地裁判決(うち求刑死刑) |
高裁判決(うち求刑死刑) |
最高裁判決(うち求刑死刑) |
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22(0) |
12(4) |
4(2) |
氏 名 | メンドーザ・パウロ・ネポムセノ(40) |
逮 捕 | 2022年5月2日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、非現住建造物等放火、死体損壊 |
事件概要 |
フィリピン国籍で群馬県みどり市に住む工場作業員のメンドーザ・パウロ・ネポムセノ被告は2022年3月30日、近所に住む無職男性(当時73)方で棒状の物で頭や顔、胴体を多数回殴り、鼻骨などの骨折による出血の気道内吸引などで窒息させて殺害し、現金約16万6千円とネックレス1本(時価45万8,200円相当)を奪った。犯行の形跡を隠すため、遺体にかぶせた毛布などに灯油をまき、ライターで火をつけて遺体の一部と住宅を焼いた。 火災を知らせる近隣男性の119番通報があり、駆けつけた消防隊員が、木造2階建て住宅の1階居間に男性が倒れているのを見つけた。男性は病院で死亡が確認された。男性が何者かに殺害された疑いが強まったとして、県警は、4月2日に殺人・放火事件として桐生署に捜査本部を設置した。 防犯カメラの解析などから、2021年6月から被害者と面識があったメンドーザ被告の関与が浮上。メンドーザ被告は2019年9月に短期滞在の在留資格で入国したままであったことから、桐生署は4月8日に入管難民法違反(不法残留)の疑いで現行犯逮捕。19日には同罪で起訴。 捜査本部は5月2日、強盗殺人容疑でメンドーザ被告を逮捕した。5月24日、現住建造物等放火容疑で再逮捕。前橋地検は6月15日、強盗殺人と非現住建造物等放火、死体損壊の罪で起訴した。 |
裁判所 | 前橋地裁 橋本健裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2024年1月11日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2023年12月8日の初公判で、メンドーザ・パウロ・ネポムセノ被告は放火などの罪は認めた一方、「被害者の家へはお金を借りる目的で行った。殺すつもり、盗むつもりはなかった」と強盗殺人の罪については否認した。 冒頭陳述で検察側は、メンドーザ被告が「被害者の金を盗む」と以前から同居人に話していたことや、固い棒状のもので被害者の顔や背中を複数回殴っていて、「殺害する意思があった」と指摘。「金品を奪う目的で知り合いの被害者の自宅に立ち入ったが顔を見られたため、硬い棒状の物で顔や頭を殴るなどして殺害した」などと主張した。 弁護側は、事件発生前もメンドーザ被告が被害者から複数回、金を借りていて、「この日も金を借りに行ったが被害者に侮辱されて、思わず顔と背中をたたいただけで殺意はない。火をつけたあと誘惑にかられ現金などを盗んだ」などと述べ、強盗殺人の罪にはあたらず、傷害致死と窃盗の罪にとどまると主張した。 11日の第2回公判で、司法解剖を担当した医師の証人尋問が行われた。医師は頭や顔などに外傷が十数カ所あり「少なくとも10回以上は殴られた」と証言。一連の殴打の後に、電気コードを口にかけて引っ張ったという検察側の主張について「矛盾はない」とした。殴打だけでも死に至る可能性があったが、「(死因の)窒息を促進した」とした。 14日の第5回公判で検察側は、被告の交際相手でフィリピン国籍の女性の供述調書を読みあげた。調書によると、男は犯行後、女と同居する自宅で手袋を洗っていた。手袋は畑仕事に使うもので、普段は家に持ち帰らないことなどの証言があった。男らに住まいや仕事を提供していた同市の女性の証人尋問も行われ、男が給料の前借りをしていたことなどを証言した。 21日の公判において遺族の代理人弁護士は意見陳述で「見苦しい弁解を続け、全く反省していない。命をもって償うべきだ」と述べた。 同日の論告で検察側は、頭や胸など少なくとも6カ所を、強い力で10回以上棒状の物で殴ったとして「強い殺意があった」と非難。本国の姉から送金を迫られていたことや、持参した手袋を暴行に使ったことを挙げ、「違法な手段で金品を手に入れようとした」と説明した。車を普段と違う場所に止めたことについて合理的な説明がない上、被告の供述が男性の傷や倒れていた状態と食い違うとし、「客観証拠に反し、罪を逃れるための虚偽であることは明らか」と指摘した。そして「被告には金品を奪う目的があり、顔見知りであったため口封じのため殺害した。身勝手な動機による卑劣極まりない犯行だ。反省をしておらず悪質性が高い」と非難した。 同日の最終弁論で弁護側は、殺意や金品を奪う目的を否定し、傷害致死と窃盗などの罪にとどまると主張。世話になっていた男性を殺す動機はないとして、「計画性はなかった。金を借りに行き、男性に叩かれて突発的な行動だった」と強調し、「自白もし、反省もしている」と懲役12年が相当と主張した。 最終意見陳述でメンドーザ・パウロ・ネポムセノ被告は、被害者やその家族に対し、「申し訳ないことをしてしまった」と謝罪した。 判決で橋本健裁判長は、被告が被害者宅から離れた場所に車を止めて徒歩で訪れたことや手袋をしていたことなどから「少なくとも金品窃取の目的はあったと考えられる」と指摘。被害者の頭部などを多数回殴った上、うつぶせに倒れた被害者の口に電気コードが巻かれた跡があったことから首を絞めようとしたと推認する、と殺意も認定した。また「金を借りに行ったらトラブルになって暴行した」という被告の供述を「信用できない」として退けた。そして「確定的な殺意のもとで暴行を加えて金品を奪っており、その残虐な犯行態度は非常に悪質である」と指摘。「被害者は身体的苦痛を伴ったうえで生命を奪われていて、結果は極めて重大である」と述べた。 |
備 考 |
奪ったと知りながらメンドーザ・パウロ・ネポムセノ被告から現金を受け取ったとして組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)の罪に問われた交際相手のフィリピン国籍の女性は2022年7月15日、前橋地裁(柴田裕美裁判官)で懲役2年執行猶予4年判決(求刑懲役2年)。メンドーザ被告の態度から受け取りを拒否できなかった点などを考慮した。控訴せず確定。 被告側は控訴した。2024年9月24日、東京高裁で被告側控訴棄却。2025年3月11日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 小林新太郎(51) |
逮 捕 | 2021年8月10日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、住居侵入 |
事件概要 |
京都市西京区の市営住宅に住む無職小林新太郎被告は2021年7月12日午後5時半~同45分ごろ、同じ階に住む男性(当時80)宅に侵入し、首などを刃物で複数回突き刺して殺害して、現金約9万円が入った財布と運転免許証などが入ったカード入れを奪った。カード類は市営住宅から約1km離れた場所に捨て、7月中旬に発見された。 近隣住民から連絡を受けた警察官が16日夜、自室で倒れている被害者を発見。府警は6月中旬に被害者から、小林被告に現金を盗まれたのではないかと相談を受け、調べていた。 京都府警捜査1課などは8月10日、強盗殺人などの容疑で小林被告を逮捕した。京都地検は8月31日、強盗殺人と住居侵入の罪で小林被告を起訴した。 |
裁判所 | 京都地裁 安永武央裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2024年1月12日 無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2023年12月8日の初公判で、小林新太郎被告は「私は殺めたり、財布などはとっていません」と述べ、起訴事実を否認した。 冒頭陳述で検察側は、小林被告が被告は事件の前の月に水漏れを見るといって被害者の部屋に入っており、犯行時刻に被害者宅を出入りする姿が目撃され、室内でDNA型が検出されており、困窮していた被告が犯行時間の後に買い物やパチンコで金を使うなど事件直後に少なくとも9万円を所持していたことなどから、「被告が犯人でなければ合理的に説明できない」と指摘した。 弁護側は「被告が犯行時刻に別の場所で自転車に乗っているのが防犯カメラに映っていて、目撃者が見たのは被告ではない。事件のあと被告が使った金はへそくりだった。」などとして無罪を主張した。 22日の論告で検察側は、小林被告が被害者宅を出入りする姿が目撃され、室内でDNA型が検出されたことなどから、「被告が犯人でなければ合理的に説明できない」と指摘。金品を奪う目的で1人暮らしの高齢者を狙ったとし、「強固な殺意に基づく執拗で残虐な犯行だ」と非難した。 同日の最終弁論で弁護側は、事件後に所持していた現金は被告が自宅のタンスで見つけたへそくりだったとし、「殺害したことや財布などを奪取したことは、十分な立証がされていない」と反論し、無罪を主張した。 判決で安永裁判長は、小林被告が犯行時間の前後に被害者の部屋を出入りしていたとする目撃証言が信用できるとした上で、金銭に窮していた被告が事件後に多額の現金を所持していてパチンコなどで金を使っていたことから、強盗目的で犯行に及んだと指摘。「ギャンブルに金銭を使い果たしたあげく、身勝手な理由で関係ない被害者を殺害した」と非難した。そして「犯行は残忍で反省を全くしていない」と述べた。 |
備 考 |
氏 名 | 西原崇(40) |
逮 捕 | 2018年2月13日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、強制わいせつ致死 |
事件概要 |
松山市の運送会社員、西原崇被告は2018年2月13日午前4時35分~午前5時50分ごろ、今治市の段ボール製造販売会社の敷地内で、同僚の女性(当時30)の首を両手で絞め、タイツをはぎ取るなどわいせつ行為をし、首をタイツで絞めて殺害した。 女性は同日未明、荷物を配送するため、一人で段ボール製造会社に向かった。西原被告は同日早朝、女性と合流して仕事を手伝う予定だった。 帰社予定だった午前中に戻らず、連絡も取れなくなったため、会社の上司が13日午後、西条署に行方不明届を提出。県警が、女性が仕事をしていた段ボール製造会社を捜索した際、遺体が見つかった。会社の敷地や建物は人が出入りしていたが、遺体があったのは人目につきにくい場所だった。 県警は13日午後、西原被告から任意で事情を聴き、同行した現場で逮捕した。 |
裁判所 | 高松高裁 佐藤正信裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2024年1月18日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
2023年11月8日の控訴審初公判で弁護側は、西原崇被告には発達障害などの影響があり、好意を寄せる相手に対する悪ふざけから首を絞めたと主張し、わいせつ目的はなかったなどと訴えた。そして一審判決は事実誤認があり、量刑も重すぎると主張した。検察側は控訴棄却を求め、即日結審した。 判決で佐藤裁判長は「被告の主張はいずれも理由がない。被告はわいせつの意図をもって被害者の首を絞めたと認められ、松山地裁が強制わいせつ致死罪が成立すると認めた判断に誤りはない。量刑の評価にも不合理な点はなく、無期懲役が相当である」と述べた。 |
備 考 |
2018年11月13日、松山地裁(末弘陽一裁判)の裁判員裁判で求刑無期懲役に対し、一審懲役19年判決。2019年12月24日、高松高裁(杉山慎治裁判長)で一審破棄、地裁差戻し。2020年7月29日、最高裁第二小法廷(岡村和美裁判長)で被告側上告棄却、地裁差戻し確定。 2023年3月10日、松山地裁の差戻し裁判員裁判で、求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2024年10月1日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 周東由記(46) |
逮 捕 | 2022年8月19日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、銃刀法違反(発射、加重所持) |
事件概要 |
群馬県太田市の指定暴力団稲川会系3次団体組幹部周東由記被告は、2次団体組幹部の室田利通被告と稲川会系2次団体組幹部N被告、親交のあった前橋市の無職N被告と共謀。2020年1月24日午後7時ごろ、桐生市に住む山口組系傘下組織組員の男性(当時51)の自宅アパート駐車場で拳銃1丁と実弾3発を所持し、2発発射して組員の頭と胸に命中させ、殺害した。周東由記被告殺害行為の実行役だった。 室田被告らが所属する2次団体と、被害者が所属する傘下組織はともに太田市を拠点としており、抗争には至っていないが、しのぎを巡ってもめており、組員同士の衝突が複数回あった。 群馬県警は2022年8月19日、殺人と銃刀法違反(発射、加重所持)容疑で室田被告ら4人を逮捕した。 |
裁判所 | 前橋地裁 山下博司裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2024年2月1日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2024年1月15日の初公判で、周東由記被告は「関係はなく、やっておりません」と無罪を主張した。 検察側は冒頭陳述で、周東由記被告が室田利通被告から指示を受け、射殺したと指摘。「拳銃自体が禁制品であり、殺傷能力が高い45口径の銃を使った上、近距離から2発目を発射するなど確実に殺害する態様だった」と危険性と悪質さを非難した。 弁護側は、防犯カメラの映像など直接証拠はないとし、「動機がなく、組員の男が発射役として関わった客観的な証拠はない。関係者の供述は信用できない。共犯者が射殺した可能性がある」と主張した。 23日の論告求刑公判で、検察側は「銃を撃つ発射役で、バットを持つ援護役に加勢を指示するなど実行行為を担った」と指摘した。 弁護側は、無罪を主張した。 判決で山下裁判長は、他の共犯者らの供述が一致していることや現場の状況などから、発砲の実行役だったと認定。幹部組員らが、事前に目出し帽や手袋を用意して役割を決めていたことから、「計画的だった」と指摘。被害者の後頭部を撃ち、確実に死亡させる意図があったとした。そして「住宅街での犯行で、近隣住民を巻き込む危険性があった。実行犯として極めて重要な役割を果たしており、反省もなく、規範意識が鈍っている」と述べた。 |
備 考 |
金属バットを持つ援護役だった無職N被告は起訴事実を概ね認めるも、共謀の成立時期について争った。2023年10月16日、前橋地裁(山下博司裁判長)で懲役20年判決(求刑懲役25年)。その後は不明。 室田利通被告、N被告被告は起訴済み。 被告側は控訴した。2024年9月6日、東京高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 田畑悠也(31) |
逮 捕 | 2021年1月9日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、死体遺棄、監禁他 |
事件概要 |
住所不定、無職の田畑悠也被告は2020年9月16日午後6時50分頃~7時45分頃、鹿屋市内の商業施設の駐車場に停めた会社員の女性(当時35)の軽乗用車内で、車を自由に使用させるよう要求。抵抗されたため、シートベルトで首を巻き付けて絞めるなどして窒息死させ、車(時価55万円相当)を強奪し垂水市の土手に遺体を遺棄した。 田畑被告は以前、別の事件で執行猶予付き判決を受けていたにも関わらず、働いていた飲食店の売上金の持ち出しなどのトラブルが生じていた。女性とはSNSの出会い系サイトで知り合って連絡を取っていたが、会うのはこの日が初めてであった。 女性は鹿屋市内の勤務先からいったん帰宅。午後6時半頃、同居する親族に「外出してくる」と伝えて家を出た後、行方が分からなくなっていた。親族が18日、県警鹿屋署に行方不明届を提出。10月29日、県警の捜索で遺体が見つかり、DNA鑑定の結果、身許が判明した。同31日に司法解剖をしたが、遺体の損傷が激しく、死因は分からなかった。県警は事件事故の両面で捜査した。 田畑被告は女性の車で実母が住む大分県に逃亡し、母親の自宅に身を寄せた。しかし10月8日深夜、別府市内の駐車場に止めた軽乗用車内で、SNSを通じて知り合った女性(当時30)に刃物のようなものを押し当てて脅し、約1時間、監禁した。女性が近くの店の従業員に助けを求めて発覚。田畑被告は逃亡したが、別府署は9日、利用料金を払わずに市内のインターネットカフェを利用したとして、詐欺容疑で逮捕。さらに30日には監禁容疑で再逮捕した。 一方、鹿児島県警は、女性が行方不明時に田畑被告と会っていたことを突き止めた。さらに大分県で女性の車を乗っていたことも判明。2021年1月9日、鹿児島県警の捜査員らが勾留先の大分県警別府署を訪れて田畑被告を死体遺棄容疑で逮捕し、身柄を鹿児島県警に移送した。1月20日、強盗殺人容疑で再逮捕した。 |
裁判所 | 鹿児島地裁 中田幹人裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2024年2月22日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2024年1月23日の初公判で、田畑悠也被告は「殺すつもりはなかった」と殺意を否定。死体遺棄罪では「女性を放置した際、亡くなっている認識がなかった」と無罪を主張した。 冒頭陳述で検察側は、別の事件で執行猶予付き判決を受けていたにも関わらず、働いていた飲食店の売上金の持ち出しなどで逮捕されることを恐れ、県外逃亡の手段を得ようと一連の犯行に及んだと指摘。「SNSで女性を誘い出したが、クラクションを鳴らすなど抵抗され、発覚を逃れるために殺害と車の強奪を決意した」と述べた。そして「窒息死に至るには首の圧迫以外考えられない」として、シートベルトが首にかかっていたと指摘。被告は危険性を認識できたとした。 弁護側は、と「被告は女性が抵抗したため、手と頭にシートベルトを巻いて拘束した。首は絞めていない」として、死に至る可能性を認識できなかったと主張した。また、死体遺棄については無罪を主張した。 24日の公判における被告人質問で、弁護側から垂水市の土手に遺棄するまでの女性の様子を問われ、「『うー』と声を出していたので、生きていると思っていた」と述べた。 25日の公判における被告人質問で田畑被告は、「(拘束するために)手と顔付近にシートベルトを巻いただけ」と述べ、改めて殺意を否定した。検察側は、捜査段階の取り調べでの発言と食い違うと指摘。被告は「『顔面あたりにシートベルトを巻いた』と言ったつもりだったが、首に入っていたと強調された調書になっていた」と反論した。遺棄したとされる場所でなぜ女性の脈を測ったのか問われると、「意識がもうろうとした状態だと思っていた。死んでいるかを確認するためではない」と死体遺棄について否認した。 26日の公判で、福岡大学医学部法医学教室の久保真一教授が出廷。田畑被告が被害者に体重をかけて押さえつけたなどの供述を元に、胸郭運動障害や気道閉塞が合わさって死に至った可能性もあると指摘した。一方、司法解剖した鹿児島大学大学院法医学分野の林敬人教授は、遺体の首の状況と被告人の説明から「死因は頸部圧迫による窒息死とみて矛盾はない」と述べた。 31日の公判における被告人質問で、弁護人に逃亡中の精神状態を尋ねられ、「ずっと視線を感じ、他の車が全て警察のようだった」「(自首を)何度も考えたが勇気がなかった」と答えた。 2月2日の論告求刑公判で検察側は、「女性の顔面あたりに巻き付けたシートベルトを相当の時間締め付けていることなどから、人を死に至らしめる危険性の高い行為という認識があり、殺意があったことは明らかだ。被害者を見つかりにくい場所に放置し、生存を偽装するメッセージを送るなど被害者が亡くなっていると分かっていた上での犯行で、もたらした結果は重大。強固な意思で行われた悪質な犯行で、動機は身勝手で反省の態度も見られない」と述べた。 同日の最終弁論で弁護側は、「計画性がなく行き当たりばったりの行動で、女性を傷つけることは考えていなかった。シートベルトで縛ったのも女性が抵抗しないように拘束するためだった可能性などが残り、殺意があったことが間違いないとは言えない。また、死体遺棄についても女性が死亡しているという認識がなく、無罪だ」と主張。強盗殺人と死体遺棄は成立せず、強盗致死罪で懲役20年以下が妥当とした。 最終意見陳述で田畑被告は、「被害者に心からお詫びします。 本当に申し訳ございませんでした」と述べた。 判決で中田裁判長は、シートベルトの幅や柔軟性の乏しさなどから、「鼻口部を隙間なく塞ぎ続けたとは合理的に考えにくい」と指摘。後頭部やあごが無理やり曲げられて気道が塞がれた可能性も否定し、「首にシートベルトを巻き付けて窒息死するまで絞めつけた」とした。その上で、被告はシートベルト越しに伝わる女性の首の感触や巻き付けた輪の大きさから、首に掛かっていたことを認識していたとして殺意を認定した。また、死体遺棄については、小雨が降る中で人通りの少ない土手に女性を放置したことなどから、女性が死亡していると認識していたとして、死体遺棄罪の成立を認めた。そして「強い殺意をもって死に至るまで数分間首を絞め続けていて非常に悪質だ。結果はこの上なく重大であり、突如として将来を絶たれた女性の無念さは計り知れない」と指摘。「被告は別の事件で受けた保護観察に伴う制約や束縛から逃げるために車を手に入れようとして女性の抵抗に遭い犯行に及んでいて、経緯や動機は身勝手で自己中心的、酌量の余地を見いだすことはできない。被告人の公判での反省の言葉や母親が更生に協力するなど酌むべきであるが、情状酌量にも限度があり、一生罪を償わせるべきである」と述べた。 |
備 考 | 被告側は控訴した。2025年1月23日、福岡高裁宮崎支部で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | ラ・ロサ・ビテ・エドガルド・アントニー(37) |
逮 捕 | 2020年12月8日 |
殺害人数 | 2名 |
罪 状 | 殺人、現住建造物等放火、死体損壊 |
事件概要 |
ペルー国籍の住所不定、無職、ラ・ロサ・ビテ・エドガルド・アントニー被告は2015年12月30日午後2時ごろ、愛知県半田市の県営住宅3階の一室で、元内縁の妻であるブラジル国籍でアルバイト従業員の女性(当時27)と、同居している工場作業員の姉(当時29)の首を圧迫して殺害。ガソリンをまいて、何らかの方法で火を放ち、遺体を焼損した。首を圧迫した方法については「不詳」とした。 アントニー被告は1991年に父親らと来日。事件当時の在留資格は定住者で、足場工をしていた。アントニー被告は2009年ごろに女性と知り合い、一時期同居していたが、事件の数か月前に別れ、車上生活をしていた。アントニー被告は女性に復縁を求め、交際を反対する姉ともトラブルになっていた。 アントニー被告は火災発生当日の夜、名古屋市内で無免許運転をしたとして、道路交通法違反容疑で逮捕された。車内には内妻との間に生まれた当時5歳と3歳の娘が乗っていたが、けがはなかった。その後は窃盗罪でも起訴された。服役し、仮出所して名古屋出入国在留管理局に収容されていた。 放火により現場に残された証拠は乏しかったが、間接証拠を積み重ね、愛知県警は2020年12月8日、現住建造物等放火容疑でアントニー被告を逮捕。28日、殺人容疑で再逮捕した。名古屋地検は2021年1月18日、殺人と現住建造物等放火、死体損壊の罪で起訴した。 |
裁判所 | 名古屋地裁 吉田智宏裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2024年2月27日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2024年1月23日の初公判で、ラ・ロサ・ビテ・エドガルド・アントニー被告は裁判長から起訴内容の認否について聞かれたものの、何も答えなかった。 冒頭陳述で検察側は、アントニー被告は事件当時、別居していた元内妻に気を引くメールを送るなどして復縁を望んでいたと指摘。元内妻が他の男性と交際を求めており、姉も2人の交際に反対していたとし、被告には動機があったと述べた。また被告のタブレット端末の位置情報などから事件当時に被告が現場付近にいたなどと指摘し、犯人は被告以外にいないと主張した。そして精神疾患などはなく合理的な行動をとっていたと主張した。 弁護側は、被告が犯人かどうかも争う姿勢を示した上で「2人(被告と内妻)とも覚醒剤を使っていて、別の人物に恨みをかってもおかしくない状況だった。仮に犯人であった場合でも、幻覚や精神疾患などが影響を及ぼした可能性がある。事件当時の刑事責任能力や現在の訴訟能力に争いがあり、裁判の停止が相当」と主張した。 その後の公判でも、アントニー被告は事件について「覚えていない」「答えたくない」と繰り返した。 2月15日の論告求刑公判で、検察側は出火直後に被告が娘らと現場を離れていることや、その後、突然父親の自宅を訪れノートパソコンなどを預けていることから「偶然が重なり過ぎていて犯人と強く推認される」と主張。被告の事件前後の行動を踏まえ、責任能力があったとした。そして「妹には復縁を拒絶、姉には反対され、立て続けに殺害した残虐な犯行。2人の生命を奪い、殺害後も尊厳を冒とくした。姉妹の無念は察するにあまりある。これまで一度も反省の態度を示さず、もはや改善と更生を期待するのは著しく困難だ」と指摘。一方で「重大性を鑑みれば死刑もやむを得ないが、現場から逃げる様子を目撃されるなど綿密な計画性はない」として無期懲役を求刑した。 最終弁論で弁護側は「被告は被害者に執着しておらず、年末年始には被害者などと旅行を計画するなどしていて、被告に2人を殺害する動機はなく、動機がある人は他に複数いる」と指摘。もし被告の犯行だったとしても、被告は当時覚醒剤を使用しており、善悪の判断ができない心神喪失か心神耗弱の状態だったとして無罪を主張した。 判決で吉田裁判長は、被告には元内妻との間に交際を巡るトラブルがあったとし、これが殺害の動機になり得たと認定。その上で、火災発生時刻ごろに被告が現場周辺にいた▽事件当夜、被告と一緒にいた娘2人が警察官の職務質問に対し、事件の概要を知っているとの趣旨の話をした――ことなども踏まえ、「被告が犯人だと推認できる」と結論づけた。さらに姉妹と居合わせた娘2人らを火災現場から退避させるなどした被告の行動について「合理的で、完全責任能力があった」と指摘し、責任能力を認めた。そして「結果は誠に重大。2人の首を相当な力で数分間圧迫していて、突発的だが強い殺意による犯行。(火災の)発見が遅れれば他の住人にも被害が及びかねない危険性が高かった」と非難した。 |
備 考 |
氏 名 | 田中治樹(51) |
逮 捕 | 2022年2月11日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人 |
事件概要 |
釧路市の会社員、田中治樹被告は2016年1月14日午後5時30分~同6時ごろまでの間、釧路市に住む伯母(当時80)の頭部を鈍器のようなもので数十回殴打し脳挫傷により死亡させ、現金約20万9,000円を奪った。 翌15日、参加予定の老人クラブの会合に伯母が来なかったことから、心配した友人が午後4時ごろに訪ね、頭部にビニール袋をかぶせられた状態で自宅で倒れているのを発見した。 事件直後から田中被告は捜査線に浮上し、複数回にわたって任意聴取を受けていた。 事件から6年後の2022年2月11日、道警は田中被告を強盗殺人の容疑で逮捕した。 |
裁判所 | 釧路地裁 井草健太裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2024年3月4日 無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2024年1月16日の初公判で、田中治樹被告は「私は伯母を殺していませんし、お金も盗んでいません」と起訴内容を全面否認した。 検察側は冒頭陳述で、争点について「被告人が犯人が否か」「犯人の場合、金品を奪う目的で被害者を殺害したか否か」と話した。そして、伯母が在宅時も施錠し、知らない人は家に入れない注意深い性格であること、現場に争った形跡が無いことから、顔見知りの犯行と指摘。田中被告がパチスロなどにはまって伯母を含む親戚や知人から借金を重ね、ヤミ金にも借りて計数百万円の借金があること、税金を滞納するなど金に困っていたことや、推定犯行時刻の直後に自身の銀行口座に入金した20万8千円のうち、1万円札3枚の紙幣番号が伯母が事件前に引き出した紙幣と一致したと述べた。事件の前後には「鑑識 仕事内容」「殺人事件何を調べる」「北海道の新着ニュース」について検索していたことも状況証拠に挙げた。また、伯母が友人に「被告が自宅に来る予定」と話し、同被告は犯行時間帯に現場近くにいたなどと主張した。 弁護側は、田中被告がパチスロ代などに使うため借金を重ねるなど、お金にだらしない一面を認めるが実家暮らしで生活が特別に苦しいとは思っていなかったと主張。また口座に入金したのはパチスロに買って手元に金がある状態であり、12月に伯母から10万円を借金したときの中に検察側が指摘する新札3枚が含まれていたと訴えた。また検索についても警察官や指紋採取の仕事に就くサイトだったとし、「釧路 殺人」など具体的な検索はしていないと反論した。そして「事件当日は午後4時30分ごろまで就寝し、起床後は交際相手と電話をしていた。その後、日常生活として外出しており、伯母宅は向かっていない。伯母を殺害した犯人ではなく、金品も盗んでいないため無罪である」と反論した。 17日の第2回公判で、伯母の遺体を司法解剖した医師がリモートで出廷し、検察官の質問に対して頭蓋骨が陥没している事や傷跡の数や形状などから「金づちやハンマーのようなもので40回以上強い力で殴られ30分ほどで亡くなった」と証言した。さらに、伯母は殴られて間もなく喉などの筋肉が緩み、いびき音を出したと指摘した。冒頭陳述で検察側は、犯行推定時間の後に田中被告がいびき音についてネット検索していたと主張したが、弁護側は当時の交際相手に「いびきがうるさい」と言われていたと反論した。 2月14日の論告求刑公判で、殺害された伯母の娘が「裁判で疑いが強まった。母に別れを言えず田中被告が事件の真相も明らかにせず残念。生涯許すつもりはなく最大限の刑罰を与えて欲しい」涙ながらに訴えた。 論告で検察側は「借金を重ね、金銭的に困窮していた被告が、犯行可能時間帯直後に20万8,000円を銀行口座に入金しており、そのうちの1万円札3枚は、伯母が12月に引き出したものと紙幣番号が一致している」「田中被告が借金返済のため、14日に伯母宅に訪問するという証言もあり、金を奪う動機もあった」と指摘。事件前後の時間帯に田中被告が運転した車が犯行現場の近くを行き来するのが防犯カメラに映っていたことが確認されていることなどから「さまざまな状況証拠から、被告人が犯人と強く推認できる」と主張。「犯行態様は残虐で冷酷。凶器や手袋を持って行くなど計画性も認められる。不合理な弁解に終始しており、刑を軽減すべき事情はない」とした。 最終弁論で弁護側は、14日に訪問するというのは田中被告が「近く訪問する」との話をしたところ伯母が認知症のため犯行日と勘違いしたと指摘。さらに「防犯カメラの車の映像は似ているが同一かは不明で、田中被告が乗っていることも確認できない。犯行現場へ右折したとされる交差点で直進していた可能性がある」「検察側が指摘する1万円札3枚は、12月に被害者から借りた10万円の中に含まれていた」とし、「犯行に使用された凶器が見つかっていないことや、被告から伯母の血痕が検出されるなどの直接的証拠がない」「検察側が主張する犯行時間の約25分に金づちで40回以上殴り、返り血をキッチンで洗い流して着替え、室内の金を物色して奪って車で逃げるのは不可能に近い」と無罪を主張し、裁判員に「疑わしきは被告人の利益に」と訴えた。 最終意見陳述で田中被告は、「自分のだらしなさや嘘を重ねた自己中心的だった事で疑われ、家族や友人に迷惑をかけてしまったことは後悔している。でも私はやっていません。権力(警察や検察)による不当な圧力もあった。事件発生直後から犯人と決めつけられているが、私は伯母を殺していないし、お金も奪っていない」と述べた。 判決で井草裁判長は、争点の一つとなった犯行当日の訪問の約束について「親族や知人の話から生活に支障が出るほどの認知症の症状はなく、犯行日に訪問の約束は信用できると検察側の主張を認めた。そして犯行当日に防犯カメラに映っていた車両についても「車は古く当時も流通量が少ない上、複数人の鑑定によりテールランプなどの位置など細かく検証されていて信用できる」と検察側の主張を認めた。また最大の争点ともなっている犯行後の大金について「常に口座の残高が少なく事件日の前にも借金の返済を待ってもらう連絡をしていた田中被告が、急に約20万円を入手しATMに入金するのは不自然」と検察側の主張を認め、犯行時に奪ったものと認定した。検索の件についても、「交際女性から言われてから日数が経過し「あしもん」に関しても事件後のタイミングに検索するのは偶然とは考えにくい」として検察側の主張を認めた。そして井草裁判長は「殺害に関連する不審な行動に及んでいる。犯人でないとすると、被害者方に向かったのに約束を反故にし、被害者方以外の方法で現金を入手して入金した一方、偶然にも第三者が殺害したことになる。偶然が重なり合うのは考えられず、合理的に説明ができないか、説明が極めて困難な事実関係」などと弁護側の無罪の主張を退け、田中被告の供述が場当たり的で信用性に欠けると指摘し、田中被告が犯人であると認定した。そして「犯行態様は執拗で残虐。凶器を用意して訪問し殺害した後には短時間で物色して金を奪っていており、強い殺意と計画性もあり結果も重大。反省もせず、酌量減軽も認められない」と述べた。 |
備 考 | 被告側は控訴した。 |
氏 名 | 野村悟(77)/田上不美夫(67) |
逮 捕 | 野村被告:2014年9月11日/田上被告:2014年9月13日 |
殺害人数 | 野村被告:0名/田上被告:1名 |
罪 状 | 野村被告:銃刀法違反、組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)/田上被告:殺人、銃刀法違反、組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂) |
事件概要 |
特定危険指定暴力団工藤会トップで総裁の野村悟被告と、ナンバー2で会長の田上不美夫(たのうえ・ふみお)被告は他の被告と共謀して以下の事件を起こした。
(1)では2002年6月26日、工藤会系組長中村数年受刑者、同組幹部NT元被告が殺人容疑で逮捕された。28日、同系組長F受刑者、同系組長で田中組のナンバー2であった田上不美夫被告が殺人容疑で逮捕された(F受刑者と田上被告は恐喝罪などで服役中)。7月、福岡地検小倉支部は3人を起訴するも、田上被告は「共謀関係を立証する証拠が足りない」として処分保留で釈放し、後に不起訴となった。 2006年5月12日、福岡地裁小倉支部は、実行役の中村数年受刑者に無期懲役(求刑同)、見届け役のF受刑者に懲役20年(求刑無期懲役)を言い渡した。しかし実行役とされたN元被告には無罪(求刑無期懲役)を言い渡した。判決では氏名不詳者と共謀とされた。 N被告については双方控訴せず確定。2007年10月5日、福岡高裁は中村受刑者の判決に対する被告側控訴、F受刑者の判決に対する検察・被告側控訴を棄却した。2008年8月20日、2人の被告側上告棄却、確定。 2014年9月11日、福岡県警は(1)における殺人容疑で野村悟被告を逮捕、田上不美夫被告を公開手配した。樋口真人県警本部長が記者会見し、県警職員の3割超に当たる約3,800人を特別捜査本部に投入すると発表し、工藤会の壊滅に向けた「頂上作戦」に乗り出した。福岡地検は9月以降、公判部に工藤会専従班を編成。公判担当の経験が豊富な中堅の検事を集めた。13日、同じく殺人容疑で田上被告を逮捕。10月2日に起訴。 10月1日、(3)における組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)容疑で野村、田上両被告を再逮捕、他にナンバー3で工藤会理事長、田中組組長の菊地敬吾被告など組幹部ら13人を同容疑で逮捕。逃亡中の1名を指名手配し、2日に逮捕した。10月22日、地検は14人を起訴し、2人を不起訴とした。 2015年2月15日、(4)における組織犯罪処罰法違反(組織的殺人未遂)容疑でら3人を逮捕。16日、同組幹部の中西正雄被告ら6人を再逮捕。3月9日、同組幹部の中西正雄被告、同組幹部のMK被告、同組幹部のNY被告、同組組員のWK被告の4人を起訴。5人は処分保留。 5月22日、(4)における組織犯罪処罰法違反(組織的殺人未遂)容疑で野村被告、田上被告、菊地敬吾被告、理事長補佐の瓜田太被告の4人を逮捕。6月12日、野村被告、田上被告、菊地被告を起訴。瓜田被告は処分保留で釈放し、後に不起訴とした。 2015年7月6日、(2)に絡んで野村被告、田上被告、菊地被告らを組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)容疑などで逮捕。計18名が逮捕された。7月27日、福岡地検は地検は11人を起訴した。7人は処分保留で釈放し、後に不起訴とした。 工藤会は福岡県警によると、結成は1946年ごろ。北九州市で対立していた草野一家と工藤会が1987年に合併し、現在の工藤会となった。福岡、山口、長崎3県に勢力を持ち、構成員約560人、準構成員約390人(2013年末)で、構成員の人数は当時全国7番目。北九州に進出を図った指定暴力団山口組と1963年と2000年に抗争するなど武闘派として知られる。 2000年1月、野村悟被告が4代目会長に就任。2008年7月、溝下秀男前会長が死亡。2011年7月、野村被告が総裁に、田上不美夫被告が5代目会長に就任。 工藤会は2000~2009年、一般人を対象にした報復目的の殺人未遂や放火事件を5件起こしたとして、2012年12月に全国の暴力団で唯一、改正暴力団対策法に基づき福岡、山口両県公安委員会によって「特定危険指定暴力団」に指定された。 福岡県暴力団排除条例が施行された2010年以降、同県内で切り付けや放火、手投げ弾の投てきなど30件以上の襲撃事件が発生し、一般人2人が死亡している。 米財務省は2014年7月、同会と野村、田上両被告について、米国内の資産を凍結する金融制裁の対象に指定した。 東京都や千葉県にも事務所を置いて活動しているとして、警視庁は2014年10月、専従捜査班による対策室を設けた。 |
裁判所 | 福岡高裁 市川太志裁判長 |
求 刑 | 野村被告;死刑/田上被告:無期懲役((1)の事件)+無期懲役・罰金2,000万円((2)~(4)の事件) |
判 決 |
2024年3月12日 野村被告:無期懲役(一審破棄)/田上被告:無期懲役+無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
福岡地裁は2019年6月、裁判員への危害の恐れを理由に、裁判員裁判の対象から除外する決定を出した。 2019年10月23日の初公判で、野村被告は起訴内容について「私は四つの事件すべてにつき無罪です」と述べた。田上被告も「全く関与していません」と無罪を主張した。 検察側は冒頭陳述で、(1)について、元組合長やその親族が北九州市の港湾事業を巡り同会側の利権介入を拒んだことが背景にあると主張。(4)の被害者は元組合長の孫で漁協幹部の息子に当たり、「利権介入を拒む漁協幹部を屈服させるため、被害者の襲撃を考えた」などと述べた。(2)に関しては、工藤会捜査に長年携わった元警部が会を離脱した組員に接触した際、野村被告を批判する内容を話したことへの報復だったと説明。(3)では、野村被告が受けた下腹部手術に関し、看護師の術後対応への怒りが背景だとした。そして四つの事件すべてについて、両被告が直接的または間接的に配下組員に指示したことを指摘した。 一方、弁護側は冒頭陳述で、両被告は実行役らの行為をそもそも知らず、関与していないと否定。特に、(1)については、田上被告が2002年に殺人容疑などで逮捕されたが、不起訴処分になった点などを踏まえて「公訴権の乱用」と主張した。 29日の第3回公判で、別の事件で無期懲役判決が確定し服役中の工藤会ナンバー5で理事長代行だった木村博受刑者が検察側の証人として出廷。総裁を「隠居」、会長を「象徴」と表現し、野村、田上両被告は会の運営を配下の幹部でつくる「執行部」に任せ、「相談も口を出すこともなかった」と述べた。 12月11日の第11回公判で、(1)の事件で殺害された男性の甥が検察側証人として出廷。同じ漁協に所属していた父親や自分の身にも脅迫めいた事件があったと証言した。父親は2013年12月20日に射殺されたが、容疑者は逮捕されていない。弁護側は「解明されていない事件で両被告には無関係。立証趣旨と違う」と異議を述べ、検察側は「背景を立証するために必要」と反論した。足立勉裁判長は異議について、一部を「意見は承る」としたが、おおむね棄却した。 2020年1月30日の第21回公判で、検察側証人として2007年末から4年間、上納金の集計担当をしていた元組員が出廷。上納金は毎月2千万円ほどで(1)野村被告宅の維持費(2)「貯金」(3)同会運営費-に分けていた。「貯金」は「総務委員長から渡された名簿に載っている組員のために毎月10~20万円を積み立てていた」と説明。名簿には組名、名前、積立額が書かれ、対象組員は「組織のために事件を起こして服役している人」とした。元漁協組合長射殺事件の実行犯と見届け役の2人は、20万円ずつ積み立てられていたという。弁護側が「貯金の対象者から組織のために事件を起こしたと聞いたり、会合などで正式な説明があったりしたか」と質問したのに対し、元組員は「ない」と答えた。 7月30日の公判における被告人質問で、田上被告は(1)の事件について「一切関与しておりません」と改めて無罪を主張した。元組合長の長男が両被告が元組合長らと会食したと証言したことについても、否定した。田上被告は「組全体でシノギ(資金獲得活動)をすることはない」とし、漁協利権が絡む同市の大型港湾工事も関心はなかったと説明。殺害された元組合長について「北九州市の漁協で絶大な力を持っていると組員から聞いた」としたが、長男が証言した元組合長らとの会食などを否定し「元組合長と面識はない」と話した。検察側は、田上被告が多額の確定申告をしていたことなどを引き出し、被告自身の稼ぎ方について問い詰めたが「言いたくありません」と明言を避けた。野村被告をどう思うか聞かれた田上被告は「好きですね。人間として。尊敬もしています」と話した。 31日の公判における被告人質問で、野村被告は(1)の事件について指示や承諾などをしたか問われ「ありません」と答え、改めて関与を強く否定した。元組合長の長男が両被告が元組合長らと会食したと証言したことについても、否定した。また、序列が上の人間が、下に襲撃などを指示できるのかという質問に「事件は指示できない」と返答。組員が何らかの事件を起こす前に報告を受けることはないとし「共謀性が生まれるため」と説明した。 8月4日の公判で(2)に関する野村被告への被告人質問があり、指示や承諾について全面的に関与を否定した。動機となるような元警部とのトラブルや恨みも「ありません」と話した。事件当時はすでに総裁の立場にあり「権限はなく、会の運営に口出しもしない隠居の身」と重ねて関与を否定した。総裁就任後、組員との接触は「ほとんどない」と述べたが、検察側は携帯電話の通話記録を基に有力組長らに多数、連絡していたことを指摘。通話内容をただされた野村被告は「特に用事はない」などと繰り返した。 8月20日の公判で(2)に関する田上被告への被告人質問があり、「元警部とはずっと良い関係だった」と述べ、事件への関与を否定した。「(公判での証言は)うそばかりで、今まで良い関係だったのによく言えるなと思った」と述べた。銃撃事件を巡っては、実行犯など工藤会系組幹部らの実刑判決が確定。田上被告は「元警部を襲撃すれば、警察は工藤会をたたいてくる。それを許すほど私は愚かではない」として、自身や野村被告による指示を否定した。一方、弁護側から事件を指示した人物をどう思うか問われると「思慮が浅いとしか言いようがない」と話した。 8月21日の公判で(3)に関する野村被告への被告人質問があり、レーザー照射による脱毛施術を担当した看護師に一時不満があったことを初めて明かしたが、事件への関与は否定した。一方、痛かった部分はやけどをして痛みが続いたといい、脱衣所などで処置をしている際に組員の前で怒った口調で看護師への愚痴を言ったことも明かした。事件のきっかけを聞かれると、野村被告は「私の愚痴が組員に伝わり、変なふうになったのかな」と話した。 27日の公判で(3)に関する田上被告への被告人質問があり、事件について野村被告から指示されたり、自らが指示したりしたことを否定。逮捕されるまで組員の関与や野村被告が受けた施術などを知らず「何で俺が逮捕されないかんのかと思った」と述べた。検察側は、野村被告がクリニックを訪れた日や事件当日などに、野村被告や配下の幹部と田上被告が通話した記録があると指摘。内容について問うと「わかりません」と述べた。 28日の公判で(4)に関する田上被告への被告人質問があり、4事件に組員が関与したことを問われた田上被告は、会長の立場として「被害者にすいませんという気持ちはあります」と謝罪。一方、工藤会の解散については「代々譲られたもの。私一人でそんな大事なことは決められない」と述べるにとどめた。これまでの公判で歯科医師の親族男性が、14年2月に田上被告から「(歯科医師の父は)まだ分からんのか。これは会の方針やけの」などと言われたと証言したが、田上被告はこの発言を「真っ赤なうそ」と反論。男性について「歯科医師の事件などで警察から重大な関心を持たれていた人物。それを自分からそらすためにでたらめを言ったんだと思う」と話した。 9月3日の第59回公判で(4)に関する野村被告への被告人質問があり、野村被告は襲撃について指示や命令を出したり、承諾したりしたことなどの関与は「ありません」と答え、歯科医師との面識も否定。2013年12月に市漁協組合長だった男性(当時70)が殺害された事件で知っていることがないかどうかも問われたが「一切ありません」と述べた。検察側から工藤会を解散する意向がないか問われると「私にはそういう権限はありません」と語り、田上被告に意見を述べるつもりもないとした。配下の組員が一般市民を襲撃したことについては「(被害者が)気の毒に思いますね」と述べた。 2021年1月14日の論告で検察側は、工藤会には上意下達の厳格な組織性があると強調した。4事件は計画的、組織的に行われており「最上位者である野村被告の意思決定が工藤会の意思決定だった」と言及。田上被告については「野村被告とともに工藤会の首領を担い、相互に意思疎通して重要事項を決定していた」と位置付けた。 元組合長事件は、北九州市の大型公共事業を巡って、元組合長らが工藤会の利権介入を拒んだことが背景にあり、「犯行は被害者一族を屈服させ、意のままにすることにあった」と説明。歯科医師は元組合長の孫で、漁協幹部の息子だったことから「見せしめとして襲撃した」と述べた。元警部事件では、長年の工藤会捜査に対する強い不満があったと主張。看護師事件では、野村被告が受けた下腹部手術に関する看護師の術後対応への怒りが原因だと示した。 いずれの事件も両被告の出身母体である工藤会の2次団体「田中組」が組織的に関与し、トップに立つ野村被告が4事件の首謀者で「各犯行の際立った悪質性の元凶」と非難した。そのうえで、検察側は4事件の死者は1人ではあるが、被害者が一般市民であり「長きにわたり工藤会を率いて、危険性のある犯行を計画的、組織的に繰り返しており、人命軽視の姿勢は顕著」と指摘。「継続的かつ莫大な利益獲得をもくろんだ犯行である元組合長事件だけでも、首謀者として極刑の選択が相当」と説明。「反社会的な性格が強固で、反省、悔悟の情は一切見て取ることができない」と更生の可能性がない点も挙げ、他の3事件も踏まえ「極刑をもって臨まなければ社会正義を実現できない」と述べた。 田上被告に対しても検察側は「野村被告と共に工藤会を統率する立場で、刑事責任は野村被告に次いで重い」と主張。元漁協組合長射殺事件と3事件との間に確定判決があるため、元漁協組合長射殺事件で無期懲役、他の3事件で無期懲役と罰金2千万円を別々に求刑した。 3月11日の弁論で弁護側は、「(審理対象の市民襲撃)4事件とも直接証拠はなく、間接証拠から両被告の関与を推認できるかどうかが問題となる」と述べた。そして検察側の手法を「間接事実を強引に結びつけ、独善的な『推認』に終始している」と批判。(1)で検察側が立証の柱としたのは、元組合長の長男の「新証言」。事件前後、工藤会側から利権を求める圧力があったなどとする内容について弁護側は、事件から約半年後の取り調べで長男が同様の内容を話していないことに触れ、「新証言は後日に作られた虚構であるか、歪曲されている可能性も大きい」と主張。福岡県警による「壊滅作戦」の第1弾となった事件を「壊滅に追い込もうとする刑事政策的な判断で、強引に起訴した」と批判した。(4)でも、親族の男性が公判で田上被告が事件を示唆する発言をしていたなどと話したことが「検察側が、野村被告らの関与と共謀を証明できるとする唯一の証拠だ」と位置付けた上で「客観的な裏付けもなく、信用できない」と全否定した。そして両事件で検察側は背景に漁協利権があると主張するが、弁護側は合理的根拠を示していないなどと指摘し「利権に興味を抱いたことはない」と反論した。 また弁護側は、総裁は名誉職で野村被告に権限はないと強調。(2)は両被告に動機につながるような「恨み」はなく、両被告は被害者と良好な関係にあり、信頼を壊す出来事もなかったとして「襲撃する動機がない」と述べた。(3)では、野村被告が抱いた不満は一時的なもので、野村被告が事件後に「あの人は刺されても仕方ない」と語った同僚の証言には矛盾点があり、信用できないと訴え「野村被告の愚痴を聞いた組員が、勝手に事件を考えた可能性がある」とした。 同日の最終意見陳述で野村被告は「どの事件にも一切関わりはないし、指示も承諾もしてません」、田上被告も関与を否定した上で「裁判所にはまっすぐな目で、証拠に照らして的確な判断をお願いしたい」と述べた。 11日で結審したが、検察側の弁論再開の申し立てを受け、3月31日に公判が開かれた。地裁は、所得税法違反罪での野村被告の実刑判決の確定記録を証拠採用し、改めて結審した。 判決で足立裁判長はまず(1)について検討。両被告は、被害者らが持っていた利権に重大な関心を抱いていたと指摘。組織の上位者だった点も踏まえ、「(事件を)配下の組員が独断で行うことができるとは考えがたい。両被告の関与がなかったとは到底考えられない」として共謀を認めた。 両被告の工藤会の立場において、対外的にも組織内においても、総裁の野村被告が最上位の扱いを受け、会長の田上被告がこれに続く序列が厳格に定められていたとした。そして重要な意思決定は、両被告が相互に意思疎通しながら、最終的には野村被告により行われていたとした。 (2)については、工藤会にとって重大なリスクがあることは容易に想定できるので、組員が両被告に無断で起こすとは到底考えがたいとした。 (3)については、野村被告以外に工藤会内で犯行動機がある者はいないことから、他の人物が野村被告に無断で犯行を実行した可能性はないとした。 (4)については、田上被告は被害者の父親に対して工藤会との利権交際に応じるよう執拗に要求したが断られていたことから、田上被告が組員に犯行を実行させたと推認できるとした。そしてかねてから野村被告が関心を持っていた被害者一族の利権に関し、田上被告が野村被告の関与なしに実行の指示をするとは考えがたいとした。 野村被告の量刑について、元漁協組合長を殺害した事件は極めて悪質と断じ、目的のために手段を選ばない卑劣で反社会的な発想に基づき、地域住民や社会一般に与えた衝撃は計り知れないと述べた。またその他の3事件も組織的・計画的な犯行で、人命軽視の姿勢は著しく、被告はいずれも首謀者として関与しており、極刑はやむを得ないとした。 田上被告の量刑について、利欲的な動機で元漁協組合長射殺事件に関与し、刑事責任は野村被告にこそ及ばないものの、無期懲役となった実行役を下回らず、無期懲役刑が相当とした。その他の3事件においても野村被告と相通じて意思決定に関わり、不可欠で重要な役割を果たしたており、有期の懲役刑では軽過ぎるとした。しかし、検察官は元警部銃撃事件で経済的利益獲得に資するという目的も併せ持っていたという罰金刑もの主張については、飛躍があり、科すことはしないとした。 閉廷が告げられるや、野村被告は足立裁判長に向かって「公正な判断をお願いしたんだけどねえ。東京の裁判官になったんだって?」と言い、田上被告が「ひどいなあんた、足立さん」と続ける場面があった。そして最後に野村被告が「生涯後悔するぞ」と言った。 野村被告の弁護人は8月26日、報道陣の取材に応じ、野村被告が「脅しや報復の意図ではない。言葉が切り取られている」と説明していることを明らかにした。接見した弁護人によると、野村被告は発言の報道内容に驚き、「公正な裁判を要望していたのに、こんな判決を書くようじゃ、裁判長として職務上、『生涯、後悔するよ』という意味で言った」と話した。「私は無実です」と改めて訴えたという。 控訴後の2022年7月、野村悟被告と田上不美夫被告は弁護人約10人全員を解任した。控訴趣意書を提出する期限が7月下旬に迫っていた。新たな弁護士を選任し、再設定された提出期限の12月20日、控訴趣意書を福岡高裁に提出した。 控訴趣意書で弁護側は、(1)の事件で服役中の中村数年受刑者が「首謀者は野村被告ではない」と話していると説明。自らは「拳銃を用意しただけで実行犯は別の組員だった」と供述しているとした。ところが、2023年6月、この「別の組員」が事件当時に競馬法違反罪などで収監中だったことが検察側の指摘で判明。刑務所に駆けつけた弁護人に元組員は「実行犯は自分だ」と供述を変えた。 2023年9月13日の控訴審初公判の冒頭で、市川太志裁判長は「不規則発言は即時退廷を命じます」と注意した。高裁では多数の警察官らが警備に当たり、法廷があるフロアへの立ち入りを制限するなど厳戒態勢が敷かれた。控訴審からは、多くの死刑求刑事件で弁護を務めてきた安田好弘弁護士らが弁護人となった。 野村悟被告は一審に続き4事件とも無罪を主張した。田上不美夫被告は2事件で無罪を主張するも、2事件について「独断で指示した」と関与を認めた。検察側は控訴棄却を求めた。 弁護側は「有罪認定の直接証拠が全くないにもかかわらず、『推認』に『推認』を重ねたことによって死刑とした原判決は破棄されるべきです」「客観性を欠落させた、理屈だけの判決だ」「『推認』ではなく『事実』を追究する審理を強く要請します」と一審判決を批判し、野村被告の無罪を訴えた。そして(1)については「組織によるものではなく、被害者に個人的な怨恨を抱いていた、工藤会系組幹部だった中村数年受刑者と、死亡したF元受刑者が「首謀者」とした別の元組長が首謀したものだ」と説明し、両被告の関与を改めて否定した。(2)については「会ナンバー3の菊地敬吾被告が、独断で計画や指示をした。両被告は関与していない」と主張した。(3)(4)については田上被告がこれまでの主張をひるがえし関与を認める、とした。動機について(3)は「尊敬する野村被告が看護師から侮辱された怒り」、(4)は「知人を漁協幹部にしようとしたが排除されたことについて、漁協幹部である歯科医師の父への仕返し」とした。個人的な確執や怒りから犯行を指示したとものであり、その際に田上被告が野村被告に許可を得る必要はなく、むしろ相談すれば共犯に巻き込むことになると考えたと説明し、野村被告の関与がないことを強調した。さらに(2)(3)(4)については殺意がなかったと主張した。 検察側は、「一審の判決に事実誤認はなく、常識にかなっている」と指摘。工藤会が野村被告を頂点とする厳格な組織であることを背景に、(1)(2)は野村、田上両被告の指示なしに組幹部や菊地被告が暴走して事件を起こすことは考えられないと反論。(3)(4)を田上被告が独断指示をしたとする弁護側の主張についても「田上被告には野村被告の刑事責任を免れさせようとする動機があり、信用できない」と断じて、控訴棄却を求めた。 弁護側は、菊地被告が事件を指示したことを認めた陳述書など証拠書類144通の取り調べを求めたが、福岡高裁は野村、田上両被告の陳述書など3通のみ採用。組員ら36人の証人尋問なども求めたが、両被告と中村受刑者の計3人のみ認めた。 同日午後は、(1)の事件で殺人罪などに問われ、無罪を主張するも無期懲役判決が確定した中村数年受刑者の証人喚問が行われた。出廷した中村受刑者が弁護側の質問に対し、事件の共犯者として認定されている工藤会系組長(2008年6月死亡)と共謀して事件を計画したと証言。「自身の公判で無罪を主張していたのに、なぜ関与を認めたのか」などと安田弁護士から問われ、「個人的な(理由で起こした)事件なのに、関係のない総裁と会長が『主犯』と言われているからです。関係ない総裁と会長に申し訳ない」などと答えた。約2年前に工藤会を離脱したとも明かし、工藤会との関係は「ありません」とする一方、今も野村被告の名の入れ墨が入っているのは「好きやからです」と語った。また実行犯については、当時無罪判決を受けたN元被告(2011年死亡)であるとも訴えた。検察側が、事件当日の行動などに関する中村受刑者の説明が変遷している理由について尋ねると、「うそをついていた」などと答えた。 9月27日の第2回公判で被告人質問が行われ、田上被告は(3)(4)について傷つけるよう指示したと関与を認めた。(1)(2)については関与を否定した。田上被告は弁護側から(3)を指示した理由を問われると、「(看護師が)総裁を侮辱してからかったと聞き、かっときた。許せなかった」と説明。野村被告については「父親のような存在。徳で人を引っ張る人で、好きだし、感謝し、尊敬もしている」と述べた。また、(4)については、知人を漁協幹部にしようとしたが、漁協幹部を務める歯科医師の父親に拒まれたことなどの仕返しとして「家族を痛めつけようと思った」と話し、菊地被告に犯行を指示したと語った。そして田上被告は、2つの襲撃事件を実行し無期などの懲役刑を受けた組員たちに謝罪した。また2事件の被害者に対し、「人生を棒にふるようなことをして申し訳ない」と謝罪した。主張を一転させた理由については「総裁は何もしておらず、全く関与していないのに、推認推認で死刑になった。申し訳ない気持ちになった」と説明した。一審で全面否認していたことについては、「(一審の)弁護士の指示で、わかっていないことは話さなくていいと言われていた。私が否認すれば通るのではないかと思っていました」と話した。弁護人からの質問の終盤、「自身の最期はどうなると思うか」と問われると、田上被告は「獄中死と思います」と回答。工藤会の今後については「私が作った会ではないので、しかるべき人に譲り、私も何らかの形で残りたい」と話し、その意図については「普通の人には分からないだろうが、私のようにこの世界でしか生きていけない人間もいる」と説明した。 午後からは野村被告に対する被告人質問が行われた。野村被告は改めて4つの事件への指示を否定。弁護士の「田上被告が指示をしたと聞いてどう思いましたか?」という問いに、野村被告は「田上も私のことを思いすぎてくれるくらいの人間やから、すまんなと」話した。また、田上被告が指示した2事件の被害者に謝罪した。一審判決後の裁判長への不規則発言を弁護人から発言の意図を問われ「公正な判断をお願いしていたのに、判決は推認、推認でびっくりして、そんなことあるのかという気持ちだった」と話した。その上で、脅す意図があったのかなどを問われ、「裁判所には申し訳ない。そんな(脅し)気持ちは一切ありませんでしたが、誤解されている可能性があるのでここに謝罪します」と話した。(控訴審の)裁判長に言っておきたいことを尋ねられると「公正な判断をお願いしたいと思います」と述べた。野村被告は総裁という立場を工藤会からなくし、関係を断ち切ると述べた。 11月29日の第3回公判で弁論が行われ、弁護側は元漁協組合長射殺は元工藤会系組幹部の中村数年受刑者が個人的動機で起こした事件で両被告の指示によるものではないと強調。元警部銃撃事件はナンバー3だった菊地敬吾被告が「過去に元警部に逮捕された恨み」などから独断で組員に指示したとした。看護師刺傷と歯科医師刺傷事件は、田上被告が看護師に怒りを感じたり、漁協の人事を巡り漁協幹部だった歯科医師の父親に「なめられた」と感じたりして、菊地被告に指示したが、殺意はなかったとし、傷害罪成立にとどまると主張。そして「野村被告は4つの事件に関してはいずれも無罪にして無実」と主張し、田上被告については2つの事件で指示したものの「殺意は認められなず傷害罪成立にとどまる」などとして、「直接証拠がない中で推認に基づき適格な理由もなく共謀と殺意を認めた一審判決は事実誤認があり、破棄されるべき」と主張した。 検察側は、主張を一転させた田上被告の供述について、中村受刑者の証言のいずれも変遷しているなどとして「不自然で信用性がない」と反論。「一審判決は論理則、経験則に違反するに不合理な点はなくて認定は全く揺るがず、弁護側の控訴には理由がない」と主張し、結審した。 判決で市川裁判長は冒頭、「不規則発言をした場合即時退廷を命じる」と述べてから言い渡しに入った。そして最初に「無期懲役に処する。殺人の事実は無罪」と主文を言い渡した。 市川裁判長は元組合長射殺事件について、当時、野村被告が組長を務めていた工藤会傘下の「田中組」が組織的に実行した事件と認定した。しかし、当時の「田中組」の意思決定のあり方が不明であることから、工藤会と同じ「厳格な統制のとれた組織」とみることはできないとした。そして野村被告の発言など間接証拠についても「野村被告の共謀を推認するには限界がある」とした。一方、2012年以降の他の3事件については、既に工藤会ナンバー1に就任していたことから、工藤会の「厳格な序列と意思決定の構造」に鑑み、野村被告の意向を無視した犯行とは考えられない、と一審の判断を追認した。田上被告の新首長については「信用できない」と退けた。 そして量刑について、野村被告には「3事件では死者が出てないことから死刑は維持しがたいが、3事件のみでも刑事責任は非常に重い」として無期懲役が相当と結論づけた。 田上被告については、射殺された元漁協組合長の息子に港湾利権の獲得目的で接触していたことなどから、元漁協組合長射殺事件も含め4事件で関与を認定し、控訴を棄却した。 |
2015年6月16日、2010~2013年の上納金の一部を個人の所得にしながら別人名義の口座に隠して所得税を脱税したとして、所得税法違反(過少申告)容疑で、野村悟被告、工藤会幹部のY・M被告、工藤会系組長、工藤会系組員を再逮捕した。7月6日、野村被告とY・M被告を起訴。7月9日、2014年の所得における脱税で二人を再逮捕。 福岡国税局は、2008年以降の7年分の税務調査を実施。過去7年分の所得税計約5億5,000万円を納めなかったとして、12月、重加算税を含む計約8億円を追徴課税し、野村被告の口座から約8億円を差し押さえた。 野村悟被告は最終的に、2010年~2014年、建設業者などからの上納金のうち、約8億990万円を個人の所得にしながら別人名義の口座に隠し、所得税3億2,067万円を脱税した所得税法違反に問われた。2018年7月18日、福岡地裁(足立勉裁判長)は野村被告に懲役3年、罰金8千万円判決(求刑懲役4年、罰金1億円)、Y・M被告に懲役2年6月(求刑懲役3年6月)を言い渡した。2020年2月4日、福岡高裁(野島秀夫裁判長)は両被告の控訴を棄却した。2021年2月16日付で最高裁第三小法廷(宮崎裕子裁判長)は、両被告の上告を棄却した。一・二審判決が確定した。 | |
工藤会の組員が関係した事件のうち、福岡県警が2014年9月11日に開始した「頂上作戦」以後、主に死刑や無期懲役判決を受けた受刑者、被告人(一部例外除く)が関与した事件の一覧ならびに判決結果については、【工藤會関与事件】を参照のこと。 野村悟被告と田上不美夫被告の裁判に関与した被告について、当方で判明分のみ記す。 2019年12月上旬から2020年4月下旬ごろ、福岡地裁で審理中の野村悟被告、田上不美夫被告の公判に証人として出廷した男性に、複数回にわたって面会や電話で接触。「嫌われるようなことをあんたが言わんでもいい」「全てが台無しになった」などと言って脅したとして、2020年8月28日、福岡県警は組織犯罪処罰法違反(組織犯罪証人威迫)の容疑で、工藤会系組長S・F被告を逮捕した。9月18日、福岡地検は証人威迫罪で起訴。2021年1月20日、福岡地裁(神原浩裁判長)で懲役1年、執行猶予3年判決(求刑懲役1年)。控訴せず確定か。 2021年1月18日、田上被告の論告求刑公判後、会社経営の50代男性に、検察側が求刑した罰金の援助金名目で現金を要求したが、男性が応じず未遂に終わった事件で、福岡県警は2月2日、工藤会傘下組織幹部のM・N被告を恐喝未遂などの容疑で逮捕した。2021年5月13日、福岡地裁小倉支部(佐藤洋介裁判官)で懲役1年6月、執行猶予3年判決(求刑懲役1年6月)。控訴せず確定か。 | |
(2)の被害者である元福岡県警警部は2017年8月25日、野村悟被告ら6人に、総額2,968万円の損害賠償を求め、福岡地裁に提訴した。2019年4月23日、福岡地裁(鈴木博裁判長)は野村被告ら4人に1,620万円の支払いを命じた。12月13日、福岡高裁(西井和徒裁判長)は被告側の控訴を棄却。2020年9月15日付で最高裁第三小法廷(林道晴裁判長)は被告側の上告を退け、一・二審判決が確定した。 (1)の被害者の遺族は2017年8月25日、「損害賠償命令制度」を利用し、野村被告ら2人に総額7,800万円の支払いを求める申し立てをした。 (4)の被害者は2018年2月26日、野村悟被告、田上不美夫被告、菊地敬吾被告、実行役のNY被告の計4人を相手に、慰謝料など総額約8,365万円の損害賠償を求め、福岡地裁に提訴した。2019年4月23日、福岡地裁(鈴木博裁判長)は3人に4,820万円の支払いを命じた。2020年2月10日、福岡高裁(西井和徒裁判長)で、野村被告側が金銭を支払う条件で3人との和解が成立した。被害者側弁護団は金額を明らかにしていない。NY元被告は訴訟代理人がいないため、弁論が分離された。 特定抗争指定暴力団山口組(神戸市)は2021年9月1日、傘下組織の構成員に対し、公共の場で銃器を使用しないよう口頭で指示を出した。 福岡県は、税優遇措置がある宗教法人の設立などを定める宗教法人法の第22条の法人役員の欠格事由に「暴力団員等」を追加▽解散命令の要件に「暴力団員等がその事業活動を支配するもの」-といった暴排規定を同法に盛り込む措置を考案した。兵庫県や宮城県、沖縄県など8件も賛同。2018年から毎年、福岡県の先導で内閣府に追加の要望を出しているが、内閣府は「ここ10年、宗教法人に暴力団が関与したような事例は聞いていない。現時点で制度改正による実効性は薄い」として応じていない。 | |
備 考 |
田上不美夫被告は他の2人と共謀し1993年5月、北九州市内でパチンコ店を開店しようとしていた男性に"あいさつ料"を要求、6月に現金2,000万円、9月に約束手形6通(額面計6,000万円)を脅し取った。1998年10月10日、恐喝罪で逮捕。30日、福岡地検小倉支部に起訴された。この時、野村悟被告も逮捕されているが、不起訴となっている。この恐喝罪で実刑判決を受け、2003年2月まで服役していた。 2021年8月24日、福岡地裁(足立勉裁判長)で野村悟被告に求刑通り一審死刑判決、田上不美夫被告に一審無期懲役+無期懲役判決。指定暴力団の現役トップに死刑判決が言い渡されたのは初めて。 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) 野村悟被告、田上不美夫被告は即日上告した。両被告に対し、検察側も上告した。 |
氏 名 | 首藤伸哉(67) |
逮 捕 | 2023年9月11日 |
殺害人数 | 2名 |
罪 状 | 殺人 |
事件概要 |
大分市の無職首藤伸哉被告は2023年8月8~9日、自宅でパート勤務の中国籍の妻(当時38)と口論になりペティナイフで首などを刺して殺害。さらに妻の連れ子で別室に寝ていた小学4年生の男児(当時9)の胸などをペティナイフで刺して殺害した。 首藤被告は特発性拡張型心筋症を患い、2021年2月に仕事を退職。2021年8月に再婚。事件当時、妻は首藤被告の子供を宿していて、妊娠7か月だった。 17日午後10時ごろ、首藤被告は離れて暮らす長男に「家族で命を絶つ」とのメールを送り、事件が発覚した。首藤被告は手首を切って自殺を図った。長男は110番通報。午後11時ごろ、駆け付けた大分中央署員が室内で血を流して倒れている母子と意識不明状態の首藤被告を見つけた。首藤被告は入院し、翌日、意識を取り戻した。 9月11日、大分中央署は回復した首藤被告を死体遺棄容疑で逮捕した。9月22日付で大分地検は処分保留とした。同日、大分中央署は首藤被告を2人の殺人容疑で再逮捕した。大分地検は10月13日、首藤被告を殺人容疑で起訴した。死体遺棄容疑については不起訴処分とした。 |
裁判所 | 大分地裁 辛島靖崇裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2024年4月26日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2024年4月19日の初公判で、首藤伸哉被告は「殺害は間違いない」と起訴内容を認めた。 冒頭陳述で検察側は、首藤被告が再婚後、妻から現金の使い方や過去の女性関係について、厳しく詰め寄られたり、被告が大切にしていた仏壇の小物を床にばらまかれるなどして、度々、口論となり、お互いに包丁を持ち出す大げんかとなった。その後、「妻を殺す際には息子も殺そうと考え、警察に捕まるくらいなら自分も死のう」と思い、11月頃にぺティナイフを購入。2023年3月に妻が妊娠したが、事件当日に家族旅行の宿泊先を巡って口論となり、妻が「子どもをおろす」「もう家を燃やす」などと言って、点火棒ライターで仏壇に火をつける仕草を見て、被告は怒りが頂点に達し、犯行に及んだと動機を指摘した。事件後、犯行がすぐに発覚しないように、部屋の冷房を最低温度の17度に下げたり、消臭剤をおいたりしたほか、自らの病気が原因で将来に悲観して無理心中を図ったかのように装うため、遺書を作成したと指摘した。そして、犯行は周到に用意された計画的なものであり、動機は身勝手で人命軽視の姿勢がはなはだしい、犯行後の行動も自己中心的で反省の色が見られないと強調した。 弁護側は、「生活の中で不満がたまった末、喧嘩の末にお腹にいる赤ちゃんをおろすなどと言われて、希望を失った被告は突発的に犯行に及んだ。事件後は死のうと考えていた」と述べた。 同日の被告人質問で首藤被告は「110円の缶コーヒーを買って妻に怒られたこともある。奴隷以下の扱いだった」などと述べた。 22日の第2回公判で、被害者の遺族が意見陳述した。 妻の両親は代理人の弁護士を通して「遠く離れていても健康を気遣ってくれる優しい娘だった」「言葉では表現できないほど、悲しみや絶望を感じている。被告には命をもって償ってほしい」と訴えた。 殺害された男児の実の父親は「友達や大人にも気配りできる優しい子で、自慢の息子だった。遺族に対して正式な謝罪はこれまで一度もない。卑怯で身勝手な被告は死刑になるべきだ」と述べた。 首藤被告は被告人質問で「2人に本当に申し訳ないことをした。できる限りの償いをしたい」と謝罪した。 23日の公判において、被害者参加制度に基づき、遺族らの代理人弁護士が求刑意見を述べ、死刑を求めた。 論告で検察側は、「凶器のナイフを1年以上も前から準備し、定期的に切れ味を確認するなど周到に準備された計画的で強固な殺意に基づく犯行。動機も自分勝手な怒りを募らせたに過ぎず、妊娠中の妻と何の落ち度もない息子を殺害した極めて身勝手で短絡的」と指摘。「犯行後も発覚を回避する行動をとるなど自己中心的で、あまりにも人命を軽視した悪質な事案。遺族も厳罰を希望し、被告人を許していない」と述べた。 最終弁論で弁護側は、「自由に買い物に行けないなど生活を拘束され精神的に追い詰められていた。事件前日から当日にかけての妻とのやり取りが引き金となって、突発的衝動的に決行された事件。危険かつ悪質な犯行であることに疑う余地はないが、直前まで殺そうと決意したわけではなく、計画性は高くない。反省を深めており有期刑が相当」と主張した。 最終意見陳述で首藤被告は、「自分の身勝手なことで、一方的に妻と子どもと赤ちゃんを殺しました。生きていることが罪だと思う。本当に申し訳ない。私が悪いんです」と述べた。 判決で辛島裁判長は動機について、妻の粗暴な言動が原因となった面があり、「それまで我慢してきた気持ちが耐えきれなくなり爆発して実行した」とした上で、「殺害という方法を選択したことは短絡的といわざるを得ず、強い非難を免れない」と指摘。そして「強固な殺意に基づき、あらかじめ用意していた殺傷能力の高い凶器で無防備な2人を殺害したのであり、生命無視の態度は強いといえるし、突発的な犯行とは評価できない」と指摘した。その上で、「妻を殺した場合は息子も殺して、自殺することに決めていたなどという理由で、何ら落ち度のない息子を殺害したことは、あまりに身勝手・理不尽で酌量の余地はない。遺族が厳重処罰を求めていることは十分理解できる。被告人の犯行後から自殺を図るまでの行動からは、被害者2人を真に悼んでいた心情はうかがわれないし、反省が十分に深まっているとは言い難い」とした。 |
備 考 |
4月19日の初公判で、開廷前に妻の母が傍聴席から柵(高さ約1m)を超えて泣きながら首藤被告に近づき、制止を受けた。さらに午前中の審理が終わり辛島靖崇裁判長が休廷を告げた直後、妻の父と親族の女性が法廷の柵を乗り越え、中国語で声を荒らげながら被告に迫った。警備の刑務官のほか、裁判所職員や遺族側の代理人弁護士らが引き止めた。地裁によると、けが人はなかった。 午後に審理を再開した際、遺族の姿はなく、辛島裁判長は「秩序を乱した人の傍聴を禁止する措置を取った」と説明した。 遺族は被害者参加制度を利用して、22、23両日に法廷で意見陳述を予定していたが、代理人弁護士が代読する形に変更となった。 控訴せず確定。 |
氏 名 | 足立朱美(49) |
逮 捕 | 2018年6月20日 |
殺害人数 | 2名 |
罪 状 | 殺人、名誉毀損、器物損壊 |
事件概要 |
水道工事会社社長の足立朱美被告は2018年1月20日、堺市中区の父親(当時67)が住む事務所兼住宅で、糖尿病を患う父親と母親に睡眠薬が入った甘酒を飲ませたのちに父親へインスリンを多量に投与し、父親は低血糖状態で病院に運ばれた。父親は25日に退院したが、足立被告は25日午後4時40分から26日午前10時10分ごろまでの間、再び父親と母親に睡眠薬が入った甘酒を飲ませたのちに父親へ多量のインスリン製剤を投与した。父親は再び低血糖状態で病院に救急搬送され、脳死状態で入院した。父親は6月28日、低血糖脳症で死亡した。 足立被告は3月27日午後3時~6時、父の事務所兼住宅の2階別室で、母親(当時67)に睡眠導入剤を混ぜた抹茶オーレを飲ませて眠らせた。そして呼び出していた別の建築会社社長の弟(当時44)を睡眠薬で眠らせ、トイレのタンクの上で練炭を燃焼させて一酸化炭素中毒により殺害した。 同日午後7時頃、足立被告から電話で「弟がいない」と告げられた弟の妻(当時37)が実家へ駆け付けたところ、2階の居間で、意識が朦朧としている母親を発見。体を揺さぶったが、ろれつが回らず、話せない状態だった。そして倒れている弟を発見。病院に搬送されたが、同日夜に死亡が確認された。 足立被告は弟の妻に、パソコンで書かれた遺書が見つかったと手渡した。「遺書」には1月に倒れた父親について、弟がインスリンを投与したため意識不明になったという趣旨の記述や、弟が父と姉のために金策に走り回ったが失敗したことを苦に自殺したように装った文面だった。しかし文章の特徴などが異なっていた。さらに足立被告の住宅ローンを父親が肩代わりしたことについて、弟が嫉妬したとの趣旨の記述があったが、弟はその事実を知らなかった。母親はこの話を弟が知らないことを警察に証言している。さらに弟はリゾートホテルの会員権を購入して家族で行く準備をしており、自殺の動機がなかった。弟はパソコンで手紙を書いたことがない、と妻は不自然さを指摘し、警察に他殺だと強く訴えた。 大阪府警は当初自殺とみて司法解剖しなかったが、トイレには接着剤で目張りがされていたものの接着剤の容器は別の部屋から見つかり、トイレタンクの上には鍋に入った状態で練炭があったが火を付ける道具はトイレ内にないなどの不審点があった。大阪府警は事件性が明白な場合に裁判所の令状を取って行う司法解剖ではなく、死亡翌日、明らかな事件性がなくても家族の同意を得なくても警察の判断だけで行える死因・身元調査法に基づく「新法解剖」を実施し、弟の体内から睡眠薬の成分を検出した。足立被告が処方された睡眠薬と成分が一致し、立件に向けた捜査が始まった。 死亡から1カ月後の4月27日から5月中旬にかけ、弟の自宅ガレージにある車や自転車に赤い塗料が吹き付けられ、近所には弟の妻を中傷するビラが入った封筒もまかれた。ビラにはフリーライターが取材した体裁で「自殺に追い込み、まんまと社長の座を手に入れた」などと、会社を妻や同社幹部が乗っ取ったと中傷する内容。逆に足立被告については「お姉様が犯人の可能性はない」「(犯人扱いには)皆憤る」などと関与が否定されていた。弟宅の周辺の防犯カメラ映像には足立被告と似た女が写っていた。 妻から相談を受けた府警は5月24日、中傷ビラに絡む名誉棄損容疑などで足立被告宅や関係先を捜索。塗料の吹き付けに使ったとみられるスプレー缶や、封筒に入った中傷ビラなどが見つかった。さらに足立被告のパソコンやプリンタを押収。解析で弟の遺書を作成した痕跡が確認された。また文書が作成された時刻に弟が別の場所にいたことも判明した。プリンタでビラを印刷した痕跡も見つかった。スマートフォンの検索履歴にも練炭自殺の方法や「インスリン」「低血糖」などを検索していた内容があった。 水道工事会社は足立被告の父親が1974年に創業。2012年に跡を継ぐはずの弟が別の建築会社を設立し、足立被告が2015年ごろに父の後を継いだ。互いに取引関係にあり、仕事上でも多くの接点があったが、2人は会社の継承を巡ってトラブルになっていた。足立被告は経営の苦悩をブログに記載。2014年9月には、後を継がなかった弟を「弟は挫折を知らず甘い」などと批判していた。だが、弟の会社は業績が好調なのに対し、足立被告の会社の売上高は2年間で半減し、2016年12月期は約1,000万円の赤字だった。父親時代の負債も残っていた。 6月20日、大阪府警は足立朱美被告を、弟への殺人容疑で逮捕した。7月11日、大阪地検は足立被告を殺人罪で起訴した。7月23日、大阪府警は名誉毀損と器物損壊の疑いで足立被告を再逮捕した。10月17日、大阪府警は父親の殺人と殺人未遂容疑で足立被告を再逮捕した。父親の遺体から足立被告が処方された睡眠薬と同じ成分が検出された。11月7日、大阪地検は父親への殺人罪で足立被告を追起訴した。 |
裁判所 | 大阪高裁 長井秀典裁判長 |
求 刑 | 死刑 |
判 決 |
2024年4月26日 無期懲役(検察・被告側控訴棄却) 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
2024年1月24日の控訴審初公判で、検察側は「被告は完全犯罪を計画した。無期懲役の量刑は不当である」として死刑が妥当であると主張した。弁護側は、父がインスリンを投与して自殺を図った可能性があると主張した。また、父が末期がんで延命治療を制限されている点に触れて「投与と死亡の因果関係もない」と主張。そして「一審の判決には事実誤認や法令違反がある」と無罪を求めた。大阪高裁は、双方から新たに提出された証拠や証人尋問の請求を全て却下したため、控訴審は即日結審した。 判決で長井裁判長は、父親は意識が保てないほど血糖値が下がった後も値を測った履歴があるとし、この間に投与できたのは被告だけだと、弁護側の自殺の主張を退けた。そして治療制限は投与による低血糖脳症で誤嚥性肺炎になったことがきっかけだと指摘。スマートフォンの検索履歴や位置情報などから、足立被告によるインスリン投与と死の因果関係を認めた地裁判断を支持した。 量刑については、父殺害の罪をなすりつけるために弟を殺し「生命軽視の程度が大きい」としつつ、父殺害の動機が不明で計画性が高くないと判断した一審判決を踏襲。「父親に投与された2回の過剰なインスリン投与のうち、1回目の投与が『殺害の実行行為』ではなく『傷害』に当たるとした一審判決は誤っているが、2回の投与を包括して殺害に至るもので、量刑判断に影響を与えるものではない」などとして検察の主張を退け、過去の死刑判決事件と比べて同等の悪質性があるとはいえず「死刑の選択がやむを得ないとまでは言えない」とした。 |
備 考 |
足立朱美被告は郵便局に勤務する夫、子供らと暮らしていたが、金銭問題でトラブルが絶えず、離婚問題が浮上。子供の親権をどちらが有するか、夫婦間で揉めていた。2006年8月、足立被告は夫の定期に大麻を隠し、夫が仕事に出て行くと、匿名で「大麻を持っている男が駅にいる」と警察に通報。警察が駆け付けた。このとき、事情をよく知らない女友達に夫の細かな特徴を伝えて『自分は顔を知られているので代わりに警察に突き出してほしい』と依頼。通報で駅にやってきた警察を女友達に誘導させ、夫を捕まえさせた。しかし、夫は大麻の所持を否認。女友達に警察が詳しく事情を聴くと頼まれたと供述し、足立被告の自作自演が発覚し、足立被告は大麻取締法違反(所持)容疑で書類送検された。足立被告と夫はその直後、離婚している。 2022年11月29日、大阪地裁の裁判員裁判で求刑死刑に対し一審無期懲役判決。被告側は上告した。2024年12月9日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 喜納尚吾(41) |
逮 捕 | 2020年2月26日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | わいせつ略取誘拐、強制わいせつ致傷、殺人 |
事件概要 |
新潟県新発田市の電気工事作業員、喜納尚吾(きな しょうご)被告は2014年1月15日午前4時頃、通勤中に信号待ちをしていた会社員の女性(当時20)が運転する軽乗用車に乗り込み、わいせつな行為をして約1週間のけがをさせた上、竹刀の小川あるいはその周辺の竹やぶで何らかの方法で溺死または窒息死させた。 車は翌日、林道脇に放置されているのが見つかり、4月3日、約300m離れた小川で一部白骨化した女性の遺体が見つかった。 遺体は一部が白骨化しており、司法解剖で死因は特定できなかったが、県警は、遺体や車の状況などから殺人事件と断定。車内から検出されたDNA型が喜納被告の型と一致したが、喜納被告は県警の調べに関与を否定していた。 その後喜納被告は2013年11月の強姦致死事件などで2014年5月9日に逮捕。2018年3月に無期懲役が確定。岐阜刑務所で服役していた。 2020年2月26日、新潟県警は服役中だった喜納尚吾被告を殺人とわいせつ目的略取、強姦致傷の疑いで逮捕した。 |
裁判所 | 東京高裁 齊藤啓昭裁判長 |
求 刑 | 死刑 |
判 決 | 2024年5月17日 無期懲役(検察・被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
2024年2月16日の控訴審初公判で、弁護側は「女性は事故で亡くなった可能性がある」などとして改めて無罪を主張、検察側は「過去の同種の犯罪の判決と比較して公平に検討すると、無期懲役にすべき事情は見当たらない」として一審に続き死刑を求めた。 検察側は遺族の意見陳述を申し出たが、高裁は「一審での意見やお手紙を検討させて頂く」として採用しなかった。 弁護側は新たな証拠として法医学者の意見書やDNA鑑定に関する資料を、検察側も新規の証拠の採用を求めたが、高裁はいずれも却下した。そして控訴審では事実の取り調べはしないとして即日結審した。 判決で齊藤啓昭裁判長は、「女性の車のハンドルから検出されたDNA型や目撃証言から、女性が各被害を受けたのとほぼ同じ時間帯に被告人が女性の車のハンドルを触れたことになり、被告人が犯人と認められる」などとして事件性やDNA鑑定について一審判決に事実誤認はないと指摘し、無罪主張を退けた。量刑については「量刑の判断にあたって過去の事件を犯行に至る経緯などとして考慮できる。強姦致死事件を含む4件の事件に引き続いて犯行に及んだことなどから、本件は犯情が甚だ悪く死刑の選択が検討されるべき事案。全く落ち度のない被害者が殺害された。刑事責任は非常に重く、遺族が死刑を望む気持ちは厳粛に受け止めなければならない」とした一方で「証拠によって、犯行に至った経緯や殺人の動機などは明らかになっていない。計画性があったとは認められない」などとし、「死刑が究極の刑罰であり、適用は慎重に行われなければならないことを踏まえれば、死刑の選択がやむを得ないとまではいえない」と一審の無期懲役を支持した。 |
備 考 |
喜納尚吾被告は沖縄県石垣市出身。那覇市の風俗店で働いているとき、寝たばこをごまかそうとカーテンに火を付け、現住建造物等放火未遂などの罪で懲役3年・執行猶予5年の有罪判決を受けた。執行猶予中の2004年、石垣市の団地の駐輪場で女性を襲い、強姦致傷などの罪で懲役5年の実刑判決。執行猶予を取り消され、29歳までの約7年半を刑務所で過ごした。 出所後は仙台市内で風俗店の運転手として働いた後、各地を転々とし、結婚後の2013年7月に新発田市に転居していた。 2013年11月、新発田市内の路上でパート女性(当時22)を刃物で脅し車で連れ去って強姦し、顔を殴るなどして死亡させた強姦致死事件や、同8~12月にも別の女性3人に対する強姦や強姦未遂事件で2014年5月9日に逮捕。2015年12月10日、新潟地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2016年11月11日、東京高裁で被告側控訴棄却。2018年3月8日、被告側上告棄却、確定。 他に2013年9月21日、新発田市内の駐車場で車両4台が燃える火災があり、うち1台から同市の女性(当時24)が遺体で見つかった事件についても喜納被告の関与が疑われた。 2022年11月18日、新潟地裁で求刑死刑に対し一審無期懲役判決。被告側は上告した。検察側は上告せず。 |
氏 名 | 盛藤吉高(54) |
逮 捕 | 2020年5月31日 |
殺害人数 | 2名 |
罪 状 | 殺人、窃盗、道路交通法違反(ひき逃げ) |
事件概要 |
福島県伊達市出身、住所不定、無職盛藤吉高(もりとう・よしたか)被告は2020年5月31日午前7時55分ごろ、福島県三春町の国道288号脇で、地元の清掃活動のボランティアをしていた同町に住む会社員の男性(当時55)と会社員の女性(当時52)を準中型免許を持たずに準中型トラック(約2.5t)で、いったん通過して150m先でUターンし、時速約60~70キロまで加速しながらはねて殺害した。現場は、ほぼ直線の片道一車線だった。 現場で男性らと一緒に作業していた人が110番通報し、県警は現場から約15km離れた同県須賀川市内で車体前部が破損しているトラックを発見。車内にいた盛藤被告を事故から約4時間後に自動車運転死傷行為処罰法違反(無免許過失運転致死)と道路交通法違反(ひき逃げ)容疑で緊急逮捕した。 盛藤被告はパチンコ店での暴行や飲食店での恐喝未遂、つきまとっていた女性への監禁などの罪で5回の有罪判決を受け、計3回、刑務所で服役。盛藤被告は3回目の服役中、知り合いの内装工事会社の社長に手紙を送り、出所後に雇ってもらう約束をした。しかし、仮釈放を間近に控えた2020年4月上旬、刑務所職員に反抗したとして、仮釈放は取り消しになった。雇用を約束していた社長は被告の住まいとしてすでにアパートの部屋を契約していたが、被告の態度に失望し、白紙にすると手紙で伝えた。2021年5月29日、福島刑務所を出所した。高校時代の後輩2人が車で出迎え、3人で福島市内の喫茶店に入った。2人は被告を叱り、当面の生活資金として計10万円を手渡した。行く当てもなく、翌日、内装会社の事務所に押し掛けた。社長は「ちゃんと仕事をするならチャンスを与える」と言って知り合いが経営する土木解体会社での住み込みの仕事を紹介した。2、3カ月まじめに働けば自分の会社であらためて面接すると約束した。盛藤被告はその日のうちに紹介された郡山市にある解体会社の寮に入った。しかし盛藤被告はなじみのない職場で未経験の仕事をすることに不安で一睡もできず、31日午前7時30分ごろ、寮の壁にかかっていた鍵を取り、トラックを盗んだ。およそ5km離れた現場に向かい、事件を起こした。逮捕後は「社会生活に不安があり、刑務所に戻った方がましと思った」「誰でもよかった。車なら簡単に殺せると思った」などと供述。2人とは面識がなかった。6月19日、トラックの窃盗容疑で再逮捕。 福島地検郡山支部は6月30日、現場にブレーキ痕がなかったことなどから殺人などの罪で盛藤被告を起訴した。 |
裁判所 | 最高裁第一小法廷 堺徹裁判長 |
求 刑 | 死刑 |
判 決 |
2024年5月27日 無期懲役(検察側上告棄却、確定) 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 | 堺徹裁判長は「究極の刑罰である死刑の適用は慎重に行わなければならないという観点を踏まえる必要がある」と指摘。その上で「綿密な計画や周到な準備に基づき、確実に遂げるべく実行した犯行とは言えない。刑事責任は誠に重いものの、犯情を総合的に評価すると、死刑を選択することが真にやむを得ないとまでは言い難い」などとして、二審同様、無期懲役が相当と判断した。5人の裁判官全員一致の結論。 |
備 考 |
当初、一審初公判は2021年2月22日に行われる予定であったが、2月13日夜の地震の影響で、福島地裁郡山支部刑事棟の331号法廷と裁判員候補者待合室の天井や壁がはがれる被害があり、安全性の確認や復旧作業が必要と判断されたため、期日取消となった。 2021年6月24日、福島地裁郡山支部(小野寺健太裁判長)の裁判員裁判で、求刑通り一審死刑判決。2023年2月16日、仙台高裁で一審破棄、無期懲役判決。 |
氏 名 | フォルゲ・ムンヤ・フィデル(31) |
逮 捕 | 2021年7月27日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、死体遺棄、偽造有印私文書行使 |
事件概要 |
カメルーン国籍のフォルゲ・ムンヤ・フィデル被告は2021年7月9日、同居していた大和郡山市の介護職員の女性(当時56)を自宅で殺害。現金約3,000万円を奪った。12日夜、友人と共謀し、女性宅から北へ約5キロの、国道163号側道の脇にある奈良市内の雑木林付近まで乗用車で遺体を運んで遺棄した。 フィデル被告は4月から大和郡山市内の工場で、別人名義の偽造した履歴書を提出し、偽名で働いていた。 女性は8日夜から9日朝にかけ、大阪府内の特別養護老人ホームで働いていた。連絡が取れず不審に思った妹が15日、警察に相談した。県警は20日、女性宅から約1.2キロ離れた駐車場で、女性の車を発見。車内から女性の血痕や、髪の毛がついた粘着テープが見つかった。付近の防犯カメラには、何者かが女性の車を駐車場に放置して別の車に乗り込み、走り去る姿が映っていた。23日、雑木林で警察官が遺体を発見した。 奈良県警は、防犯カメラの映像がフィデル被告に似ていたことから行方を追った。 フィデル被告は27日、羽田空港から出国しようとしたが、出入国在留管理庁の職員が気付いた。警視庁東京空港署に任意同行され、奈良県警の警察官が、勤務先の会社に偽名の履歴書を出したとする偽造有印私文書行使容疑で逮捕した。奈良地検は8月7日、同罪で起訴した。同日、奈良県警は死体遺棄容疑で再逮捕した。 10月12日、フィデル被告の初公判が奈良地裁(田中良武裁判官)で開かれた。検察側が余罪捜査で十分な証拠を開示できないなどの理由から、死体遺棄罪についての審理はされなかった。この日は偽造有印私文書行使罪については冒頭手続きが行われ、罪状認否でフィデル被告は起訴内容を認めた。しかし検察側が証拠を開示せず、弁護側も証拠の開示がされなかったことから対応できないとし、罪状認否や冒頭陳述などが行われないまま閉廷した。 奈良県警は11月4日、フィデル被告を強盗殺人容疑で再逮捕した。奈良地検は25日、強盗殺人容疑で起訴した。 死体遺棄を手伝った友人は9月14日付で全国指名手配されているが、行方は分かっていない。 |
裁判所 | 奈良地裁 澤田正彦裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2024年6月4日 無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2024年1月23日の初公判で、フォルゲ・ムンヤ・フィデル被告は通訳を介して「深い改悛の情と、非常に恥ずかしい思いと共に罪を認める」と述べた。 検察側は冒頭陳述で「2020年に被害者の女性と知り合い、同居していた。その後、女性が自身の母親の定期預金から多額の現金を引き出したと知り、殺害して現金を奪ったうえ友人と共謀し遺体を遺棄した後、カメルーンに帰国しようとした」と指摘した。 弁護側は「カメルーンで紛争が激化し、被告は母親に恩返しするために留学したが、日本で生活するのが難しく退学を余儀なくされた。被告は金に困っており、被害者が自国通貨に換算すると、見たこともない金額を持っているのを知り、事件を起こした」とした。 22日の第2回公判における被告人質問で、フィデル被告は「就労資格がなく、生活が困窮していた」と説明。同居する女性宅で、引き出された約3,000万円を見て「働けない自分が大金を手に入れれば、人生が変わると思い、自分のものにしようと考えた」と述べた。さらに、犯行状況について「台所で背後から左腕を笹岡さんの首に回して、右手に持ったタオルで鼻と口を塞いだ」と説明した。 28日の第4回公判において、遺族の意見陳述が行われた。女性の長女は「どれだけのものを奪ったのか考えてほしい。被告には一生忘れないでほしい。一生刑務所に入ってほしいが、終身刑がないのであれば極刑を望む」と述べた。 同日の論告で検察側は、「被告と同居し生活の面倒を見ていた女性の首を力を緩めることなく絞めており、強固な殺意があった」と指摘。「鼻と口を塞いで窒息させ、肋骨を9本も折るなど、残虐で悪質だ」「執行猶予中の犯行で、被害者は被告人の生活の面倒を見るなど何ら落ち度はなかった。高額な現金に目がくらんだ犯行で、くむべき点はない」と非難した。 最終弁論で弁護側は、外国人が日本で住むことの難しさを事件の背景にあげ、「計画性はなく、女性が巨額の資産を持つと知って衝動的に犯行に及んだ」と主張。「身勝手な動機だが、母国の紛争の影響で困窮していた。本人の理由ではなく非難の程度は小さい。被告は深く後悔し反省している」として「懲役25年が相当」と主張した。 最終意見陳述でフィデル被告は、「被害者にとった自分の行動とは違う行動をとりたいができず、慚愧に堪えられません。深く惨めです。できるだけ罪を償いたい」と述べた。 判決で澤田正彦裁判長は、「すでに反応していない被害者の首を足で5回ほど踏みつけるなどしており、殺意が強固。困窮していた経済状況の中で起きた突発的な犯行ではあるが、被告は事件後にナイトクラブで遊ぶなどしていて酌むべき点はない。困窮していた被告の身元を引き受けていた被害者の被告人に対する信頼を含む好意的な感情を裏切る行為で、厳しい批判が妥当」と指摘。死体の遺棄については「事件の発覚を遅らせ、国外へ逃亡する時間を稼ぐためだった」とした。そして「反省の態度を示していると見受けられるものの被害弁償がされておらず、反省が十分とは評価できない。刑事責任は重大であり、酌量や刑の減軽を行える事情とは言えない」と述べた。 |
備 考 | 被告側は控訴した。2025年1月21日、大阪高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 久保木愛弓(37) |
逮 捕 | 2018年7月7日 |
殺害人数 | 3名 |
罪 状 | 殺人、殺人予備 |
事件概要 |
横浜市の大口病院看護師の久保木愛弓(あゆみ)被告は、以下の犯行を行った。
捜査は難航し、久保木被告も重要参考人として取り調べを受けた。2017年3月、久保木被告の看護服からベンザルコニウムが検出されるなど捜査が進み、2018年6月30日、被疑者として取り調べたところ点滴にヂアミトールを混入したことを自供。母親にも電話で犯行を告白した。7月7日、2人目の殺人容疑で逮捕した。7月28日、3人目の殺人容疑で再逮捕した。8月18日、1人目の殺人容疑で再逮捕した。 神奈川県警は11月30日、久保木被告が9月13日から18日の間に、入院中の男性(当時89)の点滴に消毒液を混入し、18日午後1時50分ごろに殺害したとして殺人容疑で追送検した。男性は一時病死と診断されたが、遺体から消毒液の成分が検出されたため、県警は専門家に遺体の一部の鑑定などを依頼。鑑定の結果、男性の死因も中毒死である可能性が高いと判断されたため、同課は立件に踏み切った。また未使用の点滴袋に消毒液を混入した殺人予備でも追送検した。 横浜地検は9月3日~12月3日まで鑑定留置を実施。12月7日、入院患者3人への殺人罪と、殺人予備罪の計4事件で起訴した。11月に追送検した別の男性患者についてと、1人分の殺人予備については不起訴とした。 |
裁判所 | 東京高裁 三浦透裁判長 |
求 刑 | 死刑 |
判 決 |
2024年6月19日 無期懲役(検察・被告側控訴棄却) 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
2023年12月15日の控訴審初公判で、弁護側は「死刑は真にやむを得ない場合以外は科すことができない究極の刑であり、一審の裁判員裁判が死刑を科すには躊躇せざるを得ないとし死刑を回避した判断は非常に重たい。上訴審でこれを覆すとすれば、裁判員制度の否定だ」と強調した。また、久保木被告は当時、心神耗弱状態だったとも主張した。 検察側は、被害者が3人の事件で死刑が回避されたのは無理心中や心神耗弱が認定された場合といった4類型のみで、今回は該当しないなどと主張。「無差別型の連続殺人であり、死刑をもって臨むほかない」と訴えた。「刑の大枠は死刑以外あり得ない」と量刑不当を控訴理由にしているほか、余罪に関する供述調書を不採用とした一審には訴訟手続きの法令違反があると主張し、不採用となった供述調書を控訴審で改めて証拠請求した。三浦裁判長はこの請求を「関連性がない」として却下した。 2024年3月12日、第2回公判が開かれた。この日は弁護人が請求した被告人質問が予定されていたが、弁護人が請求を撤回したため、被告人質問は行われず結審した。 判決で三浦裁判長は、久保木被告の完全責任能力を認定し、「3人を殺害した結果は重大で悪質だ」と非難した。しかし、自閉スペクトラム症の特性があったことなどから、「患者が亡くなった際に家族にどなられて強い恐怖を感じた。ストレスをため込み、一時的な不安軽減のため、患者を消し去るほかないと考えた。看護業務の中で感じた不安や恐怖は身体の不調を来すほど大きく、被告の努力ではいかんともしがたい事情が動機に影響していた」と指摘。確定的な殺意があり、残虐ではあるものの、恨みや不満から他人の命を積極的に奪うような犯行とは異なる面があるとした。量刑については、「被告人の罪責は誠に重大であり本件は死刑の選択が十分に考えられる事案である」と指摘。一方で、「死刑については事件によって事情が異なり、4類型に該当しないからといって、死刑以外の余地がないと断ずることはできない」「裁判員裁判で慎重な評議がなされ、真にやむを得ないとの判断に至ったのでなければ、死刑を科すことは許されない」と述べた。そして「看護師の仕事を離れた場合には再犯のおそれが高いとはいえない」とした上で、更生の可能性を認めて極刑を回避した一審の判断に「不合理であるということはできない」と述べた。 |
備 考 |
同病院では事件後の2016年10月に市が立ち入り検査を行い、薬品保管庫の施錠の実施や防犯カメラの増設など13項目の指導項目の改善を指示。市によると、事件当時、台数の少なさが特に問題視された防犯カメラを12台以上増設するなどの対応が実施された。 同病院は2017年12月に「横浜はじめ病院」に改称した。2019年8月から休診している。2021年12月1日より、コロナ専門病院として開院する。 2021年11月9日、横浜地裁の裁判員裁判で求刑死刑に対し一審無期懲役判決。上告せず確定。 |
氏 名 | 佐々木伸(27) |
逮 捕 | 2020年10月30日 |
殺害人数 | 2名 |
罪 状 | 現住建造物等放火、殺人、殺人未遂 |
事件概要 |
仙台市の無職佐々木伸被告は2019年12月25日午前2時頃、木造2階の自宅で可燃性の液体をまくなどして放火し、タクシー運転手の父親(当時76)と会社員の兄(当時29)を殺害。兄の妻(当時26)は長女(当時3)と二女(当時1)を抱えて2階から飛び降りて助かったが、気道熱傷などで重傷を負った。また長女も重傷、二女も軽傷を負った。 家族は6人暮らし。亡くなった兄は長男、佐々木被告は三男。佐々木被告は大学卒業後、自室に引きこもっていた。 佐々木被告は火災の後行方不明となり、同日午後8時20分ごろ、付近を捜索していた警察官が、商業施設の個室トイレにいる男性を発見し、署で保護した。 佐々木被告は全身やけどのため、そのまま入院し、治療。2020年10月30日に退院。県警は完治していないが勾留に耐えうると判断し、そのまま逮捕した。仙台地検は11月20日、殺人他の罪で佐々木被告を起訴した。 |
裁判所 | 最高裁第二小法廷 草野耕一裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2024年6月24日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | |
備 考 |
公判で仙台地裁は刑事訴訟法の規定を根拠に佐々木被告と被害者の氏名や住所を明かさない秘匿決定をしており、審理は匿名で行われた。理由は明らかにしていない。 2023年3月16日、仙台地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2023年11月21日、仙台高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 松成英一郎(57) |
逮 捕 | 2021年10月6日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、詐欺、詐欺未遂 |
事件概要 |
大分県日田市の会社役員松成英一郎被告は2021年4月1日午後8時20~30分頃、同市に住む叔父で、自身が当時経営していた運送会社の社員の男性(当時64)を福岡県うきは市の空き店舗駐車場で、車で複数回ひくなどして殺害。事故死したとする虚偽の請求書を保険会社2社に提出し、うち1社から死亡保険金約1,497万円をだまし取った。しかし、自動車保険約1,000万円の支払いは認められなかった。 運送会社は松成被告が会長として2019年2月に立ち上げた会社で、独り身でドライバーを辞めて無職だった叔父を電話番で働かせた。そして2020年6月ころ、松成被告が叔父の生命保険料を支払う代わりに、自身を受取人にするよう叔父と親族に持ち掛け、承諾を得て加入させていた。 叔父の遺体は4月2日朝、自身の軽乗用車の下敷きになった状態で見つかった。車はエンジンがかかったままで、ボンネットが開き、付近には懐中電灯などが散乱していた。第一発見者は一度現場を離れ、その後現場に戻った間に、松成被告は現場にすでに駆けつけ、車を押して動かそうとしていた。 福岡県警は叔父に保険金が掛けられていたこと、普段朝から会社に出勤しない松成被告がこの日は朝から会社に出て叔父を捜していたこと、事件当日の午後8時前に松成被告から叔父に電話を数回かけていたことなどから、松成被告を慎重に捜査。10月6日、松成被告を殺人容疑で逮捕。11月4日、保険金をだまし取った詐欺容疑で再逮捕した。 |
裁判所 | 福岡地裁 鈴嶋晋一裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2024年6月28日 無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2024年5月27日の初公判で、松成英一郎被告は「殺害していません。(殺害時刻とされる時間帯には)現場に行ってません。保険金については正当な手続きをしたと思っている」として起訴事実をいずれも否認し、無罪を主張した。 検察側は冒頭陳述で、松成被告が叔父に生命保険の加入を勧め、事件当日は駐車場に呼び出したと主張。また、運送会社や松成被告が経営する保険代理店が赤字続きで、競艇でも多額の損失を出しおり、事件の直前に被害者の保険金を増額していたと訴えた。 弁護側は、叔父の車は調子が悪かった上、現場は傾斜があり、ブレーキが不十分で車が後退したことでひかれた事故によって死亡したと反論。会社の事業は順調で、競艇が趣味だったが無理な借金はしていなかったとした。 6月19日の論告求刑公判で、検察側は、叔父の衣服や遺体の損傷状況から別々の方向に少なくとも3回ひかれており、意図的な犯行と指摘。叔父が被告と電話した後に現場へ向かったことや被告が保険金を受け取ったことを挙げ、被告が犯人だと主張した。松成被告は会社の赤字4,200万円余りと競艇での損失を合わせ、借金が計約6,100万円あり、動機があったとした。そのうえで「保険代理店を営む過程で得た知識を悪用して、金銭を得るために人の命を犠牲にした。人の命を金に換える犯行で強盗殺人に匹敵する。事故死に見せかけて複数回ひき、犯行後に罪証隠滅工作をするなど、強固な殺意に基づいた計画的で冷酷な犯行だ」などと述べた。 弁護側は最終弁論で、通行車のドライブレコーダーの映像の鑑定結果から、叔父は被告が殺害したとされる時刻以降も生存していたと主張。不調だった車を叔父が確認しているときに後退して事故死した可能性は否定できない。受け取った保険金は経営する会社の1か月分の経費にも満たない。会社の経営が順調だった松成被告に保険金殺人をする動機もない、などと訴え、改めて無罪を主張した。 最終意見陳述で松成被告はおよそ20分間にわたり、自らの主張を展開。「暴走列車が冤罪に向かって走っています。冤罪列車に乗ってはいけません。公平で平等な判断をしてくれることを信じています。無罪になって被害者に成仏してもらわないかんです。みなさんの正義を信じています」などと述べた。 判決で鈴嶋裁判長は、遺体の解剖結果や衣服の痕跡から、男性が別々の方向から少なくとも3回ひかれたと認定し、「死亡が事故によるものとは到底いえない。事故では起こり得ず、何者かが車を意図的に操作して殺害した」と判断。被告が電話をかけた直後に男性が事件現場に向かったこと、現場近くの防犯カメラの映像、松成被告の携帯電話の位置情報などから、「直接的な証拠はないが、諸状況を総合すれば、被告以外が犯人である可能性はおよそ考えられない」と認定。そして松成被告が保険金に強い関心を持ち、実際に受け取っていることなどを理由に「保険金を目的として殺害したと考えても不自然な点はない」として、「殺害していない」などとした弁護側の主張を退けた。その上で、「保険代理店業を営む立場にありながら、その知識を悪用し自動車事故に見せかけて殺害した。被害者の命を一顧だにしない、計画的で強固な殺意に基づいた残忍で冷酷な犯行だ。何の落ち度もない被害者を殺害した動機にくむべき事情はない。罪証隠滅するなど反省の態度はみられない」と指弾した。 |
備 考 |
松成英一郎被告は他の2人と共謀して2019年~2021④年、架空の交通事故や代車費用を保険会社などに申告し、計約38万円をだまし取ったとして懲役1年、執行猶予4年の判決を受け、確定している。 被告側は即日控訴した。2024年11月27日、福岡高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 石野彰(59) |
逮 捕 | 2022年10月12日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、銃刀法違反 |
事件概要 |
住居不詳、無職の石野彰被告は2022年10月12日午前3時ごろ、新宿区の簡易宿泊所3階廊下で、宿泊所の管理人兼住人の韓国人男性(当時76)の胸を包丁で複数回突き刺して失血死させた。その後、男性の部屋から現金約8万円が入った手提鞄を奪った。 石野被告は宿白書で暮らしていた2022年1月、男性に熱湯をかけてけがを負わせた。この時、男性から「退所すれば訴えない」と言われたため退所したが、後に男性が被害届を出したため書類送検され、9月に傷害罪で30万円の罰金刑を受けており、石野被告は男性を恨んでいた。石野被告は10月11日午後7時ごろに宿泊所の空き部屋に侵入し、男性を待ち伏せていた。 石野被告は犯行後逃走。宿泊所内の防犯カメラの映像から警視庁捜査一課は石野被告の行方を追い、12日午前10時頃、JR上野駅のホームにいたため身柄を確保。同日、逮捕した。 11月2日、東京地検は殺人と銃刀法違反で起訴した。その後、現金が奪われていることが判明したため、強盗殺人に訴因変更した。 |
裁判所 | 東京地裁 江口和伸裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2024年7月2日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2024年6月18日、初公判。24日の第5回公判で結審。 弁護側は恨みによる犯行で、現金を奪おうと思い付いたのは殺害後で、当初は強盗の意思はなかったので、殺人と窃盗罪が成立するにとどまると主張。 判決で江口裁判長は、男性から追いかけられて玄関から出た3秒後には戻ってきて男性の居室から手提鞄を取っているため、「刺した時点で現金を奪う意図があった」として強盗殺人罪の成立を認めた。そして「一方的に恨みを募らせて犯行に及んでおり動機は身勝手だ」と述べた。 石野被告は判決言い渡し中、貧乏ゆすりや机をたたくなどいら立っており、最後に裁判長から控訴について説明されると、憮然と「しねえよ」と言い放った。 |
備 考 |
使われた法廷では、被告人が入廷する側が検察官席であったが、判決時では通常と逆に弁護人と被告人が座っていた。過去の公判で、被告人が検察官につかみかかろうとしたことがあったらしい。 本事件は殺人で送検以降、読売新聞7月6日の判決の記事以外は見つけられなかったため、多くは頂いた情報を基に構成している。 控訴せず確定。 |
氏 名 | 田中治樹(51) |
逮 捕 | 2022年2月11日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人 |
事件概要 |
釧路市の会社員、田中治樹被告は2016年1月14日午後5時30分~同6時ごろまでの間、釧路市に住む伯母(当時80)の頭部を鈍器のようなもので数十回殴打し脳挫傷により死亡させ、現金約20万9,000円を奪った。 翌15日、参加予定の老人クラブの会合に伯母が来なかったことから、心配した友人が午後4時ごろに訪ね、頭部にビニール袋をかぶせられた状態で自宅で倒れているのを発見した。 事件直後から田中被告は捜査線に浮上し、複数回にわたって任意聴取を受けていた。 事件から6年後の2022年2月11日、道警は田中被告を強盗殺人の容疑で逮捕した。 |
裁判所 | 札幌高裁 成川洋司裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2024年7月16日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
2024年6月25日の控訴審初公判で、弁護側は一審に引き続き無罪を主張。一審判決が認定した犯行時間約30分の間に田中被告がおばを殺害して室内を物色し、車で移動するのは時間的に困難だと主張。奪った現金の額を不詳としながら強盗殺人を認定したのは不当だと訴えた。検察側は控訴棄却を求めた。新たな事実の取り調べはなく、即日結審した。 判決で成川裁判長は、被告は当時経済的に行き詰まっており、事件直前に「殺人事件何を調べる」などと検索していたことは「犯行と関係していなければあまりに偶然が過ぎる」など、「多くの状況証拠を見れば被告が犯人とする決定的な証拠と言えないが、被告人が犯人であれば、すべてが合理的に説明でき、それ以外の可能性は現実的には説明できない」と指摘して、「一審判決におおむね不合理な点はない」と被告側の控訴を退けた。 |
備 考 | 2024年3月4日、釧路地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。 |
氏 名 | 佐藤廣明(76) |
逮 捕 | 2023年8月21日(公務執行妨害他の現行犯) |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、強盗致傷、強盗、監禁、道路交通法違反(無免許運転)、公務執行妨害、窃盗、詐欺 |
事件概要 |
本籍岩手県盛岡市、住所不定無職の佐藤廣明被告は2023年8月14日の午前11時ごろから翌日午前9時半ごろまでの間に、滝沢市のアパートの自室にいた男性(当時72)に暴行を加え、タオルのようなもので首を締めて殺害し、通帳と印鑑を奪った。 佐藤被告は年金受給日である15日、奪った通帳とはんこを持って盛岡市内の銀行窓口へ向かい、同性である被害者のいとこを装って金を下ろそうとしたが、本人の意思が確認できないことを理由に銀行員に断られた。 男性は一人暮らしで8月6日ごろに引っ越したばかりであった。その後、盛岡市の児童公園で佐藤被告と知り合い、一緒に酒を飲むようになった。そのうち、佐藤被告は男性の部屋に滞在するようになった。 24日午後6時40分ごろ、アパートを訪れた家族が居間で男性の遺体を発見し110番通報した。 さらに佐藤被告は15日午後4時半ごろ、盛岡市の岩手県営運動公園で、散歩に訪れていた面識のない男性(当時81)に「熱中症になってしまったので、車で家に送ってほしい」とうその依頼をし、約20km離れた雫石町の岩手山神社まで軽乗用車を運転させた。午後6時~6時半ごろ、神社敷地内に駐車中の車内の中で男性の首にタオル状の物をかけて後ろに引っ張った後、車外で男性に馬乗りになって首を手で絞め、顔を拳で数回殴って打撲などのけがを負わせ車を奪った。 佐藤被告は8月17日ごろに秋田県鹿角市と青森市内の会社の敷地内から車のナンバープレート計5枚を盗み、1枚を軽乗用車に付け替えた。18日、軽乗用車で青森県鰺ヶ沢町内の自動車関連会社を訪れ、修理を依頼。その際に別のスポーツタイプ多目的車(SUV)1台(30万円相当)を借りたが、返さずにそのまま逃走し、同県東北町内に乗り捨てた。青森県警が軽乗用車を調べたところ、所有者が雫石町の事件の男性のものと判明したため岩手県警に連絡し、雫石町の事件が発覚。佐藤被告が事件に関与した疑いが強まったため、19日、岩手県警は指名手配した。21日午前、佐藤被告が青森にいる可能性があると岩手県警から連絡を受けた青森県警は捜索していた。 佐藤被告は8月21日午前10時ごろ、青森県内で面識のない40歳代の女性が運転していた軽乗用車に乗り込み、女性を脅しての女性を車内に監禁した上で車と現金数万円を奪い、そのまま無免許で逃走。青森県警は午後3時15分頃に十和田市内で佐藤被告が乗る軽乗用車を発見、パトカーやヘリで追跡した。同3時半頃、佐藤被告は女性を解放。佐藤被告は青森県内で一般車両2台と衝突する事故を起こした。午後4時35分頃、佐藤被告は検問中のパトカーと捜査車両に衝突させ衝突させた。佐藤被告は公務執行妨害容疑で青森県警に現行犯逮捕された。S衝突した際に肝臓を損傷したことが分かり、22日に釈放され同市内の病院に入院。28日に退院した。 岩手県警などは28日、雫石町の事件における強盗殺人未遂容疑で再逮捕。盛岡地検は9月15日、佐藤被告を強盗致傷罪で起訴した。 岩手県警は9月20日、自動車関連会社から車を借りて返さなかった横領の罪で佐藤被告を再逮捕。盛岡地検は10月10日、詐欺罪に切り替えて盛岡地裁に追起訴した。 岩手県警は10月10日、青森県内の女性への強盗、監禁容疑で佐藤被告を再逮捕した。11月9日、滝沢市の事件における強盗殺人容疑で佐藤被告を再逮捕した。 盛岡地検は強盗殺人罪で11月29日に、ナンバープレートを盗んだ窃盗罪で12月28日付けで、公務執行妨害と道路交通法違反は2024年1月30日付けで追起訴した。 |
裁判所 | 盛岡地裁 中島真一郎裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2024年7月29日 無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2024年7月16日の初公判で、佐藤廣明被告は全ての起訴事実を認めた。 検察側は冒頭陳述で、佐藤被告が昏睡強盗の罪で服役していた宮崎県の刑務所を2023年に出所し、生活保護を受給しながら盛岡市内で生活をしていたが、出所してから5か月後、服役前に娘の名義で借りたレンタカーのレンタル料や修理代、約70万円の返済を娘に迫られていたことや、生活保護費では余裕のある生活ができないことなどを理由に、居住地から逃走しようと計画。8月8日に盛岡市内の公園で男性と知り合い、そのまま岩手県滝沢市内にある男性のアパートで寝泊まりする間柄になった。親交を深める中、8月15日に被害者へ年金が支給されることを知り、通帳とはんこを奪おうと決意。佐藤被告は睡眠導入剤を被害者に飲ませたが、被害者に眠る様子がないため、殺害するに至ったと述べた。そしてその後は車や金を奪ったり、別の車から奪ったナンバーを付け替えるなどしながら、8月21日、青森県内で公務執行妨害で現行犯逮捕されるまで逃走を続けたと述べた。 弁護側は、「頼れる親族がいない中、仕事も見つからず、借金から逃れるために犯行に及んだ」と主張。当初は睡眠導入剤を使った昏睡強盗だけを計画していたが失敗し、結果的に罪を重ねたと主張。佐藤被告は取り調べに素直に応じており、反省や後悔をしていると訴えた。 午後からの証拠調べで検察側は、「父は大切な家族の一員だった。父が生きているうちに育ててくれた感謝を伝えたかった。しかし殺されてしまったことで感謝を伝えられなくなってしまった。殺される理由はなく、絶対に許さない」とする男性の息子の供述調書が読み上げられた。 18日の第2回公判で被告人質問が行われた。佐藤被告は犯行について自らの借金返済のため、被害者の年金を奪う目的だっと説明した。当初は被害者に睡眠導入剤を飲ませて通帳などを奪う予定だったが、睡眠導入剤が効かなかったため暴行を加えたと説明。「自分でもあんなことをするとは思っていなかった。前の日まで一緒に食事をし酒を飲んでいた人の命を奪ってしまい、遺族には申し訳ないといってもどうにもならないがこの言葉しか無い」と述べた。 検察側が手で首を絞め被害者の意識を失わせた後、さらにタオルで首を絞めた理由を聞いたのに対し、佐藤被告は「意識を取り戻して警察に通報されたら困ると思った」と返答。当初殺意がなかったとしながら二度にわたって首を絞め殺害した矛盾点を指摘されると、佐藤被告は「パニックになっていた」と答えた。 19日の第3回公判における被告人質問で、佐藤被告は動機については生活保護費だけでは暮らしていけず、借金を抱えていたため、北海道の知人の元へ逃走するためにお金が必要で犯行に及んだと証言した。弁護側が遺族への想いを質問すると、「許されることじゃない。親切にしてくれたのに身勝手な行動で命まで奪ってしまい申し訳ない」と謝罪した。 22日の論告求刑公判で検察側は、強盗殺人事件について被害者の首を絞めるのは危険な行為で殺意が認められるとし、「年金支給日を待って犯行に及ぶなど狡猾で計画的な犯行だ。被害者から年金を奪うことに執着し、必要以上に暴行を加えて殺害したもので生命を軽視している」とした。さらに「逮捕を免れるために次々と犯罪を起こすなど、自らの欲望のまま身勝手に他人の権利を侵害し続けた」と述べた。その上で「おおむね自白したという事情を考慮しても、法定刑の下限からは減軽できない」などとして無期懲役を求刑した。 同日の最終弁論で弁護側は、佐藤被告が凶器を使わなかったことなどから殺意を否定し、「自白は一生刑務所に入る覚悟を決め、罪に正面から向き合ったもの」などとしたうえで、刑を減軽すべきとは言えないかもしれないとし、「反省や後悔もしているが、情状酌量すべきとは言えない」と無期懲役の判決を求める考えを示した。 最終意見陳述で佐藤被告は、「被害者の命まで奪い、お詫びのしようがない。そのほかの事件の被害者や地域の人たち、すべての方々に恐怖心を与えてしまい、生まれてきて申し訳ありませんでした」と泣きながら謝罪した。 判決で中島裁判長は、被告は年金を引き出すため、男性を殺害して通帳や印鑑などを奪っており、「財物奪取の意思や殺意が非常に強固で、人命軽視の態度は甚だしい」と指摘。さらに「借金取り立てからの逃走資金を手に入れようという身勝手な動機で強盗殺人を行い、その後も捜査の手から逃れるために、無関係の第三者を巻き込んで強盗致傷や監禁などの犯罪を繰り返した」として、「犯行の動機や経緯に酌むべき事情はない」と述べた。 |
備 考 |
雫石町の事件発生後の8月16日朝、町内の現場付近で「けがをしている高齢者を保護している」と110番通報があった。駆け付けた複数の盛岡西署員は、男性から「見知らぬ男から暴行を加えられ、車を奪われた」と説明を受けた。しかし、男性が事件現場を明確に説明できなかったことや、けがの状況が被害の説明と一部合致していなかったため認知症を疑い、事件性はないと判断。報告を受けた同署の当直責任者も同様に判断した。男性はこの日のうちに家族に引き渡された。通報から2日後の18日、男性の軽乗用車が青森県内で見つかったと青森県警から連絡があり、再び話を聞いて被害事実を確認。被害届を受理し、捜査に乗り出した。県警は男性と家族に謝罪した。 「藤」の旧字体は右下部分の点々がハの字型になったもの。「廣」の旧字体はまだれに「黄」。 被告側は控訴した。2025年3月6日、仙台高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 辻和美(52) |
逮 捕 | 2023年6月12日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、有印私文書偽造・行使、詐欺、道路交通法違反(無免許運転)、電磁的公正証書原本不実記録・同供用 |
事件概要 |
住所不定、無職の辻和美被告は、パート従業員の姉(当時52)から通帳などを奪おうと、知人の無職岡村恵美被告と共謀。2023年6月2日午後0時50分頃から同1時30分頃、福岡県水巻町の町営住宅の姉宅で姉に催涙スプレーをかけるなどの暴行を加え、首を圧迫して殺害した。そして通帳3冊と印鑑、軽乗用車を奪い、無免許なのに姉の車を運転して郵便局に向かい、姉の口座から貯金を払い戻そうとしたが失敗。続いて2つの銀行に向かって姉になりすまし、計102万8000円を払い戻した。その状況を岡村被告に報告し、午後3時44分ごろ、岡村被告と合流し、少なくとも91万円を渡した。 その他に2023年5月、辻被告と岡村被告は辻被告名義の保険証を入手し、消費者金融の金を借りようと計画。辻被告は実際には住んでいないのに、岡村被告の隣の住んでいるかのような虚偽の住民登録をして保険証を入手した。そして岡村被告とともに消費者金融でカネを借りようとしたが、借りることができなかった。 姉は独身で、長年母親の介護をしていたが、母親が老人ホームに入ったため、一人暮らしだった。 6月5日に清掃業のパートの仕事を欠勤し、電話も通じなかったことから、午後4時半ごろ、同僚が県警に安否確認を依頼した。同日午後8時半ごろ、室内に入った警察官が居間にうつぶせで倒れている被害者を見つけ、その場で死亡を確認した。7日、自宅から約3km離れた福岡県中間市のパチンコ店で、被害者の軽乗用車が見つかった。 県警は被害者の死後、預金口座からほぼ全額の約73万8千円が引き出されたことを把握。6月11日、県警は辻和美被告を北九州市内のコンビニ店で発見。所持金は約1000円で、野宿に近い生活を送っていた。12日、同県中間市の銀行窓口で被害者の通帳などを使って預金を引き出したとして、辻和美被告を有印私文書偽造・同行使と詐欺の両容疑で逮捕した。7月3日、福岡地検小倉支部は同罪で辻被告を起訴した。 県警は7月28日、辻被告に成りすまして5月22日に北九州市小倉北区内の銀行で預金通帳を作成したとして、詐欺容疑で岡村恵美被告を逮捕した。 8月18日、強盗殺人容疑で辻被告、岡村被告、岡村被告の長女(当時24)を逮捕した。 9月8日、福岡地検小倉支部は辻被告を強盗殺人罪で、岡村被告については殺意がなかったとして強盗致死罪で、岡村被告の長女については通帳から引き出された金を受け取った組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)でそれぞれ起訴した。長女への強盗殺人容疑については処分保留となり、12月27日付で不起訴処分となった。 10月13日、福岡県警はうその住民異動届を小倉北区役所に出したなどとして、辻被告と岡村被告を電磁的公正証書原本不実記録・同供用の容疑で再逮捕。福岡地検小倉支部は27日、二人を起訴した。 岡村被告は11月30日、2022年12月に小倉北福祉事務所などで応対した職員に収入を隠して生活保護を申請し、生活扶助と住宅扶助の2か月分、計約22万円を不正に得た詐欺の容疑で再逮捕された。 |
裁判所 | 福岡地裁小倉支部 武林仁美裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2024年8月1日 無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2024年7月5日の初公判で、辻和美被告は強盗行為を認めたが、姉の殺害については否認した。 冒頭陳述で検察側は、事件の概要として「多額のカネを借りるなどして世話になっていた実の姉からカネを奪おうと考え、知人の岡村恵美被告とともに強盗を計画した」と指摘した。そして辻被告が姉の家に行き、催涙スプレーを噴射し、首を圧迫して殺害して、万が一、動きださないように両手足を拘束し、通帳や車を奪ったとした。そして岡村被告は、辻被告が被害者を殺害するとまでは思っておらず、殺害は辻被告単独の判断とした。そして争点について、辻被告が姉を殺害したかどうか、姉への強盗と銀行でカネを引き出した詐欺などで岡村被告と共謀したかの2点を挙げた。 さらに辻被告と岡村被告の出会いについて説明。2002年か2003年ごろ、辻被告は当時、働いていた会社で岡村被告と知り合った。2004年ごろから、辻被告は岡村被告に頼まれて毎年100万円単位で送金し、援助するようになった。辻被告は周囲から借金を重ねて2008年頃、家族を残して失踪した。辻被告は定まった住居を持たず、北九州市の公園などで寝泊まりして日銭を稼ぎ、岡村被告に金を渡し続けた。合計で約5,800万円に上る。 そして辻被告は遅くとも2023年5月25日までに姉に借金を頼み、拒まれた場合は催涙スプレーやスタンガンで金品を奪おうと考え、そのことを岡村被告に伝えた。この日、岡村被告は辻被告とともに防犯グッズの店に行き、催涙スプレーなどを見た。2023年6月1日までに、辻被告は結束バンドを購入し、岡村被告に対し、姉の家に行くにあたって動きやすい服などの購入を依頼し、岡村被告はこれを購入した。また辻被告は岡村被告に、6月2日に姉の家に行くことや、防犯グッズの店に連れて行ってほしいことを伝え、岡村被告はこれを了承した。また事件当日は午前10時すぎに北九州市八幡西区で辻被告と岡村被告と合流し、岡村被告が運転する車内で、岡村被告が買ったジャージーなどに着替え、防犯グッズ店に向かった。そして午前11時半ごろ、防犯グッズ店の店に到着すると、岡村被告が辻被告に1万円を渡し、辻被告は店で催涙スプレーを購入した。その後、岡村被告が運転する車で辻被告の姉の家に向かった。そのため、遅くともこのころまでに、借金を断られた場合には催涙スプレーで金目のものを奪い取る強盗の共謀が成立していたと指摘した。 そして、計画的で執ようで残虐、結果が重大で、実行役としての刑事責任は極めて重く、カネ欲しさの動機や経緯は身勝手で自己中心的だと指摘。不自然で不合理な弁解を繰り返し、反省も不十分だとした。 弁護側は、辻被告が結束バンドで縛ったり、通帳などを奪ったりしたことは認めたが、「首を圧迫する行為はしていない」と反論。岡村被告との共謀も否定し、単独犯による強盗罪にとどまると訴えた。 8日の第2回公判で、姉の遺体を解剖した法医学の大学教授が出廷。死因は首を絞められたことによる窒息で、遺体の顔は首を絞められてうっ血していたが、手や足にうっ血は確認されなかった、首を絞められて抵抗するときにできる傷がなく、後頭部に圧迫された痕があるなどと証言。これらのことから、姉はうつ伏せの状態で約3分間首を絞められたあと、生命活動が弱まった死亡直前から死後に手首や足首を縛られたとみられると証言した。凶器については、検察側から現場に落ちていたポリ袋を見せられ、凶器と考えられると答えたものの、弁護側から「ポリ袋以外で絞められた可能性はあるか」と問われ「はい」と答えた。 9日の第3回公判で、検察側の証人として岡村恵美被告が出廷。辻被告とは大親友として付き合っていたと証言。さらにお金の振り込みはあったが、辻被告はホームレスで狙われるために口座へ入れていたもので、お金自体は辻被告に返していたと証言した。事件当日、辻被告が姉から金を借りに行った、辻被告から脅すためと言われたので一緒に防犯グッズを買ったと証言。そして水巻町まで入ったが、姉の家までは送っていないと語った。事件については、当初辻被告から首を絞めたと言われたが、すぐに冗談だと言われたのでそう思っていたと説明。辻被告から借金の返済として現金約91万円を受け取ったことは認め、「首を絞めて失神している時に通帳が入った鞄を持って口座から金を出して手に入れたと聞いた。でも和美被告は犯人じゃないと思っています」と答えた。 弁護側から、辻被告がどうしてホームレスになったかと問われ、岡村被告は「育児に悩んで家を出た」と答えた。そして岡村被告から総額5800万円を受け取ったことは認めるも、自分で使わず全て辻被告に渡していたと証言。さらに辻被告に総額約500万円を貸していたが、信用していたので契約書は交わしていなかったと述べた。さらに返済は、事件当日の91万円が初めてであると述べた。また辻被告の稼ぎ方について問われ、「売春です。自分で教えたことはありません」と答えた。 12日の第5回公判で、辻被告と被害者の兄が証人として出廷した。5人兄弟で、兄、被害者、辻被告、次男、三男(1999年死亡)と続く。辻被告は高校卒業後に就職して福岡県外で暮らすようになった。その後結婚し、男の子と女の子を出産。1998年に再び地元の福岡県水巻町に戻り、夫(当時)と子供2人で住んでいたが、2008年、突然、辻被告の行方が分からなくなった。当時の夫は長距離トラックの運転手でほとんど県外に出ていたため、残されて街をさ迷っていた長男(当時14)と長女(当時13)を兄たちが引き取り、母親、兄、被害者の5人で暮らした。辻被告は2014年6月26日、北九州市内で保護された。迎えに行った家族が尋ねても、辻被告は黙っていたという。そして辻被告はまた行方不明になった。また失踪前、辻被告が姉から230~240万円を借りていた借用書が見つかったことも明らかになった。母親は2023年10月に亡くなった。 検察官から辻和美被告への気持ちを聞かれた兄は、質問にかぶせて即座に「もう死刑で良いと思います。人殺すぐらいだから」と答えた。 16日の第6回公判で被告人質問が行われた。辻被告は、犯行当日の6月2日、姉が住む水巻町の実家に戻り、借金を申し出たが、元々200万円ほど金を貸していた姉が怒り出したと述べた。そして、怖くなって準備していた催涙スプレーを顔面に噴射し、姉の両手足を結束バンドで拘束したうえで財布や通帳などの在りかを尋ね、通帳3冊、印鑑、車の鍵が入ったバッグを奪って姉の車で逃げたと述べた。その際、首を絞めたり、圧迫したことについては、改めて否定した。 また、当時の夫が長距離トラック運転手で家に帰るのが月に1~2回程度で、家庭のことや2人の子供の子育ての悩みから、子供を家において毎日閉店までパチンコに興じ、約200万円の借金を作ったと述べた。そして借金が返せなくなったため、2008年に家を出てホームレスになったと述べた。 辻被告は岡村被告との関係を「債権者と債務者」と述べ、送金の目的は「借金返済」と語った。岡村被告へ「なぜ送金したのか」との質問に辻被告は「借金をしていたから」と答える一方で、借用書は無く、どの位借りているかは知らないとし、「お金を返すことで頭がいっぱいで、深く考えることがなかった」などと話した。 送金したお金はどうやって稼いだかの質問について、辻被告は売春と答えた。岡村被告に出会い系サイトを教えてもらい、岡村被告が用意した携帯電話を使って客を捜したと述べた。辻被告は1日1,000~2,000円程度で暮らし、残りのお金については岡村被告と2人の子供の計6つの口座へ、岡村被告の指示通りに送金していた。岡村被告から逃げ、客の家に一緒に住んだりすることが何度かあったが、結局見つかり、ずるずると関係を続けることになったと述べた。 弁護人から「岡村被告は辻被告から送金された金を全部辻被告に返していると述べたが」との質問に、辻被告は一切もらっていないと答えた。 18日の第7回公判で、裁判官からの被告人質問が行われた。辻被告は、ねじったポリ袋などで首を絞めて殺害したとされていることについて「猿ぐつわをしようとしたが、姉の口から出ていた血が付いたので、痛いなと思ってすぐにやめた」などと述べた。さらに「袋が首に回った認識はないか」との問いに対しても「ありません」と答え、改めて殺害を否認した。 また裁判官は、路上生活や岡村被告への送金について質問。「岡村被告からお金を借りた覚えはあるか」との質問に「はい。家を出た後子供たちに、岡村被告の2人の子供のどちらかが団地のベランダから食料を入れており、それが借金となったのではないか」と答えた。 犯行を6月2日にした理由は、「前日が生活保護費の支給日で売春の客が多いことから次の日にした」と答えた。家を出てから一度も会っていない子供たちについては、「子どもに嫌な思いをさせた、可哀そうなことをした」と答えた。「岡村被告に思うところは」との質問に、辻被告は「いいえ、ありません」と答えた。 19日の論告求刑公判において検察側は、首を絞めるのに使ったポリ袋には辻被告の指紋が残っていることや、岡村被告が事件後に辻被告から「首を絞めたと伝えられた」と証言したことなどから、「辻被告が殺害の犯人だと推認できる」と指摘。そして「被害者から金品を奪おうと辻村被告と意を通じ、相互に協力しながら犯行を行った」と指摘した。さらに「何の落ち度もない被害者を一方的に暴行し、卑劣で残虐な犯行。自らの判断による犯行で、身勝手かつ自己中心的な犯行動機や経緯に情状酌量の余地はない」と述べた。 同日の最終弁論で弁護側は、「仲が良かった姉を殺害する理由がない」などとした上で、姉の殺害には「岡村被告が関与した疑いがある」と反論。「辻被告は岡村被告にだまされ、およそ20年にわたって5,800万円余りを送金していて、被告は知人から搾取され、被害者的立場だった。今回の事件もその延長線上にある」と主張。犯行事実は強盗罪にとどまるうえ、当初は強盗するつもりもなかったとして懲役5年が相当だと主張した。 最終意見陳述で辻被告は、「社会できちんと生活できるように頑張っていきたいと思います」などと述べた。 判決で武林仁美裁判長は、辻被告が事件直後に岡村被告に電話で「かっとなって首を絞めた」と発言したことや遺体の状況などを踏まえ、殺害の実行犯と認定。その上で、辻被告は岡村被告に20年間で約5,800万円を送金しており、今回の事件も金に困っていた岡村被告に金銭を融通するため、辻被告は自ら犯行器具を準備し暴行を加えたとし「犯情は極めて重い」と非難した。また、姉の預金から引き出した金のほとんどが岡村被告の手に渡ったことなどを認定し、岡村被告との共謀の成立も認めた。一方で岡村被告に脅されていたわけではなく、自らの意思でつきあいやホームレス生活を続け、借金や家族の問題から逃避していたことがうかがわれるとして、「自らの意思に反して服従を余儀なくされる立場にあったとは評価できない。量刑上、被告人に有利に考慮すべき理由は見いだせない」とし、情状酌量を認めなかった。また、「本件各犯行は全体を通じて相応に計画的で巧妙なものであり、このような本件各犯行に及んだ和美被告について、責任非難を減少させるほどの知的水準の低さは見られない」と、弁護側の主張を退けた。そして「金銭を得るという目的を達成するために考えられた計画的犯行であり、暴行の態様は執拗で残虐である」と指摘。姉が辻被告に金を貸していたことや、辻被告が置き去りにした2人の子供を、働きながら育てたことについてもふれ、「姉は辻被告から感謝されることはあっても悪感情を向けられる筋合いはないはずであり、なおも金を得ようとした辻被告によって命を奪われたというのはあまりに理不尽である」と述べた。 |
備 考 |
岡村被告の長女(判決時24)は奪われた金のうち現金40万円を受け取った組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)で起訴され、2024年2月9日、福岡地裁小倉支部(安陪遵哉裁判官)で懲役2年6か月、執行猶予4年、罰金50万円判決(求刑懲役2年6か月、罰金50万円)。控訴せず確定。 岡村被告の長男(判決時27)も同じ罪で起訴され、2024年2月27日、福岡地裁小倉支部(安陪遵哉裁判官)で懲役1年6か月、執行猶予3年、罰金50万円判決(求刑懲役1年6か月、罰金50万円)。控訴せず確定。 岡村恵美被告は辻和美被告と共謀したものの被害者への殺意はなかったとして、強盗致死などの罪で起訴。一審では「5,800万円は預かっていたていただけ」「辻和美被告に脅されていた」だけと主張。起訴内容を否認し、「マインドコントロールを受けていたのは岡村被告」「20年もの間、辻被告に脅され、何かを合意して行う関係ではなかった」と無罪を主張した。2024年12月12日、福岡地裁小倉支部(武林仁美裁判長)は懲役20年判決(求刑懲役27年)を言い渡した。弁護側の主張を退け共謀を認定。殺害は想定しておらず「辻被告と同等の非難を向けることはできない」としながらも「首を絞めたと聞きながら利益の大半を手にし、ためらいなく子に分け与えており、犯行は利欲目的で身勝手」と非難した。被告側控訴中。 被告側は控訴した。2025年2月18日、福岡高裁で被告側控訴棄却。 |
氏 名 | 河野智(56) |
逮 捕 | 2021年10月13日(現行犯逮捕) |
殺害人数 | 3名 |
罪 状 | 殺人、銃刀法違反 |
事件概要 |
本籍新居浜市、住所不定無職の河野智(さとる)被告は2021年10月13日午後5時45分頃、新居浜市に住む溶接工の男性(当時51)と男性の父親(当時80)、母親(当時80)の胸をナイフ(刃渡り12.7cm)で突き刺して殺害した。 河野被告は元同僚男性方に押し掛け、玄関先で男性の父親の包丁で刺して殺害した。午後5時38分、男性の母親から110番通報。パトカーが見えた母親は手招きをして室内に戻ったが、河野被告は室内で元同僚男性、母親を順に殺害した。5時47分、署員が現場に到着。1分後、ナイフを所持していた河野被告を銃刀法違反で現行犯逮捕した。 男性は体調を崩しており、両親と三人暮らしであった。 河野被告は鉄工所勤務など職場を転々とし、2017年ごろに男性と同僚だったことがあった。2021年9月下旬に家族から自宅を追い出され車上生活を始めていた。 河野被告は河野被告は2017年に監視・盗撮されたり、自分のことをインターネット掲示板に書き込まれていると感じるようになり、2019年ごろからかつての同級生などに「自分を悪く言っている人がいないか」と何度も電話をかけるようになった。そして元同僚の男性に電磁波を止めろなどと訴えるようになった。元同僚男性は2019年9月と11月、河野被告の対応について新居浜署に相談した。署は男性に、何かあればすぐに通報するよう助言した。 河野被告も2019年7月から2020年8月までの間に4回、元同僚男性から被害を受けていると相談。他にも2020年9月までに8回相談していた。署は被害を受けた事実はないとし、体調が悪いなら医療機関を受診するよう勧めた。また署は、当時の被告の言動から危害を加える恐れまではないと判断した上で、国の指針に基づき、西条保健所に福祉的支援のための情報を2019年11月から2020年9月まで計5回提供した。しかし河野被告や家族から相談がなかったため、通報内容などを踏まえ強制的な対応は取らなかった。事件後に県健康増進課は、「法律に基づく通報ではなく一般的な情報提供だった」とし、精神保健福祉法による調査や診察、措置入院などの対応は困難だったとの認識を示している。 2021年9月23日にも河野被告は男性方に押し掛けた、元同僚男性は不在で、両親の110番で駆け付けた署員が河野被告に口頭で注意していた。 10月15日、父親殺人容疑で再逮捕。11月4日、母親と元同僚男性殺人容疑で再逮捕。 松山地検は11月19日から2022年2月25日まで鑑定留置を実施。3月3日、殺人と銃刀法違反の罪で起訴した。 |
裁判所 | 高松高裁 佐藤正信裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2024年8月22日 無期懲役(被告側控訴棄却) 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
2024年6月18日の控訴審初公判で、弁護側は起訴前精神鑑定について、電磁波攻撃などを受けていたとの被告の訴えを妄想だと結論付けたのは誤りだと主張。殺害が3人に及んだことなどは正常な心理で理解しがたく、発病前後で人格が大きく変わっていないとの鑑定結果は不合理で、妄想型統合失調症の影響で心神喪失の疑いが残り無罪とするべきだと主張した。検察側は控訴棄却を求めた。佐藤正信裁判長は、弁護側の事実取り調べ請求を全て却下。被害者参加人の意見陳述も認めず、即日結審した。 判決で佐藤裁判長は、鑑定医は被告と約21時間面接するなどして訴えを把握し、親族からも話を聞いたとし、一審判決を「鑑定医証言を信用できるとし、責任能力判断の前提としたのは誤りでない」と評価。弁護側の再精神鑑定請求を「必要性がない」として却下したことにも、裁量権逸脱は認められないとした。心神耗弱とした妥当性について、犯行の邪魔になる周囲の人まで殺害するのは「正常な心理でもあり得ないことではない」と指摘。臨場した警察官に電磁波攻撃の話をしたことも「精神障害の影響を示す事情ではあっても、これのみをもって心神喪失であるとはいえず(一審の)判断を大きく左右しない」と述べ、弁護側主張をいずれも退けた。 判決の言い渡し後、河野被告は「電磁波攻撃はあるのか、ないのか」と裁判官席に問いかけた。佐藤裁判長は「あなたが攻撃を感じていたというのは事実だが、攻撃の有無は裁判のテーマではない。客観的証拠に基づかないまま犯行に及んだ責任が問われている」と補足説明した。 |
備 考 | 2023年12月18日、松山地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。 |
氏 名 | 周東由記(47) |
逮 捕 | 2022年8月19日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、銃刀法違反(発射、加重所持) |
事件概要 |
群馬県太田市の指定暴力団稲川会系3次団体組幹部周東由記被告は、2次団体組幹部の室田利通被告と2次団体組幹部N被告、親交のあった前橋市の無職N被告と共謀。2020年1月24日午後7時ごろ、桐生市に住む山口組系傘下組織組員の男性(当時51)の自宅アパート駐車場で拳銃1丁と実弾3発を所持し、2発発射して組員の頭と胸に命中させ、殺害した。周東由記被告殺害行為の実行役だった。 室田被告らが所属する2次団体と、被害者が所属する傘下組織はともに太田市を拠点としており、抗争には至っていないが、しのぎを巡ってもめており、組員同士の衝突が複数回あった。 群馬県警は2022年8月19日、殺人と銃刀法違反(発射、加重所持)容疑で室田被告ら4人を逮捕した。 |
裁判所 | 東京高裁 伊藤雅人裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2024年9月6日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 | 裁判内容は不明。 |
備 考 |
金属バットを持つ援護役だった無職N被告は起訴事実を概ね認めるも、共謀の成立時期について争った。2023年10月16日、前橋地裁(山下博司裁判長)の裁判員裁判で懲役20年判決(求刑懲役25年)。その後は不明。 実行役らの送迎役などを務めた稲川会系2次団体組幹部N被告は2024年11月12日、前橋地裁(山下博司裁判長)の裁判員裁判で懲役18年判決(求刑懲役20年)。その後は不明。 室田利通被告は2025年2月28日、前橋地裁(山下博司裁判長)の裁判員裁判で判決予定(求刑無期懲役)。 2024年2月1日、前橋地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。 |
氏 名 | 瓜田太(61) |
逮 捕 | 2014年10月1日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、殺人未遂、銃刀法違反、組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)、器物損壊 |
事件概要 |
特定危険指定暴力団「工藤会」系組幹部で理事長補佐でナンバー4の瓜田太被告は、他の被告と共謀して以下の事件を起こした。
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裁判所 | 福岡高裁 市川太志裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2024年9月12日 無期懲役(被告側控訴棄却) 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
2024年6月20日の控訴審初公判で、弁護側は「一連の工藤会裁判は、結論ありきの裁判」とした上で、全事件について「共謀していない」と事実誤認があるなどとして無罪を主張した。検察側は「論理則経験則に照らして合理的で弁護人の主張には理由がない」として控訴棄却を求めた。弁護側は証人尋問などの証拠調べを申請するも、市川裁判長は全て却下し、即日結審した。 判決で市川裁判長は、瓜田被告が配下の組員にバイクを用意させたり、実行役を逃走させるように指示したりしていたことを追認。一部の事件では指示役として中心的な役割も果たしたと認めた上で「共謀及び故意も認められるとした1審判決は正当で、論理則、経験則に照らして不合理な点はない」と結論付けた。 |
備 考 |
福岡県は、税優遇措置がある宗教法人の設立などを定める宗教法人法の第22条の法人役員の欠格事由に「暴力団員等」を追加▽解散命令の要件に「暴力団員等がその事業活動を支配するもの」-といった暴排規定を同法に盛り込む措置を考案した。兵庫県や宮城県、沖縄県など8件も賛同。2018年から毎年、福岡県の先導で内閣府に追加の要望を出しているが、内閣府は「ここ10年、宗教法人に暴力団が関与したような事例は聞いていない。現時点で制度改正による実効性は薄い」として応じていない。 工藤会の組員が関係した事件のうち、福岡県警が2014年9月11日に開始した「頂上作戦」以後、主に死刑や無期懲役判決を受けた受刑者、被告人(一部例外除く)が関与した事件の一覧ならびに判決結果については、【工藤會関与事件】を参照のこと。 2023年5月10日、福岡地裁で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。 |
氏 名 | メンドーザ・パウロ・ネポムセノ(41) |
逮 捕 | 2022年5月2日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、非現住建造物等放火、死体損壊 |
事件概要 |
フィリピン国籍で群馬県みどり市に住む工場作業員のメンドーザ・パウロ・ネポムセノ被告は2022年3月30日、近所に住む無職男性(当時73)方で棒状の物で頭や顔、胴体を多数回殴り、鼻骨などの骨折による出血の気道内吸引などで窒息させて殺害し、現金約16万6千円とネックレス1本(時価45万8,200円相当)を奪った。犯行の形跡を隠すため、遺体にかぶせた毛布などに灯油をまき、ライターで火をつけて遺体の一部と住宅を焼いた。 火災を知らせる近隣男性の119番通報があり、駆けつけた消防隊員が、木造2階建て住宅の1階居間に男性が倒れているのを見つけた。男性は病院で死亡が確認された。男性が何者かに殺害された疑いが強まったとして、県警は、4月2日に殺人・放火事件として桐生署に捜査本部を設置した。 防犯カメラの解析などから、2021年6月から被害者と面識があったメンドーザ被告の関与が浮上。メンドーザ被告は2019年9月に短期滞在の在留資格で入国したままであったことから、桐生署は4月8日に入管難民法違反(不法残留)の疑いで現行犯逮捕。19日には同罪で起訴。 捜査本部は5月2日、強盗殺人容疑でメンドーザ被告を逮捕した。5月24日、現住建造物等放火容疑で再逮捕。前橋地検は6月15日、強盗殺人と非現住建造物等放火、死体損壊の罪で起訴した。 |
裁判所 | 東京高裁 大善文男裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2024年9月24日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
弁護側は、暴行の時点で強盗の意思があったことや殺意などを認めた一審判決には事実誤認があるとし、傷害致死と窃盗の罪にとどまると主張。 判決で大善裁判長は「原判決の判断は、被害者の損傷状況などを踏まえた合理的な推論。事実の誤認はない」と退けた。 |
備 考 |
奪ったと知りながらメンドーザ・パウロ・ネポムセノ被告から現金を受け取ったとして組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)の罪に問われた交際相手のフィリピン国籍の女性は2022年7月15日、前橋地裁(柴田裕美裁判官)で懲役2年執行猶予4年判決(求刑懲役2年)。メンドーザ被告の態度から受け取りを拒否できなかった点などを考慮した。控訴せず確定。 2024年1月11日、前橋地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。2025年3月11日、被告側上告棄却、確定。 |
氏 名 | 西原崇(41) |
逮 捕 | 2018年2月13日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、強制わいせつ致死 |
事件概要 |
松山市の運送会社員、西原崇被告は2018年2月13日午前4時35分~午前5時50分ごろ、今治市の段ボール製造販売会社の敷地内で、同僚の女性(当時30)の首を両手で絞め、タイツをはぎ取るなどわいせつ行為をし、首をタイツで絞めて殺害した。 女性は同日未明、荷物を配送するため、一人で段ボール製造会社に向かった。西原被告は同日早朝、女性と合流して仕事を手伝う予定だった。 帰社予定だった午前中に戻らず、連絡も取れなくなったため、会社の上司が13日午後、西条署に行方不明届を提出。県警が、女性が仕事をしていた段ボール製造会社を捜索した際、遺体が見つかった。会社の敷地や建物は人が出入りしていたが、遺体があったのは人目につきにくい場所だった。 県警は13日午後、西原被告から任意で事情を聴き、同行した現場で逮捕した。 |
裁判所 | 最高裁第三小法廷 石兼公博裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2024年10月1日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | 小法廷は「事実誤認、量刑不当の主張であって、刑訴法405条の上告理由には当たらない」として上告を棄却した。 |
備 考 |
2018年11月13日、松山地裁(末弘陽一裁判)の裁判員裁判で求刑無期懲役に対し、一審懲役19年判決。2019年12月24日、高松高裁(杉山慎治裁判長)で一審破棄、地裁差戻し。2020年7月29日、最高裁第二小法廷(岡村和美裁判長)で被告側上告棄却、地裁差戻し確定。 2023年3月10日、松山地裁の差戻し裁判員裁判で、求刑通り一審無期懲役判決。2024年1月18日、高松高裁で被告側控訴棄却。 西原受刑者に対し、遺族は約1億3,000万円の損害賠償を求める民事訴訟を起こした。2024年12月25日、松山地裁(古市文考裁判長)は刑事裁判同様に西原受刑者の殺意を認定。約6,100万円の支払いを命じた。 |
氏 名 | 今泉俊太(33) |
逮 捕 | 2021年1月9日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗致死、死体遺棄、監禁 |
事件概要 |
住所不定、古物商、今泉俊太被告は2022年6月1~3日、広島県海田町に住む自営業の男性(当時71)の事務所で、監禁した男性を暴行して死なせた。さらに広島県南区の飲食店従業員K・M被告、広島市安佐南区の無職K・E被告、広島県西区の無職M・Y被告、広島県東広島市の無職F・Y被告、広島県安芸郡府中町のネイリストK・A被告、住所不定で指定暴力団山口組系の組員I・K被告と共謀し、男性から現金約11万円を奪った。さらにK・M被告、K・E被告、I・K被告と共謀。K・E被告の車で今泉被告とI・K被告が男性の遺体を車で埼玉県内か周辺へ運び、遺棄した。男性の遺体は見つかっていない。 広島県内に住む5人の女性は自営業の男性に、「ビットコインの運用をし、預けた現金の10%を毎月配当して元金を2.5倍にして返す」という高利回りの投資話を持ち掛けられ、それぞれ90万円から2,000万円、合計約3,900万円を預けていた。しかし配当が滞ったことから詐欺の可能性を疑い、資金を回収しようと男性に説明を求めた。このときK・M被告がSNSを通じて協力を依頼したのが、「債権回収屋」グループに所属していた今泉被告とI・K被告であった。今泉被告らは、回収した金額の4割を報酬として受け取ることで依頼を受けた。 6月1日夜、女性5被告と今泉被告とI・K被告は広島市内の百貨店内のレストランに自営業男性を呼び出し、「運用の内容を見せてくれ」と迫ったが、男性は拒否。今泉被告とI・K被告が自営業男性を囲み、午後7時40分ごろから午後8時10分ごろまでに男性の事務所まで車で移動。車内で今泉被告とI・K被告、K・M被告が脅迫したうえ、今泉被告が暴行。さらに午後8時10分ごろから午後8時45分までの間、男性の事務所で今泉被告、K・M被告が脅迫したうえ、今泉被告が暴行。多数回殴るなどの暴行を加えた。男性は詐欺を認め、現金は既に残ってなく返金できないと訴えるも今泉被告はさらに暴行。午後8時45分ごろから翌2日午後1時10分ごろまでの間、事務所で男女7被告が男性を問いつめながら「1000万返せや」「死んで生命保険で払えば」などと脅迫して、事務所を物色したうえ、11万円を奪い取った。この一連の暴行で男性は死亡したとされる。 6月2日午後8時半頃、男性の妻の親族から「男性が帰ってこない」と110番があり、事件が発覚した。ビル周辺の防犯カメラ映像の解析などを進め、7月上旬までに30、40代の男1人(今泉俊太被告)と女5人を監禁の疑いで逮捕した。そして指定暴力団山口組系の組員の男を監禁容疑で指名手配した。県警は埼玉県秩父市の山中などを8か月にわたり捜索した。男性を運んだとみられるK・E被告の車は周辺でつぶれた状態で発見されたが、男性は見つからなかった。 広島県警は指名手配を理由に事件を公表しなかったが、一部被告の裁判が始まることから、10月4日に初めて公表した。 11月29日、北海道でI・K被告を監禁容疑で逮捕した。 2023年1月23日、広島県警は今泉被告、I・K被告、K・M被告、K・E被告を死体遺棄容疑で再逮捕。後に4被告とも起訴された。 2月13日、広島県警は男女7人を強盗致死容疑で再逮捕。3月6日、広島地検は今泉被告とK・M被告を強盗致死罪、他の5被告を強盗罪で起訴した。 |
裁判所 | 広島地裁 後藤有己裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2024年10月10日 無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
監禁容疑で逮捕された今泉俊太被告は、2022年10月14日、広島地裁(藤丸貴久裁判官)の初公判で、起訴事実を認めた。 11月29日の公判における被告人質問で、弁護側から監禁時の被害者に対する暴力の内容を問われた今泉被告は「あばらを折る」などと脅したものの実際には「左肩のあたりを数回殴っただけ」などと話した。検察側からは「共犯者との関係性」などについて問われたが、被告は全ての質問に対し黙秘した。 その後の公判は延期となった。 裁判員裁判。 2024年7月16日の初公判で、今泉俊太被告は起訴内容について「監禁については事実を争わないが、強盗致死と死体遺棄には間違いがある」と一部否認した。 検察側は冒頭陳述で、「今泉被告は回収屋として依頼され広島を訪れ、門被告とともに被害者に暴行を加え、事務所で現金を奪った」と指摘。事件当時の音声データなどの証拠を示し、「今泉被告の暴行によって被害者が死亡し、被告らは毛布に来るんだ被害者の遺体を車に乗せ、舌間兼周辺に運んだ」と主張した。 弁護側は「監禁や暴行と脅迫については事実を争わない」としたものの、「暴行などは取引履歴を見せてもらうための行為で現金は奪っておらず、埼玉県内に連れて行った時点で被害者は死んでいない」などと主張した。 8月1日の論告で検察側は、犯行は「拷問というべき残酷な態様」と非難。「主導的な立場で役割は重大。無抵抗な被害者に手加減なく一方的な暴力を振るった。非合法な債権回収による報酬を目的とした犯行で反省の態度も見られず、情状酌量の余地はない」と主張した。 同日の最終弁論で弁護側は、暴行は右腕を30~40回殴打しただけで「被告の暴行ではけがをしていない」などと主張。被告が事務所から運び出した時点で被害者が亡くなっていたとする証拠や、共犯者の証言の信憑性が十分でないと指摘。強盗致死や死体遺棄ではなく、監禁と暴行、脅迫の罪に当たると主張した。 最終意見陳述で今泉被告は、「男性に暴力を振るったことは大変申し訳なく思っている」と述べた。 判決で後藤有己裁判長は、被告人は被害者におよそ50回の暴行を加え、体に重い傷害を生じさせたとして、「被告人の暴行による外傷性ショックによって死亡したと考えるのが最も合理的である」と指摘。さらに、「被害者を死亡させた責任はほぼ全て被告人が負うべきものである。遺体が、いまだ発見されていないことや、反省しているとはいえないことなどを考慮すると酌量減軽をするべき事案とはいえない」と述べた。 |
備 考 |
監禁罪に問われた広島県南区の飲食店従業員K・M被告は2022年11月10日、広島地裁(藤丸貴久裁判官)で懲役1年4カ月・執行猶予3年判決(求刑懲役1年6月)が言い渡された。「犯行全体に積極的に関与し、共犯者全員の中でも比較的中心的な立場」とされるも、今泉被告らと比べ「果たした役割はやや小さい」と、執行猶予が認められた。控訴せず確定。 さらに強盗致死罪、死体遺棄罪に問われたK・M被告は2024年7月11日、広島地裁(角谷比呂美裁判長)で懲役11年判決(求刑懲役14年)が言い渡された。広島地裁は被告の無罪主張を退け、「被告は共犯者が暴行を加えるのを止めることなく現金や金庫を探し続けた」などとして被告には強盗致死罪が成立すると指摘。「被告は、暴力を用いてでも投資金を回収しようとし自己中心的な考え方がみて取れる」と述べた。被告側控訴中。 監禁罪、死体遺棄罪、強盗罪に問われた住所不定で指定暴力団山口組系の組員I・K被告は2024年3月19日、広島地裁(後藤有己裁判官)で懲役6年判決(求刑懲役8年)が言い渡された。被告は強盗罪を否認していたが、広島地裁は「共犯者の1人が被害者に暴力を振るったのを認識した上で、金銭を回収する目的を継続して有していた」などとして強盗の共謀を認めた。控訴せず確定。 監禁罪、死体遺棄罪、強盗罪、覚せい剤取締法違反に問われた広島市安佐南区の無職K・E被告は2023年12月26日、広島地裁(後藤有己裁判官)で懲役3年10か月判決(求刑懲役7年)が言い渡された。検察側からは「債権回収屋を広島に呼び寄せた張本人だ」と指摘されていた。広島地裁は強盗の共謀を認めた上で「被害者が負傷して抵抗できない状態を認識しつつ、現金を強取したことは法を軽視する態度で非難されるべき」と述べた。また、死体遺棄については「死体の運搬車両を提供した重要な役割を果たしているが、運搬先や方法は知らされておらず関与は従属的」などとした。その後は不明。 監禁罪に問われた広島県安芸郡府中町のネイリストK・A被告は、2022年10月27日、広島地裁(藤丸貴久裁判官)で懲役8か月・執行猶予2年(求刑懲役1年)判決が言い渡された。「被告人の関与の度合いは格段に低い」とされた。控訴せず確定。 さらに強盗罪に問われたK・A被告は、2023年6月29日、広島地裁(後藤有己裁判官)で懲役2年6か月・執行猶予4年判決(求刑懲役2年8か月)が言い渡された。「共犯者の中では従属的な立場だった」とされた。その後は不明。 監禁罪に問われた広島県西区の無職M・Y被告は2022年10月28日、広島地裁(藤丸貴久裁判官)で懲役8月・執行猶予2年判決(求刑懲役1年)が言い渡された。控訴せず確定。 さらに強盗罪に問われたM・Y被告は2023年11月29日、広島地裁(後藤有己裁判官)で懲役2年6か月・執行猶予4年判決(求刑懲役2年8か月)が言い渡された。「財産的な利益を得ておらず、従属的な立場だった」とされた。2024年6月13日、広島高裁で被告側控訴棄却。その後は不明。 監禁罪に問われた広島県東広島市の無職F・Y被告は2022年11月2日、広島地裁(藤丸貴久裁判官)で懲役10か月・執行猶予2年判決(求刑懲役1年)が言い渡された。F被告の母も、自営業男性に金を預けていた。「犯行全体に対する関与の程度は共犯者の中では比較的低い」とされた。控訴せず確定。 さらに強盗罪に問われたF・Y被告は2023年11月16日、広島地裁(後藤有己裁判官)で懲役2年8か月・執行猶予4年判決(求刑懲役2年8か月)が言い渡された。その後は不明。 被告側は即日控訴した。 |
氏 名 | 須江拓貴(27)/小松園竜飛(33)/酒井佑太(28) |
逮 捕 | 2019年3月13日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 |
須江被告:窃盗、住居侵入、窃盗未遂、強盗、建造物侵入、強盗致死 小松園被告:窃盗、住居侵入、強盗、建造物侵入、強盗致死 酒井被告:強盗傷人、窃盗、建造物侵入、強盗致死、詐欺、窃盗 |
事件概要 |
住所不定、無職の須江拓貴被告、酒井佑太被告と川崎市の土木作業員、小松園竜飛被告は共謀して、以下の事件を起こした。
4月25日、須江被告、酒井被告、小松園被告を長野の事件の窃盗と建造物侵入容疑で再逮捕。 5月22日、須江被告、小松園被告、T被告を渋谷区の事件の強盗と住居侵入容疑で再逮捕。 6月26日、須江被告、小松園被告、T被告を埼玉の事件の窃盗と建造物侵入容疑で再逮捕。O被告を同容疑で逮捕。 7月17日、O被告を渋谷区の事件の強盗容疑で再逮捕。 9月12日、須江被告、T被告、O被告を越谷市の事件の窃盗未遂容疑で再逮捕。 10月28日、酒井被告を横浜市の詐欺、窃盗容疑で再逮捕。 2020年7月、酒井被告と他の4人を、大阪の強盗傷害で逮捕(後にさらに1人逮捕)。 |
裁判所 | 東京地裁 香川徹也裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2024年10月22日 無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
差戻し裁判員裁判。 2024年9月10日の初公判で、3被告はいずれも「事実に間違いありません」と起訴内容を大筋で認めたが、意図的に暴行は加えていないとして、女性の死因について改めて争う姿勢を示した。 検察側は冒頭陳述で、 「被害者が高齢であることを認識しながら、激しく抵抗する被害者に対し、手足を緊縛し、口を粘着テープで塞ぎ、少なくとも1人が頭部を圧迫するなど強度の暴行を加えて被害者を死亡させたのであって、被害者が被告人たちの暴行が原因で死亡したのは明らかだ」と主張。「差し戻された裁判は破棄判決の拘束力が働く」と主張した。 弁護側は「意図的に頸部を圧迫して死なせたわけではない」として「無期懲役は重すぎる」と訴えた。 10月10日、弁論。 判決で香川裁判長は、「まず小松園被告人が玄関ドアを開けた被害者を仰向けに倒して、馬乗りになって押さえ付け、須江被告人が被害者の足を粘着テープで緊縛し、小松園被告人と須江被告人が被害者の口と手を粘着テープ等で緊縛した」 「酒井被告人は、途中で被害者を落としてしまい、そのあとは引きずるように運んでいた旨供述しており、その後も横たわった状態で唸り声をあげる被害者に対して『うるせぇババァ』などと言ったり、被害者の手を払いのけたりした」と犯行を再現。そして「被害者は2カ月程前に実施した心臓検査の結果も問題があるものでなかった。当時80歳で自立して生活していた被害者は、犯行がなければ、この時点で命を落とすことはなかった」とし、解剖医の所見などから「首を圧迫する暴行は間違いなく認められる」「被告らの暴行が原因で死亡した」と認定した。 そして「激しく抵抗する被害者を乱暴に扱い、その結果、亡くなったという痛ましい事件だ。意図的ではなくとも出血を伴うほどの暴行で、悪質性が低いことにはならない」と判断。4カ月間で窃盗や強盗事件などを繰り返しており、「安易に金を手に入れたいという欲求から犯罪性をエスカレートさせていった経緯には悪質さが際立っている。刑事責任は相当に重い。3人はいずれも私利私欲のために重大犯罪を実行に移したとして、量刑に差をつけないのが相当」として無期懲役を言い渡した。 |
備 考 |
T被告は不明。 建造物侵入、窃盗、住居侵入、強盗、窃盗未遂容疑で起訴されたO被告は、2020年2月17日、東京地裁で懲役9年判決(求刑不明)。2020年9月25日、東京高裁で被告側控訴棄却。上告せずに確定している。 O被告は他の4被告と共謀して2019年2月25日、千葉県山武市の製材工場に金品を奪う目的で侵入。O被告とY被告は、寝泊まりしていた実質的経営者(当時71)の口や鼻を粘着テープで塞ぐなどの暴行を加え、窒息か急性心不全で死亡させた。2020年7月16日に強盗殺人容疑で逮捕され、8月7日に強盗致死他の容疑で起訴された。2022年3月18日、千葉地裁の裁判員裁判でY被告に懲役28年(求刑無期懲役)、O被告に懲役26年(求刑無期懲役)判決。2023年4月13日、東京高裁で検察・被告側控訴棄却。その後は不明。 2021年3月9日、東京地裁の裁判員裁判で須江拓貴被告に懲役28年、小松園竜飛被告と酒井佑太被告に懲役27年判決(求刑はいずれも無期懲役)。守下実裁判長は、争点となった女性の死因について「事件によるストレスで、持病の慢性心不全が悪化して死亡した」と認定した。 2023年1月25日、東京高裁で一審破棄、差し戻し判決。伊藤雅人裁判長は、慢性心不全を死因とした一審判決の事実認定は「不合理」と批判。事実誤認に基づく誤った評価で刑が減軽された一審判決は「破棄を免れない」と結論した。【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) 2023年7月5日、最高裁第二小法廷(尾島明裁判長)で被告側上告棄却、差戻し確定。 3被告側は控訴した。 |
氏 名 | 木村進(53) |
逮 捕 | 2024年1月10日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人 |
事件概要 |
茨城県日立市の無職・木村進被告は2023年2月3日午後1時4分ごろ~同18分ごろの間、金品を奪う目的で、いわき市の自宅にいた女性(当時85)の頭などをくぎ抜きの付いたハンマーで多数回殴って殺害した。女性は一人暮らしだった。 木村被告は事件前の一時期、女性が所有する同市の住宅に居住しており、2人に面識があった。 同日夜、別居する女性の長男が電話がつながらないことを不審に思って訪れたところ、1階の廊下で倒れている女性を発見し、警察に通報した。 捜査本部は現場の遺留品、周辺のドライブレコーダーや防犯カメラなどの解析の結果、事件発生後の早い段階で木村容疑者が事件に関与した可能性があるとみて捜査。 木村進被告は2023年2月3日、本事件を起こす前に茨城県常陸太田市の空き家に窃盗目的で侵入したが、未遂に終わった。福島県警は3月、木村被告を同事件の邸宅侵入と窃盗未遂の容疑で逮捕し、5月には県内での道交法違反(無免許運転)の疑いで再逮捕した。同年8月に地裁いわき支部で懲役2年の判決を受けて福島刑務所で服役した後も証拠を集め、女性を殺害した容疑が固まったことから、2024年1月10日、強盗殺人容疑で服役中の木村被告を逮捕した。 |
裁判所 | 福島地裁郡山支部 下山洋司裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2024年11月6日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2024年10月29日の初公判で、木村進被告は「ハンマーでたたいたことは認めるが、物色したり、物を盗んだり、荒らしたりはしていない」と起訴内容の一部を否認した。 検察側は冒頭陳述で、木村被告が以前、女性所有の一軒家を貸借していたことから「(女性に)家賃収入があることを知っていた」とした。その上で木村被告が2022年から無職となって生活保護を受給し、妹から借金をするなど、困窮した生活状況にあったため金品を奪おうと考えたと主張。木村被告がホームセンターでハンマーや粘着テープなどを購入して向かい、玄関前の廊下で女性を多数回殴って死亡させたあと靴を履いたまま家の中を物色。その後、ハンマーを河川に投棄したとした。別の場所で計画を記したとみられるメモが発見された点などから「殺害する際に金品を奪おうと考えていた」と犯行の計画性・悪質性を指摘した。 弁護側は、被告が女性に借金の3,000円を返そうと訪問した際、女性が廊下で何者かに殴打されて倒れた状態で「生存確認をしたがパニックになり、瀕死の状態だった女性をハンマーで殴った」とし、「他に犯人が潜んでいると考え家の中を徘徊し、盗んだ物もない。強盗殺人ではなく殺人罪にとどまる」と主張した。 証拠調べで、検察側は事件現場となった住宅の中には複数の靴の跡があったこと。またリビングには香典袋や祝儀袋が散乱し、テーブルの上には開いたままの財布が置かれていたことなど、物色された形跡があることを現場の写真などをもとに示した。 31日の論告で検察側は、「女性を殺害した直後に家の中を土足で物色していて、女性宅の引き出しが開き、現金の入っていない祝儀袋が散乱していた。強盗以外に動機は見当たらない」と指摘。資産を有していた被害者を狙った計画的な犯行で、尊い命が奪われた結果は重大と述べた。 同日の最終弁論で弁護側は、「被告が被害者の自宅を訪れたのは借金3,000を返済するため」だったなどと主張し、「金品を奪う意思は認められず、殺人罪にとどまる」と訴え、懲役14年を求めた。 最終意見陳述で木村被告は「どのような結果になろうと女性の冥福を祈りながら、一生背負い続けて罪を償って参りたい」など述べた。 判決で下山裁判長は、防犯カメラの映像を踏まえ、女性の生存が最後に確認されてから、木村被告が女性方を訪れる約1時間の間に第三者が危害を加えることは「容易には想定できない」と指摘。部の複数の傷は、いずれも木村被告のハンマーによるものと考えて矛盾しない、という解剖結果から第三者による可能性を否定した。その上で、手袋とハンマーを事前に用意して短時間で殴打と部屋の物色に及んでいることなどから「被告は経済的に困窮していて、犯行を短時間で手際よく行っていることから、強盗も辞さない計画のもとに物色をし、女性を殺害する際、金品を奪おうと考えていたと認められる」と認定し、「パニック状態で被害者を殴ったという被告の供述は信用できない」とした。そして「極めて危険な強固な殺意に基づく犯行で、再犯の可能性も認められる。罪を軽くするために終始不合理な弁解をし、真実を話すことを望む遺族の思いに全く応えていない。尊い命が奪われた結果はあまりに重い」と述べた。 |
備 考 | 被告側は控訴した。 |
氏 名 | 永田陸人(23) |
逮 捕 | 2023年1月21日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 住居侵入、窃盗、強盗傷人、強盗殺人未遂、建造物侵入、強盗致死、強盗予備、窃盗未遂 |
事件概要 |
本籍京都市の永田陸人被告は石川県内で土木関係の仕事をしていたが、競艇にのめり込み消費者金融や闇金から借金を重ねた。借金返済と競艇の元手を得るため、2022年11月上旬にTwitter(現X)にて「闇バイト」募集に応募。一連の「ルフィ広域強盗事件」のうち、下記の事件に関与した。
2月22日、〈狛江市強盗致死事件〉における強盗殺人と住居侵入容疑で逮捕。3月16日、強盗致死と住居侵入の罪で起訴。 5月10日、〈足立区強盗予備事件〉における強盗予備と窃盗未遂容疑で再逮捕。 6月14日、〈大網白里市強盗致傷事件〉における強盗傷人と建造物侵入容疑で再逮捕。 8月9日、〈広島市西区強盗致傷事件〉における強盗殺人未遂と住居侵入容疑で再逮捕。8月30日、強盗殺人未遂と強盗傷人、住居侵入の罪で起訴。 9月28日までに〈秦野市窃盗事件〉における住居侵入と窃盗容疑で再逮捕。 |
裁判所 | 東京地裁立川支部 菅原暁裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2024年11月7日 無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2024年10月18日の初公判で、永田陸人被告は「間違いありません」と起訴内容を認めた。 検察側は冒頭陳述で、永田被告が22年11月上旬にSNS(ネット交流サービス)で「闇バイト」を探し、「キム」と名乗る指示役と知り合い、複数の強盗事件に加わるよう誘われたと明らかにした。また狛江の事件で、永田被告が他の実行役にバールで女性を殴るよう指示したり、自らも「家を燃やすぞ」と脅して金品の場所を聞き出そうとしたりしたと指摘。「果たした役割を重視すべきだ」と述べた。 一方で弁護側は、事件の計画立案は指示役によるもので、「実行役の中ではリーダー格だったが、あくまで指示役の駒だった」と主張した。一方、「被告人自身、自分のしたことが取り返しのつかないことであると自覚しており、厳しい処罰が下されるべきだと思っています。被告人はありのままを正直に話していきます。それが責務だと思っているからです。量刑のことを考えているわけではありません。すすんで話したくないような悪い行動や振る舞いが語られることがありますが、それは被告人が、正直に話すのが責務だと考えてのことです」と述べた。 10月21日の第2回公判で、〈広島市西区強盗致傷事件〉について被告人質問が行われた。永田被告は弁護側から強盗の具体的な手順について問われると、「やり方などは指示役のキムの指示だった」と説明した一方、犯行に使ったモンキーレンチについては「それがあるとすぐに住人を制圧できると思った」と述べ、指示役のキムに用意するよう提案したと明かした。さらに、男性をモンキーレンチで殴った理由については、別の実行役が男性を拘束できず、自らも加勢した当時の状況を説明し、「自分が加わったのにむしろ反抗されていた」「リーダーの立場で頼りにされていたのに、メンツがつぶれると思った」と話した。弁護側から次々と強盗事件に関与していった理由について問われると、「中野の事件では証拠を残しており、どうせパクられる(逮捕される)と思った。ですが強盗で逮捕されて何年刑務所に入るか知識がなく、強盗の法定刑が5年以上だったと見たので、5年だと思い込み、強盗したら5年で済むという感覚になりました。パクられても5年。一般人の方に暴力を加えることは自分の主義に反するが、もういいわと自暴自棄になり参加しました。加えて競艇に注ぎ込む金も欲しかった」と述べた。 23日の公判で、〈狛江市強盗致死事件〉について被告人質問が行われた。永田被告は「指示役から『一発喝を入れてきて下さい』などと言われ、女性の胸倉をつかみ、顔を殴った。『娘や息子を殺すぞ』などと脅した」「別の実行役に対して、『さっさと金のありかをはかせろ』と指示した」などと証言した。そして「指示役からの指示であってもそれを聞いたうえでどうするか自分で判断している。事件の全ての責任は私にある」と述べた。さらに女性が亡くなったと聞き、「もう後戻りできないなと思った。何も悪くない一般人を殺すのは人間じゃないし、クズで終わったなと思った。人生というより、自分自身が終わったなと」と証言した。 そして自らの量刑について、「遺族の苦しみは一生続く。被害者は未来を奪われたのだから死刑じゃないと償えないと思う」と述べたうえで、被害者や遺族に対しては「言葉にならない。ごめんなさいしか言えないです」と声を詰まらせ涙ながらに謝罪した。また今後について、「こんな人のことを傷つけるだけの人生なんて嫌でした。自分が闇バイトをしてどうなったかを包み隠さず社会に発信したい」などと述べた。 24日、〈狛江市強盗致死事件〉で亡くなった女性の遺族が、代理人弁護士を通じて意見陳述しました。「母は何を思って死んでいったのか、考えない日はない」「母の死に際のうめき声を忘れないでほしい。極刑を希望します」と訴えた。さらに〈広島市西区強盗致傷事件〉の被害者の意見陳述を検察官が代読。「息子が最も大きな犠牲となり、後遺症などで24時間の介護と見守りが必要になった」と事件後の生活について語り、「(永田被告を)絶対に許しません。息子の苦しみ以上の報いを極刑という形で与えてほしい」と訴えた。 同日の論告で検察側は、犯罪者集団を中心に闇バイトの応募者で構成した組織性の高い犯行と指摘。その上で永田被告について「大金欲しさの動機は身勝手。実行役のリーダー格として役割は重大だ。苛烈な暴行を加える犯罪グループになっていくことに寄与した」と非難した。さらに被害者が唯一亡くなった狛江事件について「別の実行役に指示してバールで抵抗できない高齢女性を殴らせる」などしたと指摘。「手っ取り早く大金を得ようと強盗に加わった動機は身勝手。残虐で極めて悪質な犯行だ。平穏な生活を突如奪われた恐怖、無念、苦しさは計り知れない」と断じた。ただ、「真相解明に寄与している」と認めた。 同日の最終弁論で弁護側は、永田被告は借金返済に迫られて闇バイトに参加したと説明。当時21歳と未熟で、「被告人は自分の意思で全て行ったと主張するが、第三者から見れば指示役が被告人をわずかな報酬でつり、駒として利用したのは明らかだ。被告は内省を深め、自分が奪ったものがどれだけ大きかったのか日々考えるようになった。反省し、更生していくと信じている」として、有期刑を求めた。 最終意見陳述で永田被告は泣きながら「私は自分で決めた。私の意思でやりました」と弁護側の主張を否定。「私のやった役割は重大で、私のせいで凶悪な強盗になり、私のせいでエスカレートさせていった。私が加わることで悪い方向になっていたと思います」と述べた。さらに裁判員に対し、「無期懲役では、私が責任を果たすことができない。この裁判は裁判員裁判、一般の裁判と違う点は被害者の処罰感情が反映されるものです。被害者遺族の心情のみを考えてください。責任を果たすには無期懲役ではなく死刑が相応しいと強く望みます。極刑を下してください」と述べた。 判決で菅原裁判長は、一連の事件について、指示役がSNSを通じて実行役を募って役割を分担させ、秘匿性の高いメッセージアプリを使った連続強盗であり、「計画的で悪質だ」と指摘した。そして永田被告が実行役のリーダー格を務め、「犯行を成功させるため時には指示役の指示にも従わず、臨機応変に自らの判断で他の実行役を指揮していた」と指摘。狛江市の事件では現金のありかを聞き出そうとした被告らが住人の女性をバールで何度も殴り、現金の保管場所を聞き出すために「家族を殺す」「家を燃やす」と言って、更に暴行を加えたと指摘。女性が20カ所以上を骨折していた点を挙げ「犯行は拷問ともいうべき執拗で極めて残忍なものだ。突然、自宅に押し入られて緊縛され、苛烈な暴行を受けながら詰問され続けた恐怖、 苦痛がいかほどかは想像を絶するというほかない」と非難した。 量刑については、被告が被害の深刻さを理解しようと努め事件を悔いているとしつつも、「一連の事件において永田被告は致命的な暴行を自ら行い、または主導し、実行役の中で責任が際立って重いうえ、指示役の指示にただ従っていたわけではなく、他の実行役を指揮し果たした役割は相当大きい」として「有期懲役刑を選択すべきほどのものとは言えない」と結論づけた。 菅原裁判長は最後に、「被害者や家族に償いようのない結果を与えた犯罪で、決して許されるものではありません。あなたに謝罪の気持ちがあるなら、重大な結果を忘れることなく、 罪の深さや償いとして何ができるのか、刑に服している間ずっと考え続けて欲しい」と諭した。 |
備 考 |
※共犯者他の判決結果は【ルフィ広域強盗事件】参照。 被告側は控訴した。2025年3月31日付で控訴取下げ、確定。 |
氏 名 | 渡辺健(31) |
逮 捕 | 2021年11月8日 |
殺害人数 | 2名 |
罪 状 | 殺人、殺人未遂、殺人予備、窃盗 |
事件概要 |
新潟市南区の看護師・渡辺健被告は同じ病院で勤務していた妻と2018年5月に結婚したが、その8か月後の2019年1月から職場の看護師と不倫関係が始まった。一度、妻に不倫関係がバレ、渡辺被告と妻との間に長女が誕生するも不倫は続いていた。2021年1月以降から渡辺被告は「妻殺害 水死に偽装する方法」「生命保険 死亡時保険金」などと検索していた。 2021年2月中旬、渡辺被告は不倫相手から不倫関係の終了を告げられる。しかし渡辺被告は妻に対して睡眠薬を何らかの手段で飲ませ、妻は意識を消失して失禁したり、記憶が無くなってしまうなどの症状が出ていた。3月中旬になると再び不倫関係が再開。渡辺被告は「溺水 低酸素脳症」などと検索する。 渡辺被告は事件の約1年前、複数の消費者金融から借り入れをして競馬投資を行ったが、のちに詐欺だと判明し約400万円の借金を負った。借金返済のため、渡辺被告は妻の口座などから無断で金を流用した。 3月29日、渡辺被告が無断で金を流用していたことを知った妻が怒り、実家に帰ると告げた後、渡辺被告は交通事故で殺そうと飲料に睡眠薬を混入。その飲料を飲まされた妻は妻は実家に向かう途中、道路脇のポールに衝突する交通事故を起こした。 新潟市に新築建築中の3月後半から8月初旬まで妻は娘と実家に帰ったため、渡辺被告は不倫相手の家で寝泊まりしていた。この期間も妻に殺意を抱いているようにもみえる検索を繰り返した。 渡辺被告は8月10日から妻と長女との新居での生活を始めたが、その前日には不倫相手から「年内中に離婚についての動きがなければ諦める」と不倫関係についての期限を宣告された。この後、塩化カリウムに関する検索を続けていた渡辺被告は妻を殺害するため、9月10日に勤務先の病院から塩化カリウム10本を盗んだ。 不倫相手との同居生活が終わった後も不倫相手と密会したり、相手の家に泊まったりを繰り返していた渡辺被告は、10月30日には殺害事件に使われたロープを購入。その間も妻への殺意を抱いていたかのように「看護師 実刑 免許」「自殺 保険金」「自殺による死亡の場合、保険金はどうなる?」などの検索履歴が残っていた。そして、11月7日午前1時29分ごろに不倫相手と密会した渡辺被告。午前4時33分ごろに妻に帰宅する旨のメッセージを送り、帰宅後に就寝したのち、午前10時ごろに起きてから10時半ごろに妻(当時29)と娘(当時1)をロープで自殺に見せかけて殺害した。 殺害後には妻のスマホから自殺をほのめかすような偽装メッセージを自身のスマホに送り、自殺を装った。午後1時すぎ、渡辺被告は自ら119番通報した。しかし、ロープの痕から首吊りではなく殺人と判断。11月8日、妻に対する殺人容疑で逮捕。29日、長女に対する殺人容疑で再逮捕。12月20日、2人に対する殺人罪で起訴。2022年2月14日、塩化カリウムを盗んだ窃盗、殺人予備の罪で追起訴。5月17日、交通事故の殺人未遂容疑で再逮捕。6月7日、殺人未遂罪で追起訴。 |
裁判所 | 新潟地裁 小林謙介裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2024年11月22日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2024年10月29日の初公判で、渡辺健被告は殺人の事実を認めたが、殺人未遂と殺人予備の罪については否認した。 続いて事件の全体について検察が時系列で説明。さらに殺人未遂・殺人予備についての冒頭陳述が行われ、検察は「被告人は職場の同僚女性との不倫関係を継続するため、障害となる自己の妻子を排除するため各犯行に及んだ」「身勝手極まりない動機で犯行態様も悪質、遺族の処罰感情も峻烈」と指摘した。殺人未遂・殺人予備について検察は、睡眠薬を混入する前日に『運転中に心肺停止』のページを閲覧したり、『塩化カリウム製剤死ぬ』などの検索履歴が残っていたことなどから、以前から殺害を企てていて殺意があったなどと主張した。 弁護側は殺人の事実について争わないとしたうえで、睡眠薬を飲ませたあと運転を止めなかったことについては「被告は妻の体調に異変がなかったため、睡眠薬を飲んでいないのかと思った」と主張。塩化カリウムを持ち出したことについては、「夫婦間の生活にストレスを感じ『これがあればいつでも勝てるんだ』と心の安定のために持ってきただけ」などとして、殺意がなかったと主張した。 10月30日の第2回公判で証人尋問が行われ、事件前の2021年2月に男の妻を診察した医師や妻が交通事故を起こした際に事故を目撃した警察官など3人が証言台に立った。検察側は2021年2月にも渡辺被告が妻に睡眠薬を飲ませていたと指摘。男性医師によると、妻は当時「頭が痛い、吐き気がする」と訴え、渡辺被告とともに午前1時半過ぎ病院を受診したが、診察時にはすでにその症状は治まっていたという。医師はてんかん発作を疑い、授乳中の人が睡眠薬を飲むことは考えなかったと答えたが、当時を振り返り、妻の症状と睡眠薬の薬効に矛盾はないとも話した。 2021年3月、妻が渡辺被告が自宅で提供してきた睡眠薬入りの飲料を飲み、その後、新潟市南区の広域農道で娘を乗せて2人で車を走らせていた際に道路脇のポールに衝突する交通事故を起こしたとき、帰宅途中で車のすぐ後ろを走っていた男性警察官が証言。事故を起こした後、妻の言動に違和感があったと証言した。さらに110番通報を受け現場に臨場した男性警察官も、言動に違和感があったと証言した。 31日の第3回公判で、殺人未遂に関する証人として妻の母親が出廷。交通事故後の妻の様子について、会話が変だった、記憶を一部覚えていなかったと証言した。 11月4日の第4回公判で、薬学を専門とする大学教授は、睡眠薬を飲んでから事故が起きるまでの時間と薬の作用時間、事故のあと実家に帰った後も妻がが強い眠気に襲われていたこと、翌日に記憶がないことなどから「妻は事故当時、睡眠薬を服用していたと考えて整合性がある」と証言。睡眠薬の効果から、大きなけがをする事故の危険性が高まるため、本来運転してはいけない、などと話した。 5日の第5回公判では、殺人と殺人予備についての冒頭陳述が行われた。 検察は、渡辺被告が塩化カリウム10本を盗んだ殺人予備について、「事件(殺人予備)の約1カ月前に不倫相手から離婚について、『年内に動きがなければ諦める』と期限を宣告されていたことから、妻排除の動機が強い時期だった」と指摘。『塩化カリウム 致死量』『塩化カリウム製剤 死ぬ』『妻がいなくなった 行方不明』などの検索履歴が残っていたことなどからも「殺意があった」と主張した。一方、弁護側は「本当に殺そうと思って検索したのか。看護師として業務上、気になったことや単純な興味・好奇心、ネットサーフィンをしていただけかもしれない」などと主張した。 2人を殺害した殺人について、検察は「渡辺被告は2人を殺害した後、妻の遺体を階段まで運び、ロープを階段にかけ、自殺を装った」と指摘した。渡辺被告は犯行の20~30分後、春香さんの携帯から自分に向けて、自殺したかのようなメッセージも送信し、不倫相手に「大好き大好き」とメッセージも送信した。 弁護側は殺害の動機について「身勝手だとしても不満や怒りを募らせた理由は彼なりにもある。それが限界点に達して殺害に至った」と主張。理由として、被告が事故に遭った際、妻は被告の身体の心配よりもお金の心配をしていた、などの話を挙げた。 この日は、渡辺被告の不倫相手の女性も出廷した。女性は2019年4月、当時、渡辺被告が勤めていた病院で看護師として働き始めた時に初めて出会うと、渡辺被告が既婚者であることを知っていながら、2019年10月ごろから不倫関係になったという。その年の年末ごろには一度、妻に関係がバレ、慰謝料150蔓延を請求され、50万円の慰謝料を払い、合わないという誓約書も書いた。「やめないといけないと思ったが、『まだ会いたい』と言われたこともあり、関係は続いた」と証言した。2020年10月、渡辺被告の長女が生まれた。「不倫をやめないといけない」と思っていた女性は、その後「2021年2月いっぱいで関係を終わりにしよう」と伝えた。渡辺被告は「まだ終わりたくない」と言い、最後に会ってからも「会うのをやめてから元気が出ない、まだ会いたい」などとメッセージを送ってきたという。結局関係は再燃した。自宅を新築するにあたり、2021年4月ごろから妻は実家で生活していた。その約4カ月間、渡辺被告は不倫相手の家で寝泊まりしていた。女性によると、そこでは自分との将来や、離婚を考えている旨の話をしたという。その後、渡辺被告が新居に移り、女性は「離婚について年内に動きがなければ諦めて関係は終わりにする」と期限を宣告した。女性は、事件後に逮捕された渡辺被告と複数回、面会したほか5回以上手紙でやり取りしたことも明かした。渡辺被告からの手紙には 「ずっと想っている」「少しでも早く戻って一緒になりたい」「○○への想いは変わらない。今もこれから先もずっと」「生涯何があっても○○の味方であり続けます」「1分1秒でも早く○○の元へ帰ります」などとつづられていたという。最後に、検察に今の思いを聞かれると、女性は 「時間が経ち、冷静に考えられるようになってご遺族の方に申し訳ない」 「今は恋愛感情は一切ないし『待っている』とも言ったが、健さんとの未来については一切考えてない。」と答えた。 6日の第6回公判では、妻の母親と弟が出廷。犯人が渡辺被告だと聞きどう思ったかと聞かれた母親は「まさか旦那さんに、とは想像もできなかった。現実に起きるとは思ってもみなくて、わめき泣くしかなかった」と涙ながらに答えた。検察に「どのような処罰を望むか」と聞かれると、「2回死んでほしいとは本当に思う。死ぬまで一生悔やみ続けるべき。罪に見合った罰を与えてほしい。」と話した。弟は、検察に逮捕後に渡辺被告が不倫相手に送っていた手紙を見てどう思ったかと聞かれ、「全然反省してないな、自分どうにかなると思っているのでは」と話した。そのうえで「謝罪は必要ないので、極刑にしてほしい」と訴えた。 この日は弁護人による被告人質問も行われ、妻に1度不倫がバレた時について聞かれた渡辺被告は、「夫婦関係もできれば今まで通り続けていきたいと思っていた。交際期間が長く、彼女を大切に思う気持ちもあったから」と答えた。そして夫婦生活と不倫関係について「自分勝手だとは分かっていたが何とか両立できればと思っていた」と答えた。 7日の第7回公判では、被告人質問が行われた。 弁護人は今日は何の日かと聞かれ、渡辺被告は「妻と娘の命日です。本当に申し訳ないことをしてしまったと思っています」と答えた。 事件の約9カ月前(2021年1月末)に『妻殺害 水死に偽装する方法』と携帯で検索したことについて弁護人に問われると、「正直全く覚えがありませんでした。」とし、その時点では殺そうとは考えていなかったと答えた。弁護人は、子どもが生まれた後も不倫を続けたことについて問われると、渡辺被告は「別れた方がいいのは分かるが、相手に『まだ会いたい』と言われ、私もまだ会いたいと言った」と話し、検察に同じことについて問われた際には、「当時はやめようとは思わなかった。自分のことしか考えてなかったからだと思う。」と話した。不倫相手に長女について「もし子供を引き取ったら育ててくれるか」と聞いたこともあった。「娘がとてもかわいいと思っていたので、娘と一緒に不倫相手と生活できればと思っていた。」と説明した。 渡辺被告が塩化カリウムを持ち出した件について弁護人に問われると、「新居での生活は妻と意見がぶつかったり、中々意見が通らなかったりした。家事や育児でストレスが溜まり、新生活を解消したいと思うようになった。薬を飲ませれば体調が悪くなって実家に戻ると思った」と話した。塩化カリウムを持ち出したことについては「これを持っていれば自分も強い気持ちになれると思ったから。精神的に対等になれると思った」と説明。検察の質問に対しては「使おうと考えたわけではなくて、安心を確保したかっただけ」などと殺意を否認した。塩化カリウムを持ち出す以前に『塩化カリウム 致死量』『塩化カリウム製剤 死ぬ』などを検索していたことについては、いずれも「単純な興味だった」などと説明した。 検察は「警察の取り調べ当時、被告は自分で塩化カリウムの静脈注射も殺害方法として考えていた、と言っていた」と指摘したが、渡辺被告は「当時は事件から間もなかったので混乱していて、記憶があいまいだった」と否定した。また検察から、事件以前の妻への殺意を伺わせる数々の検索履歴『溺水 低酸素脳症』『運転中に心肺停止』『妻が家出 行方不明』『取り調べ 録音』『看護師 実刑 免許』などについて問われると、渡辺被告はいずれも「なぜ調べたのかよく分からない」「たまたま目についたから」などと答え、事件以前の殺意についていずれも否認した。 検察は、渡辺被告が警察の取り調べ当時には、事件以前の殺意の有無や絞殺以外の殺害方法を考えていたことなどについて話していたが、法廷では「覚えていない」などと話し否認していることについて度々追及したが、渡辺被告はそのたびに「よく分かりません。その当時は既に2人を殺してしまっていたし、混乱していて自分でも何を考えていたのかわからない」などと答えた。 事件当日の11月7日、殺害に至った経緯について、渡辺被告は、きっかけは離婚話を切り出したことだったと明かした。「離婚してくれ」と提案した渡辺被告に対し、妻は「不倫もして、借金もして、黙って私の口座の金を返済にあてて。あなたにそれを言う権利はない。一緒にいてくれてありがたいと思いなさい」と答えた。それを聞いた渡辺被告は「我慢できないと思い、クローゼットの中のロープを取りに行き、ロープを持って妻の背後に近づき、妻を殺害した」と述べ、さらに「娘がこっちの様子を見ていた。妻の肩を叩いて起こそうとしていた」「殺すところを見ていたし、娘の顔が妻に見えてしまった。娘の存在がとても怖いと思った」と語った。 妻のスマートフォンを使い、自分に向けて遺書のように送ったメッセージについて弁護人に問われると、「私が思っていたことを妻から謝罪するような形で送った。思いやりや感謝など、私が妻に言ってほしかったことや思ってほしかったことをLINEで送った」とした。渡辺被告は、2人を殺害後に不倫相手に『大好き大好き』とメッセージを送ったことについて「相手からの連絡に気づき、自分が犯してしまった目の前のことから逃げ出したくて送った」と答えた。弁護人から妻に対しての今の思いを聞かれた渡辺被告は「妻のことをずっと苦しめてきて本当に申し訳なく思っている。妻は何も悪くなく、ただただ自分勝手で申し訳なく思っている。しっかりと向き合い、妻の気持ちを考え、借金ができてしまったと正直に話し、もっとちゃんと妻のことを見つめていればよかった」と答えた。さらに娘について「本当に娘はとてもかわいかった。とても大切な存在だった。この先、楽しいこと嬉しいこと辛いこともあったと思う。もっともっと色々なことを経験して大きくなってほしいと思っていたはずなのに。最後は本当に苦しかっただろうなと思う。本当に申し訳なかった。自分でも自分が許せない」と答えた弁護人に「最後に2人に言いたいことは?」と聞かれ、「苦しかったよね。本当にごめんなさい。いい夫でなくて、いい父親になれなくて。ごめんなさいと言いたい」と答えた。 8日の第8回公判でも、被告人質問が行われた。検察から「逮捕後、娘を殺したのは誰だと言いましたか?」と聞かれた渡辺被告は「妻だと言いました。罪を逃れられると思いました」と答えた。さらに検察から「あなたは、『妻が夢に出てきて、かばってくれてありがとう、もう正直に話していいよ。と言われた。』と言っていましたよね?」との質問には「覚えてないです」と答えた。 遺族に謝罪文を送る一方で不倫相手には「少しでも早く戻って一緒になりたい」などとつづった手紙を送っていたことについて、「不倫相手への想いと、妻と娘、そして遺族に対する謝罪の気持ちは両立できるのではないかと思っていた」と話した。殺害の動機については、あくまで夫婦生活によるストレスなどが原因で、不倫相手については「好意はあったがそれが発端ではない」と不倫によるものではないと否定した。 この日は渡辺被告の父親が出廷。遺族に対し「謝っても謝っても謝り切れないほど心苦しく思っている」と謝罪の言葉を述べ、渡辺被告に対しては「ご遺族に対して一生償っていくもの。これから出る刑をしっかり受けていただきたい」と話した。 11月12日の論告で検察側は初めに、「被告は不倫相手との関係を継続する中で、関係に危機が生じたとき、関係性が高まったとき、あるいはそれらが入り混じった状況のときに2人の殺害を試みていた」と改めて指摘。2021年2月に不倫関係終了の危機に際し、妻に睡眠薬を飲ませ意識混濁に陥らせ、翌3月には関係の再燃に伴い本件殺人未遂事件、8,9月には不倫相手との同居生活の終了や関係終了の期限を宣告されたことに伴い、妻に劇薬を摂取させ、11月には不倫相手との連日の密会や不満を言われたことで本件殺害事件を起こすに至っていて、 「本件は、被告が不倫関係を継続するため、その障害となる2人を排除しようとして合計5回にわたって殺害を試みるなどした事案」と説明した。 検察は、2021年3月の交通事故を起こさせた殺人未遂について「運転中、睡眠薬の薬理効果が発生していたことは明らか。その状態は、場合によっては対向車両と正面衝突するなど大事故につながる危険性が高く、2人を死亡させる危険性が十分に高かった。」と指摘。渡辺被告は本件の1か月前にも妻に睡眠薬を飲ませていたことから、睡眠薬摂取時の妻の危険な様子を間近で見ていて、さらに本件前日にもインターネットで「運転中に心肺停止」のページを閲覧するなど、「妻が睡眠薬の効果によって事故を起こし死亡する危険を、渡辺被告が具体的に想定していたことは明らか」として、渡辺被告には妻の運転を制止させる義務があった、と主張した。これに加え、事件前から『妻殺害 水死に偽装する方法』『建築中 施主 死亡』『溺水 低酸素脳症』など多数の殺害関連の検索をしていたことなどから、「強く執拗な殺意がある」として殺人未遂が成立すると主張した。 2021年9月の塩化カリウム10本を盗んだ殺人予備については、検察は「当時、年内期限とされた不倫相手との関係を維持するため、妻を排除する動機が高まっていた」「塩化カリウムを盗んだ翌日に、妻に意識消失などの副作用のある劇薬を摂取させた」などと指摘。本件の前に『塩化カリウム 致死量』『司法解剖 カリウム』『塩化カリウム製剤 死ぬ』などの検索履歴、前後を通じて『妻がいなくなった 行方不明』『取り調べ 録音』『看護師 実刑 免許』や多種多様な殺害関連の検索・閲覧履歴が残っていたことなどから、「殺意を抱いていたことが強く推認される」として、殺人予備罪が成立すると主張した。 検察は、最終的に2人を殺害するに至った事件全体について「不倫相手との関係の障害を排除する動機で、何の罪もない我が子と育児に奔走する妻を執念深く殺害するなど、身勝手極まりない動機に基づく、極悪非道な事件」と指摘。「同情できる点は露ほどもない。特に、守るべき子供を自らの欲望のために殺害した点は格段に強い非難に値する」「7カ月以上にわたり複数回殺害を企てていて、繰り返し加害する執拗な犯行。事前にロープを購入し、殺害方法や血痕の拭い方なども検索している。絞殺を選び自殺を偽装するなど、責任逃れまで考え、高い計画性がある、犯行時は確実に動かなくなるまで首を絞めるなど、強固な殺意に基づく冷酷残忍な犯行」「逮捕後に不倫相手に送った手紙からも、妻への真摯な謝罪の姿勢は微塵も感じられない。遺族は峻烈な処罰感情を抱いている」と渡辺被告を強く非難。「取り調べでも『娘を殺したのは妻』などと話し、責任逃れの態度も甚だしい。法廷でも都合の悪いところだけ『分からない』『記憶がはっきりしない』など、決め打っているとしか思えない言葉の繰り返し。責任に向き合おうとする態度は皆無で、反省の言葉も口先だけ」と、犯行後の行動も極めて無反省だと指摘。同種事案と比較し、有期刑が選択されたものに比べ「より重大悪質」として無期懲役を求刑した。 被害者参加人による意見陳述で遺族の代理人弁護士は、「2人は渡辺被告に悪いことは一切していない。渡辺被告に同情すべき事情は微塵も存在しない。法廷では言い訳がましい受け答えで、うわべだけの謝罪と涙。この先いかに時間が過ぎても、反省することは考えられない。被害者の親族も皆、死刑を望んでいる」などとして、死刑を求めた。 同日の最終弁論で弁護側は、2021年3月の交通事故について、「子育ての疲れに加え、当日には渡辺被告のお金の流用が発覚するなど、肉体的にも精神的にも疲労が蓄積していた。運転中にスマホでLINEの返信もしていたことから、事故の時もスマホの操作でふらついていたとも考えられ、睡眠薬の効果で事故に至ったとは断定できない。」などと主張。また、「110番通報の話しぶりからも、睡眠薬の効果はほとんど出ていなかったと思われ、事故の前も一定程度車のコントロールができていた。被告は妻の運転を止めるべきだったかもしれないが、それが妻を殺害しようとしたことと同価値と評価されるほどではない」としたうえで、「渡辺被告は、妻に睡眠薬の効果が生じているのを認識しながら、あえて車の運転を止めなかった、ということではない」として殺意を否定し、殺人未遂は成立しないと主張した。 塩化カリウム10本を盗んだことについては、渡辺被告の自宅に、塩化カリウムを静脈注射するために必要な器具が揃っていなかったことから、「本当に注射して殺そうとしていたのであれば、器具を持ち帰らなかったというのは不自然極まりない」と主張。渡辺被告が塩化カリウムを持ち出した目的については、「妻との生活における精神的安定を図るためで、単なるお守りのようなもの。私たちも、合格祈願や安産祈願で手元にお守りを置いておくことがあるが、渡辺被告もそのようにして塩化カリウムを持っていたと考えられる」と説明し、「窃盗罪は成立するが、殺人予備罪は成立しない」と主張した。 弁護人は量刑について「結果が重大であるのは言うまでもなく、その責任を取らなければならないことも言うまでもない。ただ、本件ではとりわけ殺害方法が残虐・執拗であるとまでは評価できず、あえて死ぬまでの苦しみが増すような方法をとったわけでもない」「2人を殺害した動機に同情するものはないが、保険金など利欲目的での殺人とは異なり、子供の殺害もその場でとっさに恐怖を感じたことによる突発的なものだった。犯行後の自殺の偽装工作についても、用意周到とは対極のずさんな行為でだった」「今の段階でも被告の反省は不十分に映るかもしれない。しかし、逮捕された当時に比べれば、少しずつ反省を深めていっている。これからその反省をさらに深め、贖罪の気持ちを持ち続けさせることが必要。そのうえで科すべきは死刑・無期懲役でなくてはならないのか」と主張し、有期刑の選択を求めた。 最終意見陳述で渡辺被告は、「これからもずっと妻と娘に謝り続けていきたいです。妻と娘が自分に向けてくれた家族としての想いなどをこの先もずっと持って、私はそれに応えられなかった、その思いをずっと持って、自分のしたことに一生向き合って、妻と娘にしてあげられなったこと、自らの後悔と自分のやった数々の過ちを一生振り返り、考え、見つめながら、ずっとお詫びし続けたいと思います。本当に申し訳ありませんでした」と語った。 判決で小林裁判長は、3月と9月の事件で殺意は無かったとする被告側の無罪主張については「妻が睡眠薬入りの飲み物を飲んでいたことを認識したうえで運転を止めなかったことから、死亡する可能性も認識していたと推認できる」「塩化カリウムの致死量などを複数回検索していたことから、塩化カリウム(薬剤)を無断で持ち出した時点で妻を殺害しようと考えていたと認めるのが相当」と退け、殺人未遂と殺人予備の罪も認定した。また渡辺被告が2018年5月に結婚したのに、2019年10月ごろには同僚と不倫関係にあったとし、「勾留中、被害者遺族に対する謝罪文を作成する傍らで不倫相手に恋文を送っていた」などと指摘。そして「2人の尊い生命が奪われたという結果は誠に重大である。妻は婚姻後、間もなくして被告人による不倫や預金の使い込みがありながらも、代わらず夫婦であり続けようとし、長女の誕生後はひたむきに育児に励みつつ、新居で被告人と共に新生活を始めた矢先、被告人に裏切られ、最期は長女の目の前で命を奪われた。愛する我が子を育てることも、その成長を見届けることもできないまま命を奪われた無念さは察するに余りある。長女は、1歳になったばかりで周囲から愛され、本来父親である被告人に庇護されるべき立場にあったのに、その被告人から突然殺害されたものである。妻の悔しさ、無念さ、悲しさ、絶望は筆舌に尽くし難いものといえるし、長女の死も痛ましいというほかない」と断罪。そして「被害者らには何の落ち度もない。経緯や動機に汲むべき点は皆無である。また、看護師である被告人がその知識・技術および立場を悪用し、各犯行に及んだことも強い非難に値する。自身の非を棚上げにした極めて自己中心的で身勝手なもの動機に酌むべき点は皆無である。本件に関しては、渡辺被告に有利な事情を最大限考慮しても有期刑を選択すべきとは到底言えない」と述べた。 最後に小林裁判長は、「法廷でのあなたは、いつもどこか他人事のように感じられた。あなたが奪った2人の命に一生をかけて償いをしてください。守るべき2人の命を奪ったことを忘れずに向き合い、亡くなった2人だけでなく、関係者の無念さも考えてください」と語った。 |
備 考 | 被告側は控訴した。 |
氏 名 | 松成英一郎(57) |
逮 捕 | 2021年10月6日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 殺人、詐欺、詐欺未遂 |
事件概要 |
大分県日田市の会社役員松成英一郎被告は2021年4月1日午後8時20~30分頃、同市に住む叔父で、自身が当時経営していた運送会社の社員の男性(当時64)を福岡県うきは市の空き店舗駐車場で、車で複数回ひくなどして殺害。事故死したとする虚偽の請求書を保険会社2社に提出し、うち1社から死亡保険金約1,497万円をだまし取った。しかし、自動車保険約1,000万円の支払いは認められなかった。 運送会社は松成被告が会長として2019年2月に立ち上げた会社で、独り身でドライバーを辞めて無職だった叔父を電話番で働かせた。そして2020年6月ころ、松成被告が叔父の生命保険料を支払う代わりに、自身を受取人にするよう叔父と親族に持ち掛け、承諾を得て加入させていた。 叔父の遺体は4月2日朝、自身の軽乗用車の下敷きになった状態で見つかった。車はエンジンがかかったままで、ボンネットが開き、付近には懐中電灯などが散乱していた。第一発見者は一度現場を離れ、その後現場に戻った間に、松成被告は現場にすでに駆けつけ、車を押して動かそうとしていた。 福岡県警は叔父に保険金が掛けられていたこと、普段朝から会社に出勤しない松成被告がこの日は朝から会社に出て叔父を捜していたこと、事件当日の午後8時前に松成被告から叔父に電話を数回かけていたことなどから、松成被告を慎重に捜査。10月6日、松成被告を殺人容疑で逮捕。11月4日、保険金をだまし取った詐欺容疑で再逮捕した。 |
裁判所 | 福岡高裁 松田俊哉裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2024年11月27日 無期懲役(被告側控訴棄却) 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
2024年10月31日の控訴審初公判で、弁護側は「検察側が主張する事件の発生時間が違っている可能性がある」などとしたうえで、「本人が事件発生時に現場にいたという直接的な証拠がない。事故で死亡した可能性がある」として無罪を主張した。検察側は「控訴する理由がない」として、控訴棄却を求めた。弁護側は被告人質問や、事件時刻の後に現場で「人を見た」と証言した供述調書の取り調べを求めたが裁判所にいずれも却下され、10分足らずで即日結審となった。 判決で松田裁判長は、現場周辺の防犯カメラの映像などから「被告人以外の第三者が犯人である可能性はおよそ考えられない」とし、車にひかれた遺体の傷は事故では生じ得ないことや、松成被告と叔父が事件直前に3度も電話をしていたことを踏まえ、「事件性を認めた一審判決は、論理則・経験則に照らして不合理であるとはいえない」と結論付けた。その上で、「被告は会社の経費や競艇への支出のため余裕がある経済状態ではなく、保険代理業で培った知識を悪用し、保険金獲得のために殺害計画を思いついても不自然ではない」とした。 |
備 考 |
松成英一郎被告は他の2人と共謀して2019年~2021④年、架空の交通事故や代車費用を保険会社などに申告し、計約38万円をだまし取ったとして懲役1年、執行猶予4年の判決を受け、確定している。 2024年6月28日、福岡地裁の裁判員裁判で、求刑通り一審無期懲役判決。被告側は即日上告した。 |
氏 名 | 足立朱美(50) |
逮 捕 | 2018年6月20日 |
殺害人数 | 2名 |
罪 状 | 殺人、名誉毀損、器物損壊 |
事件概要 |
水道工事会社社長の足立朱美被告は2018年1月20日、堺市中区の父親(当時67)が住む事務所兼住宅で、糖尿病を患う父親と母親に睡眠薬が入った甘酒を飲ませたのちに父親へインスリンを多量に投与し、父親は低血糖状態で病院に運ばれた。父親は25日に退院したが、足立被告は25日午後4時40分から26日午前10時10分ごろまでの間、再び父親と母親に睡眠薬が入った甘酒を飲ませたのちに父親へ多量のインスリン製剤を投与した。父親は再び低血糖状態で病院に救急搬送され、脳死状態で入院した。父親は6月28日、低血糖脳症で死亡した。 足立被告は3月27日午後3時~6時、父の事務所兼住宅の2階別室で、母親(当時67)に睡眠導入剤を混ぜた抹茶オーレを飲ませて眠らせた。そして呼び出していた別の建築会社社長の弟(当時44)を睡眠薬で眠らせ、トイレのタンクの上で練炭を燃焼させて一酸化炭素中毒により殺害した。 同日午後7時頃、足立被告から電話で「弟がいない」と告げられた弟の妻(当時37)が実家へ駆け付けたところ、2階の居間で、意識が朦朧としている母親を発見。体を揺さぶったが、ろれつが回らず、話せない状態だった。そして倒れている弟を発見。病院に搬送されたが、同日夜に死亡が確認された。 足立被告は弟の妻に、パソコンで書かれた遺書が見つかったと手渡した。「遺書」には1月に倒れた父親について、弟がインスリンを投与したため意識不明になったという趣旨の記述や、弟が父と姉のために金策に走り回ったが失敗したことを苦に自殺したように装った文面だった。しかし文章の特徴などが異なっていた。さらに足立被告の住宅ローンを父親が肩代わりしたことについて、弟が嫉妬したとの趣旨の記述があったが、弟はその事実を知らなかった。母親はこの話を弟が知らないことを警察に証言している。さらに弟はリゾートホテルの会員権を購入して家族で行く準備をしており、自殺の動機がなかった。弟はパソコンで手紙を書いたことがない、と妻は不自然さを指摘し、警察に他殺だと強く訴えた。 大阪府警は当初自殺とみて司法解剖しなかったが、トイレには接着剤で目張りがされていたものの接着剤の容器は別の部屋から見つかり、トイレタンクの上には鍋に入った状態で練炭があったが火を付ける道具はトイレ内にないなどの不審点があった。大阪府警は事件性が明白な場合に裁判所の令状を取って行う司法解剖ではなく、死亡翌日、明らかな事件性がなくても家族の同意を得なくても警察の判断だけで行える死因・身元調査法に基づく「新法解剖」を実施し、弟の体内から睡眠薬の成分を検出した。足立被告が処方された睡眠薬と成分が一致し、立件に向けた捜査が始まった。 死亡から1カ月後の4月27日から5月中旬にかけ、弟の自宅ガレージにある車や自転車に赤い塗料が吹き付けられ、近所には弟の妻を中傷するビラが入った封筒もまかれた。ビラにはフリーライターが取材した体裁で「自殺に追い込み、まんまと社長の座を手に入れた」などと、会社を妻や同社幹部が乗っ取ったと中傷する内容。逆に足立被告については「お姉様が犯人の可能性はない」「(犯人扱いには)皆憤る」などと関与が否定されていた。弟宅の周辺の防犯カメラ映像には足立被告と似た女が写っていた。 妻から相談を受けた府警は5月24日、中傷ビラに絡む名誉棄損容疑などで足立被告宅や関係先を捜索。塗料の吹き付けに使ったとみられるスプレー缶や、封筒に入った中傷ビラなどが見つかった。さらに足立被告のパソコンやプリンタを押収。解析で弟の遺書を作成した痕跡が確認された。また文書が作成された時刻に弟が別の場所にいたことも判明した。プリンタでビラを印刷した痕跡も見つかった。スマートフォンの検索履歴にも練炭自殺の方法や「インスリン」「低血糖」などを検索していた内容があった。 水道工事会社は足立被告の父親が1974年に創業。2012年に跡を継ぐはずの弟が別の建築会社を設立し、足立被告が2015年ごろに父の後を継いだ。互いに取引関係にあり、仕事上でも多くの接点があったが、2人は会社の継承を巡ってトラブルになっていた。足立被告は経営の苦悩をブログに記載。2014年9月には、後を継がなかった弟を「弟は挫折を知らず甘い」などと批判していた。だが、弟の会社は業績が好調なのに対し、足立被告の会社の売上高は2年間で半減し、2016年12月期は約1,000万円の赤字だった。父親時代の負債も残っていた。 6月20日、大阪府警は足立朱美被告を、弟への殺人容疑で逮捕した。7月11日、大阪地検は足立被告を殺人罪で起訴した。7月23日、大阪府警は名誉毀損と器物損壊の疑いで足立被告を再逮捕した。10月17日、大阪府警は父親の殺人と殺人未遂容疑で足立被告を再逮捕した。父親の遺体から足立被告が処方された睡眠薬と同じ成分が検出された。11月7日、大阪地検は父親への殺人罪で足立被告を追起訴した。 |
裁判所 | 最高裁第三小法廷 石兼公博裁判長 |
求 刑 | 死刑 |
判 決 | 2024年12月9日 無期懲役(被告側上告棄却、確定) |
裁判焦点 | |
備 考 |
足立朱美被告は郵便局に勤務する夫、子供らと暮らしていたが、金銭問題でトラブルが絶えず、離婚問題が浮上。子供の親権をどちらが有するか、夫婦間で揉めていた。2006年8月、足立被告は夫の定期に大麻を隠し、夫が仕事に出て行くと、匿名で「大麻を持っている男が駅にいる」と警察に通報。警察が駆け付けた。このとき、事情をよく知らない女友達に夫の細かな特徴を伝えて『自分は顔を知られているので代わりに警察に突き出してほしい』と依頼。通報で駅にやってきた警察を女友達に誘導させ、夫を捕まえさせた。しかし、夫は大麻の所持を否認。女友達に警察が詳しく事情を聴くと頼まれたと供述し、足立被告の自作自演が発覚し、足立被告は大麻取締法違反(所持)容疑で書類送検された。足立被告と夫はその直後、離婚している。 2022年11月29日、大阪地裁の裁判員裁判で求刑死刑に対し一審無期懲役判決。2024年4月26日、大阪高裁で検察・被告側控訴棄却。 |
氏 名 | プラテス・アルメイダ・デメルソン(50) |
逮 捕 | 2023年5月23日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、窃盗 |
事件概要 |
ブラジル国籍のトラック運転手プラテス・アルメイダ・デメルソン被告は、無職の長女、無職で長女の内縁の夫と共謀。2023年5月3日午後9時50分ごろ、デメルソン被告と内縁夫は鈴鹿市内に住む工員の妻(当時46)が住むアパートの階段付近で、妻の首などを斧で切り付けて失血死させ、財布など18点が入った鞄1個(時価合計約4万7千円相当)を奪った。デメルソン被告は事件の翌日、妻名義のクレジットカードを使って現金139万円を引き出した。長女は現場付近で見張りをし、妻の帰宅をデメルソン被告に知らせるなど、2人の犯行を助けた。 デメルソン被告と妻は1992年、18歳と16歳で結婚。1994年に出稼ぎで来日。しかし徐々に不和となり、家庭内別居の状態となった。妻は2022年から鈴鹿市内の工場で組み立ての作業員をしていた。2022年11月、デメルソン被告と妻は激しい喧嘩をして妻が110番し、警察から事情を聞かれていた。言い争いの末、デメルソン被告は妻の荷物を全て家の外に放り出し、追い出してしまった。その後、妻は事件のあった鈴鹿市内のアパートに転居し、一人暮らしだった。事件当日、妻は鈴鹿市内の姉の家で過ごし、午後9時20分ごろに姉の家を出て45分に車で帰宅したところだった。 現場周辺への聞き込みや防犯カメラの捜査などから3人の関与が浮上。 5月23日、県警鈴鹿署の捜査本部は3人を強盗殺人容疑で逮捕した。津地検は6月13日、デメルソン被告と内縁夫を強盗殺人罪で、長女を強盗殺人ほう助罪で起訴した。 |
裁判所 | 津地裁 出口博章裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 | 2024年12月16日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2024年9月17日の初公判で、強盗殺人罪に問われたデメルソン被告ら2人は殺意を否認。強盗殺人ほう助罪に問われた長女は無罪を主張した。 検察側は冒頭陳述で、「デメルソン被告は『マリエ』と名乗る女性とインターネット上で知り合い、好意を寄せるようになった。デメルソン被告は別居するようになった被害者を殺害し、金品を奪うことを2人に提案。被害者の自宅や行動を把握するよう指示していた」と指摘した。その上で「デメルソン被告が手おので被害者の頭や首を切りつけ殺害し、内縁夫がかばんや財布を奪った。2人は近くの駐車場で待っていた長女が運転する車で逃走した」と主張した。 デメルソン被告の弁護人は「かばんを奪うつもりで、殺害までするつもりはなかった。内縁夫が被害者を手おので切りつけ殺害した」と殺意を否認した。 内縁夫の弁護人は「金品を奪うことは聞いていたが、殺すことは聞いていなかった。当日は見張りや財布を奪うなどの指示を受けていた」として強盗致死ほう助罪にとどまると主張した。 長女の弁護人は「被害者を襲う話は聞いていたが、本気にしていなかった。当日、被害者の帰宅を2人に伝えるなどしたが、犯罪をすることは全く知らなかった」と無罪を主張した。 その後の公判で、デメルソン被告はアメリカに住んでいるというマリエの事を『私の愛する妻』と呼び、指定された口座に100万円以上の現金を振り込んでいたことが明らかになった。「ロマンス詐欺では…」と疑念を抱いた内縁の夫がデメルソン被告に忠告しても、聞く耳を持たなかった。内縁の夫は被告人質問で「ロゼリと離婚するには(ブラジルの裁判所などに対する)手続きに金がかかるから、マリエと結婚するには殺すしかないと話していました」と証言した。また長女も被告人質問で「父(デメルソン被告)から事件の報酬としてお金は全く受け取っていません」と話す一方…「父(デメルソン被告)からブラジルで良い暮らしができると聞いていました」「マリエが6億円を送ってくれれば…という話だったんです」と証言した。これに対し、デメルソン被告は法廷ではマリエとはFXを通じての関係で、 口座に金を振り込んだのも投資だったと主張した。 検察側は法廷でデメルソン被告が事件当日、犯行を起こす直前に「マリエ」に送ったとされるSNSのメッセージを読み上げた。『私たちが一緒になる努力をしている。』 そして、犯行から4日後には…。『今、私(デメルソン被告)はあなた(マリエ)のためにフリーです。いつでもあなたが望む時に本当の結婚をするために。もう私たちの関係を正式なものにする事を妨げるものは何もありません』とメッセージを読みあげた。 10月29日の論告で検察側は、プラテス・アルメイダ・デメルソン被告に対し、デメルソン被告は積極的な動機があり、返り血を浴びていて犯行後に乗った車についた血痕の状況などから、殺害の実行役であることが明らかであると主張。「凶器の斧で妻を少なくとも11回、頭蓋骨が陥没骨折するほどの強い力で攻撃し犯行態様は残虐で許しがたい」と強調。「デメルソン被告が犯行を計画して実行した。動機も身勝手で、反省も全く感じられない」と指摘し、無期懲役を求刑した。 長女の内縁の夫に対しては「従属的な立場」としつつ「被害者の鞄を持ち去るという強盗殺人罪の実行行為の一部を分担した」などとして懲役20年を求刑。長女に対しては、「2人の逃走を助けるなど、犯行を手伝った」と指摘し、懲役15年を求刑した。 同日の最終弁論でデメルソン被告の弁護側は「内縁夫が手おので被害者を切りつけ殺害した」と述べ、殺意を否定し、強盗致死罪の懲役20年が相当と主張した。内縁夫の弁護側も「被害者を殺害することは知らなかった。殺人の共謀があったことが見当たらない」と、強盗致死罪のほう助にとどまるとして懲役7年が相当と主張。長女の弁護側は「犯罪を手助けする意志が全くなかった」などとして無罪を主張した。 出口博章裁判長は、遺留品の手袋から被害者ととデメルソン被告の血液反応が出たことなどから、デメルソン被告が殺害の実行役と認定した。そして「デメルソン被告の指示のもと、役割を分担して協力して犯行を遂行した。ずさんではあるが、相応に計画された犯行で、被害者が悲鳴をあげ、抵抗するのを意に介さず、凄惨な攻撃を執ように繰り返した残虐な行動だ」と指摘。デメルソン被告について、「SNS(交流サイト)で連絡を取っていた女性と結婚するためなど、身勝手で短絡的な考えで犯行を企てた。不仲だった被害者がいなくなればいいと考え、強固な殺意をもって被害者の殺害を実行した主犯格であり、極めて厳しい非難が向けられるべきだ。不合理な弁解に終始し、反省していない」と述べた。 |
備 考 |
強盗殺人の罪に問われた長女の内縁の夫(24)は同日、津地裁で求刑通り一審懲役20年判決。「被害者のかばんを奪って、強盗殺人の実行行為の一部を担った」とした上で「暴行は加えておらず、関与は従属的」と述べ、有期刑が相当と位置付けた。 強盗殺人ほう助の罪に問われた長女(27)は同日、津地裁で求刑通り一審懲役15年判決。「ほう助犯にとどまるが、2人の犯行を容易にし、果たした役割は小さくない」と述べ、「犯罪の認識を否認して、果たした役割の大きさに向き合っていない」と指摘した。 3被告側は控訴した。 |
氏 名 | 加藤臣吾(26) |
逮 捕 | 2023年2月3日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 住居侵入、強盗傷人、強盗致死、強盗予備、窃盗未遂 |
事件概要 |
住所不定、無職の加藤臣吾被告は人間関係の問題で職を転々とし、お金に苦労していたことから「闇バイト」募集に応募。一連の「ルフィ広域強盗事件」のうち、下記の事件に関与した。
2月28日、〈狛江市強盗致死事件〉における強盗殺人と住居侵入容疑で再逮捕。3月22日、強盗致死と住居侵入の罪で起訴。 5月10日、〈足立区強盗予備事件〉における強盗予備と窃盗未遂容疑で再逮捕。 |
裁判所 | 東京地裁立川支部 岡田健彦裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2024年12月16日 無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2024年11月12日の初公判で、加藤臣吾被告は「間違いないです」と起訴内容を認めた。 検察側は冒頭陳述で、「加藤被告は実行役としておよそ1か月で3件の事件に関与した」「現金のありかを聞き出すために、女性の体を蹴り、腕時計を見つけて持ち出した」と指摘した。一方、弁護側は永田陸人被告から事件に誘われたと指摘。「断ったら変なことをされるかもと思い、加わった。加藤被告は指示を受けて行動したのみで、他の共犯者に指示をしてはいない」「女性には触れてない」と主張した。 11月13日の公判で、広島事件の被害者である女性が事件の様子と息子の後遺症について証言。一時意識不明の重体であったがその後意識を回復して、今は退院している。しかし、車椅子生活になるなど、後遺症が残っている。左側の目が見えにくくなりました。失明に近い状態だと語った。加藤被告に対して、女性は「私を押さえていた犯人は、それだけの役割だと思うが、それだけでも罰を受けて、しっかり償って、反省してほしい」と訴えた。 12月3日の公判における被告人質問で、加藤被告は犯行の一部始終を語った。広島事件では住居侵入の際の「宅配業者」役となった。もう一人の「業者」役の男がインターフォンを押して、玄関を開けた女性を押し倒した。加藤被告は、その男から女性を押さえつける役割を代わった。侵入から逃走まで、ずっと女性を押さえていた。その間、「金庫の番号は?」と聞いたが、女性はパニックになっていたため、十分な答えを引き出せなかった。ただ、女性が「苦しい」と言ったので、手の力を緩めたという。この事件で60万円の報酬を得た。 怖くなったため、大網白里市事件には参加していない。さらに狛江事件の誘いが来て、答を渋っていると中国人を使って自分や家族を攫うと脅されたため、参加することにした。 狛江事件では住居で金品を物色。途中から女性を制圧する役割に替わり、永田被告と二人で地下室に運んだ。なお公判前までは、被害者には触っていないと供述していた。そのことについて「正直に話すことが、被害者への償いの一歩になると思った」と語っている。永田被告が被害者をバールで殴った後、撤収するが、永田被告は再突入を試みた。しかし加藤被告が共犯者とともに「通行人がいる」などとウソを言ったために、中止となった。 実行役のリーダーから「金とれなかったから明日も行くよな」と言われ、断ることができなかった、後に引けなくなったと加藤被告は弁解。翌日の足立区事件では宅配業者役を担当するも、怖くなっていたため、インターフォンを押せなかった。いったん中止になるものの、再度実行。空き巣に入ったが、何も見つけられず、撤収したと語った。 また自身の生い立ちについて、幼少期の頃は「父親の言うことを聞かないと、風呂に沈められたり、包丁で手の甲を切られたりしたこともあった」と話した。また中二のときに両親が離婚して父親に引き取られるも、虐待を受けたと語った。18歳で仕事を始めたあと知り合った女性との間に子どもが生まれ、一時は幸せな生活を送っていた。しかし、ケンカが絶えなかったことなどから家を追い出されたという。 弁護士から、逮捕されるまでどんな苦労があったか問われると、加藤被告は「お金ですかね、やっぱり。あとは居場所です」「お金は裏切らない。金だけを信じてきた。人間不信は今も継続しています」と話した。 4日の論告で検察側は、闇バイトによる連続の広域強盗事件であり、日本中の誰もが被害にあう可能性があったと指摘。「加藤被告は連続して2件の生命に関わる強盗を起こした」と、広島事件では男性被害者に重傷を負わせ、狛江事件では女性被害者が死亡したことを重く見た。さらに匿名性が高く、指示役とサポート役と実行役の役割分担がされて計画性があったことや、各事件で積極的に関与し、他の共犯者と責任の差がないことを踏まえ、他に前例のない事件でもあることから、「被害者に拷問ともいえる残虐な犯行を行った」「主体的、積極的に犯行に関わり、不可欠な役割を果たした」とした。 同日の最終弁論で弁護側は、加藤被告人について「他者の痛みを想像する能力の欠如」「人間不信であり、お金は裏切らないと証言していた」と述べた。狛江事件で被害者を地下に運ぶなどしていたが、現場リーダーではなく、共犯者に指示をしていた部分もあるが、現場リーダーからの指示を伝達しただけであると反論。また、一部で積極的に犯行に関与していたものの、指示役である「キム」に脅されるなど、全体としては積極的な関与ではなかったなどとして、有期懲役が相当であるとした。 最終意見陳述で加藤被告は、「結果として、強盗致死になったことを深く受け止め、深く反省をしております。土壇場で証言を覆したことも申し訳ないと思っております。被害者や遺族のために何ができるのかを考えて、社会貢献をしていきたい」と語った。 判決で岡田健彦裁判長は「高度で綿密な計画と周到な準備のもと、徹底した役割分担により行われた非常に危険で凶悪な犯行だ」と指摘した。そのうえで、被告が緊縛された女性の体を持ち上げ、バールを持った共犯者がいる地下室に連れて行ったことについて「現金の在りかを聞き出すために、女性の生命や身体が危険にさらされることは容易に想像できた。危険性は高度だ」と指摘。また、加藤被告が狛江市の事件で指示役や他の実行役を出し抜く目的で、永田陸人被告との間で「(強奪した金品の)中抜きの合意をしていた」と指摘。「脅されてやむなく参加したというのは実態に即さない」と非難した。そして「主導的な共犯者と行動を共にし、強い金銭的欲望に基づき一連の犯行に主体的、積極的に役割を担った。犯情は非常に悪く、女性が死亡したことへの責任は実行役のリーダーである永田陸人被告に次ぐもので重大だ」と述べた。 |
備 考 |
※共犯者他の判決結果は【ルフィ広域強盗事件】参照。 被告側は控訴した。 |
氏 名 | 美崎芳一(28) |
逮 捕 | 2024年2月9日 |
殺害人数 | 1名 |
罪 状 | 強盗殺人、住居侵入、建造物侵入、窃盗、詐欺他 |
事件概要 |
住所不定、無職の美崎芳一被告は2024年1月8日午後7時ごろ、鈴鹿市のアパートの一室に侵入。アルバイトの男性(当時77)にナイフを見せて「車の鍵をよこせ」などと脅したが抵抗されたため、首をシャツで絞めて殺害し、軽乗用車や現金約2万5千円を奪った。 他に美崎被告は1月26日に市内コンビニに窓ガラスを割って侵入し、たばこなど24点(販売価格計約1万2千円)を盗むなど、2023年12月―2024年1月の間に、窃盗や無銭飲食といった7つの事件に関わった。 美崎被告は2023年12月中旬まで男性と同じアパートに住んでおり、男性から金を借りたことがあった。男性は一人暮らしだった。美崎被告はアパートを出た後、県内の空き家に潜んでいた。 1月9日午後、連絡が取れずに心配して訪ねてきた親族が男性を見つけ、鈴鹿署に通報した。 美崎被告は2023年12月27日に鈴鹿市内のコンビニエンスストアでたばこなどを盗んだとして、1月30日に県警に窃盗容疑で逮捕され、2月に起訴された。周辺の防犯カメラの映像に男性の車を運転する様子が写っていたことなどから、美崎被告が事件に関わった疑いが浮上。2月9日、県警は強盗殺人と住居侵入の容疑で美崎被告を逮捕した。 津地検は2月29日、強盗殺人と住居侵入の罪で美崎芳一被告を起訴した。 津地検は4月15日、コンビニで窃盗を繰り返したなどとして、建造物侵入や窃盗などの罪で、美崎芳一被告を追起訴した。 |
裁判所 | 津地裁 西前征志裁判長 |
求 刑 | 無期懲役 |
判 決 |
2024年12月18日 無期懲役 【判決文】(「裁判所ウェブサイト」内のPDFファイルが開きます。リンク先をクリックする前に、注意事項をご覧下さい) |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2024年12月2日の初公判で、美崎芳一被告は「間違いはないです」と起訴内容を認めた。 検察側は冒頭陳述で、「金に困った被告は昨年12月、当時住んでいたアパートを全室回り、同じアパートに住んでいた被害者から千円を借り、初めて面識を持った」と話し、同月末ごろから、窃盗などの犯罪行為を繰り返していたと述べた。動機について「大麻を買う金欲しさに被害者をナイフで脅した」と指摘。「抵抗した被害者の首を手で絞めて失神させ、意識を取り戻した被害者の首にシャツを巻き付け殺害した」と説明した。 弁護側は「被告は収入や貯金がなく、被告は飢えと困窮で自暴自棄になっていた」と主張。「脅して金を取ろうと考えていたが、被害者から予想していなかった強い抵抗を受けて首を絞めた。確実に死ぬとは思っていなかった」として、量刑について争う考えを示した。 12月5日の論告で検察側は、「抵抗する被害者の首を見ながら力を弱めることなく絞め続けた悪質で残虐な行為」と指摘。「かけがえのない命を奪い、金を得ようとした動機は極めて卑劣。大麻代金を得る目的も含む犯行で、極めて卑劣で身勝手極まりない」と主張した。その上で「金を貸してくれた被害者を狙い、以前にも被害者の車から金を取ろうとした。被害者には何の落ち度もなく、被告に親切にしたのに金のために殺害された」と強調した。 同日最終弁論で弁護側は「凶器は持ってきたナイフではなく、部屋にあった衣類。金を脅し取ろうとしてとっさに首を締めたもので、殺害は突発的で、殺意はあったが、確定的ではない」などと主張。「被害額が少ないうえ、一連の犯行を認め反省している。有期刑が適当」として寛大な判を求めた。 西前裁判長は判決で、「素手で首を絞めて被害者を気絶させ、被害者が意識を取り戻した直後、首に服を巻き付け、1回目より強く首を絞めた。凶器の服がとれないように複数回巻き付けるなどした殺害方法は、被害者が確実に死ぬと分かっていたというべき」と指摘。「被害者に強い苦痛や恐怖を与えた無慈悲かつ残虐な犯行」と強調した。その上で「自らの意思で仕事を辞めて生活費が乏しくなり、万引や無銭飲食をして生活する中で強盗殺人に至った。被告は、みずからの意思により仕事をしなくなり生活費が乏しくなり、養育費が払えず離婚後別居していた子どもに会えず絶望したなどと述べるが、働いて稼げば養育費を払うこともできたのに、働くことなく、あえて犯罪を選び、同情の余地はない」と非難。「突発的な殺意とはいえ厳しい非難を免れない。十分な反省も見いだせず、情状に酌量すべきものはない」と結論付けた。 |
備 考 |