無期懲役判決リスト 2012年




 2012年に地裁、高裁、最高裁で無期懲役の判決(決定)が出た事件のリストです。目的は死刑判決との差を見るためです。
 新聞記事から拾っていますので、判決を見落とす可能性があります。お気づきの点がありましたら、日記コメントなどでご連絡いただけると幸いです(判決から7日経っても更新されなかった場合は、見落としている可能性が高いです)。
 控訴、上告したかどうかについては、新聞に出ることはほとんどないためわかりません。わかったケースのみ、リストに付け加えていきます。
 判決の確定が判明した被告については、背景色を変えています(控訴、上告後の確定も含む)。



地裁判決(うち求刑死刑)
高裁判決(うち求刑死刑)
最高裁判決(うち求刑死刑)
39(3)
21(1)+2
17(5)+1

 司法統計年報によると、一審39件(控訴取下げ2件)、控訴審23件(棄却21件、破棄自判2件、公訴棄却1件、上告17件)、上告審21件。
 検察統計年報によると、一審確定10件、控訴取下げ確定2件、控訴棄却確定5件、破棄自判確定0件、上告取下げ0件、上告棄却確定21件。


【2012年の無期懲役判決】

氏 名
山口篤(45)
逮 捕
 2011年2月27日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、死体遺棄、詐欺、有印私文書偽造・同行使
事件概要
 村上市羽黒町の会社員山口篤被告は2010年12月28日午前2時半頃、同市山居町で就寝中の母(当時73)の胸腹部を包丁で3回突き刺し、両手で首を圧迫して殺害。母名義の銀行の預金証書6通(額面計約1350万円)と預金通帳4通(預金残高計399万円)、印鑑などを奪うとともに、2011年1月2日に遺体を同市今川の廃トンネルに遺棄した。さらに12月28日~1月7日の間で計3回、奪った母の通帳や定期預金証書を使い、現金計7,536,909円をだまし取った。
裁判所
 東京高裁 若原正樹裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年1月16日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 判決で若原裁判長は「出会い系サイト利用による借金返済のための身勝手な犯行で、刑事責任は極めて重大だ」と述べ、量刑不当の主張を退けた。
備 考
 2011年9月2日、新潟地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。上告せず確定と思われる。

氏 名
山岸秀一(65)
逮 捕
 2011年6月7日(自首)
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、強姦未遂、窃盗他
事件概要
 愛知県豊橋市の派遣社員山岸秀一被告は2011年6月6日夜、同市に住むアパート経営の女性(当時87)と公園で知り合い、女性の自宅に行ったがそこで強姦目的で襲い、抵抗されたため、午後6時半ごろ、首を絞めて殺害した。
 7日午前9時35分ごろ、山岸被告は愛知県警豊橋署に自首。署員は供述に基づき女性宅に駆け付け、死亡しているのを発見。山岸被告を緊急逮捕した。
裁判所
 名古屋地裁岡崎支部 久保豊裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年1月16日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2012年1月13日の論告で検察側は、強姦目的で抵抗する被害者を押し倒し、警察への通報を恐れて殺害した行為にためらいがなく、殺害後1時間にわたり窃盗目的で室内を物色していることから犯行は悪質▽被害女性に落ち度は無く、遺族の処罰感情が高い▽犯行後、遺体をベッドに上げて布団をかぶせ、眠っているように見せかけて犯行発覚を遅らせるための偽装工作をしている▽自首した後の取り調べで、強姦未遂や室内を物色したことは供述しておらず、反省して自首したわけではない▽刑務所を出所してわずか3カ月後の犯行で、再犯の可能性が高いことなどと述べた。
 同日の最終弁論で弁護側は、悪質性や身勝手さを認めた上で、殺害は計画的でなく衝動的であったこと。更生施設での生活態度はまじめで、更生の可能性はあるなどとして懲役15年が相当とした。
 山岸被告は、裁判長から「最後に言いたいことは」と聞かれると「罪に見合う刑を受けるつもり」と話した。
 判決で久保裁判長は、「残虐極まりない。動機は極めて自己中心的で身勝手」と指摘。事件翌日に自首した点などを考慮した上で、「法を守る意識が欠如しており、更生の可能性が乏しく、無期懲役は免れない」とした。
備 考
 控訴せず確定。

氏 名
城尾哲弥(64)
逮 捕
 2007年4月17日(現行犯逮捕)
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、公職選挙法違反(選挙の自由妨害)、銃刀法違反、火薬類取締法違反
事件概要
 指定暴力団会長代行城尾哲弥被告は、長崎市長選挙期間中だった2007年4月17日午後7時52分ごろ、JR長崎駅近くの選挙事務所前で、4選を目指して立候補していた伊藤一長・前長崎市長(当時61)の背後に忍び寄り、所持していた拳銃で銃弾2発を発射した。伊藤前市長は心配停止状態で長崎大付属病院に運ばれたが、午前2時28分、大量失血のため死亡した。城尾被告は選挙事務所関係者にその場で取り押さえられた。城尾被告は実弾26発を所持していた。
 城尾被告は2003年2月、工事中の市道で自分の車が路面の穴にはまり、破損する事故を起こしており、市に修理代60万円の支払い要求をした。その後、主張はエスカレートし、総額200万円以上を求めてきた。市は「賠償する責任はない」として拒否したが、電話や面会は2004年秋までに約50回に及んだ。城尾被告はこの件で伊藤前市長を刑事告発していたが、長崎地検は2004年に不起訴としている。
 このほか、城尾被告の知人が経営する建設会社が2002年、市の制度を利用して銀行から融資を受けようとして断られた件でも恨んでいた。2005年1月には知人の会社が市の解体工事から排除されたことで市に抗議、前市長あてに公開質問状も送っていた。
 城尾被告は犯行前、こうした不満について記した文書をテレビ朝日あてに郵送。消印は4月15日で、冒頭には「ここに真実を書いて自分の事は責任を取ります」との表現があった。
 また城尾被告は襲撃対象として金子原二郎長崎県知事を考えていたことも明らかになっており、事件の約3週間前には、金子知事の後援会事務所に「覚悟しろ」と脅迫めいた電話をかけていた。
 城尾被告は事件の5年前に約300万円あった預金が事件直前は約4万円にまで減るなど金銭的に困窮し、組で立場を失っていた。今回の事件で組織は全く関係なく、城尾被告は後に破門となっている。
 期日前や不在者投票などで前市長に投票した計1万5435票(全投票数の約8%)が無効になった。
 市長選(同22日)には、長女の夫で新聞記者の横尾誠氏(当時40)と市課長だった田上富久氏(当時51)が補充立候補。田上氏が953票差で初当選した。
裁判所
 最高裁第三小法廷 寺田逸郎裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2012年1月16日 無期懲役(検察・被告側上告棄却、確定)
 判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
裁判焦点
 被告側は有期懲役を求めて、検察側は死刑判決を求めて上告した。検察側は、市街地での発砲や行政対象暴力などの要素も加えて判例違反を主張した。
 寺田裁判長は、双方の主張を「刑事訴訟法の上告理由に当たらない」と退けた上で理由を付言。二審判決が<1>殺害の被害者が1人<2>経済的な困窮や病気から自暴自棄になる中で思い詰め、暴発した側面もある<3>政治的信条に基づく犯行でもなく、選挙妨害自体が目的でもない-として死刑を回避した点を「肯定できないわけではない」と述べた。一方で「不当な要求を長崎市に拒まれて市長を逆恨みし、当選を阻んで恨みを晴らすとともに、大事件を起こして自らを誇示しようとした行政対象暴力の極みだ」と犯行の悪質性にも言及。さらに「被害者の動向を探って拳銃を持ち歩いた計画的犯行。無防備の背後から銃撃し、冷酷、残忍で、付近には支援者や通行人もいて極めて危険性が高かった」とし、「被爆地の市長として核兵器廃絶を訴えてきた被害者の命を突然奪った結果は重大で、選挙妨害の結果も軽視できない。遺族の処罰感情は厳しく、社会に与えた影響も甚大だ」と批判した。そして「無期懲役の判断が量刑面で甚だしく不当とはいえない」と述べた。5人の裁判官全員一致の結論。
備 考
 城尾被告は「水心会」の前身の組の幹部だった1989年7月、「公表すれば問題になる写真を持っている」として当時の本島等長崎市長から1,000万円を脅し取ろうとした恐喝未遂事件の容疑者の1人として逮捕されている。
 知人であり、事件当日城尾被告を選挙事務所まで車で送った建設会社社長と、当日伊藤前市長の別の後援会事務所を見張って所在について連絡を取り合っていた無職男性が殺人ほう助の罪で逮捕された。しかし両人とも殺人について知らなかったと供述。長崎地検は立証が困難として不起訴処分にしている。
 ある男性は事件の2時間前、知人の長崎署刑事課の巡査部長の携帯電話に「城尾被告が午後8時ごろ、内部告発の文書を持って市長の選挙事務所に行く。恐喝未遂か選挙妨害にならないか」と連絡。巡査部長は「警察官を行かせないといけない。当直に電話する」と答えたという。 巡査部長は上司の警部補(係長)に報告したが、警察官を選挙事務所に派遣するなどの対応は取られなかった。県警は「通報には具体的な内容が乏しく、差し迫った緊迫感がなかった」として、対応が不適切だったとはいえない、としている。
 立候補した政治家が選挙期間中に殺害されたのは戦後初。
 2008年5月26日、長崎地裁(松尾嘉倫裁判長)で求刑通り一審死刑判決。2009年9月29日、福岡高裁(松尾昭一裁判長)で一審破棄、無期懲役判決。

氏 名
小林文弥(49)
逮 捕
 2009年7月3日(現行犯逮捕)
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、銃刀法違反
事件概要
 名古屋市北区の無職小林文弥被告は2009年7月3日午後7時ごろ、名古屋市北区の時計店に金を奪う目的で押し入り、居間でテレビを見ていた店主の男性(当時71)に包丁を突きつけた。男性が抵抗したため、小林被告は男性の胸を包丁で刺して殺害した。一緒にいた妻が悲鳴を上げ、2階にいた長男が降りてきて小林被告を取り押さえ、駆けつけた愛知県警北署員に引き渡した。
 小林被告はその時計店に一度しか行ったことがなく、男性との面識はなかった。
裁判所
 最高裁第一小法廷 桜井龍子裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年1月24日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 一審では誤想緊急避難として無罪を、二審では同居していた男性が共犯であるため事実誤認があると主張していた。
備 考
 同居していた男性は、別の詐欺事件で起訴されている。
 2010年12月17日、名古屋地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2011年6月22日、名古屋高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
小糸誠次(31)
逮 捕
 2011年4月11日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人
事件概要
 住所不定、無職小糸誠次被告は2011年4月6日午前2時すぎ、熊本市内で男性(当時63)の運転するタクシーに乗車し約3時間後、菊池市の野菜集荷場の倉庫前で男性の後頭部などを果物ナイフとカッターナイフで多数回刺し、タクシーのトランクに男性を閉じ込めた。現金約13,000円を奪い、乗車料金約14,000円を支払わなかった。その後、合志市の廃車置き場にタクシーを放置した。男性は出血性ショックで死亡した。
 小糸被告は4月5日深夜、宿泊中のホテル料金が払えず強盗を考えたが断念。熊本市内で男性のタクシーに乗り菊池市へ。料金が払えず、市内の母親の家に行くよう頼むも断られ、直後に襲いかかったものだった。
 6日午前7時頃、野菜集荷場を訪れた運送会社員が男性の携帯電話や血だまりを見つけ、110番通報。午後1時15分ごろ、タクシーと男性の遺体が見つかった。その後の調べで、犯行現場で若い男性の姿を付近住民が目撃していたことが判明。約1年前まで近くで働いていた小糸被告が浮上した。11日午後、捜査員が熊本市内にいた小糸被告を見つけ、事情を聴いたところ犯行を自供した。
裁判所
 熊本地裁 鈴木浩美裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年1月27日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2012年1月20日の初公判で、小糸誠次被告は起訴内容について、「殺意を持っていなかったことです」と殺意を否認した。
 冒頭陳述で検察側は、「元交際相手の女性とホテルを転々とし、所持金が尽きたため強盗を計画した」と指摘。当初はコンビニ店を狙い、被害者のタクシーで移動しながら犯行の機会をうかがったが、実行できなかったという。菊池市の倉庫で被害者から乗車料金を求められたため、犯行に及んだとした。そして「少なくとも10回は刺しており、トランク内で助けを求める男性そのまま放置した」などと指摘。殺意は明確であったと述べた。
 弁護側は、犯行現場の倉庫で、被害者が倉庫にあったナイフを被告に突きつけて、無賃乗車で通報すると迫ってきたことに激高したと説明。その上で、「精神的に追いつめられた上での犯行。被害者の抵抗する力も強く、死に至る重傷を負っているとは感じていなかった」と殺意を否定し、強盗致死罪に当たると主張した。
 1月23日の第2回公判でも、小糸被告は被告人質問で殺意を改めて否認。「男性にナイフで切られて、かっとなっていた」と話した。
 1月24日の論告で検察側は、小糸被告が男性の首を果物ナイフで少なくとも10回刺し、顔面を蹴り上げて脳挫傷を負わせた点を重視。「めった刺しと言っていい回数。命を絶とうとする以外、どんな意図があるというのか」と非難した。大量の出血を認めながらトランクに押し込み、また助けを求める男性を放置するなど、「残忍で無残な犯行。一生をかけて罪を償うべきだ」と述べた。同日の最終弁論で弁護側は、タクシー代を払えない小糸被告が男性と交渉しようとしたものの、男性が警察に通報しようとしたことで激高したとして「殺害の強い動機はなかった」と主張。トランクで男性が大声で叫んでいたことから、「けがの程度は大きなものではないと考えていた」と訴えた。そして、「頭に血がのぼって及んだ犯行は突発的で計画性はなく、殺意はなかった。強盗致死罪の成立にとどまり、懲役20年程度が相当」と主張した。遺族側の代理人弁護士は、小糸被告がトランク内に放置された男性が早期に発見されると思っていたとの主張などについて、「うそとしか思えず、可能な限り重い刑が下されることを望む」と述べた。
 判決で鈴木裁判長は小糸被告が男性の首の後ろなどを果物ナイフで多数回刺した点などを指摘し、「犯行は極めて残虐で、強い殺意が認められ、被害者が受けた絶望感や恐怖は筆舌に尽くしがたい」として、強盗致死罪の成立を訴えた被告側の主張を退けた。その上で動機について、タクシーの売上金や釣り銭用の現金を奪う目的で犯行に及んだと認定。また公判で小糸被告は、男性が手にした果物ナイフに切りつけられて激高したと主張したが、これに対し判決は「被害者がナイフを突きつける必要はまったくなく、非常に不自然な供述内容で信用できない」と批判。「被害者にも責任があるような虚偽の供述で遺族はさらなる精神的被害を受けた」と強く非難し、「自己の刑事責任を軽減しようとしており、事件に真摯に向き合い反省しているとは言えない」と述べた。
 鈴木裁判長は最後に「遺族に手紙を受け入れてもらえない理由と何ができるかを十分考え、被害者の冥福を祈ってほしい」と説諭。小糸被告は微動だにしなかった。
備 考
 熊本地検は今回、遺体の写真を証拠資料として裁判員に見せる際、最初にモノクロを見せた後にカラーの写真を提示。岡本哲人次席検事は「証拠を少しでも落ち着いて見てもらうため」と説明した。
 被告側は控訴した。2012年7月11日、福岡高裁で被告側控訴棄却。2013年10月21日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
白木基之(27)
逮 捕
 2011年4月23日(窃盗容疑。5月14日、強盗殺人、放火容疑で再逮捕)
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、現住建造物等放火、窃盗
事件概要
 無職白木基之被告は2011年4月21日午後4時ごろ、当時身を寄せていた甲府市に住む祖母(当時83)の自宅で、祖母の首を絞めて包丁で顔を刺し、キャッシュカードなどが入ったバッグを強奪。さらに体や室内に灯油をまいて放火し全焼させ、祖母を殺害した。翌22日、奪ったキャッシュカードを使い、現金307,000円を引き出した。
 祖母と白木被告と会社員の弟の3人暮らし。白木被告たちの父親は都内で働いており、定年退職を機に甲府市に戻り、祖母と一緒に暮らすこととなっていた。白木被告らはこれを前提に、数年前から祖母宅で生活していた。しかし白木被告は2月に建設会社を退職し、その後は就職を巡って祖母とたびたび口論していた。
 白木被告は事件後逃亡、盗んだ金を飲食とパチンコ等に使った。県警捜査員が23日夕、甲府市内のパチンコ店で発見し、甲府署に任意同行したところ、犯行を自供したため逮捕した。
裁判所
 甲府地裁 深沢茂之裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年1月27日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2012年1月18日の初公判で、白木被告は起訴事実を認めた。
 検察側は冒頭陳述で、「会社に勤めているという嘘が行き詰まって祖母の家を追い出されそうになり、犯行を決意した。動機や経緯に同情の余地はない」と指摘した。弁護側は起訴事実に争いはないとしながらも、「被告は心の底から反省している。なぜこの犯行に至ってしまったのかを考えることが、量刑を判断するうえで必要だ」と、慎重な審理を求めた。
 24日の論告で検察側は、白木被告が祖母を骨折させるほどの力で絞め、包丁で刺したり生きたまま焼死させたりしたと残忍性を指摘。「計画的な上、奪った金で飲酒やパチンコをしており人命を軽視している」と述べ、さらに「放火によって、近隣住民にも被害と不安を与えた。動機や経緯に同情の余地はない」と指摘した。
 同日の最終弁論で弁護側は、「被告人は前科前歴がなく、家庭外では誰かを殴ったこともない。事件については反省しており、再犯の可能性はない」として、寛大な判決を求めた。
 白木被告は最終陳述で「申し訳ございませんでした」と頭を下げた。
 判決で深沢裁判長は「金欲しさから祖母を殺害した。人間味に欠け、人命を軽視する態度は厳しく非難されるべきだ」と指摘。「孫である被告に愛情を注いでいたにもかかわらず、その被告に殺害される非業の死を遂げざるを得なかった。その恐怖、苦痛、絶望感は察するに余りある」と述べた。量刑理由について深沢裁判長は、「犯行で得た金で友人に食事をおごったり、パチンコをするなど、一人の命を奪った直後とは思えない行動を取っており、人命を軽視する態度は厳しく非難されるべきだ」と指摘。白木被告は反省しているとしたが、「刑事責任の重大性から、一生贖罪の生活を送らせるのが相当である」と述べた。
備 考
 控訴せず確定。

氏 名
飯嶋勝(35)
逮 捕
 2004年11月25日(自首)
殺害人数
 3名
罪 状
 殺人
事件概要
 茨城県土浦市の無職飯嶋勝被告は2004年11月24日正午頃、土浦市内の自宅で母(当時54)、姉(当時31)を包丁や金づちで殺害。さらに、同日午後5時半頃に帰宅した同市立博物館副館長の父(当時57)の頭を金づちで殴るなどして殺害した。母親の遺体近くには、おいにあたる姉の長男(11ヶ月)が座っていた。
 飯嶋被告は、職に就かないことを巡って父からしっ責され、口論になったことから殺害を考えるようになり、包丁や金づちを購入。犯行当日は、里帰り中の姉と口論になり、暴力をふるったのをきっかけに殺害を決意した。
 飯島被告は一夜明けた25日、「両親と姉を殺した」と通報。土浦署員が3人が殺されているのを確認、飯島被告を殺人容疑で緊急逮捕した。
 飯嶋被告は専門学校中退後、19歳ごろから自宅に引きこもっていた。
裁判所
 最高裁第一小法廷 白木勇裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2012年2月6日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 一審では心神喪失として無罪判決、二審では心神耗弱にとどまると逆転有罪判決が言い渡されていた。
備 考
 2008年6月27日、水戸地裁土浦支部で一審無罪判決。2009年9月16日、東京高裁で一審破棄、無期懲役判決。

氏 名
仲島健治(28)
逮 捕
 2011年7月14日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、銃刀法違反
事件概要
 福岡県築上町の無職仲島健治被告は2011年7月14日未明、客として乗車し、自宅近くに停車したタクシー内で、小倉北区に住むタクシー運転手(当時66)に果物ナイフを突きつけ現金を要求。抵抗されたため、胸や腹を数回刺して失血死させ、売上金など現金約11,000円を奪った。
 豊前署は事件から約1時間後、現場から約500m先の路上で上半身裸の仲島被告を発見。奪った現金や約1万円や返り血とみられる血液が付いたシャツなどをビニール袋に入れて持っていた。職務質問に対し犯行を認め、供述通りに近くの側溝から凶器とみられる刃物も見つかったため、逮捕した。
裁判所
 福岡地裁小倉支部 大泉一夫裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年2月9日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。主な争点は仲島健治被告の殺意の有無に絞られた。
 2012年2月6日の初公判で、仲島被告は起訴内容について「間違いない」と大筋で認めた。
 冒頭陳述で検察側は、仲島被告が犯行に及んだ経緯について、「パチンコで所持金がなくなり、タクシー強盗を計画」と説明。殺意については、男性の胸や腹などをナイフで8回も刺していることなどから、「確実に死ぬと認識したうえで刺した」と指摘した。一方、弁護側は「犯行当時は気が動転しており、確実に死亡させるまでの明確な意思はなく、未必的な殺意だった」と反論した。
 2月8日の論告で検察側は、仲島被告がパチンコなどで無計画に所持金を費やし、犯行に及んでいると主張。「胸や腹を狙って強い力で5回突き刺しており、殺意は確定的。動機、経緯に酌むべき点はなく、刑を減軽するほどの事情はない」と述べた。
 同日の最終弁論で弁護側は「脅して金を取るだけのつもりが抵抗されてパニックに陥り、深い傷を負わせてしまった。反省し、更生の余地がある」と訴え、30年以下の有期刑を求めた。
 最後に意見陳述を促された仲島被告は、傍聴席の遺族に向かって土下座し、「人として、してはならないことをした。僕にできることは償うことしかない」と涙ながらに謝罪した。
 判決で大泉一夫裁判長は「被告は被害者を複数回刺し、確実に死亡するとの認識があった。利欲目的の身勝手な動機に酌むべき点はない」と述べた。
備 考
 被告側は控訴した。2012年7月4日、福岡高裁で被告側控訴棄却。2012年10月24日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
安承哲(40)
逮 捕
 2009年3月27日(強盗事件で現行犯逮捕)
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、強盗殺人未遂、強盗、窃盗他
事件概要
 元警備員で韓国籍の安承哲(あんしょうてつ 日本名・安田亨)被告は2008年12月29日、東大阪市内でタクシー運転手の男性(当時67)の首などを刃物で切りつけて殺害し、約2万円を強奪した。2009年1月5日、松原市内で男性運転手(当時61)の首などに刃物で切りつけて重傷を負わせ、約25,000円を奪った。
 3月15日、大阪市東住吉区のコンビニエンスストアで現金約35万円を奪った。その後、周辺で未遂を含め2件のコンビニ強盗事件を起こした。
 3月27日午前0時50分ごろ、大阪市東住吉区のコンビニエンスストア(15日と同じ場所)に白マスクをして押し入り、レジにいた男性店員(当時19)にナイフを突きつけて脅し、現金約54,000円を奪って逃走。その直後、現場近くで東住吉署員が自転車に乗った不審な男を発見。男は容疑を否認したが、マスクや軍手などの所持品が目撃証言と一致したことから強盗の疑いで逮捕した。
 他に2件の強盗、窃盗事件がある。
 安承哲被告は月12万円の生活保護を受けながらパチンコに頻繁に通い、消費者金融に300万円近くの借金があった。
 大阪府警捜査一課は5月23日、強盗殺人未遂容疑で安承哲被告を再逮捕。6月12日、強盗殺人容疑で再逮捕した。
 6月15日、大阪地裁(小松本卓裁判官)で開かれた強盗事件の公判で、弁護側が安被告は過去に精神的な疾患での通院歴があると述べた。その後公判は停止し、強盗殺人事件他と一緒に裁かれることとなった。
 大阪地検は6月26日、本格的な精神鑑定のための鑑定留置を大阪地裁に請求し、認められた。当初3か月、その後1か月延長した鑑定結果、地検は「刑事責任能力が認められる」と判断し、11月10日に起訴した。
裁判所
 大阪地裁 村田健二裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年2月13日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2012年1月16日の初公判で、安承哲被告はコンビニ強盗などは認める一方、運転手2人の襲撃については「やっていない」と無罪を主張した。
 コンビニ強盗事件の冒頭陳述で検察側は、生活費などを得るために事件を計画したと主張した。弁護側は「被告は解離性同一性障害(多重人格)などの影響で、心神喪失もしくは心神耗弱の状態だった」と責任能力も争う姿勢を示した。
 弁護側は強盗殺人事件について「安被告は最後にタクシーに乗っているが犯人ではない」と主張した。
 判決で村田裁判長は強盗殺人について「犯人は運転手を背後の座席から刺した」と指摘。唾液のDNA型が一致するたばこの吸い殻が、タクシーの近くから見つかった点などと併せて「最後の乗客だった安被告が殺害した」と認定し、弁護側の無罪主張を退けた。同様に無罪を主張した強盗殺人未遂事件についても、重傷被害者の血が同被告の運動靴に付着していたことから、安被告の犯行と認定した。他の強盗事件について弁護側は刑事責任能力の有無と程度を争ったが、判決は完全責任能力を認定した。そして村田裁判長は「乗客を装った計画的で冷酷非道な犯行。短期間に2件のタクシー強盗を行うなど、犯行は悪質で反省の色もない」と非難した。
備 考
 被告側は控訴した。2012年9月25日、大阪高裁で被告側控訴棄却。2013年4月23日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
川俣浪男(60)
逮 捕
 2009年7月14日(殺人未遂容疑)
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、殺人未遂、死体損壊・遺棄、凶器準備集合、銃刀法違反(加重所持)、監禁他
事件概要
 茨城県潮来市の暴力団組員川俣浪男被告は無職O被告、無職S被告、解体業U被告と共謀。2009年6月15日午前11時半ごろ、那珂川町内の病院駐車場で拳銃や鉄筋棒などを準備して集合。午後1時25分頃、栃木県那須烏山市の民家敷地で借金取立中の無職UT被告、無職A被告、無職男性(33)を待ち伏せ、UT被告を殺害しようと発砲。銃撃戦となり、UT被告に右肩や右腹を撃って重傷を負わせるとともに、男性の右太股を拳銃で撃ち、重傷を負わせた。さらに男性をトランクに押し込んで発車。失血死により死亡させた。その後、男性の遺体をバラバラにし、頭部と手足を茨城県城里町の山林に、胴体を茨城県大子町の山林に遺棄した。
 那須烏山署捜査本部は7月13日、川俣浪男被告他を殺人未遂、銃刀法違反(加重所持)容疑で逮捕。8月3日、4被告を凶器準備集合容疑で再逮捕。さらにS被告らの供述に基づき8月25日、切断された頭部や両手足などが茨城県城里町の山林で発見された。そして26日、胴体が茨城県大子町の山林で発見された。9月1日、川俣被告ら6人が死体損壊・遺棄容疑で再逮捕、1人が死体損壊・遺棄容疑で逮捕。9月24日、川俣被告ら4人が殺人容疑で再逮捕された。
 UT被告は数年前に川俣被告と同じ暴力団を脱退。その後、川俣被告との間で「那須烏山市には入らない」と約束したが、借金の取り立てなどでたびたび同市内を訪れていたといい、川俣被告は「何度も縄張りを荒らされて、許せないという思いが積み重なった」と供述した。
 UT被告は川俣被告に対する殺人未遂容疑で、A被告は銃刀法違反容疑で逮捕されている。
裁判所
 最高裁第二小法廷 千葉勝美裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年2月13日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 一審宇都宮地裁は「危険極まりない犯行で、1人を死亡させた結果も重大だ。対立抗争を首謀して住宅街で白昼に銃撃戦を起こし、近隣住民にも不安を与えた」と指摘。二審東京高裁も支持した。
備 考
 最終的に6人が起訴された。また敵対側も2人が起訴された。
 逃走を手助けしたM被告は2009年11月18日、宇都宮地裁(小林正樹裁判官)で懲役1年8月、執行猶予3年(求刑懲役1年8月)が言い渡された。
 逃走を手助けしたK被告は2009年11月30日、宇都宮地裁(佐藤正信裁判官)で懲役1年6月、執行猶予3年(求刑懲役1年6月)が言い渡された。
 監禁致死の罪に問われたO被告は2010年7月1日、宇都宮地裁(井上豊裁判長)で懲役9年(求刑懲役13年)が言い渡された。被告側は控訴した。
 監禁致死の罪に問われたS被告は2010年7月30日、宇都宮地裁(井上豊裁判長)で懲役8年(求刑懲役12年)が言い渡された。
 死体損壊・死体遺棄、覚せい剤取締法違反などの罪に問われたU被告は2010年8月2日、宇都宮地裁(高島由美子裁判官)で懲役6年(求刑懲役7年)が言い渡された。
 敵対側で銃刀法違反(発射)の罪に問われたA被告は2010年3月19日、宇都宮地裁(池本寿美子裁判長)で懲役6年6月(求刑懲役8年)が言い渡された。控訴せず確定。
 敵対側で川俣浪男被告への殺人未遂などの罪に問われたUT被告は2010年11月12日、宇都宮地裁(井上豊裁判長)で懲役13年(求刑懲役17年)が言い渡された。
 川俣浪男被告は他に2007年6月15日、市貝町の工場で那須烏山市の男性(当時60)を殴るなどし、アパートまで来るまで無理矢理連行して監禁。更に暴行を加えて約3週間の怪我を負わせた恐喝未遂、傷害、逮捕監禁罪で別に起訴された。2010年8月6日、宇都宮地裁(井上豊裁判長)は懲役2年6月(求刑懲役4年)を言い渡した。
 2010年7月15日、宇都宮地裁で求刑通り一審無期懲役判決。2011年1月か2月に東京高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
野地卓(26)
逮 捕
 2008年4月15日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、強盗殺人未遂、銃刀法違反他
事件概要
 福岡市の無職野地卓被告は2008年3月25日18時30分頃、同市城南区で女性会社員(当時31)に果物ナイフ(刃渡り約10cm)を突き付け現金を要求。応じなかったため、胸や腹などを突き刺して重傷を負わせた。その後バックを探ったが、金目の物がなかったためそのまま逃走した。
 また4月14日19時頃に同市早良区のアパート前で、無職女性(当時78)から金を奪おうと果物ナイフで首などを多数回刺し失血死させた。悲鳴を聞いて駆け付けた男性が、女性のそばに立っていた野地被告をいったん羽交い締めにしたが、野地被告は振りほどいて逃走した。似顔絵や、現場近くに残されていた自転車から野地被告の指紋が出たことから捜査本部は15日午後2時前、自宅から出て来た野地被告に任意同行を求め、事情を聴いたところ殺害したことを認めたため、同夜、強盗殺人などの容疑で逮捕した。
裁判所
 福岡高裁 川口宰護裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2012年2月16日 無期懲役(検察・被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2011年8月9日の控訴審初公判で、検察側は「一審判決は量刑不当」と改めて死刑が相当とした。また検察側は「被告が社会復帰すれば同じようなことが起こる。死刑にしてほしい」とする遺族の意見を陳述した。弁護側は「殺害時はパニックで一過性の精神病状態だった」などと改めて刑事責任能力が欠けていたと主張。「一審で行われた2度の鑑定には、精度に問題がある」と、3度目となる新たな精神鑑定の実施を高裁に請求した。
 10月11日の公判で、川口宰護裁判長は「被告は事件当時の記憶がないと言っており、必要性がない」などとして、弁護側の精神鑑定請求を却下した。
 11月29日の公判で弁護側は「事件時、被告は緊張病型興奮でパニック状態にあり、刑事責任能力がない状態だった」と主張。自白の信用性もないとした。一方、検察側は「強い力で執拗にナイフを突き刺しており、確定的殺意を有していたことは明らか」と指摘。「今も被告に反省の態度はない。無期懲役とした一審は軽きに失する」と改めて死刑を求め、結審した。
 判決で川口裁判長は、被告が直前まで事件を起こさずに済む方法を模索していたことなどから、「犯罪性の強い人格だと決め付けることはできない」と指摘。真摯な反省が見られないことについても、知的能力の低さや成育歴などによるものだと述べた。そして「何の落ち度もない女性を狙った通り魔的犯行で極めて悪質だが、計画性は認められず、更生の可能性もまだ残されている」として、一審判決を支持した。
備 考
 2011年2月2日、福岡地裁で求刑死刑に対し一審無期懲役判決。上告せず確定。

氏 名
清水精二(67)
逮 捕
 2009年5月28日(現行犯逮捕)
殺害人数
 2名
罪 状
 殺人、傷害
事件概要
 埼玉県吉川市の無職清水精二被告は2009年5月28日午前9時50分ごろ、同市内の自宅敷地内にある納屋付近で、同居していた内縁関係の無職女性(当時67)を包丁で刺殺し、同じく同居の無職男性(当時65)も首などを刺し、約半年後に死亡させた。さらに、外出先から車で戻った同じ敷地内の母屋に住む土木作業員の男性(当時56)の左肩を刺して軽症を負わせた。男性は外へ逃げて110番通報し、駆けつけた吉川署員が逮捕した。
 清水被告と女性は約5年前から敷地内の納屋2階で生活していた。木造2階の母屋は清水被告が建設会社に寮として貸しており、軽症を負った男性ら従業員5人が入居していた。後に死亡した男性は元従業員であったが会社を解雇されてホームレスとなっていたところを女性に誘われ、数日前から納屋に移り住んでいた。
裁判所
 最高裁第二小法廷 須藤正彦裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年2月20日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 一審で被告は無罪を主張。弁護側はアルコール依存症による責任能力を争ったが否定されている。
備 考
 2010年11月22日、さいたま地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2011年9月13日、東京高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
遠藤正巳(54)
逮 捕
 2010年7月9日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、窃盗他
事件概要
 住所不定無職遠藤正巳被告は2009年9月9日午後7時25分ごろ、愛知県岡崎市の書店駐車場で、同県幸田町に住む会社員男性(当時45)の乗用車の窓を割って手提げかばんを盗んだが男性に見つかり逃走。追ってきた男性の左胸をナイフで刺し、出血性ショックで死なせた。
 現場に残された警棒から販売ルートを捜査し、遠藤被告が浮上。捜査本部は2010年6月、遠藤被告から事情聴取を行ったが、その後遠藤被告は行方をくらました。7月9日、岡崎市内の駅で発見し逮捕した。
 遠藤被告は弟に見張りをさせて車上荒らしを繰り返しており、2004年9月~2010年6月、岡崎市や豊川市で乗用車12台から現金計約286万円とバッグなど計86点(時価約85万円相当)を盗んだ。
裁判所
 最高裁第三小法廷 田原睦夫裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年2月27日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 遠藤正巳被告は一・二審で、殺意はなかったと強盗致死罪の成立を主張している。
備 考
 遠藤被告の弟は、強盗殺人事件時の見張りを含め計4件について窃盗罪で起訴された。2010年12月14日、名古屋地裁岡崎支部(丸田顕裁判官)は懲役1年8月(求刑懲役4年)の実刑判決を言い渡した。丸田裁判官は量刑理由で、「常習性は極めて高く、実刑は免れない。役割は従属的で、強盗殺人への関与は認められない」と述べた。なお弟が逮捕された時の容疑は、兄の逃走を助けたとされる犯人隠避容疑であったが、「自分も事件にかかわり、逃げる必要があった」として、不起訴(起訴猶予)となっている。
 2011年5月16日、名古屋地裁岡崎支部の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2011年10月13日、名古屋高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
若生康貴(36)
逮 捕
 2011年2月28日(死体遺棄容疑。3月22日、強盗殺人容疑で再逮捕)
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、死体遺棄
事件概要
 金沢市に住むNHK金沢放送局の元委託カメラマン若生康貴被告は2011年2月6日午後9時35分から翌7日午前2時16分の間、金沢市かその周辺に駐車した乗用車内で、株の投資資金として、金沢市に住む主婦の女性(当時27)から株の投資名目で預かっていた800万円の運用益などの返済を免れようと、刃物で左首を刺して殺害し、遺体を内灘町の海岸砂浜に埋めた。若生被告と女性は3年前から知り合いだった。
 2月6日の午後10時ごろ、主婦の両親が金沢市福増町のショッピングセンター駐車場で、車を発見。翌日、金沢西署に捜索願を提出した。
 石川県警は2月7日に若生被告へ最初に任意聴取を実施。17日、県警は逮捕監禁容疑で若生被告の自宅を家宅捜査し、主婦の血痕が残っていた乗用車を押収した。18日午前6時頃、若生被告は後頭部を刃物で刺して自殺を図り、意識不明の重体となって県立中央病院(金沢市)に入院。24日、内灘町大根布の砂浜で、女性の遺体が見つかった。
 2月28日、石川県警は若生被告を死体遺棄容疑で逮捕。3月22日、強盗殺人容疑で再逮捕した。
裁判所
 金沢地裁 神坂尚裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年3月2日 無期懲役
 判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
裁判焦点
 裁判員裁判。若生康貴被告は逮捕段階から一貫して無罪を主張している。主な争点は、(1)若生被告が女性を殺害して、遺体を遺棄したのか(2)若生被告は女性に800万円の借金があったか(3)仮に若生被告が女性を殺害したとして、目的は借金返済を免れるためだったか――など。
 2012年2月9日の初公判で、若生被告は「すべて事実ではありません」と無罪を主張した。
 検察側は冒頭陳述で、2010年11月、若生被告は女性から投資資金として現金800万円を預かり、少なくとも300万円を宝くじなどに使ったとし、女性から返済を催促されたため、2011年2月に殺害し、石川県内灘町の海岸に遺体を遺棄したと主張。若生被告の車内に女性のDNA型と一致する血痕が大量に付着していた、当時、勤務していたNHK金沢放送局内にあった若生被告のベストなどから、同様に女性の血液が検出された、若生被告が事件後、妻にアリバイ工作を依頼した、女性とのメールや札束の写真を削除した、自宅のパソコンで「血の臭い 消す」「殺人 懲役」「海岸 白骨」などと検索したことなどから「被告が殺人・死体遺棄の犯人」と結論づけた。また、殺害により金銭的利益を得たという強盗殺人罪の成立要件に絡み、「女性は800万円の返済を繰り返し求めて断られていた。返済を免れるため殺害した」とし、同罪が成立するとした。
 弁護側は、若生さんは事件に巻き込まれた」と主張し、第三者の存在を挙げ、検察側とは全く異なる事件の経緯を述べた。検察側の「預かった金の返済を迫られていた」との主張に対し「女性に紹介された男から仕事を依頼されて現金を受け取ったが、女性からは借金をしていない。返済を迫られてもいない」と反論。若生被告は、男性からギャンブル必勝法のホームページ作成などを依頼されたほか、札束の写真、くじ、ナイフの購入などを頼まれ、500万円を受け取ったとした。その後、男性から金の返済を迫られ、2月6日夜は、内灘海岸で男性らに脅されていたと主張。男性と車内に戻った若生被告は「(後部座席を示し)こうなるよ」「女性には連絡するな」などと男性から告げられ、後部座席の血痕付着に気付いたとした。その上で、▽遺棄現場や遺体に若生被告と結びつく毛髪や足跡などがない▽殺害場所とされる車内には、血痕以外に女性の指紋や毛髪がない▽若生被告の自宅にあった衣服や靴から女性の血や毛髪などが見つかっていない--などを挙げ、「犯人ならあっていいものがない」と疑問を投げかけた。また、検察側が主張した妻への「アリバイ工作」は否定。逮捕前に自殺を図ったことや、携帯電話や検索履歴の消去などは「犯人と疑われ、うろたえて困惑した行動にすぎない」と主張した。最後には裁判員らに「検察側の主張が弁護側の疑問を解消するか、厳重にチェックしてほしい」と訴えた。
 14日の第4回公判では、事件当時、若生被告の妻だった女性が出廷。証人尋問で元妻は、事件当夜の若生被告の行動について、当初は県警の事情聴取に「覚えていない」と答えたが、記憶がよみがえったので「外出した」へと変わったと説明。また元妻は「(調書の内容は)間違っていたが、警察官から厳しい口調で怒鳴られ、話を合わせた」とし、若生被告からのアリバイ工作依頼を否定した。検察側は、元妻が「(警察官の誘導により)若生被告が犯人にされる」と不満を感じたのに複数回の任意での聴取を拒否せず、同内容の供述をした点を強調し、公判供述の信用性に疑問符をつけた。元妻は「私は若生被告と一緒に生活していて、そんなことは絶対にしないと知っている」と、声を詰まらせた。
 また同日の公判では、女性の母親も出廷。「娘は株式投資のため800万円を若生被告に預けており、(事件当夜)『NHKのお兄ちゃんからお金を返してもらう』と言って家を出た」と証言。また、夫と翌7日にNHK金沢放送局を訪ねて若生被告と面会した際の模様を説明。「若生被告は『夕べは自宅にいた』と答えた」と、述べた。夫が、投資話について聞くと「僕は株をしません」と答え、夫は「『株』と言ってはいない」と違和感を覚えて追及したと述べた。
 15日の第5回公判では、若生被告の知人女性が出廷。証人尋問で、事件の約1週間後に若生被告から電話で女性の職場に電話するよう頼まれたと説明。女性は「女性から職場に連絡があれば、うそだと分かる」と指摘すると、若生被告は「多分、彼女は連絡してこない」と答えたという。女性は昨年10月ごろ、拘置所の若生被告から受け取った手紙の内容を証言。「女性本人ではなく、同じ職場の女性と名乗って連絡してくれと頼んだ」など、女性の捜査段階の供述と異なる内容を公判で話すよう念押しされたと証言した。
 20日の第7回公判では、女性の父親が証人尋問で、「娘から『(若生被告が)NHKにいて知り得た情報で、(株を買って)もうける』と聞いた。(NHKと聞いて)信用した」と証言した。当日、NHK金沢放送局は「被告はそのような情報を知り得る立場にはなかったと考えている」とコメントした。
 21日の第8回公判では、当時の若生被告の妻が証人尋問で「被告が逮捕前『誰かにはめられた』と話していた」と述べ、弁護側の主張する、事件への第三者関与に絡む証言をした。一方、検察側は捜査段階の聴取では元妻がそのような証言をしていなかったと指摘。信用性に疑問を投げかけた。地裁はこの日、元妻の検察官調書の信用性を認めて証拠採用した。、また弁護側証人として出廷した若生被告の母親は、若生被告にこれまで1000万円以上援助したことを明かし、昨年1月には、若生被告から「自宅の土地購入代として900万を貸してほしいと頼まれ、断った」と述べた。
 22日の第9回公判で、若生被告は被告人質問で第三者に事件に巻き込まれたとして無罪を主張。そのうちの1人は「女性の“元彼”(元交際相手)」などと述べ、男性について「関西なまりの言葉を話し、長髪」などと特徴を挙げたが、特定につながる情報はあいまいな表現に終始した。検察側は、「開示された捜査資料を見て(存在を)主張したのではないか」と反論した。
 23日の論告で検察側は、若生被告の車内から見つかった女性の血や、女性が行方不明になる直前、「NHKのお兄ちゃんに会う」と言い残したとする母親の証言などから、「被告以外に犯人は考えられない」と主張。女性が行方不明になった後、若生被告が知人に女性のふりをして電話をかけるように依頼したとして、「犯人でないなら説明できない」と指摘した。女性が若生被告に渡したとされる800万円を巡るやり取りについても、「女性は口止めされ、多くを語っていないが、返してもらうため頻繁にやり取りをしていた」とし、若生被告が女性から催促されていたとした。そのうえで、検察側の証拠開示から5か月後、弁護側が明らかにした、女性を介した第三者の男性関与の主張は「手持ちの証拠に合わせた後だしのストーリー。信用できない」と語気を強め、「被告の話はおとぎ話。ウソのストーリーで、被告が殺害した犯人であることは明らかだ」と断じた。
 最終弁論で弁護側は、事件当夜、若生被告は女性に会っていないとしており、検察側の立証については、「若生被告が犯罪を実行したことが証明されていない」と立証不足を主張。女性の行方が分からなくなって以降の若生被告の行動について「不安と困惑の中の行動で、犯罪行為を証明するものではない」とした。女性が若生被告に返金を迫っていたとする検察側に対し、離乳食に関する2人のメールのやり取りなどを挙げ、「全く緊張感がない」と疑問を投げかけた。当初、第三者の男性の存在を黙秘したことについては「黙秘権は憲法で保障された当然の権利」と説明。弁護側が第三者を証明する責任はないとし、「あやしいというだけで処罰されてはならない」などと刑事裁判の原則を何度も強調した。
 若生被告は、最終意見陳述で「貴重な時間を費やしてくださった裁判員の皆様に感謝を伝えたい。ありがとうございます」と話し、何度もおじぎをした。最後は「私はできるだけの説明をしました。あとは審議を待ちます。よろしくお願いします」と、落ち着いた様子で述べ、深々と頭を下げた。
 判決で神坂裁判長は〈1〉若生被告の車に女性の血が付いていた〈2〉遅くとも午後11時までに死亡したとされる女性が午後9時過ぎ、母親に「NHKのお兄ちゃんに会いに行く」と告げて行方不明になった--ことを挙げ、「被告が犯人であることに極めて強く結びつく」と判断した。さらに、女性の行方不明直後、若生被告がパソコンで「殺人 懲役」「海岸 白骨」と検索したことを「被害者が殺害され、海岸に遺棄された状況を把握していることをうかがわせる」と評価。若生被告の元妻へのアリバイ工作や、知人女性への女性の生存を装う電話の依頼を認定し、「犯人でなければ説明が極めて困難」と指摘した。弁護側による第三者による犯行との主張は、初対面で500万円を渡されたなどとする若生被告の説明が不自然として認めなかった。女性が殺害、遺棄された状況については、「目撃者の証言など直接証明する証拠がなく、完全に解明するのはそもそも困難」とし、「関係場所や推定される死亡、遺棄時刻は相当程度の幅があり、時間的にも十分可能」と結論づけた。神坂裁判長は量刑理由で、事件後のアリバイ工作や一貫して否認した被告の姿勢について、「自らの犯した罪から目を背け続け、反省の態度は全く見られない」とし、「残りの人生全てでもって罪を償わせるのが相当」と述べた。
備 考
 被告側は控訴した。2012年10月30日、名古屋高裁金沢支部で被告側控訴棄却。2013年3月6日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
村上友隆(47)
逮 捕
 2009年10月15日
殺害人数
 0名
罪 状
 集団強姦致傷、強姦致傷、強姦、逮捕監禁他
事件概要
 東京都立川市の無職村上友隆被告は、アダルト系のSNS(交流サイト)で女性乱暴関連のスレッドに「助手がほしい」などと書き込んで仲間を募り、応じてきた男とメールでそれぞれ連絡を取って、2人1組で2001年10月~2008年9月までの間に、20~30代の女性計5人を車に連れ込み、別の場所で乱暴。また他に1件の暴行事件がある。村上被告の他に埼玉県上尾市の無職KS被告、横浜市の無職KK被告、千葉市の土木作業員NK被告が逮捕された。
 起訴された事件は以下。
  • 2001年10月、村上被告と?被告(未確認)は女性を強姦した。
  • 2002年7月、村上被告とKK被告は東京都武蔵村山市内で、深夜に路上を歩いていた女性を車に連れ込み、瑞穂町内の公園駐車場まで連れて行き、車内で女性を強姦した。
  • 2002年10月2日午後11時頃、村上被告とNK被告は立川市の路上で帰宅途中の30代の女性をナイフで脅した上、麻酔作用のある液体を染み込ませた布で口元を押さえて失神させて乗用車に乗せた。その後、立川市にあった村上被告の当時の自宅に連行し、集団暴行した。女性は薬品で6ヶ月の顔面熱傷を負った。
  • 2003年7月、村上被告とKK被告は東京都立川市内で、深夜に路上を歩いていた妊娠中の女性を車に連れ込み、瑞穂町内の公園駐車場まで連れて行き、車内で女性を強姦した。
  • 2004年7月中旬、村上被告とKS被告は青梅市内の30代女性宅に侵入。ナイフで女性を脅して乱暴しようとした際、手首に4日間のけがをさせた。
  • 2008年9月下旬、村上被告とKS被告は立川市内の路上を歩いていた30代の女性をワゴン車に連れ込み、手足などに2週間のけがを負わせたうえ、粘着テープで縛り監禁。村上被告の自宅で乱暴した。
裁判所
 最高裁第三小法廷 岡部喜代子裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年3月6?日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 二審で被告側は量刑不当を訴えている。
備 考
 村上友隆被告は1994年にも強姦で懲役3年6ヶ月の実刑判決を受けており、事件は服役を終えた3年後であった。
 KK被告は2009年11月11日、東京地裁立川支部(毛利晴光裁判長)で懲役9年(求刑懲役13年)判決。被告側控訴が棄却されたものと思われる。
 KS被告は2009年12月11日、東京地裁立川支部(原田保孝裁判長)で懲役13年(求刑懲役15年)判決(裁判員裁判)。
 NK被告は2010年3月28日、東京地裁立川支部(毛利晴光裁判長)で懲役7年(求刑懲役10年)判決(裁判員裁判)。
 2010年3月18日、東京地裁立川支部の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2010年8月30日、東京高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
引寺利明(44)
逮 捕
 2010年6月22日(現行犯逮捕)
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、殺人未遂、銃刀法違反
事件概要
 引寺(ひきじ)利明被告は2010年6月22日午前7時33分ごろ、広島県広島市南区のマツダ宇品工場にマツダ社製のファミリアで侵入。約8分間、時速40~70㎞で暴走、急発進や急ターンを繰り返し、通勤途中だった同社社員の男性(当時39)が死亡、1人が顔面骨折や脳挫傷などで重体となり、右目を失明した。また1人が重傷、9人が軽傷を負った。引寺被告は車で工場北門から逃走し、約20分後に自ら110番通報。県警が府中町内で車と男を発見。車内に包丁も所持しており、殺人未遂と銃刀法違反の疑いで現行犯逮捕した。
 引寺被告は3月25日、6カ月契約の期間社員として入社。研修を経て、4月1日から宇品工場でバンパー製造の日勤業務に当たっていたが、同14日に「一身上の都合」として退社した。実働したのはわずか8日間だった。
 引寺被告は父親がマツダの元社員で、無類の車好き。高校卒業後には自動車部品メーカーに勤め、その後も大半は派遣社員や契約社員として、自動車関連の職場で勤務していた。一方、車には多額のお金をつぎ込んだ。この5年間でスポーツカーなどを4台ほど買い替えており、2年前には多重債務を抱えて自己破産していた。事件当時は別の自動車部品メーカーで勤務していた。
 7月12日、広島県警は引寺利明被告を殺人容疑で再逮捕。広島地検は、精神鑑定のための鑑定留置を広島簡裁に請求、7月27日付で認められた。約3カ月間の精神鑑定で、物事の是非・善悪を識別する能力(責任能力)があったと判断し、10月29日、引寺被告を起訴した。
裁判所
 広島地裁 伊名波宏仁裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年3月9日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。裁判の争点は、▽責任能力▽殺意の有無▽暴走が殺人などの実行行為に当たるか▽引寺利明被告が事件後に110番した行為が自首に当たるか、に絞られた。また公判前整理手続きでは、検察側の鑑定結果を不服とする弁護団が地裁に再鑑定を請求。広島地検は請求を認め、2011年8月3日、引寺利明被告を10月31日まで鑑定留置すると発表した。
 2012年1月26日の初公判で、引寺利明被告は「8人目までは認めるが、9人目以降は覚えていない」と起訴内容の一部を否認した。死亡した男性は11番目に車に衝突された。また、「マツダ従業員の集団ストーカー行為が原因で、原因がなければ事件は起きなかった」と述べた。また検察側、弁護側の冒頭陳述が終わると、手を挙げて裁判長に発言を求め、「裁判員に心構えを言いたい」と切り出して、「無理に裁判官になろうとしなくていい。評議の時は素人なりの考えを述べてほしい」と注文。被害者への謝罪の言葉はなかった。
 検察側は冒頭陳述で、精神鑑定結果から「完全責任能力があった」と主張した。動機について「同僚の嫌がらせをマツダが容認していると思い込み、秋葉原事件のような事件を起こせばマツダの評判が落ちると考え犯行に及んだ」と指摘。「40~70㎞のスピードで暴走し、包丁も使おうと思っていた。殺意があった」とした。
 弁護側は意見陳述で、犯行時、被告は心神喪失の状態で無罪だと主張。仮に責任能力があったとしても、車を人にぶつける行為は殺人罪に当たらないと主張し、「傷害、傷害致死罪が限度だ」と述べた。
 第8回公判までは、事件の被害者や目撃者21人が証言。第9回は解剖医や警備員が証言。
 2月10日の第10回公判で110番の受理などを担当していた元県警通信指令課員の男性が証人として出廷。分単位の時間を巡り、検察・弁護側が衝突した。
 13日の第11回公判で、引寺利明被告の知人3人が証人出廷し、事件の計画性や動機について証言した。引寺被告とかつて畑賀峠(府中町)で車を共に走らせたという男性は事件直後、引寺被告から「ワシは秋葉原を超えた」などという内容の電話を受けた。「『マツダへの長年の恨みを晴らした』と言っていた。普段より比較的、冷静な声だった」と説明した。
 14日の第12回公判で、引寺利明被告が「嫌がらせを受けた」と訴えている元同僚の男性が証人出廷し、「嫌がらせ」の存在を否定した。引寺被告は証言中に突然立ち上がり、顔を紅潮させ興奮した様子で「嘘をつけ」などと大声で怒鳴り、男性に向かおうとし、刑務官に慌てて制止された。
 16日の第13回公判で、引寺利明被告が被告人質問で殺意を強調。動機についても「複数の同僚による嫌がらせが事件の原因」とこれまでの主張を繰り返した。また暴走時は「建物の位置を把握していた」としているが、8人目の被害者をはねた後の行為は初公判時と同様、「覚えていない」とした。
 17日の第14回公判では、犯行時の精神状態を2回目に調べた鑑定医が証言。妄想性障害とした上で、「妄想に支配されておらず、犯行は性格による影響が大きい」と責任能力を認めた。
 21日の第15回公判では、起訴前に被告の精神状態を調べた鑑定医の証人尋問があり、引寺被告について、生活上の変化に対応できない「適応障害だった」と述べ、起訴後の鑑定医が診断した「妄想性障害」と見解の違いを見せた。しかし、「思考などに異常はみられない」と責任能力は認めた。
 22日の第16回公判では、亡くなった男性の妻が、夫の死を受け入れられない心境などを語った調書が読み上げられた。事件で右目を失明した社員の妻が将来への不安などを語った調書も紹介された。引寺利明被告が亡くなった男性の妻に宛てた手紙が証拠採用され、検察官が朗読したが、「保険金など数千万円が入っているだろ。わしに感謝せい」などと遺族感情を逆なでする言葉が並び、反省や謝罪はなかった。引寺被告は、手紙について「わしの本心です」とした。マツダでリスクマネジメントを担当する常務執行役員も証人出廷。引寺被告が主張する「社員による集団ストーカー行為」について、社員らに聞き取り調査をしたが確認できなかったなどと証言。「遺族や被害者の気持ちを最大限考慮し、厳正な司法判断を望む」と述べた。
 24日の論告で検察側は、引寺被告は事件を起こしてマツダの評判を失墜させようと考え、出勤時間帯を狙って車を暴走させたと指摘。「秋葉原事件のように無差別に殺そうと思ったと供述しており、殺意は明らかだ」と述べた。「包丁を用意するなど計画性があり、自分の行動をコントロールしていた」とし、被告に刑事責任能力があったと主張。死刑を求めなかった理由は、「精神疾患の影響を考慮すれば、矯正の可能性がないと言い切れず、極刑は躊躇せざるを得ない」と述べた。
 同日の最終弁論で弁護側は、車で人をはねる行為が殺人行為に当たらない可能性を、けがの程度やこれまで被害者や目撃者の証言から説明。「亡くなった結果から罪名を決めるのは危険」などと主張。「『ある程度の速度でぶつけると死ぬだろう』という漠然としたイメージしかなかった」などとし、殺意も否定した。そして、心神喪失による無罪を主張した。
 論告に先立ち、死亡した男性の父親らが意見陳述し、父親は「今も息子が横たわる姿が頭を離れない。私たちの願いは極刑しかない」と訴えた。
 引寺被告は最終意見陳述で、「この瞬間まで事件を起こしたことを後悔していない。捕まるまで暴走し、包丁を振り回せば良かった」とし、「無期懲役で仮釈放されれば、再びマツダに突っ込む」と述べた。そして、「事件に相当する判決をしてほしい。減刑は望んでいない」と裁判員に注文した。さらに「集団ストーカー行為」の真相が解明されていないなどとし、「どんな判決であろうと100%控訴する」と述べた。
 伊名波裁判長は判決で、2回行われた精神鑑定のうち、起訴後鑑定の診断を採用。被告が「社員による集団ストーカー行為を会社が放置した」と主張する動機について、妄想性障害が影響したと認定した。しかし、突入直前に周囲に迷惑をかけることに葛藤を抱くなど健全性は残っていたとし、決行には攻撃的な性格や人生観が大きく影響しており、完全責任能力はあったとした。動機については「マツダへの怒りを募らせ、事件を起こしてダメージを与えてやりたかった」と指摘。さらに被告は犯行後、秋葉原の無差別殺傷事件を超えたと知人に話し、法廷でも「殺してやるとの気持ちだった」と供述するなど、「殺意は明らかだ」とした。また、死刑選択も検討される事案だが、妄想性障害の影響を考慮すると死刑選択がやむを得ないとまでは言えないと結論づけた。
備 考
 マツダ労働組合(組合員約2万人)は2010年7月5日、広島市南区で臨時大会を開き、同社で働く期間社員を組合員化することを正式に決めた。最初の契約期間の満了後に、契約を更新した期間社員が対象。臨時大会には代議員計345人が出席し、冒頭に事件を受けて黙とう。大会後、高松俊二執行委員長は、引寺被告がいた職場の聞き取り調査を行ったことを明らかにし、「いじめなどはなかったことを確認した。職場運営の面でも正社員と区別されるようなことはなかった」と述べた。
 亡くなった男性の遺族と、負傷した11人は広島中央労働基準監督署に労災を申請した。労災は通勤途中の災害にも適用される。
 被告側は控訴した。2013年3月11日、広島高裁で被告側控訴棄却。2013年9月24日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
中嶋邦彦(67)
逮 捕
 2011年3月19日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、現住建造物等放火
事件概要
 佐賀県唐津市の無職中嶋邦彦被告は2011年3月9日午前1時半ごろ、自宅近くに住む男性(当時79)宅に侵入し、現金約18万円と預金通帳などを奪った後、男性の頭を鈍器のようなもので2回殴り、灯油をまいて放火。木造平屋住宅を半焼させ、男性を一酸化炭素中毒死させた。中嶋被告は普段から、一人暮らしの男性方に出入りしていた
 中嶋被告は逃走したが、19日にJR唐津駅付近で唐津署員に見つかり、逮捕された。
裁判所
 佐賀地裁 若宮利信裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年3月12日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。中嶋被告は「軽度の知的障害」との鑑定結果が出ている。
 3月5日の初公判で中嶋被告は、「初めから殺すつもりはなかった」と起訴内容を一部否認した。
 検察側は冒頭陳述で「被害者が目を覚まし、顔を見られたため、口封じのために殴って、放火し殺害した」と指摘した。弁護側は「殴った時は殺意はなかったので、強盗殺人罪ではなく、強盗傷害罪と殺人罪だ」と主張した。
 8日の論告求刑公判で、検察側は論告で、「確実に殺害して強盗の証拠を全て消そうと放火した」と、殺意の明確性を強調。「無抵抗の高齢者を情け容赦なく殺害しており、残虐非道」と非難した。
 同日の最終弁論で弁護側は、「殴打は衝動的で殺意はなく、強盗傷害の証拠を消そうと思い、放火した」として殺人、強盗傷害の両罪の適用を訴え、懲役20年を求めた。
 判決理由で若宮利信裁判長は「一連の強盗行為の中で、殺意をもって被害者を殴り放火しており、強盗殺人罪が成立する」と認定。「殴った時点で殺意はなかった」と、強盗傷害と殺人罪にとどまるとした弁護側の主張を退けた。そして「自己中心的で残忍な犯行で、刑事責任は重大」と述べた。
 また、若宮裁判長は裁判員の総意として「自分の命がある限り、被害者の冥福を祈り続けてください」と説諭した。
備 考
 被告側は控訴した。2012年7月18日、福岡高裁で被告側控訴棄却。上告せず確定と思われる。

氏 名
安藤健治(34)
逮 捕
 2011年8月31日(死体遺棄容疑。9月23日、強盗殺人容疑で再逮捕)
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、強制わいせつ致死、死体遺棄
事件概要
 大分市の無職安藤健治被告は、2010年8月31日午後6時半から同7時半までの間、別府市の山道で、温泉旅行中だった神戸市に住む看護師の女性(当時28)の首を手で絞め、体を触るなどした上で、金属製工具のレンチで頭を数回殴りつけて殺害。現金約39,000円と財布、携帯電話など16点が入ったショルダーバッグ(時価合計約165,000円相当)を奪い、スカートを脱がせるなどのわいせつ行為を働いたのち、遺体を捨てた。
 安藤被告は2010年6月頃まで、川崎市でとびの仕事をしていたが、「身内に不幸があった」と会社に告げ、別府市の母親の自宅に戻った。犯行当日は母親の乗用車を運転して露天温泉付近に行き、湯を訪れていた女性を襲った。
 安藤被告はその後川崎市に戻ったが、2011年5月20日に川崎市の女性宅に侵入し、顔を殴って現金19,000円入り財布を奪ったとして、神奈川県警に逮捕され、傷害、窃盗罪などで横浜地裁川崎支部に起訴された。
 安藤被告は犯行日当日の8月31日、料金未納で止められていた携帯電話代を支払って通話を再開し、翌日には女性の携帯電話から契約者情報を記録した「SIMカード」を抜き取り、自分の携帯電話に差し込んで風俗サイトに接続していた。しかし事件の関与への発覚を恐れ、その後は使用しなかった。大分県警は2011年5月、安藤被告がカードを使用したことを突き止め、女性の遺体に付着していたDNA型が安藤被告のものと一致したことから、8月31日に死体遺棄容疑で逮捕した。9月23日、強盗殺人容疑で再逮捕した。
裁判所
 大分地裁 西崎健児裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年3月14日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。主な争点は量刑のほか、被告が殺意と強制わいせつの意思を抱いた時期。大分地検は取り調べの全過程を録音・録画する全面可視化を行ったが、検察、弁護双方とも取り調べの様子を収めた14枚のDVDなどは証拠請求しなかった。供述調書は証拠請求されたが、任意性に争いはない。
 3月6日の初公判で安藤健治被告は起訴内容をおおむね認めたものの、「金品は奪うつもりだったが、わいせつ行為をする意思も、殺すつもりも最初はなかった」と殺意の生じた時期などについて争う姿勢をみせた。
 検察側は冒頭陳述で「被害者が目を覚まし、顔を見られたため、口封じのために殴って、放火し殺害した。非道で酌量の余地はない。今後も凶悪な事件を起こす可能性が高い」と指摘した。弁護側は、首を絞めたのは当初は意識を失わせる目的。意識を取り戻さないためうろたえ、もし生きていたら通報されると思い直し、殺意を抱いてレンチで殴った」などと主張。強制わいせつについても「あくまで衝動的なもの」と計画性を否定。「殴った時は殺意はなかったので、強盗殺人罪ではなく、強盗傷害罪と殺人罪だ」と主張した。
 7日の第2回公判で行われた被告人質問で、安東被告は弁護側の質問に対し、「自分の身勝手さで殺してしまい、申し訳ない」などと謝罪の言葉を述べた。しかし、その後に行われた検察側の質問で、わいせつの意思が生じた時期についての質問に対し、安藤被告は「どっちでもいいです」などと声を上げ、証言台を手で押し倒した。このため、審理は午後3時15分頃に一時中断し、そのまま打ち切りとなった。
 8日の論告求刑公判で、検察側は「3分以上も強い力で首を絞め続け、殺意は明白。首を絞めながらスカートを下ろすなど、最初からわいせつの意思があった」と指摘。「非道で酌量の余地はない。更生は不可能に近い」と述べる一方、「計画性がなく、一貫して犯行を認めている」として死刑を求刑せず、「刑務所で一生をかけて罪を償うべきだ」と主張した。
 同日の最終弁論で弁護側は、「強盗目的で意識を失わせるためだけに首を絞めており、わいせつ目的も当初はなかった」と主張。「安易な成り行き任せの行動に非難があってしかるべきだ」と訴えつつも、「逮捕時から一貫して認めており、捜査にも協力した。毎晩手を合わせるなど反省し、謝罪の言葉も述べている。温情のある判決を賜りたい」と情状酌量を求めた。
 判決で西崎裁判長は、「被害者をナンパしようとして断られると、先回りして待ち伏せし、携帯電話の料金を滞納していたこともあり、強盗と強制わいせつの目的で背後から襲った」と認定。レンチで殴った時点で強い殺意があったと指摘した。「極めて悪質で、殺人の犯行態様は残虐。自己中心的な動機に酌量の余地はない。遺族が被告に対する極刑を求めるのも当然。再犯の恐れも高く、生涯刑務所に服役させ、一生かけて反省を深め、罪の償いをさせるのが相当」とした。
備 考
 裁判員裁判の対象事件で、取り調べの全過程を録音・録画する全面可視化が行われていることが明らかになったのは、全国でこの事件が初めて。
 控訴せず確定。

氏 名
堤貴顕(31)
逮 捕
 2011年3月13日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人
事件概要
 京都市左京区の堤貴顕被告は2011年3月12日午後5時30分ごろ、薬剤師として働いていた薬局の上司で管理薬剤師の女性(当時36)の首や胸などを包丁で刺殺した。
 女性の夫が13日未明に「妻が帰宅しない」と府警川端署東一条交番に届け出た。同店の警備会社警備員と共に店を訪ね、午前2時15分ごろ、血まみれで倒れている女性を見つけた。110番を受けた同署員が一緒に勤務していた堤被告を自宅に訪ねたところ「包丁で刺した」と認め、かばんから血が付いた包丁を取り出したため、逮捕した。
 精神鑑定のため3月31日から鑑定留置が行われてきたが、地検は刑事責任能力があると判断し、8月19日、殺人罪で起訴した。
裁判所
 京都地裁 笹野明義裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年3月16日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2012年3月13日の初公判で、堤貴顕被告は起訴事実を認めた。
 冒頭陳述で検察側は、堤被告は、事件のあった薬局をチェーン展開する会社に2010年4月に入社する前に在籍していた大学院で、指導教員との関係がうまくいかずに退学した挫折経験や、入社後、10年秋までに、好意を寄せていた女性と疎遠になったことなどで「自暴自棄になり、誰でもいいから人を殺そうと考えるようになった」と指摘した。そうした中、堤被告は誰かを殺害する目的で包丁などを購入。2011年2月頃から山科区の路上などで通行人を襲おうとうろつき、事件直前にも別の同僚を狙っていたとし、事件当日は、背後から切りつけた後、「ごめん、許して、まだ死にたくない」と懇願する女性の腹部や胸部などを何度も刺したとした。
 被告人質問で堤被告は「(被害者は)別に○○さんじゃなくてもよかった」と述べたが、動機や遺族への謝罪の意思に関する質問には「黙秘します」と繰り返した。一方、弁護側は、事件には広汎性発達障害の傾向や統合失調症の疑いがあることが影響しているとした。
 14日の公判で、起訴前に堤被告の精神鑑定を行った医師らが証人として出廷。医師は証人尋問で、「刑事責任能力に問題はない」としたうえで、前日の初公判で「(被害者は)別に○○さんじゃなくてもよかった」と述べた堤被告の犯行について、「被害者の事情より、確実に殺すという自分の事情を優先させた」と述べた。
 被害者参加制度に基づいて女性の夫が意見陳述し、「被告は、生きたいと願う妻のすべてを奪った。二度と妻のような被害者を出さないでほしい」と極刑を求めた。
 同日の論告で検察側は、大学院での挫折や好意を寄せていた女性との破局で自暴自棄となった堤被告が、他人に責任を転嫁する性格から他者に攻撃が向いたと指摘。無差別殺害を企て、職場で2人きりになった女性を襲い、命乞いにも耳を貸さずに刺し続けたと指摘。「被害者の苦痛や絶望は想像を絶し、遺族が峻烈な処罰感情を抱くのも当然だ。更生の可能性も低い」と述べた。
 同日の最終弁論で弁護側は、「事件の背景は分からないが、刑務所に入れて排除するだけでいいのか。社会に再び受け入れる機会を与えられないか考えて」と主張した。
 判決理由で笹野裁判長は、堤被告が恋愛の破局などを機に誰でもいいから殺害しようと包丁を持ち歩いて犯行の機会をうかがっていたと認定。命乞いにためらうことなく、めった刺しにした犯行を「際だって卑劣で残虐」と断罪。「無差別的で理不尽極まりない犯行。経緯や態様は殺人罪の中でも極めて悪質」と述べた。 弁護側は、広汎性発達障害などによるコミュニケーション能力の低さが影響したと主張したが、笹野裁判長は「量刑上考慮するほどではない」と退けた。そして公判で謝罪せずに黙秘を続けた態度によって遺族感情も悪化したと指摘し、「酌むべき事情を最大限考慮しても無期懲役に処するほかない」と結論づけた。
備 考
 被告側は控訴しない意向。

 時期は不明だが、服役中に自殺している(2023年11月時点での情報)。

氏 名
川下誠(45)
逮 捕
 2011年5月5日
殺害人数
 2名
罪 状
 殺人、銃刀法違反、窃盗
事件概要
 鹿児島県指宿市の無職川下誠(かわした)被告は、2011年5月2日午後10時10分ごろ、自宅アパートの隣に住む経営者男性(当時74)方で、滞納していた家賃の支払いを免れるため、男性と妻(当時73)の背中などを刃渡り10数cmのペティナイフで刺して殺害した。
 川下被告は2010年7月、アパートに入居。同年4月に関東地方の自動車部品製造会社に勤務して以降、事件当時まで職には就いておらず、車を売るなどして生活費に充てていた。2011年2月以降、月額約30,000円の家賃を滞納しており、事件当日夜、経営者男性方前で偶然男性と出会い、家賃支払いの督促を受けていた。
 川下被告は犯行後、男性方から現金約36,000円と軽自動車(約30万円相当)などを盗んで北九州市に逃走。5日、自ら「指宿の事件の犯人です」と110番して窃盗容疑で逮捕された。2人の殺害についても認め、県警は13日に強盗殺人、銃刀法違反容疑で再逮捕した。肥後屋穣治県警捜査1課長は、再逮捕した13日の記者会見で、2項強盗を適用した理由として〈1〉2月以降の家賃を滞納していた〈2〉家賃を支払うよう繰り返し催促されていた〈3〉催促を受けている最中に殺害行為に及んだ--ことを挙げた。
裁判所
 鹿児島地裁 中牟田博章裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2012年3月19日 無期懲役
 判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
裁判焦点
 鹿児島地裁は公判前整理手続きで、起訴状の動機などが分かりにくいと指摘。鹿児島地検は2011年12月、動機を「滞納家賃の支払いを免れようと」から「支払わないまま居住し続けようと」、不法の利益を「滞納家賃と同額相当」から「支払わないまま居住し続けられる」にそれぞれ変更した。
 裁判員裁判。争点は、検察側が主張する「滞納家賃等を支払わずにアパートに住み続ける」という殺害動機と、殺害で得る利益が、強盗罪の構成要件である財産上不法の利益を得た「2項強盗」(刑法236条2項)にあたるのか、強盗殺人罪が想定する「経済的利益」に当たるかどうかに絞られた。
 2012年3月5日の初公判で、川下誠被告は「2人を殺害したのは間違いないが、滞納家賃を免れようとか思っていなかった」などとし、殺害を認めて謝罪はしたが強盗目的での殺害を否認した。
 検察側は冒頭陳述や証拠調べで動機について、「アパートに住み続けるためのある程度の期間の猶予を得るため」と主張。「数日間の猶予」が財産上不法の利益にあたると主張した。川下被告の妻が、母親から再三、金銭援助を受けていたことを強調。「ある程度の期間の猶予」は、「妻の母から金銭援助を受けるために必要な日数だった」と指摘した。
 弁護側は冒頭陳述で、「計画性はなかった」と突発的な犯行であったと主張し、殺人と窃盗罪の適用を求めた。
 6日の第2回公判で、川下被告が捜査段階で強盗目的を認めた供述調書の採否が争われた。弁護側は供述調書について「被告が検察官の誘導に相づちを打つことで作成され、任意性がない」と主張。検察側は任意性を立証するため、取り調べを録音録画したDVDを約40分間再生。映像には、検察官が作成した調書の読み聞かせに対し被告が「不満はありません」と答える姿が映っていた。被告人質問で川下被告は「何を言っても聞いてもらえず仕方なく相づちを打っていた」と主張。裁判員らは約2時間協議し、任意性を認め調書を採用した。
 7日の第3回公判で夫婦の二男が「許せない。死刑にしてほしい」と証言した。一方、川下被告の妻は「家賃滞納を免れる目的であれば(川下)誠(被告)は私を連れて夜逃げしていたはず」と述べ、弁護側は強盗目的の殺害を改めて否定した。
 8日の論告で検察側は、川下被告と裁判員を交互に見ながら「子供や孫から慕われ、幸せな生活を送っていた2人の尊い命が問答無用で奪われた」と非難。最高裁が死刑判断の基準を示した永山基準や、山口県光市の母子殺害事件の判例と照らし合わせながら「死刑を回避すべき事情はない」と結論づけた。
 同日の最終弁論で弁護側は、「強盗目的ではなかった」と殺人罪と窃盗罪の適用を主張。そして突発的な事件だったことを強調し「計画性がなく、逃走後は自ら110番し出頭した。反省しており、終生罪を償わせるべきだ」と死刑の回避を求めた。
 最終陳述で、中牟田博章裁判長から「最後に何か言いたいことはあるか」と問われた川下被告はまっすぐ立ち、検察官の後ろに座る遺族に体を向け、頭を深々と下げ「本当に申し訳ございませんでした」と謝罪した。
 判決で中牟田博章裁判長は、焦点となった動機について、「動機の中心は男性から滞納家賃(4カ月分12万4千円)の支払いを督促され、退去を迫られた状況から逃れたいという欲求や怒り」と指摘。自白調書における、法廷で流された取り調べの一部の映像約40分について、強盗目的を認める取り調べの様子そのものではなく、検事調書がほぼ完成したころにすぎないと言及。「検察官の誘導に同意するだけだったり、検察官から二つの案を示され二者択一で選んだりした内容が調書化された様子がうかがえる」と述べ、川下被告が強盗目的を認めた自白調書を、「数日間住むために殺害するのは唐突で、内容に見過ごせない不合理な点があり、虚偽とは言えないまでも、信用できない」と否定。「支払いを免れて住み続ける明確な目的があったとは認められない」として、強盗殺人罪ではなく、殺人と窃盗罪にとどまると判断した。
 その上で前科がないことや計画性の低さを挙げ、「極めて短絡的に2人の命を奪った身勝手な犯行に、酌むべき事情はないが、計画性はなく、突発的な犯行で、他の殺人事件と比べ、極めて重大と評価するのは困難。死刑がやむを得ないとするのは、ためらわれる」と述べた。
備 考
 控訴せず確定。

氏 名
池本賞治(47)
逮 捕
 2011年5月20日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、殺人未遂、現住建造物等放火
事件概要
 指定暴力団山口組弘道会系の組長池本賞治被告は、組員M被告と共謀。2010年9月3日午前0時45分ごろ、M被告へ指示して、名古屋市のキャバクラでガソリン入りペットボトルに火を付けて投げさせ、系列店の店長男性(当時27)をやけどによる感染症で死亡させ、女性従業員ら2人に、約2週間から2か月間のやけどを負わせた。放火当時、同店には従業員ら22人がいた。
 事件より約2時間前の午後11時過ぎ、M被告らは同店内で「バックはおるんだろう。シマ(縄張り)を荒らすな」などとどなって出入り口のドアガラスを蹴り破るなどした。
 事件後、池本被告やM被告らは破門となっている。
 愛知県警は2011年4月29日、広島県尾道市にいた池本被告、M被告ら6人を、暴力行為等処罰法違反(集団的暴行など)容疑で逮捕。5月20日、6人のうちの池本被告、M被告、もう1名と、別の売春防止法違反罪で起訴された1名が、殺人や現住建造物等放火などの疑いで再逮捕された。同日、名古屋地検は、暴力行為処罰法違反容疑で逮捕された6人のうち池本被告ら3人を器物損壊などの罪で名古屋地裁に起訴し、M被告ら他の3人は処分保留とした(7月29日、不起訴処分)。6月10日、名古屋地検は池本賞治被告とM被告を殺人や現住建造物等放火などの罪で名古屋地裁に起訴した。共犯として逮捕した2人については、「現時点では起訴できる証拠はない」として処分保留とした(2012年3月30日、不起訴処分)。
裁判所
 名古屋地裁 手崎政人裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年3月22日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2012年3月12日の初公判で、池本賞治被告は「トイレに火をつけろと指示したが、(店全体を燃やす)暴挙は指示していない」と殺人と殺人未遂を否認した。
 検察側は冒頭陳述で、池本被告はM被告に「店を燃やせ」と指示し、店内まで同行。客や従業員が多くいることを知っていたが放火を止めなかったと主張した。
 弁護側は池本被告が店に入る直前、M被告に対してトイレに放火するよう指示したと主張。「M被告が店の中央に火をつけようとしたので『やめろ』と叫んだが、同時に火が上がった」と述べ、「殺意はなく、傷害致死と傷害に当たる」と述べた。
 19日の論告で検察側は、動機について、暴力団との付き合いを拒んだ被害店舗の風俗店グループが、自分の組の縄張りに進出したことに対する報復として襲撃したと指摘した。また「被告は狭い店内で引火性の高いガソリンを使用するなど、『ガソリンで放火すれば人が死ぬ』と分かっていた」として殺意があったと主張した。そして、「暴力団特有の身勝手な論理から、見せしめとして敢行した、無差別的で極めて凶悪、残忍な犯行」と述べた。
 この日、死亡した男性の両親が意見陳述。「あなたが死をもって償っても許すことができない」と声を震わせて極刑を求めた。検察側は、当初から明確な殺人目的ではなかったこと、一部被害者と示談が成立したことなどから、死刑を求めなかったと説明した。
 同日の最終弁論で弁護側は「M被告に対して店のトイレだけに放火するよう指示したが、指示が誤解された」などと述べ、傷害致死にとどまると主張して寛大な刑を求めた。
 判決は事件の背景として、池本被告が暴力団との付き合いを拒絶する被害店舗の風俗店グループに腹を立てていたと認定。手崎政人裁判長は「被告は勢いの強い火を見ても慌てておらず、人が死ぬかもしれないと思っていた」と殺意があったと認定した。そして、「暴力団の意に沿わない者への制裁や報復という側面があり、反社会的な動機で酌量の余地はない」と述べた。
備 考
 暴力行為等処罰法違反(集団的暴行など)容疑で逮捕、起訴された元幹部の男性は、2011年8月19日、名古屋地裁(水野将徳裁判官)で懲役2年・執行猶予4年(求刑懲役2年)の判決が言い渡されている。そのまま確定と思われる。
 暴力行為等処罰法違反(集団的暴行など)容疑で逮捕、起訴されたとび職の男性は、他の窃盗事件と合わせて審理され、2011年11月29日、名古屋地裁(伊藤納裁判官)で懲役3年6月(求刑懲役4年6月)の判決が言い渡されている。
 共犯のM被告は2012年3月8日、名古屋地裁(手崎政人裁判長)の裁判員裁判で懲役30年判決(求刑無期懲役)、控訴せず確定。

 被告側は控訴した。2012年11月15日、名古屋高裁で被告側控訴棄却。2013年3月19日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
岩崎和幸(59)
逮 捕
 2011年7月9日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、殺人未遂、銃刀法違反
事件概要
 指定暴力団道仁会系組幹部・岩崎和幸被告は氏名不詳者と共謀し、指定暴力団九州誠道会系組長を襲撃するために2011年4月5日昼、佐賀県伊万里市内の病院玄関前で待ち伏せしていた。しかし組長と誤認して指定暴力団九州誠道会系元組長(当時66)に拳銃を計3発発射し、うち1発を命中させて重傷を負わせ、追いかけてきた組幹部の男性(当時57)に1発発射し、射殺した。2人は知人の見舞いに来た帰りに銃撃された。
 佐賀など4県警の合同捜査本部は、銃撃した男が熊本ナンバーの軽乗用車で逃走したという目撃情報などから7月9日、熊本市の組に所属する岩崎和幸被告を殺人他の容疑で逮捕した。その後、逃亡の手助けや、逃走した車を処分したなど、殺人や殺人ほう助、証拠隠滅などの疑いで計7人が逮捕されたが、いずれも処分保留で8月12日までに釈放され、その後嫌疑不十分で不起訴となった。
裁判所
 佐賀地裁 若宮利信裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年3月23日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2012年3月16日の初公判で、岩崎被告は「殺すつもりはなかった」と起訴事実を一部否認し、弁護側は傷害致死罪の適用を求めた。
 検察側は冒頭陳述で、道仁会と九州誠道会による対立抗争事件が背景にあると指摘。動機については、2011年3月29日に福岡県久留米市で、道仁会関係者の乗った車が襲撃された事件を挙げて、「その報復であり、手柄を立て組内での地位を上げるためだった」と主張し、「組長を殺害するつもりで準備した拳銃で、追ってきた組幹部も撃っており、殺意があったのは明らか」とした。
 一方、弁護側は「岩崎被告は昨年1月に組を破門されており、幹部を殺害すれば、組に復帰できると思い、犯行に及んだ」とし、「逃走しようとした際に、左脇腹をつかまれ、振りほどきながらとっさに拳銃を発射しており、組幹部に対する殺意はなかった」との理由で、傷害致死罪にあたると訴えた。
 21日の公判で、死亡した組幹部の妻が意見陳述した。妻は「こんな意味のない抗争事件をやめてほしい。やめさせるためにも(岩崎被告に)厳しい罪を科してほしい」と訴え、死刑を求めた。またこの日の被告人質問で、検察側から「組の上の人間から指示されたのでないか」と聞かれた岩崎被告は、「(質問に)答えたくありません」と黙秘した。弁護側の殺意に関する質問に対して、「(幹部に)左脇腹をつかまれ、逃げるためにとっさに撃った。殺すつもりはなかった」と答え、殺意を改めて否定した。
 22日の論告で検察側は、手柄を立てるために抗争相手の組幹部を殺害しようとしたとして「暴力団特有の論理で、人の命を軽んじ反社会的」と断定。組織ぐるみの計画的な犯行とし「白昼堂々、病院という公共の場で周囲に配慮せず発砲した」と危険性を指摘した。同日の最終弁論で弁護側は「偶発的」と有期刑を求めた。
 判決で若宮裁判長は、「胸部付近を狙って至近距離から発砲した」と殺人罪の成立を認めた。そして、岩崎被告が所属する組の維持のために、組織的に抗争相手の射殺を計画したとして「抗争相手を射殺するという暴力団特有の論法に基づく動機や経緯に酌量の余地はない」と指摘。「一般人も巻き込まれる恐れがある極めて危険かつ悪質な犯行」とした。
備 考
 佐賀地裁で暴力団組員を被告とする裁判員裁判の審理は、今回が初めて。地裁は、金属探知機で傍聴者の所持品検査を実施し、被告席と傍聴席の間に防弾パネルも設置し、廷内で、県警の捜査員が警戒にあたった。
 被告側は控訴した。2012年6月5日付で控訴取下げ、確定。

氏 名
平野重治(48)
逮 捕
 2010年5月12日(器物損壊、建造物損壊容疑。5月22日に殺人、放火容疑で再逮捕。10月16日、強盗致傷、強盗容疑で再逮捕)
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、現住建造物等放火、強盗致傷、強盗、器物損壊罪、建造物損壊
事件概要
 八街市の土木作業員平野重治被告は、以下の事件を起こした。

【第1区分】
 平野被告は2009年6月16日~17日、八街市内の市立中学校の窓ガラス(10,500円相当)にアスファルト片を投げつけて割り、近くの交番の壁面ガラス(34,650円相当)も同様に割った。2010年5月12日に逮捕されている。
【第2区分】
 平野被告は八街市内に住む鉄筋工の少年(当時15)、土木作業員の少年(当時16)、通信制高校の少年(当時19)と共謀。2009年9月18日午後11時ごろ、東金市内の路上で、東京都江戸川区の専門学校生の男性(当時19)が運転する車を停車させ、男性の顔を鉄の棒のようなもので殴り全治1カ月の重傷を負わせ、同乗していた千葉市の無職の男性(当時20)の顔も拳で殴り、現金12,000円と携帯電話2台を奪った。2010年10月16日に再逮捕されている。
【第3区分】
 平野被告は長女(当時15)と共謀。2010年5月11日午後0時半ごろ、八街市に住む農業の男性(当時76)方で、男性を鉄の棒のようなもので殴り、刺し身包丁(刃渡り約20cm)で背中を刺して殺害。現金約18万円と、約15,000円が入っていた財布などを積んでいた軽乗用車1台を奪った。さらに平野被告は、男性方の2階に軽油をまいて火をつけ、木造2階建て住居約155平方メートルを全焼させた。長女は男性の孫娘と中学時代の同級生で互いの自宅を行き来していた。また平野被告は、この孫娘に交際を求める電話をしたり、メールを複数回送るなどしており、孫娘は4月中旬に佐倉署へ相談していた。
 平野被告は奪った金を事件当日の11日夜、スナックやパチンコ店で使い、翌12日には滞納していた4月分の家賃約5万円を振り込んでいた。5月22日に逮捕された。

 他に平野被告は、東金市内に住む16~17歳の少年3人と共謀。2010年4月27日夜、東金市内の路上で帰宅途中の県立高男子生徒に「道を教えて」と声をかけ、いきなり顔を殴るなどの暴行を加え、現金15円入りの財布を奪い軽傷を負わせたとして、強盗傷害容疑で11月5日に再逮捕されている。これは不起訴?
裁判所
 千葉地裁 稗田雅洋裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年3月23日 無期懲役
 判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
裁判焦点
 3つの事件は区分審理され、第1区分は裁判官のみで、第2区分と第3区分は裁判員裁判となった。
 2011年12月9日、第1区分の初公判で、平野重治被告は起訴事実について、平野被告は「全部違います」と述べ、無罪を主張した。
 2012年1月25日の判決で、稗田裁判長は有罪と判断し「不合理な弁解に終始するなど反省の態度が見られない」と指摘した。

 2月14日、第2区分の初公判で、平野被告は起訴事実について「事実に間違いはないが、恐喝のつもりだった」と述べ、恐喝罪が成立すると主張した。
 2月20日の判決で、千葉地裁は有罪判決を言い渡した。稗田裁判長は「身勝手な論理を主張するばかりで行為や結果の重大性を全く理解しようとしていない」などと厳しく非難した。

 3月12日、第3区分の初公判で、平野被告は起訴事実について無罪を主張した。
 冒頭陳述で検察側は、平野被告が長女の友人だった男性の孫娘に交際を拒絶されて立腹し「彼女とのことが解決するまで仕事はしない」などと建設作業員の仕事を辞めたことから生活が困窮したと指摘。食品や金を奪い孫娘を連れ去る目的で、娘とともに男性方に侵入。男性を包丁で刺して殺害し金を奪い、家を全焼させたなどと主張した。弁護側は「被告は当日、現場にも行っていない。犯行を裏付ける証拠があるのか、娘の証言が信用できるのか考え、証拠・証言を見たり聞いたりしてほしい」と述べた。
 当日の証人尋問で、長女がビデオリンク方式で別室から犯行当日の状況を説明。証言によると、2人は包丁などを準備して自転車で男性宅に向かい、窓ガラスを割って侵入後、帰宅した男性ともみ合いになったという。娘は「父の指示で男性の脇腹を3回刺したがうまくいかず、父が『包丁をよこせ』と怒鳴って背中を刺し、脇腹を殴った。その後、男性は亡くなった」と話した。また、殺害後に平野被告が「彼女の部屋に油をまいて火を付けてきた」と話したことも明らかした。平野被告が無罪を主張していることについては「私は自分でやったことは責任を取りたい。父にも素直に話して責任を取ってほしい」と話した。
 14日の論告で検察側は「長女の証言は具体的で臨場感があり、客観的状況にも符合している。犯人であることは明らか」と指摘。「犯行は残忍で凶悪。反省もなく更生の可能性は薄い」とした。
 当日の最終弁論で弁護側は、「検察側は長女の証言のみで立証しており、客観的な直接証拠がない」と反論し、すでに有罪判決が出た他事件については刑の軽減を求めた。
 判決で稗田雅洋裁判長は、長女の証言を「客観的状況と符合しており十分に信用できる」とし、一連の事件を男による犯行と認定。そして、「殺害後に平然と金品を奪い取って放火し、犯行は危険かつ残忍で凶悪。反省の態度も全く見られず、更生の見込みは薄い」と断じた。さらに有罪の部分判決が出ている二つの区分事件と併せ「いずれも主導的な役割を担っており、未成年者を率先して犯罪に巻き込んだ責任は極めて重い」と述べた。
備 考
 平野被告の長女は、強盗致死の非行事実で送致。2010年7月9日、千葉家裁(伊藤拓也裁判官)は「(父親に)安易に追従した責任は重い」として、初等少年院送致を決定した。少女は適切な教育を受けておらず、事件への関与も従属的だとし、「相当長期間、善悪の判断力を含め人間らしい生き方を学ばせる必要性が高い」と指摘した。
 一部報道では、逮捕された長女が未成年であるため、少年法に鑑み、父親も匿名としている。
 第2区分の判決が出た2月20日、裁判員2人が千葉地裁で記者会見し、取材記者数人が出席した。千葉地裁は3月23日、この記者会見について、裁判員法に照らし実施されるべきでなかったと発表した。同法102条3頁では、区分事件を担当した裁判員への最終判決前の接触を禁止する規定があり、同法に抵触する可能性もある。裁判員の発言などは報道されず、第3区分の裁判員が会見内容を知る機会はなかった。地裁は、会見に出席した裁判員経験者には事情を説明して謝罪したという。同地裁の山崎学所長は「裁判員経験者や事件関係者にご迷惑をおかけした。過ちが繰り返されないよう徹底したい」とのコメントを公表した。

 控訴せず確定。

氏 名
渡辺勇一(40)
逮 捕
 2009年4月22日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、強盗殺人未遂
事件概要
 北海道南富良野町の会社員渡辺勇一被告は2007年9月14日夜、蘭越町の道路工事現場の土捨て場で札幌市に住む女性(当時37)と長女(当時7)の頭部を鈍器で殴り、女性を殺害、長女に頭の骨を折る重傷を負わせた。そして現金約40万円入りの財布を奪った。女性と長女は翌日朝、現場に倒れているところを発見された。長女は右半身が不自由になる障害が残った。
 道警倶知安署捜査本部の調べによって、渡辺被告が出会い系サイトを通じて女性と知り合い、事件当日も女性と連絡を取っていたことが判明。また渡辺被告が建設作業員として現場付近に行ったことがある、当時渡辺被告が住んでいたところから近い寿都町の海岸で母娘の携帯電話が見つかるなど「状況証拠」がそろったため、道警は20日から6日間連続で渡辺被告を任意聴取した。渡辺被告は事件当日に母子と札幌市内やその周辺で会ったことを認めたものの、「夕方に別れ、その後は休みながら車を運転し午後10時ごろ帰宅した」とアリバイを主張し、関与を否定。直接、事件と結びつく証拠がない中で道警はそれ以上の聴取を断念。道警はその後も任意聴取を求めたが、渡辺被告は応じなかった。
 2009年4月22日、道警は渡辺被告を逮捕した。捜査1課長は記者会見で、渡辺被告が否認する中で逮捕に踏み切った理由について、「新たな物証が得られたため」と説明したが、具体的な中身は明らかにしなかった。また5月21日以降に起訴されれば裁判員制度の下で審理されることになるが、「被疑者が犯行を敢行したと特定した場合は速やかに逮捕するのが警察の使命。裁判員制度は意識していない」と否定した。
裁判所
 最高裁第一小法廷 白木勇裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年3月26日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 一・二審で渡辺勇一被告は無罪を主張している。
備 考
 2010年3月29日、札幌地裁で求刑通り一審無期懲役判決。2010年11月11日、札幌高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
舩山昇悟(33)
逮 捕
 2011年7月24日
殺害人数
 2名
罪 状
 殺人
事件概要
 東京都渋谷区の無職舩山(ふなやま)昇悟被告は中国人ホステスと再婚しようと考え、看護師の妻(当時35)を殺害して保険金で生活費などを得ることを計画。再婚には小学3年の長男(当時9歳)も邪魔になることなどから、2011年7月18日未明、自宅マンションで寝ていた2人をタオルのようなもので絞殺した上、第三者の犯行に見せかけるため室内を荒らすなどした。
 舩山被告は2003年、夫婦で互いを受取人とする生命保険に加入していたが、定職に就かないようになった2010年秋になり、新たにそれぞれが死亡すると約3500万円を受け取ることができる保険に加入していた。
 事件後、舩山被告は110番通報。しかし室内が物色されたり、外部から侵入された形跡がなかったため、捜査本部は舩山被告に発見の経緯を聞き、7月24日になって事件の関与を認めた。
裁判所
 東京地裁 多和田隆史裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年3月27日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 判決で多和田裁判長は、「舩山被告は、中国人ホステスとの交際・結婚を切望し、邪魔になった妻を殺害して保険金を得ようと考え、そのもくろみの障害となる長男も殺害した」と保険金目的を認定。被告側は「妻と口論し、カッとなった」と保険金目的を否定したが、判決は「証拠からうかがえる妻の人柄を見ると、口論自体が疑わしい」と退けた。そして、「動機は、いずれも自らの利欲のみを追求した身勝手極まりないもので、残虐で冷酷非情な犯行」と断罪したが、「被害者の遺族が死刑を求めているのも相応の理由があるが、前科がないことなどを考慮すると、極刑がやむを得ないとまでは言い難い」とした。
備 考
 被告側は控訴した。2012年10月18日、東京高裁で被告側控訴棄却。2013年11月6日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
市橋達也(32)
逮 捕
 2009年11月10日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、強姦、死体遺棄
事件概要
 千葉県市川市の無職市橋達也被告は2007年3月25日、自宅マンション4Fで英国人女性の英会話講師(22)の顔などを殴り、手首を縛って強姦。さらに首を圧迫して窒息死させ、ベランダに置いた浴槽に遺体を遺棄し、園芸用の砂土で埋めた。
 26日、被害者と同居していた女性から依頼を受けた千葉県警船橋警察署員が、被害者宅から市橋被告の氏名や電話番号、似顔絵を描いたメモを発見したため、21時40分頃に市橋被告宅に急行。しかし市橋被告は駆けつけた捜査員を振りきり、非常階段からマンションを抜け出して逃走し、そのまま行方をくらました。捜査員は被害者の遺体を発見した。千葉県警は市橋被告を死体遺棄容疑で指名手配。さらに2007年5月から始まった公費懸賞金制度に基づいて懸賞金を掛けた。市橋被告はその後転々とし、途中病院で整形を行った。
 女性の家族は何度も来日し、マスコミ出演やビラ配りなどで犯人逮捕への協力を訴えた。
 2009年11月5日、名古屋市内の美容形成外科医院が、過去のカルテを整理中に市橋被告らしき写真を発見したため通報。同一人物だと判断されたため、指名手配の写真が整形後のものに差し替えられた。その写真を見て大阪府の建設会社が、市橋被告が10月頃まで住み込みで働いていたことを通報した。11月10日、神戸市の六甲船客ターミナルにて従業員が乗客の中に市橋被告らしき人物を発見して通報。市橋被告が沖縄行き便に搭乗しようとしたが、当日は欠航であったため、就航していた大阪南港発の便を案内し、向かったところで警察に通報。市橋被告は大阪南港フェリーターミナルで身柄を拘束され、逮捕された。そして東海道新幹線を経由して千葉県警行徳署に移送された。
 市橋被告逮捕に結びつく重要情報提供に対する総額1000万円の公費懸賞金は、民間人4人に対し、国費から支払われた。公費懸賞金制度で初の支払いとなった。千葉県警が同庁に候補者を挙げて申請。警察庁が審査委員会を開いて支給を決定した。情報の寄与度に応じて分配されるが、同庁は「情報提供者保護の観点から」として4人に関する情報や懸賞金の分配率などは公表しなかった。
裁判所
 東京高裁 飯田喜信裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年4月11日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 20212年3月15日の控訴審初公判で、弁護側は「首を圧迫している認識はなかった。殺意を認定した一審判決は誤り。傷害致死罪が適用されるべきだ」などと主張し、懲役20~30年の有期懲役刑を求めた。弁護人からの質問に市橋被告は、涙で声を震わせながら「死ぬまで女性とご遺族に謝罪しながら生きていこうと思います」。一審で女性の首を3分間絞めて殺害したと認定されたことには「それだけは違う! 本当に3分以上絞めたなら控訴はしませんでした」と強く否定した。また、市橋被告が出版した逃亡生活の手記の印税(約913万円)は、遺族に受け取りを拒否されたため、逃亡時の所持金30万円を合わせた約943万円を日本財団に寄付したことも明らかになった。寄付したことについて、市橋被告は「私が起こしたような犯罪の被害者のためにと思って」と述べた。
 検察側は「一審判決の判断は正当」として控訴棄却を求め即日結審した。
 判決で飯田喜信裁判長は、「被害者の体に回していた腕の感触から、首を圧迫していることは当然認識できたはずだ」と指摘。また遺体の状況などから「腕を女性の首に回して意識的に力を入れて絞めつけた」と判断。「心から犯行を悔いている様子はうかがえない」と指摘した。そして、一審判決は「健全な社会常識にあった判断を示している」と述べた。また約2年7カ月の逃亡生活をつづった手記を出版、印税で被害弁償を申し出た点に言及し「周到に刑事責任を軽減しようとした。自分の弱さと向き合っていない」と非難した。
備 考
 2011年7月21日、千葉地裁の裁判員裁判で、求刑通り一審無期懲役判決。上告せず確定。

氏 名
佐々木靖雄(47)
逮 捕
 2011年6月17日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、強制わいせつ、死体損壊、住居侵入、窃盗
事件概要
 大津市の無職、佐々木靖雄被告は2011年6月10日午後10時25分頃、わいせつ目的で、近所にある石材経営店兼住宅の家に侵入。2階台所で、逃げようとした経営者(当時60)の妻で事務員の女性(当時54)の首を絞めて気絶させ、身体を触るなどした後、絞殺した。さらに遺体の一部をナイフで切り取った。
 佐々木被告は2011年春頃、父親の十三回忌に合わせ、墓石を注文。しかし、完成した墓石の向きが注文と違ったことに腹を立て、9日に墓石を蹴り倒して壊した。犯行当日、石材店へ苦情を言った際、店で対応した女性に一方的に好意を抱いた。
 事件当時、家は夫婦と三女の3人暮らしだったが、夫は今月初旬から病気で入院して不在だった。
 10日午後11時頃に三女が帰宅した際、玄関から不審な男が出てきたため、「何をしているのか」と尋ねたところ、男は「お母さんに風呂の修理を頼まれた」と話して立ち去った。異変を察知した三女は、県内に住む次女に連絡。次女が110番通報し、駆けつけた大津署員と三女が、女性の遺体を発見した。
 三女が目撃した男性が佐々木被告に似ていたことと、墓石に関するトラブルから佐々木被告が容疑者として浮上。家の中から佐々木被告の指紋が見つかったこと、女性が抵抗して爪でひっかいた際、残っていた皮膚片のDNAが佐々木被告と一致した。
 佐々木被告は事件後、新聞社などの取材にも答えていたが、13日朝、ミニバイクに乗って逃走。滋賀県警は14日、佐々木被告の逮捕状を取り、全国に指名手配した。
 17日午前0時55分ごろ、JR岐阜駅北側の路上に座り込んでいる佐々木被告を岐阜県警岐阜中署員が見つけ、職務質問。容疑を認めたため逮捕し、身柄を滋賀県警に引き渡した。
 他に佐々木被告は6月4日、石材店兼住宅とは別の大津市内の住宅の物干し場で、70代の女性の下着を盗んだ窃盗罪でも起訴された。
裁判所
 大津地裁 飯島健太郎裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年4月16日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2012年4月10日の初公判で、佐々木靖雄被告は起訴内容を大筋で認めたが、「被害者を気絶させた後に初めて、体を触りたいと思った。住居侵入はわいせつ行為が目的ではない」などと一部を否認した。このとき、最初は「無我夢中で、自分がやっていることも分からない状態だった。殺意は持っていなかった」と述べたが、弁護人と数分間相談した後、首を絞めた時点では殺意があったと認めた。
 検察側は冒頭陳述で、佐々木被告は注文した墓石のトラブルで丁寧に対応した女性に好意を寄せ、わいせつ目的で住居に侵入したと主張。女性方の出入り口ドアの波板を破って鍵を開け、無断で侵入している点や、殺害後に遺体の一部を持ち帰っている点などを根拠に挙げた。また、胸を触り、逃げようとした女性の首を絞め、意識を失ったところでわいせつ行為をし、発覚を恐れて殺害したとした。
 弁護側は、被告が墓石のトラブルについて話すために訪れたと主張。わいせつ行為をしようと考えたのは女性が意識を失った後だとした。
 12日の論告で検察側は、殺害後に被害者の遺体の一部を切り取るなど「死者の尊厳まで著しく傷付けている」と非難。事件の6日前に下着の窃盗事件を起こしていることや、親族から絶縁されるなど適切な監督者がいないことなどを挙げ、「法廷でも自己保身ばかりで、良心の呵責が感じられない。非力な女性に対する卑劣で残忍な犯行。結果は極めて重大で、遺族の処罰感情は峻烈。再犯の可能性が高い。公判で一応反省の弁を述べていることなどを考慮しても有期懲役刑では軽すぎる」と指摘した。
 同日の最終弁論で弁護側は、「計画性のない突発的な犯行。飲酒の影響もある」などと主張。「事件後反省の気持ちを深め、法廷でも『申し訳ない』と遺族に謝罪している。事件の背景にある(医師が鑑定した佐々木被告の)『混合性パーソナリティ障害』についても、出所後に治療のため、専門家(医師)にかかる意思がある」と主張し、「高齢になると、社会復帰が困難になる。重くとも懲役20年が相当」と情状酌量を訴えた。
 同日、被害者の家族はそれぞれ死刑を求める意見陳述を行った。
 佐々木被告は「すみません」と繰り返し、奥に遺族のいるついたてに向かって深々と頭を下げた。
 判決で飯島裁判長は、死体損壊や窃盗など起訴された5つの罪を全て有罪と認定。犯行当日の朝に女性の体に触っていることなどを指摘し、侵入時からわいせつ目的だったと認定した。弁護側が主張した被告の混合性パーソナリティ障害や飲酒の影響については「限定的で、刑事責任を減じるには値しない」とした。そしてわいせつ行為をし、口封じのために殺害した後、遺体の一部を切断して持ち帰っており、「良心のかしゃくが感じられない」と述べた。ただし、被害者が1人の殺人事件では相当に重い部類に属するが、計画性までは認められないことなどから、死刑が相当とはいえないとした。そして、飯島裁判長は「都合の悪いことには『分からない』などと曖昧な供述を繰り返し、事件と真摯に向き合う姿勢が見られない」と指摘した。
備 考
 朝日新聞社は、13日早朝に自宅からミニバイクで外出する佐々木靖雄被告の後ろ姿を撮影した写真を滋賀県警に提供。県警は、指名手配のチラシに使用した。朝日新聞社は自社の「記者行動基準」で、「取材で得た情報は原則として報道目的にのみ使用する」としている。
 後に京都新聞も、佐々木被告の後ろ姿の写真を滋賀県警に提供していたと発表した。同新聞の写真は、チラシには使われていない。同社は、「記者行動規範」で「職務上知り得た情報は、報道とそれに付随する活動にのみ使用する」としている。
 被告側は控訴した。2013年中に大阪高裁で被告側控訴棄却。上告せず確定と思われる。

氏 名
曽根貴九一(82)
逮 捕
 2007年2月3日(殺人容疑)
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人他
事件概要
 静岡県吉田町の無職曽根貴九一(きくいち)被告は2007年2月1日午後0時15分頃、吉田町に住む義姉の無職女性(当時92)方に訪れ金を無心したが断られたため、玄関で女性の顔を数回殴った後に、鉈や金づち状の鈍器で頭などを何回も殴って殺害し、現金約26000円が入った財布を奪った。
 曽根被告は女性の死別した夫の弟で、女性に無心を繰り返していた。
 現場にいたA被告は殺害して奪った金と知りながら曽根被告から現金6000円を受け取ったが、自宅で燃やした後、2日に牧之原署に出頭した。
 曽根被告は逮捕当初から犯行を否認。弁護人は2007年2月15日、「動機も物証もなく誤認逮捕だ」として静岡地検に容疑者の即時釈放を申し入れた。申し入れ書によると、曽根被告は年金や不動産所得で経済的に困っておらず、自首したA容疑者が供述した殺害後に凶器を入れたとされる布袋にも血痕はなかった。また曽根被告は利き手の右手中指が不自由で物は強く握れないという。
 2月24日、静岡地検は曽根被告を強盗殺人容疑で起訴した。曽根被告は「突き飛ばしただけで殺していない。(曽根被告の自宅から見つかった)財布は生前に受け取ったもので中身は入ってなかった」と否認した。
裁判所
 東京高裁 小川正持裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年5月8日 無期懲役(一審破棄)
裁判焦点
 曽根貴九一被告は一審で起訴事実を否認したが、静岡地裁(長谷川憲一裁判長)は計画性はないとしたものの殺人を認定。ただし、強盗罪は認めず、動機は借金を断られて激高したためとされた。

 2010年2月18日、初公判。被告側は一審に引き続き無罪を主張。検察側は強盗殺人罪の適用を求めた。
 小川裁判長は判決で、曽根被告が事件の約1か月前に義姉に借金を申し込んで断られていたことや、当日は凶器のナタなどを所持して義姉宅を訪問したことをあげ、「金銭を奪おうと考えていたことが合理的に推認できる」と述べた。そして「極めて残忍な犯行で、被告が高齢であっても、無期懲役より刑を軽くするべきではない」と結論づけた。
備 考
 証拠隠滅の容疑で逮捕されたA元被告は盗品等無償譲り受けの罪で起訴。2007年5月31日、静岡地裁で懲役1年執行猶予2年(求刑懲役1年)が言い渡された。
 2009年5月25日、静岡地裁で懲役16年判決。被告側は上告した。2013年4月3日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
文青児(36)
逮 捕
 2011年7月8日
殺害人数
 2名
罪 状
 殺人、住居侵入
事件概要
 大阪市生野区に住む無職・文青児被告(ぶんせいじ 日本名:文原青児)被告は、当時の職場で知り合った派遣社員の女性と2010年8月ごろから交際していたが、同11月ごろには女性から別れ話をされ、文被告はその後何度も電話やメールで「会ってほしい」と求めていた。
 2011年6月24日、文被告は平野区のマンション2Fに住む女性(当時27)宅に侵入し、女性と母親(当時61)の頭や背中などを刃物で複数回刺して殺害した。
 大阪府警の調べで、文被告が事件直前まで女性の携帯電話に頻繁にメールを送ったり、電話をかけたりしていたことが判明。さらに、事件の前後の時間帯にそれぞれ、現場付近の複数の防犯カメラに、文被告に酷似した男が映っており、7月8日朝から任意同行を求め、取り調べていたが、文被告が否認するまま逮捕した。後に文被告は犯行を認めた
裁判所
 大阪地裁 遠藤邦彦裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年5月23日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2012年5月15日の初公判で、文青児被告は「間違いありません」と起訴事実を認めた。
 冒頭陳述で検察側は、文被告と女性は2010年8月ごろから交際していたが、同11月ごろには女性から別れ話をされるようになり、文被告はその後何度も電話やメールで「会ってほしい」と求めていたと指摘。犯行前日の同月23日には、女性のマンションを訪れたが応対してもらえず、翌24日午前、女性宅にベランダから侵入、一緒にいた2人を計30回以上刺して殺害した、と主張した。
 弁護側は冒頭陳述で、事件当日の文被告は女性と話し合うためマンションを訪ねたと説明。当初から殺害する意図があったわけでなく、女性に外見のコンプレックスを指摘されて激高して犯行に及んだ、などと主張し、「計画性はなく、当初は明確な殺意もなかった」と述べた。
 17日の論告に先だって行われた被告人質問で、文被告は動機を「(コンプレックスを持っていた)顔の傷のことを女性に言われ、激高した」と説明した。論告で検察側は、「女性との復縁を執拗に求めた末の身勝手な犯行で、一方的に2人を攻撃した。強い殺意を持った執拗で残虐な犯行で、結果は極めて重大だ。しかし、一応は反省の態度を示している」とし、無期懲役を求刑した。同日の最終弁論で弁護側は、「犯行は計画的ではなく、反省している」などとして懲役22年が妥当だ、と主張した。
 判決で大阪地裁は「仲直りしたかったものの家の中に入れてもらえず、ベランダから侵入したが、母親から怒鳴られたことに腹を立て、とっさに殺害を決意した」と弁護側の主張を一部認めたものの、「逃げる女性を何度も刺すなど、残忍で身勝手な犯行で、動機に酌むべき理由はない」として、有期刑を求めた弁護側主張を退けた。その上で「とっさの殺意に基づき、一度に2人を殺した」として、計画的だったり連続で行われたりした殺人とは非難の程度に差があり、死刑ではなく無期懲役が相当と結論づけた
備 考
 控訴せず確定。

氏 名
西尾一洋(35)
逮 捕
 2011年1月12日
殺害人数
 0名
罪 状
 強盗強姦、強盗強姦未遂、住居侵入他
事件概要
 愛知県江南市の無職西尾一洋被告は、2009年10月から10年12月にかけ、愛知県や岐阜市などで、見ず知らずの女性宅に侵入したり、路上で女性を襲ったりして6人に乱暴して金を奪い、4人に乱暴しようとした。判明分は以下。
  • 2009年10月29日午前3時10分頃、名古屋市内の女性宅に侵入して乱暴し、現金3000円などが入った財布を奪った。
  • 岐阜県内の女性宅への住居侵入。
  • 2010年12月11日午前3時頃、岐阜市内の駐車場で、停車していた同市のアルバイト店員の少女の軽乗用車に助手席から乗り込んで刃物のような物を見せて脅して乱暴したうえ、現金5,000円を奪った。
  • 12月16日午前0時20分頃、羽島市内の路上で、自転車で帰宅途中だった会社員女性にナイフのようなものを突きつけて暴行しようとし、現金約38,000円入りのかばんなどを奪った。
 岐阜北署などが、12月11日の事件容疑で2011年1月12日に逮捕した。
裁判所
 岐阜地裁 山田耕司裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年6月12日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 論告等で検察側は、被告がアパートの部屋のドアノブを回すなどして無施錠の部屋を探していたと指摘し「約1年2カ月の間に犯行を繰り返し、常習的で極めて悪質」とした。
 弁護側は最終弁論などで「一連の事件の背景には被告と父親の確執があり、父親への反感が事件で発露した。これらの経緯には酌むべき点がある」として寛大な判決を求めていた。
 判決で山田耕司裁判長は判決理由で「被害者の尊厳を一顧だにせず精神的、肉体的に甚大な苦痛を与えた。ゲーム感覚で犯行を繰り返すなど、規範意識が完全にマヒしていたというほかなく、刑事責任は重大だ。被害者の心情を思い、生涯をもって償わせるべきだ」と述べた。
備 考
 被告側は控訴した。2012年11月13日、名古屋高裁で被告側控訴棄却。2013年3月1日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
鈴木雅樹(21)
逮 捕
 2011年5月11日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人他
事件概要
 住所不定・建設作業員鈴木雅樹被告は2011年5月11日午前1時ごろ、足立区に住む友人で新聞配達従業員の男性(当時23)宅で、男性がベッドとして使っていた押し入れの中で男性の首を絞めて殺害、数千円入りの財布や携帯電話を奪った。
 男性は10日夜、「お金を貸し借りしている鈴木が家に来てトラブルになっている」と姉に電話したが、午後10時過ぎから電話が通じなくなった。不審に思った姉が午前4時50分ごろに男性宅を訪れ、遺体を発見して110番通報。その時、鈴木被告は押し入れ上の天袋(長さ2m、奥行き90cm、高さ50cm)に入っていた。警視庁捜査1課と綾瀬署が捜査し、正午ごろ、天袋に隠れている鈴木被告を発見し、強盗殺人容疑で逮捕した。
 2人は男性の姉を通じて知り合った友人で、鈴木被告は以前、男性から借金をしていた。
裁判所
 東京高裁 飯田喜信裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年6月27日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 飯田裁判長は、「事実誤認(過剰避難ないし誤想過剰避難)、量刑不当とも理由がない」と述べた。
備 考
 2011年12月15日、東京地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。

氏 名
吉川博司(62)
逮 捕
 2009年6月26日(死体遺棄容疑。7月16日、強盗致死容疑で再逮捕)
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、死体損壊
事件概要
 千葉市若葉区のタクシー運転手吉川博司被告は東京都葛飾区の自営業で韓国籍のK被告と共謀し、2009年5月1日、千葉市若葉区の駐車場にパチンコ景品卸売会社社長の男性(当時58)を呼び出し、男性の車の中などで両手首を縛って顔や腹を蹴って死亡させ、現金503,000円を奪い、同日夜、同市緑区の山林で遺体をプラスチック容器に入れフッ化水素酸に浸して溶かした。
 千葉県警捜査本部は、5月1日夜に遺体を山林に遺棄し、10日に遺体を山林から運び出して川に遺棄したとして死体遺棄容疑で2人を逮捕。遺体が見つからなかったことから7月16日、2人を釈放したが、吉川被告の供述や車の中から血痕が見つかったことなどから同日に2人を強盗致死容疑で再逮捕した。捜査本部は、両被告が犯行前に薬品を入手していたことなどから「計画殺人だった」との見方を強めていたが、両被告が殺意を否認し続けたことなどから、千葉地検は強盗殺人ではなく強盗致死容疑で起訴した。
 2被告は男性と20年以上交友関係があった。男性の遺体はまだ見つかっていない。
裁判所
 最高裁第三小法廷 田原睦夫裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年6月29日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 一・二審で被告側は強盗目的を否定している。
備 考
 K被告は2011年4月26日、千葉地裁で一審懲役26年判決(求刑無期懲役)。2011年11月までに被告側控訴棄却。2012年6月までに被告側上告棄却、確定。
 2011年6月2日、千葉地裁の裁判員裁判で、求刑通り一審無期懲役判決。2011年11月15日、東京高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
影山博司(58)
逮 捕
 2009年8月26日
殺害人数
 2名
罪 状
 強盗殺人、死体遺棄、窃盗、有印私文書偽造・同行使、詐欺
事件概要
 鳥取県米子市の会計事務所役員影山博司被告は、事務所の営業終了直前である2009年2月21日午前11時30分頃、来客があったため事務所に来ていた会計事務所社長の男性を、ビル4Fの事務所から5Fの空き室に誘い込み、大型ペンチ(長さ25cm)で頭を殴った上、電気コードで首を絞めて殺害。遺体はそのまま放置した。さらにビル1Fに住む男性方に入り、男性が妻と死別後の約10年前から同居していた女性(当時74)の首をネクタイで絞めて殺害し、男性の現金約70000円やキャッシュカードを奪った。遺体は男性方の物入れに隠した。
 約1週間後、影山被告は女性の遺体を5Fの空き室に運び、2人の遺体を別々にブルーシートでくくり、消臭剤を周囲に置いた。さらに3月末、女性の遺体をビル屋上の倉庫に移した。5F空き室や屋上のドアのカギは影山被告が管理し、他の従業員らは出入りできなかった。
 影山被告は殺害後の2月23日~4月19日、男性のキャッシュカードや預金通帳を使い、米子市の銀行3店舗の現金自動預け払い機(ATM)から13回に渡って計1200万円を引き出した。また3月9日に米子市内の銀行で、男性名義の預金通帳と印鑑を使用し、普通預金払戻請求書を偽造して現金10万円を引き出してだまし取った。影山被告はだまし取った金を、事務所の運転資金に回すために借りた借金の返済や経費の支払いに充てた。
 2人と急に連絡がとれなくなったことから、男性の娘らが3月23日に家出人捜索願を出した。影山被告が、男性の銀行口座から複数回にわたって現金を引き出す様子が防犯カメラに映っていたことから、県警は6月3日、影山被告に任意同行を求めて事情を聞いたところ、犯行を認めた。自供通り遺体が発見されたため、同日夜、死体遺棄容疑で影山被告を逮捕した。6月24日、強盗殺人容疑で再逮捕した。

 影山被告は1986年に男性の事務所に入社。2007年に役員となり、経理などを担当していた。しかし、事務所の経営は思わしくなかった。犯行現場である鉄筋5階建てのビルは1979年に男性が事務所兼自宅として建てたものだが、2005年と2006年に別の債権者から差し押さえられ、2007年には競売で所有権が第三者に移転。その後男性は賃貸で入居していた。影山被告は自分名義で銀行などから800万を借金して運転資金を工面していた。また影山被告は、2008年には2か月分しか給料がもらえず、ボーナスもなかった。
 男性は大学卒業後、1959年に会計事務所を開いた。地元では名士で、不動産鑑定士や米子商工会議所の相談員、生命保険会社代理店の社長など幅広い顔を持っていた。
裁判所
 最高裁第二小法廷 小貫芳信裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年7月2日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 一・二審で被告側は、「強盗目的は無かった」として、強盗殺人には当たらないと主張している。
備 考
 2010年3月2日、鳥取地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2010年9月13日、広島高裁松江支部で被告側控訴棄却。

氏 名
内田清次(38)
逮 捕
 2011年7月8日(別の窃盗事件で4月に逮捕済み)
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、住居侵入他
事件概要
 住所不定、無職内田清次被告は1999年12月28日午後、金品を奪おうと東京都板橋区に住む会社事務員の女性(当時28)方に2階ベランダの窓から侵入。ところが女性がいたため暴行しようとしたが、抵抗されたため殺害した。タンスなどを物色した形跡があったが、奪った金品は確認されていない。外出先から戻った両親が、自宅2階の6畳間で倒れている女性を発見し、通報した。
 内田被告は当時、窃盗罪で服役した刑務所から出所した直後で、荒川区内の更生保護施設に入所していた。
 目撃情報などが少なく捜査は難航したが、未解決事件を担当する警視庁捜査1課の特命捜査対策室(特命班)が遺留物の再鑑定を進めるなどしていた。
 その後も内田被告は窃盗罪で服役を繰り返し、2010年5月に札幌刑務所を出所。その後も札幌市内にとどまり、空き巣を繰り返していた。2011年4月、内田被告は札幌市内の会社事務所から現金を盗んだとして逮捕された。その後の捜査で2月13日午後8時頃、札幌市中央区の女性会社員(当時68)宅に、窓ガラスを割って侵入。玄関で鉢合わせた女性の顔を、拳で数回殴り、現金約3万円の入ったハンドバッグを奪った強盗事件が判明。女性は一時、意識不明となり、硬膜下血腫などの重傷を負った。6月13日、強盗傷害容疑で再逮捕された。北海道警の調べで、約30件の余罪が判明し、うち2件について札幌地検は追起訴した。
 捜査過程で内田被告のDNA型を調べたところ、女性方に残された体液のDNA型と一致することが判明。7月8日、内田被告は強盗殺人容疑他で再逮捕された。
裁判所
 東京高裁 若原正樹裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年7月2日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 若原裁判長は、「法令違反、事実誤認、量刑不当の主張はいずれも理由がない」と述べた。
備 考
 この事件では、現場から内田被告の掌紋が採取されたが、警視庁は掌紋の部位を誤って証拠として保管。警察庁も気付かないまま2002年、誤った状態でデータベースに入力した。現場に残された掌紋は、手の左右や手のひらのどの部分か見極めたうえで、側面を含め片手につき四つの部位に分けてデータベースに登録する。しかし、本事件では、担当者が部位を誤って判断していた。
 内田被告は本事件後も別の強盗事件で数回逮捕されており、掌紋も調べられていたが、照合先であるデータベースの情報が誤っていたため、殺人事件で採取された掌紋とは一致せず、関与が浮上しなかった。
 警察庁は今回の問題を受け、全国の警察に同様の問題がないかを調査するとともに指紋・掌紋を正しく管理するよう指示した。警察庁の片桐裕長官は2011年12月1日の記者会見で「部位の推定が正しく行われていれば、早期に被疑者を検挙することができた。その後の犯罪も防ぐことができたと思われ、遺憾だ」と述べた。そのうえで、採取された掌紋が不鮮明で部位の特定が困難だったことにも言及。掌紋を照合するシステムの高度化を検討する意向を明らかにした。
 2011年12月21日、東京地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2012年11月5日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
仲島健治(28)
逮 捕
 2011年7月14日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、銃刀法違反
事件概要
 福岡県築上町の無職仲島健治被告は2011年7月14日未明、客として乗車し、自宅近くに停車したタクシー内で、小倉北区に住むタクシー運転手(当時66)に果物ナイフを突きつけ現金を要求。抵抗されたため、胸や腹を数回刺して失血死させ、売上金など現金約11,000円を奪った。
 豊前署は事件から約1時間後、現場から約500m先の路上で上半身裸の仲島被告を発見。奪った現金や約1万円や返り血とみられる血液が付いたシャツなどをビニール袋に入れて持っていた。職務質問に対し犯行を認め、供述通りに近くの側溝から凶器とみられる刃物も見つかったため、逮捕した。
裁判所
 福岡高裁 陶山博生裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年7月4日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 判決で陶山博生裁判長は、「凶悪で残忍な犯行で、裁判員裁判の一審判決の量刑は相当」と述べた。
備 考
 2012年2月9日、福岡地裁小倉支部の裁判員裁判で一審求刑通り無期懲役判決。被告側は上告した。2012年10月24日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
河合英二(47)
逮 捕
 2010年9月4日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、建造物侵入
事件概要
 松山市出身の元暴力団員、河合(かわあい)英二被告は20101年8月27日午前2時50分ごろ、福井県大野市のコンビニエンスストアに侵入。上着の右ポケットに隠し持っていたアイスピック(全長約24cm)で店長の男性(当時46)の背中や胸を複数回突き刺した上、スチール製棚板で頭部付近を数回殴打し、頭をけるなどの暴行を加えて殺害、事務室から現金約21万円を奪った。
 河合被告は金銭トラブルで高松市の暴力団を追い出され、事件の約2週間前には食事代や風呂代にも事欠くほど経済的に行き詰まっていた。
 犯行後、河合被告は鳥取県や岡山県、和歌山県などに移動。防犯カメラの映像等から福井県警などは、河合被告を指名手配。岡崎市内にいるとの情報が市民から寄せられ、9月4日午後7時ごろ、捜査員が市内にあるビジネスホテルのロビーで河合被告を待ち構え、身柄を確保した。
裁判所
 名古屋高裁金沢支部 伊藤新一郎裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年7月5日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2012年5月24日の控訴審初公判で、伊藤裁判長が「どんな判決でも受け入れると言ったのに控訴したのはどうしてなのか」と遺族の意見陳述書を朗読。弁護側、検察双方からの被告人質問があり、河合被告は「量刑に不満はないが、命を奪った記憶はなく、一審の事実認定に誤りがあるので訂正してほしい」と訴えた。弁護側は、河合被告には事件当時の記憶がなく、パニック状態だったと殺意を否定。無期懲役は重すぎるとして量刑不当を主張した。検察側は控訴棄却を求め、即日結審した。
 判決理由で伊藤裁判長は、「(指紋を残さないための)軍手をはめるなど、合理的な行動をしている。犯行時は平静で、自分の行為を認識していた」と殺意を認めた。量刑についても、「逃げる被害者をアイスピックで執拗に突き刺し、残忍、凄惨と言うほかない。借金返済金を手に入れるために犯行に及んでおり、身勝手な動機。凶器を携帯し、計画性も認められる。酌量の余地はない」と述べた。
備 考
 2011年12月7日、福井地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。上告せず、確定。

氏 名
小糸誠次(31)
逮 捕
 2011年4月11日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人
事件概要
 住所不定、無職小糸誠次被告は2011年4月6日午前2時すぎ、熊本市内で男性(当時63)の運転するタクシーに乗車し約3時間後、菊池市の野菜集荷場の倉庫前で男性の後頭部などを果物ナイフとカッターナイフで多数回刺し、タクシーのトランクに男性を閉じ込めた。現金約13,000円を奪い、乗車料金約14,000円を支払わなかった。その後、合志市の廃車置き場にタクシーを放置した。男性は出血性ショックで死亡した。
 小糸被告は4月5日深夜、宿泊中のホテル料金が払えず強盗を考えたが断念。熊本市内で男性のタクシーに乗り菊池市へ。料金が払えず、市内の母親の家に行くよう頼むも断られ、直後に襲いかかったものだった。
 6日午前7時頃、野菜集荷場を訪れた運送会社員が男性の携帯電話や血だまりを見つけ、110番通報。午後1時15分ごろ、タクシーと男性の遺体が見つかった。その後の調べで、犯行現場で若い男性の姿を付近住民が目撃していたことが判明。約1年前まで近くで働いていた小糸被告が浮上した。11日午後、捜査員が熊本市内にいた小糸被告を見つけ、事情を聴いたところ犯行を自供した。
裁判所
 福岡高裁 川口宰護裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年7月11日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 控訴審でも弁護側は一審同様殺意を否認したが、判決は「体の枢要部を10回にわたって相当の力を込めて突き刺しており、殺意を認めた一審判決の内容は正当」とした。そして川口裁判長は「非情で残虐な方法で何ら落ち度のない被害者を殺害しており、無期懲役が重すぎて不当ではない」と述べた。
備 考
 2012年1月27日、熊本地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2013年10月21日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
堀慶末(37)
逮 捕
 2007年8月26日(死体遺棄容疑。9月14日、強盗殺人他容疑で再逮捕)
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、死体遺棄、営利略取、逮捕監禁
事件概要
 住所不定無職の川岸健治被告(当時40)と名古屋市東区泉の無職堀慶末(よしとも)被告(当時32)は2007年8月上旬に携帯電話の闇サイトで知り合った。
 2007年8月16日、携帯電話の闇サイト「闇の職業安定所」で犯罪仲間を募集。19日に住所不定無職H元被告(当時29)が、20日に愛知県豊明市の新聞セールススタッフ神田司被告(当時36)が返信し、連絡を取り合うようになった。このときはお互いに偽名を名乗り、以後もその偽名を使ったため、4人は逮捕されるまで本名を知らなかった。
 川岸被告、堀被告、H元被告が21日に名古屋市東区で顔を合わせ、堀被告の提案でパチンコ店の常連客を襲う計画を立てたが失敗した。
 堀被告、川岸被告は21日午後10時過ぎ、金山駅付近で神田被告と会った。神田被告は女性を拉致して覚醒剤中毒にして風俗店に売ればいいなどと提案。このとき堀被告は金槌を見せており、神田被告、川岸被告と互いに強盗殺人を行う意思があることを確認している。
22日午後6時頃、3被告はH元被告に参加の意思を確認したが、H元被告は殺人に反対し、事務所荒らしを提案した。
 H元被告と川岸被告は23日夜、愛知県瀬戸市の薬局に押し入ろうとしたが、客がいたため断念。続いて長久手町の水道工事関連会社の事務所に侵入したが、金が見つからずに逃走。このとき川岸被告が先に逃げたため、土地勘もなく腹を立てたH元被告は24日午前0時55分頃、自ら110番して愛知県警警名東署に出頭、緊急逮捕された。
 24日午後3時頃、神田被告、堀被告、川岸被告は名古屋市緑区のレンタルビデオ店駐車場に集まった。神田被告が若い女性を拉致する強盗殺人を提案し、2被告は賛同した。
 同日午後7時頃から3被告は車で市内を走り、5人の女性を追尾したが、機会が無く失敗。午後11時頃、帰宅途中だった名古屋市千種区に住む派遣社員の女性(当時31)を発見。千種区の路上で待ち伏せ、女性が車を通り過ぎた際に堀被告が車へ無理矢理連れ込み、安西市の屋外駐車場まで走った。
 25日午前0時頃、駐車場で堀被告が女性からバッグを奪い、財布から62000円とキャッシュカード2枚、クレジットカードを奪った。堀被告と神田被告は包丁で女性を脅し、暗証番号を聞き出した。
 川岸被告はその後車中で女性を暴行しようとしたが抵抗されたため、女性を平手打ちにした。車外にいた神田被告と堀被告は川岸被告を制止するとともに、逃げられることを恐れ殺害を決意。午前1時頃、3被告は哀願する女性の頭に粘着テープを二十数回巻き、レジ袋を頭にかぶせ、首をロープで絞め、頭を金槌で数十回殴った。女性は窒息死した。
 3被告は奪った金を均等に分けた後、午前4時40分頃、岐阜県瑞浪市の山林で遺体に土や草をかぶせて遺棄した。午前9時頃と10時35分頃に、名古屋市にある2箇所のATMで現金を引き出そうとしたが、聞き出した暗証番号は虚偽のものであったため失敗。そこで3被告は夜に再度集まって風俗嬢を襲う計画を立案して分かれた。しかし川岸被告は午後1時半頃に警察署へ電話し、犯行を打ち明けたため、身柄を確保された。「死刑になるのが怖かった」と供述している。午後7時10分頃、愛知県警は女性の遺体を発見。神田被告、堀被告を任意同行した。8月26日、県警は3被告を死体遺棄容疑で逮捕した。
 3被告は金持ちが多いからという理由で千種区を物色していた。また女性を狙った理由は、まじめそうで金を貯め込んでいそうだったからと供述している。3被告と女性とは面識がなかった。
 3被告は9月14日、強盗殺人と営利略取、逮捕監禁の容疑で再逮捕された。
裁判所
 最高裁第二小法廷 千葉勝美裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2012年7月11日 無期懲役(検察側上告棄却、確定)
 判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
裁判焦点
 裁判官3人全員一致の意見。名古屋高検検事長として事件に関与した小貫芳信裁判官(検察官出身)は審理を回避した。
 小法廷は判決で、「命ごいをする被害者を多数回殴打するなど極めて残虐かつ無慈悲な犯行で、社会に与えた不安感も大きい」と、刑事責任の重さをまず強調した。しかし、「被害者は1人で、『死刑がやむを得ないといえるほど他の要素が悪質とは断じがたい』と判断した二審が誤りとはいえない」と指摘。「身代金目的誘拐殺人と同視すべきだ」との検察側主張については、「同視は相当でない」と退けた。
備 考
 H元被告は窃盗未遂、建造物侵入、強盗予備で起訴。2007年11月20日、名古屋地裁で懲役2年執行猶予3年(求刑懲役2年)の判決が言い渡され、確定している。
 神田被告と川岸被告は2006~2007年頃にそれぞれ闇サイトを悪用した別の詐欺事件で執行猶予付き有罪判決を受けている。
 2009年3月18日、名古屋地裁で神田司被告と堀慶末被告に求刑通り死刑判決、川岸健治被告に無期懲役判決(求刑死刑)。神田司被告は4月13日に控訴を取下げ、死刑が確定している。2011年4月12日、堀被告の一審判決を破棄、無期懲役判決。川岸被告は検察・被告側控訴棄却。上告せず確定。
 堀慶末受刑囚は1998年に愛知県碧南市で起こった夫婦殺害事件に関わったとして、2012年8月3日に強盗殺人容疑で逮捕された。2015年12月15日、名古屋地裁で一審死刑判決。2016年11月8日、名古屋高裁で被告側控訴棄却。2019年7月19日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
山下政彦(46)
逮 捕
 2011年11月3日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、銃刀法違反
事件概要
 松江市の無職山下政彦被告は2011年11月3日午前6時半頃、松江市の地下道で近くに住む散歩中の男性(当時89)に金を要求。断られたため、持っていた刃渡り19cmの包丁で男性の腹を刺した。
 数分後、男性が倒れているのを通行人が発見し、110番した。男性は市内の病院に運ばれたが、同日午後死亡した。地下道の防犯カメラに包丁を持った山下被告が映っていたことから松江署は事件から約5時間後、山下被告を強盗傷害容疑で緊急逮捕した。
 山下被告は11月17日から2012年2月20日まで精神鑑定のため、鑑定留置された。2月24日、松江地検は山下被告を起訴した。地検は「鑑定結果や犯行前後の言動などから、責任能力に問題はない」と判断した。
裁判所
 松江地裁 横山泰造裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年7月13日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。殺意の有無や量刑が争点となった。
 2012年7月9日の初公判で、山下被告は「殺意はなかった」と一部否認した。
 検察側は冒頭陳述で、山下被告は統合失調症などで通院していたが、市職員から施設入所を勧められるのが嫌で、生活保護を受給しなくなり、所持金を使い果たして、強盗を企てた、と主張した。偶然通りかかった田中さんから金を奪おうと、包丁で腹を刺したと動機について述べた。無抵抗の男性を一気に刺したことや、腹部の刺し傷が約14cmに及んだとなどから、「殺意は十分に認められる。結果が重大で、犯行は悪質」と主張した。
 一方弁護側は、山下被告が知的障害や統合失調症の影響で「どれだけ刺さるのか予想することができなかった」と主張。殺意はなく、男性を傷つけて金を取るつもりだったとして、酌量減軽を求めた。
 10日の第2回公判で、山下被告を精神鑑定した医師が出廷。男性裁判員が、統合失調症などの病気が犯行に与えた影響を質問すると、医師は「責任能力には関係ない」とした。
 11日の論告で検察側は、検察側は「殺傷能力の高い包丁を使用し、右上腹部を一撃で14cm刺した」と指摘し、殺意があったと主張。「悪質な犯行で動機に同情すべき点がない」と述べた。
 同日の最終弁論で弁護側は社会復帰が可能であるとし、「怖がらせるために、少し傷つけようとしたが統合失調症や知的障害の影響で力のコントロールが困難だった」と、殺意がなかったと強盗致死罪の適用を求めた。そして「計画性や殺意はなく、被告も反省している」として酌量減軽を求めた。
 判決は動機について、山下被告は支援施設に入所させられるのを避けるために、生活費を手に入れようと、男性から現金を奪い取るために、殺意をもって包丁を突き刺した、とした。傷の深さが14cmに達した点などから山下被告の供述は不自然で不合理として殺意を認め、精神障害については「犯行に直接的な影響を及ぼすものではない」とした。そして「安直な動機で、非常に危険で悪質な犯行。酌むべき事情がない」と述べた。
備 考
 被告側は控訴した。2012年12月9日、広島高裁松江支部で被告側控訴棄却。2013年5月8日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
中嶋邦彦(68)
逮 捕
 2011年3月19日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、現住建造物等放火
事件概要
 佐賀県唐津市の無職中嶋邦彦被告は2011年3月9日午前1時半ごろ、自宅近くに住む男性(当時79)宅に侵入し、現金約18万円と預金通帳などを奪った後、男性の頭を鈍器のようなもので2回殴り、灯油をまいて放火。木造平屋住宅を半焼させ、男性を一酸化炭素中毒死させた。中嶋被告は普段から、一人暮らしの男性方に出入りしていた
 中嶋被告は逃走したが、19日にJR唐津駅付近で唐津署員に見つかり、逮捕された。
裁判所
 福岡高裁 陶山博生裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年7月18日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2012年6月22日の控訴審で弁護側は、弁護側は、被告が鈍器で被害者を殴った時点では殺意はなかったとして、一審と同様に強盗傷害と殺人罪にとどまると主張し、刑の減軽を求めた。中嶋被告は被告人質問で「(殴ったのは)力いっぱいじゃない。殺そうとまでは思っていなかった」などと述べて、即日結審した。
 判決で陶山裁判長は、「放火行為により証拠を隠滅しようとしたことは明らかで、強盗の機会に行われたものである。冷酷で残忍な犯行態様で、刑事責任は非常に重い」と述べた。
備 考
 2012年3月12日、佐賀地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。上告せず確定と思われる。

氏 名
鷺谷輝行(32)
逮 捕
 2005年6月9日(逮捕監禁容疑)
殺害人数
 4名
罪 状
 傷害致死、殺人、死体遺棄、逮捕監禁致傷、逮捕監禁、監禁、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反
事件概要
 コンサルタント会社社長清水大志(たいし)被告をリーダーとする架空請求詐欺グループは、2004年10月~11月、法務省の関連団体を名乗り、実在しない“電子消費料金”の請求はがきを不特定多数に郵送し、電話をしてきた被害者から現金を銀行口座に振り込ませる手口で、26人から約4750万円をだまし取った。
 清水被告が「社長」、無職渡辺純一被告、会社役員伊藤玲雄(れお)被告、芸能プロダクション経営阿多真也被告が「部長」と呼ばれ、それぞれ子グループを統率していた。パチンコ店員鷺谷輝行被告らがその下部に入っていた。
 伊藤被告の部下であった船橋市の飲食店員の男性Nさん(当時25)らは、幹部らに比べて極端に分け前が少ないことに不満を募らせ、中国人マフィアを利用して清水被告ら幹部を拉致し現金を強奪しようと2004年8月に計画し、同じメンバーで東京都杉並区に住む元建設作業員の男性YAさん(当時22)、同区に住む元不動産会社員の男性Iさん(当時31)、千葉県に住む元会社員の男性YOさん(当時34)が参加することとなった。
 約2ヶ月後、4人が東京都内の拠点事務所に姿を見せなくなったことを不審に思い、清水被告ら幹部はYAさんを問い詰めた。計画を知り激怒した清水被告らは、見せしめで制裁を加えようと、他のメンバーらに拉致を指示した。
 10月13日、NさんとIさんが東京都新宿区の事務所に連れて来られた。YOさんは呼び出しに応じた。4人を集団で金属バットなどで殴り、覚せい剤を注射したり、熱湯をかけるなどの暴行を加えた。4人が衰弱すると、16日未明にNさんら2名を熱傷で死亡させ、同日夕には、衰弱した2人の鼻と口を手でふさぎ窒息死させた。計画を告白したYAさんは当初、監禁する側だったが結局、Nさんらと一緒に殺害された。
 清水被告・渡辺被告の指示を受けた伊藤被告らが殺害の実行犯である。
 遺体の処理に困った清水被告らは、暴力団幹部の男性らに1億円を支払い、遺棄を依頼した。4人の遺体は20日夕、茨城県小川町(現小美玉市)の空き地に埋められた。
 詐欺で捕まった阿多被告らが犯行を供述。遺体は2005年6月18日に見つかった。
裁判所
 最高裁第一小法廷 桜井龍子裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年7月19日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 被告側は一・二審で量刑不当を訴えていた。
備 考
 一連の事件では殺人や傷害致死、死体遺棄や監禁などの罪で18人が起訴されている。11人は懲役17年~1年2ヶ月の実刑判決、2人に執行猶予付の有罪判決が出ている。また、架空請求詐欺の件で5人が懲役6年~4年4ヶ月の実刑判決、5人が執行猶予付の有罪判決が出ている(他にも逮捕者はいるが、判決は確認できていない)。
 清水大志被告は千葉地裁で求刑通り一審死刑判決。東京高裁で検察・被告側控訴棄却。被告側上告中。
 渡辺純一被告は千葉地裁で求刑死刑に対し一審無期懲役判決。東京高裁で一審破棄、死刑判決。被告側上告中。
 伊藤玲雄被告は千葉地裁で求刑通り死刑判決。東京高裁で検察・被告側控訴棄却。被告側上告中。
 阿多真也被告は千葉地裁で求刑死刑に対し一審無期懲役判決。東京高裁で検察・被告側控訴棄却。被告側上告するも取下げ、確定。
 2007年5月21日、千葉地裁で求刑通り一審無期懲役判決。2009年7月3日、東京高裁で検察・被告側控訴棄却。

氏 名
山本孝幸(33)
逮 捕
 2011年4月20日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、強姦致死
事件概要
 小田原市の電気設備業山本孝幸被告は2002年6月25日午前0時頃、厚木市の焼き肉店従業員だった女性(当時48)の帰宅途中、女性の自宅前の路上で顔を何度も拳で殴って暴行を加え、内臓損傷と頸部圧迫で殺害した。
 山本被告は事件当時、卸会社で働き、現場から約500m東にある女性と同じ町内のアパートに住んでいた。2003年10月まで契約期間があったのに、2002年10月に小田原市へ転居していた。女性と山本被告に面識はなかった。
 2011年春、公訴時効の廃止に伴い、神奈川県警捜査1課に未解決事件専従の特命犯が、21人体制で発足。女性の着衣から採取したDNAが山本被告のものと一致し、未解決事件専従の特命班が裏付け捜査を進め、4月20日、殺人容疑で山本被告を逮捕した。同班がかかわる初の逮捕事件となった。
裁判所
 横浜地裁 毛利晴光裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年7月20日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。山本孝幸被告は逮捕当初から犯行を否定している。
 2012年7月9日の初公判で山本被告は、私が犯人ではありません」と起訴事実を否認した。
 冒頭陳述で検察側は、鑑定の結果、女性の衣服に付着していた体液と、山本被告のDNA型が一致したことから被告が犯人であると主張。弁護側はこれに対し、「衣服の管理がずさんなら、犯人とは別人のDNAが衣服に付着することもあり得る」と反論した。
 13日の論告で検察側は、「(現場に残された)靴下に付着した体液と被告のDNA型が一致した」と主張。被告について「9年間平然と暮らし反省もなく、同種事件の中でも極めて悪質」と指摘した。
 同日の最終弁論で弁護側は、「靴下から別の男のDNA型が出ている。捜査当局の靴下の管理はずさんで、被告のDNA型は事件後に付いた可能性が極めて高い」と反論し、無罪を主張した。
 被害者参加制度を利用して出廷した女性の長女は、「母が亡くなってこの10年は苦しい毎日だった。死刑でも軽すぎるくらい」と涙ながらに意見陳述した。
 判決で毛利裁判長は、女性の着衣から検出された体液のDNA型が山本被告のDNA型と一致したことから「山本被告が犯人と同一であることが認定できる」と指摘。その上で「(女性の着衣など)証拠品の保管状況は不適切であった可能性はあるが、山本被告の体液が付着することは考えにくい」と弁護側の主張を退けた。そして、「暴行の程度が情け容赦なく、被害者の人格を無視し、冒涜するのも甚だしい。単なる殺人や強姦とは異質な犯行と言っても過言ではない」と断罪。また、山本被告が犯行を否認した以外は公判中に何も語らず、「反省が全く見られない」と糾弾した。
備 考
 被告側は控訴した。2012年11月15日、東京高裁で被告側控訴棄却。2013年4月9日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
河西聖一(60)
逮 捕
 2011年6月18日(現行犯逮捕)
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、住居侵入、銃刀法違反
事件概要
 千葉県松戸市の無職河西聖一被告は2011年6月18日午後1時半頃、東京都武蔵野市内に住む自営業の男性(当時81)宅に侵入し、現金約30万円と、ネックレス5本など計28点(時価計約420万7,000円相当)を奪い、その後、帰宅した男性に発見されたため、男性の左胸を複数回突き刺して、殺害した。河西被告は男性ともみ合った際に、両手を負傷し、事件後「空き巣に入って人を刺した」と110番した。
 午後2時10分ごろ、男性宅から血だらけの男が逃げるのを近所の住民が目撃して、110番通報。警視庁武蔵野署員が駆け付けたところ、男性が玄関で血を流して倒れており、約15分後に近くのマンション駐輪場で出血してうずくまっている河西被告を発見。強盗殺人未遂容疑で現行犯逮捕した。
裁判所
 東京地裁立川支部 福崎伸一郎裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年8月1日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2012年7月20日の初公判で河西被告は、「刺したのは事実だが、殺意はなかった」と起訴事実を一部否認した。
 冒頭陳述で検察側は「河西被告は、男性に取り押さえられそうになったため『逃げるためには男性を殺害するしかない』と考え、ナイフで男性の胸を4回突き刺した」と殺意を主張した。一方、弁護側は「男性が、台所から持ち出した包丁を振り回すという予想外の抵抗をしたため、包丁を放させるために胸の上の方を1回だけ刺した」と述べた。
 26日の論告で検察側は、争点となっていた殺意の有無について、検察側は「四つの刺し傷の場所が胸の狭い範囲に集中しているうえ、ナイフの向きや刺した角度などがそろっており、短時間のうちに強い力で連続して突き刺した」と指摘。「そのうち0か所は刃のほぼ根元まで刺さって心臓に穴を開けている」と主張し、「強固な殺意があったことは明らか」と述べた。
 同日の最終弁論で弁護側は、「河西被告が意図的に刺したのは、胸の上の方を1回だけで、致命傷にはなっていない。他の3か所は、男性と押し合いになっているうちに偶然刺さってしまったもので、殺そうなどという意図は全くなかった」と訴え、「強盗致死罪が成立し、懲役20年が相当」と主張した。
 福崎伸一郎裁判長は争点となっていた殺意の有無について、「男性の胸の中心付近を、刃体のほぼ全部が没入するまで深く突き刺していることから、死亡させる危険性が極めて高いと認識していたことは明らかだ」と殺意を認めた。そして、「勇気と正義感を持って対処した男性を殺害してでも逃げ延びようとした態度は身勝手このうえなく、極めて悪質だ」と述べた。
備 考
 被告側は控訴した。2012年11月26日、東京高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
平山純次(39)
逮 捕
 2011年5月13日
殺害人数
 0名
罪 状
 強盗強姦、強盗強姦未遂、強姦、強姦未遂、住居侵入、窃盗他
事件概要
 大阪市の産廃収集会社社員、平山純次被告は2009年5月~2011年4月、深夜に大阪府や奈良県のマンションのベランダから女性宅に侵入。10代後半から30代の女性計9人に対し、ナイフで脅して現金を奪ったうえで、強姦を繰り返した。捜査本部は9回逮捕し、計46件(被害総額約430万円)の犯行を裏付け、このうち32件(同約425万円)について起訴した。
 平山被告はインターネットで女性専用マンションを検索して所在地などを確認。壁や雨どいをつたって2階以上の無施錠のベランダから室内に侵入し、1人暮らしかどうかや、室内にあった写真などでどんな女性が住んでいるかを調べたうえで後日、犯行に及んでいた。
 平山被告は過去にも強姦致傷罪などで実刑判決を受け、服役。刑務所を出所後3か月で最初の犯行に及んでいた。
裁判所
 大阪地裁 河原俊也裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年8月10日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 判決で河原俊也裁判長は「女性の尊厳を蹂躙し、与えた肉体的・精神的苦痛は筆舌に尽くしがたい。人生を狂わされた被害者もいる。自己中心的で身勝手極まりなく、刑事責任は重大。目的達成への強い執念を感じさせ、極めて周到に準備された計画的なものであり、卑劣。抜きがたい常習性が認められる」と指摘した。
備 考
 被告側は控訴した。

氏 名
北村庸(25)
逮 捕
 2012年2月20日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、強盗殺人未遂
事件概要
 群馬県みどり市の会社員北村庸(いさお)被告は2012年2月19日午後7時半ごろ、借金返済を免れる目的でみどり市に住む親子宅を訪問。午後8時~10時ごろ、敷地内の竹やぶで母親(当時85)の首をアンテナコードで絞め、ナイフで刺して殺害。また同10時ごろ、同宅2階で長女(当時47)の首をナイフで刺して現金120万円を奪った。
 北村被告は実家の電器店の顧客だった親子宅に家電製品の設置などで出入り。2011年8月ごろから、「自分で会社を興す費用にあてる」などとうそを言って母親から約100万円、長女から約300万円を借り、パチスロなどの遊興費や飲食費にあてたり友人に金を貸したりしていた。
 北村被告が逃走後、長女が110番通報。翌日、県警捜査1課が殺人未遂容疑で北村被告を逮捕した。
裁判所
 前橋地裁 半田靖史裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年9月11日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2012年9月4日の初公判で、北村被告は起訴内容を認めた。検察側は冒頭陳述で、昨年8月ごろから、「自分で会社を興す費用にあてる」などとうそを言って親子から金を借り、遊興費にあてたり友人に金を貸したりしていたと指摘。北村被告は昨年12月下旬から、借金の返済を免れるために親子の殺害を考え始めた。殺害の際に金も奪おうと考え、「新会社の資料用に写真を撮らせてほしい」と現金120万円を用意させ、長女を襲った後に奪って逃げたという。
 弁護側は、北村被告が友人から借金を申し込まれ断り切れなかったことや反省の態度を示していることなどから、情状酌量を求めた。
 9月7日の論告で検察側は、「被害者2人からの借金を返済するのに困ったというのは、全く身勝手な理由。(北村被告が)独立するという話を信じ、援助した2人に落ち度はなく、酌量の余地はない」と指摘した。被害者参加制度で公判に出廷している、長女の代理人弁護士は「被告人は母親と長女の全てを奪った。長女や遺族も極刑を望んでいる」と意見陳述した。
 同日の最終弁論で弁護側は「犯行計画は漠然としたもの。前科前歴もなく、犯行時は24歳と若年で、更生は可能」として懲役20年が妥当と意見を述べた。
 判決で半田裁判長は、北村被告が借金の返済を免れようと2人の殺害を計画し、事前にアンテナコードなどを用意したことや、「どうせ殺すならさらに金を得よう」と、女性らに120万円を用意させ奪ったことなどを挙げ、計画性や冷酷さ、強い殺意を指摘し、酌量の余地はないとした。弁護側の懲役20年の有期懲役刑主張について、半田裁判長は「被告の社会経験を踏まえても、酌むべき点はない」と判断した。
備 考
 県警は北村被告の犯行を手助けしたとして2011年3月17日、友人の男性を強盗殺人ほう助容疑で逮捕し、前橋地検に送検。27日、処分保留で釈放した。県警は逮捕の事実を公表せず、裁判員裁判で明らかになった。県警は逮捕時に発表しなかったことについて「当時は他に関与が疑われる人物がおり、逃亡を防ぐため」と説明している。男性はその後、別の窃盗容疑で逮捕、起訴された。
 被告側は控訴した。2013年2月7日、東京高裁で被告側控訴棄却。上告せず確定と思われる。

氏 名
坂本敏之(44)
逮 捕
 2009年9月18日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、銃刀法違反(加重所持)
事件概要
 指定暴力団工藤会系組幹部坂本敏之被告、ならびに同会系の別の組の組員I被告は共謀して2008年9月10日午前2時50分頃、福岡県中間市に住む同会系組幹部(当時66)宅に侵入。拳銃で頭や胸などを撃って殺害した、とされる。拳銃は発見されていない。
裁判所
 福岡高裁 川口宰護裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年9月21日 無期懲役(一審破棄)
裁判焦点
 一審では坂本被告、I被告ともに起訴事実を否認。判決で重富朗裁判長は実行犯とされた坂本被告について「携帯電話の電波状況から、犯行時間帯に現場付近にいたことは推認される」としたが、犯行を認めた捜査段階の調書について、供述内容が住民の証言などと矛盾しているとして「秘密の暴露がなく、(暴力団関係者の)だれかをかばって虚偽の自白をした可能性が高く、実行犯と認定できない」と指摘した。事件後、坂本被告と一緒に知人宅で着替えをしたとされたI被告が事件で使用したとされる携帯電話についても「他の者が使用した可能性は排除できない」と述べた。そして「関与は疑われるが、自白は信用できず、犯人と認定することはできない」などとした。

 2011年10月11日の控訴審初公判で、検察側は「検察側が立証した間接事実の評価を誤っている」とし、破棄を求めた。坂本被告、I被告側は控訴棄却を求めた。
 判決で川口裁判長は、坂本被告の知人らが「拳銃の試し撃ちができる場所を探していた」「殺害を打ち明けられた」などと供述した調書について「具体的で信用できる」と認定。その上で「実行犯でなければ知り得ない情報を周囲に話していたことなどが認められ、一審判決は証拠の評価を誤った」と述べた。坂本被告の捜査段階での自白については、「共犯者をかばうために不自然な供述をしたが、射殺を認めた部分は信用できる」とした。そして「間接事実を総合評価すると、坂本被告は殺害に深く関与したと認められる」として無罪判決を破棄した。一方、I被告については「何らかの関与をしたことは強く疑われるが、具体的な役割は不明」として、一審の結論を追認し、検察側の控訴を棄却した。
備 考
 裁判員や親族に危害が加えられる恐れがあるとして、全国で初めて裁判員裁判の対象から除外された。
 I被告は無罪(求刑懲役20年)が言い渡された。二審でも無罪判決。上告せず確定。
 両被告とともに逮捕されていた組長と幹部の計3名は、起訴されずに釈放されている。
 2011年2月7日、福岡地裁小倉支部で一審無罪判決。被告側は上告した。2013年4月8日、被告側上告棄却、確定。
 組長ら3名は2015年に逮捕されている。

氏 名
安承哲(40)
逮 捕
 2009年3月27日(強盗事件で現行犯逮捕)
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、強盗殺人未遂、強盗、窃盗他
事件概要
 元警備員で韓国籍の安承哲(あんしょうてつ 日本名・安田亨)被告は2008年12月29日、東大阪市内でタクシー運転手の男性(当時67)の首などを刃物で切りつけて殺害し、約2万円を強奪した。2009年1月5日、松原市内で男性運転手(当時61)の首などに刃物で切りつけて重傷を負わせ、約25,000円を奪った。
 3月15日、大阪市東住吉区のコンビニエンスストアで現金約35万円を奪った。その後、周辺で未遂を含め2件のコンビニ強盗事件を起こした。
 3月27日午前0時50分ごろ、大阪市東住吉区のコンビニエンスストア(15日と同じ場所)に白マスクをして押し入り、レジにいた男性店員(当時19)にナイフを突きつけて脅し、現金約54,000円を奪って逃走。その直後、現場近くで東住吉署員が自転車に乗った不審な男を発見。男は容疑を否認したが、マスクや軍手などの所持品が目撃証言と一致したことから強盗の疑いで逮捕した。
 他に2件の強盗、窃盗事件がある。
 安承哲被告は月12万円の生活保護を受けながらパチンコに頻繁に通い、消費者金融に300万円近くの借金があった。
 大阪府警捜査一課は5月23日、強盗殺人未遂容疑で安承哲被告を再逮捕。6月12日、強盗殺人容疑で再逮捕した。
 6月15日、大阪地裁(小松本卓裁判官)で開かれた強盗事件の公判で、弁護側が安被告は過去に精神的な疾患での通院歴があると述べた。その後公判は停止し、強盗殺人事件他と一緒に裁かれることとなった。
 大阪地検は6月26日、本格的な精神鑑定のための鑑定留置を大阪地裁に請求し、認められた。当初3か月、その後1か月延長した鑑定結果、地検は「刑事責任能力が認められる」と判断し、11月10日に起訴した。
裁判所
 大阪高裁 上垣猛裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年9月25日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 被告側は一、二審を通じ、殺傷事件では無罪を主張。控訴審判決は、重傷を負った運転手の血痕が被告の靴に付着していたことなどから「犯人と認められる」と判断した。
備 考
 2012年2月13日、大阪地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2013年4月23日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
西村豊(58)
逮 捕
 2011年5月21日(別の詐欺罪で服役中)
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、詐欺他
事件概要
 都内で合鍵製作会社を経営していた西村豊被告は、同会社役員のK元被告と共謀。2009年4月20日、松戸市のアパートに住む従業員男性(当時52)の首をロープで首を絞めて殺害。男性が自殺したように装い、5月に生命保険金約2000万円を騙し取った。事件後、K元被告が「家に行ったら自殺していた」と通報し、千葉県警松戸署員が駆けつけたが、ロープで首を吊った状態だったことや遺書のようなメモ残されていたことから、自殺と判断、司法解剖は行わなかった。
 西村被告は以前、中古車販売会社を経営していたが倒産。妻らと共謀して自分に掛けた保険金をだまし取る目的で2003年11月、自分が死亡したとする虚偽の死亡届を東京都中央区役所に提出し、その後は他人に成りすまして生活していた。2005年10月に他人名義で合鍵製造などを手がける会社を設立し、K元被告も役員に就任。同社は業績がふるわず、2007年頃から資金繰りが悪化し、2009年当時は倒産状態だった。
 男性は求人募集を見て応募し、2006年1月から勤務していた。男性は当時は「小島」姓だったが、西村被告は8カ月後、男性を結婚させて「高橋」姓に変えさせ、社内では「吉田誠」と名乗らせた。戸籍を失っていた西村被告はこの直後、自分の顔写真を張った「高橋久好」名義の運転免許証を不正に取得。さらに2007年11月、免許証を使って男性に成り済まし、会社を受取人とする生命保険契約を結んだ。2008年12月には男性を再婚させ、別姓に変えさせた上で、5カ月後に殺害した。発見された「借金した責任をとる」などと書かれた遺書のようなメモは、西村被告から借金をしていた男性を言いくるめて書かせていた。
 しかし西村被告の自宅で、当時交際していた女性が西村被告の本名が載っていた古い免許証を見つけた。捨てていなかった古い免許証に違和感を覚えた女性が警視庁に相談した結果、不審な行動が次々と明らかになった。
 西村被告は2003年の件でウソの死亡診断書などを保険会社に提出し、生命保険金約5400万円をだまし取ったとして警視庁に詐欺容疑で2010年5月10日に元妻ら3人とともに逮捕され、合計約8900万円をだまし取ったとして2011年3月、懲役7年の実刑が確定していた。警視庁が西村被告の周辺を捜査したところ、死亡した男性に生命保険が掛けられていたことが判明。再捜査の結果、他殺だったと判断し、K元被告とともに逮捕した。
裁判所
 東京地裁 大野勝則裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年9月28日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2012年9月18日の初公判で、西村豊被告は保険金殺人について無罪を主張した。
 冒頭陳述で検察側は、被告は多額の借金を抱え、会社も破綻寸前だったことから保険金詐欺を企てたと指摘。従業員の男性に生命保険をかけ、事故死を装う計画を立てたが失敗したため、2009年4月に自らの手で殺害したと述べた。弁護側は、具体的な殺害方法が明らかになっていないと反論。「借金があった男性は、被告が目を離したすきに自殺した」と主張した。
 判決で大野勝則裁判長は、「被害者に自殺する動機が見当たらない」などと指摘。共犯者の供述の信用性も認め「元交際相手に借金返済を求められるなど殺害の動機があった」と述べ、被告の犯行と認定。その上で「事前に被害者に遺書を書かせるなど計画的」とした。そして「犯行を積極主導し、自らの手で被害者を殺害した被告の責任は共犯者と比べ格段に重い」と指摘した。
備 考
 K元被告は2012年3月28日、東京地裁(村山浩昭裁判長)の裁判員裁判で懲役20年(求刑懲役25年)判決。8月14日、東京高裁で被告側控訴棄却。上告せず確定。

 被告側は控訴した。2013年4月10日、東京高裁で被告側控訴棄却。2013年9月25日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
舩山昇悟(34)
逮 捕
 2011年7月24日
殺害人数
 2名
罪 状
 殺人
事件概要
 東京都渋谷区の無職舩山(ふなやま)昇悟被告は中国人ホステスと再婚しようと考え、看護師の妻(当時35)を殺害して保険金で生活費などを得ることを計画。再婚には小学3年の長男(当時9歳)も邪魔になることなどから、2011年7月18日未明、自宅マンションで寝ていた2人をタオルのようなもので絞殺した上、第三者の犯行に見せかけるため室内を荒らすなどした。
 舩山被告は2003年、夫婦で互いを受取人とする生命保険に加入していたが、定職に就かないようになった2010年秋になり、新たにそれぞれが死亡すると約3500万円を受け取ることができる保険に加入していた。
 事件後、舩山被告は110番通報。しかし室内が物色されたり、外部から侵入された形跡がなかったため、捜査本部は舩山被告に発見の経緯を聞き、7月24日になって事件の関与を認めた。
裁判所
 東京高裁 山崎学裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年10月18日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 判決で山崎裁判長は一審判決の一部に事実誤認があるとしたが、ほぼ同様の動機を認定し「身勝手極まりなく刑事責任は重い」とした。
備 考
 2012年3月27日、東京地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2013年11月6日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
児玉一男(34)
逮 捕
 2011年10月8日(強盗未遂逮捕)
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、死体遺棄、強盗、強盗未遂、免状等不実記載、詐欺
事件概要
 埼玉県川越市の運送会社アルバイト児玉一男被告は、2010年7月21日朝、自宅3階にある会社員の弟(当時30)の部屋で、弟の頭をコンクリートブロックで殴り、ネクタイで首を絞めて殺害。同居する母親に気付かれないよう、1階の自室床下に遺体を埋めて現金3,000円入り財布や乗用車を奪った。さらに免許を持っていない児玉被告は8月、弟に成りすまして県警運転免許本部で不正に弟の免許を更新した。10月には弟の口座から現金約10万円を引き出した。
 児玉被告は2009年ごろから弟名義の車を何度も勝手に使ったことで文句を言われるなど、日ごろから兄弟仲が良くなかった。母親は9月に行方不明者届を出していた。
 児玉被告は飲食代等でサラ金から借金があったことから、強盗を決意。
 2011年9月1日午前3時ごろ、所沢市のコンビニエンスストアで、男性従業員に文化包丁を突き付けて「金を出せ」と脅迫。レジを開けさせ、現金約37,000円を奪った。
 9月5日と16日、川越市の牛丼店(同じ店)に押し入り、アルバイト店員に文化包丁を突き付けて、「金を出せ」などと脅迫。レジや金庫から現金計約41万円を奪った。
 9月16日午前4時ごろ、朝霞市の牛丼店で、アルバイト店員の男性に包丁を突きつけ「恒例のすき家強盗です。金を出せよ」と脅し、金を奪おうとしたが、店員が非常を知らせるボタンを押したため何も取らずに逃走した。
 防犯カメラに映った乗用車などから、さいたま県警は10月8日、朝霞市で起きた強盗未遂容疑で児玉被告を逮捕。犯行に使用したワゴン車の名義が弟のものだったため、県警が行方を捜していたところ、昨年9月に母親から捜索願が出されていたことが判明。児玉被告が28日の事情聴取で、「埋めた」と供述したことから、29日に自宅を捜索し、捜査員が白骨化した遺体を発見した。県警は11月18日に殺人容疑で再逮捕した。
裁判所
 さいたま地裁 井口修裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年10月19日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2012年10月15日の初公判で児玉被告は殺害した事実を認めたうえで「強盗目的ではない。(車などを)自分の物にしたつもりはない」などと強盗殺人罪を否定した。
 検察側は冒頭陳述で「児玉被告は犯行前、弟が死ねば弟の車が手に入り、殺害して現金なども奪おうと考えた」と主張。「殺害時はレンガなどを使った」と述べた。弁護側は「弟の暴言で衝動的に殺害した。殺害後は現金や車を奪おうと考える余裕はなく、財布などは失踪と見せかけるために隠した」と反論、凶器の使用も否定した。
 10月18日、検察側は論告で、児玉被告が弟の車を無断使用する中で、自宅近くに駐車場を探していたと指摘。「弟を殺し、車を自由に使いたいと考えていた」と主張した。同日の最終弁論で弁護側は、被告には自分よりも良い人生を送っている弟を憎らしく思う気持ちが積もっていたと述べ、「憎しみからの殺害で、強盗殺人罪の適用には疑問が残る」と主張した。児玉被告は最終陳述で「命をもって償いたい。自分の進むべき道は死刑」と述べた。
 判決で井口裁判長は、殺害後にクレジットカードなどを盗み車を乗り回したと指摘。「憎しみから殺害を企てた時点で弟の金品を自分の物にしたいと考えていた」と強盗目的を認定した。すき家での強盗事件などについても「短期間にちゅうちょせず繰り返した」と非難した。そして「強固な犯意に基づく計画的な犯行であり身勝手というほかない。罪を認め反省していることなどを考えても、酌量の余地はない」と判決理由を述べた。
備 考
 控訴せず確定。

氏 名
仲島健治(28)
逮 捕
 2011年7月14日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、銃刀法違反
事件概要
 福岡県築上町の無職仲島健治被告は2011年7月14日未明、客として乗車し、自宅近くに停車したタクシー内で、小倉北区に住むタクシー運転手(当時66)に果物ナイフを突きつけ現金を要求。抵抗されたため、胸や腹を数回刺して失血死させ、売上金など現金約11,000円を奪った。
 豊前署は事件から約1時間後、現場から約500m先の路上で上半身裸の仲島被告を発見。奪った現金や約1万円や返り血とみられる血液が付いたシャツなどをビニール袋に入れて持っていた。職務質問に対し犯行を認め、供述通りに近くの側溝から凶器とみられる刃物も見つかったため、逮捕した。
裁判所
 最高裁第三小法廷 田原睦夫裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年10月24日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 二審で仲島被告は量刑不当を訴えている。
備 考
 2012年2月9日、福岡地裁小倉支部の裁判員裁判で一審求刑通り無期懲役判決。

氏 名
山口芳寛(21)
逮 捕
 2011年3月4日(死体遺棄容疑)
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、強制わいせつ致死、死体遺棄
事件概要
 熊本市の大学生山口芳寛被告は2011年3月3日午後7時半頃、同市の商業施設で、家族で買い物に来ていた女児(当時3)を多目的トイレに連れ込んでわいせつな行為をした上、首を手で絞めるなどして殺害。遺体をリュックサックに入れ、8時ごろ、近くの排水路に遺棄した。
 熊本県警は4日午後、商業施設の防犯カメラに映っていた山口被告を任意同行。「女児を殺害し、川に捨てた」との供述通り遺体を発見したため、同日山口被告を死体遺棄容疑で緊急逮捕した。3月22日、山口被告は殺人罪で再逮捕された。
 熊本地検は4月6日、熊本簡裁に鑑定留置を請求し、認められた。期間は当初3か月だったが後に4か月に延長。8月13日、犯行当時に刑事責任能力はあったと判断し、熊本地裁は山口被告を起訴した。
裁判所
 熊本地裁 松尾嘉倫裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年10月29日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2012年10月17日の初公判で、山口被告は罪状認否で殺人罪については「肩を押さえる時に(手が)ずれ、結果的に首を押さえる形になった。殺意はなかった」と否認した。他の罪は認めた。
 検察側は冒頭陳述で、山口被告が「幼い子どもにわいせつ行為をして殺害する内容の漫画やDVDを収集していた」と指摘。少なくとも4、5分間、手で首の周囲を強く締め付けたとし、計画的にわいせつ行為と殺害行為をしたと主張した。また、商業施設での行動については、「強姦、殺害しようと考え、スーパーのトイレ脇にあるゲームコーナーで、約3時間半にわたり幼い女の子を待ち伏せた」とし、「他の子も何度か追いかけたが、連れ込めなかったため、女児が一人でトイレに向かうところを見つけ、後を付けた。トイレ内で女児を捜す父親の声を聞いたため、わいせつ行為を続けることができないとして殺害した」と指摘した。
 これに対し、弁護側は「(多目的トイレ内で)騒がれたので、右手で口を塞ぎ、左手で体を押さえつけようとした」と主張。トイレの外側からドアをノックする音がしたため、「(ノックした人の)足音が遠ざかるまで、必死で女児の体を押さえつけ、振り向くと動かなくなっていた。殺すつもりはなかった」と殺意を否認した。山口被告については「凶悪で猟奇的な精神異常者ではなく、真面目な普通の青年」と強調し、漫画などの収集に関しては「一般に市販されており、誰でも手に出来る。事件とは関わりがない」と反論。また山口被告が鑑定留置で発達障害の一種などと診断されたことを受け、「刑事責任能力は争わないが、障害を持っている人に対し、どのような刑罰を科すべきか考えてほしい」として情状酌量を求めた。
 18日の公判で、司法解剖医は顔などに溢血が見られることなどから「窒息による急死と考えられる。典型的な頸部圧迫」と所見を述べた。また精神鑑定医は、山口被告が20歳ごろから小児性愛の精神症状があり「事件の原因となった」と述べた。「善悪の判断はできた」と責任能力を認めた。
 23日の論告で検察側は「異常で悪質な犯行。客観的な遺体の損傷状況などから被告に殺意があったことは明らか。反省が認められず、再犯の恐れは高い」と指摘。被害者参加制度で出廷した母親は「迷うことなく死刑を望む。(被告は)人の心を持っていない」と強く訴えた。
 同日の最終弁論で弁護側は、「事件は計画的でなく突発的な側面がある」として、有期懲役刑が相当と主張。山口被告は「被害者、遺族に本当に申し訳ない」と述べた。
 松尾嘉倫裁判長は焦点となった殺意の有無について、被告が女児の首を数分間にわたって絞め続けたと認定。「幼児の首を数分間にわたって絞め続ければ、死亡させる危険性が非常に高いのは明らか」として殺意を認めた。一方、検察側が主張していた殺害の計画性については、「わいせつ行為をする中で父親が(被害者を)捜す声が聞こえ、発覚を逃れるために殺害するほかないと考えた」と指摘し、「計画性があったとは認められない」と判断した。山口被告の発達障害については、「被告の障害と、犯行に及んだこととの間に関連性はない」と弁護側の情状酌量を退けた。そして、「3歳の女児が絶望的な状況の中で感じたであろう恐怖は筆舌に尽くしがたい。犯行態様は極めて残虐。被告は公判廷で不合理な弁解に終始し、反省が真摯とは言い難い」と述べた。
備 考
 被告側は控訴した。2013年3月13日、福岡高裁で被告側控訴棄却。2013年6月25日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
若生康貴(36)
逮 捕
 2011年2月28日(死体遺棄容疑。3月22日、強盗殺人容疑で再逮捕)
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、死体遺棄
事件概要
 金沢市に住むNHK金沢放送局の元委託カメラマン若生康貴被告は2011年2月6日午後9時35分から翌7日午前2時16分の間、金沢市かその周辺に駐車した乗用車内で、株の投資資金として、金沢市に住む主婦の女性(当時27)から株の投資名目で預かっていた800万円の運用益などの返済を免れようと、刃物で左首を刺して殺害し、遺体を内灘町の海岸砂浜に埋めた。若生被告と女性は3年前から知り合いだった。
 2月6日の午後10時ごろ、主婦の両親が金沢市福増町のショッピングセンター駐車場で、車を発見。翌日、金沢西署に捜索願を提出した。
 石川県警は2月7日に若生被告へ最初に任意聴取を実施。17日、県警は逮捕監禁容疑で若生被告の自宅を家宅捜査し、主婦の血痕が残っていた乗用車を押収した。18日午前6時頃、若生被告は後頭部を刃物で刺して自殺を図り、意識不明の重体となって県立中央病院(金沢市)に入院。24日、内灘町大根布の砂浜で、女性の遺体が見つかった。
 2月28日、石川県警は若生被告を死体遺棄容疑で逮捕。3月22日、強盗殺人容疑で再逮捕した。
裁判所
 名古屋高裁金沢支部 神坂尚裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年10月30日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2012年8月30日の控訴審初公判で、弁護側は改めて無罪を主張。遺体が遺棄された石川県内灘町の海岸で採取されたたばこの吸い殻から若生被告とは異なるDNA型が検出されたことなどから、第三者の関与があったと訴えた。また、一審判決は女性殺害の時間や場所、遺棄した手段を具体的に示していないとして、「厳格な証明が必要な刑事裁判において、甘い事実認定になっている」と主張。「疑わしきは被告人の利益にという刑事裁判の大原則がある。裁判員裁判を尊重すべきという意見はあるが、改めるべきは改めてほしい」と訴えた。さらに、「一審は一般市民(の裁判員)にも分かりやすく、期日も短くするため、証拠が制限された」とし、被告人質問や一審で未出廷の3人の証人尋問のほか、実況見分調書など計21点の証拠の取り調べを求めた。
 検察側は「(一審判決は)状況証拠を丹念に積み重ねている。控訴には理由がない」と述べ、棄却を求めた。
 伊藤裁判長は、証拠を絞り込む一審の公判前整理手続きや公判の証拠調べで十分に審理されているなどとし、請求された証拠をいずれも退け、「新しく発見された証拠はなく、一審の記録に基づいて判断する」として即日結審した。
 弁護側は9月末、裁判所に審理の再開を求める申立書を提出した。さらに10月27日、若生被告以外の第三者が事件に関与した可能性を指摘する書面を名古屋高裁金沢支部に提出した。
 判決で、伊藤裁判長は▽車に被害者の遺留品が残っていないからといって、事実誤認があるとまでは言えない▽死亡推定時刻には幅があり、犯行が困難とは言えない――などとして弁護側の主張を退けた。
 また、第三者の関与の可能性を示す証拠として、弁護側が被告の車内にあった靴から複数人のDNA型が検出されたことを挙げた点について「被告以外が関与した可能性を示す事実とは言える」としたものの、「被告の供述が信用できないため、(犯行に関与したという)第三者の実在の裏付けにならない」と判断した。その上で、若生被告の車のシートやNHK金沢放送局から発見された若生被告のベストなどから、女性のDNA型と一致する血液が検出されたことを重視し、「被告本人が犯行に関わっていることを強く推認させる」と認定した。
 また、弁護側は、「第三者関与の可能性を示す新証拠が判明した」として弁論再開を求めていたが、伊藤裁判長は「補充して審理するほどの証拠ではない」として認めなかった。
備 考
 2012年3月2日、金沢地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2013年3月6日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
河村信彦(59)
逮 捕
 2008年11月28日
殺害人数
 1名
罪 状
 組織犯罪処罰法違反(組織的殺人)他
事件概要
 名古屋市に拠点を置く山口組系暴力団幹部で人材派遣業の浦信彦被告(旧姓)は、同暴力団組長福富弘被告らから殺害の指示を受け、同組員M被告らと共謀。2007年10月14日午前10時55分ごろ、東京都台東区上野のJR御徒町駅近くにあるアメヤ横丁路上を歩いていた同組元幹部の男性に銃弾3発を発射し、殺害した。
 殺害された男性は9月に同組を破門されていた。
裁判所
 東京高裁 若原正樹裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年10月31日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 河村被告は「実行行為や共謀はない」と無罪を主張したが、若原正樹裁判長は「共犯者や目撃者らの証言は信用できる」と退けた。
備 考
 この事件では6人が逮捕され、5人が起訴されている。残り1人については不明。
 福富弘被告、冨士田学被告は2011年6月9日、東京地裁で求刑通り無期懲役判決。2012年中に東京高裁で被告側控訴棄却。2014年3月18日、被告側上告棄却、確定。
 組織犯罪処罰法違反(組織的殺人)に問われた元組員で食品加工作業員の男性被告は2010年3月18日、東京地裁(藤井敏明裁判長)で懲役4年判決(求刑懲役18年)。藤井裁判長は「目的を知らされず拳銃運搬役に使われた可能性が高い」と指摘して組織的殺人を無罪とし、銃刀法違反(拳銃加重所持)のみ有罪とした。11月8日、東京高裁(岡田雄一裁判長)で検察側控訴棄却。
 浦被告とともに実行犯とされたM被告は、2011年5月30日、東京地裁(藤井敏明裁判長)で懲役20年判決(求刑懲役30年)。2012年中に被告側控訴棄却。被告側上告中。
 2011年5月30日、東京地裁で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2014年中に被告側上告棄却、確定と思われる。

氏 名
平田智大(23)
逮 捕
 2011年9月27日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、建造物侵入
事件概要
 無職平田智大(ともひろ)被告は、解体工T被告と共謀。2011年9月19日未明、東京都豊島区のゲームセンターに侵入し、事務所にいた経営者の男性(当時75)を暴行した後、平田被告が消火器で男性の後頭部を何度も殴って殺害。さらに、両被告は男性のズボンのポケットに入っていたカギの束を使って両替機から現金11万4400円を奪った後、再び店内に侵入して別の両替機から現金4万6200円を奪った。
 平田被告とT被告は神奈川県内の少年院で知りあい、退院後も頻繁に会っていた。平田被告は以前からゲームセンターで遊んでいた。
 防犯カメラの映像などから2人が浮上。9月27日、逮捕された。
裁判所
 東京地裁 田村政喜裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年11月1日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 裁判で平田被告側は「犯行時はてんかんの発作による意識障害で心神喪失状態だった」などと無罪を主張した。
 2012年10月24日の論告求刑で、検察側は「遊ぶ金欲しさに無抵抗な高齢の被害者を消火器で何度も一方的に殴って殺害した残忍な犯行だ」と述べた。平田被告の弁護士は「殺すつもりはなかった」などと主張、T被告の弁護士は「事件を反省していて刑を軽くすべきだ」などと主張した。
 版か悦で田村裁判長は、「知人に対し、平常心だったと犯行の様子を告白している」と責任能力を認めた。そして「強い力で被害者の頭を集中的に殴っている」と殺意があったと認めたうえで、「抵抗できない被害者を容赦なく殺害しており、人の命を軽くみていて、死刑に処することすら考える余地がある」と非難した。
備 考
 共犯で強盗致死などの罪で起訴されたT被告は、「犯行は悪質だが、平田被告を止めるなどした」として懲役23年(求刑懲役25年)が言い渡された。T被告は控訴せず確定。

 被告側は控訴した。2013年4月24日、東京高裁で被告側控訴棄却。上告せず確定と思われる。

氏 名
内田清次(39)
逮 捕
 2011年7月8日(別の窃盗事件で4月に逮捕済み)
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、住居侵入他
事件概要
 住所不定、無職内田清次被告は1999年12月28日午後、金品を奪おうと東京都板橋区に住む会社事務員の女性(当時28)方に2階ベランダの窓から侵入。ところが女性がいたため暴行しようとしたが、抵抗されたため殺害した。タンスなどを物色した形跡があったが、奪った金品は確認されていない。外出先から戻った両親が、自宅2階の6畳間で倒れている女性を発見し、通報した。
 内田被告は当時、窃盗罪で服役した刑務所から出所した直後で、荒川区内の更生保護施設に入所していた。
 目撃情報などが少なく捜査は難航したが、未解決事件を担当する警視庁捜査1課の特命捜査対策室(特命班)が遺留物の再鑑定を進めるなどしていた。
 その後も内田被告は窃盗罪で服役を繰り返し、2010年5月に札幌刑務所を出所。その後も札幌市内にとどまり、空き巣を繰り返していた。2011年4月、内田被告は札幌市内の会社事務所から現金を盗んだとして逮捕された。その後の捜査で2月13日午後8時頃、札幌市中央区の女性会社員(当時68)宅に、窓ガラスを割って侵入。玄関で鉢合わせた女性の顔を、拳で数回殴り、現金約3万円の入ったハンドバッグを奪った強盗事件が判明。女性は一時、意識不明となり、硬膜下血腫などの重傷を負った。6月13日、強盗傷害容疑で再逮捕された。北海道警の調べで、約30件の余罪が判明し、うち2件について札幌地検は追起訴した。
 捜査過程で内田被告のDNA型を調べたところ、女性方に残された体液のDNA型と一致することが判明。7月8日、内田被告は強盗殺人容疑他で再逮捕された。
裁判所
 最高裁第一小法廷 横田尤孝裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年11月5日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 二審で内田被告は、事実誤認、量刑不当を主張している。
備 考
 この事件では、現場から内田被告の掌紋が採取されたが、警視庁は掌紋の部位を誤って証拠として保管。警察庁も気付かないまま2002年、誤った状態でデータベースに入力した。現場に残された掌紋は、手の左右や手のひらのどの部分か見極めたうえで、側面を含め片手につき四つの部位に分けてデータベースに登録する。しかし、本事件では、担当者が部位を誤って判断していた。
 内田被告は本事件後も別の強盗事件で数回逮捕されており、掌紋も調べられていたが、照合先であるデータベースの情報が誤っていたため、殺人事件で採取された掌紋とは一致せず、関与が浮上しなかった。
 警察庁は今回の問題を受け、全国の警察に同様の問題がないかを調査するとともに指紋・掌紋を正しく管理するよう指示した。警察庁の片桐裕長官は2011年12月1日の記者会見で「部位の推定が正しく行われていれば、早期に被疑者を検挙することができた。その後の犯罪も防ぐことができたと思われ、遺憾だ」と述べた。そのうえで、採取された掌紋が不鮮明で部位の特定が困難だったことにも言及。掌紋を照合するシステムの高度化を検討する意向を明らかにした。
 2011年12月21日、東京地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2012年7月2日、東京高裁で被告側控訴棄却。
その他
 札幌での強盗事件について2012年11月16日、札幌地裁の裁判員裁判で初公判が開かれた。11月20日、渡辺康裁判長は懲役9年(求刑懲役10年)を言い渡した。

氏 名
斎藤勝彦(66)
逮 捕
 2011年10月19日(窃盗容疑)
殺害人数
 2名
罪 状
 強盗殺人、殺人、窃盗
事件概要
 さいたま市の斎藤勝彦被告は、同市に住む知人男性(当時65)を殺害して支給されていた年金を奪う目的で、知人男性の同居男性容疑者と共謀。2005年3月頃、静岡県沼津市内に駐車した軽乗用車内で知人男性を薬で眠らせ、首を絞めて殺害。身元発覚を防ぐため、両手首を切断した遺体を茨城県坂東市内に遺棄。奪ったキャッシュカードで約6年半にわたり、支給された年金計約980万円を横取りした。起訴されたのは、2010年12月~2011年10月の間、年金など122万円5千円を引き出した分である。
 同居男性容疑者は事件後、斎藤被告のアパートで暮らしていたが、家賃の支払いを巡りトラブルになり、2005年夏頃から音信不通になった。
 男性の遺体は2005年4月21日、坂東市の廃業したガソリンスタンド倉庫内で全身を毛布でくるまれ粘着テープを巻かれた状態で見つかったが、身元は不明のままだった。

 斎藤勝彦被告は2006年9月上旬頃、斎藤被告の自宅で、千葉県八千代市に住むエステ店経営者で交際相手だった中国籍の女性(当時47)と店の売上金や給与の支払いをめぐって言い争いとなり、女性の首を電気コードで絞め殺害した。遺体は中が見えないプラスチックケースに入れられ、約1週間後に自宅近くの駐車場に止めた斎藤被告の軽乗用車内に遺棄された。
 斎藤被告は2004年12月頃、さいたま市のエステで店員の女性と知り合い交際を開始。その後、女性がふじみ野市で経営し始めたエステ店の開店資金を斎藤被告が援助するとともに、店長を勤めていた。援助した資金の一部は、男性殺害後に引き出した金が使われていた。

 埼玉県警は、行方不明になっていた男性の口座から継続的に年金が引き出されていたことから捜査を開始。ATM(現金自動受払機)の画像などから2011年10月19日、男性のキャッシュカードで約16万円を引き出したとして、斎藤勝彦被告を窃盗容疑で逮捕した。そして押収した軽乗用車から、白骨化した女性の遺体が見つかった。軽乗用車は、窃盗事件で押収されるまで約5年にわたり放置されていたが、駐車場の代金は一度も滞ることなく斎藤被告が納めていた。斎藤被告は二つの犯行を自供。自供通り、男性の両手首が春日部市内で見つかった。埼玉・茨城両県警は12月6日、男性への強盗殺人容疑で斎藤被告を再逮捕した。死体遺棄容疑については時効が成立していた。
 埼玉・茨城両県警は2012年1月6日、同居男性(死亡時59)を容疑者死亡のまま、強盗殺人容疑でさいたま地検に書類送検した。男性は2010年11月に病死していた。
 埼玉県警は1月12日、女性への殺人容疑で斎藤被告を再逮捕した。
裁判所
 さいたま地裁 井口修裁判長
求 刑
 死刑+懲役2年
判 決
 2012年11月6日 無期懲役+懲役2年
 判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2012年10月24日の初公判では斎藤被告は、罪状認否で「間違いありません」と全面的に起訴事実を認めた。
この日は男性殺害事件を審理。検察側は冒頭陳述で斎藤被告が「金づるになりそうなホームレスを探し、運転免許証を持つ男性に近づいた」と指摘。別の男(2010年11月に59歳で病死)と共謀して年金を横取りしようと考え、受給手続きを手伝った後に男性を殺害し、「起訴されているだけで計122万5,000円を、約6年半にわたり計約980万円を横取りし、生活費や遊ぶために使った」と述べた。弁護側は「離婚後の1人暮らしで、話し相手がほしくて男性と知り合った」と反論した。さらに「(斎藤被告が)詳しく供述したので、事件の全貌が明らかになった。深く反省し、自分の行為を悔いている」と主張、酌量を求めた。
 10月29日の第4回公判では女性殺害事件の審理が始まった。検察側は冒頭陳述で、女性経営の風俗店店長を務めていた斎藤被告が、店の売上金や給与の支払いをめぐって言い争いとなり殺害したと述べた。弁護側は、殺害の衝動性や斎藤被告の供述で事件が判明した点を強調、情状酌量を求めた。
 11月1日の論告で検察側は、斎藤被告が男性に睡眠薬が入った弁当を食べさせて眠らせ、絞殺したと指摘。遺体の身元が特定されるのを防ぐため、両手首を切断し、所持品を奪ったとして「強固な殺意があり、狡猾かつ残忍」と主張した。沈さんを殺害後、遺体をプラスチック製の箱に隠し、本人になりすましてメールを送るなどしたとして「命の重みを全く顧みなかった」とした。そして「1年半の間に、尊い2人の命を奪った。いずれも強固な殺意に基づく残忍な犯行で、死刑が相当」と主張した。弁護側は、斎藤被告と男性の出会いは偶然で、その経緯を説明した証人の証言を「矛盾だらけのウソ」と主張。斎藤被告の自供が事件の全容解明につながったとし、「被告の供述態度には一定の評価ができる」と主張。女性については、口論の末に腹を立てて殺害したもので計画性はないとして、「死刑を回避すべき事情と言える」と訴えた。斎藤被告は最終陳述で「でたらめな証言があった」とする一方で「殺害に弁解の余地はない。極刑を望みます」と述べた。
 判決で井口裁判長は一連の犯行について「計画的で強欲。人命を軽視する態度は甚だしく反社会性は明らか。極刑をもって望むことが十分に考えられ、遺族が極刑を望んでいるのは当然」と指弾した。一方、斎藤被告が2件の殺人を自ら供述し、事件の解明が進んだ面があると指摘。金目当てだけで被害者に近づいたとは言い切れない点もあげ、「死刑を選択することがやむを得ない場合に当たるとまでは認められない。被告人の年齢を考えると、無期懲役は被告人が考える以上に厳しい」と述べた。最後、井口裁判長は「与えられた時間は被告人に対する罰。どう償ったらいいか真剣に考えて過ごしてほしい」と説諭した。
備 考
 斎藤被告は、2010年6月21日、さいたま地裁で道路交通法違反、自動車運転過失傷害罪により懲役1年6月執行猶予4年の判決を受けてそのまま確定しているため、強盗殺人及び殺人と、年金などを引き出した窃盗の事件について別々に求刑、判決が言い渡された。
 控訴せず確定。

氏 名
西尾一洋(35)
逮 捕
 2011年1月12日
殺害人数
 0名
罪 状
 強盗強姦、強盗強姦未遂、住居侵入他
事件概要
 愛知県江南市の無職西尾一洋被告は、2009年10月から10年12月にかけ、愛知県や岐阜市などで、見ず知らずの女性宅に侵入したり、路上で女性を襲ったりして6人に乱暴して金を奪い、4人に乱暴しようとした。判明分は以下。
  • 2009年10月29日午前3時10分頃、名古屋市内の女性宅に侵入して乱暴し、現金3000円などが入った財布を奪った。
  • 岐阜県内の女性宅への住居侵入。
  • 2010年12月11日午前3時頃、岐阜市内の駐車場で、停車していた同市のアルバイト店員の少女の軽乗用車に助手席から乗り込んで刃物のような物を見せて脅して乱暴したうえ、現金5,000円を奪った。
  • 12月16日午前0時20分頃、羽島市内の路上で、自転車で帰宅途中だった会社員女性にナイフのようなものを突きつけて暴行しようとし、現金約38,000円入りのかばんなどを奪った。
 岐阜北署などが、12月11日の事件容疑で2011年1月12日に逮捕した。
裁判所
 名古屋高裁 志田洋裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年11月13日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 志田洋裁判長は「量刑が不当とはいえない」と述べた。
備 考
 2012年6月12日、岐阜地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2013年3月1日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
築山栄(60)
逮 捕
 2011年4月30日
殺害人数
 2名
罪 状
 殺人、殺人未遂
事件概要
 大阪市東淀川区の無職築山栄被告は2011年4月27日午前2時35分頃、同市豊島区のアパート2階で、知人男性(当時44)の部屋で男性の首をナイフで刺して失血死させた。さらに室外に逃げ出した知人男性の元妻(当時39)の首などをナイフで切り付けて殺害。別の部屋から2人を助けようと出てきた男性(当時68)の首を刺して重傷を負わせた。その後、裏の非常階段から逃走した。
 築山被告、知人男性と女性は聴覚障害者で10数年前に知り合ったが、数年前から三角関係にあり、金銭トラブルも抱えていた。
 交友関係や重傷の男性の目撃証言より築山被告が浮上。大阪府警は4月30日午後、築山被告に任意同行を求め、事情を聞いたところ犯行を認めたため逮捕した。
裁判所
 大阪地裁 岩倉広修裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年11月15日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。情状鑑定が事前に実施されている。
 2012年10月30日の初公判で、築山栄被告は元夫婦に対する殺人は認めたが、別室の男性に対する殺人未遂について「刺す気はなかった」と主張した。被告は聴覚障害があり、手話で訴えた。
 検察側は「殺害された男女に金銭問題で強い恨みを抱いた。金銭トラブルなどに起因し、身勝手だ」と指摘。「刑事責任は重大で死刑も考えられるが、考慮すべき事情もある」と述べた。弁護側は重傷男性に対する殺意を否認。さらに「被告には聴覚障害があり、成育歴などが影響を及ぼした」として、有期刑が相当と主張した。被告は最終意見陳述で、手話により「反省している」と述べた。
 判決理由で岩倉広修裁判長は「ナイフで首や胸を何度も刺して知人2人の命を奪い、犯行の邪魔になると考え無関係の男性も負傷させた責任は重い」と指摘。弁護側が主張した、重傷男性に対する殺意否認について判決は、「手加減なく首を刺しており、殺意があったと認められる」と結論づけた。また、「的確な聴覚障害教育を受けられず、不十分な手話に頼って限定された人間関係の中で暮らし、限度を超えると攻撃性を爆発させる性格傾向を形成した。犯行に与えた影響も否定できない」と指摘したが、刑を減軽すべき事情とまではいえないと判断した。そして「強固な殺意に基づく残虐な犯行」と述べた。
備 考
 被告側は控訴した。2013年7月5日、大阪高裁で被告側控訴棄却。2014年1月21日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
池本賞治(47)
逮 捕
 2011年5月20日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、殺人未遂、現住建造物等放火
事件概要
 指定暴力団山口組弘道会系の組長池本賞治被告は、組員M被告と共謀。2010年9月3日午前0時45分ごろ、M被告へ指示して、名古屋市のキャバクラでガソリン入りペットボトルに火を付けて投げさせ、系列店の店長男性(当時27)をやけどによる感染症で死亡させ、女性従業員ら2人に、約2週間から2か月間のやけどを負わせた。放火当時、同店には従業員ら22人がいた。
 事件より約2時間前の午後11時過ぎ、M被告らは同店内で「バックはおるんだろう。シマ(縄張り)を荒らすな」などとどなって出入り口のドアガラスを蹴り破るなどした。
 事件後、池本被告やM被告らは破門となっている。
 愛知県警は2011年4月29日、広島県尾道市にいた池本被告、M被告ら6人を、暴力行為等処罰法違反(集団的暴行など)容疑で逮捕。5月20日、6人のうちの池本被告、M被告、もう1名と、別の売春防止法違反罪で起訴された1名が、殺人や現住建造物等放火などの疑いで再逮捕された。同日、名古屋地検は、暴力行為処罰法違反容疑で逮捕された6人のうち池本被告ら3人を器物損壊などの罪で名古屋地裁に起訴し、M被告ら他の3人は処分保留とした(7月29日、不起訴処分)。6月10日、名古屋地検は池本賞治被告とM被告を殺人や現住建造物等放火などの罪で名古屋地裁に起訴した。共犯として逮捕した2人については、「現時点では起訴できる証拠はない」として処分保留とした(2012年3月30日、不起訴処分)。
裁判所
 名古屋高裁 志田洋裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年11月15日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2012年9月25日の控訴審初公判で、弁護側は「店のトイレへの放火を指示しただけ」で、知的障害のある配下の組員が「指示を守らず暴走した」として、殺意を否認。事実誤認と量刑不当を訴えた。検察側は控訴棄却を求め、即日結審した。当初は10月23日判決予定だったが延期した。
 判決で志田裁判長は、池本被告が引火性の強い混合ガソリンを2リットル近く持参させ、放火を命じたことなどから「店内に火が燃え広がり、客や従業員を死亡させる危険性が極めて高いことを認識していたのは明らか」と指摘した。そして「暴力団員が繁華街で一般人を巻き込んだことの社会的影響も考慮すると、刑事責任は重大」と述べた。
備 考
 暴力行為等処罰法違反(集団的暴行など)容疑で逮捕、起訴された元幹部の男性は、2011年8月19日、名古屋地裁(水野将徳裁判官)で懲役2年・執行猶予4年(求刑懲役2年)の判決が言い渡されている。そのまま確定と思われる。
 暴力行為等処罰法違反(集団的暴行など)容疑で逮捕、起訴されたとび職の男性は他の窃盗事件と合わせて審理され、2011年11月29日、名古屋地裁(伊藤納裁判官)で懲役3年6月(求刑懲役4年6月)の判決が言い渡されている。
 共犯のM被告は2012年3月8日、名古屋地裁(手崎政人裁判長)の裁判員裁判で懲役30年判決(求刑無期懲役)、控訴せず確定。

 2012年3月22日、名古屋地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2013年3月19日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
山本孝幸(34)
逮 捕
 2011年4月20日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、強姦致死
事件概要
 小田原市の電気設備業山本孝幸被告は2002年6月25日午前0時頃、厚木市の焼き肉店従業員だった女性(当時48)の帰宅途中、女性の自宅前の路上で顔を何度も拳で殴って暴行を加え、内臓損傷と頸部圧迫で殺害した。
 山本被告は事件当時、卸会社で働き、現場から約500m東にある女性と同じ町内のアパートに住んでいた。2003年10月まで契約期間があったのに、2002年10月に小田原市へ転居していた。女性と山本被告に面識はなかった。
 2011年春、公訴時効の廃止に伴い、神奈川県警捜査1課に未解決事件専従の特命犯が、21人体制で発足。女性の着衣から採取したDNAが山本被告のものと一致し、未解決事件専従の特命班が裏付け捜査を進め、4月20日、殺人容疑で山本被告を逮捕した。同班がかかわる初の逮捕事件となった。
裁判所
 東京高裁 小川正持裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年11月15日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 弁護側は「被告を犯人とするには合理的な疑いが残る」と一審同様に無罪を主張したが、小川正持裁判長は「一審の判断に不合理な点はない」と退けた。
備 考
 2012年7月20日、横浜地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2013年4月9日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
河西聖一(60)
逮 捕
 2011年6月18日(現行犯逮捕)
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、住居侵入、銃刀法違反
事件概要
 千葉県松戸市の無職河西聖一被告は2011年6月18日午後1時半頃、東京都武蔵野市内に住む自営業の男性(当時81)宅に侵入し、現金約30万円と、ネックレス5本など計28点(時価計約420万7,000円相当)を奪い、その後、帰宅した男性に発見されたため、男性の左胸を複数回突き刺して、殺害した。河西被告は男性ともみ合った際に、両手を負傷し、事件後「空き巣に入って人を刺した」と110番した。
 午後2時10分ごろ、男性宅から血だらけの男が逃げるのを近所の住民が目撃して、110番通報。警視庁武蔵野署員が駆け付けたところ、男性が玄関で血を流して倒れており、約15分後に近くのマンション駐輪場で出血してうずくまっている河西被告を発見。強盗殺人未遂容疑で現行犯逮捕した。
裁判所
 東京高裁 八木正一裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年11月26日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 弁護側は「殺意はなく、刑も重すぎる」と主張したが、八木裁判長は「(殺意を認めた)一審の判断に不合理な点はなく、量刑も相当だ」と退けた。
備 考
 2012年8月1日、東京地裁立川支部の裁判員裁判で、求刑通り無期懲役判決。

氏 名
前田和隆(42)
逮 捕
 2011年9月14日
殺害人数
 2名
罪 状
 殺人、殺人未遂、現住建造物等放火
事件概要
 神奈川県厚木市の前田和隆被告は、2011年4月2日午前2時頃、厚木市に済む別居中の妻らが住む木造2階建て住宅1階の戸袋など4か所にガソリンをまき、その上に、ライターで点火した新聞紙を投げて火をつけ、2階で就寝中の義父(当時70)と義母(当時64)を焼死させた。2階で就寝中の妻は、屋根伝いに逃げて無事だった。妻らと同居していた2人の子供は事件前日、自宅に泊めていた。
 前田被告は2008年5月、同居していた義父母らと関係が悪化して別居生活を始めた。翌年3月以降、妻に再度の同居を申し入れたが断られ、不満を募らせていった。前田被告は2011年2月まで、在日米陸軍キャンプ座間に施設修理担当などで勤務していたが、犯行当時は無職だった。
 県警捜査1課と厚木署は9月14日、建築資材販売店員となっていた前田被告を逮捕した。
裁判所
 横浜地裁 秋山敬裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年11月27日 無期懲役
 判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2012年11月9日の初公判で、前田被告は「殺意は全くなかった」と起訴事実を一部否認した。
 冒頭陳述で検察側は、事件前に第三者と接触した形跡がなく、供述が不自然に変遷していることなどを根拠に「単独犯」と指摘。「家が焼けて義父母が死ねば、土地を自由に使えるようになり、子どもとも同居できると考えて犯行に及んだ」と動機を説明。「事前に子どもを被告宅に呼び寄せ、義父母らだけが寝ている時間に放火した」と述べた。一方、弁護側は「被告が放火に関わっていることは認めるが、住宅に火をつけたのは共犯者だった。被告には殺害の動機もない」などと、別に共犯者がいることを主張した。
 15日の被告人質問で、前田被告は自ら購入し放火に使用されたガソリンについて「ガソリンが危険だとの認識はなく、逃げられると考えていた。全焼するとは思わなかった」と説明した。また、弁護側の質問に、「共犯者が放火を持ちかけた」と述べ、事件当日は共犯者を車で現場に送り、付近で待機していたと説明。ただ、共犯者の名前は「言えない」と答えた。
 19日の論告で検察側は「就寝中の深夜にガソリンを使用して放火しており、命を奪う危険性が極めて高かった」として、前田被告に殺意があったと主張。動機については「義父母がいなくなれば子どもと同居でき、土地も自由に使えると思った」と指摘。「極めて危険で残忍な犯行。2人の命を奪った結果も重大だ。架空の共犯者をでっち上げるなど見苦しい弁解に終始し更生の可能性は乏しい」と述べた。
 同日の最終弁論で弁護側は「家がなければ妻や子どもと同居できると考えただけで、義父母が死ぬ可能性は認識していなかった。共犯者から持ち掛けられた犯行で、殺意はなく、現住建造物等放火罪と傷害致死罪が成立するにとどまる」と述べ、懲役15年が相当とした。
 判決で秋山裁判長は、被告側の共犯主張を「矛盾点が多く共犯者は架空」と退けた。また殺意は無かったとの主張に対しても「脱出を著しく困難にする玄関付近及び広縁の5か所にガソリンを使って放火することは、全焼させる強い意志がある。強固な殺意があった」と退けた。動機について「息子2人と同居したいため、当時いた義父母宅を燃やそうと決意し、義父母にも一方的な恨みを募らせた」と認定。そして「極めて危険な犯行で、一方的に恨みを募らせ、真摯な反省態度をうかがうことができない。思いやりや命の重さを尊ぶ気持ちはみじんも感じられない」と指摘した。量刑について、結果の重大性などから「死刑も十分考えられる」とする一方、「周到に準備を進めて実行したとまでは言えず、死刑は躊躇せざるを得ない」と述べた。
備 考
 被告側は控訴した。2013年5月21日、東京高裁で被告側控訴棄却。2013年11月13日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
元少年(23)
逮 捕
 2008年1月10日(銃刀法違反容疑。1月20日、殺人他容疑で再逮捕)
殺害人数
 3名
罪 状
 殺人、死体損壊、現住建造物等放火、銃刀法違反
事件概要
 青森県八戸市に住む無職少年(当時18)は酒癖の悪いパート従業員の母親や、母親の交際相手の男性になびく中学3年の弟、中学1年の妹に憎しみを感じ、3人を殺害することで、家族を失ったつらさと、後悔する生き地獄を父親に味わわせてやろうと計画。2008年1月9日、自宅アパートで母(当時43)と弟(同15歳)、妹(同13歳)をサバイバルナイフで殺害。母の腹部をナイフで切った上、部屋に放火して一室を全焼させた。
 県警八戸署は殺人事件と断定し捜査本部を設置した。10日午前6時ごろに少年をJR八戸駅で発見し、刃物を持っていたため銃刀法違反の疑いで現行犯逮捕した。
裁判所
 仙台高裁 飯渕進裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年11月29日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 控訴審初公判は当初2009年9月17日に開かれる予定だったが延期、12月17日、2010年7月13日の予定も延期された。
 2010年7月23日の控訴審初公判で、弁護側は「長男は前頭葉てんかんにかかっており、犯行時は周期性不機嫌症の状態にあった」と述べ、責任能力はなかったとして、一審同様に無罪を主張した。弁護側は控訴趣意書で、前頭葉てんかんによる周期性不機嫌症について「少なくともほんの些細なきっかけにより、突然わき上がってしまう憤怒爆発を抑えることができない状態」と説明。「長男は犯行時、自身の行動を制御する能力が完全に欠如していた」と陳述した。このため、検察側が実施した精神科医による鑑定は「信用性がない」と批判。てんかんの専門医による鑑定を行い、長男が前頭葉てんかんかどうかを検査することが必要だと述べた。
 検察側は答弁書で、長男に完全責任能力があったと改めて主張。「医学書に基づいて都合よく当てはめただけで、証拠に基づかない推論」と批判した。控訴棄却を求めた。
 飯渕裁判長は、弁護側が請求していたてんかん専門医による精神鑑定を採用した。弁護側はてんかんの専門医による鑑定を求め精神科医1人を鑑定医に推薦したが、高裁は秋に別の医師である慶応大医学部の准教授を務める精神科医を選任、2010年10月から11年4月にかけ実施された。
 2012年1月24日の第2回公判で精神鑑定を行った鑑定医が証人として出廷。鑑定医は脳波検査の結果などから、てんかんを否定し、「解離性障害」だったとした。その上で、当時は症状が重く、心神耗弱だった可能性がある一方、犯行後も記憶が残っていることなどを踏まえると軽かった可能性もあると指摘。いずれの場合も、善悪の判断や行動の制御が全く出来ない心神喪失の状態になるほどではなかったとした。刑事責任能力については、「人格障害の傾向はあったが、診断は留保する」とした。
 5月15日の第4回公判で、長男の父親が証人として出廷。事件が起きた原因について父親は、長男の前で過去に警察に連行されて逮捕され、息子たちと娘が児童施設に一時入所せざるを得ない状況になったことを挙げた。その上で「長男と殺された3人に謝らなくてはならない」と振り返り、「普通の家庭の父親だったら犯行は起こらなかった」と述べた。そして「犯行の原因は自分にある。(残忍な犯行は)正常だったらできないと思う」と述べ、犯行時、長男は精神的に正常ではなかった-との認識を示した。弁護側が「長男の犯行は精神疾患によるものが大きいか」問うと、父親は「精神的なものが大きいと思う」と証言。今後については「更生させて精神的な支柱になりたい」と述べた。
 同日、長男の叔父にあたる母親の弟も出廷。検察側の取り調べで、長男の極刑を望む-としていた心境について、叔父は「近所など周りの人の事もあったので、極刑以外の話はできなかった。(今は)極刑を望んでいない」と述べた。
 また同日、飯渕裁判長は、弁護側が無罪の根拠として求めていた、長男が「前頭葉てんかん」に罹患していた可能性が高いとする意見書などの証拠採用を却下した。
 7月5日の第5回公判で、長男が被告人質問で一審判決が犯行動機と認定した母親への憎しみを否定。「母親と弟と妹をちゃんと見て話して向き合えば(事件は)止められたと思う」と供述した。そして「(犯行を)後悔する気持ちがある」と述べた。
 9月6日の第6回公判における最終弁論で、弁護側はてんかんの診断に必要な脳波検査を行っていないことなどを挙げ、「鑑定は不十分で信用性がない」と批判。母親の遺体の腹を切り裂くなどした犯行は通常の心理では説明がつかないとして、「てんかんによって行動制御能力を失っていた可能性が高い」と訴え刑事責任能力は認められないとして無罪を求めた。仮に責任能力が認められるとしてもその程度は限定的で、長男の生育歴や年齢を考慮すれば、無期懲役では刑が重いと指摘。有期刑とするよう求めた。
 判決はまず、父親の逮捕や母親の飲酒などで家族への憎しみを募らせたとする長男の自白調書について、「内容が具体的・迫真的で信用できる」と指摘。理解可能な動機があり、当時の記憶も残っているとした。3度行われた精神鑑定については、自白調書の内容と合致する捜査段階の鑑定結果を一審と同様に支持。「(人格が偏る)パーソナリティ障害、あるいはその傾向が認められるとともに、(自分の行為への現実感がなくなる)解離性障害を患っていた」としたうえで、「症状は軽度から中等度で、完全責任能力を有していた」と結論づけた。
備 考
 2009年3月27日、青森地裁で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2013年12月24日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
坂本正利(56)
逮 捕
 2011年9月25日(現行犯逮捕)
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、銃刀法違反
事件概要
 無職坂本正利被告は2011年9月25日午前11時35分頃、八王子市のスーパー前の歩道で、交通整理をしていた警備員の男性(当時61)の胸や腹などを複数回包丁で突き刺し、死亡させた。男性は病院に搬送されたが、約3時間後に死亡した。包丁は犯行直前にスーパーで買ったもので、スーパーを出てすぐ男性を刺した。
 通報で駆けつけた八王子署員が、近くの駐車場で、血が付いた包丁を持っていた男を発見し、殺人未遂などの疑いで現行犯逮捕した。
 坂本被告は過去に2回、包丁で人を刺して逮捕されている。初回は精神鑑定の結果不起訴となったが、2001年に起こした警察官刺傷事件では、責任能力があると判断され、殺人未遂罪などで懲役9年の判決を受けて服役した。2011年4月に満期出所した後、精神的に不安定な状態だったため、精神保健福祉法に基づき、6月まで都内の精神科病院に措置入院していた。
 退院後の6月13日午後には以前に警察官を刺したJR八王子駅北口交番に立ち寄り、再び事件を起こすことを示唆。その後も新宿の歌舞伎町交番で暴力団事務所の場所を聞くなど不審な行動をとり、新宿署は男を職務質問するなどした。警視庁は、男の親族と連絡を取って警戒し、立ち回り先などの情報を入手。9月になって八王子市内のワンルームマンションへの入居が判明したものの、警戒中に具体的な犯罪の容疑はなく、有効な対応は取れなかったという。
 東京地検立川支部は、2011年10月から約3か月間鑑定留置し、精神状態を調べた結果、刑事責任能力を問えると判断。2012年1月20日、起訴した。
裁判所
 東京地裁立川支部 倉沢千巌裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年11月30日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 起訴前の鑑定結果では、幻覚幻聴の症状が出る「覚醒剤精神病」であると共に、偏った反社会的な性格であると診断されている。
 2012年11月21日の初公判で、坂本被告は起訴事実を認めた。
 冒頭陳述で検察側は起訴前の精神鑑定を元に、「覚醒剤精神病の程度は軽く、犯行に及んだのは元々の人格に基づく判断。完全責任能力があった」と主張した。弁護側は、同じ鑑定結果をもとに、「覚醒剤精神病による妄想などが犯行に影響した。心神喪失または心神耗弱だった」と述べた。
 11月27日の論告で検察側は精神鑑定を行った医師の証言を引用し、坂本被告は当時、覚醒剤の影響で幻覚や妄想はあったが「幻覚、妄想は覚醒剤使用からくる社会的不安によるもので、自由意思を奪うほどのものではなかった」と主張。警察官の取り調べに「社会で生きることを諦め、人を殺して刑務所に行こうと考えた」と答えていることから、完全責任能力があったとした。前科にも触れ、「これ以上社会に野放しにすることはできない」と訴えた。そして、「凶悪な無差別殺人事件で、一生をもって悔い改めさせるのが相当」として無期懲役を求刑した。
 同日の最終弁論で弁護側は、坂本被告は抗精神薬などを3カ月以上、服用していなかったことなどを挙げ、「小さいころに宇宙人に地球に連れてこられ、差別を受けているという被害妄想が根底にあった」と主張。心神耗弱による減刑か心神喪失による無罪判決を求めた。
 坂本被告は最終陳述で、遺族のいる傍聴席を振り返り、「私の病気からこんなことになってしまい、すみませんでした」と土下座した。
 判決で倉沢裁判長は、争点となっていた責任能力について、「包丁を売っていそうな店を探し、店員に売り場まで案内させている他、『女、子供、老人は除く壮年の男性』という当初、決めた殺害対象を物色し、目的に合った袖山さんを殺害した行動は一貫していて目的に合致している」ことなどから、「覚醒剤精神病は軽度で、犯行に大きく影響はしていない」と認定、「病気の影響で心神喪失か心神耗弱だった」とする弁護側主張を退けた。さらに、倉沢裁判長は量刑理由について、「幼少期の家庭環境などが世間に対する恨みにつながった」と、被告にくむべき事情もあるとしたが、「病気を理由に自己正当化する態度からは反省がうかがえない。再犯の危惧も否定できない。前刑の執行終了から間もなく、理不尽で無差別的な犯行が社会に与えた影響は計り知れない」と述べた。
備 考
 被告側は控訴した。2013年中に東京高裁で被告側控訴棄却と思われる。上告せず確定と思われる。

氏 名
原平(65)
逮 捕
 2005年3月12日(殺人未遂容疑)
殺害人数
 5名
罪 状
 殺人、殺人未遂
事件概要
 岐阜県中津川市の市職員原平被告は2005年2月27日午前7時半頃、自宅で寝ていた整体業の長男(当時33)、母(当時85)の首をネクタイで絞めて殺害。同日午前11時頃、近くに住む長女(当時30)と長女の長男(当時2)と長女(当時3ヶ月)の3人を車で自宅に連れてきて、ネクタイで首を絞めて殺害した。さらに約2時間後、長女の夫(当時39)も包丁で刺し、2週間の軽傷を負わせた。他に飼い犬2匹も殺害している。原被告はその後、自分の首を包丁で刺し自殺を図った。原被告の妻は不在だった。
 原被告は一時重体だったが、徐々に回復。3月11日になって医師が「拘置に耐えうる」と判断したため、12日正午過ぎ退院し、長女の夫に対する殺人未遂容疑で、逮捕、拘置された。その後、4月2日、母と長男に対する殺人容疑で再逮捕された。
 動機については、同居を始めた1999年頃から母親が妻へ執拗な嫌がらせを続けたため殺意を抱いていたと話している。長男殺害は母を殺害する邪魔をされたくなかったから、長女と孫殺害は殺人者の家族と見られるのが可哀想だったと供述している。
裁判所
 最高裁第一小法廷 横田尤孝裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2012年12月3日 無期懲役(検察・被告側上告棄却、確定)
 判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
裁判焦点
 小法廷は死刑選択も考慮すべき事件としたが、「妻を長年いじめる実母を殺害して自殺しようとし、残される家族もふびんなので殺害を決意した。理不尽極まるが、実母の言動で苦悩し追い詰められていた」と動機に一定の理解を示した。自殺を図った際に道連れにしようと子や孫を殺害した心情もしん酌の余地があるとして、「無期刑は、甚だしく不当とまではいえない」と述べた。裁判官5人のうち4人が無期懲役を支持した。元検察官の横田裁判官は「結果は重大。死刑を回避する特段の事情はない」と裁判長としては異例の反対意見を述べ、二審判決の破棄、差し戻しを求めた。
備 考
 2009年1月13日、岐阜地裁で求刑死刑に対し一審無期懲役判決。2010年1月26日、名古屋高裁で検察・被告側控訴棄却。

氏 名
糸川泰仁(50)
逮 捕
 2009年8月5日(死体遺棄容疑。2009年5月15日、詐欺容疑で逮捕済み)
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、死体遺棄、詐欺、道交法違反、有印私文書偽造・同行使、免状不実記載
事件概要
 韮崎市の自動車板金塗装業糸川泰仁被告は北杜市に住む無職男性(当時55)に348万円の借金があり、このうち168万円を2009年1月13日に返済する約束だった。しかし金を用意できず、午後4時半頃、糸川被告の会社で返済を迫った男性の頭を鈍器で2回強打した後、首を紐で絞めて殺害し、348万円の返済を免れた。男性は資産家で、複数の知人に金を貸していた。その後糸川被告は男性の遺体を、会社にあったブルーシートなどで包んでワゴン車に乗せて隠し、1月27日頃に韮崎市の民家敷地に、建設機械レンタル業者の男性に依頼してあらかじめ掘らせておいた深さ約80cmの穴に、車で運んで穴に遺棄した。糸川被告は男性に「ごみを埋めるため」と偽って穴掘りを依頼していた。
 他に糸川被告は顧客の高級乗用車が県税事務所に差し押さえられたことを利用し「差し押さえ解除のために金を貸してほしい」などと言い、2008年3月14日、この顧客から現金約304万円をだまし取った。2007年10月下旬には、別の顧客男性の国産高級車を「展示用に貸してほしい」などと言ってだまし取った。また、同年9月、弟の氏名を使い運転免許証を不正に再交付させた。
 県警は詐欺容疑で5月15日に糸川被告を逮捕。会社を家宅捜索し、室内から複数の血痕が見つかり、鑑定で男性の血液と一致した。糸川被告は犯行を否定したが、県警は穴を掘った知人の証言から遺体の遺棄場所を特定。7月29日、遺体を発見し、8月5日に死体遺棄容疑で逮捕。9月10日、強盗殺人容疑で再逮捕した。
裁判所
 最高裁第一小法廷 山浦善樹裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年12月6日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 一審・二審で被告側は殺意を否認している。
備 考
 2010年12月24日、甲府地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2011年5月19日、東京高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
田中五郎(61)
逮 捕
 2012年4月29日(死体遺棄容疑。2012年5月18日、強盗殺人容疑で再逮捕)
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、死体遺棄
事件概要
 神戸市北区の飲食業田中五郎被告は2012年4月25日午後2時30分~3時、同市灘区で調理場用に借りていたプレハブ小屋で、知人男性(当時68)の首や胸などを包丁で数回突き刺して殺害し、借りていた計180万円の返済を免れようとした。田中被告は男性から月1割の利息で現金を借りていた。
 殺害現場に偶然居合わせた知人男性を共謀させ、ホームセンターで購入した防水シートで遺体をくるみ、深夜に遺体を車で六甲山のドライブウェーに運び、山中に放り捨てた。
 29日、知人男性が兵庫県警垂水署に自首。県警捜査1課などが同日午後3時半ごろ、山中で男性の遺体を発見し、田中被告と知人男性を死体遺棄容疑で逮捕した。
裁判所
 神戸地裁 丸田顕裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年12月7日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2012年12月3日の初公判で、田中被告は起訴事実を認めた。
 冒頭陳述で検察側は、「田中被告は1995年頃から男性に金を借りており、6年前には殺害を決意して包丁を購入したが、断念していた」と指摘。一方、弁護側は「殺害を計画したのは犯行の前日で、周到な準備はしていない」などと述べた。
 4日の論告で検察側は、「ギャンブルや無計画な新店舗建設のために借金し、自己の利益だけを考えて安易に殺害を決めた」と悪質さを指摘。「包丁や着替えを用意するなど計画的。強い殺意に基づく残忍な犯行。命を奪うことを軽く考えている」と非難した。同日の最終弁論で弁護側は、「借金が返済できなければ家族に危害が与えられると思い悩むなど、動機に酌むべき点がある」として有期懲役刑が相当と主張し、結審した。
 丸太裁判長は、「被害者の暴力などで、被告が追い詰められていた」と認めたものの、「解決のためにあらゆる努力をしたとは言えない」とし、「強い殺意に基づく残虐な犯行」とした。なお、検察側は男性から2万円を奪ったとしていたが、「自白のみで裏付けがない」と認めなかった。
備 考
 知人男性は死体遺棄容疑で起訴。2012年7月31日、神戸地裁(宮崎英一裁判官)で懲役1年6月・執行猶予5年(求刑懲役1年6月)判決。宮崎裁判官は「従属的な立場」と認定。「被害者への反感で犯行に加担するなど動機に酌量の余地は乏しいが、被告の自首により全容解明につながっており、反省もしている」とした。控訴せず確定。
 被告側は控訴した。2013年中に、大阪高裁で被告側控訴棄却。2013年9月12日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
山下政彦(46)
逮 捕
 2011年11月3日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、銃刀法違反
事件概要
 松江市の無職山下政彦被告は2011年11月3日午前6時半頃、松江市の地下道で近くに住む散歩中の男性(当時89)に金を要求。断られたため、持っていた刃渡り19cmの包丁で男性の腹を刺した。
 数分後、男性が倒れているのを通行人が発見し、110番した。男性は市内の病院に運ばれたが、同日午後死亡した。地下道の防犯カメラに包丁を持った山下被告が映っていたことから松江署は事件から約5時間後、山下被告を強盗傷害容疑で緊急逮捕した。
 山下被告は11月17日から2012年2月20日まで精神鑑定のため、鑑定留置された。2月24日、松江地検は山下被告を起訴した。地検は「鑑定結果や犯行前後の言動などから、責任能力に問題はない」と判断した。
裁判所
 広島高裁松江支部 塚本伊平裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年12月9日 無期懲役(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2012年10月19日の控訴審初公判で、弁護側は「殺意はなく、無期懲役とした一審判決は不当に重い」として有期懲役を求め、即日結審した。
 判決で塚本裁判長は、殺意を認めた一審判決について「何ら事実誤認もなく、(量刑)判断は相当」とした。
備 考
 2012年7月13日、松江地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2013年5月8日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
今井精一(67)
逮 捕
 2012年3月31日(暴力行為等処罰法違反容疑。2012年4月20日、殺人容疑で再逮捕)
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、銃刀法違反、暴力行為等処罰法違反
事件概要
 住所不定、無職今井精一被告は2012年3月31日午後4時55分頃、富山県高岡市で、乗っていたタクシー運転手の男性(当時58)の首の左側を所持していた小刀(刃渡り約13cm)で1回刺し、出血性ショックで殺害した。さらにこの約30分後、犯行に使った小刀で別のタクシーの女性運転手(当時51)を脅し、金を払わず下車した。事件当時、今井被告は現場近くのスナックで酒を飲んでおり、タクシーは配車依頼によるものだった。
 タクシー運転手の男性は午後4時56分ごろ、会社に「襲われた」と電話。そして午後5時ごろ、男性が倒れているところを通行人が発見し、県警高岡署へ通報した。
 女性運転手を脅して下車し、歩いていたところを、高岡署員が発見し、所へ任意同行し、暴力行為等処罰法違反容疑で逮捕した。小刀に付着していた血液が男性のDNA型と一致したほか、男性のタクシーの外側から今井被告の指紋を検出したこと等から4月20日、殺人容疑で再逮捕した。
裁判所
 富山地裁 田中聖浩裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年12月10日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2012年12月3日の初公判で、今井被告は起訴事実を認めた。
 検察側は冒頭陳述で、乗車前にスナックで酒を飲んでいた今井被告に対して男性が「早くからご機嫌ですね」と言ったことに腹を立て、瞬時に殺害を決意したと主張。弁護側は、事件の6日前に別の事件の服役を終え富山刑務所を出所したばかりだった今井被告は、親戚から支援を断られ絶望し、金がなく惨めな境遇に絶望し自殺を図ろうと小刀を購入した、と述べた。酒を飲んでいたのは気を紛らわせるためであり、「事件に計画性はない」などと主張した。
 4日の公判で、今井被告は殺意を認めた。
 6日の被告人質問で、今井被告は遺族あての反省文で「どのような刑も服します」と書いたことについて、「ヤケになって書いた。死刑は嫌だ」と述べた。
 同日の論告で検察側は「尊い人命が絶たれた結果は重大」で、「人を殺すことへの規範意識が存在しないに等しく、更正の可能性は絶無だ」としつつも、幼少期の境遇など酌むべき事情が全く無いともいえないとし、無期懲役を求刑した。同日の最終弁論で弁護側は、「現在の刑務所の矯正教育が再犯者には不適切」として、更生プログラムの問題を指摘。「凶悪で手が付けられないというほどでは無く、死刑や無期懲役の程度には達していない」と述べるとともに、被告が67歳と高齢で、出所する頃は平均寿命を過ぎることが予想されるとして、「有期の懲役でも社会からの隔離は達成できる。更生の可能性はある」と短期間の有期懲役を求めた。
 判決理由で田中裁判長は、被告が、被害者の「早くからご機嫌さんですね」などという運転手としての社交上の言葉に腹を立てて罵倒し、降車を求められたため激高したと指摘。「相当強い殺意を抱き、人命を軽視した甚だ短絡的な行為で、最大限の非難が妥当」と述べた。また、被告が1996年に殺人罪などで懲役15年の判決を受け、出所後間もなく窃盗罪で服役し、満期出所の7日後に今回の事件を起こしたことについて、「矯正の可能性は乏しく、残った生涯で罪を償わせるべき」とした。
備 考
 今井精一被告は1991年8月4日夕方、高岡市の質店で、質入れを断られたことに腹を立て、同質店店主の女性(当時79)を突き倒したあと、いたずらをしてけがを負わせた。その後、女性が意識を取り戻し声を上げたため、わいせつ行為の発覚を恐れてタオルで首を絞めて殺害した。事件直後の8月28日に高岡市内の貴金属店で指輪1個(41万円相当)を盗み、有罪判決を受けて服役、出所して1995年末に県内へ戻ったが、1996年1月11日、逮捕された。殺人とわいせつ致傷の罪で起訴され、1996年5月29日、富山地裁高岡支部で懲役15年判決(求刑懲役18年)を受け、服役していた。今井被告には他にも複数の前科がある。
 被告側は控訴した。2013年5月30日、名古屋高裁金沢支部で被告側控訴棄却。2013年11月18日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
木村康太郎(39)
逮 捕
 2009年8月25日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、死体遺棄、逮捕監禁、暴力行為法違反他
事件概要
 さいたま市の住吉会系暴力団組員・木村康太郎被告は2009年5月2日未明、配管工の少年2人(ともに18)とともにさいたま市内の中国人パブで酒を飲んでいたが、隣にいた住宅リフォーム会社役員の男性(当時31)と口論になり、少年2人とともに暴行を加えた。さらに少年2人や住吉会系暴力団員T被告とともにさいたま市内の産廃会社敷地内の資材置き場に男性を拉致。ロープなどで椅子に縛り、約12時間にわたって監禁したうえ、3日午後7時頃、睡眠薬を飲ませた男性の頭にビニル袋を被せて窒息死させた。そして千葉市緑区の草むらに男性の遺体を埋めた。
 5月2日午後、男性の妻から大宮東署に通報。6月7日、少年2人とT被告を逮捕監禁などの疑いで逮捕。供述から男性の遺体を発見するとともに、木村被告を暴力行為法違反容疑で指名手配した。さらに捜査本部は12日、木村被告の容疑を死体遺棄に切り替え、写真を公開した。木村被告は巻頭近辺を転々としていたが、8月25日午前11時ごろ、知人男性に付き添われて大宮東署に出頭した。
裁判所
 最高裁第二小法廷 竹内行夫裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年12月11日 無期懲役(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 一審で木村被告は殺意を否認している。
備 考
 共犯の少年2人はいずれも殺人、逮捕監禁、死体遺棄容疑などで起訴。T被告は逮捕監禁、死体遺棄容疑などで起訴。木村被告と少年2人は裁判員裁判。
 2010年3月1日、さいたま地裁(佐藤基裁判官)はT被告に判決を言い渡した(求刑懲役8年、判決不明)。7月6日、控訴審判決。判決結果不明。
 2010年4月26日、さいたま地裁(井口修裁判長)は少年1人に求刑通り懲役5年以上10年以下の不定期刑を言い渡した。控訴せず確定。
 2010年7月14日、さいたま地裁(大熊一之裁判長)はもう1人の少年に懲役10年(求刑懲役5年以上10年以下)を言い渡した。少年の役割について判決は「木村被告の意向に率先して従い、一連の殺害行為のほぼすべてを自らの手で行った」と非難。共犯の少年が、ポリ袋をかぶせるなどの殺害行為そのものにはかかわらなかったのと比べ、役割や責任は相当に大きいと結論づけた。2010年12月16日、東京高裁で判決。被告側控訴棄却と思われる。
 2010年5月18日、さいたま地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2011年中に東京高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
矢野裕一(47)
逮 捕
 2010年5月15日
殺害人数
 2名
罪 状
 殺人
事件概要
 無職矢野裕一被告は2010年5月14日午後5時頃、大阪市西淀川区のマンション自室で、暴力団組長を自称していたことを知人男性(当時37)とその友人男性(同41)に否定され激高。二人の胸などをナイフで多数回刺し、殺害した。
 矢野被告は犯行直後に自ら119番通報し、同署員らに「刺した男は逃げた」と説明したが、内容があいまいでつじつまが合わないため府警が追及したところ、犯行を認めた。
 大阪地検は約半年間かけて精神鑑定を行い、刑事責任能力に問題は無いと判断し、2010年12月9日、矢野被告を起訴した。
裁判所
 大阪地裁 岩倉広修裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2012年12月12日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2012年11月20日の初公判で矢野被告は、「相手が私を殺しにきたので、やむをえずやった」などとして正当防衛による無罪を主張した。
 冒頭陳述で検察側は、矢野被告は2人と口論し、ナイフで刺したと主張。事件前には統合失調症と診断されていたものの、症状は軽度で責任能力はあったと述べた。また矢野被告が事件前に「自分は病気ではないが、精神障害ということで罪には問われない」などと知人に話していた-と指摘した。
 これに対し、弁護側は、2人にナイフを突きつけられたために反撃し、正当防衛が成立すると反論。また「頭痛や幻聴を訴えて通院していた。犯行2日前、医師に対して『幻聴が聞こえる』などと言っていた。犯行当時は心神喪失状態にあった」などと述べた。
 27日の公判で検察側は論告で、矢野被告が暴力団組長を自称していたことを2人にとがめられて立腹し、ナイフで一方的に刺しており、動機に酌量の余地はない、と説明。また事件後、警察官に「黒人の男が2人を刺した」などと虚偽の説明をしたと指摘。さらに出所後約2年8か月後に今回の事件を起こしたことを重視し「犯罪性向が高く、今回の犯行後も反省の態度は見られない。矯正は不可能であり、死刑を回避すべき事情はない」と述べた。
同日の最終弁論で弁護側は、矢野被告は2人にナイフを突きつけられたために反撃したため正当防衛だったと主張。さらに「約20年前から精神疾患があり、犯行当時、心神喪失状態だった」として、無罪を求めた。
 矢野被告は最終意見陳述で「正当防衛で無罪です」などと述べた。
 岩倉裁判長は判決で、矢野被告が過去に起こした別の事件で、心神喪失などを理由に不起訴となった経緯に言及したものの、「(今回は)以前とは違って治療を受けており、症状も異なる」と責任能力を認定。一方で「善悪の判断や行動制御の能力がある程度減退していた疑いはある」とも指摘。そのうえで、矢野被告が暴力団組長を自称していたことを2人にとがめられ、「刺すんやったら刺せや」と挑発されたことなどが犯行の動機となったと指摘した。そして「ナイフで多数回刺すなど執拗かつ残虐な犯行だが、挑発されて衝動的に刺したと認められる」と述べ、死刑を回避した。
備 考
 矢野裕一被告は1995年に銀行への強盗未遂容疑で、1997年にはハイジャック事航空機のハイジャック処罰法違反容疑でそれぞれ逮捕されたが、いずれも精神鑑定の結果、起訴猶予や不起訴処分となっていた。
 1998年には知人男性(当時47)を殺害。殺人、死体遺棄罪で懲役8年の実刑判決を受けて服役した。
 2008年に傷害事件で逮捕されたが、心神喪失などを理由に不起訴になっている。心神喪失者等医療観察法に基づいて入院治療を受け、処遇を終えた約3ヶ月半後に今回の事件を起こした。
 被告側は控訴した。2014年3月25日、大阪高裁(中谷雄二郎裁判長)で判決。被告側控訴棄却と思われる。被告側上告するも2014年7月ごろに取下げて確定。

氏 名
全義明(31)
逮 捕
 2011年3月11日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、住居侵入
事件概要
 大阪市生野区の無職、韓国籍の全義明被告(日本名・金井)は2011年3月8日午後11時35分ごろ、南隣の民家に住む女性(当時72)宅に侵入。1Fガレージで、女性の首を包丁で何度も切り付けて殺害。女性の財布や夫の車の鍵、腕時計など42点(150万円相当)を奪った。
 全被告は2008年頃から家賃55,000円のマンションの一室を借りて住んでいたが、会社をリストラされ、翌年春ごろから家賃の滞納が始まった。事件当時は生活保護を受給していた。
 全被告の住むマンション正面に設置された防犯カメラに、事件直前の時間帯にマンションを出入りする不審な男が写っていた。さらに女性宅の裏手に血の付いた足跡があり、金井被告が住むマンションにも血痕があったことから、居住者に聞き込みしたところ、10日夕になって腕に包帯を巻いていた全被告が浮上し、11日午前から事情聴取。家宅捜査で多量の血痕が付着したセーターや女性の健康保険証・財布などが見つかったため、逮捕した。
 家宅捜索に立ち会った全被告の母親が11日午後、自殺を図り、病院へ搬送されたが命に別条はなかった。
 地検は3月28日から約4か月、鑑定留置を行い、責任能力があると判断。7月28日、起訴した。
裁判所
 大阪地裁 長井秀典裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年12月12日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。被告は逮捕以来、無罪を主張している。
 2012年11月20日の初公判で、全被告は「私がやったことではありません」と無罪を主張した。
 検察側は冒頭陳述で、全被告が事件当日、母親から現金3万円を無心するほど窮乏し、自宅マンションと隣接する被害者宅ガレージに侵入したと指摘。全被告の自宅から現場に残された足跡と一致する靴や、腕時計などの被害品、女性の血が付いたセーターが見つかったと主張した。弁護側は「鬱病で働けず、生活保護を受給していて金には困っていなかった。全被告は犯行時間帯、運動するため公園に出かけていた」と反論。腕時計などについては、「真犯人が捨てたものを被告が拾っただけ」と述べた。
 12月6日の論告で検察側は、全被告が事前に用意した包丁で女性の首などを何度も切り付けたと述べ、「強い殺意に基づく冷酷非道で残忍な犯行。計画性もある」と主張。弁護側はこれまで、事件当時、全被告は別の場所にいたとしており、この日の最終意見陳述で全被告は「私は犯人ではありません」と訴えた。
 長井裁判長は判決理由で、全被告が血のついたセーターの入ったリュックサックを持っていたことや、現場の足跡と全被告の靴の底面が酷似していることなどを証拠として認定。「被告が犯人でないとすれば説明が難しい事実がいくつも存在する」として、全被告が犯人と結論づけた。そして「被告は被害者を殺害する強い意思を持っていた。謝罪や反省の意思を全く見せていない。落ち度のない高齢の被害者を何度も切りつけており、人命軽視の態度は許されない」と述べた。
備 考
 全被告は、2012年9月13日に地裁の法廷で行われた公判前整理手続きで、男性検事の顔をひっかくなどの暴行を加えて軽傷を負わせたとして、公務執行妨害、傷害両罪でも新たに起訴された。大阪地裁は2013年1月23日、懲役1年6月、執行猶予3年(求刑懲役1年6月)の有罪判決を言い渡した。
 被告側は控訴した。2013年9月17日、大阪高裁判決。被告側控訴棄却と思われる。2014年中に被告側上告棄却、確定しているものと思われる。

氏 名
李敏男(55)
逮 捕
 2010年5月12日
殺害人数
 2名
罪 状
 殺人、銃刀法違反
事件概要
 大阪市の不動産業、韓国籍の李敏男(日本名・佐野)被告は、妻が1か月前に失踪したのは妻の両親(当時65、63)のせいだと因縁を付け、2010年5月12日午前0時半頃、2人を呼び出し居酒屋での話し合いを持った。しかし激しい口論となり、1時15分頃3人で店を出た後、居酒屋から約50m離れた長岡京市の路上で2人を暴行。その際、警察に通報されそうになったことに腹を立て、2人の胸と背中を刃物で数回突き刺して殺害した。
 李夫婦は事件後逃走。付近の住民が110番通報し、現場へ駆けつけた府警向日町署員が、血を流して倒れている2人を発見した。12日午前11時頃、兵庫県西宮市内を車で走行中、緊急配備していた警察官に身柄を確保され、同日午後に逮捕された。
 李被告と夫婦の長女は2009年5月に結婚したが、長女は2010年4月初旬に家出をしたまま、所在がわからなくなっていた。李被告は同月、家出人捜索願を大阪府警に届け出ていた。夫婦は、二人の年齢差が大きいことや李被告の粗暴な性格から、結婚に反対していた。
裁判所
 京都地裁 小倉哲浩裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年12月13日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2012年11月27日の初公判で、李被告は「間違いない。申し訳ない」と起訴事実を認めた。
 冒頭陳述で検察側は、犯行時夫婦が「殺さないで」と命乞いしていたことを明らかにした。一方、弁護側は「刃物は護身用に携帯していたもので、偶発的な犯行」と述べ「死刑か無期懲役かの量刑が予想されるが、冷静に判断してほしい」と裁判員らに語った。
 28日の公判では、被害者が小型レコーダーで録音していた殺害の瞬間の音声が検察側証拠として再生された。法廷内には流れず、被告や裁判員がイヤホンで聴いた。
 30日の公判における被告人質問で李被告は「自己中心的な自身の性格が、妻を追いつめてしまった」と反省する様子をみせた。弁護側から現在の心境を問われると、李被告は「(犯した罪は)人間のすることではない。ここで死刑にしてください」ときっぱりと答えた。
 12月4日の論告で検察側は、長期間脅迫し、命乞いされたのに躊躇なく刺して殺したと指摘した。動機は、失踪した長女を犯罪をしてでも探すよう命じたが拒まれたためとした。「残忍で極刑を検討すべき事件」とする一方、計画性の乏しさや罪を認めていることを挙げ「死刑適用は慎重であるべき」と述べた。同日の最終弁論で弁護側は、夫妻が長女と連絡し合っているとの思い違いをし、瞬間的に殺意が生じたと偶発性を強調した。酒や睡眠薬の過剰摂取で感情を自制できなかったとし、「被告に死を持って償う覚悟はあるが十分に更生できる」と死刑回避を求めた。
 判決で小倉裁判長は、「周到な準備をしていたとは言えない突発的な犯行。これまでの判例に照らし、無期懲役が相当」と述べた。そして更生の可能性に疑問を投げかけ、「被告には精神鑑定で『反社会性人格障害』が認められ、自己中心的で嫉妬深く、自分を拒否した者に恨みを持ち続ける性格は、長年にわたって作られたもの。仮釈放は安易に認められることはない」とした。
備 考
 被告側は控訴した。2013年3月29日付で控訴取下げ、確定。

氏 名
外山硬基(25)
逮 捕
 2010年8月23日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、強姦致死、強姦致傷他
事件概要
 札幌市の会社員外山硬基被告は、知人と酒を飲んだ後の2010年8月23日午前4時30分頃、50歳代の女性を乗用車ではねて重傷を負わせた。さらに暴行しようとしたが抵抗されたため、目的を果たせなかった。午前5時10分ごろ、札幌市中央区ススキノの路上で帰宅途中の飲食店従業員の女性(当時45)を約40km/hのスピードではね、車内に連れ込んで乱暴した後、約8km離れた同市西区の山中にある砕石会社の草むらに放置した。
 衝突の現場を見た住民が110番通報。道警が捜査を始めたところ、約1時間後、砕石会社の従業員は女性を発見し通報。女性は意識不明の重体で、12日後に死亡した。
 道警は同日夕方、1件目の強姦致傷容疑で外山被告を緊急逮捕した。9月13日、殺人と強姦致死容疑で外山被告を再逮捕した。
 飲酒で心身耗弱状態だった可能性があるとして、札幌地検は10月1日~12月20日に鑑定留置を行った。12月22日、札幌地検は外山被告を起訴した。
裁判所
 札幌地裁 園原敏彦裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年12月14日 無期懲役
裁判焦点
 弁護側の請求で、公判前整理手続き中に精神鑑定が行われた。また、裁判のスケジュールを決める公判前整理手続きでは弁護側が5人の精神科医の証人尋問を申請し、調整に時間がかかった。公判前整理手続きは計26回、起訴から初公判までの期間は710日間である。
 裁判員裁判。
 2012年12月1日の初公判で、外山被告は「死亡するかもしれないという認識はなかった」と殺意を否認した。被告人質問でも、女性をはねた目的などを「覚えていない」と繰り返した。
 検察側は冒頭陳述で、争点となっている刑事責任能力について、問題はなかったと主張。最初にはねた女性に抵抗され暴行できなかったため、「死亡させるかもしれないが、構わないと考え、約40km/hのスピードではねた」などとして、「未必の故意」による殺人罪を主張。「性欲と憂さ晴らしのためだった」と一連の事件を総括し、女性をはねた行為について「客観的に人が死ぬ危険性が高く、救命措置も取らなかった」と指摘した。弁護側は、前夜からワインやシャンパンなどを大量に飲み、判断能力が低下していた」として、心神耗弱を主張した。
 11日の論告で検察側は、乱暴目的で女性をはねたとされる一連の事件について「人として乗り越えてはならない壁を越えた。生命に対する配慮は皆無」などと厳しく指摘し、「尊厳を踏みにじり、残虐で冷酷極まりない。刑を下げる理由はない」と主張した。同日の最終弁論で弁護側は、外山被告が事件当時、酒に酔っていたことを踏まえ、殺人罪は成立しない、と改めて主張。外山被告が「反省している」などとして懲役20年を求めた。亡くなった女性の父親は意見陳述で、「娘を返してください」と訴え、死刑を求めた。また父親は、外山被告の起訴から初公判までに、裁判の争点を整理するため2年近い日数がかかったことについても触れ、「人を憎み続けるのはつらい」と、苦しんだ胸中を明かした。
 判決で園原裁判長は、外山被告の完全責任能力を認定。「車を衝突させる際、女性が死亡するかもしれないと認識していた」として殺意も認定し、弁護側主張を退けた。さらに外山被告が公判中、事件の一部を「覚えていない」と繰り返したことについては「都合良く覚えていないのは不自然。信用出来ない」と指摘した。そして「同種事件の中でも悪質。事件を他人事のように語り、真剣に反省しているとは到底認められない」として、情状で酌むべき事情はないとした。
備 考
 事件当時、江別市の不動産会社を経営しているのは被告の父親であるという嘘が「2ちゃんねる」等のインターネット上に飛び交い、不動産会社に苦情電話が相次いで業務が麻痺した。特に静岡県富士市の小学校非常勤講師の男性(当時34)は、事件2日後の8月25日に、外山被告の名前をタイトルにしたブログを開設。不動産会社を名指しし、同社の信用を損ねた。会社社長は無関係を訴えるビラを市内で配布するとともに、道警に被害届を提出した。北海道警江別署は2011年1月13日、信用毀損の疑いで男性を書類送検した。
 男性はネット上で約1000のブログを開設してアフィリエイトによる広告収入を得ており、月10万~20万円相当のポイントを得ていた。

 被告側は控訴した。2013年5月28日、札幌高裁で被告側控訴棄却。上告せず確定。

氏 名
岡田一貴(28)
逮 捕
 2012年1月28日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人、住居侵入、死体遺棄、銃刀法違反、窃盗
事件概要
 横浜市の無職岡田一貴被告は2011年12月15日午前4時ごろ、川崎市の男性(当時62)宅に無施錠の玄関ドアから侵入。1階6畳間で、包丁(刃渡り約16cm)で男性の胸などを多数回突き刺して殺害し、遺体を1階寝室の押し入れに遺棄した。殺害時に抵抗され、自身も負傷したためいったん外出。手当後の午前10時ごろ、物色するために再び侵入し、現金約10万円のほか、デジタルカメラなど12点(約8,500円相当)を奪った。
 岡田被告は父親と二人暮らし。2010年11月から無職となって消費者金融などに計約160万円の借金があった。岡田被告と男性に面識はなかった。
 同月15日昼ごろ、川崎市のコンビニエンスストアなどで男性のキャッシュカードで現金が引き出されそうになっていたことが確認され、防犯カメラの映像などから岡田被告が浮上、2012年1月28日、神奈川県警は死体遺棄容疑で岡田被告を逮捕した。2月14日、強盗殺人容疑他で再逮捕した。
 岡田被告は他に2012年1月15日、以前勤めていた新聞販売店に侵入し、現金約88万円や商品券、ビール券などが入った金庫を盗んだ。
裁判所
 横浜地裁 朝山芳史裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年12月14日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2012年12月11日の初公判で、岡田一貴被告は「間違いありません」と起訴内容を認めた。
 検察側は冒頭陳述で、「働かずにパチンコなどに遊びふけっていて、金に困った末の悪質な犯行。被告は『仕事を辞めたことがばれると父親に怒られる』と思い、強盗しようと考えた」と指摘。男性には63カ所の傷があったとして「執拗かつ残忍。事件が発覚しないよう、殺害後に携帯電話から娘にメールを送っている」と批判した。また「新聞配達を辞めた後も、配達先の高齢の女性から金をだまし取り続けた。女性から金を取れなくなって強盗を計画した」と犯行に至るまでの経緯の悪質さなども指摘した。弁護側は幼少期に親族が次々と行方不明になった経緯に触れ「思考回路の原点は不幸な幼少時代にある。傷つけるつもりはなく、恐怖のあまりパニックに陥った」と情状酌量を求めた。
 12日の論告で検察側は「金を得るための犯行で、殺害行為は執拗で残忍」として無期懲役を求刑。弁護側は情状酌量を訴えた。被害者参加制度で法廷に立った被害者の長女は「極刑にしてほしい」と涙ながらに訴えた。被告は「被害者の遺族が望む刑罰にしてほしい」と述べた。
 判決で朝山裁判長は、被告は男性に取り押さえられそうになると、ためらわず包丁を突き出し、男性の胸などを多数回刺したとし「極めて執拗で危険」と指摘。一度離れた現場に再び戻り、遺体を押し入れに隠すなど「入念な隠蔽工作を行っている」と非難した。朝山裁判長は、被告が幼少期に相次いで両親が失踪し、家族愛に飢えて育った事情に触れた上で「事案の重大性を考えると、(情状を酌んでも)刑の減軽理由にはならない」とした。
備 考
 控訴せず確定。

氏 名
岡田浩幸(50)
逮 捕
 2009年5月8日
殺害人数
 3名
罪 状
 殺人
事件概要
 枚方市の会社員岡田浩幸被告は2009年4月17日午後7時ごろ、自宅で中学1年の長女(当時12)と小学1年の次女(当時7)の首を絞めて包丁で刺殺し、妻(当時46)も殺害した。さらに岡田被告は自らの腹も刺して3週間のけがを負った。妻が刺されながらも110番通報し、駆けつけた枚方署員が、自らの腹を刺そうとした岡田被告を制止した。5月8日、殺人容疑で岡田被告を逮捕した。
 岡田被告は大手会社の大阪支社営業部長を務めていたが、2008年5月枚方市の心療内科に通院し、休職中だった。
 簡易精神鑑定の結果、罪に問えると判断し、7月23日に起訴された。
裁判所
 大阪地裁 増田耕児裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2012年12月17日 無期懲役
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2012年11月15日の初公判で岡田被告は、「長女、次女に危害を加えたのは妻だ」と一部を否認した。
 検察側は冒頭陳述で、岡田被告は2008年5月からうつ状態で会社を休み、家族に冷たくされていると感じていたと指摘。理想の家族に戻ることができないなら家族を殺して死にたいと考え、遺書を作っていたと述べた。一方、弁護側は「妻は家にいる夫にストレスを感じ、一家心中を口にしていた」とし、岡田被告が逮捕時に犯行を認めたとされる点について「妻を追い込んだのは自分のせいと思い、うその説明をした」と述べ、娘2人について無罪を主張、妻に対しても殺意はなく、妻の行動を止めようとした際の過剰防衛だと述べた。
 12月11日の論告で検察側は、うつ病で休職中だった岡田被告は妻の態度が冷たいと感じ、理想の家族像が壊れる前に心中しようとしたと主張。家族の「やめて」との懇願を聞き入れず、執拗に攻撃を繰り返した、と述べ、「妻子の苦痛は察するに余りある」と指摘した。同日の最終弁論で弁護側は、捜査段階で3人の殺害を認めたのは捜査側の誘導だったと反論。娘2人の殺害について「危害を加えたのは妻だ」と無罪を主張した。また妻殺害については、事件当日は意識障害に陥り、行動を制御することが困難な状態だったと説明し、心神耗弱を理由に刑の軽減を求めた。
 判決で増田裁判長は、岡田被告が実母宛ての遺書を準備していたと指摘。「妻は事件直前に食料品の買い物に出かけるなどしており、心中を図ることと整合しない。捜査段階の自白も詳細で信用できる」と述べて被告側の主張を退けた。そのうえで、うつ病で休職中だった岡田被告は妻らの態度を冷たいと感じるようになり、旅行を楽しむなどの理想の家族像が崩壊する前に心中を図ろうと3人を殺害した、と認定した。そして「家族関係が思うようにならないつらい気持ちを解消しようという身勝手で短絡的な動機は厳しく非難されるべきだ」と述べた。
備 考
 被告側は控訴した。2013年12月10日、大阪高裁で被告側控訴棄却。2014年5月8日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
今村宗則(52)
逮 捕
 2008年11月21日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗殺人
事件概要
 大阪府守口市の元塗装工今村宗則被告は2001年8月28日午後9時頃、大阪市旭区の薬局店で店主の女性(当時84)を絞殺し、売上金約70000円やビタミン剤などを奪った。
 当時今村被告は事件前まで住んでいた大阪府守口市内のマンションを家賃滞納で退去。事件の1ヶ月前には旭区内の塗装会社を辞めており、収入がほとんどなかった。さらに、消費者金融などのブラックリストにも載るなど、借金もできない状況だった。マンション退去後は、レンタカーの車中で生活。契約期間を過ぎても返却せず、乗り回しては放置することを繰り返していた。
 今村宗則被告はこの事件の約2週間前になる8月15日早朝、大阪市北区の洋服店店主(当時84)の店に2階の窓から侵入し、就寝中の店主の頭部を角材のようなもので殴った上、電気コードで首を絞めて殺害。現金約3万円とキャッシュカードを奪った。2001年10月11日、今村被告は逮捕された。無罪を主張していたが、2003年12月1日に大阪地裁で求刑通り無期懲役判決。2004年7月14日、大阪高裁で被告側控訴棄却。2004年12月13日、最高裁で被告側上告が棄却され、翌年1月に確定。その後は徳島刑務所に服役していた。
 今村被告は旭区事件の前日、近くのコンビニエンスストアの防犯カメラに映っており、元妻に「2人殺した」と打ち明けていたことから、捜査本部は事件に関与しているとみていたが、捜査は難航。2003年3月、北区の事件における大坂地裁の裁判で行われた被告人質問で今村被告は、検察官に旭区の事件とのかかわりを尋ねられが、「知りません」と平然と言い切っていた。
 DNA鑑定技術の向上から大阪府警捜査一課は、現場の遺留品であったタオルに付着していた皮膚片のDNA鑑定を実施。2009年8月、DNA型の検出に成功。徳島刑務所で服役中の今村被告から血液を採取し、DNA型を鑑定したところ一致した。2008年11月21日、大阪府警捜査一課は服役中の今村被告を強盗殺人容疑で逮捕した。
裁判所
 最高裁第三小法廷 大谷剛彦裁判長
求 刑
 死刑
判 決
 2012年12月17日 無期懲役(検察側上告棄却、確定)
 判決文「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい)
裁判焦点
 検察側は「強盗殺人を犯した13日後に同様の事件を敢行しており、犯罪傾向は強く極刑しかない」と主張。
 決定は付言で「量刑判断の際に、確定事件を実質的に再度処罰する趣旨で考慮することは許されないが、犯行に至った経緯としては検討できる」と指摘。ただこの事件では(1)殺害に計画性がない(2)服役を通じ更生の兆しが見える――などの事情を踏まえ、死刑を回避した一、二審判決を不当とはいえないとした。
備 考
 別の事件で無期懲役判決が確定し、現在服役中。
 2010年5月31日、大阪地裁で求刑死刑に対し一審無期懲役判決。2011年2月24日、大阪高裁で検察側控訴棄却。




※最高裁は「判決」ではなくて「決定」がほとんどですが、纏める都合上、「判決」で統一しています。

※銃刀法
 正式名称は「銃砲刀剣類所持等取締法」

※麻薬特例法
 正式名称は「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」

※入管難民法
 正式名称は「出入国管理及び難民認定法」

※確定について
 求刑死刑について一審無期懲役判決、検察側のみ控訴して無期懲役判決が下された被告については確定したものと見なしている。

※高裁判決
 福富弘及び冨士田学被告(2011年6月9日、一審無期懲役判決)は、2012年8月末までに東京高裁で被告側控訴が棄却されている。詳細が不明なので、ここに記す。両被告は2014年3月18日、被告側上告が棄却され、確定している。

※最高裁
 林昌文被告(2009年5月7日、一審無期懲役判決)は、2012年8月末までに最高裁で被告側上告が棄却されている。詳細が不明なので、ここに記す。


【参考資料】
 新聞記事各種



【「犯罪の世界を漂う」に戻る】