無期懲役判決リスト 2021年





 2021年に地裁、高裁、最高裁で無期懲役の判決(決定)が出た事件のリストです。目的は死刑判決との差を見るためです。
 新聞記事から拾っていますので、判決を見落とす可能性があります。お気づきの点がありましたら、日記コメントなどでご連絡いただけると幸いです(判決から7日経っても更新されなかった場合は、見落としている可能性が高いです)。
 控訴、上告したかどうかについては、新聞に出ることはほとんどないためわかりません。わかったケースのみ、リストに付け加えていきます。
 判決の確定が判明した被告については、背景色を変えています(控訴、上告後の確定も含む)。

What's New! 5月19日、最高裁は武井北斗被告の一・二審無期懲役判決(求刑死刑)に対する被告側上告を棄却した。刑が確定する。



地裁判決(うち求刑死刑)
高裁判決(うち求刑死刑)
最高裁判決(うち求刑死刑)
9(1)
4(2)
2(2)

【最新判決】

氏 名
武井北斗(27)
逮 捕
 2018年2月10日
殺害人数
 2名
罪 状
 強盗殺人、強盗致死、強盗致傷、建造物侵入、窃盗、窃盗未遂、詐欺
事件概要
 神奈川県厚木市の無職武井北斗被告は以下の事件を起こした。
  1.  武井北斗被告は山梨県甲斐市のアルバイト、K被告と共謀。金品を奪う目的で2016年8月17日午後10時15分ごろ、甲府市に住む一人暮らしの会社役員の男性(当時73)方の掃き出し窓を割って侵入し、男性の首や腹部に暴行を加えて腹腔内出血に伴う出血性ショックで死亡させた。さらに警報装置が作動して駆けつけた警備員の男性(当時34)を凶器で殴って2週間のけがをさせた。武井被告とK被告は甲府市内の小学校の同級生だった。
  2.  武井被告、K被告、静岡県御殿場市のクレーンオペレーターY被告、山梨県甲斐市の建設作業員N被告は2016年11月20日午後11時半ごろ、甲府市内のガソリンスタンドの事務所に侵入し、売上金など現金13万8千円が入った耐火金庫1台(1,000円相当)を盗んだ。
  3.  武井被告、K被告、Y被告、N被告は2016年11月21日午前1時55分ごろ、同市内の車両整備会社の事務所に侵入し、金庫をこじ開けようとして失敗した。
  4.  武井被告は、Y被告、甲府市の土木作業員W被告、N被告と共謀。山梨県昭和町の貴金属買取店の金品を奪おうと計画した。
     2016年11月26日午後9時ごろ、甲州市に住む貴金属買取店店長の男性(当時36)宅に武井被告、Y被告、W被告が2階の窓や玄関から侵入して待ち伏せ。N被告が会社から帰宅する男性を尾行。帰宅した男性の頭や胸などを棒状の物で強打して殺害し、店の鍵1束と乗用車1台(約503,000円相当)などを奪った。27日未明、長野県南佐久郡南牧村の畑で男性の遺体を畑の所有者の重機を使い、遺体を埋めた。さらに4被告は27日午前3時ごろ、男性が店長を務めていた昭和町の貴金属買取店に侵入。商品の貴金属を奪おうとしたが、警備システムが働いて警備員が駆け付けたため、何も取らずに逃走した。
     武井被告は少年のころ、この貴金属買取店に盗品を持ちこみ、通報されて検挙されたため恨みがあった。
     同日午前、男性の遺体が畑で見つかり、畑から約2km離れた村道脇では、男性が仕事で使っていた車が全焼した状態で見つかった。
  5.  武井被告、K被告、N被告、川崎市のアルバイトS被告は2017年4月10日午後7時10分ごろ、甲府市の質店駐車場で店から出てきた30代の女性を従業員と勘違いし、金庫のカギを奪う目的で女性を車に押し込み暴行し、けがを負わせた。勘違いに気づき、女性を近くの路上で解放した。
  6.  武井被告、K被告、N被告、S被告は2017年4月11日午前3時10分ごろ、南アルプス市の会社事務所に侵入し、現金80万円などが入った耐火金庫1台(15万円相当)を盗んだ。
  7.  武井被告らは2017年11月、架空の民事訴訟をかたった電話詐欺で、兵庫県の70代女性から400万円をだまし取った。武井被告は受け子役だった。
  8.  武井被告はW被告、笛吹市の建設作業員H被告とともに2018年1月10日未明、東京のJR吉祥寺駅近くの駐車場で男性(当時60)の顔を殴り鼻などを骨折させ、現金46万円が入ったトートバッグを奪った。
 1の事件で山梨県警は、周辺の防犯カメラの映像や、現場に落ちていたたばこの吸い殻や髪の毛からのDNA型鑑定などで武井被告、K被告を特定。2018年2月10日、強盗致死傷容疑で2人を逮捕した。
 W被告は武井被告の逮捕を知り、2月17日に県警へ出頭。犯行を自供した。3月15日、8の事件で武井被告を再逮捕、W被告とH被告を逮捕。
 1の事件で残された武井北斗被告の足跡と、4の事件で遺体の遺棄現場に残された足跡が似ていることが判明。さらにW被告が、山梨、長野両県警の任意の事情聴取に対し、武井被告とともに男性の遺体を遺棄したことを認めた。山梨、長野県警の合同捜査班は2018年5月31日、Y被告とN被告を逮捕した。6月1日、武井被告を逮捕した。6日、W被告を逮捕した。さらに数日前に貴金属買取店などを下見していたとして強盗予備容疑で28日までにK被告を再逮捕した。
 7月5日、2と3の事件で武井被告、Y被告、N被告、K被告を再逮捕。8月20日、5の事件で武井被告、K被告、N被告を再逮捕するとともに、S被告を逮捕。
裁判所
 最高裁第一小法廷 木沢克之裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2021年5月19日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 
備 考
 強盗殺人などに問われたW被告は2018年11月30日、甲府地裁(丸山哲巳裁判長)の裁判員裁判で懲役30年(求刑同)判決。量刑については、共犯者の指示を受けて犯行に及び、警察に出頭して捜査に協力したとして酌量の余地があるとした。2019年5月9日、東京高裁(平木正洋裁判長)で被告側控訴棄却。上告せず確定。
 強盗致死などに問われたN被告は2018年12月14日、甲府地裁(丸山哲巳裁判長)の裁判員裁判で懲役20年(求刑懲役25年)判決。2019年6月14日、東京高裁(中里智美裁判長)で被告側控訴棄却。上告せず確定。
 強盗殺人などに問われたY被告は2019年1月28日、甲府地裁(丸山哲巳裁判長)の裁判員裁判で無期懲役(求刑同)判決。2019年6月20日、東京高裁(平木正洋裁判長)で被告側控訴棄却。2019年9月24日、被告側上告棄却、確定。
 強盗致傷や別の窃盗事件に問われたS被告は2019年2月1日、甲府地裁(丸山哲巳裁判長)の裁判員裁判で懲役4年6月(求刑懲役6年)判決。控訴せず確定。
 強盗致死などに問われたK被告は2019年2月28日、甲府地裁(丸山哲巳裁判長)の裁判員裁判で懲役28年(求刑懲役30年)判決。控訴せず、確定。
 H被告は不明。

 2019年11月8日、甲府地裁の裁判員裁判で求刑死刑に対し、一審無期懲役判決。2020年12月1日、東京高裁で検察・被告側控訴棄却。

【2021年 これまでの無期懲役判決】

氏 名
平野達彦(46)
逮 捕
 2015年3月9日(現行犯逮捕)
殺害人数
 5名
罪 状
 殺人、銃刀法違反
事件概要
 兵庫県洲本市の無職、平野達彦被告は2015年3月9日午前4時ごろ、自宅近くに住む無職の男性(当時82)宅で、男性と妻(当時79)の胸などをサバイバルナイフで複数回刺して殺害。7時ごろ、近くに住む嘱託職員の男性(当時62)方で、男性と団体職員の妻(当時59)、母親(当時84)をサバイバルナイフで刺して殺害した。
 同居していた長女(当時32)が110番通報。洲本署員が倒れている男女3人を発見、まもなく死亡が確認された。7時45分ごろ、同署員が近くにいた平野被告の服に血がついていたため職務質問したところ、関与を認めたため、この3人に対する殺人未遂容疑で現行犯逮捕した(後に容疑は殺人に切り替えられた)。その後、先に殺害された2名の遺体が発見された。

 平野被告は父親と祖母との3人暮らし。母親は淡路島内で別居していた。神戸市の私立高校を2年で中退し、実家に戻るなどしていた。
 2005年9月、平野被告は淡路島内で物品を壊したとして警察官に保護され、島内の病院に措置入院した。退院後の2009年7月、最初に殺害された男性の孫の男性と平野被告のオートバイの騒音を巡って口論となった。2010年7月、平野被告の母親が「インターネットへの書き込みを巡って近隣トラブルを起こした」と、洲本健康福祉事務所と洲本署に相談。12月、最初に殺害された男性の親族をネット上で中傷したとして名誉毀損容疑で逮捕されるも、精神障害のため、明石市内の病院に措置入院した。妄想性障害と診断され、2013年秋の退院後は明石市内に住んでいたが、医療機関での受診は2014年7月で最後となった。しかし両親は10月、「ネットでの中傷をしている」と相談。母親は洲本健康福祉事務所にも「息子が金の無心に来るかもしれない。以前にテーブルを蹴るなどしたことがあり、怖い」と話した。相談は両事務所に少なくとも7回あり、洲本健康福祉事務所は明石健康福祉事務所への相談内容と合わせ、同署に「母親が不安がっている」と伝えたという。
 洲本事務所は、平野被告の家族らから2005年以降に計5回、近隣トラブルなどの相談を受け、家族を介して支援していた。2014年10月の相談後も明石、洲本両事務所は内容を共有し、県警洲本署に協力を依頼。受け入れ先の病院を調整していた。しかし20日、明石事務所が問い合わせると、母親は「姿を見せなかった」と答えた。明石事務所は平野被告に面談し、健康状態に問題はないと判断。母親からの相談は途絶え、洲本事務所も追跡の電話や訪問はしなかったという。
 平野被告は2015年1月、洲本市の実家に戻った。平野被告は自宅に閉じこもり、会員制交流サイトのフェイスブックやツイッターなどに本名で登録し、被害者や近隣住民を批判する書き込みを繰り返していた。また、米軍や政府への批判も書き連ねた。
 2月14日、最初に殺害された男性の孫の男性が自宅近くで平野被告と口論になり、写真を撮られた。男性の娘が15日、自宅を訪れた県警洲本署員に不安を訴え、その後も連日、二つの別の駐在所を訪問。「写真を勝手にインターネットに掲載されたら犯罪になるのか」と相談し、地元でのパトロールの状況を確認した。20日、駐在所ではなく、洲本署を直接訪れた。「何とかできないか。犯罪にあたるなら捕まえてほしい」と訴えるも、対応した刑事課員は「写真を撮られただけでは事件化は難しい」と回答した。刑事課員がこの際、「何かあったら110番してください」と告げたところ、21日、男性が「(平野被告が)自宅付近を徘徊している」と110番通報。署員が駆けつけたが、平野被告の姿はなく、接触できなかった。一家は、平野被告が「ツイッター」に写真を掲載したのを確認し、家族が28日に駐在所を訪問。写真撮影やネット上の中傷行為について「人権侵害にならないのか」「事件化してほしい」と求めたり、「自宅周辺を徘徊している」と通報したりしていた。署は「写真を撮られただけでは難しい」と応じ、付近のパトロールを強化するなどしていた。署は平野被告本人への警告も提案したが、被害者側は望まなかった。3月2日には、親族が洲本市役所の人権推進課の窓口を訪れ、相談。市は弁護士の無料法律相談を紹介。3日には洲本署を訪れ、同署が捜査を始めた。親族は4日、弁護士の無料法律相談に訪れて相談していた。
 結果として、2月14日から3月3日まで9回、男性や親族は洲本署に相談していた。すべてデータベースに入力されていたが、県警によると、同署単独の取り扱い事案だったため、広域相談指導係のチェックから漏れたという。同署はパトロールのほか、駐在所員が2月15、16両日に平野被告宅を訪問したものの、父親に「(妄想性障害のため)ふさぎ込んでおり、入院させようかと思っている」と言われて本人に会えていなかった。また、繰り返し相談はあったが、被告の行為に暴力や殺害をほのめかす言動がなかったため、同署が凶悪性は低いと判断したとみられ、人身安全関連事案対策係にも報告されていなかった。また保健所は、平野被告は洲本市に戻っていることを知らなかった。

 2015年3月30日、先の2名の殺人容疑で平野被告は再逮捕された。
 神戸地検は、刑事責任能力の有無を調べるための鑑定留置を神戸地裁に請求し、認められた。4月9日から8月31日まで実施され、神戸地検は9月8日、「刑事責任能力があると認めた」として、平野被告を殺人容疑で起訴した。
裁判所
 最高裁第三小法廷 林景一裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2021年1月20日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 弁護側は心神喪失で無罪として上告していた。
 5裁判官全員一致の結論。
備 考
 2017年3月22日、神戸地裁(長井秀典裁判長)の裁判員裁判で求刑通り一審死刑判決。
 判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
 2020年1月27日、大阪高裁で一審破棄、無期懲役判決。

氏 名
陳春根(49)
逮 捕
 2011年12月27日
殺害人数
 2名(1名は殺人、1名は逮捕監禁致死)
罪 状
 殺人、逮捕監禁致死、監禁傷害、恐喝、監禁、他
事件概要
 兵庫県姫路市のパチンコ店運営会社の実質経営者であった、韓国籍の陳春根(しゅんこん)(日本名:中村春根(はるね))被告は部下の上村(うえむら)隆被告らと共謀し、以下の事件を引き起こした。(以下は起訴内容)
  • 陳春根被告は上村隆被告ら複数人と共謀。2009年4月、東京都世田谷区の広告会社社長Mさんを、会議の席上で上村隆被告らが押し掛け連れ出した。そして2010年6月まで、兵庫県姫路市内のマンションや事務所内、倉庫などにMさんを監禁した。
     Mさんの会社は陳被告から10億円の融資を受けていたが、返済は滞っていた。
  •  陳春根被告は上村隆被告ら複数人と共謀。2010年6月中旬頃、東京都世田谷区の広告会社社長Mさん(当時50)を兵庫県内またはその周辺で、拳銃を発射するなど何らかの方法で殺害した。遺体は発見されておらず、凶器の拳銃も見つかっていない。(注:本件については無罪判決が出ている
  •  陳春根被告は上村隆被告ら複数人と共謀。2010年4月13日、姫路市内に住む元暴力団組員で韓国籍の男性Tさん(当時57)を同市内のパチンコ店駐車場で乗用車に押し込んで拉致監禁し、三木市の倉庫まで走行。その間、車内でTさんの口に粘着テープを張り付けるなどして、Tさんと窒息死させた。Tさんの遺体は見つかっていない。
  • 2009年8月、神奈川県鎌倉市で、東京都世田谷区の広告会社社長Mさんの部下だった男性(当時33)の顔にナイフを突きつけて、車に乗せて連れ回し、顔にけがをさせた。
  •  陳春根被告は上村隆被告ら複数人と共謀。2010年8月30日、姫路市内の路上で、陳被告の知人の30代男性を車に押し込み、手錠をかけるなどして三木市内の貸倉庫に連行。9月28日まで監禁した。同じ倉庫に監禁していたSさんが逃げ出したため、監禁の発覚を恐れた陳被告らは男性を解放した。
  •  陳春根被告は複数人と共謀。2010年9月28日朝、兵庫県姫路市の元暴力団組員の作業員Sさんを姫路市内の路上にて車で拉致し、三木市の倉庫で両手首に手錠をかけるなど約9時間監禁し、両手首にけがをさせた。同日、Sさんは逃げ出した。
  •  陳春根被告は上村隆被告ら複数人と共謀。2011年2月10日、兵庫県姫路市の元暴力団組員の作業員Sさん(当時37)の自宅マンション前でSさんを連れ去ってトラックに監禁し、首を絞めて殺害。姫路市の路上に止めた保冷車に遺棄した。
     10日午後6時過ぎ、女性の声で「『助けて』という男性の声が聞こえた」と110番があり県警が捜査。11日午後10時20分ごろ、遺体を発見した。
 2011年2月11日、Sさんへの逮捕監禁致傷の容疑で3人を逮捕。3月31日、兵庫県警は別の元会社役員(当時35)への恐喝容疑で陳春根被告や上村隆被告を全国に指名手配した。4月28日、上村被告は、宿泊先の広島市内のビジネスホテルで身柄を確保され、逮捕された。12月27日、陳被告が逮捕された。
 2013年10月23日、県警暴力団対策課などはSさんへの殺人容疑で陳春根被告と、上村隆被告を逮捕した。
 2014年3月6日、県警暴力団対策課などはTさんへの逮捕監禁致死容疑で陳春根被告と上村隆被告、その他3人を逮捕した。
 11月14日、県警暴力団対策課などはMさんへの逮捕監禁容疑で陳春根被告と上村隆被告、その他3人を逮捕した。
 2015年2月18日、県警暴力団対策課などは知人男性への逮捕監禁容疑で陳春根被告と上村隆被告、その他1人(後に起訴猶予)を逮捕した。
 6月10日、県警暴力団対策課などはMさんへの殺人容疑で上村隆被告を逮捕した。10月23日、殺人容疑で陳春根被告を逮捕した。社長の遺体や拳銃は見つかっていないが、社長の生存が長期間確認できないことなどから同課は社長が殺されたと判断した。
 県警と地検は計12回、陳被告を逮捕、起訴している。
裁判所
 大阪高裁 和田真裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2021年1月28日 無期懲役(検察・被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2020年10月20日の控訴審初公判で弁護側は、1件の逮捕監禁罪以外は無罪と主張。この事件について「本当に拳銃を使ったか不明で、そもそも起訴状での殺害手段の事実認定に誤りがある」と主張した。さらに「約4年にわたる長期間の捜査で、参考人への聴き取りについて、多い人で100回にも及んだことに触れ、その間に捜査機関の見立てに沿った供述に変わってきており、そのプロセスが十分に検討されていない。何となく有罪に、という方向性で安易に事実認定された」と述べた。検察側は改めて全ての罪が成立すると主張し、無期懲役の陳被告と死刑の上村被告で刑の不均衡を訴えた。弁護側は新証拠の採用を、検察側は被害者らの意見陳述を求めたが、和田裁判長はいずれも認めなかった。そして検察側・弁護側双方の控訴趣意書のみを採用し、 即日結審した。
 和田裁判長は判決理由で社長の男性に対する殺人罪については、死亡した経緯を推測できる証拠が乏しく、「上村被告が殺害した以外の可能性を排斥するのは困難」とし、一審判決と同様に陳被告を無罪とし、作業員の男性に対する殺人罪なども一審通りに認定した。また検察側の主張に対し、和田裁判長は、社長の男性の殺人罪でも有罪となった上村被告と陳被告は量刑事情が異なるとして退けた。
備 考
 一審の審理期間は、裁判員裁判で過去最長の207日。判決までの公判回数は76回に上る。約120人の証人が出廷した。裁判員6人のうち3人が、途中で辞退を申し出て交代した。暴力団が関係する事件のため、裁判所側は4月の初公判以降、廷内に入る前に必ず荷物検査や身体検査を実施するなど徹底した安全対策を取った。
 共犯の上村隆被告は2019年3月15日、神戸地裁姫路支部の裁判員裁判で、求刑通り一審死刑判決。2021年5月9日、大阪高裁で被告側控訴棄却。
 一連の事件で兵庫県警は陳、上村被告のほかに15人を逮捕し、14人は有罪が確定している。

 陳春根被告、逮捕監禁事件で有罪判決が確定した男性元被告2人と弁護人だった弁護士が、違法な捜査で精神的苦痛を受けたとして県と国に計1300万円の損害賠償を求めた訴訟で、2015年10月29日、神戸地裁(伊良原恵吾裁判長)は県警の一部捜査の違法性を認定し、県に87万円の支払いを命じた。国への請求は棄却した。判決によると、県警の捜査員が2011年2月~2012年1月、逮捕監禁事件などの任意捜査段階で元被告2人を警察署の取調室やホテルに最大4泊5日宿泊させたほか、陳被告の取り調べで「弁護士の言うことを聞いていたら最悪の結果になる」などと発言した。伊良原裁判長は「実質逮捕といえる違法な身柄拘束」と指摘し、発言も「被告を不必要に混乱させ、弁護士との信頼関係の形成を妨害した」と結論づけた。

 2018年11月8日、神戸地裁姫路支部の裁判員裁判で、求刑死刑に対し一審無期懲役判決。被告側は上告した。検察側は上告せず。

氏 名
元少年(35)
逮 捕
 2019年1月24日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、強姦致死
事件概要
 フィリピン国籍の元少年(事件当時18)は、フィリピン国籍のランパノ・ジェリコ・モリ被告、フィリピン国籍の少年(事件当時19)と共謀。2004年1月31日午前0時から6時半ごろまでの間、茨城県阿見町の路上で、散歩で通りがかった茨城大農学部2年の女子学生(当時21)の腕をつかんで車に連れ込み、美浦村舟子の清明川に向かう車内で暴行を加え、手などで首を絞めた。さらに、清明川の河口付近で首を刃物で複数回切るなどして殺害した。
 ランパノ被告は母親らと2000年に入国。事件当時、ランパノ被告は土浦市内に住み、美浦村内の電器部品加工会社に勤務していた。女子学生と面識はなかった。
 遺体は31日の午前9時半ごろ、発見された。
 ランパノ被告や共犯の2人は2007年にフィリピンに出国するも、ランパノ被告は再び日本に入国。遺体に付着した微物のDNA型がランパノ被告のものと一致した。茨城県警は2017年9月2日、岐阜県瑞穂市で工員として働いていたランパノ・ジェリコ・モリ被告を強姦致死と殺人の疑いで逮捕した。9月5日、茨城県警はフィリピン国内にいると思われる共犯2人の逮捕状を取り、国際刑事警察機構(ICPO)を通じて国際手配した(なお1人についてはフィリピンで日本の取材に応じている)。ただし日本とフィリピンとの間には事件捜査の協力を要請できる「刑事共助協定」がなく、容疑者の身柄引き渡しに関する条約もないため、フィリピン政府に引き渡しを求めることができない。
 2018年、県警が国内外の関係者に働きかけ、出頭するよう促すと、元少年側から出頭の意思があると伝えてきた。県警は捜査員をフィリピンに派遣し、捜査員がマニラ空港から飛行機に同乗。2019年1月24日、成田空港に到着した元少年が再入国したところで殺人と強姦致死容疑で逮捕した。
裁判所
 水戸地裁 結城剛行裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2021年2月3日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2021年1月18日の初公判で、元少年は罪状認否で「間違いありません」と述べ、起訴事実を認めた。
 冒頭陳述で検察側は、元少年がモリ受刑者と、もう1人の共犯とみられる男の3人で酒を飲んでいる際、女性を襲うことを提案したと説明。「自らの性的欲求を満たし、被害者の首を絞めるという死因に直結する行為も担った」とした上で、口封じのために殺害を決めたとし、「被害者の尊厳を踏みにじり、命を奪った犯行態様は非常に悪質」と指摘した。
 弁護側は「元少年が殺害に積極的でなく、共犯者に凶器を渡され、促されたことが殺害の決め手だった」と主張。犯行に携わったとされる3人のうち元少年は最も若く、従属的な立場にあったとした上で「罪を償うためにフィリピンから入国し、出頭するなど反省している」と情状酌量を求めた。
 証人尋問には、モリ受刑者が出廷。「3人に上下関係はなく、兄弟のような関係」と証言した。事件前に元少年が2~3回にわたり「日本人女性を味見したい」と話していたと証言した。事件当日も「女でも探そうか」と女性への暴行を提案したと述べた。
 21日の第4回公判における被告人質問で、女子学生を乱暴後、モリ受刑者が「今から女を殺します」と発言したことをきっかけに、元少年が女子学生の首を絞めたと述べた。元少年は、女子学生を刺した凶器のドライバーについて「川に捨てた」と供述。検察側は刺し傷が心臓に届くものもあったと指摘し、元少年は刺した回数を問われると「5回以上」と振り返った。事件を起こしたことへの思いを検察側に問われた元少年は「何も(ない)」と淡々と述べた。検察側は、元少年が事件後、フィリピンに逃亡する前に心情を記したメモを母親宅に残し、「首謀者は共犯の2人だ」という内容だったと明らかにした。
 28日の論告で検察側は、「被害者の遺体の状況から強固な殺意に基づいた残虐な犯行で、まさに鬼畜の所業と言っても過言ではない。性的、人格的尊厳を大きく踏みにじった」などと指摘。また、弁護側が「男は殺害に反対していた」などと主張していることについては、「結局は自己保身のために納得して殺害を行っている」と述べた。
 同日の最終弁論で弁護側は、「男は他の共犯者に比べて従属的な立場だった。再び日本に来たことは真摯に反省していることの表れだ」と主張した。
 判決で結城剛行裁判長は、元少年と共犯2人が事前に、口封じのために暴行した女性の殺害を決めていたと認定。「無差別な通り魔的犯行で被害者の生命や性的自由を軽視しており、厳しい非難は免れない」と非難したうえで、元少年が他の2人に暴行を持ちかけたことを認め、殺害の過程でも共犯者による殺害の提案に当初は反対したが、最終的には賛成して首を絞めるなどしており「従属的な立場にはなかった」と指摘した。元少年が逮捕を覚悟で来日したことについては「わいせつ目的の殺人という事案の量刑傾向に照らし、無期懲役刑が相当」と酌量しなかった。
備 考
 2018年7月に改正刑法が施行され、強姦罪は「強制性交罪」に変わり、法定刑が引き上げられた。ただ今回の事件は2004年に発生しており、改正前の刑法が適用された。
 共犯のランパノ・ジェリコ・モリ受刑囚は2018年7月25日、水戸地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2019年1月16日、東京高裁で被告側控訴棄却。上告せず確定。
 共犯の元少年(当時19)はフィリピンに帰国し、国際手配中。

 控訴せず確定。

氏 名
山本豊和(37)
逮 捕
 2017年11月26日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、死体遺棄、窃盗
事件概要
 静岡市駿河区の新聞配達員、山本豊和被告は2017年10月5日、静岡市駿河区に住む義理の母親宅で、義母(当時62)の首を圧迫するなどして殺害、現金約300万円を奪った。6日、駿河区の道路わきの草むらに遺体を遺棄した。山本被告は、被害者の次女の夫だった。週3~5日通うほどのパチンコ好きで、仕事で集めた金をパチンコ店につぎ込むこともあり、義母より借金をしていた。また消費者金融から280万円の借金があった。殺人後、退職していた。
 他に山本被告は2016年12月4日午後11時20分ごろから40分ごろにかけて、元勤務先の会社が運営する焼津市のコインランドリーの両替機などから現金約14万円を盗んだ。
 10月5日、同居する男性が深夜に帰宅したところ女性の姿がなく、女性の親族は11日に静岡南署に行方不明届を出し、17日に遺体が見つかった。11月26日、捜査本部は死体遺棄容疑で山本被告を逮捕した。2018年1月28日、強盗殺人容疑で再逮捕した。2月19日、窃盗容疑で再逮捕した。
裁判所
 静岡地裁 伊東顕裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2021年2月19日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2021年1月19日の初公判で、山本豊和被告は死体遺棄については認めたものの、強盗殺人については「殺害していない」と起訴内容を一部否認した。
 冒頭陳述で検察は、「借金などで生活に困窮して犯行に及んだ」と動機を指摘。「被告は殺害後にアパートごと燃やすことも考え、ブルーシートやサラダ油を購入していた」と述べた。弁護側は「殺害の直接的な証拠はない。訪問したときすでに亡くなっていた」などと主張した。
 2月1日の公判における被告人質問で、山本被告は女性の遺体発見時の状況について「口に粘着テープが巻かれ、身体を揺さぶっても反応がなかった」と説明した。そして「私は殺していない。金を借りようと思い、家を訪れたら女性が倒れていた。誰かに殺されたんだろうと思った」と、強盗殺人について改めて否認した。遺体を見つけた後、警察に通報せずに遺体を山中に遺棄した理由について検察から問われると、被告は「誰かに殺されたんだろうと思った」「通報すると、第一発見者の自分が疑われると思った」「別の窃盗事件の犯行がばれて、殺人を疑われるのを恐れた」と述べた。また、アパートから現金を盗んだ理由については、「職場のゴルフコンペの費用や、妻が出産を控えていて、金が必要だった」と説明した。そして女性宅から持ち去った現金の一部をパチンコの遊興費や生活費に充てたことを明らかにした。一方で、遺体を遺棄したことについては争わない姿勢を示した。
 5日の論告で検察側は、被告が現金を奪って遺体を遺棄したことや、遺棄現場などの地図をスマートフォンで検索して事前に確認していたことを踏まえ「現金を奪う目的で殺害した犯人なのは明らか」と強調。パチンコで散財するなどし、まとまった現金を必要としていた被告には「動機が十分あった」と指摘した。その上で、反省の態度が乏しく「信じ難い弁解を繰り返し、更生も期待できない」と述べた。
 同日の最終弁論で弁護側は「客観的状況から第三者の犯行の可能性も十分あり得る」と反論。金策が差し迫って必要だったわけではなく「殺害する動機がなかった」とし、家計の頼みだった女性を殺害することはむしろ被告にとって「デメリットでしかない」と強調した。死体遺棄に関しては「高額な現金を持ち出した事実を隠すための合理的行動」とした。そして「殺害は第三者の犯行で直接証拠がなく、被告には動機もない」と強盗殺人は無罪で、死体遺棄で懲役2年6カ月が妥当だと主張した。
 被告は最終意見陳述で「女性を殺害していない」と改めて述べ強盗殺人の罪以外は認めたうえで「遺体を遺棄したことは後悔し、深く反省している。関係者の皆さんに償いをしていきたい」と陳謝した。
 判決で伊東裁判長は、「室内にいるかもしれない犯人に注意を払わず、指紋が残らないように現金を持ち出すなど不自然に冷静な行動をしている。救急車を呼ぶなどしていないのははなはだ不自然」と指摘。さらに、自宅を訪ねたところ既に女性は死亡していて、窃盗事件の発覚を恐れて通報できなかったなどとする主張の不自然さを指摘した。「死体を遺棄した事実から被害者を殺害した犯人と推認できる」と判断した。その上で「当時、光熱費を滞納するなど生活に困窮し、殺害する動機もある」と指摘し、犯行前に携帯電話で遺棄現場などの地図を閲覧していたことは「死体を遺棄した事実からの推認を裏付け補強する事情」と説明した。量刑の理由については「少なくとも5分程度、首を圧迫したとみられ、殺意は強い。犯情は甚だ悪質。何の落ち度もない義理の母を金銭目的で殺害したことははなはだ身勝手な犯行で、反省の態度は全くない」とした。
備 考
 被告側は即日控訴した。

氏 名
朝比奈久徳(53)
逮 捕
 2019年11月27日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、殺人予備、銃刀法違反、公務執行妨害他
事件概要
 愛知県江南市の無職、朝比奈久徳被告は2019年11月27日午後5時すぎ、兵庫県尼崎市の路上で、指定暴力団神戸山口組の男性幹部(当時59)にが居た飲食店の外から声をかけ、出てきたところ自動小銃で弾丸15発を撃ち、死亡させた。さらにその後、神戸山口組の別の幹部を殺害するため、自動小銃1丁と拳銃1丁、銃弾39発を所持し、京都市南区までレンタカーで向かった。
 事件から約1時間後に京都府警南署員が京都市南区内で酷似した車を発見。職務質問をしようとすると朝比奈被告が署員に拳銃を向けたため、公務執行妨害と銃刀法違反の両容疑で現行犯逮捕した。
 朝比奈被告は山口組傘下組織幹部だったが、山口組で取り扱いが禁じられている覚醒剤に手を染めたとして、2018年12月に「破門処分」を受けたとされる。2019年8月、覚せい剤取締法違反(使用)の罪で岐阜地検に起訴されたが保釈され、11月29日に岐阜地裁で判決が予定されていた。
 殺害された男性は、2018年3月と2019年7月にも棒や傘で襲撃され、指定暴力団山口組系組員らが逮捕されていた。飲食店は男性の息子が経営していた。
 山口組と神戸山口組の対立を巡っては、2019年4月に神戸市の路上で神戸山口組系幹部が山口組系組員に刺されて重傷を負う事件が発生。8月には神戸市の山口組系の組事務所前で組員が銃撃され、10月10日には神戸山口組系組員2人が射殺された(殺人罪で起訴されたM・T被告は、公判前の2020年12月31日に病死、70歳没)。
 11月29日、殺人容疑で朝比奈被告を再逮捕。2020年2月3日、殺人予備で再逮捕。
裁判所
 神戸地裁 小倉哲浩裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2021年2月19日 無期懲役
裁判焦点
 検察側が裁判員の安全確保のため除外を請求し、神戸地裁は認め、裁判員裁判の対象から除外した。開廷前には、傍聴人や記者たちに対して厳重な身体検査が実施され、証言台と傍聴席の間に透明の防弾パネルも設けられた。
 2020年2月8日の初公判で、朝比奈久徳被告は「間違いありません」と、起訴事実を認めた。
 検察側は事件の背景に、2015年の山口組分裂に始まる同組と神戸山口組の対立抗争があると指摘。「被告が被害者に個人的な殺意を抱く理由はなく、単に神戸山口組の幹部だからというだけで狙った」「個人的な犯行とは到底認められない」などと訴えた。山口組の組織的な関与にも言及し、「本人以外から指示は明らかになっていないものの、山口組関係者による何かしらの指示や支援が強く疑われる」とした。
 弁護側は「被告が単独で準備、計画した」「動機は(山口組と対立する)神戸山口組が許せないという個人的な思い」と山口組の関与を否定した。
 朝比奈被告は被告人質問で動機について「有名になりたかった」「おとこになって死にたかった」などと証言。「インパクトのあるものを使おう」と凶器に自動小銃を選んだといい、拳銃と合わせ「350万円で買った」と語った。入手の方法や時期は「言えない」を繰り返した。今回の事件前に、神戸山口組の組長らも殺害しようと試みたが、断念したと明かした。
 同日の論告で検察側は「何ら躊躇なく至近距離から自動小銃を連射した冷酷かつ残忍な犯行で人命軽視甚だしい。一般市民も巻き込む危険性があった。さらに、下見をするなど綿密かつ計画的で、関係者からの指示が強く疑われ、対立抗争激化の可能性を高めた」と指摘。そして「強固な殺意に基づく、冷酷かつ残忍な犯行」と主張。社会に恐怖を与え、更生の可能性が低いなどとして無期懲役を求刑した。
 同日の最終弁論で弁護側は、「背景に組織はなく、任侠道を踏み外したのが許せない、有名になりたいといった個人の理由で犯行に及んだ」として有期刑を求めた。
 最後に裁判長から「何か言いたいことは」と問われた男は「ありません」と短く回答。結審後、傍聴席にいたかつての所属先の暴力団関係者らに向かって小さく一礼するようなしぐさを見せ、退廷した。初公判の日に即日結審した。
 判決理由で小倉裁判長は、検察側が主張した組織性は認定しなかったが、「所属していた暴力団への忠誠心が動機」と指摘。凶器に自動小銃を用いたことや男性幹部が倒れた後も執拗に銃弾を放った行為について「強固な殺意に基づく残虐極まりない犯行」と非難。一般市民に危害が及ぶ可能性のある場所での犯行だったことも踏まえ、求刑通りの判決が妥当とした。
備 考
 事件後の2019年12月、山口組と神戸山口組は特定抗争指定暴力団に指定された。

 被告側は控訴した。

氏 名
古賀哲也(37)
逮 捕
 2019年7月14日(死体遺棄罪)
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、強制性交等致死、死体遺棄、窃盗他
事件概要
 福岡県粕屋町の土木作業員古賀哲也被告は2019年7月6日午後10時26~46分ごろ、同町の須恵川の川岸付近で、自転車で帰宅中の会社員の女性(当時38)の首を絞めて暴行後、殺害。女性の遺体を川に遺棄し、財布やスマートフォンなど29点(時価総額約24,000円)を持ち去った。
 女性は同日夜、自宅から約3km離れたショッピングモールで夫と一緒に自転車を購入。夫と別れ、ファストフード店に立ち寄った後、県道沿いの歩道を通って自転車で帰宅中、自宅まで約0.9kmの現場で襲われた。古賀被告は勤務先の軽ワゴン車を運転中、1人で自転車で帰宅していた女性に気づいて先回りして川岸近くの暗がりで待ち伏せした。古賀被告は事件当時、現場から約2.5km離れた会社の寮で生活していた。女性との面識はなかった。
 遺体は7月8日午前、川の中央付近でうつぶせで浮かんでいるのが見つかった。事件当日に現場周辺を行き来する不審な車が防犯カメラに映っていたことなどから捜査線上に浮上し、福岡県警は7月14日、死体遺棄罪で古賀被告を逮捕した。8月20日、強盗殺人他の容疑で再逮捕した。
裁判所
 福岡高裁 根本渉裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2021年2月24日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2021年1月29日の控訴審初公判で、弁護側は、一審と同様、強い殺意はなかったとして量刑が重すぎると主張。証人尋問と被告人質問を請求したが、根本裁判長はいずれも却下した。検察側は控訴棄却を求め、即日結審した。
 判決で根本裁判長は、被告が2度にわたり首を絞めている点などを指摘し「冷酷で残忍な攻撃態様と、その結果必然的にもたらされた凄惨な結果に他ならない」とし、被告側の主張を退けた。そして「極端なまでに自己中心的で、まれにみる凶悪犯罪。再犯が強く懸念される。終生、罪を償わせるのが相当」と指摘した。
備 考
 2020年9月17日、福岡地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。

氏 名
竹株脩(21)
逮 捕
 2019年12月15日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、現住建造物等放火、窃盗他
事件概要
 奈良県橿原市の無職、竹株脩(たけかぶ・しゅう)被告は通行人を無差別に殺害しようと考え、2019年11月24日午後10時半ごろ、桜井市内の路上を歩いていた元派遣社員の男性(当時28)の首付近をなた(刃渡り約18.7cm)で複数回切りつけた。その後、車に乗せてアパート自室にい運び込み、男性が死亡したと考え、部屋に火をつけて、窒息死させた。火災で2階の5室計約200平方メートルが焼けた。さらに男性の携帯電話を運転免許証を持ち去った。竹株被告と男性に面識はなかった。
 竹株被告は事件後福岡市に移動し、男性の運転免許証を提示するなどしてインターネットカフェに滞在。12月15日、「金がなくなった」と橿原署に出頭。出頭時、リュックサックになたが入っていた。県警は傷害容疑で逮捕した。2020年1月5日、殺人、現住建造物等放火他容疑で再逮捕した。
 奈良地検は1月21日、竹株被告を鑑定留置。5月15日、起訴した。
裁判所
 奈良地裁 岩崎邦生裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2021年2月26日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2021年2月10日の初公判で、竹株脩被告は岩崎裁判長から名前や住所を問われた時ははっきりとした口調で話したが、起訴事実の認否を尋ねられると「黙秘します」とだけ答えた。
 検察側は冒頭陳述で、一連の事件の犯人が竹株被告かどうかの「犯人性」と、放火などにより男性が亡くなったという殺人罪が成立するかの2点について説明。事前に凶器のなたを購入していた計画性や事前に逃走を準備して実際に逃走している、出頭した際に被害男性の免許証、凶器とされるなたを持っていた、捜査当時に自白している点について竹株被告が犯人であると断定。さらになたを用いた通り魔的犯行である点を挙げ、「強固な殺意に基づく冷酷かつ残虐な犯行」と主張した。
 弁護側は、「被告は公私ともに充実した生活を送っていた」「周囲から信頼されていた」などと事件を起こす動機がないことを強調。「黙秘しているのは、本当は話すことのできない別の真実があるのではないか」と、慎重に審理を進めるべきだと訴え、有罪の証拠に疑問があれば無罪にすべきと強調した。そして仮に放火したとしても、殺意はなかったと述べた。
 続いて検察側の証拠調べが行われ、竹株被告の事件前後の行動や桜井市の現場付近で、被告とみられる人物が映っている防犯カメラの映像、被告の車の走行履歴などが示された。また、男性の父親にょる「友達も多く恨まれるような人間じゃない。犯人が憎いという言葉では足りない。返してほしい」などの事件当時の供述調書も読み上げられた。
 12日の第2回公判で男性の遺体を解剖した医師が出廷。男性のうなじは鋭利な刃物で切りつけられたと証言。かなりの力とスピードで切りつけられたとみており、出頭時に竹株被告がもっていたなたでできた傷なら「矛盾はない」とした。解剖医は、この傷害で男性は動けない状態になったと推測した。首の左にあった致命傷ではない刺し傷は「なたでは難しい」とし、刺し身包丁など細長い刃物が凶器として考えられると述べた。
 同日、竹株被告が務めていた製薬会社の元上司2人も出廷。それぞれ被告について「真面目」「誠実」と評価。「上司や同僚との関係は良好だったと思う」と証言した。一方、2019年10月にあった定期面談で「困ったことや心配なことはないか」と聞かれた被告が急に涙を流す場面があったと証言した。
 15日の第3回公判で、被告を精神鑑定した医師が出廷。証人尋問で「被告は何らかのストレス下にある時、共感性の乏しさやこだわりの強さといった特質が顕著になる」と証言し、「仕事や一人暮らしの寂しさがストレスになっていた」と事件の動機を推測した。一方、被告が「勤務先に多大な恩義を感じていた」とも指摘、「職場に迷惑をかけたくないとの思いから黙秘を続け、動機を明かさないのではないか」と述べた。
 続いての被告人質問で、竹株被告が検察や裁判官の質問に黙秘を貫いた。
 同日、被害者参加制度を利用して意見陳述した男性の兄は手を震わせ、「襲われ、火をつけられて弟は2度殺されたようなもの。被告の黙秘で私たちはさらにつらい思いを強いられている。被告が社会に出ればまた誰かが襲われるかもしれず、死刑を望みます」と涙ながらに訴えた。男性の父親も「いつか家業を継がせて一緒に働きたかった。心優しかった息子が帰ってくることはない」と述べた上で、「死刑を求めます」と訴えた。
 18日の論告で検察側は、「放火の現場は被告の自宅で、出頭時に所持していたなたや被告の車内から男性のDNA型と一致する血液が確認されていて犯人であることに疑いの余地はない」と主張。「無差別な通り魔殺人であり、十分な準備をして実行された計画的犯行。殺害方法は強固な殺意に基づく冷酷かつ残虐なもの」と指摘。さらに「謝罪や反省を口にしていない。被告人の更生の可能性は乏しいと言わざるを得ない」と非難した。
 同日の最終弁論で弁護側は、「何の動機もなく無差別に殺人行為に及んだと考えるのは不自然」などと反論。「なたを所持していたとはいえ誰かの指示の可能性もある。目撃証言のような犯行を直接裏付ける証拠はなく、検察の直接証拠は捜査段階での自白しかない。被告人の自白にも信用性がない」と無罪を主張した。
 最終意見陳述で竹株被告は、「黙秘します」とだけ話した。
 判決理由で、岩崎邦生裁判長は「無差別殺人で生命軽視の程度が甚だしい。被害者には何の落ち度もなく、悪質性が際立っている」と指弾。竹株被告が事件前に凶器のなたを購入し、事件後も被害者の血液が付いた凶器を所持していたことや、逃走の準備をしていたことなどを挙げ、「捜査段階での供述も実体験なしに語るのは困難で、信用性も高く揺るぎなく、明確な動機は認定できないものの、被告は犯人と強く推認できる」と認定した。そして「何度も首になたをたたき付けており、強固な殺意に基づく冷酷で残虐な犯行で、反省の態度も見られない。誰もが被害者になり得る無差別殺人で社会への影響も大きく、有期刑の余地はない」と述べた。岩崎裁判長は、公判中黙秘を続けた被告に「あなたの人生の中で、自身や事件のことを正面から受け止められる日がいつか来ると思う」と説諭した。
備 考
 被告側は控訴した。

氏 名
宍倉靖雄(50)
逮 捕
 2019年8月28日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人
事件概要
 千葉県八街市の内装会社社長、宍倉靖雄被告は、四街道市の彫師、S被告、住所不定の内装工、K被告と共謀。2019年1月27日午前5時25分~6時5分ごろ、富津市の浜金谷港の岸壁から、千葉市に住む内装工の男性(当時23)を海に落とし、溺れさせて殺害した。主犯が宍倉被告、殺害の実行犯がS被告、車の運転や釣りに誘うなどがK被告である。2018年8月に男性は後継者と騙され宍倉被告の養子となり、宍倉被告を受取人とした約5,000万円の保険金が掛けられていた。一つは2018年11月、受取人が母親から変更。残り二つは養子縁組後、新たに契約していた。S被告とK被告は宍倉被告の会社の元従業員で、K被告は宍倉被告から借金があった。宍倉被告には会社名義も含めて約1千万円の借金があり、S被告、K被告も数百万円の借金を抱えていた。S被告とK被告は養子縁組届の証人となっていた。
 S被告が「一緒に釣りをしていた人がいなくなった」と110番通報し、木更津海上保安署などが捜索した結果、海底から男性が引き揚げられ、現場で死亡が確認された。しかし、現場は足場が良く、足を滑らせて海に転落したとは考えにくいことなどから県警が捜査。男性に保険金が掛けられていたことなども判明。県警は8月28日、殺人容疑で3人を逮捕した。
裁判所
 千葉地裁 小池健治裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2021年3月2日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2021年2月4日の初公判で、宍倉靖雄被告は「S被告との共謀の事実を認めない」と述べ、共謀して殺害したとする起訴内容を否認した。
 冒頭陳述で検察側は「被告と自分の会社の従業員だった男性が養子縁組を結んでから、半年もたたないうちの事件であり、保険金の受取人は被告となっていた。犯行を計画したのは被告で、事故で海に落ちたと通報させるなど、事故で死亡したと見せかけるための偽装工作をした」と指摘した。一方、弁護側は「養子縁組は保険金目的ではなく、共謀の男に殺すと話したことはあるが、本心ではない。事件後、被告は保険金の請求をしていない。共謀は認められない」と述べ、無罪を主張した。
 19日の論告求刑で検察側は、否認する靖雄被告について男性との養子縁組後、半年以内に起きた事件で「保険金を受け取ることができたのは被告のみ。(仲間と)共謀して殺害したことが強くうかがわれる。自分の手を汚さず、仲間の男に殺害を実行させた」と指摘。保険金を得る手段として殺害に及んでおり「計画的で卑劣、冷酷な犯行。宍倉被告はまさに首謀者だ。人命軽視の態度が顕著」と非難した。
 同日の最終弁論で弁護側は、仲間2人と事件を巡る説明が食い違っているとして「明確な意思疎通がなかった」と強調。話の流れで「保険金」「やる」といった発言はあったが、殺害を直接的な言葉で指示した事実はなく、実行役が勝手に忖度して暴走したもので、実行役との共謀がないことから殺人の罪は成立しないと反論し、無罪を主張した。
 判決で小池裁判長は、宍倉被告が事件の翌日に生命保険金の請求書類を受け取っていたことなどから、同被告が殺害計画を発案し推し進めたと認定。「被告側の説明は不可解で信用することはできない」と主張を退けた。そして「保険金を得るために被害者の生命を犠牲にした悪質極まりない犯行で、首謀者として重い責任を負うのは当然だ」と述べた。
備 考
 殺人罪で起訴されたK被告(51)は2020年12月16日、千葉地裁(小池健治裁判長)の裁判員裁判で殺人ほう助の罪にとどまるとして、懲役10年判決(求刑懲役15年)。控訴せず確定。
 殺人罪などで起訴されたS被告(33)は2021年1月14日、千葉地裁の裁判員裁判における初公判で罪を認めた。2月3日に判決が言い渡される予定だったが、1月19日の裁判で予定されていた証人のK被告が出廷を拒否し、審理継続に影響が出たため、予定の期日を取り消された。現在、新たな日程を協議中。

 被告側は控訴した。

氏 名
大沢康貴(37)
逮 捕
 2020年1月16日(別件の詐欺容疑で逮捕・起訴済み)
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人
事件概要
 長野県飯田市の無職、大沢康貴被告は2018年6月26日、同市のアパートで就寝中の無職男性(当時43)の首を電気コードで絞めて殺害し、現金約4,000円が入った財布や通帳などを奪った。大沢被告は男性と知り合いで、約665万円の借金があった。
 大沢被告は12月13日、無免許で乗用車を運転し飯田市内の市道を走ったとして道交法違反容疑で逮捕された。同月末には、自動車の購入名目で金融機関から135万円をだまし取ったとして詐欺容疑で再逮捕され。2020年1月16日に詐欺罪で起訴された。長野県警は1月16日、強盗殺人容疑で大沢被告を逮捕した。
裁判所
 東京高裁 若園敦雄裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2021年3月3日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2021年1月29日の控訴審初公判で被告側は、「被害者には自殺願望があり、殺害を依頼された」として嘱託殺人罪の成立を主張した。
 判決で若園裁判長は「被害者の自殺願望を否定する友人の証言は客観的な事実に裏付けられている。被告の供述は信用できず、被害者は殺害に同意していないと判断した一審の認定に誤りはない」と指摘した。
備 考
 2020年7月20日、長野地裁松本支部の裁判員裁判で、求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。

氏 名
島津慧大(24)
逮 捕
 2018年6月26日
殺害人数
 2名
罪 状
 殺人、殺人未遂、銃刀法違反、傷害
事件概要
 富山県立山町の元陸上自衛官でアルバイト店員の島津慧大(けいた)被告は、2018年6月26日午後0時半頃、アルバイト先のファストフード店で、他の店員が指示した掃除をしなかったことで注意してきた店長を睨み続け、午後0時50分頃、店長を複数回殴り、けがを負わせた。私服に着替えて店を無断で早退した島津被告は午後2時頃、富山市の富山中央署奥田交番で裏口ドアを叩き、勤務中でドアを開けた交番所長の警部補(当時46、事件後警視に2階級特進)をナイフでいきなり襲い、数十か所刺して殺害した後、拳銃を強奪。このとき、警部補と島津被告の双方が一発ずつ被弾している。島津被告は交番内や住宅街をうろつき、午後2時25分頃、約100m離れた市立奥田小の正門付近で、奥田小の耐震工事に派遣されていた60代の男性警備員に銃弾2発を発射したが命中しなかった。さらに、近くにいた別の警備員の男性(当時68)の頭を撃ち殺害した。逮捕当時、島津被告は警備員を警察官と間違えて発砲したと供述している。
 交番で一緒にいた60代の県警OBの男性相談員は、午後2時7分、まだ警部補が島津被告がもみ合っている間に交番から通報。その後、2発の銃声を聞いたため、近くの美容室に避難し、11分に再度110番通報した。13分にパトカーが交番に到着。警備員殺害後、全ての弾を撃ち尽くしていた島津被告は駆けつけた署員2人に発見され、学校敷地内に侵入。追いかけた署員の「止まれ」という警告を聞かず、刃物を両手に持って向かってきたため、署員2人が1発ずつ発砲。被弾した島津被告を、死亡した警備員への殺人未遂容疑で現行犯逮捕した。事件時に警察官に腹部を撃たれて重体となったため、釈放され入院した。島津被告は逮捕当時、全長約35mのおの、約22cmのナイフ、約50cmの山刀を所持していた。山刀はリュックの中から見つかり、他にはさみもあった。また、交番の近くでは約23cmのナイフが見つかった。
 小学校には富山中央署から午後2時10分頃に富山中央署から連絡があり、校長は学年主任に1階の戸締まりを徹底するよう指示し、下校を見合わせた。15分頃、正門付近で不審者を確認。男性教職員が校舎出入口でさすまたなどを持って警戒するとともに、教室にいた児童全員を体育館に避難させ、教職員で出入り口を警戒した。容疑者が確保されたことを受け、午後4時頃から保護者への引き渡しを始めた。
 島津被告は2015年4月から2017年3月まで陸上自衛隊金沢駐屯地に勤務。その後は実家に戻っていた。2018年4月から富山市内のファストフード店でアルバイトの従業員として働いていた。退官後に有事や災害時に招集される即応予備自衛官に採用されていたが、事件翌日の27日付で免職になった。
 退院後の10月10日、警部補への強盗殺人容疑で再逮捕。29日、警備員への殺人容疑、別の警備員への殺人未遂容疑で再逮捕。
 富山地検は11月12日から4か月間、事件当時の精神状態や刑事責任能力の有無を調べる鑑定留置を行い、責任能力があると判断して、2019年3月15日に起訴した。
裁判所
 富山地裁 大村泰平裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2021年3月5日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。公判前整理手続きで弁護側も情状鑑定を請求し、富山地裁が再鑑定を行っている。
 2021年1月14日の初公判で、島津慧大被告はすべて黙秘した。島津被告は逮捕時の被弾で脊椎などを損傷して下半身が不自由となり、車椅子で出廷した。
 冒頭陳述で検察側は、公判の争点が「強盗殺人罪の成立」と「情状面による量刑」の2点だと説明した。中学の頃からひきこもり、家族への暴力を振るうようになった被告が、自宅に駆けつける警察官に嫌悪感が芽生えたと指摘。事件当日、アルバイト先の飲食店店長に立腹して暴行後、「被告は警察官と闘って勝利し、自分の力を誇示しようと考えた」などと述べ、拳銃を奪う目的で交番を襲撃して警部補を殺害したため、強盗殺人罪が成立すると主張。情状面では、自閉症スペクトラム障害の影響は限定的だったとした。量刑については、計画性の高さと極めて強固な殺意に注目してほしいと裁判員に訴え「生命軽視の度合いなどを基に、適正な刑罰を決めてほしい」と求めた。
 弁護側は「拳銃を奪おうとする意思は殺害行為の後に生じた」として警察官への強盗殺人罪は成立せず、殺人と窃盗の罪に当たると主張。「自分よりも強い武器を持つ相手と戦うための犯行で、拳銃を奪うためではなかった」と訴えた。警備員への殺人罪などについては起訴内容を認めた。また、島津被告は対人関係を築くのが困難な自閉症スペクトラム障害を持っているのにもかかわらず、「適切な支援や療育を受けてこなかった」と指摘。「島津さんだけに全ての責任を負わせ、終わりにしてよい事件でしょうか。今後の療育や支援によって変わっていく可能性がある」と量刑上考慮するよう訴えた。
 18日の第2回公判で、島津被告が警察官や警備員を殺害した経緯が交番の防犯カメラなどをもとに説明されるとともに、犯行に使用された刃物や拳銃の実物が証拠として提出された。被告人質問で、検察側が凶器となった刃物や所持していたナイフについて尋ねたが、島津被告は黙秘を貫き、1問いかけに応じなかった。
 19日の第3回公判で、狙撃を受けた警備員が出廷し、当時の様子を語った。また県警で拳銃技術の優れた人を指導する特別訓練員をしていた警察官が出廷し、島津被告が銃の扱い方について基本がわかっていると述べるとともに、ほぼ正確に目標物をとらえていると証言した。
 21日の第4回公判で、被告を制圧した富山県警の男性警察官が出廷し「血だらけの被告が、おのを振り上げながら速度を緩めず5m先まで駆け寄ってきたので発砲した」と証言した。また押収物の一つに銃に関する雑誌があり、そこには市街地での銃撃戦について「銃規制がある日本などでは警察官か自衛隊から拳銃を奪って手に入れるしかない」などといったことが書かれていたと述べた。また当時の小学校校長も出廷し、当時の事件の状況を語り、事件後の児童の様子についても語った。
 22日の第5回公判で、殺害された警備員の長女が出廷し、「被告人に死刑を望んでいる。でも死刑になってもこの苦しみと一生付き合っていかないといけない」と証言した。
 28日の第6回公判で、島津被告の両親が出廷し、謝罪した。
 29日の第7回公判で被告人質問が行われたが、検察側や弁護側、裁判官からの質問を全て黙秘した。
 2月1日の第8回公判で、被告の精神鑑定を行った医師が出廷。鑑定医は、被告が抱える自閉症スペクトラム障害が、犯行動機の形成や、実行への心理的ハードルを下げたことを認めた一方、被告に幻覚や妄想という状態はなく、犯行は、本人の意思に基づいて行われていると指摘するとともに、根本的に罪の意識はないと証言した。また鑑定医は、島津被告が鑑定の中で、警察官を殺害したのは「八つ当たり」だったと述べたと証言した。
 2日の第9回公判で、弁護側が請求し被告の情状鑑定を行った、犯罪心理学を専門とする大学教授が出廷。島津被告に謝罪や後悔が一切なく被告自身の視点からの発言に終始していたとして、それが自閉症スペクトラム障害の特性であると話した。さらに自身が自閉スペクトラム症であることを知った島津被告は「治るのか」とたずね、障害の特性などの説明を受けると「もっと早く受診しておけばよかった」と、少し感情がこもったように話したと述べた。教授は島津被告の特徴として自らの内面を話すことが困難だとし、被告が法廷で何も話さないことについて、被告は「裁判を受ける」ことに関心が向き「被害者や遺族の心情を考えること」が切り離されていると指摘した。さらに、公開の場で十分話せるかという不安があるかもしれないし、嫌な記憶から逃れようとして口を閉ざしているのかもしれないと話した。そして判決の後に、自らの行為の重大性について考えさせることが必要で、被告が抱く社会から被害を受けているという感情を取り除くことが更生につながると述べた。また教授は、被告が「警察官に刃物を持って戦いを挑んで勝つ」という部分的な状況は見通せていたが、その先の展開まで予想できていたかは疑問が残るとした。そのうえで裁判の争点である強盗殺人罪の成立に関連した弁護側の質問に対し「自分より強い相手と戦うことに集中している」状態で警察官を倒してから拳銃を盗もうとしたこともあり得ると述べた。一方、遺族に謝罪の言葉がないのも自閉症スペクトラムの影響かという検察側の質問に対しては「一概に障害の影響とはいえない」と否定した。 検察側が被告が警察官を襲った理由についてどのように話したか問うと、教授は「警察官から拳銃を奪う」とも話したが、「とにかく警察官に勝つこと戦いを続けること」と繰り返し「戦い続けることは最後に死ぬということですよね」と第三者のように語ったと話した。そのうえで被告は自閉症スペクトラム障害の特性があることから、動機の判断については、慎重になるべきだとした。
 島津被告が黙秘を続けていることから、これまでの取り調べでの音声記録や供述調書などの証拠調べを行うこととなり、論告・求刑公判が延期された。
 4日の第10回公判で、被告の捜査機関による取り調べ時の供述と、入院中だった島津被告が弁護人と面会した時の音声などの証拠調べが行われた。逮捕後の警察官による取り調べでは、被告は犯行の動機について「(警察官の)拳銃を奪い取ろうとした」と供述。一方で、「一番の目的は警察官で、戦って生き残ったら(拳銃のつりひもを)切ろうと思っていた」と説明したり、何度も訂正を求めたりする一幕もあった。対人関係が築けないことによる生きづらさを吐露する場面もあった。警部補と交番裏口でもみ合いになり発砲があったことに関しては、「発砲したのは自分じゃない。警察官本人が発砲して自分の手のひらに当たった感じだった」と供述した。弁護人との面会では、警察官が倒れた直後「当然次の警察官がくると思ったので武器を確保しなければと思って拳銃を奪った」と話した。
 8日の第11回公判で、遺族が意見陳述。警部補の妻は「処置室に入ると医師や看護師が1人の男性を救命していました。『生きている』と思ったのも束の間、その隣の部屋に案内されました。主人がストレッチャーの上で寝ていて心電図は全く動いていませんでした。そのあと分かったのは、隣の部屋で救命されていたのは犯人だったということでした。あの時の光景は忘れることはできません」「命をもって謝罪してもらいたい。絶対に許すことはできない」と述べ、息子は「小学校の時、同級生に父は警察官だと言うと『かっこいい、強そう』と言われ、学年のみんなに愛される自慢の父でした。謝ることに時間がかかるならすぐにでも死んでほしい」と死刑を求めた。警備員の弟も「2年以上待ち続けてようやく裁判が始まり、被告人から名前さえ語られないのが残念です」「障害があっても悪いことをしたら平等に裁かれるべきだ」「私は被告人、島津に死刑を望みます。死後の世界で、兄と警部補に謝罪してほしいです」と極刑を求めた。警備員の妻は「課すべき刑は死刑だと思うが、できるだけ長く生きてもらいたい。その間、私たち家族の同じ苦しみや悲しみ、後悔をし続けて生涯を終えてほしい。大変な判断を私たち遺族は委ねることになります。遺族の思いをくみ取って頂き、判断して頂くことを願います」と話した。
 同日の論告で検察側は、永山基準の9項目に照らし合わせながら訴えた。被告が交番襲撃から拳銃強奪までにかけた時間は2分余りで「事前に計画していたからこその手際の良さ」と指摘。取り調べで被告は「記憶をたどりながら真摯に質問に答えていた」とし、「武器を奪うことが目的の一つだった」という被告の供述は「信用できる」と主張。自閉症スペクトラム障害の影響は「限定的だった」とした。そして「警察官へのテロ行為で、法治国家に対する挑戦」と指摘し、「2人もの尊い命が奪われ、重大な結果を生じさせた。他に類を見ないほど悪質、かつ凶悪な犯行だ。極めて理不尽で酌量の余地は全くない」と述べた。
 同日の最終弁論で弁護側は、「自分より強い武器を持った相手と闘うのが目的で、自分が生き残ったから拳銃を奪った」とする被告の供述は信用性があると主張。強盗殺人罪ではなく殺人と窃盗の両罪に当たるとして無期懲役が妥当だと求めた。自閉症スペクトラム障害は「事件全体に影響した」とした。
 8日に結審する予定だったが、審理時間が大幅に伸びたたため、一部が9日に変更された。
 9日の第12回公判で、弁護側の最終弁論の続きが行われ、他人に共感したり自分の気持ちを理解したりすることが苦手な自閉症スペクトラム障害の影響で、被告は人間関係をうまく築けなかったと説明した。子どもの頃にいじめや体罰を受け、問題解決手段として暴力に頼るようになったとし「障害は生まれつきのもの。どうしようもない事情もあった」と述べた。この障害の影響で被告の殺人への抵抗感が低くなっていたとし「(事件当時)責任能力が低下していた」と主張。情状酌量を求め「極刑がやむを得ないとは言えない」と強調した。更生の可能性についても言及した。自閉症スペクトラム障害の適切な療育と支援が必要とした上で「被害者や遺族の痛みを知るために、長い時間を与えてやってください」と訴えた。争点となっている強盗殺人罪についても改めて成立を否定し、殺人と窃盗罪が妥当とした。そして無期懲役を主張した。
 最終意見陳述で、島津被告は刑務官に車いすを押され、証言台の前へ移動した。大村裁判長が「何か言っておきたいことはありますか」と尋ねたが、前をじっと見詰めたまま全く動かなかった。1分近く沈黙が続いた後、裁判長が「答えがないということで終わります」と述べ、結審した。
 判決で大村裁判長は冒頭で 「主文、被告人を無期懲役に処する」と言い渡した。
 動機について、アルバイト先での傷害事件のあと、これまでも人間関係での失敗を繰り返してたにもかかわらず、同じような失敗をして何の展望もない人生を続けることを諦めて、自暴自棄になり、自衛隊で身に着けた能力が通用するか確かめたいと考え、警察官を標的にしたとした。そして警官殺害について被告逮捕後の取り調べは「内心を表現したものかは疑問を持たざるを得ない」とし、「交番を襲撃する前に具体的に計画していたことを示す客観的な証拠は見当たらない」としたうえで「警視を殺害した後に拳銃を取る意思が生まれた可能性を取り除けず、拳銃を奪う目的で殺害に及んだと認定するには合理的な疑いが残る」として、強盗殺人罪の適用を認めず、殺人と窃盗の罪に当たるとした。
 大村裁判長は極めて強固な殺意に基づく犯行として完全責任能力を認定し、「何ら落ち度のない2人の尊い命が奪われたことは重大で、動機は八つ当たり以外の何物でもなく身勝手で酌量すべき点は全くない」とした。一方で「被告が犯行に至る経緯や動機形成の過程には、本人の努力では如何ともしがたい難しい自閉症スペクトラム障害の影響が様々な面で表れている」「被告には力や強いものへのこだわりがあり、思考の柔軟性が低く、問題解決の選択の幅が狭いという点も動機に影響を与えている」「気づかれにくいがために適切な療育が受けられず深刻になものになってしまった」として、「酌むべき事情である」と認めた。また計画性についても「犯行に用いた武器は事前に準備したものではない」としたうえで、逮捕までの被告の行動も行き当たりばったりの面があり、交番襲撃から20分も経たないうちに現行犯逮捕されていることなどから「計画性は高いと言えない」とした。そのうえで、2人を殺害した事件のうち死刑及び無期懲役が宣告されたものを中心に比べて検討した結果、極めて重大なものであるとまで評価することができず「死刑を選択することがやむを得ないとまでは言えない」と判断した。
 大村裁判長は島津被告に対し「この先、長い人生のすべてをかけて、被害者及び、遺族らの痛みを理解したうえ、自らがいかに重大な過ちを犯したのかを考え続けること、生涯にわたる贖罪を行うことが当然の務めである」と話した。
備 考
 警察庁は、警察官が装着している拳銃入れ(ホルスター)を改良する計画を前倒しする方向で検討を始めた。過去の同種事件を受けて2020年度をめどに採用する計画で試作品も作られていたが、可能な限り早く配備する方向で検討する。交番などで勤務する制服警察官は腰などの位置につけたホルスターに拳銃を収めている。このホルスターの形状や材質などを改良し、緊急時にはすぐに拳銃を取り出せるが、本人以外の角度からは容易に取られないようにする。
 2019年、警察庁のモデル事業として、富山中央署管内の3交番に、映像を同署などにリアルタイム送信できる防犯カメラが設置される。そのうちの1つは、新しく建てられる奥田交番に設置される。
 現場となった富山中央署奥田交番は2020年3月28日、安全性を強化したモデル交番として建て替えられた。

 検察・被告側は控訴した。

氏 名
林淳一(42)
逮 捕
 2020年2月4日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、住居侵入
事件概要
 愛知県岡崎市の土木建築会社経営、鈴木悠太被告と同社従業員、林淳一被告とは共謀。2019年11月14日、岡崎市のマンション3階に住む貸金業の男性(当時49)方に林被告がベランダの窓から侵入。刃物のようなもので男性の首などを刺して殺害し、乗用車1台や財布など計6点(時価計約90万円)を奪った。鈴木被告が見張り役で、林被告が実行犯である。両被告は奪った車で約6km離れた岡崎市内の公園に乗り捨てた。
 鈴木被告と林被告は20年来の知り合いであった。鈴木被告は経営する土木建築会社の資金繰りに苦しんでおり、林被告も生活に困っていた。
 19日午前10時ごろ、うつぶせで布団をかぶり血まみれで死んでいる被害者を、部屋を訪ねた母親が見つけて発覚。
 玄関やベランダに設置されていた防犯カメラの記録媒体はなくなっていたが、岡崎署捜査本部は現場周辺の防犯カメラの解析などから犯人を特定。2020年2月4日、強盗殺人容疑で鈴木被告と林被告を逮捕した。名古屋地検岡崎支部は24日、起訴した。鈴木被告には殺意がなかったと判断した。
 3月24日、岡崎署捜査本部は窃盗ほう助と住居侵入ほう助の疑いで、同市の建築業の男性(当時33)と同県安城市の土木建築会社役員の男性(当時37)を書類送検した。鈴木被告は自身の会社の運転資金や生活費に困っており、約3年前に知り合った役員の男性に金の借入先を相談。紹介された建築業の男性が2019年10月中旬、鈴木被告に「被害者宅には現金があり、過去に複数回空き巣に入られているので、盗みに入ったらどうか」と持ち掛けた。建築業の男性は被害者に多額の借金があった。役員の男性や鈴木被告は被害者と面識はなかった。2人は共謀して2019年10月27日、鈴木被告から依頼を受け、岡崎市内の店舗駐車場から被害者宅まで案内するなどし、鈴木被告と林被告の襲撃を手助けした。名古屋地検は4月13日付けで2人を不起訴処分とした。
裁判所
 名古屋地裁岡崎支部 石井寛裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2021年3月9日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2021年2月15日の初公判で、鈴木悠太被告は「空き巣の計画はしたが強盗の計画はしていない。被害者との遭遇は想定外だった」、林淳一被告は「殺意はなかった」と、それぞれ起訴内容を一部否認した。
 冒頭陳述で検察側は「ナイフを持って行くことを事前に話し、事前にマンションの下見をし、金品を盗む目的で侵入した」と計画性を指摘。「仮に被害者に見つかった場合でも暴行を加え、強盗しようと考えた」と述べた。鈴木被告の弁護士は「強盗の実行行為はしておらず侵入もしていない」、林被告の弁護士は「経済的に困窮しておらず、動機はない。林被告は被害者と遭遇してパニックになって犯行に及んだ」と主張した。
 16日の公判における被告人質問で、屋外で見張りをしていたとされる鈴木被告は「マンション周辺の様子や被害者がいつ在宅しているかなどを事前に数回調べた」とし「被害者と遭遇した場合は(どう行動するか)想定していなかった」と説明。実行犯の林被告から携帯電話で「首を刺した」と知らされ「何で刺したのか」と問い詰めたが、林被告に「分からない」と言われて「それ以上は怖くて聞けなかった」と犯行当時の心境を述べた。
 22日の公判における被告人質問で、殺害の実行犯とされる林被告は、弁護側から確定的な殺意の有無を問われ「なかった」と改めて主張。金品を奪う計画については、犯行時の見張り役とされる鈴木被告に持ちかけられ「幼少期から兄に虐待を受けており、人から頼み事をされると断れない(性格になった)から」と、犯行に及んだ理由を述べた。
 26日の論告で検察側は「2人は空き巣狙いを前提にしながらも、被害者が帰宅して発見された場合、刃物などを使って強盗に及ぶことについて事前の合意があった。複数回突き刺したのは強い殺意に基づく犯行。犯行は計画性が高く、きわめて悪質」と指摘した。
 同日の最終弁論で弁護側は、「凶器の刃物は見つかっていない。事前に凶器は用意していない。短時間で現金を盗み、逃げる計画で、鉢合わせは考えておらず、強盗をする合意はなかった」とし、それぞれ役割に応じて鈴木被告は懲役3年、林被告には懲役13年が相当と主張した。
 判決で石井裁判長は、林被告に求刑通り無期懲役、鈴木被告に懲役29年を言い渡した。
 石井裁判長は、2人は事前に話し合い、護身用の刃物を持って空き巣目的で被害者方に侵入して金品を無理やり奪うことで合意していたと認定。また、事件の発案者である鈴木被告と、それに引き込まれた林被告の役割については「ほぼ同等」とした。そして林被告には「9回以上刺すなど殺意は強い。危険な犯行で、人命を軽視する態度は明らかだ」と述べた。鈴木被告には「自身の資金繰りのために林被告を巻き込み危険な役を任せた」としたものの殺意がなかったとして、酌量減軽した。
備 考
 

氏 名
黄奕達(44)
逮 捕
 2019年12月11日
殺害人数
 0名
罪 状
 覚醒剤取締法違反(営利目的輸入未遂)、関税法違反
事件概要
 台湾人の会社社長黄奕達(ホアン・イダ)被告は台湾人や日本人ら計7被告や氏名不詳者らと共謀。2019年12月7日頃、東シナ海の公海上で、船籍不詳の船が積んだ覚醒剤約586.523kg(末端価格約352億円)と覚醒剤であるフエニルメチルアミノプロパンを含有する液体約764mLを共犯者が乗る船に積み替え、同11日に天草市から陸揚げしようとしたが、海上保安官らに発見された。
 日本と台湾双方の窓口機関は2018年12月、密輸・密航対策で海上保安当局間の協力に関する覚書を締結しており、今回の摘発は初の大型案件。台湾の海巡署(海上保安庁に相当)は2019年6月、密輸計画の情報を日本側に提供し、海上保安庁、福岡県警などが合同捜査本部を設置して捜査していた。
 福岡県警などは11日、船内で覚醒剤を所持していたとして覚せい剤取締法違反容疑で3人を現行犯逮捕。ほか5人も密輸に関わったとして同法違反容疑で逮捕した。この8人は外国人と日本人で、大半は台湾人。このほかの数人についても12日に同法違反容疑で逮捕。
裁判所
 福岡地裁 岡崎忠之裁判長
求 刑
 無期懲役+罰金1,000万円
判 決
 2021年3月17日 無期懲役+罰金1,000万円
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2021年3月8日の初公判で、黄奕達被告は「覚醒剤とは知らなかった」と述べ、無罪を主張した。
 検察側は冒頭陳述で、今回の密輸では、海上で船から荷物を受け取る「瀬取り」という手法が採られたと主張。黄被告は台湾人グループの統括役の一人で、日本人グループは暴力団関係者が指揮していたとした。一方、弁護側は「金の密輸だと思っていた」として覚醒剤との認識はなかったと反論した。
 11日の論告求刑で検察側は「反社会勢力に莫大な資金が流れたり、国内に拡散される恐れがあった」と指摘した。
 判決で岡崎裁判長は「沈むリスクなどが高い船舶で金を運ぶとは考えにくい」などと指摘して被告側の主張を否定。黄被告の立場について、日本人グループの上位者と頻繁にやりとりするなどしていたとし「被告は覚醒剤であることを知っていて、密輸全体を統括する首謀者的立場で関与した。共犯者の中でも最も重い責任を取るべきだ」と指摘。その上で「陸揚げ後の運搬方法まで準備し計画性も高い、未遂事案の中でもかなり危険性は高く既遂に近い犯行」などと述べた。
備 考
 台湾人、日本人など男女24人が逮捕され、そのうち黄被告を含む16人が起訴されており、判決は初めて。

 被告側は控訴した。

氏 名
渋谷恭正(49)
逮 捕
 2015年4月23日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、強制わいせつ致死、わいせつ目的略取・誘拐、死体遺棄
事件概要
 千葉県松戸市の不動産賃貸業で小学校の保護会長だった渋谷恭正(やすまさ)被告は、小学校の修了式だった2017年3月24日朝、自宅から登校中だった小学3年でベトナム国籍の少女(当時9)を軽乗用車で連れ去り、車内でわいせつな行為をしたうえ、何らかの手段で首を圧迫して窒息させて殺害。遺体を我孫子市の排水路の橋の下の草むらに遺棄した。
 26日朝、遺体が発見され、翌日には茨城県坂東市の利根川河川敷でランドセル発見された。
 千葉県警捜査本部の聞き込み捜査などから、渋谷被告が容疑者として浮上。その後の捜査で、我孫子市の死体遺棄現場の遺留物から採取したDNA型と、渋谷被告のDNA型が酷似していることがわかった。4月14日、死体遺棄容疑で渋谷被告を逮捕。5月5日、殺人他の容疑で再逮捕。
裁判所
 東京高裁 平木正洋裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2021年3月23日 無期懲役(検察・被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2019年9月26日の控訴審初公判で、検察側は「信頼を逆手に取った極めて悪質な犯行」と被告を指弾し、極刑適用を求めた。弁護側は、一審の有罪判断の根拠となったDNA型鑑定の信用性に疑問を呈し、「被告は犯人ではない」と反論。弁護側はDNA型鑑定の対象となった被告のたばこの吸い殻の採取方法について言及。捜索令状を得ずに被告のマンション私有地に無断で侵入してゴミ集積場から持って行った捜査には重大な違法があり、鑑定結果は証拠から排除されるべきだと主張した。
 2020年1月31日の第2回公判で、DNA型鑑定の分析を行った京都大の玉木敬二教授が、一審と同様に検察側証人として出廷。渋谷被告のキャンピングカーから押収された手錠の付着物の分析結果について、「被害者のDNA型が含まれているのは明らかだ」などと証言した。
 2月12日の第3回公判で、DNA型鑑定の試料となったたばこの吸い殻を収集した県警捜査員ら3人が出廷した。捜査員らは証人尋問で、「路上のごみ集積場と同等の、誰でも出入りが可能な場所から回収した」と説明。その上で、「捜査の必要性があり、違法性はなかった」と述べた。  10月5日の公判で、被害者の少女の両親が高裁で初めて意見陳述をした。母親は「眠りにつく度に、助けを求めて叫ぶ娘の声で目が覚める。この痛みを言い表せる言葉はない」と声を詰まらせながらベトナム語で話した。父親は「娘を殺害した犯人に死刑判決を言い渡してほしい」と語った。
 11月17日の公判で、弁護側が無罪を主張して結審した。
 判決で平木裁判長は、捜査員がマンション管理者の承諾や令状を得ずに私有地に立ち入って吸い殻を収集したとし、「違法な捜索差し押さえで、厳しい非難に値する」と指摘した。ただし、捜査員が捜査を適法と確信していたことや、捜査では被告の鑑定試料を得る必要性が高かった点も踏まえれば、地裁が関連する証拠を排除しなかったことは違法ではないとし、被告を犯人とした一審の認定は正当だとして弁護側の主張を退けた。一方、「殺害態様は冷酷非情だが、被告は場当たり的な行動が多く、わいせつ行為後の殺害を必然の流れだと認識していたとはいえない」として計画性を否定した。そして「極刑がやむを得ないとまではいえない」として検察側の主張も退けた。渋谷被告は出廷しなかった。
備 考
 少女の両親は渋谷恭正被告に対して、慰謝料など計約7千万円の損害賠償を求める訴訟を2020年1月23日付で東京地裁に起こした。

 2018年7月6日、千葉地裁の裁判員裁判で、求刑死刑に対し一審無期懲役判決。被告側は即日上告した。

氏 名
大城賢誉(38)
逮 捕
 2019年5月27日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、窃盗
事件概要
 沖縄県宜野湾市の大城賢誉被告は2019年3月2日午前0時45分ごろから同2時45分ごろにかけて、宜野湾市に住む接客業の女性(当時32)をドライブに誘って沖縄県読谷村の残波岬に連れ出し、岸壁から突き落として殺害し、キャッシュカードと現金約2,000円入りの財布を盗んだ。そして2日~4日、川崎市の会社員である知人女性と共謀して宜野湾市と北谷町のATMで、キャッシュカードから6回にわたり現金約267万円を引き出した。
 大城被告は職業を転々とし、2019年1月に埼玉県川口市に引っ越して解体工として勤めており、事件当時は実家に戻っていた。事件後、再び川口市に行った。知人女性は嘉手納町にかつて住んでいた。大城被告と被害女性は以前同じ業種に勤めていた知り合いだった。大城被告は消費者金融に借金があった。
 同日午後0時半ごろ。沖合でうつぶせの状態で浮いているところを発見。119番通報で駆け付けた消防隊員がその場で死亡を確認した。
 自殺を図る動機がないなど、死亡に不審な点があったことや銀行から金が引き出されていたことから、沖縄県警と第11管区海上保安本部が捜査。県警は付近の聞き込みや防犯カメラなどで、大城被告と被害女性が事件前に2人でいるところを確認。また大城被告が財布を質店に入れており、その財布から被害女性のDNAが検出された。5月23日、窃盗容疑で大城被告と知人女性を逮捕。6月17日、窃盗容疑で大城被告を再逮捕。7月2日、強盗殺人容疑で大城被告を再逮捕した。
裁判所
 那覇地裁 大橋弘治裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2021年3月26日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2021年3月1日の初公判で、大城賢誉被告は「死なせたことは申し訳ない」などと述べた一方、「被害女性本人から依頼を受けて殺したもので、金欲しさに殺したのではない」として起訴内容を一部否認した。
 冒頭陳述で検察側は、被告が金銭ほしさに拝所巡りなどと称して被害女性を読谷村の断崖に誘い出し、背中を突き落とすなどして海中に転落させ殺害したと指摘。キャッシュカードが入った財布を奪い、共謀の女性にATMで現金約267万円を不正に引き出させたとした。そして「大城被告は犯行後被害女性のスマートフォンで被害女性自らが殺人を依頼し、現金を引き出すよう話したかのようなメッセージを残すなど偽装工作を行った」と指摘し、現金を奪うための計画的な犯行と主張した。
 弁護側は、「大城被告は被害女性にとって悩みを打ち明けられる存在で、以前から死ぬのを手伝ってほしいなどと自殺をほのめかす相談を受けていた」とし、「死にたい。お金を渡すからお願い」と頼まれ、自殺を手伝ったと反論。キャッシュカードと暗証番号が書かれたメモを手渡されたと主張した。被害女性の依頼で現金を引き出したため、窃盗罪も成立しないとした。
 3月22日の論告で検察側は、犯行前に殺害現場を下見したうえに、殺害後には嘉納さんのスマートフォンを使い現金の引き出しを依頼したかのようなメッセージを残すなど計画的に犯行に及んでいて、強盗殺人罪が成立するとした。そして犯行動機が金目的で、犯行対応も危険で残虐、極めて悪質で情状酌量の余地は皆無と指摘した。
 同日の最終弁論で弁護側は、「金銭目的で殺した確かな証拠はなく強盗殺人罪は成立しない」と反論。着衣に争った形跡もなく、被害者は大城被告に以前から自殺を相談していたことから、自殺の手伝いを求められ、お礼としてキャッシュカードを渡されたとして嘱託殺人罪が成立するとして懲役4年を主張した。窃盗罪についても、成立しないと主張した。
 大橋弘治裁判長は「大城被告は殺害直後に奪ったキャッシュカードの残高を照会するなど被害女性の預金に並々ならぬ興味を持っていたことがわかる」と指摘した。また、「事件直前に新しい服などを購入したり、エステサロンを予約したりしていたことから、殺害前の被害女性の行動をみても積極的に生きていくことが見て取れ大城被告に自殺を依頼したことは考えられず、金品の強奪を目的に殺害したことは明らかである」とした。そして被告がフィリピンパブなどで遊ぶ金欲しさに、27メートルの断崖から女性を転落させて溺死させたと指摘。「被害者の恐怖や苦しみは筆舌に尽くし難く、残虐な犯行」と非難した。「卑しい欲望のために被害者の未来を身勝手に奪った。犯行後の豪遊状況からは良心の呵責がみじんも感じられず、公判での弁解も後悔や反省が皆無だ」と述べた。
備 考
 大城被告と共謀し、キャッシュカードを使って現金を盗んだとして窃盗の罪に問われた女性は2020年1月28日、那覇地裁(君島直之裁判官)で懲役2年執行猶予4年判決(求刑懲役2年)。控訴せず確定。




※最高裁は「判決」ではなくて「決定」がほとんどですが、纏める都合上、「判決」で統一しています。

※銃刀法
 正式名称は「銃砲刀剣類所持等取締法」

※麻薬特例法
 正式名称は「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」



【参考資料】
 新聞記事各種



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