無期懲役判決リスト 2023年





 2023年に地裁、高裁、最高裁で無期懲役の判決(決定)が出た事件のリストです。目的は死刑判決との差を見るためです。
 新聞記事から拾っていますので、判決を見落とす可能性があります。お気づきの点がありましたら、日記コメントなどでご連絡いただけると幸いです(判決から7日経っても更新されなかった場合は、見落としている可能性が高いです)。
 控訴、上告したかどうかについては、新聞に出ることはほとんどないためわかりません。わかったケースのみ、リストに付け加えていきます。
 判決の確定が判明した被告については、背景色を変えています(控訴、上告後の確定も含む)。

What's New! 5月23日、大阪高裁は、国本有樹被告の一審無期懲役判決(求刑同)に対する被告側控訴を棄却した。



地裁判決(うち求刑死刑)
高裁判決(うち求刑死刑)
最高裁判決(うち求刑死刑)
7(0)
5(1)
5(0)

【最新判決】

氏 名
国本有樹(37)
逮 捕
 2020年1月27日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、死体遺棄
事件概要
 大阪市住之江区の塗装業、国本有樹被告は、大阪市西成区に住む塗装会社社長の男性(当時41)から借りていた280万円の返済を免れるため、2020年1月22日午後7時50分~同8時10分ごろ、男性の会社事務所で、男性の首などを刃物で複数回刺して殺害した。24日、西宮市の山中に遺体を遺棄した。
 国本被告は男性から仕事を請け負うなどしていた。また家族や友人のためと偽り、男性から借りていた。実際はギャンブル等で借金をしており、他の塗装会社で働いていた際も会社やほかの社員から借金を踏み倒したことがあった。
 22日夜に帰ってくると連絡のあった男性が帰ってこなかったことから、妻が23日午後2時半ごろ、府警に行方不明者届を出した。府警がその後、男性の塗装会社の事務所を調べると、建物の入り口に設置されたシャッター付近で、血が飛び散った痕が残り、事務所近くの側溝にも、血が流れたような痕があった。防犯カメラより不審な車両を確認した。国本被告の軽ワゴン車と似ていたことから、任意で事情聴取するとともに、車を押収。車内から血痕が発見された。さらに国本被告から提出されたスマートフォンを解析したところ、24日朝に兵庫県西宮市内の山中にいたことを示す位置情報の履歴を把握。周辺の防犯カメラを調べたところ、国本被告の車と酷似する車両が写っていた。27日、府警は会社事務所から約30km離れた西宮市内の山中で遺体を発見し、身元を特定した。同日夜、死体遺棄容疑で国本有樹被告を逮捕した。3月4日、強盗殺人容疑で再逮捕した。
裁判所
 大阪高裁 石川恭司裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年5月23日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 不明。
備 考
 2022年1月19日、大阪地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。

【2023年 これまでの無期懲役判決】

氏 名
川瀬直樹(51)
逮 捕
 2019年1月21日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、住居侵入
事件概要
 東京都足立区の無職川瀬直樹被告は2002年12月21日ごろ、近所の足立区のアパート2階の各部屋の呼び鈴を順次鳴らし、対応した会社員の男性(当時23)の頭や背中を持っていた刃物で切り付けたうえ、室内のフライパンで殴るなどして殺害。財布の中から現金約1万円や商品券十数枚を奪った。男性は千葉県内の実家に帰省する直前で、川瀬被告とは面識はなかった。
 川瀬被告は近所で父親と同居していたが、事件数日前に家を出て、公園で野宿をしていた。奪った金で台東区内のビジネスホテルなどに滞在し、その後は生活保護を申請して同区内のアパートなどで生活していた。
 2018年12月9日、川瀬被告は警視庁浅草署に出頭。現場に残されていた指紋を最新の技術で鮮明化したところ、川瀬被告の指紋と一致した。2019年1月21日、警視庁西新井署捜査本部は強盗殺人などの容疑で川瀬被告を逮捕した。
 東京地検は2月から川瀬被告の鑑定留置を実施。5月17日、強盗殺人と住居侵入の罪で起訴した。
裁判所
 最高裁第一小法廷 深山卓也裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年1月10日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 
備 考
 2022年2月2日、東京地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2022年9月29日、東京高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
宮岡龍治(68)
逮 捕
 2020年9月3日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、窃盗未遂
事件概要
 岡山県高梁市の建築業、宮岡龍治被告は2020年7月16日夜から同17日朝にかけ、近所に住む無職の男性(当時59)を結束バンドで縛りガムテープを顔に巻き、約20m離れた山中に掘った穴に突き落とし土砂で埋めて窒息死させ、男性方で現金約29万円が入った財布とキャッシュカード4枚を奪った。ほかに宮岡被告は9月2日、倉敷市のコンビニエンスストアのATMで男性のキャッシュカードを使って現金を下ろそうとしたが、利用停止措置がとられていて下ろせなかった。
 男性と宮岡被告は近所同士で、足が不自由な男性が通院や買い物で外出する際には宮岡被告が車で送迎するなど良好な関係だったが、2019年ごろ、宮岡被告が男性名義の口座から無断で現金を引き出したとしてトラブルになっていた。
 県内で別に暮らす男性の妹が19日、「数日前から兄と連絡が取れない」と行方不明届を出した。21日昼ごろ、捜索中の高梁署員が山中で埋め戻した痕跡に気付き、22日午前0時25分ごろ、遺体を発見した。
 岡山県警は9月3日、宮岡被告を窃盗未遂容疑で逮捕。24日、強盗殺人容疑で再逮捕。
裁判所
 広島高裁岡山支部 柴田厚司裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年1月25日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2022年11月2日の控訴審初公判で弁護側は一審同様、殺害は「かっとなってやった」ものだとして「殺害した時に金品を盗む意思はなく、強盗殺人罪は成立しない」と主張した。検察側は「自分の犯した罪に向き合えていない」と述べ、宮岡被告は「反省している」などと答えた。控訴審は即日結審した。
 判決で柴田厚司裁判長は、「遊興費や生活費を事欠いていたことは自身も認め、被告のメモからも借金の返済を意識していた」と述べ、ギャンブルなどで収入以上の金銭を必要とし、被害者方や口座から何度も現金を盗んだとして「目的は金品を奪う以外に考えがたい」と指摘。当日、娘にうその行き先を伝え、被害者を埋める穴を掘った点などから「突発的な犯行ではなく、確実に殺害して生存を偽装するといったある程度計画的な犯行だったとした一審の判決が間違いであったとは言えない」とした。
備 考
 2022年7月5日、岡山地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2023年5月10日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
菊地敬吾(50)
逮 捕
 2014年10月1日
殺害人数
 0名
罪 状
 組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)、銃刀法違反、現住建造物等放火、非現住建造物等放火、傷害
事件概要
 特定危険指定暴力団工藤会ナンバー3で理事長、出身母体となる同会最大の2次団体「田中組」の組長である菊地敬吾被告は、他の被告と共謀して以下の事件を起こした。
  • <元警部銃撃事件>2012年4月19日午前7時5分頃、北九州市小倉南区の路上で、県警元警部の男性(当時61)がバイクの男に銃撃され、足などに重傷を負った。男性は暴力団捜査に約30年間従事しており、工藤会専従の「北九州地区暴力団犯罪捜査課」で特捜班長も務めた。事件の前年に県警を定年退職していたが、退職後、自宅周辺で不審な車が目撃されていたことから県警の「保護対象者」になっていた。当日は、再就職していた市内の病院への通勤途中だった。工藤会トップである野村悟被告らの指揮命令の下、菊地被告が田中組の組員に実行を指示した。(組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)、銃刀法違反)
  • <標章ビル放火事件>2012年8月14日早朝、小倉北区の飲食店ビルのエレベータに放火して1基を焼損させた。ビル内には当時、飲食店店長らがおり4人が煙を吸うなどして軽症を負った。さらに約120m離れた別の飲食店ビルのエレベータにも火をつけ、1基を焼損させた。ビル内には誰もいなかった。被害総額は約5,500万円に上る。福岡県が2012年8月から始めた繁華街からの暴力団排除を目的に対象地域で標章を掲示する飲食店への組員の立ち入りを禁じる制度に基づき、暴力団組員の立ち入りを禁じる標章を店に掲示していた。菊地被告は組員に実行を指示した。(現住建造物等放火他)
  • <飲食店経営者女性他刺傷事件>2012年9月7日午前1時ごろ、北九州市小倉北区のマンション敷地内で、タクシーで帰宅したスナック経営の女性(当時35)の左ほおを刃物のようなもので複数回切りつけ、女性を助けようとしたタクシー運転手の男性(同40)の首や左手も切りつけて重傷を負わせ殺害しようとした。2人とも命に別条はなかった。菊地被告は組員に実行を指示した。(組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂))
  • <飲食店経営会社役員男性刺傷事件>2012年9月26日、北九州市小倉北区のマンション敷地内で、帰宅した飲食店経営会社役員の男性(当時53)の腰などを刃物で3回刺して刺して殺害しようとした。男性は全治半年以上の重傷を負った。男性は福岡県が2012年8月から始めた繁華街からの暴力団排除を目的に対象地域で標章を掲示する飲食店への組員の立ち入りを禁じる制度に基づき、暴力団組員の立ち入りを禁じる標章を店に掲示していた。男性は転居し、店から標章を外した。菊地被告は組員に実行を指示した。(組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂))
  • <看護師刺傷事件>2013年1月28日午後7時頃、福岡市博多区の歩道で、北九州市小倉北区の美容整形医院から帰宅中だった看護師の女性(当時45)が、後方から来た黒いニット帽にサングラスをかけた男に刃物で切りつけられ、頭などに重傷を負った。被害者が勤務していた美容整形医院で下腹部の手術を受けた野村被告が、術後の経過や被害者の対応に不満や怒りを抱いての犯行。野村被告らの指揮命令の下、菊地被告が田中組の組員に実行を指示した。(組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂))
  • <歯科医師刺傷事件>2014年5月26日午前8時30分頃、北九州市小倉北区の駐車場で、車から降りた歯科医師の男性(当時29)が刃物で胸などを刺されて重傷を負った。男性は(1)の事件で殺害された男性の孫で、漁協幹部の息子だった。男性は事件後、関わりたくないとリハビリ医師から診療を断られることもあり、雇ってくれる歯科医院もなかったことから、福岡を離れることになった。野村被告らの指揮命令の下、菊地被告が田中組の組員に実行を指示した。(組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂))
 2014年10月1日、看護師刺傷事件の組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)容疑で逮捕。2015年5月22日、歯科医師刺傷事件の組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)容疑で逮捕。7月6日、元警部銃撃事件の組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)容疑で逮捕。11月25日、標章ビル放火事件の現住建造物等放火他容疑で再逮捕。2016年6月3日、飲食店経営会社役員男性刺傷事件の殺人未遂他容疑で再逮捕。2017年6月2日、飲食店経営者女性他刺傷事件の組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)容疑で再逮捕。
裁判所
 福岡地裁 伊藤寛樹裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年1月26日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判の対象から除外された。
 2020年12月15日の初公判で、菊地敬吾被告は「身に覚えがありません」などと起訴内容を否認し、6事件全てで無罪を主張した。
 検察側は冒頭陳述で、冒頭陳述で検察側は「元警部銃撃事件」「看護師刺傷事件」「歯科医師刺傷事件」について、野村悟被告らの指揮命令の下、菊地被告が田中組の組員に実行を指示したと主張。他の事件では、田中組が北九州市小倉北区の繁華街を「縄張り」とする中、組の威光を示すための「見せしめ」として、菊地被告が組員に実行を指示したなどとした。弁護側は各事件について「菊地被告は関与しておらず、共謀したとの証拠もない」と反論した。
 2022年1月25日の公判における被告人質問で菊池被告は、「元警部銃撃事件」について弁護士から「事件に関与しているか」などと問われたのに対し「しておりません」などと述べ、改めて無罪を主張した。また野村被告の関与について菊地被告は「総裁に一切権限はない。見守っていただけるような存在」と述べた上で、トップと被害者との間にトラブルはなかったと主張。さらに、ナンバー2である田上不美夫被告の関与についても否定した。また、犯行に関与したほかの暴力団員に報酬を渡したとする検察の主張について「ありません」と否認した。一方、「事件を知って、工藤会が関与していると思わなかったか」と質問されたのに対して「全くないわけではありません」と述べた。
 2月15日の公判で、「歯科医師刺傷事件」について菊地被告は「関与しておりません」などと改めて無罪を主張。これまでの裁判で被告に次ぐ立場だった組員が「配下の暴力団員に被害者一族の行動を確認させていた」と証言したことについて「知りません」などと述べた。また、菊地被告は暴力団の資金獲得活動について「フリーランスの集まりみたいなもので個人が収入を納める。組織を挙げて行うことはない」と述べた。
 6月16日の論告求刑公判で、検察側は菊池被告を「工藤会の実質的序列3位」と位置づけた上で、元警察官、看護師、歯科医師が襲撃された3つの事件について「トップの野村悟総裁の意思決定に基づき、配下の暴力団員に犯行を指示するなど、中心的な役割を果たした」と主張。また、暴力団の立ち入りを禁止する飲食店の関係者が襲われた3つの事件について「犯行を決意した首謀者だ」と述べた。約3時間半にわたる論告の最後に、「菊地被告が組長を務める田中組の威信を誇示するための暴力的理論に基づく凶悪な犯行。実行を決定し配下の組員に指示した首謀者で、全面的に否認。(工藤会からの)離脱の意思も示しておらず、いずれも一般市民である被害者を襲撃し、それぞれ瀕死の状態にした。最高幹部の立場で6件の凶悪重大事件に連続して関与し、刑事的責任は極めて重大。いずれの犯行も必要不可欠で、首謀者ないし指示役として中心的な役割を担った。有期懲役をもって臨むのは軽きに失するのは明らかで、生涯にわたって償いの日々を送らせるべき」として、菊地被告に対し無期懲役を求刑した。
 10月6日の最終弁論で弁護側は、いずれの事件も菊地被告の関与を示す直接的な証拠はないと強調。野村被告の指揮があったとする3事件については、菊地被告との「意思疎通のプロセスが不明だ」などと述べ、他の事件も実行犯が菊地被告の配下組員であっただけだとした。動機面も様々な可能性を考慮しておらず、菊地被告の共謀は「推認に論理の飛躍がある」と訴えた。そして、検察側が共謀の根拠とする上位者の指示が絶対的という上意下達が徹底している工藤会の組織構造については、「ありもしない経験則で証拠もない」と否定し、すべて無罪を主張した。
 最終意見陳述で菊地被告は「すべての証拠を確認したが、初めて知ることばかりでした。私がやくざだからということで判断するのではなく、証拠に基づいた判断を、英断を期待します」と述べた。
 判決で伊藤裁判長は、標章に関する3事件について、暴力団組員の立ち入りを禁止する標章制度に菊地被告が強い反感を示し、被告が組長だった2次団体の田中組が組織的に行ったと認定。組員らが上位者の意向を無視して強行を繰り返すとは想像し難く、組員が独自に思いついたとは考え難い。被告の意向が働いていないのは「不自然、不合理」と指摘した。
 残る3事件は、工藤会トップで総裁の野村悟被告らに動機があり、組員らが役割分担して実行に関わったと判断。菊地被告は実務を取り仕切る責任者を務めており「崇拝の対象である総裁・野村被告、大所帯の工藤会を率いる会長・田上被告は、組員との接点が限られる中、各事件を成立させられるのは、野村被告から田上被告、菊地被告と、順に経由するほかに見合うものは考え難い。菊地被告が野村被告、田上被告から指示を受け、それを具体化して組員に伝えていたと推認させる」と結論付けた。そして「(菊地被告は)加害行為の主力となった組員らが所属する最大二次団体(田中組)の長として組織の凶行に原動力を与え、また最上位者らの意向に基づいてその成就に尽力する立場から凶行に推進力を与え、重要な関与をしたと認められる」「市民生活の安全と平穏を願う社会の意思表示に真っ向から背き、組織により踏みにじった。反社会性、攻撃性、危険性が著しく高度に達した重大な加害行為だ。法が許容する上限近くの量刑が避けられない」と指弾した。
備 考
 元警部銃撃事件、看護師刺傷事件、歯科医師刺傷事件の首謀者であり、元漁協組合長射殺事件の首謀者として認定されて殺人や銃刀法違反、組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)の罪に問われた工藤会トップで総裁の野村悟被告は2021年8月24日、福岡地裁(足立勉裁判長)で求刑通り一審死刑判決。被告側控訴中。
 元警部銃撃事件、看護師刺傷事件、歯科医師刺傷事件の指示役であり、元漁協組合長射殺事件の指示役として認定されて殺人や銃刀法違反、組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)の罪に問われた工藤会ナンバー2で会長の田上不美夫被告は2021年8月24日、福岡地裁(足立勉裁判長)で一審無期懲役+無期懲役判決(求刑無期懲役+無期懲役・罰金2,000万円)。被告側控訴中。
 建設会社会長殺人事件の実行犯であり、2012年に暴力団排除の標章を掲示した飲食店のビルが放火されたり、経営者らが襲撃されたりなどした3事件、2012年の元警部銃撃事件、2013年の看護師死傷事件、2014年の歯科医師死傷事件に関与し、殺人、組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)などの罪に問われた組幹部の中西正雄被告は2022年9月28日、福岡地裁(神原浩裁判長)で求刑通り一審無期懲役判決。被告側控訴中。
 被告側は控訴した。

氏 名
内藤昌弘(43)
逮 捕
 2021年5月1日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、強盗殺人未遂、横領、窃盗、住居侵入
事件概要
 千葉県市原市の無職、内藤昌弘被告は2021年3月3日、同市の質店で、同市に住む叔父(当時74)から借りていた腕時計1本(42万円相当)を売り渡した。
 内藤被告は遊興のため多額の借金があったが、2021年1月末の出勤を最後に配管工を退職。収入がなくなったため、金のネックレスなどを持っていた叔父なら「金を持っていそう」と頼り、ロレックスの腕時計を質入れするため借りた。買い取りの方が高額だったため、質店で腕時計を売った。
 さらに内藤被告は3月31日、叔父方に侵入し、携帯電話やゲーム機など計7点(時価計約9万4千円相当)を盗んだ。ゲーム機1台とゲームソフト5本は、県内のリサイクル店に売った。
 4月30日午後3時ごろ、同市に住む叔父(当時74)方を訪れ、腕時計を返すふりをして叔父の胸を刃物のようなもので刺して殺害。腕時計の返却を免れようとした。さらに制止しようとした叔父の長男(当時42)の胸も刺して、全治1か月のけがを負わせた。
 叔父は内藤被告の叔母の配偶者で、長男は内藤被告の従兄弟に当たる。
 長男は市原署へ通報。署は長男からの証言をもとに、逃走した内藤被告の行方を追い、同日夜、市内で停車中の車に一人でいる内藤被告を発見し、身柄を確保した。内藤被告は容疑を認めたため、5月1日、市原署は長編への殺人未遂容疑で逮捕した。22日、腕時計を売り渡した横領の罪で再逮捕。6月17日、ゲーム機などを盗んだ窃盗と住居侵入の容疑で再逮捕。7月15日、叔父への強盗殺人容疑で再逮捕。
裁判所
 最高裁第二小法廷 岡村和美裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年2月1日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 
備 考
 2022年3月23日、千葉地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2022年10月21日、東京高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
山口利家(60)
逮 捕
 2022年4月6日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、死体遺棄、建造物侵入、窃盗未遂
事件概要
 大阪市淀川区の2階建て住宅の2階に住む運送会社トラック運転手の山口利家(としや)被告は2022年4月3日午前8時35分~10時50分ごろ、階下の弁当店で働くベトナム国籍の女性(当時31)に「店長にも言ってあるから、貴重品を持ってきて」と声をかけて自宅に誘い込み、背後から首を絞めて殺害。手提げかばんにあった現金約26,000円を奪った。そして遺体を布団の圧縮袋に包んで粘着テープで縛り、上から空気清浄機を置いてテレビ台の裏側に遺体を隠した。
 他に山口被告は、2021年12月5日午前3時ごろ、自宅の階下にある弁当店に勝手口から侵入。レジの引き出しを開けるなどして、金品を盗もうとしたが金品が店内になく、失敗した。発覚を免れるため、店からモニターとSDカードを持ち去った。
 山口被告は腰を痛めてから休みがちになって給料が下がり、生活に困窮していた。長期にわたり家賃の滞納が続いており、大家から退去を求められていた。
 女性がいないことを不審に思った店主は防犯カメラ映像を確認し、午前8時30分ごろに勤務中の女性を外に連れ出す山口被告の姿が映っていたことから午前10時50分ごろに山口被告宅を訪ねたが、山口被告は「知らない」と答えた。
 店主の連絡を受け、警察官が同日深夜に住宅を訪ねると、ベッドの上で山口被告が首から血を流して倒れていた。山口被告は犯行がばれると思い、包丁で首を切っていた。府警は室内を詳しく調べた結果、圧縮袋に入れられた女性の遺体を発見した。容態が回復した6日、強盗殺人容疑で逮捕した。5月2日、建造物侵入と窃盗未遂容疑で再逮捕した。
裁判所
 大阪地裁 中川綾子裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年2月3日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2023年1月26日の初公判で、山口利家被告は被告は「最初から殺す目的やお金を奪う目的で誘っていない」と述べ、起訴内容のうち強盗殺人罪に限って否認した。
 検察側は冒頭陳述で、山口被告は給料が減ったため生活に困窮し、21年12月ごろから家賃の滞納が始まったと指摘。「大家から退去を求められ、事件直前の所持金は100円未満だった」としたうえで、事件当日は女性に抵抗されたことから殺害や金品の強奪を決意したとした。殺害後は奪った金で酒や煙草を買っていたと指摘した。
 弁護側は「被告は金を借りようとした。山口被告には柔道の経験があり、被害者に大声を上げられたので失神させようと首に腕を回したら、動かなくなってしまった。絞め技のつもりが死亡させてしまったことに驚き、その後、金を奪おうと考えた」と主張。強盗目的や殺意はなく、傷害致死と窃盗罪の適用を求めた。犯行後、酒を買ったことについても「被告は落ち着くためにアルコールの力を借りようとした」と主張した。
 山口被告は被告人質問で、2021年末ごろから給料が減り、家賃の滞納など生活が困窮していたとし「(女性に)金を貸してくれと頼んだが大声を出された」と説明。ソファに座っていた女性の背後から2~3分間、右腕を首に回し、外れかけたこともあったと述べた。
 31日の公判で被害者参加制度を利用して出廷した被害者の夫は、「私たち家族はあなたを許すことはありません。被告は、夢をいっぱい持っている女性の命を奪った。適切な判決を望む」と意見陳述した。また被告に対して「もしあなたの妻・娘が命を奪われたらどう思いますか」と質問。山口被告は「同じことをしてやりたいと思います」と答えた。
 同日の論告で検察側は、被害者を自室に誘い込んだ2分後、のどの軟骨が折れるほどの強い力で首を絞めたとし、死亡後にすぐ金を奪って酒やたばこを購入するなど、当初から強盗目的があり、殺意も認められると主張。被告は生活に困窮し、被害者に「店長から言われているので、貴重品を持ってきて」とうそを言って自宅に誘い込んだとして、一定の計画性もあるとした。そして「殺害してでも金を手に入れようとした動機は極めて理不尽かつ身勝手で、落ち度のない被害者の恐怖は計り知れない」と述べた。
 弁護側は最終弁論で、金を借りるつもりだったとし、強盗目的はなかったと反論。被告は弁当店の入り口で被害者に声をかけており、「強盗目的ならば、カメラがあって発覚を防ぐことが不可能な場所を対象にするだろうか」と疑問視した。中学時代の柔道の経験から失神させられると考えて首を絞めたのであり、被害者を気絶させようとしたつもりが結果的に死亡させたのであって殺意もなかったとし、傷害致死と窃盗の罪にとどまると主張して懲役10年が相当とした。
 山口被告は最終意見陳述で、「(言いたいことは)ありません」と述べた。
 判決で中川裁判長は、被告が所持金100円未満で生活に困窮する中、面識のない外国人女性に頼んでお金を貸してもらえるはずがないうえ、弁当店の防犯カメラには、貴重品など金品を持っていくよう念押しして急かしている様子が映っていて、うそをついて自宅内に誘い込んでおり、当初から金品を強取する目的だったと指摘。首を背後から強く絞め続けた状況から殺意もあったと判断できるとして、強盗殺人罪の成立を認めた。そして「金欲しさのあまりの身勝手な犯行で、2~3分間首を絞め続けるなど冷酷。被害者が感じた恐怖は大きく、全く落ち度のない未来ある1人の女性の命が奪われ、夢を打ち砕かれた結果は極めて重大。遺族の悲しみも計り知れず、被告には重罪を犯したことへの反省がない」と指弾した。
 判決の言い渡し後、中川裁判長は被告に「あなたの行為により、落ち度のない未来ある女性の夢を打ち砕いたことは、受け止めてください。被害者の冥福を祈りながら刑に服してください」と説諭した。
備 考
 被告側は控訴した。

氏 名
上山亮(44)
逮 捕
 2019年12月9日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、銃刀法違反、詐欺
事件概要
 東京都板橋区の会社役員、上山亮被告は経営する会社の資金繰りに苦労したため、2019年3月から複数回にわたり、投資運用の目的で仕事上の付き合いがあった浜松市に住む飲食店グループ社長の男性から多額の貸し付けを受けた。投資運用は架空のもので、男性は口座に振り込ませた金を会社の運営費や交遊費に充てていた。利息分を上乗せして返済する契約で、当初は計画通りに支払われたが、10月頃から返済が滞った。神山被告は同年9月23日ごろから10月3日ごろまでの間、借り入れた現金を借金返済などに当てる意思であるのに投資運用で利益を加えて返済するなどと男性にうそを言い、同日に現金1,000万円をだまし取った。上山被告は12月時点で借金と利息分など約3,400万円の債務を負っており、うち約2,200万円の弁済期限が過ぎていた。
 上山亮被告は返済を免れようと12月8日午後9時15分ごろ、社長(当時38)の男性方敷地内に停車中の車内外で社長の胸や首などを包丁で刺して殺害した。上山被告は凶器をその場に捨て、東京から乗ってきた自分の車で逃走した。
 社長は「知り合いの上山が2,000万円返しに来る」と妻に言って自宅の外に出た後、午後9時20分ごろ、血まみれで自宅に戻ってきたため、妻が110番通報。社長は失血死した。静岡県警は上山被告の行方を追い、9日午後0時40分頃、東京都港区新橋の路上で、県警の捜査員がひとりで歩いていた上山被告を発見、殺人容疑で逮捕した。静岡地検浜松支部は後に殺人と銃刀法違反の罪で起訴した。
 2020年2月11日、社長に投資話を持ち掛けて2,700万円をだまし取った詐欺の容疑で上山被告を再逮捕。体調不良で一時釈放され、24日に同容疑で再逮捕。3月13日、静岡地検浜松支部は2019年9月23日ごろから10月3日ごろまでの間、借り入れた現金を借金返済などに当てる意思であるのに投資運用で利益を加えて返済するなどと男性にうそを言い、同日に現金1千万円をだまし取ったとして詐欺罪で追起訴した。同日、殺人罪から強盗殺人罪への訴因変更を静岡地裁浜松支部に請求した。静岡地裁浜松支部は4月23日付で、訴因変更を認めた。
裁判所
 東京高裁 島田一裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年2月10日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2022年12月23日の控訴審初公判で、弁護側は一審に続き「返済を免れる目的はなかった」として、強盗殺人罪を一部否認し、殺害動機に関する一審判決の事実誤認や量刑不当を訴えた。上山被告は被害者から「金を返さなければ家族に危害を加える」という趣旨の返済要求を受けたと指摘。殺害に及んだのは家族を守るためだったとして、「強盗殺人罪は成立せず、殺人罪にとどまる」と主張した。
 検察側は、一審判決は被害者との関係性や上山被告の事件前の行動を「総合的に評価して強盗殺人罪を認定している」と反論し、控訴棄却を求めた。
 弁護側は3点の証拠の取り調べを請求したが、高裁はいずれも却下した。弁護側は「検察への反論の機会がほしい」と主張し、島田裁判長はこれを認めた。
 判決で島田裁判長は、被告が事件前に家族の安全確保について警察や弁護士に相談していなかった点などを踏まえ、「借金返済のめどが立たず、追い詰められて殺害を計画したという推認に不合理な点は認められない」と、弁護側の主張を退けた。
備 考
 2022年3月25日、静岡地裁浜松支部の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。

氏 名
相澤大広(22)
逮 捕
 2021年7月23日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、住居侵入
事件概要
 宮城県松島町のアルバイト相澤大広(たいこう)被告は2021年7月15日午後1時半ごろ、近くに住む女性(当時85)の自宅に盗み目的で侵入。財布から現金を取ろうとした際、女性と鉢合わせしたため、女性の頭部を玄関にあった金づちで何度も殴るなどして殺害し、現金およそ52,000円を奪った。
 相澤被告は事件発生の1カ月ほど前に事故を起こして車を廃車にし、その後、家出していた。
 女性は一人暮らしで、連絡が取れないことを不審に思った親族が16日午後、民間の訪問サービス業者に連絡。担当者が警察官とともに女性宅を訪れ、玄関で倒れている女性を発見した。
 宮城県警は23日、殺人容疑で相澤被告を逮捕した。仙台地検は8月13日、強盗殺人と住居侵入の罪で起訴した。
裁判所
 仙台地裁 大川隆男裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年2月10日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2023年1月27日の初公判で、相澤大広被告は「おおむね間違っていないが、現金を取るために殴ったわけではなく、殺意もなかった」と、起訴内容の一部を否認した。
 検察側は冒頭陳述で、「金に困っていた被告は、玄関が空いていた被害者の家に侵入した。バッグの中から財布を見つけたが、被害者と鉢合わせたため、助けを呼ぼうと玄関に向かった被害者の口をふさぎ、靴箱にたてかけてあった金づちで殺意を持って頭を何度も殴った」などと述べた。弁護側は「被告は、暴行を加えた時点で財布の存在に気づいていなかった。相澤被告は気が動転し、暴行も逮捕から逃れるためで、強い殺意はなかった」として強盗殺人ではなく、殺人と窃盗の罪にあたると主張した。
 2月3日の論告求刑公判で検察側は、被告は犯行当時、多額の借金があったほか、犯行前に4時間にわたり下見をしていた事実などから、「暴力で金を奪う目的があった」と指摘。「身勝手な理由で、無関係、無防備な被害者を金づちでめった打ちにするなど、残忍で凄惨な犯行」とした。
 同日の最終弁論で弁護側は、「被害者に気付かれて動揺する中、金のことなど考えておらず捕まりたくない一心での暴行だった。暴行した際には窃盗する意思はなかった。年齢が若く更生の機会を与えるべき」と殺人罪と窃盗罪での有期刑を求めた。
 判決で大川隆男裁判長は、盗みの目的で被害者宅に侵入していて、「逃走は容易だったのに、暴行に及んでいたことなどから、暴行した際に現金を奪おうという目的があったといえる」として強盗殺人罪が成立すると認定。「制圧目的で強い暴行を加える必要はない。被害者がほとんど確実に死亡するという認識があったと認められる。空き巣目的で侵入した家に偶然いた被害者を、金づちでめった打ちにしており、残忍」と指摘。弁護側の主張については、「暴行の場面だけ現金を奪うことを全く考えていなかったということは考え難い。暴行の前後で内心が変わったというのはでき過ぎた話」と退けた。そして「犯行は残忍かつ凄惨で、何の落ち度もない被害者の命を奪った結果は重い。金欲しさから安易に及んだ犯行で、動機も身勝手すぎるとしかいいようがない。結果は重く取り返しはつかない」と述べた。
備 考
 被告側は控訴した。

氏 名
盛藤吉高(53)
逮 捕
 2020年5月31日
殺害人数
 2名
罪 状
 殺人、窃盗、道路交通法違反(ひき逃げ)
事件概要
 福島県伊達市出身、住所不定、無職盛藤吉高(もりとう・よしたか)被告は2020年5月31日午前7時55分ごろ、福島県三春町の国道288号脇で、地元の清掃活動のボランティアをしていた同町に住む会社員の男性(当時55)と会社員の女性(当時52)を準中型免許を持たずに準中型トラック(約2.5t)で、いったん通過して150m先でUターンし、時速約60~70キロまで加速しながらはねて殺害した。現場は、ほぼ直線の片道一車線だった。
 現場で男性らと一緒に作業していた人が110番通報し、県警は現場から約15km離れた同県須賀川市内で車体前部が破損しているトラックを発見。車内にいた盛藤被告を事故から約4時間後に自動車運転死傷行為処罰法違反(無免許過失運転致死)と道路交通法違反(ひき逃げ)容疑で緊急逮捕した。
 盛藤被告はパチンコ店での暴行や飲食店での恐喝未遂、つきまとっていた女性への監禁などの罪で5回の有罪判決を受け、計3回、刑務所で服役。盛藤被告は3回目の服役中、知り合いの内装工事会社の社長に手紙を送り、出所後に雇ってもらう約束をした。しかし、仮釈放を間近に控えた2020年4月上旬、刑務所職員に反抗したとして、仮釈放は取り消しになった。雇用を約束していた社長は被告の住まいとしてすでにアパートの部屋を契約していたが、被告の態度に失望し、白紙にすると手紙で伝えた。2021年5月29日、福島刑務所を出所した。高校時代の後輩2人が車で出迎え、3人で福島市内の喫茶店に入った。2人は被告を叱り、当面の生活資金として計10万円を手渡した。行く当てもなく、翌日、内装会社の事務所に押し掛けた。社長は「ちゃんと仕事をするならチャンスを与える」と言って知り合いが経営する土木解体会社での住み込みの仕事を紹介した。2、3カ月まじめに働けば自分の会社であらためて面接すると約束した。盛藤被告はその日のうちに紹介された郡山市にある解体会社の寮に入った。しかし盛藤被告はなじみのない職場で未経験の仕事をすることに不安で一睡もできず、31日午前7時30分ごろ、寮の壁にかかっていた鍵を取り、トラックを盗んだ。およそ5km離れた現場に向かい、事件を起こした。逮捕後は「社会生活に不安があり、刑務所に戻った方がましと思った」「誰でもよかった。車なら簡単に殺せると思った」などと供述。2人とは面識がなかった。6月19日、トラックの窃盗容疑で再逮捕。
 福島地検郡山支部は6月30日、現場にブレーキ痕がなかったことなどから殺人などの罪で盛藤被告を起訴した。
裁判所
 仙台高裁 深沢茂之裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2023年2月16日 無期懲役(一審破棄)
判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
裁判焦点
(一審)
 裁判員裁判。
 2021年6月7日の初公判で、盛藤吉高被告は故意に人をはねたことを認める一方、「死ぬかもしれないとは思ったが、積極的に殺害しようと思ったわけではない」と明確な殺意については否定した。
 冒頭陳述で検察側は、「刑務所を出所したばかりの盛藤被告が、衣食住が保証された刑務所に戻り、長く服役したいと考えて無差別に2人を殺害した」と指摘。「事件前夜から通行人2人くらいをはねると決めていた」と主張し、明確な殺意に基づいてトラックで2人連れを探し回り、確実に殺害するため時速60~70キロまで加速したと説明。そして「人命を軽視する態度がはなはだしい」などと厳しく指摘した。弁護側は、盛藤被告が故意に2人をはねて死亡させた事実を認める一方、「積極的に殺害しようとしたのか、それとも確実に死ぬか分からないが死んでもかまわないと思っていたのかという点に着目してほしい」と説明。殺意の程度について争う姿勢を示した。
 この日は、検察から「被告を到底許すことはできない。自分の命でつぐなってほしい」との遺族の供述調書も読み上げられた。
 8日の第2回公判で盛藤被告に対する被告人質問が行われた。盛藤被告は「刑務所を出所してからなじみの無い新たな環境で働いていくことに不安が募り、衣食住が揃う刑務所に戻るために車を使って当て逃げしようと思いついた」と犯行の動機を語った。事件当日を「縁石などの障害物がない場所を歩く2人連れを探して回った」と振り返り、2人をはねたことについて「1人だけをひくより、2人をひくほうが罪が重くなると思った」と述べた検察側はトラックを加速させ犯行に及んだ理由を聞くと「覚えていない」などを繰り返した。「刑務所に戻りたかったのか」と問うと、盛藤被告は、「社会生活を送っていく自信がなかった」などと答えた。一方、弁護側の「今でも刑務所に長くいたいと思っているのか?」という質問に対しては、盛藤被告は「なるべく早く出たい」と答えた。そして、被害者や遺族に対しての心境を問われると「大変申し訳ないことをしてしまった」と謝罪の言葉を述べるも、「殺そうとは考えていない」と殺意を改めて否認した。盛藤被告は消え入るような声で「そうだったと思う」「ですかね」などの曖昧な回答や沈黙を繰り返した。小野寺裁判長や弁護側から計約40回聞き直されたり「もう少し大きな声で」と注意を受けたりする場面もあった。
 9日の第3回公判で被告人質問が行われ、盛藤被告は遺族への心情を問われ「自分勝手な考えで大変な事件を起こし、申し訳ないと思っている」「事件前になぜ考え直すことができなかったのか。思いとどまれなかったのか」などと述べた。
 この日は、死亡した男性の妻が被害者参加制度を利用して出廷。長男に付き添われながら証言台の前に立ち、刑務所に戻るために2人をひき逃げしたとする盛藤被告を前に「犯人の夢をかなえるような判決だけはやめてください」と訴えた。被告の厳罰を求める約1万4,000人分の署名を踏まえ、「皆さんの心情を考慮し、厳格な判断をお願いします」と述べた。さらに「もし刑務所を出所したら、また罪のない誰かを傷つけ刑務所に戻ろうと同じことを繰り返す」と非難し「盛藤被告は自分の夢をかなえるため、普通では考えられないほどの恐怖と痛み、絶望を与えた」と男性の思いを代弁。「大切な主人を返して」と訴えた。
 また検察官は、もう1人の被害者の女性の弟の意見陳述書を「失うものがないからと言って、何ら関係のない2人を犠牲にしたことは許し難い。民意が感じられる判決を望む」などと読み上げた。
 11日の論告求刑で検察側は、殺害までの意思決定や経緯は極めて悪質であり「殺害意欲に基づく犯行であることは明らか」と指摘。「これは無差別殺人事件だ、被告の生命を軽視する態度が甚だしく、殺人事件の中でも厳しく非難される」と非難。刑務所に戻りたいという身勝手な動機で2人を死亡させた犯行は残虐極まりなく、現場に引き返してトラックを加速させるなど強い殺意があったと指摘。再犯を重ねる盛藤被告に対し「更生の可能性は極めて乏しい。2人の命を奪った重大性や自らの責任の重さを理解しているとは思えない。罪責は誠に重大で、死刑はやむを得ない」として死刑を求刑した。
 同日の最終弁論で弁護側は殺人罪の成立は争わないとする一方、「被告は事件前夜に犯行を思いつき、行為に及んでいるため積極的に計画した犯行ではない。被害者が死ぬかどうかは分からず、死んでもいい」と思ったのであって、「確実に殺そうとしたわけではない」と主張、無期懲役を求めた。
 最終意見陳述で盛藤被告は、「被害者の方、遺族の方へ取り返しのつかないことをしてしまい本当に申し訳なく思っています。本当にすみませんでした」と頭を下げた。
 判決で小野寺健太裁判長は、「被告は、別の罪での懲役1年6か月の服役を終え、事件の2日前に刑務所を出たあと、新しい人間関係や慣れない土地や仕事への不安が募り、長く刑務所に入っていたいと犯行を考えるようになった」と指摘した。そのうえで「当時、時速60から70キロメートルの速度に加速させてはねていて、被告は殺害の意欲こそなかったものの、被害者が死亡する蓋然性が高いことを認識していた。意図的に犯行に及んでおり、殺意も明白だ。長く刑務所に入っていたいという身勝手な動機に酌むべき事情はなく、犯行の残虐さなども考えると、場当たり的で稚拙な面があったことは否定できなく高度の計画性が認められないことを踏まえても、計画段階から人が死亡する可能性を認識して実行した点に人命軽視の度合いの強さが表れており、責任は誠に重い。死刑の選択がやむを得ないとの結論に達した」として死刑を言い渡した。

 2021年11月9日の控訴審初公判で、盛藤被告の弁護側は、「殺意がなかったのに殺意を認定した一審の判決は事実誤認で、死刑判決は量刑不当」などとして、傷害致死罪が妥当と主張した。また、弁護側は、裁判所に対し被告の精神状態などを調べる情状鑑定を行うよう求めた。 一方、検察側は一審の判決を指示し、控訴の棄却を求めた。
 2022年5月12日、第2回公判(が開かれたと思われる)。
 6月9日の第3回公判で被告人質問が行われ、盛藤被告は「被害者と遺族に申し訳ないことをした」と謝罪の言葉も口にするも、「(被害者にトラックを当てるために)ハンドルを切ったが、タイヤでひくことは考えていなかった」と殺意を否認した。トラックを時速約60kmに加速した後、衝突地点の10mほど手前で目線を下に向けたとも語り、衝突時の様子について「分からない。偶然のことだった。被害者がよけることもできたのではないかと思う」などと話した。控訴審で殺意を否定した理由などを検察官から問われると、被告は「徐々に思い出した。今日話したことの方が正しい」と話した。
 11月15日の第4回公判で、弁護側が請求した交通事故調査会社の代表が証人として出廷。会社代表は「トラック左側のタイヤが草地に乗り上げ、車体が上下左右に揺れたと考えられる」と証言。「被告が意図通りに運転するのは難しかった可能性がある」との見解を述べた。検察は、トラックがガードレールに接触しなかったことから、盛藤被告が思い通りに運転できていた可能性が高いと主張した。
 12月20日の第5回公判で、死亡した男性の妻は被害者遺族の意見陳述で、「(死亡した)女性と主人に責任転嫁をして反省していない。一審と同じ判決を望む」と語った。
 弁護側は最終弁論で「(盛藤被告は)2人の生死に関心はなく、せいぜいけがをさせることであって真の故意は傷害だ」と主張。当時の路面状況などから「トラックを的確に運転できなかった上、被害者らはトラックを回避できる可能性が残されていた」と指摘し、一審の死刑判決は不当とした。
 検察側は路面状況の影響はないとし「被害者に衝突して衝撃があったのに、ガードレールに接触せず走り去ったのはトラックを的確にコントロールしていたため」と反論。「被害者は逃げ場もなく回避は不可能」と弁護側の主張を否定し「量刑判断に影響を与えるものではない」として一審判決に誤りはないとして控訴の棄却を求め、結審した。
 判決で深沢裁判長は、盛藤被告が2人を死亡させる可能性が高いことを認識しながら意図的に犯行に及んだとして、一審同様に「明白な殺意」があったと認定。「刑務所に戻りたいなどの身勝手で自己中心的な動機から無差別に被害者2人を殺害するなど極めて悪質。人命軽視の度合いは大きく、社会に与える影響も重大」などと非難した。一方で死刑判決については「誠にやむを得ない場合に行われる究極の刑罰で、慎重に行われなければならない」と説明。その上で、新しい人間関係や未経験の仕事などへの不安から自棄的になって及んだ犯行の動機や計画性などに触れ、「長く刑務所に入るという目的が達成できればよかったのであり、他人の生命を侵害すること自体から利益を得ようとしたわけではない」「犯行に場当たり的な面があり、稚拙」「被害者2人が死亡する危険性が極めて高いが、殺害の意欲までは認められない」「生命軽視の態度や姿勢は明らかだが、甚だしく顕著とまでは言い難い」などとした。また一審が触れなかった殺害行為の回数を検討し、1回の運転行為で2人を殺害した今回の事件と、2回の殺害行為があった場合を同一視せず、「過去の判例からも、死刑となった事件に匹敵するとまでは言えない」と述べた。また一審判決について「極刑がやむを得ないとまではいえず、不合理な判断をしたものといわざるを得ない」とも指摘した。そして「死刑がやむを得ないとまでは言えない」として一審判決を破棄した。
 判決の言い渡し後、深沢裁判長は「無期懲役も相当に重い刑で、改めて責任を感じてほしい。2人の尊い命を奪った事実は変わらない。ご冥福を祈り続けてください」と諭した。
備 考
 当初、一審初公判は2021年2月22日に行われる予定であったが、2月13日夜の地震の影響で、福島地裁郡山支部刑事棟の331号法廷と裁判員候補者待合室の天井や壁がはがれる被害があり、安全性の確認や復旧作業が必要と判断されたため、期日取消となった。

 2021年6月24日、福島地裁郡山支部(小野寺健太裁判長)の裁判員裁判で、求刑通り一審死刑判決。判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
 検察側は上告した。

氏 名
安田こずえ(48)
逮 捕
 2020年8月27日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗致死、死体遺棄
事件概要
 大阪市の無職、安田こずえ被告は、覚醒剤密売グループの仲間である福岡市の無職、M被告、韓国籍で大阪市の解体工、K被告と共謀。覚醒剤の売買をめぐるトラブルから8月5~6日ごろ、安田被告の自宅マンションで、大阪市に住む無職の知人男性(当時40)をビニールひもで緊縛した上で、腰を包丁で何度も刺し、殴る蹴るなどの暴行を加えて死亡させ、現金約20万円入りの財布などを奪った。その後、男性の遺体を東広島市の山林に遺棄した。
 男性は一時期、安田被告のマンションに住み、身の回りの世話をしていた。
 M被告の親族から8月20日、「人を殺して死体を遺棄したと言っている」と府警に相談があった。捜査員が安田被告のマンションでM被告を見つけ、翌21日、覚醒剤取締法違反(使用)容疑で逮捕した。M被告は、「金を貸していた知人に暴行を加えて死なせ、車で運んで遺体を遺棄した」と供述。26日午後、東広島市内の山中の崖の下で、男性の遺体が見つかった。大阪府警は27日、安田被告ら4人を死体遺棄容疑で逮捕した。
 大阪府警捜査1課は11月25日、安田被告、M被告、K被告を強盗殺人容疑で再逮捕した。
 大阪地検は12月16日、安田被告とM被告を強盗致死罪で、K被告を強盗致死ほう助罪で起訴した。
裁判所
 最高裁第三小法廷 渡辺恵理子裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年2月17日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 
備 考
 強盗致死幇助や死体遺棄などの罪に問われたK被告は2021年6月2日、大阪地裁(大寄淳裁判長)の裁判員裁判で懲役8年判決(求刑懲役10年)。控訴せず確定と思われる。
 強盗致死や死体遺棄などの罪に問われたM被告は2021年12月3日、大阪地裁(矢野直邦裁判長)の裁判員裁判で懲役20年判決(求刑懲役22年)。2022年6月3日、大阪高裁で被告側控訴棄却。

 2022年2月28日、大阪地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2022年10月25日、大阪高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
丹羽祐一(48)
逮 捕
 2020年7月2日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、死体遺棄、銃刀法違反
事件概要
 福井市の自称会社員丹羽祐一被告は2020年6月28日午前2時40分ごろから3時ごろの間、福井市の学習塾講師の男性(当時40)からの借金約1,160万円の返済を免れようと、男性のアパートの駐車場で男性の背中を包丁で刺して自らの車の中に押し込み、さらにきりで首や胸を刺して殺害。男性の部屋から約308万円を奪った。遺体を福井市内の山中に隠した後、29日に遺体をスーツケースに入れてくるまで運び、坂井市の龍ケ鼻ダム湖に遺棄した。
 丹羽被告は被害者の男性と同じ福井市の学習塾で営業として働いていたが、賭けマージャンなどで10年近く前から塾の金を使い込み、1,000万円近くの借金があった。使い込みの発覚を避けるため、2019年8月22日午後1時20分ごろ、同塾が入居する雑居ビルの一階裏口付近で強盗に遭い、入学金や教材代金などとして集金した約50万円入りの封筒を奪われたと説明。実際に鼻を骨折し顔面打撲のけがを負っていた。福井県警は一時、強盗致傷事件として捜査したが、説明があいまいだったため、さらに詳しい説明を求めたところ、同日午後9時ごろ、「自分でビルの壁の角に頭を打ちつけ、顔を殴った」と認めた。福井署などは23日、虚偽の通報で事情聴取や犯人の捜索、現場鑑識などに当たった県警の警察官と警察職員計71人の業務を妨害したとして、偽計業務妨害容疑で逮捕した。10月25日、福井地裁で懲役1年執行猶予3年(求刑懲役1年)の判決を受け、確定した。その後は別の職場で働いていた。被害者は一人暮らしだった。
 6月29日昼、男性の家族が福井署に捜索願を出した。同日午後2時30分ごろ、男性の遺体が湖面に浮かんでいるのを釣りに訪れた人が発見し、110番通報した。
 7月1日午後7時ごろ、丹羽被告が福井署に出頭。捜査本部は2日、死体遺棄容疑で丹羽被告を逮捕した。22日、強盗殺人容疑で再逮捕した。
裁判所
 福井地裁 河村宜信裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年3月10日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2023年1月12日の初公判で、丹羽祐一被告は「考えや思いは弁護人に聞いて下さい」と述べ、弁護人は殺人については認める一方、「借金の返済を免れるために殺害したわけでない」などとして、起訴内容を一部否認した。
 検察側は冒頭陳述で、動機について、借金などで困窮していた丹羽被告が事件当日、男性から「法的措置を取る」と言われて犯行に至ったと主張した。殺害後に男性宅から借金に関する書類も持ち出して捨てており、「債務を免れる目的があった」と述べた。また、奪った現金については、殺害後、丹羽被告が男性宅から奪うまでの時間は短く、殺害現場に近いため、男性の保管状態が続いていると判断。法定刑が死刑か無期懲役の強盗殺人罪が成立するとした。一方、弁護側は、丹羽被告が家族に対し、消費者金融や男性からの借金額を実際より少なく伝えていたと説明。男性にはうそをついて何度も返済を延期しており、返済を迫られた際に、「『家族にうそがばれるわけにはいかない』と極限まで追い詰められた状態で殺害に及んだ」と主張した。借金の返済を免れたいとの考えはなかったと述べた。現金を持ち出した経緯については、殺害後、遺体を車に乗せて現場を一度離れた後、男性宅に戻っており、「既に被害者は死亡している上、時間もたっている。被害者から奪ったとはいえない」と指摘。法定刑が死刑か、無期もしくは5年以上の懲役の殺人罪にとどまると主張した。額は約308万円よりも少なかったとし、検察側の主張を否定した。
 1月20日の第5回公判までに、県警の捜査員ら延べ17人が検察側の証人として出廷し、捜査で分かったことなどについて証言した。証人の数は計33人が採用されている。
 31日の第8回公判で、被害者参加制度を利用して被害者の母親が出廷。丹羽被告に対し「一番重い罪を願う。二度とこの世に出てきてほしくない。それ以上言葉にならない」と訴えた。また、事件の4年前、自分の定期預金から引き出した200万円を息子に帯封が付いたまま渡したと証言した。
 2月7日の公判で、被害者参加制度を利用して被害者の父親が出廷。丹羽被告については、「謝罪があるだろうと思っていたがなかった」、「弁護人を通して、謝罪文と500万円を提示されたが量刑を少しでも軽くしたいという意図を感じたので受け取っていない」と話した。またこの日は、事件後に離婚した丹羽被告の元妻も出廷した。元妻は、検察官の質問に、生活費以外は夫婦別々に管理していて、丹羽被告の借金などの金銭状況を「全く知らなかった」と証言した。弁護側の反対尋問で、「丹羽被告は子育てにとても協力的で休日はよく3人で出かけた」と答えた。
 8日の公判で、被告人質問が行われた。弁護側から事件当日、なぜ包丁や錐をもって被害者に会いに行ったのか聞かれると、「本当のことを正直に話し、借金の返済の延期や返済額を減らしてもらおうと思った。応じてもらえなかったとき、彼を殺しても……」と言葉を詰まらせ首をかしげた後、「それでも『法的措置を取る』と言われたら殺すしかないと思い込んでいた」と語った。家族に借金があることをなぜ正直に話さなかったのかを聞かれると、「正直に話すことによって離婚することになる。今まであった生活がなくなる。だから言えなかった」と語った。
 10日の公判における被告人質問で、弁護側が警察や検察の取り調べの様子を聞いたことに対し、丹羽被告は「殺害の動機を『金銭トラブルや借金を免れようとした』と話したが、本当は家族にばれたくない思いで被害者を殺害した。警察や検察に信じてもらえるようウソの理由を言った」、「警察や検察にいい顔をしたかった」と話した。また、犯行後、被害者の自宅から現金を持ち出した理由を問われると、「借金を示す書類などを探していたが、現金を先に見つけたので持っていこうと思った。使用目的があって持ち出したのではない」と説明した。
 13日の公判における被告人質問で丹羽被告は、弁護側に「遺族に対する思いはありますか」と聞かれると、「遺族には、長い時間、さみしい、悲しい、つらい思いをさせている。私の愚かで身勝手で取り返しのつかない行為により、尊い命を奪ったことを心より反省しています。このたびは誠に申し訳ありませんでした」と、声を震わせ、立ち上がり遺族に対して深々と頭を下げた。今後について聞かれると「謝罪の気持ちを忘れず、ご冥福を祈り、贖罪に努めていくことが今の私に進むことができる正しい道だと思う」と話した。
 16日の公判で被害者参加制度を使って被害者の兄が出廷し「被告には一生世の中に出てきてほしくない。それは極刑になること。裁判所にはできる限り重い判決を下してほしい」と述べた。
 論告求刑で検察側は、被告は金銭に困っており「殺害は返済の請求を阻止する行為で、借金の返済を免れるのと同じであるのは明らか」と指摘。「殺害すれば借金を支払わなくて済むと認識しており、執行猶予中で更生の機会があったにも関わらず犯行に至り、動機に酌むべき事情はない」とした上で、自首したことや犯行の計画性が綿密なものではなかったことを考慮し、「死刑を求めるやむを得ない事情がない」として無期懲役を求刑した。
 同日の最終弁論で弁護側は、「借金があることがばれると家族を失うと思い込んで犯行に至ったため、債務を免れる意思はなかった」として、強盗罪の成立要件を満たさず、殺人罪に留まるとした。また、「警察に自首したことによる減軽が認められるべきだ」として、懲役10年が妥当であると主張した。
 最終意見陳述で丹羽被告は、遺族に謝罪した上で「法廷では真実を話してきた。公平な気持ちで裁いていただけることをお願い申し上げる」と述べた。
 河村宜信裁判長は判決で、丹羽被告が返済に窮する中「法的措置に出る」と告げられすぐに殺害に及んだ点、殺害後に借金に関する書類を持ち出して捨てていることなどから、「返済を免れるため殺害したことに疑問の余地はない」と断定。現金の持ち出しも、「殺害と現金の持ち出しは1時間以内で行われ、それぞれの場所は建物の一室と敷地内の駐車場で近い状態にあり、被害者の現金の占有は継続している」と述べ、強盗殺人罪の成立を認めた。そして丹羽被告が事件当時、別の事件で執行猶予期間中だったことから「賭けマージャンなどの遊興費のために借金を重ね、更生の機会を与えられながら身勝手な考えで犯行に及び、動機や経緯に酌むべき事情は一切ない」と非難。その上で「犯行は執拗で非常に残忍だ。理不尽にも人生を終えることになった被害者の無念は察するに余りある」と述べた。ただ、凶器の包丁やきりを準備した以外に計画性は乏しく、執拗性や残虐性も際立っていないことと、自首した点などを考慮し、死刑ではなく、求刑通り無期懲役とした。
備 考
 被告側は控訴した。

氏 名
西原崇(39)
逮 捕
 2018年2月13日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、強制わいせつ致死
事件概要
 松山市の運送会社員、西原崇被告は2018年2月13日午前4時35分~午前5時50分ごろ、今治市の段ボール製造販売会社の敷地内で、同僚の女性(当時30)の首を両手で絞め、タイツをはぎ取るなどわいせつ行為をし、首をタイツで絞めて殺害した。
 女性は同日未明、荷物を配送するため、一人で段ボール製造会社に向かった。西原被告は同日早朝、女性と合流して仕事を手伝う予定だった。
 帰社予定だった午前中に戻らず、連絡も取れなくなったため、会社の上司が13日午後、西条署に行方不明届を提出。県警が、女性が仕事をしていた段ボール製造会社を捜索した際、遺体が見つかった。会社の敷地や建物は人が出入りしていたが、遺体があったのは人目につきにくい場所だった。
 県警は13日午後、西原被告から任意で事情を聴き、同行した現場で逮捕した。
裁判所
 松山地裁 高杉昌希裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年3月10日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。検察側は殺人に加え強制わいせつ致死でも起訴した。
 2018年10月16日の初公判で、西原崇被告は「否認します」と起訴内容を否認した。
 検察側は冒頭陳述で、同じ配送業務になり10日前に知った女性に一方的に好意を抱き、わいせつな行為をしようと考えたと動機を指摘。殺害後、配送車のドライブレコーダーの記録を抜き取ったことも明らかにした。弁護側は気が付いたら首を両手で絞めていたと殺意を否定。服を脱がせたのは「心臓マッサージのため」とわいせつな行為も否定した。また、軽度の知的障害があり、事件当時は心神喪失か心神耗弱状態だったとして無罪を主張した。
 19日、検察側は論告で、遺体に残った跡などから、わいせつ目的で暴力をふるい、強い殺意をもって首を絞めたと認められると主張。西原被告には軽度の知的障害があるが、犯行への影響はわずかだとし、「残忍で極めて悪質な犯行で、情状酌量の余地はない」と述べた。
 同日の最終弁論で弁護側は、被告は事件当時、心神喪失状態で記憶がなかったと主張。タイツによる首の圧迫痕は「移動させた際についた」と述べるなどし、無罪を主張した。
 10月29日に判決公判が予定されていたが、検察側が予備的訴因の追加のため、弁論再開を要求し、公判は取り消された。
 11月12日の公判で、改めて検察側は無期懲役を求刑した。
 11月13日の判決で末弘陽一裁判長は、職場でのストレスや被害者への不満を募らせていたと指摘。「衝動的とはいえ、殺意は強固だった」とした。一方で、最初からわいせつ目的であったかどうかについて「合理的な疑いが残る」として、強制わいせつ罪が成立するにとどまるとした。被告について軽度の知的障害などを認めたが、「影響は限定的」とした。

 2019年12月24日の控訴審判決で杉山慎治裁判長は、被告が女性に好意を抱いていたと認め、女性が既婚者でわいせつ行為に同意する可能性がなかったことなどから、犯行は最初からわいせつ目的だったと判断。一審で同致死罪が認定されなかったことは「不合理で是認できない」とし、量刑などを改めて審理する必要があるとした。

 2020年7月29日付で最高裁第二小法廷は、被告側上告を棄却、地裁差し戻しが確定した。

 差し戻し裁判員裁判。
 2022年12月5日の初公判で、西原崇被告は起訴内容を一部否認した。
 高杉裁判長は、高裁判決が前回一審判決には解剖医の証言への誤解があり、わいせつ目的を否認する西原被告の証言も信用できないと指摘したことに言及。同じ証拠を調べる場合に「高裁に反する判断はできない」と述べ、新たな証拠や証言として司法解剖を担当した医師と被告に改めて話を聞くとした。
 冒頭陳述で検察側は、被告が事件の10日ほど前に出会った女性に対し、好意を示すような言動を複数回していたと指摘。配送先の段ボール製造会社の敷地内で、未明に2人だけで作業していた際、わいせつ行為をしようと首を両手で絞めるなどした後、口封じのためにタイツで首を強く絞めて殺したと強調した。「性犯罪が伴う犯行は極めて悪質で、遺族の処罰感情は峻烈」などと、改めて強制わいせつ致死罪が成立すると主張した。
 弁護側は殺人は争わないとしたうえで、わいせつ行為を否認。以前の公判では被告が首を両手で絞めた際の記憶がないとしていたが、記憶が戻ったとし「興奮状態で殴る蹴るの暴行を加えた」と性的目的も否定した。女性にいらだちを募らせたことが殺害動機と認定した前回一審判決を踏まえて、「軽度の知的障害により感情や行動の制御ができなかった。犯行に障害が影響していた場合は、量刑に考慮すべき」と主張した。
 同日は裁判員が前回一審の審理内容を把握するため証人尋問記録映像を視聴した。
 12月7日の第2回公判の際に、3人いる裁判官の1人の同居人が新型コロナウイルスに感染したことが判明。松山地裁は8日の映像確認、9日以降の新たな証人尋問や被告人質問、12日に結審、20日に判決の予定をすべて取り消した。
 2023年2月28日に第3回公判が開かれた。審理の間隔が3カ月近く空いたため、起訴状朗読や罪状認否などの手続きを振り返り、実質的な審理を再開した。中断前からの裁判員の変更はない。
 高杉昌希裁判長が冒頭に「記憶が薄れていると思うので(審理の)おさらいをしてから続きを行う」と説明。高杉裁判長は西原崇被告に対し、氏名や職業などを確認する人定質問と起訴内容の認否について変更があるかどうかを尋ね、被告は「ありません」と答えた。
 検察側は冒頭陳述を再度読み上げ、弁護側も「わいせつの意図はなかった」などと、起訴内容の一部を否認する意見を述べた。実質的審理では、前回一審の証人尋問や被告人質問の記録映像を確認した。
 3月2日の第5回公判で、遺体を司法解剖した医師が出廷。医師は死因について、これまでと同様に首を絞められた窒息死と説明し「ひも状の痕が(水平方向に)直線的に見られた」と証言。西原被告の「タイツを首に巻いて遺体を移動させた」との供述を、力のかかり方が違い、V字型に痕が残ると考えられるとして疑問視した。また心臓マッサージをしたとの被告の主張についても、確定はできないが裏付ける所見はないとした。
 同日の被告人質問で、西原被告は高裁判決以降に事件当時の記憶がよみがえったと主張。被害者と会話する中で自身の子ども時代の不快な記憶を思い出し、腹が立ったことなどが殺害のきっかけだったとし、わいせつ行為を重ねて否定した。
 被害者の上半身から検出された被告の唾液について、弁護側は被告には指を口に入れる癖があり、わいせつ目的ではなく、救命措置の際に付いたと主張していたが、裁判員の1人が差し戻し前の一審映像記録も含め「そんな様子はここ数日見ていないが、癖は本当にあるのか」と被告やその母親に聞き、母親は「ありません」と否定した。
 3月3日の論告求刑公判で被害者参加制度を利用して女性の母親が意見陳述し、懲役19年だった前回一審判決(求刑無期懲役)を「絶望し、地獄に落とされた気分だった」と吐露。娘を失った思いを涙ながらに語り、厳罰を求めた。女性の夫も同様に極刑を求めた。女性の兄弟も「自分が障害者であることを悪用している」と訴えた。
 論告で検察側は、被告が顔見知り程度の関係の女性にわいせつ行為をしようと考え、抵抗を防ぐため首を絞めるなど暴行し、口封じで殺害したと指摘した。差し戻し審で被告が新たに述べた犯行前にあったとする女性とのやりとりは、従来の供述を具体化しただけで実質的変更はなく、新証拠に当たらないと主張。「(強制わいせつ致死罪成立を認めた)高裁判決と異なる判断はできない」と強調した。そして改めて強制わいせつ致死罪は成立するとし、「性犯罪を伴う自己中心的な犯行。強い殺意があり、犯行態様は極めて悪質で残忍。被害者遺族の処罰感情も峻烈」と改めて無期懲役を求刑した。
 同日の最終弁論で弁護側は、新供述について「話すことで罪が重くなる内容で信用できる」と主張。被害者への怒りが募って犯行に及んだもので、わいせつの故意は無いとして強制わいせつ致死を否認。わいせつの故意を重ねて否定し、量刑では被告の軽度知的障害で感情を制御しにくかったことの影響を考慮するよう求めるとともに、暴行の詳細について正直に話し反省もしている、西原被告が障害基礎年金から弁償金を支払おうとしているなどとして、懲役15年から16年が相当と主張した。
 最終意見陳述で西原被告は「被害弁償し服役して罪を償っていきたい。それでも被害者が帰ってくるわけではなく、本当に申し訳ありません」と謝罪した。
 判決で高杉裁判長は女性の体に被告の唾液が付着していたことなどを挙げ、被告の証言が信用できないと判断。弁護側の被告の癖という主張に対しては、「そのような癖があるのか疑わしい」と指摘した。そして「被害者に好意を抱いていた被告はわいせつ行為を目的に抵抗を排除するために首を絞めていて、強制わいせつ致死は成立する」と指摘。一連の犯行について「強い殺意に基づいた、被害者の尊厳を踏みにじる極めて悪質で残忍な行為」「ドライブレコーダーの消去など罪証隠滅行為は卑劣」と非難した。そして「被告には自閉傾向を含む軽度知的障害があり、一般的に衝動を抑制しにくい側面があった」と認定した上で、運転手として働くなど通常の社会生活を送っていたことや、犯行時には証拠隠滅行為を取っていたことなどを挙げ「障害が犯行に与えた影響は限定的で、被告のために大きく考慮することができない」と指摘。その上で「被害者の尊厳を踏みにじる極めて悪質で残忍な犯行で、性的欲望の赴くままに行い身勝手極まりない」「被害者に落ち度があるような弁解を繰り返し、自らの犯した罪に真摯に向き合うことができているとは言い難い」「謝罪の言葉は表面的」「事件から5年近くが経過してようやく書き上げた謝罪文に弁解を記載するなど、遺族らの感情を逆なでした」と言及し、反省は不十分と言わざるを得ないと結論付けた。
備 考
 2018年11月13日、松山地裁(末弘陽一裁判)の裁判員裁判で求刑無期懲役に対し、一審懲役19年判決。2019年12月24日、高松高裁(杉山慎治裁判長)で一審破棄、地裁差し戻し。2020年7月29日、最高裁第二小法廷(岡村和美裁判長)で被告側上告棄却、地裁差し戻し確定。
 被告側は控訴した。

氏 名
佐々木伸(26)
逮 捕
 2020年10月30日
殺害人数
 2名
罪 状
 現住建造物等放火、殺人、殺人未遂
事件概要
 仙台市の無職佐々木伸被告は2019年12月25日午前2時頃、木造2階の自宅で可燃性の液体をまくなどして放火し、タクシー運転手の父親(当時76)と会社員の兄(当時29)を殺害。兄の妻(当時26)は長女(当時3)と二女(当時1)を抱えて2階から飛び降りて助かったが、気道熱傷などで重傷を負った。また長女も重傷、二女も軽傷を負った。
 家族は6人暮らし。亡くなった兄は長男、佐々木被告は三男。佐々木被告は大学卒業後、自室に引きこもっていた。
 佐々木被告は火災の後行方不明となり、同日午後8時20分ごろ、付近を捜索していた警察官が、商業施設の個室トイレにいる男性を発見し、署で保護した。
 佐々木被告は全身やけどのため、そのまま入院し、治療。2020年10月30日に退院。県警は完治していないが勾留に耐えうると判断し、そのまま逮捕した。仙台地検は11月20日、殺人他の罪で佐々木被告を起訴した。
裁判所
 仙台地裁 中村光一裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年3月16日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2023年2月8日の初公判で、佐々木伸被告は「黙秘します」と述べた。
 検察側は冒頭陳述で、出火元が、佐々木被告の自室や玄関、階段付近と複数あることなどから失火ではないと指摘。出火元が「家族の逃げ道をふさぐ場所」だったとして、被告が殺意を持って放火したと主張した。弁護側は、失火の可能性もあるとした上で、「放火だったとしても、第三者が放火した可能性は否定できない」と反論。玄関や階段付近は出火元ではないとも主張した。
 28日の公判における被告人質問で、佐々木被告は、検察側、弁護側の全ての質問に対し、「黙秘します」と18回繰り返した。中村裁判長から「答えないということでいいですか」と問われると、黙ってうなずいた。被告人質問は10分で終了した。証人尋問も行われ、被告を取り調べた男性警察官が出廷。逮捕前の取り調べで被告が容疑を否認したとした一方で、供述が二転三転したことから「うそをついていると判断した」とした。
 3月3日の論告で検察側は、防犯カメラに不審者が映っていないことなどから、外部の犯行は考えにくいと指摘。そして「火事の18時間後に現場近くで見つかった被告は、軽傷ではないのに助けや消防を呼ぶこともせず、単に火災被害にあった人とは思えない。警察から逃れるための行動をとっていて、放火の内容からも家族の生活状況を把握していた被告による犯行だ」と主張した。被告が自室や階段、玄関付近など3カ所に可燃性の液体をまいて火を付けたとして「家族が寝静まった後、逃げ道をふさぐ複数の場所に放火しており、強固な殺意があったことは明白。極めて危険で冷酷非道な犯行だ」と強調した。動機について、大学卒業後、自室に引きこもり家族の中で孤立していた点を挙げ「家族に不信感や憎悪を募らせており、動機となりうる事情があった」と述べた。
 6日の最終弁論で、弁護側は「第三者が放火した可能性は否定できない」として改めて無罪を主張した。佐々木被告は最終陳述でも「黙秘します」と何も語らなかった。
 判決で中村光一裁判長は、差し込みプラグの焼け焦げなどは認められず、自然発火や失火は考えにくいと指摘。火元とされる1階和室などで灯油や石油などの成分が検出されたことなどから、「何者かが意図的に火をつけた」とした。当時、被告は火元の部屋にいて、放火する機会があり、やけどを負いながらも通報や助けを求めていないなど、かなり不自然な点があるとした。そして兄の妻の証言などから、被告は家族と不仲で、前日のクリスマスイブに父から夕食に誘われても参加しなかったなどと指摘。他の家族には動機が無く、近隣の防犯カメラにも不審人物が映っていないことなどから、「被告以外の者が放火を行った可能性はない」と判断した。殺意については、動機が自殺や自室を燃やすことが主目的だった可能性も含め一つに特定できないことや、家族の誰か一人を確実に殺そうと考えた場合には放火以外にも方法があり得ることを考え合わせると、殺害しようとする強い意欲があったとまでは認められないとしながらも、家族の避難の手助けをしなかったことなどから、「家族が死んでしまえばよいとか、死んでもかまわないという程度の殺意があった」と認定した。そして「午前2時という就寝時間帯に広範囲に灯油をまき火をつけた行為は、就寝中で俊敏な避難行動を取れない同居家族を死亡させる危険性が高いもので、酌量減軽に値すると評価できる事情を見いだすに至らなかった。家族5人が死傷した結果は重大だ。犯行を決意した背景には家族関係などが影響した可能性もうかがわれるが、非常に高い危険性がある犯行を決意したことは決して正当化できず、身勝手であったという非難は免れない」とした。
備 考
 公判で仙台地裁は刑事訴訟法の規定を根拠に佐々木被告と被害者の氏名や住所を明かさない秘匿決定をしており、審理は匿名で行われた。理由は明らかにしていない。
 被告側は控訴した。

氏 名
田中涼二(43)
逮 捕
 2021年4月26日
殺害人数
 2名+1名(傷害致死)
罪 状
 殺人、傷害致死、死体遺棄、詐欺
事件概要
 福岡県飯塚市の無職、田中涼二被告は、2021年1月9日ごろから自宅で、養子で小学3年の男児(当時9)の頭や太ももなどを殴ったり蹴ったりする暴行を繰り返していた。2月16日に福岡県小郡市の車の中で養子が失禁したことに腹を立てた田中被告は殴る蹴るの暴行を加え、大腿部打撲による外傷性ショックで死亡させた。田中被告は自宅に帰り、遺体を自宅に放置。18日、長男(当時3)と長女(当時2)を連れて福岡市内で借りたレンタカーで宮崎県串間市まで移動し、知人に金を無心。レンタカーのガソリンが無くなったため、電車で鹿児島市に移動し、24日にホテルにチェックインした。26日、ホテルで2人を首を絞めるなどして殺害後、自らの首を刃物で切るなどした後、ホテルの4階から飛び降り自殺を図った。部屋からは「3人で死ぬ」などと書かれた遺書が見つかった。
 田中被告は筑後地区に拠点を構える暴力団の元組員だった。2014年ごろに組織を脱退し、その後は大野城市で建築作業員として働いていた。田中被告は居酒屋で知り合った10歳年上の妻と2017年に結婚。妻の子供である男児を養子にした。2人の間には長男、長女が生まれたが、妻が酒浸りになり喧嘩が絶えなかった。仕事を辞め、福岡市に移住しても夫婦仲は悪く、さらにDVもあって養子は児童相談者に預けることとなった。2020年5月に田中被告は実子2人を連れ、福岡市から飯塚市へ転居。しかし2か月後に妻が養子を連れて再び同居。ただ喧嘩は絶えず激しさを増し、子供たちの前で激しくやり合うことも多かったため、警察が児童相談所に「面前DV」で複数回通告もしている。12月には夫婦喧嘩で妻が包丁を持ち出して血だらけの争いをして、警察官が駆け付ける騒ぎとなった。同月、夫婦喧嘩で妻が家を飛び出し、そのまま離婚。養子はお父さんについていくと話したため、田中被告は子ども3人と暮らしていた。小学3年生で普通に登校していた養子は2021年から休みがちになり、1~2月はそれぞれ3、4回登校しただけ。最後の登校は2月10日だった。田中被告から「家族で遊びに行くので」などの連絡が毎日のように学校にあったが、それも22日で途絶えていた。
 2月25日午前、宮崎県串間市の商業施設の従業員から、駐車場でレンタカーが放置されていると宮崎県警に通報。車内に未使用の練炭が見つかったことから、県警が利用客を捜していたところ、福岡県飯塚市の田中被告と判明。福岡県警が自宅の団地を訪ねたところ、25日午後2時50分ごろ、9歳の男児が倒れて死亡しているのが見つかった。警察はレンタカーからの足取りを防犯カメラなどで追跡し、田中被告が鹿児島市のホテルに滞在していることを突き止めた。捜査員が26日午後7時ごろに突入したが、田中被告は4階の部屋のベランダから飛び降り、腰や足の骨を折るなど全治数か月の重傷を負った。田中被告の首や胸には、刃物によるとみられる刺し傷があった。部屋から亡くなった2人が発見された。
 田中被告の回復後となる4月26日、福岡、鹿児島両県警は、子供2人への殺人容疑で田中被告を鹿児島市内の病院で逮捕し、福岡県警飯塚署に移送した。福岡地検は5月17日、殺人罪で起訴した。
 養子の死因は当初、司法解剖で病死の可能性が指摘されていたが、その後の捜査や複数の医師の所見から、田中被告の断続的な暴行により死亡したとみられることが判明した。6月18日、養子への傷害致死、死体遺棄容疑で再逮捕した。福岡地検は7月8日、傷害致死と死体遺棄の罪で追起訴した。
裁判所
 福岡高裁 松田俊哉裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年3月24日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2023年2月22日の控訴審初公判で、被告側は男児の死因は肺炎の可能性があり、傷害致死罪は成立しないと主張。幼児2人と無理心中を図った事情を考慮すると、無期懲役は重すぎるとも訴えた。検察側は控訴棄却を求めた。弁護側は新たな証拠の採用や被告人質問などを求めたがいずれも却下され、即日結審した。
 判決で松田俊哉裁判長は、「男児の主たる死因は外傷性ショック」だったとして一審判決の判断を支持。そして「みずから養子を虐待死させたにもかかわらず、そのことが捜査機関などに知られることで実の子2人と離ればなれになりたくないと考えて無理心中を図った。身勝手な願望に何ら罪のない子どもを巻き込んだもので、同情の余地はない」など述べた。
備 考
 田中涼二被告の約20年前の元妻は、2021年12月に別の暴行死事件で有期懲役判決が確定している。また田中被告と元妻は当時、監禁や脅迫などで有罪判決を受けている。この元妻は2022年夏、麓刑務所で服役中、コロナ感染で体調が悪化し、43歳で死亡。

 飯塚市の「3児童死亡事例検証委員会」は2022年1月25日、検証報告書を片峯誠市長に提出した。報告書は、田中被告が2020年4月に飯塚市に転入した際、過去に長男への虐待通告が16回あったことや、夫婦喧嘩が子供に悪影響を与える「面前DV」があったことなどを福岡県田川児童相談所から知らされていたほか、飯塚市内で生活中にも夫婦げんかで警察が複数回出動したと認定した。
 その上で、通告などが積み重なったことで「(市の担当者らが)日常の範囲内という意識になった可能性があり、リスクを小さく捉えていた」と指摘。また、田中被告から頻繁に連絡があったことで「安心感を持ち、長男に直接面談した回数が少なかった」とした。そして学校や市が、虐待の「ハイリスク家庭」との認識の共有が不十分だったと指摘。学校は養子の欠席が続いた時、父親から「体調が悪いため休む」などと連絡があったため問題視されなかったが、「市などの関係機関と連携し早急に対応するべきだった」とした。また、2021年2月初旬、養子は腰にけがをし、虐待を疑った学校側などに「ジャングルジムから落ちた」と説明。この際に「虐待などの鑑別を含め医療機関受診を強く勧める必要があった」とも指摘。各行政機関の情報共有や危機管理意識が不十分だと結論づけた。その上で課題として、子育て行政での深刻な人材不足の解消▽専門職の育成と配置、意見を反映しやすい体制▽学校と市教委が一緒に対応する仕組みづくりなどを挙げた。地域との関係についても「連携の方策を検討する必要がある」と強調した。

 2022年10月11日、福岡地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。

氏 名
石田美実(65)
逮 捕
 2014年2月26日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人
事件概要
 鳥取県米子市の元ラブホテル従業員、石田美実被告は2009年9月29日午後10時ごろ、9月中旬まで働いていた米子市内のラブホテルの従業員事務所で金品を物色中、支配人の男性(当時54)に見つかり、頭を壁にぶつけたり、首をひも状のもので絞めたりして意識不明の重体に負わせ、現金約26万8千円を強奪した。
 鳥取県警は内部に詳しい人物の犯行とみたが、被害者の男性が意識を取り戻さないことから、慎重に捜査を続けた。
 その後トラック運転手をしていた石田被告は2014年2月5日、別のクレジットカード詐欺で逮捕された。鳥取県警は2014年2月26日、石田被告を強盗殺人未遂、建造物侵入の両容疑で再逮捕した。
 被害者の男性は暴行に基づく多臓器不全が基で2015年9月、60歳で死亡。鳥取地検は12月15日、石田被告について強盗殺人罪への訴因変更を地裁に請求。2016年2月15日付で認められた。
裁判所
 最高裁第一小法廷 深山卓也裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年3月28日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 
備 考
 2016年7月20日、鳥取地裁の裁判員裁判で、求刑無期懲役に対し、一審懲役18年判決。起訴罪状である強盗殺人を否定し、殺人と窃盗を適用した。2017年3月27日、広島高裁松江支部で一審破棄、無罪判決。2018年7月13日、最高裁第二小法廷で高裁差し戻し判決。2019年1月24日、広島高裁で地裁差し戻し判決。上告せず、差し戻し確定。
 2020年11月30日、鳥取地裁の差し戻し裁判員裁判で、求刑通り無期懲役判決。2021年11月5日、広島高裁松江支部で被告側控訴棄却。

氏 名
瓜田太(60)
逮 捕
 2014年10月1日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、銃刀法違反、組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)
事件概要
 特定危険指定暴力団「工藤会」系組幹部で理事長補佐でナンバー4の瓜田太被告は、他の被告と共謀して以下の事件を起こした。
  • <自治総連合会長宅銃撃事件>2010年3月15日、北九州市小倉南区で、工藤会の新事務所開設に反対して暴力団追放運動に取り組む自治総連合会長宅に拳銃を6発撃ち、寝室にいた会長(当時75)とその妻(当時75)夫婦を殺害しようとした。夫婦にけがはなかった。(組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)、銃刀法違反)
  • <清水建設社員銃撃事件>2011年2月9日午後7時過ぎ、北九州市小倉北区の清水建設工事現場事務所2階に押し入り、男性社員(当時50)に拳銃を発砲し、軽傷を負わせた。暴力団排除に取り組む建設会社を威圧し、上納金の減収を避けることが理由とされる。(組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)、銃刀法違反)
  • <建設会社会長殺人事件>2011年11月26日午後9時過ぎ、北九州市小倉北区で、型枠工事会社会長の男性(当時72)の自宅前で拳銃を2発撃ち、うち1発を首に命中させて失血死させた。会長は同市周辺の型枠工事業者で作る団体の会長を務めるとともに、暴力団排除活動をしていた。瓜田被告は実行犯である中西正雄被告の逃走援助や拳銃の処分に関与するなどの役割分担をしていた。(殺人、銃刀法違反他)
  • <看護師刺傷事件>2013年1月28日午後7時頃、福岡市博多区の歩道で、北九州市小倉北区の美容整形医院から帰宅中だった看護師の女性(当時45)が、後方から来た黒いニット帽にサングラスをかけた男に刃物で切りつけられ、頭などに重傷を負った。被害者が勤務していた美容整形医院で下腹部の手術を受けた野村被告が、術後の経過や被害者の対応に不満や怒りを抱いての犯行。野村被告らの指揮命令の下、瓜田被告は上位幹部と実行グループをつなぐ仲介役を担った。(組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂))
 2014年10月1日、看護師刺傷事件の組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)容疑で逮捕。2015年5月22日、歯科医師刺傷事件の組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)容疑で逮捕(これは不起訴)。2017年1月19日、建設会社会長殺人事件の殺人他容疑で再逮捕。9月8日、清水建設社員銃撃事件で再逮捕。11月9日、自治総連合会長宅銃撃事件で再逮捕。
裁判所
 福岡地裁 神原浩裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年5月10日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判からは除外された。
 2011年の建設会社会長射殺事件において、中西正雄被告、SH被告と共同で審理が行われた。
 2021年7月19日の初公判で、中西正雄被告、瓜田太被告、SH被告は起訴内容について「黙秘します」などと述べ、弁護側は争う姿勢を示した。
 検察側は冒頭陳述で、瓜田被告が銃撃準備の指示や被害者の行動確認をし、中西被告が銃撃して、S被告が運転するバイクで逃走したと指摘した。
 事件では同会関係者8人が起訴され4人が既に有罪判決を受けたが、その1人で同会を離脱した元組員が3被告も絡んだ事件の指示や状況を供述しており、その信用性が主な争点。U、S両被告の弁護人は冒頭陳述で「元組員の供述には問題があり(証拠として)採用できない」と主張し、中西被告の弁護人も「元組員の証言は信用できず中西被告は事件に関与していない」と無罪を訴えた。
 その後は分離された。

 新たに瓜田被告、IT被告、SH被告との共同審理となった。
 2022年1月17日の初公判で、3被告は全ての起訴事実について争うと、起訴事実を否認した。
 検察側は冒頭陳述で、各事件の動機について、野村被告が看護師に不満を持っていたことや、暴力団排除に取り組む市民らへの見せしめが目的だったと主張した。
 その後、SH被告は分離された。

 12月26日の論告求刑公判で、検察は「共犯者の供述や証言は信用できる」などとして、瓜田被告の共謀を認定できると主張。2人の事件への関与について、携帯電話の通信記録から工藤会の上位の幹部と実行グループをつなぐ仲介役などを担っていたと主張した。そして「当時は工藤会による事件が立て続けに発生し、住民は常に不安や恐怖にさらされていた。一般市民を標的にした事件を2度と発生させないよう、厳罰をもって臨むことで犯行が割に合わないことを広く知らしめることが必要不可欠だ」と述べた。その上で、瓜田被告に対しては2011年に起きた建設会社の役員射殺事件にも関わったとして無期懲役を求刑し、IT被告に対しては懲役16年を求刑した。
 2023年2月20日の最終弁論で、弁護側は2人が仲介役を担っていたとする直接的な証拠はなく、共謀は認められないと主張。その上で「一連の工藤会の裁判とは異なる結論が得られることをせつに求める」と述べ、無罪を主張した。
 判決で神原裁判長は、携帯電話の通話履歴や共犯者の供述などから事件への関与がいずれも認められるとして、無罪の主張を退けた。そして瓜田被告について、建設会社社長が射殺された事件の指示役と認定した上で、「反社会的な価値観と論理に基づき、意に沿わない者を組織を挙げて抹殺するという、およそ許容される余地のない犯行だ」などと指弾。「工藤会が一般市民を拳銃で殺害した事件に、配下組員への指示役として関与したことによる刑事責任は極めて重い。この事件の関与だけでも無期懲役刑を選択するに値する」と指摘し、「行為責任の重大さからすると有期懲役刑を選択することはできない」と述べた。
備 考
 福岡県は、税優遇措置がある宗教法人の設立などを定める宗教法人法の第22条の法人役員の欠格事由に「暴力団員等」を追加▽解散命令の要件に「暴力団員等がその事業活動を支配するもの」-といった暴排規定を同法に盛り込む措置を考案した。兵庫県や宮城県、沖縄県など8件も賛同。2018年から毎年、福岡県の先導で内閣府に追加の要望を出しているが、内閣府は「ここ10年、宗教法人に暴力団が関与したような事例は聞いていない。現時点で制度改正による実効性は薄い」として応じていない。

 建設会社会長殺人事件他に関与し、殺人や銃刀法違反、組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)などの罪に問われた工藤会系組員MH被告は2018年10月9日、福岡地裁(足立勉裁判長)で懲役19年判決(求刑懲役20年)。
 建設会社会長殺人事件他に関与し、殺人や殺人未遂などの罪に問われた組幹部のIK被告は、2019年2月26日、福岡地裁(中田幹人裁判長)で懲役18年判決(求刑懲役20年)。2020年1月28日、福岡高裁(野島秀夫裁判長)で被告側控訴棄却。上告したかどうかは不明だが、すでに確定している。
 建設会社会長殺人事件他に関与し、殺人や銃刀法違反、組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)などの罪に問われた工藤会系組員SA被告は2019年10月21日、福岡地裁(足立勉裁判長)で懲役20年判決(求刑懲役25年)。
 自治総連合会長宅銃撃事件の実行犯として殺人未遂などの罪に問われた組幹部のKO被告は2020年8月24日、福岡地裁(神原浩裁判長)で懲役17年判決(求刑懲役18年)。2021年4月15日、福岡高裁で被告側控訴棄却。上告したかどうか不明。
 建設会社会長殺人事件他に関与し、殺人や銃刀法違反、組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)などの罪に問われた工藤会系組員MH被告は2021年3月17日、福岡地裁(神原浩裁判長)で懲役21年判決(求刑懲役25年)。2022年3月24日、福岡高裁(市川太志裁判長)で被告側控訴棄却。上告したかどうか不明。
 看護師刺傷事件の首謀者であり、元漁協組合長射殺事件、元警部銃撃事件、歯科医師刺傷事件の首謀者として認定されて殺人や銃刀法違反、組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)の罪に問われた工藤会トップで総裁の野村悟被告は2021年8月24日、福岡地裁(足立勉裁判長)で求刑通り一審死刑判決。被告側控訴中。
 看護師刺傷事件の指示役であり、元漁協組合長射殺事件、元警部銃撃事件、歯科医師刺傷事件の指示役として認定されて殺人や銃刀法違反、組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)の罪に問われた工藤会ナンバー2で会長の田上不美夫被告は2021年8月24日、福岡地裁(足立勉裁判長)で一審無期懲役+無期懲役判決(求刑無期懲役+無期懲役・罰金2,000万円)。被告側控訴中。
 建設会社会長殺人事件の実行犯であり、2012年に暴力団排除の標章を掲示した飲食店のビルが放火されたり、経営者らが襲撃されたりなどした3事件、2012年の元警部銃撃事件、2013年の看護師刺傷事件、2014年の歯科医師死傷事件に関与し、殺人、組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)などの罪に問われた組幹部の中西正雄被告は2022年9月28日、福岡地裁(神原浩裁判長)で求刑通り一審無期懲役判決。被告側控訴中。
 看護師刺傷事件で野村悟被告らの指揮命令の下、仲介役を担った他、2010年の自治総連合会長宅銃撃事件、2011年の清水建設社員銃撃事件で関与し、組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)他で組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)などの罪に問われた組幹部のIT被告は2023年5月10日、福岡地裁(神原浩裁判長)で一審懲役14年判決(求刑懲役16年)。

氏 名
宮岡龍治(69)
逮 捕
 2020年9月3日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、窃盗未遂
事件概要
 岡山県高梁市の建築業、宮岡龍治被告は2020年7月16日夜から同17日朝にかけ、近所に住む無職の男性(当時59)を結束バンドで縛りガムテープを顔に巻き、約20m離れた山中に掘った穴に突き落とし土砂で埋めて窒息死させ、男性方で現金約29万円が入った財布とキャッシュカード4枚を奪った。ほかに宮岡被告は9月2日、倉敷市のコンビニエンスストアのATMで男性のキャッシュカードを使って現金を下ろそうとしたが、利用停止措置がとられていて下ろせなかった。
 男性と宮岡被告は近所同士で、足が不自由な男性が通院や買い物で外出する際には宮岡被告が車で送迎するなど良好な関係だったが、2019年ごろ、宮岡被告が男性名義の口座から無断で現金を引き出したとしてトラブルになっていた。
 県内で別に暮らす男性の妹が19日、「数日前から兄と連絡が取れない」と行方不明届を出した。21日昼ごろ、捜索中の高梁署員が山中で埋め戻した痕跡に気付き、22日午前0時25分ごろ、遺体を発見した。
 岡山県警は9月3日、宮岡被告を窃盗未遂容疑で逮捕。24日、強盗殺人容疑で再逮捕。
裁判所
 最高裁第三小法廷 林道晴裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年5月10日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 
備 考
 2022年7月5日、岡山地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2023年1月25日、広島高裁岡山支部で被告側控訴棄却。

氏 名
請川正和(45)
逮 捕
 2022年1月19日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、住居侵入、窃盗、邸宅侵入、建造物侵入
事件概要
 大阪府八尾市の解体工事会社経営、請川(うけがわ)正和被告は妻、建設作業員の男性N被告と共謀。2021年12月1日午前0時ごろ、二人を待たせ、金を奪う目的で大阪市生野区に住む男性(当時82)の3階建ての別宅の2階窓から侵入。同6時ごろ、隣接する3階建ての本宅に侵入し、2階の室内を物色中に男性に発見されたため、男性の頭を金づちで殴るなどして殺害し、現金約10万円と指輪(約23万円相当)を奪った。
 男性は80代の妻と2人暮らし。以前は貸金業を営んでいた。本宅と別宅は3階でつながっており、別宅には親族が住んでいたが、事件には気付いていなかった。妻は3階寝室で寝ていて、事件に気付かなかった。午前7時すぎに知人男性が訪れ、自室で血を流して倒れている男性を見つけて警察に通報した。
 事件直前、現場付近の防犯カメラが付近で駐車する不審なダンプカーと2台の軽乗用車を確認。請川被告らに似た男性がダンプカーからはしごを下ろしたり、現場方面に向かったりする姿も映っていた。さらに逃走経路を調べた結果、3台は八尾市内にある請川被告の会社駐車場に集結していたことから3人の関与が浮上した。請川被告とN被告は仕事仲間で、請川被告の会社は経営が悪化していた。
 2022年1月19日、大阪府警は請川被告と妻、N被告を強盗殺人と住居侵入容疑で逮捕した。1月29日、請川被告に住宅の間取りや資産状況を教えたとして強盗殺人容疑で建設業経営の男性S被告を逮捕した。S被告は約10年前に被害者から金を借りたことがあり、住宅にも出入りしていた。
 S被告は2月に処分保留で釈放、3月29日付で不起訴(嫌疑不十分)となった。
 2月9日、捜査本部は男女3人が2021年9月29~30日、奈良県平群町の産業廃棄物回収業者の事務所に侵入し、現金約13万円などが入った金庫を盗んだとして窃盗容疑で再逮捕した。さらに、門真市に住む男性Y被告も逮捕した。請川被告が実行役で他の3人が見張り役だった。事件後に請川被告の会社で金庫を解体した。
 同日、大阪地検は請川正和被告のみ、強盗殺人、住居侵入容疑で起訴した。請川被告の妻については住居侵入幇助などで起訴した。N被告については不明。
 3月3日、捜査本部は2021年10月15日~18日ごろ、窃盗目的で大阪市平野区の60代女性宅の窓ガラスを割るなどして侵入したとして窃盗未遂容疑で請川正和被告、N被告、S被告を再逮捕した。S被告は女性から数百万円の借金をしていた。(これは不起訴になったらしい)
裁判所
 大阪高裁 齋藤正人裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年5月12日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 不明。
備 考
 請川正和被告に電話で呼び出されて脚立をトラックで運び、住居侵入幇助などで起訴された請川被告の妻に対し、大阪地裁は2022年12月14日、無罪判決(求刑懲役2年6月)を言い渡した。西川篤志裁判官は「夫が事件に及ぶ認識が女性にあったとは認められない」と述べた。

 2022年10月31日、大阪地裁の裁判員裁判で、求刑通り一審無期懲役判決。




※最高裁は「判決」ではなくて「決定」がほとんどですが、纏める都合上、「判決」で統一しています。



【参考資料】
 新聞記事各種



【「犯罪の世界を漂う」に戻る】