犯罪を犯す人にだって、当然家族がいる。そして、死刑囚にも妻が、家族がある。
「死刑囚の妻」。あまりにも悲しい響きがある。ある日突然、自分の旦那が犯罪者になったら、死刑囚になったらどうなるか。
佐藤友之『死刑囚の一日』(現代書館)に出てきた「彼」にも「妻」がいた。「彼」が拘置所へ送られた後、妻が面会に訪れ、離婚をほのめかした。仕方のないことかもしれない。父親が犯罪者、しかも「死刑囚」だと知ったら、回りの人はどういう反応をするであろうか。ここに書かなくても、答えは自ずから分かるであろう。大抵の「死刑囚」の妻たちは、離婚をし、行方を断つことが多い。いつまでも支援を続けるケースは少ないと言ってよいだろう。
逆に死刑囚と結婚するケースがある。いわゆる、獄中結婚というものである。ここでは幾つかの例が挙げられている。まず最初は、牟礼事件で冤罪を叫ぶ佐藤誠死刑確定囚である。彼の寿命は残りわずかだった。短歌で知り合った82歳の女性と再婚したのだ。それは、佐藤の死後も再審請求を続けるためである。牟礼事件は、実行者の自白意外に証拠は一切なく、冤罪の可能性が高い事件であるが、過去の再審請求はすべて却下された。再審請求は、被告が死亡した場合、手続きを継承する家族がいないと、再審求権者がいなくなり、事件の犯人は佐藤誠と確定してしまう。佐藤死刑確定囚は、冤罪を訴え続けるために、女性に求婚し、女性も応じたのだ。事実、佐藤死刑確定囚は三ヶ月後に死亡した。
二つ目は、文通を通じて知り合い、獄中結婚した山口清人元死刑囚のケースである。彼は、キリスト教の伝道誌を通じて文通が始まり、そして心を通わせるようになった。ふたりの物語は、山口久代/著、中山淳太朗/編集『愛と死のかたみ 処女妻と死刑囚の純愛記録』(集英社)に詳しく語られている。
同様のケースは、小島繁夫死刑囚の獄中日記市川悦子『足音が近づく』(インパクト出版会)に詳しく語られている。
以上が第1章、第2章である。
第3章については愛と性について、第4章については死刑囚の父、母、子について、第5章は幻の妻(養子縁組)について語られている。いずれも、死刑囚を身内に持つものの苦労、再審や減刑に対する支援などの苦労が語られている。
途中でいきなり牟礼事件の詳細が語られるなど、所々で脱線するのが気になるが、「死刑囚の妻」という特殊な存在について、時には愛情を持って、時には切なく書かれている。例え「死刑囚」であっても人間である。そんなことを教えてくれる本である。
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