藤原宰太郎『犯人は誰だ!? 殺人ファイル』


藤原宰太郎『犯人は誰だ!? 殺人ファイル』
(日本文芸社 にちぶん文庫)




犯人は誰だ!? 殺人ファイル』 『犯人は誰だ!? 殺人ファイル』
 奇想天外!殺人トリックにあなたも挑戦!!

 著者:藤原宰太郎
 (藤原宰太郎:推理クイズ作家として数々の著書を執筆)

 日本文芸社 にちぶん文庫

 発売:1994年12月25日初版

 定価:480円(初版時)





 推理小説の楽しさは、ストーリーの五分の四までは読者を推理の迷路に誘いこんで、最後の章で、トリックのタネをあかして、それまでの推理を全部ひっくり返して、読者の頭を疲労させるところにあります。それは快い疲労です。
 だけど、そんな頭脳の浪費をのんびり楽しむには、現代は万事があまりにもスピーディーな世の中です。ですから、ともすれば途中のページを読み飛ばして、せっかちに最後の解決だけを知りたがります。無理もありません。生活のテンポがはやいインスタント時代ですから。
 そんな気ぜわしい現代人のために、なくてもよい無駄な枝葉を切りとって、トリックと推理のエッセンスだけを抜き出して、ショート・ショートに濃縮したのが、この本です。
 どれもみな小粒ながら、長篇に劣らぬミステリーのおもしろさが味わえます。奇想天外な殺人トリックもあれば、推理の盲点をついた意外性もあり、また犯人さがしの謎ときなど、バラエティーに富んでいます。たとえてみれば、推理ゲームの詰め合わせセット、それが本書です。
 夢中になって一気に読みおえるのも結構ですし、また朝の通勤電車の中で、あるいは寝る前の寝酒のかわりに、一つか二つずつ読み惜しみしてくだされば、なお結構です。
 本書を『五分間ミステリー』として最初に新書版で出したのは、いまから二十年も前になります。今回、文庫になる機会に、ほとんど前編を書きなおしました。というのも、この二十年間に、トリックが古びてしまったからです。たとえば電話ひとつ取りあげても、留守番や転送、携帯、ファックスなど新しい機能の電話が普及した今では、古い電話トリックはもはや通用しなくなりました。
 そこで、この際、老朽化したトリックはばっさり切り捨てて、新しいものと入れ替えて、すっかり新装開店に近い本になりました。つまり文庫化によって、この本は再生されたわけです。これを機に、さらに続編を書いてみたいと思っています。

(まえがきより)

 収録問題は57問。巻末に「一九七四年六月小社より刊行された『五分間ミステリー』を、文庫収録にあたり改題、再編集した」とあるが、『5分間ミステリー』が出たのは1973年12月。タイトルも出版日も間違っている。さすが、初版記載のない日本文芸社(笑)。それとも『五分間ミステリー』という著書がTEST SERIESから版を変えて出ていたのだろうか(そういう記事はどこにも見あたらなかったが)。
 せっかくなので、どれだけ書き直したのか調べてみた。

【問 題】
アトリエ殺人事件:設定の一部、トリック変更。別にトリックを変える必要がなかったと思われる。
盗聴された情事:新規。トリックそのものは別の推理クイズ本で使っている。
証拠を消せ!:新規。呆れるだけ。
穴に埋めた身代金:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
火だるまの女:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
ネグリジェの女:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
トイレの中の情事:新規。トリックそのものは別の推理クイズ本で使っている。
毒入りグラスが二つ:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
密告者は誰だ?:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
ホテル屋上の死体:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
死の呼び出し電話:文章の一部を手直ししている。
その宝石に手を出すな!:文章の一部を手直ししている。
空き巣盗難事件:「オールドミスのボーナス」改題。設定、文章を一部手直ししている。
校長室の盗難事件:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
真夜中の決闘:『5分間ミステリー』(藤原宰名義)収録クイズを一部手直ししている。
夏の夜のデート:「天国と地獄のデート」改題。設定、文章を一部手直ししている。
猫とピストル:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
消えた電球:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
温かい死体:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
浴室の死体:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
招かざる客:文章の一部を手直ししている。
マダムキラー事件:新規。
飛びおり自殺の謎:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
死体の引っ越し:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
悪女の遺書:文章の一部を手直ししている。
死の標的:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
ひき逃げ車をさがせ!:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
マフィア暗殺指令:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
手首の傷:「強要された残酷な自殺」改題。文章を一部手直ししている。
バーのマダム殺人事件:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
死化粧の秘密:『5分間ミステリー』(藤原宰名義)収録クイズを一部手直ししている。
赤いボタンは死の花:「死顔の上の弔い花」改題。文章を一部手直ししている。
血文字の秘密:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
襲われた女秘書:文章の一部を手直ししている。
消えた凶器の謎:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
まぬけな殺人者:「メモ魔の卓上日記」改題。文章を一部手直ししている。
謎の靴跡:「なぞのクツ跡」改題。文章を一部手直ししている。
死体の押し花:「草むらの邪魔な死体」改題。文章、トリックを手直ししている。
団地夫人は名探偵:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
剣豪浪人殺人事件:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
保険金を狙え!:「兄よめの保険金」改題。文章を一部手直ししている。
あばかれた完全犯罪:『5分間ミステリー』(藤原宰名義)収録クイズを一部手直ししている。
美人スパイの死:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
ポルノ作家の怪死:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
消えた身代金:「なぞの誘拐犯人」改題。文章を一部手直ししている。
朝帰りの女:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
タレントの首つり自殺:「タレントの自殺」改題。文章を一部手直ししている。
浮いた赤い服の娘:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
人妻殺し:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
悪女のアリバイ:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
殺しのテクニック:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
ふしぎな怪盗:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
盗まれた千両箱:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
ルビー殺人事件:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
偽造された遺書:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
奇怪な靴跡:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。
遺書の鑑定:新規。クイズそのものは別の推理クイズ本で使っている。


 ということで、ほとんどが別の推理クイズ本から新たに持ってきている。これだったら、わざわざ過去の本のことを持ち出す必要はない。何か、特別な事情でもあったのだろうか。
 新作の問題は、私が思い浮かぶ限りではあるが、一問だけである。特にテーマがあるわけでもなく、新味も全くない。ただ他の著書と比較すると、ややアダルトなシーンが多いところぐらいか。それだけは前作を引きずっているように思われる。


【藤原宰太郎推理クイズ作品リスト】に戻る