無期懲役判決リスト 2023年





 2023年に地裁、高裁、最高裁で無期懲役の判決(決定)が出た事件のリストです。目的は死刑判決との差を見るためです。
 新聞記事から拾っていますので、判決を見落とす可能性があります。お気づきの点がありましたら、日記コメントなどでご連絡いただけると幸いです(判決から7日経っても更新されなかった場合は、見落としている可能性が高いです)。
 控訴、上告したかどうかについては、新聞に出ることはほとんどないためわかりません。わかったケースのみ、リストに付け加えていきます。
 判決の確定が判明した被告については、背景色を変えています(控訴、上告後の確定も含む)。

What's New! 2月3日、大阪地裁は山口利家被告に求刑通り一審無期懲役判決を言い渡した。
What's New! 2月1日付で最高裁第二小法廷は、内藤昌弘被告の一・二審無期懲役判決に対する被告側上告を棄却した。刑が確定する。



地裁判決(うち求刑死刑)
高裁判決(うち求刑死刑)
最高裁判決(うち求刑死刑)
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【最新判決】

氏 名
内藤昌弘(43)
逮 捕
 2021年5月1日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、強盗殺人未遂、横領、窃盗、住居侵入
事件概要
 千葉県市原市の無職、内藤昌弘被告は2021年3月3日、同市の質店で、同市に住む叔父(当時74)から借りていた腕時計1本(42万円相当)を売り渡した。
 内藤被告は遊興のため多額の借金があったが、2021年1月末の出勤を最後に配管工を退職。収入がなくなったため、金のネックレスなどを持っていた叔父なら「金を持っていそう」と頼り、ロレックスの腕時計を質入れするため借りた。買い取りの方が高額だったため、質店で腕時計を売った。
 さらに内藤被告は3月31日、叔父方に侵入し、携帯電話やゲーム機など計7点(時価計約9万4千円相当)を盗んだ。ゲーム機1台とゲームソフト5本は、県内のリサイクル店に売った。
 4月30日午後3時ごろ、同市に住む叔父(当時74)方を訪れ、腕時計を返すふりをして叔父の胸を刃物のようなもので刺して殺害。腕時計の返却を免れようとした。さらに制止しようとした叔父の長男(当時42)の胸も刺して、全治1か月のけがを負わせた。
 叔父は内藤被告の叔母の配偶者で、長男は内藤被告の従兄弟に当たる。
 長男は市原署へ通報。署は長男からの証言をもとに、逃走した内藤被告の行方を追い、同日夜、市内で停車中の車に一人でいる内藤被告を発見し、身柄を確保した。内藤被告は容疑を認めたため、5月1日、市原署は長編への殺人未遂容疑で逮捕した。22日、腕時計を売り渡した横領の罪で再逮捕。6月17日、ゲーム機などを盗んだ窃盗と住居侵入の容疑で再逮捕。7月15日、叔父への強盗殺人容疑で再逮捕。
裁判所
 最高裁第二小法廷 岡村和美裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年2月1日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 
備 考
 2022年3月23日、千葉地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2022年10月21日、東京高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
山口利家(60)
逮 捕
 2022年4月6日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、死体遺棄、建造物侵入、窃盗未遂
事件概要
 大阪市淀川区の2階建て住宅の2階に住む運送会社トラック運転手の山口利家(としや)被告は2022年4月3日午前8時35分~10時50分ごろ、階下の弁当店で働くベトナム国籍の女性(当時31)に「店長にも言ってあるから、貴重品を持ってきて」と声をかけて自宅に誘い込み、背後から首を絞めて殺害。手提げかばんにあった現金約26,000円を奪った。そして遺体を布団の圧縮袋に包んで粘着テープで縛り、上から空気清浄機を置いてテレビ台の裏側に遺体を隠した。
 他に山口被告は、2021年12月5日午前3時ごろ、自宅の階下にある弁当店に勝手口から侵入。レジの引き出しを開けるなどして、金品を盗もうとしたが金品が店内になく、失敗した。発覚を免れるため、店からモニターとSDカードを持ち去った。
 山口被告は腰を痛めてから休みがちになって給料が下がり、生活に困窮していた。長期にわたり家賃の滞納が続いており、大家から退去を求められていた。
 女性がいないことを不審に思った店主は防犯カメラ映像を確認し、午前8時30分ごろに勤務中の女性を外に連れ出す山口被告の姿が映っていたことから午前10時50分ごろに山口被告宅を訪ねたが、山口被告は「知らない」と答えた。
 店主の連絡を受け、警察官が同日深夜に住宅を訪ねると、ベッドの上で山口被告が首から血を流して倒れていた。山口被告は犯行がばれると思い、包丁で首を切っていた。府警は室内を詳しく調べた結果、圧縮袋に入れられた女性の遺体を発見した。容態が回復した6日、強盗殺人容疑で逮捕した。5月2日、建造物侵入と窃盗未遂容疑で再逮捕した。
裁判所
 大阪地裁 中川綾子裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年2月3日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2023年1月26日の初公判で、山口利家被告は被告は「最初から殺す目的やお金を奪う目的で誘っていない」と述べ、起訴内容のうち強盗殺人罪に限って否認した。
 検察側は冒頭陳述で、山口被告は給料が減ったため生活に困窮し、21年12月ごろから家賃の滞納が始まったと指摘。「大家から退去を求められ、事件直前の所持金は100円未満だった」としたうえで、事件当日は女性に抵抗されたことから殺害や金品の強奪を決意したとした。殺害後は奪った金で酒や煙草を買っていたと指摘した。
 弁護側は「被告は金を借りようとした。山口被告には柔道の経験があり、被害者に大声を上げられたので失神させようと首に腕を回したら、動かなくなってしまった。絞め技のつもりが死亡させてしまったことに驚き、その後、金を奪おうと考えた」と主張。強盗目的や殺意はなく、傷害致死と窃盗罪の適用を求めた。犯行後、酒を買ったことについても「被告は落ち着くためにアルコールの力を借りようとした」と主張した。
 山口被告は被告人質問で、2021年末ごろから給料が減り、家賃の滞納など生活が困窮していたとし「(女性に)金を貸してくれと頼んだが大声を出された」と説明。ソファに座っていた女性の背後から2~3分間、右腕を首に回し、外れかけたこともあったと述べた。
 31日の公判で被害者参加制度を利用して出廷した被害者の夫は、「私たち家族はあなたを許すことはありません。被告は、夢をいっぱい持っている女性の命を奪った。適切な判決を望む」と意見陳述した。また被告に対して「もしあなたの妻・娘が命を奪われたらどう思いますか」と質問。山口被告は「同じことをしてやりたいと思います」と答えた。
 同日の論告で検察側は、被害者を自室に誘い込んだ2分後、のどの軟骨が折れるほどの強い力で首を絞めたとし、死亡後にすぐ金を奪って酒やたばこを購入するなど、当初から強盗目的があり、殺意も認められると主張。被告は生活に困窮し、被害者に「店長から言われているので、貴重品を持ってきて」とうそを言って自宅に誘い込んだとして、一定の計画性もあるとした。そして「殺害してでも金を手に入れようとした動機は極めて理不尽かつ身勝手で、落ち度のない被害者の恐怖は計り知れない」と述べた。
 弁護側は最終弁論で、金を借りるつもりだったとし、強盗目的はなかったと反論。被告は弁当店の入り口で被害者に声をかけており、「強盗目的ならば、カメラがあって発覚を防ぐことが不可能な場所を対象にするだろうか」と疑問視した。中学時代の柔道の経験から失神させられると考えて首を絞めたのであり、被害者を気絶させようとしたつもりが結果的に死亡させたのであって殺意もなかったとし、傷害致死と窃盗の罪にとどまると主張して懲役10年が相当とした。
 山口被告は最終意見陳述で、「(言いたいことは)ありません」と述べた。
 判決で中川裁判長は、被告が所持金100円未満で生活に困窮する中、面識のない外国人女性に頼んでお金を貸してもらえるはずがないうえ、弁当店の防犯カメラには、貴重品など金品を持っていくよう念押しして急かしている様子が映っていて、うそをついて自宅内に誘い込んでおり、当初から金品を強取する目的だったと指摘。首を背後から強く絞め続けた状況から殺意もあったと判断できるとして、強盗殺人罪の成立を認めた。そして「金欲しさのあまりの身勝手な犯行で、2~3分間首を絞め続けるなど冷酷。被害者が感じた恐怖は大きく、全く落ち度のない未来ある1人の女性の命が奪われ、夢を打ち砕かれた結果は極めて重大。遺族の悲しみも計り知れず、被告には重罪を犯したことへの反省がない」と指弾した。
 判決の言い渡し後、中川裁判長は被告に「あなたの行為により、落ち度のない未来ある女性の夢を打ち砕いたことは、受け止めてください。被害者の冥福を祈りながら刑に服してください」と説諭した。
備 考
 

【2023年 これまでの無期懲役判決】

氏 名
川瀬直樹(51)
逮 捕
 2019年1月21日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、住居侵入
事件概要
 東京都足立区の無職川瀬直樹被告は2002年12月21日ごろ、近所の足立区のアパート2階の各部屋の呼び鈴を順次鳴らし、対応した会社員の男性(当時23)の頭や背中を持っていた刃物で切り付けたうえ、室内のフライパンで殴るなどして殺害。財布の中から現金約1万円や商品券十数枚を奪った。男性は千葉県内の実家に帰省する直前で、川瀬被告とは面識はなかった。
 川瀬被告は近所で父親と同居していたが、事件数日前に家を出て、公園で野宿をしていた。奪った金で台東区内のビジネスホテルなどに滞在し、その後は生活保護を申請して同区内のアパートなどで生活していた。
 2018年12月9日、川瀬被告は警視庁浅草署に出頭。現場に残されていた指紋を最新の技術で鮮明化したところ、川瀬被告の指紋と一致した。2019年1月21日、警視庁西新井署捜査本部は強盗殺人などの容疑で川瀬被告を逮捕した。
 東京地検は2月から川瀬被告の鑑定留置を実施。5月17日、強盗殺人と住居侵入の罪で起訴した。
裁判所
 最高裁第一小法廷 深山卓也裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年1月10日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 
備 考
 2022年2月2日、東京地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2022年9月29日、東京高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
宮岡龍治(68)
逮 捕
 2020年9月3日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、窃盗未遂
事件概要
 岡山県高梁市の建築業、宮岡龍治被告は2020年7月16日夜から同17日朝にかけ、近所に住む無職の男性(当時59)を結束バンドで縛りガムテープを顔に巻き、約20m離れた山中に掘った穴に突き落とし土砂で埋めて窒息死させ、男性方で現金約29万円が入った財布とキャッシュカード4枚を奪った。ほかに宮岡被告は9月2日、倉敷市のコンビニエンスストアのATMで男性のキャッシュカードを使って現金を下ろそうとしたが、利用停止措置がとられていて下ろせなかった。
 男性と宮岡被告は近所同士で、足が不自由な男性が通院や買い物で外出する際には宮岡被告が車で送迎するなど良好な関係だったが、2019年ごろ、宮岡被告が男性名義の口座から無断で現金を引き出したとしてトラブルになっていた。
 県内で別に暮らす男性の妹が19日、「数日前から兄と連絡が取れない」と行方不明届を出した。21日昼ごろ、捜索中の高梁署員が山中で埋め戻した痕跡に気付き、22日午前0時25分ごろ、遺体を発見した。
 岡山県警は9月3日、宮岡被告を窃盗未遂容疑で逮捕。24日、強盗殺人容疑で再逮捕。
裁判所
 広島高裁岡山支部 柴田厚司裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年1月25日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2022年11月2日の控訴審初公判で弁護側は一審同様、殺害は「かっとなってやった」ものだとして「殺害した時に金品を盗む意思はなく、強盗殺人罪は成立しない」と主張した。検察側は「自分の犯した罪に向き合えていない」と述べ、宮岡被告は「反省している」などと答えた。控訴審は即日結審した。
 判決で柴田厚司裁判長は、「遊興費や生活費を事欠いていたことは自身も認め、被告のメモからも借金の返済を意識していた」と述べ、ギャンブルなどで収入以上の金銭を必要とし、被害者方や口座から何度も現金を盗んだとして「目的は金品を奪う以外に考えがたい」と指摘。当日、娘にうその行き先を伝え、被害者を埋める穴を掘った点などから「突発的な犯行ではなく、確実に殺害して生存を偽装するといったある程度計画的な犯行だったとした一審の判決が間違いであったとは言えない」とした。
備 考
 2022年7月5日、岡山地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。

氏 名
菊地敬吾(50)
逮 捕
 2014年10月1日
殺害人数
 0名
罪 状
 組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)、銃刀法違反、現住建造物等放火、非現住建造物等放火、傷害
事件概要
 特定危険指定暴力団工藤会ナンバー3で理事長、出身母体となる同会最大の2次団体「田中組」の組長である菊地敬吾被告は、他の被告と共謀して以下の事件を起こした。
  • <元警部銃撃事件>2012年4月19日午前7時5分頃、北九州市小倉南区の路上で、県警元警部の男性(当時61)がバイクの男に銃撃され、足などに重傷を負った。男性は暴力団捜査に約30年間従事しており、工藤会専従の「北九州地区暴力団犯罪捜査課」で特捜班長も務めた。事件の前年に県警を定年退職していたが、退職後、自宅周辺で不審な車が目撃されていたことから県警の「保護対象者」になっていた。当日は、再就職していた市内の病院への通勤途中だった。工藤会トップである野村悟被告らの指揮命令の下、菊地被告が田中組の組員に実行を指示した。(組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)、銃刀法違反)
  • <標章ビル放火事件>2012年8月14日早朝、小倉北区の飲食店ビルのエレベータに放火して1基を焼損させた。ビル内には当時、飲食店店長らがおり4人が煙を吸うなどして軽症を負った。さらに約120m離れた別の飲食店ビルのエレベータにも火をつけ、1基を焼損させた。ビル内には誰もいなかった。被害総額は約5,500万円に上る。福岡県が2012年8月から始めた繁華街からの暴力団排除を目的に対象地域で標章を掲示する飲食店への組員の立ち入りを禁じる制度に基づき、暴力団組員の立ち入りを禁じる標章を店に掲示していた。菊地被告は組員に実行を指示した。(現住建造物等放火他)
  • <飲食店経営者女性他刺傷事件>2012年9月7日午前1時ごろ、北九州市小倉北区のマンション敷地内で、タクシーで帰宅したスナック経営の女性(当時35)の左ほおを刃物のようなもので複数回切りつけ、女性を助けようとしたタクシー運転手の男性(同40)の首や左手も切りつけて重傷を負わせ殺害しようとした。2人とも命に別条はなかった。菊地被告は組員に実行を指示した。(組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂))
  • <飲食店経営会社役員男性刺傷事件>2012年9月26日、北九州市小倉北区のマンション敷地内で、帰宅した飲食店経営会社役員の男性(当時53)の腰などを刃物で3回刺して刺して殺害しようとした。男性は全治半年以上の重傷を負った。男性は福岡県が2012年8月から始めた繁華街からの暴力団排除を目的に対象地域で標章を掲示する飲食店への組員の立ち入りを禁じる制度に基づき、暴力団組員の立ち入りを禁じる標章を店に掲示していた。男性は転居し、店から標章を外した。菊地被告は組員に実行を指示した。(組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂))
  • <看護師刺傷事件>2013年1月28日午後7時頃、福岡市博多区の歩道で、北九州市小倉北区の美容整形医院から帰宅中だった看護師の女性(当時45)が、後方から来た黒いニット帽にサングラスをかけた男に刃物で切りつけられ、頭などに重傷を負った。被害者が勤務していた美容整形医院で下腹部の手術を受けた野村被告が、術後の経過や被害者の対応に不満や怒りを抱いての犯行。野村被告らの指揮命令の下、菊地被告が田中組の組員に実行を指示した。(組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂))
  • <歯科医師刺傷事件>2014年5月26日午前8時30分頃、北九州市小倉北区の駐車場で、車から降りた歯科医師の男性(当時29)が刃物で胸などを刺されて重傷を負った。男性は(1)の事件で殺害された男性の孫で、漁協幹部の息子だった。男性は事件後、関わりたくないとリハビリ医師から診療を断られることもあり、雇ってくれる歯科医院もなかったことから、福岡を離れることになった。野村被告らの指揮命令の下、菊地被告が田中組の組員に実行を指示した。(組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂))
 2014年10月1日、看護師刺傷事件の組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)容疑で逮捕。2015年5月22日、歯科医師刺傷事件の組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)容疑で逮捕。7月6日、元警部銃撃事件の組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)容疑で逮捕。11月25日、標章ビル放火事件の現住建造物等放火他容疑で再逮捕。2016年6月3日、飲食店経営会社役員男性刺傷事件の殺人未遂他容疑で再逮捕。2017年6月2日、飲食店経営者女性他刺傷事件の組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)容疑で再逮捕。
裁判所
 福岡地裁 伊藤寛樹裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2023年1月26日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判の対象から除外された。
 2020年12月15日の初公判で、菊地敬吾被告は「身に覚えがありません」などと起訴内容を否認し、6事件全てで無罪を主張した。
 検察側は冒頭陳述で、冒頭陳述で検察側は「元警部銃撃事件」「看護師刺傷事件」「歯科医師刺傷事件」について、野村悟被告らの指揮命令の下、菊地被告が田中組の組員に実行を指示したと主張。他の事件では、田中組が北九州市小倉北区の繁華街を「縄張り」とする中、組の威光を示すための「見せしめ」として、菊地被告が組員に実行を指示したなどとした。弁護側は各事件について「菊地被告は関与しておらず、共謀したとの証拠もない」と反論した。
 2022年1月25日の公判における被告人質問で菊池被告は、「元警部銃撃事件」について弁護士から「事件に関与しているか」などと問われたのに対し「しておりません」などと述べ、改めて無罪を主張した。また野村被告の関与について菊地被告は「総裁に一切権限はない。見守っていただけるような存在」と述べた上で、トップと被害者との間にトラブルはなかったと主張。さらに、ナンバー2である田上不美夫被告の関与についても否定した。また、犯行に関与したほかの暴力団員に報酬を渡したとする検察の主張について「ありません」と否認した。一方、「事件を知って、工藤会が関与していると思わなかったか」と質問されたのに対して「全くないわけではありません」と述べた。
 2月15日の公判で、「歯科医師刺傷事件」について菊地被告は「関与しておりません」などと改めて無罪を主張。これまでの裁判で被告に次ぐ立場だった組員が「配下の暴力団員に被害者一族の行動を確認させていた」と証言したことについて「知りません」などと述べた。また、菊地被告は暴力団の資金獲得活動について「フリーランスの集まりみたいなもので個人が収入を納める。組織を挙げて行うことはない」と述べた。
 6月16日の論告求刑公判で、検察側は菊池被告を「工藤会の実質的序列3位」と位置づけた上で、元警察官、看護師、歯科医師が襲撃された3つの事件について「トップの野村悟総裁の意思決定に基づき、配下の暴力団員に犯行を指示するなど、中心的な役割を果たした」と主張。また、暴力団の立ち入りを禁止する飲食店の関係者が襲われた3つの事件について「犯行を決意した首謀者だ」と述べた。約3時間半にわたる論告の最後に、「菊地被告が組長を務める田中組の威信を誇示するための暴力的理論に基づく凶悪な犯行。実行を決定し配下の組員に指示した首謀者で、全面的に否認。(工藤会からの)離脱の意思も示しておらず、いずれも一般市民である被害者を襲撃し、それぞれ瀕死の状態にした。最高幹部の立場で6件の凶悪重大事件に連続して関与し、刑事的責任は極めて重大。いずれの犯行も必要不可欠で、首謀者ないし指示役として中心的な役割を担った。有期懲役をもって臨むのは軽きに失するのは明らかで、生涯にわたって償いの日々を送らせるべき」として、菊地被告に対し無期懲役を求刑した。
 10月6日の最終弁論で弁護側は、いずれの事件も菊地被告の関与を示す直接的な証拠はないと強調。野村被告の指揮があったとする3事件については、菊地被告との「意思疎通のプロセスが不明だ」などと述べ、他の事件も実行犯が菊地被告の配下組員であっただけだとした。動機面も様々な可能性を考慮しておらず、菊地被告の共謀は「推認に論理の飛躍がある」と訴えた。そして、検察側が共謀の根拠とする上位者の指示が絶対的という上意下達が徹底している工藤会の組織構造については、「ありもしない経験則で証拠もない」と否定し、すべて無罪を主張した。
 最終意見陳述で菊地被告は「すべての証拠を確認したが、初めて知ることばかりでした。私がやくざだからということで判断するのではなく、証拠に基づいた判断を、英断を期待します」と述べた。
 判決で伊藤裁判長は、標章に関する3事件について、暴力団組員の立ち入りを禁止する標章制度に菊地被告が強い反感を示し、被告が組長だった2次団体の田中組が組織的に行ったと認定。組員らが上位者の意向を無視して強行を繰り返すとは想像し難く、組員が独自に思いついたとは考え難い。被告の意向が働いていないのは「不自然、不合理」と指摘した。
 残る3事件は、工藤会トップで総裁の野村悟被告らに動機があり、組員らが役割分担して実行に関わったと判断。菊地被告は実務を取り仕切る責任者を務めており「崇拝の対象である総裁・野村被告、大所帯の工藤会を率いる会長・田上被告は、組員との接点が限られる中、各事件を成立させられるのは、野村被告から田上被告、菊地被告と、順に経由するほかに見合うものは考え難い。菊地被告が野村被告、田上被告から指示を受け、それを具体化して組員に伝えていたと推認させる」と結論付けた。そして「(菊地被告は)加害行為の主力となった組員らが所属する最大二次団体(田中組)の長として組織の凶行に原動力を与え、また最上位者らの意向に基づいてその成就に尽力する立場から凶行に推進力を与え、重要な関与をしたと認められる」「市民生活の安全と平穏を願う社会の意思表示に真っ向から背き、組織により踏みにじった。反社会性、攻撃性、危険性が著しく高度に達した重大な加害行為だ。法が許容する上限近くの量刑が避けられない」と指弾した。
備 考
 被告側は控訴した。




※最高裁は「判決」ではなくて「決定」がほとんどですが、纏める都合上、「判決」で統一しています。



【参考資料】
 新聞記事各種



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