What's New! 3月11日、東京高裁は渡邊宏被告の一審無期懲役判決(求刑同)に対する被告側控訴を棄却した。
地裁判決(うち求刑死刑) | 高裁判決(うち求刑死刑) | 最高裁判決(うち求刑死刑) |
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氏名 | 渡邊宏(69) |
逮捕 | 2022年1月28日 |
殺害人数 | 1名 |
罪状 | 殺人、殺人未遂、傷害、銃刀法違反 |
事件概要 |
埼玉県ふじみ野市の無職、渡邊宏被告は2022年1月27日、前日に死亡した母親(当時92)の線香をあげに来てほしいと、母親の診療を担当した医師の男性ら医療関係者7人を午後9時に呼び出し、母親の心肺蘇生を要望。断られたため、午後9時15分ごろ、自宅で散弾銃を撃ち、医師の男性(当時44)を殺害。一緒にいた理学療法士の男性(当時41)にも発砲して重傷を負わせたほか、銃を奪おうとした医療相談員の男性(当時32)に催涙スプレーをかけ、目にけがを負わせた。この男性は散弾銃を奪い持ち去り、さらに119番通報した。 また、外に避難した別の医療相談員の男性(当時42)に向けて別の散弾銃を撃ち、殺害しようとした。男性に銃弾は当たらず、怪我はなかった。 渡邊宏被告は医師の男性を人質にし、散弾銃を持って自宅に立てこもった。埼玉県警は渡邊被告と固定電話でやり取りを重ねたが、応答が無くなったため、約11時間後の翌28日午前8時頃、埼玉県警が突入し渡邊被告を緊急逮捕した。医師の男性は意識不明の状態で救急搬送されたが、病院で死亡が確認された。即死状態だった。 渡邊被告は1人で母親を介護。2021年1月中旬ごろから約1年間、殺害した男性医師のクリニックの在宅医療に意見が合わず、地元医師会に約15回の相談を繰り返していた。母親は26日に死亡し、男性が死亡確認をしていた。2丁の散弾銃は、いずれも警察に届出済みだった。男性は高齢者を中心とした在宅医療に取り組んでおり、亡くなる前は約300人の患者を担当していた。 埼玉県警は29日、渡邊被告を殺人容疑で送検した。2月18日、理学療法士の男性への殺人未遂容疑で再逮捕。 さいたま地検は3月から鑑定留置を始め、6月2日に終了。6月10日、医療相談員の男性2人への殺人未遂、傷害の容疑で再逮捕。さいたま地検は7月1日、殺人罪などで起訴した。 |
裁判所 | 東京高裁 石井俊和裁判長 |
求刑 | 無期懲役 |
判決 | 2025年3月11日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
2025年2月27日の控訴審初公判で、弁護側は、被告が医師の胸に狙いを定めたり、殺傷力の高い散弾を使用したりしておらず、「医師の右ひざ辺りを狙って発射した」として殺意を否定し、殺人や殺人未遂罪は成立しないと主張した。検察側は控訴棄却を求め、即日結審した。被告は出廷しなかった。 判決で石井俊和裁判長は、「胸の辺りに向かって銃身を構えていた」とする目撃証言などから、殺傷能力の高い散弾銃を使い至近距離で医師の胸あたりに向け発射したことは「ほぼ確実に死亡させる危険な行為で殺意に基づく」とし、一審判決を支持し控訴を棄却した。 |
備考 | 2023年12月12日、さいたま地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。 |
氏名 | 佐藤廣明(77) |
逮捕 | 2023年8月21日(公務執行妨害他の現行犯) |
殺害人数 | 1名 |
罪状 | 強盗殺人、強盗致傷、強盗、監禁、道路交通法違反(無免許運転)、公務執行妨害、窃盗、詐欺 |
事件概要 |
本籍岩手県盛岡市、住所不定無職の佐藤廣明被告は2023年8月14日の午前11時ごろから翌日午前9時半ごろまでの間に、滝沢市のアパートの自室にいた男性(当時72)に暴行を加え、タオルのようなもので首を締めて殺害し、通帳と印鑑を奪った。 佐藤被告は年金受給日である15日、奪った通帳とはんこを持って盛岡市内の銀行窓口へ向かい、同性である被害者のいとこを装って金を下ろそうとしたが、本人の意思が確認できないことを理由に銀行員に断られた。 男性は一人暮らしで8月6日ごろに引っ越したばかりであった。その後、盛岡市の児童公園で佐藤被告と知り合い、一緒に酒を飲むようになった。そのうち、佐藤被告は男性の部屋に滞在するようになった。 24日午後6時40分ごろ、アパートを訪れた家族が居間で男性の遺体を発見し110番通報した。 さらに佐藤被告は15日午後4時半ごろ、盛岡市の岩手県営運動公園で、散歩に訪れていた面識のない男性(当時81)に「熱中症になってしまったので、車で家に送ってほしい」とうその依頼をし、約20km離れた雫石町の岩手山神社まで軽乗用車を運転させた。午後6時~6時半ごろ、神社敷地内に駐車中の車内の中で男性の首にタオル状の物をかけて後ろに引っ張った後、車外で男性に馬乗りになって首を手で絞め、顔を拳で数回殴って打撲などのけがを負わせ車を奪った。 佐藤被告は8月17日ごろに秋田県鹿角市と青森市内の会社の敷地内から車のナンバープレート計5枚を盗み、1枚を軽乗用車に付け替えた。18日、軽乗用車で青森県鰺ヶ沢町内の自動車関連会社を訪れ、修理を依頼。その際に別のスポーツタイプ多目的車(SUV)1台(30万円相当)を借りたが、返さずにそのまま逃走し、同県東北町内に乗り捨てた。青森県警が軽乗用車を調べたところ、所有者が雫石町の事件の男性のものと判明したため岩手県警に連絡し、雫石町の事件が発覚。佐藤被告が事件に関与した疑いが強まったため、19日、岩手県警は指名手配した。21日午前、佐藤被告が青森にいる可能性があると岩手県警から連絡を受けた青森県警は捜索していた。 佐藤被告は8月21日午前10時ごろ、青森県内で面識のない40歳代の女性が運転していた軽乗用車に乗り込み、女性を脅しての女性を車内に監禁した上で車と現金数万円を奪い、そのまま無免許で逃走。青森県警は午後3時15分頃に十和田市内で佐藤被告が乗る軽乗用車を発見、パトカーやヘリで追跡した。同3時半頃、佐藤被告は女性を解放。佐藤被告は青森県内で一般車両2台と衝突する事故を起こした。午後4時35分頃、佐藤被告は検問中のパトカーと捜査車両に衝突させ衝突させた。佐藤被告は公務執行妨害容疑で青森県警に現行犯逮捕された。S衝突した際に肝臓を損傷したことが分かり、22日に釈放され同市内の病院に入院。28日に退院した。 岩手県警などは28日、雫石町の事件における強盗殺人未遂容疑で再逮捕。盛岡地検は9月15日、佐藤被告を強盗致傷罪で起訴した。 岩手県警は9月20日、自動車関連会社から車を借りて返さなかった横領の罪で佐藤被告を再逮捕。盛岡地検は10月10日、詐欺罪に切り替えて盛岡地裁に追起訴した。 岩手県警は10月10日、青森県内の女性への強盗、監禁容疑で佐藤被告を再逮捕した。11月9日、滝沢市の事件における強盗殺人容疑で佐藤被告を再逮捕した。 盛岡地検は強盗殺人罪で11月29日に、ナンバープレートを盗んだ窃盗罪で12月28日付けで、公務執行妨害と道路交通法違反は2024年1月30日付けで追起訴した。 |
裁判所 | 仙台高裁 加藤亮裁判長 |
求刑 | 無期懲役 |
判決 | 2025年3月6日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
2025年2月4日の控訴審初公判で、弁護側が殺意はなかったとして「強盗殺人」ではなく「強盗傷害致死」が適当だと主張した。検察側は控訴棄却を求め、裁判は即日結審した。 判決で加藤亮裁判長は「被告が通帳などを奪うために被害者を殺害しようと考え、確定的な殺意をもって被害者の首を絞めたことは明らかである」などと判断。「一審の判断に不合理な点はなく正当なものと認められる」と述べた。 |
備考 |
「藤」の旧字体は右下部分の点々がハの字型になったもの。「廣」の旧字体はまだれに「黄」。 2024年7月29日、盛岡地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。 |
氏名 | フォルゲ・ムンヤ・フィデル(32) |
逮捕 | 2021年7月27日 |
殺害人数 | 1名 |
罪状 | 強盗殺人、死体遺棄、偽造有印私文書行使 |
事件概要 |
カメルーン国籍のフォルゲ・ムンヤ・フィデル被告は2021年7月9日、同居していた大和郡山市の介護職員の女性(当時56)を自宅で殺害。現金約3,000万円を奪った。12日夜、友人と共謀し、女性宅から北へ約5キロの、国道163号側道の脇にある奈良市内の雑木林付近まで乗用車で遺体を運んで遺棄した。 フィデル被告は4月から大和郡山市内の工場で、別人名義の偽造した履歴書を提出し、偽名で働いていた。 女性は8日夜から9日朝にかけ、大阪府内の特別養護老人ホームで働いていた。連絡が取れず不審に思った妹が15日、警察に相談した。県警は20日、女性宅から約1.2キロ離れた駐車場で、女性の車を発見。車内から女性の血痕や、髪の毛がついた粘着テープが見つかった。付近の防犯カメラには、何者かが女性の車を駐車場に放置して別の車に乗り込み、走り去る姿が映っていた。23日、雑木林で警察官が遺体を発見した。 奈良県警は、防犯カメラの映像がフィデル被告に似ていたことから行方を追った。 フィデル被告は27日、羽田空港から出国しようとしたが、出入国在留管理庁の職員が気付いた。警視庁東京空港署に任意同行され、奈良県警の警察官が、勤務先の会社に偽名の履歴書を出したとする偽造有印私文書行使容疑で逮捕した。奈良地検は8月7日、同罪で起訴した。同日、奈良県警は死体遺棄容疑で再逮捕した。 10月12日、フィデル被告の初公判が奈良地裁(田中良武裁判官)で開かれた。検察側が余罪捜査で十分な証拠を開示できないなどの理由から、死体遺棄罪についての審理はされなかった。この日は偽造有印私文書行使罪については冒頭手続きが行われ、罪状認否でフィデル被告は起訴内容を認めた。しかし検察側が証拠を開示せず、弁護側も証拠の開示がされなかったことから対応できないとし、罪状認否や冒頭陳述などが行われないまま閉廷した。 奈良県警は11月4日、フィデル被告を強盗殺人容疑で再逮捕した。奈良地検は25日、強盗殺人容疑で起訴した。 死体遺棄を手伝った友人は9月14日付で全国指名手配されているが、行方は分かっていない。 |
裁判所 | 大阪高裁 坪井祐子裁判長 |
求刑 | 無期懲役 |
判決 | 2025年1月21日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 | 弁護側は困窮した生活状況での突発的な犯行だったとして有期刑の選択を主張したが、坪井祐子裁判長は「一審の評価に誤りはない」と退けた。 |
備考 | 2024年6月4日、奈良地裁の裁判員裁判で、求刑通り一審無期懲役判決。 |
氏名 | 田畑悠也(28) |
逮捕 | 2024年2月9日 |
殺害人数 | 1名 |
罪状 | 強盗殺人、死体遺棄、監禁他 |
事件概要 |
住所不定、無職の田畑悠也被告は2020年9月16日午後6時50分頃~7時45分頃、鹿屋市内の商業施設の駐車場に停めた会社員の女性(当時35)の軽乗用車内で、車を自由に使用させるよう要求。抵抗されたため、シートベルトで首を巻き付けて絞めるなどして窒息死させ、車(時価55万円相当)を強奪し垂水市の土手に遺体を遺棄した。 田畑被告は以前、別の事件で執行猶予付き判決を受けていたにも関わらず、働いていた飲食店の売上金の持ち出しなどのトラブルが生じていた。女性とはSNSの出会い系サイトで知り合って連絡を取っていたが、会うのはこの日が初めてであった。 女性は鹿屋市内の勤務先からいったん帰宅。午後6時半頃、同居する親族に「外出してくる」と伝えて家を出た後、行方が分からなくなっていた。親族が18日、県警鹿屋署に行方不明届を提出。10月29日、県警の捜索で遺体が見つかり、DNA鑑定の結果、身許が判明した。同31日に司法解剖をしたが、遺体の損傷が激しく、死因は分からなかった。県警は事件事故の両面で捜査した。 田畑被告は女性の車で実母が住む大分県に逃亡し、母親の自宅に身を寄せた。しかし10月8日深夜、別府市内の駐車場に止めた軽乗用車内で、SNSを通じて知り合った女性(当時30)に刃物のようなものを押し当てて脅し、約1時間、監禁した。女性が近くの店の従業員に助けを求めて発覚。田畑被告は逃亡したが、別府署は9日、利用料金を払わずに市内のインターネットカフェを利用したとして、詐欺容疑で逮捕。さらに30日には監禁容疑で再逮捕した。 一方、鹿児島県警は、女性が行方不明時に田畑被告と会っていたことを突き止めた。さらに大分県で女性の車を乗っていたことも判明。2021年1月9日、鹿児島県警の捜査員らが勾留先の大分県警別府署を訪れて田畑被告を死体遺棄容疑で逮捕し、身柄を鹿児島県警に移送した。1月20日、強盗殺人容疑で再逮捕した。 |
裁判所 | 福岡高裁宮崎支部 平島正道裁判長 |
求刑 | 無期懲役 |
判決 | 2025年1月23日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
2024年11月14日の控訴審初公判で、弁護側は一審同様、殺意はなかったと主張。検察側は殺意を立証するために、田畑被告と女性が乗った車を見た目撃者の通話履歴を新たな証拠として提出。目撃者が不審な車を見つけてから発車するまでの時間は約6分間で、偶発的に窒息死するには時間が短いと指摘。シートベルトでの絞殺以外考えられないとした。 12月5日の第2回公判で、弁護側は「目撃時間が正確ではない」と主張。「短時間でも条件が重なれば押さえつけや束縛行為で死に至る」と訴えた。そして殺意を認定した一審の判断は事実誤認だとして結審した。 判決で平島裁判長は、窒息死に至るには呼吸ができない状態が少なくとも4、5分必要との司法解剖した医師の証言や目撃者の証言などから、「一審判決が認定する通りシートベルトで首を絞めて窒息させたと認めるほかない。人が死亡する危険な行為を4、5分も意図せずに行ったとは考えられない」として、殺意を持って絞殺したと結論づけた。そして「被告が主張する事実誤認はない」と述べ、控訴を棄却した。 |
備考 | 2024年2月22日、鹿児島地裁の裁判員裁判で、求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。 |
氏名 | 菊地敬吾(52) |
逮捕 | 2014年10月1日 |
殺害人数 | 0名 |
罪状 | 組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)、銃刀法違反、現住建造物等放火、非現住建造物等放火、傷害 |
事件概要 |
特定危険指定暴力団工藤会ナンバー3で理事長、出身母体となる同会最大の2次団体「田中組」の組長である菊地敬吾被告は、他の被告と共謀して以下の事件を起こした。
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裁判所 | 福岡高裁 市川太志裁判長 |
求刑 | 無期懲役 |
判決 | 2025年1月23日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
2024年2月27日の控訴審初公判で、菊地被告側は一審の全面無罪主張から一転し、〈元警部銃撃事件〉〈看護師刺傷事件〉〈歯科医師刺傷事件〉について関与を認めた。菊地被告は元警部銃撃事件について「過去に元警部のせいで逮捕された私怨から計画した」と独断指示したと主張。看護師刺傷と歯科医師刺傷の2事件は田上被告から指示され、組員に命じたとしたが、3事件とも殺意は否定した。野村被告の関与はいずれもなかったと訴えた。他の3事件は一審に続き無罪を主張。被告人質問では、関与を認めた3事件について一審で否認した理由について、「話すことで(野村、田上被告に)迷惑がかかると思っていた」と供述した。 検察側は菊地被告が田上被告の控訴審に沿う形で主張を変更したことについて、「つじつま合わせだ」と批判。「菊地被告のこれまでの供述などから控訴審での新供述は信用できない」と反論し、控訴棄却を求めた。 6月6日の第2回公判で、被告人質問が行われた。 〈元警部銃撃事件〉では検察側からの質問に対し、菊地被告自らが田口義高被告に指示したと主張。田上不美夫被告にも聞かれたがしらを切ったと答えた。また一審で弁護人にすら関与を打ち明けなかったのは、否認していたので言えなかったと答えた。 〈看護師刺傷事件〉は田上不美夫被告からの指示だったと答え、理由については野村悟被告に横柄な物言いをしたからと説明されたと答えた。また野村被告の関与は聞かされていないと答えた。 〈歯科医師刺傷事件〉も田上被告からの指示と答えた。ただし、理由は説明されなかったと答えた。 裁判官から〈元警部銃撃事件〉でしらを切った理由を聞かれ、「私の一存でやっとる事件なので巻き込んだらいけんと。実行犯が捕まっていないから分からないだろうと思った」と答えた。 9月19日の第3回公判における弁論で、被告側は改めて〈1〉〈元警部銃撃事件〉は菊地被告の個人的な恨み〈2〉〈看護師刺傷事件〉と〈歯科医師刺傷事件〉の2事件は、工藤会ナンバー2で会長の田上不美夫被告からの指示――でそれぞれ組員に命じたと主張し、殺意はなく傷害罪にとどまるとした。トップで総裁の野村悟被告の関与はなかったと述べた。残り〈標章ビル放火事件〉〈飲食店経営者女性他刺傷事件〉〈飲食店経営会社役員男性刺傷事件〉については、「関与していない」などとして無罪を主張した。 検察は被告側が関与を認めた3つの事件について、「被告は工藤会のトップ『総裁』の関与を否定するうその供述をする理由があり、関与を認めたことは信用できない」などとして控訴を退けるよう求めた。 判決で市川太志裁判長は、田上被告の証言の変遷を受け、菊地被告が証言を変えたことなどから「信用性は乏しい」と指摘した。その上で〈元警部銃撃事件〉について「警察の徹底した捜査を招くなどの性質を持つのに、野村被告に事前に報告しないのは不自然で信用性に乏しい」と指摘、〈看護師刺傷事件〉でも被害者の看護師は野村被告とのみ接点があったことから、〈歯科医師刺傷事件〉も合わせ、野村被告を含めて共謀を認定。菊地被告が関与を否定した残る3事件については「菊地被告の指示や了解がなければ、事件の実行は著しく困難」などとした1審判決を追認した。そして「原判決の判断に誤りはない」などとして、一審判決を支持し、控訴を棄却した。 |
備考 | 2023年1月26日、福岡地裁で求刑通り一審無期懲役判決。被告側は上告した。 |
氏名 | 小倉一夫(72) |
逮捕 | 2024年7月11日 |
殺害人数 | 1名 |
罪状 | 強盗殺人、住居侵入、窃盗 |
事件概要 |
長野県上田市の無職の小倉一夫被告は2024年6月1日午後7時45分頃、上越市に住む自動車修理業の男性(当時62)宅の玄関で、男性の頭部をハンマーで複数回殴って殺害し、男性の車から現金約120万円が入った財布を奪った。 また小倉被告は2024年4月5日午前7時ごろ、男性の自宅に侵入し、現金約26万円を盗んだ。 事件当時、付近の住民が言い争う声を聞き、上越署に通報。駆けつけた同署員が頭から血を流して倒れている男性を発見した。男性は搬送先の病院で死亡。司法解剖の結果、頭蓋骨を骨折し、死因は外傷性くも膜下出血だった。 新潟県警捜査本部は7月11日、殺人容疑で小倉被告を逮捕。新潟地検は8月2日、強盗殺人罪で小倉被告を起訴した。8月3日、新潟県警は住居侵入と窃盗容疑で小倉被告を再逮捕した。新潟地検は住居侵入、窃盗罪で小倉被告を追起訴した。 |
裁判所 | 新潟地裁 小林謙介裁判長 |
求刑 | 無期懲役 |
判決 | 2025年1月29日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2025年1月20日の初公判で、小倉一夫被告は「ハンマーで殴ったが金をとるためではなかった」と述べ、起訴内容を一部否認した。 冒頭陳述で検察側は小倉被告の事件当日の行動について、住んでいる長野県内から自動車を運転し、上越市に向かった。そして、被害者の自宅から約900m離れたスーパーの駐車場に駐車。出発時には白の靴だったのが、被害者の自宅に向かう際には黒の靴に履き替え、午後7時ごろに到着し、待ち伏せしていた。そして午後7時42分ごろ、自動車で帰宅した被害者が自宅カーポートに駐車後、降車して玄関へと向かう際に小倉被告は犯行に及んだ。小倉被告は被害者を殺害して金品を強奪するため、被害者の自宅玄関および、カーポート内において、殺意を持ってハンマーで被害者の頭部などを複数回殴打し、被害者は倒れ込んだ。約50秒後に被害者の車の後部座席から現金約120万円入りの財布が入った黒のショルダーバッグをバッグを取り出した2秒後、小倉被告は倒れている被害者をさらにハンマーで1回殴り、再びカーポートから離れたものの、再びカーポートに戻って、複数回被害者をハンマーで殴打して現場から逃走した、と説明した。そして「小倉被告は家賃や元妻に対する娘の養育費などの支払いを滞納するなど経済的に困窮していた」と指摘。男性を殴ってから50秒後に車から財布が入ったバッグを奪い、さらに男性を殴っていたことや、普段から大金を持ち歩いていると男性について被告が周囲に言いふらしていたことなどから、小倉被告には財物を奪う意思があり、強盗殺人の罪にあたるなどと主張した。 弁護側は、「日用品や偽のブランド品・アダルトDVDを販売し、何とか生計を立てていた被告は、被害者の仕事が順調なことに嫉妬していた」と説明。被害者から車を購入したり、リースしたりしていた小倉被告はその代金が支払えず、商品を昔から購入してくれていた被害者が商品の代金と車の代金等を相殺して商品を持っていってしまうことに不満も覚えていたという。強盗殺人事件の際には、被害者に商品を売ろうと思って長野県の自宅を出発し帰宅を待っていたものの、これまでの不満や嫉妬が次第に募っていった。将来の不安や被害者との境遇の違いなどで自暴自棄になり、その際、被害者が帰宅したことから被害者の自宅にあったハンマーで殴った。金の入っている車の存在には殴った後に気付いた、と検察の主張に反論。殺害しようと考えたのは、被害者の自宅に着いてからで、金を盗もうと思ったのは殺害後だったとして、無期懲役もしくは死刑の可能性もある強盗殺人罪ではなく、殺人・窃盗罪が適用されるべきだと主張した。 その後の検察側の証人尋問で、当時被害者の会社で働いていた元従業員が出廷。被害者が自宅にハンマーを持って帰っていなかったことや被害者が大金を普段から持ち歩いていたことなどを証言した。 21日の第2回公判における証拠調べで、小倉被告は弁護人からの質問で4月に現金を盗んだ理由について、「父親が亡くなったこともあるし、将来のことや仕事のことを考えていたので、犯罪とわかりつつ盗んだ」と答えた。また強盗殺人事件当日のことについては「これまでの恨みつらみが重なり自暴自棄になりパニックになってやってしまった」と述べた上で、金銭目的の犯行かどうかなどについては一貫して「わかりません」「覚えていない」などと答えた。また検察側からの被告人質問で、取り調べ時に小倉被告は被害者宅訪問の理由を、売掛金の10万円を回収して金を借りようと思っていたと話していたが違うのか、との質問に小倉被告は「作り話をしていた」などと語った。他に事件当時のことについては、覚えていないと連発した。 22日の論告求刑で検察側は、「帰宅直後の男性をすぐさま襲撃し、わずか3分の間に暴行やバッグを盗んだ手際の良さは、当初から強盗することを考えていたことが推認される。家賃を滞納するなど経済的に困窮していて、被害者が車に多額の現金を保管しているのを知っていて、それを狙ったとしか考えられない」と説明。また「殺害のみを目的としていた人間が、殺害を遂げる前に、まだ意識のある男性を放置してバッグを盗んだことは極めて不自然、不合理で考えられない」と弁護側の主張を否定した。そして動機は極めて身勝手かつ利欲的であり、「助けてくれ」と懇願する被害者を無慈悲にハンマーで滅多打ちにしていて、「犯行態様は極めて悪質。酌量の余地はなく、捜査・公判を通じて反省の態度は見られない」として無期懲役を求刑した。 同日の最終弁論で弁護側は、「暴行を加えた際に、財物を奪う意思があったとは言い切れない」と主張。小倉被告は男性のバッグがどこに置いてあるか知らず、車のドアを開けた際に車内灯がついたことでバッグの存在に初めて気付いて、とっさに持ち去ろうとしただけで計画性はなかったと主張。「小倉被告は孤独感や将来の不安、男性への不満などがくすぶったことで自暴自棄になり突発的な犯行だった」として、強盗殺人罪は成立せず、殺人と窃盗罪が適用されるとして懲役15年が相当だと訴えた。 最終意見陳述で小倉被告は、「私の犯した犯罪で近隣住民や世間の皆様をお騒がせし、恐怖を与えてしまったことを深くおわび申し上げます」と謝罪した。 判決で小林裁判長は、被害者の頭めがけて陥没骨折を生じさせるほどの強さで殴打したことは、殺意が優に認められると説明。暴行後わずか50秒後には車内を物色していることからも、金品を奪う目的を持っていたことが強く推認されるとした。そして「精神障害でないのに犯行時の記憶が全くないというのも不自然というほかなく、被告人の供述は信用しがたい。当時、多額の債務を抱えていた被告人には殺意および財物奪取の意思を有していたことが認められ、被告人には強盗殺人罪が成立する」と断じた。量刑についても「自身の経済的な困窮から逃れるため金品を奪う目的で、手袋やフード付きの上着を用意するなど計画的な犯行に及んでいる。けを求める被害者をめった打ちにするなど残虐で被害額も多額だ。動機や経緯に汲むべき点は一切見当たらない」などと指摘した。 |
備考 | 被告側は控訴した。 |
氏名 | 柳本智也(28) |
逮捕 | 2022年7月22日 |
殺害人数 | 0名 |
罪状 | 強制性交致傷、強制わいせつ他 |
事件概要 |
吹田市の病院職員、柳本智也被告は大学四年生だった2016年3月から2022年5月、大阪府内で事前に女児の後をつけ、家族の不在時間などを調べ、女児が帰宅した際に押し入り、カッターナイフで「殺すぞ」と脅すなどしてわいせつ行為をするなど計10人(当時8~12)に性的暴行を繰り返した。 大阪府警は2022年7月22日、強制性交等や強制わいせつなどの容疑で柳本智也被告を逮捕した。以後、順次逮捕、送検した。 |
裁判所 | 大阪地裁 伊藤寛樹裁判長 |
求刑 | 無期懲役 |
判決 | 2025年2月18日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2025年1月14日の初公判で、被害者10人のうちの1人について審理が行われ、柳本智也被告は起訴内容を認め、「私の身勝手な行いで多大なご迷惑をかけ、精神的苦痛を与えたことを大変申し訳なく思っています」と謝罪した。弁護側は残りの事件も、被告は起訴された事実関係を全て認めると述べ、「(被告は)重い罰を覚悟し、償いの一歩として法廷に臨んでいる」と情状酌量を求めた。 検察側は以後、被害者1人ずつの審理を行い、柳本被告の行動を明らかにした。 柳本被告は「別人格」「記憶が抜けている」といった説明を行っていたが、精神鑑定を行った精神科医は、解離性障害や統合失調症を「詐病だ」と断じた。 2月4日の論告で検察側は「めがねをかけると別の人格になったように思える」と自己保身のため不合理な供述を繰り返したりしていることから、「事件に真摯に向き合っているとは考え難く、改善更生の意思が認められない」と指摘。「自らの性欲を満たすため、抵抗される可能性の低い力の弱い女児を狙い、6年にもわたり犯行を繰り返した。短くて犯行の4日前、長くて11カ月前から、被害女児の帰宅時間の外出状況を調べ、スマホに詳細にメモするなど計画性が高い。犯行時間も短くて30分と執拗な犯行である。反社会性の表れで強い非難に値する」と主張。女児の中には記憶がフラッシュバックしたり、男性を避けたりする「二次被害」が生じているとし、「女児は現在もトラウマに苦しみ、家族も(女児を)守れなかったことを悔やみ、悲しんでいる。女児に警察に言ったら殺すと口止めするなど、女児の恐怖心を利用し、同種事案の中でも悪質だ。家族の処罰感情も峻烈で、被害児童の人格を無視した卑劣な犯行だ」と非難した。 この後、被害女児4人の代理人弁護士が意見陳述。ある女児は一人で外出できなかった時期があったとし、「見ず知らずの男性への恐怖が続いており、忌まわしい記憶の影響は予測できない。被害は甚大かつ深刻で、無期懲役とするべきだ」と述べた。 同日の最終弁論で弁護人は柳本被告が精神科医に「小児性愛」と指摘されたことに触れ、「本人は事件と向き合い『どんな治療も受ける』と述べ、治療のスタートに立てている」と主張。「刑罰の役割の一つは更生の機会を与えることだ」として、有期刑にするよう求めた。 最終意見陳述で柳本被告は、「多くの方々を傷つけすぎてしまったことは、非難されて当然です。逮捕直後は事件に向き合えていませんでしたが、今は、事実の重みを受け止めることができています。もし性犯罪に死刑があれば、されて当然と思っています。無期懲役すら軽いと思われて当然、私はそれだけのことをしてしまったと再認識しています」と述べた。一方で、「(刑を終えて)出所してからが第2の懲役になる」と述べ、「もしこの先社会復帰が許されるのであれば、周りの人を幸せにできる、そんな存在になりたいと思う」という趣旨の発言もした。 判決で伊藤寛樹裁判長は、「各犯行は健全に育成されるべき女児らを狙って人格の根幹を傷つけたもので、卑劣・悪質の極み」としたうえで柳本被告が犯行前に女児や家族の外出状況をスマホに記録していたことに触れ、「妨げを受けずに自身の目的を遂げる状況をつくり出し、犯行に適する機会を見定めて実行したとみられる。同時並行で複数の女児の行動確認を行い、随時犯行の標的を切りかえるなど、著しく高度の計画性を備えた犯行で、卑わいな文言を申し向けて復唱させるなどの凌辱行為も卑劣・悪質の極み」と糾弾。「最も安心できるはずの自宅やその間近で被害に遭った女児の恐怖は想像を絶する。将来に影響が残ることも懸念される」と述べた。柳本被告は犯行時の記憶があいまいだと繰り返していたが、「嫌がる女児を見ても陵辱を続け、強固な犯意が認められる」と退けた。そして「個別に見ても重い部類の性的加害が長期間にわたり数多く積み重なっている以上、総合して評価する場合に非難の上限を低くするのは適当ではない。小児性愛の治療を受けることや被害弁償を続ける意思を示したことを踏まえても、評価に見合う処罰を有期懲役刑の範囲内にとどめるのは困難」とした。 |
備考 | 被告側は控訴した。 |
氏名 | 野村広之(54) |
逮捕 | 2023年2月22日 |
殺害人数 | 1名 |
罪状 | 強盗致死、住居侵入 |
事件概要 |
川口市の職業不詳、野村広之被告は闇バイトの応募に応じ、他3人と共謀。2023年1月19日午前11時半ごろ、実行役の永田陸人被告、加藤臣吾被告、野村広之被告、NK19被告の4人は共謀。宅配業者役のNK19被告、野村被告が段ボール箱を持って東京都狛江市の住宅のインターフォンを鳴らし、応対のために玄関ドアを開けた住人である女性(90)を野村被告がいきなり抱きかかえ、そのまま中へ突入。3人もそれに続きに突入した。野村被告とNK19被告はを地下室に連れていき、両手を結束バンドで縛った。そして永田被告の指示で野村被告がバールで複数回殴り、多発肋骨骨折等の傷害に基づく外傷性ショックにより死亡させた。加藤被告は2階にあった腕時計3点、時価合計約58万円相当を奪った。起訴内容には指輪も含まれていたが、判決では被害品から除外されている。 この住宅には息子夫婦、2人の孫が住んでいたが、全員が外出していた。 このとき加藤被告は、実行役のリーダーである永田被告だけに腕時計を奪ったことを話し、他の実行役や指示役を出し抜いて、多くの利益を得ようとしていた。 収穫が少なかったことから永田被告は「キム」(指示役)と相談し、NK19被告を見張として家の前に降ろし、もう一度突入しようとした。しかし野村被告は逃走。さらにNK19被告が、近くに業者がいると嘘をついたため再突入は断念した。 NS34被告は「ミツハシ」の指示で、事件前にレンタカー2台を借りた。 犯人たちは当初1月13日に実行する計画だったが、運転手役が同日逮捕されたため、延期。18日にも集合して現場に向かったが、人通りが多かったため取りやめた。 大網白里市で起きた強盗傷人事件の捜査の過程で午後2時46分、千葉県警から警視庁調布署に「この家が強盗に狙われている」という情報提供がもたらされた。およそ2時間半後の午後5時12分、警視庁調布警察署の警察官が住宅に到着した。その3分後の午後5時15分に家族の1人が帰宅したため、警察官は、この家族とともに玄関から住宅の中に入り、女性が住宅の地下1階で死亡しているのを発見した。 捜査本部は2023年2月22日午前、実行犯の野村被告を強盗殺人と住居侵入容疑で、レンタカーを用意したNS34被告を強盗殺人ほう助容疑で逮捕。同日、午後、実行犯の永田被告、NK19被告を逮捕。28日、強盗殺人と住居侵入容疑で加藤被告を逮捕。 東京地検立川支部は3月16日、野村被告と永田被告を強盗致死と住居侵入罪で起訴、NK19被告を同非行内容で家裁送致した。NS34被告は処分保留で釈放した。22日、強盗致死、住居侵入罪で加藤臣吾被告を起訴した。4月12日、東京家裁立川支部はNK19被告を逆送した。21日、東京地検立川支部はNK19被告を強盗致死罪などで起訴し、名前を公表した。 警視庁滝野川署は4月26日、NS34被告を窃盗容疑で逮捕した。NS34被告は2022年7月16日夕、仲間と共謀し、北区の70代男性宅に「カードが不正に使われているので交換する必要がある」と滝野川署員を装って電話。家を訪れてカード2枚をだまし取り、現金計100万円を引き出して福島容疑者らが管理する別の口座に同額を振り込んだ。 警視庁は9月12日、強盗殺人容疑などで「シュガー」を名乗った渡辺優樹被告、「ミツハシ」を名乗った今村磨人被告、「キム」を名乗った藤田聖也被告、小島智信被告を逮捕した。小島被告は闇バイトで実行役を募るリクルート役だった。東京地検は10月3日、殺意は認められなかったとして渡辺被告、今村被告、藤田被告を強盗致死罪他で起訴した。小島被告は処分保留とした。東京地検は12月27日までに小島被告を不起訴処分とした。 |
裁判所 | 東京地裁立川支部 菅原暁裁判長 |
求刑 | 無期懲役 |
判決 | 2025年2月18日 無期懲役 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2025年1月22日の初公判で、野村広之被告は「起訴内容で違うところがある。起訴状には解釈できない内容もあるが、参加したことは認識としてある」と述べ、弁護人は「起訴状の内容の犯行をしたわけでない」と起訴内容を一部否認した。 冒頭陳述で検察側は、野村被告がSNSのグループチャットで指示役から事件の計画を伝えられたと指摘。「野村被告は宅配業者役として玄関から出てきた女性の体を抱きかかえて住宅に押し入った」「女性の体をバールで多数回殴った」とした。 弁護側は「被告は事件に参加した旨は述べているが、起訴状通りの犯行を行ったわけではない。事件への関与の内容や詳細は審理の中で明らかにしていく」と説明した。 1月28日の第4回公判でNK19被告が証人として出廷。「下見の時、野村は白い手袋持ってきてて、『指紋残さないほうがいいよね』とマウント取ってきてました。車は永田が運転していたんですが、野村と一時、運転を変わったら『警察から逃げるときはこれくらいスピード出さないとダメだよね』と言ってスピードを上げたり、急ブレーキ踏んだりしていました」「家の人が女性であると特定されていたのですが『女をやっちゃうか』という提案をしていました。暴行を加える意味だと思いました」と語った。 第5回公判で永田陸人被告が証人として出廷。野村被告が事件前日だけでなく、それ以前のテレグラムでのやり取りにおいても、やる気をみなぎらせていたと振り返った。そして「私は当時、仕事の関係でリアルタイムでのテレグラムグループのやり取りに参加できていなかったのですが、基本的に指示役が投稿し、野村が意欲的に質問して、指示役がそれに回答して、その過程で加藤が助言していた記憶があります。野村の質問は数が多すぎて、詳しい内容を覚えてないんですが、あまりに質問が多いため、指示役から個人的にメッセージが届き、ずっと愚痴を聞かされてました」と語った。 また事件時について永田被告は「すぐそばにいた野村に対し『バール持ってこい』と言い、『やれ』と言いました。野村は6回から8回、暴行を加えました。私の指示のもとにやったと認識していますが、私は『やれ』それのみしか言っていません。我々犯罪者的には『やれ』と言ったらゆっくりやる。1回を想定していました。残りの5回から7回は野村の意志のもとでやったと認識しています。ほんと正直言うと、自分の想像を超えてました」と答えた。 第6回公判で加藤臣吾被告が証人として出廷。「永田から運転を交代したら急にスピード上げたり荒々しい運転を見せて『警察が来たら逃げるときこうやるんだ』と言い出したので、永田がブチ切れてました」と当時を振り返った。 31日の公判における被告人質問で、「バールを使って女性を殴ったか?」と問われた野村被告は、「ありません。暴力はしていません」と主張した。強盗致死の罪で起訴されたことについて、「参加したことは認めるが、僕は暴行をしていない。何もとってないし、もらってもいない。僕としては理解できない」と話した。また、「闇バイトをネットで検索した」としたうえで、応募した理由については、「仕事をしていたが手元に金が残らず、金に困っていたのが一番」などと述べた。 2月7日の論告で検察側は、ほかの実行役2人の証言から「野村被告は女性の死亡結果に直結するバールでの暴行を行った張本人だ」と指摘。その上で、「金への執着が強く、動機は身勝手だ。抵抗できない女性に一方的な暴行を加えており、犯行態様は執拗かつ残虐で、極めて悪質」として、野村被告に無期懲役を求刑した。 弁護側は事件への関与を認めた一方、「共犯者の証言は重要な部分で食い違っていて、信用できない。野村被告の暴行を認定することはできない。暴行はしていないし、現場のリーダーは共犯者で被告は補助的な立場だ」などと主張し、有期の懲役刑を求めた。 最終意見陳述で野村被告は、「私はバールで殴ってません。ぬれぎぬだ」と訴え、証言について「人をおとしめる内容になっていて、許せません」と述べた。 判決で菅原暁裁判長は、バールでの暴行を否定する野村被告の供述は不自然で信用できないとした一方、ほかの実行役たちの証言は「核心部分で十分に信用できる」と指摘。野村被告がバールで殴ったと認定した。さらに「被告人自身が、バールによる多数回の殴打という、執拗かつ残忍で被害者の死に直結した暴行を行っている。被告人が殴打を行なったのは共犯者の指示によるものではあったものの、被告人は、共犯者から単に『やれ』と言われただけで、バールにより殴打する部位、殴打の回数や強度等は被告人においていかようにも決められる状態であったのに、突如として、身体の枢要部である左背部等をバールで6回から8回ほど相当の強度で叩いたのであり、これらの殴打については被告人が主体的に行なったといえる。このような経過からすれば、Aさんが死亡するに至ったことについて被告人が負うべき責任は重大で、共犯者からの指示があったことが被告人の責任を減ずる程度にも限度がある」と非難。一方、奪ったとされた指輪については、発見されていない上に実行役がいずれも否認しているとして被害品から除外した。そして金目当てで積極的に事件に加担したとともに、3人の実行役に罪をなすりつけようとしていたことについても「被告人は、バールによる暴行を全て共犯者の責任にしようとして、公判廷で虚偽の事実を述べていることなどからすれば、被告人が事件に向き合い、反省しているとは到底いえない。身勝手で利己的な犯行動機に酌むべき事情は一切ない」と断じた。 |
備考 |
共犯者を含む【ルフィ広域強盗事件】の判決結果は、【ルフィ広域強盗事件】参照。 被告側は控訴した。 |
氏名 | 辻和美(52) |
逮捕 | 2023年6月12日 |
殺害人数 | 1名 |
罪状 | 強盗殺人、有印私文書偽造・行使、詐欺、道路交通法違反(無免許運転)、電磁的公正証書原本不実記録・同供用 |
事件概要 |
住所不定、無職の辻和美被告は、パート従業員の姉(当時52)から通帳などを奪おうと、知人の無職岡村恵美被告と共謀。2023年6月2日午後0時50分頃から同1時30分頃、福岡県水巻町の町営住宅の姉宅で姉に催涙スプレーをかけるなどの暴行を加え、首を圧迫して殺害した。そして通帳3冊と印鑑、軽乗用車を奪い、無免許なのに姉の車を運転して郵便局に向かい、姉の口座から貯金を払い戻そうとしたが失敗。続いて2つの銀行に向かって姉になりすまし、計102万8000円を払い戻した。その状況を岡村被告に報告し、午後3時44分ごろ、岡村被告と合流し、少なくとも91万円を渡した。 その他に2023年5月、辻被告と岡村被告は辻被告名義の保険証を入手し、消費者金融の金を借りようと計画。辻被告は実際には住んでいないのに、岡村被告の隣の住んでいるかのような虚偽の住民登録をして保険証を入手した。そして岡村被告とともに消費者金融でカネを借りようとしたが、借りることができなかった。 姉は独身で、長年母親の介護をしていたが、母親が老人ホームに入ったため、一人暮らしだった。 6月5日に清掃業のパートの仕事を欠勤し、電話も通じなかったことから、午後4時半ごろ、同僚が県警に安否確認を依頼した。同日午後8時半ごろ、室内に入った警察官が居間にうつぶせで倒れている被害者を見つけ、その場で死亡を確認した。7日、自宅から約3km離れた福岡県中間市のパチンコ店で、被害者の軽乗用車が見つかった。 県警は被害者の死後、預金口座からほぼ全額の約73万8千円が引き出されたことを把握。6月11日、県警は辻和美被告を北九州市内のコンビニ店で発見。所持金は約1000円で、野宿に近い生活を送っていた。12日、同県中間市の銀行窓口で被害者の通帳などを使って預金を引き出したとして、辻和美被告を有印私文書偽造・同行使と詐欺の両容疑で逮捕した。7月3日、福岡地検小倉支部は同罪で辻被告を起訴した。 県警は7月28日、辻被告に成りすまして5月22日に北九州市小倉北区内の銀行で預金通帳を作成したとして、詐欺容疑で岡村恵美被告を逮捕した。 8月18日、強盗殺人容疑で辻被告、岡村被告、岡村被告の長女(当時24)を逮捕した。 9月8日、福岡地検小倉支部は辻被告を強盗殺人罪で、岡村被告については殺意がなかったとして強盗致死罪で、岡村被告の長女については通帳から引き出された金を受け取った組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)でそれぞれ起訴した。長女への強盗殺人容疑については処分保留となり、12月27日付で不起訴処分となった。 10月13日、福岡県警はうその住民異動届を小倉北区役所に出したなどとして、辻被告と岡村被告を電磁的公正証書原本不実記録・同供用の容疑で再逮捕。福岡地検小倉支部は27日、二人を起訴した。 岡村被告は11月30日、2022年12月に小倉北福祉事務所などで応対した職員に収入を隠して生活保護を申請し、生活扶助と住宅扶助の2か月分、計約22万円を不正に得た詐欺の容疑で再逮捕された。 |
裁判所 | 福岡高裁 平塚浩司裁判長 |
求刑 | 無期懲役 |
判決 | 2025年2月18日 無期懲役(被告側控訴棄却) |
裁判焦点 |
2025年2月5日の控訴審初公判で、弁護側は一審同様、岡村被告との共謀について否認したうえで、「姉を殺害していない」と主張し減刑を求めた。検察側は控訴棄却を求め、即日結審した。 判決で平塚浩司裁判長は「事実経過から被害者の首を圧迫したのは被告人以外の者であったとは考えられない。被告人は犯行を主体的に決断し、積極的に犯行用具を準備するなどしている。その計画性、悪質性、結果の重大性などに照らせば、一審の判決の評価に誤りはない」と述べた。 |
備考 |
岡村恵美被告の長女(判決時24)は奪われた金のうち現金40万円を受け取った組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)で起訴され、2024年2月9日、福岡地裁小倉支部(安陪遵哉裁判官)で懲役2年6か月、執行猶予4年、罰金50万円判決(求刑懲役2年6か月、罰金50万円)。控訴せず確定。 岡村被告の長男(判決時27)も同じ罪で起訴され、2024年2月27日、福岡地裁小倉支部(安陪遵哉裁判官)で懲役1年6か月、執行猶予3年、罰金50万円判決(求刑懲役1年6か月、罰金50万円)。控訴せず確定。 岡村恵美被告は辻和美被告と共謀したものの被害者への殺意はなかったとして、強盗致死などの罪で起訴。一審では「5,800万円は預かっていたていただけ」「辻和美被告に脅されていた」だけと主張。起訴内容を否認し、「マインドコントロールを受けていたのは岡村被告」「20年もの間、辻被告に脅され、何かを合意して行う関係ではなかった」と無罪を主張した。2024年12月12日、福岡地裁小倉支部(武林仁美裁判長)は懲役20年判決(求刑懲役27年)を言い渡した。弁護側の主張を退け共謀を認定。殺害は想定しておらず「辻被告と同等の非難を向けることはできない」としながらも「首を絞めたと聞きながら利益の大半を手にし、ためらいなく子に分け与えており、犯行は利欲目的で身勝手」と非難した。被告側控訴中。 2024年8月1日、福岡地裁小倉支部の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。 |
氏名 | 室田利通(63) |
逮捕 | 2022年8月19日 |
殺害人数 | 1名 |
罪状 | 殺人、銃刀法違反(発射、加重所持)、携帯電話不正利用防止法違反 |
事件概要 |
群馬県太田市の指定暴力団稲川会系2次団体組幹部の室田利通被告は、2次団体組幹部N被告、3次団体組幹部周東由記被告、親交のあった前橋市の無職N被告と共謀。2020年1月24日午後7時ごろ、桐生市に住む山口組系傘下組織組員の男性(当時51)の自宅アパート駐車場で拳銃1丁と実弾3発を所持し、2発発射して組員の頭と胸に命中させ、殺害した。室田利通被告は事件の首謀者であった。 室田被告らが所属する2次団体と、被害者が所属する傘下組織はともに太田市を拠点としており、抗争には至っていないが、しのぎを巡ってもめており、組員同士の衝突が複数回あった。 群馬県警は2022年8月19日、殺人と銃刀法違反(発射、加重所持)容疑で室田被告ら4人を逮捕した。 |
裁判所 | 前橋地裁 山下博司裁判長 |
求刑 | 無期懲役+罰金20万円 |
判決 | 2025年2月28日 無期懲役+罰金20万円 |
裁判焦点 |
裁判員裁判。 2025年1月28日の初公判で、室田利通被告は「一切関与していません」と起訴内容を否認した。 検察側は冒頭陳述で「殺害を企て、共謀した組員らに拳銃や金属バットなどを提供した」と指摘。「共謀した3人を呼んで殺害を指示した」として事件の首謀者だと述べた。弁護側は「証拠は関係者の供述のみで、客観的なものはない」として被告の関与を否定。その上で「共謀した組員の中には、暴力団組織内で室田被告よりも上の立場の組幹部がいて、指示できない」と反論した。 2月10日の公判における論告で検察側は、室田被告が役割分担や殺害方法など犯行の全てを主導していたとして「首謀者で刑事責任は一番重い」などと主張した。 同日の最終弁論で弁護側は、室田被告と被害者は競艇場の飲食店で交遊する間柄とし、「殺害する動機がない」と訴えた。 判決で山下裁判長は、仲間の供述から、室田被告が実行犯に拳銃を渡して射殺を指示したことなどで首謀者と認定。そして「共犯者を事件に引き込んだにもかかわらず、犯行を否認した上で関係者らに責任を押し付けるなど、自己保身の態度に終始し、反省の態度が全く見られない。計画的で卑劣。近隣住民に不安を与え、厳しい非難に値する」と述べた。 |
備考 |
金属バットを持つ援護役だった無職N被告は起訴事実を概ね認めるも、共謀の成立時期について争った。2023年10月16日、前橋地裁(山下博司裁判長)の裁判員裁判で懲役20年判決(求刑懲役25年)。その後は不明。 拳銃を発射した殺害の実行役である周東由記被告は2024年2月1日、前橋地裁の裁判員裁判で求刑通り一審無期懲役判決。2024年9月6日、東京高裁(伊藤雅人裁判長)で被告側控訴棄却。その後は不明。 実行役らの送迎役などを務めた稲川会系2次団体組幹部N被告は2024年11月12日、前橋地裁(山下博司裁判長)の裁判員裁判で懲役18年判決(求刑懲役20年)。その後は不明。 |
※最高裁は「判決」ではなくて「決定」がほとんどですが、纏める都合上、「判決」で統一しています。
【参考資料】新聞記事各種