オースティン・リプレイ『ミステリィ・クイズ』(日本文芸社)



『ミステリィ・クイズ』  『ミステリィ・クイズ』

 オースティン・リプレイ Harold Austin Ripley (中上守訳)
(1896年7月25日、アメリカワシントン生まれ。シカゴ・トリビューン紙の専属コラムニスト。新聞紙上にフォードニー教授を主人公としたミステリクイズ"Minute Mysteries"を連載。多数の新聞紙上に掲載されるとともに、教科書等にも用いられた。他にLook Magazineに探偵ハンニバル・コブを主人公としたフォトミステリクイズ"Photo Crime"を連載した。一時期アルコール中毒になるが、回復後、アルコール中毒患者のための治療センターを設立し、全米に展開した。1974年4月11日死亡。77歳没。著書に“Minute Mysteries”等があり、死後も出版されている)


 発行:日本文芸社 TEST SERIES

 発売:1973年7月5日 初版発行

 定価:450円(初版当時)




(前略)
 それが本書を訳しているうちに、そうもいかなくなった。犯罪のセッティングが、つまりその状況や背景や場所などがこうまでコンパクトされたかたちで提示され、おまけに、さあ犯人は誰か、当ててみろと、正面切って問題を突きつけられたのでは、いきおい考えてみないではいられなくなる。そこでこれをやってみて、さて何割ぐらい正解が得られたかというと、恥ずかしくてとてもここに公表できるような成績ではないが、最後までたのしめたことは事実だ。
 そしてそういう癖のついたぼくは、その後こころみに本格的な推理小説の長編を二、三読んでみて、犯人を当ててやろうという気力がずっと失われずにいることを知り、推理小説を読むたのしみが一つ増えたような気がして、すっかりうれしくなっている。もちろん、長編になると、筋立ては複雑になり、容疑者が何人も登場し、そこへ作者のペダントリィが折り込まれたりして、犯人の割出しは本書の場合のようにかんたんにはいかぬが、それだけ深く考えさせられることになり、小説を読む醍醐味が倍増することは確実である。
 ひとつ読者のみなさんも、フォードニィ教授になられたつもりで―いや、かならずしもフォードニィ教授である必要はない。シャーロック・ホームズでもポア(原文ママ)にでも、フェル博士でもペリィ・メイスンにでも、だれでもよい。お好きな探偵になられたつもりで、犯罪の捜査に参加してみられたらどうだろう。わたしのように素朴な読者ならずとも、頭の体操ぐらいになることは間違いないと思うのだが。

(訳者「まえがき」より)


 「まえがき」にもあるとおり、探偵役はフォードニィ教授。『推理試験』や『続推理試験』に登場するフォード教授と同一人物である。相棒役、時には探偵役として登場するケリー警部も一緒である。問題数は全部で88問。『続推理試験』と同じ問題がいくつか収録されている。
 問題には2パターンがある。一つは現場の状況などから、容疑者の供述の矛盾点を見つけだすタイプのもの。時には何人かの供述から犯人を当てる問題もあるが、パターンとしては同様のものである。もう一つは、いわゆる「○○とXXは仲がいい」などのいくつかの情報から犯人を当てる問題である。このタイプの問題は、紙と鉛筆を用意し、解き方のこつさえ覚えれば解決できる問題である。
 リプレイの推理クイズは、藤原宰太郎などの推理クイズ本のように特殊な知識などを必要とせず、かつ事件を解く手がかりは充分に与えられているので、読者は純粋に推理をするだけでクイズを解くことが出来る。そういう点では、クイズらしい推理クイズではある。ただ、トリックなどはほとんどないため、トリックを用いた推理クイズが好きな人から見ると、物足りなさが残るかもしれない。
 リプレイの推理クイズは、後に藤原宰太郎や加納一朗が自らの推理クイズに多数移植している。そういう意味では、推理クイズの祖と言っていいかもしれない。
 解答の最後に犯人の末路が書かれるケースが多いのは、アメリカらしい勧善懲悪主義からだろうか。

 残念なのは、リプレイのどの著書から訳したのかわからないことである。

【その他の推理クイズ本作品リスト】に戻る