伊達邦彦全集(光文社文庫)



【伊達邦彦】
 伊達邦彦は、大藪春彦「野獣死すべし」(1958)で初登場。ハルピンで生まれ、第二次大戦後、日本からの救いの手も得られず、周りの人たちと自力で船を雇い、苦難の末日本に帰る姿、帰国後の無頼の姿は、作者大藪春彦とオーバーラップする。まさに分身ともいえる。
 「野獣死すべし」で大学の入学金を強奪し、ハーバード大学へ留学。コロンビア大学大学院中退後、帰国。父の仇を討つ『野獣死すべし 復讐篇』、企業乗っ取りを狙う『血の来訪者』後、国外脱出。イギリス諜報局に強制的にスカウトされる。数々の事件で活躍後、フリーとなり、日本、韓国、アメリカなどの情報局に雇われ、活躍する。
(『日本ミステリー事典』(新潮社)より一部抜粋)


【伊達邦彦全集】
 大藪春彦の本は角川、徳間、光文社などの文庫で手軽に読むことができるが、伊達邦彦は大藪春彦にとって別格の存在といえるので、こうやって全集という形でまとめて読めるのはファンにとって嬉しい。特に、入手が難しかった「野獣死すべし 渡米編」が収録されたのは大きな出来事である。処女作から晩年まで書き続けられた伊達邦彦の物語は、そのまま大藪春彦の歴史でもあり、作風変化を知るといううえでも重要である。
 日本ミステリ界において今も忘れることのできない衝撃作『野獣死すべし』で登場した彼は最後の長編『野獣は、死なず』まで大藪の作品群を走り抜けたただ一人の登場人物であり、大藪春彦の分身といえる。ロシア悪魔派の天才、レルモントフが『現代の英雄』の主人公ペチョーリンに己の夢を託したのと同じように……。
 伊達邦彦を主人公とする作品群はここに全て収められたが、他に伊達邦彦は女豹シリーズ『非情の女豹』『女豹の掟』にゲスト出演している。この二作では面白いことを大藪は訴えている。女性より男性が強いことを。女豹と称されるエミーこと小島恵美子は、伊達邦彦に屈服する。男嫌いであった彼女は、伊達邦彦のテクニックと体に翻弄される。女性が強くなったと言われる時代に登場した彼女は、結局男性に屈服されるがために登場した人物とも言える。

巻 数 タイトル 初 版 収録作品
第1巻 野獣死すべし 1997年1月20日 「野獣死すべし」
「野獣死すべし 復讐篇」
「野獣死すべし 渡米篇」
第2巻 血の来訪者 1997年4月20日 『血の来訪者』
第3巻 諜報局破壊班員 1997年6月20日 『諜報局破壊班員』
第4巻 日銀ダイヤ作戦 1994年4月20日 『日銀ダイヤ作戦』
第5巻 優雅なる野獣 1997年8月20日 「汚れた宝石」
「C・I・Aの暗殺者を消せ」
「みな殺しの銃弾」
「連隊旗奪還作戦」
「“紅軍派”大使拉致す」
第6巻 不屈の野獣 1997年10月20日 「狂気の征服者」
「謀略の果て」
「スパイ狩り」
第7巻 マンハッタン核作戦 1997年12月20日 『マンハッタン核作戦』
第8巻 野獣は甦える 1997年2月20日 『野獣は甦える』
第9巻 野獣は、死なず 1998年4月20日 『野獣は、死なず』


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