ハイ・コンラッド『名探偵はきみだ 推理旅行へGo!』


ハイ・コンラッド『名探偵はきみだ 推理旅行へGo!』
(早川書房 ハヤカワ・ミステリ文庫)




『名探偵はきみだ 推理旅行へGo!』 『名探偵はきみだ 推理旅行へGo!』

 作者:ハイ・コンラッド
 (アメリカの脚本家、クイズ作家。推理クイズの著書多数。テレビドラマ・シリーズ「名探偵モンク」の脚本で2003年、エドガー賞最優秀テレビ賞ノミネート。)

 訳:武藤崇恵

 発行:早川書房 ハヤカワ・ミステリ文庫

 発売:2004年11月15日初版

 定価:514円(初版時 税抜き)





 小説家は自分が読みたい小説を書くといわれている。わたしの場合はまさにその通りだ。わたしはずっとフーダニットのファンだった。こどものころは、テレビのペリー・メイスンとアガサ・クリスティーの小説に夢中だった。時間も距離もはるかに離れたところから、世界的に有名な小説家たちがわたしに挑戦状を突きつけてくるのだから。わたしたちにはルールがあった。小説家はフェアに手がかりを提示することに同意し、わたしは結末をこっそり見たりしないし、事件を解決するべく精一杯努力してから最終章を読むと誓った。
 後年になって小説の登場人物や雰囲気を味わうことを覚え、頭を使わずにのんびり読書する楽しみも知った。だがやはり初恋は忘れがたく、不可解な謎が最後に明快に解きほぐされる喜びは、わたしの心の中で常に特別な位置を占めている。
 本書のために十三種類の極悪非道な事件を考え出した。舞台はオーストラリアからメキシコ、トランシルヴァニアとヴァラエティに富んでいる。細心の注意を払って手がかりとなる証拠を提示したが、謎を解明するのに十分な手がかりとなるか、その手がかりでは足りないかは読者次第だ。
 わたしが創りあげたゲームでわたしをうち負かしたければ、事件簿の最後に用意した三つの問題を解決して見せてくれ。その問題のあとに名探偵ならば事件を解決するのに最低限いくつの手がかりが必要かも書いておいた。それぞれの事件には五つの証拠があるが、好きなものからじっくりと検討してくれて構わない。五つの証拠すべてを読まなければ真相がわからなくても悲観することはない。ほとんどの事件はわたし自身もすべての証拠を必要とするはずだから。
 事件簿と手がかりのあとには“証拠の分析”篇が控えている。ここではそれぞれの証拠を再検討し、一番好奇心をそそられる証拠を指摘し、きみの頭脳をどちらに向けるべきかを示してある。ちなみに事件は事件簿と同じ順に並んでいる。
 事件の真相は本書の最後に、これも事件簿と同じ順にまとめてある。
 さて、これで本書の使い方も楽しみ方も説明した。じっくり時間をかけて証拠を検証して欲しい。それぞれの事件を推理小説を読んでいるときのように味わって欲しい。時間をかけるだけの価値がある見事などんでん返しが待っているから。

(「殺人への招待」より)


 原題はAlmost Perfect Murdersで1997年発行。原題を直訳すると「もう少しで完全殺人」となる。犯人が計画・実行した犯罪が完全犯罪となるか、それとも不完全犯罪となるかは、読者の力にかかっているわけだ。
 『名探偵はきみだ 証拠をつかめ』『名探偵はきみだ 有罪?無罪?』に続く翻訳3作目。今回はタイトル通り、世界の各地で起きた事件を解くという趣向になっている。世界を舞台にした推理クイズは藤原宰太郎の専売特許だと思っていたが、海外でも似たような趣向を思いつく人がいるとは思わなかった。
 問題構成は前2作と同じ。じつはトリックが使われているところも一緒。前2作と違うところは、舞台が世界の色々なところであるということぐらいである。もっともその地域の特性を利用した問題が出ているというわけでもないので、“推理旅行”というのはあまり意味をなしていない。
 コンラッドの作品は3冊訳されたが、もし著書があるのならばもっと訳してもらいたいところだ。

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