天藤真推理小説全集(創元推理文庫)



【天藤真】
 本名遠藤晋。1915年8月8日、東京生まれ。東京帝国大学国文科卒。戦時中は同盟通信の従軍記者として中国大陸に派遣され、戦後は千葉県で開拓農民として暮らすかたわら短大の講師も務める。
 1962年に「親友記」が第3回宝石賞の佳作となり、作家活動を開始する。同年『陽気な容疑者たち』を第8回江戸川乱歩賞に応募し、受賞は逃したものの最終選考に残り、大下宇陀児の推薦を得て翌年に刊行された。この63年には「鷹と鳶」で第4回宝石短編賞1席入選を果たし、第2長編『死の内幕』も発表している。以後はしばらく短編のみを書いていたが、70年代に入ってからは長編の書き下ろしを次々と発表。1作ごとに様々な趣向が凝らされ、いずれも完成度が高い。
 78年の『大誘拐』では第32回日本推理作家協会賞を受賞。旧作の文庫化も順次進められていたが、83年に肺癌で逝去した。
(『日本ミステリー事典』(新潮社)より一部抜粋)


【天藤真推理小説全集】
 天藤真の推理小説全集であり、鷹見緋沙子名義で執筆した作品も含めて、殆ど全ての作品が収録されている。
 第1巻である『遠きに目ありて』の初版は1992年12月25日であり、元々は全集としてではなく単独作品の一冊として出版された。このときのイラストは渡辺啓助である。この作品が好評だったか、編集者の粘り強い交渉が実ったのかはわからないが、1995年に推理小説全集の刊行が始まった。そのとき、既に出版していた『遠きに目ありて』を第1巻に割り当て、処女長編である『陽気な容疑者たち』を第2巻に割り当てた。カバーにはイラストがなく、デザインは小倉敏夫が担当している。そして『遠きに目ありて』の装丁も同じものに変更された。この時点では、ラインナップは明らかになっていなかった。
 当初の売れ行きは芳しいものではなかったと聞いている。そのため、第4巻『鈍い球音』の出版から1年後、著者最後の長編である第10巻『善人たちの夜』を出版。このとき、初刊時に削除された原稿二百余枚を巻末に完全収録した。この巻で勝負し、売れ行きが悪かったら中断する意向であったと編集者から聞いたことがある。幸い売れ行きがよかったのか、半年後に第5巻『皆殺しパーティ』が出版された。しかし第6巻『殺しへの招待』が出版された後、刊行はしばらく中断する。
 すでに企画は立ち消えになったかと思われた2000年3月24日、第7巻『炎の背景』が刊行。カバーイラストは松尾かおる、デザインは柳川貴代に変わり、作品世界のユーモアを強調したものに変わった。そして既刊作品のカバーも全て変更された。このとき、はじめて第11巻までのラインナップが明らかになった。この時点では長編のみの刊行であったと予想される。
 しかし全集再開の評判がよかったのか、徐々に刊行巻数が増加。最終的に短編の殆どを含む全17巻で2001年9月に完結した。


巻 数 タイトル 初 版 収録作品
第1巻 遠きに目ありて 1992年12月25日 「多すぎる証人」
「宙を飛ぶ死」
「出口のない街」
「見えない白い手」
「完全な不在」
第2巻 陽気な容疑者たち 1995年2月17日 『陽気な容疑者たち』
第3巻 死の内幕 1995年3月17日 『死の内幕』
第4巻 鈍い球音 1995年6月16日 『鈍い球音』
第5巻 皆殺しパーティ 1997年3月14日 『皆殺しパーティ』
第6巻 殺しへの招待 1997年5月23日 『殺しへの招待』
第7巻 炎の背景 2000年3月24日 『炎の背景』
第8巻 死角に消えた殺人者 2000年5月19日 『死角に消えた殺人者』
第9巻 大誘拐 2000年7月21日 『大誘拐』
第10巻 善人たちの夜 1996年10月25日 『善人たちの夜』
第11巻 わが師はサタン 2000年9月22日 『わが師はサタン』
「覆面レクイエム」
第12巻 親友記 2000年11月24日 「親友記」
「塔の家の三人の女」
「なんとなんと」
「犯罪講師」
「鷹と鳶」
「夫婦悪日」
「穴物語」
「声は死と共に」
「誓いの週末」
第13巻 星を拾う男たち 2001年1月26日 「天然色アリバイ」
「共謀者」
「目撃者」
「誘拐者」
「白い火のゆくえ」
「極楽案内」
「星を拾う男たち」
「日本KKK始末」
「密告者」
「重ねて四つ」
「三匹の虻」
第14巻 われら殺人者 2001年3月30日 「夜は三たび死の時を鳴らす」
「金瓶梅殺人事件」
「白昼の恐怖」
「幻の呼ぶ声」
「完全なる離婚」
「恐怖の山荘」
「袋小路」
「われら殺人者」
「真説・赤城山」
「崖下の家」
「悪徳の果て」
第15巻 雲の中の証人 2001年5月25日 「逢う時は死人」
「公平について」
「雲の中の証人」
「赤い鴉」
「私が殺した私」
「あたしと真夏とスパイ」
「或る殺人」
「鉄段」
「めだかの還る日」
第16巻 背が高くて東大出 2001年7月27日 「背が高くて東大出」
「父子像」
「背面の悪魔」
「女子高生事件」
「死の色は紅」
「日曜日は殺しの日」
「三枚の千円札」
「死神はコーナーに待つ」
「札吹雪」
「誰が為に鐘は鳴る」
第17巻 犯罪は二人で 2001年9月28日 「運食い野郎」
「推理クラブ殺人事件」
「隠すよりなお顕れる」
「絶命詞」
「のりうつる」
「犯罪は二人で」
「一人より二人がよい」
「闇の金が呼ぶ」
「純情な蠍」
「採点委員」
「七人美登利」
「飼われた殺意」


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