求刑無期懲役、判決有期懲役 2024年





 2024年に地裁、高裁、最高裁で求刑無期懲役に対し、有期懲役・無罪・差戻しの判決(決定)が出た事件のリストです。目的は、無期懲役判決との差を見るためですが、特に何かを考察しようというわけではありません。あくまで参考です。
 新聞記事から拾っていますので、判決を見落とす可能性があります。お気づきの点がありましたら、日記コメントでご連絡いただけると幸いです(判決から7日経っても更新されなかった場合は、見落としている可能性が高いです)。
 控訴、上告したかどうかについては、新聞に出ることはほとんどないためわかりません。わかったケースのみ、リストに付け加えていきます。
 判決の確定が判明した被告については、背景色を変えています(控訴、上告後の確定も含む)。

What's New! 12月12日、和歌山地裁は須藤早貴被告に一審無罪判決(求刑無期懲役)を言い渡した。




【最新判決】

氏 名
須藤早貴(28)
逮 捕
 2021年4月28日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、覚せい剤取締法違反(使用)
事件概要
 須藤早貴被告は2018年5月24日午後4時50分~午後8時ごろまでの間、和歌山県田辺市の自宅で、夫で資産家の野崎幸助氏(当時77)に致死量の覚せい剤を何らかの方法で口から摂取させ、同日午後8時~10時ごろに急性覚せい剤中毒で死亡させたとされた。
 野崎幸助氏は地元の中学校を卒業後、酒類販売業や不動産業など多くの商売を手がけ、資産は数十億円とも言われている。多くの女性と交際し、交際クラブなどで女性と出会っていることを公言。艶福家としてメディアに取り上げられ、17世紀スペインの伝説上の放蕩児になぞらえて「紀州のドン・ファン」とも呼ばれ、『紀州のドン・ファン 美女4000人に30億円を貢いだ男』(講談社+α文庫)を出版し、週刊誌やテレビなどにも登場していた。
 野崎氏と須藤被告は2017年12月に知り合い、2018年2月8日に当時21歳の須藤被告と三度目の結婚をした。早貴被告はその後も東京で生活していたが、5月以降は野崎氏宅で生活していた。
 事件当日の午後10時半過ぎ、野崎氏が2階の寝室のソファで動かなくなっていると被告が家政婦に知らせ、119番通報。救急隊員が死亡を確認した。司法解剖を担当した医師らによると、死因は致死量を超える覚せい剤を飲んだことによる急性覚せい剤中毒で、摂取量は少なくとも1.8グラムである。野崎氏が普段から覚せい剤を使用していた形跡が見つかっていないことから、県警は殺人容疑で捜査を始めた。
 2020年2月、早貴被告は旧姓の須藤に戻した。
 和歌山県警は2021年4月28日、殺人と覚せい剤取締法違反の容疑で東京都品川区のマンションに居た須藤被告を逮捕した。5月19日、和歌山地検は同罪で起訴した。
裁判所
 和歌山地裁 福島恵子裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2024年12月12日 無罪
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2024年9月12日の初公判で、須藤早貴被告は「私は社長を殺していませんし、覚醒剤を摂取させたこともありません」と無罪を主張した。
 検察側は、冒頭陳述で「(野崎さんの)財産目当てで結婚し、莫大な遺産を得るために殺害した」と主張。和歌山にあまり来ない被告に野崎さんが不満を募らせ、3月には離婚届を作成しており、そうした状況が殺害への動機だったと指摘した。覚醒剤の密売サイトから致死量の3倍以上に当たる3グラム以上を注文していたほか、 「完全犯罪」「覚醒剤 過剰摂取」「殺人罪 時効」などと検索していたとも主張した。検察側は、須藤被告の「ヘルスケア」の記録から、犯行の日に、 「16時50分から20時まで少なくとも8回、(野崎さんがいる)2階に上がった」  として、野崎さんが急性覚せい剤中毒で死亡した推定時刻、20時から22時に合致すると主張した。野崎さんの死後、被告が野崎さんが経営していた会社などから得た計約6800万円のうち、計約5500万円を使っていたことも明らかにした。
 検察側は冒頭陳述で、野崎さんに覚醒剤を飲ませて殺害したと指摘した一方、食事に混ぜるなどの具体的な方法は「不明」とした。被告が被害者と2人きりだったことや完全犯罪について調べていたことなどを挙げたが、弁護側は「被告が飲ませたことが間違いないと言えるのか」と反論。被告以外が飲ませたり、被害者が自分で飲んだりした可能性もあると訴えた。
 弁護側は、「分からないことが多い事件だ。怪しいだけで処罰されることは許されない」と主張した。殺意を持って覚醒剤を飲ませたことが間違いないかと考えて疑問が残るなら、無罪を言い渡さないといけないと裁判員らに訴えかけた。「結婚の条件は田辺市に住まず、月100万円を渡すことで、野崎さんもそれに納得していた」として検察側の主張を否定した。被告は3月末に田辺市に転入し、運転免許を取得する目的もあって、約1カ月間は同居。その後に東京に戻り、自ら離婚を切り出したこともあったが、野崎さんに懇願され、事件の20日ほど前に再び和歌山に戻った。被告が東京にいる間は、野崎さんは別の複数の女性と過ごしていたという。
 13日の第2回公判で、検察側は、被告が野崎さんの死亡後、友人に「今、私、時の人すぎてやばい」「欲のせいで足元をすくわれた」などとLINE(ライン)のメッセージを送っていたことを明らかにした。また、証人尋問では、事件当日、現場に駆けつけた当時の田辺署員2人が出廷。野崎さんの死亡当時の状況や捜査の概要を説明した。
 17日の第3回公判で、被告のスマートフォンの履歴を分析した男性警察官に証人尋問が行われ、検察側から「事件前のYouTubeの履歴が残る一方で、インターネットの検索履歴がほとんど残っていないのはなぜだと考えられるか」と問われると、「インターネットは履歴が残る設定をオフにしていたが、YouTubeは設定をオンにしたまま使っていたと考えられる」などと述べた。 また警察官の証言によると、健康管理アプリ「ヘルスケア」のデータの正確性を確認するため、野崎さん宅と同じ段数の階段で、被告と同種のスマホを用いて実験した。1階から2階へ上がり、しばらく滞在したケースでは「ほぼ100%(階段を上ったことが)記録された」とする一方、スマホを手で振ったり階段の1段だけを繰り返し上り下りしたりした場合は記録されなかったと述べた。
 24日の第5回公判で、証人尋問には捜査を担当した警察官が出廷し、検察側の質問に対し、東京都内の須藤被告の自宅にあったサングラスやハイヒールなどから、覚醒剤の陽性反応が出たと証言した。また野崎さんの自宅にあったシャツや歯ブラシからも、覚醒剤の反応が出たと話した。一方、弁護側の質問を受けた警察官は、野崎さんが死亡した翌日に、野崎さんの知人が自宅に宿泊した際に使ったとみられる食品のトレーなどからも覚醒剤の陽性反応が出たとも証言しました。
 同日、科学捜査研究所の研究員が出廷。大きさの異なるカプセル3種類を使い、0.03g▽1.8g▽3.5g―という3パターンの覚醒剤を詰めた場合、それぞれ何個必要になるか実験をしたと説明した。弁護側は、実験で使った3種は一般的なカプセル状の市販薬よりも大きいのではないかと指摘。用意していた同様のカプセルの実物を裁判員や判事に触れてもらい、その大きさを確認してもらっていた。
 27日の第6回公判で、野崎さんの遺体を解剖した県立医科大学法医学講座教授の医師が証人として出廷し、野崎さんの死因は、口から覚醒剤を摂取したことによる急性覚醒剤中毒だったと証言した。野崎さんの覚醒剤の血中濃度は指標の致死域と比べて2倍以上だったとも説明した。この点について、裁判員から「野崎さんの摂取は1回だったのか、複数回だったのか」という趣旨の質問があった。医師は「一気(1回)か、極めて近接した時間でないと、こうはならない」と答えた。医師はまた、野崎さんの腸の温度などから、死亡推定時刻を「午後8時から9時ごろが最も可能性が高い」と説明した。これに弁護側は、解剖医の計算には仮定の数値が用いられているとし、「推定に過ぎない」などと主張した。
 10月1日の第7回公判で、大阪市で覚醒剤の密売人をしていたという男性が検察側証人として出廷し、須藤被告に「覚醒剤4~5gを手渡した」とする状況について証言した。男性の証言によると、仲間の密売人のもとに注文が入り、この仲間を含む計4人で田辺市内まで車で届けに行った。男性は同市内の路上で車から降り、「パケ」と呼ばれる覚醒剤の小分けの袋が入った封筒を女性に手渡した。代金として10万~12万円を受け取ったという。当時、女性が「夫に知られないようにしている」と話していたとも証言。検察官が男性に須藤被告の写真を示すと、男性は「和歌山県内で接触した人物に間違いない」と述べた。弁護側は、売人が、去年5月までは、警察の調べに対し、自身が販売した覚醒剤が、本物だったかどうかについて供述していないと反論した。
 3日の第8回公判で、知人の紹介で野崎さんと知り合ったという女性が出廷。女性は、2018年4月27日~5月21日に計3回、東京都内で野崎さんと会い、都度、一緒に食事をしたという。最後に会ったのは野崎さんが飼っていた犬が死んだ後で、6月に県内で開くお別れ会に来てほしいと言われ、そのための20万円を振り込んでもらったという説明をした。「初対面で『結婚してほしい』と言われた」「『奥さん(須藤被告)と離婚したい』と言っていた」とも話した。
 同日、立命館大学情報理工学部教授の男性が出廷。教授は、建物内や地下街での位置情報を取得する技術(屋内測位)が専門で、須藤被告のスマートフォン内のヘルスケアアプリの記録について見解を述べた。二つのセンサーで歩行と階層を上がる行為を検知し、記録するというアプリの仕組みを説明した上で、事件当日午後の記録について「順調にデータが記録されており、信頼性は非常に高い」と語った。
 7日の第9回公判で、家政婦の妹が証人として出廷し、野崎さんが亡くなった日について「姉は午後4時前から7時半ごろまで私の家にいた」と語った。
 8日の第10回公判で、野崎さん宅の家政婦が検察官に説明した供述調書が読み上げられた。家政婦は重度の認知症だといい、この日は出廷しなかった。供述調書によると、被告は初対面の家政婦に対し、「野崎さんが死んだら遺産をもらえるのか」と質問。野崎さんと過ごす間も会話はなく、話しかけられてもほとんど返事をしないなどの態度をとっており、家政婦はこうした被告について、「(結婚の条件だった)月100万円のためだけに野崎さんと一緒にいる」と感じていた。野崎さんは周囲に若い女性との結婚を自慢したかったが結婚式や周囲への紹介も拒否され、「結婚した意味がない」と漏らすことも。被告に離婚届を突き付けて「お前とは離婚だ。悔しかったら破れ」と激怒し、事件直前には別の女性を気に入っていたとした。野崎さんが亡くなった日の5月24日の午後8時以降について「須藤被告はいつも2階にいるのに、この日はなぜか1階にいた。(野崎さんがいた)2階から『ドン』という音が聞こえたので、須藤被告が2階に来ないことを野崎さんが怒っていると思い、須藤被告に上がるよう言ったが、なかなか上がらなかった」と供述したという。
 同日、法医学が専門で薬毒物に詳しい川崎医療福祉大学副学長の男性が出廷した。「野崎さんは少なくとも1.82g以上の覚醒剤を経口摂取し、摂取から2~4時間で死亡した」との見解を示した。
 10日の第11回公判で、死亡当日に野崎さんと電話した「交際クラブ」経営の知人男性が、野崎さんに自殺する兆候は「ありませんでした」と証言した。男性は、野崎さんが須藤被告について「『帰ってこないので、正しい嫁じゃない』と話し、離婚したがっていた」と述べた。
 同日、女性が出廷。須藤被告から資金援助を受けたこと、そしてその後に須藤被告から返済を求められたことを明らかにした。
 11日の第12回公判で、野崎さんが経営していた会社で経理を担当した女性が出廷。野崎さんの死後、勤務実態がないのに被告が約3,800万円の役員報酬を受け取ったと証言した。
 15日の第13回公判で、野崎さんが経営していた会社で勤めていた男性が証人として出廷。「野崎さんは『別れるしかない』と言っていた」「覚醒剤で亡くなったと聞いて、信じられなかった」などと証言した。弁護人は、野崎さんが用心深い人で、他人から渡された物を簡単に食べたり飲んだりしない人だった点を男性に確認した。
 17日の第14回公判で、須藤被告の前に野崎さんの妻だった女性が出廷。女性は2002年から約10年間、野崎さんと婚姻関係にあり、30歳ほどの年の差があった。証言によると、野崎さんが違法薬物に手を出していた様子はなく、芸能人の覚醒剤使用が報じられると「こんなんなったら人間終わりやな」と話していたという。自殺の可能性も「考えられない」と否定した。また女性は「『離婚したい』とあいさつのように言う人だった。真に受けて家を出たら、『帰ってきてください』と言われた」と述べた。
 21日の第15回公判で、野崎さんと約20年前から交際していた女性が証人として出廷。女性は、野崎さんが亡くなるまでの約3年は頻繁に会っていて、泊まりがけで野崎さん方を訪れた際は、身の回りの世話などをしていたという。女性は野崎さんと会うたびにSEXをしたと証言。野崎さんは勃起をしていたなど、夜の生活について証言した。さらに「野崎さんは自殺を考えるような人ではない」「(一緒にいて)覚醒剤の使用を感じたことはない」などと証言した。一方、野崎さんが須藤被告と結婚した後の2018年3月ころ、突然電話で、ふざけている口調ではあったものの「覚醒剤やってるで、へへへ」と述べたことがあったと証言した。
 同日、医薬品などに用いるカプセルのメーカーの元技術開発部長の男性の証人尋問が行われた。一般の人が普通に購入できるのは、キャップ部とボディー部を組み合わせる「ハードカプセル」のうち胃で溶けやすい種類で、それが溶けるには「人の体温で5~10分以内」の時間がかかると説明した。大きさは全8種類で、二重や三重にしても、溶ける時間は変わらないと話した。
 24日の第16回公判で、野崎さんが経営していた会社で勤めていた男性が証人として出廷。野崎さんの死因が急性覚醒剤中毒だったことについて「健康に気を使う人だったので、(覚醒剤を)するか(使うか)と疑問に思った」と述べた。野崎さんの愛犬のお別れ会などの予定もあったため「自殺はないと思った」とも証言した。
 同日、野崎さん方で働いていた家政婦の妹を客として担当していた保険外交員の女性の証人尋問もあった。野崎さんが亡くなった日の午後5時ごろに家政婦の妹方を訪ねた際、この家政婦がいて、野崎さんの愛犬のお別れ会に来てほしいと頼まれたという証言をした。
 28日の第17回公判で、家政婦の娘が出廷。検察側から「家政婦が野﨑さんに覚醒剤を渡したり使用させたりして殺害に関与した可能性があるか」などと問われると、娘は「考えられません」と強く否定。その根拠として、覚醒剤を使用して有罪判決を受けた元夫のことを強く恨んでいたことや、経済的に困窮していたため職が無くなるようなことはしないためだと証言した。
 同日、野﨑さんが経営していた会社の元従業員の男性も出廷。須藤被告が男性に「(野﨑さんから)『アイラブユー』とか言われるけれどしんどい」などとラインで愚痴をこぼしていたことなどを話した。
 11月7日の第18回公判で、薬物密売人の男性が証人として出廷。同月7日に携帯電話に女性の声で覚醒剤3gの注文が入り、田辺市へ向かったことは認めたものの、封筒に入れたのは「偽物」と説明。インターネット掲示板で隠語を使って客を募集していたが、「当時は覚醒剤を入手できる人脈はなかった」と述べた。そして須藤被告へ受け渡しをした別の密売人が「被告に覚醒剤を渡した」とした証言を否定し、中身は「覚醒剤ではなく、氷砂糖だった」と述べた。そして検察側からの再尋問の途中、「検事さんにも言ったじゃん。そもそもシャブなんて飲めないって! オレ、舐めたことあるけどさ。無理だって!」と発言した。
 8日の第19回公判で、須藤被告への被告人質問が行われた。須藤被告は、野崎さんと初めて会った2017年12月10日に「結婚してください」と言われ、帯付きの100万円を受け取ったと語った。さらに「『遺産がきょうだいに行くのが嫌だから君にもらってほしい』と言われた」と述べた。被告は結婚の条件として、(1)田辺市で一緒に住まない(2)性行為はしない(3)毎月100万円-の3つを示した。野崎さんがそれを受け入れたため、結婚したと語った。後日、結婚について「田辺は田舎だから『こんなところには住めません』と言ったら、『月に1週間か10日くらい来てくれれば良い』と言われた」と語った。このほか、野崎さんは「女関係に文句を言ってくるな」とも言ったという。
 また被告によると、野崎さんとの結婚から2カ月後の2018年4月初旬ごろ、覚醒剤の購入を頼まれ、現金20万円を渡された。最初は冗談だと思って真に受けなかったが、野崎さんから「あれどうなったか」と催促されたため、インターネットの密売サイトで注文したと語った。被告は覚醒剤入りとされる封筒を野崎さんに手渡したと法廷で説明したうえで、「社長には『あれは使い物にならん。偽物や。もうお前には頼まん』と言われた」と語った。これ以降、覚醒剤についてやり取りしたことはなかったという。
 11日の第20回公判における被告人質問で、検索履歴について昔から殺人事件とかグロテスクな不気味な事件の動画を見るのが好きであったと語り、検索履歴について特別な理由はないと答えた。またこれまでの取材について「芸能人でもないのに勝手に写真を撮られてテレビや週刊誌で勝手に使われて、好きなことを言われた。この国のマスコミ、特に週刊誌ですけど、どうかしてるなと」と語った。
 検察側から野崎さんに覚醒剤を頼まれたことを捜査段階で説明しなかった理由を問われ、「自分が覚醒剤の購入に関わっているとは言えなかった。容疑者になっている中、覚醒剤を買おうとしていたと言ったら、余計に疑われると思った」と話した。犯行時間帯の間に、須藤被告が野崎さん方の1階から2階へ少なくとも8回行ったとされることについての質問もあった。須藤被告が公判で「日常茶飯事だった」と語った点について、検事は、直前の約1カ月間の記録と比較すると不自然に多いのではないかと質問。須藤被告は「多いなと思う」と答えた。検察側から野崎さんが死亡した理由について問われると「『死にたい』と言っていたので、自殺の可能性がある。(覚醒剤の)量を間違えたこともありうる」と述べ、殺人事件とは限らないとの認識を示した。
 15日の第21回公判における被告人質問で、検察側が野崎さんの死への感情を問うと、被告は「どちらかというと『無』。死体を見たのは初めてだからびっくりしました」と供述。一方で、弁護側の質問には「葬式の時に泣きました」と話し、「死に方を考えて欲しかった。このタイミングで死んだせいで、私は何年も人殺し扱い」と話し、殺害したとする起訴内容を否定した。裁判員も須藤被告に直接質問。被告は、覚醒剤を自宅で見たことはなく、野崎さんの遺産と月100万円もらえることとどちらが大事か問われると「目先の利益派なので、月100万円」と述べ、「遺産目当て」とする検察側の主張を否定した。
 18日の論告で検察側は冒頭、「殺人事件であること、被告人が犯人であることは十分に証明された」と語った。野崎さんが覚醒剤を摂取した時間帯について「野崎さんと須藤被告は2人きりだった」などと指摘し、犯人は須藤被告以外に考えられないと主張した。そして「被害者の命が奪われ、財産も奪われた結果は重大。反省の態度がなく、証拠を見て弁解を組み立てて話しているのは明らか」と指摘。また、事故や自殺だとすると偶然が重なりすぎていることに触れ、「須藤被告が犯人であれば行動が自然で、犯人でなければ行動が不自然になる」とした。そして「本件は被告が被害者に離婚されそうになり、離婚を免れるために遺産を得た事案。殺害の動機は、億を超える遺産を得ることであるのは明白です」と、遺産目的の殺人であることから強盗殺人と同程度だとして無期懲役を求刑した。
 同日の最終弁論で弁護側は、「覚醒剤は野崎さんから依頼されて入手したもので、野崎さんが使用した可能性もある」と行った。そして何でもスマートフォンで検索する須藤被告を「検索マン」と表現し、検察側が主張した検索履歴については「多数の検索ワードから事件に関係すると思うものを抜粋し、証拠として出しただけだ」と反論した。そして「どう飲ませるか。誰もが感じる疑問を、一切検索していない」と訴えた。さらに「溶かす手間がかかり、苦みもある覚醒剤を意思に反して摂取させることは困難だ。検察は被告が覚醒剤を飲ませたというが、具体的な方法を立証していない。どうやって飲ませたかの議論をせずに須藤さんが本当に飲ませたと言えるんですか」と指摘。須藤被告は野崎さんから毎月100万円を約束通りに受け取っており「野崎さんが死んでしまったら(被告は)困る。殺害に及ぶ必要性がない」と述べた。そして、直接証拠が出てきていないことについて、「うすい灰色をいくら重ねても、黒にはならない」と主張。「 検察側の証拠で「間違いない」と言い切れるのか。(須藤被告の犯行に)間違いないと言える立証はなされていないと言わざるを得ない」と改めて無罪を訴えた。
 最終意見陳述で須藤被告は、「弁護士が何度も言ってましたが、ちゃんと証拠を見て判断して頂きたいです。よろしくお願いします」と訴えた。
 判決で福島恵子裁判長は、覚醒剤は苦みがあるが、野崎さんは夕食時にビールを飲む習慣があり、食事に同席していた被告なら、苦みのあるビールに紛れて飲ませることなどは可能だったと認定した。しかし、「普段とは異なる行動をとっていたことを疑わせるが、被告が2階に上がった際、何をしていたか推測はできない。事件とは無関係の理由で2階に行っていた可能性も否定できない。1階と2階を行き来していた時間帯に、野崎さんに症状が表れておらず、被告が異変に気づかなかった可能性もある。異変に気づかなかったという被告の供述がウソでも、犯人と直ちに推測はできない」として、ヘルスケアのアプリ記録についても不十分とした。
 動機について、「野崎さんが死亡すれば、妻として億単位の遺産を相続できる。被告は財産目的で結婚したと認めており、殺害の動機となりうる。一方、離婚をめぐる野崎さんの行動は、被告に対し、自分の意に沿う行動をとらせる手段と見ることもできる。離婚などの恐れが具現化していたとは言えず、被告が殺害したと強く推認はできない」とした。
 事件前の検索履歴については、「覚醒剤の注文に関連したものと考えられるが、殺害を計画していなければあり得ないとは言えない。事件後の検索も、自身が犯人として疑われていたことによる不安などから検索した可能性がある。単なる関心で検索することもあり得る。検索自体が、被告の犯行を推認させるとは言えない」とした。
 被告が入手したとされる覚醒剤について二人の供述に価格や量に食い違いがあったことを指摘し、「被告に品物を渡した密売人は、中身が本物の覚醒剤と目で見て確認したと供述する。だが、暗い路上で明かりで照らしており、本物かどうかを確実に識別できたか疑問だ。注文を受けた密売人が供述するように、氷砂糖だった可能性もある」とし、「間違いなく覚醒剤であったと言い切れない」と指摘した。
 一方、自殺や事故の可能性については、「死亡当日に普段通り仕事をしていたことや生前の言動などから、野崎さんの自殺は考えられない。一方、人脈や行動範囲の広さから、覚醒剤の入手は不可能ではない。2階からポリ袋は見つかっていないが、1階で使用した可能性もある。生前、野崎さんが知人に「覚醒剤やってるで」などと電話した出来事からも、野崎さんが何かのきっかけで覚醒剤に興味を持ち、入手したことを完全に否定できるか疑問が残る」とした。
 以上の検討から、「被告による殺害を疑わせる事情はあるが、被告が野崎さんを殺害したと推認するには足りない。さらに消去法で検討しても、野崎さんが事件当時、初めて覚醒剤を使用し、誤って致死量を摂取して死亡した可能性がないとは言い切れない」として事件性を疑問視し、「被告が殺害したことについては合理的な疑いが残る」として無罪と結論付けた。
備 考
 須藤早貴被告は札幌市のキャバクラでアルバイトとして働いていた2015年3月~16年1月、別の男性(当時61)から3回、計約2,980万円をだまし取ったとして、2021年5月19日、詐欺罪で逮捕された。2024年9月2日、和歌山地裁(福島恵子裁判長)で懲役3年6月(求刑懲役4年6月)判決。須藤被告の無罪主張を退けたが、事件当時未成年であることが考慮された。控訴せず、確定。

 野崎さんは生前、遺言状を残しており、死後にその存在がわかった。遺言書は《いごん》《個人の全財産を田辺市にキフする》などと赤色サインペンで書かれており、署名と押印、2013年2月8日の日付があった。野崎さんが経営していた会社の元幹部が保管していた。田辺市によると、遺産は預貯金や有価証券などで総額13億円以上ともされた。ほかに評価額未定の土地、建物、絵画などもあるという。
 和歌山家裁田辺支部は2018年9月、この遺言書が形式的な要件を満たしていると判断。2019年10月、田辺市は相続を申し立て、受け入れ準備を進めていた。
 野崎氏には子供がいないため、民法上、遺産は妻である須藤被告が半分を受け取れる。市は遺産額が具体的に確定した後、洲崎被告と分割のための協議をするとしていたが、評価額が確定していない土地や建物があるため、額の確定に時間がかかっていた。
 野崎氏の実兄ら親族4人は2020年4月、手書きの遺言状は無効だと訴え和歌山地裁に提訴。遺言書はコピー用紙1枚に赤ペンで手書きされ、熟慮の末に作成したとはみられないなどと主張。2024年6月21日、和歌山地裁(高橋綾子裁判長)は「有効」とする判決を言い渡した。親族側は控訴した。
 須藤被告も最低限保障された遺留分を請求する権利がある。ただし、殺人罪で有罪の判決が確定すると、欠格事由に該当しその権利を失う。

 須藤被告は野崎さんの死亡後、経営していた会社の代表取締役を引き継いだ。野崎さんの会社の元監査役は2020年7月、全財産を田辺市に寄付するとした野崎さんの遺言書の存在を知りながら、金融機関に告げずに2018年9月、会社名義の口座から約3,830万円を自身の口座に送金するなどした、また代表取締役の就任時に法的手続きを取らずに代表取締役に就任したと詐欺容疑で告発。和歌山県警は告発を受理した。
 野崎幸助さんが生前に経営していた会社2社について、和歌山地裁は2021年9月21日付で破産手続きを開始した。21年8月に債権者から破産を申し立てられていた。
 和歌山県警は2022年3月4日付で須藤早貴被告、須藤被告と報道対応や遺産相続で契約を結んでいた弁護士3人、経営会社と契約関係にあった公認会計士の計5人について、野崎さんが経営していた会社の資金約5,000万円を共謀して搾取したとして、詐欺容疑で書類送検した。和歌山地検は4月6日付で不起訴処分とした。地検は「事実を認定するに足る十分な証拠が認められなかった」と説明した。

 検察側は控訴した。



【2024年 これまでの有期懲役、無罪判決】

氏 名
洲崎秀輝(55)
逮 捕
 2014年10月1日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、銃刀法違反、組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)
事件概要
 特定危険指定暴力団「工藤会」系組幹部の洲崎秀輝被告は、他の被告と共謀して以下の事件を起こした。
  • 〈自治総連合会長宅銃撃事件〉
     2010年3月15日午後11時13分ごろ、北九州市小倉南区で、工藤会の新事務所開設に反対して暴力団追放運動に取り組む自治総連合会長宅の勝手口から男性2人が拳銃を6発撃ち、寝室にいた会長(当時75)とその妻(当時75)夫婦を殺害しようとした。夫婦にけがはなかった。(殺人未遂、銃刀法違反) 洲崎被告は実行犯を担った。
  • 〈建設会社会長殺人事件〉
     2011年11月26日午後9時過ぎ、北九州市小倉北区で、型枠工事会社会長の男性(当時72)の自宅前路上で拳銃を2発撃ち、うち1発を首に命中させて失血死させた。(殺人、銃刀法違反) 洲崎被告は送迎役を担った。
     会長は同市周辺の型枠工事業者で作る団体の会長を務めるとともに、暴力団排除活動をしていた。
  • 〈飲食店経営者女性他刺傷事件〉
     2012年9月7日午前0時58分、北九州市小倉北区のマンション敷地内駐車場で、男がタクシーで帰宅したスナック経営の女性(当時35)に殺意を持って持っていた刃物で複数回切りつけ、女性の左顔面を切りつけ、臀部を1回突き刺して約4か月の重傷を負わせた。さらに男は、女性を助けようとしたタクシー運転手の男性(当時40)を殺意を持って切り付け、首や左手などに重傷を負わせた。(組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)) 洲崎被告は見張り役を担った。
     女性は2006年ごろに別のスナックを経営を始めたところ、田中組組長であった菊池被告から要求を受け、みかじめ料として月5万円を支払ったり、菊池被告に誕生日プレゼントなどを渡していた。2010年2月から飲食店ビルBの3Fで別のスナックの経営を始めるにあたり、知人である別の工藤会系暴力団の組員に組員を一切入れないよう依頼し、みかじめ料を支払った。そして田中組にはみかじめ料の支払いを止め、田中組組員の来店を断った。また菊池被告が直接来た時も退席を促すような接客をさせた。
     被害者の女性は、標章ビル放火事件で標章などに赤スプレーを吹き付けられている。
  • 〈飲食店経営会社役員男性刺傷事件〉
     2012年9月26日午前0時38分、北九州市小倉北区のマンション敷地内で、帰宅した飲食店経営会社役員の男性(当時54)の腰などを刃物で3回刺し、左臀部や右大腿部に重傷を負わせた。(傷害) 洲崎被告は送迎役を担った。
     男性は福岡県暴力団排除条例の改正に基づき、福岡県が2012年8月から始めた繁華街からの暴力団排除を目的に、暴力団排除特別強化地域で営業する飲食店等に「暴力団員立入禁止」等と記載知れた所定の標章を店に掲示していた。男性の兄は暴力団追放運動を実施していた会の副会長であり、標章制度を推進する活動を行っていた。男性は転居し、店から標章を外した。
  • 〈看護師刺傷事件〉 ※本事件では無罪判決
     2013年1月28日午後7時4分頃、福岡市博多区の歩道で、黒いニット帽にサングラスをかけた男が、北九州市小倉北区の美容整形医院から帰宅中だった看護師の女性(当時45)を後方から殺意を持って刃物で数回切り付け、顔などに重傷を負わせた。(組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)) 洲崎被告は見張り役を担った。
     被害者が勤務していた美容整形医院で下腹部の手術を受けた野村被告が、術後の経過や被害者の対応に不満や怒りを抱いての犯行。
 2014年10月1日、看護師刺傷事件の組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)容疑で逮捕。2015年2月16日、歯科医師刺傷事件の組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)容疑で再逮捕。2017年1月19日、建設会社会長殺人事件の殺人他容疑で再逮捕。6月2日、飲食店経営者女性他刺傷事件の組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)容疑で再逮捕。
裁判所
 福岡地裁 伊藤寛樹裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2024年1月18日 懲役30年
裁判焦点
 裁判員裁判の対象から除外された。
 2021年7月19日、「自治総連合会長宅銃撃事件」の初公判で、洲崎秀輝被告は起訴内容について「黙秘します」などと述べ、弁護側は争う姿勢を示した。初公判では瓜田太被告、中西正雄被告と共同であり、両被告も黙秘した。
 検察側は冒頭陳述で、瓜田被告が銃撃準備の指示や被害者の行動確認をし、中西被告が銃撃して、洲崎被告が運転するバイクで逃走したと指摘した。
 事件では同会関係者8人が起訴され4人が既に有罪判決を受けたが、その1人で同会を離脱した元組員が3被告も絡んだ事件の指示や状況を供述しており、その信用性が主な争点。瓜田、洲崎両被告の弁護人は冒頭陳述で「元組員の供述には問題があり(証拠として)採用できない」と主張し、中西被告の弁護人も「元組員の証言は信用できず中西被告は事件に関与していない」と無罪を訴えた。
 その後分離された。

 新たに瓜田太被告、IT被告、洲崎秀輝被告との共同審理となった。
 2022年1月17日の初公判で、3被告は全ての起訴事実について争うと、起訴事実を否認した。
 検察側は冒頭陳述で、各事件の動機について、野村被告が看護師に不満を持っていたことや、暴力団排除に取り組む市民らへの見せしめが目的だったと主張した。
 その後、洲崎被告は分離された。
 2023年7月20日の公判における論告で検察側は、一連の事件が工藤会の意に沿わない市民への見せしめや組織の利益維持などが目的だったと主張。洲崎被告は射殺事件では実行犯の送迎役、自治総連合会長宅銃撃事件では実行役を務めるなど重要な役割を担ったとして、「市民が標的となる事件を2度と発生させないためにも、厳罰をもって臨み、犯行が割に合わないことを知らしめる必要がある。生涯にわたって償いの日々を送らせるほかない」と述べた。
 10月19日の最終弁論で、弁護側は「射殺事件では、被告は何が起きるか分からないまま実行犯をバイクに乗せただけだ」と主張した。その上で「実行犯には殺意はない。また、被告は実質的な連絡をしてないことから、共謀は認められない」と述べ、5つの事件すべてで無罪を主張した。
 判決で伊藤裁判長は、工藤会のほかの組員の供述から洲崎被告が実行犯を乗せたバイクの運転手をしたことを認定するなど、4つの事件について洲崎被告の関与を認定。しかし〈看護師刺傷事件〉では洲崎被告が当日、野村被告の自宅の警護にあたっていたことから「被告に任務の分担があったとの認識には至らない」として、無罪とした。そして「拳銃発射や刃物によって6人に被害がおよび、うち1人は死亡した悪質な犯行。被告は実行犯またはその補佐役などとして積極的に関与した。組織的、計画的に行われた悪質な犯行への関与を繰り返していた」と指摘した。
備 考
 

氏 名
元少年(27)
逮 捕
 2020年11月9日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗致死、窃盗、風営法違反、傷害、窃盗未遂、犯人隠避教唆、道交法違反、過失運転致傷
事件概要
 茨城県ひたちなか市の無職の元少年(事件当時19)は、水戸市の解体業、内田潤被告は共謀。2016年2月1日午前3時から同5時45分ごろまでの間、城里町の資材置き場で積まれていた銅線などを盗むためトラックに載せていた際、敷地内に住む銅線やアルミを扱う古物商の男性(当時77)に見つかったため、男性の頭や顔を殴り、首を両手で締め、顔や両手首に粘着テープを巻き付けるなどして死亡させ、銅線など約6トン(計108万円相当)を奪った。
 内田被告は当時1人で解体業を営んでおり、男性とは資材の売買といった取引を通じた面識があった。元少年は、内田被告の下で働いていたことがあった。
 1日朝、男性の妻が男性の遺体を発見した。
 県警は2020年10月、内田被告ら2人が男性殺害の数時間前に水戸市内の建設会社からコンテナ1台(約6万円相当)を盗んだとして窃盗容疑で逮捕。盗んだコンテナが男性殺害後の敷地内に残されていたことから、捜査本部は慎重に裏付けを進めた。
 捜査本部は11月9日、別の事件で服役中だった内田被告と、別の事件の傷害罪などで公判中だった元少年を強盗殺人の容疑で逮捕。水戸地検は2人を強盗致死罪で起訴した。同地検は罪名変更の理由を明らかにしていないが、殺意の認定が困難と判断したとみられる。元少年は逮捕時に成人だったため、20歳未満が対象の少年法ではなく、成人と同じ刑事訴訟法の手続きが適用されて裁判員裁判で審理される。
裁判所
 東京高裁 安東章裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2024年4月17日 懲役27年(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 被告側は強盗致死に関して無罪を主張したが、裁判長はすべて退けた。
備 考
 内田潤被告は2022年2月16日、水戸地裁(小川賢司裁判長)の裁判員裁判で求刑無期懲役に対し、一審懲役30年判決。判決は、被害者の首を両手で絞め、顔などに粘着テープを巻き付けるなど、「死因となった暴行を加えたのは共犯者」と認定した。2023年8月30日、東京高裁で一審破棄、懲役28年判決。地裁判決後、遺族に1千万円を弁償した点などを考慮した。2023年11月29日、被告側上告棄却、確定。

 2022年12月14日、水戸地裁で求刑無期懲役に対し、一審懲役27年判決。

氏 名
松川雄太郎(28)
逮 捕
 2022年12月7日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗致死、銃刀法違反
事件概要
 住所不定無職の松川雄太郎被告は2022年11月19日午後7時45分ごろ、金を奪う目的で宮城県桶谷町に住むハウスクリーニング業の男性(当時64)方を訪れ、インターホンを鳴らして玄関に出てきた男性に牛刀を突き付けて現金を要求。もみ合いになり、松川被告は男性の左脇付近などを切りつけた。
 男性と同居していた女性から消防に連絡。男性は病院に運ばれたが、出血性ショックで死亡した。
 男性は2007年から清掃業を営んでいた。松川被告は2015年から大崎市を中心に清掃業を営み、男性の仕事を受けたことがあった。
 松川被告は女性の通報を知り、車で逃走。警察は現場周辺の防犯カメラやドライブレコーダーの解析などを進め、松川被告を特定。12月7日、殺人容疑で逮捕した。また松川被告に車を貸し、アパートに泊めさせていた友人の男性も犯人隠匿容疑で逮捕した。  仙台地検は12月28日、強盗致死と銃刀法違反容疑で起訴した。男性に対する殺意は認定しなかった。
裁判所
 仙台高裁 渡邉英敬裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2024年5月23日 懲役28年(一審破棄)
判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
裁判焦点
 2024年4月18日の控訴審初公判で、弁護側は、強盗致死などの罪を認める一方、もみ合いになった際に刺さったもので積極的な加害行為はなかったとして減軽を求めた。検察側は控訴棄却を求め、即日結審した。
 判決で渡邉英敬裁判長は、「計画的で利欲的な動機に酌量の余地はない」と非難した。しかし、「犯行時、被告は被害者からタックルを受けるなどしていて、これらの行為は被告にとって想定外だった。被害者からタックルを受けるなどの反撃をされた際に、被告人が包丁を持ち続けたことだけを指摘して、『刺した』とする認定は是認することができない。あくまでも強盗を遂行する中で、被害者を脅迫する手段として包丁を示すことを意図していたものであり、包丁は被害者とのもみあいにより刺さった可能性が高く、当初から被害者を包丁で刺すなどして身体に重大な危害を加える意図があったことや積極的な加害行為は認められない」と指摘。「被害者に意図的に包丁を向けた場合に比べて、非難の程度は小さい」として一審の判決を破棄した。
備 考
 松川雄太郎被告へ逃走中に車を貸し、逃走中の松川被告をアパートに宿泊させて匿ったほか、包丁や目出し帽を被告が働く建設現場に埋めたとして、犯人隠避、犯人蔵匿や証拠隠滅の罪に問われた仙台市の会社員の男性は2023年4月25日、仙台地裁で懲役1年6月執行猶予5年の有罪判決(求刑懲役1年6月)。男性と松川被告は小・中学の同級生だった。

 2023年10月25日、仙台地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役。被告側は上告した。

氏 名
佐々木誠(59)
逮 捕
 2023年5月27日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、銃刀法違反(発射、所持)
事件概要
 神奈川県愛川町の職業不詳、佐々木誠被告は2023年5月26日午後7時35分ごろ、JR町田駅に隣接するビル内の喫茶店に入り、中にいた名古屋市の山口組系暴力団組幹部の男性(当時51)に拳銃を発砲。組幹部は店外に逃げたが、佐々木被告は追いかけ、さらに発砲。銃弾を合計6発発射し、3発を命中させて殺害した。
 佐々木被告は組幹部から数百万円の金を借りていた。組幹部は佐々木被告から投資でもうかるので返すと聞かされていたが、返済がないので直談判するために東京へ来ていた。
 佐々木被告は同日、神奈川県警に出頭すると電話し、午後11時半ごろに伊勢原署を訪れた。警視庁暴力団対策課は27日午前0時55分ごろ、拳銃を所持したとする銃刀法違反(所持)容疑で現行犯逮捕した。6月16日、殺人と銃刀法違反(発射)容疑で再逮捕した。
裁判所
 東京地裁立川支部 杉山正明裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2024年11月18日 懲役28年
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2024年11月6日の初公判で、佐々木誠被告は起訴事実を認めた。
 検察側は冒頭陳述で、佐々木被告は投資目的で男性から金を預かっていたが、返金を求められていたという。また、佐々木被告が逃げる男性を追いかけて発砲するなどしたことに、「犯行態様が悪質だ」と主張した。
 判決理由で杉山正明裁判長は「拳銃という極めて殺傷能力の高い凶器を使用し、犯行は危険極まりない悪質なものだ」と指摘。喫茶店内にいた組幹部に向けて発砲しており「店内にいた者に与えた恐怖感や不安感は大きかった」と述べた。さらに「金銭トラブルの相手を殺害して解決を図ろうとすることが許されるはずもない」とした上で、被告が自首したことなどを踏まえ、有期懲役刑を選択した。
備 考
 




※最高裁ですと本当は「判決」ではなくて「決定」がほとんどですが、纏める都合上、「判決」で統一しています。


【参考資料】
 新聞記事各種

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