ローレンス・トリート『絵解き5分間ミステリー 名探偵からの挑戦』(扶桑社ミステリー文庫)



『絵解き5分間ミステリー 名探偵からの挑戦』 『絵解き5分間ミステリー 名探偵からの挑戦』

 作者:ローレンス・トリート
(1903年ニューヨーク生まれ。弁護士となるが、パリに移り、執筆活動をはじめる。絵解きパズルも、この頃から手がけた。「警察小説の父」と称され、45年にはアメリカ探偵作家クラブ(MWA)の創設に貢献。17本の長編と300本以上の短編を残したほか、TV脚本の執筆、『ミステリーの書き方』の編集など、多彩な活動を行い、エドガー賞を3度受賞。1998年死去。)
 イラスト:ポール・カラシク
 訳者:矢口誠

 扶桑社ミステリー文庫

 発売:2015年7月10日初版

 定価:620円(初版時 税抜き)





 これは推理クイズの本です。本書に収められたエピソードはすべて、ジュリアス・メイクピース・クワッカリーの個人的な体験に基づいています。ジュリアスは「この本に出てくる話は、一字一句にいたるまですべて真実だ」と保証しています。もちろん、「そんなことありえねー」とおっしゃる方もいるでしょう。長い出版の歴史において、「本書の中身はすべて真実だ」と保証できた作家など、ひとりとしていたはずがないからです。もちろん、わたしがこんな保証するのも、これが最初で最後になるでしょう。
 しかし、それをいうなら、ジュリアスはおよそ普通とはいえない人物で、普通ではない自分の名前に誇りを持っています。当人もいっているとおり、クワッカリーという名前は“家庭治療”を意味するオランダ語の“クワックサルバー”という言葉が語源で、ある意味これは、警察の力を借りずに自分で事件を解決してしまうジュリアス自身が実践していることでもあるのです。ジュリアスは思いやりのある常識的な人物で、大勢の子供の名付け親になっています。本書には、ジュリアスの名付け子たちが犯した犯罪の数々が紹介されています。しかし、ジュリアスはイカサマ師(クワツク)でもなければ、クワックワッと鳴くわけでもなく、本当かどうかはさておき、博識家を自認しています。
 ただし、ジュリアスの妻のジュリアはそう思っていないようです。クワッカリー夫妻は理想のカップルというわけではありません(とはいえ、この世に、“理想のカップル”なんて本当に存在するのでしょうか?)。ジュリアは株の売買を手掛けるキャリアウーマンだといえば、おおよその事情はおわかりいただけるでしょう。彼女はひたすら仕事に打ちこみ、高い収入を得ているだけでなく、編み物の達人でもあります。ジュリアスもおなじくらい仕事に打ち込んでいますが、収入はほとんどなく、ごく簡単な足し算もできず、ネクタイひとつロクに結べません。
(中略)
 わたしはこの本を、いまやティーンエイジャーになったアンソニー・カルペッパー・スティッチメイヤー(チップの愛称で呼ばれています)に読んでもらいました。すると彼は言いました。「イラストをじっくり見て、状況説明の文章を読んで、すべてを考え合わせれば、答えは目の前にあるよ」
 クィーニー・ブッシュオーバーもおなじことをいっています。と同時に、「この本のイラストってさぁ、マジでどれも一筋縄じゃいかないんだよねー。何が手がかりなのか、自分で見極めなくっちゃダメよ」とアドバイスしてくれました。(中略)
 しかし、忘れないでください。推理は芸術であって、科学ではありません。ですから、かならずしも正確な答えがあるわけではありません。本書の解答欄の「正解」は、わたしの目からするともっとも確実性が高く、もっとも論理的なものです。しかし、ディー・トリオジェンズは本書の解答のいくつかに対して、「さすがにそれはないんじゃない?」と異をとなえました。わたしは彼女と争うつもりはありません。ということで――ご検討をお祈りします。
(後略)

(「はじめに」より)


  1. まずは事件の説明文をじっくり読んでください。ここには重要な手がかりがちりばめられています。
  2. いきなり質問に答えはじめるのではなく、まずはすべての質問を通読してください。そうすれば、イラストのどこに注意を向ければいいかわかるはずです。
  3. イラストをじっくり眺めてください。
  4. 鉛筆を用意してください。
  5. 最初から順番に質問に答えてください。自分の推理能力に自信があれば、簡単な質問は飛ばし、最後の質問にいきなり答えてくださっても結構です。
  6. 解答を読んで、自分の推理の鋭さに満足するか、「次回はがんばるぞ」と決意を新たにし、つぎの問題に進んでください。
(「推理クイズの解き方」より)



 『絵解き5分間ミステリー』『絵解き5分間ミステリー 証拠はどこだ』に続く第3弾。原題は『Crime and Puzzlement 3』、1988年に出版されている。『Crime and Puzzlement 2』が1982年に出版されているので、前作から6年間が空いているかと思いきや、1983年には『Cluedo,Armchair Detective』(『アビントン・フリス村事件簿 イラスト・ミステリー』)が出版されているので、ある意味原点回帰といったところか。
 それにしても、前作『証拠はどこだ』から10年ぶりの新刊。帯で「大人気<絵解き>シリーズ待望の第3弾」と書かれているが、なんで今頃出たのかが逆に不思議。すでに「5分間ミステリー」シリーズの人気は収束していたと思うのだが。まあ、出してくれたこと自体には感謝したい。
 過去の作品と同様、まずは説明文があり、事件のイラストが描かれている。次に「問題」として5~10問程度の問いが用意されている。この問いはほぼ二択となっている。そして「問題」の最後で、犯人の名前ないし事件の真相を推理するという形になっている。それは今までの問いを答えていけば、推理することができるようになっている。設問は全部で24問。
 「まえがき」にもあるとおり、イラストを注意深くみればほとんどの「問題」を解くことができる。現場の状況を見ながらひとつひとつ推理して、事件の真相に迫るという形は実際の捜査に近く、常識的な推理の仕方が少しずつ身に付くようになっている。自信がある人なら、イラストだけからいきなり真相を暴くのも面白いだろう。
 解答の最後には、事件の皮肉な結末が書かれており、そのブラックユーモアぶりには笑えてしまうのも前作と一緒。逆に飽きが来た感もあるが。
 イラストが見開きで描かれているため、肝心の所で見えない部分があることも前作と一緒。特に本作では、肝心なところが見開きになっていてよく見えないという欠点もあり、イライラしてくる。元々はカラーイラストであるのに、白黒だからわからない部分もある。今回は縮尺もおかしいのか、遠近感がとりづらいイラストもある。なんなんだろう、これは。
 前作と作り、内容が全く変わらないので、前作同様の感想意外、書くことがない。まだ続編があるのなら、出してほしいところではある。海外ではこのようなクイズの需要があったのだろうか。

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