車内で、運転手の男性(当時66)の首付近に小刀を突きつけて脅迫。抵抗した男性の胸や腹などを複数回刺した上、倒れた男性を自分の車でひいて殺害した。
 午後10時15分頃、駐車場利用者が見つけ、110番した。ドライブレコーダーの車内映像から東屋被告が浮上。県警鹿角署捜査本部は6日、強盗殺人容疑で東屋被告を逮捕した。
裁判所
 秋田地裁 三浦隆昭裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2016年12月20日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2016年12月6日の初公判で、東屋仁被告は「強盗目的ではありません。刃物を使った犯行であることは認めます」と起訴事実を一部否認した。
 検察側は冒頭陳述で、「生活費がなくなったことから強盗を行い、殺意を持って被害者を刃物で複数回突き刺し、車でひき殺して逃げた」と指摘。「車でひいた点は殺意の強さや殺害態様の残忍さを示す重要な事実」と述べた。これに対し、弁護側は「被告には発達障害があり、刃物を使った簡単な事件を起こせば、退職届を受け付けてくれない会社を辞められると考えた」と主張。「被害者の強い抵抗に遭い、結果的に殺人事件に発展したが、実際にはお金を取っておらず、強盗目的ではない。本人には被害者を車でひいたという認識もなかった」と反論した。
 7日の公判における被告人質問で、事件当時、手持ちの所持金が「500円に満たなかった」と語った。そして、消費者金融から借金ができない状態だったとした一方で、「(事件の)翌日に同僚から借りるつもりだった」とも述べた。弁護側からの質問には、「金に困っているという感覚はなかった」と話した。東屋被告は実際に事件翌日に職場で同僚から1万円を借りている。
 8日の公判において、被害者の妻の供述調書が読み上げられ、「会社をやめるための犯行で、殺すつもりはなかったという被告の説明は全く納得できず、絶対に許せない。死刑にしてください」と述べた。
 9日の公判で、検察側は車載カメラの映像や凶器の準備状況、犯行当時の被告の所持金などから生活費欲しさの強盗目的の犯行と改めて主張した。また、車でひいたことについては「無抵抗で瀕死の人にとどめを刺す、極めて残忍な態様だ」と指摘した。その上で「強固な殺意に基づくきわめて残忍な対応。周到に計画された犯行で動機や経緯に酌むべき事情はない」と述べた。
 同日の最終弁論で弁護側は、「被告は『金を出せ』など金を要求する言葉を一切発していない上、タクシー内からは一銭もお金を取ってはいない」と強盗目的ではないと主張し、懲役14年が相当と訴えた。
 東屋被告は最終意見陳述で「男性を殺したことは事実です。幸せな生活を破綻させた責任は十分感じています」と謝罪した。
 判決で三浦裁判長は、マスクや軍手、逃走用の車の準備状況などから、「自らが犯人であると特定されないように慎重に準備して行動している」と指摘。また、消費者金融に借金があったことなどを指摘し「その日の生活にも困窮する状態で、強盗の動機は十分にあった」と認定。「激しいもみ合いになって金を奪う余裕がなかったにすぎない」と結論付けた。一方、車でわざとひいたかどうかについて、三浦裁判長は、東屋被告の車が男性をひいた際に、2回上下に大きく揺れてもブレーキをかけずに進行したことなどを挙げ、「被害者をひこうとして車を走行させたと認めることができる」と指摘した。そして、「動機は身勝手で、酌量の余地はない」と述べた。
備 考
 被告側は控訴した。2017年6月1日、仙台高裁秋田支部で被告側控訴棄却。2017年11月1日、被告側上告棄却、確定。




※最高裁は「判決」ではなくて「決定」がほとんどですが、纏める都合上、「判決」で統一しています。

※高裁判決
 小濱秀治被告(2014年3月26日、一審無期懲役判決)は、2016年5月13日に東京高裁で被告側控訴が棄却されている。確証が無いのでここに記す。

※公訴棄却
 1997年11月26日に佐賀県武雄市で女性看護師(当時23)が殺害され、長野県の山中で遺体が見つかった事件で、1999年3月23日に佐賀地裁で求刑通り無期懲役判決を受けた男性被告(事件当時21)が、控訴後の1999年5月21日に福岡拘置所で首吊り自殺を図り、意識不明となった。福岡高裁は2000年6月、被告が出頭できないとして公判停止を決定。2015年12月、被告は病院で死亡した(39歳没)。福岡高裁は2016年1月15日付で公訴棄却を決定した。

※銃刀法
 正式名称は「銃砲刀剣類所持等取締法」

※麻薬特例法
 正式名称は「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」

※入管難民法
 正式名称は「出入国管理及び難民認定法」



【参考資料】
 新聞記事各種



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