『推理力テスト集 五分間ミステリー』
著者:藤原宰太郎
(藤原宰太郎:推理クイズ作家として数々の著書を執筆)
発行:東京スポーツ新聞社 ライフ・ブックス
発売:1970/10/15
定価:350円(初版時)
自慢じゃないが、ぼくは大学時代から十数年間、ぶっ通しで推理小説を読破してきた。読んだ冊数では、おそらく誰にも負けないつもりだ。おかげで、ぼくの頭の中は、まるでコンピューターの記憶集積回路のように、古今東西の密室トリック、殺人トリック、完全犯罪トリックなどが、ぎっしり詰まっている。
さて、そこで、それらの中から、とくに面白い奇想天外なトリックを選びだして、絵入りのパズルショートショート・クイズにして、キミの脳ミソに挑戦したのが本書である。
はたして、キミは推理力抜群の名探偵になりうるか、脳細胞をよくマッサージしてから、この謎解きパズルに挑戦してくれたまえ。
体操は肉体をきたえ、推理は頭脳をきたえる。「謎とき」こそは、人間だけに与えられた最高級の知的ゲームである。
「人間は考える葦である」といった哲人パスカルの名句を借用すれば「人間は推理する葦である」ともいえる。
ところが、大脳生理学者の説によると、人間の頭脳は、普段、三分の一しか活動していないという。キミの能ミソの三分の二はムダに眠っているわけだ。まったく、もったいない話ではないか。宝の持ちぐされである。
まして、今日のようなコンピューター万能の便利な時代になると、めんどうくさい数理計算は全てコンピューターが処理してくれるので、人間の頭はますます横着になるばかりである。大多数のサラリーマン諸君は、これといった創意工夫もないままに、毎日、与えられた仕事を単調に繰り返してやるだけで、会社がひければ、バーや焼鳥屋のアルコールでバク然とした欲求不満のうさを晴らし、家に帰れば、ただ漫然とテレビを見て、ぬるま湯のごときマイホームに無気力に満足して、のんびりと過ごす。まさに太平ムードである。
しかし、こんな怠惰な冬眠状態、コンピューターに支配されるドレイ状態で、はたしてよいものだろうか? 他人より一歩でも抜きん出て、出世コースに勝つことは、とうてい、おぼつかない。退化して後れをとるのが落ちである。
情報化時代のビジネスの世界は、つねに創造的な人間、独創的なアイデアに富み、柔軟な思考の持ち主を求めているのだ。だから、モーレツ型サラリーマンを志すなら、根性とか忍耐の精神面以外に、日頃から能ミソがさびつかないように、前頭葉をトレーニングしておくことがたいせつである。惰眠をむさぼる脳細胞を目ざめさせ、フル回転させれば、キミは今の三倍も能力を発揮できるのだ。そのためには、なにも改まって堅苦しい経営学書などを読む必要はない。むしろ、手軽に読んで楽しい推理クイズで、コレステロールがたまりがちな頭脳を柔らかくマッサージするのが良策である。
そこで、私はこの「推理力テスト集」で、キミの能ミソをシゴいて、キミ自身の眠っている潜在能力を開発してあげようというのだ。本書は、世にはんらんしている数学的なクイズ集ではない。そのようなこむずかしい数学クイズは、それこそコンピューターにまかせればよい。創造性のない人工頭脳は解答できない奇想天外な殺人トリックや、犯人探しの謎とき、不可能犯罪である密室トリックなど、奇問、難問、珍問を、絵入りのパズルとショートショートにして、キミの頭に挑戦したのが本書である。
ただのクイズ問題集としてばかりでなく、ミステリーの醍醐味もたっぷりあって、我田引水ではないが、推理小説ブームの現代にふさわしい探偵トリックの百科ミニ全書でもある。またストレス解消にも役立つ楽しい読み物である。
とにかく、本書を読めば、推理力が一段と向上することは、絶対に保証する。思考力が飛躍し、機に臨んで順応できる柔らかい頭脳の持ち主になれば、当然、モーレツサラリーマンとしてのキミの将来も、また、さらにビューティフル人間のキミの前途もバラ色に飛躍するわけである。
=もくじ=
第一章 殺人計画パズル−創造力テスト
第二章 アリバイ・パズル−推理力テスト
第三章 密室トリック・パズル−分析力テスト
第四章 犯人さがしパズル−判断力テスト
第五章 凶器さがしパズル−想像力テスト
第六章 偽装工作パズル−注意力テスト
あまりに面白いので、《まえがき》を全て引用してしまった。これだけ挑発的なまえがきは、藤原宰太郎にしては珍しい。さすが、出版社が東京スポーツ新聞社である。あおりがうまい(笑)。
ここに収録されている推理クイズのほとんどが、その後の推理クイズ本(子供向け含む)に収録されている。どうやら、この本が原型のようだ。
藤原宰太郎の推理クイズ本は、『5分間ミステリー』、『探偵ゲーム』、『探偵クイズ』、そして本書が原型と、ここで断言しよう。
表紙はずいぶんと扇情的だが、中身はそれほど扇情的でもない。ただ、所々でセックスのネタを取り扱っているのはご愛敬か。それとも、推理小説の三大動機の一つ、愛憎を考慮したか。
この本の裏表紙に著者略歴があるのだが、「タフな岡っ引きを主人公にしたハードボイルド調の捕物帳に意欲を燃やしている」とある。実際には「春風は死を呼ぶ」(『小説club』昭和45年6月号)など数作のハードボイルド調の捕物帳があり、それ以前にも「消えた身代金」(『読切時代』昭和44年12月号)などの捕物帳がある。
捕物帳については『藤原宰太郎探偵小説選』(論創ミステリ叢書113)よりより引用ならびにご提供いただきました。有難うございました。
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