『名探偵はきみだ 証拠をつかめ』
作者:ハイ・コンラッド
(アメリカの脚本家、クイズ作家。推理クイズの著書多数。テレビドラマ・シリーズ「名探偵モンク」の脚本で2003年、エドガー賞最優秀テレビ賞ノミネート。)
訳:武藤崇恵
発行:早川書房 ハヤカワ・ミステリ文庫
発売:2004年9月15日初版
定価:514円(初版時 税抜き)
本書のクイズは簡単ではない。なにもきみのやる気をそぐつもりはないが、特にきみがまだ本書を買っていないのならなおさらそんなつもりはないが、心の準備だけはお勧めしておく。たっぷり時間をかけて謎に取り組んでほしい。リラックスして、何度も読み、それぞれの手がかりの意味をよく考えて欲しい。そうすれば事件解決の手助けになるだけでなく、よりいっそう本書を楽しんでもらえると思う。長い時間をかけて殺人事件をいくつも考え出し、どうやって公正かつ巧妙に読者諸君を騙すかに頭を悩ませた。ミステリ好きの例に漏れず、わたしもすべての謎が解けた「わかった!」という瞬間をなによりも楽しみにしている。あまりせっかちに謎に取り組むと、この「わかった!」という醍醐味を味わえずに終わってしまうかもしれない。
では本書の構成を説明しよう。本当はそんな説明など必要ないのだが。まず最初に“殺人事件簿”を読み、証拠一覧のなかから手がかりとなりそうな報告書類を選び、よく検討する。必要ならば“証拠の分析”篇に目を通し、そして“真相”篇へと至る。分析篇、真相篇も事件簿と同じ順に並べてある。
手がかりをよく吟味してから推理して欲しい。なにもぴんとくることなくすべての証拠に目を通す必要があったとしても心配はいらない。ほとんどの事件は二つか三つの手がかりで解決できるが、わたしだってそんなことは不可能だ。もし真相をこっそり覗く必要がなかったら、きみは探偵になれる。だが名探偵たるもの、“証拠の分析”篇の助けなしで証拠を検討し、推理を組み立てなければならない。
もし弾道テストのようなきわめて重要と思われる証拠がなかったら? ひらめいた推理を立証するために必要不可欠な証拠がなかったら? その答えは、(a)きみの推理は間違っていて弾道テストは必要ない(b)きみの推理は正しいが、弾道テストの結果を書いてしまったら真相が見え見え、のどちらかだ。だがたいていは(a)が答えだろう。
最後に一言。くれぐれもやりすぎないよう。どれほど楽しくても、自分をコントロールして欲しい。一度に多くの事件を解決しようとしないことだ。どんなに楽しくて独創的な事件でも、頭の中にごちゃごちゃに詰め込まれては魅力が薄れてしまう。事件は一日一件まで。そうすればかなり長く楽しんでもらえることだろう。
原題はAlmost Perfect Crimesで1995年発行。原題を直訳すると「もう少しで完全犯罪」となる。犯人が計画・実行した犯罪が完全犯罪となるか、それとも不完全犯罪となるかは、読者の力にかかっているわけだ。
ドナルド・J・ソボルの『2分間ミステリ』シリーズがヒットしたからか、早川書房は新しい作家による推理クイズシリーズ3冊を刊行することになる。それがこの「名探偵はきみだ」シリーズである。著者のハイ・コンラッドは人気テレビシリーズ「名探偵モンク」の脚本家として有名らしいが、推理クイズの著作も多いと訳者あとがきにある。シャーロック・ホームズの玄孫、シャーマン・ホームズを主人公にしたシリーズもあるとのことなので、できれば訳してもらいたいところだ。
まえがきにある「殺人への招待」を読めばわかるとおり、本書は三部構成になっている。まずは殺人事件簿で事件の概要を知る。そして証拠一覧を読み、手がかりを探す。証拠一覧にあるとおり、通常は二つないし三つの手がかりで犯人を指摘することが可能である。もし手がかりを見つけることができなかった場合は、証拠の分析を読めばよい。そこには事件を解くヒントが書かれている。そして真相で事件の真実を知ることができる。問題数は全部で15問。他の推理クイズ集に比べると少ないが、それは問題形式の複雑さにあるためで、仕方がないところだろう。これ以上の本の厚さがあったら、いちいち証拠の分析を開いたり、解決編を開いたりするのは大変だ。
帯にもあるとおり、「ちょとハイレベルな推理クイズ集」であるが、それはどちらかといえばクイズの形式に惑わされている面が大きい。クイズを分類すれば、犯行手段や犯人のトリックを用いたものが中心である。どちらかといえば、見慣れたトリックの方が多い。それでも簡単に解くことができないのは、作者の目くらましが成功しているからであろう。
ソボルのシリーズや、ウェバーの『5分間ミステリー』シリーズに比べると、難易度は高い。逆にその難易度と形式の複雑さは、一般読者をやや敬遠している感もある。推理クイズ好きに送られた作品集であろう。
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