『殺人者はそこにいる』、『殺ったのはおまえだ』、『その時 殺しの手が動く』『殺戮者は二度わらう』に続く、「新潮45」編集部編ノンフィクションシリーズ第五弾。前作から4年5ヶ月ぶりの刊行ということで、今回は13編14事件と収録数が多い。「新潮45」に2004年〜2008年に掲載されたものに加筆修正がなされて刊行された。
今回収録されている事件は、いわゆる「世間を騒がせた」ものが多い。新聞や週刊誌で特集記事が組まれ、さらにそれらの内容や場合によっては独自の調査(信憑性を問わず)がインターネットを飛び交った事件ばかりである。「渋谷「夫バラバラ」殺人」のように裁判全公判の詳細なレポートが即座に書かれるこの時代に、月刊誌に掲載されたこれらのノンフィクションではいったい何が求められているのか。残念ながらその答えが得られたかどうかは疑問である。ただ一つ言えることは、まとめられたものがいつでも簡単に手にとることができる事である。
解説で佐木隆三も書いているが、今回の特色は女性単独犯、もしくは主導権を握った事件が半数の7件あること。事件のきっかけとなった「熊谷「男女四人」拉致殺傷事件」も含めれば8件になる。「事件の影に女あり」と昔のテレビドラマや古い推理小説で言われていた台詞だが、女性が犯罪者として堂々と表に出てくるようになったのはつい最近ではないだろうか。これもまた、女性が社会に進出した結果なのか、それとも女性の力が強くなった結果なのか。「町田「新婚妻」絞殺事件」は妻の暴力に耐えかねての殺人事件、「中津川「一家五人」絞殺・刺殺事件」は母による妻へのいじめが原因の殺人事件であることも付記しておく。
内容としては事件の概要や当時の情景、周囲の状況や周辺の人たちの声、さらに現時点までの裁判結果までがコンパクトにまとめられている。平成の犯罪史を作る上で、欠かせない一冊だということはいえる。
目次は以下。
第一章 愛憎と憎しみの混沌
夫の心変わりに牙を剥いた般若の姉さん女房―木更津「年下夫」刺殺事件 村山望
エリート焼肉部長が殺めた二人の愛人―愛知「連続女性バラバラ」事件 駒村吉重
DV女と結婚した男に残された究極の選択―町田「新婚妻」絞殺事件 駒村吉重
第二章 憎しみは愛と同じく満ちてゆく
鬼が爪を研ぐ血染めの家―中津川「一家五人」絞殺・刺殺事件 土浦「両親・姉」撲殺事件 橘由歩
息子の嫁に欲情した刑務官の「男の自信」―大阪「母子」放火殺人事件 中尾幸司
法廷の女優「セレブ妻カオリン」の終わらない演技―渋谷「夫バラバラ」殺人事件 橘由歩
第三章 夜叉たちが乱舞する漆黒の夜
独居老人キラー「女民生委員」の殺人奉仕―名古屋「絞殺」殺人事件 岡田晃房
虚飾に塗れた美人ママのカマキリ人生―福岡「連続夫殺し」 村山望
「お嬢さん」を狙った“赤い自転車の女”の性と生―名古屋「通り魔」連続殺傷事件 福田ますみ
「砂人形を刺しただけ」中国人インテリ妻の憎悪の渦―滋賀「幼稚園二児」刺殺事件 橘由歩
第四章 不可解な関係が巻き起こした阿鼻叫喚
断末魔の声に昂奮した「自殺サイトの死神」―堺「三人連続」殺人 新井省吾
「やっちゃえ!」十六歳少女が開けた地獄の釜の蓋―熊谷「男女四人」拉致殺傷事件 上條昌史
ウリセンボーイを切り裂いたサド女と童貞男―大阪「三角関係」猟奇殺人 新井省吾
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