横溝正史ミステリ大賞(横溝正史賞)



【横溝正史ミステリ大賞(横溝正史賞)】
 公募による長編推理小説新人賞。角川書店主催、のちに東京放送共催。江戸川乱歩と並ぶ、日本ミステリー界の雄、横溝正史の偉業を記念して1980年に創設。受賞作はバラエティ豊か。広義のミステリーの枠を超え、推理小説以外のジャンルにも進出する多彩な作家を輩出している。第21回より名称が現行のものに変更された。
 大賞受賞者には、金田一耕助像と副賞として400万円が授与される。また、第22回に新設されたテレビ東京賞受賞者には賞金100万円が授与され、さらに受賞作はテレビ東京の『水曜シアター9』(第27回の受賞作までは『水曜ミステリー9』)でドラマ化されている(テレビ東京賞の受賞作は、書籍としての刊行はない場合もある)。
(『日本ミステリー事典』(新潮社)及びWikipediaより一部引用)
 2018年2月、KADOKAWAは「横溝正史ミステリ大賞」と「日本ホラー小説大賞」と統合し、「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」を創設した。第39回としてカウントされる。


第1回(1981年)
大賞 斎藤澪『この子の七つのお祝いに』  女占い師の正体と、殺人事件の謎を追ううちに、全てのベールがはがされるというサスペンス。女占い師・青蛾にかけられた怨念が物語全体を覆っており、読んでいて寒気がしてくる。タイトルの意味もラストになってわかるが、ここまで恨みを駆り立てた背景が本当に恐ろしい。「横溝正史」とはちょっと違う作品ではあるが、それでもミステリ公募の新人賞としては十分相応しい作品である。
第2回(1982年)
大賞 阿久悠『殺人狂時代ユリエ』  純然たるホラー。それにしても、どう形容したらいいのかわからない作品。ナメクジがはい回るような不快感とは違うが、背中が寒くなるような不気味さとおぞましさが語られる。作者のことばにある「ザワザワとした生理感覚」というのがぴったりくるかも。ただ、物語自体は何も解決されず、何が何だかわからない物足りなさも残る。小説の完成度は文句なしだが。
佳作 芳岡道太『メービウスの帯』 未刊
第3回(1983年)
大賞 平龍生『脱獄情死行』  戦時下における女の情念と性を書いた作品。文章や小説創りの面でいえば達者。当時の時代背景や風土などもしっかりと書き込まれており、作品自体はなかなかの仕上がりと言える。残念なのは、脱獄以降のことをもっとしっかり書き込んでほしかったこと。終盤がもっと盛り上がれば、この作品の評価も違ったものとなっていただろう。
佳作 速水拓三『篝り火の陰に』 未刊
第4回(1984年)
大賞 受賞作なし
第5回(1985年)
大賞 石井竜生・井原まなみ『見返り美人を消せ』  横溝正史賞が第5回になってようやく出てきた本格ミステリ作品。夫婦合作という日本では珍しい形式も話題となったが、中身も切手の知識をふんだんに盛り込みつつも、単なる調査結果の披露に終わってしまうお勉強ミステリとは異なって物語に上手く融合させており、好感が持てる。社会派というか通俗的な題材を中心に据えている部分があるため、あまり取りあげられることが少ないが、もっと注目されてもいい。
佳作 中川英一『四十年目の復讐』 未刊
佳作 森雅裕『画狂人ラプソディ』  芸大教授殺害、北斎未発表資料盗難、結城家埋蔵金、教授の娘失踪、楽器鑑定書偽造、業者との癒着に賄賂、暗号解読……おまけにちょっと恋愛混じりの青春物語。これでもかというぐらい盛り込まれているのだが、そのお陰で印象が散漫になっていることは否めない。力の入れどころを間違ったとしか思えない。作者が言う通り、「いささか“意あまって力足りず”の感がある」作品である。
第6回(1986年)
大賞 受賞作なし
第7回(1987年)
大賞 服部まゆみ『時のアラベスク』  登場人物、背景、推理部分など、それぞれを切り取って見てみると面白いのに、それらを組み合わせてみると、どうしても違和感を抱いてしまう、バランスの悪さが目立つ。特に文章はいいから、余計に目立つ。激情的な動機も含めて、もう少しトーンをそろえてみることを考えて描くべきではなかっただろうか。それでも受賞に相応しいだけの実力は十分に兼ね備えている作者であり、作品ではある。
佳作 浦山翔『鉄条網を越えてきた女』  新聞記者が国際的な謎を追うという、在りがちな展開の冒険小説。作者は現役の新聞記者ということで、読ませる実力はなかなかのもの。もっとも、小説というよりは、新聞記事みたいな展開と文章であったことが残念。題材としては面白いかな、という程度。
第8回(1988年)
大賞 受賞作なし
第9回(1989年)
大賞 阿部智『消された航跡』  作者が若いことと、海上保安官という設定だけが珍しいだけで、本格推理小説としては失敗作。第1の殺人については実現が難しく、またプロの海上保安官なら想像つかない方がおかしい。第2の殺人については、警察の捜査がずさんすぎ。容疑者になりうる周辺人物の経歴すら、まともに捜査していない。例えアドバンテージがあったとはいえ、9か月も捜査してわからなかった謎を、素人がわずか5日間で解決してしまうというのは興醒め。賞の名に値しない作品。
佳作 姉小路祐『真実の合奏(アンサンブル)  被告は有罪か無罪か、という法廷ものではありがちな展開で、新味はないと思ったのだが、二転三転する展開と、事件の意外な真相はなかなかのもの。ただ、冤罪に関するレクチャー的な文章は少々しつこく、不要だった。作者の冤罪に対する思いが、悪い方に働いた感がある。結末が駆け足なところは仕方が無いのだが、その方向性には疑問。展開がセンチメンタリズムに流れてしまったのは、冤罪というテーマを浮き彫りするためとはいえ、安直すぎる。このあたりが、プロの作家には受けず、大賞には届かなかった要因の一つでは無いだろうか。
第10回(1990年)
大賞 受賞なし
優秀作 水城嶺子『世紀末ロンドン・ラプソディ』  女性だったら架空のヒーローとの恋に憧れるだろうが、それをここまで露骨に書くか、と言いたくなるような作品。色々とやりたい放題であきれる作品。根本的な問題は、内外含めて山ほどあるホームズのパスティーシュ作品(パロディ含む)の枠から一歩も外へ出ていないこと。新味がゼロなので、普通だったら優秀賞でも受賞できなかっただろう。
第11回(1991年)
大賞 姉小路祐『動く不動産』  「今日のミステリーは時代と社会を映す鏡でありたい」と夏樹静子が選評で言っているが、そんな言葉がピッタリ来る作品である。ワトソン役である由佳の設定でも面白い。時代を映したミステリは、時が経つにつれ色褪せてくる面がある。それは否定しない。しかし、本当に面白いミステリは、時の風化に負けない輝きを持っている。
第12回(1992年)
大賞 羽場博行『レプリカ』  テーマパークという舞台設定は面白いし、フリー建築士ということもあって専門分野の説明は詳細。ただ、建築関係の知識がないとかなりわかりづらいのではないだろうか。トリックについてはもっと専門分野を生かすかと思ったが少々肩すかし。厳重なセキュリティーの中で殺人という題材はいいと思うので、もうちょっと驚くトリックを使ってほしかったと思うのは期待しすぎだろうか。
松木麗『恋文』  現職の検事が書いた心理サスペンス。推理小説としての興味は、一度は自供しながら公判で否定する被告の心理であるし、公判で自供をひっくり返すだけの証拠であったりするわけだが、それが出てくるのは後半も後半。主人公と被告がオーバーラップしながら、主人公の存在感が希薄なのも問題。はっきり言って、作者が現役女性検事でなければ受賞しなかっただろう。それぐらい印象が薄い。
特別賞 亜木冬彦 『殺人の駒音』  将棋ファンでなくても対局の臨場感が伝わってくると思うし、将棋にとりつかれた男たちが将棋にかける思いと狂気も感じ取ることができるだろう。将棋を取り扱った小説では、間違いなく上位に来るだろう。ミステリとしては平凡な作品だと思うが。
第13回(1993年)
大賞 受賞作なし
優秀作 打海文三『灰姫 鏡の国のスパイ』  読みづらい。背後の説明が全くないまま会話が進むので、彼らが何を言っているのかさっぱりわからない。ここまで読者を無視している作品も珍しい。ただし、妙な迫力というか、独特の雰囲気があるのも事実。ただ読み終わってみると、最初に感じていたスケールの大きさがどんどん小さくなっていっているのは残念。
小野博通『キメラ暗殺計画』  作者が現役の外科医ということもあり、手術シーンの臨場感はなかなかなのだが、それ以外は全然ダメ。主人公をスーパーマンにしてしまったせいで、主人公も作者も調子に乗りすぎてしまい、安っぽい劇画で終わってしまった。
第14回(1994年)
大賞 五十嵐均『ヴィオロンのため息の−高原のDデイ−』  登場人物が限られていることもあるが、歴史をひっくり返すような題材を扱っている割には、テンポがよすぎる。もっと重みのある書き方をしてもよいのではないだろうか。逆の言い方をすれば、非常に読みやすい。仕上がり自体は悪くないし、文章も読みやすいし、受賞しやすい作品であることは間違いない。ただ、新人賞ならではのフレッシュさや冒険心はなく、題材の大きさの割には小さくまとまった感は否めない。
佳作 霞流一『おなじ墓のムジナ』  最初は日常の謎かな、と思わせるようなタヌキをめぐるバカバカしい事件が続いたと思ったら、とうとう本物の殺人事件が発生する。最後までタヌキで引っ張ったのにはあっぱれと言いたい。ギャグあり、ユーモアあり、ペーソスあり、といった軽い作風の中で、伏線を貼り、最後は推理で解決するしっかりした本格ミステリになっている。惜しむらくは、登場人物が最初から多すぎて区別がつかないところか。
第15回(1995年)
大賞 柴田よしき『RIKO−女神の永遠−』  どうもこういう女性主人公が好きになれない。女性でも普通に人間として生きていけばいいだろうに、むやみに女性を振り回し、女性であることをことさらに強調するくせに、女性扱いされたら怒るタイプだね。まあ、男性優位社会のこの世の中、とくにその傾向が強い警察という巨大組織の中では、そこまで尖るしかないのだろうけれど。個人的に苦手。
佳作 藤村耕造『盟約の砦』(角川書店)  主人公に司法研修生が主人公というのは珍しく、弁護士の作者だからか筆は非常にノッている。しかし、人物造形は全く駄目であり、誰一人顔が浮かんでこないのには困ったものだ。最大の問題点は、ネタバレに直結するが、選考委員のいずれもが指摘している点である。はっきり言って本作品の根底を覆すような問題点であり、出版時点でも全く解決されていない。佳作として出版されるほどの作品でもなかった。
第16回(1996年)
大賞 受賞作なし
優秀作 山本甲士『ノーペイン、ノーゲイン』  動機だけを見るとありきたりな事件と言えるのだが、舞台がフィットネスクラブという点と、やはり構成に工夫を凝らした分、楽しく読むことができた。肉体改造の理由付けについてはお見事と言いたい。そして選評で森村誠一が指摘しているが、犯人が取った手段に難点がある。欠点もあからさまに見える作品であり、優秀作で終わったのはそれが理由の一つであったからだろう。
佳作 西浦一輝『夏色の軌跡』  作品の内容は悪くなかったと思う。ただ選評で多くが言っているように、ゴルフ青春小説としては悪くないのだが、ミステリとして読むとやや弱い。特に二つの殺人事件がありながら、それらが密接につながっていない点は、読者に肩透かしを食らわしている結果となっており、とても残念である。けれど個人的な感想から言えば、優秀賞の山本甲士より面白さという点では上ではなかっただろうか。ただしミステリの構成や工夫という点については山本作品より劣る。
第17回(1997年)
大賞 受賞作なし
佳作 建倉圭介『クラッカー』  2010年代の今では陳腐なネタかも知れないが、この作品が出た1997年ならまだまだ通用した題材。ミステリとして見ても、今でも十分鑑賞に堪えうる作品だとは思う。ただ主人公が定年を迎えた55歳の冴えないオッサンであるため、動きがややもっさりしているというか。読んでいてもどかしい。題材も小説も悪くないのだが、今一つ決定打に欠けた作品。主人公が動き回るのではなく、もうちょっと初老に近づいた男の悲哀をアピールした方が、よかったんじゃないだろうか。
第18回(1998年)
大賞 山田宗樹『直線の死角』  ややストレートに書きすぎた分、慣れたミステリファンなら事件の背景がある程度読めてしまうだろうが、事件の背景や構成にトリック、交通事故の鑑定も含め、説得力はなかなかのものである。ミステリと恋愛ものを絡めた作品としてはそれなりに上手く融合できた方ではないだろうか。達者な仕上がりであり、完成度も高い。その分新人らしさがないところもあるが、それを欠点と言ってしまうのは、この作品に対しては酷だろう。横溝正史賞受賞作品の中でも上位にランキングされる一作である。
佳作 尾崎諒馬『思案せり我が暗号』  いやあ、面白かったですね。前半は。なんでメタにしたんだろう。全く無駄。最近の本格の悪いところばかり吸収してしまった作品。勿体ないですね、あれだけの暗号を考えたんだから。
奨励賞 樋口京輔『稜線にキスゲは咲いたか』(改題『緑雨の回廊』)  殺人の嫌疑を掛けられたまま行方不明になった夫を、素人の妻が残された手掛かりから追いかける作品。途中から埋蔵金の謎も絡み出す。こう書いてしまうと、とてもチープな作品に見えてしまうから不思議だが、実際の内容も今一つ。夫が妻に秘密を隠す理由は最後まで明かされないし、殺人の動機も説得力に欠ける。終わり方も安易だし、奨励賞止まりも仕方がない。
第19回(1999年)
大賞 井上尚登『T.R.Y.』  舞台、設定、登場人物と傑作になりそうな材料は揃っている。これだけの設定なのに、物語全体が軽い印象を受けてしまうのはなぜか。テンポが良すぎるためか、文章が軽いためか。陸軍会議の部分など、もっと重々しく作るべきであったと思う。
佳作 樋口京輔『フラッシュ・オーバー』  核輸送やニュース、テロなど着眼点は良く、仕掛けも面白いのだが、残念ながらテンポが遅い。複数の主要登場人物の視点から細かく書きすぎているため、ストーリーが全然進まず、緊張感が欠けてしまう。各章でもっと動きがあれば傑作になっただろうに。
奨励賞 小笠原あむ(小笠原慧)『ヴィクティム』 未刊
第20回(2000年)
大賞 小笠原慧『DZ ディーズィー』  かなり隅々まで計算された作品である。最後の方はかなり強引なところも見受けられるし、少々急ぎすぎではないかとも思えるのだが、物語を終わらせるには仕方のない展開だろうか。受賞してもおかしくない力作であることは間違いない。それぞれの登場人物を深く掘り下げてしまっているので、誰に感情移入すればよいかわからなくなってしまうのだ。いずれにしても、力は相当のものと思われる。
小川勝己『葬列』  描写は上手いし、ストーリーの組み立て方も上手い。次はどうなるんだろうという描き方もなかなか。欠点は、登場人物が多すぎたことじゃないだろうか。ヤクザの面々などは減らすことができたと思う。渚が語る銃の蘊蓄も少々うるさかった。とはいえ、デビュー作でこれだけのものを書かれれば、受賞させないわけにはいかないだろう。一級品のクライムノベルである。
第21回(2001年)
大賞 川崎草志『長い腕』  発想には感心する。ところが、犯人像に迫るまでの過程があまりにもまどろっこしい。起承転結の承の部分が長すぎる。そのため、クライマックスへの盛り上がりが半減している。場面の切り替え、思考の変換なども唐突すぎて、細切れの紙芝居を見せられているようだ。
優秀作 鳥飼否宇『中空』  本格ミステリの王道スタイル。舞台は竹に囲まれた、七世帯の村。しかも20年前に連続殺人事件が起きており、今回新たに連続殺人が発生するという、これまた本格ミステリファンが喜びそうな話。横溝正史のようなおどろおどろしい部分が無いのはちょっと残念だが、竹に関する描写が非常に魅力的である。これだけでも一読の価値はある。謎解きは今一つで、結末の驚きという点は欠けていたのが残念だった。
第22回(2002年)
大賞 初野晴『水の時計』  日本の臓器移植問題を中心に幅広く問題点を指摘していく趣向は悪くない。ただ、未来や展望が見えない書き方ってどうだろう? 小説の描写はなかなかいいものがあると思う。ただ、登場人物がみな同じ人形に見えてくるのは問題かも。童話の世界を現代に移し替えただけで終わっている。
テレビ東京賞 滝本陽一郎『逃げ口上』 未刊
第23回(2003年)
大賞 受賞作なし
第24回(2004年)
大賞 村崎友『風の歌、星の口笛』  読んでいる途中はそれなりに面白かったのだが、読み終わって釈然としないものが残った。設定が曖昧・ディティールの消化不良・行動心理や動機の不可解さが目に付く。それがこの物語そのものを曖昧なものにしている。多分作者の頭の中でも、設計図が完全に描かれていないままなのだろう。
優秀賞・テレビ東京賞 射逆裕二『みんな誰かを殺したい』  読み終わってよくできたパズルだと感じた。一件関係がないと思われる複数の殺人事件が、最後には余すところなくピタッとおさまる。ただ、パズルのピースが綺麗におさまったとしても、パズル全体に描かれている絵が稚拙だったら評価はガクッと落ちる。とにかく設定のみを考えてできた作品のようで、趣向には感心するが物語としては面白くない。
第25回(2005年)
大賞・テレビ東京賞 伊岡瞬『いつか、虹の向こうへ』  手堅くまとまったハードボイルド作品。設定や展開はどこかで見たことがあるものばかりであるが、童話を絡めたエピソードをうまく用いているところには感心した。いかにもドラマ向けな安っぽさを無くすことができれば、もっと伸びるかも知れない。
第26回(2006年)
大賞 桂木希『ユグドラジルの覇者』  世界金融経済謀略小説、とでも言えばいいのだろうか。確かに「世界規模のコンゲーム」と言ってよい内容となっている。大風呂敷の広げ方は巧いのだが、結末で評価はワンランク落ちてしまう。それでも充分楽しめる作品ではある。動きの少ない取引を舞台にして、これだけ面白い小説を構成できる作者の腕は大したものである。
テレビ東京賞 大石直紀『オブリビオン〜忘却』(文庫版『夢のすべて』)  事件の真相と、それに振り回される周囲の動きについては手堅くまとまっている。ただし作者はすでに10冊近くの著書があるプロである。これぐらいはできて当たり前。それを超える鮮烈なイメージがほしかったが、小さくまとまったままで終わってしまった。内容からすると、一介のジャーナリストが思いついてしまう真相を、組織力を持つ警察がなぜ検討しなかったのかが疑問。最低でも背景ぐらいは、簡単に調べられたはず。警察の姿がほとんど出てこないのは違和感があった。
第27回(2007年)
大賞 桂美人『ロスト・チャイルド』  外国人グループによる襲撃、立てこもりと、最初から息もつかせぬ派手な展開。その後も盛り沢山な内容が続き、作者の強引な筆で何とか結末まで進められる。まとまりのかけらもない作品だが、書ききったという点を考えると、完成度はあまり高くないとはいえサスペンスとしては一応成功しているのだろう。その大きな要因は、劇画チックではあるが登場人物のキャラが立っているところにある。選考委員もよくこれを大賞に選んだな、と感心してしまった。
大村友貴美『首挽村の殺人』  選考委員の多くが指摘しているとおり、人物の描き分けができていない。主役級である滝本にしろ、彼の本当の姿を見せるような描き方ができていないから、最後で語られる真実の姿が唐突な結果になっている。視点の人物がころころ変わるのもマイナス。現代社会が抱える要素を横溝的世界に融合させようとした努力は買えるけれど、それだけだね。全体的に力不足。
テレビ東京賞 松下麻理緒『誤算』  どこにでもあるような設定といってしまっても言い過ぎではないだろう。ただまあ、登場人物の心情はそれなり細かく書かれているので、読んでいて退屈はしない。人物像が浮かんでこない点については困ったものだったが。それにしても、物語の展開もテンプレート過ぎるというのはどうにかならなかったのだろうか。それなりの完成度とはいえるだろうが、新人賞の応募作品としてはあまりにも弱い。
第28回(2008年)
大賞 受賞作なし
テレビ東京賞 望月武『テネシー・ワルツ』  物語としては一応まとまっている。ただそれだけ。主人公が殺人事件の謎を追いかける必然性に乏しいし、心情もほとんど書かれていない。調べていくと簡単に謎に手が届くというのはどうかと思う。追及の手がなくなると都合良く手掛かりや証拠の品は出てくるし、追われる方はどんどんぼろを出してくる。恐喝のネタについても、何も殺人までといいたくなるようなもので説得力に乏しい。犯人の正体に至ってはあまりにも唐突。結局、安っぽい2時間ドラマを見せられているとしか思えなかった。
第29回(2009年)
大賞・テレビ東京賞 大門剛明『雪冤』  情報量が多すぎてこなれておらず、詰め込みすぎによる消化不良を起こしている。両方の主張をそれなりに対比させて書いたことは評価できるけれど、逆に作者が訴えたかったことがまるで伝わらない結果になっている。さらに問題なのは、これでもかとばかりにどんでん返しが結末で続くこと。真相がめまぐるしく変わる内に、作者自身が目を回して倒れてしまったまま終わったような結末である。
優秀賞 白石かおる 『僕と『彼女』の首なし死体』  一応ミステリらしい謎はあるものの、後者については割と簡単に想像できる。ということで結局どんな分野かというと……なんだろう。青春小説の味に近い気がする。表紙のイラストも、多分それを狙っているのだろうなあ、と思った次第。嫌な描き方をするが、キャラクター小説でしかなかった。そのキャラクターを好きになれるか、嫌いになれるかでこの小説の評価が変わるだろう。
第30回(2010年)
大賞 伊与原新『お台場アイランドベイビー』  近未来、大震災後の東京を舞台にした社会派サスペンス。魅力的な設定。しかしここまで風呂敷を拡げて物語を終わらせることが出来るだろうかと心配にすらなったが、何はともあれ畳むことが出来た力業には感心した。その分、登場人物、特に主人公である巽丑寅、鴻池みどりたちの魅力が欠ける結果となってしまい、ダイナミックな物語を楽しむまで行かなかったのは残念。同じ舞台で、今度はストリートたちの痛快な犯罪小説を書いてほしいと思った。
優秀賞 蓮見恭子『女騎手』  事件のトリックは小粒なものだが、競馬の世界という舞台設定にはよく合っているとは思った。推理が全然無いのは少し気になる。また、事件の背景については、私が競馬オンチだからかもしれないが、説明を聞いてもよくわからなかった。舞台も登場人物も背景も、もう少し整理してほしかった。女性騎手が主人公でなかったら、受賞できなかっただろう。設定を生かし切れない未熟さを無くしてほしい。
テレビ東京賞 佐倉淳一『ボクら星屑のダンス』  天才少女という設定はありきたりだが、誘拐のアイディアは面白いし、それ以上に「星屑のダンス」が意味するところはなかなか感動できる。ただ、前半部は肝心なところを飛ばしながらの描き方になっており、作者が独りで先走った内容になっている。他にも突っ込みどころは非常に満載。アイディアに小説がついていかない、勿体ない作品である。
第31回(2011年)
大賞 長沢樹 『消失グラデーション』  トリック自体はミステリファンなら想像付きそうなものである。とはいえ、なんとなくこうだろうなあ、と思う程度のものであり、作者の全ての狙いを見破るのは難しいだろう。読んでいて危なっかしいところはある。首をひねる部分もある。今にもぐらついて倒れてしまいそうだ。そのギリギリの部分で作品が成り立っているのは素晴らしい。とはいえ、これは読者を選びそう。
第32回(2012年)
大賞 菅原和也『さあ、地獄へ堕ちよう』  登場人物の行動は無茶苦茶。一から十まで共感できない人たちばかり出てくる。特に主人公の行動原理がよくわからない。グロい描写が多い割にそれほど気持ち悪くないのは、作者の筆が良いのか、単に描写力が無いだけかがわからない。わからないことだらけだが、一部の読者を惹き付ける力はありそう。事件の真相を追いかけるのは後半からなのだが、面白かったのはむしろ異端な人たちが出まくる前半の方だったりもする。真相も今一つだったし。
河合莞爾 『デッドマン』  6人の身体の一部を切り取り、つなぎ合わせて甦らせるなんてストーリーだったが、実は骨格のしっかりした警察小説だった。リーダビリティは本当に抜群。キャラクター造形も脇役にいたるまでよくできている。いわゆるベストには選ばれないが、記憶に残る面白い作品である。
第33回(2013年)
大賞 伊兼源太郎『見えざる網』  テレビの街頭インタビューで異論を言ったら、命を狙われるようになったという展開は面白い。ただ登場人物の設定は都合がよすぎるし、事件の動機が首をひねるしかない。結末直前の無駄なアクションシーン、最後に繰り広げられる一昔前の大演説青春物語はなんなんだ、一体。せっかくの世界の広がりが、なぜここまでチープな展開で閉じなければいけないのか。前半と後半の落差がこれだけ大きいのも珍しい。
第34回(2014年)
大賞 藤崎翔『神様の裏の顔』  展開や構成はありきたりで、既視感は誰もが抱くだろう。とはいえテンポはよいし、元お笑い芸人らしいユーモアも悪くない。登場人物の描き分けもできているし、描き方も柔らかく、読んでいて嫌味に感じるところが無い。まあ逆の見方をすれば薄いという風になるかもしれないが、読後感は悪くない。結末には文句を言う人も多いだろうが、現実味としてはともかく、ミステリとしては悪くない着地点だと思う。新人でこれだけ書ければ十分だろう。
第35回(2015年)
大賞 受賞作なし
第36回(2016年)
大賞 木逸裕『虹を待つ彼女』 未読
第37回(2017年)
大賞 受賞作なし
優秀賞 染井為人『悪い夏』 未読
第38回(2018年)
大賞 受賞作なし
優秀賞 犬塚理人『人間狩り』 未読
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