What's New! 2月16日、東京地裁は藤田聖也被告に求刑通り一審無期懲役判決を言い渡した。
| 地裁判決(うち求刑死刑) | 高裁判決(うち求刑死刑) | 最高裁判決(うち求刑死刑) |
|---|---|---|
| 2(0) | 1(0) | 1(0) |
| 氏名 | 藤田聖也(41) |
| 逮捕 | 2023年2月7日 |
| 殺害人数 | 1名 |
| 罪状 | 強盗致死、強盗傷人、強盗致傷、強盗未遂、強盗予備、住居侵入、窃盗、詐欺他 |
| 事件概要 |
特殊詐欺事件でフィリピン・マニラ市郊外のビクタン収容所に入っていた広域強盗、特殊詐欺組織の幹部・藤田聖也(としや)被告は、2022年5月から2023年1月まで、「ルフィ」と名乗る男らが指示したとされる全国各地で発生した広域強盗事件のうち、「キム」などの名前を使い、指示役他の役割で4件の特殊詐欺事件と以下の7件の強盗事件に関与した。
|
| 裁判所 | 東京地裁 戸苅左近裁判長 |
| 求刑 | 無期懲役 |
| 判決 | 2025年2月16日 無期懲役 |
| 裁判焦点 |
裁判員裁判。 2026年1月26日の初公判で藤田聖也被告は、特殊詐欺について起訴内容を認める一方、7件の強盗事件については事件への関与を認めた上で、「凶器で暴行を加える指示はしていない」と一部を否認。弁護人は「藤田被告の役割に照らし、共同正犯ではなく、ほう助犯にとどまる」と主張した。 冒頭陳述で検察側は、藤田被告が2019年9月フィリピンに渡航し、リーダー格の渡邉優樹被告が率いる特殊詐欺組織にリクルーター役として加入したと指摘。同年11月にフィリピン当局に拠点が摘発され、2021年春までに拘束されて他の幹部らとともに入管施設に身柄が移されると、別の幹部小島智信被告から紹介された強盗の実行犯らに対し、収容先の入管施設から匿名性の高い通信アプリ「テレグラム」を通じて指示を出し、被害者から現金など1億円超を奪ったとした。「犯罪の遂行に重要な役割を果たしており、共同正犯は成立する」と訴えた。 一方、弁護側は「渡邉優樹被告、今村磨人被告に指示されるまま関与した。暴力事件などが絶えない収容所内で身を守るには日本人の集団に加わることが最も安全で、幹部らが言い出した強盗計画に反対する選択肢はなかった」と主張した。 冒頭陳述の後、特殊詐欺事件に関する弁護人からの被告人質問が行われた。 2月2日の公判では、一連の強盗事件に対する被告人質問が行われた。藤田被告は強盗に加担したとされる理由について「『全体に指示が行き渡るように犯行中に実行役と電話をつないでほしい』と今村被告に言われた」と説明した。また、渡邉被告のことは裁判中も「ボス」と呼び、「ボスからも『それくらいできるでしょ』と言われ指示をするようになった」と述べた。弁護側から「一連の強盗事件に積極的に関与しているように見える」と問われると、「フィリピンのビクタン収容所では、グループからはじかれると生きていくのが大変。組織と違う方向を向いたり、『嫌だ』と言える環境ではなかった。ボスには逆らえず、やるしかないと思っていた。臆病かも知れないが、死にたくなかった」と話した。 この日は〈狛江市強盗致死事件〉他の事件で実行役として無期懲役が確定している永田陸人受刑者が証人として出廷。永田受刑者は、藤田被告から「狛江事件の後、『次は殺さないで下さいね』と言われた」と当時のやり取りを明かしました。また、「犯行中は通話中で、すべてを把握していたはず」と証言した。 3日の公判でも藤田被告への被告人質問が行われた。藤田被告は一連の事件を振り返って「後悔と反省、無念さしかありません」と話した。一方で〈狛江市強盗致死事件〉については「金庫をこじ開けるためにバールが必要となっていたが、暴行に使うという話は一切でていない」「そもそも大けがさせたり暴行する目的で行っていない」と述べた。さらに永田受刑者の証言については、つないでいた携帯電話の電波状況が悪かったと説明したうえで、「現場で何が起きているか把握できなかった」として、亡くなった女性に対する暴行などへの関与を否定した。そして実行役から倒れている女性の写真が送られてきたことを明らかにした上で、「疲れて寝ているのかと思った」「もともと暴行する予定はなく、まさかバールでやっているとは思っていなかった」などと話し、「怖い思いをさせたと思う。本当に申し訳ない」と謝罪の言葉を述べた。 5日の論告求刑で検察側は、「匿名性を徹底する新たな犯行態様で、悪質性が突出している」と指摘した。その上で、東京・狛江市で90歳の女性がバールなどで殴られて死亡した強盗致死事件について、藤田被告が暴力的な実行役を使い続けたことをあげ「凶悪な犯罪グループを形成し、被害者の死亡に大きく関与した」と指摘した。そして「自らの手は汚さず、お金に困った若者を実行役として使い捨てにし、多額の利益を得ていた」「過去に例のない凶悪な事件だ」と批難。実行役に被害者の情報や犯行計画を伝えていたことなどから、「全ての事件で計画の段階から関与し、実行役に指示を出す司令塔として重要な役割を果たした」と述べた。 同日の最終弁論で弁護側は、「暴力が日常となっているビクタン収容所で、ボスである渡邊被告に『嫌だ』というのは著しく困難だった」と犯罪に強制的に加担させられてしまったと指摘した。また、一連の事件で報酬をもらっていないことからほう助犯にとどまるとして、有期刑が相当だと主張した。 最終意見陳述で藤田被告は、被害者たちに謝罪し、「お金に困って闇バイトや犯罪に手を染めようとしている人は大切な人のことを思い出して、失うものの大きさを考えて思いとどまってほしいと思います」と述べた。 判決で戸苅左近裁判長は、一連の強盗事件について「匿名性が徹底された遠隔操作による組織的な広域連続強盗という、新たな犯罪類型の先駆けだ」と批難した。永田受刑者の証言について「永田受刑者の供述内容は事実経過と合っている。(永田受刑者は)すでに自身の刑が確定して、嘘をつく動機も見当たらないことも踏まえると、その供述は信用できる」と、その信用性を認めた。また渡邉被告との関係について、「旧知の間柄で、両者の間には一定の上下関係があったものと認められるものの、お互い信頼し、利用し合う関係にあったといえる。他の幹部以上に距離が近く、強制されたのではなく自らの意思で渡邉と行動をともにすることを選択し、その結果として侵入強盗事件に関与するに至っている」と述べた。 そして藤田被告の役割について、秘匿性の高いメッセージアプリ「テレグラム」のチャットや通話機能を通じ、実行役に対し積極的に暴行するよう指示しており、バールなどが凶器として使われる可能性を認識していたなどとして、「(被害者の死亡などの)重大な結果の発生に大きな影響を与えた」と認定。「実行役を確保し、犯行時に詳細で的確な指示を出し、鼓舞したり、ほめたりしながら、面識のない実行役を束ねてコントロールして犯罪を実現させており、侵入強盗を成功させる上で必要不可欠かつ重要な役回り重要な役割を果たした」として、「共同正犯が成立する」と指摘した。 さらに藤田被告らが検挙される危険性の低い海外から指示を出していたことについて「自らの手を汚さず指示を出して強盗を実行させ、生身の人間に残忍な暴行を加えているという現実感や抵抗感がないまま犯罪を継続していった。金品獲得に執着して人命を軽視し、犯罪をエスカレートさせており、厳しい非難が妥当する」とした。一方で、量刑判断には、指示役の役割などを捜査機関に供述し、事件の実態解明に貢献したことを考慮したと述べた。 |
| 備考 |
各事件の概要と、共犯者を含む【ルフィ広域強盗事件】の判決結果は、【ルフィ広域強盗事件】参照。 |
| 氏名 | 村上航希(28) |
| 逮捕 | 2023年12月21日 |
| 殺害人数 | 1名 |
| 罪状 | 殺人、殺人未遂、住居侵入、窃盗 |
| 事件概要 |
倉敷市に住む自動車のガラスの販売会社取締役の問田(といた)直孝被告は、父親が社長、母親が取締役であるガラス販売会社を乗っ取るために両親の殺害を計画。岡山市などの異業種交流会のメンバーとして知り合った岡山市の紳士服仕立業、村上航希被告と共謀。村上被告は報酬600万円で殺人を請け負い、前金150万円を受け取った。 2023年12月2日午後3時5分ごろ、村上航希被告は問田直孝被告が事前に鍵を開けておいた玄関から両親宅に侵入。午後6時15分ごろ、外出から帰宅した両親を、両親宅にあった包丁で襲撃。父親(当時57)を殺害し、母親(当時50)に横隔膜損傷や肝損傷など全治1か月の重傷を負わせた。問田被告は現場にはいなかった。長男であった問田被告は喪主を務め、13日に代表取締役に就任した。 午後7時25分ごろ、母親か玉島署に通報。岡山県警は21日、母親への殺人未遂容疑で問田被告、村上被告を逮捕。2024年1月11日、父親への殺人容疑で再逮捕した。2月1日、両親宅から室内にあった財布3点とスマホケース(計1万8千円相当)財布を盗んだとして、村上被告を窃盗容疑で追送検した。 |
| 裁判所 | 広島高裁岡山支部 菱田泰信裁判長 |
| 求刑 | 無期懲役 |
| 判決 | 2026年1月14日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
| 裁判焦点 |
2025年11月5日の控訴審初公判で、村上航希被告側は問田直孝被告に利用された、動機は報酬目的ではなく恨みによる犯行などと主張し、「量刑が不当で、有期刑が相当」と主張。検察は一審判決は妥当だとして控訴棄却を求め、即日結審した。 判決で菱田泰信裁判長は、「人の生命を金銭獲得の手段としている」と、犯行の主たる動機は報酬目的と改めて指摘。実行役を自ら申し出て、全て単独で行ったと認定して「同種事案の中で最も重い部類に属するとした一審判決に誤りはない」と述べ、無期懲役は相当だとした。 |
| 備考 |
問田直孝被告は事件への関与を否認していて、裁判の予定はまだ決まっていない。 2025年6月25日、岡山地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。 |
| 氏名 | 田中治樹(53) |
| 逮捕 | 2022年2月11日 |
| 殺害人数 | 1名 |
| 罪状 | 強盗殺人 |
| 事件概要 |
釧路市の会社員、田中治樹被告は2016年1月14日午後5時30分~同6時ごろまでの間、釧路市に住む伯母(当時80)の頭部を鈍器のようなもので数十回殴打し脳挫傷により死亡させ、現金約20万9,000円を奪った。 翌15日、参加予定の老人クラブの会合に伯母が来なかったことから、心配した友人が午後4時ごろに訪ね、頭部にビニール袋をかぶせられた状態で自宅で倒れているのを発見した。 事件直後から田中被告は捜査線に浮上し、複数回にわたって任意聴取を受けていた。 事件から6年後の2022年2月11日、道警は田中被告を強盗殺人の容疑で逮捕した。 |
| 裁判所 | 最高裁第一小法廷 堺徹裁判長 |
| 求刑 | 無期懲役 |
| 判決 | 2026年1月9日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
| 裁判焦点 | |
| 備考 | 2024年3月4日、釧路地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2024年7月16日、札幌高裁で被告側控訴棄却。 |
| 氏名 | 山上徹也(45) |
| 逮捕 | 2022年7月8日(現行犯逮捕) |
| 殺害人数 | 1名 |
| 罪状 | 殺人、銃刀法違反(発射、加重所持、複数所持)、武器等製造法違反(無許可製造)、火薬類取締法違反(同)、建造物損壊 |
| 事件概要 |
奈良市の無職山上徹也被告は2022年7月8日午前11時半ごろ、近鉄大和西大寺駅北口で参院選の応援演説中だった安倍晋三元首相の背後から手製の銃を2回発射し、左上腕部などに命中させた。安倍元首相は同日午後5時ごろ、搬送先の病院で死亡した。死因は失血死だった。銃は金属のパイプ2本を束ねたもので、山上被告は金属製弾丸の発射に用いる火薬もインターネットの情報を基に自身で調合していた。 山上被告は銃撃直後に殺人未遂容疑で現行犯逮捕された。奈良県警は殺人容疑に切り替えて山上被告を地検に送検。2023年1月6日、手製の銃で発砲したとする銃刀法違反(発射、加重所持)容疑でも追送検した。 奈良地検は2023年1月13日、山上徹也被告を殺人と銃刀法違反(発射、加重所持)の罪で起訴した。約5カ月半の鑑定留置を踏まえ、心神喪失などの状態にはなく刑事責任能力を問えると判断した。 奈良県警は2023年2月13日、無許可で銃を製造したとする武器等製造法違反(無許可製造)や火薬類取締法違反(同)、銃刀法違反(複数所持、加重所持など)、事件前日に世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の関連施設に向けて手製銃を試し撃ちしたとするの建造物損壊の容疑で追送検した。 奈良地検は3月30日、山上徹也被告を建造物損壊、銃刀法違反、武器等製造法違反、火薬類取締法違反の罪で追起訴した。 |
| 裁判所 | 奈良地裁 田中伸一裁判長 |
| 求刑 | 無期懲役 |
| 判決 | 2026年1月21日 無期懲役 |
| 裁判焦点 |
裁判員裁判。 2025年10月28日の初公判で、山上徹也被告は「全て事実です。私がしたことに間違いありません。法律上どうなるかは弁護士に任せます」と述べた。弁護側は、銃刀法違反の発射罪は成立しないと主張した。また、殺人罪の成否や刑事責任能力の有無は争わない方針を示した。 検察、弁護側の冒頭陳述で、山上被告が4歳のときに父親が自殺。1つ年長の兄は頭部に腫瘍があり、事故で片目の視力を失った。母親は1991年、心の救いを求めて旧統一教会に入信。父の生命保険金から翌年までに計5千万円を教団に注ぎ込み、さらに不動産を売却するなどして1998年ごろまでに総額で約1億円をささげた。 一家は困窮し、同居していた祖父と母親のいさかいが絶えなくなる。被告は2000年に高校を卒業したが、大学進学を断念。2002年に海上自衛隊に入隊した。母親は祖父の死後も相続財産を売り払い、教団にさらに献金したため自己破産することに。被告は自衛隊になじめず、世の中に嫌気がさして2005年に自殺を図ったが、未遂に終わった。2006年には、旧統一教会側と母親との間で献金の一部を返金することを合意。計5千万円を月々数十万円程度の分割で返金するとの内容で、被告も毎月約10万円を受け取っていた。2012年に通信制大学に入学するも、約1年で除籍。派遣社員などの職を転々とした。自分自身が思い描いていたような人生を送れず、それは旧統一教会が原因だと考えるようになり、旧統一教会への恨みを募らせていった。被告が35歳だった2015年に、多額献金などを恨んでいた兄が自殺。教団に人生を翻弄されたと感じ、恨みを募らせるようになった。 山上被告は旧統一教会への恨みをさらに募らせ、統一教会の最高幹部(韓鶴子総裁)を殺害しようと考えた。2019年10月、来日中の韓総裁を火炎瓶で襲撃しようと愛知県に行ったが断念した。これを受けて、より確実に殺害するには拳銃が必要だと考え、2020年10月に拳銃の入手を試みたものの、失敗。銃を自作するしかないと考え、同年12月以降、手製パイプ銃や黒色火薬などの製造を始めた。 山上被告は、インターネットのサイトを参考に、弾丸を発射する仕組みの手製パイプ銃を製造することを計画。ホームセンターやインターネット通販で材料を購入した。パイプ銃を延べ約10丁製造。一部は解体され、現存するのはそのうち7丁。2021年12月~2022年6月、奈良市内の山中にある資材置場でベニヤ板に向けて発射し、その様子を動画で撮影した。2~3メートルの距離から発射し、厚さ20~30ミリのベニヤ板を貫通する威力があることを確認した。 山上被告は2022年6月ごろ、当時の勤務先を退職して無職となった。金銭に余裕がある早期のうちに襲撃を実行しなければ、生活が行き詰まってしまうので、それまでに旧統一教会の最高幹部の襲撃を実行しなければならないと考えた。 検察側は冒頭陳述で、山上被告は教団トップを襲撃しようと計画するも、新型コロナウイルス禍などで来日の見通しが立たず、断念したと指摘した。その後、安倍氏が教団の関連団体にビデオメッセージを寄せていたことを知り、安倍氏と教団には関係があると考えていた被告は「非常に著名な安倍氏を対象にすれば、旧統一教会に注目が集まり、批判が高まる」などと安倍氏に狙いを定めたと主張。 山上被告は安倍氏銃撃後、それが旧統一教会に関連したものであることを世間に明らかにするため、教団関連施設が入るビルの銃撃を計画した。 (事件前日の)7月7日午前4時ごろ、パイプ銃で1回発射し、ビルの外壁などに命中させて損傷させた。同日、安倍氏を銃撃するため、パイプ銃をバッグに隠して新幹線などを乗り継ぎ、岡山県内で行われた応援演説の会場へ行った。しかし、安倍氏に近付くことができず、銃撃することができなかった。その日の夜、岡山から帰宅する途中でインターネットを閲覧し、翌7月8日に奈良市内の近鉄大和西大寺駅前で応援演説を行うことを知り、その際に銃撃することを決意した。 事件当日の7月8日、被告はパイプ銃をバッグ内に隠し、自宅から電車で駅まで行き、午前10時ごろから、付近のビルや路上から現場付近の状況を確認し、犯行の機会をうかがった。午前11時半ごろ、安倍氏の死角となるロータリーから背後に歩み寄り、まず、後方約6・9メートルから散弾1発を発射。さらに安倍氏へ歩み寄り、振り向いた安倍氏に対し、約5・3メートルから散弾1発を発射した。 そして「聴衆らに被害が出てもおかしくない犯行。前例を見ない、極めて重大な結果、社会的反響をもたらした」と批判した。また、事件の重大性を踏まえ、被告の生い立ちが刑を大幅に軽くするものではないと述べた。 弁護側は冒頭陳述で、被告は兄の自殺をきっかけに復讐心から韓国の教団総裁らを襲撃するほかないと考えた。総裁らが新型コロナウイルス禍で来日しないため断念し、教団に親和的な政治家にターゲットを変更と指摘。安倍氏が教団の友好団体にビデオメッセージを寄せたことを知り、「教団が大きく活動できているのは、有力政治家が親和的な姿勢を見せているからだ」と考え、安倍氏銃撃を決めたと説明した。また、母の教団入信後、子供たちを置いたまま教団本部がある韓国に向かうこともあり、そんな母親を同居していた祖父は激しく責めた。信仰を巡って家庭内で両者がぶつかりいさかいが絶えなかったとし、「子供たちの平穏な家庭生活は失われた」として、被告の生まれ育った環境を「宗教的虐待に当たる」と主張。量刑を判断する上で十分考慮されるべきだとし、手製銃については、威力面などから銃刀法の発射罪が規定する「砲」には当たらないと反論。武器等製造法違反と、公共の場での拳銃や砲の発射を禁ずる銃刀法違反(発射)は無罪だと訴えた。 10月29日の第2回公判から11月6日の第6回の公判では、事件当日に安倍氏のそばにいた佐藤啓参院議員や警察官ら計6人の証人尋問が行われた。 事件現場を捜査した警察官は、安倍氏の周辺にいた関係者の髪の毛が銃撃の瞬間にはね上がり、「自民関係者や聴衆に弾丸が当たっていた可能性がある」と明かしたほか、自宅を捜索した警察官は、複数の殺人に関する書籍や自民党のパンフレットが見つかったことを挙げ「テロリストのアジトのよう」と表現した。 さらに、銃の鑑定を行った科学捜査研究所の職員は、再現実験の結果、弾丸が50センチ間隔で置いた厚さ4ミリのベニヤ板4枚を貫通し、「弾丸は全てにおいて発射可能で、人畜を殺傷する能力があった」と説明。司法解剖を担当した医師は、安倍氏が「ほぼ即死に近い状況だった」と証言した。 11月13日の第7回公判で、検察側は安倍氏の妻昭恵さんの心情をまとめた2023年8月付の上申書を読み上げた。昭恵さんは「ただ、生きていてほしかった。長生きしてほしかった」とつづった。 同日午後から18日の第18回公判で、山上被告の母親が弁護側証人として出廷。母親が被告の兄の病気などで心を痛め旧統一教会に入信し、1億円に及ぶ献金をしていたことが明らかになった。献金の元手は夫の生命保険や、祖父の遺産。当時は「子どもたちの将来よりも献金が大事だと思っていた」と打ち明ける一方、「利用したのは教会のほう。本来の宗教は、貧しくても心が豊かになるようにするのが本来の姿。それを私ははき違えていた」と後悔を口にした。 今も旧統一教会を信仰しているかを問われると、「はい」と答えた上で、「籍はあるが、教会には行っていない」と答えた。 第18回公判から19日の第19回公判で、山上被告の妹が出廷。妹は、自身や被告が母親の献金によって祖父から何度か家を閉め出されていたとして「(祖父に)母と私、徹也に出て行けと怒鳴られ、そのまま徹也は自転車でどこかに行った。その時にどれだけ徹也が傷ついたか。2人で児童養護施設に行けばよかったと後悔している」と法廷で語った。 また、大学卒業後についても、「母親が『お金をくれ』と腕にしがみついて、20~30メートル歩いて、みじめで恥ずかしかった」と振り返り、「母親が私に連絡してくるのは、金の無心をする時だけだった。金のときだけ、(私には)関心がないくせに偉そうに『払え』と言ってきて腹が立った。この人は私の母じゃないと思った。母のふりをしている」と話し、法廷で涙を流した。 妹はさらに「私たちは旧統一教会に家庭を破壊された。私のように親が(旧統一教会に)入って困っている子供の相談窓口は見つけられなかった。本当に合法的な方法ではどうすることもできなかった」とも語った。 20日の第10回公判から12月4日の第14回公判まで、山上被告への被告人質問が行われた。主に弁護側の質問によって旧統一教会と母親に翻弄された人生がつまびらかになった。 山上被告が母親の旧統一教会への入信を知ったのは中学生のころで、その時の心境を問われると「それまでの自分とは何か人生観、考え方も根本的にどこかで変わってしまったような気持ち」と答えたほか、教団のイベントについても「(母親から)非常にしつこく勧められましたので断り切れないということはありました」と明かした。 高校の卒業アルバムには将来の夢を「石ころ」と書いていた。理由は「将来はろくなことがないだろうと」と悲観していたからだった。さらに、母親の献金で家庭が困窮し「実際に食べるものがない状況になってしまって、家族として助けるしかないので、旧統一教会に(自分が)間接的に利用されていると思っていた」と語った。 事件の前年に安倍元首相は旧統一教会の関連団体に、メッセージ動画を送っている。旧統一教会の韓鶴子総裁に対し「敬意を表する」とした内容だったが、これを見た際の心境について、「現役後(首相退任後)に出てしまうと、今後も出るのを拒む理由がなくなる。(旧統一教会が)どんどん社会的に認められている。何も害のない団体と認知されてしまう。被害を被った側からすると、非常に悔しい。受け入れられない状態」「絶望と危機感。怒りというよりは困るという感情」があったと述べた。 山上被告は当初、旧統一教会の幹部をターゲットにしていたが、コロナ禍で来日の見通しが立たなくなると、安倍元首相に狙いを変えたことを説明し、「安倍氏が教団と政治の関わりの中心で、他の政治家では意味が弱いと思った」と語ったが、一方で、あくまで狙いは教団幹部であり、安倍元首相を銃撃することは「本筋ではなかった」とも語った。世界平和統一家庭連合への解散命令など事件後の社会の動きについて「私としてはありがたい」と述べた。 山上被告は当時、経済的に困窮し、襲撃の前に生活が成り立たなくなる可能性もあったため、「経済的に行き詰ってしまう前に(犯行を)やる必要があると思った」とも語っていた。裁判員からは、「苦労して作った銃を使いたかったという気持ちはあるか」という質問が投げかけられると、「使いたかったというと語弊はあるが、使わなければ何のために時間と労力とお金をかけてつくったのか」と返していた。裁判員から「この事件によって目的は達成されたのか」と問われた際、10数秒沈黙した後、「非常にいろいろな問題が起きているので、今はお答えできかねる」と述べた。 12月3日の第13回公判には安倍氏の妻・昭恵さんが被害者参加制度を使って出廷した。 昭恵さんが被告に質問することはなかったが、その翌日、山上被告は「昭恵さんをはじめとして、家族には何の恨みもありません。非常に3年半つらい思いをされたことは間違いないと思います。(肉親が)亡くなるのは経験していましたので、弁解の余地はない。非常に申し訳ない」と謝罪の言葉を述べた。 第13回公判では事件後に山上被告と面会した北海道大の桜井義秀特任教授(宗教社会学)の証人尋問が行われ、桜井教授は被告の家庭環境について「宗教2世のなかでも相当に悲惨な状況だった」と話した。 12月18日、検察は論告で、教団幹部から安倍元首相に狙いを変えた理由を「飛躍がある」と指摘した。安倍元首相に教団とのつながりがあることをうかがわせるものとして、先述の旧統一教会の関連団体に送った動画があるが、儀礼的な内容で、どこまで教団を支持しているかは不明確であり、このことは被告とも共通認識があるとした。また安倍元首相は母親の献金や家庭環境とは全くの無関係であるとも訴えた。また、路上に一般市民が多数集まる状況で散弾を使用することは、安倍元首相以外の死者が出ていてもおかしくない状況で、悪質であり、過酷な生い立ちも「量刑の大枠を変えるものではない」とした。しかし過去の判例について、単独犯の殺人であり、被害者が1人で銃器類を使用したものを抽出した結果、該当したのは20件で、判決は懲役25年から無期懲役に分布していると説明。このうち、親族間や男女トラブルなどでなく、被害者と面識が無い事案では無期懲役や懲役30年の判決が言い渡されていたとして、無期懲役を求刑した。 同日の最終弁論で弁護側は、弁護側は、「旧統一教会との出会い、それが地獄の始まりだった。被告が宗教虐待の被害者であることを考えなければいけない」と強調し、「悲惨な生活の経験は本件犯行に一直線に結びつく。被告人の生い立ちは本件の核心部分で、背景事情ではなく、最も重要視されるべき事情である」と主張し、量刑は「無期懲役は重すぎで、懲役20年までにとどめるべき」だと訴えた。 判決で田中裁判長は、公判の焦点だった犯行に使われた「手製の銃」について、「(手製の銃は)人を殺傷するに足るもので、発射罪と所持罪は両立する」として、銃刀法上の拳銃と同様で、無期懲役の対象となる『砲』と事実認定した。また犯行態様については、事件を起こすことを決断したのは自己の意思決定に他ならないと指摘。「約300人もの聴衆や至近距離に関係者が複数いるなかで背後から2回発射していることは極めて危険で、卑劣であって悪質性が高く、準備は約1年半の長期に及んでいて計画性は極めて高い」としました。 動機については、山上被告の母親が「(自殺した)兄が生前に苦しんだのは献金のせい。献金によって今は天国にいる」と話したことで、旧統一教会への怒りを感じるようになり、(安倍元首相の旧統一教会への)ビデオメッセージを見て、「旧統一教会が社会的に問題ない団体と考えられてしまう」と考えた、とした。 山上被告の生い立ちに関しては、「旧統一教会に激しい怒りを抱くのは、不遇な生い立ちからすると相応で理解できないとは言えない」としながらも、「被告はすでに40代の自立した生活を送る社会人で、人を殺してはならないことを十分に理解していた。社会的に孤独な状況であったが、支援を受けることをしていなかった。旧統一教会やその関係者に対し、激しい怒りの感情や思い知らせたいなどの感情を抱いたとしても、銃などを製造して他者の生命を奪うことを決意して現実に殺人という行為に至ることには大きな飛躍がある。(事件前日に)岡山で安倍元総理を襲撃する機会を得られなかったなど、目的達成に至るまでに複数の障害や出来事があった。それらは人を殺してはいけないという社会的規範を改めて認識し、殺人を思いとどまるのに十分だったが、犯行を断念しなかった」と指摘。 そして「被告人は家族をめぐる激しい葛藤や旧統一教会に対する負の感情を長年ため込んできたところ、内心でこれらを健全に解消し、あるいは合法的な手段による解決を模索せず、殺人などの手段を選択して実行した。旧統一教会への襲撃の見通しが立たないことから、これ以上待てないという自身の都合を優先して短絡的で自己中心的な意思決定をしており、生い立ちを背景にすることは認められず、被告人の意思決定には強い非難が妥当で、動機や経緯に大きく汲むべき事情は認められない。多数の聴衆がいる現場で銃を発射した悪質性は、他の事件と比べても著しく重い」とした。 |
| 備考 |
事件を受け、警察庁は2022年8月25日、奈良県警の不十分な警護計画や現場の警護員間の意思疎通の不徹底など複合的要因が重なったとする事件の検証結果をまとめた。これを受け、中村格(いたる)長官は辞職の意向を示した。26日の閣議で承認され、30日付で辞任した。警備部門トップの桜沢健一警備局長の辞職も26日に承認され、30日付で辞職した。奈良県警の鬼塚友章本部長は減給100分の10(3カ月)の懲戒処分を受けた。鬼塚氏も辞職を表明した。 事件を機に、教団側と政治家の接点が次々に判明。教団をめぐる高額献金の実態や、信者の親を持つ「宗教2世」の窮状にも注目が集まり、悪質な寄付の勧誘などを規制する不当寄付勧誘防止法(被害者救済新法)が2022年末の臨時国会で成立、2023年1月5日施行された。 自民党は2022年9月、所属国会議員179人と教団との接点が判明したと公表した。国会で連日取り上げられ、政治問題に発展した。岸田文雄首相(当時)は10月、教団との関係について曖昧な答弁を繰り返した山際大志郎経済再生相を更迭。自身が代表を務める政党支部が教団の関連団体に会費を支出した問題などが浮上した秋葉賢也復興相も12月に更迭した。 警察庁は事件を受け要人テロや、各地で頻発している「闇バイト」による強盗などを防ぐために、2023年1月26日、インターネット上の有害情報について、サイト管理者などに削除要請を行う対象を3月から大幅に拡充すると発表した。銃器の製造や殺人・強盗の誘いなど7類型を対象に加えた。 2024年6月7日、改正銃刀法が7日、参院本会議で可決、成立した。改正法では、銃を自作する方法を解説する動画や3Dプリンター用の設計図などを対象に、ネット上などで銃の不法所持にあたる行為をあおったり唆したりすることを罰則付きで禁止する。公共の場などで銃を撃つことを罰する発射罪は、従来の「拳銃等」に加え、「その他装薬銃砲」や猟銃も対象になる。7月に施行された。 2025年3月25日、東京地裁は旧統一協会に対し、民法上の不法行為を理由に解散を命じる決定をした。4月7日、教団側は決定が不当だとして、東京高裁に即時抗告した。 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の田中富広会長は2025年12月9日付で辞任した。 被告側は控訴した。 |
※最高裁は「判決」ではなくて「決定」がほとんどですが、纏める都合上、「判決」で統一しています。
【参考資料】新聞記事各種