片岡健『実録 死刑囚26人の素顔』(宝島SUGOI文庫)
発行:2026.4.17
私はノンフィクションライターなどと称し、これまでに様々な事件や裁判を取材し、記事や本を書いてきた。本書は、そんな私が刑務所や拘置所の面会室で会って取材したことがある死刑囚26人の実像をありのままに伝えることを目的に執筆したものだ。
手前みそで恐縮だが、死刑囚について書かれた本は数あれど、著者自身が会って取材したことがある死刑囚が本書程多く登場する本は他に無いはずだ。どれほど有名な死刑囚にも「実際に会って取材して初めてわかること」が必ずあるので、死刑囚や死刑制度に関心がある人が本書を読めば、新たな気づきや発見が必ずあるだろう。
(はじめに」の一部より引用)
【目次】
はじめに ~私はなぜ、死刑囚たちと会うのか~
巻頭 ビジュアル資料に現れた死刑囚たちの素顔
第一部 since 2007 会う前の印象と異なった死刑囚たちの実像
1人目 林眞須美(和歌山毒物カレー事件) 初面会・2007年6月27日
2人目 井上嘉浩(オウム真理教事件) 初面会・2010年1月4日
3人目 小泉毅(元厚生事務次官宅連続襲撃事件) 初面会・2013年2月14日
第二部 since 2013 どんな死刑囚も会ってみないとわからない
4人目 上田美由紀(鳥取連続不審死事件) 初面会・2013年9月14日
5人目 藤城康孝(加古川7人殺害事件) 初面会・2013年9月9日
6人目 小川和弘(大阪個室ビデオ店放火殺人事件) 初面会・2013年9月9日
7人目 筒井郷太(長崎ストーカー殺人事件) 初面会・2013年9月20日
8人目 新井竜太(横浜・深谷親族殺害事件) 初面会・2013年10月2日
9人目 桑田一也(静岡2女性殺害事件) 初面会・2013年10月3日
10人目 高柳和也(姫路2女性バラバラ殺害事件 初面会・2013年12月13日
【特別コラム】死刑判決を破棄された無期懲役囚たちの素顔
第三部 since 2014 死刑囚が死刑囚になった事情
11人目 西口宗宏(堺市資産家連続殺害事件) 初面会・2014年7月14日
12人目 鈴木勝明(大阪元社長夫婦ドラム缶遺体事件) 初面会・2014年7月15日
13人目 千葉祐太郎(石巻3人殺傷事件) 初面会・2014年8月6日
14人目 高橋明彦(会津美里町夫婦殺害事件) 初面会・2014年8月7日
15人目 奥本章寛(宮崎家族3人殺害事件) 初面会・2014年9月12日
16人目 伊藤和史(長野資産家一家殺害事件) 初面会・2014年11月6日
【特別コラム】会えなかった2人の死刑囚から届いた手紙
第四部 since 2016 普通でないことを普通に行う人たち
17人目 土屋和也(前橋高齢者3人殺傷事件) 初面会・2016年11月21日
18人目 植松聖(相模原知的障害者施設殺傷事件) 初面会・2017年10月24日
19人目 筧千佐子(関西連続青酸殺人事件) 初面会・2017年12月15日
20人目 林振華(蟹江町母子3人殺傷事件) 初面会・2018年9月18日
21人目 山田浩二(寝屋川中1男女殺害事件) 初面会・2019年2月8日
【特別インタビュー】山田浩二死刑囚の元妻・水海睦子さん 「私が死刑囚たちと結婚した理由」
第五部 since 2020 同じような死刑囚は一人もいない
22人目 川崎竜弥(浜名湖連続殺人事件) 初面会・2020年8月9日
23人目 岩間俊彦(マニラ連続保険金殺人事件) 初面会・2021年8月10日
24人目 小松博文(日立妻子6人殺害事件) 初面会・2021年8月10日
25人目 今井隼人(川崎老人ホーム連続転落死事件) 初面会・2022年4月6日
26人目 上村隆(姫路監禁殺害事件) 初面会・2023年4月21日
あとがきにかえて ~この世から消える死刑囚たちの家~
他に、死刑囚の面会内容に関わるコラムが以下である。
林眞須美の時代は今ほど行われなかった面会取材
「死刑執行は慎重にも慎重を期している」は本当か?
最高裁が死刑事件で慣例的に行う上告審弁論の実情
裁判で黙秘した死刑囚ほど面会室ではよく話す
「精神障害を装って無罪」は映画や小説だけの話
拘置所ごとに違う「面会可能回数」
警察はストーカー殺人を防げるか
冤罪を主張する被疑者が笑っている理由
服装に表れる裁判中の被収容者の人間関係
殺人犯には意外と「弱者」が多い
死刑囚たちはなぜ、絵が上手くなるのか?
金目的の殺人犯が狙うのは身近な人
「実名報道」を望んでいた犯行時少年の千葉祐太郎
死刑の現場で苦悩する刑務官たち
「殺人事件は主に親族間で起こる」説は死刑事件に該当しない
裁判所のHPに死刑判決がよく掲載されるようになった事情
使うつもりがなかった刃物で殺人犯になる者たち
何かと頼みごとが多い獄中者たち
「『後妻業』の女」が次々に男性を篭絡できた理由
悩みを誰にも相談できず、殺人犯になる者たち
死刑囚たちが訴訟を頻繁に起こせる理由
獄中者たちが文通で広げる友達の輪
犯人の無理な冤罪主張が目立つ死刑事件
重大事件とSNS、報道をめぐる考察
無実の人が「死刑もありえる罪」を自白する理由
現実にはほとんどない「アリバイ工作をする殺人犯」
ノンフィクションライターの片岡健が、自身が面会室で会って取材した、後に死刑囚となる被告人26人についてまとめたものである。
死刑が確定する前の「被告人(未決拘禁者)」であれば、親族以外でも面会できるのが原則(被告人自身が断らない限り)であるが、判決が確定してしまうと外部との接触は一律に制限されるようになる。死刑囚との面会は原則として親族に限定され、他は更生保護や訴訟準備などの理由があって拘置所長が許可する場合にしか面会できない。よって面会するのであれば、死刑が確定する前に行う必要がある。
多くのメディアは警察発表をそのまま記事にするだけであるし、自身で取材するにしてもどうしても扇情的な内容を求めることもあり、死刑囚(被告の頃に面会していますが、この表現で統一します)と直接会うケースは少なかった。死刑囚自身も自らのことを悪く書くメディアに不信感を抱いていて、面会を拒否することもあるだろう。そういう意味では、片岡健のようにどちらかに偏らず、ナチュラルな状態で取材をしてくれる、それをそのまま書いてくれる人は貴重なのだと思う。
なお片岡は、かつてはメディアによる面会取材が少なかったが、裁判員裁判制度が施行され、SNSが普及したことから、意に沿わない報道をされた者はSNSを使って容易に反撃できるようになったため、メディアも一方的な悪者扱いの報道はできなくなり、面会をして主張に耳を傾けるようになったと推測している。
本書に収録されている死刑囚の多くは、著者に対し普通に喋っている。本当に死刑囚なのかと疑うくらいだ。そしてメディアにはあまり出てこない内容も話している。
例えば林眞須美は著者に、一審で黙秘した理由を、子供たちに会いたくて早く裁判を先に進めたかった、と述べている(本人は無罪判決が出ると思っていた)。そして裁判の主張を怒涛のように話し始めたという。
小泉毅は自身のことや事件について、理路整然と語っている。
川崎竜弥は面会室では饒舌で、実は「無罪を主張していなかった」という。
報道とイメージが全く異なる死刑囚もいる。
例えば小川和弘のときは事件から5年も立っていることもあり、報道と全く異なった風貌であったことから別人と勘違いしたとのことである。そして小川は気が強く、冤罪をはっきり主張してきた。
高橋明彦は生活保護を知らず、犯行に及んだという。
伊藤和史が実際は被害者的な立場であったことは、メディアではほとんど触れられていない。
一方山田浩二については、実際に会うことにより、理解するのがますます難しくなったと述べている。
片岡は必ずしも死刑囚に寄り添った、なんでも死刑囚の話していることが正しい、と思いながら取材しているわけではない。
例えば無罪を主張する上田美由紀について、嘘をつかずに生きられない人間がいるのかもしれない、という感想を抱いている。
筒井郷太については、「無罪妄想」(死刑を免れるため、嘘の冤罪主張を続けるうちに本当に自分が無実だと妄想する病)に該当する可能性を感じる人物だと述べている。
鈴木勝明は冤罪を主張するも、核心をつく質問をすると目が泳ぎ、はぐらかすような答えしか出なかったという。
密かに冤罪だと思っている死刑囚として、新井竜太、岩間俊彦を挙げている。
特別コラムに登場する伊能和夫、君野康弘、平野達彦については、面会中の様子を回顧すると、自分が犯した罪を真摯に反省している者は一人もいなかった、と述べている。
会えなかった死刑囚とは、沖倉和雄と風間博子。沖倉は肺がん闘病中だったが、丁寧な断りの手紙とともに、送ったハガキや切手も返送している。風間はすでに死刑が確定していたが、大腸がんで医療センターに移送されていたとき、外部交通の制限が緩まり、返信の葉書をもらったという。
著者は鈴木勝明の稿において、死刑についてこう語っている。
死刑は「究極の刑罰」と言われるが、死を恐れない人間には無力だし、「死刑になりたかった」という動機で人を殺す者には、むしろ「ご褒美」になってしまう。しかし私は鈴木勝明に会ったとき、死刑はやはり「究極の刑罰」なのだと再認識させられた。
コラムも短いが、読みごたえがある。死刑囚についてのちょっとした疑問点に対し、著者なりの解答が与えられている。勉強になることも多い。
死刑とは何か。死刑囚とはどういう人物なのか。もちろん本一冊で語れるものではないが、この本はそんな疑問の答えの一つとなりうるものである。過去の著作である『平成監獄面会記』(笠倉出版社)や『絶望の牢獄から無実を叫ぶ』(鹿砦社)と被る部分はあるだろうが、死刑問題や死刑囚、犯罪実録に興味がある人にはぜひ読んでもらいたい一冊である。とくに文庫本サイズでお手軽に手に取ることができるのが嬉しい。
著者の片岡健は1971年、広島市生まれ。早稲田大学商学部卒業後、ノンフィクションのライターに。主に事件や裁判に関する取材、執筆を行っており、漫画原作も手がける。著作に『絶望の牢獄から無実を叫ぶ 冤罪死刑囚八人の書画集』(鹿砦社)、『平成監獄面会記 重大殺人犯7人と1人のリアル』(笠倉出版社)、『もう―つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)など(プロフィール紹介より引用)
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