本書は雑誌『創』に連載され、1988年6月、創出版より単行本として刊行された。現在では角川文庫(1993年初版)で容易に読むことが出来る。角川文庫版の解説は佐木隆三。
目次は以下。
第一章 死刑執行に立ち会うのは誰か
第二章 東京拘置所ゼロ番区
第三章 陸奥の刑場
第四章 力ずくの処刑
第五章 死刑囚とのきずな
第六章 法の無情
第七章 言い渡しをする立場
第八章 執行人家族の涙
第九章 連載は終わったものの
死刑囚について書かれたものは数多い。遺書も多く活字になっているし、手紙、日記などもかなりのものがある。けれども、刑務官、とりわけ死刑囚舎房担当および死刑を執行する刑務官について、本当のことが書かれたものは、ほとんどといっていいくらいないのではないだろうか。
冒頭にも言ったように、刑務官の服務規程には、「死刑の執行をする」という項目はない。けれども、刑務官研修所を出て、刑場付設の拘置所あるいは刑務所に採用された刑務官は、死刑囚舎房担当、あるいは死刑の執行官の役が割り当てられるという不運にあう。
ここにある通り、死刑を執行する刑務官についての文章はほとんどなかった。最近でこそ坂本敏夫『死刑執行人の記録 知られざる現代刑務所史』(光人社)、戸谷喜一『死刑執行の現場から』(恒友出版)が出版されたが、絶対数が少ないという事実に変わりはない。本書は“犯罪”“裁判”と“死刑執行”の隙間を埋める貴重な1冊である。
第一章は序文であり、死刑の執行に関わらなくてはならない刑務官という存在を浮き上がらせている。
ここで法務大臣が「死刑執行命令書」に押印するまでの過程が書いてあるので、抜き出してみる。
第二章は東京拘置所で刑務官を勤めたAさん、第三章は宮城刑務所で刑務官を勤めたCさん。第四章はDさん。第五章は福岡刑務所で刑務官を勤めたFさん。第六章は大阪拘置所で刑務官を勤めたHさん。いずれも嫌だ嫌だと思いながらも、転職先など見つからず、当然拒否など出来ず、刑務官を辞めることも出来ず、しかたなく首に縄を掛ける役目を果たすことになった人たちである。彼らは今も苦しんでいた。そして願う。「死刑を廃止して欲しい」と。死刑囚とのつながりも交えながら、彼らの声は泣き叫ぶかのように響いてくる。
第七章は東京、大阪拘置所で所長を務めたKさん。「執行命令書」を死刑囚の前で読み上げる立場である。彼もまた「いやだ、いやだ」と叫んでいた。叫びながらも「命令書」を読まざるを得なかった。
第八章は刑務官の娘であるLさん。父は夜中によくうなされていたという。「父の仕事がいやで、情けなくて、悲しくて、死にたいと思ったことも何度もあったんですよ」「死刑があるために傷つく人が多い」。胸に響く言葉は多い。
この本を読んで、どう思われるだろうか。「死刑はやはり反対だ」「死刑は絶対必要だ」「仕事なんだから、お金をもらっているのだから文句を言うな」「被害者のことを考えたことはあるのか」など、色々な意見があるだろう。どんな意見を持っても構わない。しかし、死刑を語る上で、死刑を執行する立場の人がいるという事実を忘れてはいけない。執行する人たちのことを知るためにも、本書は重要である。
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