昭和21年、買い出しの女性を次々に暴行殺害した“淫獣”小平義雄事件ほか、メッカ事件、横須賀線電車爆破事件、山口組組長狙撃事件など、終戦直後から70年代に発生した有名事件をとりあげ、もう一つの戦後史として、日本社会の暗黒部分を描いた本格的ノンフィクション・ノベル。好評「殺人百科」の第三弾。(粗筋紹介より引用)
1982年3月、徳間書店より単行本刊行。1987年7月、文藝春秋にて文庫化。
【目 次】
第一話 淫獣 小平義雄
第二話 冷血 正田昭
第三話 誘拐魔 本山茂久
第四話 酩酊魔 石部金吉
第五話 爆破狂 若松善樹
第六話 鉄砲玉 鳴海清
『殺人百科』『事件百景』『殺人百科(2)』続くシリーズ本。過去のシリーズとは異なり、日本の戦後史に刻まれるような犯罪ばかりが並んでいる。そのためか、タイトルに名前が並ぶ形となっている。ちなみに上から順に「小平事件」「バー・メッカ殺人事件」「雅樹ちゃん誘拐事件」「横須賀線爆破事件」「山口組田岡組長狙撃事件」である。ただし、第四話だけは例外である。
美術印刷会社の石部金吉(もちろん仮名)は普段から仕事熱心で優秀であり、24歳で印刷課主任に任命されても周囲が納得するほどであったが酒に弱く、酒に酔うと相手に口論を吹っ掛ける悪い癖があった。1966年8月29日、その日は妻の従弟が郷里から出てきたので東京見物をさせていた。その夜、酒店で部下と会った石部(27)は飲みすぎてしまい、午後10時30分ごろ、寮に帰らず守衛室で相手に絡み始めた。見かねた夜勤の係長(34)は殴り、さらにそこへ現れた妻が石部を連れて帰った。ところが石部は午後10時45分ごろ、ガソリンの入ったバケツを持って工場に現れ、止めようとした係長にガソリンをかけて、背中からライターで火をつけて約4か月の重傷を負わせた。さらにそばにいた石部の妻(27)にもガソリンをかけて火をつけ、全身火傷により死亡させた。精神鑑定の結果、大量の飲酒によって心神喪失の状態にあったとして、東京地裁は無罪を言い渡した。
このような事件をとりあげるほうが、「陰の隣人」に相応しいのではないだろうか。この本で取り上げられた犯罪者たちは、あまりにも有名すぎる。もちろん、このような人たちでも「陰の隣人」であるのかもしれない。しかし、そのような印象は薄いし、取り上げた事件もいつもより古すぎる。ネタが無くなったわけではないだろうが、人気が無くなって有名犯罪者を持ってきたのだろうかと勘繰ってしまうような、方向転換でもある。
有名犯罪者ということもあり、佐木ならではの視点もあまり感じられない。残念である。
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