地裁判決(うち求刑死刑) |
高裁判決(うち求刑死刑) |
最高裁判決(うち求刑死刑) |
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13(0) |
10(1) |
12(1)+4※ |
氏 名 | 川瀬直樹(51) |
逮 捕 | 2019年1月21日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、住居侵入 |
事件概要 |
東京都足立区の無職川瀬直樹被告は2002年12月21日ごろ、近所の足立区のアパート2階の各部屋の呼び鈴を順次鳴らし、対応した会社員の男性(当時23)の頭や背中を持っていた刃物で切り付けたうえ、室内のフライパンで殴るなどして殺害。財布の中から現金約1万円や商品券十数枚を奪った。男性は千葉県内の実家に帰省する直前で、川瀬被告とは面識はなかった。 川瀬被告は近所で父親と同居していたが、事件数日前に家を出て、公園で野宿をしていた。奪った金で台東区内のビジネスホテルなどに滞在し、その後は生活保護を申請して同区内のアパートなどで生活していた。 2018年12月9日、川瀬被告は警視庁浅草署に出頭。現場に残されていた指紋を最新の技術で鮮明化したところ、川瀬被告の指紋と一致した。2019年1月21日、警視庁西新井署捜査本部は強盗殺人などの容疑で川瀬被告を逮捕した。 東京地検は2月から川瀬被告の鑑定留置を実施。5月17日、強盗殺人と住居侵入の罪で起訴した。 |
裁判所 | 最高裁第一小法廷 深山卓也裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年1月10日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | |
備 考 | 2022年2月2日、東京地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2022年9月29日、東京高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 宮岡龍治(68) |
逮 捕 | 2020年9月3日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、窃盗未遂 |
事件概要 |
岡山県高梁市の建築業、宮岡龍治被告は2020年7月16日夜から同17日朝にかけ、近所に住む無職の男性(当時59)を結束バンドで縛りガムテープを顔に巻き、約20m離れた山中に掘った穴に突き落とし土砂で埋めて窒息死させ、男性方で現金約29万円が入った財布とキャッシュカード4枚を奪った。ほかに宮岡被告は9月2日、倉敷市のコンビニエンスストアのATMで男性のキャッシュカードを使って現金を下ろそうとしたが、利用停止措置がとられていて下ろせなかった。 男性と宮岡被告は近所同士で、足が不自由な男性が通院や買い物で外出する際には宮岡被告が車で送迎するなど良好な関係だったが、2019年ごろ、宮岡被告が男性名義の口座から無断で現金を引き出したとしてトラブルになっていた。 県内で別に暮らす男性の妹が19日、「数日前から兄と連絡が取れない」と行方不明届を出した。21日昼ごろ、捜索中の高梁署員が山中で埋め戻した痕跡に気付き、22日午前0時25分ごろ、遺体を発見した。 岡山県警は9月3日、宮岡被告を窃盗未遂容疑で逮捕。24日、強盗殺人容疑で再逮捕。 |
裁判所 | 広島高裁岡山支部 柴田厚司裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年1月25日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
2022年11月2日の控訴審初公判で弁護側は一審同様、殺害は「かっとなってやった」ものだとして「殺害した時に金品を盗む意思はなく、強盗殺人罪は成立しない」と主張した。検察側は「自分の犯した罪に向き合えていない」と述べ、宮岡被告は「反省している」などと答えた。控訴審は即日結審した。 判決で柴田厚司裁判長は、「遊興費や生活費を事欠いていたことは自身も認め、被告のメモからも借金の返済を意識していた」と述べ、ギャンブルなどで収入以上の金銭を必要とし、被害者方や口座から何度も現金を盗んだとして「目的は金品を奪う以外に考えがたい」と指摘。当日、娘にうその行き先を伝え、被害者を埋める穴を掘った点などから「突発的な犯行ではなく、確実に殺害して生存を偽装するといったある程度計画的な犯行だったとした一審の判決が間違いであったとは言えない」とした。 |
備 考 | 2022年7月5日、岡山地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2023年5月10日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 菊地敬吾(50) |
逮 捕 | 2014年10月1日 |
殺害人数 | 0名 |
罪 状 | 組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)、銃刀法違反、現住建造物等放火、非現住建造物等放火、傷害 |
事件概要 |
特定危険指定暴力団工藤会ナンバー3で理事長、出身母体となる同会最大の2次団体「田中組」の組長である菊地敬吾被告は、他の被告と共謀して以下の事件を起こした。
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裁判所 | 福岡地裁 伊藤寛樹裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2023年1月26日 無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
裁判員裁判の対象から除外された。 2020年12月15日の初公判で、菊地敬吾被告は「身に覚えがありません」などと起訴内容を否認し、6事件全てで無罪を主張した。 検察側は冒頭陳述で、冒頭陳述で検察側は「元警部銃撃事件」「看護師刺傷事件」「歯科医師刺傷事件」について、野村悟被告らの指揮命令の下、菊地被告が田中組の組員に実行を指示したと主張。他の事件では、田中組が北九州市小倉北区の繁華街を「縄張り」とする中、組の威光を示すための「見せしめ」として、菊地被告が組員に実行を指示したなどとした。弁護側は各事件について「菊地被告は関与しておらず、共謀したとの証拠もない」と反論した。 2022年1月25日の公判における被告人質問で菊地被告は、「元警部銃撃事件」について弁護士から「事件に関与しているか」などと問われたのに対し「しておりません」などと述べ、改めて無罪を主張した。また野村被告の関与について菊地被告は「総裁に一切権限はない。見守っていただけるような存在」と述べた上で、トップと被害者との間にトラブルはなかったと主張。さらに、ナンバー2である田上不美夫被告の関与についても否定した。また、犯行に関与したほかの暴力団員に報酬を渡したとする検察の主張について「ありません」と否認した。一方、「事件を知って、工藤会が関与していると思わなかったか」と質問されたのに対して「全くないわけではありません」と述べた。 2月15日の公判で、「歯科医師刺傷事件」について菊地被告は「関与しておりません」などと改めて無罪を主張。これまでの裁判で被告に次ぐ立場だった組員が「配下の暴力団員に被害者一族の行動を確認させていた」と証言したことについて「知りません」などと述べた。また、菊地被告は暴力団の資金獲得活動について「フリーランスの集まりみたいなもので個人が収入を納める。組織を挙げて行うことはない」と述べた。 6月16日の論告求刑公判で、検察側は菊地被告を「工藤会の実質的序列3位」と位置づけた上で、元警察官、看護師、歯科医師が襲撃された3つの事件について「トップの野村悟総裁の意思決定に基づき、配下の暴力団員に犯行を指示するなど、中心的な役割を果たした」と主張。また、暴力団の立ち入りを禁止する飲食店の関係者が襲われた3つの事件について「犯行を決意した首謀者だ」と述べた。約3時間半にわたる論告の最後に、「菊地被告が組長を務める田中組の威信を誇示するための暴力的理論に基づく凶悪な犯行。実行を決定し配下の組員に指示した首謀者で、全面的に否認。(工藤会からの)離脱の意思も示しておらず、いずれも一般市民である被害者を襲撃し、それぞれ瀕死の状態にした。最高幹部の立場で6件の凶悪重大事件に連続して関与し、刑事的責任は極めて重大。いずれの犯行も必要不可欠で、首謀者ないし指示役として中心的な役割を担った。有期懲役をもって臨むのは軽きに失するのは明らかで、生涯にわたって償いの日々を送らせるべき」として、菊地被告に対し無期懲役を求刑した。 10月6日の最終弁論で弁護側は、いずれの事件も菊地被告の関与を示す直接的な証拠はないと強調。野村被告の指揮があったとする3事件については、菊地被告との「意思疎通のプロセスが不明だ」などと述べ、他の事件も実行犯が菊地被告の配下組員であっただけだとした。動機面も様々な可能性を考慮しておらず、菊地被告の共謀は「推認に論理の飛躍がある」と訴えた。そして、検察側が共謀の根拠とする上位者の指示が絶対的という上意下達が徹底している工藤会の組織構造については、「ありもしない経験則で証拠もない」と否定し、すべて無罪を主張した。 最終意見陳述で菊地被告は「すべての証拠を確認したが、初めて知ることばかりでした。私がやくざだからということで判断するのではなく、証拠に基づいた判断を、英断を期待します」と述べた。 判決で伊藤裁判長は、標章に関する3事件について、暴力団組員の立ち入りを禁止する標章制度に菊地被告が強い反感を示し、被告が組長だった2次団体の田中組が組織的に行ったと認定。組員らが上位者の意向を無視して強行を繰り返すとは想像し難く、組員が独自に思いついたとは考え難い。被告の意向が働いていないのは「不自然、不合理」と指摘した。 残る3事件は、工藤会トップで総裁の野村悟被告らに動機があり、組員らが役割分担して実行に関わったと判断。菊地被告は実務を取り仕切る責任者を務めており「崇拝の対象である総裁・野村被告、大所帯の工藤会を率いる会長・田上被告は、組員との接点が限られる中、各事件を成立させられるのは、野村被告から田上被告、菊地被告と、順に経由するほかに見合うものは考え難い。菊地被告が野村被告、田上被告から指示を受け、それを具体化して組員に伝えていたと推認させる」と結論付けた。そして「(菊地被告は)加害行為の主力となった組員らが所属する最大二次団体(田中組)の長として組織の凶行に原動力を与え、また最上位者らの意向に基づいてその成就に尽力する立場から凶行に推進力を与え、重要な関与をしたと認められる」「市民生活の安全と平穏を願う社会の意思表示に真っ向から背き、組織により踏みにじった。反社会性、攻撃性、危険性が著しく高度に達した重大な加害行為だ。法が許容する上限近くの量刑が避けられない」と指弾した。 |
備 考 |
工藤会の組員が関係した事件のうち、福岡県警が2014年9月11日に開始した「頂上作戦」以後、主に死刑や無期懲役判決を受けた受刑者、被告人(一部例外除く)が関与した事件の一覧ならびに判決結果については、【工藤會関与事件】を参照のこと。 被告側は控訴した。 |
氏 名 | 内藤昌弘(43) |
逮 捕 | 2021年5月1日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、強盗殺人未遂、横領、窃盗、住居侵入 |
事件概要 |
千葉県市原市の無職、内藤昌弘被告は2021年3月3日、同市の質店で、同市に住む叔父(当時74)から借りていた腕時計1本(42万円相当)を売り渡した。 内藤被告は遊興のため多額の借金があったが、2021年1月末の出勤を最後に配管工を退職。収入がなくなったため、金のネックレスなどを持っていた叔父なら「金を持っていそう」と頼り、ロレックスの腕時計を質入れするため借りた。買い取りの方が高額だったため、質店で腕時計を売った。 さらに内藤被告は3月31日、叔父方に侵入し、携帯電話やゲーム機など計7点(時価計約9万4千円相当)を盗んだ。ゲーム機1台とゲームソフト5本は、県内のリサイクル店に売った。 4月30日午後3時ごろ、同市に住む叔父(当時74)方を訪れ、腕時計を返すふりをして叔父の胸を刃物のようなもので刺して殺害。腕時計の返却を免れようとした。さらに制止しようとした叔父の長男(当時42)の胸も刺して、全治1か月のけがを負わせた。 叔父は内藤被告の叔母の配偶者で、長男は内藤被告の従兄弟に当たる。 長男は市原署へ通報。署は長男からの証言をもとに、逃走した内藤被告の行方を追い、同日夜、市内で停車中の車に一人でいる内藤被告を発見し、身柄を確保した。内藤被告は容疑を認めたため、5月1日、市原署は長編への殺人未遂容疑で逮捕した。22日、腕時計を売り渡した横領の罪で再逮捕。6月17日、ゲーム機などを盗んだ窃盗と住居侵入の容疑で再逮捕。7月15日、叔父への強盗殺人容疑で再逮捕。 |
裁判所 | 最高裁第二小法廷 岡村和美裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年2月1日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | |
備 考 | 2022年3月23日、千葉地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2022年10月21日、東京高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 山口利家(60) |
逮 捕 | 2022年4月6日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、死体遺棄、建造物侵入、窃盗未遂 |
事件概要 |
大阪市淀川区の2階建て住宅の2階に住む運送会社トラック運転手の山口利家(としや)被告は2021年12月5日午前3時15分ごろ、自宅の階下にある弁当店に勝手口から侵入。レジの引き出しを開けるなどして、金品を盗もうとしたが金品が店内になく、失敗した。発覚を免れるため、店からモニターとSDカードを持ち去った。 山口被告は2022年4月3日午前8時35分~9時3分ごろ、階下の弁当店で働くベトナム国籍の女性(当時31)に「店長にも言ってあるから、貴重品を持ってきて」と声をかけて自宅に誘い込み、所持金を出すよう要求したが抵抗されたため、背後から首を絞めて殺害。手提げかばんにあった現金約26,000円を奪った。そして遺体を布団の圧縮袋に包んで粘着テープで縛り、上から空気清浄機を置いてテレビ台の裏側に遺体を隠した。 山口被告は腰を痛めてから休みがちになって給料が下がり、生活に困窮していた。長期にわたり家賃の滞納が続いており、大家から退去を求められていた。 女性がいないことを不審に思った店主は防犯カメラ映像を確認し、午前8時30分ごろに勤務中の女性を外に連れ出す山口被告の姿が映っていたことから午前10時50分ごろに山口被告宅を訪ねたが、山口被告は「知らない」と答えた。 店主の連絡を受け、警察官が同日深夜に住宅を訪ねると、ベッドの上で山口被告が首から血を流して倒れていた。山口被告は犯行がばれると思い、包丁で首を切っていた。府警は室内を詳しく調べた結果、圧縮袋に入れられた女性の遺体を発見した。容態が回復した6日、強盗殺人容疑で逮捕した。5月2日、建造物侵入と窃盗未遂容疑で再逮捕した。 |
裁判所 | 大阪地裁 中川綾子裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2023年2月3日 無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2023年1月26日の初公判で、山口利家被告は被告は「最初から殺す目的やお金を奪う目的で誘っていない」と述べ、起訴内容のうち強盗殺人罪に限って否認した。 検察側は冒頭陳述で、山口被告は給料が減ったため生活に困窮し、21年12月ごろから家賃の滞納が始まったと指摘。「大家から退去を求められ、事件直前の所持金は100円未満だった」としたうえで、事件当日は女性に抵抗されたことから殺害や金品の強奪を決意したとした。殺害後は奪った金で酒や煙草を買っていたと指摘した。 弁護側は「被告は金を借りようとした。山口被告には柔道の経験があり、被害者に大声を上げられたので失神させようと首に腕を回したら、動かなくなってしまった。絞め技のつもりが死亡させてしまったことに驚き、その後、金を奪おうと考えた」と主張。強盗目的や殺意はなく、傷害致死と窃盗罪の適用を求めた。犯行後、酒を買ったことについても「被告は落ち着くためにアルコールの力を借りようとした」と主張した。 山口被告は被告人質問で、2021年末ごろから給料が減り、家賃の滞納など生活が困窮していたとし「(女性に)金を貸してくれと頼んだが大声を出された」と説明。ソファに座っていた女性の背後から2~3分間、右腕を首に回し、外れかけたこともあったと述べた。 31日の公判で被害者参加制度を利用して出廷した被害者の夫は、「私たち家族はあなたを許すことはありません。被告は、夢をいっぱい持っている女性の命を奪った。適切な判決を望む」と意見陳述した。また被告に対して「もしあなたの妻・娘が命を奪われたらどう思いますか」と質問。山口被告は「同じことをしてやりたいと思います」と答えた。 同日の論告で検察側は、被害者を自室に誘い込んだ2分後、のどの軟骨が折れるほどの強い力で首を絞めたとし、死亡後にすぐ金を奪って酒やたばこを購入するなど、当初から強盗目的があり、殺意も認められると主張。被告は生活に困窮し、被害者に「店長から言われているので、貴重品を持ってきて」とうそを言って自宅に誘い込んだとして、一定の計画性もあるとした。そして「殺害してでも金を手に入れようとした動機は極めて理不尽かつ身勝手で、落ち度のない被害者の恐怖は計り知れない」と述べた。 弁護側は最終弁論で、金を借りるつもりだったとし、強盗目的はなかったと反論。被告は弁当店の入り口で被害者に声をかけており、「強盗目的ならば、カメラがあって発覚を防ぐことが不可能な場所を対象にするだろうか」と疑問視した。中学時代の柔道の経験から失神させられると考えて首を絞めたのであり、被害者を気絶させようとしたつもりが結果的に死亡させたのであって殺意もなかったとし、傷害致死と窃盗の罪にとどまると主張して懲役10年が相当とした。 山口被告は最終意見陳述で、「(言いたいことは)ありません」と述べた。 判決で中川裁判長は、被告が所持金100円未満で生活に困窮する中、面識のない外国人女性に頼んでお金を貸してもらえるはずがないうえ、弁当店の防犯カメラには、貴重品など金品を持っていくよう念押しして急かしている様子が映っていて、うそをついて自宅内に誘い込んでおり、当初から金品を強取する目的だったと指摘。首を背後から強く絞め続けた状況から殺意もあったと判断できるとして、強盗殺人罪の成立を認めた。そして「金欲しさのあまりの身勝手な犯行で、2~3分間首を絞め続けるなど冷酷。被害者が感じた恐怖は大きく、全く落ち度のない未来ある1人の女性の命が奪われ、夢を打ち砕かれた結果は極めて重大。遺族の悲しみも計り知れず、被告には重罪を犯したことへの反省がない」と指弾した。 判決の言い渡し後、中川裁判長は被告に「あなたの行為により、落ち度のない未来ある女性の夢を打ち砕いたことは、受け止めてください。被害者の冥福を祈りながら刑に服してください」と説諭した。 |
備 考 | 被告側は控訴した。2023年6月6日付で控訴取下げ、確定。6月14日に予定されていた控訴審初公判期日は取り消された。 |
氏 名 | 上山亮(44) |
逮 捕 | 2019年12月9日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、銃刀法違反、詐欺 |
事件概要 |
東京都板橋区の会社役員、上山亮被告は経営する会社の資金繰りに苦労したため、2019年3月から複数回にわたり、投資運用の目的で仕事上の付き合いがあった浜松市に住む飲食店グループ社長の男性から多額の貸し付けを受けた。投資運用は架空のもので、男性は口座に振り込ませた金を会社の運営費や交遊費に充てていた。利息分を上乗せして返済する契約で、当初は計画通りに支払われたが、10月頃から返済が滞った。神山被告は同年9月23日ごろから10月3日ごろまでの間、借り入れた現金を借金返済などに当てる意思であるのに投資運用で利益を加えて返済するなどと男性にうそを言い、同日に現金1,000万円をだまし取った。上山被告は12月時点で借金と利息分など約3,400万円の債務を負っており、うち約2,200万円の弁済期限が過ぎていた。 上山亮被告は返済を免れようと12月8日午後9時15分ごろ、社長(当時38)の男性方敷地内に停車中の車内外で社長の胸や首などを包丁で刺して殺害した。上山被告は凶器をその場に捨て、東京から乗ってきた自分の車で逃走した。 社長は「知り合いの上山が2,000万円返しに来る」と妻に言って自宅の外に出た後、午後9時20分ごろ、血まみれで自宅に戻ってきたため、妻が110番通報。社長は失血死した。静岡県警は上山被告の行方を追い、9日午後0時40分頃、東京都港区新橋の路上で、県警の捜査員がひとりで歩いていた上山被告を発見、殺人容疑で逮捕した。静岡地検浜松支部は後に殺人と銃刀法違反の罪で起訴した。 2020年2月11日、社長に投資話を持ち掛けて2,700万円をだまし取った詐欺の容疑で上山被告を再逮捕。体調不良で一時釈放され、24日に同容疑で再逮捕。3月13日、静岡地検浜松支部は2019年9月23日ごろから10月3日ごろまでの間、借り入れた現金を借金返済などに当てる意思であるのに投資運用で利益を加えて返済するなどと男性にうそを言い、同日に現金1千万円をだまし取ったとして詐欺罪で追起訴した。同日、殺人罪から強盗殺人罪への訴因変更を静岡地裁浜松支部に請求した。静岡地裁浜松支部は4月23日付で、訴因変更を認めた。 |
裁判所 | 東京高裁 島田一裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年2月10日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
2022年12月23日の控訴審初公判で、弁護側は一審に続き「返済を免れる目的はなかった」として、強盗殺人罪を一部否認し、殺害動機に関する一審判決の事実誤認や量刑不当を訴えた。上山被告は被害者から「金を返さなければ家族に危害を加える」という趣旨の返済要求を受けたと指摘。殺害に及んだのは家族を守るためだったとして、「強盗殺人罪は成立せず、殺人罪にとどまる」と主張した。 検察側は、一審判決は被害者との関係性や上山被告の事件前の行動を「総合的に評価して強盗殺人罪を認定している」と反論し、控訴棄却を求めた。 弁護側は3点の証拠の取り調べを請求したが、高裁はいずれも却下した。弁護側は「検察への反論の機会がほしい」と主張し、島田裁判長はこれを認めた。 判決で島田裁判長は、被告が事件前に家族の安全確保について警察や弁護士に相談していなかった点などを踏まえ、「借金返済のめどが立たず、追い詰められて殺害を計画したという推認に不合理な点は認められない」と、弁護側の主張を退けた。 |
備 考 | 2022年3月25日、静岡地裁浜松支部の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2023年中に被告側上告棄却、確定と思われる。 |
氏 名 | 相澤大広(22) |
逮 捕 | 2021年7月23日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、住居侵入 |
事件概要 |
宮城県松島町のアルバイト相澤大広(たいこう)被告は2021年7月15日午後1時半ごろ、近くに住む女性(当時85)の自宅に盗み目的で侵入。財布から現金を取ろうとした際、女性と鉢合わせしたため、女性の頭部を玄関にあった金づちで何度も殴るなどして殺害し、現金およそ52,000円を奪った。 相澤被告は事件発生の1カ月ほど前に事故を起こして車を廃車にし、その後、家出していた。 女性は一人暮らしで、連絡が取れないことを不審に思った親族が16日午後、民間の訪問サービス業者に連絡。担当者が警察官とともに女性宅を訪れ、玄関で倒れている女性を発見した。 宮城県警は23日、殺人容疑で相澤被告を逮捕した。仙台地検は8月13日、強盗殺人と住居侵入の罪で起訴した。 |
裁判所 | 仙台地裁 大川隆男裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年2月10日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2023年1月27日の初公判で、相澤大広被告は「おおむね間違っていないが、現金を取るために殴ったわけではなく、殺意もなかった」と、起訴内容の一部を否認した。 検察側は冒頭陳述で、「金に困っていた被告は、玄関が空いていた被害者の家に侵入した。バッグの中から財布を見つけたが、被害者と鉢合わせたため、助けを呼ぼうと玄関に向かった被害者の口をふさぎ、靴箱にたてかけてあった金づちで殺意を持って頭を何度も殴った」などと述べた。弁護側は「被告は、暴行を加えた時点で財布の存在に気づいていなかった。相澤被告は気が動転し、暴行も逮捕から逃れるためで、強い殺意はなかった」として強盗殺人ではなく、殺人と窃盗の罪にあたると主張した。 2月3日の論告求刑公判で検察側は、被告は犯行当時、多額の借金があったほか、犯行前に4時間にわたり下見をしていた事実などから、「暴力で金を奪う目的があった」と指摘。「身勝手な理由で、無関係、無防備な被害者を金づちでめった打ちにするなど、残忍で凄惨な犯行」とした。 同日の最終弁論で弁護側は、「被害者に気付かれて動揺する中、金のことなど考えておらず捕まりたくない一心での暴行だった。暴行した際には窃盗する意思はなかった。年齢が若く更生の機会を与えるべき」と殺人罪と窃盗罪での有期刑を求めた。 判決で大川隆男裁判長は、盗みの目的で被害者宅に侵入していて、「逃走は容易だったのに、暴行に及んでいたことなどから、暴行した際に現金を奪おうという目的があったといえる」として強盗殺人罪が成立すると認定。「制圧目的で強い暴行を加える必要はない。被害者がほとんど確実に死亡するという認識があったと認められる。空き巣目的で侵入した家に偶然いた被害者を、金づちでめった打ちにしており、残忍」と指摘。弁護側の主張については、「暴行の場面だけ現金を奪うことを全く考えていなかったということは考え難い。暴行の前後で内心が変わったというのはでき過ぎた話」と退けた。そして「犯行は残忍かつ凄惨で、何の落ち度もない被害者の命を奪った結果は重い。金欲しさから安易に及んだ犯行で、動機も身勝手すぎるとしかいいようがない。結果は重く取り返しはつかない」と述べた。 |
備 考 | 被告側は控訴した。2023年8月22日、仙台高裁で被告側控訴棄却。2023年12月13日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 盛藤吉高(53) |
逮 捕 | 2020年5月31日 |
殺害人数 | 2名 |
罪 状 | 殺人、窃盗、道路交通法違反(ひき逃げ) |
事件概要 |
福島県伊達市出身、住所不定、無職盛藤吉高(もりとう・よしたか)被告は2020年5月31日午前7時55分ごろ、福島県三春町の国道288号脇で、地元の清掃活動のボランティアをしていた同町に住む会社員の男性(当時55)と会社員の女性(当時52)を準中型免許を持たずに準中型トラック(約2.5t)で、いったん通過して150m先でUターンし、時速約60~70キロまで加速しながらはねて殺害した。現場は、ほぼ直線の片道一車線だった。 現場で男性らと一緒に作業していた人が110番通報し、県警は現場から約15km離れた同県須賀川市内で車体前部が破損しているトラックを発見。車内にいた盛藤被告を事故から約4時間後に自動車運転死傷行為処罰法違反(無免許過失運転致死)と道路交通法違反(ひき逃げ)容疑で緊急逮捕した。 盛藤被告はパチンコ店での暴行や飲食店での恐喝未遂、つきまとっていた女性への監禁などの罪で5回の有罪判決を受け、計3回、刑務所で服役。盛藤被告は3回目の服役中、知り合いの内装工事会社の社長に手紙を送り、出所後に雇ってもらう約束をした。しかし、仮釈放を間近に控えた2020年4月上旬、刑務所職員に反抗したとして、仮釈放は取り消しになった。雇用を約束していた社長は被告の住まいとしてすでにアパートの部屋を契約していたが、被告の態度に失望し、白紙にすると手紙で伝えた。2021年5月29日、福島刑務所を出所した。高校時代の後輩2人が車で出迎え、3人で福島市内の喫茶店に入った。2人は被告を叱り、当面の生活資金として計10万円を手渡した。行く当てもなく、翌日、内装会社の事務所に押し掛けた。社長は「ちゃんと仕事をするならチャンスを与える」と言って知り合いが経営する土木解体会社での住み込みの仕事を紹介した。2、3カ月まじめに働けば自分の会社であらためて面接すると約束した。盛藤被告はその日のうちに紹介された郡山市にある解体会社の寮に入った。しかし盛藤被告はなじみのない職場で未経験の仕事をすることに不安で一睡もできず、31日午前7時30分ごろ、寮の壁にかかっていた鍵を取り、トラックを盗んだ。およそ5km離れた現場に向かい、事件を起こした。逮捕後は「社会生活に不安があり、刑務所に戻った方がましと思った」「誰でもよかった。車なら簡単に殺せると思った」などと供述。2人とは面識がなかった。6月19日、トラックの窃盗容疑で再逮捕。 福島地検郡山支部は6月30日、現場にブレーキ痕がなかったことなどから殺人などの罪で盛藤被告を起訴した。 |
裁判所 | 仙台高裁 深沢茂之裁判長 |
求 刑 | 死刑 |
判 決 |
2023年2月16日 無期懲役(一審破棄) 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
(一審) 裁判員裁判。 2021年6月7日の初公判で、盛藤吉高被告は故意に人をはねたことを認める一方、「死ぬかもしれないとは思ったが、積極的に殺害しようと思ったわけではない」と明確な殺意については否定した。 冒頭陳述で検察側は、「刑務所を出所したばかりの盛藤被告が、衣食住が保証された刑務所に戻り、長く服役したいと考えて無差別に2人を殺害した」と指摘。「事件前夜から通行人2人くらいをはねると決めていた」と主張し、明確な殺意に基づいてトラックで2人連れを探し回り、確実に殺害するため時速60~70キロまで加速したと説明。そして「人命を軽視する態度がはなはだしい」などと厳しく指摘した。弁護側は、盛藤被告が故意に2人をはねて死亡させた事実を認める一方、「積極的に殺害しようとしたのか、それとも確実に死ぬか分からないが死んでもかまわないと思っていたのかという点に着目してほしい」と説明。殺意の程度について争う姿勢を示した。 この日は、検察から「被告を到底許すことはできない。自分の命でつぐなってほしい」との遺族の供述調書も読み上げられた。 8日の第2回公判で盛藤被告に対する被告人質問が行われた。盛藤被告は「刑務所を出所してからなじみの無い新たな環境で働いていくことに不安が募り、衣食住が揃う刑務所に戻るために車を使って当て逃げしようと思いついた」と犯行の動機を語った。事件当日を「縁石などの障害物がない場所を歩く2人連れを探して回った」と振り返り、2人をはねたことについて「1人だけをひくより、2人をひくほうが罪が重くなると思った」と述べた検察側はトラックを加速させ犯行に及んだ理由を聞くと「覚えていない」などを繰り返した。「刑務所に戻りたかったのか」と問うと、盛藤被告は、「社会生活を送っていく自信がなかった」などと答えた。一方、弁護側の「今でも刑務所に長くいたいと思っているのか?」という質問に対しては、盛藤被告は「なるべく早く出たい」と答えた。そして、被害者や遺族に対しての心境を問われると「大変申し訳ないことをしてしまった」と謝罪の言葉を述べるも、「殺そうとは考えていない」と殺意を改めて否認した。盛藤被告は消え入るような声で「そうだったと思う」「ですかね」などの曖昧な回答や沈黙を繰り返した。小野寺裁判長や弁護側から計約40回聞き直されたり「もう少し大きな声で」と注意を受けたりする場面もあった。 9日の第3回公判で被告人質問が行われ、盛藤被告は遺族への心情を問われ「自分勝手な考えで大変な事件を起こし、申し訳ないと思っている」「事件前になぜ考え直すことができなかったのか。思いとどまれなかったのか」などと述べた。 この日は、死亡した男性の妻が被害者参加制度を利用して出廷。長男に付き添われながら証言台の前に立ち、刑務所に戻るために2人をひき逃げしたとする盛藤被告を前に「犯人の夢をかなえるような判決だけはやめてください」と訴えた。被告の厳罰を求める約1万4,000人分の署名を踏まえ、「皆さんの心情を考慮し、厳格な判断をお願いします」と述べた。さらに「もし刑務所を出所したら、また罪のない誰かを傷つけ刑務所に戻ろうと同じことを繰り返す」と非難し「盛藤被告は自分の夢をかなえるため、普通では考えられないほどの恐怖と痛み、絶望を与えた」と男性の思いを代弁。「大切な主人を返して」と訴えた。 また検察官は、もう1人の被害者の女性の弟の意見陳述書を「失うものがないからと言って、何ら関係のない2人を犠牲にしたことは許し難い。民意が感じられる判決を望む」などと読み上げた。 11日の論告求刑で検察側は、殺害までの意思決定や経緯は極めて悪質であり「殺害意欲に基づく犯行であることは明らか」と指摘。「これは無差別殺人事件だ、被告の生命を軽視する態度が甚だしく、殺人事件の中でも厳しく非難される」と非難。刑務所に戻りたいという身勝手な動機で2人を死亡させた犯行は残虐極まりなく、現場に引き返してトラックを加速させるなど強い殺意があったと指摘。再犯を重ねる盛藤被告に対し「更生の可能性は極めて乏しい。2人の命を奪った重大性や自らの責任の重さを理解しているとは思えない。罪責は誠に重大で、死刑はやむを得ない」として死刑を求刑した。 同日の最終弁論で弁護側は殺人罪の成立は争わないとする一方、「被告は事件前夜に犯行を思いつき、行為に及んでいるため積極的に計画した犯行ではない。被害者が死ぬかどうかは分からず、死んでもいい」と思ったのであって、「確実に殺そうとしたわけではない」と主張、無期懲役を求めた。 最終意見陳述で盛藤被告は、「被害者の方、遺族の方へ取り返しのつかないことをしてしまい本当に申し訳なく思っています。本当にすみませんでした」と頭を下げた。 判決で小野寺健太裁判長は、「被告は、別の罪での懲役1年6か月の服役を終え、事件の2日前に刑務所を出たあと、新しい人間関係や慣れない土地や仕事への不安が募り、長く刑務所に入っていたいと犯行を考えるようになった」と指摘した。そのうえで「当時、時速60から70キロメートルの速度に加速させてはねていて、被告は殺害の意欲こそなかったものの、被害者が死亡する蓋然性が高いことを認識していた。意図的に犯行に及んでおり、殺意も明白だ。長く刑務所に入っていたいという身勝手な動機に酌むべき事情はなく、犯行の残虐さなども考えると、場当たり的で稚拙な面があったことは否定できなく高度の計画性が認められないことを踏まえても、計画段階から人が死亡する可能性を認識して実行した点に人命軽視の度合いの強さが表れており、責任は誠に重い。死刑の選択がやむを得ないとの結論に達した」として死刑を言い渡した。 2021年11月9日の控訴審初公判で、盛藤被告の弁護側は、「殺意がなかったのに殺意を認定した一審の判決は事実誤認で、死刑判決は量刑不当」などとして、傷害致死罪が妥当と主張した。また、弁護側は、裁判所に対し被告の精神状態などを調べる情状鑑定を行うよう求めた。 一方、検察側は一審の判決を指示し、控訴の棄却を求めた。 2022年5月12日、第2回公判(が開かれたと思われる)。 6月9日の第3回公判で被告人質問が行われ、盛藤被告は「被害者と遺族に申し訳ないことをした」と謝罪の言葉も口にするも、「(被害者にトラックを当てるために)ハンドルを切ったが、タイヤでひくことは考えていなかった」と殺意を否認した。トラックを時速約60kmに加速した後、衝突地点の10mほど手前で目線を下に向けたとも語り、衝突時の様子について「分からない。偶然のことだった。被害者がよけることもできたのではないかと思う」などと話した。控訴審で殺意を否定した理由などを検察官から問われると、被告は「徐々に思い出した。今日話したことの方が正しい」と話した。 11月15日の第4回公判で、弁護側が請求した交通事故調査会社の代表が証人として出廷。会社代表は「トラック左側のタイヤが草地に乗り上げ、車体が上下左右に揺れたと考えられる」と証言。「被告が意図通りに運転するのは難しかった可能性がある」との見解を述べた。検察は、トラックがガードレールに接触しなかったことから、盛藤被告が思い通りに運転できていた可能性が高いと主張した。 12月20日の第5回公判で、死亡した男性の妻は被害者遺族の意見陳述で、「(死亡した)女性と主人に責任転嫁をして反省していない。一審と同じ判決を望む」と語った。 弁護側は最終弁論で「(盛藤被告は)2人の生死に関心はなく、せいぜいけがをさせることであって真の故意は傷害だ」と主張。当時の路面状況などから「トラックを的確に運転できなかった上、被害者らはトラックを回避できる可能性が残されていた」と指摘し、一審の死刑判決は不当とした。 検察側は路面状況の影響はないとし「被害者に衝突して衝撃があったのに、ガードレールに接触せず走り去ったのはトラックを的確にコントロールしていたため」と反論。「被害者は逃げ場もなく回避は不可能」と弁護側の主張を否定し「量刑判断に影響を与えるものではない」として一審判決に誤りはないとして控訴の棄却を求め、結審した。 判決で深沢裁判長は、盛藤被告が2人を死亡させる可能性が高いことを認識しながら意図的に犯行に及んだとして、一審同様に「明白な殺意」があったと認定。「刑務所に戻りたいなどの身勝手で自己中心的な動機から無差別に被害者2人を殺害するなど極めて悪質。人命軽視の度合いは大きく、社会に与える影響も重大」などと非難した。一方で死刑判決については「誠にやむを得ない場合に行われる究極の刑罰で、慎重に行われなければならない」と説明。その上で、新しい人間関係や未経験の仕事などへの不安から自棄的になって及んだ犯行の動機や計画性などに触れ、「長く刑務所に入るという目的が達成できればよかったのであり、他人の生命を侵害すること自体から利益を得ようとしたわけではない」「犯行に場当たり的な面があり、稚拙」「被害者2人が死亡する危険性が極めて高いが、殺害の意欲までは認められない」「生命軽視の態度や姿勢は明らかだが、甚だしく顕著とまでは言い難い」などとした。また一審が触れなかった殺害行為の回数を検討し、1回の運転行為で2人を殺害した今回の事件と、2回の殺害行為があった場合を同一視せず、「過去の判例からも、死刑となった事件に匹敵するとまでは言えない」と述べた。また一審判決について「極刑がやむを得ないとまではいえず、不合理な判断をしたものといわざるを得ない」とも指摘した。そして「死刑がやむを得ないとまでは言えない」として一審判決を破棄した。 判決の言い渡し後、深沢裁判長は「無期懲役も相当に重い刑で、改めて責任を感じてほしい。2人の尊い命を奪った事実は変わらない。ご冥福を祈り続けてください」と諭した。 |
備 考 |
当初、一審初公判は2021年2月22日に行われる予定であったが、2月13日夜の地震の影響で、福島地裁郡山支部刑事棟の331号法廷と裁判員候補者待合室の天井や壁がはがれる被害があり、安全性の確認や復旧作業が必要と判断されたため、期日取消となった。 2021年6月24日、福島地裁郡山支部(小野寺健太裁判長)の裁判員裁判で、求刑通り一審死刑判決。【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) 検察側は上告した。2024年5月27日、検察側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 安田こずえ(48) |
逮 捕 | 2020年8月27日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗致死、死体遺棄 |
事件概要 |
大阪市の無職、安田こずえ被告は、覚醒剤密売グループの仲間である福岡市の無職、M被告、韓国籍で大阪市の解体工、K被告と共謀。覚醒剤の売買をめぐるトラブルから8月5~6日ごろ、安田被告の自宅マンションで、大阪市に住む無職の知人男性(当時40)をビニールひもで緊縛した上で、腰を包丁で何度も刺し、殴る蹴るなどの暴行を加えて死亡させ、現金約20万円入りの財布などを奪った。その後、男性の遺体を東広島市の山林に遺棄した。 男性は一時期、安田被告のマンションに住み、身の回りの世話をしていた。 M被告の親族から8月20日、「人を殺して死体を遺棄したと言っている」と府警に相談があった。捜査員が安田被告のマンションでM被告を見つけ、翌21日、覚醒剤取締法違反(使用)容疑で逮捕した。M被告は、「金を貸していた知人に暴行を加えて死なせ、車で運んで遺体を遺棄した」と供述。26日午後、東広島市内の山中の崖の下で、男性の遺体が見つかった。大阪府警は27日、安田被告ら4人を死体遺棄容疑で逮捕した。 大阪府警捜査1課は11月25日、安田被告、M被告、K被告を強盗殺人容疑で再逮捕した。 大阪地検は12月16日、安田被告とM被告を強盗致死罪で、K被告を強盗致死ほう助罪で起訴した。 |
裁判所 | 最高裁第三小法廷 渡辺恵理子裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年2月17日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | |
備 考 |
強盗致死幇助や死体遺棄などの罪に問われたK被告は2021年6月2日、大阪地裁(大寄淳裁判長)の裁判員裁判で懲役8年判決(求刑懲役10年)。控訴せず確定と思われる。 強盗致死や死体遺棄などの罪に問われたM被告は2021年12月3日、大阪地裁(矢野直邦裁判長)の裁判員裁判で懲役20年判決(求刑懲役22年)。2022年6月3日、大阪高裁で被告側控訴棄却。 2022年2月28日、大阪地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2022年10月25日、大阪高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 丹羽祐一(48) |
逮 捕 | 2020年7月2日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、死体遺棄、銃刀法違反 |
事件概要 |
福井市の自称会社員丹羽祐一被告は2020年6月28日午前2時40分ごろから3時ごろの間、福井市の学習塾講師の男性(当時40)からの借金約1,160万円の返済を免れようと、男性のアパートの駐車場で男性の背中を包丁で刺して自らの車の中に押し込み、さらにきりで首や胸を刺して殺害。男性の部屋から約308万円を奪った。遺体を福井市内の山中に隠した後、29日に遺体をスーツケースに入れてくるまで運び、坂井市の龍ケ鼻ダム湖に遺棄した。 丹羽被告は被害者の男性と同じ福井市の学習塾で営業として働いていたが、賭けマージャンなどで10年近く前から塾の金を使い込み、1,000万円近くの借金があった。使い込みの発覚を避けるため、2019年8月22日午後1時20分ごろ、同塾が入居する雑居ビルの一階裏口付近で強盗に遭い、入学金や教材代金などとして集金した約50万円入りの封筒を奪われたと説明。実際に鼻を骨折し顔面打撲のけがを負っていた。福井県警は一時、強盗致傷事件として捜査したが、説明があいまいだったため、さらに詳しい説明を求めたところ、同日午後9時ごろ、「自分でビルの壁の角に頭を打ちつけ、顔を殴った」と認めた。福井署などは23日、虚偽の通報で事情聴取や犯人の捜索、現場鑑識などに当たった県警の警察官と警察職員計71人の業務を妨害したとして、偽計業務妨害容疑で逮捕した。10月25日、福井地裁で懲役1年執行猶予3年(求刑懲役1年)の判決を受け、確定した。その後は別の職場で働いていた。被害者は一人暮らしだった。 6月29日昼、男性の家族が福井署に捜索願を出した。同日午後2時30分ごろ、男性の遺体が湖面に浮かんでいるのを釣りに訪れた人が発見し、110番通報した。 7月1日午後7時ごろ、丹羽被告が福井署に出頭。捜査本部は2日、死体遺棄容疑で丹羽被告を逮捕した。22日、強盗殺人容疑で再逮捕した。 |
裁判所 | 福井地裁 河村宜信裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年3月10日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2023年1月12日の初公判で、丹羽祐一被告は「考えや思いは弁護人に聞いて下さい」と述べ、弁護人は殺人については認める一方、「借金の返済を免れるために殺害したわけでない」などとして、起訴内容を一部否認した。 検察側は冒頭陳述で、動機について、借金などで困窮していた丹羽被告が事件当日、男性から「法的措置を取る」と言われて犯行に至ったと主張した。殺害後に男性宅から借金に関する書類も持ち出して捨てており、「債務を免れる目的があった」と述べた。また、奪った現金については、殺害後、丹羽被告が男性宅から奪うまでの時間は短く、殺害現場に近いため、男性の保管状態が続いていると判断。法定刑が死刑か無期懲役の強盗殺人罪が成立するとした。一方、弁護側は、丹羽被告が家族に対し、消費者金融や男性からの借金額を実際より少なく伝えていたと説明。男性にはうそをついて何度も返済を延期しており、返済を迫られた際に、「『家族にうそがばれるわけにはいかない』と極限まで追い詰められた状態で殺害に及んだ」と主張した。借金の返済を免れたいとの考えはなかったと述べた。現金を持ち出した経緯については、殺害後、遺体を車に乗せて現場を一度離れた後、男性宅に戻っており、「既に被害者は死亡している上、時間もたっている。被害者から奪ったとはいえない」と指摘。法定刑が死刑か、無期もしくは5年以上の懲役の殺人罪にとどまると主張した。額は約308万円よりも少なかったとし、検察側の主張を否定した。 1月20日の第5回公判までに、県警の捜査員ら延べ17人が検察側の証人として出廷し、捜査で分かったことなどについて証言した。証人の数は計33人が採用されている。 31日の第8回公判で、被害者参加制度を利用して被害者の母親が出廷。丹羽被告に対し「一番重い罪を願う。二度とこの世に出てきてほしくない。それ以上言葉にならない」と訴えた。また、事件の4年前、自分の定期預金から引き出した200万円を息子に帯封が付いたまま渡したと証言した。 2月7日の公判で、被害者参加制度を利用して被害者の父親が出廷。丹羽被告については、「謝罪があるだろうと思っていたがなかった」、「弁護人を通して、謝罪文と500万円を提示されたが量刑を少しでも軽くしたいという意図を感じたので受け取っていない」と話した。またこの日は、事件後に離婚した丹羽被告の元妻も出廷した。元妻は、検察官の質問に、生活費以外は夫婦別々に管理していて、丹羽被告の借金などの金銭状況を「全く知らなかった」と証言した。弁護側の反対尋問で、「丹羽被告は子育てにとても協力的で休日はよく3人で出かけた」と答えた。 8日の公判で、被告人質問が行われた。弁護側から事件当日、なぜ包丁や錐をもって被害者に会いに行ったのか聞かれると、「本当のことを正直に話し、借金の返済の延期や返済額を減らしてもらおうと思った。応じてもらえなかったとき、彼を殺しても……」と言葉を詰まらせ首をかしげた後、「それでも『法的措置を取る』と言われたら殺すしかないと思い込んでいた」と語った。家族に借金があることをなぜ正直に話さなかったのかを聞かれると、「正直に話すことによって離婚することになる。今まであった生活がなくなる。だから言えなかった」と語った。 10日の公判における被告人質問で、弁護側が警察や検察の取り調べの様子を聞いたことに対し、丹羽被告は「殺害の動機を『金銭トラブルや借金を免れようとした』と話したが、本当は家族にばれたくない思いで被害者を殺害した。警察や検察に信じてもらえるようウソの理由を言った」、「警察や検察にいい顔をしたかった」と話した。また、犯行後、被害者の自宅から現金を持ち出した理由を問われると、「借金を示す書類などを探していたが、現金を先に見つけたので持っていこうと思った。使用目的があって持ち出したのではない」と説明した。 13日の公判における被告人質問で丹羽被告は、弁護側に「遺族に対する思いはありますか」と聞かれると、「遺族には、長い時間、さみしい、悲しい、つらい思いをさせている。私の愚かで身勝手で取り返しのつかない行為により、尊い命を奪ったことを心より反省しています。このたびは誠に申し訳ありませんでした」と、声を震わせ、立ち上がり遺族に対して深々と頭を下げた。今後について聞かれると「謝罪の気持ちを忘れず、ご冥福を祈り、贖罪に努めていくことが今の私に進むことができる正しい道だと思う」と話した。 16日の公判で被害者参加制度を使って被害者の兄が出廷し「被告には一生世の中に出てきてほしくない。それは極刑になること。裁判所にはできる限り重い判決を下してほしい」と述べた。 論告求刑で検察側は、被告は金銭に困っており「殺害は返済の請求を阻止する行為で、借金の返済を免れるのと同じであるのは明らか」と指摘。「殺害すれば借金を支払わなくて済むと認識しており、執行猶予中で更生の機会があったにも関わらず犯行に至り、動機に酌むべき事情はない」とした上で、自首したことや犯行の計画性が綿密なものではなかったことを考慮し、「死刑を求めるやむを得ない事情がない」として無期懲役を求刑した。 同日の最終弁論で弁護側は、「借金があることがばれると家族を失うと思い込んで犯行に至ったため、債務を免れる意思はなかった」として、強盗罪の成立要件を満たさず、殺人罪に留まるとした。また、「警察に自首したことによる減軽が認められるべきだ」として、懲役10年が妥当であると主張した。 最終意見陳述で丹羽被告は、遺族に謝罪した上で「法廷では真実を話してきた。公平な気持ちで裁いていただけることをお願い申し上げる」と述べた。 河村宜信裁判長は判決で、丹羽被告が返済に窮する中「法的措置に出る」と告げられすぐに殺害に及んだ点、殺害後に借金に関する書類を持ち出して捨てていることなどから、「返済を免れるため殺害したことに疑問の余地はない」と断定。現金の持ち出しも、「殺害と現金の持ち出しは1時間以内で行われ、それぞれの場所は建物の一室と敷地内の駐車場で近い状態にあり、被害者の現金の占有は継続している」と述べ、強盗殺人罪の成立を認めた。そして丹羽被告が事件当時、別の事件で執行猶予期間中だったことから「賭けマージャンなどの遊興費のために借金を重ね、更生の機会を与えられながら身勝手な考えで犯行に及び、動機や経緯に酌むべき事情は一切ない」と非難。その上で「犯行は執拗で非常に残忍だ。理不尽にも人生を終えることになった被害者の無念は察するに余りある」と述べた。ただ、凶器の包丁やきりを準備した以外に計画性は乏しく、執拗性や残虐性も際立っていないことと、自首した点などを考慮し、死刑ではなく、求刑通り無期懲役とした。 |
備 考 | 被告側は控訴した。2023年10月20日付で控訴取下げ、確定。10月24日に控訴審初公判が予定されていた。 |
氏 名 | 西原崇(39) |
逮 捕 | 2018年2月13日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、強制わいせつ致死 |
事件概要 |
松山市の運送会社員、西原崇被告は2018年2月13日午前4時35分~午前5時50分ごろ、今治市の段ボール製造販売会社の敷地内で、同僚の女性(当時30)の首を両手で絞め、タイツをはぎ取るなどわいせつ行為をし、首をタイツで絞めて殺害した。 女性は同日未明、荷物を配送するため、一人で段ボール製造会社に向かった。西原被告は同日早朝、女性と合流して仕事を手伝う予定だった。 帰社予定だった午前中に戻らず、連絡も取れなくなったため、会社の上司が13日午後、西条署に行方不明届を提出。県警が、女性が仕事をしていた段ボール製造会社を捜索した際、遺体が見つかった。会社の敷地や建物は人が出入りしていたが、遺体があったのは人目につきにくい場所だった。 県警は13日午後、西原被告から任意で事情を聴き、同行した現場で逮捕した。 |
裁判所 | 松山地裁 高杉昌希裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年3月10日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。検察側は殺人に加え強制わいせつ致死でも起訴した。 2018年10月16日の初公判で、西原崇被告は「否認します」と起訴内容を否認した。 検察側は冒頭陳述で、同じ配送業務になり10日前に知った女性に一方的に好意を抱き、わいせつな行為をしようと考えたと動機を指摘。殺害後、配送車のドライブレコーダーの記録を抜き取ったことも明らかにした。弁護側は気が付いたら首を両手で絞めていたと殺意を否定。服を脱がせたのは「心臓マッサージのため」とわいせつな行為も否定した。また、軽度の知的障害があり、事件当時は心神喪失か心神耗弱状態だったとして無罪を主張した。 19日、検察側は論告で、遺体に残った跡などから、わいせつ目的で暴力をふるい、強い殺意をもって首を絞めたと認められると主張。西原被告には軽度の知的障害があるが、犯行への影響はわずかだとし、「残忍で極めて悪質な犯行で、情状酌量の余地はない」と述べた。 同日の最終弁論で弁護側は、被告は事件当時、心神喪失状態で記憶がなかったと主張。タイツによる首の圧迫痕は「移動させた際についた」と述べるなどし、無罪を主張した。 10月29日に判決公判が予定されていたが、検察側が予備的訴因の追加のため、弁論再開を要求し、公判は取り消された。 11月12日の公判で、改めて検察側は無期懲役を求刑した。 11月13日の判決で末弘陽一裁判長は、職場でのストレスや被害者への不満を募らせていたと指摘。「衝動的とはいえ、殺意は強固だった」とした。一方で、最初からわいせつ目的であったかどうかについて「合理的な疑いが残る」として、強制わいせつ罪が成立するにとどまるとした。被告について軽度の知的障害などを認めたが、「影響は限定的」とした。 2019年12月24日の控訴審判決で杉山慎治裁判長は、被告が女性に好意を抱いていたと認め、女性が既婚者でわいせつ行為に同意する可能性がなかったことなどから、犯行は最初からわいせつ目的だったと判断。一審で同致死罪が認定されなかったことは「不合理で是認できない」とし、量刑などを改めて審理する必要があるとした。 2020年7月29日付で最高裁第二小法廷は、被告側上告を棄却、地裁差戻しが確定した。 差戻し裁判員裁判。 2022年12月5日の初公判で、西原崇被告は起訴内容を一部否認した。 高杉裁判長は、高裁判決が前回一審判決には解剖医の証言への誤解があり、わいせつ目的を否認する西原被告の証言も信用できないと指摘したことに言及。同じ証拠を調べる場合に「高裁に反する判断はできない」と述べ、新たな証拠や証言として司法解剖を担当した医師と被告に改めて話を聞くとした。 冒頭陳述で検察側は、被告が事件の10日ほど前に出会った女性に対し、好意を示すような言動を複数回していたと指摘。配送先の段ボール製造会社の敷地内で、未明に2人だけで作業していた際、わいせつ行為をしようと首を両手で絞めるなどした後、口封じのためにタイツで首を強く絞めて殺したと強調した。「性犯罪が伴う犯行は極めて悪質で、遺族の処罰感情は峻烈」などと、改めて強制わいせつ致死罪が成立すると主張した。 弁護側は殺人は争わないとしたうえで、わいせつ行為を否認。以前の公判では被告が首を両手で絞めた際の記憶がないとしていたが、記憶が戻ったとし「興奮状態で殴る蹴るの暴行を加えた」と性的目的も否定した。女性にいらだちを募らせたことが殺害動機と認定した前回一審判決を踏まえて、「軽度の知的障害により感情や行動の制御ができなかった。犯行に障害が影響していた場合は、量刑に考慮すべき」と主張した。 同日は裁判員が前回一審の審理内容を把握するため証人尋問記録映像を視聴した。 12月7日の第2回公判の際に、3人いる裁判官の1人の同居人が新型コロナウイルスに感染したことが判明。松山地裁は8日の映像確認、9日以降の新たな証人尋問や被告人質問、12日に結審、20日に判決の予定をすべて取り消した。 2023年2月28日に第3回公判が開かれた。審理の間隔が3カ月近く空いたため、起訴状朗読や罪状認否などの手続きを振り返り、実質的な審理を再開した。中断前からの裁判員の変更はない。 高杉昌希裁判長が冒頭に「記憶が薄れていると思うので(審理の)おさらいをしてから続きを行う」と説明。高杉裁判長は西原崇被告に対し、氏名や職業などを確認する人定質問と起訴内容の認否について変更があるかどうかを尋ね、被告は「ありません」と答えた。 検察側は冒頭陳述を再度読み上げ、弁護側も「わいせつの意図はなかった」などと、起訴内容の一部を否認する意見を述べた。実質的審理では、前回一審の証人尋問や被告人質問の記録映像を確認した。 3月2日の第5回公判で、遺体を司法解剖した医師が出廷。医師は死因について、これまでと同様に首を絞められた窒息死と説明し「ひも状の痕が(水平方向に)直線的に見られた」と証言。西原被告の「タイツを首に巻いて遺体を移動させた」との供述を、力のかかり方が違い、V字型に痕が残ると考えられるとして疑問視した。また心臓マッサージをしたとの被告の主張についても、確定はできないが裏付ける所見はないとした。 同日の被告人質問で、西原被告は高裁判決以降に事件当時の記憶がよみがえったと主張。被害者と会話する中で自身の子ども時代の不快な記憶を思い出し、腹が立ったことなどが殺害のきっかけだったとし、わいせつ行為を重ねて否定した。 被害者の上半身から検出された被告の唾液について、弁護側は被告には指を口に入れる癖があり、わいせつ目的ではなく、救命措置の際に付いたと主張していたが、裁判員の1人が差戻し前の一審映像記録も含め「そんな様子はここ数日見ていないが、癖は本当にあるのか」と被告やその母親に聞き、母親は「ありません」と否定した。 3月3日の論告求刑公判で被害者参加制度を利用して女性の母親が意見陳述し、懲役19年だった前回一審判決(求刑無期懲役)を「絶望し、地獄に落とされた気分だった」と吐露。娘を失った思いを涙ながらに語り、厳罰を求めた。女性の夫も同様に極刑を求めた。女性の兄弟も「自分が障害者であることを悪用している」と訴えた。 論告で検察側は、被告が顔見知り程度の関係の女性にわいせつ行為をしようと考え、抵抗を防ぐため首を絞めるなど暴行し、口封じで殺害したと指摘した。差戻し審で被告が新たに述べた犯行前にあったとする女性とのやりとりは、従来の供述を具体化しただけで実質的変更はなく、新証拠に当たらないと主張。「(強制わいせつ致死罪成立を認めた)高裁判決と異なる判断はできない」と強調した。そして改めて強制わいせつ致死罪は成立するとし、「性犯罪を伴う自己中心的な犯行。強い殺意があり、犯行態様は極めて悪質で残忍。被害者遺族の処罰感情も峻烈」と改めて無期懲役を求刑した。 同日の最終弁論で弁護側は、新供述について「話すことで罪が重くなる内容で信用できる」と主張。被害者への怒りが募って犯行に及んだもので、わいせつの故意は無いとして強制わいせつ致死を否認。わいせつの故意を重ねて否定し、量刑では被告の軽度知的障害で感情を制御しにくかったことの影響を考慮するよう求めるとともに、暴行の詳細について正直に話し反省もしている、西原被告が障害基礎年金から弁償金を支払おうとしているなどとして、懲役15年から16年が相当と主張した。 最終意見陳述で西原被告は「被害弁償し服役して罪を償っていきたい。それでも被害者が帰ってくるわけではなく、本当に申し訳ありません」と謝罪した。 判決で高杉裁判長は女性の体に被告の唾液が付着していたことなどを挙げ、被告の証言が信用できないと判断。弁護側の被告の癖という主張に対しては、「そのような癖があるのか疑わしい」と指摘した。そして「被害者に好意を抱いていた被告はわいせつ行為を目的に抵抗を排除するために首を絞めていて、強制わいせつ致死は成立する」と指摘。一連の犯行について「強い殺意に基づいた、被害者の尊厳を踏みにじる極めて悪質で残忍な行為」「ドライブレコーダーの消去など罪証隠滅行為は卑劣」と非難した。そして「被告には自閉傾向を含む軽度知的障害があり、一般的に衝動を抑制しにくい側面があった」と認定した上で、運転手として働くなど通常の社会生活を送っていたことや、犯行時には証拠隠滅行為を取っていたことなどを挙げ「障害が犯行に与えた影響は限定的で、被告のために大きく考慮することができない」と指摘。その上で「被害者の尊厳を踏みにじる極めて悪質で残忍な犯行で、性的欲望の赴くままに行い身勝手極まりない」「被害者に落ち度があるような弁解を繰り返し、自らの犯した罪に真摯に向き合うことができているとは言い難い」「謝罪の言葉は表面的」「事件から5年近くが経過してようやく書き上げた謝罪文に弁解を記載するなど、遺族らの感情を逆なでした」と言及し、反省は不十分と言わざるを得ないと結論付けた。 |
備 考 |
2018年11月13日、松山地裁(末弘陽一裁判)の裁判員裁判で求刑無期懲役に対し、一審懲役19年判決。2019年12月24日、高松高裁(杉山慎治裁判長)で一審破棄、地裁差戻し。2020年7月29日、最高裁第二小法廷(岡村和美裁判長)で被告側上告棄却、地裁差戻し確定。 被告側は控訴した。2024年1月18日、高松高裁で被告側控訴棄却。2024年10月1日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 佐々木伸(26) |
逮 捕 | 2020年10月30日 |
殺害人数 | 2名 |
罪 状 | 現住建造物等放火、殺人、殺人未遂 |
事件概要 |
仙台市の無職佐々木伸被告は2019年12月25日午前2時頃、木造2階の自宅で可燃性の液体をまくなどして放火し、タクシー運転手の父親(当時76)と会社員の兄(当時29)を殺害。兄の妻(当時26)は長女(当時3)と二女(当時1)を抱えて2階から飛び降りて助かったが、気道熱傷などで重傷を負った。また長女も重傷、二女も軽傷を負った。 家族は6人暮らし。亡くなった兄は長男、佐々木被告は三男。佐々木被告は大学卒業後、自室に引きこもっていた。 佐々木被告は火災の後行方不明となり、同日午後8時20分ごろ、付近を捜索していた警察官が、商業施設の個室トイレにいる男性を発見し、署で保護した。 佐々木被告は全身やけどのため、そのまま入院し、治療。2020年10月30日に退院。県警は完治していないが勾留に耐えうると判断し、そのまま逮捕した。仙台地検は11月20日、殺人他の罪で佐々木被告を起訴した。 |
裁判所 | 仙台地裁 中村光一裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年3月16日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2023年2月8日の初公判で、佐々木伸被告は「黙秘します」と述べた。 検察側は冒頭陳述で、出火元が、佐々木被告の自室や玄関、階段付近と複数あることなどから失火ではないと指摘。出火元が「家族の逃げ道をふさぐ場所」だったとして、被告が殺意を持って放火したと主張した。弁護側は、失火の可能性もあるとした上で、「放火だったとしても、第三者が放火した可能性は否定できない」と反論。玄関や階段付近は出火元ではないとも主張した。 28日の公判における被告人質問で、佐々木被告は、検察側、弁護側の全ての質問に対し、「黙秘します」と18回繰り返した。中村裁判長から「答えないということでいいですか」と問われると、黙ってうなずいた。被告人質問は10分で終了した。証人尋問も行われ、被告を取り調べた男性警察官が出廷。逮捕前の取り調べで被告が容疑を否認したとした一方で、供述が二転三転したことから「うそをついていると判断した」とした。 3月3日の論告で検察側は、防犯カメラに不審者が映っていないことなどから、外部の犯行は考えにくいと指摘。そして「火事の18時間後に現場近くで見つかった被告は、軽傷ではないのに助けや消防を呼ぶこともせず、単に火災被害にあった人とは思えない。警察から逃れるための行動をとっていて、放火の内容からも家族の生活状況を把握していた被告による犯行だ」と主張した。被告が自室や階段、玄関付近など3カ所に可燃性の液体をまいて火を付けたとして「家族が寝静まった後、逃げ道をふさぐ複数の場所に放火しており、強固な殺意があったことは明白。極めて危険で冷酷非道な犯行だ」と強調した。動機について、大学卒業後、自室に引きこもり家族の中で孤立していた点を挙げ「家族に不信感や憎悪を募らせており、動機となりうる事情があった」と述べた。 6日の最終弁論で、弁護側は「第三者が放火した可能性は否定できない」として改めて無罪を主張した。佐々木被告は最終陳述でも「黙秘します」と何も語らなかった。 判決で中村光一裁判長は、差し込みプラグの焼け焦げなどは認められず、自然発火や失火は考えにくいと指摘。火元とされる1階和室などで灯油や石油などの成分が検出されたことなどから、「何者かが意図的に火をつけた」とした。当時、被告は火元の部屋にいて、放火する機会があり、やけどを負いながらも通報や助けを求めていないなど、かなり不自然な点があるとした。そして兄の妻の証言などから、被告は家族と不仲で、前日のクリスマスイブに父から夕食に誘われても参加しなかったなどと指摘。他の家族には動機が無く、近隣の防犯カメラにも不審人物が映っていないことなどから、「被告以外の者が放火を行った可能性はない」と判断した。殺意については、動機が自殺や自室を燃やすことが主目的だった可能性も含め一つに特定できないことや、家族の誰か一人を確実に殺そうと考えた場合には放火以外にも方法があり得ることを考え合わせると、殺害しようとする強い意欲があったとまでは認められないとしながらも、家族の避難の手助けをしなかったことなどから、「家族が死んでしまえばよいとか、死んでもかまわないという程度の殺意があった」と認定した。そして「午前2時という就寝時間帯に広範囲に灯油をまき火をつけた行為は、就寝中で俊敏な避難行動を取れない同居家族を死亡させる危険性が高いもので、酌量減軽に値すると評価できる事情を見いだすに至らなかった。家族5人が死傷した結果は重大だ。犯行を決意した背景には家族関係などが影響した可能性もうかがわれるが、非常に高い危険性がある犯行を決意したことは決して正当化できず、身勝手であったという非難は免れない」とした。 |
備 考 |
公判で仙台地裁は刑事訴訟法の規定を根拠に佐々木被告と被害者の氏名や住所を明かさない秘匿決定をしており、審理は匿名で行われた。理由は明らかにしていない。 被告側は控訴した。2023年11月21日、仙台高裁で被告側控訴棄却。2024年6月24日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 田中涼二(43) |
逮 捕 | 2021年4月26日 |
殺害人数 | 2名+1名(傷害致死) |
罪 状 | 殺人、傷害致死、死体遺棄、詐欺 |
事件概要 |
福岡県飯塚市の無職、田中涼二被告は、2021年1月9日ごろから自宅で、養子で小学3年の男児(当時9)の頭や太ももなどを殴ったり蹴ったりする暴行を繰り返していた。2月16日に福岡県小郡市の車の中で養子が失禁したことに腹を立てた田中被告は殴る蹴るの暴行を加え、大腿部打撲による外傷性ショックで死亡させた。田中被告は自宅に帰り、遺体を自宅に放置。18日、長男(当時3)と長女(当時2)を連れて福岡市内で借りたレンタカーで宮崎県串間市まで移動し、知人に金を無心。レンタカーのガソリンが無くなったため、電車で鹿児島市に移動し、24日にホテルにチェックインした。26日、ホテルで2人を首を絞めるなどして殺害後、自らの首を刃物で切るなどした後、ホテルの4階から飛び降り自殺を図った。部屋からは「3人で死ぬ」などと書かれた遺書が見つかった。 田中被告は筑後地区に拠点を構える暴力団の元組員だった。2014年ごろに組織を脱退し、その後は大野城市で建築作業員として働いていた。田中被告は居酒屋で知り合った10歳年上の妻と2017年に結婚。妻の子供である男児を養子にした。2人の間には長男、長女が生まれたが、妻が酒浸りになり喧嘩が絶えなかった。仕事を辞め、福岡市に移住しても夫婦仲は悪く、さらにDVもあって養子は児童相談者に預けることとなった。2020年5月に田中被告は実子2人を連れ、福岡市から飯塚市へ転居。しかし2か月後に妻が養子を連れて再び同居。ただ喧嘩は絶えず激しさを増し、子供たちの前で激しくやり合うことも多かったため、警察が児童相談所に「面前DV」で複数回通告もしている。12月には夫婦喧嘩で妻が包丁を持ち出して血だらけの争いをして、警察官が駆け付ける騒ぎとなった。同月、夫婦喧嘩で妻が家を飛び出し、そのまま離婚。養子はお父さんについていくと話したため、田中被告は子ども3人と暮らしていた。小学3年生で普通に登校していた養子は2021年から休みがちになり、1~2月はそれぞれ3、4回登校しただけ。最後の登校は2月10日だった。田中被告から「家族で遊びに行くので」などの連絡が毎日のように学校にあったが、それも22日で途絶えていた。 2月25日午前、宮崎県串間市の商業施設の従業員から、駐車場でレンタカーが放置されていると宮崎県警に通報。車内に未使用の練炭が見つかったことから、県警が利用客を捜していたところ、福岡県飯塚市の田中被告と判明。福岡県警が自宅の団地を訪ねたところ、25日午後2時50分ごろ、9歳の男児が倒れて死亡しているのが見つかった。警察はレンタカーからの足取りを防犯カメラなどで追跡し、田中被告が鹿児島市のホテルに滞在していることを突き止めた。捜査員が26日午後7時ごろに突入したが、田中被告は4階の部屋のベランダから飛び降り、腰や足の骨を折るなど全治数か月の重傷を負った。田中被告の首や胸には、刃物によるとみられる刺し傷があった。部屋から亡くなった2人が発見された。 田中被告の回復後となる4月26日、福岡、鹿児島両県警は、子供2人への殺人容疑で田中被告を鹿児島市内の病院で逮捕し、福岡県警飯塚署に移送した。福岡地検は5月17日、殺人罪で起訴した。 養子の死因は当初、司法解剖で病死の可能性が指摘されていたが、その後の捜査や複数の医師の所見から、田中被告の断続的な暴行により死亡したとみられることが判明した。6月18日、養子への傷害致死、死体遺棄容疑で再逮捕した。福岡地検は7月8日、傷害致死と死体遺棄の罪で追起訴した。 |
裁判所 | 福岡高裁 松田俊哉裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年3月24日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
2023年2月22日の控訴審初公判で、被告側は男児の死因は肺炎の可能性があり、傷害致死罪は成立しないと主張。幼児2人と無理心中を図った事情を考慮すると、無期懲役は重すぎるとも訴えた。検察側は控訴棄却を求めた。弁護側は新たな証拠の採用や被告人質問などを求めたがいずれも却下され、即日結審した。 判決で松田俊哉裁判長は、「男児の主たる死因は外傷性ショック」だったとして一審判決の判断を支持。そして「みずから養子を虐待死させたにもかかわらず、そのことが捜査機関などに知られることで実の子2人と離ればなれになりたくないと考えて無理心中を図った。身勝手な願望に何ら罪のない子どもを巻き込んだもので、同情の余地はない」など述べた。 |
備 考 |
田中涼二被告の約20年前の元妻は、2021年12月に別の暴行死事件で有期懲役判決が確定している。また田中被告と元妻は当時、監禁や脅迫などで有罪判決を受けている。この元妻は2022年夏、麓刑務所で服役中、コロナ感染で体調が悪化し、43歳で死亡。 飯塚市の「3児童死亡事例検証委員会」は2022年1月25日、検証報告書を片峯誠市長に提出した。報告書は、田中被告が2020年4月に飯塚市に転入した際、過去に長男への虐待通告が16回あったことや、夫婦喧嘩が子供に悪影響を与える「面前DV」があったことなどを福岡県田川児童相談所から知らされていたほか、飯塚市内で生活中にも夫婦げんかで警察が複数回出動したと認定した。 その上で、通告などが積み重なったことで「(市の担当者らが)日常の範囲内という意識になった可能性があり、リスクを小さく捉えていた」と指摘。また、田中被告から頻繁に連絡があったことで「安心感を持ち、長男に直接面談した回数が少なかった」とした。そして学校や市が、虐待の「ハイリスク家庭」との認識の共有が不十分だったと指摘。学校は養子の欠席が続いた時、父親から「体調が悪いため休む」などと連絡があったため問題視されなかったが、「市などの関係機関と連携し早急に対応するべきだった」とした。また、2021年2月初旬、養子は腰にけがをし、虐待を疑った学校側などに「ジャングルジムから落ちた」と説明。この際に「虐待などの鑑別を含め医療機関受診を強く勧める必要があった」とも指摘。各行政機関の情報共有や危機管理意識が不十分だと結論づけた。その上で課題として、子育て行政での深刻な人材不足の解消▽専門職の育成と配置、意見を反映しやすい体制▽学校と市教委が一緒に対応する仕組みづくりなどを挙げた。地域との関係についても「連携の方策を検討する必要がある」と強調した。 2022年10月11日、福岡地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2023年9月12日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 石田美実(65) |
逮 捕 | 2014年2月26日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人 |
事件概要 |
鳥取県米子市の元ラブホテル従業員、石田美実被告は2009年9月29日午後10時ごろ、9月中旬まで働いていた米子市内のラブホテルの従業員事務所で金品を物色中、支配人の男性(当時54)に見つかり、頭を壁にぶつけたり、首をひも状のもので絞めたりして意識不明の重体に負わせ、現金約26万8千円を強奪した。 鳥取県警は内部に詳しい人物の犯行とみたが、被害者の男性が意識を取り戻さないことから、慎重に捜査を続けた。 その後トラック運転手をしていた石田被告は2014年2月5日、別のクレジットカード詐欺で逮捕された。鳥取県警は2014年2月26日、石田被告を強盗殺人未遂、建造物侵入の両容疑で再逮捕した。 被害者の男性は暴行に基づく多臓器不全が基で2015年9月、60歳で死亡。鳥取地検は12月15日、石田被告について強盗殺人罪への訴因変更を地裁に請求。2016年2月15日付で認められた。 |
裁判所 | 最高裁第一小法廷 深山卓也裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年3月28日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | |
備 考 |
2016年7月20日、鳥取地裁の裁判員裁判で、求刑無期懲役に対し、一審懲役18年判決。起訴罪状である強盗殺人を否定し、殺人と窃盗を適用した。2017年3月27日、広島高裁松江支部で一審破棄、無罪判決。2018年7月13日、最高裁第二小法廷で高裁差戻し判決。2019年1月24日、広島高裁で地裁差戻し判決。上告せず、差戻し確定。 2020年11月30日、鳥取地裁の差戻し裁判員裁判で、求刑通り無期懲役判決。2021年11月5日、広島高裁松江支部で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 瓜田太(60) |
逮 捕 | 2014年10月1日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、殺人未遂、銃刀法違反、組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)、器物損壊 |
事件概要 |
特定危険指定暴力団「工藤会」系組幹部で理事長補佐でナンバー4の瓜田太被告は、他の被告と共謀して以下の事件を起こした。
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裁判所 | 福岡地裁 神原浩裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2023年5月10日 無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
裁判員裁判からは除外された。 2011年の建設会社会長射殺事件において、中西正雄被告、SH被告と共同で審理が行われた。 2021年7月19日の初公判で、中西正雄被告、瓜田太被告、SH被告は起訴内容について「黙秘します」などと述べ、弁護側は争う姿勢を示した。 検察側は冒頭陳述で、瓜田被告が銃撃準備の指示や被害者の行動確認をし、中西被告が銃撃して、S被告が運転するバイクで逃走したと指摘した。 事件では同会関係者8人が起訴され4人が既に有罪判決を受けたが、その1人で同会を離脱した元組員が3被告も絡んだ事件の指示や状況を供述しており、その信用性が主な争点。U、S両被告の弁護人は冒頭陳述で「元組員の供述には問題があり(証拠として)採用できない」と主張し、中西被告の弁護人も「元組員の証言は信用できず中西被告は事件に関与していない」と無罪を訴えた。 その後は分離された。 新たに瓜田被告、IT被告、SH被告との共同審理となった。 2022年1月17日の初公判で、3被告は全ての起訴事実について争うと、起訴事実を否認した。 検察側は冒頭陳述で、各事件の動機について、野村被告が看護師に不満を持っていたことや、暴力団排除に取り組む市民らへの見せしめが目的だったと主張した。 その後、SH被告は分離された。 12月26日の論告求刑公判で、検察は「共犯者の供述や証言は信用できる」などとして、瓜田被告の共謀を認定できると主張。2人の事件への関与について、携帯電話の通信記録から工藤会の上位の幹部と実行グループをつなぐ仲介役などを担っていたと主張した。そして「当時は工藤会による事件が立て続けに発生し、住民は常に不安や恐怖にさらされていた。一般市民を標的にした事件を2度と発生させないよう、厳罰をもって臨むことで犯行が割に合わないことを広く知らしめることが必要不可欠だ」と述べた。その上で、瓜田被告に対しては2011年に起きた建設会社の役員射殺事件にも関わったとして無期懲役を求刑し、IT被告に対しては懲役16年を求刑した。 2023年2月20日の最終弁論で、弁護側は2人が仲介役を担っていたとする直接的な証拠はなく、共謀は認められないと主張。その上で「一連の工藤会の裁判とは異なる結論が得られることをせつに求める」と述べ、無罪を主張した。 判決で神原裁判長は、携帯電話の通話履歴や共犯者の供述などから事件への関与がいずれも認められるとして、無罪の主張を退けた。そして瓜田被告について、建設会社社長が射殺された事件の指示役と認定した上で、「反社会的な価値観と論理に基づき、意に沿わない者を組織を挙げて抹殺するという、およそ許容される余地のない犯行だ」などと指弾。「工藤会が一般市民を拳銃で殺害した事件に、配下組員への指示役として関与したことによる刑事責任は極めて重い。この事件の関与だけでも無期懲役刑を選択するに値する」と指摘し、「行為責任の重大さからすると有期懲役刑を選択することはできない」と述べた。 |
備 考 |
福岡県は、税優遇措置がある宗教法人の設立などを定める宗教法人法の第22条の法人役員の欠格事由に「暴力団員等」を追加▽解散命令の要件に「暴力団員等がその事業活動を支配するもの」-といった暴排規定を同法に盛り込む措置を考案した。兵庫県や宮城県、沖縄県など8件も賛同。2018年から毎年、福岡県の先導で内閣府に追加の要望を出しているが、内閣府は「ここ10年、宗教法人に暴力団が関与したような事例は聞いていない。現時点で制度改正による実効性は薄い」として応じていない。 工藤会の組員が関係した事件のうち、福岡県警が2014年9月11日に開始した「頂上作戦」以後、主に死刑や無期懲役判決を受けた受刑者、被告人(一部例外除く)が関与した事件の一覧ならびに判決結果については、【工藤會関与事件】を参照のこと。 被告側は控訴した。2024年9月12日、福岡高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 宮岡龍治(69) |
逮 捕 | 2020年9月3日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、窃盗未遂 |
事件概要 |
岡山県高梁市の建築業、宮岡龍治被告は2020年7月16日夜から同17日朝にかけ、近所に住む無職の男性(当時59)を結束バンドで縛りガムテープを顔に巻き、約20m離れた山中に掘った穴に突き落とし土砂で埋めて窒息死させ、男性方で現金約29万円が入った財布とキャッシュカード4枚を奪った。ほかに宮岡被告は9月2日、倉敷市のコンビニエンスストアのATMで男性のキャッシュカードを使って現金を下ろそうとしたが、利用停止措置がとられていて下ろせなかった。 男性と宮岡被告は近所同士で、足が不自由な男性が通院や買い物で外出する際には宮岡被告が車で送迎するなど良好な関係だったが、2019年ごろ、宮岡被告が男性名義の口座から無断で現金を引き出したとしてトラブルになっていた。 県内で別に暮らす男性の妹が19日、「数日前から兄と連絡が取れない」と行方不明届を出した。21日昼ごろ、捜索中の高梁署員が山中で埋め戻した痕跡に気付き、22日午前0時25分ごろ、遺体を発見した。 岡山県警は9月3日、宮岡被告を窃盗未遂容疑で逮捕。24日、強盗殺人容疑で再逮捕。 |
裁判所 | 最高裁第三小法廷 林道晴裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年5月10日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | |
備 考 | 2022年7月5日、岡山地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2023年1月25日、広島高裁岡山支部で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 請川正和(45) |
逮 捕 | 2022年1月19日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、住居侵入、窃盗、邸宅侵入、建造物侵入 |
事件概要 |
大阪府八尾市の解体工事会社経営、請川(うけがわ)正和被告は妻、建設作業員の男性N被告と共謀。2021年12月1日午前0時ごろ、二人を待たせ、金を奪う目的で大阪市生野区に住む男性(当時82)の3階建ての別宅の2階窓から侵入。同6時ごろ、隣接する3階建ての本宅に侵入し、2階の室内を物色中に男性に発見されたため、男性の頭を金づちで殴るなどして殺害し、現金約10万円と指輪(約23万円相当)を奪った。 男性は80代の妻と2人暮らし。以前は貸金業を営んでいた。本宅と別宅は3階でつながっており、別宅には親族が住んでいたが、事件には気付いていなかった。妻は3階寝室で寝ていて、事件に気付かなかった。午前7時すぎに知人男性が訪れ、自室で血を流して倒れている男性を見つけて警察に通報した。 事件直前、現場付近の防犯カメラが付近で駐車する不審なダンプカーと2台の軽乗用車を確認。請川被告らに似た男性がダンプカーからはしごを下ろしたり、現場方面に向かったりする姿も映っていた。さらに逃走経路を調べた結果、3台は八尾市内にある請川被告の会社駐車場に集結していたことから3人の関与が浮上した。請川被告とN被告は仕事仲間で、請川被告の会社は経営が悪化していた。 2022年1月19日、大阪府警は請川被告と妻、N被告を強盗殺人と住居侵入容疑で逮捕した。1月29日、請川被告に住宅の間取りや資産状況を教えたとして強盗殺人容疑で建設業経営の男性S被告を逮捕した。S被告は約10年前に被害者から金を借りたことがあり、住宅にも出入りしていた。 S被告は2月に処分保留で釈放、3月29日付で不起訴(嫌疑不十分)となった。 2月9日、捜査本部は男女3人が2021年9月29~30日、奈良県平群町の産業廃棄物回収業者の事務所に侵入し、現金約13万円などが入った金庫を盗んだとして窃盗容疑で再逮捕した。さらに、門真市に住む男性Y被告も逮捕した。請川被告が実行役で他の3人が見張り役だった。事件後に請川被告の会社で金庫を解体した。 同日、大阪地検は請川正和被告のみ、強盗殺人、住居侵入容疑で起訴した。請川被告の妻については住居侵入幇助、窃盗幇助などで起訴した。N被告については窃盗罪に切り替えて起訴した。 3月3日、捜査本部は2021年10月15日~18日ごろ、窃盗目的で大阪市平野区の60代女性宅の窓ガラスを割るなどして侵入したとして窃盗未遂容疑で請川正和被告、N被告、S被告を再逮捕した。S被告は女性から数百万円の借金をしていた。(これは不起訴になったらしい) |
裁判所 | 大阪高裁 齋藤正人裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年5月12日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 | 不明。 |
備 考 |
窃盗罪で起訴されたN被告は不明。 請川正和被告に電話で呼び出されて脚立をトラックで運び、住居侵入幇助などで起訴された請川被告の妻に対し、大阪地裁は2022年12月14日、無罪判決(求刑懲役2年6月)を言い渡した。西川篤志裁判官は「夫が事件に及ぶ認識が女性にあったとは認められない」と述べた。(おそらく)控訴せず確定。 2022年10月31日、大阪地裁の裁判員裁判で、求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2023年中に被告側上告棄却と思われる。 |
氏 名 | 国本有樹(37) |
逮 捕 | 2020年1月27日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、死体遺棄 |
事件概要 |
大阪市住之江区の塗装業、国本有樹被告は、大阪市西成区に住む塗装会社社長の男性(当時41)から借りていた280万円の返済を免れるため、2020年1月22日午後7時50分~同8時10分ごろ、男性の会社事務所で、男性の首などを刃物で複数回刺して殺害した。24日、西宮市の山中に遺体を遺棄した。 国本被告は男性から仕事を請け負うなどしていた。また家族や友人のためと偽り、男性から借りていた。実際はギャンブル等で借金をしており、他の塗装会社で働いていた際も会社やほかの社員から借金を踏み倒したことがあった。 22日夜に帰ってくると連絡のあった男性が帰ってこなかったことから、妻が23日午後2時半ごろ、府警に行方不明者届を出した。府警がその後、男性の塗装会社の事務所を調べると、建物の入り口に設置されたシャッター付近で、血が飛び散った痕が残り、事務所近くの側溝にも、血が流れたような痕があった。防犯カメラより不審な車両を確認した。国本被告の軽ワゴン車と似ていたことから、任意で事情聴取するとともに、車を押収。車内から血痕が発見された。さらに国本被告から提出されたスマートフォンを解析したところ、24日朝に兵庫県西宮市内の山中にいたことを示す位置情報の履歴を把握。周辺の防犯カメラを調べたところ、国本被告の車と酷似する車両が写っていた。27日、府警は会社事務所から約30km離れた西宮市内の山中で遺体を発見し、身元を特定した。同日夜、死体遺棄容疑で国本有樹被告を逮捕した。3月4日、強盗殺人容疑で再逮捕した。 |
裁判所 | 大阪高裁 石川恭司裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年5月23日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 | 不明。 |
備 考 | 2022年1月19日、大阪地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2023年中に被告側上告棄却、確定と思われる。 |
氏 名 | 菅井優子(55) |
逮 捕 | 2019年9月18日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、非現住建造物等放火、死体損壊、詐欺未遂 |
事件概要 |
名古屋市の会社経営、菅井優子被告は、愛知県知多市で美容院を経営する不倫相手のAT受刑者と共謀。2016年2月6日午後10時18分ごろから55分ごろまでの間、愛知県稲沢市の自宅で、塾講師のアルバイトをしている夫(当時60)の胸を刃物で数回刺して殺害、同13日午後8時45分ごろに夫宅に放火し木造二階建ての母屋と離れ計約220平方メートルを全焼させ、遺体を焼損させた。3月22日、夫の死亡保険金約3,000万円をだまし取ろうと請求したが、保険会社が支払いを保留したため受け取れなかった。 夫の男性は高校教師などを務め、母親の病死後はしばらく一人暮らしだったが、2015年7月に菅井優子被告と結婚相談所を通じて知り合い結婚。菅井被告は別の男性と離婚し、太陽光パネルの施工会社を経営していた。菅井被告の仕事の関係で、週末だけ一緒に過ごしていた。 AT受刑者は、愛知県知多市で40年以上美容室を経営してきた。2019年5月には県美容業生活衛生同業組合の副理事長に就任していた。 県警は当初、事件と自殺の両面で捜査してきたが、遺体の状況などから男性が死亡後に出火した可能性が高いとみて捜査を開始。菅井被告やAT受刑者に事情聴取や家宅捜索を進めた結果、当時の状況などから殺害に関与した疑いが強まったとして、2019年9月18日、殺人容疑で2人を逮捕した。菅井被告は事件後に遺産相続で夫名義の複数の土地を相続し、2019年6月に事件現場の土地を売却した。再婚もし、名古屋市内の訪問介護事業所にヘルパーとして勤務していた。 稲沢署捜査本部は10月8日、非現住建造物等放火容疑で2人を再逮捕した。名古屋地検は同日、殺人容疑について2人を処分保留とした。名古屋地検は29日、2人を殺人と非現住建造物等放火、死体損壊の罪で起訴した。捜査本部は11月11日、詐欺未遂容疑で菅井被告を再逮捕した。 |
裁判所 | 最高裁第三小法廷 今崎幸彦裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年7月11日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | |
備 考 |
共犯で殺人他の容疑で起訴されたAT受刑者は2021年2月14日、名古屋地裁の裁判員裁判で、求刑通り一審懲役30年判決。宮本聡裁判長は首謀者を菅井優子被告だとしつつ、「殺害の実行行為に及び、主体的に犯行に加担した」と量刑理由を述べた。9月28日、名古屋高裁(鹿野伸二裁判長)で被告側控訴棄却。2022年2月21日、最高裁第二小法廷(草野耕一裁判長)で被告側上告棄却、確定。 2022年4月14日、名古屋地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2022年11月11日、名古屋高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 岩崎恭子(48) |
逮 捕 | 2020年8月27日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、現住建造物等放火、詐欺未遂 |
事件概要 |
宮城県大崎市の無職岩崎恭子被告は2019年9月16日、当時住んでいた大崎市のアパート2階の自室に放火し、自室と1階の部屋の一部あわせて52m2を焼いた。さらに火災保険金計290万円をだまし取ろうとした。請求を受けた保険会社は、不審に思い保険金を支払っていない。また起訴されてはいないが、それ以前に住んでいた大崎市内のアパートや元の夫と同居していた宮城県加美町の住宅でも、火事で建物が全焼し引っ越している。 また岩崎被告は2020年1月15日8時45分ごろ、962万円の借金を免れるため、大崎市に住む無職男性(当時72)に睡眠薬を摂取させ眠らせ、男性方の木造平屋住宅と作業小屋に火をつけて計215m2を全焼させ、焼死させた。岩崎被告は男性方から約7km離れたアパートに一人暮らしで、約3年前に共通の知人を通じて男性と知り合い、直後から借金をするようになった。男性の家を週2、3回訪れ、男性の軽乗用車も普段から岩崎被告が乗り回していた。 事件当日、火が出る直前に岩崎被告とみられる女が、男性宅から立ち去る姿を住民が目撃していた。8月27日、宮城県警は強盗殺人と現住建造物等放火の容疑で岩崎被告を逮捕した。11月27日、現住建造物等放火と詐欺未遂の容疑で再逮捕した。 |
裁判所 | 仙台高裁 渡邉英敬裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年7月13日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
2023年5月30日の控訴審初公判で弁護側は、「借金の返済を免れるために、犯行を行った証拠がない」などと指摘。男性宅の火災について、「失火の可能性もある」としたほか、睡眠薬についても男性自身で飲んだ可能性もあるなど、一審での裁判所の判断は事実誤認だとして無罪を主張した。検察側は控訴棄却を求め、即日結審した。 判決で渡邉英敬裁判長は「直接的な証拠はないが、火災の直前に自宅の修理を依頼していることなどから被害者が自殺目的で放火したとは考えられず、目撃情報などから被告以外の第三者による放火の可能性も否定され、放火できたのは岩崎被告だけだったと認定できる。被害者に対して債務を負い追い込まれた状況にあったのは明らか。被告の供述には不自然な点があり、信用できないとする一審判決の判断に誤りはない」などとして控訴を棄却した。 |
備 考 | 2022年8月10日、仙台地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2023年12月20日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 一倉大悟(32) |
逮 捕 | 2021年4月25日 |
殺害人数 | 2名 |
罪 状 | 殺人、強盗致傷、逮捕監禁致傷、住居侵入、現住建造物等放火、窃盗、有印私文書偽造、同行使、詐欺、傷害 |
事件概要 |
東京都港区の一倉大悟被告は、勤めていた外資系企業の同僚だった交際相手と共同名義で赤坂のマンションを購入し、2019年1月には長男が生まれていた。しかし3か月後、内妻への傷害罪で逮捕された。10月、内妻が長男を連れていき内縁状態の解消を求められ、さらに養育費やローンの支払いを巡り、内妻から調停を申し立てられていた。 一倉被告は高収入を得て贅沢な暮らしをしていたが、2021年2月、会社金庫から盗みを働いたため、会社から懲戒解雇されてしまった。しかし新しい恋人とマンションに住んでいた一倉被告は贅沢な暮らしを止められず、金に困っていた。そして以下の事件を起こした。
千葉地検は一倉被告と母親を7月12日~12月6日まで鑑定留置。12月10日、二人を起訴した。 |
裁判所 | 千葉地裁 水上周裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2023年7月24日 無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2023年6月26日の初公判で、一倉大悟被告は「(母親に)救急車を呼ばず、死なせるといわれて了解した。殺意はその時に生じた」と殺意を持った時期を争う姿勢を示したが、「ほかは間違いない」と述べ、殺害や放火については起訴事実を認めた。 検察側は、一倉被告が勤務先を解雇された後も、ぜいたくな暮らしをやめられず、生活費に困窮していたと指摘。金を得るため、男性宅から絵画を盗んで換金したり、母親と共謀して男性の母親名義のクレジットカードを不正利用したりしたと述べた。そのうえで、盗みを疑われたことなどを理由に、男性を殺害したと主張。また、伯母が住む土地と建物などを担保に融資を受けたいと考え、伯母を追い出すために殺害を計画したなどと説明した。そして伯母殺害については、インターネットで検索した毒性物質入りの不凍液を飲ませた上で、階段から投げ落としたとして、計画性や悪質性を指摘した。 弁護側は、一倉被告が会社の金券を盗んで懲戒解雇され、内縁の妻との財産分与を話し合っていた時期に事件を起こしたと主張。「不安を理由にした混乱で、殺人にかりたてられた可能性がある」とした。伯母に不凍液を飲ませた段階では殺意がなく、伯母殺害は母親が主犯であるとし、共謀が成立した時期を争う姿勢も示した。それに加え、幼少期に両親から受けた不適切保育や虐待が影響していると主張し、情状酌量を求めた。 29日の公判で、母親が検察側の証人として出廷。母親は、伯母殺害の件について「救急車を呼ぶことを反対していない」と反論した。「階段から落とすことも話し合っていない。殺意はなかった」とも語り、一倉被告が主体的に行動したと説明した。母親はまた、以前から一倉被告に「殺してやる」「親子の縁を切る」などと言われ、暴力を振るわれていたと証言。伯母の殺害について、「(自分が一倉被告に)殺される恐怖があり、逆らえなかった」と述べた。また不凍液について母親は、一倉被告が「アメリカでは殺人に使われている。解剖しない限り、(飲ませたことは)わからない」などと話していたと証言した。 30日の公判で母親が再び出廷。伯母が一倉被告に階段から落とされた際、一倉被告から救急車を呼ぶのを遅らせるよう指示されたと主張した。弁護側から「放置すれば死んでしまうと思ったか」と問われ、「思いました」と述べた。さらに、一倉被告から「23日の11時まで放置しろ」と命じられ、「救急車を呼べなかった」と証言。実際に呼んだのは23日の午前11時頃だった。「(伯母を)助ける機会はあったが、一倉被告の報復が怖かった」とも語った。母親は、銀行審査の通過には、10万円ほどの月収や保証人なども必要だった。一倉被告に「立ち退き以外にも問題があり、審査は厳しく融資は難しい」と伝えたが、聞き入れられなかったと述べた。 7月3日の公判で、被告人質問が行われた。2018年末頃から月10万円ほどの生活費を母親に渡していたと説明。一倉被告が2021年2月頃、勤務先を解雇された際、母親から「生活費どうなるの」「生きていけない」などと言われ、「将来が不安になった」という。また一倉被告は、母親からの融資をもらうつもりだったとの母親の証言に対し、「融資を(母親から)もらうつもりはなかった」と否定。「(融資を受けた母親に)精神的、経済的に自立してほしいと感じていた」と主張した。一倉被告は、不凍液を飲ませる時点での殺意も否定。不凍液によって伯母の体調が悪化すれば、伯母が自ら介護施設に行き、立ち退きが実現すると考えていたと主張した。「テレビで見た話を元にしただけで、真剣に計画していない」とも強調。伯母が体調を大きく崩した場合は、「病院に連れて行き、不凍液を飲ませたと医者に言うつもりだった」と話した。伯母を階段から落としたことについては、「階段から落ちたように見せかけよう」と母親から提案されたと、母親の証言に反論した。一倉被告は、母親に119番通報を促したが、「しない、このまま死んでもらう。死んでもらわないと困る」と拒否されたと主張。いつ通報するのか質問すると、母親は「23日に通報する」と答えたとしている。不凍液に関しても、「解剖しない限り、(飲ませたことは)わからない」と一倉被告が話したという母親の主張を否定。海外育ちのため、「『解剖』という日本語は知らなかった。海外の過激ないたずらの影響もあったのではないか」と語った。 4日の公判における検察側からの被告人質問で、一倉被告は不凍液を飲ませた時点での殺意を否定。伯母が自宅から立ち退けば、建物や土地を担保に多額の融資を受けるか、アパートを建設しようと考えたことから「体調が悪くなって自ら介護施設に入所することを期待はしたが、真剣に計画は考えていなかった」と述べ「悪いいたずら感覚で飲ませた。海外育ちのため、海外の過激ないたずらに影響されている部分が自分にあったと思う」と話した。弁護側からの質問では、被告が「今では伯母を死なせたことに罪悪感を感じている。母は伯母の葬儀代を出すことも拒んだ。身勝手で許せない」と声を詰まらせる場面があった。 同日の公判で一倉被告は、2021年4月13日、男性宅を訪問。不正利用を認めて謝罪する一方、「今後、(男性から)相手にしてもらえなくなる」と考え、絵画を盗んだことは認めなかった。「逮捕されることを恐れた」といい、男性に被害届の取下げを求めた。しかし、「絵が戻らない限りは」と拒否されたという。「(殺す直前に)激しい混乱状態になり、そのまま行動した」と語り、殺害の計画性を否定した。また殺害を思いついた時期については、犯行直前のことであり、すでに死亡していた伯母と男性を「一緒にしないといけないと突然思った」と説明。エンジンオイルについても、「別の家を放火しようと購入した。男性(の自宅への放火)とは関係ない」と反論した。 7日の意見陳述で、男性の弟が出廷。「兄は一倉被告に優しく接し、かわいがっていた」と語り、「尊敬していた兄を、思い出のある家とともに失った。地獄の底に突き落とされたようだ」と心情を吐露した。 同日の論告で検察側は、勤務先を解雇された一倉被告が、建物と土地を担保に数千万円の融資を受けようとし、立ち退きを拒否した伯母を邪魔に思ったと強調。不凍液を飲めば腎不全を起こしかねないことや、不凍液の致死量などをインターネットで調べたうえで、「自ら購入し、母親にも伝えることなく、伯母に飲ませた」と述べ、「計画的に犯行を主導した」と主張し、「事故死を偽装した計画的かつ、残忍で悪質な犯行。母親に責任を押し付けて、十分な反省が見られない」と指摘した。また、借金の返済期限を短くされたり、絵画盗難の被害届を取下げないと伝えられたりしたことなどから、男性の殺害を決意したと主張。放火の直前、検索した動画で火の回り方を調べていたとして、「残虐性が強く、周囲に延焼する危険もある悪質な行為」と強調した。 10日の最終弁論で弁護側は、不凍液を飲ませた目的は「(伯母の)体調を崩し、施設に入所させること」だったと主張し、母親には積極的な動機があると指摘した。伯母の体内にあった毒性物質の量がはっきりしないことなどから、飲ませた時点で殺意があったとする検察側の主張には「疑問が残る」とした。また、「一倉被告は母親と共依存状態だった」として、伯母を殺害するまでの一連の行為を「2人の共同作業だ」と強調。一倉被告が犯行を主導したとする検察側の主張を否定した。渡辺さんの殺害については、借金を返すために必要な現金を十分に持っていたうえ、返済期限を短くされただけで返済を強く求められた証拠はないと主張。「被告の能力を考慮すれば返済のめどが立つ期間であり、利欲的な動機が強固とはいえないのではないか。動機がはっきりしない」として計画性を否定した。そして量刑については「不遇な生育歴があり、今回の事件に深く影響している。未熟な側面があるが、更生の可能性がある」として生い立ちに目を向ける必要があると述べ、有期懲役刑を求めた。 一倉被告は最終意見陳述で、「なにもありません」と話した。 判決で水上裁判長は、伯母の殺害について、2021年2月に勤務先を解雇された一倉被告が、伯母らの住む建物と土地を担保にして、母に金融機関から数千万円の融資を受けさせ、その金を受け取ろうとしていたと指摘。伯母に立ち退きを拒否され、融資が難しくなったため、殺害を考えたと認定した。一倉被告はインターネットで複数回、「不凍液 殺人」などと検索した後、4月13日に不凍液を購入していた。水上裁判長は、「この時期には、確定的な殺意があった」との判断を示し、「実行行為の大半を担っており、犯行で主導的な立場にあった」と述べた。 男性の殺害について水上裁判長は、一倉被告がクレジットカードの不正利用や絵画の盗みを男性から追及されていたこと、その後に放火の方法などをネットで検索し、エンジンオイルなども購入していたことを列挙。「男性の対応に不満を抱き、放火殺人に及んだ」と認めた。男性は事件当時、自宅の2階にいたが、一倉被告は1階に火を放った。水上裁判長は、男性の逃げるルートを断ったと指摘。「被害者は少なくとも25分間、炎が上がる居室で苦しんだ末に死亡した。犯行態様は残忍だ」と述べた。抗不安薬の影響で正常な判断ができなかったとの主張については、「大きく影響は認められない」と退けた。 そして、「動機が金銭にまつわり、計画性がある。執拗あるいは残忍で、殺人事件の中でも悪質性が高い」と非難した。 |
備 考 |
一倉大悟被告は2015年、当時交際していた女性に暴力をふるって怪我をさせ、逮捕された。300万円払う約束で示談した結果、不起訴になった。一倉被告は母親と離婚していた父親に返済の約束をして全額を出してもらうも、父親には70万円しか支払っていなかった。 父親は調書で、一倉被告が勤務先の友人の財布から金を抜き取っていた、カードをスキミングして買い物をした、父親の別宅から物を盗んだなどを供述している。 殺人罪などに問われた母親は、一倉被告との共謀はないと無実を主張するも、2022年12月5日、千葉地裁(平塚浩司裁判長)の裁判員裁判で懲役9年判決(求刑懲役11年)。2023年7月14日、東京高裁で被告側控訴棄却。 被告側は控訴した。2023年12月7日付で公訴棄却決定。おそらく病死と思われる。 |
氏 名 | 相澤大広(23) |
逮 捕 | 2021年7月23日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、住居侵入 |
事件概要 |
宮城県松島町のアルバイト相澤大広(たいこう)被告は2021年7月15日午後1時半ごろ、近くに住む女性(当時85)の自宅に盗み目的で侵入。財布から現金を取ろうとした際、女性と鉢合わせしたため、女性の頭部を玄関にあった金づちで何度も殴るなどして殺害し、現金およそ52,000円を奪った。 相澤被告は事件発生の1カ月ほど前に事故を起こして車を廃車にし、その後、家出していた。 女性は一人暮らしで、連絡が取れないことを不審に思った親族が16日午後、民間の訪問サービス業者に連絡。担当者が警察官とともに女性宅を訪れ、玄関で倒れている女性を発見した。 宮城県警は23日、殺人容疑で相澤被告を逮捕した。仙台地検は8月13日、強盗殺人と住居侵入の罪で起訴した。 |
裁判所 | 仙台高裁 渡辺英敬裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年8月22日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
2023年6月22日の控訴審初公判で、弁護側は暴行は逮捕を免れる目的のものであり、暴行時に金を盗むつもりなかったとして、殺人と窃盗の罪にとどまると主張し、検察側は控訴棄却を求めて即日結審した。 判決で渡辺裁判長は「1度目の殴打は逮捕を免れるためで強盗の目的ではなかった」と一審判決を不合理だと指摘する一方、「2度目の殴打はその後すぐに現金を奪っていることから、強盗目的だった。被害者が抵抗するのが難しいと認識しながら、殺意を持って頭部を複数回、金づちで殴った」などと述べ一審判決を支持した。 |
備 考 | 2023年2月10日、仙台地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2023年12月13日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 田口義高(59) |
逮 捕 | 2014年10月1日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反、殺人未遂、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反(組織的な殺人未遂)、窃盗、現住建造物等放火、非現住建造物等放火、傷害 |
事件概要 |
特定危険指定暴力団「工藤会」系組幹部で、同会最大の2次団体・田中組ナンバー2の若頭である田口義高被告は、他の被告と共謀して以下の事件を起こした。
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裁判所 | 福岡地裁 伊藤寛樹裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2023年8月29日 無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
裁判員裁判から除外された。 2022年6月9日の初公判で、田口義高被告は射殺事件の殺人の罪について「共謀していない」と無罪を主張したほか、ゼネコンの事務所での発砲事件について拳銃を発射したことを認めたうえで「殺意はなかった」などと述べた。 検察側は冒頭陳述で、建設会社の役員射殺事件について「被告は福岡市から北九州市に移動する被害者の車を配下の組員に追尾させてその位置を電話で報告するよう指示していた。犯行に関与した組員に報酬を渡した」などと主張した。一方、弁護側は「指示を受けて被害者の行動確認はしたが、目的は知らされておらず、殺人を共謀した事実はない」と主張した。 弁護側は、建設会社役員射殺や看護師刺傷など4事件で無罪を主張。社員銃撃では殺意を否認している。 2023年2月22日の論告求刑公判で、検察側は「2011年2月から2013年1月まで2年足らずの間に、7件の凶悪重大事件に連続的に関与し、その刑事責任は重大」と非難。特に2011年2月に北九州市であった清水建設社員銃撃では実行犯を務めていること、そして11月の会長射殺では、工藤会との関係を断とうとした被害者を排除する目的で行われたと説明。被告は準備から証拠隠滅まで犯行全般に関与した実行統括役だったとして「中心的かつ必要不可欠な役割だったこの事件だけでも有期刑では軽すぎる」と述べた。そのうえで「組織から脱退する意向も示さず、責任に向き合っていない」と述べて、無期懲役を求刑した。 4月25日の最終弁論で、弁護側は建設会社役員の射殺事件について「実行犯との相互的な意思連絡はなく、共謀は認められない。実行犯が同じ組の組員で、田口被告が若頭という理由だけで処罰を求めることはできない」として、改めて無罪を主張した。また、実行犯として関与したとされるゼネコン社員の銃撃事件については殺意を否認したほか、ほかの5つの事件のうち3つについて無罪を主張した上で「総合的に判断すれば有期懲役が相当だ」と主張した。 判決で伊藤寛樹裁判長は、警部銃撃と看護師刺傷の2事件で工藤会総裁の野村悟被告が指揮したと指摘するなど、各事件で同会上位者の命令を受けた組員らが役割分担して事件に及んだと判断した。また組員らの供述などから、建設会社会長射殺事件では田口被告が事前に会長の行動確認をしたり、事件当日の行動確認を配下の組員に指示したりしていたとして関与を認定。清水建設社員銃撃事件でも「実行役」と認定するなど、7事件全てで有罪とした。そのうえで、「人身被害は一般市民に及び、組織の独善的な思考に基づいてそれらの加害行為が計画的に行われた。反社会的な犯行で秩序に背いた程度が非常に大きい。(田口被告は)実行役を務め、要職にある立場で計画遂行を統率、あるいは前に推し進める重要な関与を果たした。責任は大きい。法律が許容する上限近くの刑の選択が相当である」と指弾した。 |
備 考 |
福岡県は、税優遇措置がある宗教法人の設立などを定める宗教法人法の第22条の法人役員の欠格事由に「暴力団員等」を追加▽解散命令の要件に「暴力団員等がその事業活動を支配するもの」-といった暴排規定を同法に盛り込む措置を考案した。兵庫県や宮城県、沖縄県など8件も賛同。2018年から毎年、福岡県の先導で内閣府に追加の要望を出しているが、内閣府は「ここ10年、宗教法人に暴力団が関与したような事例は聞いていない。現時点で制度改正による実効性は薄い」として応じていない。 工藤会の組員が関係した事件のうち、福岡県警が2014年9月11日に開始した「頂上作戦」以後、主に死刑や無期懲役判決を受けた受刑者、被告人(一部例外除く)が関与した事件の一覧ならびに判決結果については、【工藤會関与事件】を参照のこと。 被告側は即日控訴した。 |
氏 名 | 勝田州彦(44) |
逮 捕 | 2018年5月30日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、強制わいせつ致死、住居侵入 |
事件概要 |
勝田州彦(くにひこ)被告は2004年9月3日午後、岡山県津山市内で下校途中の小学3年生の女児(当時9)を見つけてわいせつな行為をしようと後をつけ、午後3時15分ごろに女児が帰宅したのを確認。玄関で女児に時間を尋ね、時計を確認しに行ったのを追って居間に侵入した。女児の首を絞めた際に抵抗され、刃物で胸や腹を複数回刺して殺害した。 午後3時35分ごろ、帰宅した当時高校1年の姉が遺体を発見。事件後、不審者に関する目撃情報などが寄せられたが、容疑者の特定につながる有力な手がかりはなく、捜査は難航した。 岡山県警は最大の懸案事件として、これまでに延べ約6万3千人の捜査員を投入し、捜査を続けてきた。岡山県警が類似の手口の事件を調べる過程で、勝田被告が浮上。2017年9月から大阪刑務所で服役していた勝田被告から任意で事情を聴き、勝田被告は関与をほのめかす供述を行った。2018年2月、岡山刑務所へ移送。2018年5月30日、岡山刑務所で勝田州彦被告を殺人容疑で逮捕した。 6月8日、岡山簡裁の勾留理由開示手続きで、勝田被告は「うその供述をした」と殺害を否認した。13日、岡山簡裁は鑑定留置を決定。15日、岡山県警は供述に基づき兵庫県沖で凶器の刃物を捜索したが、見つからなかった。 10月30日、鑑定留置が終了。11月2日、岡山地検は刑事責任能力を問えると判断し、殺人、強制わいせつ致死、住居侵入の罪で起訴した。 |
裁判所 | 最高裁第一小法廷 深山卓也裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年9月7日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | 深山卓也裁判長は決定理由で「犯人は別の第三者だ」との主張に対し「被告の自白は証拠により十分補強されていることが明らかだ」と退けた。 |
備 考 |
勝田州彦被告は2000年3月13日午後2時50分ごろ、兵庫県明石市内の路上で、下校途中の同市内の小学五年女児(当時11)に自転車で近付て、女児の腹を殴って逃げた。1時間後に暴行容疑で逮捕された。明石市の西部では、1999年5月から2000年2月にかけ、下校途中の小学校高学年の女児らが、銀色の自転車に乗った若い男に頭などを殴られたりする通り魔の暴行事件が十数件起きていた。その後、女児6人の腹部を殴ったり、下腹部を触ったりするなどしたとして暴行や強制わいせつの罪で、保護観察付きの執行猶予判決を受けた。 勝田州彦被告は2009年9月19日午後0時25分頃、姫路市の路上で、遊んでいた小学1年の女児(当時6)の腹部を素手で殴り、肝臓から出血させるなど6か月の重傷を負わたとして12月6日、傷害容疑で逮捕された。その後、姫路市や三木市、太子町で小学1年~高校3年の少女5人にの腹部をすれ違いざまに殴ったり、ドライバーの先で突いたりしたとして傷害と暴行の罪に問われ、2010年3月30日、神戸地裁姫路支部で懲役4年判決(求刑懲役6年)が言い渡され、おそらく控訴せず確定している。 勝田州彦被告は2015年5月11日午後4時55分ごろ、姫路市の市道で、近くに住む中学3年の女子生徒(当時14)の胸や腹など5カ所ほどをナイフで刺したり切りつけたりし、殺害しようとして約1カ月の重傷を負わせたとして5月19日、殺人未遂容疑で逮捕された。2016年5月18日、神戸地裁姫路支部の裁判員裁判で懲役12年判決(求刑懲役15年)が言い渡された。控訴し、大阪高裁で懲役10年に減軽され、確定した。 2022年1月6日、岡山地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2022年9月28日、広島高裁岡山支部で被告側控訴棄却。 兵庫県たつの市で2006年9月28日、小学4年の女児(当時9)を刃物で刺して重傷を負わせたとして、兵庫県警は11月7日、殺人未遂容疑で、服役していた勝田州彦容疑者を逮捕した。勝田容疑者は行為は認めたが、殺意は否認している。 |
氏 名 | 田中涼二(43) |
逮 捕 | 2021年4月26日 |
殺害人数 | 2名+1名(傷害致死) |
罪 状 | 殺人、傷害致死、死体遺棄、詐欺 |
事件概要 |
福岡県飯塚市の無職、田中涼二被告は、2021年1月9日ごろから自宅で、養子で小学3年の男児(当時9)の頭や太ももなどを殴ったり蹴ったりする暴行を繰り返していた。2月16日に福岡県小郡市の車の中で養子が失禁したことに腹を立てた田中被告は殴る蹴るの暴行を加え、大腿部打撲による外傷性ショックで死亡させた。田中被告は自宅に帰り、遺体を自宅に放置。18日、長男(当時3)と長女(当時2)を連れて福岡市内で借りたレンタカーで宮崎県串間市まで移動し、知人に金を無心。レンタカーのガソリンが無くなったため、電車で鹿児島市に移動し、24日にホテルにチェックインした。26日、ホテルで2人を首を絞めるなどして殺害後、自らの首を刃物で切るなどした後、ホテルの4階から飛び降り自殺を図った。部屋からは「3人で死ぬ」などと書かれた遺書が見つかった。 田中被告は筑後地区に拠点を構える暴力団の元組員だった。2014年ごろに組織を脱退し、その後は大野城市で建築作業員として働いていた。田中被告は居酒屋で知り合った10歳年上の妻と2017年に結婚。妻の子供である男児を養子にした。2人の間には長男、長女が生まれたが、妻が酒浸りになり喧嘩が絶えなかった。仕事を辞め、福岡市に移住しても夫婦仲は悪く、さらにDVもあって養子は児童相談者に預けることとなった。2020年5月に田中被告は実子2人を連れ、福岡市から飯塚市へ転居。しかし2か月後に妻が養子を連れて再び同居。ただ喧嘩は絶えず激しさを増し、子供たちの前で激しくやり合うことも多かったため、警察が児童相談所に「面前DV」で複数回通告もしている。12月には夫婦喧嘩で妻が包丁を持ち出して血だらけの争いをして、警察官が駆け付ける騒ぎとなった。同月、夫婦喧嘩で妻が家を飛び出し、そのまま離婚。養子はお父さんについていくと話したため、田中被告は子ども3人と暮らしていた。小学3年生で普通に登校していた養子は2021年から休みがちになり、1~2月はそれぞれ3、4回登校しただけ。最後の登校は2月10日だった。田中被告から「家族で遊びに行くので」などの連絡が毎日のように学校にあったが、それも22日で途絶えていた。 2月25日午前、宮崎県串間市の商業施設の従業員から、駐車場でレンタカーが放置されていると宮崎県警に通報。車内に未使用の練炭が見つかったことから、県警が利用客を捜していたところ、福岡県飯塚市の田中被告と判明。福岡県警が自宅の団地を訪ねたところ、25日午後2時50分ごろ、9歳の男児が倒れて死亡しているのが見つかった。警察はレンタカーからの足取りを防犯カメラなどで追跡し、田中被告が鹿児島市のホテルに滞在していることを突き止めた。捜査員が26日午後7時ごろに突入したが、田中被告は4階の部屋のベランダから飛び降り、腰や足の骨を折るなど全治数か月の重傷を負った。田中被告の首や胸には、刃物によるとみられる刺し傷があった。部屋から亡くなった2人が発見された。 田中被告の回復後となる4月26日、福岡、鹿児島両県警は、子供2人への殺人容疑で田中被告を鹿児島市内の病院で逮捕し、福岡県警飯塚署に移送した。福岡地検は5月17日、殺人罪で起訴した。 養子の死因は当初、司法解剖で病死の可能性が指摘されていたが、その後の捜査や複数の医師の所見から、田中被告の断続的な暴行により死亡したとみられることが判明した。6月18日、養子への傷害致死、死体遺棄容疑で再逮捕した。福岡地検は7月8日、傷害致死と死体遺棄の罪で追起訴した。 |
裁判所 | 最高裁第三小法廷 林道晴裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年9月12日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | |
備 考 |
田中涼二被告の約20年前の元妻は、2021年12月に別の暴行死事件で有期懲役判決が確定している。また田中被告と元妻は当時、監禁や脅迫などで有罪判決を受けている。この元妻は2022年夏、麓刑務所で服役中、コロナ感染で体調が悪化し、43歳で死亡。 飯塚市の「3児童死亡事例検証委員会」は2022年1月25日、検証報告書を片峯誠市長に提出した。報告書は、田中被告が2020年4月に飯塚市に転入した際、過去に長男への虐待通告が16回あったことや、夫婦喧嘩が子供に悪影響を与える「面前DV」があったことなどを福岡県田川児童相談所から知らされていたほか、飯塚市内で生活中にも夫婦げんかで警察が複数回出動したと認定した。 その上で、通告などが積み重なったことで「(市の担当者らが)日常の範囲内という意識になった可能性があり、リスクを小さく捉えていた」と指摘。また、田中被告から頻繁に連絡があったことで「安心感を持ち、長男に直接面談した回数が少なかった」とした。そして学校や市が、虐待の「ハイリスク家庭」との認識の共有が不十分だったと指摘。学校は養子の欠席が続いた時、父親から「体調が悪いため休む」などと連絡があったため問題視されなかったが、「市などの関係機関と連携し早急に対応するべきだった」とした。また、2021年2月初旬、養子は腰にけがをし、虐待を疑った学校側などに「ジャングルジムから落ちた」と説明。この際に「虐待などの鑑別を含め医療機関受診を強く勧める必要があった」とも指摘。各行政機関の情報共有や危機管理意識が不十分だと結論づけた。その上で課題として、子育て行政での深刻な人材不足の解消▽専門職の育成と配置、意見を反映しやすい体制▽学校と市教委が一緒に対応する仕組みづくりなどを挙げた。地域との関係についても「連携の方策を検討する必要がある」と強調した。 2022年10月11日、福岡地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2023年3月24日、福岡高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 岩嵜竜也(45) |
逮 捕 | 2017年7月10日 |
殺害人数 | 2名 |
罪 状 | 殺人、死体遺棄、住居侵入 |
事件概要 |
横浜市の派遣社員、岩嵜竜也被告は2017年7月6日、中国籍で飲食店従業員の姉(当時25)と専門学校生の妹(当時22)が住む横浜市のマンションの一室に合鍵を使って侵入。姉妹の首を絞めて殺害後、布団圧縮袋に入れてキャリーバッグに詰め込み、7日に秦野市の山林に遺棄した。 防犯カメラの映像などから姉の交際相手だった岩嵜被告が浮上。神奈川県警は7月10日に監禁容疑で、11日に住居侵入容疑で岩嵜被告を逮捕。21日、死体遺棄容疑で再逮捕。8月11日、殺人容疑で再逮捕。 横浜地検は9月1日、岩嵜被告を殺人、死体遺棄容疑などの罪で起訴した。監禁罪については不起訴とした。 |
裁判所 | 最高裁第一小法廷 深山卓也裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2023年10月11日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
被告側は、差戻し審は被告は犯人だとの前提で量刑だけが審理され、無罪主張を禁止されたと主張。「裁判を受ける権利の侵害だ」などと訴えた。 最高裁は、高裁による差戻しの判断は、被告が犯人であることを前提としていると指摘。差戻し後の一審はその判断に拘束されるとして、訴えを退けた。 |
備 考 |
2018年7月20日、横浜地裁(青沼潔裁判長)の裁判員裁判で、求刑死刑に対し懲役23年判決。被告側は無罪を主張。判決では凶器が使われていないことから、過去の殺人罪の裁判員裁判の例を考慮すれば死刑や無期懲役の選択は困難と述べ、有期懲役刑の上限の23年を選択した。 2019年4月19日、東京高裁(中里智美裁判長)で一審破棄、差戻し判決。量刑検索システムで類似事件での判決傾向を調べる際、一審では「殺人」「単独犯」「凶器なし」の条件でをつけて検索していたが、提示した判例は数例とみられ、すべて親族間での殺害事件だったことから、「経緯や動機にくむべき事情があることが多い親族間の事例と本件とは全く異なる類型」と判断。さらに、姉妹が相当な力で5分程度、首を圧迫されて殺害された点から「凶器を使う場合と比べて危険性に質的な違いはない」と指摘。高裁が凶器の有無を特定せず類似事件での量刑傾向を調べ直したところ、親族間の事例を除くと極刑か無期懲役刑が言い渡されていたとし、「量刑の認定や評価が甚だ不十分」と一審判決を破棄し、差戻した。 2020年1月29日、最高裁第三小法廷(宇賀克也裁判長)で被告側上告棄却、差戻し確定。5裁判官全員一致の結論。 2021年9月3日、横浜地裁の差戻し裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2022年4月19日、東京高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 松川雄太郎(27) |
逮 捕 | 2022年12月7日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗致死、銃刀法違反 |
事件概要 |
住所不定無職の松川雄太郎被告は2022年11月19日午後7時45分ごろ、金を奪う目的で宮城県桶谷町に住むハウスクリーニング業の男性(当時64)方を訪れ、インターホンを鳴らして玄関に出てきた男性に牛刀を突き付けて現金を要求。もみ合いになり、松川被告は男性の左脇付近などを切りつけた。 男性と同居していた女性から消防に連絡。男性は病院に運ばれたが、出血性ショックで死亡した。 男性は2007年から清掃業を営んでいた。松川被告は2015年から大崎市を中心に清掃業を営み、男性の仕事を受けたことがあった。 松川被告は女性の通報を知り、車で逃走。警察は現場周辺の防犯カメラやドライブレコーダーの解析などを進め、松川被告を特定。12月7日、殺人容疑で逮捕した。また松川被告に車を貸し、アパートに泊めさせていた友人の男性も犯人隠匿容疑で逮捕した。 仙台地検は12月28日、強盗致死と銃刀法違反容疑で起訴した。男性に対する殺意は認定しなかった。 |
裁判所 | 仙台地裁 宮田祥次裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年10月25日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2023年10月11日の初公判で松川雄太郎被告は、「被害者に対し、刃物を向けてはいない」などと起訴内容を一部否認した。 検察側は冒頭陳述で、被告が金に困り、過去に同じ清掃業で知り合い、男性から仕事をもらうことがあったが、金の支払いが遅くて不満があった。男性に、刃物を突き付けて現金とキャッシュカードを奪う計画を1カ月ほど前から立てて襲ったと説明。事件直前に包丁や目出し帽、ブルーシートなど、犯行に必要な物を周到に準備していたと指摘した。そして「包丁を持って、男性と玄関で対面した時点で強盗が成立し、抵抗する被害者を刺した」と述べた。また松川被告が事件当時、1,500円しか口座に残っていなかったこと、消費者金融3社に対し、150万円の借金があったこと、元婚約者との民事裁判で80万円の慰謝料の支払いを命じられていることも明らかになった。 弁護側は「男性が被告にタックルして倒れる際に致命傷が生じた可能性が高い」と述べ、「致命傷を負った際には強盗しようとは思っておらず、重過失致死に当たる」と主張した。 12日の公判で、被害者の男性の交際相手が出廷。6月に入籍予定であったと述べた。そして「死刑です。それがかなわないなら二度と刑務所から出てこないでほしい」と声を大にして訴えた。 同日の弁護人の被告人質問で、松川被告はきっかけについて「まとまった金を手に入れるためには強盗しかないと思った」と語った。「給料の未払いやパワハラでもめたことがあった」とターゲットとして男性を選んだ理由についても明らかにした。 16日の公判で男性の次男が法廷に立ち「父はふだん優しく誰からも愛される人で、私はいずれ一緒に仕事をしたいと思っていました。被告の身勝手さはなおらないと思います。最も重い刑罰を与えてほしい」と訴えた。 同日の論告で検察側は、「牛刀や目出し帽、ビニールシートを用意し、死体を埋める穴を事前に準備するなどていて計画性があった」と指摘。包丁を持って男性と対面したことは脅迫行為で、「強盗を開始している」と指摘。タックルしてきた男性に刃先を向けていたとし、「危険で積極的な加害行為だ」とした。そして「被告は生活を立て直すために金が必要だとして犯行に及んだ。みずからの状況を他人を傷つけることで解決しようとしたことは、命をあまりにも軽く考えていて酌量の余地はない」と述べた。 同日の最終弁論で弁護側は、「玄関先で対面した時には強盗を行おうと思っていなかった。死亡は被害者が被告にタックルしたことに起因していて、強盗の実行行為中に発生したものではない。被害者が致命傷を負った際には脅迫しておらず、持っていた包丁の刃先が無意識に向いていただけなので強盗致死は成立しない。被告の母親の監督や更生も期待できる」として、強盗致死ではなく、強盗未遂罪・重過失致死罪・銃刀法違反罪で懲役10年程度が相当だと主張した。 判決で宮田裁判長は、「目出し帽をかぶり右手に包丁を持つなど脅迫行為をしていて、遅くとも玄関先で被害者と対面した時点で強盗を開始したと認められる。知人に死体の穴を掘る依頼までしており計画的な犯行」と指摘。「被害者を刺したのは強盗の開始後で、強盗の機会に死亡の結果が生じた。そもそも包丁を用いなければ、刃先が被害者に向く事態にはならなかった。」と強盗と死亡の関係性を認め、「遺族も厳罰を望んでいる」「結果は重大で、事件に真摯に向き合っているとは言えない」と述べた。 |
備 考 |
松川雄太郎被告へ逃走中に車を貸し、逃走中の松川被告をアパートに宿泊させて匿ったほか、包丁や目出し帽を被告が働く建設現場に埋めたとして、犯人隠避、犯人蔵匿や証拠隠滅の罪に問われた仙台市の会社員の男性は2023年4月25日、仙台地裁で懲役1年6月執行猶予5年の有罪判決(求刑懲役1年6月)。男性と松川被告は小・中学の同級生だった。 被告側は控訴した。2024年5月23日、仙台高裁で一審破棄、懲役28年判決。 |
氏 名 | 山本結子(33) |
逮 捕 | 2020年8月7日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、現住建造物等放火未遂、覚醒剤取締法違反、威力業務妨害 |
事件概要 |
埼玉県久喜市の無職山本結子被告は住所不定、会社員のKO受刑者(当時34)と共謀し、7月下旬に会員制交流サイト(SNS)で自殺志願者を募集。2020年7月31日、誘いに応じた川崎市に住む無職の女性(当時48)と、茅ケ崎市に住む派遣社員の女性(当時24)をJR高崎駅で落ち合った。そしてKO受刑者が茨城県内で前日に借りていたレンタカーで移動し、8月1日午前0時25分~同1時50分頃、群馬県吾妻郡中之条町の駐車場で、川崎市の女性をバットで殴りロープで首を絞めた上、橋から約32m下の川に投げ落とし、外傷性ショックで殺害。女性のキャッシュカード2枚と運転免許証を奪った。事件当時、茅ケ崎市の女性は睡眠薬を飲んで昏睡状態だった。女性は当時、睡眠薬を飲んだ後、4人で練炭自殺をするつもりだったが、山本被告とKO受刑者は自殺するつもりはなかった。 さらに山本被告とKO受刑者は2日午前2時20分ごろ、茨城県つくば市に住む山本被告の元交際相手の男性(当時34)宅の軒下にガソリンをまき、ライターで火をつけ燃やそうとした。事件当時、男性は不在だった。山本被告と別れてから男性は家の鍵を替えていたため、山本被告は家の中に入ることができなかった。 山本被告は2020年5月にマッチングアプリで知り合った男性と交際、男性宅で同棲していたが、同年7月、山本被告が男性のクレジットカードを不正利用したとして疑われ、男性宅から追い出されていた。 山本被告とKO受刑者はゲーム友達であった。山本被告は男性の元交際相手である女性「実」(みのり)、「実の父親」、「男性」、「男性の母親」、「男性の交際相手」という5つの架空アカウントを作り、「実」をSNSで紹介した。「実」「実の父親」は実在しない。さらに「実」や「実の父親」は結婚や仕事の紹介を匂わせるとともに、「男性」「男性の母親」から「実」が嫌がらせを受けていると訴えた。そしてKO受刑者が「男性」を殺人犯に仕立て上げることができれば結婚できるとだまし、山本被告と共謀させた。川崎市の女性と茅ケ崎市の女性は7月上旬にSNSで知り合い、山本被告の募集を見た茅ケ崎市の女性が川崎市の女性を誘い、応募した。 山本結子被告は2019年7月、SNSで知り合った女性Aさんと交際を始めた。8月、山本被告は吾妻署にAさんが覚醒剤を所持していると通報。ただし山本被告はかつてキャンプ場で働いていた時、自分の携帯電話2台のうち1台で、もう1台のほうに脅迫文を送り、吾妻署に『脅迫された』と自作自演で届け出たことがあったため、吾妻署では慎重に対応するよう指導した。山本被告はAさんを連れて吾妻署に出頭。所持品検査で覚醒剤が出てきたことと、Aさんの尿検査で陽性反応が出たため、吾妻署の警察官はAさんを覚醒剤取締法違反容疑で逮捕、山本被告は帰らせた。しかしAさんは無実を主張し、吾妻署に来る前に飲まされたコーラが苦かったと主張。警察官はその主張を認めて釈放。さらに「付き合っていて良いことはない」と助言をした。 山本被告は自分の個人情報をAさんに流したと思い込み、警察官を恨んだ。そしてマッチングアプリで知り合った佐賀市に住むスーパー従業員の男性(当時31)に愚痴をこぼし、さらに当時付き合っていた警察官が金を返さず、さらに暴力を振るうなどするため仕返しをしたいと作り話を信じ込ませた。山本被告はLINEで男性に「患者を無差別に殺害する」などの脅迫状の文章を送り、男性に手書きで便箋に清書させた上、2020年2月4日ごろ、佐賀市から約20通の脅迫状を投函させ、同月6~27日に威力を用いて病院の業務を妨害した。 2020年は8月5日午前、川の中州で女性の遺体を発見。行方不明届が出ていた茅ケ崎市の女性の行方を警察は追っていたが、8月6日、宮城県内で女性を発見。さらに山本被告とKO受刑者が一緒にいた。殺害された女性の運転免許証を持っていたことから、事件の関与が浮上。8月7日、群馬県警は山本被告とKO受刑者を死体遺棄容疑で逮捕した。また犯人隠匿容疑で同行していた女性を逮捕した。8月27日、強盗殺人容疑で山本被告とKO受刑者を再逮捕した。一方、同行していた女性を処分保留で釈放した。 2021年1月17日、群馬県警は現住建造物等放火未遂容疑で山本被告とKO受刑者を再逮捕した。 2月22日、前橋地検は事件に同行し、警察署にうその電話をかけたとして犯人隠避の疑いで逮捕された女性について不起訴とした。 3月19日付で前橋地検は、山本被告を威力業務妨害で追起訴した。 |
裁判所 | 前橋地裁 橋本健裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年11月17日 無期懲役 |
裁判焦点 |
2022年9月15日、病院に殺人予告の手紙を送ったとされる威力業務妨害罪の部分審理の初公判で、弁護側は無罪を主張した。 検察側は冒頭陳述で、山本被告が2019年に群馬県警吾妻署に逮捕された当時の交際相手が釈放後に自分と連絡を取らなくなったことは、同署員が関係を絶つように助言したからだと恨みを抱き、仕返しを計画。マッチングアプリで知り合った男に、同署員のせいで患者が殺されるという趣旨の脅迫文を送るように指示し、男が2020年2月4日ごろ、病院に郵送したと主張した。そして「病院の関係者に強い不安と恐怖を与えた」と述べた。 弁護側は男が犯行を主導し、勝手に「無差別」「抹殺」といった単語を入れたもので、山本被告は殺人予告に関与していないとした。 10月14日の論告で検察側は「病院関係者を強い不安に陥れる卑劣で悪質な犯行」として有罪を求めた。弁護側は「犯行に関わっていない」とし、無罪を主張した。 11月17日、前橋地裁(橋本健裁判長)は有罪の部分判決を言い渡した。橋本裁判長は判決理由で、男が事前に被告に文章を確認してもらっていたことなどを指摘。「(男が被告の)意向に反する手紙を送る合理的な理由は見いだしにくい」とした。そして「20通程度の脅迫文を作成し投函した。無関係の病院が3週間もの間、警戒を余儀なくされ、79名もの警察官が警戒にあたることとなった」と、事件は山本被告が男に指示して起こしたものだと認めた。 裁判員裁判。 2023年10月18日の初公判で、山本結子被告は未審理の3件のうち強盗殺人と現住建造物等放火未遂の起訴内容について「間違いです。私はやっていません」と述べて無罪を主張、覚醒剤取締法違反は認めた。 検察側は冒頭陳述で、山本被告が2020年7月、マッチングアプリで知り合い2カ月ほど交際したがクレジットカードの不正利用を疑われて別れた茨城県の男性に復縁を申し入れ、断られたことから男性への復讐を決意したことが事件のきっかけだと指摘した。マッチングアプリで知り合ったKO受刑者を巻きむため、交流サイト(SNS)でKO受刑者に架空の女性「実(みのり)」を紹介。通信アプリでこの女性や元交際相手の男性などになりすますため、5個以上のアカウントを駆使してさまざまなメッセージを送り、「実」が元交際相手から嫌がらせを受けていることを明かした上で、KO受刑者との結婚をほのめかした。KO受刑者はこの女性に好意を持つようになり、女性に嫌がらせをしている元交際相手を憎むようになった。山本被告はさらに、自殺願望のあった女性を殺して身分証を奪い、つくば市の元交際相手の家に置き、そのまま家を燃やすことを指示し、男性を殺人犯に仕立て上げようとした。山本被告は指示通りに動くKO受刑者と2人で女性を殺害。KO受刑者がバットで殴った後、2人でロープで首を絞め、生きたまま橋から落としたとした。さらに元交際相手の自宅を燃やそうとした、と主張した。 弁護側は「架空の女性からのメッセージは、山本被告以外の何者かが携帯を乗っ取って送ったものだ」とし、山本被告の指示はなかったと主張。また、山本被告は女性を暴行したり、橋から突き落としたりもしておらず、「実行にも関与していない。KO受刑者だけで実行され、共謀もなかった」と説明し、自殺を考えて志願者を集めただけの山本被告は「主体的関与はなく、巻き込まれた」とした。また放火についても起訴内容を否認した。 19日の第2回公判で、携帯電話を捜査した警察官が出廷。証人尋問で、KO受刑者をたき付けたとされる交流サイト(SNS)のなりすましアカウントは、東光履歴などから山本被告の「自作自演だ」と証言した。また別の警察官は、事件の数年前、山本被告が吾妻署に、別の携帯電話から自分で文言を送って脅迫の被害を訴え、持ち物を知人の荷物に入れて窃盗被害を申し出たことがあったと証言した。 20日の第3回公判で、共犯のKO受刑者が出廷。事件に加担する過程で、女以外の複数の人物と交流サイト(SNS)上のみで連絡を取ったという。「日頃うそが多い山本被告は一切信用しなかった」が、紹介された好みの風貌の異性や、その父の暴力団関係者とされるアカウントの言うことを徐々に信用。山本被告が憎んでいる男性への怒りをたき付けられ、男性を殺したり殺人犯に仕立てたりするよう指示されたとした。そして女性の首を絞める際、ロープの両端を2人で引っ張ったと証言。「このままでは生き返る」と山本被告から橋から落とす提案をされ、「欄干まで2人で女性を運んだ。私が頭付近、山本被告が足元を持った」と話した。 23日の第4回公判で、もう1人の自殺志願者として同行していた女性が出廷。証人尋問で、山本被告が携帯電話の画面を受刑者の男に見せて指示を伝えた場面から、上下関係を感じたと述べた。女が犯行を止めようとしたり、犯行後の移動中に逃げたりする様子はなかったと証言した。 第何回かの公判は不明だが、山本被告の元交際相手も証人として出廷。山本被告は架空アカウントを作った張本人と訴えていたが、男性は「実というアカウントは聞いたこともなく、心当たりもない」と述べた。さらに、交際していた2か月の間に職場で4回意識を失ったと証言。病院ではてんかんの疑いがあると言われ、車の運転を禁止された。山本被告に毒物を疑ったと証言。そして同棲解消後は意識を失うことなく、車の運転もできるようになったと述べた。 また男性は、死別した交際相手のアカウントからLINEが何度も届いたこと、そして山本被告が決済サービスで25万円ほど利用され、山本被告は誰かに遠隔操作されたと弁解したものの、怪しいと思って別れたことを証言した。 26日の第7回公判における被告人質問で、検察側からの取り調べの録音・録画では「1人でやったことに驚くが、どうしてそんなことをしたのか」との質問に、山本被告が「元彼を恨むというか迷いというか。自分で動くこともできないし、それで受刑者の男を動かすっていうか」と答えたことを示し、同一内容の供述調書に署名・捺印したことについて、山本被告は「覚えていない。調書に残っているなら、そうだと思う」と答えた。しかし、取り調べでは捜査機関の誘導や威圧があり、従わなければ刑罰が重くなるという感覚が「常にあった」とも述べた。 弁護側からの被告人質問で、山本被告は女性が亡くなった経緯について、女性やKO受刑者ら4人で集団自殺をするつもりで、人気のない駐車場へと車で移動し、女性と2人で車外で練炭に火をつけていたところ、突然、KO受刑者が女性をバットで殴り、その後、ロープで首をしめ、橋から突き落としたと述べた。弁護側からその場を逃げたり、小船受刑者を止めたりしなかった理由を問われると、「怖くて、その場はパニック状態だった」と説明した。 検察側は被告人質問で、事件後もKO受刑者と温泉や位置の駅などに立ち寄っていることに触れ、「その後、(KO受刑者と)離れられる時間はあったのでは」と質問すると、山本被告は「(一緒に自殺しようとしていた)もう1人を置いては、逃げられないと思っていた」と答えた。 27日の第8回公判で、検察側は山本被告の調書を示し、取り調べ段階で変遷しつつ、事件前に元同居相手からクレジットカードの不正利用の疑いを向けられて別れ、連絡が取れなくなり「期待と怒りが両方あり、殺したい気持ちが強まったり弱まったりを繰り返した」。その後、交流サイト(SNS)で、元同居相手を殺害したり、自殺志願者を殺害して遺体を元同居相手宅に置いたりする計画がやりとりされたとして「(元同居相手への)殺意があった」と供述したことを明かした。 31日の論告で検察側は、元交際相手にクレジットカードの不正利用を疑われて別れたことが原因の「元交際相手への逆恨みから、犯罪者の汚名を着せようとして無関係の女性を殺害した、身勝手極まりない犯行」と述べた。そして自殺志願者の遺体や身分証を元同居相手の家に置いて殺人犯に仕立てた上で放火するため、本来無関係のKO受刑者を実行犯として巧妙に操り「手を汚さず、責任を第三者に押し付けられる立場で犯行に及んだ」と非難した。KO受刑者に犯行を決意させた、実在や架空の人物を装った交流サイト(SNS)の多数のアカウントは、山本被告のなりすましだと指摘。山本被告の携帯電話が使われた上、かたられた全ての人と接点があるのは山本被告だけだとした。KO受刑者が女性をバットで殴り、2人でロープで首を絞め、ガムテープで拘束して橋から約32メートル投げ落とすという殺害方法も「あまりに残虐で冷酷」とした。そして「首謀者で実行者。元同居相手に殺人犯の汚名を着せるため、女性の命を道具のように扱った。犯行の首謀者として犯行全体に重い責任を負う」と述べた。 同日の最終弁論で弁護側は、女性に対する強盗殺人と、元同居相手宅への現住建造物等放火未遂について無罪を主張した。別れた相手に恨みはなく、落ち込んで集団自殺しようとしだけで、殺害や放火は男(37)の単独犯だとした。なりすましアカウントのうち犯行に関する投稿は「携帯電話を遠隔操作された」と関与を否定した。覚醒剤取締法違反と、区分審理で既に有罪となった威力業務妨害の罪については寛大な判決を求めた。 最終意見陳述で山本被告は、「共犯者に犯行を指示したことや橋から落としたことに関しては一切行っていない」と述べた。 判決で橋本裁判長は、「元交際相手に対する恨みから殺人のぬれぎぬを着せようと計画し、架空の人物になりすまして知り合いに指示して事件を主導した。共謀も成立する」などと指摘。「犯行は残虐で執拗なもので非常に悪質だ。身勝手な考えによって全く無関係な被害者の生命を犠牲にすることなど到底許されず、刑事責任は重大だ。酌量の余地は皆無」とした。 |
備 考 |
病院に脅迫文を郵送したとして、威力業務妨害罪に問われた男性は2021年5月12日、前橋地裁(水上周裁判官)で懲役1年執行猶予3年判決(求刑懲役1年)。おそらく控訴せず確定。 強盗殺人罪などに問われたKO受刑者は2021年7月19日、前橋地裁(水上周裁判長)で一審懲役27年判決(求刑懲役30年)。犯行内容を自供し、起訴内容を認め、反省していることなどを量刑の理由に挙げた。控訴せず確定。 被告側は控訴した。2023年12月31日付で控訴取下げ、確定。 |
氏 名 | 佐々木伸(27) |
逮 捕 | 2020年10月30日 |
殺害人数 | 2名 |
罪 状 | 現住建造物等放火、殺人、殺人未遂 |
事件概要 |
仙台市の無職佐々木伸被告は2019年12月25日午前2時頃、木造2階の自宅で可燃性の液体をまくなどして放火し、タクシー運転手の父親(当時76)と会社員の兄(当時29)を殺害。兄の妻(当時26)は長女(当時3)と二女(当時1)を抱えて2階から飛び降りて助かったが、気道熱傷などで重傷を負った。また長女も重傷、二女も軽傷を負った。 家族は6人暮らし。亡くなった兄は長男、佐々木被告は三男。佐々木被告は大学卒業後、自室に引きこもっていた。 佐々木被告は火災の後行方不明となり、同日午後8時20分ごろ、付近を捜索していた警察官が、商業施設の個室トイレにいる男性を発見し、署で保護した。 佐々木被告は全身やけどのため、そのまま入院し、治療。2020年10月30日に退院。県警は完治していないが勾留に耐えうると判断し、そのまま逮捕した。仙台地検は11月20日、殺人他の罪で佐々木被告を起訴した。 |
裁判所 | 仙台高裁 渡邉英敬裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年11月21日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
2023年10月12日の控訴審初公判で、弁護側は一審に引き続き、殺意の認定に事実誤認があり第三者の犯行の可能性もあるなどと無罪を主張した。検察側は控訴棄却を求め、即日結審した。 判決で渡邉英敬裁判長は「親族との関係は良好ではなく、放火などの状況から家族が死んでも構わないという殺意があった」と指摘。「第三者が、被告が在室していた1階の和室に侵入して放火することは極めて難しいうえ、付近の防犯カメラにも不審な人物が写っておらず、第三者の犯行をうかがわせる事情がない。被告以外が放火を行った可能性はない」などと判断した。 佐々木伸被告は裁判に一度も出廷しなかった。 |
備 考 |
公判で仙台地裁は刑事訴訟法の規定を根拠に佐々木被告と被害者の氏名や住所を明かさない秘匿決定をしており、審理は匿名で行われた。理由は明らかにしていない。 2023年3月16日、仙台地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2024年6月24日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 中西正雄(57) |
逮 捕 | 2014年5月28日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、銃刀法違反、組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)、現住建造物等放火、非現住建造物等放火、傷害 |
事件概要 |
特定危険指定暴力団工藤会系組幹部の中西正雄被告は他の被告と共謀して以下の事件を起こした。
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裁判所 | 福岡高裁 市川太志裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年12月5日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
2023年8月31日の控訴審初公判で、弁護側は建設会社会長殺人事件などで無罪を主張。一部事件では傷害罪適用を主張。そして「一審判決には事実誤認がある」として、新たな証人を申請したが、却下され即日結審した。 判決で市川裁判長は、「一審判決は論理則、経験則に照らして不合理な点はなく、是認することができる」と一審判決を支持した。 |
備 考 |
工藤会の組員が関係した事件のうち、福岡県警が2014年9月11日に開始した「頂上作戦」以後、主に死刑や無期懲役判決を受けた受刑者、被告人(一部例外除く)が関与した事件の一覧ならびに判決結果については、【工藤會関与事件】を参照のこと。 2022年9月28日、福岡地裁で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。 |
氏 名 | 渡邊宏(68) |
逮 捕 | 2022年1月28日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、殺人未遂、傷害、銃刀法違反 |
事件概要 |
埼玉県ふじみ野市の無職、渡邊宏被告は2022年1月27日、前日に死亡した母親(当時92)の線香をあげに来てほしいと、母親の診療を担当した医師の男性ら医療関係者7人を午後9時に呼び出し、母親の心肺蘇生を要望。断られたため、午後9時15分ごろ、自宅で散弾銃を撃ち、医師の男性(当時44)を殺害。一緒にいた理学療法士の男性(当時41)にも発砲して重傷を負わせたほか、銃を奪おうとした医療相談員の男性(当時32)に催涙スプレーをかけ、目にけがを負わせた。この男性は散弾銃を奪い持ち去り、さらに119番通報した。 また、外に避難した別の医療相談員の男性(当時42)に向けて別の散弾銃を撃ち、殺害しようとした。男性に銃弾は当たらず、怪我はなかった。 渡邊宏被告は医師の男性を人質にし、散弾銃を持って自宅に立てこもった。埼玉県警は渡邊被告と固定電話でやり取りを重ねたが、応答が無くなったため、約11時間後の翌28日午前8時頃、埼玉県警が突入し渡邊被告を緊急逮捕した。医師の男性は意識不明の状態で救急搬送されたが、病院で死亡が確認された。即死状態だった。 渡邊被告は1人で母親を介護。2021年1月中旬ごろから約1年間、殺害した男性医師のクリニックの在宅医療に意見が合わず、地元医師会に約15回の相談を繰り返していた。母親は26日に死亡し、男性が死亡確認をしていた。2丁の散弾銃は、いずれも警察に届出済みだった。男性は高齢者を中心とした在宅医療に取り組んでおり、亡くなる前は約300人の患者を担当していた。 埼玉県警は29日、渡邊被告を殺人容疑で送検した。2月18日、理学療法士の男性への殺人未遂容疑で再逮捕。 さいたま地検は3月から鑑定留置を始め、6月2日に終了。6月10日、医療相談員の男性2人への殺人未遂、傷害の容疑で再逮捕。さいたま地検は7月1日、殺人罪などで起訴した。 |
裁判所 | さいたま地裁 小池健治裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2023年12月12日 無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2023年10月26日の初公判で、渡邊宏被告は「殺意は全くありません。大けがをさせようと被害者の右膝を狙ったが、(散弾銃を)しっかり構えていなかったので、反動で予想外の所に当たった」と起訴内容を一部否認した。 検察側は冒頭陳述で、事件前日に亡くなった母親の弔問を求め、担当医だった被害者ら在宅クリニックの関係者7人を自宅に呼び出したと指摘。母親の蘇生措置を被害者に断られ発砲したとし、「長年介護していた母親が死亡したのは医師らのせいと思い込んだ。実母を失った喪失感から自殺を考え、医師らを自殺の道連れにしようとした」と述べた。 弁護側は、呼び出して焼香してもらう意図で「危害を加えることは考えていなかった」とし、「殺意は全くなかった。母の蘇生を断った医師に、家族の最後の望みも叶えてくれないという憤りを感じた」と述べた。そのうえで、「被害者の右足のひざを狙って撃ったが、銃身が上にずれ胸に弾を命中させてしまった」として、発砲は誤射や威嚇射撃だったと説明。母親の死のショックや大量の睡眠薬の服用が事件に影響したとして、殺意は無く、被害者については、傷害致死と銃刀法違反に留まると主張した。 その後行われた検察側の証拠調べでは、渡邊被告の自宅から押収された3枚のメモ紙が提出された。メモ紙の1枚目は医師、2枚目は理学療法士ら3人について言及したものだった。これまでの診療や対応の不備を非難し「母はドクターに殺されたも同然」「(母に対して)心臓マッサージしようとしなかった。要求したのに」「対応が母の障害になっていた」などと書きつづり、最後には共通して「よって断ずる」と締めくくった。3枚目は被告本人に関するもので、書き出しで母親が医師らの対応不備によって亡くなったことへの恨みを強調。「自害して早くあの世で母に会いたい」「生きていても母の思い出ばかり」などと失意を吐露し、「私は万死に値するばかな人間である」とした。渡邊被告は、自分が書いたと認めた。検察側は男が同日午後、所有していた散弾銃を発砲する際、暴発の危険性を業者に問い合わせていたことにも触れ、「母親の死に絶望し、自殺の道連れに医師らを殺害しようと決意した」と主張した。 30日の第2回公判で事件当日に渡邊被告が録音した音声データなど6点が公開された。音声データからは、渡邊被告が弔問に訪れた医師らに対し、「72時間後に(事件前日に死亡した母親が)再生するのは0・00いくつの確率かもしれないが、淡い期待がある」「人工呼吸をしてほしい」「蘇生を期待していたのにありえない」などと話した後に散弾銃の発砲音がして、「110番」「誰か救急車を呼んでください」などと叫ぶ声が交じり、騒然となった現場の状況が明らかとなった。1発目は死亡した医師に、2発目は重傷を負った理学療法士に命中した時の発砲音とみられる。3発目は屋外に逃げ出した医療相談員の男性に向けて発砲したもので、命中はしなかったとされる。この日の公判では、発砲後に立てこもりを続けた被告と電話交渉に当たった警察官の会話の音声も公開された。 11月15日の公判における弁護側からの被告人質問で渡邊被告は、散弾銃を持ち出した理由について「母が亡くなったときも蘇生は措置をしてくれず、家族の最後のお願いも聞いてもらえないので頭に血が上った」「(医師の)右ひざ辺りを狙って大けがをさせてやろうという気持ちだった」と改めて殺意を否定した。一方、検察側による被告人質問では、事件後当初のさいたま地検の調べに対し「医師ら4人を銃で撃って殺し、自殺することを決めて遺書を作った」との供述について「覚えていない」と述べた。 28日の公判における遺族の意見陳述で、被害者の父親は「事件に対し、後悔もなく、実質的な反省の弁もなく、殺意も認めずにいる被告に対し最大限の厳罰を望みます」と述べた。妻は渡邊被告が事件前日に母親を亡くしたことに触れ「あなたも大切な人を失う悲しさを知っているはず。ただ、突然身勝手に命を奪われる気持ちが分かるでしょうか」と訴え「法の許す限り、最大限長く刑務所に入り本当の反省をしてほしい」と語気を強めた。 同日の論告で検察側は、長年介護してきた母親が死亡したことで被告が医師らに一方的に不満を募らせて爆発させたと指摘。自殺の道連れに医療従事者を一人でも多く殺害しようと、強固な殺意を持って周到に計画したと非難した。死亡した医師らに殺傷能力の高いスラッグ弾を1メートル前後の至近距離から重要な臓器が集中する上半身に向けて、ためらいなく発射した行為自体から殺意は明らかだとし「極めて危険で無慈悲な犯行」と強調した。犯行は周到な計画を立てた上で2発撃った散弾銃を取り上げられたのにもかかわらず、別の銃で撃っていて「一人でも多くの人を殺害することに執着し、その意志を翻すことなく臨機応変に対応して犯行を継続した」と指摘。一方的な逆恨みから自殺の道連れに凶行を決意し「恩をあだで返す行為にほかならない。動機は理不尽で自己中心的で酌量の余地はない」と非難した。 同日の最終弁論で弁護側は、家族の最後の願いである母親の心肺蘇生の要望を受け入れてもらえず衝動的に事件を起こしたと主張。「発砲直前に衝動的に大けがをさせてやろうという気持ちになった」と改めて殺意を否定した。医師らへの不満を記した直筆メモに「断じる」と書いたことについては「是非を問うという意味で殺してやろうと書いたものではない」と説明した。逮捕後に警察と検察の取り調べに殺意を認める供述をしていた点は、睡眠薬を大量に服用していたため、供述をした記憶がないとした。そして傷害致死で懲役15年が相当と主張した。 最終意見陳述で渡邊被告は「頭に血が上ったこととはいえ、先生やクリニックスタッフ、関係者の方々へ心から申し訳ないと思っている。猛省しています」などと用意した紙を読み上げ、一礼した。 判決で小池裁判長は、渡邊被告が母親の死に一方的な不満を募らせ、犯行当日に医師らを「断じる」と非難した直筆メモを作成した点や、銃砲店に散弾銃で強い弾が発射できるかを問い合わせした後に散弾銃2丁と弾丸を準備した点に加えて、銃身の角度や至近距離から撃った犯行態様、現場の状況などから「いずれも殺意があったことは明らか」と殺人、殺人未遂罪は成立するとした。その上で量刑理由で、「母親の死で大きな衝撃や喪失感があったことを考慮しても、銃器を使って殺害したことは理不尽で、厳しい非難に値する」と指摘。患者や家族に寄り添う在宅医療を実践し、被告に対しても発砲直前まで介護をねぎらう言葉をかけていた医師の胸部を撃って即死させたことに関して「自らが診療に関わっていた患者の家族の凶弾で殺されたことへの無念さは察するに余りある」と強調した。また「逆恨みで凶行に及んだというもので、医療関係者に及ぼす悪影響も懸念される」とした。小池裁判長は量刑について、事前に散弾銃を準備するなど高い計画性もあり、死刑の適用も視野に検討したが「被害者が1人にとどまり、検察も無期懲役の求刑にとどめていることから、死刑がやむを得ないと言うにはためらいがある」として無期懲役が相当と結論付けた。 判決の最後、渡邊被告は内容を理解したかを聞かれると、無言でうなずいた。判決後、小池裁判長は「母を失った悲しみが大きいのは分かるが、銃撃は許されない」と語りかけた。母の最期をみとることができた被告とは対照的に、医師は突然命を奪われたとして「(家族は)どれだけ無念だったか。しっかりと(事件を)受け止めてほしいが、振り返りが足りない」と指摘。最後に「愚かな犯行をしっかり見つめてほしい。そこで初めてあなたの償いが始まる」と説諭した。 |
備 考 |
ふじみ野市は本事件を受け、在宅医療や訪問介護などの従事者の安全確保を目指す「ふじみ野市地域の医療と介護を守る条例」を2023年4月、制定した。 被告側は控訴した。 |
氏 名 | 相澤大広(23) |
逮 捕 | 2021年7月23日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、住居侵入 |
事件概要 |
宮城県松島町のアルバイト相澤大広(たいこう)被告は2021年7月15日午後1時半ごろ、近くに住む女性(当時85)の自宅に盗み目的で侵入。財布から現金を取ろうとした際、女性と鉢合わせしたため、女性の頭部を玄関にあった金づちで何度も殴るなどして殺害し、現金およそ52,000円を奪った。 相澤被告は事件発生の1カ月ほど前に事故を起こして車を廃車にし、その後、家出していた。 女性は一人暮らしで、連絡が取れないことを不審に思った親族が16日午後、民間の訪問サービス業者に連絡。担当者が警察官とともに女性宅を訪れ、玄関で倒れている女性を発見した。 宮城県警は23日、殺人容疑で相澤被告を逮捕した。仙台地検は8月13日、強盗殺人と住居侵入の罪で起訴した。 |
裁判所 | 最高裁第二小法廷 三浦守裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年12月13日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | |
備 考 | 2023年2月10日、仙台地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2023年8月22日、仙台高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 河野智(56) |
逮 捕 | 2021年10月13日(現行犯逮捕) |
殺害人数 | 3名 |
罪 状 | 殺人、銃刀法違反 |
事件概要 |
本籍新居浜市、住所不定無職の河野智(さとる)被告は2021年10月13日午後5時45分頃、新居浜市に住む溶接工の男性(当時51)と男性の父親(当時80)、母親(当時80)の胸をナイフ(刃渡り12.7cm)で突き刺して殺害した。 河野被告は元同僚男性方に押し掛け、玄関先で男性の父親の包丁で刺して殺害した。午後5時38分、男性の母親から110番通報。パトカーが見えた母親は手招きをして室内に戻ったが、河野被告は室内で元同僚男性、母親を順に殺害した。5時47分、署員が現場に到着。1分後、ナイフを所持していた河野被告を銃刀法違反で現行犯逮捕した。 男性は体調を崩しており、両親と三人暮らしであった。 河野被告は鉄工所勤務など職場を転々とし、2017年ごろに男性と同僚だったことがあった。2021年9月下旬に家族から自宅を追い出され車上生活を始めていた。 河野被告は河野被告は2017年に監視・盗撮されたり、自分のことをインターネット掲示板に書き込まれていると感じるようになり、2019年ごろからかつての同級生などに「自分を悪く言っている人がいないか」と何度も電話をかけるようになった。そして元同僚の男性に電磁波を止めろなどと訴えるようになった。元同僚男性は2019年9月と11月、河野被告の対応について新居浜署に相談した。署は男性に、何かあればすぐに通報するよう助言した。 河野被告も2019年7月から2020年8月までの間に4回、元同僚男性から被害を受けていると相談。他にも2020年9月までに8回相談していた。署は被害を受けた事実はないとし、体調が悪いなら医療機関を受診するよう勧めた。また署は、当時の被告の言動から危害を加える恐れまではないと判断した上で、国の指針に基づき、西条保健所に福祉的支援のための情報を2019年11月から2020年9月まで計5回提供した。しかし河野被告や家族から相談がなかったため、通報内容などを踏まえ強制的な対応は取らなかった。事件後に県健康増進課は、「法律に基づく通報ではなく一般的な情報提供だった」とし、精神保健福祉法による調査や診察、措置入院などの対応は困難だったとの認識を示している。 2021年9月23日にも河野被告は男性方に押し掛けた、元同僚男性は不在で、両親の110番で駆け付けた署員が河野被告に口頭で注意していた。 10月15日、父親殺人容疑で再逮捕。11月4日、母親と元同僚男性殺人容疑で再逮捕。 松山地検は11月19日から2022年2月25日まで鑑定留置を実施。3月3日、殺人と銃刀法違反の罪で起訴した。 |
裁判所 | 松山地裁 渡邉一昭裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年12月18日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2023年12月6日の初公判で、河野智被告は「間違いありません」と起訴事実を認めた。 検察側は冒頭陳述で、河野被告は2017年に監視・盗撮されたり、自分のことをインターネット掲示板に書き込まれたりしていると感じるようになったと指摘。発症に気付かなかった被告が元同僚男性や組織から狙われ、電磁波攻撃されているなどと被害妄想を抱き、一方的に怒りを募らせて犯行に及んだと犯行動機について説明。河野被告は事件当日に自身の家族への悪影響を考えて犯行を2回ためらったことなどを挙げて「妄想型の統合失調症で自分の行為の意味を理解して行為を選択する能力は著しく劣っていたが、自らの行動の意味は理解しており、責任能力は完全には失われていなかった」と、心神耗弱状態であったと述べた。 弁護側は、河野被告はインターネットを検索する中で、かつての同僚や組織から攻撃・嫌がらせを受けていると妄想を募らせ不眠などで仕事が手につかず、警察にも何度も相談したが相手にされず、次第に疲弊して元同僚男性を殺し自殺しようと考えたと指摘。「犯罪歴のない人が3人の命を奪う行動に出た理由として、被告がどう追い込まれたのか、被告や証人の鑑定医の話を聞いてほしい」と呼びかけた。 この日の証拠調べで検察側は、殺害された3人にはいずれも胸などに10カ所以上傷があったと説明し、被告が携帯電話に残していた通話録音データを再生。事件3日前とされる通話では被告が被害者と共通の知人に対して、思い詰めた口調で「電磁波攻撃がしつこい。殺さないと気が済まない」などと話していた。 7日の第2回公判の弁護人からの被告人質問の冒頭で河野被告は、妄想の影響を強く受けていたとする精神鑑定結果に対し「頭がおかしいとして無期懲役になり生きるより、責任能力があるとなって死刑になっても悔いはない」と述べた。 河野被告は弁護人からの質問に対し、当日家を訪ねたところいないと思っていた元同僚男性がいたため「今しかない。きょうしかない」と殺害を決意し、自分を攻撃する『組織』の人間だとする男性を「絶対にこいつだけは生かしてはおけん」と思い、特に強い殺意を持って犯行に及んだと証言した。弁護人から元同僚男性から"電磁波攻撃"を受けた理由に思い当たる点はないか尋ねられると、「一緒に働いていた時に、口のきき方を注意したからでは」との考えを述べた。 検察側からの質問に対し、河野被告は犯行が自分の家族の人生に悪影響を及ぼすことは理解していた」としながら、「電磁波攻撃などが全く解決しないため、犯行に及び手加減は全くしなかった」と話した。河野被告が2021年9月下旬に家族から自宅を追い出され車上生活を始め、事件当日朝の所持金が約1,500円だったと指摘し、当時の心境を尋ねた。被告は「昼夜問わず電磁波攻撃を受け、夜眠れず仕事ができないぐらいきつい状態もあった」と強調。「仕事やお金、住むところがなくなり、家族との不和もあった。全てのことで追い込まれた」と訴え、元同僚男性のせいだと思い、殺害を考えたとした。男性の父親については過去に家を訪れた際に追い返され「グルだと思った」とし、母親については「憎いと感じたことはなかったが、1人だけ生きるのはかわいそうと思った」と述べた。人を殺してはいけないと善悪が理解できていたか質問されると「そうです」と認めた。一方で、感じていたという電磁波については「(犯行前の)3、4日、特別強かったと記憶していない」と証言した。 8日の第3回公判で、精神鑑定を行った医師が、河野被告は犯行時、妄想型の統合失調症だったとする鑑定結果について証言した。河野被告が訴えている電磁波攻撃による体調不良について、医師は統合失調症の被害妄想や幻覚と解説。元同僚男性などから嫌がらせを受けているとの思いが膨らみ、殺害動機が強固になったと説明した。一方、怒りを募らせた過程は「多くの人が感じる心の動きとして理解できる」と指摘。犯行時の精神状態に関しても、被告が自分の家族への悪影響を考え殺害をためらっていたことや、駆けつけた警察官が手錠をかけやすいよう手を前に出していることなどを挙げなどから違法性を理解していたとし、「自分をコントロールできており、刑事責任能力の有無を判断する要素となる善悪の認識ができて、行動や思考はまとまっていた」と結論付けた。 弁護側からは統合失調症について、患者が自発的に治療を求め病院に行くことができるかどうか質問があり、医師は「自分で気づき医療機関にかかるのは難しい」と答えた。また、偶然元同僚男性を発見し殺害して自殺しようと考えていたにも関わらず、犯行後に男性が関わったする「組織」を公にしたいと自殺に及んでいないとし、両立しない行動を質問。鑑定した医師は妄想型の統合失調症の影響を否定した。弁護側の質問途中、河野被告は弁護人に「お前もうかわれや」などと、声を荒げた。 この日の被告人質問で河野被告は、被害者や遺族への思いを「逆の立場ならつらいと思う」と述べ、元同僚男性の父母も殺害したことには「見つける場所が違っていたら1人(父親)だったと思う」と回答。医師の対応を問うと、「電磁波攻撃などの被害を受けているにも関わらず統合失調症と決めつけられる。なぜ妄想と決めつけるのか」「医師1人の意見が全て正しいのか」と訴えた。一方で検察側から謝罪の意思の有無を尋ねられるとしばらく考え込み「謝罪しない」と言葉を絞り出し、重ねての質問に「今も私が被害者だと思っている。死刑となってでもこの場では謝罪を拒否する」と述べた。 被害者参加制度を利用した元同僚男性の長男の意見陳述で、代理人が「2年以上たつが整理がつかず、怒りと悲しみはだんだん強くなっている」とし、厳罰とするよう訴えた。 12日の公判における意見陳述で、被害者側の代理人の弁護士は、死刑を求めた。 この日の論告で検察側は、河野被告は被害者らから電磁波攻撃などの嫌がらせを受けていたという妄想があったが、「差し迫ったものではなかった」と指摘。自身の家族に悪影響を及ぼすかもしれないと犯行前に考えていたこと、犯行時にナイフを周りから見えにくいように持ち歩くなど、状況に応じた行動ができたなどをふまえれば、自身の行動を理解する能力が完全には失われておらず、心神耗弱だったものの、責任能力は完全には失われていなかったとした。そして10回以上にわたってナイフで刺していることなどから強固な殺意に基づく凄惨な犯行で、3人が死亡するなど結果も重大で、遺族も厳重な処罰を望んでいるだが、心神耗弱の場合は刑の減軽が必要だとした。 同日の最終弁論で弁護側は、河野被告が妄想型の統合失調症を発症していたことから「生活は妄想に支配されていたといっても過言ではない」と主張。そして、"電磁波攻撃"されていた元同僚男性とその父親を殺害した後も「行動を制御できるほど正常な心理が残っていなかったため、母親を巻き添えにしてしまった」と説明した。さらに、検察側がいうように被告が犯行を迷った証拠はなく、強い被害妄想に支配され正常な行動を制御する能力は残されていない「心神喪失」だったとして、刑事責任を問うことができないとして無罪を主張した。 最終意見陳述で河野被告は「私が統合失調症だという鑑定は誤りで、人生をかけて電磁波攻撃などの被害を訴えたのに認められず悔しくてならない。正常者の発言として、責任能力ありとしたうえで裁いてもらいたい。死刑になっても悔いはありません。遺族には命をかけて対応したい」などと述べた。 判決で渡邉一昭裁判長は「被告は被害者側から電磁波攻撃や盗撮、盗聴などを受けているとの強固な被害妄想を抱いていた」と指摘。こうした妄想がなければ「犯行に及ばなかった」としながらも、「殺害を数年前から考えるようになりながらも思いとどまっていた点や、父親を刺す前などに子どもの人生への影響を考えて殺害を一時ためらうなど、自らの行為の意味を理解し行為を選択する能力は完全に失っていなかった」として心神喪失を否定し、心神耗弱を認定した。そして殺害された3人の身体はいずれも10箇所以上の刺し傷があり、致命傷の傷は10cm前後に及び凄惨な犯行と指摘。殺傷能力の高いナイフを使って短時間で3人を殺害した点などを挙げて「何の落ち度もない3人の命が一瞬にして奪われた結果は極めて重大。生命軽視の度合いは甚だしく、精神障害の影響を踏まえても厳しく非難されるべきだ。責任能力の点を除けば、極刑をもって臨むほかない事案」と判断。心神耗弱状態だったことを考慮した上で「無期懲役とするのが相当だ」と結論付けた。 |
備 考 | 被告側は控訴した。2024年8月22日、高松高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 小林遼(29) |
逮 捕 | 2018年5月14日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、強制わいせつ致死、死体遺棄、死体損壊、わいせつ目的略取、電汽車往来危険、児童買春・児童ポルノ禁止法違反 |
事件概要 |
新潟市の会社員、小林遼(はるか)被告は2018年5月7日午後3時過ぎ、下校途中で友人と別れ自宅から300m地点を一人で歩いていた小学2年生の女児(当時7)に軽乗用車をぶつけて車に乗せ、駐車場に止めた車内でわいせつな行為をした上、意識を取り戻した女児が大声を上げたため、首を手で絞めて殺害。遺体をJR越後線線路に遺棄し、電車にひかせた。 同日午後10時半ごろ、新潟市西区のJR越後線小針駅近くで、女児が列車にひかれた状態で死亡しているのが見つかった。新潟県警は殺人・死体遺棄事件として新潟西署に捜査本部を設置。近くに住む小林遼被告を5月14日に死体遺棄、同損壊容疑で逮捕し、6月4日に殺人容疑で再逮捕した。 他に、2017年11月27日にネットで入手した児童ポルノが入った携帯電話を所持したとされる児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪でも起訴されている。 |
裁判所 | 最高裁第一小法廷 安浪亮介裁判長 |
求 刑 | 死刑 |
判 決 | 2023年12月20日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | 裁判官4人全員一致の意見。 |
備 考 |
政府はこの事件を受けて2018年6月、午後3~6時の下校時間帯の見守り活動を強化する「登下校防犯プラン」を新たに策定。新潟市教育委員会も自治体や保護者などで作る防犯マップを市内全学校で更新した。 2019年12月4日、新潟地裁の裁判員裁判で求刑死刑に対し一審無期懲役判決。2022年3月17日、東京高裁で検察・被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 岩崎恭子(48) |
逮 捕 | 2020年8月27日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、現住建造物等放火、詐欺未遂 |
事件概要 |
宮城県大崎市の無職岩崎恭子被告は2019年9月16日、当時住んでいた大崎市のアパート2階の自室に放火し、自室と1階の部屋の一部あわせて52m2を焼いた。さらに火災保険金計290万円をだまし取ろうとした。請求を受けた保険会社は、不審に思い保険金を支払っていない。また起訴されてはいないが、それ以前に住んでいた大崎市内のアパートや元の夫と同居していた宮城県加美町の住宅でも、火事で建物が全焼し引っ越している。 また岩崎被告は2020年1月15日8時45分ごろ、962万円の借金を免れるため、大崎市に住む無職男性(当時72)に睡眠薬を摂取させ眠らせ、男性方の木造平屋住宅と作業小屋に火をつけて計215m2を全焼させ、焼死させた。岩崎被告は男性方から約7km離れたアパートに一人暮らしで、約3年前に共通の知人を通じて男性と知り合い、直後から借金をするようになった。男性の家を週2、3回訪れ、男性の軽乗用車も普段から岩崎被告が乗り回していた。 事件当日、火が出る直前に岩崎被告とみられる女が、男性宅から立ち去る姿を住民が目撃していた。8月27日、宮城県警は強盗殺人と現住建造物等放火の容疑で岩崎被告を逮捕した。11月27日、現住建造物等放火と詐欺未遂の容疑で再逮捕した。 |
裁判所 | 最高裁第一小法廷 岡正晶裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2023年12月20日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | |
備 考 | 2022年8月10日、仙台地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2023年7月13日、仙台高裁で被告側控訴棄却。 |